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特開2023-93232乳酸菌スターター及びそれを用いて得られる発酵乳
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093232
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】乳酸菌スターター及びそれを用いて得られる発酵乳
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/123 20060101AFI20230627BHJP
   A23C 9/13 20060101ALI20230627BHJP
   A23C 9/133 20060101ALI20230627BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20230627BHJP
【FI】
A23C9/123
A23C9/13
A23C9/133
C12N1/20 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208740
(22)【出願日】2021-12-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】591033283
【氏名又は名称】オハヨー乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】保田 翔
(72)【発明者】
【氏名】井上 領
(72)【発明者】
【氏名】伊東 歩美
(72)【発明者】
【氏名】藤井 ひとみ
【テーマコード(参考)】
4B001
4B065
【Fターム(参考)】
4B001AC03
4B001AC31
4B001BC06
4B001BC14
4B001EC01
4B065AA01X
4B065AA30X
4B065AA49X
4B065AC14
4B065BB24
4B065CA42
(57)【要約】
【課題】冷蔵保存中に乳酸を生成することがほとんどなく、pHの低下が抑えられ、風味の劣化が生じることなく、高品質なおいしさを維持することのできる、プロバイオティクスを含む発酵乳を提供する。
【解決手段】原料乳に乳酸菌スターターが添加されて発酵されてなる発酵乳であって、前記乳酸菌スターターが、乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)と、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)及び乳糖非発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp.bulgaricus)からなる群から選択される少なくとも1種とを含む発酵乳である。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料乳に乳酸菌スターターが添加されて発酵されてなる発酵乳であって、
前記乳酸菌スターターが、乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)と、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)及び乳糖非発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp.bulgaricus)からなる群から選択される少なくとも1種とを含むことを特徴とする発酵乳。
【請求項2】
前記乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルスが、乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルスL-55-1株(受託番号:NITE P-03437)である請求項1に記載の発酵乳。
【請求項3】
前記乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスが、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスT-1株(受託番号:NITE P-03439)及び乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスV-1株(受託番号:NITE P-03441)からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載の発酵乳。
【請求項4】
前記乳糖非発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカスが、乳糖非発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカスB-1株(受託番号:NITE P-03436)である請求項1~3のいずれかに記載の発酵乳。
【請求項5】
原料乳に乳酸菌スターターが添加されて発酵されてなる発酵乳であって、前記乳酸菌スターターが、乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルスL-55-1株(受託番号:NITE P-03437)と、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスT-1株(受託番号:NITE P-03439)、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスV-1株(受託番号:NITE P-03441)及び乳糖非発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカスB-1株(受託番号:NITE P-03436)からなる群から選択される少なくとも1種とを含む発酵乳。
【請求項6】
乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルスL-55-1株(受託番号:NITE P-03437)と、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスT-1株(受託番号:NITE P-03439)、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスV-1株(受託番号:NITE P-03441)及び乳糖非発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカスB-1株(受託番号:NITE P-03436)からなる群から選択される少なくとも1種とを含む乳酸菌スターター。
【請求項7】
原料乳に乳酸菌スターターが添加されて発酵されてなる発酵乳の製造方法であって、
