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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093185
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】半導体装置とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20230627BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20230627BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20230627BHJP
【FI】
H01L21/304 611Z
B23K26/53
B23K26/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208658
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牛島 隆志
(72)【発明者】
【氏名】長屋 正武
(72)【発明者】
【氏名】河口 大祐
(72)【発明者】
【氏名】原 佳祐
【テーマコード(参考)】
4E168
5F057
【Fターム(参考)】
4E168AE01
4E168CB02
4E168JA13
4E168KA04
5F057AA05
5F057AA11
5F057BA11
5F057BB06
5F057CA14
5F057DA20
5F057DA22
5F057DA31
(57)【要約】
【課題】 レーザ照射後に半導体基板を分割する際に、分割面の形状を正確に制御する。
【解決手段】 半導体装置の製造方法であって、半導体基板(12)の内部でレーザの焦点が移動するように前記半導体基板に前記レーザを照射する工程と、前記半導体基板を分割する工程、を有する。前記半導体基板が、前記半導体基板の表面(12a)に平行な結晶面よりも劈開し易いとともに前記表面に対して傾斜している特定結晶面を有している。前記レーザを照射する前記工程では、前記焦点を前記特定結晶面に沿って移動させることによって前記特定結晶面に沿って伸びる特定改質層(16)を形成する特定改質層形成処理を繰り返す。前記レーザを照射する前記工程では、複数の前記特定改質層が前記表面に平行な方向に沿って配列されるように複数の前記特定改質層を形成する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置の製造方法であって、
半導体基板(12)の内部でレーザの焦点が移動するように前記半導体基板に前記レーザを照射する工程と、
前記半導体基板を分割する工程、
を有し、
前記半導体基板が、前記半導体基板の表面(12a)に平行な結晶面よりも劈開し易いとともに前記表面に対して傾斜している特定結晶面を有しており、
前記レーザを照射する前記工程では、前記焦点を前記特定結晶面に沿って移動させることによって前記特定結晶面に沿って伸びる特定改質層(16)を形成する特定改質層形成処理を繰り返し、
前記レーザを照射する前記工程では、複数の前記特定改質層が前記表面に平行な方向に沿って配列されるように複数の前記特定改質層を形成し、
前記半導体基板を分割する前記工程では、複数の前記特定改質層に沿って前記半導体基板を分割する、
製造方法。
【請求項2】
前記レーザを照射する前記工程では、前記半導体基板の厚み方向に沿って見たときに、1つの前記特定改質層が隣接する他の前記特定改質層と部分的に重複するように、複数の前記特定改質層を形成する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記レーザを照射する前記工程では、2つの前記特定改質層形成処理の間において、先の前記特定改質層形成処理における前記焦点の終点位置から次の前記特定改質層形成処理における前記焦点の始点位置まで前記焦点を移動させることによって接続改質層(18)を形成する処理を実施する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記接続改質層が、前記半導体基板の前記表面に対して、前記特定改質層とは反対側に傾斜している、
請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記特定結晶面が、第1特定結晶面であり、
前記半導体基板が、前記表面に平行な前記結晶面よりも劈開し易いとともに前記表面に対して傾斜している第2特定結晶面を有しており、
前記接続改質層が、前記第2特定結晶面に沿って伸びている、
請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記接続改質層と前記表面の間の角度が、前記特定改質層と前記表面の間の角度と等しい、請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
