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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093365
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】機械式時計
(51)【国際特許分類】
   G04C 3/06 20060101AFI20230627BHJP
【FI】
G04C3/06 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199804
(22)【出願日】2022-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2021208029
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白井 琢矢
(72)【発明者】
【氏名】田京 祐
(72)【発明者】
【氏名】仁井田 優作
(57)【要約】
【課題】歩度精度を維持すると共に耐久性の高い機械式時計1を提供する。
【解決手段】機械式時計1は、動力ゼンマイ11と、動力ゼンマイ11からの動力により駆動するテン輪31と、テン輪31を正逆回転運動させるように弾性変形するヒゲゼンマイ32と、を含む調速機構30と、テン輪31の正逆回転運動に伴い正逆回転運動する、二磁極化された永久磁石40と、コイルと43、テン輪31の正方向運動及び逆方向運動に伴う永久磁石40の運動によりコイル43に生じる検出電圧に基づいて検出信号を検出する回転検出回路45と、コイル43の端子を短絡させることで永久磁石40を制動する制動力を作用させる制動回路80と、少なくとも、検出電圧と、基準信号源の基準信号とに基づいて、制動力の作用期間を制御する制御回路44と、を有する。
【選択図】図35

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源と、
前記動力源からの動力により駆動するテン輪と、前記テン輪を正逆回転運動させるように弾性変形するヒゲゼンマイと、を含む調速機構と、
前記テン輪の正逆回転運動に伴い正逆回転運動する、二磁極化された永久磁石と、
コイルと、
前記テン輪の正方向運動及び逆方向運動に伴う前記永久磁石の運動により前記コイルに生じる検出電圧に基づいて検出信号を検出する回転検出回路と、
前記コイルの端子を短絡させることで前記永久磁石を制動する制動力を作用させる制動回路と、
少なくとも、前記検出電圧と、基準信号源の基準信号とに基づいて、前記制動力の作用期間を制御する制御回路と、
を有する機械式時計。
【請求項2】
前記作用期間は、前記テン輪の一方の回転方向における回転速度が最大値に達した後であって、次に前記テン輪が前記一方の回転方向の逆方向における回転速度が最大値に達するタイミングを含む期間を含む、
請求項1に記載の機械式時計。
【請求項3】
前記基準信号が第1間隔で出力されると共に、前記作用期間が前記第1間隔よりも短い第1制動モードと、
前記基準信号が前記第1間隔よりも長い第2間隔で出力されると共に、前記作用期間が前記第2間隔よりも短い第2制動モードと、
を含み、
前記制御回路は、前記第1制動モードと前記第2制動モードを切り替える、
請求項1又は2に記載の機械式時計。
【請求項4】
前記制動回路は、
前記第1制動モードにおいて、前記作用期間が互いに異なる複数の前記制動力を生じさせることが可能に構成されており、
前記第2制動モードにおいて、前記作用期間が互いに異なる複数の前記制動力を生じさせることが可能に構成されている、
請求項3に記載の機械式時計。
【請求項5】
前記第2制動モードにおける前記作用期間は、前記第1間隔よりも長い期間を含む、
請求項4に記載の機械式時計。
【請求項6】
前記制動回路は、前記基準信号の出力タイミングに対する前記検出信号の検出タイミングのズレ量に応じた前記作用期間の前記制動力を生じさせる、
請求項5に記載の機械式時計。
【請求項7】
前記制動回路は、前記検出信号が検出された検出タイミングが前記基準信号の出力タイミングよりも進んでいる場合、前記検出信号が検出された検出タイミングが前記基準信号の出力タイミングに対して所定範囲内である場合に生じさせる第1作用期間よりも長い第2作用期間の前記制動力を生じさせる、
請求項5に記載の機械式時計。
【請求項8】
前記制動回路は、前記検出信号が検出された検出タイミングが前記基準信号の出力タイミングよりも遅れている場合、前記検出信号が検出された検出タイミングが前記基準信号の出力タイミングに対して所定範囲内である場合に生じさせる第1作用期間よりも短い第3作用期間の前記制動力を生じさせる、又は前記制動力を生じさせない、
請求項5に記載の機械式時計。
【請求項9】
前記制御回路は、前記基準信号の出力タイミングに対する前記検出信号の検出タイミングのズレ量に基づいて、前記第1制動モードと前記第2制動モードを切り替える、
請求項5に記載の機械式時計。
【請求項10】
温度センサを有し、
前記制御回路は、前記温度センサの出力に基づいて前記第1制動モードと前記第2制動モードを切り替える、
請求項5に記載の機械式時計。
【請求項11】
前記検出電圧の大きさに関わらず前記検出信号を検出しない非検出期間を含む、
請求項1に記載の機械式時計。
【請求項12】
前記非検出期間は、前記作用期間よりも長い、
請求項11に記載の機械式時計。
【請求項13】
前記制動回路は、前記作用期間が異なる複数の前記制動力を生じさせることが可能に構成されており、
前記非検出期間は、前記複数の制動力の前記作用期間のうち少なくともいずれか1つの作用期間よりも長い、
請求項11に記載の機械式時計。
【請求項14】
前記非検出期間は、前記テン輪の正逆回転運動のうち正方向運動及び逆方向運動において、前記テン輪の回転速度が最大値に達した後であって、次に前記テン輪の回転速度が最大値となる前の期間である、
請求項11に記載の機械式時計。
【請求項15】
前記制御回路は、前記テン輪を2秒間で1往復させるように前記作用期間を制御する、
請求項1に記載の機械式時計。
【請求項16】
前記制御回路は、前記検出信号が検出される毎に前記制動回路により前記制動力を生じさせる、
請求項1に記載の機械式時計。
【請求項17】
前記制動回路は、前記作用期間が互いに異なる複数の前記制動力を生じさせることが可能に構成されており、
前記制御回路は、前記作用期間の始点又は終点の少なくともいずれかのタイミングを制御することにより前記作用期間を制御する、
請求項1に記載の機械式時計。
【請求項18】
前記制御回路は、第1作用期間群に含まれる複数の作用期間においては、その始点のタイミングを固定すると共に、その終点のタイミングを制御し、第2作用期間群に含まれる複数の作用期間においては、その始点のタイミングを制御すると共に、その終点のタイミングを固定し、
前記第2作用期間群に含まれる複数の作用期間それぞれは、前記第1作用期間群に含まれる複数の作用期間よりも長い、
請求項17に記載の機械式時計。
【請求項19】
前記制動回路は、前記作用期間が互いに異なる複数の前記制動力を、予め設定される制動区間内で生じさせることが可能に構成されており、
前記第1作用期間群に含まれる複数の作用期間の始点のタイミングは、前記制動区間の始点以降の所定の基準タイミングであり、
前記第1作用期間群に含まれる複数の作用期間の終点のタイミングは、前記制動区間の終点以前のタイミングであり、
前記第2作用期間群に含まれる複数の作用期間の始点のタイミングは、前記基準タイミングよりも前のタイミングであり、
前記第2作用期間群に含まれる複数の作用期間の終点のタイミングは、前記制動区間の終点のタイミングである、
請求項18に記載の機械式時計。
【請求項20】
前記基準タイミングは、前記テン輪の正逆回転運動のうち正方向運動及び逆方向運動において、前記テン輪の回転速度が最大値に達した後であって、次に前記検出電圧の波形のピークが生じる前のタイミングである、
請求項19に記載の機械式時計。
【請求項21】
前記制御回路は、前記基準信号の出力タイミングに対する前記検出信号の検出タイミングのズレ量に基づいて前記作用期間を制御し、
前記作用期間が同じ前記制動力を連続して作用させた回数が所定回数以上であって、かつ前記ズレ量が所定量以上である場合、前記作用期間を変える、
請求項1に記載の機械式時計。
【請求項22】
動力源と、
前記動力源からの動力により駆動するテン輪と、前記テン輪を正逆回転運動させるように弾性変形するヒゲゼンマイと、を含む調速機構と、
前記テン輪の正逆回転運動に伴い正逆回転運動する、二磁極化された永久磁石と、
コイルと、
前記テン輪の正方向運動及び逆方向運動に伴う前記永久磁石の運動により前記コイルに生じる検出電圧と、基準信号源の基準信号とに基づいて、前記テン輪の運動を制御する調速パルスを出力する調速パルス出力回路と、
前記検出電圧に基づいて検出信号を検出する回転検出回路と、
前記検出信号が検出される毎に前記永久磁石を制動する制動力を制御する制御回路と、
を有する機械式時計。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械式時計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の機械式時計においては、テンプの往復運動に基づいて1秒を作り出しており、1秒あたりの往復運動の回数が増えると、1秒あたりの誤差、すなわち歩度精度の影響は小さくなる。例えば、特許文献1には、脱進機の慣性を低減してテンプを高速振動化し、歩度精度を向上させる技術が開示されている。また、特許文献2、3には、テンプを備える機械式時計において、歩度を調整する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-185932号公報
【特許文献2】特開2019-113548号公報
【特許文献3】特開2020-38206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、テンプの動きが高速であるほど、動力を伝達する各機構が摩耗しやすく、耐久性が低下してしまう。一方、テンプの動きを低速にすると、歩度精度を担保することが困難となる。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてされたものであって、その目的は、歩度精度を維持すると共に耐久性の高い機械式時計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)動力源と、前記動力源からの動力により駆動するテン輪と、前記テン輪を正逆回転運動させるように弾性変形するヒゲゼンマイと、を含む調速機構と、前記テン輪の正逆回転運動に伴い正逆回転運動する、二磁極化された永久磁石と、コイルと、前記テン輪の正方向運動及び逆方向運動に伴う前記永久磁石の運動により前記コイルに生じる検出電圧に基づいて検出信号を検出する回転検出回路と、前記コイルの端子を短絡させることで前記永久磁石を制動する制動力を作用させる制動回路と、少なくとも、前記検出電圧と、基準信号源の基準信号とに基づいて、前記制動力の作用期間を制御する制御回路と、を有する機械式時計。
【0007】
(2)(1)において、前記作用期間は、前記テン輪の一方の回転方向における回転速度が最大値に達した後であって、次に前記テン輪が前記一方の回転方向の逆方向における回転速度が最大値に達するタイミングを含む期間を含む、機械式時計。
【0008】
(3)(1)又は(2)において、前記基準信号が第1間隔で出力されると共に、前記作用期間が前記第1間隔よりも短い第1制動モードと、前記基準信号が前記第1間隔よりも長い第2間隔で出力されると共に、前記作用期間が前記第2間隔よりも短い第2制動モードと、を含み、前記制御回路は、前記第1制動モードと前記第2制動モードを切り替える、機械式時計。
【0009】
(4)(3)において、前記制動回路は、前記第1制動モードにおいて、前記作用期間が互いに異なる複数の前記制動力を生じさせることが可能に構成されており、前記第2制動モードにおいて、前記作用期間が互いに異なる複数の前記制動力を生じさせることが可能に構成されている、機械式時計。
【0010】
(5)(4)において、前記第2制動モードにおける前記作用期間は、前記第1間隔よりも長い期間を含む、機械式時計。
【0011】
(6)(5)において、前記制動回路は、前記基準信号の出力タイミングに対する前記検出信号の検出タイミングのズレ量に応じた前記作用期間の前記制動力を生じさせる、機械式時計。
【0012】
(7)(5)又は(6)において、前記制動回路は、前記検出信号が検出された検出タイミングが前記基準信号の出力タイミングよりも進んでいる場合、前記検出信号が検出された検出タイミングが前記基準信号の出力タイミングに対して所定範囲内である場合に生じさせる第1作用期間よりも長い第2作用期間の前記制動力を生じさせる、機械式時計。