前記原料乳に0.01~1.5質量%のブドウ糖及び/又は0.01~10質量%の蔗糖を配合して殺菌ミックスを調整する工程、及び前記乳酸菌スターターを前記殺菌ミックスに添加して30~45℃で発酵する工程を含むことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の発酵乳の製造方法。
【請求項8】
前記発酵する工程後に、果実及び/又は野菜と、蔗糖、ブドウ糖及び果糖からなる群から選択される少なくとも1種の糖とを添加して2~18℃で保存する工程を行う請求項7に記載の発酵乳の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷蔵保存中の乳酸酸度の増加を抑制することのできる発酵乳に関する。
【背景技術】
【0002】
ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)は、ヒト腸内に生息する乳酸菌の一種であり、従来から保健機能効果が期待されるプロバイオティクス乳酸菌として発酵乳製品のスターターとして用いられてきた。ラクトバチルス・アシドフィルスL-55株(以下、「L-55株」と略記することがある)は、オハヨー乳業株式会社によって、ヒト糞便から分離、同定された腸管系のプロバイオティクス乳酸菌である。L-55株は抗菌物質産生能を有し、胆汁、胃液ならびに腸液に対して耐性であり、生きて腸まで到達することができることから、腸内環境の改善に優れた効果を発揮する機能性食品として利用されている。
【0003】
通常、発酵乳に含まれる乳酸菌は生菌であるため、冷蔵保存中にも酸生成が起こる。その結果、製造直後と比べて風味や発酵乳の組織などの品質が劣化し、製品の価値を大きく損なうといった課題が指摘されていた。この課題を解決するために様々な方法が開発されている。
【0004】
特許文献1には、ラクトバチルス・アシドフィルスの乳糖及び蔗糖非発酵性を特徴とする人工変異株を用いて乳酸菌含有飲料を製造する方法が記載されている。これによれば、製品保存時において酸度上昇のない乳酸菌飲料が得られるとされている。
【0005】
また、特許文献2には、ストレプトコッカス・サーモフィルス及びラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカスを含むスターター培養物を用いて乳を発酵する発酵乳製品の製造方法が記載されており、これら乳酸菌がラクトースを代謝することができないものであってもよいとの実施形態が記載されている。これによれば、非常に低い後酸性化活性を有する乳製品を提供できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭42-27293号
【特許文献2】特表2017-522012号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、製品保存時の酸生成を抑制できても必ずしも製品のおいしさを維持できる訳ではなく、ラクトバチルス・アシドフィルス菌単独では、乳での増殖が遅く、発酵遅延を引き起こす場合もあり、改善が望まれていた。また、特許文献2では、後酸性化を制御したとしても、これら乳酸菌による保健機能効果は期待できない。保健機能効果を有する発酵乳を得る目的でプロバイオティクス乳酸菌を別途追加することも考えられるが、必ずしも製品保存時の酸生成を抑制しつつ製品のおいしさを維持できる発酵乳が得られる訳ではなかった。また、フルーツソース(いちご・ブルーベリー等)と相性の良くない発酵乳となる場合もあり、改善が望まれていた。
【0008】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、冷蔵保存中に乳酸を生成することがほとんどなく、pHの低下が抑えられ、風味の劣化が生じることなく、高品質なおいしさを維持することのできる、プロバイオティクスを含む発酵乳を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルス、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルス、乳糖非発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカスの作出に成功した。これら乳酸菌を利用することにより、冷蔵保存中の酸生成が抑制され、風味の劣化が生じない発酵乳を見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、以下の[1]から[8]について提供するものである。
【0010】
[1]原料乳に乳酸菌スターターが添加されて発酵されてなる発酵乳であって、
前記乳酸菌スターターが、乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)と、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)及び乳糖非発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp.bulgaricus)からなる群から選択される少なくとも1種とを含むことを特徴とする発酵乳。
[2]前記乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルスが、乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルスL-55-1株(受託番号:NITE P-03437)である前記[1]の発酵乳。
[3]前記乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスが、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスT-1株(受託番号:NITE P-03439)及び乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスV-1株(受託番号:NITE P-03441)からなる群から選択される少なくとも1種である前記[1]又は[2]の発酵乳。
[4]前記乳糖非発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカスが、乳糖非発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカスB-1株(受託番号:NITE P-03436)である前記[1]~[3]の発酵乳。
