(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093191
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】ハエ目に属する昆虫の幼虫回収装置
(51)【国際特許分類】
A01K 67/033 20060101AFI20230627BHJP
B09B 3/60 20220101ALI20230627BHJP
【FI】
A01K67/033 502
B09B3/00 D ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208668
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(71)【出願人】
【識別番号】519008810
【氏名又は名称】株式会社フライハイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】川崎 稔弥
(72)【発明者】
【氏名】石川 光祥
(72)【発明者】
【氏名】加藤 高之
(72)【発明者】
【氏名】木下 敬介
(72)【発明者】
【氏名】山口 竜
(72)【発明者】
【氏名】根本 幸恵
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA02
4D004AA04
4D004BA04
4D004CA17
4D004CB03
4D004CB05
4D004CC02
4D004CC03
4D004CC20
4D004DA02
4D004DA03
4D004DA20
(57)【要約】
【課題】有機性廃棄物の均一な処理を行うことができ、幼虫の回収を確実に行うことのできるハエ目の昆虫の幼虫回収装置を提供する。
【解決手段】ハエ目に属する昆虫の幼虫回収装置は、ハエ目に属する昆虫の幼虫を飼育する培地が設けられる処理槽と、処理槽の下に重ねて配置され培地で飼育された前記幼虫を回収する回収槽とを有する。処理槽は、底面と底面を囲む壁面を有し、底面に幼虫が通ることのできる貫通孔が設けられている。処理槽と回収槽との間に通風口が設けられていてもよく、この通風口に風を送る送風機が設けられていてもよい。また、処理槽の底面の少なくとも一部が布地であり、幼虫が通ることができる程度に布目が粗いものが用いられてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハエ目に属する昆虫の幼虫を飼育する培地が設けられる処理槽と、
前記処理槽の下に重ねて配置され、前記培地で飼育された前記幼虫を回収する回収槽と、を有し、
前記処理槽は、底面と、前記底面を囲む壁面を有し、
前記底面に前記幼虫が通ることのできる貫通孔が設けられていることを特徴とするハエ目に属する昆虫の幼虫回収装置。
【請求項2】
前記処理槽と前記回収槽との間に、通風口が設けられている、請求項1に記載のハエ目に属する昆虫の幼虫回収装置。
【請求項3】
前記通風口に風を送る送風機をさらに有する、請求項2に記載のハエ目に属する昆虫の幼虫回収装置。
【請求項4】
前記処理槽の内部の状態を撮影するカメラをさらに有し、前記カメラで撮影された画像に基づいて前記送風機の動作を制御する、請求項3に記載のハエ目に属する昆虫の幼虫回収装置。
【請求項5】
前記処理槽の底面の少なくとも一部が布地であり、前記布地の布目が、前記幼虫が通ることのできる程度に粗いこと、を特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のハエ目に属する昆虫の幼虫回収装置。
【請求項6】
底面と、前記底面を囲む壁面と、を有する処理回収槽と、
前記処理回収槽の中段に設けられる中間板と、を有し、
前記処理回収槽は、前記中間板の上側にハエ目に属する昆虫の幼虫を飼育する培地が設けられる処理部が形成され、前記中間板の下側が前記幼虫を回収する回収部が形成され、
前記中間板に前記幼虫が通ることのできる貫通孔が設けられていることを特徴とするハエ目に属する昆虫の幼虫回収装置。
【請求項7】
前記処理回収槽の前記壁面に設けられた通風口を有し、
前記通風口は、前記処理回収槽の前記底面より高く、前記中間板より低い位置に設けられている、請求項6に記載のハエ目に属する昆虫の幼虫回収装置。
【請求項8】
前記通風口に風を送る送風機をさらに有する、請求項7に記載のハエ目に属する昆虫の幼虫回収装置。
【請求項9】
前記処理部の状態を撮影するカメラをさらに有し、前記カメラで撮影された画像に基づいて前記送風機の動作を制御する、請求項8に記載のハエ目に属する昆虫の幼虫回収装置。
【請求項10】
前記貫通孔の孔径が1.0mm以上3mm以下である、請求項1乃至4及び請求項6乃至9のいずれか一項に記載のハエ目に属する昆虫の幼虫回収装置。
【請求項11】
前記処理槽が前記回収槽の上に複数個重ねて配置されている、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の幼虫回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、ハエ目に属する昆虫の幼虫を飼育し回収する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イエバエの幼虫は、成長段階においては適度な湿度がある環境を好んで生息し、蛹化するときに比較的乾燥した環境に移動する習性を有している。このような習性を利用して、イエバエの幼虫に有機性廃棄物を摂食させ、成長した幼虫を回収する装置が開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1に開示される装置は、イエバエの幼虫の餌とする有機廃棄物を収容し幼虫を飼育する飼育容器が用いられる。飼育容器は有機廃棄物を収容する収容部と、蛹化するイエバエの幼虫が這い出す這い出し口とを備え、這い出し口は5~15度の傾斜壁面で形成されている。また、特許文献2に開示される装置も、飼育容器に蛹化するイエバエの幼虫を誘導する傾斜壁面が設けられた構造を有している。そして、これらの装置は、傾斜壁面を登ったイエバエの幼虫は、傾斜壁面の外端から下部に設けられた回収容器に落下し、回収される仕組みを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-020190号公報
【特許文献2】特開2020-110751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のイエバエの幼虫を回収する装置は、飼育容器から全ての幼虫を回収することができず、餌として与えられる有機性廃棄物(幼虫が摂食後の残存物は飼料原料、肥料原料となる)の中に幼虫が残留してしまう場合があることが問題となっている。また、飼育容器に傾斜壁面を設ける必要があるため、餌として与えられる有機性廃棄物の厚さが不均一となり、幼虫が摂食することによる有機廃棄物の処理が均一に進まず一部が未処理のまま回収されてしまうことが問題となっている。
