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  • 特開-水性防錆塗料組成物及び製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093172
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】水性防錆塗料組成物及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/02 20060101AFI20230627BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230627BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20230627BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20230627BHJP
   C09D 7/45 20180101ALI20230627BHJP
【FI】
C09D201/02
C09D5/02
C09D5/08
C09D7/40
C09D7/45
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208641
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(71)【出願人】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 和夫
(72)【発明者】
【氏名】今井 洋子
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 佳那
(72)【発明者】
【氏名】釼持 政明
(72)【発明者】
【氏名】沼澤 昭
(72)【発明者】
【氏名】日高 貴弘
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG001
4J038DB001
4J038DG001
4J038HA406
4J038HA446
4J038KA05
4J038KA09
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA03
4J038NA26
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】塗料の貯蔵安定性に優れ、しかも防食性に優れた塗膜を形成するのに適した水性防錆塗料組成物、及び該水性防錆塗料組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂及びこれらの変性樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂が水性化された水性樹脂(A)、閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質及び水酸基を有する重縮合ポリマーのうちの少なくとも1種を含む乳化剤(B)、並びに防錆顔料(C)を含有する水性防錆塗料組成物、該水性防錆塗料組成物の製造方法とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂及びこれらの変性樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂が水性化された水性樹脂(A)、
閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質及び水酸基を有する重縮合ポリマーのうちの少なくとも1種を含む乳化剤(B)、並びに、
防錆顔料(C)
を含有する、水性防錆塗料組成物。
【請求項2】
前記水性樹脂(A)が、その成分の一部として水性エポキシ樹脂を含む、請求項1に記載の水性防錆塗料組成物。
【請求項3】
前記水性樹脂(A)が、前記水性エポキシ樹脂に加えて、アクリル樹脂、ウレタン樹脂及びアルキド樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂が水性化された水性樹脂をさらに含む、請求項2に記載の水性防錆塗料組成物。
【請求項4】
前記両親媒性物質が、ポリオキシエチレン硬化ひまし油である、請求項1~3のいずれか1項に記載の水性防錆塗料組成物。
【請求項5】
前記水性樹脂(A)が前記乳化剤(B)によって乳化安定化されてなる、請求項1~4のいずれか1項に記載の水性防錆塗料組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の水性防錆塗料組成物を製造する方法であって、
アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂及びこれらの変性樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂が水性化された水性樹脂(A)と、閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質及び水酸基を有する重縮合ポリマーのうちの少なくとも1種を含む乳化剤(B)とを混合する工程を含む、水性防錆塗料組成物の製造方法。
【請求項7】
前記水性樹脂(A)を含む組成物に、撹拌下で、前記乳化剤(B)を添加する、請求項6に記載の水性防錆塗料組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載の水性防錆塗料組成物を製造する方法であって、
水に、撹拌下で、閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質及び水酸基を有する重縮合ポリマーのうちの少なくとも1種を含む乳化剤(B)を添加して、前記乳化剤(B)の水希釈物を得る工程と、
アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂及びこれらの変性樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂が水性化された水性樹脂(A)と、前記水希釈物とを混合する工程を含む、水性防錆塗料組成物の製造方法。
【請求項9】
前記水性樹脂(A)を含む組成物に、撹拌下で、前記水希釈物を添加する、請求項8に記載の水性防錆塗料組成物の製造方法。
【請求項10】