[5]原料乳に乳酸菌スターターが添加されて発酵されてなる発酵乳であって、前記乳酸菌スターターが、乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルスL-55-1株(受託番号:NITE P-03437)と、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスT-1株(受託番号:NITE P-03439)、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスV-1株(受託番号:NITE P-03441)及び乳糖非発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカスB-1株(受託番号:NITE P-03436)からなる群から選択される少なくとも1種とを含む発酵乳。
[6]乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルスL-55-1株(受託番号:NITE P-03437)と、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスT-1株(受託番号:NITE P-03439)、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスV-1株(受託番号:NITE P-03441)及び乳糖非発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカスB-1株(受託番号:NITE P-03436)からなる群から選択される少なくとも1種とを含む乳酸菌スターター。
[7]原料乳に乳酸菌スターターが添加されて発酵されてなる発酵乳の製造方法であって、前記原料乳に0.01~1.5質量%のブドウ糖及び/又は0.01~10質量%の蔗糖を配合して殺菌ミックスを調整する工程、及び前記乳酸菌スターターを前記殺菌ミックスに添加して30~45℃で発酵する工程を含むことを特徴とする前記[1]~[5]の発酵乳の製造方法。
[8]前記発酵する工程後に、果実及び/又は野菜と、蔗糖、ブドウ糖及び果糖からなる群から選択される少なくとも1種の糖とを添加して2~18℃で保存する工程を行う前記[7]の発酵乳の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、冷蔵保存中に乳酸を生成することがほとんどなく、pHの低下が抑えられ、風味の劣化が生じることなく、高品質なおいしさを維持することのできる、プロバイオティクスを含む発酵乳を提供することができる。したがって、プレーンヨーグルトのみならず、フルーツヨーグルト、ドリンクヨーグルト等の発酵乳として好適に用いられ、当該発酵乳の品質を長期間維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例2のヨーグルトと対照ヨーグルトの乳酸酸度の経時変化を示した図である。
図2】実施例3のヨーグルトと対照ヨーグルトの乳酸酸度の経時変化を示した図である。
図3】実施例5のヨーグルトと対照ヨーグルトの乳酸酸度の経時変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の発酵乳は、原料乳に乳酸菌スターターが添加されて発酵されてなるものであって、前記乳酸菌スターターが、乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)と、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)及び乳糖非発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp.bulgaricus)からなる群から選択される少なくとも1種とを含むことを特徴とする。
【0014】
前記乳酸菌スターターを採用することで、冷蔵保存中に乳酸を生成することがほとんどなく、pHの低下が抑えられ、風味の劣化が生じることなく、高品質なおいしさを維持することのできる、プロバイオティクスを含む発酵乳を提供できることが明らかとなった。後述する実施例における対照ヨーグルトとの対比から明らかなように、乳糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルスと、乳糖発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルス及び乳糖発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカスからなる群から選択される少なくとも1種とを含む対照ヨーグルトでは、冷蔵保存中に乳酸酸度が増加して、pHが低下し、酸味が増大したり、製品のおいしさが損なわれたりした。これに対し、乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルスと、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルス及び乳糖非発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカスからなる群から選択される少なくとも1種とを含む実施例のヨーグルトでは、冷蔵保存中の乳酸酸度とpHの変化がほとんどなく、風味の劣化が生じることなく、高品質なおいしさを維持できていた。このことは本発明者らの検討により明らかになったことである。
【0015】
本明細書において「原料乳」は、哺乳類由来の獣乳のほか、植物由来の白い液状の物質、例えば豆乳、ココナッツミルク、オーツミルク、アーモンドミルクやライスミルクも広い意味で含まれる。獣乳には牛、羊、山羊、ラクダ、馬から採取した乳が含まれるが、本発明の発酵乳においては、牛由来の乳が原料乳として最も好ましく用いられる。また、「生乳」とは、牛由来の乳のうち、搾ったままで加熱殺菌などの処理を行っていないものをいう。前記原料乳における無脂乳固形分としては、3~15質量%であることが好ましく、5~13質量%であることがより好ましく、6~12質量%であることが更に好ましい。
【0016】
本明細書において「発酵乳」は、前記原料乳を発酵させたものであれば特に限定されず、ハードタイプ、ソフトタイプ、ドリンクタイプ、又はこれらが任意に混合されたものが含まれる。本発明の発酵乳における無脂乳固形分としては、3~15質量%であることが好ましく、5~13質量%であることがより好ましく、6~12質量%であることが更に好ましい。本発明の発酵乳の実施態様としては特に限定されないが、好適な例はヨーグルトである。前記ヨーグルトには、容器内で固まっているセットタイプのハードヨーグルト、発酵乳に果肉や果汁ソースが混ぜ込まれたフルーツヨーグルト、ドリンクヨーグルト等が含まれる。
【0017】