【0006】
本発明の一実施形態はこのような問題に鑑みなされたものであり、有機性廃棄物の均一な処理を行うことができ、幼虫の回収を確実に行うことのできるハエ目の昆虫の幼虫回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態は、ハエ目に分類される昆虫の幼虫が、蛹化するときに適切な環境を求めて移動する習性を利用して、飼育容器に幼虫が通過可能な貫通孔を設けることで、飼育容器内の有機廃棄物と幼虫を分離回収することを要旨とする。
【0008】
本発明の一実施形態に係るハエ目に属する昆虫の幼虫回収装置は、ハエ目に属する昆虫の幼虫を飼育する培地が設けられる処理槽と、処理槽の下に重ねて配置され培地で飼育された前記幼虫を回収する回収槽とを有する。処理槽は、底面と底面を囲む壁面を有し、底面に幼虫が通ることのできる貫通孔が設けられている。
【0009】
本発明の一実施形態において、処理槽と回収槽との間に通風口が設けられていてもよく、この通風口に風を送る送風機が設けられていてもよい。また、処理槽の内部の状態を撮影するカメラが設けられていてもよく、カメラで撮影された画像に基づいて送風機の動作を制御する制御部が設けられていてもよい。
【0010】
本発明の一実施形態において、処理槽の底面の少なくとも一部が布地であり、幼虫が通ることができる程度に布目が粗いものが用いられてもよい。
【0011】
本発明の一実施形態に係るハエ目に属する昆虫の幼虫回収装置は、底面と底面を囲む壁面とを有し、処理槽と回収槽が一体化された処理回収槽と、処理回収槽の中段に設けられる中間板とを有する。処理回収槽には、中間板の上側にハエ目に属する昆虫の幼虫を飼育する培地が設けられる処理部が形成され、中間板の下側が幼虫を回収する回収部が形成され、中間板には幼虫が通ることのできる貫通孔が設けられている。
【0012】
本発明の一実施形態において、処理回収槽の壁面には通風口が設けられ、該通風口は処理回収槽の底面より高く中間板より低い位置に設けられていてもよく、この通風口に風を送る送風機が設けられていてもよい。また、処理部の内部の状態を撮影するカメラが設けられていてもよく、カメラで撮影された画像に基づいて送風機の動作を制御する制御部が設けられていてもよい。
【0013】
本発明の一実施形態において、処理槽の底面に設けられる貫通孔、及び中間板に設けられる貫通孔の孔径が1.0mm以上3mm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一実施形態によれば、ハエ目に属する昆虫の幼虫を飼育する処理槽の底面に該幼虫が通ることのできる貫通孔を設けることで、該幼虫を貫通孔に誘導して回収槽に落下させることができ、有機性廃棄物が撒かれた培地から該幼虫を分離して回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係るハエ目に属する昆虫の幼虫回収装置を示し、(A)は平面図、(B)は平面図に示すA-B間に対応する断面図を示す。
【
図2】本発明の一実施形態に係るハエ目に属する昆虫の幼虫回収装置で行われる処理の流れを示し、(A)は卵を接種する段階、(B)は卵から孵化した幼虫を育成し有機性廃棄物を処理する段階、(C)は幼虫を回収する段階を示す。
【
図3】本発明の一実施形態に係るハエ目に属する昆虫の幼虫回収装置を示し、(A)は回収槽に通風口が設けられる構造の側面図を示し、(B)はその断面図を示し、(C)はスペーサによって通風口が設けられる態様を示す。
【
図4】本発明の一実施形態に係るハエ目に属する昆虫の幼虫回収装置において、送風機及びカメラが設けられる構成の一例を示す。
【
図5】本発明の一実施形態に係るハエ目に属する昆虫の幼虫回収装置を示し、(A)は側面図を示し、(B)は断面図を示し、(C)は通風口が設けられる場合の側面図を示す。
【
図6】本発明の一実施形態に係るハエ目に属する昆虫の幼虫回収装置を示し、(A)は平面図、(B)は平面図に示すC-D間に対応する断面図を示す。
【
図7】本発明の一実施形態に係るハエ目に属する昆虫の幼虫回収装置を示し、(A)は平面図、(B)は平面図に示すE-F間に対応する断面図を示し、(C)は処理槽を支持する構造の異なる態様を示す。
【
図8】本発明の一実施形態に係るハエ目に属する昆虫の幼虫回収装置を示し、(A)乃至(C)は処理槽が2段に重ねられた態様を示す。
【
図9】本発明の一実施形態に係るハエ目に属する昆虫の幼虫回収装置を示し、(A)乃至(C)は処理槽が3段に重ねられた態様を示す。
【
図10】本発明の一実施形態に係るハエ目に属する昆虫の幼虫回収装置の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面等を参照しながら説明する。但し、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に例示する実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の長さ、幅、高さ、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号(又は数字の後にA、B、又はa、bなどを付した符号)を付して詳細な説明を適宜省略することがある。さらに各要素に対する「第1」、「第2」と付記された文字は、各要素を区別するために用いられる便宜的な標識であり、特段の説明がない限りそれ以上の意味を有しない。
【0017】
本発明の一実施形態における幼虫回収装置は、ハエ目に属する昆虫の幼虫に有機性廃棄物を摂食させて飼育し、幼虫が蛹になる前の段階で、ハエ目に属する昆虫の幼虫と、該幼虫が摂食した後の有機性廃棄物の残存物(以下、「処理物残渣」ともいう。)と、を分離して回収する装置である。なお、以下の説明において、特段の断りのない限りハエ目に属する昆虫の幼虫を単に「幼虫」というものとする。また、幼虫の成長段階に応じて「1日齢幼虫」、「2日齢幼虫」、「3日齢幼虫」、「4日齢幼虫」、「5日齢幼虫」、「6日齢幼虫」、「7日齢幼虫」、「8日齢幼虫」と呼ぶこともあるものとする。
【0018】
本明細書において「処理物残渣」とは、上記で述べたように有機性廃棄物の残存物であり、幼虫の排泄物(低濃度有機分解物)、有機性廃棄物にもともと含まれていたか、又は有機性廃棄物に何らかの処理を加える過程で混入した微生物の排泄物、乾燥した有機性廃棄物(昆虫が摂食せずに残存した有機性廃棄物)、を含むものとする。
【0019】