前記乳化剤(B)を融点又は軟化点以上の温度に加温する工程をさらに含む、請求項6~9のいずれか1項に記載の水性防錆塗料組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性防錆塗料組成物及び該水性防錆塗料組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物、土木構造物、船舶、工業製品などに用いられる金属部材には錆の発生を防止する目的で防錆塗料が塗装されている。防錆塗料は有機溶剤系塗料が主流であったが近年は、環境保全や作業環境の改善の面から有機溶剤系から水系への移行が進んでおり、これまでに種々の水性防錆塗料組成物が提案されている。
【0003】
多くの水性防錆塗料組成物には、水性樹脂及び防錆顔料が含まれている。水性樹脂は水に希釈可能な塗膜形成成分となる成分であり、防錆顔料とは金属の腐食要因に対して何らかの抵抗をして金属を腐食から保護する目的で塗料に添加される顔料である。水性防錆塗料組成物の一例として例えば特許文献1には、1分子中に1個以上のカルボキシル基を有する水性樹脂、水性エポキシ樹脂及び防錆顔料を含む水性防錆塗料組成物が開示されている。
【0004】
ところで、水系組成物における乳化方法として三相乳化法が知られている。三相乳化法とは従来の乳化方法に使用されている界面活性剤とは全く異なり、柔らかい親水性ナノ粒子の物理的作用力(ファンデルワールス引力)を利用した乳化方法として期待されている(特許文献2~5など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/065939号
【特許文献2】特開2006-239666号公報
【特許文献3】特開2013-216607号公報
【特許文献4】国際公開第2018/135108号
【特許文献5】特開2019-26708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に水性の防錆塗料組成物は有機溶剤系塗料と比較して防食性が劣る。このため防食性を向上させるために防錆顔料の配合量を増やすと塗料の貯蔵安定性が大きく低下する現象が起きる。このように従来の水性防錆塗料組成物では塗料貯蔵安定性と塗膜防食性はトレードオフの関係にあり、両立することは困難であった。
【0007】
本発明の目的は、塗料の貯蔵安定性に優れ、しかも防食性に優れた塗膜を形成するのに適した水性防錆塗料組成物、及び該水性防錆塗料組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
水性塗料に使用される水性樹脂はカルボキシル基などの親水基を有しているかまたは界面活性剤などの作用によって水中での安定性を確保している。また、防錆顔料の多くはその特性として雨水などの外部から進入する水分に溶解し、金属イオンやキレート力を持った様々なイオンを溶出することで金属面に対して防錆効果を発揮するものが多い。本発明者らは水性防錆塗料組成物において、塗料中で防錆顔料から金属イオンが溶出し、これが水性樹脂とイオン架橋することで塗料の安定性を阻害し増粘やゲル化を引き起こすと考えた。
【0009】
そこで本発明者らは水性樹脂と金属イオンとのイオン架橋を抑制させる方法について検討した。その結果、水性防錆塗料組成物の製造に三相乳化法を適用することで、得られる水性防錆塗料組成物は水性樹脂と防錆顔料を含むという極めて不安定な状態でも貯蔵安定性が格段に向上し、そして、形成された塗膜は防食性にも優れていることを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、以下の項1~10を特徴とする。
項1.
アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂及びこれらの変性樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂が水性化された水性樹脂(A)、
閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質及び水酸基を有する重縮合ポリマーのうちの少なくとも1種を含む乳化剤(B)、並びに、
防錆顔料(C)
を含有する、水性防錆塗料組成物。
項2.
前記水性樹脂(A)が、その成分の一部として水性エポキシ樹脂を含む、項1に記載の水性防錆塗料組成物。
項3.
前記水性樹脂(A)が、前記水性エポキシ樹脂に加えて、アクリル樹脂、ウレタン樹脂及びアルキド樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂が水性化された水性樹脂をさらに含む、項2に記載の水性防錆塗料組成物。
項4.
前記両親媒性物質が、ポリオキシエチレン硬化ひまし油である、項1~3のいずれか1項に記載の水性防錆塗料組成物。
項5.
前記水性樹脂(A)が前記乳化剤(B)によって乳化安定化されてなる、項1~4のいずれか1項に記載の水性防錆塗料組成物。
項6.
項1~5のいずれか1項に記載の水性防錆塗料組成物を製造する方法であって、
アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂及びこれらの変性樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂が水性化された水性樹脂(A)と、閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質及び水酸基を有する重縮合ポリマーのうちの少なくとも1種を含む乳化剤(B)とを混合する工程を含む、水性防錆塗料組成物の製造方法。
項7.
前記水性樹脂(A)を含む組成物に、撹拌下で、前記乳化剤(B)を添加する、項6に記載の水性防錆塗料組成物の製造方法。
項8.
項1~5のいずれか1項に記載の水性防錆塗料組成物を製造する方法であって、
水に、撹拌下で、閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質及び水酸基を有する重縮合ポリマーのうちの少なくとも1種を含む乳化剤(B)を添加して、前記乳化剤(B)の水希釈物を得る工程と、
アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂及びこれらの変性樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂が水性化された水性樹脂(A)と、前記水希釈物とを混合する工程を含む、水性防錆塗料組成物の製造方法。
項9.
前記水性樹脂(A)を含む組成物に、撹拌下で、前記水希釈物を添加する、項8に記載の水性防錆塗料組成物の製造方法。
項10.
