(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009333
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】耐熱金属部材およびその製造方法ならびに高温装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 28/02 20060101AFI20230113BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20230113BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
C23C28/02
C22C19/05 Z
C22C30/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112493
(22)【出願日】2021-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】509326809
【氏名又は名称】株式会社ディ・ビー・シー・システム研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100120640
【弁理士】
【氏名又は名称】森 幸一
(72)【発明者】
【氏名】成田 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】成田 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 泰道
(72)【発明者】
【氏名】荒 真由美
【テーマコード(参考)】
4K044
【Fターム(参考)】
4K044AA02
4K044AA03
4K044AA06
4K044BA02
4K044BA10
4K044BB03
4K044BC02
4K044BC11
4K044CA12
4K044CA13
4K044CA22
4K044CA27
(57)【要約】
【課題】各種の金属基材を使用でき、スラリー法等の簡単なプロセスを用いて製造でき、高温酸化性雰囲気または高温腐食性雰囲気中において加熱および冷却サイクルが付加された環境下で使用された場合にTBCを用いずに熱遮蔽機能を得ることができ、最表面に保護的酸化物皮膜を維持し続けることができ、拡散バリア機能や金属基材の機械的特性の向上を図ることができる耐熱金属部材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】耐熱金属部材は、Fe基合金等の金属基材(10)、遷移層(20)、W系多目的合金層(30)およびCrおよび/またはAl含有合金層(40)からなる。耐熱金属部材を製造するには、金属基材上に少なくとも、Wを含む粉末とCr等を含む粉末との混合粉末を含むスラリーを塗布し、乾燥させた後、加熱することによりW系多目的合金層を形成し、その上にスラリー法等によりCrおよび/またはAl含有合金層を形成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材と、
上記金属基材上のW系多目的合金層と、
上記W系多目的合金層上のCrおよび/またはAl含有合金層と、
上記W系多目的合金層と上記Crおよび/またはAl含有合金層との間の遷移層と、
を有する耐熱金属部材。
【請求項2】
上記W系多目的合金層はWとB、O、Al、Si、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、NbおよびMoからなる群のうちの少なくとも一種の元素とを含有する請求項1記載の耐熱金属部材。
【請求項3】
上記W系多目的合金層の組成(原子%)は
B:0.0~23.0
O:0.0~1.3
Al:0.0~0.2
Si:1.6~20.3
Cr:7.4~36.6
Mn:0.1~2.7
Fe:0.7~48.1
Co:2.5~32.1
Ni:0.7~32.7
Nb:0.0~6.7
Mo:0.3~23.6
W:0.3~22.6
である請求項2記載の耐熱金属部材。
【請求項4】
上記Crおよび/またはAl含有合金層はCr含有合金層である請求項1~3のいずれか一項記載の耐熱金属部材。
【請求項5】
上記Cr含有合金層はNi-Cr系合金からなる請求項4記載の耐熱金属部材。
【請求項6】
上記Cr含有合金層の組成(原子%)は
Si:0.4~13.4
Cr:18.7~46.6
Mn:0.0~3.5
Fe:1.5~36.9
Co:0.2~20.0
Ni:7.3~68.0
Nb:0.0~1.3
Mo:0.3~26.8
W:0.6~12.9
である請求項4記載の耐熱金属部材。
【請求項7】
上記Crおよび/またはAl含有合金層はAl含有合金層である請求項1~3のいずれか一項記載の耐熱金属部材。
【請求項8】
上記Al含有合金層はβ-NiAl、γ’-Ni3 Al、CoAlまたはFeAlからなる請求項7記載の耐熱金属部材。
【請求項9】
上記Al含有合金層の組成(原子%)は
Al:24.6~41.9
Si:0.0~0.9
Cr:0.3~0.4
Mn:0.0~0.3
Fe:0.3~0.7
Co:1.3~1.5
Ni:54.8~68.0
Mo:0.0~0.2
W:1.1~2.8
である請求項7記載の耐熱金属部材。
【請求項10】
上記Crおよび/またはAl含有合金層はCrおよびAl含有合金層である請求項1~3のいずれか一項記載の耐熱金属部材。
【請求項11】
上記CrおよびAl含有合金層はNiCrAl、FeCrAlまたはCr粒子を含有するNi-Al合金からなる請求項10記載の耐熱金属部材。
【請求項12】
上記遷移層は上記W系多目的合金層と上記Crおよび/またはAl含有合金層との混合層である請求項1~11のいずれか一項記載の耐熱金属部材。
【請求項13】
上記金属基材はFe、Co、Ni、Fe基合金、Co基合金またはNi基合金からなる請求項1~12のいずれか一項記載の耐熱金属部材。
【請求項14】
金属基材上に少なくとも、Wを含む粉末とCr、Co、NbおよびMoからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を含む粉末との混合粉末を含むスラリーを塗布し、乾燥させた後、加熱することによりW系多目的合金層を形成する工程と、
上記W系多目的合金層上にスラリー法、めっき法またはパック処理法によりCrおよび/またはAl含有合金層を形成する工程と、
を有する耐熱金属部材の製造方法。
【請求項15】
金属基材と、
上記金属基材上のW系多目的合金層と、
上記W系多目的合金層上のCrおよび/またはAl含有合金層と、
上記W系多目的合金層と上記Crおよび/またはAl含有合金層との間の遷移層と、を有する耐熱金属部材
を有する高温装置。
【請求項16】