前記表面が、第1表面(12a)であり、
前記半導体基板が、前記第1表面の反対側に位置する第2表面(12b)を有し、
前記レーザを照射する前記工程では、前記第2表面側から前記半導体基板に前記レーザを照射し、
前記各特定改質層形成処理では、前記焦点を前記特定結晶面に沿って前記第2表面から前記第1表面に向かって移動させる、
請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記各特定改質層形成処理では、前記焦点の始点位置から前記焦点を移動させるときに、前記焦点の移動に伴って前記レーザのエネルギーを増加させる、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記半導体基板が、窒化ガリウムによって構成されており、
前記半導体基板の前記表面が、c面に平行であり、
前記特定結晶面が、(11-28)面である、
請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記半導体基板が、窒化ガリウムによって構成されており、
前記半導体基板の前記表面が、c面に平行であり、
前記特定結晶面が、m面に沿う断面において前記c面に対して21.8度の角度で傾斜している、
請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
半導体装置であって、
表面と前記表面の反対側に位置する裏面を有する半導体基板を有し、
前記半導体基板が、前記表面に平行な結晶面よりも劈開し易いとともに前記表面に対して傾斜している特定結晶面を有しており、
前記裏面が、複数の凸部を備える凹凸形状を有しており、
前記各凸部が、前記特定結晶面に沿って伸びる傾斜面を有する、
半導体装置。
【請求項12】
前記半導体基板が、窒化ガリウムによって構成されており、
前記半導体基板の前記表面が、c面に平行であり、
前記特定結晶面が、(11-28)面である、
請求項11に記載の半導体装置。
【請求項13】
前記半導体基板が、窒化ガリウムによって構成されており、
前記半導体基板の前記表面が、c面に平行であり、
前記特定結晶面が、m面に沿う断面において前記c面に対して21.8度の角度で傾斜している、
請求項11に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、半導体装置とその製造方法に関する。
【0002】
特許文献1には、半導体基板を分割する方法が開示されている。この方法は、レーザ照射工程と分割工程を有している。レーザ照射工程では、半導体基板の内部でレーザの焦点が半導体基板の表面に沿って移動するように半導体基板にレーザが照射される。これによって、半導体基板の内部に改質層が形成される。分割工程では、改質層に沿って半導体基板が分割される。その結果、厚みが薄い半導体基板が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-126844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、半導体基板は、特定結晶面において他の結晶面よりも劈開が生じ易い特性を有している。特許文献1のようにレーザの照射によって半導体基板の内部に改質層を形成するときに、半導体基板の内部で応力が発生する。その結果、改質層が形成されるときに、改質層から特定結晶面に沿ってクラックが発生する。このため、半導体基板を分割するときに、半導体基板が一部の領域でクラックに沿って分割される場合があり、分割面に大きい凹凸が形成される場合があった。本明細書では、レーザ照射後に半導体基板を分割する際に、分割面の形状を正確に制御できる技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に開示の半導体装置の製造方法は、半導体基板の内部でレーザの焦点が移動するように前記半導体基板に前記レーザを照射する工程と、前記半導体基板を分割する工程、を有する。前記半導体基板が、前記半導体基板の表面に平行な結晶面よりも劈開し易いとともに前記表面に対して傾斜している特定結晶面を有している。前記レーザを照射する前記工程では、前記焦点を前記特定結晶面に沿って移動させることによって前記特定結晶面に沿って伸びる特定改質層を形成する特定改質層形成処理を繰り返す。前記特定改質層はレーザの焦点において形成される改質層と、焦点の間を繋ぐように生じた改質層を含んでもよい。前記レーザを照射する前記工程では、複数の前記特定改質層が前記表面に平行な方向に沿って配列されるように複数の前記特定改質層を形成する。前記半導体基板を分割する前記工程では、複数の前記特定改質層に沿って前記半導体基板を分割する。
【0006】