前記乳化剤(B)を融点又は軟化点以上の温度に加温する工程をさらに含む、項6~9のいずれか1項に記載の水性防錆塗料組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、貯蔵安定性と塗膜の防食性の両立を可能とする新規な水性防錆塗料組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の水性防錆塗料組成物の塗料状態を表すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の水性防錆塗料組成物は、水性樹脂(A)、特定の乳化剤(B)並びに防錆顔料(C)を含む組成物である。
【0014】
<水性樹脂(A)>
本発明において水性樹脂(A)は、塗膜形成成分として用いられるものであり、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂及びこれらの変性樹脂から選ばれる少なくとも1種の有機樹脂を水に分散又は溶解して水性化したものである。
【0015】
(アクリル樹脂)
アクリル樹脂としては、(メタ)アクリロイル基含有化合物を必須としてその他のビニル化合物を重合単位として含む樹脂が挙げられる。
ここで、(メタ)アクリロイル基はアクリロイル基、メタクリロイル基、又はアクリロイル基及びメタクリロイル基の両方を意味する。
【0016】
前記(メタ)アクリロイル基含有化合物としては、例えば、
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート等の直鎖状、分岐状又は環状アルキル基含有(メタ)アクリレート;
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートにε-カプロラクトン等のラクトンを開環重合した化合物、及びポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の多価アルコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのモノエステル化物等の水酸基含有(メタ)アクリレート;
N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールモノメトキシ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールモノアルコキシ(メタ)アクリレート等のアルコキシ基含有(メタ)アクリレート;
グリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリレート;
アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと酸無水物とのハーフエステル化物等のカルボキシル基含有(メタ)アクリレート;
ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等のカルボニル基含有(メタ)アクリレート;
γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、β-(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、β-(メタ)アクリロキシエチルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシブチルフェニルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジエチルメトキシシラン等の(メタ)アクリロキシアルコキシシラン等;
加水分解性シリル基含有(メタ)アクリレート;
2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基含有(メタ)アクリレート;
アシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレート、リン酸モノ-〔(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリル酸〕エステル等のリン酸基含有(メタ)アクリレート;
N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N-t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート;
(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド等の第4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート;
ヘキサフルオロイソプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等のフルオロアルキル(メタ)アクリレート等;
並びにこれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0017】
その他のビニル化合物としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物;シクロヘキシルビニルエーテル、ノニルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル;エチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル;等のカルボン酸ビニルエステル;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン、フルオロアルキルトリフルオロビニルエーテル、パーフルオロアルキルトリフルオロビニルエーテル等のフルオロビニルエーテル等を挙げることができる。
