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特開2023-93220シャットオフノズルのニードル弁摩耗診断方法、射出装置、および射出成形機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093220
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】シャットオフノズルのニードル弁摩耗診断方法、射出装置、および射出成形機
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/17 20060101AFI20230627BHJP
   B29C 45/76 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
B29C45/17
B29C45/76
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208713
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100097696
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100147072
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 裕通
(72)【発明者】
【氏名】中山 清貴
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AM14
4F206AM19
4F206AM32
4F206AP11
4F206AP19
4F206JA07
4F206JL02
4F206JL09
4F206JM04
4F206JN06
4F206JP14
4F206JP22
4F206JP27
4F206JP30
4F206JQ55
4F206JQ57
4F206JQ88
(57)【要約】
【課題】交換すべきか否かを判断することができるシャットオフノズルのニードル弁摩耗診断方法を提供する。
【解決手段】対象とするシャットオフノズル(5)は、ノズル部(25)と、ニードル弁(26)と、ニードル弁駆動手段(28)と、を備えている。ノズル部(25)には内部の射出流路(34)に達するように外周面から斜めにニードル孔(36)が開けられている。ニードル弁(26)はこのニードル孔(36)に入れられている。このようなシャットオフノズル(5)を対象とし、ニードル弁(26)とニードル孔(36)の隙間についての初期隙間と、摩耗定数と、隙間の許容量である許容隙間と、から運転可能なショット数の見込みである運転可能見込み最大ショット数を予測する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出材料を流す射出流路が軸方向に形成されているノズル部と、
ニードル弁と、を備え、
前記ニードル弁は、前記ノズル部の外周面から前記射出流路に達している前記軸方向に対して斜めに開けられているニードル孔に対して隙間を介して入れられて進退して前記射出流路を開閉するようになっているシャットオフノズルにおいて、
前記シャットオフノズルに固有の使用開始前の前記隙間である初期隙間と、
前記隙間を拡大させる前記ニードル弁と前記ニードル孔の摩耗とショット数との関係を示す摩耗定数と、
前記隙間の許容量である許容隙間と、から運転可能なショット数の見込みである運転可能見込み最大ショット数を予測する、シャットオフノズルのニードル弁摩耗診断方法。
【請求項2】
前記摩耗定数は、同じ機種の他の前記シャットオフノズルについて前記初期隙間を得、ショットを規定の回数である実測ショット数だけ繰り返した後、前記隙間の実測値である実測隙間を得、前記初期隙間と前記実測隙間と前記実測ショット数とから得る、請求項1に記載のシャットオフノズルのニードル弁摩耗診断方法。
【請求項3】
前記運転可能見込み最大ショット数は、前記許容隙間から前記初期隙間を減じたものを前記摩耗定数で除して得る、請求項1または2に記載のシャットオフノズルのニードル弁摩耗診断方法。
【請求項4】