【0013】
(8)(7)において、前記制動回路は、前記検出信号が検出された検出タイミングが前記基準信号の出力タイミングよりも遅れている場合、前記検出信号が検出された検出タイミングが前記基準信号の出力タイミングに対して所定範囲内である場合に生じさせる第1作用期間よりも短い第3作用期間の前記制動力を生じさせる、又は前記制動力を生じさせない、機械式時計。
【0014】
(9)(5)~(8)のいずれかにおいて、前記制御回路は、前記基準信号の出力タイミングに対する前記検出信号の検出タイミングのズレ量に基づいて、前記第1制動モードと前記第2制動モードを切り替える、機械式時計。
【0015】
(10)(5)~(9)のいずれかにおいて、温度センサを有し、前記制御回路は、前記温度センサの出力に基づいて前記第1制動モードと前記第2制動モードを切り替える、機械式時計。
【0016】
(11)(1)~(10)のいずれかにおいて、前記検出電圧の大きさに関わらず前記検出信号を検出しない非検出期間を含む、機械式時計。
【0017】
(12)(11)において、前記非検出期間は、前記作用期間よりも長い、機械式時計。
【0018】
(13)(11)又は(12)において、前記制動回路は、前記作用期間が異なる複数の前記制動力を生じさせることが可能に構成されており、前記非検出期間は、前記複数の制動力の前記作用期間のうち少なくともいずれか1つの作用期間よりも長い、機械式時計。
【0019】
(14)(11)~(13)のいずれかにおいて、前記非検出期間は、前記テン輪の正逆回転運動のうち正方向運動及び逆方向運動において、前記テン輪の回転速度が最大値に達した後であって、次に前記テン輪の回転速度が最大値となる前の期間である、機械式時計。
【0020】
(15)(1)~(14)のいずれかにおいて、前記制御回路は、前記テン輪を2秒間で1往復させるように前記作用期間を制御する、機械式時計。
【0021】
(16)(1)~(15)のいずれかにおいて、前記制御回路は、前記検出信号が検出される毎に前記制動回路により前記制動力を生じさせる、機械式時計。
【0022】
(17)(1)~(16)のいずれかにおいて、前記制動回路は、前記作用期間が互いに異なる複数の前記制動力を生じさせることが可能に構成されており、前記制御回路は、前記作用期間の始点又は終点の少なくともいずれかのタイミングを制御することにより前記作用期間を制御する、機械式時計。
【0023】
(18)(17)において、前記制御回路は、第1作用期間群に含まれる複数の作用期間においては、その始点のタイミングを固定すると共に、その終点のタイミングを制御し、第2作用期間群に含まれる複数の作用期間においては、その始点のタイミングを制御すると共に、その終点のタイミングを固定し、前記第2作用期間群に含まれる複数の作用期間それぞれは、前記第1作用期間群に含まれる複数の作用期間よりも長い、機械式時計。
【0024】
(19)(18)において、前記制動回路は、前記作用期間が互いに異なる複数の前記制動力を、予め設定される制動区間内で生じさせることが可能に構成されており、前記第1作用期間群に含まれる複数の作用期間の始点のタイミングは、前記制動区間の始点以降の所定の基準タイミングであり、前記第1作用期間群に含まれる複数の作用期間の終点のタイミングは、前記制動区間の終点以前のタイミングであり、前記第2作用期間群に含まれる複数の作用期間の始点のタイミングは、前記基準タイミングよりも前のタイミングであり、前記第2作用期間群に含まれる複数の作用期間の終点のタイミングは、前記制動区間の終点のタイミングである、機械式時計。
【0025】
(20)(19)において、前記基準タイミングは、前記テン輪の正逆回転運動のうち正方向運動及び逆方向運動において、前記テン輪の回転速度が最大値に達した後であって、次に前記検出電圧の波形のピークが生じる前のタイミングである、機械式時計。
【0026】
(21)(1)~(20)のいずれかにおいて、前記制御回路は、前記基準信号の出力タイミングに対する前記検出信号の検出タイミングのズレ量に基づいて前記作用期間を制御し、前記作用期間が同じ前記制動力を連続して作用させた回数が所定回数以上であって、かつ前記ズレ量が所定量以上である場合、前記作用期間を変える、機械式時計。
【0027】
(22)動力源と、前記動力源からの動力により駆動するテン輪と、前記テン輪を正逆回転運動させるように弾性変形するヒゲゼンマイと、を含む調速機構と、前記テン輪の正逆回転運動に伴い正逆回転運動する、二磁極化された永久磁石と、コイルと、前記テン輪の正方向運動及び逆方向運動に伴う前記永久磁石の運動により前記コイルに生じる検出電圧と、基準信号源の基準信号とに基づいて、前記テン輪の運動を制御する調速パルスを出力する調速パルス出力回路と、前記検出電圧に基づいて検出信号を検出する回転検出回路と、前記検出信号が検出される毎に前記永久磁石を制動する制動力を制御する制御回路と、を有する機械式時計。
【発明の効果】
【0028】
上記本発明の(1)~(22)の側面によれば、歩度精度を維持すると共に耐久性の高い機械式時計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】第1実施形態の地板及びそれに組み込まれる各部材を示す斜視図である。
図2】第1実施形態における動力を伝達する機構及びその周辺を示す斜視図である。
図3】第1実施形態における調速機構及びその周辺の部材を地板から分解した様子を示す分解斜視図である。
図4】第1実施形態の軟磁性コアとその周辺を示す平面図、及びその一部を拡大して示す拡大平面図である。
図5】第1実施形態に係る機械式時計の全体構成を示すブロック図である。
図6】第1実施形態におけるテン輪の動作と、コイルに生じる逆起電圧との関係を説明する図である。
図7A】第1実施形態における調速パルスによる永久磁石の動きの制御について説明する図である。
図7B】第1実施形態における調速パルスによる永久磁石の動きの制御について説明する図である。
図8】第1実施形態の第1実施例における制動制御の一例を示すタイミングチャートである。
図9】第1実施形態における回路図である。
図10】第1実施形態の第2実施例における制動制御の一例を示すタイミングチャートである。
図11】第1実施形態の第3実施例における制動制御の一例を示すタイミングチャートである。
図12】第1実施形態における電磁ブレーキの作用タイミングを説明する図である。
図13】第1実施形態の第4実施例における制動制御の一例を示すタイミングチャートである。
図14】第1実施形態の第5実施例における制動制御の一例を示すタイミングチャートである。
図15】第1実施形態の第6実施例における制動制御の一例を示すタイミングチャートである。
図16】第1実施形態の制動制御の一例を示すフローチャートである。
図17】第1実施形態の変形例における制動制御の一例を示すタイミングチャートである。
図18】第1実施形態の変形例における制動制御の一例を示すタイミングチャートである。
図19】第1実施形態の変形例における制動制御の一例を示すタイミングチャートである。
図20】第1実施形態の変形例における制動制御の一例を示すフローチャートである。
図21】電源回路が停止状態から起動を開始する際の制動制御の一例を示すタイミングチャートである。
図22】基準信号の出力タイミングの一例を示すタイミングチャートである。
図23】テン輪の回転角度と永久磁石に作用する保持トルクの関係、及びテン輪の回転角度とヒゲゼンマイのトルクの関係を示すグラフである。
図24】ヒゲゼンマイのトルク及び保持トルクが働く向きについて説明する図である。
図25】動力ゼンマイのトルクが弱まった際の制動制御の一例を示すタイミングチャートである。
図26】動力ゼンマイのトルクが弱まったと判定された場合の検出信号の検出の一例を示す図である。
図27】動力ゼンマイのトルクが弱まった際の制動制御の一例を示すタイミングチャートである。
図28】回転検出の検出精度を向上させる制動制御の一例を示すタイミングチャートである。
図29図28に示す制動制御を実現するための回路図である。
図30】第1実施形態の他の変形例における制動制御の一例を示すタイミングチャートである。
図31】第1実施形態の他の変形例における制動制御の一例を示すタイミングチャートである。
図32】第1実施形態の他の変形例における制動制御の一例を示すフローチャートである。
図33】第2実施形態における制動制御の一例を示す図である。
図34】第2実施形態における制動制御の一例を示す図である。
図35】第2実施形態における制動制御の一例を示すフローチャートである。
図36】第3実施形態における制動制御の一例を説明する図である。
図37A】始点又は終点のいずれかを固定して電磁ブレーキの作用期間を変動させる例を示す図である。
図37B】所定の基準タイミングを基準として電磁ブレーキの作用期間を変動させる例を示す図である。
図37C】ランクの高さに応じて電磁ブレーキの作用期間を変動させる例を示す図である。
図38】ランク切り替えの一例を示すフローチャートである。
図39図38で示したランク切り替えの変形例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の各実施形態について図面に基づき詳細に説明する。
【0031】
[全体構成の概要]
まず、図1図5を参照して、第1実施形態に係る機械式時計1の全体構成の概要について説明する。図1は、第1実施形態の地板及びそれに組み込まれる各部材を示す斜視図である。図2は、第1実施形態における動力を伝達する機構及びその周辺を示す斜視図である。図3は、第1実施形態における調速機構及びその周辺の部材を地板から分解した様子を示す分解斜視図である。図4は、第1実施形態の軟磁性コアとその周辺を示す平面図、及びその一部を拡大して示す拡大平面図である。図5は、第1実施形態に係る機械式時計の全体構成を示すブロック図である。なお、図1図3は、機械式時計1の裏側から見た様子を示している。なお、裏側とは、機械式時計1の厚み方向のうち外装ケースの裏蓋が配置される側である。
【0032】
機械式時計1は、動力ゼンマイ11を動力源とし、脱進機構20及び調速機構30によって動力ゼンマイ11の動きを制御すると共に、指針を駆動させる時計である。機械式時計1は、指針を駆動する各機構が組み込まれる地板10を外装ケースに収容して成る。なお、第1実施形態においては外装ケースの図示は省略する。また、外装ケースの側面に配置される竜頭の図示も省略する。竜頭は、図1に示す巻き真2の端部に取り付けられている。
【0033】
[全体構成の概要:駆動機構の構成]
機械式時計1が備える駆動機構の概要について説明する。第1実施形態において、動力源である動力ゼンマイ11、輪列12、指針軸13を含む機構を「駆動機構」と称する。なお、図2においては、指針のうち秒針131のみを図示している。図2に示す駆動機構は一例であり、これに限られるものではなく、図示する歯車以外の歯車等を備えていてもよい。
【0034】
動力ゼンマイ11は、金属製の帯状体からなり、外周に複数の歯が形成される香箱110に収容されている。香箱110は、円盤形状であって、動力ゼンマイ11を収容する空洞が内部に形成されている。動力ゼンマイ11は、その内端が香箱110の中心に設けられる回転軸である香箱真(不図示)に固定されており、その外端が香箱110の内側面に固定されている。ユーザの操作により竜頭が回転させられると、巻き真2が回転する。巻き真2の回転に伴って、動力ゼンマイ11が巻き上げられる。巻き上げられた動力ゼンマイ11は、その弾性力によりほどかれる。この際の動力ゼンマイ11の動作に伴って香箱110が回転することとなる。
【0035】
輪列12は、少なくとも、二番車122、三番車123、四番車124を含む。二番車122は、一番車として機能する香箱110に形成される複数の歯に噛み合うカナと、回転軸と、複数の歯とを含み、香箱110の回転を三番車123に伝達する。二番車122の回転軸は、分針(不図示)の指針軸である。三番車123は、二番車122の複数の歯と噛み合うカナと、回転軸と、複数の歯とを含み、二番車122の回転を四番車124に伝達する。四番車124は、三番車123の複数の歯に噛み合うカナと、回転軸と、複数の歯とを含み、三番車123の回転を脱進機構20に伝達する。図2に示すように、四番車124の回転軸は、秒針131の指針軸13である。
【0036】
[全体構成の概要:脱進機構20及び調速機構30の構成、並びにそれらの動作の概要]
次に、脱進機構20及び調速機構30について説明する。動力ゼンマイ11からの動力は、輪列12を通じて、脱進機構20及び調速機構30に伝達される。脱進機構20は、ガンギ車21と、アンクル22とを含んで構成される。調速機構30は、テン輪31と、ヒゲゼンマイ32とを含んで構成される。なお、調速機構30はテンプと呼ばれることもある。
