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特開2023-9327イオン発生装置、粒子線加速装置および粒子線治療システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009327
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】イオン発生装置、粒子線加速装置および粒子線治療システム
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/08 20060101AFI20230113BHJP
   A61N 5/10 20060101ALI20230113BHJP
   H05H 7/08 20060101ALI20230113BHJP
   G21K 5/04 20060101ALI20230113BHJP
   H01J 27/24 20060101ALI20230113BHJP
   H05H 1/24 20060101ALN20230113BHJP
【FI】
H01J37/08
A61N5/10 H
H05H7/08
G21K5/04 A
H01J27/24
H05H1/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112477
(22)【出願日】2021-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 裕人
(72)【発明者】
【氏名】関 孝義
【テーマコード(参考)】
2G084
2G085
4C082
5C101
【Fターム(参考)】
2G084AA12
2G084BB11
2G084CC27
2G084CC31
2G084DD39
2G085AA11
2G085AA13
2G085BA13
2G085CA01
2G085CA24
2G085EA07
4C082AA01
4C082AC05
4C082AE01
5C101AA39
5C101DD09
5C101DD19
5C101FF03
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、イオン発生装置が発生するイオンビームのパルス幅を大きくすることである。
【解決手段】イオン発生装置20は、レーザ装置2aおよび2bを備えている。また、イオン発生装置20は、レーザ装置2aおよび2bに対応して設けられたレーザ光路3aおよび3bと、波長板5およびビームスプリッタ4を備えている。レーザ光路3aおよび3bは、異なる光路長を有する。レーザ光路3aおよび3bは、それぞれ、レーザ装置2aおよび2bが発生したレーザ光をビームスプリッタ4に導く。ビームスプリッタ4は、レーザ光路3aおよび3bに導かれた光を統合してターゲット14に照射する。ターゲット14は、ビームスプリッタ4から照射された光に応じたイオンを発生する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレーザ源と、
複数の前記レーザ源に対応して設けられた複数の光路であって、対応する前記レーザ源が発生したレーザ光をそれぞれが導く複数の光路と、
複数の前記光路に導かれた光を統合して、ターゲットに照射する光統合器と、を備え、
前記ターゲットは、前記光統合器から照射された光に応じたイオンを発生し、
複数の前記光路は、異なる光路長を有することを特徴とするイオン発生装置。
【請求項2】
レーザ源と、
前記レーザ源が発生したレーザ光を分離する光分離器と、
前記光分離器によって得られた複数のレーザ光を導く複数の光路と、
複数の前記光路に導かれた光を統合して、ターゲットに照射する光統合器と、を備え、
前記ターゲットは、前記光統合器から照射された光に応じたイオンを発生し、
複数の前記光路は、異なる光路長を有することを特徴とするイオン発生装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のイオン発生装置において、
複数の前記光路の少なくとも1つに設けられた光路長調整機構を備えることを特徴とするイオン発生装置。