前記シャットオフノズルはカメラを備え、前記カメラによって得た前記シャットオフノズルの画像から前記ニードル孔からの射出材料漏れを検出するようにし、前記射出材料漏れを検出したとき、前記シャットオフノズルにおいてショットの回数が前記運転可能見込み最大ショット数に達する前であれば前記シャットオフノズルの清掃を促すメッセージを出力する、請求項1~3のいずれかの項に記載のシャットオフノズルのニードル弁摩耗診断方法。
【請求項5】
前記シャットオフノズルはカメラを備え、前記カメラによって得た前記シャットオフノズルの画像から前記ニードル孔からの射出材料漏れを検出するようにし、前記射出材料漏れを検出したとき、前記シャットオフノズルにおいてショットの回数が規定最小ショット回数以下であれば前記シャットオフノズルが初期不良である旨メッセージを出力する、請求項1~3のいずれかの項に記載のシャットオフノズルのニードル弁摩耗診断方法。
【請求項6】
前記画像からの前記射出材料漏れの検出は、前記画像の輝度の変化により判定する、請求項4または5に記載のシャットオフノズルのニードル弁摩耗診断方法。
【請求項7】
制御装置と、
加熱シリンダと、
前記加熱シリンダに入れられたスクリュと、
前記加熱シリンダに設けられているシャットオフノズルと、を備え、
前記シャットオフノズルは、射出材料を流す射出流路が軸方向に形成されているノズル部と、
ニードル弁と、を備え、
前記ニードル弁は、前記ノズル部の外周面から前記射出流路に達している前記軸方向に対して斜めに開けられているニードル孔に対して隙間を介して入れられて進退して前記射出流路を開閉するようになっており、
前記制御装置は前記シャットオフノズルに固有の使用開始前の前記隙間である初期隙間と、
前記隙間を拡大させる前記ニードル弁と前記ニードル孔の摩耗とショット数との関係を示す摩耗定数と、
前記隙間の許容量である許容隙間と、から運転可能なショット数の見込みである運転可能見込み最大ショット数を予測する、射出装置。
【請求項8】
前記摩耗定数は、同じ機種の他の前記シャットオフノズルについて前記初期隙間を得、ショットを規定の回数である実測ショット数だけ繰り返した後、前記隙間の実測値である実測隙間を得、前記初期隙間と前記実測隙間と前記実測ショット数とから得たものである、請求項7に記載の射出装置。
【請求項9】
前記運転可能見込み最大ショット数は、前記許容隙間から前記初期隙間を減じたものを前記摩耗定数で除して得るようにする、請求項7または8に記載の射出装置。
【請求項10】
前記射出装置は、前記シャットオフノズル近傍にカメラが設けられ、前記制御装置は前記カメラによって得た前記シャットオフノズルの画像から前記ニードル孔からの射出材料漏れを検出するようになっており、前記制御装置が前記射出材料漏れを検出したとき、前記シャットオフノズルにおいてショットの回数が前記運転可能見込み最大ショット数に達する前であれば前記シャットオフノズルの清掃を促すメッセージを出力するようになっている、請求項7~9のいずれかの項に記載の射出装置。
【請求項11】
前記射出装置は、前記シャットオフノズル近傍にカメラが設けられ、前記制御装置は前記カメラによって得た前記シャットオフノズルの画像から前記ニードル孔からの射出材料漏れを検出するようになっており、前記制御装置が前記射出材料漏れを検出したとき、前記シャットオフノズルにおいてショットの回数が規定最小ショット回数以下であれば前記シャットオフノズルが初期不良である旨メッセージを出力する、請求項7~9のいずれかの項に記載の射出装置。
【請求項12】
前記画像からの前記射出材料漏れの検出は、前記画像の輝度の変化により判定する、請求項10または11に記載の射出装置。
【請求項13】
制御装置と、
金型を型締する型締装置と、
射出材料を射出する射出装置と、を備えた射出成形機であって、
前記射出装置は、加熱シリンダと、
前記加熱シリンダに入れられたスクリュと、
前記加熱シリンダに設けられているシャットオフノズルと、を備え、
前記シャットオフノズルは、射出材料を流す射出流路が軸方向に形成されているノズル部と、
ニードル弁と、を備え、
前記ニードル弁は、前記ノズル部の外周面から前記射出流路に達している前記軸方向に対して斜めに開けられているニードル孔に対して隙間を介して入れられて進退して前記射出流路を開閉するようになっており、
前記制御装置は前記シャットオフノズルに固有の使用開始前の前記隙間である初期隙間と、
前記隙間を拡大させる前記ニードル弁と前記ニードル孔の摩耗とショット数との関係を示す摩耗定数と、