【0037】
ガンギ車21は、アンクル22と噛み合うことでアンクル22から調速機構30の刻むリズムを受け取り、規則正しい往復運動に変換する部品である。ガンギ車21は、四番車124の複数の歯と噛み合うカナと、回転軸と、複数の歯を含む。図2に示すように、ガンギ車21の複数の歯は、輪列12の各歯車の歯よりも周方向に間隔を広く空けて形成されている。
【0038】
アンクル22は、図4に示すアンクル真221を回転軸として正逆回転運動を行う。アンクル22は、アンクル真221からテン輪31の中心(テン真311)に向けて延びており、テン真311と共に回転する振り石(不図示)に衝突する竿部222を有する。なお、振り石はテン真311に固定されている。
【0039】
また、アンクル22は、ガンギ車21の複数の歯に衝突する入爪223aが取り付けられる第1腕部223と、第1腕部223の反対方向に延びると共にガンギ車21の複数の歯に衝突する出爪224aが取り付けられる第2腕部224とを有する。なお、入爪223aと出爪224aは、例えば、サファイア等の石であるとよい。
【0040】
テン輪31は、テン真311を回転中心として、輪列12により伝達された動力により正逆回転運動をする。なお、以下の説明において、正逆回転運動のうち正方向運動を「正方向の回転」と呼び、逆方向運動を「逆方向の回転」と呼ぶこともある。
【0041】
図3に示すように、テン輪31は、その外形が円形であって、部分的に切り欠きを有しているとよい。ただし、図3に示すテン輪31の形状は一例であり、径の異なる箇所を部分的に有してよい。テン真311は、図3に示す支持部材33により支持されている。
【0042】
ヒゲゼンマイ32は、テン輪31を正逆回転運動させるように伸縮運動(弾性変形)をする。ヒゲゼンマイ32は、渦巻き状であり、その内端はテン真311に対して固定されており、その外端はヒゲ持受34に対して固定されている。なお、ヒゲ持受34は、支持部材33と共に地板10に対して固定されている。また、ヒゲ持受34は、図3に示すように、支持部材33とワク部材35とに挟まれて設けられている。
【0043】
ガンギ車21は、四番車124の回転に伴って回転する。ガンギ車21が回転すると、アンクル22の入爪223aに衝突し、アンクル22はアンクル真221を中心に回転する。回転したアンクル22の竿部222はテン真311に固定される振り石に衝突し、それにより、テン輪31が回転する。テン輪31が回転すると、アンクル22の出爪224aがガンギ車21に衝突して、ガンギ車21を停止させる。テン輪31がヒゲゼンマイ32の復元力により逆方向に回転すると、アンクル22の入爪223aが解除され、ガンギ車21が再び回転する。なお、後述のように、テン輪31は2秒間で1往復の動作をするよう設計されていることより、ガンギ車21は、1秒に1ステップの動作を行うこととなる。
【0044】
第1実施形態においては、ヒゲゼンマイ32の材料としてヤング率の低い樹脂材料を採用した。これにより、金属材料で構成した場合と比較して、テン輪31の低速振動化を実現することができる。仮に金属ヒゲゼンマイで低速振動化を実現しようとすると、加工困難なレベルまでヒゲゼンマイ32の断面積を小さくするか、扱いが困難なレベルまでヒゲゼンマイ長を長くしなければならない。
【0045】
第1実施形態においては、ヒゲゼンマイ32の材料としてヤング率が約5[GPa]の樹脂を用いた。具体的には、ヒゲゼンマイ32の材料としてポリエステルを用いた。なお、樹脂材料からなるヒゲゼンマイ32は、例えば、レーザ加工により製作されるものであるとよい。なお、一般的な金属製のヒゲゼンマイのヤング率は200[GPa]程度である。ここで示したヤング率は一例であり、ヒゲゼンマイ32のヤング率は20[GPa]以下であるとよい。すなわち、ヒゲゼンマイ32のヤング率は、金属製のヒゲゼンマイのヤング率の10分の1以下であるとよい。さらに好ましくは、ヒゲゼンマイ32のヤング率は10[GPa]以下であるとよい。すなわち、ヒゲゼンマイ32のヤング率は、金属製のヒゲゼンマイのヤング率の20分の1以下であるとよい。また、ヤング率は20[GPa]以下であればよく、ヒゲゼンマイ3は紙や木材といった材料でも構わない。
【0046】
また、第1実施形態においては、ヒゲゼンマイ32の弾性変形の中立位置にある状態におけるテン輪31及び永久磁石41の回転角度[deg]を0°とした。なお、ヒゲゼンマイ32の弾性変形の中立位置とは、言い換えると、ヒゲゼンマイ32が自然長である位置である。また、ヒゲゼンマイ32の弾性変形の中立位置にある状態におけるテン輪31に、動力ゼンマイ11からの動力が供給されることとした。すなわち、テン輪31及び永久磁石41は、回転角度が0°の位置において動力ゼンマイ11からの動力が供給される動力供給位置にある。また、後述のように、第1実施形態において、永久磁石41は、回転角度0°の位置において、磁気的な釣り合いの位置にある。
【0047】
また、第1実施形態においては、テン輪31が回転角度340°から-340°の範囲で駆動するよう設計した。このため、永久磁石41も回転角度340°から-340°の範囲で駆動する。ただし、これは一例であり、テン輪31の移動範囲は、回転角度270°から-270°の範囲以上であるとよい。このようにテン輪31の移動範囲をある程度大きくすることにより、テン輪31の低速振動化を実現できる。
【0048】
以上説明したように、調速機構30は、ヒゲゼンマイ32の伸縮運動によって、一定の周期でテン輪31を繰り返し正逆回転運動(往復運動)させる。脱進機構20は、テン輪31に対して往復運動するための力を与え続ける。このような構成及び動作により、秒針131等の指針が駆動することとなる。
【0049】
[全体構成の概要:歩度調整手段40の構成]
次に、歩度調整手段40の構成について説明する。第1実施形態に係る機械式時計1は、駆動機構、脱進機構20、調速機構30に加えて、歩度調整手段40を含んでいる。
【0050】
歩度調整手段40は、永久磁石41と、軟磁性コア42(ステータと呼ばれることもある)と、コイル43と、各種回路(図5参照)とを含んで構成される。歩度調整手段40は、永久磁石41の正逆回転運動に基づいて検出される検出信号と、基準信号源である水晶振動子70の基準振動数とに基づいて歩度調整を行うものである。第1実施形態においては、後述の図8等に示すように、基準信号OSの出力期間を、所定の幅を有する出力期間tsとする。なお、第1実施形態においては、高い周波数精度を実現するために基準信号源として水晶振動子70を用いたが、これに限らず、例えば、コンデンサと抵抗とで構成されるCR発振器を用いてもよい。
【0051】
なお、図示は省略するが、コイル43は、外装ケースの内側に設けられる中枠と平面視において重なるように配置されているとよい。または、中枠の周方向の一部に切り欠きが形成されており、コイル43はその切り欠き内に配置されているとよい。
【0052】
永久磁石41は、二極磁化された円盤状の回転体であり、径方向にN極、S極に着磁されている。すなわち、永久磁石41は、N極部411と、S極部412とを含む磁石である。
【0053】
永久磁石41は、テン輪31の回転軸であるテン真311に取り付けられており、テン輪31(テン真311)の正逆回転運動に伴い正逆回転運動を行うように設けられている。すなわち、永久磁石41は、その回転角度がテン輪31の回転角度と同じとなるように、テン輪31と共に正逆回転運動する。なお、永久磁石41は、テン真311に対して圧入または接着等により固定されているとよい。
【0054】
永久磁石41は、磁化容易軸がランダムな方向に向いている等方性磁石であるとよい。なお、永久磁石41は、テン真311に取り付けられた状態で、ヘルムホルツコイル等により磁界が与えられることにより着磁されるとよい。このような着磁方法を採用することにより、永久磁石41の着磁方向を正確に合わせ込むことができる。
【0055】
軟磁性コア42は、軟磁性材から成り、図4に示すように、永久磁石41の外周に沿うように設けられる第1端部421aを含む第1磁性部421と、永久磁石41の外周に沿うように設けられる第2端部422aを含む第2磁性部422とを有しており、コイル43と共に磁気回路を構成する。第1端部421aと第2端部422aは、共に半円弧状の内周面を有する形状であり、永久磁石41を介して互いに対向して配置されている。
【0056】
第1実施形態においては、永久磁石41は、ヒゲゼンマイ32が弾性変形の中立位置にある状態において、N極部411が第2磁性部422側に配置されており、S極部412が第1磁性部421側に配置されている(図4の拡大図参照)。なお、N極部411とS極部412の配置は逆であってもよいが、その場合、コイル43の巻き方向を第1実施形態と反対にする必要がある。
【0057】
また、軟磁性コア42は、図3に示すように、固定具であるパイプ33a及びネジ33bにより、支持部材33に対して固定されている。このような構成により、軟磁性コア42は、支持部材33と共に地板10に組付けられている。
【0058】
なお、地板10に組付けられる構成部品のうち、軟磁性コア42を除く永久磁石41に近い位置にある支持部材33やヒゲ持受34、ワク部材35、ヒゲゼンマイ32、テン輪31といった構成部品は、調速機構30の正逆回転運動や後述するコイル43によって生じる逆起電圧に影響しないよう非磁性材であることが望ましい。
【0059】
また、軟磁性コア42は、図4に示すように、第1端部421aと第2端部422aとの磁気的な結合を分離する第1分離部である第1溶接部423と、第1端部421aと第2端部422aとの磁気的な結合を分離すると共に永久磁石41を介して第1溶接部423と対向して配置される第2分離部である第2溶接部424とを含んでいる。なお、第1溶接部423及び第2溶接部424は、第1端部421aと第2端部422aとを物理的に分離する間隙内に形成されるものであるとよい。
【0060】
永久磁石41は、着磁方向が第1溶接部423と第2溶接部424との対向方向と直交する位置する状態において磁気的な釣り合いの位置となっている。第1実施形態において、永久磁石41の磁気的な釣り合いの位置を、回転角度0°とする。この位置において永久磁石41の保持トルクはほぼ0となる。なお、第1溶接部423と第2溶接部424との対向方向とは、図4に示すように、第1溶接部423と第2溶接部424とを結ぶ直線が延びる方向である。図4に示すように、第1実施形態においては、軟磁性コア42の第1端部421a及び第2端部422aの内周面にノッチを形成した。具体的には、第1端部421aにノッチn11とノッチn12を形成した。また、第2端部422aに、永久磁石41を介してノッチn11と対向してノッチn21を形成し、永久磁石41を介してノッチn12と対向してノッチn22を形成した。このようにノッチが形成されることにより、永久磁石41が軟磁性コア42に受ける磁気的影響が低減される。
【0061】
第1実施形態においては、図4に示すように、軟磁性コア42の第1端部421aと第2端部422aが第1溶接部423及び第2溶接部424を介して一体となっている例を示したが、これに限られない。例えば、第1溶接部423及び第2溶接部424を有しておらず、第1端部421aと第2端部422aとは間隙を介して磁気的な結合が分離されるものであってもよい。また、磁気的な結合を完全に分離するものに限られない。例えば、第1端部421aと第2端部422aとは、分離部である狭窄部を介して物理的に繋がっていてもよい。
【0062】
また、図5に示すように、歩度調整手段40は、制御回路44、回転検出回路45、調速パルス出力回路46、分周回路47、発振回路48、制動回路80を含んでいる。図5においては、上述した永久磁石41、軟磁性コア42、コイル43の図示を省略している。なお、図5に示す歩度調整手段40の構成は一例である。歩度調整手段40は、図5に示す各回路を独立して備えている必要はなく、以下で説明する各機能を実現可能なものであればよい。
【0063】
制御回路44は、歩度調整手段40に含まれる各回路の動作を制御する回路である。特に、制御回路44は、後述のように、調速パルス出力回路46及び制動回路80を制御することにより永久磁石41を制動する制動力を制御する制動制御を行う。
【0064】
発振回路48は、水晶振動子70の振動数に基づいて所定の発振信号を出力する。なお、水晶振動子70の振動数は32768[Hz]である。分周回路47は、発振回路48から出力された発振信号を分周する。分周回路47は、水晶振動子70に基づく発振信号を分周することで約1000[ms]毎に出力される基準信号OSを生成する。ただし、これに限られず、基準信号OSは、2000[ms]毎や3000[ms]毎に出力されるものであってもよい。すなわち、基準信号OSは、正秒毎に出力されるものであればよい。また、これに限られず、基準信号OSは調速機構30の周期に対応するものであればよい。
