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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093079
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】電気炉への還元鉄装入方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/52 20060101AFI20230627BHJP
   F27B 3/18 20060101ALI20230627BHJP
   F27B 3/28 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
C21C5/52
F27B3/18
F27B3/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208485
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】杉谷 崇
(72)【発明者】
【氏名】茂渡 悠介
(72)【発明者】
【氏名】入谷 賢佑
【テーマコード(参考)】
4K014
4K045
【Fターム(参考)】
4K014CB02
4K045AA04
4K045BA02
4K045DA07
4K045RA09
4K045RB02
4K045RC01
4K045RC10
(57)【要約】
【課題】電気炉にて還元鉄を溶解するにあたって、規定した還元鉄の装入条件を満たすようにすることで、還元鉄装入時の溶鋼の流動性を確保するとともに、還元鉄溶解時に溶融性に優れるようになり、電気炉での作業時間を延ばすことなく効率よく溶解することができる電気炉への還元鉄装入方法を提供する。
【解決手段】本発明の電気炉1への還元鉄Rの装入方法は、アーク式の電気炉1で、還元鉄Rを用いて溶鋼Mを製造する方法であって、還元鉄Rを電気炉1内に装入するに際して、還元鉄Rの比装入速度sを、0.07t/min/MW未満とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク式の電気炉で、還元鉄を用いて溶鋼を製造する方法であって、
前記還元鉄を前記電気炉内に装入するに際して、
前記還元鉄の比装入速度sを、0.07t/min/MW未満とする
ことを特徴とする電気炉への還元鉄装入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク式の電気炉にて還元鉄を用いて溶鋼を製造するにあたり、電気炉へ還元鉄を装入する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気炉で鋼を製造するに際しては、スクラップや還元鉄などの鉄源をフラックスと一緒に炉内に装入し、アークにより鉄源を加熱し溶解している。その鉄源が十分に溶解した後、ランスより酸素ガスを溶鋼に吹き込みながら脱りんを行っている。
近年では、CO2の削減やリサイクルの観点から電気炉による製鋼法の重要性が再認識されつつある。このようなことから、電気炉の操業において、スクラップや還元鉄などを溶解原料として用いられることが考えられる。
【0003】
特許文献1は、電気炉で酸化鉄を含有する原料を溶解するにあたり鉄歩留の高い方法が開示されている。具体的には、電極と攪拌用インペラーと底吹き羽口を有する電気炉において、これらの位置関係を適正化(簡単に記載すると羽口を電極に近い側に設置)することで、酸化鉄含有鉄原料を用いても鉄歩留を高くできるものとされている。
特許文献2は、アーク炉において還元鉄を原料として用いるときの温度制御方法が開示されている。具体的には、還元鉄はスラグに装入し、スラグ温度低下時は電力を増加させて電極を上昇させ、溶鋼温度低下時は電力を増加させて電極を降下させることとされている。
【0004】
特許文献3は、電気炉の設備およびそれを用いた製造方法が開示されている。具体的には、投入用物質(鉄含有物、炭素含有物、フラックス、処理済み有機物の軽量分画および数種のガス)を供給し、予熱用シャフト、投入用シャフト、炉容器、デカンター容器、精錬用容器のいずれか一つ又は複数に配された、プロセス生産物(粗鋼、スラグおよび排ガス)を溶融、精錬、加熱を行うとともに、前記プロセス生産物の排出することを、精錬用容器から粗鋼を不連続的に取り出しつつ、プラントの各部分の直前直後でプロセス過程に影響を与えたり、妨げたりすることなく、連続的または半連続的に行うことが好ましいとされている。また、精錬用容器内の金属浴の高さは、再混合を避けるように、炉容器内の金属浴高さよりも低く保たれることが好ましいとされている。