前記隙間の許容量である許容隙間と、から運転可能なショット数の見込みである運転可能見込み最大ショット数を予測する、射出成形機。
【請求項14】
前記摩耗定数は、同じ機種の他の前記シャットオフノズルについて前記初期隙間を得、ショットを規定の回数である実測ショット数だけ繰り返した後、前記隙間の実測値である実測隙間を得、前記初期隙間と前記実測隙間と前記実測ショット数とから得たものである、請求項13に記載の射出成形機。
【請求項15】
前記運転可能見込み最大ショット数は、前記許容隙間から前記初期隙間を減じたものを前記摩耗定数で除して得るようにする、請求項13または14に記載の射出成形機。
【請求項16】
前記射出成形機は、前記シャットオフノズル近傍にカメラが設けられ、前記制御装置は前記カメラによって得た前記シャットオフノズルの画像から前記ニードル孔からの射出材料漏れを検出するようになっており、前記制御装置が前記射出材料漏れを検出したとき、前記シャットオフノズルにおいてショットの回数が前記運転可能見込み最大ショット数に達する前であれば前記シャットオフノズルの清掃を促すメッセージを出力するようになっている、請求項13~15のいずれかの項に記載の射出成形機。
【請求項17】
前記射出成形機は、前記シャットオフノズル近傍にカメラが設けられ、前記制御装置は前記カメラによって得た前記シャットオフノズルの画像から前記ニードル孔からの射出材料漏れを検出するようになっており、前記制御装置が前記射出材料漏れを検出したとき、前記シャットオフノズルにおいてショットの回数が規定最小ショット回数以下であれば前記シャットオフノズルが初期不良である旨メッセージを出力する、請求項13~15のいずれかの項に記載の射出成形機。
【請求項18】
前記画像からの前記射出材料漏れの検出は、前記画像の輝度の変化により判定する、請求項16または17に記載の射出成形機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャットオフノズルのニードル弁の摩耗を診断するニードル弁摩耗診断方法、およびシャットオフノズルが設けられている射出装置、ならびにシャットオフノズルが設けられている射出成形機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形機の射出装置に設けられるシャットオフノズルは、射出ノズルの射出材料が流れる流路を開閉していわゆるハナタレを防止することができるようになっている。シャットオフノズルには色々なタイプがあるが、本発明が対象にしているタイプは、例えば特許文献1に記載されているようなタイプになる。すなわちシャットオフノズルは、ノズル部と、このノズル部に対して斜めに設けられたニードル弁とからなる。このタイプのシャットオフノズルは、ノズル部の外周面からノズル部内の射出流路に達する斜めの孔、つまりニードル孔が開けられている。このニードル孔にニードル弁が進退自在に挿入されている。ニードル弁を前進させると射出流路が閉鎖され、後退させると射出流路が開くようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3-274125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
成形サイクルを実施するとき、成形サイクル毎につまりショット毎にニードル弁を前進・後退させる。ニードル弁とニードル孔とはわずかな隙間が形成されており、この隙間からわずかずつ射出材料漏れが生じることがある。漏れ出した射出材料は徐々に成長し、やがてシャットオフノズルに巻かれているヒータに接触して煙が生じる場合もある。従来は射出材料漏れの程度、あるいは煙の発生を見て、シャットオフノズルの清掃を実施していた。ところで、ニードル弁とニードル孔は少しずつ摩耗し、これらの隙間は長期間の運転により拡大する。隙間が拡大すると、清掃してもすぐに射出材料漏れが再発してしまう。つまり清掃が無駄になり、シャットオフノズルを交換しなければならない。従来は、シャットオフノズルを交換すべきなのか清掃すべきなのか判断できない、という課題があった。
【0005】
本開示において、シャットオフノズルを交換すべきか否かを判断することができるシャットオフノズルのニードル弁摩耗診断方法を提供する。