本明細書において、処理物残渣から幼虫を分離するというときの「分離」とは、処理物残渣と幼虫とを分けることを示し、以下の実施形態で述べられるように、幼虫が処理物残渣から貫通孔を通って外に移動(脱出)することを含むものとする。なお、処理物残渣に残存する幼虫の死骸を篩いなどにより取り除くことも分離の範囲に含まれるものとする。
【0020】
本明細書において、幼虫を回収するとは、分離された幼虫を所定の領域又は容器等に集めることをいうものとする。以下に述べる実施形態で述べられるように、有機性廃棄物が堆積された培地(以下、「培地」という。)から貫通孔を通して幼虫を落下させ、容器の中に溜めることを回収するというものとする。
【0021】
[第1実施形態]
本発明の一実施形態に係るハエ目に属する昆虫の幼虫回収装置(以下、単に「幼虫回収装置」ともいう。)の詳細を、
図1を参照して説明する。以下の説明では、昆虫の幼虫としてイエバエの幼虫を例に説明するが、イエバエの幼虫の他に、センチニクバエ、ミズアブ、その他のハエ目に属する昆虫の幼虫を使用することができる。
【0022】
図1(A)及び(B)は、本実施形態に係る幼虫回収装置100Aの主たる構成を示す。
図1において、(A)は幼虫回収装置100Aの平面図を示し、(B)は平面図に示すA-B間に対応する断面図を示す。
図1(A)及び(B)に示すように、幼虫回収装置100Aは、処理槽102と回収槽104とを含む。処理槽102は幼虫を飼育する有機性廃棄物201が堆積された培地が設けられる容器であり、回収槽104は処理槽102で飼育された幼虫を回収する容器である。幼虫回収装置100Aは、処理槽102の下側に回収槽104が重ねて配置された構造を有する。
【0023】
処理槽102は、底面1021と、底面1021を囲む壁面1022とを有し、天井面が開放された箱形の形状を有する。処理槽102には、有機性廃棄物201が底面1021の全面を覆うように敷き詰められ、幼虫を飼育するための培地が形成される。処理槽102は、有機性廃棄物201を所定の厚さで敷き詰めることのでき、幼虫が簡単に外側に這い出ない程度の深さ(壁面1022の高さ)を有する。幼虫は湿度の高い環境を好み、培地の中を蠕動しながら餌食を摂食するが、培地の水分量が多く培地が厚すぎると呼吸困難になり幼虫の生存率が低下する。そのため、処理槽102へ投入される有機性廃棄物201は、適度な水分を含み適度な厚さとなるように広げられる。有機性廃棄物201によって処理槽102の中に形成される培地は、有機性廃棄物201の種類にもよるが、水分量を60~80%とし、厚さが30~80mm、好ましくは40~50mmの厚さとなるようにすることで、幼虫の成長に適した状態にすることができる。
【0024】
なお、幼虫回収装置100Aに用いられる有機性廃棄物201としては、例えば、畜糞、食品廃棄物、農産廃棄物の少なくとも一つを含む。畜糞は、牛糞、豚糞、鶏糞などの家畜から排出される糞尿であり、食品廃棄物は、食品の製造や調理過程で生じる加工残渣及び残飯であり、具体的には、野菜くず、豆腐くず、おから、酒粕、焼酎粕、ビール粕などであり、さらに家庭等から廃棄される生ごみなども含まれる。また、農産廃棄物としては食用に供されない作物の残骸であり、作物の茎、葉、皮、豆殻などが含まれる。
【0025】
有機性廃棄物201によって処理槽102に形成された培地にハエ目に属する昆虫の卵(以下、単に「卵」又は「昆虫の卵」ともいう。)が接種される。例えば、イエバエの卵は1日程度で孵化する。卵から孵化した幼虫(1日齢幼虫)は有機性廃棄物201を摂食し、4~7日程度で蛹変態期を迎えた幼虫(3日齢幼虫)に成長する。
【0026】
有機性廃棄物201の中で蛹変態期を迎える幼虫(3日齢幼虫)は、蠕動離散習性により水分(湿度)を含む有機性廃棄物201の培地から乾燥した領域へ移動しようとする。処理槽102の底面1021には貫通孔1024が設けられた構造を有する。貫通孔1024は、いわば有機性廃棄物201から乾燥した外界へ出る抜け穴であり、底面1021が有するこの構造により幼虫(3日齢幼虫)を貫通孔1024に誘導することができる。底面1021に設ける貫通孔1024の数に限定はないが、有機性廃棄物201の中で成長した幼虫(3日齢幼虫)を容易に誘導するために、底面1021の全体に亘って設けられていることが好ましい。
【0027】
貫通孔1024は蛹変態期を迎える幼虫(3日齢幼虫)が通ることのできる大きさを有する。貫通孔1024は、例えば、孔径(直径)が1.0mm~3mm程度の大きさに設けられる。貫通孔1024の孔径がこの範囲より小さいと、幼虫(3日齢幼虫)を通過させて有機性廃棄物201から分離することが困難になり、大きすぎると有機性廃棄物201が貫通孔1024を通して回収槽104に落下する量が増えてしまい好ましくない。貫通孔1024の平面視における形状に限定はなく、丸形、楕円形、正方形、長方形、菱形、六角形などさまざまな形状を適用することができる。
【0028】
処理槽102の材質に限定はないが、容器としての形状を保つことのできる剛性を有する素材が用いられる。処理槽102は、例えば、金属、プラスチック、又は木材で形成される。処理槽102の底面1021及び壁面1022は一体化されていてもよいし、底面1021の一部又は全部と、壁面1022とが分解可能な構造を有していてもよい。
【0029】
底面1021は、金属、プラスチック、又は木材で形成されるが、これらの素材に代えて布地が用いられてもよい。底面1021が金属、プラスチック、又は木材のような材料で形成される場合には、上記のようなサイズの貫通孔1024を全面に形成することができ、貫通孔1024の数を増やしても剛性(機械的強度)の低下を抑制することができる。底面1021の一部又は全部が布地で形成される場合には、布目が幼虫を通過させることのできる程度の粗さを有している、又は布地に幼虫が通過することのできる程度の穴又は切り込みが形成されていることが好ましい。なお、布地は剛性を有しないので、布地単体で処理槽102を形成するには不向きである。したがって、布地で底面1021を形成する場合には、金属、プラスチック、又は木材で形成された壁面1022に張り付けて用いることが好ましい。
【0030】
回収槽104は、底面1041と、底面1041を囲む壁面1042とを有し、天井面が開放された箱形の形状を有する。回収槽104は、処理槽102の底面1021に設けられた貫通孔1024から抜け出た幼虫を回収する容器である。回収槽104は、貫通孔1024を通って処理槽102から落下した幼虫(3日齢幼虫)を受け止めて一時的に溜めておくために用いられる。そのため回収槽104は、幼虫(3日齢幼虫)を貯留することのできる容積を有していることが好ましい。処理槽102から落下した幼虫(3日齢幼虫)は蠕動することができるので、壁面1042を登って外に逃げないようにある程度の深さを有していることが好ましい。
【0031】
回収槽104は処理槽102の直下に配置される。回収槽104は開放された上面が、開放された天井面が処理槽102の底面1021の内、少なくとも貫通孔1024が形成された部分を覆う大きさを有する。例えば、