【0018】
アクリル樹脂は任意の公知の方法、例えば、溶液重合後水性化、乳化重合法等により重合することができる。
【0019】
(エポキシ樹脂)
前記エポキシ樹脂としては、分子中にエポキシ基を含有するエポキシ基含有樹脂が挙げられる。エポキシ基含有樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA/F型エポキシ樹脂、ノボラック型フェノール樹脂などのポリフェノール類と、エピクロルヒドリンなどのエピハロヒドリンとを反応させてグリシジル基を導入してなるか又はこのグリシジル基導入反応生成物にさらにポリフェノール類を反応させて分子量を増大させてなる芳香族エポキシ樹脂;脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0020】
また前記エポキシ樹脂は、前記エポキシ基含有樹脂を原料とする変性エポキシ樹脂が挙げられる。前記変性エポキシ樹脂はエポキシ基を実質的に含まない樹脂も包含される。
変性エポキシ樹脂としては例えば、エポキシ基含有樹脂と脂肪酸を反応させてなるエポキシエステル樹脂が挙げられる。前記脂肪酸としては、炭化水素鎖の末端にカルボキシル基が結合した構造を有しているものが包含され、例えば、乾性油脂肪酸、半乾性油脂肪酸及び不乾性油脂肪酸を挙げることができる。乾性油脂肪酸及び半乾性油脂肪酸は、厳密に区別できるものではないが、一般に、乾性油脂肪酸はヨウ素価が130以上の不飽和脂肪酸であり、半乾性油脂肪酸はヨウ素価が100以上且つ130未満の不飽和脂肪酸である。また、不乾性油脂肪酸は、一般に、ヨウ素価が100未満の不飽和脂肪酸である。乾性油脂肪酸及び半乾性油脂肪酸としては、例えば、魚油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、大豆油脂肪酸、ゴマ油脂肪酸、ケシ油脂肪酸、エノ油脂肪酸、麻実油脂肪酸、ブドウ核油脂肪酸、トウモロコシ油脂肪酸、トール油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸、綿実油脂肪酸、クルミ油脂肪酸、ゴム種油脂肪酸等が挙げられ、不乾性油脂肪酸としては、例えば、ヤシ油脂肪酸、水添ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸等が挙げられ、これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。また、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等を併用することもできる。
【0021】
また、上記エポキシ樹脂は、脂肪酸、エポキシ基含有樹脂及び(メタ)アクリロイル基含有化合物を原料とするアクリル変性エポキシエステル樹脂であってもよい。
【0022】
(ウレタン樹脂)
前記ウレタン樹脂としては、例えば、ジイソシアネート、ジオール、低分子量ポリヒドロキシ化合物及びジメチロールアルカン酸を反応させてなる樹脂が挙げられる。
【0023】
ジイソシアネートとしては脂肪族、脂環式ジイソシアネートが挙げられ、ジオールとしてはポリエーテルジオール、ポリエステルジオール及びポリカーボネートジオール等が挙げられる。
【0024】
(アルキド樹脂)
前記アルキド樹脂としては、例えば、多塩基酸、多価アルコール及び必要に応じて乾性油脂肪酸及び/又は半乾性油脂肪酸を反応してなる樹脂が挙げられる。
【0025】
多塩基酸としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、テトラヒドロフタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、テトラクロロ無水フタル酸、無水ヘット酸、無水ハイミック酸等の不飽和多塩基酸;フタル酸、無水フタル酸、ハロゲン化無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、1,12-ドデカン2酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸無水物、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、またこれらのジアルキルエステルなどの飽和多塩基酸;等を挙げることができる。
【0026】
多価アルコールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、ビスフェノール類又はビスフェノール類とアルキレンオキシドの付加物、1,2,3,4-テトラヒドロキシブタン、グリセリン、トリメチロ-ルプロパン、1,3-プロパンジオール、1,2-シクロヘキサングリコール、1,3-シクロヘキサングリコール、1,4-シクロヘキサングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、パラキシレングリコール、ビシクロヘキシル-4,4’-ジオール、2,6-デカリングリコール、2,7-デカリングリコール等を挙げることができる。
【0027】
上記有機樹脂は水に分散又は溶解される。水への分散化もしくは水溶化の方法としては公知の方法が採用される。例えば前記有機樹脂を、界面活性剤を用いた乳化重合法で製造する方法、前記有機樹脂に界面活性剤を混合し、水性媒体中に分散・溶解する方法、前記樹脂が分子中にカルボキシル基又はアミノ基などのイオン官能性基を有する場合に、該イオン官能性基を中和剤で中和した後、水中に分散・溶解する方法、前記方法の併用等が挙げられる。
【0028】
水性樹脂(A)は製造してもよいし、また、市販されている市販品を用いてもよい。