この製造方法では、レーザ照射工程において、半導体基板の内部でレーザの焦点を特定結晶面に沿って移動させる特定改質層形成処理を繰り返す。レーザの焦点を特定結晶面に沿って移動させると、特定改質層が形成されるときに特定結晶面に沿ってクラックが発生し難い。レーザ照射工程では、複数の特定改質層が半導体基板の表面に平行な方向に沿って配列されるように複数の特定改質層を形成する。したがって、その後の分割工程では、半導体基板の表面に沿って半導体基板を分割することができる。レーザ照射工程でクラックが発生し難いので、半導体基板の分割面における大きい凹凸の発生を抑制できる。すなわち、この製造方法によれば、分割面の形状を正確に制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】半導体基板の平面図。
図2図1のII-II線における半導体基板の断面図。
図3】素子構造形成工程後の半導体基板の断面図。
図4】実施例1のレーザ照射工程を示す断面図。
図5】実施例1のレーザ照射工程におけるレーザの焦点の軌跡を示す平面図。
図6】実施例1のレーザ照射工程を示す断面図。
図7】実施例1の基板分割工程を示す断面図。
図8】実施例1の基板分割工程を示す断面図。
図9】比較例のレーザ照射工程を示す断面図。
図10】比較例の基板分割工程を示す断面図。
図11】実施例1のレーザ照射工程を示す断面図。
図12】実施例1の変形例のレーザ照射工程を示す断面図。
図13】レーザの焦点を往復移動させる場合の軌跡を示す平面図。
図14】実施例2のレーザ照射工程を示す断面図。
図15】実施例2のレーザ照射工程を示す断面図。
図16】実施例3のレーザ照射工程を示す断面図。
図17】実施例4のレーザ照射工程を示す断面図。
図18】実施例4において、m面における特定改質層と接続改質層の傾斜角度を示す断面図。
図19】実施例4の基板分割工程を示す断面図。
図20】実施例5のレーザ照射工程におけるレーザのエネルギーの変化を示すグラフ。
図21】実施例5の変形例のレーザ照射工程におけるレーザのエネルギーの変化を示すグラフ。
図22】実施例5の変形例のレーザ照射工程におけるレーザのエネルギーの変化を示すグラフ。
図23】実施例5の変形例のレーザ照射工程におけるレーザのエネルギーの変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
上述した製造方法において、前記レーザを照射する前記工程では、前記半導体基板の厚み方向に沿って見たときに、1つの前記特定改質層が隣接する他の前記特定改質層と部分的に重複するように、複数の前記特定改質層を形成してもよい。
【0009】
この構成によれば、レーザの焦点の位置でクラックが発生した場合に、クラックが既に形成済の特定改質層と交差し易い。クラックが特定改質層と交差すると、特定改質層の位置でクラックの進展が停止し易い。このため、この構成によれば、深いクラックの発生を抑制できる。
【0010】
上述した製造方法において、前記レーザを照射する前記工程では、2つの前記特定改質層形成処理の間において、先の前記特定改質層形成処理における前記焦点の終点位置から次の前記特定改質層形成処理における前記焦点の始点位置まで前記焦点を移動させることによって接続改質層を形成する処理を実施してもよい。
【0011】
この構成によれば、改質層が連続的に形成されるので、分割工程において半導体基板を分割し易い。
【0012】
上述した製造方法において、前記接続改質層が、前記半導体基板の前記表面に対して、前記特定改質層とは反対側に傾斜していてもよい。
【0013】
また、接続改質層を形成する場合には、上述した製造方法は、以下の構成を有していてもよい。前記特定結晶面が、第1特定結晶面であってもよい。前記半導体基板が、前記表面に平行な前記結晶面よりも劈開し易いとともに前記表面に対して傾斜している第2特定結晶面を有していてもよい。前記接続改質層が、前記第2特定結晶面に沿って伸びていてもよい。
【0014】
この構成では、劈開し易い第2特定結晶面に沿って接続改質層が形成されるので、接続改質層の形成時にクラックが発生し難い。
【0015】
また、接続改質層を形成する場合には、前記接続改質層と前記表面の間の角度が、前記特定改質層と前記表面の間の角度と等しくてもよい。この構成によれば、接続改質層の形成時にクラックが発生し難い。
【0016】
上述した製造方法において、前記表面が第1表面であってもよい。前記半導体基板が、前記第1表面の反対側に位置する第2表面を有していてもよい。前記レーザを照射する前記工程では、前記第2表面側から前記半導体基板に前記レーザを照射してもよい。前記各特定改質層形成処理では、前記焦点を前記特定結晶面に沿って前記第2表面から前記第1表面に向かって移動させてもよい。
【0017】
この構成によれば、レーザの焦点の位置から第2表面に向かって伸びるクラックの発生をより効果的に抑制できる。