【0065】
回転検出回路45は、永久磁石41の運動によりコイル43に生じる電圧波形に基づいて検出信号を検出する。第1実施形態において、所定の閾値Vth以上の逆起電圧が発生することで回転検出回路45により検出される信号を検出信号DEと定義する。なお、第1実施形態においては、後述の図8等に示すように、所定の閾値Vthを0.5[V]とする。なお、衝撃等の外的な要因やその他ノイズにより瞬間的に逆起電圧が閾値Vth以上となってしまう場合がある。このようなノイズ等に起因する誤検出を回避するため、例えば、回転検出は32[μs]間隔毎に行い、調速制御を行う起点は、検出信号DEが2回以上の所定回数検出されたタイミングであるとよい。ただし、これに限られず、回転検出の間隔、検出信号DEが連続的に検出された回数、検出信号の検出の蓄積回数等に基づいて適宜決定されるものであるとよい。
【0066】
調速パルス出力回路46は、分周回路47により生成された基準信号と、回転検出回路45が検出した検出信号DEとに基づいて、調速パルスを出力する。具体的には、回転検出回路45が検出した検出信号DE号の検出タイミングと、約1000[Hz]の基準信号の出力タイミングとを比較し、それらのタイミングにズレが生じている場合、調速パルス出力回路46は、検出信号DEが検出される周期を1000[ms](=1秒)に近づけるように調速パルスを出力する。
【0067】
調速パルスの出力は、コイル43を通電することにより行われる。そのため、調速パルス出力回路46は、検出信号DEが検出される周期が基準信号よりも早い場合、永久磁石41の動きを遅らせる方向にトルクが働くようにコイル43を通電し、検出信号DEが検出される周期が基準信号よりも遅い場合、永久磁石41の動きを早める方向にトルクが働くようにコイル43を通電するとよい。永久磁石41の動きを遅らせる方向にトルクが働くようにコイル43を通電した際に出力される調速パルスは、永久磁石41の動きを制動する制動力となる。なお、調速パルスの出力タイミングを含む歩度調整制御の詳細については後述する。
【0068】
調速パルス出力回路46は、出力期間(パルス幅)が互いに異なる複数の調速パルスを出力可能に構成されるとよい。また、調速パルス出力回路46は、出力電圧が互いに異なる複数の調速パルスを出力可能に構成されるとよい。
【0069】
[全体構成の概要:発電機としての調速機構30]
機械式時計1は、電磁誘導の原理を用いた発電機能を有する。第1実施形態においては、調速機構30が発電機の一部として機能する。具体的には、テン輪31の正逆回転運動に伴い永久磁石41が正逆回転運動をし、永久磁石41の運動による磁界の変化に基づいてコイル43に生じる電流により発電を行う。このような動作原理により取り出した電力を用いて電源回路60を起動させる。電源回路60が起動することで、制御回路44が駆動可能となる。このような構成を採用するため、第1実施形態においては、電池等の電源を別途設けることなく、制御回路44を駆動させることができる。
【0070】
整流回路50は、調速機構30のテン輪の正逆回転運動のうち正方向運動及び逆方向運動に伴う永久磁石41の運動によりコイル43に生じる電流を整流する。電源回路60は、例えばコンデンサを含む回路であり、整流回路50により整流された電流に基づいて制御回路44を駆動させるための電力を蓄電する。
【0071】
[歩度調整制御の詳細について]
以下、図6図7A図7Bを参照して、第1実施形態における歩度調整制御の詳細について説明する。
【0072】
図6は、第1実施形態におけるテン輪の動作と、コイルに生じる逆起電圧との関係を説明する図である。図6の上段のグラフにおいて、縦軸はテン輪31の角速度[rad/s]であり、横軸は測定時間[s]である。図6の中段のグラフにおいて、縦軸はテン輪31の回転角度[deg]であり、横軸は測定時間[s]である。図6の下段のグラフにおいて、縦軸はコイル43に生じる逆起電圧[V]であり、横軸は測定時間[s]である。また、図6に示す各グラフにおいては、テン輪31(永久磁石41)の動きを4秒間測定した例を示している。
【0073】
第1実施形態においては、調速パルス出力回路46が調速パルスを出力することにより、永久磁石41の動きを制御することで、テン輪31の動きを制御して歩度調整を行う。
【0074】
[歩度調整制御の詳細について:調速パルスの出力タイミング]
ここで、永久磁石41の角速度が速い状態においては、所望のタイミングで歩度調整を行うことが難しい。永久磁石41の角速度が速い状態においては、調速パルスの出力タイミングがズレる可能性が高いためである。永久磁石41の角速度が速い状態は、コイル43に逆起電圧が大きく生じている時である。すなわち、回転検出回路45が検出信号DEを検出したタイミングである。
【0075】
そこで、第1実施形態においては、永久磁石41の正逆回転運動のうち正方向運動及び逆方向運動において、永久磁石41が回転角度180°から0°に逆方向に回転する間、及び回転角度-180°から0°に正方向に回転する間に、調速パルスを出力するとよい。すなわち、テン輪31が動力ゼンマイ11から動力を供給される前の期間に調速パルスを出力するとよい。これにより、永久磁石41の角速度が比較的遅い状態において、調速パルスを出力することができる。なお、調速パルスは、発電が得られやすい期間を避けて出力されることが好ましい。発電が得られやすい期間は、後述のように、永久磁石41が回転角度0°から180°に正方向に回転する期間、及び0°から-180°に逆方向に回転する期間である。
【0076】
このような構成を採用することにより、調速パルスの出力タイミングがズレてしまうことを抑制できる。その結果、歩度精度を維持することができる。なお、図6においては、歩度調整を行うタイミングを帯状の領域で示している。図6の上段のグラフに示すように、歩度調整は、永久磁石41の角速度が遅い期間において行われている。
【0077】
[歩度調整制御の詳細について:調速パルスが出力されるコイル端子]
図7A図7Bは、第1実施形態における調速パルスによる永久磁石の動きの制御について説明する図である。第1実施形態においては、図7Aに示すように、コイル43の第1端子O1に調速パルスが出力された場合、第1端部421aがS極、第2端部422aがN極の極性を持つこととなると定義する。一方、図7Bに示すように、コイル43の端子O2に調速パルスが出力された場合、第1端部421aがN極、第2端部422aがS極の極性を持つこととなると定義する。なお、コイル43の巻き方向が反対の場合、第1端部421aと第2端部422aの極性は反転する。
【0078】
図7Aにおいては、正方向に回転する永久磁石41が回転角度-90°の位置にあるタイミング、及び逆方向に回転する永久磁石41が回転角度90°の位置にあるタイミングで調速パルスをコイル43に出力する例を示している。
【0079】
図7Aに示すように、永久磁石41が回転角度-90°から正方向に回転する際に、コイル43の第1端子O1に調速パルスを出力した場合、永久磁石41は軟磁性コア42から斥力を受けることなる。すなわち、永久磁石41の正方向の回転にブレーキがかかる。一方、永久磁石41が回転角度90°から逆方向に回転する際、コイル43の第1端子O1に調速パルスを出力した場合、永久磁石41は軟磁性コア42から斥力を受けることとなる。すなわち、永久磁石41の逆方向の回転にブレーキがかかることとなる。
【0080】
また、図7Bに示すように、永久磁石41が回転角度-90°から正方向に回転する際に、コイル43の第2端子O2に調速パルスを出力した場合、永久磁石41は軟磁性コア42から引力を受けることなる。すなわち、永久磁石41の正方向の回転にアクセルがかかる。一方、永久磁石41が回転角度90°から逆方向に回転する際、コイル43の第2端子O2に調速パルスを出力した場合、永久磁石41は軟磁性コア42から引力を受けることとなる。すなわち、永久磁石41の逆方向の回転にアクセルがかかることとなる。
【0081】
このように、第1実施形態においては、永久磁石41の正逆回転運動のうち正方向の回転か逆方向の回転かに関わらず、第1端子O1に調速パルスを出力することで永久磁石41の回転を弱めることができ、一方、第2端子O2に調速パルスを出力することで永久磁石41の回転を強めることができる。
【0082】
すなわち、永久磁石41の正逆回転運動のうち正方向の回転か逆方向の回転かに関わらず、歩度を遅れる方向に調整する場合、第1端子O1を通電すればよく、歩度を進める方向に調整する場合、第2端子O2を通電すればよい。
【0083】
[制動制御]
以下、第1実施形態における制動制御について説明する。第1実施形態において、制動制御とは、テン輪31の振動数を所定の値に合わせ込むように、制動力を生じさせる制御である。
【0084】
ここで、機械式時計1においては、テン輪31の動きが高速であるほど、すなわちテン輪31の振動数が高いほど、動力を伝達する各機構(例えば、ガンギ車21やアンクル22)が摩耗しやすくなり、耐久性が低下してしまう。そこで、第1実施形態においては、上述のようにヒゲゼンマイ32にヤング率の低い樹脂材料を用いている。しかしながら、テン輪31は、動力ゼンマイ11やヒゲゼンマイ32の機械的な動作を利用して動作するものであり、その動きを遅くするためには更なる工夫の余地がある。
【0085】
そこで、第1実施形態においては、テン輪31の周期毎に、永久磁石41を制動する制動力を生じさせる構成を採用した。以下、第1実施形態における制動制御の各実施例及び変形例について説明する。
【0086】
[制動制御:第1実施例]
図8は、第1実施形態の第1実施例における制動制御の一例を示すタイミングチャートである。図8の上段は、第1実施例の制動制御を行っていない場合にコイル43に生じる電圧波形を示している。図8の中段は、第1実施例の制動制御を行った場合にコイル43に生じる電圧波形を示している。図8の下段は、第1実施例における、検出信号DEの検出タイミング、基準信号OSの出力タイミング、及びコイル43の第1端子O1に出力される調速パルスの出力タイミングの一例を示している。
【0087】
第1実施例においては、図8の下段に示すように、検出信号DEが検出されてから時間tp1が経過したタイミングで、パルス幅(出力期間)fp1の調速パルスを、第1端子O1に出力している。また、調速パルスは、検出信号DEが検出される毎に第1端子O1に出力されている。
【0088】
このように、第1実施例においては、基準信号OSの出力タイミングに対して検出信号DEの出力タイミングが早いか遅いかに関わらず、永久磁石41(テン輪31)の周期毎に、永久磁石41の振動数を低減する方向にトルクが働くようにコイル43を通電している。これにより、テン輪31の振動数を低下させることができる。そのため、図8の中段及び下段に示す第1実施例においては、検出信号DEが検出される周期が、図8の上段に示す制動制御を行っていない例よりも長くなっている。すなわち、図8の中段及び下段に示す第1実施例においては、図8の上段に示す制動制御を行っていない例よりも振動数が低くなっている。
【0089】
制動力の大きさは、調速パルスの出力期間及び出力電圧により決まるものである。第1実施例において、調速パルスの出力期間fp1及び出力電圧は、テン輪31の振動数が所望の振動数となるように予め設定されているとよい。
【0090】
以上のように第1実施例の制動制御を利用することにより、テン輪31の振動数を、機械式時計1の物理的な構造に応じて得られるテン輪31の振動数よりも低い振動数に合わせ込むことができる。
【0091】
[制動制御:第2実施例]
次に、図9図10を参照して、第1実施形態の第2実施例における制動制御について説明する。図9は、第1実施形態における回路図である。図10は、第1実施形態の第2実施例における制動制御の一例を示すタイミングチャートである。図10の上段は、第2実施例の制動制御を行った場合にコイル43に生じる電圧波形を示している。図10の下段は、第2実施例における、検出信号DEの検出タイミング、基準信号OSの出力タイミング、及び電磁ブレーキの作用タイミングを示している。第1実施形態において、電磁ブレーキとは、コイル43の第1端子O1と第2端子O2とを短絡させて閉ループ状態にし、永久磁石41の回転に伴ってコイル43に発生する磁束の変化を妨げる向きに磁界が生じるような誘起起電力によって得られる制動力のことをいう。
【0092】
上記第1実施例においては、調速パルスにより永久磁石41を制動する例について説明した。しかしながら、コイル43の端子を通電する制御においては消費電力が大きくなってしまう。そこで、第2実施例の制動制御においては、制動力を生じさせる手段として、比較的消費電力の小さい電磁ブレーキを用いた。
