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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093343
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】積鉄心および積鉄心の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/245 20060101AFI20230627BHJP
   H01F 27/24 20060101ALI20230627BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
H01F27/245 150
H01F27/24 Q
H01F41/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188963
(22)【出願日】2022-11-28
(31)【優先権主張番号】P 2021208578
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大村 健
(72)【発明者】
【氏名】井上 博貴
(72)【発明者】
【氏名】清水 建樹
【テーマコード(参考)】
5E062
【Fターム(参考)】
5E062AC01
5E062AC06
(57)【要約】
【課題】従来よりも騒音特性に優れる積鉄心を提供する
【解決手段】複数枚の電磁鋼板を積層した積鉄心において、上記積鉄心は、積層した電磁鋼板間に樹脂層が存在し、かつ、上記樹脂層が存在する鋼板間の全鋼板間に対する個数割合が0%超えである積層構造を有し、上記積層した電磁鋼板は、切断加工部のバリ高さの最大値が10μm以下、任意選択的に、上記樹脂層は、硬化方法が熱硬化型以外の積鉄心である。好ましくは、上記積鉄心は上記樹脂層が存在する鋼板間の個数割合が全体の20%以上90%以下であり、また、上記樹脂層が存在する鋼板間には、樹脂層が連続的または断続的に存在し、かつ、上記樹脂層が存在する領域の合計長さが斜角材の最大長さの50%以上の積鉄心である。
【選択図】図2


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の電磁鋼板を積層した積鉄心において、
上記積鉄心は、積層した電磁鋼板間に樹脂層が存在し、かつ、上記樹脂層が存在する鋼板間の全鋼板間に対する個数割合が0%超えである積層構造を有し、
上記積層した電磁鋼板は、切断加工部のバリ高さの最大値が10μm以下、
任意選択的に、上記樹脂層は、硬化方法が熱硬化型以外のもの、
であることを特徴とする積鉄心。
【請求項2】
上記樹脂層が存在する鋼板間の個数割合が全鋼板間の20%以上90%以下であることを特徴とする請求項1に記載の積鉄心。
【請求項3】
上記電磁鋼板の斜角材を積層した積鉄心であって、上記樹脂層が存在する鋼板間には、樹脂層が連続的または断続的に存在し、かつ、上記樹脂層が存在する領域の合計長さが上記斜角材の最大長さの50%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の積鉄心。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の電磁鋼板を積層した積鉄心の製造方法において、
1枚の電磁鋼板を素材鋼板とし、該素材鋼板から斜角材を採取した後、上記斜角材間に接着剤を塗付してから積層することを特徴とする積鉄心の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の電磁鋼板を積層した積鉄心の製造方法において、
1枚の電磁鋼板を素材鋼板とし、該素材鋼板から斜角材を採取した後、上記斜角材間に接着剤を塗付してから積層することを特徴とする積鉄心の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の電磁鋼板を積層した積鉄心の製造方法において、複数枚の電磁鋼板を貼り合わせた複合鋼板を素材鋼板とし、該素材鋼板から斜角材を採取した後、積層することを特徴とする積鉄心の製造方法。
【請求項7】
請求項3に記載の電磁鋼板を積層した積鉄心の製造方法において、複数枚の電磁鋼板を貼り合わせた複合鋼板を素材鋼板とし、該素材鋼板から斜角材を採取した後、積層することを特徴とする積鉄心の製造方法。
【請求項8】
上記斜角材を採取する切断方法がレーザ加工であることを特徴とする請求項4に記載の積鉄心の製造方法。
【請求項9】
上記斜角材を採取する切断方法がレーザ加工であることを特徴とする請求項5に記載の積鉄心の製造方法。
【請求項10】
上記斜角材を採取する切断方法がレーザ加工であることを特徴とする請求項6に記載の積鉄心の製造方法。
【請求項11】
上記斜角材を採取する切断方法がレーザ加工であることを特徴とする請求項7に記載の積鉄心の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数枚の電磁鋼板を積層した低騒音の積鉄心に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電力需要の増大に伴い、多数の変圧器やリアクトル等が使用されているが、上記変圧器やリアクトル等の静止器は、交流励磁すると騒音が発生する。しかし、昨今の環境重視の風潮から、その騒音を低減することが強く求められるようになってきている。上記騒音の発生は、変圧器やリアクトルの積鉄心に使用されている電磁鋼板の磁歪や電磁鋼板間の磁気力よる振動等が主原因と考えられている。
【0003】