【0005】
特許文献4は、炉壁の損耗が少なく、作業能率の優れた還元鉄溶解用アーク炉が開示されている。具体的には、6本ある電極のうち、3本ずつを分けて昇降・旋回制御が可能な炉であり、6本電極とすることで、炉壁へのダメージを分散するものとされている。また3本ずつ昇降・旋回を独立制御できることで、スクラップ装入作業が能率的に短時間で行えることとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許6911935号公報
【特許文献2】特開昭58-141314号公報
【特許文献3】特表平11-503204号公報
【特許文献4】特開昭52-151607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、還元鉄は、脈石成分や空隙がスクラップと比較して多く熱伝導率が小さいため、電気炉の操業において溶解させる原料として用いる場合、スクラップより溶解し難いものである。つまり、還元鉄を如何に溶融させるか(固体の状態を可能な限り残さないこと)が重要となってくる。したがって、溶解原料を電気炉に装入するにあたり、その溶解原料に関する条件を規定する必要があると考えられる。
【0008】
しかしながら、特許文献1~4には、スクラップや還元鉄などを溶解原料として用いてアーク式の電気炉において鋼を製造する技術が開示されているが、還元鉄を溶解するにあたり技術的懸念があると考えられる。
特許文献1は、電極と攪拌用インペラーと底吹き羽口の位置を規定しているが、酸化鉄を含有する原料の装入方法に関しては開示も示唆もないため、原料装入の状況によっては電気炉の操業性が悪化する虞がある。また、電気炉の設備を改造しなければならず、手間やコストなどがかかり大掛かりなものとなり、実操業においては適さない。
【0009】
特許文献2は、アーク炉の温度制御に関する記載があるものの、酸化鉄を含有する原料の装入方法に関しては開示も示唆もないため、原料装入の状況によっては電気炉の操業性が悪化する虞がある。
特許文献3は、溶融鉄を製造するプラントの装置構成が開示されているものの、酸化鉄を含有する原料の装入方法に関しては開示も示唆もないため、原料装入の状況によっては電気炉の操業性が悪化する虞がある。
【0010】
特許文献4は、アーク炉の電極(位置関係などの構成)に関する記載があるものの、酸化鉄を含有する原料の装入方法に関しては開示も示唆もないため、原料装入の状況によっては電気炉の操業性が悪化する虞がある。
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、電気炉にて還元鉄を溶解するにあたって、規定した還元鉄の装入条件を満たすようにすることで、還元鉄装入時の溶鋼の流動性を確保するとともに、還元鉄溶解時に溶融性に優れるようになり、電気炉での作業時間を延ばすことなく効率よく溶解することができる電気炉への還元鉄装入方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明にかかる電気炉への還元鉄装入方法は、アーク式の電気炉で、還元鉄を用いて溶鋼を製造する方法であって、前記還元鉄を前記電気炉内に装入するに際して、前記還元鉄の比装入速度sを、0.07t/min/MW未満とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電気炉にて還元鉄を溶解するにあたって、規定した還元鉄の装入条件を満たすようにすることで、還元鉄装入時の溶鋼の流動性を確保するとともに、還元鉄溶解時に溶融性に優れるようになり、電気炉での作業時間を延ばすことなく効率よく溶解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の電気炉への還元鉄装入方法の概略を模式的に示した図であり、還元鉄の比装入速度sが規定を満たした場合の電気炉の状況を示した図である。
図2】還元鉄の比装入速度sが規定から外れた場合の電気炉の状況を模式的に示した図である。
図3】還元鉄の比装入速度s(t/min/MW)と、還元鉄の固相率fの関係(シミュレーション結果)を示した図である。