【0029】
本発明では得られる塗膜の防食性の点から、前記水性樹脂(A)がその成分の一部として、エポキシ樹脂が水性化された水性エポキシ樹脂を含むことが好ましい。水性エポキシ樹脂を含む場合の含有量としては、水性樹脂(A)の不揮発分総量100質量部を基準として水性エポキシ樹脂の不揮発分が50質量部以上であるのが好ましく、60質量部以上がより好ましい。
【0030】
また、水性樹脂(A)が水性エポキシ樹脂を含む場合、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、及びアルキド樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂が水性化された水性樹脂を水性エポキシ樹脂に加えて併用してもよい。この場合、その他の併用樹脂の使用量としては水性樹脂(A)の不揮発分総量100質量部を基準としてその他の併用樹脂の不揮発分が50質量部以下であるのが好ましく、40質量部以下がより好ましい。
【0031】
本明細書において「不揮発分」とは水や有機溶剤などの揮発成分を除いた残渣をいい、塗膜を形成することになる成分である。不揮発分質量を測定する際の試料の乾燥条件としては、例えば、試料1グラムを110℃の乾燥機で1時間加熱する方法が挙げられる。
【0032】
本発明において前記水性樹脂(A)は、塗料状態での貯蔵安定性及び塗膜の防食性の点から、水性防錆塗料組成物の不揮発分100質量部を基準として、水性防錆塗料組成物中に10質量部以上含まれることが好ましく、20質量部以上含まれることがより好ましい。一方、前記水性樹脂(A)は、水性防錆塗料組成物の不揮発分100質量部を基準として、水性防錆塗料組成物中に90質量部以下含まれることが好ましく、80質量部以下含まれることがより好ましい。
【0033】
<乳化剤(B)>
本発明の水性防錆塗料組成物は、閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質及び水酸基を有する重縮合ポリマーのうちの少なくとも1種を含む乳化剤(B)を含む。
【0034】
(閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質)
閉鎖小胞体(ベシクル)を形成する両親媒性物質としては、特に制限されないが、例えば、下記の一般式1で表されるポリオキシエチレン硬化ひまし油の誘導体、もしくは下記の一般式2で表されるジアルキルアンモニウム誘導体、トリアルキルアンモニウム誘導体、テトラアルキルアンモニウム誘導体、ジアルケニルアンモニウム誘導体、トリアルケニルアンモニウム誘導体、又はテトラアルケニルアンモニウム誘導体のハロゲン塩の誘導体が挙げられる。
【0035】
一般式1
【0036】
【化1】
【0037】
一般式1中、エチレンオキシドの平均付加モル数であるEは、3~200の整数であり、L、M、N、X、Y及びZはそれぞれ、0~100の整数である。
【0038】
一般式2
【0039】
【化2】
【0040】
一般式2中、R及びRは、各々独立して炭素数8~22のアルキル基又はアルケニル基であり、R及びRは、各々独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基であり、XはF、Cl、Br又はIである。
【0041】
前記両親媒性物質としては、ポリオキシエチレン硬化ひまし油の誘導体が好ましく、日光ケミカルズ株式会社製のNIKKOLシリーズの「HCO-10」、「HCO-20」、「HCO-30」、「HCO-40」、「HCO-50」、「HCO-60」、「HCO-100」等の市販品も使用することができる。
【0042】
前記両親媒性物質としては、リン脂質やリン脂質誘導体等、特に疎水基と親水基とがエステル結合したものを採用してもよい。
【0043】
リン脂質としては、例えば、下記の一般式3で表される化合物が挙げられる。一般式3で表される化合物の中でも、炭素鎖長12のDLPC(1,2-Dilauroyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-choline)、炭素鎖長14のDMPC(1,2-Dimyristoyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-choline)、炭素鎖長16のDPPC(1,2-Dipalmitoyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-choline)が好ましい。
【0044】
一般式3
【0045】
【化3】
【0046】
一般式3中、nは11~17の整数である。
【0047】
更に、リン脂質として卵黄レシチン又は大豆レシチン等のレシチンを採用してもよい。
【0048】
また、前記両親媒性物質としては、脂肪酸エステルを採用してもよい。脂肪酸エステルとしては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル(モノステアリン酸テトラグリセリル、トリステアリン酸デカグリセリル等)、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル等)、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等を用いることができる。これらのうち、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルが特に好ましい。
【0049】
(水酸基を有する重縮合ポリマー)
前記水酸基を有する重縮合ポリマーとしては、例えば、下記の一般式4で示される水酸基の一部に疎水性基が導入された化合物が挙げられる。