【0006】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、ノズル部と、その外周面から内部の射出流路に達する軸方向に対して斜めに形成されているニードル孔に入れられているニードル弁と、を備えたシャットオフノズルを対象とする。ニードル弁とニードル孔の隙間についての初期隙間と、摩耗定数と、隙間の許容量である許容隙間と、から運転可能なショット数の見込みである運転可能見込み最大ショット数を予測する。
【発明の効果】
【0008】
本開示は、シャットオフノズルについて交換すべきか否かを判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施の形態に係る射出成形機を示す正面図である。
図2】本実施の形態に係るシャットオフノズルと射出装置の一部を示す正面断面図である。
図3】本実施の形態に係るシャットオフノズルの一部を示す正面断面図である。
図4】シャットオフノズルを使用して成形サイクルを実施したときの、ショット数によって、ニードル弁とニードル孔の隙間が変化する様子を示すグラフである。
図5】本実施の形態に係るシニードル弁摩耗診断方法において、事前に実施する事前処理を説明するフローチャートである。
図6】シャットオフノズルを使用して成形サイクルを実施する場合の、ショット数によって変化する、ニードル弁とニードル孔の隙間の変化を予想するグラフである。
図7】本実施の形態に係るシニードル弁摩耗診断方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、以下の実施の形態に限定される訳ではない。説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜簡略化されている。各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。また、図面が煩雑にならないように、ハッチングが省略されている部分がある。
【0011】
本実施の形態を説明する。
<射出成形機>
本実施の形態に係る射出成形機1は、図1に示されているように、トグル式の型締装置2と、射出装置3と、を備えている。本実施の形態に係る射出装置3にはシャットオフノズル5が設けられ、シャットオフノズル5の近傍にはカメラ6が設けられている。射出成形機1には制御装置4が設けられ、型締装置2、射出装置3、シャットオフノズル5、カメラ6等、は制御装置4に接続され制御装置4によって制御されるようになっている。
【0012】
<型締装置>
型締装置2は、ベッドBに固定されている固定盤7と、ベッドB上をスライド自在に設けられている可動盤8と、型締ハウジング9と、を備えている。固定盤7と型締ハウジング9は複数本のタイバー11、11、…により連結されており、可動盤8は固定盤7と型締ハウジング9の間でスライド自在になっている。型締ハウジング9と可動盤8の間には型締機構が、すなわち本実施の形態においてはトグル機構13が設けられている。固定盤7と可動盤8には、それぞれ固定側金型15、可動側金型16が設けられている。従って、トグル機構13を駆動すると金型15、16が型開閉される。
【0013】
<射出装置>
射出装置3は、加熱シリンダ19と、加熱シリンダ19内に設けられているスクリュ20と、スクリュ駆動装置22と、を備えている。加熱シリンダ19はスクリュ駆動装置22に支持されており、スクリュ20はスクリュ駆動装置22によって回転方向と軸方向とに駆動されるようになっている。加熱シリンダ19にはホッパ23と、次に説明する本実施の形態に係るシャットオフノズル5が設けられている。加熱シリンダ19を加熱して、ホッパ23から射出材料を供給してスクリュ20を回転すると、射出材料が溶融し、計量される。スクリュ駆動装置22によりスクリュ20を軸方向に駆動すると射出材料を金型15、16に射出することができる。
【0014】
<本実施の形態に係るシャットオフノズル>
本実施の形態に係るシャットオフノズル5は、図2に示されているように、ノズル部25と、ニードル弁26と、ニードル弁26を駆動するニードル弁駆動手段28と、ニードル弁駆動手段28を支持する支持構造30と、を備えている。ノズル部25は加熱シリンダ19に対して、アダプタ32を介して設けられている。
【0015】
