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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093231
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】電界効果型トランジスタ装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/338 20060101AFI20230627BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20230627BHJP
   H01L 29/41 20060101ALI20230627BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20230627BHJP
   H01L 29/423 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
H01L29/80 E
H01L29/80 H
H01L29/78 301B
H01L29/44 P
H01L21/28 301B
H01L29/58 G
H01L29/44 S
H01L29/44 L
H01L29/78 301G
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208736
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】516008235
【氏名又は名称】高谷 信一郎
(71)【出願人】
【識別番号】516008224
【氏名又は名称】白田 理一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100067448
【弁理士】
【氏名又は名称】下坂 スミ子
(74)【代理人】
【識別番号】100213746
【弁理士】
【氏名又は名称】川成 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100221752
【弁理士】
【氏名又は名称】古川 雅与
(72)【発明者】
【氏名】高谷 信一郎
(72)【発明者】
【氏名】白田 理一郎
【テーマコード(参考)】
4M104
5F102
5F140
【Fターム(参考)】
4M104AA04
4M104AA07
4M104CC05
4M104FF06
4M104FF11
4M104FF32
4M104GG09
5F102GA16
5F102GB01
5F102GC01
5F102GD10
5F102GJ02
5F102GJ03
5F102GJ04
5F102GJ10
5F102GL04
5F102GM04
5F102GQ01
5F102GS03
5F102GS07
5F102GV05
5F140BA06
5F140BB06
5F140BB18
5F140BD01
5F140BD05
5F140BD09
5F140BD11
5F140BF01
5F140BF04
5F140BF05
5F140BF11
5F140BF15
(57)【要約】
【課題】閾値電圧の変動の少ない、或いは動作に必要な電極数の少ないノーマリオフ電界効果型トランジスタ装置を提供する。
【解決手段】半導体上に順次積層される第1の絶縁膜105、電荷蓄積用ゲート電極306、第2の絶縁膜111、ゲート電極112からなるゲート電極構造と、電荷蓄積用ゲート電極306とソース電極308との間の容量結合により形成される第1の容量とを有し、前記第1の容量を流れる第1の電流により電荷蓄積用ゲート電極306に電荷が蓄積され、ソース電極308と電荷蓄積用ゲート電極306との間に第3の絶縁膜315と第1の半導体層316からなる積層膜を有し、前記第1の電流の少なくとも一部は前記積層膜を通して流れる。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体と、前記半導体内或いはその表面に設けられた導電チャネルと、前記導電チャネルに近接して設けられた第1の絶縁膜と、少なくともその一部が前記第1の絶縁膜の前記導電チャネルとは反対側に設けられた電荷蓄積用ゲート電極と、前記電荷蓄積用ゲート電極の前記第1の絶縁膜とは反対側に設けられた第2の絶縁膜と、少なくともその一部が前記第2の絶縁膜の前記電荷蓄積用ゲート電極とは反対側に設けられたゲート電極と、前記電荷蓄積用ゲート電極を挟んで前記半導体上に設けられ前記導電チャネルと電気的に接続するソース電極及びドレイン電極と、前記電荷蓄積用ゲート電極との容量結合により第1の容量を形成する電荷注入用電極と、前記電荷注入用電極と前記電荷蓄積用ゲート電極との間に設けられ第3の絶縁膜と第1の半導体層からなる積層膜とを有し、前記第1の容量を流れる第1の電流により前記電荷蓄積用ゲート電極に電荷が蓄積され、且つ前記第1の電流の少なくとも一部は前記積層膜を通して流れることを特徴とする電界効果型トランジスタ装置。
【請求項2】
前記半導体が窒化物半導体であることを特徴とする請求項1に記載の電界効果型トランジスタ装置。
【請求項3】
前記第3の絶縁膜は前記電荷蓄積用ゲート電極の側に設けられ、前記第1の半導体層は前記電荷注入用電極の側に設けられ、且つ前記第1の半導体層はn型不純物を含有することを特徴とする請求項1乃至2に記載の電界効果型トランジスタ装置。
【請求項4】
前記第3の絶縁膜は前記電荷注入用電極の側に設けられ、前記第1の半導体層は前記電荷蓄積用ゲート電極の側に設けられ、且つ前記第1の半導体層はp型不純物を含有することを特徴とする請求項1乃至2に記載の電界効果型トランジスタ装置。
【請求項5】
半導体と、前記半導体内或いはその表面に設けられた導電チャネルと、前記導電チャネルに近接して設けられた第1の絶縁膜と、少なくともその一部が前記第1の絶縁膜の前記導電チャネルとは反対側に設けられた電荷蓄積用ゲート電極と、前記電荷蓄積用ゲート電極の前記第1の絶縁膜とは反対側に設けられた第2の絶縁膜と、少なくともその一部が前記第2の絶縁膜の前記電荷蓄積用ゲート電極とは反対側に設けられたゲート電極と、前記電荷蓄積用ゲート電極を挟んで前記半導体上に設けられ前記導電チャネルと電気的に接続するソース電極及びドレイン電極とを有し、前記ソース電極もしくは前記ドレイン電極は前記電荷蓄積用ゲート電極との間の容量結合により第1の容量を形成し、且つ前記第1の容量を流れる第1の電流により前記電荷蓄積用ゲート電極に電荷が蓄積されることを特徴とする電界効果型トランジスタ装置。
【請求項6】
前記半導体が窒化物半導体であることを特徴とする請求項5に記載の電界効果型トランジスタ装置。
【請求項7】
前記第1の容量を形成する前記ソース電極もしくは前記ドレイン電極と前記電荷蓄積用ゲート電極との間に設けられ第3の絶縁膜と第1の半導体層からなる積層膜を有し、前記第1の電流の少なくとも一部は前記積層膜を通して流れることを特徴とする請求項5乃至6に記載の電界効果型トランジスタ装置。
【請求項8】
前記第3の絶縁膜は前記電荷蓄積用ゲート電極の側に設けられ、前記第1の半導体層は前記第1の容量を形成する前記ソース電極もしくは前記ドレイン電極の側に設けられ、且つ前記第1の半導体層はn型不純物を含有することを特徴とする請求項7に記載の電界効果型トランジスタ装置。
【請求項9】
前記第3の絶縁膜は前記第1の容量を形成する前記ソース電極もしくはドレイン電極の側に設けられ、前記第1の半導体層は前記電荷蓄積用ゲート電極の側に設けられ、且つ前記第1の半導体層はp型不純物を含有することを特徴とする請求項7に記載の電界効果型トランジスタ装置。
【請求項10】
半導体と、前記半導体内或いはその表面に設けられた導電チャネルと、前記導電チャネルに近接して設けられた第1の絶縁膜と、少なくともその一部が前記第1の絶縁膜の前記導電チャネルとは反対側に設けられた電荷蓄積用ゲート電極と、前記電荷蓄積用ゲート電極の前記第1の絶縁膜とは反対側に設けられた第2の絶縁膜と、少なくともその一部が前記第2の絶縁膜の前記電荷蓄積用ゲート電極とは反対側に設けられたゲート電極と、前記電荷蓄積用ゲート電極を挟んで前記半導体上に設けられ前記導電チャネルと電気的に接続するソース電極及びドレイン電極とを有し、前記電荷蓄積用ゲート電極は分離された複数の電極からなることを特徴とする電界効果型トランジスタ装置。
【請求項11】
前記半導体が窒化物半導体であることを特徴とする請求項10に記載の電界効果型トランジスタ装置。
【請求項12】
前記電荷蓄積用ゲート電極の前記複数の電極はいずれも前記導電チャネルの電流方向に交差するように配置されたことを特徴とする請求項10乃至11に記載の電界効果型トランジスタ装置。
【請求項13】
前記電荷蓄積用ゲート電極の前記複数の電極はいずれも前記導電チャネルの電流方向に沿うように配置されたことを特徴とする請求項10乃至11に記載の電界効果型トランジスタ装置。
【請求項14】
前記電荷蓄積用ゲート電極との容量結合により第1の容量を形成する電荷注入用電極を有し、前記第1の容量を流れる第1の電流により前記電荷蓄積用ゲート電極に電荷が蓄積されることを特徴とする請求項10乃至11に記載の電界効果型トランジスタ装置。
【請求項15】
前記電荷注入用電極と前記電荷蓄積用ゲート電極との間に設けられ第3の絶縁膜と第1の半導体層からなる積層膜を有し、前記第1の電流の少なくとも一部は前記積層膜を通して流れることを特徴とする請求項14に記載の電界効果型トランジスタ装置。
【請求項16】
前記第3の絶縁膜は前記電荷蓄積用ゲート電極の側に設けられ、前記第1の半導体層は前記電荷注入用電極の側に設けられ、且つ前記第1の半導体層はn型不純物を含有することを特徴とする請求項15に記載の電界効果型トランジスタ装置。
【請求項17】
前記第3の絶縁膜は前記電荷注入用電極の側に設けられ、前記第1の半導体層は前記電荷蓄積用ゲート電極の側に設けられ、且つ前記第1の半導体層はp型不純物を含有することを特徴とする請求項15に記載の電界効果型トランジスタ装置。
【請求項18】
前記ソース電極もしくは前記ドレイン電極は前記電荷蓄積用ゲート電極との容量結合で第1の容量を形成し、且つ前記第1の容量を流れる第1の電流により前記電荷蓄積用ゲート電極に電荷が蓄積されることを特徴とする請求項10乃至11に記載の電界効果型トランジスタ装置。
【請求項19】
前記第1の容量を形成する前記ソース電極もしくは前記ドレイン電極と前記電荷蓄積用ゲート電極との間に設けられ第3の絶縁膜と第1の半導体層からなる積層膜を有し、前記第1の電流の少なくとも一部は前記積層膜を通して流れることを特徴とする請求項18に記載の電界効果型トランジスタ装置。