【0050】
一般式4
【0051】
【化4】
【0052】
一般式4中、Rは、各々独立して、水素原子、メチル基、-[R’O]H(式中、R’はアルキル基、mは1以上の整数である)、又は-R’’OC2p+1(式中、R’’は側鎖に水酸基を有するアルキル基、pは8以上22以下の整数である)であり、nは100以上の整数である。nは、過小であると安定な粒子を形成しにくいが、本発明では疎水性基が導入されて安定な粒子が形成されやすいため、従来よりも低い値もとり得る。nの具体値は、適宜設定されてよく、例えば500以上、1000以上、1500以上、2000以上であってよい。R’及びR’’は、乳化剤(B)を合成する際に用いられる基にすぎず、種々のものであってよく、例えばR’は炭素数1~3程度のアルキル基であってよく、R’’はヒドロキシプロピル基であってよい。
【0053】
水酸基を有する重縮合ポリマーとしては、具体的には、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース(例えば、ステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロース)が挙げられ、大同化成工業株式会社製の「サンジェロース」(登録商標)シリーズ(「60L」、「90L」、「60M」、「90M」等)の市販品も使用できる。
【0054】
乳化剤(B)の配合割合は、塗料貯蔵安定性の観点から、水性樹脂(A)の不揮発分100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、1質量部以上であることがより好ましい。一方、乳化剤(B)の含有量としては、水性樹脂(A)の不揮発分100質量部を基準として、15質量部以下であるのが好ましく、10質量部以下がより好ましい。
【0055】
<防錆顔料(C)>
防錆顔料(C)としては、塗料分野で公知の防錆顔料を使用可能であり、無機化合物であっても有機化合物であってもよく、単独化合物、複合化合物、これら化合物を複数併用した組成物等その形態に制限はない。特に、水中に多価金属イオンを溶出可能な防錆顔料である場合に本発明の効果を最大限に発揮することができる。
【0056】
防錆顔料(C)の具体例としては、例えばMg、Ca、Ba、Zn及びAlから選ばれる少なくとも1種の金属の、リン酸金属化合物、亜リン酸金属化合物、ケイ酸金属化合物、ポリリン酸金属化合物及び金属酸化物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0057】
リン酸金属化合物としては、例えば、リン酸亜鉛、リン酸マグネシウム、リン酸マグネシウム・アンモニウム共析物、リン酸一水素マグネシウム、リン酸二水素マグネシウム、リン酸マグネシウム・カルシウム共析物、リン酸マグネシウム・コバルト共析物、リン酸マグネシウム・ニッケル共析物、リン酸カルシウム、リン酸カルシウムアンモニウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸塩化フッ化カルシウム、リン酸アルミニウム、リン酸水素アルミニウム等;及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0058】
亜リン酸金属化合物としては、例えば、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸マグネシウム・カルシウム共析物、塩基性亜リン酸亜鉛、亜リン酸バリウム、亜リン酸マンガン、次亜リン酸カルシウム等;及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0059】
ケイ酸金属化合物としては、例えば、ケイ酸カルシウム、ケイ酸亜鉛、ケイ酸アルミニウム、オルトケイ酸アルミニウム、水化ケイ酸アルミニウム、アルミノケイ酸塩、ケイ酸アルミニウムカルシウム、ケイ酸アルミニウムナトリウム、ケイ酸アルミニウムベリリウム、ケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸カルシウム、メタケイ酸カルシウム、ケイ酸カルシウムナトリウム、ケイ酸ジルコニウム、オルトケイ酸マグネシウム、メタケイ酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム・カルシウム、ケイ酸マンガン、ケイ酸バリウム、マグネシウムイオン交換シリカ、カルシウムイオン交換シリカ等;及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0060】
ポリリン酸金属化合物としては、例えば、トリポリリン酸ニ水素アルミニウム、トリポリリン酸マグネシウム、トリポリリン酸アルミニウム、トリポリリン酸二水素亜鉛等;及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0061】
金属酸化物としては、例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0062】
これらは単独で又は2種以上組み合わせたものであってもよいし、2種以上を複合した複合物であることもできる。
【0063】
以上に述べた防錆顔料(C)は市販されており、それを使用することができる。
【0064】
防錆顔料(C)の配合割合は、塗料の貯蔵安定性や形成塗膜の防食性向上の観点から、水性樹脂(A)の不揮発分100質量部に対して、1質量部以上であるのが好ましく、3質量部以上がより好ましい。一方、防錆顔料(C)の含有量としては、水性樹脂(A)の不揮発分100質量部を基準として、70質量部以下であるのが好ましく、60質量部以下がより好ましい。
【0065】
<水性防錆塗料組成物>