【0093】
まず、図9を参照して、第1実施形態における回路構成について説明する。
【0094】
図9に示すように、コイル43の第1端子O1及び第2端子O2に対しては、トランジスタTP1及びTP2がそれぞれ接続されている。トランジスタTP1及びTP2に対してはコイル43に生じた逆起電圧が入力されて、それに基づいて回転検出回路45が検出信号を検出する。すなわち、所定のタイミングでトランジスタTP2をONとすることで、それらトランジスタに対応する第1端子O1及び第2端子O2で発生する誘起電圧を電圧信号である検出信号として取り出すことができる。
【0095】
また、トランジスタP11、P12がコイル43の第1端子O1に接続されており、トランジスタP21、P22がコイル43の第2端子O2に接続されている。トランジスタP11、P12、P21、P22は調速パルス出力回路46からの調速パルスによりON/OFF制御がされる。発電時において、トランジスタP11、P12、P21、P22のゲート端子をOFFとする。また、この際、制動回路80が制動力を生じさせない状態とするとよい。すなわち、後述のトランジスタDB1、DB2をOFFにするとよい。その状態において、トランジスタTP1、TP2と、ダイオードDにより整流回路50が構成される。永久磁石41が正逆回転運動を行うことにより、コイル43に電流が流れ、コンデンサCが蓄電される。コンデンサCにある程度の蓄電がなされると、電源回路60が起動する。そして、電源回路60が起動することにより、制御回路44が起動し、制御回路44による歩度調整手段40に含まれる各回路の制御が行われることとなる。
【0096】
さらに、トランジスタDB1がコイル43の第1端子O1に接続されており、トランジスタDB2がコイル43の第2端子O2に接続されている。トランジスタDB1及びトランジスタDB2は、図5に示す制動回路80を構成する。制動回路80は、第1端子O1、第2端子O2を短絡させることで、永久磁石41の振動数を低下させる制動力を生じさせる回路である。なお、図5においては、制動回路80を歩度調整手段40の一部に含まれる構成であるとして示すが、これに限られるものではない。
【0097】
第2実施例においては、図10の下段に示すように、検出信号DEが検出されてから時間tb1が経過したタイミングで、作用期間b1の電磁ブレーキDBを作用させている。また、電磁ブレーキDBは、検出信号DEが検出される毎に作用している。
【0098】
このように、第2実施例においては、基準信号OSの出力タイミングに対して検出信号DEの出力タイミングが早いか遅いかに関わらず、永久磁石41(テン輪31)の周期毎に、電磁ブレーキを作用させている。これにより、テン輪31の振動数を低下させることができる。
【0099】
制動力の大きさは、電磁ブレーキの作用期間により決まるものである。第2実施例において、電磁ブレーキの作用期間b1は、テン輪31の振動数が所望の振動数となるように予め設定されているとよい。
【0100】
以上のように第2実施例の制動制御を利用することにより、第1実施例と同様に、テン輪31の振動数を、機械式時計1の物理的な構造に応じて得られるテン輪31の振動数よりも低い振動数に合わせ込むことができる。また、第2実施例においては、第1実施例と比較して、制動制御における電力消費を低減することができる。
【0101】
[制動制御:第3実施例]
次に、図11を参照して、第1実施形態の第3実施例における制動制御について説明する。図11は、第1実施形態の第3実施例における制動制御の一例を示すタイミングチャートである。図11の上段は、第3実施例の制動制御を行った場合にコイル43に生じる電圧波形を示している。図11の下段は、第3実施例における、検出信号DEの検出タイミング、基準信号OSの出力タイミング、コイル43の第1端子O1に出力される調速パルスの出力タイミング、及び電磁ブレーキの作用タイミングを示している。
【0102】
第3実施例においては、第1実施例で説明した調速パルスと、第2実施例で説明した電磁ブレーキとを併用して、テン輪31の振動数を低減させる例を説明する。
【0103】
第3実施例においては、図11の下段に示すように、検出信号DEが検出されてから時間tp1が経過したタイミングで、パルス幅fp1の調速パルスを、第1端子O1に出力している。また、検出信号DEが検出されてから時間tb1が経過した後であって調速パルスが出力されていない期間に電磁ブレーキDBを作用させている。また、第3実施例においては、電磁ブレーキDBの作用期間をb1とした。すなわち、電磁ブレーキDBが実際に作用している時間は、作用期間b1からパルス幅fp1を引いた時間である。
【0104】
なお、図9を参照して説明したように、調速パルスはコイル43の端子を通電することにより発生するものであり、電磁ブレーキはコイル43の端子を短絡させることで発生するものであるため、それらは同時に発生することができない。そのため、第3実施形態においては、調速パルスと電磁ブレーキとが互いに入れ子状に発生するように(図11の下段参照)、制御回路44により、トランジスタからなるスイッチの切り替えが行われるとよい。
【0105】
第3実施例においては、調速パルスと電磁ブレーキを併用することより、電力消費を抑制しつつ制動力の大きさを維持するができる。すなわち、電磁ブレーキDBが作用していない期間においては調速パルスを出力するという制御を行うことで大きな制動力を生じさせつつ、調速パルスが出力されていない期間においては電磁ブレーキDBを作用させることで電力消費を抑制しつつ制動力を生じさせることができる。その結果、機械式時計1の物理的な構造に応じて得られるテン輪31の振動数が高い場合であっても、消費電力を抑制しつつテン輪31の振動数を低い振動数に合わせ込むことができる。
【0106】
[電磁ブレーキの作用タイミング]
次に、図12を参照して、電磁ブレーキの作用タイミングの詳細について説明する。図12は、第1実施形態における電磁ブレーキの作用タイミングを説明する図である。図12の上段はテン輪31の回転角度の時間変化を示しており、図12の下段は逆起電圧の時間変化を示している。
【0107】
上述のように、電磁ブレーキを作用させることにより、テン輪31の振動数を低下させることができる。しかしながら、テン輪31の振動数が低下すると、永久磁石41の回転により得られる発電量も低下してしまう。そこで、第1実施形態においては、発電が行われるタイミングを避けて、電磁ブレーキを作用させることとした。
【0108】
図12に示すように、第1実施形態においては、テン輪31が0°から180°に正方向に回転する間、及びテン輪31が0°から-180°に逆方向回転する間に、テン輪31の回転速度が最大値に達することによりコイル43で検出される逆起電圧の正の立ち上がりが生じる。すなわち、テン輪31の回転角度が0°から180°、及び0°から-180°に回転運動する際に電力を取り出すことで、最も効率よく発電を行うことができる。図12の帯状破線で示される期間は、効率よく発電を行うことができる期間である。この期間におけるテン輪31の振動数が低下することを避けるため、テン輪31の回転速度が最大値に達した後、すなわち図12の帯状破線で示される期間を避けて電磁ブレーキを作用させるとよい。このような制御を行うことにより、発電量を担保しつつ、電磁ブレーキを利用した制動を行うことができる。
【0109】
[歩度ズレが生じた場合の制動制御]
次に、図13図20を参照して、歩度ズレが生じた場合における制動制御について説明する。すなわち、歩度が進んだ場合、又は歩度が遅れた場合における制動制御について説明する。ここでの説明において、制動制御は、歩度調整制御の一部の制御である。
【0110】
[歩度ズレが生じた場合の制動制御:第4実施例]
まず、図13を参照して、歩度が進んだ場合における制動制御について説明する。図13は、第1実施形態の第4実施例における制動制御の一例を示すタイミングチャートである。図13の上段は、第4実施例の制動制御を行った場合にコイル43に生じる電圧波形を示している。図13の下段は、第4実施例における、検出信号DEの検出タイミング、基準信号OSの出力タイミング、コイル43の第1端子O1に出力される調速パルスの出力タイミング、及び電磁ブレーキの作用タイミングを示している。
【0111】
第4実施例においては、図13に示すように、測定を開始してから2番目に検出される検出信号DEの検出タイミングが、基準信号OSの出力タイミングよりも早くなっている例について説明する。すなわち、テン輪31の振動数が高くなり、歩度が進んだ場合の例について説明する。
【0112】
歩度が進む方向にズレた場合、歩度がズレていない場合に生じさせる制動力(第1制動力)より大きい制動力(第2制動力)を生じさせるとよい。そこで、第4実施例においては、歩度ズレが生じた後に第1端子O1に出力される調速パルスの出力期間(パルス幅)を長くした。具体的には、図13の下段に示すように、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSの出力タイミングよりも早くなった場合、その検出信号DEが検出された後に第1端子O1に出力される調速パルスの出力期間をp1(>fp1)とした。なお、出力期間fp1は、図8等で示した例と同様に、歩度ズレが生じていない場合における調速パルスの出力期間である。
【0113】
[歩度ズレが生じた場合の制動制御:第5実施例]
図14を参照して、歩度が遅れた場合における制動制御について説明する。図14は、第1実施形態の第5実施例における制動制御の一例を示すタイミングチャートである。図14の上段は、第5実施例の制動制御を行った場合にコイル43に生じる電圧波形を示している。図14の上段は、第5実施例の制動制御を行った場合にコイル43に生じる電圧波形を示している。図14の下段は、第5実施例における、検出信号DEの検出タイミング、基準信号OSの出力タイミング、コイル43の第1端子O1に出力される調速パルスの出力タイミング、及び電磁ブレーキの作用タイミングを示している。
【0114】
第5実施例においては、図14の下段に示すように、測定を開始してから2番目に検出される検出信号DEの検出タイミングが、基準信号OSの出力タイミングよりも遅くなっている例について説明する。すなわち、テン輪31の振動数が低くなり、歩度が遅れた場合の例について説明する。
【0115】
歩度が遅れる方向にズレた場合、永久磁石41を制動する制動力を小さくするとよい。そこで、第5実施例においては、歩度ズレが生じた後において第1端子O1に調速パルスを出力しないこととした。具体的には、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSの出力タイミングよりも遅くなった場合、その検出信号DEが検出された後に行われる制動制御として、調速パルスを第1端子O1に出力しないとの制御を行うこととした。
【0116】
なお、第5実施例においては、電磁ブレーキについては検出信号DEが検出される毎に作用することとした。電磁ブレーキが作用する分、制動力は生じることとなるが、第1端子O1に調速パルスが出力されないことより、全体として制動力を小さくすることができる。その結果、歩度ズレを抑制することができる。
【0117】
[歩度ズレが生じた場合の制動制御:第6実施例]
図15を参照して、歩度が遅れた場合における制動制御について説明する。図15は、第1実施形態の第6実施例における制動制御の一例を示すタイミングチャートである。図15の上段は、第6実施例の制動制御を行った場合にコイル43に生じる電圧波形を示している。図15の下段は、第6実施例における、検出信号DEの検出タイミング、基準信号OSの出力タイミング、コイル43の第1端子O1と第2端子O2に出力される調速パルスの出力タイミング、及び電磁ブレーキの作用タイミングを示している。
【0118】
第6実施例においては、上述の第5実施例と同様に、測定を開始してから2番目に検出される検出信号DEの検出タイミングが、基準信号OSの出力タイミングよりも遅くなっている例について説明する。すなわち、テン輪31の振動数が低くなり、歩度が遅れた場合の例について説明する。
【0119】
歩度が遅れる方向にズレた場合、永久磁石41に対して歩度を進ませる方向の力を加えるとよい。そこで、第6実施例においては、歩度ズレが生じた後において第1端子O1への調速パルスの出力を停止すると共に第2端子O2に調速パルスを出力することとした。具体的には、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSの出力タイミングよりも遅くなった場合、その検出信号DEが検出された後に行われる制動制御として、第2端子O2に調速パルスを出力すると共に電磁ブレーキを作用させるとの制御を行うこととした。図15においては、検出信号DEが検出されてから時間tp2が経過した後、パルス幅p2の調速パルスを第2端子O2に出力する例を示している。なお、時間tp2は、時間tp1と同じであってもよいし、異なっていてもよい。図7Bを参照して説明したように、第2端子O2に調速パルスを出力することで永久磁石41の回転を強めることができる。