図1(B)に示すように、処理槽102と回収槽104とが同じ外径寸法を有し、積み重ねて配置されることが好ましい。処理槽102と回収槽104とを積み重ねたとき、両者の位置がずれないように、処理槽102の下部と回収槽104の上部とが嵌合するように、突起、案内溝などが設けられていてもよい。また、処理槽102と回収槽104とは、重ね合わせた状態で、ネジ、クランプなどで留められる構造を有していてもよい。いずれにしても、処理槽102と回収槽104とは容易に着脱可能に配置されることで、有機性廃棄物201の投入、昆虫の卵の接種、幼虫の回収、各槽の洗浄などを容易に行うことができる。
【0032】
回収槽104の上に処理槽102が積み重ねられることで、処理槽102が蓋となり回収槽104から回収された幼虫が逃げ出さないようにすることができる。処理槽102の底面1021には貫通孔1024が設けられており、回収槽104内には幼虫が窒息しない程度の空気が含まれており、また回収槽104の上が処理槽102によって蓋をされたとしても空気の流入路は確保されるので、回収槽104に滞留する幼虫が窒息しないようにすることができる。
【0033】
処理槽102に残る処理物残渣202は回収され、所定の処理(例えば、加熱処理など)が行われることで、飼料原料、肥料原料として利用することができる。回収槽104に回収された幼虫は、所定の処理がされることにより家畜の飼料とすることができ、また清潔な動物性タンパク質を含む食材として提供し、又は食品に加工することができる。
【0034】
次に
図2(A)乃至(C)を参照して、本実施形態に係る幼虫回収装置100Aの使用方法の一例を説明する。
【0035】
図2(A)は、昆虫の卵203を接種する段階を示す。処理槽102には有機性廃棄物201が投入され、底面1021の上で均一な厚さになるように均され広げられる。有機性廃棄物201としては、上述のように畜糞、食品廃棄物、農業廃棄物などが用いられる。例えば、有機性廃棄物201として豆腐の製造過程で大量に発生するおからが用いられる。
【0036】
おからは豆腐、豆乳を製造する過程でできる副産物であるが、食用に供されるのは全体の1%以下とされており、飼料用及び肥料用として用いられる他は産業廃棄物として廃棄されている。そこで、有機性廃棄物201としておからを用い、幼虫回収装置100Aで処理をすることで、資源の有効利用を図ることができる。
【0037】
処理槽102に投入された有機性廃棄物201は、全体に広げられ均一な厚さになるように均される。そして、昆虫の卵203が有機性廃棄物201に接種される。幼虫回収装置100Aは、接種した昆虫の卵203が孵化し、幼虫が成長するのに適した環境に設置される。例えば、幼虫回収装置100Aは、温度が20~50℃(好ましくは25~40℃)、湿度が40~100%(好ましくは50~80%)に調整された建屋に配置される。処理槽102は天井面が開放されているので、内部の様子を観察し、有機性廃棄物201の水分量や温度をモニタリングして成長環境を容易に制御することができる。
【0038】
図2(B)は、昆虫の卵203から孵化した幼虫204が成長する段階を示す。幼虫204は有機性廃棄物201によって形成された培地の中を蠕動ながら有機性廃棄物201を摂食して成長する。有機性廃棄物201の水分量は、幼虫204の成長に適するように調整される。幼虫204が有機性廃棄物201の中を蠕動するためには適度な空隙が必要とされる。そこで、水分量を調整して有機性廃棄物201の中に適度な空隙ができるようにする。例えば、有機性廃棄物201としておからが用いられる場合、水分量を60~80%の範囲にすることが好ましい。有機性廃棄物201が堆積された培地は、水分量が適度であれば幼虫204が有機性廃棄物201を摂食したり動き回ったりすることで適度な空隙が形成される。有機性廃棄物201の水分量が低すぎると、培地が硬くなり幼虫204の蠕動が制限されて成長に悪影響を及ぼすこととなる。一方、有機性廃棄物201の水分量が高すぎると幼虫204の食性が低下するので好ましくない。幼虫回収装置100Aに使用する有機性廃棄物201の水分量を適切な範囲にすることで、卵203及び幼虫204に対する生育環境を最適にすることができ、環境悪化による卵203及び幼虫204の死亡を防ぎ、孵化率や生存率を向上させることができる。
【0039】
幼虫204が摂食した有機性廃棄物201は、幼虫204の体内で酵素分解され低濃度有機分解物として排泄される。卵203から孵化した1日齢幼虫は、4~7日程度で蛹変態前の3日齢幼虫に成長する。処理槽102には、有機性廃棄物201の残存物である処理物残渣202が残される。
【0040】
図2(C)は、処理物残渣202と幼虫204とを分離する段階を示す。処理槽102で成長し終齢を迎えた幼虫204(3日齢幼虫)は、離散習性(蠕動離散習性)により乾燥した環境へ移動しようとする。このとき幼虫204(3日齢幼虫)は、処理物残渣202のすぐ近くにある貫通孔1024を通って外部の乾燥した環境へ移動しようとする。処理槽102の下には回収槽104が置かれているので、貫通孔1024を通り抜けた幼虫204(3日齢幼虫)は回収槽104にそのまま落下し収容される。
【0041】
処理槽102の底面1021に設けられた貫通孔1024は、幼虫204が通り抜けることができる程度の孔径しか有しない。一方で、有機性廃棄物201は水分を含むことで膨張する。これらのため、処理物残渣202は湿っているので貫通孔1024からほとんど落下せず処理槽102に残存する。このようにして、幼虫204と処理物残渣202を分離し、回収槽104に幼虫204を回収することができる。また、処理槽102からは処理物残渣202を収集することができる。
【0042】
このように、本実施形態に係る幼虫回収装置100Aによれば、有機性廃棄物201によって幼虫204を飼育することができ、幼虫204は小さいうちは貫通孔1024から落下せず、成長して蛹化する前に自ら貫通孔1024から回収槽104に落下するので、蛹化する前の幼虫204と処理物残渣202とを人手をかけずに安全かつ安価に分離し回収することができる。処理槽102の底面1021に貫通孔1024が設けられていることから蛹変態期を迎えた幼虫204(3日齢幼虫)を誘導することができ、該幼虫204とっては移動距離が短くなるので、幼虫204を回収槽104に落とし込む確率は高くなり、回収効率の向上を図ることができる。また、処理槽102は、底面1021が水平であるため、培地を形成する有機性廃棄物201の厚さを均一にすることができるので、処理の不均一化を防ぐことができる。
【0043】