【請求項20】
前記第3の絶縁膜は前記電荷蓄積用ゲート電極の側に設けられ、前記第1の半導体層は前記第1の容量を形成する前記ソース電極もしくはドレイン電極の側に設けられ、且つ前記第1の半導体層はn型不純物を含有することを特徴とする請求項19に記載の電界効果型トランジスタ装置。
【請求項21】
前記第3の絶縁膜は前記第1の容量を形成する前記ソース電極もしくは前記ドレイン電極の側に設けられ、前記第1の半導体層は電荷蓄積用ゲート電極の側に設けられ、且つ前記第1の半導体層はp型不純物を含有することを特徴とする請求項19に記載の電界効果型トランジスタ装置。







【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体トランジスタ装置に係り、特に電界効果型トランジスタにおいて、ゲート電極への電圧印加のない状態でゲート電極下の導電チャネルが実質的にオフ状態となる所謂ノーマリオフを実現する電界効果型トランジスタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
広いバンドギャップを有する半導体は高電圧で動作させる電子デバイスに有用である。なかでもGaN、AlN、InN、ScN等の窒化物やこれらの混晶からなる窒化物半導体は、バンドギャップが広いのみならず伝導電子の移動度が高いため、高電圧高出力電子デバイスに好適である。特に、窒化物半導体を用いて作成した電界効果型トランジスタ(FET、Field Effect Transistor)、またその一形態であるAlGaN/GaN等の半導体ヘテロ接合界面に誘起される伝導電子を導電チャネルに用いる電子移動度トランジスタ(HEMT、High Electron Mobility Transistor)は高電圧、大電流、低オン抵抗による動作が可能であり、電力用スイッチや高周波電力増幅器用トランジスタとして用いられている。
【0003】
しかしながら、通常の窒化物半導体FETはいわゆるノーマリオン型であり、ゲート電極への電圧印加がない状態でゲート電極下の導電チャネルがオン状態となる。すなわちソース電極とドレイン電極との間を流れる電流が遮断されるゲート電圧、いわゆる閾値電圧が負の値である。例えば窒化物半導体FETを電力用スイッチとして電源装置等に用いる場合、誤動作などによりゲート電極に印加される制御電圧が失われた際にスイッチが開となってしまう。これは装置全体の破壊に繋がる恐れがあり、安全性等の観点から好ましくない。
【0004】
このため窒化物半導体FETをノーマリオフ化する技術、すなわち閾値電圧を正の値にする技術が開発されている。その一つとして、ゲート電極と導電チャネルとの間に電荷蓄積用の浮遊ゲート電極を設ける方法が知られている(特許文献1参照)。図10に従来技術による窒化物半導体HEMTの構造を示す。基板1001上にバッファ層1002、GaN層1003、AlGaN層1004が順次堆積され、GaN層1003とAlGaN層1004との界面のGaN層1003側に導電チャネル1010が形成される。さらにAlGaN層1004上に第1の絶縁膜1005を挟んで電荷蓄積用ゲート電極1006が形成され、さらにその上に第2の絶縁膜1011を挟んでゲート電極1012が形成される。また、電荷蓄積用ゲート電極1006を水平方向に挟んでソース電極1008,ドレイン電極1009が形成される。ソース電極1008,ドレイン電極1009はいずれも素子分離領域1014で囲まれた領域内で導電チャネル1010に電気的に接続される。ゲート電極1012が第2の絶縁膜1011を容量膜として電荷蓄積用ゲート電極1006との間に形成する容量を第2の容量と呼ぶ。さらに電荷蓄積用ゲート電極1006が第1の絶縁膜1005を容量膜として導電チャネル1010のゲート電極下部に存在するゲート電極部導電キャリア1013との間で形成する容量を第3の容量と呼ぶ。ゲート電極1012に印加される電圧は直列に接続された前記第2の容量と前記第3の容量を介してゲート電極部導電キャリア1013と容量的に結合し、そのキャリア数を変化させることができる。これによりソース電極1008とドレイン電極1009との間を流れる電流を調節することができ、FETとしての動作が得られる。本従来例では、さらに電荷注入用電極1007が設けられ、第3の絶縁膜1015を介して電荷蓄積用ゲート電極1006との間に第1の容量が形成される。図11A図10に示した窒化物半導体HEMTの一部を模式的に表した図である。また図11Bから図11Fまでの図は、図11Aに示す記号、ゲート電極1012の内部A、電荷蓄積用ゲート電極1006の内部B、GaN層1003の内部C、電荷注入用電極1007の内部Dをそれぞれ繋ぐ断面に沿った伝導帯下端(Ec)および価電子帯上端(Ev)のエネルギーを示す図である。A(1012),B(1006)、D(1007)はそれぞれの個所における金属のフェルミ準位を示す。図11Bは外部からの印加電圧がない状態における図である。AlGaN層1004は分極ため伝導体下端および価電子帯上端のエネルギーが傾斜し、その結果GaN層1003の伝導帯下端のエネルギーはAlGaN層1004との界面においてフェルミ準位1104より低くなり、ゲート電極部導電キャリア1013が発生する。つまりFETはノーマリオンである。ここで、前記第1の容量が前記第2の容量に比べ十分小さくなるようにそれぞれの電極面積や第2の絶縁膜1011,第3の絶縁膜1015の誘電率や厚さを選ぶ。この場合、図11Cにおいて矢印で示す正電圧1101が電荷注入用電極1007を基準にしてゲート電極1012に印加されると、前記第2の容量によるゲート電極1012との強い容量結合のため電荷蓄積用ゲート電極1006の電位も上昇し、電荷蓄積用ゲート電極1006内の伝導電子のポテンシャルエネルギーが低下する。すると電荷蓄積用ゲート電極1006と電荷注入用電極1007との間の電位差が大きくなり第3の絶縁膜1015に高電界が印加され、図11C中に矢印で示す伝導電子のトンネル電流1102が前記第1の容量に流れる。その結果電界蓄積用ゲート電極1006に負電荷1103が蓄積される。なお第3の絶縁膜1015の種類によっては伝導ホールが電荷蓄積用ゲート電極1006から第3の絶縁膜1015をトンネルし前記第1の容量を流れる電流となる場合もある。この場合も同様に負電荷が電荷蓄積用ゲート電極1006に蓄積される。以下本願明細書では伝導電子がトンネルする場合についてのみ説明する。図11Dは、負電荷1103を蓄積した後に正電圧1101の印加をやめた状態での伝導帯下端および価電子帯上端のエネルギーを示す図である。負電荷1103のため電荷蓄積用ゲート電極1006内の伝導電子のポテンシャルエネルギーが上昇し、これに伴いAlGaN層1004およびGaN層1003の伝導帯下端および価電子帯上端のエネルギーが引き上げられるため、GaNs層1003の伝導帯下端のエネルギーがフェルミ準位1104より高くなり、ゲート電極部導電キャリア1013が消失する。即ち窒化物半導体HEMTはノーマリオフ化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-092193
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする第一の課題を説明する。図10に示す窒化物半導体FETにおいて、電荷注入用電極1007も他の電極と同様に外部端子に接続され、常に外部回路に接続される場合を想定する。電荷注入用電極1007に接続する外部端子の電位を完全に絶縁することは難しく、通常接地電位への漏洩電路が残存する。図11Eは電荷注入用電極1007及びゲート電極1012の電位が共にゼロの場合である。電荷蓄積用ゲート電極1006にはFETをノーマリオフにするために負電荷1103が蓄積されているため、電荷蓄積用ゲート電極1006と電荷注入用電極1007との間に電位差が生じ、第3の絶縁膜1015中の伝導帯下端および価電子帯上端のエネルギーが傾斜し、電荷注入の際とは逆方向の電界が第3の絶縁膜1015内に生じる。すなわち前記第1の容量の電極間に負電荷蓄積時とは逆符号の電位差が生じる。さらに、例えばFETを電力用スイッチとして用いる際、オンオフ動作中にFETやスイッチ駆動回路の様々なリアクタンス成分により動的な電圧変動が生じ、図11Fにおいて矢印で示す負電圧1104が電荷注入用電極1007を基準にゲート電極1012に印加されることがある。その場合前記第2の容量による強い容量結合で電荷蓄積用ゲート電極1006の電位がさらに低下し、電荷蓄積用ゲート電極1006と電荷注入用電極1007との間の電位差が大きくなる。その結果第3の絶縁膜1015中の強電界によりトンネル電流1105が発生し、蓄積した負電荷1103が電荷注入用電極1007に逆流してしまう。その結果閾値電圧が負の方向に戻り、ノーマリオフ動作に必要な正の閾値電圧を保持する時間が短くなる。本発明の第一の目的は上記第一の課題を解決する新たな電界効果型トランジスタ装置を提供することにある。
【0007】
次に本発明が解決しようとする第二の課題を説明する。通常FETは三端子素子であり、ソース電極、ドレイン電極、ゲート電極の合計三つの電極で動作するが、上記従来例では電荷注入用電極1007が加えられ、電極は合計4つである。このため、外部端子から電圧を供給する場合4つの端子が必要となり、FETを動作させるための外部回路が複雑になる。またFET製造工程が複雑になり、さらにFETの基板上で占める面積が大きくなる。本発明の第二の目的は上記第二の課題を解決するあらたな電界効果型トランジスタ装置を提供することにある。
【0008】