図4】シミュレーションにおける固相率fの算出方法を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明にかかる電気炉への還元鉄装入方法の実施形態を、図を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を具体化した一例であって、その具体例をもって本発明の構成を限定するものではない。
まず、本発明にかかる還元鉄Rの装入方法が行われる電気炉1について説明する。ただし、本発明の還元鉄Rの装入方法は、以下に例示する電気炉1以外の型式のものであってもよい。
【0015】
図1に、本発明の電気炉1における還元鉄Rの装入方法の概略の模式図を示す。
図1に示すように、電気炉1は、上下に分割可能となっている。つまり、電気炉1は、上部が開口され且つ還元鉄R(冷鉄源)などが装入可能な本体2と、その本体2の開口を覆う蓋体3と、を有している。本体2と蓋体3の内部は、耐火レンガなどが施工されている。
【0016】
電気炉1の側面には、排滓口4が形成されている。また、電気炉1には、排滓口4と反対側の側面に溶鋼Mを出鋼する出鋼口5が形成されている。電気炉1は、開蓋状態で装入
された還元鉄R等の原料及びフラックスなどを本体2内部で溶解して溶湯M(溶鋼M)として収容可能となっている。
電気炉1には、上方から内部に向かって挿し込まれる複数の電極6が設けられている。本実施形態では、電極6が3本挿入されている。この電極6は、黒鉛電極であって三相交流が供給されており、電極6と内部に装入された還元鉄Rとの間にアークを発生して還元鉄Rが溶解して溶湯Mを形成可能となっている。
【0017】
電気炉1の排滓口4からは、酸素ランス(図示略)が挿し込み可能となっている。酸素ランスから溶湯Mに対して酸素ガスを吹き込むことで、滓化を促進して脱りん処理や脱炭処理ができるようになっている。
なお、電気炉1には姿勢を傾動させる炉傾動装置(図示略)が設けられている。この炉傾動装置を作動させて排滓口4が低くなるように電気炉1を傾動させることで、スラグが排滓口4から排滓がされる。また、炉傾動装置を作動させて出鋼口5が低くなるように電気炉1を傾動させることで、溶鋼Mが出鋼口5から出鋼される。
【0018】
図1に、本発明の電気炉1への還元鉄Rの装入方法の概略を模式的に示す。すなわち、還元鉄Rの比装入速度sが規定を満たした場合の電気炉1の状況を、図1に示す。
図1に示すように、本発明にかかる電気炉1への還元鉄Rの装入(投入)方法は、アーク式の電気炉1で、還元鉄Rを用いて溶鋼Mを製造する方法であって、還元鉄Rを電気炉1内に装入するに際して、還元鉄Rの比装入速度sを、0.07t/min/MW未満とすることを特徴とする。
【0019】
次いで、本発明の電気炉1への還元鉄Rの装入方法を具体的に説明する。
アーク式の電気炉1にて、還元鉄Rを溶解原料として用いて溶鋼Mを製造するに際しては、日本国内においては一般的に、電気炉1にて溶解する原料はスクラップを用いている。なお、電気炉1を電炉1とも呼称することもある。
また、ガスの価格が安く且つスクラップ価格が高い諸外国においては、直接還元鉄Rを電気炉1の溶解原料として用いている(参考文献:(森井簾,電気炉製鋼法(2000)などを参照)。
【0020】
ところが、近年ではCO2の削減やリサイクルの観点から電気炉1による製鋼法の重要性が再認識されつつある。このようなことから、我が国においても、スクラップだけでは賄いきれない分、還元鉄Rを溶解原料として用いた電気炉1の操業が積極的に行われてゆくことが予想される。
このことから、本願発明者は、アーク式の電気炉1で炭素を含有する還元鉄Rを溶解原料として用いて溶鋼Mを製造する場合に適用可能な技術を研究した。
【0021】
表1に、炭素を含有する還元鉄Rの組成の一例として、HBI(Hot Briquetted Iron)の組成を示す。なお、表1については、詳しくは(田中英年,神鋼R&D Vol.64(2014),No.1,p2-7.)や、(田中英年ら,鉄と鋼92(2006),p1022-1028.)などの参考文献を参照するとよい。また、表1は、あくまでも一例であって、還元鉄RとしてはHBIに限定しない。
HBIの定義は、「650 ℃以上の温度でブリケットにした、5g/cm3以上の見掛密度をもつ還元鉄(JIS M 8700:2013より)」を基にしている。
【0022】
【表1】
【0023】
表1に示すように、HBI(還元鉄R)は、1mass%超のCを含んでいる。また、表1については、その他不可避的混入成分を含むものとしている。