【0120】
なお、第6実施例においては、電磁ブレーキについては検出信号DEが検出される毎に作用することとした。電磁ブレーキが作用する分、制動力は生じることとなる。すなわち、歩度がズレていない場合に生じる制動力(第1制動力)より小さい制動力(第3制動力)が生じることとなる。一方で、第2端子O2に調速パルスが出力されることより、永久磁石41を進める方向の力を生じさせることができる。その結果、歩度ズレを抑制することができる。
【0121】
[第1実施形態のフローチャート]
次に、図16を参照して、第1実施形態の制動制御の処理フローを説明する。図16は、第1実施形態の制動制御の一例を示すフローチャートである。
【0122】
第1実施形態においては、永久磁石41の運動により発電が行われることにより電源回路60が起動した後(ST1のY)、制動制御が開始される。そして、所定の閾値Vth以上の逆起電圧が発生した後、すなわち、回転検出回路45により検出信号DEが検出された後(ST2のY)、電磁ブレーキが作用する(ST3)。図16に示す例においては、電磁ブレーキの作用期間は毎周期一定である。
【0123】
そして、制御回路44により、検出信号DEと基準信号OSとの期間差(基準信号OSの出力タイミングに対する検出信号DEの検出タイミングのズレ量)を取得する(ST4)。
【0124】
期間差が0又は所定の範囲内の場合(ST5のY)、すなわち、歩度ズレが生じていない場合、第1端子O1に調速パルスを出力する(ST6)。なお、調速パルスが出力されている間、電磁ブレーキは停止する。以下説明するST8、ST11でも同様である。その後、歩度ズレが生じていない場合、検出信号DEを検出する毎(ST2)に同様の制御を繰り返す。すなわち、図11を参照して説明した第3実施例の制動制御を行う。
【0125】
期間差が所定の範囲外であって(ST5のN)、期間差がプラスである場合(ST7)、すなわち、歩度が進んでいる場合、第1端子O1に出力期間の長い調速パルスを出力する(ST8)。すなわち、図13を参照して説明した第4実施例の制動制御を行う。
【0126】
期間差が所定の範囲外であって(ST5のN)、期間差がマイナスであり、かつマイナス量が所定範囲内の場合(ST7のN、ST9のY)、第1端子O1に調速パルスを出力しない(ST10)。すなわち、図14を参照して説明した第5実施例の制動制御を行う。
【0127】
期間差が所定の範囲外であって(ST5のN)、期間差がマイナスであり、かつマイナス量が所定範囲外の場合(ST7のN、ST9のN)、第2端子O2に調速パルスを出力する(ST11)。すなわち、図15を参照して説明した第6実施例の制動制御を行う。
【0128】
[変形例]
次に、図17図19を参照して、第1実施形態の変形例について説明する。図17図19は、第1実施形態の変形例における制動制御の一例を示すタイミングチャートである。図17図19においては、歩度ズレの程度に応じた制動制御を行う例を説明する。具体的には、歩度ズレの程度に応じて制動力の大きさを可変とする例を説明する。制動力の大きさは、調速パルス出力回路46により出力される調速パルスの出力期間(パルス幅)、調速パルスの出力電圧、及び電磁ブレーキDBの出力期間によって決まるものである。
【0129】
図17図18においては、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間t、2t、3t進んでいる場合と、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間t、2t、3t遅れている場合の例をそれぞれ示している。
【0130】
図17に示す例においては、歩度の進みが大きいほど、第1端子O1に出力される調速パルスの出力期間を、図8等で示した出力期間fp1より長くした。具体的には、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間3t進んでいる場合、第1端子O1に出力される調速パルスの出力期間をp21(>fp1)とした。また、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間2t進んでいる場合、第1端子O1に出力される調速パルスの出力期間をp22(<p21)とした。また、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間t進んでいる場合、第1端子O1に出力される調速パルスの出力期間をp23(<p22)とした。
【0131】
また、図17に示す例においては、歩度が遅れている場合、第1端子O1に出力される調速パルスの出力期間を、図8等で示した出力期間fp1より短くした。また、さらに遅れが大きくなった場合、第2端子O2に調速パルスを出力すると共に、遅れが大きいほど、第2端子O2に出力される調速パルスの出力期間を長くした。具体的には、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間t遅れている場合、第1端子O1に出力される調速パルスの出力期間をp24(<fp1)とした。また、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間2t遅れている場合、第1端子O1への調速パルスの出力を停止すると共に、第2端子O2に出力期間p25の調速パルスを出力する。また、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間3t遅れている場合、第1端子O1への調速パルスの出力を停止すると共に、第2端子O2に出力期間p26(>p25)の調速パルスを出力する。
【0132】
図18に示す例においては、歩度の進みが大きいほど、第1端子O1に出力される調速パルスの出力電圧を、図8等で示した出力電圧Vfp1よりも大きくした。具体的には、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間3t進んでいる場合、第1端子O1に出力される調速パルスの出力電圧をVp31(>Vfp1)とした。検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間2t進んでいる場合、第1端子O1に出力される調速パルスの出力電圧をVp32(>Vp31)とした。検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間3t進んでいる場合、第1端子O1に出力される調速パルスの出力電圧をVp33(>Vp32)とした。
【0133】
また、図18に示す例においては、歩度が遅れている場合、第1端子O1に出力される調速パルスの出力期間を、図8等で示した出力電圧Vfp1より小さくした。また、さらに遅れが大きくなった場合、第2端子O2に調速パルスを出力すると共に、遅れが大きいほど、第2端子O2に出力される調速パルスの出力電圧を大きくした。具体的には、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間t遅れている場合、第1端子O1に出力される調速パルスの出力電圧をVp34(<Vp33)とした。また、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間2t遅れている場合、第1端子O1への調速パルスの出力を停止すると共に、第2端子O2に出力電圧Vp35の調速パルスを出力する。また、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間3t遅れている場合、第1端子O1への調速パルスの出力を停止すると共に、第2端子O2に出力電圧Vp36(>Vp35)の調速パルスを出力する。
【0134】
図19においては、歩度ズレの程度に応じて、電磁ブレーキの作用期間を変更する例を示す。図19においては、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間t進んでいる場合と、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSの出力タイミングと合っている場合と、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間t、2t遅れている場合の例をそれぞれ示している。
【0135】
図19に示す例においては、歩度が進んでいる場合、電磁ブレーキの作用期間を長くした。具体的には、歩度が時間t進んでいる場合、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSの出力タイミングと合っている場合の電磁ブレーキの作用期間b1よりも長い作用期間b21とした。
【0136】
また、図19に示す例においては、歩度が遅れている場合、電磁ブレーキの作用期間を短くした。具体的には、歩度が時間t遅れている場合において、電磁ブレーキの作用期間をb22(<b1)とした。また、歩度が2t遅れている場合において、電磁ブレーキの作用を停止させた。
【0137】
[変形例における制動制御のフローチャート]
図20は、第1実施形態の変形例における制動制御の一例を示すフローチャートである。
【0138】
上記図16においては、基準信号OSの出力タイミングに対する検出信号DEの検出タイミングのズレに応じた制動制御を行う例を示したが、ズレの量を蓄積し、ズレの蓄積量に応じた制動制御を行ってもよい。以下、ズレの蓄積量に応じた制動制御のフローについて説明する。なお、図示は省略するが、歩度調整手段40は、検出信号DEと基準信号OSとの期間差(基準信号OSの出力タイミングに対する検出信号DEの検出タイミングのズレ量)を蓄積するカウンタを有しているとよい。
【0139】
第1実施形態の変形例においては、永久磁石41の運動により発電が行われることにより電源回路60が起動した後(ST1のY)、制動制御が開始される。そして、所定の閾値Vth以上の逆起電圧が発生した後、すなわち、回転検出回路45により検出信号DEが検出された後(ST2のY)、制御回路44により、検出信号DEと基準信号OSとの期間差(基準信号OSの出力タイミングに対する検出信号DEの検出タイミングのズレ量)を算出すると共に、期間差を蓄積する(ST21)。なお、図示は省略するが、歩度調整手段40は、検出信号DEと基準信号OSとの期間差(基準信号OSの出力タイミングに対する検出信号DEの検出タイミングのズレ量)を蓄積する蓄積部であるカウンタを有しているとよい。
【0140】
期間差tが±1[ms]の場合(ST22のY)、作用期間が500[ms]の電磁ブレーキを作用し(ST23)、出力期間が4[ms]の調速パルスを第1端子O1に出力する(ST24)。
【0141】
期間差tが10[ms]より大きい場合(ST25のY)、作用期間が800[ms]の電磁ブレーキを作用し(ST26)、出力期間が8[ms]の調速パルスを第1端子O1に出力する(ST27)。すなわち、歩度が大きく進んでいる場合、制動力を大きくする。
【0142】
期間差tが5[ms]より大きく10[ms]以下の場合(ST28のY)、作用期間が800[ms]の電磁ブレーキを作用し(ST29)、出力期間が6[ms]の調速パルスを第1端子O1に出力する(ST30)。すなわち、期間差tが10[ms]より大きい場合よりは、やや制動力を小さくする。
【0143】
期間差tが1[ms]より大きく5[ms]以下の場合(ST31のY)、作用期間が800[ms]の電磁ブレーキを作用し(ST32)、出力期間が4[ms]の調速パルスを第1端子O1に出力する(ST33)。すなわち、期間差tが5[ms]より大きく10[ms]以下の場合よりは、やや制動力を小さくする。
【0144】
期間差tが-5[ms]以上であって-1[ms]より小さい場合(ST34のY)、作用期間が800[ms]の電磁ブレーキを作用し(ST35)、調速パルスを出力しない(ST36)。すなわち、歩度が遅れている場合、制動力を小さくする。
【0145】
期間差tが-10[ms]以上であって-5[ms]より小さいの場合(ST37のY)、電磁ブレーキを作用させず(ST38)、調速パルスも出力しない(ST39)。すなわち、期間差tが-5[ms]以上であって-1[ms]より小さい場合よりも制動力を小さくする。
【0146】