【0018】
前記焦点を前記特定結晶面に沿って前記第2表面から前記第1表面に向かって移動させる製造方法において、前記各特定改質層形成処理では、前記焦点の始点位置から前記焦点を移動させるときに、前記焦点の移動に伴って前記レーザのエネルギーを増加させてもよい。
【0019】
この構成によれば、レーザの焦点の位置から第2表面に向かって伸びるクラックの発生をより効果的に抑制できる。
【0020】
上述した製造方法において、前記半導体基板が、窒化ガリウムによって構成されていてもよい。前記半導体基板の前記表面が、c面に平行であってもよい。前記特定結晶面が、(11-28)面であってもよい。
【0021】
上述した製造方法において、前記半導体基板が、窒化ガリウムによって構成されていてもよい。前記半導体基板の前記表面が、c面に平行であってもよい。前記特定結晶面が、m面に沿う断面において前記c面に対して21.8度の角度で傾斜していてもよい。
【実施例0022】
図1は、加工対象の半導体基板12を示している。半導体基板12は、窒化ガリウムの単結晶により構成されており、六方晶の結晶構造を有している。各図の符号a1、a2、a3、及び、cは、六方晶のa1軸、a2軸、a3軸、及び、c軸を示している。図2は、図1のII-II線における断面を示している。すなわち、図2に示す断面は、m面(すなわち、(1-100)面)を表している。図2に示すように、半導体基板12は、主面として第1表面12aと第2表面12bを有している。第1表面12aは、c面(すなわち、(0001)面)によって構成されている。第2表面12bは、第1表面12aの反対側に位置しており、第1表面12aに対して平行である。また、図2の破線は、[11-28]方向に対して垂直な(11-28)面を示している。図2の角度θ1は、(11-28)面の第1表面12aに対する傾斜角度を示している。角度θ1は、21.8度である。(11-28)面は、c面よりも劈開し易い結晶面である。
【0023】
(素子構造形成工程)
実施例1の製造方法では、まず、素子構造形成工程を実施する。素子構造形成工程では、図3に示すように、半導体基板12の第1表面12a側の領域に、半導体素子構造を形成する。例えば、第1表面12a近傍の半導体領域にドーパントの拡散層を形成する。また、第1表面12aに、電極13を形成する。
【0024】
(レーザ照射工程)
次に、レーザ照射工程を実施する。図4に示すように、レーザ照射工程では、半導体基板12に対して第2表面12b側からレーザLを照射する。半導体基板12は、光透過性を有する。ここでは、半導体基板12の内部で焦点Sが形成されるように、半導体基板12にレーザLを照射する。焦点Sの位置では、半導体基板12が加熱されて分解される。これによって、焦点Sの位置に結晶性が低下した改質層14が形成される。例えば、改質層14は、窒化ガリウムの分解によって析出したガリウム等によって構成されている。ここでは、焦点Sをa3方向に移動させることで、第1表面12aに沿って伸びる改質層14を形成する。また、ここでは、図5において矢印で示すように、焦点Sをa3方向に移動させる処理を、[1-100]方向に間隔を開けながら繰り返し実行する。これによって、c軸に沿って半導体基板12を見たときに半導体基板12の略全域に改質層14を形成する。
【0025】
図6は、焦点Sをa3方向に移動させる工程の詳細の説明図であり、改質層14を拡大して示している。図6において矢印で示すように、焦点Sをa3方向に移動させる工程では、焦点Sをa3方向に平行に移動させるのではなく、焦点Sをa3方向に対して傾斜した(11-28)面に沿って移動させる処理を繰り返す。焦点Sを(11-28)面に沿って移動させることで、(11-28)面に沿って伸びる特定改質層16が形成される。以下では、焦点Sを(11-28)面に沿って移動させる各処理を、特定改質層形成処理という。ここでは、a3方向に移動しながら特定改質層形成処理を繰り返し実施する。すなわち、1つの特定改質層形成処理が完了したらa3方向にシフトした位置で再度特定改質層形成処理を実行する。このように特定改質層形成処理を繰り返すことによって、(11-28)面に沿って伸びる複数の特定改質層16を形成する。このように複数の特定改質層16を形成すると、複数の特定改質層16がa3方向に沿って配列されるように形成される。上述した改質層14は、複数の特定改質層16の集合体である。
【0026】
各特定改質層形成処理では、焦点Sを(11-28)面に沿って第2表面12b側から第1表面12a側に向かって移動させる。すなわち、各特定改質層16の第2表面12b側の端部16bが特定改質層形成処理における焦点Sの始点位置であり、各特定改質層16の第1表面12a側の端部16aが特定改質層形成処理における焦点Sの終点位置である。各特定改質層形成処理では、焦点Sの始点位置から終点位置まで、焦点Sの移動軌跡に沿って特定改質層16が形成される。終点位置まで焦点Sを移動させたら、レーザLの照射を停止した状態でレーザLのターゲット点を次の特定改質層形成処理の始点位置まで移動させ、次の特定改質層形成処理を開始する。したがって、2つの特定改質層16の間(すなわち、1つの特定改質層16の端部16aと隣の特定改質層16の端部16bの間)には改質層が形成されていない。また、各特定改質層形成処理において、レーザLのエネルギーは略一定に維持される。