本発明における乳酸菌スターターは、乳糖非発酵性を示すものであり、乳糖をエネルギー源として利用できないため、当該乳酸菌によって資化される乳糖以外の炭水化物を原料乳に添加する必要がある。本発明における乳酸菌スターターにおける無脂乳固形分としては、0.1~0.5質量%であることが好ましい。前記炭水化物としては、乳糖以外のものであれば特に限定されず、ブドウ糖、蔗糖、果糖等が好適に採用され、ブドウ糖及び蔗糖からなる群から選択される少なくとも1種がより好適である。ブドウ糖の添加量としては、殺菌ミックス全量に対して、0.01~1.5質量%であることが好ましく、0.1~1.2質量%であることがより好ましく、0.3~1.0質量%であることが更に好ましく、0.5~0.8質量%であることが特に好ましい。また、蔗糖の添加量としては0.01~10質量%であることが好ましく、0.1~9質量%であることがより好ましく、1~8質量%であることが更に好ましい。
【0018】
前記乳酸菌スターターに含まれる、乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルスは、乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性を示すものであり、乳糖ではなくブドウ糖及び蔗糖をエネルギー源として発酵が行われ、プロバイオティクスとして用いられるものである。当該ラクトバチルス・アシドフィルスとしては、乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルスL-55-1株(受託番号:NITE P-03437)が好適に採用される。前記L-55-1株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託され、受託番号NITE P-03437が付与されたものである。前記L-55-1株は、乳糖発酵性を示すラクトバチルス・アシドフィルスL-55株を突然変異処理により乳糖が利用できないように作成した株である。当該L-55株は出願人保有の株である。L-55株とL-55-1株は、それぞれ以下の表1に示す細菌学的性質を持つものである。
【0019】
【表1】
【0020】
前記乳酸菌スターターに含まれる、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスは、乳糖非発酵性を示すものであるため、乳糖ではなくブドウ糖をエネルギー源として発酵が行われる。当該ストレプトコッカス・サーモフィルスとしては、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスT-1株(受託番号:NITE P-03439)及び乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスV-1株(受託番号:NITE P-03441)からなる群から選択される少なくとも1種が好適に採用される。前記T-1株と前記V-1株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託され、それぞれ受託番号NITE P-03439とNITE P-03441が付与されたものである。前記T-1株は、乳糖発酵性を示すストレプトコッカス・サーモフィルスT株を突然変異処理により乳糖が利用できないように作成した株であり、前記V-1株は、乳糖発酵性を示すストレプトコッカス・サーモフィルスV株を突然変異処理により乳糖が利用できないように作成した株である。これらT株及びV株は出願人保有の株である。T株、T-1株、V株及びV-1株は、それぞれ以下の表2に示す細菌学的性質を持つものである。
【0021】
【表2】
【0022】
前記乳酸菌スターターに含まれる、乳糖非発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカスは、乳糖非発酵性を示すものであるため、乳糖ではなく、ブドウ糖をエネルギー源として発酵が行われる。当該ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカスとしては、乳糖非発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカスB-1株(受託番号:NITE P-03436)が好適に採用される。前記B-1株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託され、受託番号NITE P-03436が付与されたものである。前記B-1株は、乳糖発酵性を示すラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカスB株を突然変異処理により乳糖が利用できないように作成した株である。当該B株は出願人保有の株である。B株及びB-1株は、それぞれ以下の表3に示す細菌学的性質を持つものである。
【0023】
【表3】
【0024】
本発明における乳酸菌スターターとしては、乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルスL-55-1株(受託番号:NITE P-03437)と、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスT-1株(受託番号:NITE P-03439)、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスV-1株(受託番号:NITE P-03441)及び乳糖非発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカスB-1株(受託番号:NITE P-03436)からなる群から選択される少なくとも1種とを含むものであることが特に好適な実施態様である。
【0025】
本明細書において「突然変異処理」は、乳酸菌が有する遺伝子の一部を変異させる処理であれば特に限定されない。例えば、エタンメタンスルホン酸、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)等を用いた化学的突然変異処理、紫外線処理等を用いた物理的突然変異処理などを行うことができる。L-55株は、紫外線処理等を用いた物理的突然変異処理に供するのが好ましく、T株、V株及びB株は、NTGを用いた化学的突然変異処理に供するのが好ましい。
【0026】
本明細書において「プロバイオティクス」は、宿主の健康とその維持増進に有益な効果をもたらす微生物調製物又は微生物細胞の構成物と定義される。一般に、プロバイオティクスとして用いられる細菌としては、Lactobacillus属やLactococcus属などの乳酸菌やBifidobacterium属のビフィズス菌などがある。本発明の発酵乳に含まれるプロバイオティクスは、腸管系のプロバイオティクス乳酸菌である乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルスであり、具体的にはL-55-1株である。
【0027】