期間差tが-10[ms]より小さい場合(ST40)、電磁ブレーキを作用させず(ST41)、出力期間が4[ms]の調速パルスを第2端子O1に出力する(ST42)。すなわち、制動力を0にすると共に、歩度が進む方向の力を生じさせる。
【0147】
[その他の制動制御の例]
次に、図21図22を参照して、機械式時計1の状態毎の制動制御について説明する。
【0148】
[その他の制動制御の例:電源回路の起動時]
図21は、電源回路が停止状態から起動する際の制動制御の一例を示すタイミングチャートである。
【0149】
第1実施形態の各実施例においては、検出信号DEを検出する毎に、永久磁石41を制動する制動力を制御する例を説明した。上述のように、制動力が生じると永久磁石41の回転速度が低下し、発電量が低下してしまう。そのため、図9に示すコンデンサCに十分に蓄電されるまでは、永久磁石41の回転速度を大きくすることで、効率的に発電を行うことが好ましい。
【0150】
そこで、図21の例においては、電源回路60が停止状態から起動する際、十分に蓄電されるまでの所定期間において、検出信号DEが検出された場合であっても制動制御を行わないこととした。例えば、検出信号DEが所定回数検出された後、制動制御を開始するとよい。より具体的には、制御開始後、すぐに電源回路60が停止状態に移行してしまうのを防ぐために、制動制御を開始するまで(復帰するまで)に必要な検出信号DEの検出回数は大きな値に設定されているとよい。動力ゼンマイ11のトルクが強いとき、テン輪31を回転させる力が強いため、発電電力が大きく、反対に動力ゼンマイ11のトルクが弱いときは発電電力が小さい。そのため、動力ゼンマイ11の弱いトルク時を基準として、復帰のための検出回数を設定されることが望ましい。
【0151】
図21の例においては、電源回路60の起動時に発電量が低下することを抑制することができる。その結果、電源回路60が起動までに要する時間を短くすることができる。
【0152】
[その他の制動制御の例:テン輪の回転方向を考慮した制動制御]
図22は、基準信号の出力タイミングの一例を示すタイミングチャートである。機械式時計1の組み立て時における製造ばらつきや、出荷検査時における支持部材33によるテン輪31の位置調整等によって、テン輪31の回転角度が正方向と逆方向とで異なってしまう場合がある。回転角度が異なると、正方向と逆方向とで検出信号DEが検出されるタイミングが異なることとなる。それにより、適切な制動制御が実行されない場合がある。
【0153】
例えば、基準信号OSの1000[ms]周期に合わせこむ場合、製造ばらつきにより設計値に対してテン輪31の実際の振り角が異なっていると、正方向と逆方向で検出信号DEの検出タイミングに差が生じる場合がある。例えば、正方向985[ms]周期、逆方向1015[ms]のように正方向と逆方向で差が発生すると、正方向と逆方向で合わせてみたときは2000[ms]であり、全体の周期としてはずれていない。しかしながら、回路上は正方向、逆方向のそれぞれで±15[ms]のズレが発生していると識別される。図20のフローチャートによるとST25,26,27またはST40,41,42をたどり、毎周期ごとに制御が切り替わる上に、強い調速パルスを出力し続けてしまう。結果として、必要以上に無駄な制御が行われ、消費電流が増大する原因となる。
【0154】
そこで、図22に示す例においては、2ステップ(2秒)基準で基準信号OSを設定する構成を採用した。図22の上段は、正方向と逆方向とで検出される検出信号DEが異なる場合の逆起電圧の波形の一例を示している。図22の下段は、2ステップ(2秒)基準で基準信号OSを設定した場合におけるタイミングチャートの一例を示している。
【0155】
図22の下段に示すように、左から奇数番目の基準信号OSの出力間隔をtr1とし、左から偶数番目の基準信号OSの出力間隔をtr2(=tr1)とした。この例は、制御回路44が2ステップ単位(2秒単位)の2系統制御を行うことで実現されるとよい。そして、各制御系統のいずれかにおいて歩度異常が検出された場合に適した制動制御を行うとよい。なお、回路構成の簡略化のために、出力間隔がtr1又はtr2のいずれかである1系統のみの制御系統としてもよい。
【0156】
図22に示す例によると、基準信号OSを2ステップ基準(tr1及びtr2)で設け、それぞれに応じた制動制御を行うことで、テン輪31の往と復の回転角度の差があっても、精度の高い制動制御が可能となる。また、無用な制御を極力抑えることができるため、消費電流を少なくできる。
【0157】
[その他の制動制御の例:動力ゼンマイのトルクが弱まった時]
次に、図23図26を参照して、機械式時計1の継続的な使用に伴い動力ゼンマイ11が解かれ、動力ゼンマイ11のトルク(動力)が弱まった場合における制動制御について説明する。図23は、テン輪の回転角度と永久磁石に作用する保持トルクの関係、及びテン輪の回転角度とヒゲゼンマイのトルクの関係を示すグラフである。図24は、ヒゲゼンマイのトルク及び保持トルクが働く向きについて説明する図である。図25は、動力ゼンマイのトルクが弱まった際の制動制御の一例を示すタイミングチャートである。図26は、動力ゼンマイのトルクが弱まったと判定された場合の検出信号の検出の一例を示す図である。
【0158】
図23に示すように、ヒゲゼンマイ32のトルクT1はテン輪31の回転角度に比例する。また、保持トルクT2は、軟磁性コア42の磁気的影響により永久磁石41に作用する力であって、テン輪31の回転角度に応じた正弦曲線で表される。
【0159】
図23図24に示すように、例えば、テン輪31の回転角度が45°である場合、ヒゲゼンマイ32のトルクT1と永久磁石41に作用する保持トルクT2は共に正である。そのため、永久磁石41には、保持トルクT2によって正方向(図24中の反時計周り方向)への回転を強める力が働くこととなる。
【0160】
一方、図23図24に示すように、例えば、テン輪31の回転角度が135°である場合、ヒゲゼンマイ32のトルクT1は正であり、永久磁石41に作用する保持トルクT2は負となる。すなわち、ヒゲゼンマイ32のトルクT1に対して保持トルクT2が反対方向に作用することとなる。そのため、永久磁石41には、保持トルクT2によって正方向への回転を弱める力が働くこととなる。
【0161】
ここで、機械式時計1の継続的な使用に伴い動力ゼンマイ11のトルクが小さくなると、テン輪31に供給される動力が小さくなり、テン輪31の振り角(回転角度)が減少してしまう。
【0162】
上述のように、永久磁石41に作用する保持トルクT2は、正弦曲線で表されることより、テン輪31の回転角度に応じて、その正負が逆転する。例えば、図23で示したように、テン輪31の回転角度が90°や180°を境に正負が逆転する。このように保持トルクT2の正負が逆転する境界を跨って振り角が変動すると、保持トルクT2により本来加えたい方向と反対側に力が働くこととなり、大きな歩度ズレが生じてしまう。
【0163】
例えば、図23に示すように、振り角120°において保持トルクT2は負である。動力ゼンマイ11のトルクが減少することで、振り角が本来120°であるところ80°になった場合、保持トルクT2は正となる。そのため、ヒゲゼンマイ32のトルクT1を強める方向に力が作用することとなり、歩度が進むこととなってしまう。それにより大きな歩度ズレが生じてしまう。このような状態において第1実施形態及び変形例の制動制御を継続しても、歩度ズレが解消しない状態が続くこととなってしまう。
【0164】
そこで、本例においては、動力ゼンマイ11のトルクが弱まった場合、制動制御を切り替えることで、通常時と異なる制動制御を行うこととした。具体的には、図25に示すように、動力ゼンマイ11のトルクが弱まった場合、第1端子O1への調速パルスの出力を停止すると共に第2端子O2に調速パルスを出力する。第2端子O2へ出力される調速パルスの出力タイミングは、テン輪31(永久磁石41)が90°から0°に回転する間、及び-90°から0°に回転する間であるとよい。
【0165】
第2端子O2に調速パルスを出力することでテン輪31の振り角が大きくなる。それにより、上記例でいうと、振り角80°となった状態から、振り角が減少する前の振り角120°に戻され、永久磁石41に対して適切な方向に保持トルクT2を作用させることができる。その結果、動力ゼンマイ11のトルクが弱まることに起因する歩度ズレが生じることを抑制できる。
【0166】
なお、動力ゼンマイ11のトルクが弱まっているか否かは、検出される逆起電圧の波形に基づいて判定されるとよい。例えば、制御回路44は、基準信号OSの出力タイミングに対する検出信号DEの検出タイミングのズレが所定回数以上発生した場合、動力ゼンマイ11が弱まっていると判定するとよい。すなわち、通常の制御において歩度ズレが解消しない状態が所定期間継続した場合、動力ゼンマイ11のトルクが弱まっていると判定するとよい。この場合、歩度調整手段40は、ズレが発生した回数をカウントするカウントを有しているとよい。図25においては、ズレが10回以上発生した場合、振り角を上げる制御に切り替える例を示している。
【0167】
また、制御回路44は、検出される逆起電圧のピークに基づいて動力ゼンマイ11のトルクが弱まっているか否かを判定してもよい。具体的には、制御回路44は、閾値Vth1以上の逆起電圧が所定期間検出されなかった場合、動力ゼンマイ11のトルクが弱まっていると判定するとよい。そして、閾値Vth1以上の逆起電圧が検出されない状態が所定期間継続した場合、図26に示すように、制御回路44は、閾値Vth1より小さい閾値Vth2(第2閾値)に基づいて検出信号DEを検出するとよい。そして、閾値Vth2を基準とする検出信号DEの検出タイミングに基づいて、図25に示す第2端子O2に調速パルスを出力する制御を行うとよい。
【0168】
なお、図25においては、動力ゼンマイ11のトルクが弱まっていると判定された場合、第2端子O2に調速パルスを出力する例を示したが、これに限られない。例えば、調速パルスの出力期間を短くして第1端子O1に出力する、第1端子O1への調速パルスの出力を停止する、又は、電磁ブレーキの作用を停止する等、制動力を弱める制御を行うこととしてもよい。この場合、図26で示した閾値Vth2を複数設定し、逆起電圧のピークの大きさに応じて段階的に制動力の制御を切り替えることとしてもよい。
【0169】
また、図27に示すように、動力ゼンマイ11のトルクが弱まっていることにより検出信号が検出されない場合において、基準信号OSを基準として調速パルスを出力することとしてもよい。図27においては、検出信号が検出されない場合であっても、基準信号OSが出力されてから時間tb1が経過したときに電磁ブレーキを作用させ、基準信号OSが出力されてから時間tp1(>tb1)が経過したときに第1端子O1に調速パルスを出力する例を示している。なお、この例においても、動力ゼンマイ11のトルクが弱まっているか否かの判定は、検出される逆起電圧の波形に基づいて行われるとよい。制御回路44は、動力ゼンマイ11のトルクが弱まっていると判定された場合、基準信号OSを基準として調速パルスを出力する図27に示す制動制御に切り替えるとよい。
【0170】
図27の例によると、動力ゼンマイ11のトルクが弱まっていることにより検出信号が検出されない場合であっても制動力を生じさせることができ、テン輪31が高振動の動作を行うことを抑制できる。その結果、機械式時計1の動きを見たユーザが、機械式時計1の故障であると誤認することを抑制できる。
【0171】
[その他の制動制御の例:負の逆起電圧の検出]
次に、図28図29を参照して、回転検出の検出精度を向上させる制動制御について説明する。上記第1実施形態の各実施例においては、逆起電圧が所定の閾値Vth(>+0.5)以上であるか否かに基づいて回転検出を行う例を説明した。本例においては、正の逆起電圧に加えて、負の逆起電圧に基づいて回転検出を行うことにより、回転検出の検出精度を向上させる例を説明する。
【0172】
具体的には、逆起電圧が閾値+Vth以上であるか否かの判定に加えて、逆起電圧が-Vth以下であるか否かを判定する。なお、図28に示す例においては、正の閾値+Vthを+0.5[V]とし、負の閾値-Vthを-0.25[V]とした。負の閾値-Vthの絶対値を、正の閾値+Vthの絶対値より小さくしたのは、後述のように、負の逆起電圧のピークの絶対値は、正の逆起電圧のピークの絶対値よりも小さく出るためである。ただし、これは一例であって、閾値の数値はこれに限られるものではない。
【0173】
本例において、正の閾値+Vthである+0.5[V]以上の逆起電圧が発生することで回転検出回路45により検出される信号を検出信号+DEと定義する。また、負の閾値-Vthである-0.25[V]以下の逆起電圧が発生することで回転検出回路45により検出される信号を検出信号-DEと定義する。