上記問題に対して、例えば、非特許文献1には、高配向性の方向性電磁鋼板を用いて磁歪を低減したり、電磁鋼板表面の被膜張力を高めたりすることで騒音を低減する技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献1には、鉄心の締め付け方法を改善することで騒音を低減する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、鉄心を遮蔽板で取り囲むことによって、特許文献3には、変圧器を防振ゴムの上に設置することによっても、騒音を低減する技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、複数枚の方向性電磁鋼板の間に粘弾性特性を有する樹脂層を挟み込んだ積層構造とすることで、変圧器等の静止誘導気器の騒音を低減する技術が開示されている。この文献によれば、騒音が低減する理由は明らかではないとしながらも、鋼板に誘起された振動が樹脂層によって減衰され、熱として散逸されるためと推測している。
【0007】
さらに、特許文献5には、変圧器や回転機に使用する鉄心を加工する時の作業性に優れた積鉄心用の電磁鋼板が開示されている。この文献の電磁鋼板は、2枚以上の電磁鋼板が接着層を介して積層された接着鋼板であり、せん断接着強度が50kgf/m以上で鉄損や打ち抜き性が改善されると述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭47-028419号公報
【特許文献2】特開昭48-083329号公報
【特許文献3】特開昭56-040213号公報
【特許文献4】特開平08-250339号公報
【特許文献5】特開2000-173815号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】IEEE Transactions、8(1972)p.677
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記特許文献に開示された従来技術には、以下のような問題がある。
まず、非特許文献1、特許文献1~3の技術は、これらの技術を適用することで、ある程度の騒音低減効果を得ることはできるが、近年における厳しい騒音低減の要求には更なる改善が必要である。
【0011】
また、特許文献4の技術では、樹脂層を有する電磁鋼板からなる積鉄心は、樹脂層を有さない電磁鋼板からなる積鉄心に比べて低い騒音を示すが、その改善代は2dB程度しかなく、更なる特性向上が求められる。
【0012】
また、特許文献5の技術は、鉄心を加工する時の作業性にのみ着目しており、接着層を有する積鉄心の騒音特性については検討が一切なされていない。すなわち、騒音特性に及ぼす中間層(接着層)の影響については全く述べられていない。
【0013】
本発明は、従来技術が抱える上記の問題点に鑑み開発したものであって、その目的は、従来よりも騒音特性に優れる積鉄心を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者らは、上記課題を解決するため、積鉄心の振動解析を実施した結果、積鉄心の振動は面外方向(積層した鋼板表面に対して垂直方向)が最も大きく、この面外方向の振動を抑えることが、低騒音化に最も重要であることを見い出した。そして、上記面外方向の振動抑制に効果的な因子は、積鉄心の剛性であることを突き止めた。さらに、積鉄心の剛性を高める方策について検討を進めた結果、電磁鋼板を積層して積鉄心を作製する際、上記積鉄心の積層構造を、樹脂層を挟み込んで接着した鋼板間と、樹脂層がまったくない鋼板間とが存在する構造とすることが有効であることがわかった。また、その剛性を高めた効果を騒音低減に反映させるためには、積層した電磁鋼板の切断端部のバリ高さを小さくすること、さらには、鉄損を増大させることなく騒音を低減するには、接着に使用する樹脂を限定する必要があることも見出した。また、積鉄心の接着によって起こる鉄損の増大を防止するには、接着した鋼板間に存在する樹脂層の長さを、積鉄心を構成する斜角材の最大長さに対して、所定の割合とすることが重要であることも見出した。
【0015】
上記知見に基づき開発した本発明に係る積鉄心は、以下のように構成される。
[1]複数枚の電磁鋼板を積層した積鉄心において、上記積鉄心は、積層した電磁鋼板間に樹脂層が存在し、かつ、上記樹脂層が存在する鋼板間の全鋼板間に対する個数割合が0%超えである積層構造を有し、上記積層した電磁鋼板は、切断加工部のバリ高さの最大値が10μm以下、任意選択的に、上記樹脂層は、硬化方法が熱硬化型以外のものである積鉄心である。
[2]上記の[1]において、上記樹脂層が存在する鋼板間の個数割合が全鋼板間の20%以上90%以下の積鉄心である。
[3]上記の[1]又は[2]において、上記電磁鋼板の斜角材を積層した積鉄心であって、上記樹脂層が存在する鋼板間には、樹脂層が連続的または断続的に存在し、かつ、上記樹脂層が存在する領域の合計長さが上記斜角材の最大長さの50%以上の積鉄心である。
【0016】
上記知見に基づき開発した本発明に係る積鉄心の製造方法は、以下のように構成される。
[4]上記の[1]又は[2]において、1枚の電磁鋼板を素材鋼板とし、該素材鋼板から斜角材を採取した後、上記斜角材間に接着剤を塗付してから積層する、斜角材を積層した積鉄心の製造方法である。
[5]上記の[3]において、1枚の電磁鋼板を素材鋼板とし、該素材鋼板から斜角材を採取した後、上記斜角材間に接着剤を塗付してから積層する、斜角材を積層した積鉄心の製造方法である。