本発明の発酵乳の製造方法としては特に限定されないが、原料乳に対して炭水化物を配合して殺菌ミックスを調整する工程、前記乳酸菌スターターを添加して発酵する工程を行うことが好適な実施態様である。前記乳酸菌スターターを添加する前に、前記乳酸菌スターターを培地で増殖させてスターターを得る工程を行うことも好適な実施態様である。また、前記発酵する工程の後、冷却する工程、均質化する工程等が適宜好適に採用される。なお、本明細書において「スターター」とは、殺菌ミックスに添加される乳酸菌スターターであって、予め脱脂粉乳等の食品グレードの成分を用いた培地等で増殖させたものをいう。
【0028】
前記殺菌ミックスを調整する工程において、前記殺菌ミックスには、原料乳、炭水化物及び水などが含まれるが、その他の成分として、脱脂粉乳、乳清たんぱく、生クリーム、無塩バター、通常ヨーグルトの製造に用いられる原料等が含まれていてもよい。得られる発酵乳のタイプにより適宜調整されるが、前記殺菌ミックスにおける原料乳の配合量としては、10~92質量%が好ましく、炭水化物の配合量としては、0.5~10質量%が好ましく、水の配合量としては、0.5~80質量%が好ましい。前記炭水化物としては乳糖以外のものであれば特に限定されず、ブドウ糖、蔗糖、果糖等が好適に採用され、ブドウ糖及び蔗糖からなる群から選択される少なくとも1種の炭水化物がより好適である。前記殺菌ミックスにおけるブドウ糖の配合量としては、0.01~1.5質量%であることが好ましく、0.1~1.2質量%であることがより好ましく、0.3~1.0質量%であることが更に好ましく、0.5~0.8質量%であることが特に好ましい。前記殺菌ミックスにおける蔗糖の配合量としては、0.01~10質量%であることが好ましく、0.1~9質量%であることがより好ましく、1~8質量%であることが更に好ましい。したがって、原料乳に0.01~1.5質量%のブドウ糖及び/又は0.01~10質量%の蔗糖を配合して殺菌ミックスを調整する工程が好適な実施態様である。前記原料乳としては、上記説明したものと同様のものが好適に採用される。前記その他の成分としては、0.5~15質量%が好ましい。
【0029】
前記発酵する工程では、前記乳酸菌スターターを前記殺菌ミックスに添加して発酵する工程を行う。このとき、前記乳酸菌スターターを添加する前に、前記乳酸菌スターターを培地で増殖させてスターターを得る工程が好適に採用される。
【0030】
前記スターターを得る工程では、前記乳酸菌スターターを炭水化物、酵母エキス等を含む培地で増殖させることが好ましい。前記培地としては特に限定されないが、脱脂乳培地が好適に採用される。前記炭水化物としては乳糖以外のものであれば特に限定されず、ブドウ糖、蔗糖、果糖等が好適に採用され、ブドウ糖及び蔗糖からなる群から選択される少なくとも1種の炭水化物がより好適であり、ブドウ糖が更に好適である。前記炭水化物の含有量としては、前記培地に対して1~5質量%が好ましい。また、前記酵母エキスの含有量としては、前記培地に対して0.05~2質量%が好ましい。増殖させる際の温度としては、30~43℃が好ましく、増殖させる際の時間としては、10~24時間が好ましい。
【0031】
前記酵母エキスとしては特に限定されず、酵母の自己消化液、酵母の抽出液の濃縮液、粉末等であってもよい。酵母の種類としては、ビール酵母、パン酵母、ワイン酵母、トルラ酵母等が挙げられ、特にビール酵母が好ましい。酵母エキスとしては、各社製造販売している酵母エキスを使用できる。
【0032】
こうして得られる前記スターターの生菌数としては、1.0×10~1.0×1012CFU/mLであることが好ましく、1.0×10~1.0×1011CFU/mLであることがより好ましく、1.0×10~1.0×1010CFU/mLであることが更に好ましい。
【0033】
本明細書において、「CFU」はColony Forming Unitの略であり、「CFU/mL」は寒天培地で検出された検体1mLあたりのコロニーの数のことである。コロニー数は、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令の別表二(七)乳等の成分規格の試験法(3)発酵乳及び乳酸菌飲料「3 乳酸菌数の測定法」に記載の方法で求められる。
【0034】
前記殺菌ミックスに添加する前記乳酸菌スターターの配合量としては、1~6質量%が好ましく、2~5質量%がより好ましい。前記乳酸菌スターターにおけるそれぞれの乳酸菌の配合量としては、乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルスが0.1~2.0質量%であることが好ましく、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスが0.1~2.0質量%であることが好ましく、乳糖非発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカスが0.1~2.0質量%であることが好ましい。中でも、乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルスが0.5~1.5質量%であることがより好ましく、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスが0.5~2.0質量%であることがより好ましく、乳糖非発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカスが0.3~1.5質量%であることがより好ましい。
【0035】
前記発酵する際の温度としては、30~45℃が好ましく、35~42℃がより好ましく、39~41℃が更に好ましい。また、前記発酵する際の時間としては、1~48時間が好ましく、2~24時間がより好ましく、3~12時間が更に好ましい。
【0036】
前記発酵する工程の後に得られる発酵乳の乳酸酸度としては、0.6~1.0%であることが好ましく、0.7~0.9%であることがより好ましい。また、前記発酵する工程の後に得られる発酵乳のpHとしては、4.2~5.0であることが好ましく、4.25~4.8であることがより好ましい。後述する実施例から明らかなように、本発明の発酵乳は、冷蔵保存中の乳酸酸度とpHの変化がほとんどなく、風味の劣化が生じることなく、高品質なおいしさを維持することができる。
【0037】
本明細書において「乳酸酸度」とは、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令の別表二(七)乳等の成分規格の試験法(1)乳及び乳製品「5 乳および乳製品の酸度の測定法」に記載の測定法により求めた測定値である。詳細は以下のとおりである。試料10mLに同量の炭酸ガスを含まない水を加えて希釈し、指示薬としてフェノールフタレイン液0.5mLを加えて0.1mоl/L水酸化ナトリウム溶液で30秒間微紅色の消失しない点を限度として滴定し、その滴定量から100g当たりの乳酸パーセント量を求め酸度とする。0.1mоl/L水酸化ナトリウム1mLは乳酸9mgに相当する。指示薬はフェノールフタレイン1gを50%エタノールに溶かして100mLとする。
【0038】