さらに、本実施形態に係る幼虫回収装置100Aは、幼虫204を飼育する処理槽102に斜面構造を設ける必要がなく、回収槽104を処理槽102の直下に重ねて配置することができるので、設置に必要な面積を縮小することができ、スペース効率を向上させることができる。幼虫回収装置100Aは棚などを使って多段に収納可能であるので、処理物残渣202及び幼虫204の単位面積当たりの収率を向上させることができる。
【0044】
[第2実施形態]
本実施形態は、第1実施形態に示す幼虫回収装置とは回収槽の構成が異なる態様を有する幼虫回収装置を示す。以下においては、第1実施形態と相違する部分を中心に説明し、共通する構成は適宜省略するものとする。
【0045】
図3(A)は、本実施形態に係る幼虫回収装置100Bの側面図を示し、
図3(B)はその断面図を示す。幼虫回収装置100Bは、第1実施形態と同様に処理槽102と回収槽104とが積み重ねられた構成を有する。
【0046】
図3(A)に示すように、幼虫回収装置100Bは、回収槽104に通風口1044が設けられた構造を有する。通風口1044は回収槽104の上部に配置される。通風口1044は、回収槽104と処理槽102との間に隙間が形成されるように、少なくとも1箇所、好ましくは2箇所以上設けられる。例えば、通風口1044は、空気の流入口と流出口とが形成されるように少なくなくとも2箇所設けられることが好ましい。
【0047】
通風口1044は、回収槽104の上部を切欠くことにより形成されてもよいし、回収槽104の上部に貫通する穴を設けることによって形成されてもよい。通風口1044を設けることにより、
図3(B)の断面図に模式的に示すように、回収槽104の中に空気の流れを形成することができる。別言すれば通風口1044によって、処理槽102の下側の空間に空気が流れる流路を形成することができる。このような構成によれば、処理槽102の下側の空間に空気の流れによる乾燥した状態を形成することができるので、蛹変態期を迎えた3日齢幼虫を貫通孔1024に誘導しやすくすることができ、幼虫204の回収効率を高めることができる。
【0048】
通風口1044は、
図3(C)に示すように、回収槽104と処理槽102との間に設けられるスペーサ122によって形成されてもよい。このような構成によれば、スペーサ122の高さによって通風口1044の広さを調節することができ、回収槽104と処理槽102との間の空間に流れる風量を調節することができる。
【0049】
なお、通風口1044を通る空気の流れは、自然の風によるものであってもよいが、
図3(A)乃至(C)に示すように送風機106を用いて強制的に送風が行われてもよい。送風機106を用いることで、送風量の調整が容易となり、処理槽102の下側(貫通孔1024の近傍)に形成される乾燥雰囲気の制御を能動的に行うことができる。それにより、蛹変態期を迎えた幼虫204(3日齢幼虫)の移動を積極的に促すことができる。また、通気を行う必要がないときは、通風口1044を塞ぐ封止板又は封止扉(図示されず)が設けられていてもよく、それにより有機性廃棄物201の乾燥を防ぐことができる。
【0050】
図4は、処理槽102の上方にカメラ108が設置された一例を示す。カメラ108は処理槽102の内部の状態を観察するために設けられる。蛹変態期を迎えた幼虫(3日齢幼虫)は蠕動離散習性により乾燥を求めて移動するが、このとき有機性廃棄物201(又は処理物残渣202)の表面に頭を出す習性がある。このような幼虫(3日齢幼虫)が現れると回収槽104に落とし込むことができなくなるので、処理槽102の内部状態をカメラ108で観察し、幼虫(3日齢幼虫)を回収槽104の方へ向かわせるために、送風機106により通風口1044に風を送るようにすることが好ましい。
【0051】
カメラ108と送風機106は制御部110(コンピュータ)により連動するように制御されてもよい。すなわち、カメラ108で撮影した画像を制御部110で画像処理して幼虫が表面に現れているか否か判別し、幼虫の頭が有機性廃棄物201(又は処理物残渣202)の表面に確認されたとき、送風機106が駆動するように制御されてもよい。このように、幼虫回収装置100Bにカメラ108と送風機106とを組み合わせ、制御部110で管理するシステムを構築することにより、装置の運用に伴う負担が軽減し、省力化を図ることができる。そして、有機性廃棄物201(又は処理物残渣202)の表面に現れる幼虫が意図しない方向に移動することを防ぎ、貫通孔1024の方へ誘導することができる。
【0052】
本実施形態に示す幼虫回収装置100Bによれば、回収槽104と処理槽102との間に空気の流れを形成する通風口1044を設けることで、蛹変態期を迎えた幼虫204(3日齢幼虫)を処理槽102の下側へ誘導し、回収効率を高めることができる。幼虫回収装置100Bは、通風口1044が設けられたこと以外は第1実施形態に示す幼虫回収装置100Aと同様であり、同様の作用効果を奏することができる。
【0053】
[第3実施形態]
本実施形態は、第1実施形態及び第2実施形態とは異なる構造を有する幼虫回収装置を示す。以下においては、第1実施形態及び第2実施形態と相違する部分を中心に説明し、共通する構成は適宜省略するものとする。
【0054】
図5(A)は、本実施形態に係る幼虫回収装置100Cの側面図を示し、
図5(B)はその断面図を示す。本実施形態に係る幼虫回収装置100Cは、底面1011及び底面1011を囲む壁面1012を有し、天井面が開放された処理回収槽101と、この処理回収槽101の内部に設けられた中間板120とを含む。すなわち、処理回収槽101は有底の箱形容器であり、この箱形容器の中間部分に処理回収槽101を2つの空間に分割する中間板120が設けられた構造を有する。
【0055】
中間板120には貫通孔1201が設けられる。中間板120より上の空間は処理部1020となり下側の空間は回収部1040となる。ここで、処理部1020及び回収部1040は、第1実施形態及び第2実施形態に示す処理槽102及び回収槽104に相当し同様の機能を有する。中間板120の上には有機性廃棄物201が投入され厚さが一定になるように均されて幼虫を飼育するための培地が形成される。中間板120は、培地を形成するのに適した深さ(処理回収槽101の上端からの位置)を形成するように設置される。中間板120は貫通孔1201が設けられた平坦な板であり、有機性廃棄物201を均一な厚さに広げることができる。中間板120に設けられる貫通孔1201の大きさ、形状、及び配置は第1の実施形態におけるものと同様である。また、中間板120は第1実施形態と同様に布地で形成されていてもよい。
【0056】
中間板120は着脱可能な状態で処理回収槽101に設置される。
図5(A)及び(B)は、中間板120が処理回収槽101の内側に設けられた突起部1013により支持される構造を示す。突起部1013は処理回収槽101の中で高さが異なる位置に複数設けられてもよく、それにより中間板120の高さが調整できるようにされていてもよい。なお、中間板120を支持する構造は図示される構造に限定されず、他の構造を有していてもよい。例えば、中間板120の下側に底面1011から延びる支柱が設けられ、その支柱によって中間板120が支えられる構造を有していてもよい。