【0027】
(基板分割工程)
次に、基板分割工程を実施する。基板分割工程では、図7、8に示すように、改質層14(すなわち、複数の特定改質層16)に沿って半導体基板12を分割する。すなわち、素子構造部12s(すなわち、半導体基板12の第1表面12a側の部分(言い換えると、半導体素子構造が形成されている部分))を基部12t(すなわち、半導体基板12の第2表面12b側の部分)から剥離する。例えば、第1表面12aを第1支持板に固定し、第2表面12bを第2支持板に固定し、第1支持板を第2支持板から離間させることで、素子構造部12sを基部12tから剥離することができる。以下では、素子構造部12s側の分割面を分割面12d-1といい、基部12t側の分割面を分割面12d-2という。
【0028】
その後、素子構造部12sを複数のチップに分割することで、半導体装置が製造される。また、基部12tは、分割面12d-2を研磨した後に、他の半導体装置の製造に利用される。
【0029】
実施例1の製造方法によれば、半導体基板12の分割面12d-1、12d-2での意図しない凹凸の発生を抑制できる。以下に、実施例1の製造方法について、比較例の製造方法と比較しながら説明する。
【0030】
図9は、比較例の製造方法におけるレーザ照射工程を示している。比較例のレーザ照射工程では、半導体基板12の第1表面12aと平行な結晶面(すなわち、c面)と平行に焦点Sを移動させる。したがって、改質層14がc面と平行に形成される。上述したように、実施例1では、図6に示すように微小範囲を拡大視したときに、改質層14(すなわち、各特定改質層16)が(11-28)面と平行に形成される。これに対し、比較例では、図9に示すように微小範囲を拡大視したときに、改質層14がc面と平行に形成される。このように、実施例1と比較例では、微小範囲を拡大視したときに改質層14が伸びる方向が異なる。レーザ照射工程では、焦点Sにおいて半導体基板12が高温まで加熱されるので、焦点Sの周辺に高い応力が発生する。また、上述したように、半導体基板12は、(11-28)面に沿って劈開し易い。図9に示すように、比較例のレーザ照射工程では、焦点Sで高い応力が発生することによって、改質層14から(11-28)面に沿って深いクラック90が発生し易い。このように、比較例では、改質層14からその周辺に深いクラック90が発生し易い。このため、図10に示すように、比較例の基板分割工程では、改質層14に沿って半導体基板12を分割するときに、半導体基板12がクラック90に沿って割れ易い。その結果、分割面12d-1、12d-2に大きい凹凸が発生し易い。また、クラック90が意図せず発生するために、分割面12d-1、12d-2の凹凸形状を制御することが困難である。また、分割面12d-1、12d-2に深いクラック90が残存する。このため、分割工程後に、分割面12d-1、12d-2を多量に研磨して、クラック90を除去する必要がある。
【0031】
これに対し、実施例1のレーザ照射工程では、図6に示すように各特定改質層16が(11-28)面に沿って伸びるように形成される。劈開が生じ易い(11-28)面に沿って各特定改質層16を形成すると、クラック90が生じ難い。したがって、基板分割工程では、改質層14に沿って正確に半導体基板12が分割され易い。このため、図7に示すように、分割面12d-1、12d-2に大きい凹凸が発生し難い。なお、図7に示すように、実施例1の製造方法では、分割面12d-1、12d-2に改質層14に沿って凹凸が形成されるが、この凹凸はクラックによって発生する凹凸に比べて小さい。したがって、実施例1の製造方法によれば、分割面12d-1、12d-2に大きい凹凸が生じることを抑制できる。また、実施例1の製造方法では、改質層14に沿って半導体基板12が分割され易いので、分割面12d-1、12d-2の凹凸形状を制御し易い。また、実施例1の製造方法では、分割面12d-1、12d-2にクラック90が存在し難い。したがって、クラック90を除去するために分割面12d-1、12d-2を研磨するときの研磨量が少なくてよい。また、クラック90の影響がほとんどない場合には、分割面12d-1または12d-2を研磨しなくてもよい。
【0032】
なお、分割面12d-1を研磨しない場合には、凹凸を有する分割面12d-1が半導体装置の裏面となる。すなわち、裏面に複数の凸部を有し、各凸部が(11-28)面に沿って伸びる傾斜面を有する構造を備えた半導体装置が得られる。なお、この場合、凹凸を有する分割面12d-1に電極を形成すれば、電極と分割面12d-1の密着性を向上させることができる。