【請求項4】
請求項3に記載のイオン発生装置において、
前記光路長調整機構は、
ミラーと、
前記ミラーを移動するミラー移動機構を備え、
前記ミラーへの光の入射および前記ミラーでの光の反射による光路を形成し、
前記ミラーの位置を調整することで光路長を調整することを特徴とするイオン発生装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のイオン発生装置において、
複数の前記光路の少なくとも1つに設けられ、複数のミラーを備える遅延光学系を備え、
前記複数のミラーは、
前段のミラーに入射し、前段のミラーで反射した光が次段のミラーに入射するように、縦続配置されていることを特徴とするイオン発生装置。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載のイオン発生装置において、
複数の前記光路の少なくとも1つに設けられ、対向配置されたミラーの間に複数回に亘って光を往復させる遅延光学系を備えることを特徴とするイオン発生装置。
【請求項7】
請求項1に記載のイオン発生装置において、
2つの前記レーザ源および2つの前記光路を備え、
前記光統合器は、
2つの前記光路のうちの一方に設けられた波長板であって、2つの前記光路が導く光の偏光方向を異ならせる波長板と、
2つの前記光路に導かれた2つの光のうちの一方を反射し、その反射した光の方向に他方を透過するビームスプリッタと、を備えることを特徴とするイオン発生装置。
【請求項8】
請求項2に記載のイオン発生装置において、
前記光分離器は、
入射した光の偏光方向を変化させる波長板と、
偏光方向が異なる2つの光のうちの一方を反射し、その反射した光の方向とは異なる方向に他方を透過するビームスプリッタと、を備えることを特徴とするイオン発生装置。
【請求項9】
請求項1または請求項2に記載のイオン発生装置と、
前記イオン発生装置が発生したイオンを加速する加速器と、を備え、
前記加速器からイオンが取り出される周期と同一の周期で、前記レーザ源がレーザ光を繰り返し出力することを特徴とする粒子線加速装置。
【請求項10】
請求項9に記載の粒子線加速装置と、
前記粒子線加速装置から取り出されたイオンを輸送するイオンビーム輸送装置と、
前記イオンビーム輸送装置によって輸送された前記イオンを患者に照射する照射装置と、
を備えることを特徴とする粒子線治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン発生装置、粒子線加速装置および粒子線治療システムに関し、特に、光の照射に応じてイオンを発生するターゲットを用いた装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線を患部に照射する粒子線治療が広く行われている。一般に、粒子線治療では加速器を備える粒子線治療システムが用いられる。加速器には、炭素イオンやヘリウムイオン、陽子等のイオンが注入され、治療に必要なエネルギーを有するようになるまでイオンが加速される。加速器によって加速されたイオンによるビームは、患部に向けて照射される。粒子線治療システムでは、患部の位置や形状に合わせてイオンビームのエネルギーや空間的な広がりが調整される。
【0003】
加速器には、シンクロトロンやサイクロトロンがある。シンクロトロンでは、イオンの軌道を曲げる磁場と高周波電場の周波数を時間的に変化させることで、イオンが軌道半径を一定に保ちながら加速し、イオンのエネルギーが加速と共に大きくなる。シンクロトロンでは、イオンが通過する環状の経路が構築されている。設計上の最大エネルギーにイオンのエネルギーが到達する前に、イオンの通過経路に設けられた取り出し口からイオンが取り出され、イオンビームのエネルギーが制御可能である。しかし、シンクロトロンには、サイクロトロンと比較して設備が大型になってしまうという問題がある。
【0004】
サイクロトロンでは、磁場に注入されたイオンが高周波電場によって加速し、容器内を周回運動する。イオンは加速と共に軌道半径を大きくしながら周回する。イオンのエネルギーは軌道半径が大きくなるにつれて大きくなり、最大のエネルギーに到達したところでイオンが取り出される。サイクロトロンでは、最大のエネルギーに到達したところでイオンが取り出されるため、荷電粒子ビームのエネルギーを制御することは困難である。