次に本発明が解決しようとする第三の課題を説明する。図10に示す従来例では、電荷蓄積用ゲート電極1006を挟む第1の絶縁膜1005や第2の絶縁膜1011、或いは第3の絶縁膜1015に局所的な欠陥が存在すると、欠陥を通して電荷蓄積用ゲート電極1006に蓄積した負電荷が流出してしまう危険性がある。さらに、電荷蓄積用ゲート電極1006の一部に局所的な電界集中が発生すると、その部分でトンネリングが起こり電荷蓄積用ゲート電極1006に蓄積した負電荷が流出してしまう危険性もある。このためノーマリオフFETとしての寿命が短くなる。また動作中に蓄積電荷の漏洩が起こり瞬時にノーマリオンに変化した場合、装置の破損を引き起こす危険もある。本発明の第三の目的は上記第三の課題を解決するあらたな電界効果型トランジスタ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の目的を達成するための本願第一の発明による電界効果型トランジスタ装置は、半導体と、前記半導体内或いはその表面に設けられた導電チャネルと、前記導電チャネルに近接して設けられた第1の絶縁膜と、少なくともその一部が前記第1の絶縁膜の前記導電チャネルとは反対側に設けられた電荷蓄積用ゲート電極と、前記電荷蓄積用ゲート電極の前記第1の絶縁膜とは反対側に設けられた第2の絶縁膜と、少なくともその一部が前記第2の絶縁膜の前記電荷蓄積用ゲート電極とは反対側に設けられたゲート電極と、前記電荷蓄積用ゲート電極を挟んで前記半導体上に設けられ前記導電チャネルと電気的に接続するソース電極及びドレイン電極と、前記電荷蓄積用ゲート電極との容量結合により第1の容量を形成する電荷注入用電極と、前記電荷注入用電極と前記電荷蓄積用ゲート電極との間に設けられ第3の絶縁膜と第1の半導体層からなる積層膜とを有し、前記第1の容量を流れる第1の電流により前記電荷蓄積用ゲート電極に電荷が蓄積され、前記第1の電流の少なくとも一部は前記積層膜を通して流れる。
【0010】
本願第一の発明の好ましい一形態において、前記第3の絶縁膜は前記電荷蓄積用ゲート電極の側に設けられ、前記第1の半導体層は前記電荷注入用電極の側に設けられ、且つ前記第1の半導体層はn型不純物を含有する。
【0011】
本願第一の発明の好ましい一形態において、前記第3の絶縁膜は前記電荷注入用電極の側に設けられ、前記第1の半導体層は前記電荷蓄積用ゲート電極の側に設けられ、且つ前記第1の半導体層はp型不純物を含有する。
【0012】
本発明の第二の目的を達成するための本願第二の発明による電界効果型トランジスタ装置は、半導体と、前記半導体内或いはその表面に設けられた導電チャネルと、前記導電チャネルに近接して設けられた第1の絶縁膜と、少なくともその一部が前記第1の絶縁膜の前記導電チャネルとは反対側に設けられた電荷蓄積用ゲート電極と、前記電荷蓄積用ゲート電極の前記第1の絶縁膜とは反対側に設けられた第2の絶縁膜と、少なくともその一部が前記第2の絶縁膜の前記電荷蓄積用ゲート電極とは反対側に設けられたゲート電極と、前記電荷蓄積用ゲート電極を挟んで前記半導体上に設けられ前記導電チャネルと電気的に接続するソース電極及びドレイン電極とを有し、前記ソース電極もしくは前記ドレイン電極は前記電荷蓄積用ゲート電極との間の容量結合により第1の容量を形成し、前記第1の容量を流れる第1の電流により前記電荷蓄積用ゲート電極に電荷が蓄積される。
【0013】
本願第二の発明の好ましい一形態において、前記第1の容量を形成する前記ソース電極もしくは前記ドレイン電極と前記電荷蓄積用ゲート電極との間に設けられ第3の絶縁膜と第1の半導体層からなる積層膜を有し、前記第1の電流の少なくとも一部は前記積層膜を通して流れる。
【0014】
本願第二の発明の好ましい一形態において、前記第3の絶縁膜は前記電荷蓄積用ゲート電極の側に設けられ、前記第1の半導体層は前記第1の容量を形成する前記ソース電極もしくは前記ドレイン電極の側に設けられ、且つ前記第1の半導体層はn型不純物を含有する。
【0015】
本願第二の発明の好ましい一形態において、前記第3の絶縁膜は前記第1の容量を形成する前記ソース電極もしくはドレイン電極の側に設けられ、前記第1の半導体層は前記電荷蓄積用ゲート電極の側に設けられ、且つ前記第1の半導体層はp型不純物を含有する。
【0016】
本発明の第三の目的を達成するため、本願第三の発明による電界効果型トランジスタ装置は、半導体と、前記半導体内或いはその表面に設けられた導電チャネルと、前記導電チャネルに近接して設けられた第1の絶縁膜と、少なくともその一部が前記第1の絶縁膜の前記導電チャネルとは反対側に設けられた電荷蓄積用ゲート電極と、前記電荷蓄積用ゲート電極の前記第1の絶縁膜とは反対側に設けられた第2の絶縁膜と、少なくともその一部が前記第2の絶縁膜の前記電荷蓄積用ゲート電極とは反対側に設けられたゲート電極と、前記電荷蓄積用ゲート電極を挟んで前記半導体上に設けられ前記導電チャネルと電気的に接続するソース電極及びドレイン電極とを有し、前記電荷蓄積用ゲート電極は分離された複数の電極からなる。
【0017】
本願第三の発明の好ましい一形態において、前記電荷蓄積用ゲート電極の前記複数の電極はいずれも前記導電チャネルの電流方向に交差するように配置される。
【0018】
本願第三の発明の好ましい一形態において、前記電荷蓄積用ゲート電極の前記複数の電極はいずれも前記導電チャネルの電流方向に沿うように配置される。
【0019】
本願第三の発明の好ましい一形態において、前記電荷蓄積用ゲート電極との容量結合により第1の容量を形成する電荷注入用電極を有し、前記第1の容量を流れる第1の電流により前記電荷蓄積用ゲート電極に電荷が蓄積される。
【0020】
本願第三の発明の好ましい一形態において、前記電荷蓄積用ゲート電極との容量結合により第1の容量を形成する電荷注入用電極を有し、前記第1の容量を流れる第1の電流により前記電荷蓄積用ゲート電極に電荷が蓄積され、前記電荷注入用電極と前記電荷蓄積用ゲート電極との間に設けられ第3の絶縁膜と第1の半導体層からなる積層膜を有し、且つ前記第1の電流の少なくとも一部は前記積層膜を通して流れる。
【0021】
本願第三の発明の好ましい一形態において、前記電荷蓄積用ゲート電極との容量結合により第1の容量を形成する電荷注入用電極を有し、前記第1の容量を流れる第1の電流により前記電荷蓄積用ゲート電極に電荷が蓄積され、前記電荷注入用電極と前記電荷蓄積用ゲート電極との間に設けられ第3の絶縁膜と第1の半導体層からなる積層膜を有し、前記第1の電流の少なくとも一部は前記積層膜を通して流れ、前記第3の絶縁膜は前記電荷蓄積用ゲート電極の側に設けられ、前記第1の半導体層は前記電荷注入用電極の側に設けられ、且つ前記第1の半導体層はn型不純物を含有する。
【0022】
本願第三の発明の好ましい一形態において、前記電荷蓄積用ゲート電極との容量結合により第1の容量を形成する電荷注入用電極を有し、前記第1の容量を流れる第1の電流により前記電荷蓄積用ゲート電極に電荷が蓄積され、前記電荷注入用電極と前記電荷蓄積用ゲート電極との間に設けられた第3の絶縁膜と第1の半導体層からなる積層膜を有し、前記第1の電流の少なくとも一部は前記積層膜を通して流れ、前記第3の絶縁膜は前記電荷注入用電極の側に設けられ、前記第1の半導体層は前記電荷蓄積用ゲート電極の側に設けられ、且つ前記第1の半導体層はp型不純物を含有する。
【0023】
本願第三の発明の好ましい一形態において、前記ソース電極もしくは前記ドレイン電極は前記電荷蓄積用ゲート電極との容量結合により第1の容量を形成し、前記第1の容量を流れる第1の電流により前記電荷蓄積用ゲート電極に電荷が蓄積される。
【0024】
本願第三の発明の好ましい一形態において、前記ソース電極もしくは前記ドレイン電極は前記電荷蓄積用ゲート電極との容量結合により第1の容量を形成し、前記第1の容量を流れる第1電流により前記電荷蓄積用ゲート電極に電荷が蓄積され、前記第1の容量を形成する前記ソース電極もしくは前記ドレイン電極と前記電荷蓄積用ゲート電極との間に設けられ第3の絶縁膜と第1の半導体層からなる積層膜を有し、且つ前記第1の電流の少なくとも一部は前記積層膜を通して流れる。
【0025】
本願第三の発明の好ましい一形態において、前記ソース電極もしくはドレイン電極は前記電荷蓄積用ゲート電極との容量結合により第1の容量を形成し、前記第1の容量を流れる第1の電流により前記電荷蓄積用ゲート電極に電荷が蓄積され、前記第1の容量を形成する前記ソース電極もしくは前記ドレイン電極と前記電荷蓄積用ゲート電極との間に設けられ第3の絶縁膜と第1の半導体層からなる積層膜を有し、前記第1の電流の少なくとも一部は前記積層膜を通して流れ、前記第3の絶縁膜は前記電荷蓄積用ゲート電極の側に設けられ、前記第1の半導体層は前記第1の容量を形成する前記ソース電極もしくはドレイン電極の側に設けられ、且つ前記第1の半導体層はn型不純物を含有する。
【0026】
本願第三の発明の好ましい一形態において、前記ソース電極もしくは前記ドレイン電極は前記電荷蓄積用ゲート電極との容量結合により第1の容量を形成し、前記第1の容量を流れる第1の電流により前記電荷蓄積用ゲート電極に電荷が蓄積され、前記第1の容量を形成する前記ソース電極もしくは前記ドレイン電極と前記電荷蓄積用ゲート電極との間に設けられ第3の絶縁膜と第1の半導体層からなる積層膜を有し、前記第1の電流の少なくとも一部は前記積層膜を通して流れ、前記第3の絶縁膜は前記第1の容量を形成する前記ソース電極もしくは前記ドレイン電極の側に設けられ、前記第1の半導体層は電荷蓄積用ゲート電極の側に設けられ、且つ前記第1の半導体層はp型不純物を含有する。
【発明の効果】
【0027】
本願第一の発明によれば、電荷蓄積用ゲート電極の電位が電荷注入用電極の電位に比べ低い場合と高い場合とで第1の容量を流れる電流の大きさを非対称にすることができる。例えば、電荷蓄積用ゲート電極の電位を電荷注入用電極に比べ高くすることにより電荷蓄積用ゲート電極に負電荷を蓄積することができるが、逆の電位差が生じた場合の負電荷の流出を抑えることができる。FETを電力用スイッチとして使用しノーマリオフ化のため電荷蓄積用ゲート電極に負電荷を蓄積した場合、FETやスイッチ駆動回路の様々なリアクタンス成分により動的な電圧変動が生じゲート電極の動的電圧が負となり、ゲート電極との容量結合により電荷蓄積用ゲート電極の電位が電荷注入用電極に比べ低くなることがあるが、その際の電荷蓄積用ゲート電極に蓄積した負電荷の電荷注入用電極への流出を抑えることができる。その結果ノーマリオフ動作に必要な正の閾値電圧を長時間保持することができる。
【0028】