金属基材上に少なくとも、Wを含む粉末とCr、Co、NbおよびMoからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を含む粉末との混合粉末を含むスラリーを塗布し、乾燥させた後、加熱することによりW系多目的合金層を形成する工程と、
上記W系多目的合金層上にスラリー法、めっき法またはパック処理法によりCrおよび/またはAl含有合金層を形成する工程と、を実行することにより耐熱金属部材を製造する工程を有する高温装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、耐熱金属部材およびその製造方法ならびに高温装置およびその製造方法に関し、特に、高温酸化性雰囲気または高温腐食性雰囲気において加熱および冷却が繰り返される環境下で使用される、焼却炉、排ガス系部材、ボイラー、内燃機関、ガスタービン、ジェットエンジン、等に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
各種燃焼機器、内燃機関、ボイラー、焼却炉、排ガス系部材、タービン、ジェットエンジン、等に使用される耐熱合金基材には熱遮蔽コーティング (Thermal Barrier Coating:TBC)が施工されている。代表的なTBCとして、耐熱合金基材の表面全体に、ボンド層として例えばMCrAlY(M=Co,Ni)が、トップ層としてセラミックス遮熱層(例えば、イットリア(Y2 O3 )安定化ジルコニア(ZrO2 )(Yttria Stabilized
Zirconia: YSZ))が施工される(非特許文献1参照)。
【0003】
上記のTBCでは、しかしながら、特に高温での使用中に、YSZ層は酸素透過性であることから、YSZ層とMCrAlY層との界面に熱酸化成長酸化物(Thermally Grown Oxides:TGO)と言われるAl主体の酸化物が形成し、同時に、MCrAlY層のAlが基材側に、基材の元素がMCrAlY層側にそれぞれ相互拡散するため、MCrAlY層のAl濃度は早期に低下し、TGOの組成変化(Al2 O3 から(Ni,Cr,Al)-酸化物)と急成長およびYSZ層の剥離が進行することから、それらの解決が求められている。
【0004】
上述の基材とMCrAlY層との間の元素の相互拡散を抑制するために、本発明者らにより、Re等、W等、Cr等を含有する拡散バリア層(Diffusion Barrier Layer :DBL)を基材上に形成した後、その表面にAl含有合金層を積層する技術が提案されている。拡散バリア層とAl含有合金層とを含めて拡散バリアコーティング(Diffusion Barrier Coating :DBC)、基材と拡散バリア層とAl含有合金層とを総称して拡散バリアコーティングシステム(DBCシステム)、とそれぞれ呼称している。拡散バリア層の詳細については特許文献1~4に記載されている。
【0005】
一方、従来、発電用ガスタービン翼において、C、B、Hf、Cr、Mo、W、Re、Ta、NbおよびCoに加えてAlを重量で4.9%以上5.2%以下含有し、残部がNiであるNi基単結晶超合金からなる翼基材の表面全体に上述の拡散バリア層を形成した後、その表面全体にボンド層としてのMCrAlY層およびトップ層としてのYSZ層を順次積層する技術が提案されている(特許文献5~7参照。)。この技術によれば、拡散バリア層により翼基材とMCrAlY層との間の元素の相互拡散を抑制することができ、Ni基単結晶超合金の組織変化を軽減することができることで強度低下を防止することができる。しかしながら、この技術では、拡散バリア層とMCrAlY層との間の元素の相互拡散は進行し、MCrAlY層中のAl濃度は低下する。さらに、MCrAlY層とYSZ層との間にはTGOが急速に成長するため、YSZ層の剥離を効果的に抑制することができず、その解決が求められている。また、このTBCの形成に使用可能なプロセスは溶射法および電子ビーム蒸着法に限定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3857689号公報
【特許文献2】特許第3857690号公報
【特許文献3】特許第3910588号公報
【特許文献4】特許第4753720号公報
【特許文献5】特許第5905336号明細書
【特許文献6】特許第5905354号明細書
【特許文献7】特許第5905355号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「ジェットエンジンへの耐熱コーティング」大寺一生、津田義弘、荒木隆人、森信義、佐藤彰洋;表面技術、Vol.63, No.1, pp.19-23,(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、汎用基材を含む各種の金属基材を使用することができ、製造に必要なプロセスもスラリー法、めっき法、パック処理法、等の簡単なプロセスで済み、溶射法、電子ビーム蒸着法、等を用いる必要がなく、高温酸化性雰囲気または高温腐食性雰囲気中において加熱および冷却サイクルが付加された環境下で使用された場合に、様々な課題があるTBCを用いることなく熱遮蔽機能を得ることができ、最表面に保護的酸化物皮膜を維持し続けることができ、拡散バリア機能や金属基材の機械的特性の向上を図ることができ、金属基材の有する高温特性を長期に亘って維持することができる耐熱金属部材およびその製造方法ならびにそのような耐熱金属部材を含む高温装置およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明は、
金属基材と、
上記金属基材上のW系多目的合金層と、
上記W系多目的合金層上のCrおよび/またはAl含有合金層と、
上記W系多目的合金層と上記Crおよび/またはAl含有合金層との間の遷移層と、
を有する耐熱金属部材である。
【0010】
この発明において、W系多目的合金層(Multi-Purpose Layer;MPL)は、金属基材とCrおよび/またはAl含有合金層との間の元素の相互拡散を抑制する機能(拡散バリア機能)、金属基材とCrおよび/またはAl含有合金層との間の熱透過あるいは熱伝導を抑制する熱遮蔽機能、Crおよび/またはAl含有合金層の表面の保護的酸化物皮膜の形成、維持および再生を補助する機能、金属基材の機械的特性(クリープ強度、曲がり、等)を改善する機能、等の多機能性を有し、多目的に使用することができる合金層を意味する。W系多目的合金層は、WとB、O、Al、Si、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、NbおよびMoからなる群のうちの少なくとも一種の元素とを含有する。W系多目的合金層の組成(原子%(at%))は、一般的に下記の通りであるが、これに限定されるものではない。