【0005】
加速器には、以下の特非特許文献1に記載されているようなシンクロサイクロトロンもある。シンクロサイクロトロンでは、一定の周波数の高周波電場でイオンが加速されるサイクロトロンとは異なり、イオンの質量変化に起因する運動周期の変化に応じて高周波電場の周波数が変調される。この周波数変調によって、高周波電場が発生する領域をイオンが通過するときにイオンが加速する。シンクロサイクロトロンでは、サイクロトロンと同様の理由により、取り出される荷電粒子ビームのエネルギーを制御することは困難である。
【0006】
以下の特許文献1には、取り出されるイオンのエネルギーが制御可能な偏心軌道型加速器が記載されている。一般的なサイクロトロンでは、イオンを周回運動させる容器の上面の中心にイオン注入口が設けられ、容器の側面にイオン取り出し口が設けられている。
【0007】
これに対し偏心軌道型加速器では、容器上面の中心よりもビーム取り出し口側にずれた位置にイオン注入口が設けられている。これによって、異なるエネルギーのイオンが周回する複数のビーム周回軌道が、ビーム取り出し口側で密になる。そのため、ビーム取り出し口付近において、エネルギーの異なるイオンをビーム周回軌道から離脱させることが容易となり、エネルギーの異なる荷電粒子ビームが効率よく取得される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-96404号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】W. Kleeven, “The IBA Superconducting Synchrocyclotron Project S2C2”, Proceedings of Cyclotrons 2013
【非特許文献2】B. Sharkov,“LaSer Ion SourceS”,IEEE TranSactionS on PlaSma Science 33, 6 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
サイクロトロン、シンクロトロン、および偏心軌道型加速器においてイオンビームを加速する場合、イオン源として内部イオン源または外部イオン源のいずれかを利用することが考えられる。内部イオン源には、PIGイオン源等があり、外部イオン源には、ECRイオン源や非特許文献2に記載のレーザイオン源がある。一般に、炭素イオンC6+等の重粒子を加速する場合には外部イオン源が利用される。
【0011】
レーザイオン源には、光の照射に応じてイオンを発生するターゲットが用いられる。レーザイオン源は、パルスレーザとターゲットを相互作用させることでイオンを発生する。発生するイオンビームの時間構造は、パルスレーザのパルス幅と相関を持つ。すなわち、パルスレーザのパルス幅が大きい程、発生するイオンビームのパルス幅が大きくなる傾向がある。そのため、パルスレーザのパルス幅が小さい場合には、加速器が必要とするイオンビームの入射時間に対してイオンビームのパルス幅が小さくなってしまうことがあり、ビームの時間平均電流量が低下してしまうことがある。
【0012】
本発明の目的は、イオン発生装置が発生するイオンビームのパルス幅を大きくすることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、複数のレーザ源と、複数の前記レーザ源に対応して設けられた複数の光路であって、対応する前記レーザ源が発生したレーザ光をそれぞれが導く複数の光路と、複数の前記光路に導かれた光を統合して、ターゲットに照射する光統合器と、を備え、前記ターゲットは、前記光統合器から照射された光に応じたイオンを発生し、複数の前記光路は、異なる光路長を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、イオン発生装置が発生するイオンビームのパルス幅を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係るイオン発生装置の構成を示す図である。