本願第一の発明の効果を、図面を用いてさらに詳しく説明する。図12Aは本願第一の発明によるFETの一部を模式的に表した図である。図11Aに示した従来のFETとの違いは、第3の絶縁膜1215と電荷注入用電極1207との間に第1の半導体層1216を設けたことである。従来のFETの説明と同様に、電荷注入用電極1207と電荷蓄積用ゲート電極1006との間の結合容量を第1の容量、ゲート電極1012と電荷蓄積用ゲート電極1006との間の結合容量を第2の容量、電荷蓄積用ゲート電極1006とゲート電極部導電キャリア1013との間の結合容量を第3の容量と呼ぶ。図12Bよび図12C図12A中に記号で示すゲート電極1012の内部A、電荷蓄積用ゲート電極1006の内部B、電荷注入用電極1207の内部Dを繋ぐ断面に沿った電子の伝導帯下端(Ec)および価電子帯上端(Ev)のエネルギーを示す図である。図12Bは電荷注入用電極1207から伝導電子を電荷蓄積用ゲート電極1006に注入する場合の図であり、正電圧1201が電荷注入用電極1207を基準にしてゲート電極1012に印加される。これは従来のFETの場合の図11Cに相当する。ここで、前記第1の容量は前記第2の容量に比べ十分小さくなるようにそれぞれの電極面積や第2の絶縁膜1011,第3の絶縁膜1215の誘電率や厚さを選ぶ。すると前記第2の容量によるゲート電極1012との強い容量結合により電荷蓄積用ゲート電極1006の電位も大きく上昇する。一方第1の半導体層1216は導電性をn型とし、電荷注入用電極1207との電気的接触が伝導電子に対してオーム性或いはそれに近い低抵抗の接触となるように形成する。この場合、正電圧1201印加時の第1の半導体層1216の伝導帯下端のエネルギーはほぼ平坦になり、第3の絶縁膜1215との界面における伝導電子の電位は電荷注入用電極1207とほぼ同じになる。その結果、電荷蓄積用ゲート電極1006と第1の半導体層1216との間の電位差が大きくなり、第3の絶縁膜1215に高電界が発生し、図12B中に矢印で示す伝導電子のトンネル電流1202が流れる。トンネルした伝導電子は電界蓄積用ゲート電極1006に負電荷1203として蓄積される。一方図12Cは図中矢印で示す負電圧1204が電荷蓄積用電極1007を基準にゲート電極1012に印加された場合を示す。FETを電力スイッチとして使用する際のオンオフ動作中の電圧の動的変動などにより起こる。前記第2の容量による強い容量結合で電荷蓄積用ゲート電極1006の電位が大きく低下する。しかし第1の半導体層1216がn型であるためキャリアの空乏化が起こり、電荷蓄積用ゲート電極1006と電荷注入用電極1207との間の電位差の一部が第1の半導体層1216内に生じる電位差で賄われる。このため第3の絶縁膜内の電界強度が図11Fに示した従来のFETの場合より小さくなり、トンネル電流の発生が抑えられる。負電荷1203の流出が抑えられることにより閾値電圧が負の方向に戻りにくくなり、ノーマリオフ動作に必要な正の閾値電圧が保持され易くなる。
【0029】
本願第一の発明の効果を、前記第1の容量について行ったデバイスシミュレーションの結果をもとにさらに詳しく説明する。シミュレーションは図12AのB-D断面に相当する平行平板容量について行った。第3の絶縁膜1215は厚さ8nmの酸化シリコン(SiO2)とした。また第1の半導体層1216は厚さ40nmの炭化シリコン(SiC)とし、導電型はn型で不純物濃度を1X1017cm-3とした。図13は第1の容量の電流電圧特性のシミュレーション結果である。横軸に示す第1の容量の電極間電圧は電荷注入用電極1207を基準とする電荷蓄積用ゲート電極1206の電圧に相当する。縦軸は電流の絶対値を対数表示したものである。電流電圧特性は負電圧と正電圧で非対称であり、負電圧領域では正電圧領域に比べ電流が大幅に低くなる。例えば、+12Vと比べ―12Vでは図13中に矢印で示した電流低下1301は9桁に上る。その結果、FETをスイッチとして使用する際のオンオフ動作における電圧の動的変動で負電荷蓄積の際と逆方向の電圧が前記第1の容量に印加されても蓄積電荷の流出はほとんど起こらない。
【0030】
上述の方法では、第1の半導体層1216を電荷注入用電極1207の側に設け、第3の絶縁膜1215を電荷蓄積用ゲート電極1006の側に設けた。次に本願第一の発明の別の方法を図14A図14B図14Cを用いて説明する。図14A図12Aと同様に本願第一の発明によるFETの一部を模式的に表した図である。本方法では第1の半導体層1416は電荷蓄積用ゲート電極1006の側に設けられ、第3の絶縁膜1415は電荷注入用電極1407の側に設けられる。また第1の半導体層1416の導電型をp型とし、伝導ホールに対してオーム性或いはそれに近い低抵抗で電荷蓄積用ゲート電極1006と電気的に接触する。図14Bは電荷注入用電極1407を基準にして正電圧1401をゲート電極1012に印加した場合の図である。p型である第1の半導体層1416の伝導帯下端(Ec)および価電子帯上端(Ev)のエネルギーはほぼ平坦になり、第1の半導体層1416と第3の絶縁膜1415との界面における伝導ホール1405の電位は電荷蓄積用ゲート電極1006とほぼ同電位となる。このため電荷注入用電極1407と第1の半導体層1416との間の電位差が大きくなり、第3の絶縁膜1415内に強電界が発生する。その結果、電荷注入用電極1407から第1の半導体層1416への伝導電子のトンネル電流1402が発生し、負電荷1403が電荷蓄積用ゲート電極1006に蓄積される。一方図14Cはスイッチ動作中の電圧の動的変動などにより電荷注入用電極1407を基準にして負電圧1404がゲート電極1012に印加された場合の図である。この場合、電荷注入用電極1407と電荷蓄積用ゲート電極1006との間の電位差の一部はp型である第1の半導体層1416で賄われるため、第3の絶縁膜1415に印加される電圧が減少する。これによりトンネル電流の発生が抑えられ、電荷注入用電極1407への負電荷の逆流1406を抑えることができる。
【0031】
以上では第1の半導体層にSiCを用いる場合について説明した。SiCはワイドバンドギャップ半導体として知られる。ワイドバンドギャップ半導体は衝突イオン化やツェナー降伏が起こりにくく、破壊電界強度が高い。このため第1の容量に電荷注入時と逆の電圧が印加された時に電圧の一部を担わせ絶縁膜中のトンネリングを抑えるという本願第一の発明に好適である。さらに図12Aに示す例では、ワイドバンドギャップ半導体の場合図12B中にΔEcで示す第3の絶縁膜1215と第1の半導体層1216との間の伝導帯下端のエネルギー差が小さくなるため、トンネル電流1202が流れやすくなる。一方、逆方向の電圧が印加された場合のリーク電流は電荷蓄積用ゲート電極1006のフェルミ準位から測った第3の絶縁膜1215の伝導帯下端のエネルギーで決まるため、図12Cにからわかるように第1の半導体層1216のバンドギャップにほとんどよらない。従って第1の半導体層1216にワイドバンドギャップ半導体を用いれば負電荷注入時の電圧とその逆符号の電圧での電流差を大きくすることができ、本願第一の発明に好適である。SiC以外のワイドバンドギャップ半導体としては、例えばAlGaN、AlNなどの窒化物半導体を用いても良い。ただし第1の半導体の材料はワイドバンドギャップ半導体に限るものではなく、例えばSiのようなバンドギャップが比較的小さい半導体材料を用いても良い。厚さを十分に厚くすれば、第1の半導体層中の電界強度が小さくなり、電圧降伏を抑えることができる。Si、特に多結晶Siは成膜が容易であり、また絶縁膜、特に酸化シリコンとの間で欠陥の少ない電気的特性の良好な界面を形成する。図12Aに示す例において、界面の欠陥準位に負電荷がトラップされると界面のEcが上昇し図12B中に示す負電荷注入時のトンネル電流1202が流れにくくなるが、Siのように界面特性に優れる半導体を用いることによりこの問題を回避することができる。第1の半導体層は複数の異なる半導体材料の積層膜としてもよく、例えば第3の絶縁膜と接触する部分にSiのような界面特性の良好な薄い半導体層を挿入し、その他の部分をSiCなどのワイドバンドギャップ半導体としてもよい。これにより、良好な界面特性と高い破壊電界強度の両方を得ることができる。
【0032】
次に本願第二の発明の効果を説明する。本願第二の発明によれば、電荷蓄積用ゲート電極への電荷蓄積に用いられる第1の容量が電荷蓄積用ゲート電極とソース電極もしくはドレイン電極との間に形成されるため、電荷注入のための個別の電極が不要となり、従来技術においてFETを動作させるために必要であった4つの電極を3つに減らすことが出来る。その結果、FETを動作させるための外部回路を簡略化することができ、またFETの製造工程を簡素にし、さらにFETが基板上で占める面積を減らすことができる。
【0033】
本願第三の発明によれば、複数の分離された電荷蓄積用ゲート電極のうちの一つから蓄積電荷が流出しても、残りの電荷蓄積用ゲート電極の部分的な閾値電圧は変わらないため、ノーマリオフが維持され易くなる。その結果ノーマリオフFETとしての寿命を長くすることができ、またスイッチとして使用中にノーマリオン化することによる装置の故障を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本願第一の発明による電界効果型トランジスタ装置の構造を示す平面図および断面図である。
図2】本願第一の発明による電界効果型トランジスタ装置の構造を示す平面図および断面図である。
図3】本願第二の発明による電界効果型トランジスタ装置の構造を示す平面図および断面図である。
図4】本願第二の発明による電界効果型トランジスタ装置の構造を示す平面図および断面図である。
図5】本願第二の発明による電界効果型トランジスタ装置の構造を示す平面図および断面図である。
図6】本願第二の発明による電界効果型トランジスタ装置の構造を示す平面図および断面図である。
図7】本願第二の発明による電界効果型トランジスタ装置の構造を示す平面図および断面図である。
図8】本願第三の発明による電界効果型トランジスタ装置の構造を示す平面図および断面図である。
図9】本願第三の発明による電界効果型トランジスタ装置の構造を示す平面図および断面図である。
図10】従来の電界効果型トランジスタ装置の構造を示す平面図および断面図である。
図11A】従来の電界効果型トランジスタ装置の一部を模式的に示す図である。
図11B図11Aに示す従来の電界効果型トランジスタ装置の内部の点A、B,Cに沿った伝導帯下端および価電子帯上端のエネルギーを示す図である。
図11C図11Aに示す従来の電界効果型トランジスタ装置の内部の点A、B,Dに沿った伝導帯下端および価電子帯上端のエネルギーを示す図である。
図11D図11Aに示す従来の電界効果型トランジスタ装置の内部の点A、B,Cに沿った伝導帯下端および価電子帯上端のエネルギーを示す図である。
図11E図11Aに示す従来の電界効果型トランジスタ装置の内部の点A、B,Dに沿った伝導帯下端および価電子帯上端のエネルギーを示す図である。
図11F図11Aに示す従来の電界効果型トランジスタ装置の内部の点A、B,Dに沿った伝導帯下端および価電子帯上端のエネルギーを示す図である。
図12A】本願第一の発明における電界効果型トランジスタ装置の一部を模式的に示す図である。
図12B図12Aに示す本願第一の発明の電界効果型トランジスタ装置の内部の点A、B,Dに沿った伝導帯下端および価電子帯上端のエネルギーを示す図である。
図12C図12Aに示す本願第一の発明の電界効果型トランジスタ装置の内部の点A、B,Dに沿った伝導帯下端および価電子帯上端のエネルギーを示す図である。