本発明の水性防錆塗料組成物は、上記した水性樹脂(A)、特定の乳化剤(B)及び防錆顔料(C)を含有し、さらにこれら成分の他に、必要に応じて任意成分を含むことができる。他の任意成分としては、例えば、塗料分野で既知の着色顔料、体質顔料等の顔料;前記水性樹脂(A)と反応可能な官能基を有する硬化剤;顔料分散剤、硬化剤、従来の界面活性剤、硬化触媒、表面調整剤、消泡剤、増粘剤、造膜助剤、防腐剤、防カビ剤、凍結防止剤、pH調整剤、アルデヒド捕捉剤、層状粘度鉱物等の添加剤等が挙げられる。
【0066】
本発明の水性防錆塗料組成物は、塗料貯蔵安定性の点から不揮発分濃度が10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。一方で水性防錆塗料組成物の不揮発分濃度は80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。
【0067】
本発明の水性防錆塗料組成物が貯蔵安定性に優れる理由は定かではないが、本発明者らは以下のように考えている。
図1は本発明の水性防錆塗料組成物の塗料状態を表すイメージ図である。図1において符号1は水性樹脂の有機樹脂相であり、符号2は閉鎖小胞体又は水酸基を有する重縮合ポリマー粒子による安定化相である。ここで、重縮合ポリマー粒子とは、前記重縮合ポリマーが単粒子化したもの、又はその単粒子同士が連なったもののいずれも包含する一方、単粒子化される前の凝集体(網目構造を有する)は包含しない。図1において符号3は防錆顔料から水相に溶出された金属イオンである。
あらかじめ製造もしくは塗料製造段階において生成された閉鎖小胞体又は重縮合ポリマー粒子による安定化相2は、水相及び有機樹脂相1の界面に介在し、ファンデルワールス力を介して乳化状態を構成することから、有機樹脂相1及び水相の組成や条件にかかわらず、良好な乳化状態を構成することができる。そして、このような乳化状態によって、有機樹脂相1自体の安定性だけでなく、有機樹脂相1と水相に含まれる金属イオン3との反応も効果的に抑制できると考えられる。
【0068】
本発明においてこのような乳化安定化状態を構成するためには前記両親媒性物質を閉鎖小胞体に分散させる(ベシクル化する)工程、あるいは水酸基を有する重縮合ポリマーを粒子化させる工程が必要である。これは、使用する材料によってさまざまな工夫が必要であるが、例えば前記両親媒性物質及び/又は水酸基を有する重縮合ポリマーを水希釈させる工程、融点又は軟化点以上の温度に加温する工程、水素結合を破壊するために尿素などの切断剤を添加する工程、pHを5以下迄に調整する工程のいずれか、又は、組み合わせによって達成される。
【0069】
<水性防錆塗料組成物の製造方法>
本発明において、上記水性樹脂(A)は、本発明で特定する前記乳化剤(B)によって乳化安定化されてなる。
【0070】
水性防錆塗料組成物を製造する第1の製造方法として、水性樹脂(A)と乳化剤(B)とを混合する工程を経る方法が挙げられる。第1の製造方法は、乳化剤(B)として閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質を含む乳化剤を用いる場合に好適である。この第1の製造方法によれば、閉鎖小胞体を製造もしくは生成させながら水性樹脂(A)を乳化安定化することができる。
【0071】
第1の製造方法では、水性樹脂(A)を含む組成物に、撹拌下で、乳化剤(B)を添加するのが好ましい。水性樹脂(A)を含む組成物には、水性樹脂(A)以外に、消泡剤、レベリング剤、ドライヤー等の添加剤等を含むことができる。
【0072】
また、本発明の水性防錆塗料組成物を製造する第2の製造方法として、水に、撹拌下で、前記乳化剤(B)を添加して、乳化剤(B)の水希釈物を得る工程(水希釈工程)と、水性樹脂(A)と前記水希釈物とを混合する工程(混合工程)とを経る方法が挙げられる。この第2の製造方法によれば、水希釈工程であらかじめ閉鎖小胞体又は水酸基を有する重縮合ポリマー粒子を製造し、これを水性樹脂(A)と混合することによって塗料中における水性樹脂(A)の乳化安定化が向上し、水性防錆塗料組成物を安定に製造することができる。
第2の製造方法において、乳化剤(B)として水酸基を有する重縮合ポリマーを原料とする乳化剤を用いる場合は、特許第5652920号に記載の方法により得られる乳化剤を好適に用いることができる。
【0073】
第2の製造方法においても、水性樹脂(A)を含む組成物に、撹拌下で、乳化剤(B)の水希釈物を添加するのが好ましい。水性樹脂(A)を含む組成物には、水性樹脂(A)以外に、消泡剤、レベリング剤、ドライヤー等の添加剤等を含むことができる。
【0074】
水性樹脂(A)に、乳化剤(B)又は乳化剤(B)の水希釈物を添加する際の撹拌速度は、特に限定されず、撹拌により生じる渦の外側が撹拌容器内壁に衝突するような速度で撹拌すればよい。このような速度で撹拌することで成分全体を均一に混合できる。撹拌速度は、具体的には、200~4000rpmで行うのが好ましく、500~3000rpmがより好ましい。
【0075】
また、水性樹脂(A)と乳化剤(B)又は乳化剤(B)の水希釈物を混合する際の反応温度としては、塗料貯蔵安定性の観点から、5~40℃が好ましく、10~30℃がより好ましい。
【0076】
また、水性樹脂(A)と乳化剤(B)又は乳化剤(B)の水希釈物を混合する際の反応時間としては、塗料貯蔵安定性の観点から、0.1~24時間が好ましく、0.2~8時間がより好ましい。
【0077】
また、乳化剤(B)を構成する原料、すなわち、閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質や水酸基を有する重縮合ポリマーが常温で固体である場合には、前記原料を融点又は軟化点以上の温度に加温する工程をあらかじめ設けてもよい。