ノズル部25には、内部に射出材料が流れる流路すなわち射出流路34が形成されている。射出流路34はノズル部25の軸心に形成されている。本明細書において軸方向とは、ノズル部25の軸の方向を意味するものとする。つまり射出流路34はノズル部25の内部に軸方向に形成されている。ノズル部25には、その外周面から射出流路34に達する孔、つまりニードル孔36も形成されている。ニードル孔36は軸方向に対して斜めに開けられている。このニードル孔36にニードル弁26が進退自在に挿入されている。
【0016】
本実施の形態において、ニードル弁26は軸径が大きい大径軸部38と、大径軸部38の先端に設けられている軸径が小さい小径軸部39と、小径軸部39の先端に形成されている半球状の頭部40とから形成されている。ニードル孔36には頭部40を先頭にして小径軸部39の一部が摺動的に入れられている。ニードル弁26を駆動するニードル弁駆動手段28はピストンシリンダユニットからなり支持構造30によって支持されている。制御装置4(図1参照)からの指令によりニードル弁駆動手段28を駆動するとニードル弁26が前進・後退して、頭部40が射出流路34を閉鎖・開放するようになっている。
【0017】
このように構成されているシャットオフノズル5の近傍には、前記したようにカメラ6が設けられている。より詳しく説明すると、カメラ6はノズル部25のニードル孔36の出口近傍とニードル弁26の小径軸部39とを撮影するようになっている。
【0018】
ニードル孔36の内径は、ニードル弁26の小径軸部39の軸径よりわずかに大きい。すなわちニードル弁26の小径軸部39とニードル孔36とには、わずかに隙間が形成されている。従って、ニードル弁26は滑らかに駆動することができる。隙間はわずかであるので、射出流路34内の射出材料がこの隙間から外部に漏れる量はほとんどない。しかしながら、長期間成形サイクルを実施すると、図3に示されているように射出材料が漏れてノズル部25の外周面に付着する。すなわち射出材料漏れ44が形成される。あるいは、ニードル孔36とニードル弁26の小径軸部39の摩耗により隙間が拡大すると、比較的早期に射出材料漏れ44が形成される。
【0019】
カメラ6はこのような射出材料漏れ44を検出するようになっている。より具体的に説明すると、制御装置4(図1)はカメラ6において撮影された画像を検査する。そして正常だったときの画像と新たに撮影された画像を比較して輝度が変化している部分を探す。変化している部分があり、その大きさが規定の大きさ以上になっていれば、射出材料漏れ44が発生していると判断する。
【0020】
<本実施の形態に係るニードル弁摩耗診断方法>
本実施の形態に係るシャットオフノズル5において成形サイクルを繰り返すと、ニードル孔36とニードル弁26の小径軸部39との隙間が摩耗により徐々に拡大していく。本実施の形態に係るニードル弁摩耗診断方法は、この隙間が成形サイクルのショット数によってどのように拡大するのかを予測するようになっている。従って、シャットオフノズル5に射出材料漏れが生じているとき、シャットオフノズル5を清掃すれば回復することができるのか、あるいは交換しなければいけないのか、について判断できるようになっている。以下、本実施の形態に係るニードル弁摩耗診断方法について説明する。
【0021】
<摩耗定数>
本実施の形態に係るニードル弁摩耗診断方法は、制御装置4において実施される。制御装置4には、予め摩耗定数を設定しておく必要がある。摩耗定数は、ニードル孔36とニードル弁26の小径軸部39の隙間を拡大させる摩耗とショット数との関係を示す定数である。摩耗定数はシャットオフノズル5の機種に対して固定の定数になっており、次のように実験で決定することができる。まず、新品で実験用のシャットオフノズル5について、ニードル孔36の内径とニードル弁26の小径軸部39の軸径とを測定する。そしてこれらの差つまり隙間を得、初期隙間とする。初期隙間は、同じ機種のシャットオフノズル5であっても製造のばらつきにより製品毎にわずかに異なる。例えば、初期隙間として0.005mmを得る。
【0022】
次いでこの実験用のシャットオフノズル5を射出装置3(図2参照)に取り付けて、ショットを繰り返し、ニードル弁26を前進・後進させる。所定の回数、例えば10000回ショットを繰り返す。これを実測ショット数とする。シャットオフノズル5を射出装置3から取り外し、再びニードル孔36の内径とニードル弁26の小径軸部39の軸径とを測定し、これらの差を得、実測隙間とする。図4には、初期隙間、実測隙間、実測ショット数が示され、隙間51がショット数の増加に対して増加している様子が示されている。隙間51は単調増加するが、必ずしも一定の割合で増加するとは限らない。しかしながら、一定の割合で増加するものと仮定して傾きを得、これを摩擦定数とする。次の式で得ることができる。