図13】本願第一の発明における第1の容量の電流電圧特性を示す図である。
図14A】本願第一の発明における電界効果型トランジスタ装置の一部を模式的に示す図である。
図14B図14Aに示す本願第一の発明の電界効果型トランジスタ装置の内部の点A、B,Dに沿った伝導帯下端および価電子帯上端のエネルギーを示す図である。
図14C図14Aに示す本願第一の発明の電界効果型トランジスタ装置の内部の点A、B,Dに沿った伝導帯下端および価電子帯上端のエネルギーを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本願発明にかかる実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本願第一の発明の一実施例である電界効果型トランジスタ装置の構造を示す図である。基板101上にバッファ層102、第1の窒化物半導体層103、第2の窒化物半導体層104が順次堆積される。基板としてはSi、GaN、サファイア、SiCなどが用いられる。また第2の窒化物半導体層104の少なくとも一部のバンドギャップは第1の窒化物半導体層103の少なくとも一部のバンドギャップより大きい。これにより、第1の窒化物半導体層103と第2の窒化物半導体層104との界面の第1の窒化物半導体層103側に導電チャネル110が形成される。例えば第1の窒化物半導体層103にGaN、第2の窒化物半導体層104にAlGaNを用いる。ここでAlGaNの組成をAlxGa1-xNと記述した場合のxは0<x≦1の関係を満たす。窒化物半導体材料としては、この他にInN、ScN、或いはこれらの窒化物半導体の混晶半導体をもちいてもよい。さらに第1の窒化物半導体層104上に第1の絶縁膜105を挟んで電荷蓄積用ゲート電極106が形成される。電荷蓄積用ゲート電極106下部の導電チャネル110に形成されるゲート電極下部導電キャリア113と電荷蓄積用ゲート電極106との間の結合容量を第3の容量と呼ぶ。さらに電荷蓄積用ゲート電極106上に第2の絶縁膜111を挟んでゲート電極112が形成される。ゲート電極112と電荷蓄積用ゲート電極106との間の結合容量を第2の容量と呼ぶ。また、電荷蓄積用ゲート電極106を水平方向に挟んでソース電極108,ドレイン電極109が形成される。ソース電極108,ドレイン電極109はいずれも素子分離領域114に囲まれた内側の領域で導電チャネル110に電気的に接続される。ゲート電極112は直列に繋がれた前記第2の容量と前記第3の容量を介してゲート電極部導電キャリア113と容量結合する。ゲート電極112に印加される電圧でゲート電極部導電キャリア113のキャリア数を変化させることによりソース電極108とドレイン電極109との間に流れる電流を調節することができ、電界効果型トランジスタ(FET)としての動作が得られる。電荷蓄積用ゲート電極106、ゲート電極112、ソース電極108、ドレイン電極109はいずれも基板100上において金属的に接続された部分をすべて含むものとする。従って、これら電極はそれぞれ1回の工程で形成される必要はなく、複数の工程で作成される膜を金属接触させて形成してもよい。これは本願第一の発明の他の実施例においても同様である。また膜の材料としては従来知られる単体金属、合金、化合物金属、ポリシリコンのような不純物を高濃度にドープし低抵抗化した半導体、或いはこれらの材料の組み合わせた材料を用いればよい。これも本願第一の発明の他の実施例においても同様である。ここで、電荷蓄積用ゲート電極106上に第3の絶縁膜115、第1の半導体層116、電荷注入用電極107を順次形成する。この部分が本実施例における本願第一の発明としての特徴部分である。電荷注入用電極107と電荷蓄積用ゲート電極106との間の結合容量を第1の容量と呼ぶ。前記第1の容量、前記第2の容量、および前記第3の容量の周辺部分は保護絶縁膜117で保護される。保護絶縁膜117は前記第1の容量、前記第2の容量、前記第3の容量を形成する絶縁膜を用いても良いし、別の絶縁膜を用いてもよい。前記第1の容量は、電荷蓄積用ゲート電極106に電荷を蓄積させる際に用いられる。その方法は[0036]で述べる。なお、第1の絶縁膜105、第2の絶縁膜111,及び第3の絶縁膜115の材料としては、従来知られる絶縁膜材料、例えば酸化シリコン、窒化シリコン、酸化窒化シリコン、アルミナ、ハフニア、ジルコニア、或いはこれらの材料の積層膜や混合膜を用いればよい。また第1の半導体層116の材料としては、従来知られる半導体材料、例えばシリコン、炭化シリコン、窒化物、あるいはそれらの積層膜や混合膜を用いればよい。半導体層は単結晶、多結晶の何れでもよい。[0031]でも述べたように、炭化シリコンはバンドギャップが大きく、破壊電界強度が高いため、電荷蓄積用ゲート電極106に蓄積した電荷の逆流を防ぐという目的に適している。一方多結晶シリコンは薄膜としての形成が容易であり、また第3の絶縁膜115に酸化シリコンを用いた場合トラップ準位の少ない良好な界面が得られる点で好ましい。シリコンはバンドギャップが小さく破壊電界強度が低いが、十分厚くすることにより所望の耐圧を得ることができる。或いは絶縁膜115の接する部分に薄いシリコンを用い、他の部分を例えば炭化シリコンのようなバンドギャップの大きい材料を用いれば、界面特性と耐圧の両方に優れる構造が得られる。第1の半導体層116の導電型はn型とし、電荷注入用電極107に対しオーム性或いはそれに近い低抵抗の電気的接触が得られるように形成する。なお第1の半導体層116のn型不純物の濃度は均一とするか、或いは濃度に傾斜を付け、第3の絶縁膜115側で低濃度、その反対側で高濃度としてもよい。傾斜をつけた場合、耐圧を確保しつつ電荷注入用電極107との間に低抵抗の電気的接触が得られる。或いは第1の半導体層116に分極電荷を発生する材料を用いた場合、分極電荷を相殺する目的で薄い高濃度の不純物層を導入してもよい。また電荷注入用電極107の材料には通常知られる単体金属、合金、化合物金属、或いはn型ポリシリコンなどの不純物が高濃度にドープされた半導体、或いはこれらの材料を組み合わせた材料を用いてもよい。第3の絶縁膜115、第1の半導体層116、電荷注入用電極107の材料については、本願第一の発明の他の実施例においても同様である。
【0036】
図1に示す本願第一の発明の実施例における閾値電圧調節方法を説明する。以下の方法はFETのノーマリオフ化を想定し、閾値電圧を正の方向にシフトさせる場合である。電荷注入用電極107を一方の電極とする第1の容量を流れる微小電流により電荷蓄積用ゲート電極106に負電荷が蓄積される。電荷蓄積用ゲート電極106は浮遊電極であり、蓄えられた負電荷により電子のポテンシャルエネルギーが引き上げられ、ゲート電極部導電キャリア113のキャリア数を減少させる。ソース電極108を基準に測ったゲート電極112の電圧がゼロ以上の正の値においてゲート電極部導電キャリア113のキャリアが実質的になくなるまで電荷蓄積用ゲート電極106に負電荷を蓄積することにより、閾値電圧は正の値となりノーマリオフ動作が実現される。前記第1の容量を用いて電荷蓄積用ゲート電極106に負電荷を蓄積する場合、電荷注入用電極107を基準にして正の電圧をゲート電極112に印加すればよい。例えば電荷注入用電極107の電圧をゼロとし、ゲート電極112の電圧を正とする。すると電荷蓄積用ゲート電極106の電位も前記第2の容量による容量結合でゲート電極112の電圧に従って変化し、電荷注入用電極107の電位より高くなる。言い換えると、伝導電子に対するポテンシャルエネルギーが電荷蓄積用ゲート電極106において電荷注入用電極107より低くなる。その結果伝導電子が第3の絶縁膜115をトンネルして第1の半導体層116に流入し、電荷蓄積用ゲート電極106に到達して負電荷が蓄積される。本願第一の発明の原理を説明する図12Aにおける電荷注入用電極1207は本実施例における電荷注入用電極107に相当し、伝導帯下端と価電子帯上端のエネルギーは図12Bに示す通りである。電荷注入時の電流は図13の正電圧領域の電流に相当する。ここで、前記第1の容量が前記第2の容量に比べ十分小さくなるようにゲート電極112と電荷注入用電極107の面積や、第2の絶縁膜111と第3の絶縁膜115の誘電率や厚さを選ぶ。直列に接続された二つの容量に印加される電圧はそれぞれの容量値に逆比例して配分されるため、前記第2の容量に比べより大きな電圧を前記第1の容量に印加することができる。その結果、第3の絶縁膜115のトンネリングが起こりやすくなり、効率よく負電荷を電荷蓄積用ゲート電極106に注入することができる。一方FETが電力スイッチとして使用される際、スイッチオフ時におけるゲート電極112の静的電圧はゼロボルトであり、さらにFETやスイッチ駆動回路の様々なリアクタンス成分により動的な電圧変動が生じ、ゲート電極112の動的電圧が負となる場合がある。電荷注入用電極107が外部端子を通じてゲート駆動回路に繋がっている場合、電荷注入用電極107を完全に絶縁させることは難しく、スイッチ動作中に接地電位への漏洩電路が残存する。そのため、ゲート電極112の電圧が負になった時、第2の容量による容量結合で電荷蓄積用ゲート電極106の電圧も負となり、前記第1の容量に負電荷蓄積時とは逆の電圧がかかる。このため従来のFETにおいては蓄積した負電荷のトンネリングによる逆流が起こり、ノーマリオフ動作に必要な正の閾値電圧の保持時間が短くなる問題があった。しかし本願第一の発明の本実施例においては、第3の絶縁膜と電荷注入用電極107との間に第1の半導体層116が挿入することにより、図12Cと同様に電圧が第3の絶縁膜115と第1の半導体層116に分配され第3の絶縁膜115にかかる電圧が小さくなる。図13に示すように負電圧領域の電流は正電圧領域より小さいため、電荷蓄積用ゲート電極106に蓄えられた負電荷の逆流を抑えることができる。その結果ノーマリオフ動作に必要な正の閾値電圧の保持時間を長くすることができる。
【0037】
図1に示す実施例では第1の容量を構成する部分において第3の絶縁膜115を電荷蓄積用ゲート電極106の側、第1の半導体層116を電荷注入用電極107の側に設け、第1の半導体層116はn型とした。これは図12Aに示した層構造と同じであるが、図15Aに示す構造と同様に第3の絶縁膜115を電荷注入用電極107の側、第1の半導体層116を電荷蓄積用ゲート電極106の側に設け、第1の半導体層116をp型としてもよい。図15A図15B図15Cの説明で述べたように、この場合も図1に示す構造の場合と同様の効果が得られる。
【0038】