図2】イオン発生部の断面図である
図3】ターゲットに照射されるレーザ光の時間構造の概念図である。
図4】イオンビームの電荷量の時間構造の概念図である。
図5】第2実施形態に係るイオン発生装置の構成を示す図である。
図6】ミラーを用いた遅延光学系の構成を示す図である。
図7】凹面鏡を用いた遅延光学系の構成を示す図である。
図8】粒子線加速装置の構成を示す図である。
図9】粒子線治療システムの構成を示す図である、
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の各実施形態が図面を用いて説明される。複数の図面に示された同一の構成要素については同一の符号を付してその説明が省略される。
【0017】
図1には、第1実施形態に係るイオン発生装置20の構成が示されている。イオン発生装置20は、イオン発生部1、レーザ装置2a、2b、およびレーザ光学系8を備えている。レーザ光学系8は、ビームスプリッタ4、波長板5およびミラー6を備えている。レーザ装置2aおよび2bには、例えば炭酸ガスレーザ、ヘリウムネオンレーザ、YAGレーザ、チタンサファイアレーザ等が用いられてよい。
【0018】
ビームスプリッタ4は入射光の直線偏光の向きに応じて、光を透過および反射する。直線偏光は、P偏光およびS偏光に分類される。波長板5は入射光に含まれる1方向の偏光成分に所定角度の位相変化を与えることで、直線偏光の向きを進行方向に垂直な面内で回転する。入射光に含まれる1方向の偏光成分に180°の位相変化を与えるように波長板5が構成されている場合、波長板5は、直線偏光の向きを進行方向に垂直な面内で90°回転する。
【0019】
本実施形態では、レーザ装置2aおよび2bからレーザ光学系8を通じてイオン発生部1にレーザ光が入射される。レーザ装置2aからビームスプリッタ4に1つのレーザ光が入射され、レーザ装置2bからミラー6に別のレーザ光が入射される。ミラー6で反射したレーザ光は波長板5を介してビームスプリッタ4に入射し、ビームスプリッタ4で2つのレーザ光が統合される。
【0020】
ビームスプリッタ4はP偏光を透過し、S偏光を反射するように構成されている。レーザ装置2aから発せられ、レーザ光路3aを通るレーザ光がP偏光である場合、そのレーザ光はビームスプリッタ4を透過する。
【0021】
さらに、レーザ装置2bから発せられるレーザ光もP偏光である場合、レーザ光路3bにおいて波長板5に入射したレーザ光は、波長板5で直線偏光の向きが変えられる。本実施形態では、90°だけ偏光方向を回転させるように波長板5の回転角が決められているため、レーザ光路3bを通過したレーザ光はS偏光となる。したがって、レーザ光路3bを通過したレーザ光は、ビームスプリッタ4に入射した後に反射し、レーザ光路3aを通過した光とレーザ光路3bを通過した光は同じレーザ光路3を通過し、イオン発生部1に入射する。
【0022】
このように、レーザ装置2aとレーザ装置2bから発せられたレーザ光は異なるレーザ光路3aおよび3bを経由し、ターゲット14に照射される。本実施形態では、レーザ光路3aおよび3bは光路長が異なる。そのため、レーザ装置2aとレーザ装置2bから同時に発せられたレーザ光がターゲット14に照射される時間に差異が生じる。これによって、照射されるタイミングがずれた2つのレーザ光がターゲット14に照射され、ターゲット14に照射されるレーザ光のパルス幅が大きくなる。さらには、後述する原理によって、イオン発生装置20が発生するイオンビームのパルス幅が大きくなる。
【0023】
図2には、イオン発生部1の断面図が示されている。イオン発生部1は、光学窓11、チェンバー12、軸外し放物面鏡13、ターゲット14および引き出し電極16を備えている。チェンバー12は、軸外し放物面鏡13、ターゲット14および引き出し電極16を収容する。光学窓11は、レーザ光を透過する材料で形成されている。
【0024】