[6]上記の[1]又は[2]において、複数枚の電磁鋼板を貼り合わせた複合鋼板を素材鋼板とし、該素材鋼板から斜角材を採取した後、積層する、斜角材を積層した積鉄心の製造方法である。
[7]上記の[3]において、複数枚の電磁鋼板を貼り合わせた複合鋼板を素材鋼板とし、該素材鋼板から斜角材を採取した後、積層する、斜角材を積層した積鉄心の製造方法である。
[8]上記の[4]において、上記斜角材を採取する切断方法がレーザ加工である積鉄心の製造方法である。
[9]上記の[5]において、上記斜角材を採取する切断方法がレーザ加工である積鉄心の製造方法である。
[10]上記の[6]において、上記斜角材を採取する切断方法がレーザ加工である積鉄心の製造方法である。
[11]上記の[7]において、上記斜角材を採取する切断方法がレーザ加工である積鉄心の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、変圧器やリアクトル等の静止器に使用される積鉄心から発生する騒音を大幅に低減させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】2枚の電磁鋼板を貼り合わせた後、切断加工して斜角材を採取したときの切断端部の断面図であり、a)は、せん断加工による切断端部を、b)は、レーザ加工による切断端部を表す。
図2】斜角材の切断端部に発生したバリ高さが騒音と鉄損に及ぼす影響を示すグラフであり、a)は、バリ高さと騒音との関係を、b)は、バリ高さと鉄損との関係を表す。
図3】樹脂層が存在する鋼板間の個数割合が積鉄心の騒音と鉄損に及ぼす影響を示すグラフであり、a)は、樹脂層が存在する鋼板間の個数割合と騒音との関係を、b)は、樹脂層が存在する鋼板間の個数割合と鉄損との関係を表す。
図4】積層する鋼板(斜角材)間に樹脂を塗布するパターンを説明する図である。
図5】鋼板(斜角材)に樹脂層が存在する領域の合計長さの斜角材の最大長さに対する割合が積鉄心のたわみ量と鉄損に及ぼす影響を示すグラフであり、a)は、樹脂層が存在する領域の長さ割合とたわみ量との関係を、b)は、樹脂層が存在する領域の長さ割合と騒音との関係を表す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を開発するに至った実験について説明する。
まず、発明者らは、積鉄心を構成する電磁鋼板(斜角材)の積層構造、具体的には、積層した電磁鋼板間(以下、本発明では「鋼板間」とも称する)において、樹脂層が存在する鋼板間の個数の全鋼板間の個数に対する割合が、騒音と鉄損に及ぼす影響を調査する実験を行った。その結果、積鉄心を、電磁鋼板間に樹脂層で接着した鋼板間と、樹脂層がまったく存在しない鋼板間とが存在する積層構造とすれば、騒音を低減することができることを見出した。また、上記騒音低減効果を得るためには、積鉄心を構成する斜角材を採取したときに生じる切断端部のバリ高さを小さくする必要があること、特に、複数枚の電磁鋼板を貼り合わせた複合電磁鋼板から斜角材を採取するときは、バリ高さの管理を厳格化することが重要であることを見出した。
【0020】
<実験1>
1つの素材(方向性電磁鋼板)から切断加工して積鉄心用の斜角材を採取した後、上記斜角材を以下に示す3つの条件で積層して積鉄心を作製した。
・条件1:接着剤なしで積層
・条件2:積層した斜角材の鋼板間のうちの個数割合で50%を硬化剤混合タイプの二液エポキシ樹脂で接着した鋼板間、残りの50%を上記接着剤なしの鋼板間とし、それらを交互に積層
・条件3:積層した斜角材間のすべて(100%)を硬化剤混合タイプの二液エポキシ樹脂で接着して積層
【0021】
次いで、作製した上記3種類の積鉄心について、騒音、振動、鉄損および剛性を評価した。騒音は、JEM-1117(1969)「変圧器の騒音レベル測定方法」に準じて、鉄心から30cm離れた場所を1m間隔で測定し、その平均値をその積鉄心の騒音値とした。振動は、鉄心に加速度ピックアップセンサーを取り付けて測定した。鉄損は、積鉄心に一次コイルと二次コイルを装着し、1.7T、50Hzの励磁条件における二次コイルの電圧および一次コイルの電流を電力計で計測して求めた。剛性は、長さ方向を圧延方向とする幅:100mm×長さ:250mmの試験片を採取し、これを15mmの厚さに積層した後、一方の長さ方向端部を固定して片端支持状態とし、もう一方の片端部の自重による面外方向のたわみ量を測定することで評価した。このたわみ量が小さいほど、剛性が高いことを意味する。
【0022】
上記の評価結果を表1に示した。表1から、接着剤を用いて斜角材を積層することで(条件2、3)、騒音が大幅に改善できることがわかった。また、積鉄心の振動をみると、接着して積層した条件2、3では、面外方向の振動が大幅に抑制されているのに対して、接着しない通常の積層方法である条件1では、面外方向の振動が桁違いに大きいことがわかった。この結果から、この振動が騒音の主原因であること、言い換えれば、面外方向の振動を抑制することが騒音低減のポイントであるがわかった。また、騒音の低下量が大きい条件2、3の積鉄心のたわみ量を見ると、通常の積層方法の条件1に対して大幅に小さくなっていることから、騒音が低下した原因は、積鉄心の面外方向の剛性アップによる振動抑制によるものと考えられた。
【0023】
さらに、接着剤を用いて積層した条件2と条件3とを比較すると、鋼板間のすべてを接着した条件3では、鉄損特性が大幅に劣化している。この理由は、現時点では十分明確になっていない。しかし、積層した各鋼板は、拘束がない場合には周囲の鋼板の影響を受けずに自由に伸縮することができるが、全ての鋼板を接着した場合には周囲の鋼板によって拘束され、自由に伸縮できなくなり、鋼板の表面に応力が導入されるためではないかと考えている。
【0024】