摩擦定数=(実測隙間-初期隙間)/実測ショット数
得られた摩擦定数を制御装置4(図1参照)に設定する。
【0023】
<許容隙間>
制御装置4には許容隙間についても設定する必要がある。許容隙間は、ニードル孔36(図2参照)とニードル弁26の小径軸部39の隙間において許容できる隙間のことである。隙間が許容隙間以上になったら、摩耗が進行したと判断してシャットオフノズル5を交換することになる。許容隙間として、例えば0.03mmを選定することができる。許容隙間を制御装置4に設定する。
【0024】
<準備処理>
新しいシャットオフノズル5を射出装置3(図2参照)に取り付けるとき、最初に準備処理を実施する。最初に図5においてステップS01として示されているように、制御装置4において記憶されているショット数のカウンターをゼロにリセットする。ショット数のカウンターは、当該シャットオフノズル5についての累計のショット数のことであり、ショットをするたびに増加する。次いで、シャットオフノズル5についてニードル孔36の内径とニードル弁26の小径軸部39の軸径とを測定し、これの差をとって初期隙間を得る。前記したように初期隙間はシャットオフノズル5の製品毎に異なる固有の値である。当該シャットオフノズル5に関する初期隙間を制御装置4に設定する(ステップS02)。
【0025】
カウンターをリセットし、初期隙間が設定されると、制御装置4は当該シャットオフノズル5について、運転可能見込み最大ショット数を計算する。運転可能見込み最大ショット数とは、そのシャットオフノズル5によって運転可能な最大ショット数の見込みである。詳しく説明すると、図6に示されているように、所定の初期隙間のシャットオフノズル5を使用してショットを繰り返したとき、ニードル孔36の内径とニードル弁26の小径軸部39の隙間は、グラフ54のように増加することが予想される。このように増加する隙間が許容隙間に達すると予想されるショット数が、運転可能見込み最大ショット数である。このショット数に基づいてシャットオフノズル5の交換を検討することになる。
【0026】
制御装置4は、運転可能見込み最大ショット数を次の式によって計算する。
運転可能見込み最大ショット数=(許容隙間-初期隙間)/摩耗定数
計算された運転可能見込み最大ショット数は、制御装置4に格納される(ステップS04)。このとき制御装置4は運転可能見込み最大ショット数を付属する表示装置に表示してもよい。準備処理を完了する。
【0027】
<成形サイクルにおける処理>
シャットオフノズル5を使用して成形サイクルを実行する。成形サイクルを実行するとき、制御装置4(図1参照)は図7に示されているように、まずショット数のカウンターを更新する(ステップS11)。すなわちカウンターについて1を加算する。成形サイクルが完了したら、カメラ6(図2参照)においてシャットオフノズル5を撮影し、制御装置4において画像ファイルを処理して射出材料漏れ44が発生しているか否かをチェックする(ステップS12)。漏れがなければ、次の成形サイクルを実行し、ステップS11に戻る。一方、射出材料漏れ44が発生していれば、ステップS13に進む。
【0028】
制御装置4は、現在のショット数のカウンターを規定最小ショット回数と比較する(ステップS14)。規定最小ショット回数とは、シャットオフノズル5の初期不良を判定するためのショット回数であり、例えば30回等が設定されている。もしショット数のカウンターが規定最小ショット回数未満であれば、初期不良であると判断する。この場合、制御装置4はステップS14に移行し、射出成形機1(図1参照)を停止する。次いで制御装置4に付属しているモニタに、シャットオフノズル5の交換を促すメッセージを出力する。一方、ショット数のカウンターが規定最小ショット回数以上であれば次のステップS15に進む。
【0029】