B:0.0~23.0
O:0.0~1.3
Al:0.0~0.2
Si:1.6~20.3
Cr:7.4~36.6
Mn:0.1~2.7
Fe:0.7~48.1
Co:2.5~32.1
Ni:0.7~32.7
Nb:0.0~6.7
Mo:0.3~23.6
W:0.3~22.6
【0011】
Crおよび/またはAl含有合金層は、Alを含有しないCr含有合金層、Crを含有しないAl含有合金層、CrおよびAlを含有する合金層の三種類がある。Cr含有合金層は、特に制限はないが、例えばNi-Cr系合金、好適にはγ-Ni(Cr)からなる。ここで、Ni(Cr)は、Crを含有するNiを意味する(一般にX(Z)はZを含有するXを意味する)。Cr含有合金層は、W系多目的合金層および遷移層が含有する元素を不可避的に含有することもある。Cr含有合金層は、最表面に保護的クロミア(Cr2 O3 )を形成し、金属基材、W系多目的合金層および遷移層を含む耐熱金属部材の全体を高温腐食性雰囲気から保護する機能を有する。Al含有合金層は、W系多目的合金層および遷移層が含有する元素を不可避的に含有することもある。Al含有合金層は、特に制限はないが、例えば、β-NiAl、γ’-Ni3 Al、CoAl、FeAl、等からなる。Al含有合金層は、最表面に保護的アルミナ(Al2 O3 )を形成し、金属基材、W系多目的合金層および遷移層を含む耐熱金属部材の全体を高温酸化性雰囲気から保護する機能を有する。CrおよびAlを含有する合金層は、特に制限はないが、例えば、NiCrAl、FeCrAl、Cr粒子を含有するNi-Al合金、等からなる。CrおよびAlを含有する合金層は、W系多目的合金層および遷移層が含有する元素を不可避的に含有することもある。CrおよびAlを含有する合金層は、最表面に保護的アルミナ(Al2 O3 )および保護的クロミア(Cr2 O3 )を形成し、金属基材、W系多目的合金層および遷移層を含む耐熱金属部材の全体を高温酸化性雰囲気および高温腐食性雰囲気から保護する機能を有する。Crおよび/またはAl含有合金層の厚さは、必要に応じて選ばれるが、一般的には50μm以上300μm以下である。
【0012】
W系多目的合金層とCrおよび/またはAl含有合金層との間の遷移層は、W系多目的合金層とCrおよび/またはAl含有合金層との混合相(より詳細には、W系多目的合金層を構成する相とCrおよび/またはAl含有合金層を構成する相との混合層)であり、両層間の緩衝機能を有する。遷移層の厚さは、一般的には5μm以上200μm以下、典型的には10μm以上100μm以下であるが、これに限定されるものではない。
【0013】
金属基材は、必要に応じて選ばれ、各種のものを使用することができるが、例えば、Fe、Co、Ni、Fe基合金、Co基合金、Ni基合金、等からなる。このうち、Fe基合金は、具体的には、例えば、SUS304、SUS310、等、Ni基合金は、ハステロイ-X、インコネル、等からなる。金属基材の形状は特に限定されず、用途等に応じて選ばれるが、例えば、平板状、棒状(角棒、丸棒、等)、管状、箱状、等である。
【0014】
耐熱金属部材は、特に限定されないが、具体的には、例えば、焼却炉、ボイラー、ガスタービンの部材、ジェットエンジンの部材、排ガス系部材、等が挙げられる。
【0015】
また、この発明は、
金属基材上に少なくとも、Wを含む粉末とCr、Co、NbおよびMoからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を含む粉末との混合粉末を含むスラリーを塗布し、乾燥させた後、加熱することによりW系多目的合金層を形成する工程と、
上記W系多目的合金層上にスラリー法、めっき法またはパック処理法によりCrおよび/またはAl含有合金層を形成する工程と、
を有する耐熱金属部材の製造方法である。
【0016】
この耐熱金属部材の製造方法の発明においては、Crおよび/またはAl含有合金層を形成する工程を実行することにより、W系多目的合金層とこのCrおよび/またはAl含有合金層との間にW系多目的合金層とCrおよび/またはAl含有合金層とが混合した遷移層が形成される。
【0017】
W系多目的合金層の形成に用いられるスラリーにおいてCoを含む粉末を用いる場合には、典型的にはCo基自溶合金が用いられるが、これに限定されるものではない。W系多目的合金層を形成するための加熱の温度は、使用する金属基材の融点より十分に低い温度の範囲内で必要に応じて選ばれるが、一般的には1000℃以上である。Crおよび/またはAl含有合金層を形成する方法は、Crおよび/またはAl含有合金層がCr含有合金層である場合には好適にはスラリー法またはめっき法が用いられ、Crおよび/またはAl含有合金層がAl含有合金層である場合にはめっき法またはパック処理法が用いられ、Crおよび/またはAl含有合金層がCrおよびAl含有合金層である場合にはスラリー法、めっき法またはパック処理法が用いられる。より詳細には、Cr含有合金層をスラリー法により形成する場合には、例えば、W系多目的合金層の表面にNi基自溶合金の粉末とCrの粉末とMoの粉末との混合粉末を含むスラリーを塗布し、乾燥させた後、加熱することによりCr含有合金層、具体的にはCr含有Ni基合金層を形成する。あるいは、Cr含有合金層をめっき法により形成する場合には、例えば、W系多目的合金層の表面にNiめっき皮膜を形成した後、Cr拡散処理を行うことによりNi-Cr合金層を形成する。あるいは、Cr含有合金層をめっき法により形成する場合には、例えば、W系多目的合金層の表面にNiおよびCrめっき皮膜を形成した後、加熱処理を行うことによりNi(Cr)合金層を形成する。Al含有合金層をめっき法により形成する場合には、W系多目的合金層の表面にNiめっき皮膜を形成した後、Al拡散処理を行うことによりAl含有合金層、 具体的にはβ-NiAl層を形成する。あるいは、Al含有合金層をめっき法により形成する場合には、W系多目的合金層の表面に上記のようにしてNi(Cr)合金層を形成した後、Al拡散処理を行うことによりこのNi(Cr)合金層の表面にAl含有合金層を形成するようにしてもよい。Al拡散処理は、典型的には、めっき皮膜を形成した金属基材を、Al蒸気源としてのAl、FeAlおよびNiAlからなる群より選ばれた少なくとも一つの粉末と塩化アンモニウム(NH4 Cl)粉末とアルミナ(Al2 O3 )粉末との混合粉末に埋没させ、真空中または不活性ガス雰囲気中において加熱することにより行う。
【0018】
この発明においては、上記以外のことについては、その性質に反しない限り、上記の耐熱金属部材の発明に関連して説明したことが成立する。
【0019】
また、この発明は、
金属基材と、
上記金属基材上のW系多目的合金層と、
上記W系多目的合金層上のCrおよび/またはAl含有合金層と、