前記発酵する工程の後、冷却する工程が好適に行われる。風味の劣化が生じることなく、高品質なおいしさを維持する観点から、前記発酵が終了後にすぐに冷却することが好ましい。冷却する温度としては、4~12℃以下であることが好ましく、4~10℃であることがより好ましい。冷却する時間としては特に限定されず、4~24時間であることが好ましく、冷却した後にそのまま冷蔵保存しても構わない。本発明の発酵乳は、冷蔵保存中に乳酸を生成することがほとんどなく、pHの低下が抑えられ、風味の劣化が生じることなく、高品質なおいしさを維持することができる。
【0039】
前記発酵する工程の後、均質化する工程を行うことも好適な実施態様である。均質化する工程は、前記冷却する工程の前であっても後であっても同時であっても構わない。均質化する工程を行うことにより、均一な味わいの発酵乳が得られる利点を有する。均一化は、例えば、ホモジナイザー、ミキサー、フィルターによる均質化手段等を用いて行うことができ、ソフトタイプやドリンクタイプの発酵乳を得る際に好適に採用される。
【0040】
また、前記発酵する工程の後、果実及び/又は野菜と、蔗糖、ブドウ糖及び果糖からなる群から選択される少なくとも1種の糖とを添加して2~18℃で保存する工程を行うことも好適な実施態様である。これにより、様々な果実や野菜の風味を取り入れた発酵乳を得ることができる。
【0041】
本発明の発酵乳の実施形態としては特に限定されないが、好適な例はヨーグルトである。すなわち、本発明の発酵乳は、冷蔵保存中に乳酸を生成することがほとんどなく、pHの低下が抑えられ、風味の劣化が生じることなく、高品質なおいしさを維持することのできる、プロバイオティクスを含むヨーグルトとして好適である。前記ヨーグルトには、容器内で固まっているセットタイプのハードヨーグルト、滑らかにしたタイプのソフトヨーグルト、発酵乳に果肉や果汁ソースが混ぜ込まれたフルーツヨーグルト、ドリンクヨーグルト等が含まれる。
【実施例0042】
以下に本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
(A)乳糖非発酵性乳酸菌の単離
乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルスL-55-1株は、その親株である乳糖を資化できるラクトバチルス・アシドフィルスL-55株をUV照射によって突然変異を誘発させたのち、2%の乳糖及び200mg/mLのX-Galを含むMRS寒天培地上で乳糖非発酵性を示す白色コロニーとして選択単離した。
【0044】
乳糖非発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカスB-1株は、その親株である乳糖を資化するラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカスB株を200μg/mL濃度のニトロソグアニジンで変異誘発したのち、2%の乳糖及び200mg/mLのX-Galを含むMRS寒天培地上で乳糖非発酵性を示す白色コロニーとして選択単離した。
【0045】
乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスT-1株及びV-1株は、その親株である乳糖を資化するストレプトコッカス・サーモフィルスT株及びV株を100μg/mL濃度のニトロソグアニジンで突然変異を誘発したのち、1%の乳糖及び200mg/mLのX-Galを含む標準寒天培地(ニッスイ社製)上で乳糖非発酵性を示す白色コロニーとして選択単離した。
【0046】
(B)変異株の糖資化性の判定
上記(A)で取得した変異株の糖の資化性について以下のように試験した。表4に示す配合で作製した糖を含まないMRS液体培地4.5mLに対し、各糖源の10%溶液を0.5mLずつ加える。菌液を1v/v%ずつ接種して37℃にて72時間培養する。コントロールとして糖源の代わりに滅菌水を加えて同様に試験したものと黄変の度合いを比較して糖資化性を判定する。資化性ありは「+」、資化性なしは「-」とする。試験の結果を表5に示す。表5の結果から、L-55-1株、B-1株、T-1株及びV-1株は乳糖の資化性を失っており、乳糖を利用して乳酸を生成する能力がないことが分かる。
【0047】
本明細書において、「MRS液体培地」はDifco Lactobacilli MRS Broth(Difcoは登録商標 ベクトン・ディッキンソン・アンド・カンパニー製)を使用した。また、「MRS寒天培地」は上記MRS液体培地に細菌粉末寒天を1.5%添加したものである。
【0048】
【表4】
【0049】
【表5】
【0050】
実施例1
[ヨーグルトの製造]
L-55-1株、T-1株、V-1株及びB-1株の組合せを実施例1の乳酸菌スターターとした。表6に示した配合で殺菌ミックスを調整し、L-55-1株:1.00%、T-1株:0.80%、V-1株:0.70%、B-1株:0.50%の割合で接種し紙カップに100gずつ充填・蓋をして40℃で7時間発酵させ、実施例1のヨーグルトを製造した。実施例1のヨーグルトの無脂乳固形分は11.226%であった。なお、原料乳の無脂乳固形分は10.926%であり、前記乳酸菌スターターの無脂乳固形分は0.3%であった。対照として、T-1株、V-1株及びB-1株の代わりにAcidifix(登録商標、Chr Hansen Holding A/S)を表6に示した配合に対して0.02%接種して発酵させ、対照ヨーグルトを製造した。これらのヨーグルトを10℃で冷蔵保存した結果を表7及び8に示す。表7及び8の結果から、実施例1のヨーグルトは保存21日間においてpH、酸度の変化がなかった。
【0051】
【表6】
【0052】
【表7】
【0053】
【表8】
【0054】
[官能評価]
また、実施例1で得たヨーグルトについて専門パネル3名による官能評価を行った。具体的な方法を以下のとおりである。
容器変化、異臭、異味については1点識別法により評価を行った。具体的には、容器の膨張があるかどうか、酵母臭、カビ臭、その他の異臭、異味がそれぞれあるかどうかで判定を行った。2名以上が変化有と評価した時点で試験終了とした。
ホエー分離、色調変化、風味変化、製品のおいしさ等については6段階評価法により評価を行った。具体的には、以下の表9の評価基準に基づき各評価対象について点数を付けた。製品のおいしさの平均値を総合評価として算出した。結果を表10及び11に示す。表10及び11の結果から、保存14日間においてどちらも酸味の変化はなかったが、対照ヨーグルトでは保存14日目において甘味、香り、物性において変化が認められ、製品の総合的な味への影響が見られた。L-55-1と発酵させる乳酸菌として既成のスターターを選択すると、保存中の酸生成は抑制できるが、製品のおいしさは保持できないことが分かった。本発明の変異株の組み合わせ(L-55-1、B-1、T-1、V-1)で発酵させることで酸味を抑えられるだけでなく、風味において優れた保存性を持っていることが示された。