制御装置4は、現在のショット数のカウンターを、準備処理で計算・設定した運転可能見込み最大ショット数と比較する(ステップS15)。もし、現在のショット数のカウンターが運転可能見込み最大ショット数以上であれば、ステップS14に移行する。すなわち、制御装置4はシャットオフノズル5が寿命に達したと判断し、射出成形機1(図1参照)を停止する。次いで制御装置4に付属しているモニタに、シャットオフノズル5の交換を促すメッセージを出力する。一方、現在のショット数のカウンターが運転可能見込み最大ショット数未満であれば、ステップS16を実行する。すなわち、射出成形機1(図1参照)を停止し、制御装置4に付属しているモニタに、シャットオフノズル5の清掃を促すメッセージを出力する。オペレータはシャットオフノズル5を清掃する。清掃完了後、ステップS17で示されているように運転を再開する。成形サイクルを繰り返す。
【0030】
ところで、運転可能見込み最大ショット数は、前記したようにニードル孔36(図2参照)とニードル弁26の小径軸部39の隙間が許容隙間に達すると予想されるショット数である。そうすると、実際のショット数がこの運転可能見込み最大ショット数に達しても、隙間が許容隙間に達しないこともある。あるいは達したとしても、射出材料漏れ44(図2参照)が発生しない場合もある。あるいは、その反対に運転可能見込み最大ショット数に達する前に隙間が許容隙間を超えてしまい射出材料漏れ44が発生する場合もある。図6には、シャットオフノズル5を交換すべきショット数の範囲が符号56で示されているが、運転可能見込み最大ショット数を含めて、前後にある程度の幅がある。上で説明した本実施の形態に係るニードル弁摩耗診断方法は、シャットオフノズル5の交換を促すが、実際に交換するか否かは摩耗状態を確認して適宜オペレータが判断することもできる。
【0031】
<本実施の形態の変形例>
本実施の形態は色々な変形が可能である。例えば、本実施の形態に係るニードル弁摩耗診断方法において、毎回の成形サイクルにおいてカメラ6によって撮影し制御装置4で射出材料漏れ44を検出するように説明した。しかしながら所定の回数の成形サイクルが完了するたびに撮影するようにしてもよい。さらには、カメラ6を使わない方法もある。カメラ6を使用しない場合には、制御装置4はショット数のカウンターを監視して運転可能見込み最大ショット数に達したときに交換を要するメッセージを出力することができる。あるいは運転可能見込み最大ショット数より規定回数だけ少ないショット数に達したときにメッセージを出力してもよい。
【0032】
本実施の形態において摩擦定数は実験により得るように説明した。しかしながら摩擦係数については過去の運転の実績から得てもよい。例えば、実際にシャットオフノズル5を運転した結果、所定のショット数に達したときに摩耗により寿命に達したと判断して交換した例があったとする。そのときのショット数と、ニードル孔36(図2参照)とニードル弁26の小径軸部39の交換時における隙間と、初期隙間とから摩耗定数を得ることができる。なお、交換時における隙間については実測してもよいし、一般的に漏れが発生すると考えられている0.03mmを採用してもよい。また初期隙間について、そのシャットオフノズル5において予め実測していなければ、シャットオフノズル5の機種において平均的な数値を採用することができる。
【0033】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は既に述べた実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることはいうまでもない。以上で説明した複数の例は、適宜組み合わせて実施されることもできる。
【符号の説明】
【0034】
1 射出成形機 2 型締装置
3 射出装置 4 制御装置
5 シャットオフノズル 6 カメラ
7 固定盤 8 可動盤
9 型締ハウジング 11 タイバー
13 トグル機構 15 固定側金型
16 可動側金型 19 加熱シリンダ
20 スクリュ 22 スクリュ駆動装置
23 ホッパ 25 ノズル部
26 ニードル弁 28 ニードル弁駆動手段
30 支持構造 32 アダプタ
34 射出流路 36 ニードル孔
38 大径軸部 39 小径軸部
40 頭部
B ベッド

図1
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図3
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図5
図6
図7