上記W系多目的合金層と上記Crおよび/またはAl含有合金層との間の遷移層と、を有する耐熱金属部材
を有する高温装置である。
【0020】
高温装置は、上記の耐熱金属部材を一部または全部に含む各種のものであってよいが、具体的には、例えば、ガスタービン、ジェットエンジン、排ガス装置、ボイラー、熱処理炉、焼却炉、等である。
【0021】
また、この発明は、
金属基材上に少なくとも、Wを含む粉末とCr、Co、NbおよびMoからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を含む粉末との混合粉末を含むスラリーを塗布し、乾燥させた後、加熱することによりW系多目的合金層を形成する工程と、
上記W系多目的合金層上にスラリー法、めっき法またはパック処理法によりCrおよび/またはAl含有合金層を形成する工程と、を実行することにより耐熱金属部材を製造する工程を有する高温装置の製造方法である。
【0022】
上記の高温装置の発明および高温装置の製造方法の発明においては、特にその性質に反しない限り、上記の耐熱金属部材の発明および耐熱金属部材の製造方法の発明に関連して説明したことが成立する。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、金属基材上にW系多目的合金層と遷移層とCrおよび/またはAl含有合金層とを有することにより、汎用基材を含む各種の金属基材を使用することができ、製造に必要なプロセスもスラリー法、めっき法、パック処理法、等の簡単なプロセスで済み、溶射法、電子ビーム蒸着法、等を用いる必要がなく、高温酸化性雰囲気または高温腐食性雰囲気中において加熱および冷却サイクルが付加された環境下で使用された場合に、様々な課題があるTBCを用いることなく熱遮蔽機能を得ることができ、最表面に保護的酸化物皮膜を維持し続けることができ、拡散バリア機能や金属基材の機械的特性の向上を図ることができ、金属基材の有する高温特性を長期に亘って維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】この発明の第1の実施の形態による耐熱金属部材を示す断面図である。
【
図2】この発明の第2の実施の形態による耐熱金属部材を示す断面図である。
【
図3】この発明の第3の実施の形態による耐熱金属部材を示す断面図である。
【
図4A】実施例1の試験片の断面組織を示す図面代用写真である。
【
図4B】実施例1の試験片の断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図5A】実施例2の試験片の断面組織を示す図面代用写真である。
【
図5B】実施例2の試験片の断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図6A】実施例3の試験片の断面組織を示す図面代用写真である。
【
図6B】実施例3の試験片の断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図7A】実施例4の試験片の断面組織を示す図面代用写真である。
【
図7B】実施例4の試験片の断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図8A】実施例5の試験片の断面組織を示す図面代用写真である。
【
図8B】実施例5の試験片の断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図9A】比較例1の試験片の断面組織を示す図面代用写真である。
【
図9B】比較例1の試験片の断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図10】実施例6~9の円筒形試験片の断熱特性の測定に用いた発熱体挿入円筒形試験片を示す横断面図である。
【
図11】実施例10の円筒形試験片の断熱特性の測定に用いた発熱体挿入円筒形試験片を示す横断面図である。
【
図12】比較例3の円筒形試験片の断熱特性の測定に用いた発熱体挿入円筒形試験片を示す横断面図である。
【
図13】比較例4の円筒形試験片の断熱特性の測定に用いた発熱体挿入円筒形試験片を示す横断面図である。
【
図14】実施例6~10および比較例3、4の円筒形試験片の断熱特性の測定結果を示す略線図である。
【
図16】実施例11の試験片のクリープ挙動の調査結果を示す略線図である。
【
図17】実施例12の試験片を片持はり状に水平に支持して加熱を行った後の状態を示す図面代用写真である。
【
図18】比較例6の試験片を片持はり状に水平に支持して加熱を行った後の状態を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、発明を実施するための形態(以下、単に「実施の形態」という。)について説明する。
【0026】
〈第1の実施の形態〉
[耐熱金属部材]
図1は第1の実施の形態による耐熱金属部材を示す。
図1に示すように、この耐熱金属部材においては、金属基材10の表面にW系多目的合金層20、遷移層30およびCr含有合金層40が順次積層されている。
【0027】
金属基材10は必要に応じて選ばれ、例えば、既に挙げたものの中から選ばれるが、具体的には、例えば、Fe、Ni、Co、Fe基合金、Ni基合金、Co基合金、等からなるものである。W系多目的合金層20は、WとB、O、Al、Si、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、NbおよびMoからなる群のうちの少なくとも一種の元素とを含有する。遷移層30は、W系多目的合金層20とCr含有合金層40との混合層である。W系多目的合金層20の厚さは必要に応じて選ばれるが、例えば、100μm以上400μm以下である。遷移層30の厚さは、典型的には、5μm以上200μm以下である。Cr含有合金層40の厚さは、典型的には、50μm以上300μm以下である。
【0028】
[耐熱金属部材の製造方法]
この耐熱金属部材の製造方法について説明する。
【0029】
まず、W系多目的合金層20をスラリー法により形成するために金属粉末および合金粉末を含むスラリーを用意する。スラリーの組成は、例えば、(24~48)重量%W粉末+(0~24)重量%Cr粉末+(2~10)重量%Nb粉末+(2~10)重量%Mo粉末+Co基自溶合金粉末(残)である。Co基自溶合金粉末の基本組成はCo-13重量%Cr-4重量%Si-2重量%Bである。スラリーには、粘結性を付与する有機溶剤としてのテルビオーネとエタノールとを添加して流動性を確保する。こうして調製されたスラリーを金属基材10の表面に刷毛塗り、浸漬、等によって塗布し、乾燥させる。スラリーの塗膜量には特に制限はないが、一般的には100mg/cm2 から500mg/cm2 である。