チェンバー12内に光学窓11を介して入射したレーザ光は、集光系である軸外し放物面鏡13によって、ターゲット14上に集光される。軸外し放物面鏡13に代えて、放物面鏡や光学レンズが用いられてもよい。また、レーザ光の取り回しのため、ミラー等の光学機器が適宜設置されてもよい。集光されたレーザ光の強度がターゲット14を構成する原子を電離させるのに十分な強度である場合、プラズマ15が発生する。典型的な集光強度は、10W/cmから1014W/cm程度であり、必要なイオンの電荷量や価数に応じて変更することができる。
【0025】
ターゲット14は、発生させるイオンの種類に応じて変更されてよく、固体、液体、気体のいずれであってもよい。ターゲット14が液体および気体の場合は、その供給量を変更することで、イオンビーム17の電荷量が変更され得る。また、ターゲット14は複数備えられてもよく、レーザ光の照射対象及び照射タイミングを制御することで、発生するイオンの種類や価数が切り替えられる。
【0026】
ターゲット14の後段にある引き出し電極16には高周波電圧が印加されている。プラズマ15が引き出し電極16を通過することでプラズマ15を構成する電子とイオンが分離され、分離されたイオンはイオンビーム17として、より後段にある加速器へ入射される。
【0027】
図3には、ターゲット14に照射されるレーザ光の時間構造の概念図が示されている。横軸は時間を示し縦軸は光子数を示す。レーザ装置2aおよび2bがパルスレーザ装置であり、パルス状の時間波形を有するレーザ光を出力する場合、あるレーザパルス幅32を持つレーザパルス31がターゲット14に照射される。レーザ装置2aおよび2bに対応するレーザ光路3aおよび3bの光路長が異なるため、レーザ遅延時間33だけ時間差がある2つのレーザパルス31がターゲット14に照射される。レーザ遅延時間33は、レーザ光路3aおよび3bの光路長の差異に応じて定まる。
【0028】
ターゲット14にレーザ光が照射される周期であるレーザ繰り返し周期34が、レーザパルス幅32およびレーザ遅延時間33よりも十分に長い場合、レーザ繰り返し周期34ごとに2つのレーザパルス31がターゲット14に照射される。
【0029】
図4には、イオンビームの電荷量の時間構造の概念図が示されている。横軸は時間を示し縦軸は電荷量を示す。レーザパルス31がターゲット14に照射され、ターゲット14で生じたプラズマ15が引き出し電極16を通過することで、イオンビームパルス41が発生する。イオンビームパルス42は、パルス状の時間波形を有するイオンビームである。プラズマ15は、レーザパルス31のターゲット14への照射時刻に応じた時刻に発生する。イオンビームパルス41は、レーザパルス31の照射時刻からある時間遅延した後に発生する。
【0030】
レーザパルス31が図3に示された時間構造を持つ場合、イオンビームパルス41は、あるイオンビームパルス幅42を持つ。2つのレーザパルス31がターゲット14に照射されるため、2つのイオンビームパルス41が、イオンビームパルス遅延時間43の時間差のあるタイミングで発生する。2つのイオンビームパルス41が発生している時間幅は、実効的なイオンビームパルス幅44とみなされてよい。
【0031】
イオンビームパルス41の発生が繰り返される周期46(イオンビームパルス繰り返し周期46)は、レーザ繰り返し周期34によって決まる。イオンビームパルス41の極大値(電荷量の極大値)およびイオンビームパルス幅42は、照射するレーザの集光強度やレーザパルス幅32によって調整され、これによって加速器へ入射するイオンの電荷量が調整され得る。
【0032】
実効的なイオンビームパルス幅44は、レーザの集光強度やレーザパルス幅32に加え、レーザ遅延時間33を変更することで調節され得る。レーザ遅延時間33は、レーザ装置2aおよび2bからのレーザパルス31の発生時刻の変更によって調整され得る。
【0033】
本実施形態では、2台のレーザ装置を備える構成が示されたが、レーザ装置の台数に応じた個数のレーザ光学系8を備えることで、実効的なイオンビームパルス幅44の伸展が可能である。上記では、レーザ光学系8の構成要素が同一平面上にある例が示されたが、各構成要素は立体的に配置されてもよく、より小型なイオン発生装置20が提供され得る。
【0034】