以上の本願第一の発明の実施例においては、窒化物半導体層が第1の窒化物半導体層103と第2の窒化物半導体層104にから成り、第1の窒化物半導体層103と第2の窒化物半導体層104との界面の第1の窒化物半導体層103側に形成される導電チャネル110がソース電極108とドレイン電極109との間を流れる電流の経路となる。本実施例のFETでは、第1の窒化物半導体層103と第2の窒化物半導体層104の組成が異なることにより発生する分極電荷を利用して導電チャネル110に導電キャリアを誘起させているため、外部から印加される電圧がない状態においても自発的に多数の導電キャリアが発生する。そのためFETは非常に大きな負の閾値電圧を有するノーマリオンFETとなる。従ってFETをノーマリオフにするには非常に多くの負電荷を電荷蓄積用ゲート電極106に蓄積する必要があり、蓄積した負電荷の電荷注入用電極107への逆流も深刻な問題となる。本願第一の発明ではこの逆流を抑えることができ、特に本実施例のFETのように第1の窒化物半導体層103と第2の窒化物半導体層104との界面に形成される導電チャネル110を用いる窒化物半導体FET、すなわちHEMTにおいて有効である。ただし、本願第一の発明はHEMTに限るものではない。例えば本実施例において第2の窒化物半導体層114をなくし、第1の窒化物半導体層103直上に第1の絶縁膜105を形成し、第1の窒化物半導体層103と第1の絶縁膜105との界面の第1の窒化物半導体層103側に発生する導電チャネルをソース電極108とドレイン電極109との間を流れる電流の経路に用いるFETにおいても、同様の効果が得られる。以上の点は本願の他の実施例についても同様である。
【0039】
図2は本願第一の発明の別の実施例を示す図である。本実施例の図1に示す実施例との違いは、第1の容量を形成する電荷注入用電極207を電荷蓄積用ゲート電極206より基板101側に配置したことにある。第3の絶縁膜215は電荷蓄積用ゲート電極206側、第1の半導体層216は電荷注入用電極207側に設けられたことは図1の実施例と同様である。第1の半導体層216の導電型はn型とする。本実施例の構造は、例えば電荷注入用電極207を先に形成し、その上に第1の半導体層216,第3の絶縁膜215を順次形成した後、電荷蓄積用ゲート電極206を形成すれば得られる。図1に示す実施例と同様に、ゲート電極112に負の電圧がかかった場合に電荷蓄積用ゲート電極206と電荷注入用電極207との間にかかる電圧が第3の絶縁膜215と第1の半導体層216に分配され第3の絶縁膜215にかかる電圧が小さくなる。このため電荷蓄積用ゲート電極206に蓄積された負電荷の逆流が起こりにくくなり、ノーマリオフ動作に必要な正の閾値電圧の保持時間を長くすることができる。また本実施例では前記第1の容量は電荷注入用電極207の上部エッジ部を含むように形成されている。エッジ部では電界が集中するため、より小さな電位差でトンネル電流を発生させることができ、電荷蓄積用ゲート電極206への負電荷の注入が容易になる。
【0040】
図2に示す実施例においても、図1に示した実施例と同様に第3の絶縁膜216を電荷注入用電極207の側、第1の半導体層216を電荷蓄積用ゲート電極206の側に設け、第1の半導体層216をp型としてもよい。この場合も図2に示す構造と同様の効果が得られる。
【0041】
図3は本願第二の発明の一実施例である電界効果型トランジスタ装置の構造を示す図である。基板101上にバッファ層102、第1の窒化物第1の半導体層103、第2の窒化物半導体層104が順次堆積される。基板としてはSi、GaN、サファイア、SiCなどが用いられる。また第2の窒化物半導体層104の少なくとも一部のバンドギャップは第1の窒化物半導体層103の少なくとも一部のバンドギャップより大きい。これにより、第1の窒化物半導体層103と第2の窒化物半導体層104との界面の第1の窒化物半導体層103側に導電チャネル110が形成される。例えば第1の窒化物半導体層103にGaN、第2の窒化物半導体層104にAlGaNを用いる。ここでAlGaNの組成をAlxGa1-xNと記述した場合のxは0<x≦1の関係を満たす。窒化物半導体材料としては、この他にInN、ScN、或いはこれらの窒化物半導体の混晶半導体をもちいてもよい。さらに第1の窒化物半導体層104上に第1の絶縁膜105を挟んで電荷蓄積用ゲート電極306が形成される。電荷蓄積用ゲート電極306下部の導電チャネル110に形成されるゲート電極下部導電キャリア113と電荷蓄積用ゲート電極306との間の結合容量を第3の容量と呼ぶ。さらに電荷蓄積用ゲート電極306上に第2の絶縁膜111を挟んでゲート電極112が形成される。ゲート電極112と電荷蓄積用ゲート電極306との間の結合容量を第2の容量と呼ぶ。また、電荷蓄積用ゲート電極306を水平方向に挟んでソース電極308,ドレイン電極109が形成される。ソース電極308,ドレイン電極109はいずれも素子分離領域114に囲まれた内部領域で導電チャネル110に電気的に接続される。ゲート電極112は直列に繋がれた前記第2の容量と前記第3の容量を介してゲート電極部導電キャリア113と容量結合する。ゲート電極112に印加される電圧でゲート電極部導電キャリア113のキャリア数を変化させることによりソース電極308とドレイン電極109との間に流れる電流を調節することができ、電界効果型トランジスタ(FET)としての動作が得られる。電荷蓄積用ゲート電極306、ゲート電極112、ソース電極308、ドレイン電極109はいずれも基板100上に於いて金属的に接続された部分をすべて含むものとする。従って、これら電極はそれぞれ1回の工程で形成される必要はなく、複数の工程で作成される膜を金属接触させて形成してもよい。これは本願第二の発明の他の実施例についても同様である。また膜の材料としては従来知られる単体金属、合金、化合物金属、ポリシリコンのような不純物を高濃度にドープし低抵抗化した半導体、或いはこれらの材料を組み合わせた材料を用いてもよい。これも本願第二の発明の他の実施例においても同様である。ここで本願第二の発明の特徴部分を形成する方法の一例として、ソース電極308の一部が電荷蓄積用ゲート電極306の基板101とは反対側に重なるように延在し、電荷蓄積用ゲート電極306との間の容量結合により第1の容量が形成される。また本実施例では、前記第1の容量が形成される部分において電荷蓄積用ゲート電極306側に第3の絶縁膜315、ソース電極308側に第1の半導体層316が設けられる。前記第1の容量、前記第2の容量、および前記第3の容量の周辺部分は保護絶縁膜117で保護される。保護絶縁膜117は前記第1の容量、前記第2の容量、前記第3の容量を形成する絶縁膜を用いても良いし、別の絶縁膜を用いてもよい。前記第1の容量は、電荷蓄積用ゲート電極306に電荷を蓄積させる際に用いられる。その方法は[0042]で述べる。なお、第1の絶縁膜105、第2の絶縁膜111,及び第3の絶縁膜315の材料としては、従来知られる絶縁膜材料、例えば酸化シリコン、窒化シリコン、酸化窒化シリコン、アルミナ、ハフニア、ジルコニア、或いはこれらの材料の積層膜や混合膜を用いればよい。また第1の半導体層316の材料としては、従来知られる半導体材料、例えばシリコン、炭化シリコン、窒化物、あるいはそれらの積層膜や混合膜を用いればよい。半導体は単結晶、多結晶の何れでもよい。[0031]でも述べたように、炭化シリコンはバンドギャップが大きく、破壊電界強度が高いため、電荷蓄積用ゲート電極306に蓄積した電荷の逆流を防ぐという目的に適している。一方多結晶シリコンは薄膜としての形成が容易であり、また第3の絶縁膜315に酸化シリコンを用いた場合トラップ準位の少ない良好な界面が得られる点で好ましい。シリコンはバンドギャップが小さく破壊電界強度が低いが、十分厚くすることにより所望の耐圧を得ることができる。或いは絶縁膜315と接する部分に薄いシリコンを用い、他の部分を例えば炭化シリコンのようなバンドギャップの大きい材料を用いれば、界面特性と耐圧の両方に優れる構造が得られる。第1の半導体層316の導電型はn型とし、ソース電極308に対しオーム性或いはそれに近い低抵抗の電気的接触が得られるように形成する。なお第1の半導体層316のn型不純物濃度は均一とするか、または不純物濃度に傾斜を付け、第3の絶縁膜315側で低濃度、その反対側で高濃度としてもよい。傾斜をつけた場合、耐圧を確保しつつソース電極308との間に低抵抗の電気的接触が得られる。或いは第1の半導体層316に分極電荷を発生する材料を用いた場合、分極電荷を相殺する目的で薄い高濃度の不純物層を導入してもよい。第3の絶縁膜315、第1の半導体層316の材料については、本願第二の発明の他の実施例においても同様である。
【0042】
図3に示す本願第二の発明の実施例における閾値電圧調節方法を説明する。以下の方法はFETのノーマリオフ化を想定し、閾値電圧を正の方向にシフトさせる場合である。ソース電極308を一方の電極とする第1の容量を流れる微小電流により電荷蓄積用ゲート電極306に負電荷が蓄積される。電荷蓄積用ゲート電極306は浮遊電極であり、蓄えられた負電荷により電子のポテンシャルエネルギーが引き上げられ、ゲート電極部導電キャリア113のキャリア数を減少させる。ソース電極308を基準に測ったゲート電極112の電圧がゼロ或いは正の値においてもゲート電極部導電キャリア113のキャリア数が実質的にゼロになるまで電荷蓄積用ゲート電極306に負電荷を蓄積することにより、閾値電圧は正の値となりノーマリオフ動作が実現される。前記第1の容量を用いて電荷蓄積用ゲート電極306に負電荷を蓄積する場合、ソース電極308に比べ正の電圧をゲート電極112に印加すればよい。例えばソース電極308の電圧をゼロとし、ゲート電極112の電圧を正とする。この場合、電荷蓄積用ゲート電極306の電位も前記第2の容量による容量結合でソース電極308より高くなる。言い換えると、電子に対するポテンシャルエネルギーが電荷蓄積用ゲート電極306においてソース電極308より低くなる。その結果伝導電子が第3の絶縁膜315をトンネルして第1の半導体316に流入し、電荷蓄積用ゲート電極306に到達して負電荷が蓄積される。従来のFETでは、電荷蓄積用ゲート電極306への負電荷の蓄積のために個別の電極を必要とした。しかし本願第二の発明の本実施例においては、電荷蓄積用ゲート電極306への負電荷の蓄積はソース電極308から行われる。そのため従来技術でFETを動作させるために必要であった4つの電極を3つに減らすことが出来る。その結果、FETを動作させるための外部回路を簡略化することができ、またFETの製造工程を簡素にし、さらにFETが基板上で占める面積を減らすことができる。なお、前記第1の容量が前記第2の容量に比べ十分小さくなるようにゲート電極112の面積、ソース電極308と電荷蓄積用ゲート電極306との重なり部分の面積、第2の絶縁膜111や第3の絶縁膜315の誘電率や厚さを選ぶ。直列に接続された二つの容量に印加される電圧はそれぞれの容量値に逆比例して配分されるため、前記第2の容量に比べより大きな電圧を前記第1の容量に印加することができる。その結果、第3の絶縁膜315のトンネリングが起こりやすくなり、効率よく負電荷を電荷蓄積用ゲート電極306に注入することができる。