以上の結果から、積鉄心において、鉄損を劣化させることなく騒音を低減するためには、積層した電磁鋼板の間に樹脂層を挟み込んで接着した鋼板間と、樹脂層がまったく存在していない鋼板間とが混在する積層構造とすることが重要であることがわかった。
【0025】
【表1】
【0026】
<実験2>
次に、2枚の方向性電磁鋼板の間に樹脂層を挟み込み接着して一体化した電磁鋼板(以下、本発明では「複合電磁鋼板」と称する)から採取した斜角材を積層した積鉄心と、一枚の電磁鋼板から採取した斜角材を積層した積鉄心とで騒音を比較する実験を行った。なお、上記の複合電磁鋼板は、特許文献4および特許文献5を参考にして作製した。
【0027】
具体的には、2つの方向性電磁鋼板の鋼板間の全面に硬化剤混合タイプの二液エポキシ樹脂を接着剤として塗付し、貼り合わせて一体化した複合電磁鋼板を準備し、上記複合電磁鋼板を切断加工して斜角材を採取し、積層して積鉄心を作製した。なお、上記切断加工は、せん断加工とレーザ加工の2つの方法で行った。また、比較のため、1枚の方向性電磁鋼板からも同様にして斜角材を採取し、接着剤を用いない通常の方法で積層して積鉄心を作製した。次いで、上記積鉄心の騒音および鉄損を実験1と同様にして評価した。因みに、上記積鉄心の樹脂層が存在しない鋼板間の割合(個数比率)は、複合電磁鋼板から作製したものは50%、1枚の電磁鋼板から作製したものは100%である。
【0028】
上記測定の結果を表2に示した。この結果から、2枚の電磁鋼板を貼り合わせた複合電磁鋼板から作製した積鉄心は、1枚の電磁鋼板から作製した積鉄心よりも騒音が低減している。また、切断加工方法についてみると、1枚の電磁鋼板から作製した積鉄心では、せん断加工とレーザ加工とで騒音、鉄損の差はない。複合電磁鋼板から作製した積鉄心では、レーザ加工した積鉄心は、1枚の電磁鋼板から作製した積鉄心に対して騒音が15dBと大きく低下しているのに対して、せん断加工した積鉄心では、騒音は3dBしか低下していない。しかも、複合電磁鋼板からせん断加工により作製した積鉄心は、鉄損が他の積鉄心よりも劣化している。
【0029】
上記の違いが発生した原因を調査するため、複合電磁鋼板における切断方法の違いを確認し、斜角材に加工したときに切断端部の断面を光学顕微鏡で観察し、その結果を図1に示した。図1a)は、せん断加工による切断端部を、図1b)は、レーザ加工による切断端部を表す。図1から、せん断加工とレーザ加工とでは、切断端面に発生したバリの高さが異なり、特に、複合電磁鋼板の切断端部では、樹脂層が存在する鋼板間の部分に発生したバリの高さが異常に大きくなっていること、また、上記バリの発生によって、鋼板間の隙間が拡大されていることがわかった。
【0030】
上記の結果から、複合電磁鋼板をせん断加工した場合には、樹脂層が存在する鋼板間部分に発生した大きなバリが発生して、加工端面8は積層方向からのずれが非常に大きくなっている。変圧器の接合部では加工端部と加工端部を突合せる。このとき突合せ部を磁束が通過するため、突合せ部の隙間は小さい方が好ましい。しかしながら、バリ発生などによって、隙間が増大すると磁束の流れやすさが低下するため、通過する磁束が減少する。その結果、積層した鋼板上下方向に流れる磁束量が増大する。この上下方向に流れる磁束の増大は、鋼板間の電磁振動の増大を招き、騒音が増大したと考えられる。また、変圧器接合部での磁束の流れの変化(積層方向への磁束の流れ増加)は、面内渦電流損の増大を招き、積鉄心全体としての鉄損が増加したと考えられる。
【0031】
したがって、複数枚の電磁鋼板を接着剤で貼り合わせて一体化した複合電磁鋼板から斜角材を採取する場合には、1枚の電磁鋼板から斜角材を採取する場合よりも高い精度で切断端面のバリ高さを管理し、突合せ部の隙間を小さくする必要がある。
【0032】
なお、特許文献4では、前述したように、実施例の騒音改善代は2~3dBしかなかった。そして、特許文献4には、騒音が低下した理由について、「鋼板に誘起された振動が樹脂層によって減衰され、熱として散逸された」と説明しており、本発明が見出したメカニズムとは全く異なる。したがって、騒音低減のためにはバリ高さを小さく管理する必要があるという本発明の技術思想は、特許文献4などの従来技術からは窺い知ることができない特徴である。
【0033】
【表2】
【0034】
上記結果に基づき、複合電磁鋼板のせん断面加工時の加工条件(クリアランス設定)を調整して最大バリ高さが種々に異なる斜角材を採取し、上記斜角材を積層して積鉄心を作製した。上記した実験2と同様にして、最大バリ高さと騒音および鉄損との関係を調査し、その結果を図2に示した。図2から、最大バリ高さを10μm以下とすることで、鉄損を劣化させることなく、騒音を低減できる。なお、上記バリ高さは、図1中に示した2のことをいい、最大バリ高さは、100ヶ所の切断端部の断面のバリ高さを光学顕微鏡で観察し、その最大値とした。
【0035】
<実験3>
次に、電磁鋼板(斜角材)を積層して積鉄心を作製する際、鋼板間に挟み込む接着剤(樹脂)の種類(硬化方法の違い)について検討した。
具体的には、1枚の方向性電磁鋼板をせん断加工して斜角材を採取した後、上記斜角材を積層して積鉄心を作製した。この際、上記斜角材の接着には、下記の5種類の接着剤を使用した。なお、せん断加工では、切断端部に発生した最大バリ高さは2.1μm以下に管理した。比較として通常の接着しない方法でも積鉄心を作製した。
<使用した接着剤の種類>
1.溶剤揮散型酢酸ビニル系樹脂
2.湿気硬化型シリコーンゴム系樹脂
3.加熱硬化型アクリル系樹脂
4.硬化剤混合型アクリル系樹脂
5.紫外線硬化型アクリル系樹脂
【0036】