【0033】
なお、第2表面12b側からレーザLを照射する場合、改質層14よりも第2表面12b側の半導体領域(すなわち、基部12t)が、改質層14よりも第1表面12a側の半導体領域(すなわち、素子構造部12s)よりも高温になり易い。このため、例えば図9に示すように、改質層14から第2表面12b側に深いクラック90が発生し易い場合がある。この場合、実施例1(すなわち、図6)のように、各特定改質層形成処理において焦点Sを(11-20)面に沿って第2表面12b側から第1表面12a側に向かって移動させると、クラック90の発生をより効果的に抑制できる。例えば、図11は、実施例1の特定改質層形成処理の途中の状態を示している。特定改質層形成処理の途中の状態においては、焦点Sから見て(11-28)面に沿って第2表面12b側に向かう方向(図11の矢印100の方向)には、特定改質層16が存在している。特定改質層16は結晶性が低下した領域であるので、特定改質層16ではクラックが生じ難い。したがって、焦点Sの位置から(11-28)面に沿って第2表面12b側に向かってクラックが生じることが抑制される。
【0034】
なお、第2表面12b側へのクラック90の発生がそれほど問題にならない場合等には、焦点Sを動かす向きは図6の逆であってもよい。すなわち、図12の矢印で示すように、端部16aから端部16bに向かって焦点Sを移動させてもよい。また、図6図12の移動方法を組み合わせて、図13に示すように焦点Sを往復移動させてもよい。
【実施例0035】
実施例2の製造方法では、レーザ照射工程が実施例1の製造方法とは異なる。実施例2の製造方法のその他の構成は、実施例1の製造方法と等しい。
【0036】
実施例2では、図14に示すように、半導体基板12の厚み方向(すなわち、c方向)に沿って見たときに、隣接する特定改質層16どうしが部分的に重複するように複数の特定改質層16が形成される。すなわち、図14において、半導体基板12の厚み方向に沿って見たときに、各特定改質層16の端部16a近傍の部分16axが、隣接する特定改質層16の端部16b近傍の部分16bxと重複している。
【0037】
実施例2の製造方法によれば、以下に説明するように、各特定改質層16の端部16b近傍でのクラック90の発生をより効果的に抑制できる。上述したように、端部16bは、各特定改質層形成処理における焦点Sの始点位置である。焦点Sの始点位置は、特定改質層16内の結晶欠陥が最初に形成される位置であり、クラック90が発生し易い。実施例2のように各特定改質層16の部分16axが隣接する特定改質層16の部分16bxと重複していると、図15のように焦点Sの始点位置近傍(すなわち、端部16b近傍)から下方向に向かってクラック90が発生したときに、クラック90が他の特定改質層16にぶつかる。すると、特定改質層16の結晶性が低いので、特定改質層16とクラック90の交差部においてクラック90の進展が停止する。これによって、深いクラック90の発生が抑制される。したがって、実施例2の製造方法によれば、端部16b近傍でのクラック90の発生を効果的に抑制できる。
【実施例0038】
実施例3の製造方法では、レーザ照射工程が実施例1の製造方法とは異なる。実施例3の製造方法のその他の構成は、実施例1の製造方法と等しい。
【0039】
実施例3のレーザ照射工程では、図16に示すように、特定改質層16の端部16bと隣接する特定改質層16の端部16aとを接続するように接続改質層18を形成する。具体的には、1つの特定改質層形成処理が終了したら、レーザLを照射し続けた状態で、焦点Sを前の特定改質層形成処理の終点位置から次の特定改質層形成処理の始点位置まで移動させる。すなわち、例えば、図16において、特定改質層16-1の形成処理が終了したら、レーザLの照射を継続した状態で、特定改質層16-1の終点位置(すなわち、端部16a)から特定改質層16-2の始点位置(すなわち、端部16b)まで焦点Sを移動させる。言い換えると、焦点Sをジグザグに移動させる。このように焦点Sを移動させることで、各特定改質層16の間を接続する接続改質層18が形成される。
【0040】
実施例3の基板分割工程では、特定改質層16と接続改質層18に沿って基板が分割される。すなわち、隣接する特定改質層16の間の領域において、半導体基板12が接続改質層18によってガイドされながら分割される。したがって、分割面12d-1、12d-2の形状をより正確に制御することができる。
【実施例0041】
実施例4の製造方法では、レーザ照射工程が実施例1の製造方法とは異なる。実施例4の製造方法のその他の構成は、実施例1の製造方法と等しい。
【0042】