【0078】
上記の通り得られる水性防錆塗料組成物は、鉄、アルミニウム等の金属基材表面又は金属基材上の旧塗膜面に適用することができる。旧塗膜としては、これら基材上に設けられたアクリル樹脂系、アクリルウレタン樹脂系、ポリウレタン樹脂系、フッ素樹脂系、シリコンアクリル樹脂系、酢酸ビニル樹脂系、エポキシ樹脂系、アルキド樹脂などの塗膜が挙げられる。これらの被塗面には、本発明の水性防錆塗料組成物を下塗り材として塗布した後、既知の水性上塗り材を塗布することも可能である。
【0079】
本発明の水性防錆塗料組成物は、必要に応じて水等で塗装に適した粘度に希釈して、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、静電塗装、ハケ塗装、ローラー塗装、リシンガン、万能ガン等の方法で塗装することができる。乾燥方法としては、常温乾燥、加熱乾燥のいずれであってもよい。常温とは、塗装が行なわれる環境の大気温度により異なるが、強制的な加熱又は冷却などの温度操作を行なわない温度を指し、加熱乾燥とは乾燥炉などの機器を使用した強制的な加熱操作を行う温度を指す。
【実施例0080】
以下本発明を実施例によりさらに具体的に説明をするが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。尚、下記例中の「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0081】
<水性防錆塗料組成物の製造>
(実施例1)
225mlの容器に、上水40.0部、顔料分散剤5.0部、防錆顔料(C-1)40.0部、酸化チタン75.0部、タルク20.0部を順次仕込み、ペイントシェーカーで30分間均一になるまで攪拌を続け、顔料ペーストを得た。
次に、500mlの別の容器に、不揮発分濃度40%の水性樹脂(A-1)175.0部、不揮発分濃度50%の水性樹脂(A-2)60.0部及び不揮発分濃度が12%の乳化剤(B-4)25.0部、硬化触媒としてコバルトドライヤー2.0部、上水15.0部を仕込み、よく撹拌混合し、800rpmで撹拌しながら、前記顔料ペーストをすべて添加し、23℃で0.5時間、全体を撹拌混合して水性防錆塗料組成物(No.1)を製造した。
尚、乳化剤(B-4)は以下のようにして調製した。300mlの大きさの容器に、まず目的とする濃度となる量の上水をディスパーにて800rpmで撹拌し、撹拌下で、50℃恒温室に12時間保管して溶解させた「NIKKOL HCO-60」(日光ケミカルズ株式会社製商品名、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、一般式1におけるE=60)を添加して得た。
【0082】
(実施例2)
225mlの容器に、上水40.0部、顔料分散剤5.0部、防錆顔料(C-1)40.0部、酸化チタン75.0部、タルク20.0部を順次仕込み、ペイントシェーカーで30分間均一になるまで攪拌を続け、顔料ペーストを得た。
次に、500mlの別の容器に、不揮発分濃度40%の水性樹脂(A-1)175.0部、不揮発分濃度50%の水性樹脂(A-2)60.0部を仕込み、ディスパーで1500rpmで撹拌しながら、乳化剤(B-8)源として50℃恒温室に12時間保管してあらかじめ溶解させた「NIKKOL HCO-60」(日光ケミカルズ株式会社製商品名、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、一般式1におけるE=60)3部を添加して希釈した。
その後、そこに前記顔料ペースト全量及び硬化触媒としてコバルトドライヤー2部、上水15.0部を仕込み、23℃で0.5時間、全体を撹拌混合して水性防錆塗料組成物(No.2)を製造した。
【0083】
(実施例3~22及び比較例1~4)
上記実施例1において、使用する材料を下記表1~3のとおりに変更した以外は実施例1と同様の手順にて水性防錆塗料組成物(No.3~No.26)を製造した。
【0084】
次いで、各水性防錆塗料組成物を下記試験に供して評価した。結果を表1~3に併せて示す。
【0085】
(*)貯蔵安定性
実施例及び比較例で得られた各水性防錆塗料組成物を容量が1Lの内面コート缶に1kg入れ、窒素封入した後、50℃で1週間貯蔵した。その後、室温に戻し、容器の中での状態と粘度変化を次の基準で評価した。
〔評価基準〕
◎:初期の状態のままであり、変化がない
〇:粘度変化、沈降物はわずかにあるが、撹拌により元に戻る
△:粘度変化及び沈降物が認められ、撹拌しても元に戻らない
×:ゲル化した
【0086】
(*)防食性
実施例及び比較例で得られた各水性防錆塗料組成物を乾燥膜厚で40μmになるようにアプリケーターで無処理軟鋼板に塗装し、25℃で10日間養生させた後、塗膜面にカッターでクロスカットを入れたものを試験板とした。得られた各試験板を、JIS Z2371塩水噴霧試験に準じて、塩水噴霧に120時間曝した。その後、各試験板に生じたサビ、フクレの発生程度について下記の基準で評価した。
〔評価基準〕
◎:カット部の錆幅が1mm未満で、一般部にサビ、フクレなどが全くみられない
〇:カット部の錆幅が1mm未満で、一般部にサビ、フクレなどが極めてわずかにあり
△:カット部の錆幅は1~3mmであるが、一般部にサビ、フクレが少し発生
×:カット部の錆幅は3mmを超え、サビ、フクレが著しく発生
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
【表4】
【0091】
表1~3の結果より、実施例1~22はいずれも貯蔵安定性と防食性を両立でき、優れた効果を有することがわかった。
【符号の説明】
【0092】
1 有機樹脂相
2 安定化相
3 金属イオン
図1