次いで、上記のようにして作製した積鉄心について、上記した実験と同様にして騒音および鉄損を評価し、その結果を表3に示した。この結果から、No.1、2、4および5の接着剤を用いた場合にはいずれも騒音、鉄損が同程度であるが、No.3の加熱硬化型樹脂の接着剤を用いた場合には、接着しない方法で作製した積鉄心No.6よりも低騒音を実現しているものの、騒音および鉄損が上記接着剤より劣っている。これは、加熱して樹脂を硬化させる際、積鉄心内の加熱温度にムラが発生し、その後の冷却で冷却歪が導入されたことにより鉄損特性が劣化した結果、接着して剛性がアップしたことによる振動抑制の効果が相殺されたためと考えられる。なお、この問題は、加熱温度の均一化によって解決されると考えられるが、実生産ライン、特に大型の鉄心の生産ラインでは、磁歪や鉄損を劣化させないレベルまで加熱温度を均一化することは困難である。したがって、接着剤としては、樹脂の硬化に加熱が必須となる加熱硬化型のものは使用しないことが好ましいといえる。ここで、加熱硬化型樹脂とは、樹脂を50℃以上の温度で加熱することによって、樹脂に含まれる硬化剤成分が活性化し硬化するものと定義する。具体的な材料としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、アルキド樹脂などが挙げられるが特に限定されない。
【0037】
【表3】
【0038】
<実験4>
次に、積鉄心の積層構造において、積層した電磁鋼板(斜角材)間に樹脂層が存在する鋼板間の割合(個数比率)と騒音および鉄損との関係を調査した。
方向性電磁鋼板をせん断加工して斜角材を採取した後、上記斜角材を紫外線硬化型のエポキシ系樹脂を接着剤に用いて貼り合わせ、積層して積鉄心を作製した。この際、積層した斜角材間に樹脂層が存在する鋼板間の割合(個数比率)を0~100%の間で種々に変化させて騒音および鉄損に及ぼす影響を調査した。なお、樹脂層が存在する鋼板間と、樹脂層が全く存在しない鋼板間の出現パターンが、積層方向に対して一定となるように、樹脂層が存在する鋼板間の存在を分散させた。また、上記斜角材の切断端部に発生した最大バリ高さは3.5μmであった。
【0039】
上記測定の結果を図3に示した。図3(a)から、積層した斜角材間(鋼板間)にわずかな割合でも樹脂層を存在させることによって騒音を低減する効果が得られること、十分な騒音低減効果を得るためには、樹脂層が存在する鋼板間の個数割合を20%以上とすることが好ましいことがわかった。また、図3(b)から、積層した斜角材間(鋼板間)に樹脂層を存在させる割合が低いときは、鉄損への影響はほとんどないが、樹脂層が存在する鋼板間の割合が90%を超えると、鉄損が大幅に上昇することがわかった。以上の結果から、最大限の騒音低減効果を得て、なおかつ、鉄損特性とバランスさせるためには、樹脂層が存在する斜角材間(鋼板間)の個数割合を20%以上90%以下とすることが好ましい。ただし、少しでも騒音低減効果を得たいのであれば、樹脂層が存在する斜角材間(鋼板間)の割合は0%超えであればよい。
【0040】
<実験5>
次に、積層した斜角材間に挟み込む樹脂層(接着剤)の塗布パターンが、積鉄心の剛性および騒音特性に及ぼす影響を調査した。
方向性電磁鋼板をせん断加工して斜角材を採取した後、接着剤として硬化剤混合タイプの二液エポキシ樹脂を用いて貼り合わせて積層し、積鉄心を作製した。この際、斜角材の表面に塗布する接着剤の塗布パターンを、図4に示した11条件に変化させた。これらの積鉄心の樹脂層が存在する鋼板間の個数割合は100%である。また、比較として、斜角材間に樹脂層をまったく存在させない積鉄心も作製した。
ここで、条件0の塗布パターンは、斜角材の全面に接着剤を塗布するパターンである。
また、条件1~5の塗布パターンは、斜角材の長さ方向(RD方向:電磁鋼板の圧延方向)に連続的に(条件1、2、4および5)または断続的に(条件3)に接着剤を塗布するパターンである。これらの塗布パターンでは、斜角材の幅方向(TD方向:電磁鋼板の圧延直角方向)には接着剤が存在していない部分が存在する。なお、条件3の塗布パターンは、斜角材の上面側から見れば接着剤は長さ方向に断続的に存在するが、斜角材の幅方向の側面側(断面側)から見れば、斜角材の長さ方向(RD方向)で連続している。
また、条件6~10の塗布パターンは、斜角材の幅方向(TD方向:電磁鋼板の圧延直角方向)に連続的に(条件6、7、8および10)または断続的に(条件9)に接着剤を塗布するパターンである。なお、条件9の塗布パターンは、斜角材の上面側から見れば接着剤は幅方向に断続的に存在するが、斜角材の長さ方向の側面側(断面側)から見れば、斜角材の幅方向(TD方向)で連続している。
【0041】
上記の積鉄心について、剛性を評価した結果を表4に示した。この結果から、斜角材の長さ方向(RD方向)に連続して接着剤(樹脂層)を塗布した条件1~5は、接着剤をまったく塗布していない比較材(接着剤なし)と比べて、剛性が大幅に改善されており、幅方向(TD方向)の接着剤の途切れは剛性に大きな影響を及ぼしていないことがわかる。
一方、斜角材の幅方向(TD方向)に連続して接着剤(樹脂層)を塗付した条件6~10は、比較材(接着剤なし)と比べてたわみ量は小さくなっているが、条件7と10は、たわみ量が比較的大きく、塗布条件によって剛性が大きく異なっている。条件7と10が、条件6、8および10と相違している点は、斜角材の長さ方向(RD方向)における接着剤(樹脂層)が存在する割合であり、これが剛性に大きな影響を与えている可能性がある。なお、上記長さ方向の存在割合は、図4の条件10に示した樹脂が存在する領域7の合計長さの、斜角材の鋼板長さ(斜角材の最大長さ)に対する比率(%)である。
【0042】