【0055】
【表9】
【0056】
【表10】
【0057】
【表11】
【0058】
実施例2
[ヨーグルトの製造]
実施例1と同様に、L-55-1株、T-1株、V-1株及びB-1株の組合せを実施例2の乳酸菌スターターとした。乳糖非発酵性の4つの乳酸菌であるL-55-1株、B-1株、T-1株及びV-1株を、いずれもブドウ糖1.5%及び酵母エキス0.1%を添加した10%脱脂乳培地で増殖させ、スターターとして用いた。スターターの生菌数はいずれも3.0×10~1.2×10CFU/mLの範囲内であった。表12に示した配合で調整した殺菌ミックスに対して、それぞれのスターターをL-55-1株:1.00%、T-1株:0.80%、V-1株:0.70%、B-1株:0.50%の割合で接種し、紙カップに100gずつ充填・蓋をして、39℃の発酵室内で9時間発酵させることで実施例2のヨーグルトを製造した。実施例2のヨーグルトの無脂乳固形分は9.281%であった。なお、原料乳の無脂乳固形分は8.981%であり、前記乳酸菌スターターの無脂乳固形分は0.3%であった。それぞれの親株、すなわちL-55株、B株、T株、V株をスターターとしたものを使用して対照ヨーグルトを製造した。10℃で冷蔵保存21日間における実施例2のヨーグルトと対照ヨーグルトの乳酸酸度の経時変化を図1、表13及び表14に示す。対照ヨーグルトは保存21日間で乳酸酸度が約0.17%増加していたが、実施例2のヨーグルトは保存21日間で増加した乳酸酸度は約0.02%だった。また、図1、表13及び表14の結果から分かるように、実施例2のヨーグルトは保存21日間においてpH、酸度ともにほとんど変化はなかった。一方、対照ヨーグルトはpHの低下、酸度の変化が大きく、保存中の酸味の増大も観察された。
【0059】
【表12】
【0060】
【表13】
【0061】
【表14】
【0062】
実施例3
[ドリンクヨーグルトの製造(L-55-1及びT-1使用)]
L-55-1株及びT-1株の組合せを実施例3の乳酸菌スターターとした。乳糖非発酵性の2つの乳酸菌であるL-55-1株及びT-1株を、ともにブドウ糖1.5%及び酵母エキス0.1%を添加した10%脱脂乳培地で増殖させ、スターターとして用いた。スターターの生菌数はいずれも3.0×10~1.2×10CFU/mLの範囲内であった。表15に示した配合で調整した殺菌ミックスに対して、2つのスターターをL-55-1株:1%、T-1株:2%の割合で接種し、39℃の発酵室内で9時間発酵させてヨーグルトを製造した。前記ヨーグルトは均質化をした後、紙コップに充填し、実施例3のヨーグルトを製造した。実施例3のヨーグルトの無脂乳固形分は11.757%であった。なお、原料乳の無脂乳固形分は11.457%であり、前記乳酸菌スターターの無脂乳固形分は0.3%であった。乳糖を資化するそれぞれの親株、すなわちL-55株及びT株をスターターにして対照ヨーグルトを製造した。10℃で冷蔵保存21日間における実施例3のヨーグルトと対照ヨーグルトの乳酸酸度の経時変化を図2、表16及び17に示す。表16及び表17の結果から分かるように、対照ヨーグルトは保存21日間で乳酸酸度は0.25%増加しており、酸味が強く感じられた。一方、実施例3のヨーグルトは保存中の乳酸生成は大きく抑制されており、酸味の変化は感じられなかった。
【0063】
【表15】
【0064】
【表16】
【0065】
【表17】
【0066】
実施例4
[ドリンクヨーグルトの製造(フルーツヨーグルト)]
実施例3により製造されたヨーグルトを発酵乳ベースとし、フルーツヨーグルトを製造した。苺果肉:50%、果糖ブドウ糖液糖:14%、ショ糖:10%、香料:0.5%、水:25.5%の割合で配合した果肉ソースを、前記発酵乳ベースと前記果肉ソースとが7:3となるように混合し、実施例4のヨーグルトを製造した。実施例4のヨーグルトの無脂乳固形分は8.230%であった。また、実施例3で使用した対照ヨーグルトを対照発酵乳ベースとし、前記対照発酵乳ベースと前記果肉ソースとを7:3で混合し、実施例4の対照ヨーグルトを製造した。10℃で21日間冷蔵保存した結果を表18及び19に示す。表18及び19の結果から分かるように、フルーツヨーグルトである実施例4のヨーグルトは保存21日間においてpH、酸度ともにほとんど変化はなかった。一方、実施例4の対照ヨーグルトはpHの低下、酸度の変化が大きかった。
【0067】
【表18】
【0068】
【表19】
【0069】
実施例5
[ドリンクヨーグルトの製造(L-55-1及びV-1使用)]
L-55-1株及びV-1株の組合せを実施例5の乳酸菌スターターとした。乳糖非発酵性の2つの乳酸菌であるL-55-1株及びV-1株を、ともにブドウ糖1.5%及び酵母エキス0.1%を添加した10%脱脂乳培地で増殖させ、スターターとして用いた。スターターの生菌数はいずれも3.0×10~1.2×10CFU/mLの範囲内であった。表20に示したような配合で調整した殺菌ミックスに対して、2つのスターターをL-55-1株:1%、V-1株:2%の割合で接種し、39℃の発酵室内で9時間発酵させてヨーグルトを製造した。前記ヨーグルトは均質化をした後、紙コップに充填し、実施例5のヨーグルトを製造した。実施例5のヨーグルトの無脂乳固形分は10.979%であった。なお、原料乳の無脂乳固形分は10.679%であり、前記乳酸菌スターターの無脂乳固形分は0.3%であった。乳糖を資化するそれぞれの親株、すなわちL-55株及びT株をスターターにして対照ヨーグルトを製造した。10℃で冷蔵保存21日間における実施例5のヨーグルトと対照ヨーグルトの乳酸酸度の経時変化を図3、表21及び22に示す。図3、表21及び22の結果から分かるように、実施例5のヨーグルトは保存21日間においてpH、酸度ともにほとんど変化はなかった。一方、実施例5の対照ヨーグルトはpHの低下、酸度の変化が大きく、保存中の酸味の増大も観察された。
【0070】
【表20】
【0071】
【表21】
【0072】
【表22】

図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2022-07-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料乳に乳酸菌スターターが添加されて発酵されてなる発酵乳であって、
前記乳酸菌スターターが、乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)と、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)及び乳糖非発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp.bulgaricus)からなる群から選択される少なくとも1種とを含む(ただし、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)が含まれる場合を除く)ことを特徴とする発酵乳。