なお例えば、スクラップと、炭素を含有する還元鉄Rと、を組み合わせて溶解原料とし
ても良く、その溶解原料の組み合わせについては特に限定しない。
還元鉄Rを電気炉1内に装入する場合において、以下のようなことが挙げられる。
【0024】
電気炉1では、炉内容積の関係上、初期の装入タイミングで全ての原料を装入することができない場合がある。その場合は、初装原料の溶解が一定程度進行して原料の嵩が減少した後に、還元鉄Rを追加で装入する。
すなわち、本発明における「還元鉄Rの装入」は、初装原料(溶解しやすいスクラップなど)を溶解させて電気炉1内に溶湯M(溶鋼M)が存在するところに、スクラップより溶解しにくい「還元鉄Rを追加で装入する」ことを指す。つまり、本発明では、追加原料Rとして還元鉄Rを電気炉1内に装入する。
【0025】
このように、本発明は、溶解原料として用いる還元鉄Rの一部または全部を、断続的あるいは連続的に、規定の装入速度で電気炉1内に追加で装入することを対象とする。
ところで、還元鉄Rは、脈石成分や空隙がスクラップと比較して多く熱伝導率が小さいため、電気炉1の操業において溶解させる追加原料Rとして用いる場合、スクラップより溶解し難いものである。
【0026】
図2に、還元鉄Rの比装入速度sが規定から外れた(s≧0.07t/min/MW)場合の電気炉1の状況を示す。
図2に示すように、冷鉄源の還元鉄Rを電気炉1へ装入するときには、還元鉄R固有の最適な装入条件が存在すると考えられる。理由としては、スクラップと同じ装入条件で還元鉄Rを電気炉1へ装入した場合、還元鉄R固有の最適な装入速度を上回る条件となり、過剰に溶湯Mの温度が低下することによる溶湯M(溶鋼M)の凝固や還元鉄Rが固体のまま存在することによって、固相率f(ある領域における固体の体積分率)が増大して溶鋼Mの流動性の低下が生じ、熱の拡散が生じにくくなり、結果的に還元鉄Rを溶解する作業時間が増加してしまう。
【0027】
そのため、還元鉄Rを装入したときの固相率fが、溶鋼Mの流動性を確保するための上限の閾値を上回らないように、還元鉄Rの電気炉1への装入速度を制御することが必要となってくる。
図2の「上から見た図」のように、還元鉄Rの比装入速度s≧0.07t/min/MWとなると、電炉1中心付近の溶湯Mに向かって追加で装入された各還元鉄Rが電炉1内で「密」の状態で配置されて、大きな塊のような状況になることで、元々溶融されにくいものが更に溶融されにくくなり、固相率fが0.7以上(詳細は後述)となり、溶鋼Mの流動性が低下してしまう。
【0028】
一方、図1の「上から見た図」のように、還元鉄Rの比装入速度s<0.07t/min/MWを満たすと、電炉1中心(電極6のピッチサークル)付近の溶湯Mに向かって追加で装入された各還元鉄Rが離れるように配置されることで、還元鉄Rが電炉1内で「粗」の状態で配置されて溶融されやすくなり、固相率fが0.7未満(詳細は後述)となり、溶鋼Mの流動性を確保することができる。
【0029】
ところで、電気炉1への還元鉄Rの装入位置としては、電極6近傍の高温となる位置(いわゆるホットスポット)の方が良い(例えば、特開昭58-141314号公報の第2図などを参照)。このことより、還元鉄Rの装入位置は、電極6の内側で且つ、溶鋼Mの温度が高い電炉1の中心付近とする方が良いことは容易に類推される。
しかしながら、還元鉄Rの装入領域内の固相率fに及ぼす還元鉄Rの装入速度についてこれまで研究された事例は調査したが無かった。上記したように、還元鉄Rの装入速度の制御は、還元鉄Rを溶融させるために必要なものであると知見し、本願発明者は研究するに至った。
【0030】
なお、本発明おいて、固相率fを検討する領域については、後ほど示す表5や図4などにて説明する。
本実施形態では、溶鋼Mの流動が生じる固相率fの限界値(流動限界固相率f)について、0.7とした(例えば、特開2005-111544号公報やWO2019/203137号公報などを参照)。すなわち、固相率fが0.7以上となると、溶鋼Mの流動が生じなくなり、熱の拡散が生じにくくなるため、還元鉄Rの溶解に時間を要することとなる。
【0031】
従って、還元鉄Rを追加で装入するに際しては、装入領域の固相率fが0.7以上とならない還元鉄Rの装入条件とすることが、電気炉1の操業性を確保するためには必要である。
そこで、還元鉄Rの電気炉1内への装入速度(比装入速度s)と、還元鉄Rの装入領域内における固相率fの関係を、後ほど示すシミュレーションによって研究した。なお、シミュレーションの説明については、表2~表5および図4などに示す。