本実施形態に係るイオン発生装置20の一般化された構成が以下に説明される。イオン発生装置20は、2つのレーザ源としてのレーザ装置2aおよび2bを備えている。また、イオン発生装置20は、レーザ装置2aおよび2bに対応して設けられた2つの光路として、レーザ光路3aおよび3bを備え、さらに、光統合器としての波長板5、ビームスプリッタ4および軸外し放物面鏡13を備えている。レーザ光路3aおよび3bは異なる光路長を有する。
【0035】
光統合器を構成する波長板5は、2つのレーザ光路3aおよび3bのうちの一方に設けられてよく、レーザ光路3aおよび3bが導く光の偏光方向を異ならせる。ビームスプリッタ4は、レーザ光路3aおよび3bに導かれた2つの光のうちの一方を反射し、その反射した光の方向に他方の光を透過する。
【0036】
レーザ光路3aおよび3bは、それぞれに対応するレーザ装置2aおよび2bが発生したレーザ光をビームスプリッタ4に導く。ビームスプリッタ4は、レーザ光路3aおよび3bに導かれた光を統合してイオン発生部1に入射する。イオン発生部1におけるターゲット14は、レーザ光学系8に入射した光に応じたイオンを発生する。
【0037】
なお、レーザ装置、ビームスプリッタおよびレーザ光路を追加することで、3台以上のレーザ装置が発生したレーザ光を、光路長が異なる3つ以上のレーザ光路に導かせて、統合する構成が用いられてもよい。複数の光路長のうちの少なくとも1つには、後述する光路長調整機構が設けられてもよい。
【0038】
図5には、第2実施形態に係るイオン発生装置22の構成が示されている。イオン発生装置22は、イオン発生部1、レーザ装置2、およびレーザ光学系9を備えている。レーザ光学系9は、波長板5、ビームスプリッタ4a、4b、ミラー6a、6b、6cおよびミラー移動機構7を備えている。
【0039】
イオン発生装置22では、レーザ光路3aおよび3bが形成されている。レーザ光路3aは、レーザ装置2から波長板5およびビームスプリッタ4aを経てビームスプリッタ4bに至る。レーザ光路3bは、レーザ装置2から波長板5、ビームスプリッタ4a、ミラー6aおよび6bを経てビームスプリッタ4bに至る。
【0040】
すなわち、レーザ光路3aおよび3bが形成されるように、レーザ装置2、波長板5、ビームスプリッタ4a、4b、ミラー6aおよび6bのそれぞれの位置および姿勢が定められている。また、レーザ光路3aおよび3bを通過したレーザ光が、ビームスプリッタ4bにおいて統合され、ミラー6aで反射してイオン発生部1に至るように、ミラー6cおよびイオン発生部1が配置されている。
【0041】
レーザ装置2は、P偏光またはS偏光のレーザ光を発生する。波長板5には、直線偏光の偏光方向を45°だけ回転させるものが用いられる。これによって、波長板5を通過したレーザ光は、P偏光とS偏光が1:1の割合で重なり合った状態となる。
【0042】
ビームスプリッタ4aに入射したP偏光の成分は、ビームスプリッタ4aを透過してレーザ光路3bに進む。一方、ビームスプリッタ4aに入射したS偏光の成分は、ビームスプリッタ4aで反射してレーザ光路3aに進む。したがって、ビームスプリッタ4aに入射したレーザ光は、1:1の割合でレーザ光路3aと3bに分離される。
【0043】
ビームスプリッタ4aで反射してレーザ光路3aに進んだレーザ光は、ビームスプリッタ4bに入射する。このレーザ光はS偏光であるため、ビームスプリッタ4bで反射してミラー6cに入射する。一方、ビームスプリッタ4aを透過してレーザ光路3bに進んだレーザ光は、ミラー6aおよび6bで反射して、ビームスプリッタ4bに入射する。このレーザ光はP偏光であるため、ビームスプリッタ4bを透過してミラー6cに入射する。
【0044】
レーザ光路3b上のミラー6aおよび6bは、ミラー移動機構7上に設置されている。ミラー移動機構7は、レーザ光路3bの光路長を調整する光路長調整機構である。ミラー移動機構7の直動方向の位置を制御することで、レーザ遅延時間33が調整される。ここで、直動方向は、ミラー6aにレーザ光が入射する方向およびミラー6bでレーザ光が反射する方向である。
【0045】