【0030】
次に、上述のようにしてスラリーを塗布し、乾燥させた金属基材10を、所定の容器、例えばNi基合金製の容器に入れた、Cr粉末とAl2 O3 粉末との混合粉末(例えば、10重量%Cr粉末+90重量%Al2 O3 粉末)に埋没させ、雰囲気を例えばAr+3vol%H2 雰囲気に置換した後、加熱する。加熱温度は例えば1150℃以上1250℃以下、加熱時間は例えば2時間以上10時間以下である。こうして加熱することにより、金属基材10の表面にW系多目的合金層20が形成される。
【0031】
次に、Cr含有合金層40を下記(1)~(3)のいずれかの方法で形成する。
【0032】
(1)まず、例えば、Ni基自溶合金粉末を含むスラリーを調製する。Ni基自溶合金粉末の基本組成はNi-15重量%Cr-3重量%Si-3重量%Bである。こうして調製されたスラリーをW系多目的合金層20の表面に塗布し、乾燥させた後、雰囲気を例えばAr+3vol%H2 雰囲気に置換し、加熱する。加熱温度は例えば1100℃以上1200℃以下、加熱時間は例えば2時間以上6時間以下である。こうして加熱することにより、Cr含有合金層40が形成される。この工程で形成されるCr含有合金層40にはW系多目的合金層20の元素が固溶または析出して存在している。このCr含有合金層40の形成の段階でW系多目的合金層20とこのCr含有合金層40との間に両者が混合した遷移層30が形成される。
【0033】
(2)例えば、Cr粉末とNi粉末とNH4 Cl粉末とAl2 O3 粉末との混合粉末(例えば、20重量%Cr粉末+40重量%Ni粉末+4重量%NH4 Cl粉末+36重量%Al2 O3 粉末)のスラリーを調製する。こうして調製されたスラリーをW系多目的合金層20の表面に塗布した後、例えば、Cr粉末とAl2 O3 粉末との混合粉末(例えば、10重量%Cr粉末+90重量%Al2 O3 粉末)中に埋没させ、雰囲気を例えばAr+3vol%H2 雰囲気に置換し、加熱する。加熱温度は例えば1100℃以上1200℃以下、加熱時間は例えば2時間以上6時間以下である。こうして加熱することにより、Cr含有合金層40が形成される。このCr含有合金層40の形成の段階でW系多目的合金層20とこのCr含有合金層40との間に両者が混合した遷移層30が形成される。
【0034】
(3)W系多目的合金層20の表面に電気めっきによりNi皮膜を形成し、上記の(1)または(2)で調製したスラリーを塗布し、乾燥させた後、加熱する。こうして加熱することにより、Cr含有合金層40が形成される。加熱の条件は上記の(2)と同じである。このCr含有合金層40の形成の段階でW系多目的合金層20とこのCr含有合金層40との間に両者が混合した遷移層30が形成される。この工程では、Cr含有合金層40としてγ-Ni(Cr)相が形成され、W系多目的合金層20が含有する元素のCr含有合金層40への混入は僅少である。
【0035】
以上により、
図1に示す目的とする耐熱金属部材が製造される。
【0036】
以上のように、第1の実施の形態によれば、耐熱金属部材が金属基材10上にW系多目的合金層20、遷移層30およびCr含有合金層40からなる積層構造を有することにより、例えばFe、Ni、ステンレス鋼、等からなる汎用基材を含む各種の金属基材10を用いた場合において、高温腐食性雰囲気において加熱および冷却サイクルが付加された環境下で使用された場合に、最表面に保護的Cr2 O3 皮膜を維持し続けることができることにより優れた耐高温腐食性を得ることができ、W系多目的合金層20により熱遮蔽機能および拡散バリア機能を得ることができるだけでなく、金属基材10の機械的特性の向上を図ることができることにより金属基材10の機械的強度の低下を抑制することができ、金属基材10の有する高温特性を長期に亘って維持することができる。
【0037】
〈第2の実施の形態〉
[耐熱金属部材]
図2は第2の実施の形態による耐熱金属部材を示す。
図2に示すように、この耐熱金属部材においては、金属基材10の表面にW系多目的合金層20、遷移層30およびAl含有合金層50が順次積層されている。
【0038】
金属基材10およびW系多目的合金層20については第1の実施の形態と同様である。遷移層30は、W系多目的合金層20とAl含有合金層50とが混合した混合層である。W系多目的合金層20および遷移層30の厚さは第1の実施の形態と同様である。Al含有合金層50の厚さは、典型的には、50μm以上300μm以下である。
【0039】
[耐熱金属部材の製造方法]
この耐熱金属部材の製造方法について説明する。
【0040】
まず、第1の実施の形態と同様にして金属基材10の表面にW系多目的合金層20を形成する。
【0041】
次に、Al含有合金層50を下記(1)または(2)の方法で形成する。
【0042】
(1)W系多目的合金層20の表面にAl拡散処理を行う。Al拡散処理は、W系多目的合金層20が形成された金属基材10を、例えば、Al粉末とFeAl粉末とNH4 Cl粉末とAl2 O3 粉末との混合粉末(例えば、3重量%Al粉末+30重量%FeAl粉末+2重量%NH4 Cl粉末+65重量%Al2 O3 粉末)に埋没させ、真空中または不活性ガス雰囲気、好適にはAr+3vol%H2 雰囲気中において950℃以上1050℃以下の温度で1時間以上10時間以下加熱することにより行う。このAl拡散処理によりAl含有合金層50が形成される。この工程で形成されるAl含有合金層50にはW系多目的合金層20の元素が固溶または析出して存在している。このAl含有合金層50の形成の段階でW系多目的合金層20とこのAl含有合金層50との間に両者が混合した遷移層30が形成される。
【0043】
(2)第1の実施の形態の上記(3)の方法に準じて、W系多目的合金層20の表面に電気めっきによりNi皮膜を形成した後、上記の(1)の方法と同様にAl拡散処理を行うことによりAl含有合金層50を形成する。このAl含有合金層50の形成の段階でW系多目的合金層20とこのAl含有合金層50との間に両者が混合した遷移層30が形成される。この工程では、Al含有合金層50としてβ-NiAlが形成され、W系多目的合金層20が含有する元素のAl含有合金層50への混入は僅少である。
【0044】
以上により、
図2に示す目的とする耐熱金属部材が製造される。
【0045】
以上のように、第2の実施の形態によれば、耐熱金属部材が金属基材10上にW系多目的合金層20、遷移層30およびAl含有合金層50からなる積層構造を有することにより、例えばFe、Ni、ステンレス鋼、等からなる汎用基材を含む各種の金属基材10を用いた場合において、高温酸化性雰囲気において加熱および冷却サイクルが付加された環境下で使用された場合に、最表面に保護的Al2 O3 皮膜を維持し続けることができることにより優れた耐高温酸化性を得ることができ、W系多目的合金層20により熱遮蔽機能および拡散バリア機能を得ることができるだけでなく、金属基材10の機械的特性の向上を図ることができることにより金属基材10の機械的強度の低下を抑制することができ、金属基材10の有する高温特性を長期に亘って維持することができる。