【0032】
上記のシミュレーションから、固相率fが0.7以上とならない、すなわち0.7を下回る還元鉄Rの装入条件として、還元鉄Rの比装入速度s<0.07t/min/MWと導かれた。
なお、本発明は還元鉄Rの装入時の速度を対象としているので、還元鉄Rの比装入速度sが0(ゼロ)より大きい数値であることは自明である。つまり、還元鉄Rの比装入速度sについては、0(ゼロ)は含まない。
【0033】
図3に、還元鉄Rの比装入速度s(t/min/MW)と、還元鉄Rの固相率fの関係(シミュレーション結果)を示す。
図3に示すように、固相率f<0.7と、還元鉄Rの比装入速度sの一次近似式との交点が0.07t/min/MWである。このことから、還元鉄Rの比装入速度s<0.07t/min/MWが好ましいと知見した。
【0034】
以上、本願発明者が鋭意研究した結果、追加原料Rとして還元鉄Rを電気炉1内に装入する際には、還元鉄Rの比装入速度sを0.07t/min/MW未満とした。
ここで、表2に、本実施形態に関するパラメータ(溶鋼MおよびHBI単体(還元鉄R)の物性値、シミュレーションで用いた流体近似後のHBIの物性(前提条件)など)の定義について示す。
【0035】
【表2】
【0036】
表2に示すように、HBI単体(還元鉄R)について、小さな粒子状のものを固めて塊(
インゴット)とし、その大きさは例えば(30×60×100mm)とした。これは一例であり、この大きさに限定されない。
表3に、計算条件に関する、HBI単体(還元鉄R)の温度ごとの熱伝導率(W/m/K)と、溶鋼Mの温度ごとの熱伝導率(W/m/K)、および、混合物Xの温度ごとの熱伝導率(W/m/K)について示す。
【0037】
【表3】
【0038】
なお、表3は100℃毎の熱伝導率を示しているが、例えば800℃超900℃未満のある温度における混合物の熱伝導率は、800℃と900℃を説明変数、10.86と11.47を非説明変数として一次近似を行い、その近似式にある温度を代入することで熱伝導率を算出した。
また、表3に示す、HBI単体の熱伝導率は、表2の文献5(D.Kunii,J.M.Smith,Heat transfer characteristics of porous rocks,AIChE Journal.6(1960),p71-78.)に基づいている。また、溶鋼Mの熱伝導率は、表2の文献1(日本鉄鋼協会,第5版 鉄鋼便覧 第1巻 製銑・製鋼)に基づいている。
【0039】
[実施例]
以下に、本発明の電気炉1への還元鉄Rの装入方法に従って実施した実施例及び、本発明と比較するために実施した比較例について、説明する。なお、本実施例に記載した内容は本発明の例示であって、これに限定されるものではない。
本実施例における実施条件については、以下の通りである。
表4に、本実施例における実施条件(流動伝熱解析、固相(固体)の判断方法、固相率fの計算方法など)について示す。
【0040】
【表4】
【0041】
表4に示すように、本実施形態では、純鉄の融点である1539℃を閾値とし、溶鋼Mの温度:1539℃以下を、固体が存在しているものとした。
また、初期の電気炉1内の溶融物について、体積:15t、温度:1600℃のものとした。この初期の溶融物(溶鋼M)がある中に、追加原料RとしてHBI(還元鉄R)を装入するものとした。
【0042】
HBI(還元鉄R)について、装入前温度:20℃、装入速度:0.2t/min,0.5t/min,1t/min、装入量合計:5tとした。また、投入電力について、6MW,12MWとした。
表5に、還元鉄Rの装入速度(t/min)、還元鉄Rの比装入速度s(t/min/MW)、固相率fの算出方法などについて示す。
【0043】
【表5】
【0044】
図4に、シミュレーションにおける固相率fの算出方法の概要を示す。
図4に示すように、電極6は等間隔に(平面視で略正三角形の頂点に配置されるように)3本配置している。
追加原料Rとして用いるHBI(還元鉄R)の装入位置は、3本配置された電極6に囲まれた領域の中心(電炉1の中心)付近に装入する。
【0045】
なお、混合物Xは、電気炉1内において、初装原料(スクラップなど)を溶解させた溶鋼Mと、装入した還元鉄Rとが、混ざり合って存在する部分である。
還元鉄Rの比装入速度s(t/min/MW)は、還元鉄Rの装入速度(t/min)を電力(MW)で除した値である。本発明では、還元鉄Rの比装入速度sを0.07t/min/MW未満と規定した。