図17に示すように、実施例4のレーザ照射工程では、実施例1よりも、特定改質層16の間のa3方向における間隔が広い。すなわち、実施例4では、特定改質層16の端部16bと隣接する特定改質層16の端部16aの間に広い間隔C1が設けられている。また、実施例4のレーザ照射工程では、実施例3と同様に、特定改質層16の端部16bと隣接する特定改質層16の端部16aとを接続するように接続改質層18を形成する。実施例4では、接続改質層18が、第1表面12aに対して、特定改質層16とは反対側に傾斜するように形成される。図18は、特定改質層16と接続改質層18の傾斜角度を示している。なお、図18の破線101は、第1表面12aに平行な平面を示している。図18に示すように、特定改質層16は第1表面12aに対して角度θ1だけ傾斜しており、接続改質層18は第1表面12aに対して特定改質層16とは反対側に角度θ2だけ傾斜している。上述したように、角度θ1は、21.8度である。また、角度θ2は、角度θ1と等しい角度(すなわち、21.8度)である。すなわち、接続改質層18は、(-1-128)面に沿って伸びている。
【0043】
(-1-128)面は、(11-28)面に対して対称性を有する結晶面であり、比較的劈開が生じ易い結晶面である。このため、(-1-128)面では、c面よりも劈開が生じ易い。したがって、(-1-128)面に沿って接続改質層18を形成すると、接続改質層18の形成時にクラックが発生し難い。
【0044】
実施例4の基板分割工程では、図19に示すように、特定改質層16と接続改質層18に沿って基板が分割される。すなわち、隣接する特定改質層16の間の領域において、半導体基板12が接続改質層18によってガイドされながら分割される。したがって、分割面12d-1、12d-2の形状をより正確に制御することができる。また、実施例4では、分割面12d-1、12d-2に形成される凹凸の角部が鈍角となるので、基板分割工程でチッピングが生じ難い。
【0045】
なお、実施例4では、(-1-128)面に沿って接続改質層18を形成したが、c面よりも劈開が生じ易い他の結晶面に沿って接続改質層18を形成してもよい。
【実施例0046】
実施例5の製造方法では、レーザ照射工程が実施例1の製造方法とは異なる。実施例5の製造方法のその他の構成は、実施例1の製造方法と等しい。
【0047】
上述したように、実施例1では各特定改質層形成処理中にレーザLのエネルギーを略一定に維持する。これに対し、実施例5では各特定改質層形成処理中にレーザLのエネルギーを増加させる。図20は、実施例5の特定改質層形成処理におけるレーザLのエネルギーEの変化を示している。図20の横軸は、焦点Sの位置を示している。
【0048】
上述したように、焦点Sの始点位置では、クラック90が発生し易い。このため、実施例5の特定改質層形成処理では、図20に示すように、焦点Sの始点位置(すなわち、端部16b)では、低いエネルギーELでレーザLを照射する。したがって、焦点Sの始点位置でのクラックの発生が抑制される。図20に示すように、特定改質層形成処理中に、焦点Sの移動に伴ってレーザLのエネルギーEを増加させる。レーザLの照射終了位置(すなわち、端部16a)では、レーザLのエネルギーEがエネルギーEHまで増加する。このように、特定改質層形成処理中にレーザLのエネルギーEを増加させることで、焦点Sの始点位置におけるクラックの発生を抑制しながら特定改質層16を好適に形成することができる。
【0049】
なお、クラックが発生し易いのは焦点Sの始点位置であるので、図21に示すように、焦点Sの始点位置近傍においてエネルギーEを増加させ、特定改質層形成処理の後半ではエネルギーEを一定としてもよい。また、図22に示すように、焦点Sの始点位置近傍においてエネルギーEを増加させ、特定改質層形成処理の後半ではエネルギーEを減少させてもよい。また、図23に示すように、レーザLのエネルギーEをステップ状に変化させてもよい。
【0050】
以上、実施例1~5について説明したが、実施例1~5を組み合わせて実施してもよい。
【0051】
実施例の(11-28)面は、特定結晶面及び第1特定結晶面の一例である。実施例のa3方向は、半導体基板の表面に平行な方向の一例である。実施例の端部16bは、特定改質層形成処理における焦点の始点位置の一例である。実施例の端部16aは、特定改質層形成処理における焦点の終点位置の一例である。実施例の(-1-128)面は、第2特定結晶面の一例である。実施例の第1表面12aは、半導体装置の半導体基板の表面の一例である。実施例の分割面12d-1は、半導体装置の半導体基板の裏面の一例である。
【0052】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0053】
12:半導体基板、14:改質層、16:特定改質層
図1
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