本実施形態に係るイオン発生装置22の一般化された構成が以下に説明される。イオン発生装置22は、レーザ源としてのレーザ装置2を備えている。また、イオン発生装置22は、レーザ装置2が発生したレーザ光を分離する光分離器としての波長板5およびビームスプリッタ4aと、ビームスプリッタ4aによって得られた2つのレーザ光を導く2つのレーザ光路3aおよび3bとを備えている。レーザ光路3aおよび3bは異なる光路長を有する。
【0046】
上記の光分離器を構成する波長板5は、入射した光の偏光方向を変化させる。ビームスプリッタ4aは、偏光方向が異なる2つの光のうちの一方を反射し、その反射した光の方向とは異なる方向に他方を透過する。
【0047】
イオン発生装置22は、さらに、2つのレーザ光路3aおよび3bに導かれた光を統合して、ターゲット14に照射する光統合器としてのビームスプリッタ4b、ミラー6cおよび軸外し放物面鏡13を備える。ターゲット14は、ビームスプリッタ4bから照射された光に応じたイオンを発生する。
【0048】
なお、ビームスプリッタおよびレーザ光路を追加することで、3つ以上に分離されたレーザ光を、光路長が異なる3つ以上のレーザ光路に導かせて、統合する構成が用いられてもよい。複数の光路長のうち少なくとも1つには、上記の光路長調整機構が設けられてよい。例えば、レーザ光路3bには、遅延光学系を追加的に配置してもよい。これによって、より大きなレーザ遅延時間33が生じる。
【0049】
図6には、ミラーを用いた遅延光学系60の構成が示されている。ミラーを用いた遅延光学系60は、複数N個のミラー6-1~6-Nを備え、レーザ光路3が折り畳まれるようにレーザ光路3が形成される。すなわち、複数のミラー6-1~6-Nは、前段のミラー6-jに入射し、前段のミラー6-jで反射したレーザ光が次段6-(j+1)のミラーに入射するように縦続配置されている。ただし、jは1~N-1のいずれかの整数である。
【0050】
これによって、遅延光学系60に入射したレーザ光は、初段のミラー6-1に入射してから遅れて遅延光学系60から出射する。レーザ光路3bに遅延光学系60が設けられることで、イオン発生装置22の一定の配置スペース当たりのレーザ遅延時間33が大きくなる。
【0051】
図7には、凹面鏡を用いた遅延光学系70の構成が示されている。凹面鏡を用いた遅延光学系70は、一対の凹面鏡71aおよび71bを備えている。凹面鏡71aの上方には入射貫通孔72aが設けられており、凹面鏡71bの下方には出射貫通孔72bが設けられている。凹面鏡71aおよび71bは、凹面側が対向するように配置されている。入射貫通孔72aから凹面鏡71aおよび凹面鏡71bの間に入射したレーザ光は、凹面鏡71aと凹面鏡71bとの間を複数回往復した後、出射貫通孔72bを通して、凹面鏡71aと凹面鏡71bとの間の領域の外側へ出射する。
【0052】
ミラーを用いた遅延光学系60および凹面鏡を用いた70では、立体的にレーザ光路3が構成されてもよい。また、本実施形態では、1台のレーザ装置2を備える構成が示されたが、レーザ装置2の台数に応じた個数のレーザ光学系9を備えてもよい。この場合、第1実施形態に係るレーザ光学系8によって、複数のレーザ光学系9から出射された各レーザ光が統合されてよい。
【0053】
例えば、複数のレーザ光学系9のうちの1つから出射されたレーザ光が、他の1つのレーザ光学系9から出射されたレーザ光と統合され、その統合されたレーザ光が、さらに他の1つのレーザ光学系9から出射されたレーザ光と統合される。これによって、複数のレーザ光学系9から出射されたレーザ光が1つに統合され、実効的なイオンビームパルス幅44の伸展が可能である。上記では、レーザ光学系9の構成要素が同一平面上にある例が示されたが、各構成要素は立体的に配置されてもよく、より小型なイオン発生装置22が提供され得る。
【0054】
ここでは、レーザ光路3bに遅延光学系60または70が設けられる例が示されたが、遅延時間が異なる遅延光学系60または70が、レーザ光路3aおよび3bの両方に設けられてもよい。
【0055】