なお、還元鉄Rの装入速度(t/min)は、単位時間当たりの還元鉄Rの装入量を算出し平均装入速度とした値である。
【0046】
固相率f(0以上1以下)=(b)÷(a)で表わされる。
(a)は、電極6のピッチサークル(PC)の中心と同じ中心で電極6の最外周を通る円Aを底面とする円柱の範囲内において、混合物Xが存在する領域の体積(m3)である。ただし、本実施形態では、円Aの直径:1346mmである。
(b)は、(a)で混合物Xの体積を求めた領域の中で、溶鋼Mの温度が1539℃以下の領域の体積(m3)である。
表6に、本発明の電気炉1への還元鉄Rの装入方法に従って実施した実施例及び、本発明と比較するために実施した比較例を示す。
【0047】
【表6】
【0048】
表6、図3などに示すように、本実施例の実験番号1は、電力が12MWの場合であって、還元鉄Rの比装入速度sが0.017t/min/MWとなり0.07t/min/MW未満を満たし、固相率fが0.663となり0.7未満を満たすこととなり、良好な結果を得た。すなわち、還元鉄Rは溶融され、溶鋼Mの流動性を確保することができるようになった。
本実施例の実験番号2は、電力が12MWの場合であって、還元鉄Rの比装入速度sが0.042t/min/MWとなり0.07t/min/MW未満を満たし、固相率fが0.691となり0.7未満を満たすこととなり、良好な結果を得た。すなわち、還元鉄Rは溶融され、溶鋼Mの流動性を確保することができるようになった。
【0049】
一方、比較例の実験番号3は、電力が12MWの場合であって、還元鉄Rの比装入速度sが0.083t/min/MWとなり0.07t/min/MW未満を満たさず、固相率fが0.705となり0.7未満を満たさないため、求める結果から外れることとなった。すなわち、還元鉄Rは溶融されず、溶鋼Mの流動性を確保することができない。
本実施例の実験番号4は、電力が6MWの場合であって、還元鉄Rの比装入速度sが0.033t/min/MWとなり0.07t/min/MW未満を満たし、固相率fが0.672となり0.7未満を満たすこととなり、良好な結果を得た。すなわち、還元鉄Rは溶融され、溶鋼Mの流動性を確保することができるようになった。
【0050】
一方、比較例の実験番号5、6は、電力が6MWの場合であって、還元鉄Rの比装入速度sが0.083t/min/MW,0.167t/min/MWとなり0.07t/min/MW未満を満たさず、固相率fが0.720,0.756となり0.7未満を満たさないため、求める結果から外れることとなった。すなわち、還元鉄Rは溶融されず、溶鋼Mの流動性を確保することができない。
上記の結果より、追加原料Rとして還元鉄Rを電気炉1へ装入する際には、還元鉄Rの
比装入速度sを0.07t/min/MW未満とすると、固相率fが0.7未満となり、還元鉄Rは溶融され、溶鋼Mの流動性を確保することができるようになることを知見した。
【0051】
繰り返しになるが、還元鉄Rを追加で装入したときの固相率fについて説明する。
上で詳説したように、溶鋼Mの流動性を確保するためには、固相率fを0.7未満にする必要がある。
図2に示すように、本発明では、還元鉄Rの比装入速度sを0.07t/min/MW未満とすることで、固相率fを0.7未満に維持することができる。このようにすることで、溶鋼Mの流動性を確保することができるようになるため、冷鉄源の還元鉄Rを追加で装入することによる電気炉1操業時の作業性の悪化を招くことは無い。
【0052】
以上、本発明の電気炉1への還元鉄Rの装入(投入)方法によれば、電気炉1にて還元鉄Rを溶解するにあたって、還元鉄Rを追加で電気炉1内に装入するとき、還元鉄Rの比装入速度sを、0.07t/min/MW未満とすることで、還元鉄R装入時の溶鋼Mの流動性を確保することができるとともに、還元鉄R溶解時に溶融性に優れるようになり、電気炉1での作業時間を延ばすことなく効率よく溶解することができる。
【0053】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
特に、今回開示された実施形態において、明示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【符号の説明】
【0054】
1 電気炉(電炉)
2 本体
3 蓋体
4 排滓口
5 出鋼口
6 電極
M 溶鋼(溶湯)
R 還元鉄(追加原料)
X 混合物
図1
図2
図3
図4