【0046】
〈第3の実施の形態〉
[耐熱金属部材]
図3は第3の実施の形態による耐熱金属部材を示す。
図3に示すように、この耐熱金属部材においては、金属基材10の表面にW系多目的合金層20、遷移層30ならびにCrおよびAl含有合金層60が順次積層されている。
【0047】
金属基材10およびW系多目的合金層20については第1の実施の形態と同様である。遷移層30は、W系多目的合金層20とCrおよびAl含有合金層60とが混合した混合層である。W系多目的合金層20および遷移層30の厚さは第1の実施の形態と同様である。CrおよびAl含有合金層60の厚さは、典型的には、50μm以上300μm以下である。
【0048】
[耐熱金属部材の製造方法]
この耐熱金属部材の製造方法について説明する。
【0049】
まず、第1の実施の形態と同様にして金属基材10の表面にW系多目的合金層20を形成する。
【0050】
次に、CrおよびAl含有合金層60を下記(1)または(2)の方法で形成する。
【0051】
(1)まず、第1の実施の形態の(1)~(3)のいずれかの方法でCr含有合金層を形成した後、Al拡散処理を行う。Al拡散処理は、第2の実施の形態の(1)の方法に準じて行う。このAl拡散処理により、CrおよびAl含有合金層60が形成される。
【0052】
(2)まず、第1の実施の形態の(1)~(3)のいずれかの方法でCr含有合金層を形成した後、第1の実施の形態の(3)の方法に準じて、このCr含有合金層の表面に電気めっきによりNi皮膜を形成した後、Al拡散処理を行う。Al拡散処理は、第2の実施の形態の(2)の方法に準じて行う。このAl拡散処理により、CrおよびAl含有合金層60が形成される。このCrおよびAl含有合金層60の形成の段階でW系多目的合金層20とこのCrおよびAl含有合金層60との間に両者が混合した遷移層30が形成される。
【0053】
以上により、
図3に示す目的とする耐熱金属部材が製造される。
【0054】
以上のように、第3の実施の形態によれば、耐熱金属部材が金属基材10上にW系多目的合金層20、遷移層30ならびにCrおよびAl含有合金層60からなる積層構造を有することにより、例えばFe、Ni、ステンレス鋼、等からなる汎用基材を含む各種の金属基材10を用いた場合において、高温酸化性雰囲気および高温腐食性雰囲気において加熱および冷却サイクルが付加された環境下で使用された場合に、最表面に保護的Cr2 O3 および保護的Al2 O3 皮膜を維持し続けることができることにより優れた耐高温酸化性および耐高温腐食性を得ることができ、W系多目的合金層20により熱遮蔽機能および拡散バリア機能を得ることができるだけでなく、金属基材10の機械的特性の向上を図ることができることにより金属基材10の機械的強度の低下を抑制することができ、金属基材10の有する高温特性を長期に亘って維持することができる。
【0055】
実施例について説明する。
【0056】
以下の実施例1~5および比較例1、2では、金属基材10としてSUS304基材を用いた。SUS304の基本組成はFe-18重量%Cr-8重量%Niである。
【0057】
(実施例1)
実施例1は第1の実施の形態に対応するものである。
【0058】
金属基材10として用いるSUS304基材の表面にスラリー(組成は48重量%Co基自溶合金粉末+24重量%W粉末+24重量%Cr粉末+2重量%Nb粉末+2重量%Mo粉末)を塗布し、乾燥させた後、Ar+3vol%H2 雰囲気において1250℃で2時間加熱した。こうして金属基材10の表面にW系多目的合金層20が形成された。
【0059】
次に、W系多目的合金層20の表面にスラリー(組成は80重量%Ni自溶合金粉末+8重量%Cr粉末+12重量%Mo粉末)を塗布し、乾燥させた後、Ar+3vol%H2 雰囲気において1200℃で2時間加熱した。この結果、W系多目的合金層20の表面にCr含有合金層40が形成されるとともに、W系多目的合金層20とCr含有合金層40との間に遷移層30が形成された。こうして試験片を作製した。
【0060】
試験片の基材/コーティング層施工面の一部を切断し、その断面組織観察と各元素の濃度分布の測定とをSEM-EDX装置(走査型電子顕微鏡-エネルギー分散分光装置)で行った。
図4Aおよび
図4Bにそれぞれ断面SEM写真およびEDXを用いて測定した各元素の濃度分布(
図4Aに示す写真の分析線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表1は
図4Bに示した各元素の濃度(原子%)をまとめた分析表である。
【表1】
【0061】
表2にW系多目的合金層20を構成する元素とその濃度の最小値および最大値とをまとめて示す。
【表2】
【0062】
表3にCr含有合金層40を構成する元素とその濃度の最小値および最大値とをまとめて示す。
【表3】
【0063】
(実施例2)
実施例2においては、実施例1と同様にしてSUS304基材の表面にW系多目的合金層20、遷移層30およびCr含有合金層40を形成し、試験片を作製した。
【0064】
試験片の基材/コーティング層施工面の一部を切断し、その断面組織観察と各元素の濃度分布の測定とをSEM-EDX装置で行った。
図5Aおよび
図5Bにそれぞれ断面SEM写真およびEDXを用いて測定した各元素の濃度分布(
図5Aに示す写真の分析線LG4に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表4は
図5Bに示した各元素の濃度(原子%)をまとめた分析表である。
【表4】
【0065】
表5にW系多目的合金層20を構成する元素とその濃度の最小値および最大値とをまとめて示す。
【表5】
【0066】
表6にCr含有合金層40を構成する元素とその濃度の最小値および最大値とをまとめて示す。
【表6】
【0067】
(実施例3)
実施例3においては、実施例1と同様にしてSUS304基材の表面にW系多目的合金層20、遷移層30およびCr含有合金層40を形成し、試験片を作製した。
【0068】
試験片の基材/コーティング層施工面の一部を切断し、その断面組織観察と各元素の濃度分布の測定とをSEM-EDX装置で行った。
図6Aおよび
図6Bにそれぞれ断面SEM写真およびEDXを用いて測定した各元素の濃度分布(
図6Aに示す写真の分析線LG3に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表7は
図6Bに示した各元素の濃度(原子%)をまとめた分析表である。
【表7】