【0043】
図3に示した本願第二の発明の実施例では、前記第1の容量を形成するソース電極308と電荷蓄積用ゲート電極306との重なり部分において、電荷蓄積用ゲート電極306側に第3の絶縁膜315、ソース電極308側に第1の半導体層316が設けられている。この構造は本願第一の発明における第1の容量と同様であり、図12A図12B図12Cにおいて電荷注入用電極1207をソース電極に置き換えた場合に相当する。負電荷注入時の伝導帯下端と価電子帯上端は図12Bと同様であり、ソース電極308と電荷蓄積用ゲート電極306との間の電圧の殆どすべてが第3の絶縁膜315に印加されるため、第3の絶縁膜315中のトンネリングで負電荷が蓄積される。一方、本実施例のFETをスイッチとして使用する際、ゲート電極112の静的電圧はスイッチオフ時にソース電極308を基準にしてほぼゼロとなる。さらにFETやスイッチ駆動回路の様々なリアクタンス成分により動的な電圧変動が生じゲート電極112の動的電圧が負となる場合もあり、ゲート電極112と電荷蓄積用ゲート電極306との前記第2の容量による容量結合で電荷蓄積用ゲート電極306の電位も負となる。この場合、前記第1の容量の電荷蓄積用ゲート電極306と反対側の電極はソース電極308であるため、前記第1の容量に電荷蓄積用ゲート電極306への負電荷蓄積時とは逆方向の電圧が印加されることになる。しかし本実施例では、本願第一の発明における第1の容量と同様に、電圧が第3の絶縁膜315と第1の半導体層316に分配されるため、第3の絶縁膜315にかかる電圧が小さくなる。これは本願第一の発明における図12Cに示す状況と同様である。その結果電荷蓄積用ゲート電極306に蓄えられた負電荷のトンネリングによる逆流を抑えることができ、ノーマリオフ動作に必要な正の閾値電圧が保持される時間を長くすることができる。
【0044】
図3に示した実施例の別の形態として、第3の絶縁膜315をソース電極308の側、第1の半導体層316を電荷蓄積用ゲート電極306の側に設け、第1の半導体層316をp型としてもよい。これは図14A図14B図14Cにおいて電荷注入用電極1407をソース電極に置き換えた場合に相当し、この場合も図3に示す構造と同様の効果が得られる。或いは第1の半導体層316をなくし第3の絶縁膜315のみにより第1の容量を形成してもよい。この場合は電荷蓄積用ゲート電極306に蓄積された負電荷の漏洩が増えるが、電極数の低減という本願第二の発明の効果は同様に得られる。
【0045】
本願第二の発明においては、第1の容量はソース電極もしくはドレイン電極と電荷蓄積用ゲート電極との間に形成すればよい。図3に示す実施例では、第1の容量をソース電極と電荷蓄積用ゲート電極との間に形成している。電荷蓄積用ゲート電極に負電荷を蓄積するには、電荷蓄積用ゲート電極に第1の容量の反対側の電極を基準にして正の電圧を印加する必要があり、そのためゲート電極に電荷蓄積用ゲート電極とは反対側の電極を基準にして正の電圧を印加しなければならない。第1の容量の電荷蓄積用ゲート電極とは反対側の電極をソース電極とすれば、電力用スイッチにおける通常の使用方法ではゲート電極にはソース電極を基準にして正の電圧が印加されるため、負電荷の蓄積するための駆動回路の設計が容易になる。ただし第1に容量をドレイン電極と電荷蓄積用ゲート電極との間に形成する場合も、それに合わせて駆動回路等を設計すれば同様の効果を得ることができる。以上の点は本願第二の発明の他の実施例、および後述する本願第三の発明において該当する実施形態についても同様である。
【0046】
図4は本願第二の発明の別の実施例を示す図である。本実施例の図3に示す実施例との違いは、第1の容量を形成する部分において、ソース電極408が電荷蓄積用ゲート電極406の上面ではなく基板101側に延在している点である。前記第1の容量を形成する部分のソース電極408側に第1の半導体層416、電荷蓄積用ゲート電極406側に第3の絶縁膜415を設け、第1の半導体層416はn型とする。FETのその他の部分の構造やFETをノーマリオフ化する方法、FETをスイッチとしての使用する場合の効果、類似の別形態は[0042]、[0043]、[0044]、および[0045]で説明した図3に示す実施例の場合と同様である。なお本実施例では電荷蓄積用ゲート電極406がソース電極408に乗り上げる形で第1の容量を形成しており、ソース電極408を形成する膜の上端のエッジ部が第1の容量内の構造に含まれる。電極エッジ部では電界が集中しトンネリングが起こりやすくなるため、電荷蓄積用ゲート電極406への負電荷の蓄積をより効率よく行うことができる。
【0047】
図5は本願第二の発明の別の実施例を示す図である。本実施例の図3に示す実施例との違いは、ソース電極508が電荷蓄積用ゲート電極506に延在するのではなく、電荷蓄積用ゲート電極506がソース電極508に延在し、第1の容量を形成している点である。前記第1の容量を形成する部分のソース電極508側に第1の半導体層516、電荷蓄積用ゲート電極506側に第3の絶縁膜515を設け、第1の半導体層516はn型とする。FETのその他の部分の構造やFETをノーマリオフ化する方法、FETをスイッチとしての使用する場合の効果、類似の別形態は[0042]、[0043]、[0044]、および[0045]で説明した図3に示す実施例の場合と同様である。
【0048】
図6は本願第二の発明の別の実施例を示す図である。本実施例の図3に示す実施例との違いは、ソース電極608が電荷蓄積用ゲート電極606に延在するのではなく、電荷蓄積用ゲート電極606がソース電極608に延在し、第1の容量を形成している点である。また図5に示す実施例との違いは、電荷蓄積用ゲート電極606がソース電極608に乗り上げるようにして延在している点である。前記第1の容量を形成する部分のソース電極608側に第1の半導体層616、電荷蓄積用ゲート電極606側に第3の絶縁膜615が設けられる。FETのその他の部分の構造やFETをノーマリオフ化する方法、FETをスイッチとして使用する場合の効果、類似の別形態は[0042]、[0043]、[0044]、および[0045]で説明した図3に示す実施例の場合と同様である。
【0049】
図7は本願第二の発明の別の実施例を示す図である。本実施例の図3に示す実施例との違いは、ソース電極708がゲート電極712よりさらにドレイン電極109側まで延在し、電荷蓄積用ゲート電極706と第1の容量を形成している点である。前記第1の容量を形成する部分のソース電極708側に第1の半導体層716、電荷蓄積用ゲート電極706側に第3の絶縁膜715を設ける。FETのその他の部分の構造やFETをノーマリオフ化する方法、FETをスイッチとして使用する場合の効果、類似の別形態は[0042]、[0043]、[0044]、および[0045]で説明した図3に示す実施例の場合と同様である。本実施例では電荷蓄積用ゲート電極706よりさらにドレイン電極109側に延在するソース電極708がいわゆるフィールドプレートとしても機能し、ドレイン電極109が高電圧となった際、その電圧の大部分が延在するソース電極708とドレイン電極109との間に印加されるため、電荷蓄積用ゲート電極706のドレイン電極109側の端部における電界集中を抑えることができる。これにより、電界集中部で起こりやすい電荷蓄積用ゲート電極706中の蓄積電荷の流出と、それによるノーマリオフFETとしても寿命の短縮を防止することができる。なお、図7に示す実施例ではソース電極708は電荷蓄積用ゲート電極706のドレイン電極109側端部においてA-A’に直行する方向全体に渡って容量結合し第3の容量を形成しているが、容量結合部分をA-A’に直行する方向の一部分に限定してもよく、さらには容量結合部分を素子分離領域114上に形成しても良い。第1の容量が低容量化されるため、負電荷注入の際により大きな電圧を第1の容量に印加することができ、効率良く負電荷を注入することができる。
【0050】
図8は本願第三の発明の一実施例である電界効果型トランジスタ装置の構造を示す図である。基板101上にバッファ層102、第1の窒化物半導体層103、第2の窒化物半導体層104が順次堆積される。基板としてはSi、GaN、サファイア、SiCなどが用いられる。また第2の窒化物半導体層104の少なくとも一部のバンドギャップは第1の窒化物半導体層103の少なくとも一部のバンドギャップより大きい。これにより、第1の窒化物半導体層103と第2の窒化物半導体層104との界面の第1の窒化物半導体層103側に導電チャネル110が形成される。例えば第1の窒化物半導体層103にGaN、第2の窒化物半導体層104にAlGaNを用いる。ここでAlGaNの組成をAlxGa1-xNと記述した場合のxは0<x≦1の関係を満たす。窒化物半導体材料としては、この他にInN、ScN、或いはこれらの窒化物半導体の混晶半導体をもちいてもよい。本願第三の発明の特徴部分として、複数本に分かれた電荷蓄積用ゲート電極806が第1の窒化物半導体層104上に第1の絶縁膜805を挟んで設けられる。電荷蓄積用ゲート電極806下部の導電チャネル110に形成されるゲート電極下部導電キャリア813と電荷蓄積用ゲート電極806との間の結合容量を第3の容量と呼ぶ。さらに電荷蓄積用ゲート電極806上に第2の絶縁膜811を挟んでゲート電極812が形成される。ゲート電極812と電荷蓄積用ゲート電極806との間の結合容量を第2の容量と呼ぶ。また、電荷蓄積用ゲート電極806を水平方向に挟んでソース電極808,ドレイン電極109が形成される。ソース電極808,ドレイン電極109はいずれも素子分離領域114に囲まれた内部領域で導電チャネル110に電気的に接続される。本実施例では、複数本に分かれた電荷蓄積用ゲート電極806は何れもソース電極808とドレイン電極109との間を流れる電流と交差するように配置される。ゲート電極812は直列に繋がれた前記第2の容量と前記第3の容量を介してゲート電極部導電キャリア813と容量結合する。