【表4】
【0043】
そこで、斜角材に塗布した樹脂層の長さ方向(RD方向)の存在割合と、剛性および騒音との関係を調査し、その結果を図5に示した。図5から、連続的または断続的に存在する樹脂層が存在する領域の斜角材の長さ方向(RD方向)の合計長さが、斜角材の最大長さに対して50%以上であれば、鉄心の剛性が大幅に向上し、騒音も大きく低減する。
【0044】
以上の実験結果に基づき開発した本発明の積鉄心は、以下の構成からなるものである。
積鉄心は、一般に、電磁鋼板から採取した斜角材を複数枚積層することで構成され、巻き線(コイル)を嵌め込む脚部と、上記脚部を連絡する継鉄部とからなる。
そして、本発明の積鉄心は、積層した複数枚の電磁鋼板(斜角材)間に樹脂層を挟み込んで接着した鋼板間、すなわち、樹脂層が存在する鋼板間と、樹脂層がまったく存在していない鋼板間とが混在する積層構造であることが必要である。樹脂層がまったく存在しない鋼板間のみでは、積鉄心の面外方向の剛性が低く、騒音が大きくなるので、樹脂層が存在する鋼板間は、全鋼板間に対して個数割合で20%以上存在することが好ましい。
一方、積鉄心の全鋼板間に樹脂層が存在するようになると、積鉄心の鉄損が大幅に増大することから、樹脂層が存在する鋼板間は、全鋼板間に対して個数割合で90%以下とするのが好ましい。
したがって、騒音特性と鉄損特性とを両立させるためには、樹脂層が存在する鋼板間の割合は、個数割合で20%以上90%以下とするのが好ましい。なお、上記樹脂層が存在する鋼板間の割合は、積鉄心のすべての脚部と継鉄部の平均値である。樹脂層が存在する鋼板間と樹脂層が存在しない鋼板間の分布は、積層方向に対して一定となるように樹脂層が存在する鋼板間の存在を分散させるのが好ましい。
【0045】
次に、本発明の積鉄心を構成する斜角材を採取するときの切断方法については特に限定しないが、切断端部に発生したバリの最大高さは、10μm以下に管理することが必要である。バリの最大高さが10μmを超えると、樹脂層が存在する鋼板間の間隙が拡大されるため、積鉄心の剛性アップによる騒音低減効果が相殺されてしまう。
したがって斜角材は、1つの電磁鋼板から採取するのが好ましい。なお、2つの電磁鋼板を貼り合わせた複合電磁鋼板からせん断加工で斜角材を採取するときは、1つの電磁鋼板から斜角材をせん断加工で採取する場合と比較し、バリ高さが大きくなり易い。よって、せん断条件(クリアランス等)を厳密に管理する必要があるので、バリの発生し難いレーザ加工を用いることが好ましい。
【0046】
次に、本発明の積鉄心の斜角材間に挟み込む接着剤としての樹脂層は、加熱によって樹脂を硬化させるタイプのものは好ましくない。これは、樹脂を硬化させる加熱時に、鉄心内に加熱ムラに起因した冷却歪が導入され、磁歪特性や鉄損特性が劣化するためである。
したがって、斜角材間に挟み込む接着剤としては、加熱硬化型以外の接着剤、例えば、1)溶剤揮散型、2)湿気硬化型、3)硬化剤混合型、4)紫外線硬化型、5)嫌気硬化型等を用いることが好ましい。なお、接着剤の主成分である樹脂の種類については、粘弾性を有するものであれば、特に限定しないが、例えば、酢酸ビニル系、ニトリルゴム系、シアノアクリレート系、シリコーンゴム系、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系、アクリレート系等を用いることができる。
【0047】
また、本発明の積鉄心の剛性アップによる騒音低減効果は、斜角材間に接着剤が存在する鋼板間における、樹脂層が存在する領域の斜角材の長さ方向の合計長さの割合が、斜角材の最大長さに対して0%超えであれば得られる(図5を参照)。騒音低減効果をより確実に得るためには50%以上とするのが好ましい。
なお、斜角材間に接着剤が存在する鋼板間における、樹脂層が存在する領域の斜角材の幅方向の合計長さの割合は、積鉄心の剛性に及ぼす影響は小さい。よって、本発明では特に限定しないが、コスト削減の観点からは小さいほど、効果の安定性の観点からは大きいほど望ましいので、両者のバランスを考慮し、樹脂層が存在する領域の斜角材の幅方向の合計長さの、斜角材の幅に対する割合は、10~80%程度とするのが好ましい。
【0048】
また、積層する斜角材間に接着剤となる樹脂層が存在する鋼板間と、樹脂層が存在しない鋼板間とが混在する積層構造を得る方法は特に限定しない。例えば、素材となる電磁鋼板から切断加工して斜角材を採取し、該斜角材の表面に接着剤となる樹脂を塗布した後積層していく方法、あるいは、複数枚の電磁鋼板を接着して複合電磁鋼板とした後、該複合鋼板から斜角加工を採取し、積層する方法等がある。また、樹脂(接着剤)を塗布する方法についても特に限定しないが、例えば、ロールコーターを用いる方法、スプレーを用いる方法、含浸させる方法等、いずれの方法を用いてもよい。
【0049】
次に、本発明の積鉄心に用いる電磁鋼板について説明する。
本発明の積鉄心に用いる電磁鋼板は、従来公知の積鉄心用の電磁鋼板が使用可能である。一般的には、方向性電磁鋼板が使用されているが、無方向性電磁鋼板であってもよく、特に限定しない。
【0050】
しかし、積鉄心素材として、方向性電磁鋼板を用いる場合は、以下の成分組成を有するものであることが好ましい。
Si:2.0~8.0質量%
Siは、鋼の電気抵抗を高め、鉄損を低減するのに有効な元素であるが、含有量が2.0質量%に満たないと十分な鉄損低減効果が得られず、一方、8.0質量%を超えると加工性が著しく低下し、また、磁束密度も低下する。よって、Si含有量は2.0~8.0質量%の範囲であることが好ましい。
【0051】
Mn:0.005~1.0質量%