【0057】
図5(A)及び(B)に示す幼虫回収装置100Cは単体の容器で構成されるが、中間板120が設けられることにより処理部1020と回収部1040に区画することができ、第1実施形態及び第2実施形態と同様に幼虫を飼育し、処理物残渣と幼虫とを分離して回収することができる。
【0058】
図5(C)は、処理回収槽101に通風口1014が設けられた幼虫回収装置100Dの構成を示す。通風口1014は処理回収槽101の壁面1012に設けられる。通風口1014は底面1011より高い位置であって中間板120が設置される位置より低い位置に設けられる。通風口1014は、回収部1040に収容された幼虫が壁面1012を登って容易に逃げ出さないようにある程度高い位置に設けられる。別言すれば、通風口1014は、中間板120に近い位置に設けられる。第2実施形態と同様に通風口1014から回収部1040の中に風を送ることで、乾燥雰囲気を形成し、蛹変態期を迎えた幼虫(3日齢幼虫)を貫通孔1201の方へ誘導することができる。
【0059】
また、図示されないが、幼虫回収装置100Dは、第2実施形態に示すように、処理部1020の内部の状態を観察するカメラと、カメラと送風機を連動させる制御部が備えられていてもよい。
【0060】
本実施形態によれば、処理槽と回収槽を一体化した構成とすることで、幼虫回収装置の構造を簡略化することができる。本実施形態に係る幼虫回収装置100C、100Dは、処理槽と回収槽とが一体化した構造を有すること以外は、第1実施形態及び第2実施形態に示す幼虫回収装置と同様であり、同様の作用効果を奏することができる。
【0061】
[第4実施形態]
本実施形態は、第1実施形態に示す幼虫回収装置とは処理槽の構成が異なる態様を有する幼虫回収装置を示す。以下においては、第1実施形態と相違する部分を中心に説明し、共通する構成は適宜省略するものとする。
【0062】
図6(A)及び(B)は、本実施形態に係る幼虫回収装置100Dの主たる構成を示す。
図6において、(A)は幼虫回収装置100Dの平面図を示し、(B)は平面図に示すC-D間に対応する断面図を示す。第1実施形態と同様に、幼虫回収装置100Dは、処理槽102と回収槽104とを含む。
【0063】
図6(A)及び(B)に示すように、幼虫回収装置100Dの処理槽102の底面は布地1023が張られた構造を有する。布地1023は処理槽102に直接張られていてもよい。また、図示されるように、布地1023は枠1025に張られて処理槽102の底部が落とし込まれ、着脱可能に設けられていてもよい。布地1023が枠1025に張られて処理槽102とは別体で設けられることで、布地1023が古くなったときに容易に取り替えることができる。なお、布地1023を形成する布地は、天然繊維でもよいし、化学繊維、金属繊維が用いられてもよい。また、布地1023の代わりに、網を用いてもよい。
【0064】
布地1023には蛹化するときに幼虫が通ることのできる貫通孔1024が設けられている。なお、布地1023において複数の繊維の隙間が貫通孔として機能する。このような構成を有することで、第1実施形態と同様に蛹変態期を迎えた幼虫を回収槽104に分離することができる。布地1023は通気性を有するため、有機性廃棄物201の水分量の管理が容易となる。例えば、有機性廃棄物201の水分量が過剰な場合には、乾燥した空気を通すことで適度に乾燥させることができる。
【0065】
本実施形態に係る幼虫回収装置100Dは、処理槽102の底部の構成が異なる他は第1実施形態におけるものと同様であり、同等の作用効果を得ることができる。本実施形態に示す布地1023が張られた処理槽102の構成は、第2実施形態に示す幼虫回収装置100B、第3実施形態に示す幼虫回収装置100Cに適宜組み合わせることができる。
【0066】
[第5実施形態]
本実施形態は、第1乃至第4実施形態に示す幼虫回収装置とは処理槽の構成が異なる態様を有する幼虫回収装置を示す。以下においては、第1乃至第4実施形態と相違する部分を中心に説明し、共通する構成は適宜省略するものとする。
【0067】
図7(A)及び(B)は、本実施形態に係る幼虫回収装置100Eの主たる構成を示す。
図7において、(A)は幼虫回収装置100Eの平面図を示し、(B)は平面図に示すE-F間に対応する断面図を示す。幼虫回収装置100Eは、処理槽103が袋状の布地で形成されている。処理槽104は、枠体1043によって支持され回収槽104の上に設置されている。枠体1043は、壁面1042の上部に設けられ、回収槽104の内側に突出するように設けられている。
【0068】
図7(C)に示すように、回収槽104の底面1041から上方に延びる支持部材1045によって処理槽103が支えられてもよい。支持部材1045を回収槽104の内部に複数箇所配置することにより、布地で形成された処理槽103を大きく撓まないように支持することができる。
【0069】
処理槽103には、有機性廃棄物201を出し入れし、袋体の中に収納後は溢れ出ないようにするために上部又は側部に相当する部分に開閉口1032が設けられる。開閉口1032は、例えば、ファスナで構成される。また、処理槽103を構成する袋状の布地は、袋の上部が巾着状に縛られて塞がれてもよい。
【0070】
処理槽103を枠体1043によって設置したとき、回収槽104に面する下側に、蛹化するときに幼虫が通ることのできる穴1034が設けられている。このような構成を有することで、第1実施形態と同様に蛹変態期を迎えた幼虫を回収槽104に分離することができる。処理槽103は布地で形成されているため通気性を有し、有機性廃棄物201の水分量の管理が容易となる。例えば、有機性廃棄物201の水分量が過剰な場合には、乾燥した空気を通すことで適度に乾燥させることができる。なお、処理槽103を形成する布地は天然繊維でもよいし化学繊維が用いられてもよい。
【0071】
本実施形態に係る幼虫回収装置100Eは、処理槽103の構成が異なる他は第1実施形態におけるものと同様であり、同等の作用効果を得ることができる。本実施形態に示す処理槽103の構成は、第2実施形態に示す幼虫回収装置100Bに適宜組み合わせることができる。
【0072】
[第6実施形態]
本実施形態は、第1実施形態に示す幼虫回収装置100Aにおいて、処理槽102が多段に重ねられて運用される態様を示す。
【0073】