図8には、イオン発生装置24および加速器80を備える粒子線加速装置78の構成が示されている。イオン発生装置24には、第1実施形態に係るイオン発生装置20または第2実施形態に係るイオン発生装置22が用いられる。加速器80はシンクロサイクロトロンである。加速器80は上下方向に分割可能な主電磁石81によってその外殻が形成され、主電磁石81内部のビーム加速領域は真空に保たれている。
【0056】
主電磁石81の上部には、イオン発生装置24が設置されている。イオン発生装置24から注入されたイオンビームは、低エネルギービーム輸送系83、およびスパイラルインフレクタ等の偏向電極84を通じて加速器80内に入射される。加速器80はイオンビームを加速する。加速器80から取り出されたイオンビームは、イオンビーム輸送装置としての高エネルギービーム輸送系86を通じて後段に輸送される。
【0057】
加速器80へイオンビームを入射可能な時間幅45(図4)は加速器80の設計で決まる。実効的なイオンビームパルス幅44を、加速器80へ入射可能な時間幅45に近付け、または一致させることで、必要十分な電荷量のイオンビームが加速器80へ入射される。イオンビームパルス繰り返し周期46は、レーザ繰り返し周期34によって決まり、例えば加速器80のビーム加速運転周期に一致させることで、レーザ繰り返し周期34ごとに入射が実施される。
【0058】
加速器80はシンクロトロン、サイクロトロン、特許文献1に記載の偏心軌道型加速器等であってもよい。実効的なイオンビームパルス幅44を、加速器80へ入射可能な時間幅45に近付け、または一致させることで、十分な電荷量のイオンビームが加速器80へ入射される。
【0059】
図9には、粒子線加速装置78を備えた粒子線治療システム26の構成が示されている。粒子線治療システム26は、粒子線加速装置78、回転ガントリ90、照射装置91、治療台101および治療制御装置102および加速器制御装置103を備えている。粒子線加速装置78から出射されたイオンビームは、回転ガントリ90によって照射装置91まで輸送される。イオンビームは、治療台101に横たわる患者100の患部に、照射装置91から照射される。イオンビームが患者100に照射される際には、イオンビームのエネルギーや形状が、患部の位置に合わせて調整される。
【0060】
照射装置91は線量モニタを内包しており、照射された線量を患者100への照射スポットごとに監視し、線量データを求める。この線量データを元に、治療制御装置102は各照射スポットへの要求線量を計算して、加速器制御装置103への入力データを求める。加速器制御装置103は、粒子線加速装置78におけるイオンビームの、入射、加速、出射等の条件を制御する。照射装置91が走査電磁石を備えることで、スキャニング走査が行われてもよい。粒子線加速装置78が用いられることで、スキャニング照射法において適切なエネルギーおよびパルス幅を有するイオンビームが、走査電磁石に入射される。
【符号の説明】
【0061】
1 イオン発生部、2,2a,2b レーザ装置、3,3a,3b レーザ光路、4,4a,4b ビームスプリッタ、5 波長板、6,6a,6b,6c ミラー、7 ミラー移動機構、8,9 レーザ光学系、11 光学窓、12 チェンバー、13 軸外し放物面鏡、14 ターゲット、15 プラズマ、16 引き出し電極、17 イオンビーム、20,22,24 イオン発生装置、26 粒子線治療システム、31 レーザパルス、32 レーザパルス幅、33 レーザ遅延時間、34 レーザ繰り返し周期、41 イオンビームパルス、42 イオンビームパルス幅、43 イオンビームパルス遅延時間、44 実効的なイオンビームパルス幅、45 加速器へ入射可能な時間幅、46 イオンビームパルス繰り返し周期、60 ミラーを用いた遅延光学系、70 凹面鏡を用いた遅延光学系、71a,71b 凹面鏡、72a 入射貫通孔、72b 出射貫通孔、78 粒子線加速装置、80 加速器、81 主電磁石、83 低エネルギービーム輸送系、84 偏向電極、86 高エネルギービーム輸送系、90 回転ガントリ、91 照射装置、100 患者、101 治療台、102 治療制御装置、103 加速器制御装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9