Mnは、熱間加工性を改善にするのに必要な元素であるが、含有量が0.005質量%未満ではその効果に乏しく、一方、1.0質量%を超えると製品板の磁束密度が低下するようになる。よって、Mn含有量は0.005~1.0質量%の範囲であることが好ましい。
【0052】
Ni:0.03~1.50質量%、Sn:0.01~1.50質量%、Sb:0.005~1.50質量%、Cu:0.03~3.0質量%、P:0.03~0.50質量%、Mo:0.005~0.10質量%、Cr:0.03~1.50質量%のうちから選ばれる少なくとも1種
Niは、熱延板組織を改善して磁気特性を向上させるのに有用な元素である。しかし、含有量が0.03質量%未満では上記効果が小さく、一方、1.50質量%を超えると二次再結晶が不安定になり磁気特性が却って劣化するようになる。そのため、Ni含有量は0.03~1.50質量%の範囲であるのが好ましい。また、Sn、Sb、Cu、P、MoおよびCrは、いずれも磁気特性の向上に有用な元素であるが、上記した各成分の下限値に満たないと、磁気特性の向上効果が小さく、一方、上記した各成分の上限値を超えると、二次再結晶粒の発達が阻害されるおそれがある。よって、Sn、Sb、Cu、P、MoおよびCrは、上記の範囲で含有していることが好ましい。
【0053】
なお、方向性電磁鋼板の場合、製品鋼板中に含まれるCは製造工程の脱炭焼鈍によって、また、S、SeおよびNは製造工程の仕上焼鈍における純化処理により、C含有量は50ppm以下、S、SeおよびNは不可避不純物レベルまで低減されている。上記成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物であり、上記不純物はできる限り低いことが好ましい。
【0054】
一方、積鉄心素材として、無方向性電磁鋼板を用いる場合は、以下の成分組成を有するものであることが好ましい。
Si,Al,MnおよびPは、いずれも鋼の電気抵抗を高め、鉄損を低減するのに有効な元素である。上記鉄損低減効果を得るためには、Siは0.5質量%以上、Alは0.1質量%以上、Mnは、0.05質量%以上、Pは0.01質量%以上含有していることが好ましい。一方、これらの元素を大量に含有していると、加工性が劣化するので、Siは6.5質量%、Alは3.0質量%、Mnは3.0質量%、Pは0.5質量%を上限とすることが好ましい。ただし、上記元素のすべてが必須ではないので、要求される特性に応じて適宜選択して含有させればよい。
【0055】
さらに、上記成分に加えて、磁気特性の改善元素として知られるSb,SnおよびCrを単独または複合して含有していてもよい。上記の元素を含有する場合は、Snは0.5質量%以下、Sbは0.5質量%以下およびCrは5.0質量%以下であるのが好ましい。これ以上含有しても磁気特性の改善効果が飽和し、合金コストが上昇するだけであるからである。
なお、上記成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物であるが、上記不純物はできる限り低いことが好ましい。
【0056】
また、本発明の積鉄心に用いる電磁鋼板は、方向性電磁鋼板、無方向性電磁鋼板ともに、鋼板表面に形成された被膜は限定されるものではなく、公知の被膜を有するものであればよい。
例えば、方向性電磁鋼板の被膜としては、MgOを主体としたフォルステライト被膜等からなる下地被膜である。この他に、リン酸マグネシウムまたはリン酸アルミニウムを主成分とする張力被膜、物理蒸着法や化学蒸着法で形成した窒化物、炭化物、炭窒化物等からなるセラミック被膜等の絶縁被膜が挙げられる。一方、無方向性電磁鋼板の被膜としては、例えば、無機物を主体とし、これに有機物を含んだ無機-有機の複合絶縁被膜が挙げられる。この複合絶縁被膜としては、クロム酸金属塩、リン酸金属塩などの金属塩、および、コロイダルシリカ、Zr化合物、Ti化合物等の無機物のうちのいずれかを主体とし、この中に微細な有機樹脂が分散している絶縁被膜を例示することができる。
【実施例0057】
C:0.01質量%、Si:2.8質量%、Mn:0.05質量%、Ni:0.12質量%、Al:280質量ppm、N:45質量ppm、Se:90質量ppm、S:25質量ppmおよびO:10質量ppmを含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる成分組成を有する鋼スラブを連続鋳造で製造し、1410℃に加熱後、熱間圧延により板厚が2.6mmの熱延板としたのち、1100℃で120秒の熱延板焼鈍を施した。その後、冷間圧延により中間板厚を1.2mmとし、酸素ポテンシャルPH2O/PH2=0.28の雰囲気下で、1000℃の温度に60秒間保持する中間焼鈍を施した。その後、塩酸酸洗して表面の酸化スケールを除去したのち、再度、冷間圧延をして、板厚が0.27mmの冷延板とした。
【0058】
次いで、酸素ポテンシャルPH2O/PH2=0.50の湿水素雰囲気下で、840℃の温度に120秒間保持する脱炭焼鈍を上記冷延板に施した後、鋼板表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、その後、二次再結晶させた後、1250℃で10hr間保持してフォルステライト被膜の形成と純化処理する仕上焼鈍を施した。その後、60質量%のコロイダルシリカとリン酸アルミニウムからなる絶縁被膜を塗布した後、形状矯正を兼ねた平坦化焼鈍を880℃の温度で施し、焼付けて、方向性電磁鋼板とした。
【0059】