【0069】
表8にW系多目的合金層20を構成する元素とその濃度の最小値および最大値とをまとめて示す。
【表8】
【0070】
表9にCr含有合金層40を構成する元素とその濃度の最小値および最大値とをまとめて示す。
【表9】
【0071】
(実施例4)
実施例4においては、実施例1と同様にしてSUS304基材の表面にW系多目的合金層20、遷移層30およびCr含有合金層40を形成し、試験片を作製した。
【0072】
試験片の基材/コーティング層施工面の一部を切断し、その断面組織観察と各元素の濃度分布の測定とをSEM-EDX装置で行った。
図7Aおよび
図7Bにそれぞれ断面SEM写真およびEDXを用いて測定した各元素の濃度分布(
図7Aに示す写真の分析線LG2に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表10は
図7Bに示した各元素の濃度(原子%)をまとめた分析表である。
【表10】
【0073】
表11にW系多目的合金層20を構成する元素とその濃度の最小値および最大値とをまとめて示す。
【表11】
【0074】
表12にCr含有合金層40を構成する元素とその濃度の最小値および最大値とをまとめて示す。
【表12】
【0075】
(実施例5)
実施例5は第2の実施の形態に対応するものである。
【0076】
実施例5においては、実施例1と同様にしてSUS304基材の表面にW系多目的合金層20を形成した後、W系多目的合金層20の表面に電気めっきによりNi皮膜(40mg/cm2 )を形成した。
【0077】
次に、W系多目的合金層20の表面にNi皮膜を形成したSUS304基材を、5.2重量%Al粉末+4.3重量%Ni粉末+3.5重量%NH4 Cl粉末+87重量%Al2 O3 粉末の混合粉末に埋没させ、Ar+3vol%H2 雰囲気中において1000℃で8時間加熱することによりAl拡散処理を行った。この結果、W系多目的合金層20の表面にβ-NiAlからなるAl含有合金層50が形成されるとともに、W系多目的合金層20とAl含有合金層50との間に遷移層30が形成された。こうして試験片を作製した。
【0078】
試験片の基材/コーティング層施工面の一部を切断し、その断面組織観察と各元素の濃度分布の測定とをSEM-EDX装置で行った。
図8Aおよび
図8Bにそれぞれ断面SEM写真およびEDXを用いて測定した各元素の濃度分布(
図8Aに示す写真の分析線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表13は
図8Bに示した各元素の濃度(原子%)をまとめた分析表である。
【表13】
【0079】
表14にW系多目的合金層20を構成する元素とその濃度の最小値および最大値とをまとめて示す。
【表14】
【0080】
表15にAl含有合金層50を構成する元素とその濃度の最小値および最大値とをまとめて示す。
【表15】
【0081】
表2、5、8、11、14に示す結果から、W系多目的合金層20を構成する元素およびその濃度は、金属基材10として用いたSUS304基材の影響を受けて、広範囲に変化していることが分かる。
【0082】
表16に表2、5、8、11、14の全体におけるW系多目的合金層20を構成する元素とその濃度の最小値および最大値とをまとめて示す。この表16に示した元素およびその濃度が、W系多目的合金層20の組成の最適解の一つであると結論することができるが、これに限定されるものではない。
【表16】
【0083】
表17に表3、6、9、12の全体におけるCr含有合金層40を構成する元素とその濃度の最小値および最大値とをまとめて示す。
【表17】
【0084】
(比較例1)
比較例1においては、実施例5と同様にしてSUS304基材の表面にW系多目的合金層20、遷移層30およびAl含有合金層50を形成した後、サンドブラスト処理を行うことによりAl含有合金層50の表面粗度化を行った。サンドブラスト処理を行った結果、Al含有合金層50および遷移層30の一部が剥離しているのが観察された。従って、残存するAl含有合金層50および遷移層30の厚さは面内でばらつきが大きい。次に、HVOF(High Velocity Oxy-Fuel)の溶射プロセス(高速フレーム溶射法)でAl含有合金層50上にCoNiCrAlY層を形成した。CoNiCrAlY層の厚さは100μmとした。次に、CoNiCrAlY層上にトップ層としてYSZ層(公称組成(mol%); 8Y2 O3 -92ZrO2 )を大気プラズマ(APS)溶射プロセスで形成した。YSZ層の厚さは60μm、300μm、700μm、1000μmの4水準に変えた。こうしてYSZ層の厚さが互いに異なる4種類の試験片を作製した。
【0085】
YSZ層の厚さが300μmの試験片の基材/コーティング層施工面の一部を切断し、その断面組織観察と各元素の濃度分布の測定とをSEM-EDX装置で行った。
図9Aおよび
図9Bにそれぞれ断面SEM写真およびEDXを用いて測定した各元素の濃度分布(
図9Aに示す写真の分析線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。
図9A中、符号500がCoNiCrAlY層、600がYSZ層を示す。表18は
図9Bに示した各元素の濃度(原子%)をまとめた分析表である。
【表18】
【0086】
(比較例2)
比較例2では、金属基材10としてSUS304基材を用い、コーティングは全く行わず、試験片とした。
【0087】
[試験片の断熱特性の測定]
断熱特性を測定するために、金属基材10としてSUS304からなる円筒(外形40mm、肉厚1mm、長さ200mm)を用いた。
【0088】
(実施例6)
実施例6においては、上記の円筒の外周面に実施例1と同様にしてW系多目的合金層20、遷移層30およびCr含有合金層40を形成し、円筒形試験片を作製した。次に、
図10に示すように、こうして作製された円筒形試験片の内部に発熱量制御型の発熱体700を挿入し、断熱特性の測定用の発熱体挿入円筒形試験片を作製した。
【0089】
(実施例7)
実施例7においては、上記の円筒の外周面に実施例2と同様にしてW系多目的合金層20、遷移層30およびCr含有合金層40を形成し、円筒形試験片を作製した。次に、実施例6と同様にして断熱特性の測定用の発熱体挿入円筒形試験片を作製した。
【0090】
(実施例8)
実施例8においては、上記の円筒の外周面に実施例3と同様にしてW系多目的合金層20、遷移層30およびCr含有合金層40を形成し、円筒形試験片を作製した。次に、実施例6と同様にして断熱特性の測定用の発熱体挿入円筒形試験片を作製した。
【0091】
(実施例9)
実施例9においては、上記の円筒の外周面に実施例4と同様にしてW系多目的合金層20、遷移層30およびCr含有合金層40を形成し、円筒形試験片を作製した。次に、実施例6と同様にして断熱特性の測定用の発熱体挿入円筒形試験片を作製した。