【請求項2】
前記乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルスが、乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルスL-55-1株(受託番号:NITE P-03437)である請求項1に記載の発酵乳。
【請求項3】
前記乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスが、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスT-1株(受託番号:NITE P-03439)及び乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスV-1株(受託番号:NITE P-03441)からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載の発酵乳。
【請求項4】
前記乳糖非発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカスが、乳糖非発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカスB-1株(受託番号:NITE P-03436)である請求項1~3のいずれかに記載の発酵乳。
【請求項5】
原料乳に乳酸菌スターターが添加されて発酵されてなる発酵乳であって、前記乳酸菌スターターが、乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルスL-55-1株(受託番号:NITE P-03437)と、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスT-1株(受託番号:NITE P-03439)、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスV-1株(受託番号:NITE P-03441)及び乳糖非発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカスB-1株(受託番号:NITE P-03436)からなる群から選択される少なくとも1種とを含む(ただし、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)が含まれる場合を除く)発酵乳。
【請求項6】
乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルスL-55-1株(受託番号:NITE P-03437)と、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスT-1株(受託番号:NITE P-03439)、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスV-1株(受託番号:NITE P-03441)及び乳糖非発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカスB-1株(受託番号:NITE P-03436)からなる群から選択される少なくとも1種とを含む(ただし、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)が含まれる場合を除く)乳酸菌スターター。
【請求項7】
原料乳に乳酸菌スターターが添加されて発酵されてなる発酵乳の製造方法であって、
前記原料乳に0.01~1.5質量%のブドウ糖及び/又は0.01~10質量%の蔗糖を配合して殺菌ミックスを調整する工程、及び前記乳酸菌スターターを前記殺菌ミックスに添加して30~45℃で発酵する工程を含むことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の発酵乳の製造方法。
【請求項8】
前記発酵する工程後に、果実及び/又は野菜と、蔗糖、ブドウ糖及び果糖からなる群から選択される少なくとも1種の糖とを添加して2~18℃で保存する工程を行う請求項7に記載の発酵乳の製造方法。
【手続補正書】
【提出日】2022-10-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料乳に乳酸菌スターターが添加されて発酵されてなる発酵乳であって、前記乳酸菌スターターが、乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルスL-55-1株(受託番号:NITE P-03437)と、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスT-1株(受託番号:NITE P-03439)、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスV-1株(受託番号:NITE P-03441)及び乳糖非発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカスB-1株(受託番号:NITE P-03436)からなる群から選択される少なくとも1種とを含む(ただし、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)が含まれる場合を除く)発酵乳。
【請求項2】
乳糖非発酵性かつ蔗糖発酵性ラクトバチルス・アシドフィルスL-55-1株(受託番号:NITE P-03437)と、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスT-1株(受託番号:NITE P-03439)、乳糖非発酵性ストレプトコッカス・サーモフィルスV-1株(受託番号:NITE P-03441)及び乳糖非発酵性ラクトバチルス・デルブリッキー亜種ブルガリカスB-1株(受託番号:NITE P-03436)からなる群から選択される少なくとも1種とを含む(ただし、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)が含まれる場合を除く)乳酸菌スターター。
【請求項3】
原料乳に乳酸菌スターターが添加されて発酵されてなる発酵乳の製造方法であって、
前記原料乳に0.01~1.5質量%のブドウ糖及び/又は0.01~10質量%の蔗糖を配合して殺菌ミックスを調整する工程、及び前記乳酸菌スターターを前記殺菌ミックスに添加して30~45℃で発酵する工程を含むことを特徴とする請求項に記載の発酵乳の製造方法。
【請求項4】
前記発酵する工程後に、果実及び/又は野菜と、蔗糖、ブドウ糖及び果糖からなる群から選択される少なくとも1種の糖とを添加して2~18℃で保存する工程を行う請求項に記載の発酵乳の製造方法。