図8(A)は、回収槽104の上に第1処理槽102-1及び第2処理槽102-2が重ねて配置された状態を示す。第1処理槽102-1及び第2処理槽102-2の構造は第1実施形態に示すものと同じである。幼虫回収装置100Aは、蛹化する日齢期を迎えた幼虫を有機性廃棄物201(又は処理物残渣202)から回収槽104に分離回収する装置であるため、蛹変態期を迎える幼虫(3日齢幼虫)が生存する第1処理槽102-1が回収槽104の直上に設置されていることが好ましい。一方、成長期の幼虫(1日齢期~2日齢期)を飼育する第2処理槽102-2は、回収槽104を必ずしも必要としない。そのため、幼虫の日齢期を処理槽102ごとに管理し、蛹変態期を迎える幼虫(3日齢幼虫)が生存する第1処理槽102-1を回収槽104の直上に設置し、成長期の幼虫(1日齢期~2日齢期)を飼育する第2処理槽102-2を上段に配置することが好ましい。
【0074】
図8(B)に示すように、第1処理槽102-1の幼虫204は、蛹変態期を迎えると貫通孔1024を通って外に移動しようとし、回収槽104に落下する。このようにして幼虫204と処理物残渣202とが分離された第1処理槽102-1は、処理物残渣202を回収するため回収槽104から外される。
【0075】
上段に配置された第2処理槽102-2は、第1処理槽102-1で幼虫204と処理物残渣202との分離が進む間に成長する。そして、
図8(C)に示すように、第1処理槽102-1が取り外された後、第2処理槽102-2を回収槽104の直上に設置し、その上に成長期の幼虫(1日齢期~2日齢期)を飼育する第3処理槽102-3を上段に配置する。幼虫204の成長及び蛹化は同じ飼育環境であれば一定の周期を有するため、回収槽104の上に積層された処理槽102の配置を幼虫の日齢期によって管理することで、幼虫回収装置100Aの設置に必要な床面積を節約しつつ、より多くの幼虫を回収することができる。
【0076】
幼虫回収装置100Aの処理槽102は、幼虫204の孵化後の日数を所定の日数ずつずらして多段に重ねられていてもよい。
図9(A)は、孵化後5日目の幼虫204を飼育する第1処理槽102-1、孵化後3日目の幼虫204を飼育する第2処理槽102-2、孵化後1日目の幼虫204を飼育する第3処理槽102-3が、下からこの順番で重ねられた処理槽の配置を示す。第1処理槽102-1では孵化後5日目に入っているので、幼虫204の一部で成長の早いものは蛹変態期を迎え貫通孔1024を通って回収槽104に落下する。第2処理槽102-2及び第3処理槽102-3の幼虫204は有機性廃棄物201の中で成長中であるので貫通孔1024があっても落下しない。
【0077】
図9(B)は、第1処理槽102-1の幼虫204が孵化後6日目、第2処理槽102-2の幼虫204が孵化後4日目、第3処理槽102-3の幼虫204が孵化後2日目を迎えた段階を示す。この段階では、第1処理槽102-1の幼虫204のほとんどが蛹変態期を迎え回収槽104に落下するが、第2処理槽102-2及び第3処理槽102-3の幼虫204は依然として蛹変態期に至っておらず、有機性廃棄物201の中で成長中である。
【0078】
第1処理槽102-1の幼虫が孵化後7日目を迎えたら第1処理槽102-1を取り外し、最下段(回収槽104の直上)に孵化後5日目の幼虫204を飼育する第2処理槽102-2を配置する。そして、第2処理槽102-2の上に孵化後1日目の幼虫204を飼育する第4処理槽102-4を配置し、その上に孵化後3日目を迎える幼虫204を飼育する第3処理槽102-3を配置する。第2処理槽102-2では幼虫204が孵化後5日目に入っているので、一部の幼虫204は蛹変態期を迎え貫通孔1024を通って回収槽104に落下し、第4処理槽102-4及び第3処理槽102-3では幼虫204が貫通孔1024を通って落下しない状態にある。
【0079】
図9(A)乃至(C)に示すように、各処理槽102の幼虫204の孵化後日を2日ずつずらして少なくとも3段重ね、孵化後の日数に応じて処理槽102を取り替えることで、回収槽104へ連続的に幼虫204を回収することができ、生産性の向上を図ることができる。この場合、
図10に示すように、棚124によって第1処理槽102-1、第2処理槽102-2、及び第3処理槽102-3を支持し、引き出しのように設置及び取り外しを可能とすることで、処理槽102の差し替え及び配置の変更が容易に行うことができる。なお、
図10は棚124が一段の構成を示すが、棚124は複数の処理槽102と回収槽104との組が多段に配置される構成を有していてもよい。
【0080】
表1は、上段及び下段の2段で構成される棚を用いて幼虫回収装置100Aを運用する一例を示す。表1を参照して説明する幼虫回収装置100Aは、
図9(A)乃至(C)に示すように回収槽104の上に処理槽102が3段重ねられた構成を有する。表1は、イエバエの幼虫を飼育し回収する例を示し、卵が孵化する前日を0日目、孵化した日を1日目として示す。また、表1の中に示す処理槽の表記ハイフンを挟んだ数字の表記において、ハイフンの前段は処理槽の区別、後段は卵から孵化した日数を示す。具体的に「1-1」は第1処理槽102-1において卵から孵化した幼虫の第1日目を示し、「1-2」は第1処理槽102-1において幼虫の第2日目を示すものとする。なお日数は各処理槽の幼虫毎の日数ではなく累積の日数で示す。表1に示す内容を説明すると以下の通りである。
【表1】
【0081】
第0日目において、第1処理槽102-1にイエバエの卵を培地に接種する(1-0)。表1に示す例では、イエバエの卵の培地への接種が毎日行われる。イエバエの卵は1日で孵化する。
【0082】
第1日目において、卵から孵化した第1日目の幼虫204がいる第1処理槽102-1を棚124の上段の回収槽104の直上の第1層に配置する(1-1)。また、第2処理槽102-2にイエバエの卵を培地に接種する(2-0)。
【0083】
第2日目において、第1処理槽102-1の幼虫は第2日目を迎える(1-2)。また、卵から孵化した第1日目の幼虫がいる第2処理槽102-2を棚124の下段の回収槽104の直上の第1層に配置する(2-1)。また、第2処理槽102-2にイエバエの卵を培地に接種する(3-0)。
【0084】
第3日目において、棚124の上段に、卵から孵化した第1日目の幼虫204がいる第3処理槽102-3を第1処理槽102-1の上に配置する(3-1)。第1処理槽102-1の幼虫204は第3日目を迎える。棚124の下段では、第2処理槽102-2の幼虫が第2日目を迎える(2-2)。また、第4処理槽102-4にイエバエの卵を培地に接種する(4-0)。
【0085】
第4日目において、棚124の下段に、卵から孵化した第1日目の幼虫204がいる第4処理槽102-4を第2処理槽102-2の上に配置する(4-1)。棚124の上段に配置された第1処理槽102-1の幼虫は第4日目を迎え、第3処理槽102-3の幼虫204は第2日目を迎える。また、棚124の下段に配置された第2処理槽102-2の幼虫204は第3日目を迎える(2-3)。第5処理槽102-5にイエバエの卵を培地に接種する(5-0)。