【0092】
(実施例10)
実施例10においては、上記の円筒の外周面に実施例5と同様にしてW系多目的合金層20、遷移層30およびAl含有合金層50を形成し、円筒形試験片を作製した。次に、
図11に示すように、こうして作製された円筒形試験片の内部に発熱量制御型の発熱体700を挿入し、断熱特性の測定用の発熱体挿入円筒形試験片を作製した。
【0093】
(比較例3)
比較例3においては、上記の円筒の外周面に比較例1と同様にしてW系多目的合金層20、遷移層30、Al含有合金層50、CoNiCrAlY層500およびYSZ層600を形成し、円筒形試験片を作製した。次に、
図12に示すように、こうして作製された円筒形試験片の内部に発熱量制御型の発熱体700を挿入し、断熱特性の測定用の発熱体挿入円筒形試験片を作製した。比較例1と同様に、YSZ層600の厚さは60μm、300μm、700μm、1000μmの4水準に変えた。
図12においては、Al含有合金層50は部分的に剥離し、厚さのばらつきも大きいため、図示を省略している。
【0094】
(比較例4)
比較例4においては、
図13に示すように、上記の円筒の内部に発熱量制御型の発熱体700を挿入し、断熱特性の測定用の発熱体挿入円筒形試験片を作製した。円筒の外周面にはコーティングは行わなかった。
【0095】
実施例6~10および比較例3、4の発熱体挿入円筒形試験片を発熱体700に通電することにより10℃/分の速度で昇温し、900℃で一定に制御した。温度は、熱電対素線(K熱電対)を発熱体挿入円筒形試験片の外表面に固定し、大気条件下で測定し、温度の時間変化から、定常状態に達した時点での温度を決定した。
図14にその結果を示す。
図14の横軸は比較例3の発熱体挿入円筒形試験片のYSZ層600の厚さ、縦軸は発熱体挿入円筒形試験片の外表面の温度を示す。実施例6~10および比較例4の発熱体挿入円筒形試験片ではCoNiCrAlY層500およびYSZ層600が形成されていないため温度の測定結果はYSZ層600の厚さ=0の位置に記載している。
図14より、比較例4の発熱体挿入円筒形試験片の外表面の温度の測定結果から、円筒形試験片の定常状態に達した温度は460℃であった。これに対し、W系多目的合金層20を形成した実施例6~10の円筒形試験片の外表面の温度は430~435℃である。また、CoNiCrAlY層500およびYSZ層600を追加施工した比較例3の円筒形試験片の外表面の温度は、YSZ層600の厚さが60μmにおける432℃から1000μmにおける416℃であった。
【0096】
以上の結果より、比較例3の円筒形試験片の外表面の温度のYSZ層600の厚さ依存性から、W系多目的合金層20の温度を推定すると、433℃である。すなわち、W系多目的合金層20の遮熱特性は、比較例4の円筒形試験片の外表面の温度460℃との温度差は27℃であることから、従来のTBCに使用されているYSZ層では、厚さが60μmから1000μmで温度差が16℃であることを考慮すると、W系多目的合金層20は高い断熱特性を有することが明らかとなった。W系多目的合金層20の遮熱能から等価なYSZ層の厚さを推定すると、少なくとも、厚さ100μmのYSZ層に相当する遮熱特性を有している。W系多目的合金層20がこのように高い断熱特性を有することは、本発明者らが知る限り、初めて見出されたことである。
【0097】
[クリープ試験]
【0098】
クリープ試験用の試験片を作製し、クリープ試験を行った。
【0099】
(実施例11)
実施例11においては、
図15に示すような形状およびサイズのクリープ試験用の試験片を作製した。この試験片は、金属基材10としてNi基合金であるハステロイ-X基材(基本組成:Ni-25重量%Cr-20重量%Fe-10重量%Mo合金)を用い、その中心部に実施例5と同様にしてW系多目的合金層20、遷移層30およびAl含有合金層50を形成したものである。
図15に示すように、この試験片は、中央の平行部の長さが20mmで、板厚は2mmである。
図15中、W系多目的合金層20、遷移層30およびAl含有合金層50を形成した領域をハッチングで示す。
【0100】
(比較例5)
比較のために、ハステロイ-X基材のみからなるクリープ試験用の試験片を作製した。この試験片の形状およびサイズは
図15と同様である。
【0101】
クリープ試験は、温度1243K、大気中で行い、破断時間(hr)を決定し、応力と破断時間との関係をラーソンミラーパラメータ(Larson Miller Parameter)でプロットした。ラーソンミラーパラメータはP=T(C+ logt
r )で定義される。ただし、Tは絶対温度、t
r は破断時間(h)、Cは材料定数である。材料定数Cはハステロイ-Xの15を使用した。ラーソンミラーパラメータプロットを
図16に示す。
図16に示す結果から、基材のクリープ破断時間に対して、W系多目的合金層20を形成した実施例11の試験片では、比較例5の試験片と比較して、耐クリープ性に優れ、特に、高応力側で顕著である。
【0102】
[試験片の高温での自重による曲がりの観察]
(実施例12)
金属基材10としてSUS310製の片端封じの円筒(外径22mm、肉厚2mm、長さ500mm)を用いた。SUS310の基本組成はFe-25重量%Cr-20重量%Niである。この円筒の外周面に実施例5と同様にしてW系多目的合金層20、遷移層30およびAl含有合金層50を形成し、円筒形試験片を作製した。
【0103】
(比較例6)
金属基材10として実施例12と同様なSUS310製の片端封じの円筒(外径22mm、肉厚2mm、長さ500mm)を用意し、これを円筒形試験片とした。
【0104】
実施例12の円筒形試験片および比較例6の円筒形試験片を1200℃に保持した電気炉中に挿入してそれぞれ片持はり状に水平に支持し、加熱によって生じる自重による曲がりについて調査した。加熱後の実施例12の円筒形試験片および比較例6の円筒形試験片をそれぞれ
図17および
図18に示す。
図17および
図18中、破線は加熱を行う前の円筒形試験片の長手方向の輪郭を示す。
図17および
図18に示すように、比較例6の円筒形試験片は自重により大きく曲がっているのに対し、実施例12の円筒形試験片では曲がっていない。このことから、W系多目的合金層20によって自重による曲がりが効果的に抑制されていることが分かる。
【0105】
以上、この発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【符号の説明】
【0106】
10…金属基材、20…W系多目的合金層、30…遷移層、40…Cr含有合金層、50…Al含有合金層、60…CrおよびAl含有合金層、500…CoNiCrAlY層、600…YSZ層