次いで、上記のようにして得た方向性電磁鋼板を2コイル用意し、表5に示した硬化方法が異なる6種類の接着剤となる樹脂を各コイルの鋼板表面にスプレー塗布し、加熱硬化型樹脂は200℃、その他の樹脂は25℃の温度下で、10kgf/cmで加圧しながら連続的に圧着して、複合電磁鋼板とした。なお、鋼板表面への樹脂の塗布パターンは、ノズルの設置場所と、噴射パターンを変えることで変化させた。因みに、No.1~6の接着剤は、1:溶剤揮散型、2:湿気硬化型、3:硬化剤混合型、4:紫外線硬化型、5:嫌気硬化型、6:加熱硬化型の6種類である。
【0060】
その後、2枚の鋼板を貼り合わせた複合電磁鋼板から、レーザ加工またはせん断加工により斜角材を採取し、積層して、鉄心重量800kgの1000kVA、3相3脚変圧器の積鉄心を作製した。なお、上記切断加工時は、レーザ出力およびせん断クリアランスを調整して、切断端部の最大バリ高さを種々に変化させた。
次いで、上記積鉄心の3つの脚に一次および二次巻き線を巻いた後、120°ずつ位相をずらして1.7T/50Hzで励磁したときの積鉄心から発生する騒音と鉄損を測定した。なお、比較として、1枚の方向性電磁鋼板からも、斜角材を上記と同様にして採取して、鋼板間に樹脂層がまったく存在していない積鉄心を作製し、評価試験に供した。
【0061】
上記の測定結果を表5に併記した。この表から、以下のことがわかる。
1枚の電磁鋼板から作製したNo.1および2の積鉄心は、積層した斜角材間に樹脂層がまったく存在していないため、切断時のバリ高さを小さく制御しても、騒音が非常に大きい値を示している。
また、複合電磁鋼板から作製したNo.4の積鉄心は、接着剤に用いた樹脂が加熱硬化型であったため、導入された冷却歪によって騒音はNo.1および2と同レベルで、鉄損は増大している。
また、複合電磁鋼板から作製したNo.10、11および18の積鉄心は、意識的に最大バリ高さを10μm超えにした例であり、騒音低減代が小さいだけでなく、鉄損は増大している。
これに対して、複合電磁鋼板から作製したNo.3、5~9、12~17の積鉄心は、いずれも本発明に適合しているので、鉄損の劣化を招くことなく、低騒音化を実現できている。中でも、No.3、5~9、12~14、17の積鉄心は、樹脂層を挟み込んだ鋼板間に存在する樹脂層が存在する領域の圧延方向の長さ割合が斜角材の最大長さの50%以上であるため、より高い騒音低減効果が得られている。
【0062】
【表5】
【実施例0063】
C:0.05質量%、Si:3.8質量%、Mn:0.05質量%、Ni:0.01質量%、Al:50質量ppm、N:34質量ppm、Se:5質量ppm、S:5質量ppmおよびO:10質量ppmを含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる成分組成を有する鋼スラブを連続鋳造で製造し、1200℃に加熱後、熱間圧延により板厚が2.8mmの熱延板とした後、1100℃で120秒の熱延板焼鈍を施した。その後、冷間圧延して、板厚が0.23mmの冷延板とした。
【0064】
次いで、上記冷延板を、酸素ポテンシャルPH2O/PH2=0.43の湿水素雰囲気下で、均熱温度が840℃で120秒間保持する脱炭焼鈍を施した後、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、その後、二次再結晶させた後、1150℃で20hr間保持してフォルステライト被膜の形成と純化処理する仕上焼鈍を施した。その後、60質量%のコロイダルシリカとリン酸アルミニウムからなる絶縁被膜を塗布し、形状矯正を兼ねた平坦化焼鈍を850℃の温度で施し、焼付けて、方向性電磁鋼板とした。
【0065】
次いで、上記方向性電磁鋼板から、レーザ加工またはせん断加工して、切断端部のバリ高さを10μm以下に制御した斜角材を採取した後、該斜角材の表面に、接着剤となる2液混合型の樹脂を塗布し、積層して、鉄心重量800kgの1000kVA、3相3脚変圧器の積鉄心を作製した。なお、上記樹脂を塗布するに際しては、樹脂層が存在する鋼板間の個数割合を表6に示したように変化させた。また、塗布する樹脂はディスペンサーを用いて供給し、ノズルの設置位置や供給パターンを変えることで、樹脂の塗布パターンおよび斜角材間の長さ方向に存在する樹脂の長さ割合を、同じく表6に示したように変化させた。次いで、上記積鉄心の3つの脚に一次および二次巻き線を巻いた後、実施例1と同様にして騒音と鉄損を測定した。
【0066】
上記測定の結果を表6に示した。No.1および2の積鉄心は、斜角材間に樹脂層をまったく存在させない比較例であり、騒音が75dBと非常に大きい。また、No.3および12の積鉄心は、逆にすべての斜角材間に樹脂層が存在する比較例であり、騒音が低減しているものの、鉄損が上昇している。これに対して、それ以外の積鉄心(発明例)は、鉄損の増大を最小限に抑えた上で、低騒音化を達成している。しかし、No.4および13~16は、樹脂層が存在する鋼板間の個数割合が95%で好適範囲を外れているため、鉄損が高めである。また、No.9、10、15および16の積鉄心は、樹脂層が存在する鋼板間において、樹脂が存在する領域の圧延方向の合計長さの割合が斜角材の最大長さの50%未満であり好適範囲を外れているため、他の発明例と比べて騒音低減効果は小さくなっている。また、No.11は、樹脂層が存在する鋼板間の個数割合が10%で、好適範囲を外れているため、騒音低減代は小さい。
【0067】
【表6】
【符号の説明】
【0068】
S1:電磁鋼板
S2:電磁鋼板
S3:斜角材
1:接着剤(樹脂層)
2:バリ高さ
3:接着部分(樹脂層が存在する領域)
4:斜角材幅方向(TD方向)の樹脂層が存在しない領域
5:斜角材圧延方向(RD方向)の樹脂層が存在しない領域
6:斜角材幅方向(TD方向)の樹脂層が存在する領域
7:斜角材圧延方向(RD方向)の樹脂層が存在する領域
8:加工端面

図1
図2
図3
図4
図5