【0086】
第5日目において、棚124の上段に、卵から孵化した第1日目の幼虫204がいる第5処理槽102-5を第3処理槽102-3の上に配置する(5-1)。棚124の上段に配置された第1処理槽102-1の幼虫は第5日目を迎え、一部の幼虫204は蛹変態期を迎え回収槽104へ落下する(1-5)。また、第3処理槽102-3の幼虫204は第3日目を迎える(3-3)。棚124の下段に配置された第2処理槽102-2の幼虫204は第4日目を迎え(2-4)、第4処理槽102-4の幼虫204は第2日目を迎える(4-2)。第6処理槽102-6にイエバエの卵を培地に接種する(6-0)。
【0087】
第6日目において、棚124の下段に、卵から孵化した第1日目の幼虫204がいる第6処理槽102-6を第4処理槽102-4の上に配置する(6-1)。棚124の上段に配置された第1処理槽102-1の幼虫は第6日目となり蛹変態期を迎え回収槽104に落下する(1-6)。第3処理槽102-3の幼虫204は第4日目(3-4)、第5処理槽102-5の幼虫204は第2日目を迎える(5-2)。棚124の下段に配置された第2処理槽102-2の幼虫は第5日目を迎え、一部の幼虫204は蛹変態期を迎え回収槽104へ落下する(2-5)。また、第4処理槽102-4の幼虫204は第3日目を迎える(4-3)。棚124の外では、第7処理槽102-7にイエバエの卵を培地に接種する(7-0)。
【0088】
第7日目において、第1処理槽102-1は棚124から取り外され、処理物残渣202が回収される。第5日目を迎える幼虫204がいる第3処理槽102-3が回収槽104の直上の第1層に配置され、一部の幼虫204は蛹変態期を迎え回収槽104へ落下し(3-5)、第3処理槽102-3の上の第2層に第1日目の幼虫204がいる第7処理槽102-7が配置され(7-1)、その上の第3層に第3日目を迎える幼虫204がいる第5処理槽102-5が配置される(5-3)。棚124の下段に配置された第2処理槽102-2の幼虫は第6日目となり蛹変態期を迎え回収槽104へ落下する(2-6)。また、第4処理槽102-4の幼虫204は第4日目を迎え(4-4)、第6処理槽102-6の幼虫204は第2日目を迎える(6-2)。棚124の外では、第8処理槽102-8にイエバエの卵を培地に接種する(8-0)。
【0089】
第8日目において、第6日目を迎える幼虫204がいる第3処理槽102-3の幼虫204が蛹変態期を迎え回収槽104へ落下する(3-6)。第3処理槽102-3の上の第7処理槽102-7の幼虫204は第2日目を迎え(7-2)、その上の第3層に第4日目を迎える幼虫204がいる第5処理槽102-5が配置される(5-4)。棚124の下段に配置された第2処理槽102-2は取り外され、処理物残渣202が回収される。棚124の下段の回収槽104の直上の第1層目には、第4処理槽102-4が配置される。第4処理槽102-4の幼虫は第5日目となり、一部の幼虫204は蛹変態期を迎え回収槽104に落下する(4-5)。第4処理槽102-4の上の第2層には第1日目の幼虫204がいる第8処理槽102-8が配置され、その上の第3層に第3日目の幼虫204がいる第6処理槽102-6が配置される(6-3)。棚124の外では、第9処理槽102-9にイエバエの卵を培地に接種する(9-0)。
【0090】
第9日目において、棚124の上段の第3層に配置されていた第5処理槽102-5は第5日目となり、一部の幼虫204が蛹変態期を迎えるため回収槽104の直上の第1層に移動され(5-5)、第3層には第1日目の幼虫204がいる第9処理槽102-9が配置される(9-1)。棚124の下段では、第4処理槽102-4の幼虫204が第6日目になり蛹変態期を迎え回収槽104へ落下する(4-6)。第4処理槽102-4の上の第8処理槽102-8の幼虫204は第2日目を迎え(8-2)、その上の第3層に第4日目を迎える幼虫204がいる第6処理槽102-6が配置される(6-4)。棚124の外では、第10処理槽102-10にイエバエの卵を培地に接種する(10-0)。
【0091】
第10日目以降の同様であり、棚124の上段及び下段共に、蛹変態期を迎える処理槽102を回収槽104の直上(第1層)に配置し、その上の第2層に第1日目の幼虫204がいる処理槽102を配置することで、5日目以降は連続して幼虫204と処理物残渣202とを分離し回収することができる。なお、表1では棚124が上段及び下段の2段である場合を示すが、段数をさらに増やしても同様に運用することができる。
【0092】
以上のように、回収槽104の上に処理槽102を多段に配置することで、幼虫回収装置100Aの設置に必要な床面積を節約しつつ、幼虫204処理物残渣202を連続して分離及び回収することができる。このような構成により、幼虫及び処理物残渣の生産性の向上を図ることができる。なお、本実施形態は、第1実施形態に示す幼虫回収装置100Aを例にその運用を説明したが、同様の運用は第2実施形態に示す幼虫回収装置100Bを用いても行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
第1乃至第3実施形態に示す幼虫回収装置は、食品廃棄物、農業廃棄物などの有機性廃棄物をハエ目に属する昆虫の幼虫に摂食させ、処理物残渣を堆肥又は肥料の原料として用いることができる。また、蛹化する前に処理物残渣から分離し回収した幼虫もしくは蛹化後の蛹を、家畜、養殖魚類の飼料又はペット(愛玩動物)等の餌として、また昆虫由来の食料原料として用いることができる。
【0094】
第1乃至第3実施形態に示す幼虫回収装置は、簡易な構成であり多大な設置面積を要しないので、建屋の中に多段に配置することで多量の有機性廃棄物を処理することができ、それに伴って多量の幼虫を回収することができる。ハエ目に属する昆虫、例えばイエバエの卵期間は1日程度であり、幼虫期間は4~7日程度であるため卵の接種から幼虫の回収までの期間が短いので、卵の接種、幼虫の飼育(有機性廃棄物の処理)、処理物残渣及び幼虫の分離及び回収といった一連の工程を短期間で行うことができ、生産性を高めることができる。
【符号の説明】
【0095】
100A、100B、100C:幼虫回収装置、101:処理回収槽、1011:底面、1012:壁面、1013:突起部、1014:通風口、102:処理槽、1020:処理部、1021:底面、1022:壁面、1023:布地、1024:貫通孔、1025:枠、103:処理槽、1032:開閉口、1034:穴、104:回収槽、1040:回収部、1041:底面、1042:壁面、1043:枠体、1044:通風口、1045:支持部材、106:送風機、108:カメラ、110:制御部、112:湿度センサ、120:中間板、1201:貫通孔、122:スペーサ、124:棚、201:有機性廃棄物、202:処理物残渣、203:卵、204:幼虫