ゲート電極812に印加される電圧でゲート電極部導電キャリア813のキャリア数を変化させることによりソース電極808とドレイン電極109との間に流れる電流を調節することができ、電界効果型トランジスタ(FET)としての動作が得られる。電荷蓄積用ゲート電極806、ゲート電極812、ソース電極808、ドレイン電極109はいずれも基板100上に於いて金属的に接続された部分をすべて含むものとする。従って、これら電極はそれぞれ1回の工程で形成される必要はなく、複数の工程で作成される膜を金属接触させて形成してもよい。これは本願第三の発明の他の実施例においても同様である。また膜の材料としては従来知られる単体金属、合金、化合物金属、ポリシリコンのような不純物を高濃度にドープし低抵抗化した半導体、或いはこれらの材料の組み合わせた材料を用いてもよい。これも本願第三の発明の他の実施例においても同様である。ソース電極808の一部は複数本に分かれた電荷蓄積用ゲート電極806のいずれとも重なるように延在し、ソース電極808と電荷蓄積用ゲート電極806との間の容量結合により第1の容量が形成される。また、前記第1の容量が形成される部分において電荷蓄積用ゲート電極806側に第3の絶縁膜815、ソース電極808側に第1の半導体層816が設けられる。前記第1の容量、前記第2の容量、および前記第3の容量の周辺部分は保護絶縁膜117で保護される。保護絶縁膜117は前記第1の容量、前記第2の容量、前記第3の容量を形成する絶縁膜を用いても良いし、別の絶縁膜を用いても良い。前記第1の容量は、電荷蓄積用ゲート電極806に電荷を蓄積させる際に用いられる。なお、第1の絶縁膜805、第2の絶縁膜811,及び第3の絶縁膜815の材料としては、従来知られる絶縁膜材料、例えば酸化シリコン、窒化シリコン、酸化窒化シリコン、アルミナ、ハフニア、ジルコニア、或いはこれらの材料の積層膜や混合膜を用いればよい。また第1の半導体層816の材料としては、従来知られる半導体材料、例えばシリコン、炭化シリコン、窒化物、あるいはそれらの積層膜や混合膜を用いればよい。半導体層は単結晶、多結晶の何れでもよい。[0031]でも述べたように、炭化シリコンはバンドギャップが大きく、破壊電界強度が高いため好ましい。一方多結晶シリコンは薄膜としての形成が容易であり、また第3の絶縁膜815に酸化シリコンを用いた場合トラップ準位の少ない良好な界面が得られる点で好ましい。シリコンはバンドギャップが小さく破壊電界強度が低いが、十分厚くすることにより所望の耐圧を得ることができる。或いは絶縁膜815に接する部分に薄いシリコンを用い、他の部分を例えば炭化シリコンのようなバンドギャップの大きい材料を用いれば、界面特性と耐圧の両方に優れる構造が得られる。また第1の半導体層816の導電型はn型とし、ソース電極808に対しオーム性或いはそれに近い低抵抗の電気的接触が得られるように形成する。n型不純物濃度は均一とするか、或いは濃度に傾斜を付け、第3の絶縁膜815側で低濃度、その反対側で高濃度としてもよい。傾斜をつけた場合、耐圧を確保しつつソース電極808との間に低抵抗の電気的接触が得られる。或いは第1の半導体層816に分極電荷を発生する材料を用いる場合、分極電荷を相殺する目的で薄い高濃度の不純物層を導入してもよい。第三の発明による本実施例では、電荷蓄積用ゲート電極806がソース電極808とドレイン電極109との間に流れる電流の方向に交差する複数の電極から構成されているため、電荷蓄積用ゲート電極806のどれか一本に接続されている前記第1の容量、前記第2の容量、或いは前記第3の容量に欠陥等に起因する電流漏洩が生じ蓄積電荷が流出しても、或いはどこか一か所に電界集中が起こりトンネリングによる電流漏洩が生じて蓄積電荷が流出しても、残りの電荷蓄積用ゲート電極806は影響を受けないため、FET全体としての閾値電圧は殆ど影響を受けない。これにより、閾値電圧を正の値に調節しノーマリオフ化したFETのノーマリオフFETとしての寿命を長くすることができる。また動作中にノーマリオンになることによる装置の故障を防ぐことができる。
【0051】
図8に示すFETは電荷蓄積用ゲート電極806が複数本で構成されている以外は図4に示すFETと同等であり、さらに図3に示すFETとも機能的に同等である。従ってFETのその他の部分の構造やFETをノーマリオフ化する方法、FETをスイッチとしての使用する場合の効果、類似の別形態は[0042]、[0043]、[0044]、および[0045]で説明した図3に示す実施例の場合と同様である。また前記第1の容量は電荷蓄積用ゲート電極806とソース電極808との間の容量結合により構成されるため、前記第1の容量による電荷蓄積用ゲート電極808への負電荷蓄積のために個別の電極を必要としない。即ち図3図4に示すFETと同様に本願第二の発明が用いられている。そのため、FETを動作させる際の外部回路を簡略化することができ、またFETの製造工程を簡素にし、さらにFETが基板上で占める面積を減らすことができる。ただし別の形態として、第1の容量を個別に設けた電荷注入用電極との間に形成してもよい。この場合、複数に分かれた電荷蓄積用ゲート電極806に対し纏めて一つの電荷注入用電極を設けてもよいし、あるいは複数に分けて設けてもよい。
【0052】
図9は本願第三の発明の別の実施例である電界効果型トランジスタ装置の構造を示す図である。本実施例では、複数の電荷蓄積用ゲート電極906が第1の絶縁膜905を挟んで第2の窒化物半導体層104上に形成されており、またゲート電極912が第2の絶縁膜911を挟んで電荷蓄積用ゲート電極906上に形成されている。本実施例の図8に示した実施例との違いは、複数本の電荷蓄積用ゲート電極906がソース電極908とドレイン電極109との間に流れる電流の方向に沿うように配置されている点である。第1の容量は、電荷蓄積用ゲート電極906がソース電極908に延在し乗り上げる形で形成される。図8に示す実施例は図4に示す本願第二の発明の実施例に類似していたのに対し、本実施例は図6に示す本願第二の発明の実施例と類似している。その他の部分は図8に示した実施例と同様である。従って、他の詳細については図8に示す実施例に関する説明がほぼ同様に当てはまる。本実施例では図8に示す実施例と異なり複数に分かれた電荷蓄積用ゲート電極906がソース電極908とドレイン電極109とを結ぶ方向を完全に遮っていない。しかしこの場合においても、ゲート電極912との容量結合によるゲート電極下部導電キャリア913中のキャリアの空乏化は横方向にも起こるため、電荷蓄積用ゲート電極906の電極間部分も含めてキャリアを消失させることができ、オフ状態が実現できる。ただし、複数の電荷蓄積用ゲート電極906のうちの一本から蓄積された負電荷が流出した場合、その部分では電流を遮断できなくなり、オフ状態で漏洩電流が発生する。しかし残りの部分はオフ状態が維持されるため、FETをスイッチとして用いる場合も装置全体への影響を最小限に抑えることができる。
【0053】
以上本明細書では、実施例として電荷蓄積用ゲート電極に負電荷を蓄積する場合について説明した。これにより導電チャネルがn型導電キャリア(伝導電子)からなるFETにおいて閾値電圧を正方向に変化させ、ノーマリオフ特性を得ることができる。一方本願発明は電荷蓄積層に正電荷を蓄積する場合に適用することもでき、この場合、第1の半導体層と第3の絶縁膜からなる積層膜において第1の半導体層と第3の絶縁膜の積層位置を入れ替えれば、正電荷蓄積時と逆方向の電圧が第1の容量に印加された時の蓄積された正電荷の流出を抑えることができる。例えば導電チャネルがp型導電キャリア(伝導ホール)からなるFETに適用した場合、ノーマリオフ特性を得ることができる。
【0054】
以上では本願発明を窒化物半導体FETに適用した場合について説明した。窒化物半導体FET、特に窒化物半導体HEMTは通常非常に大きな負の閾値電圧も持っており、FETのノーマリオフ化に関する本願発明は特に有効である。ただし、本願発明は窒化物半導体FETに限るものではなく、他の半導体材料を用いたFETにも適用できる。例えば炭化シリコン(SiC)は窒化物半導体と同様に電力スイッチ用FETの材料として用いられるが、本願発明はSiCを用いて作成されたFETについても同様に適用可能である。さらに、以上の発明ではソース電極とドレイン電極が同一平面上に作成されるいわゆる横型FETについて説明したが、ソース電極とドレイン電極との間の電流がいわゆるドリフト層を通過し縦方向に流れる縦型FETについても同様に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本願第1の発明乃至第3の発明による電界効果型トランジスタ装置は、本明細書で主として説明した電力用スイッチの他にも広く応用可能であり、例えば無線通信用電力増幅器を始めとする高周波装置におけるトランジスタとして応用可能である。
【符号の説明】
【0056】
101、1001・・・基板
102、1002・・・バッファ層
103、1003・・・第1の窒化物半導体層
104、1004・・・第2の窒化物半導体層
105、505、605、705、805、905、1005・・・第1の絶縁膜
106、206、306、406、506、606、706、806、906、1006・・・電荷蓄積用ゲート電極
107、207、1007、1207、1407・・・電荷注入用電極
108、308、408、508、608、708、808、908、1008・・・ソース電極
109、1009・・・ドレイン電極
110、1010・・・導電チャネル
111、511、611、711、811、911、1011・・・第2の絶縁膜
112、512、612、712、812、912、1012・・・ゲート電極
113、813、913、1013・・・ゲート電極部導電キャリア
114、1014・・・素子分離領域
115、215、315、415、615、715、815、915,1015、1215、1415・・・第3の絶縁膜
116、216、316、416、516、616、716、816、916、1216、1416・・・第1の半導体層
117・・・保護絶縁膜
1101、1201、1401・・・正電圧
1102、1105、1202、1402・・・トンネル電流
1103、1203、1403・・・負電荷
1104、1204、1404・・・負電圧
1301・・・電流低下
1405・・・界面における伝導ホール
1406・・・負電荷の逆流


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図11F
図12A
図12B
図12C
図13
図14A
図14B
図14C