【0174】
本例における逆起電圧の波形は、上述の図6の下段で示したものと同様である。すなわち、本例においても、永久磁石41が回転角度0°から180°に回転する間に、永久磁石41の角速度は最大となり、コイル43に生じる正の逆起電圧はピークとなる。また、永久磁石41が磁気的な釣り合いの位置である回転角度180°において、コイル43に生じる逆起電圧は0となる。また、永久磁石41が回転角度180°から340°に回転する間に、コイル43には負の逆起電圧が生じる。この際の永久磁石41の角速度は、回転角度0°から180°に移動するまでの角速度よりも小さい。そのため、負の逆起電圧のピークの絶対値は、正の逆起電圧のピークの絶対値よりも小さく出ることとなる。
【0175】
同様に、永久磁石41が回転角度0°から-180°に回転する間に、永久磁石41の角速度は最大となり、コイル43に生じる正の逆起電圧はピークとなる。また、永久磁石41が磁気的な釣り合いの位置である回転角度-180°において、コイル43に生じる逆起電圧は0となる。また、永久磁石41が回転角度-180°から-340°に回転する間に、コイル43には負の逆起電圧が生じる。この際の永久磁石41の角速度は、回転角度0°から-180°に移動するまでの角速度よりも小さい。そのため、負の逆起電圧のピークの絶対値は、正の逆起電圧のピークの絶対値よりも小さく出ることとなる。
【0176】
本例で生じる逆起電圧は以上説明した波形であることより、図28に示すように、正の逆起電圧のピークが現れた後、負の逆起電圧のピークが現れる。
【0177】
図28の例においては、負の検出信号-DEが検出されたタイミングと、基準信号の出力タイミングとを比較し、その比較結果に基づいて制動制御を行っている。具体的には、負の検出信号-DEの検出タイミングと基準信号OSの出力タイミングとのズレが所定範囲内である場合、負の検出信号-DEが検出されてから時間tb1経過したタイミングで電磁ブレーキを作用させ、負の検出信号-DEが検出されてから時間tp1(>tb1)経過したタイミングで第1端子O1に調速パルスを出力している。
【0178】
本例においては、例えば、正の検出信号+DEが検出され、負の検出信号-DEが検出されなかった場合、正の検出信号+DEの検出タイミングと基準信号OSの出力タイミングとを比較し、その比較結果に基づいて制動制御を行うとよい。このように回転検出の判定基準が2つ設けられる構成を採用することにより、瞬間的なノイズ等に起因する誤検出を抑制することができる。その結果、精度の高い制動制御が可能となる。
【0179】
図29は、図28に示す制動制御を実現するための回路図である。本例のように負の逆起電圧を検出するためには、図29に示すように、回転検出回路45を、第1端子O1だけでなく第2端子O2にも接続するとよい。そして、正の逆起電圧の検出時はトランジスタTP1をOFF、トランジスタTP2をONにするとよい。一方、負の逆起電圧の検出時はトランジスタTP1をON、トランジスタTP2をOFFにするとよい。
【0180】
[その他の制動制御の例:歩度ズレが生じた場合の制動制御の他の変形例]
次に、図30図31参照して、歩度ズレが生じた場合の制動制御の他の変形例について説明する。図30図31は、第1実施形態の他の変形例における制動制御の一例を示すタイミングチャートである。図30図31においては、歩度ズレの程度に応じた制動制御を行う例を説明する。具体的には、歩度ズレの程度に応じて制動力の大きさを可変とする例を説明する。本変形例においては、制動力の大きさは、調速パルス出力回路46により出力される調速パルスのデューティ比、及び制動回路80により作用される電磁ブレーキDBのデューティ比によって決まるものである。
【0181】
本変形例においては、制御回路44が、検出信号DEの検出タイミングに基づいて、調速パルス及び電磁ブレーキの制動ランクを選択する。制動ランクは、デューティ比に応じたランクである。本変形例においては、デューティ比とは、所定の区間における調速パルスが出力される出力期間の割合、及び所定の区間における電磁ブレーキが作用される作用期間の割合である。例えば、デューティ比として、0%、25%、50%、75%、100%が予め設定されているとよい。
【0182】
本変形例においては、制御回路44は、検出信号DEが検出された後の区間であって予め設定される制動区間tcにおいて生じる制動力を制御する。すなわち、調速パルスが出力される又は電磁ブレーキが作用される制動区間tcを予め設定し、制動区間tc内での通電時間を可変として、制動制御を行う。本変形例においては、図30に示すように、検出信号DEが検出されてから時間tp経過したタイミングを制動区間tcの始期とする。
【0183】
図30に示す例においては、制動区間tcにおいて、調速パルスを出力しない期間に電磁ブレーキを作用させることとした。例えば、調速パルスのデューティ比が50%の場合、デューティ比50%の電磁ブレーキを作用させる。
【0184】
本変形例においては、制動力に対応する制動ランクを設定する。具体的には、第1端子O1に出力される調速パルスがデューティ比100%であって電磁ブレーキがデューティ比0%であるランクを、制動ランク「0000」とする。第1端子O1に出力される調速パルスがデューティ比75%であって電磁ブレーキがデューティ比25%であるランクを、制動ランク「0001」とする。第1端子O1に出力される調速パルスがデューティ比50%であって電磁ブレーキがデューティ比50%であるランクを、制動ランク「0010」とする。第1端子O1に出力される調速パルスがデューティ比25%であって電磁ブレーキがデューティ比75%であるランクを、制動ランク「0011」とする。第1端子O1に出力される調速パルスがデューティ比0%であって電磁ブレーキがデューティ比100%であるランクを、制動ランク「0100」とする。これら制動ランクを制動力が大きい順に並べると、「0000」、「0001」、「0010」、「0011」、「0100」である。
【0185】
図30に示す例においては、歩度に遅れや進みが生じていない場合、制御回路44が制動ランク「0010」を選択している。すなわち、第1端子O1に出力される調速パルスのデューティ比を50%、電磁ブレーキのデューティ比を50%としている。
【0186】
また、歩度の進みが大きいほど、制動ランクを上げることとした。図30においては、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間2t進んでいる場合、制御回路44が制動ランク「0000」を選択している。また、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間t進んでいる場合、制御回路44が制動ランク「0001」を選択している。
【0187】
また、歩度の遅れが大きいほど、制動ランクを下げることとした。図30においては、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間t遅れている場合、制御回路44が制動ランク「0011」を選択している。また、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間2t遅れている場合、制御回路44が制動ランク「0100」を選択している。
【0188】
図31においては、大きな遅れが発生した場合の例を示している。具体的には、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間3t、4t、5t、6t、7t、8t遅れている場合の例を示している。
【0189】
本例においては、出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間3t以上遅れている場合、第1端子O1に調速パルスを出力しないこととした。すなわち、第1端子O1に出力される調速パルスのデューティ比を0%とした。そして、遅れが大きくなるに従い電磁ブレーキのデューティ比を小さくした。さらに遅れが大きくなった場合、電磁ブレーキを作用させず、第2端子O2に調速パルスを出力することとした。また、遅れが大きくなるに従い第2端子O2に出力されるデューティ比を大きくした。
【0190】
図31に示す例では、第1端子O1に出力される調速パルスがデューティ比0%であって電磁ブレーキがデューティ比75%であるランクを、制動ランク「0101」とする。第1端子O1に出力される調速パルスがデューティ比0%であって電磁ブレーキがデューティ比50%であるランクを、制動ランク「0110」とする。第1端子O1に出力される調速パルスがデューティ比0%であって電磁ブレーキがデューティ比25%であるランクを、制動ランク「0111」とする。第1端子O1に出力される調速パルス及び電磁ブレーキのデューティ比0%であるランクを、制動ランク「1000」とする。第2端子O2に出力される調速パルスがデューティ比25%であって電磁ブレーキがデューティ比0%であるランクを、制動ランク「1001」とする。第2端子O2に出力される調速パルスがデューティ比50%であって電磁ブレーキがデューティ比0%であるランクを、制動ランク「1010」とする。これら制動ランクを制動力が大きい順に並べると、「0101」、「0110」、「0111」、「1000」、「1001」、「1010」である。
【0191】
図31に示す例においては、歩度の遅れが大きいほど、制動ランクを下げることとした。図31においては、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間3t遅れている場合、制御回路44が制動ランク「0101」を選択している。また、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間4t遅れている場合、制御回路44が制動ランク「0101」を選択している。また、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間5t遅れている場合、制御回路44が制動ランク「0111」を選択している。また、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間6t遅れている場合、制御回路44が制動ランク「1000」を選択している。また、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間7t遅れている場合、制御回路44が制動ランク「1001」を選択している。また、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより時間8t遅れている場合、制御回路44が制動ランク「1010」を選択している。
【0192】
[第1実施形態の他の変形例における制動制御のフローチャート]
図32は、第1実施形態の他の変形例における制動制御の一例を示すフローチャートである。なお、図20で示したステップと同じステップについては同じ符号を用いて、その説明は省略する。制動ランクについては、図30図31を参照して説明したものと同じである。
【0193】
上記図30図31においては、基準信号OSの出力タイミングに対する検出信号DEの検出タイミングのズレに応じた制動制御を行う例を示したが、ズレの量を蓄積し、ズレの蓄積量に応じた制動制御を行ってもよい。以下、ズレの蓄積量に応じた制動制御のフローについて説明する。なお、図示は省略するが、歩度調整手段40は、検出信号DEと基準信号OSとの期間差(基準信号OSの出力タイミングに対する検出信号DEの検出タイミングのズレ量)を蓄積するカウンタを有しているとよい。
【0194】
図32に示す例においては、期間差tが±1[ms]以内の場合(ST251のY)、制御回路44は制動ランク「0010」を選択する(ST261)。期間差tが5[ms]より大きい場合(ST252のY)、制御回路44は制動ランク「0000」(>制動ランク「0010」)を選択する(ST262)。期間差tが1[ms]より大きく5[ms]以下の場合(ST253のY)、制御回路44は制動ランク「0001」(>制動ランク「0010」)を選択する(ST263)。
【0195】
期間差tが-5[ms]以上であって-1[ms]以下の場合(ST254のY)、制御回路44は、制動ランク「0011」(<「0001」)を選択する(ST264)。期間差tが-10[ms]以上であって-5[ms]より小さい場合(ST255のY)、制御回路44は制動ランク「0100」(<制動ランク「0011」)を選択する(ST265)。期間差tが-15[ms]以上であって-10[ms]より小さい場合(ST256のY)、制御回路44は制動ランク「0101」(<制動ランク「0100」)を選択する(ST266)。期間差tが-15[ms]より小さい場合(ST257のY)、制御回路44は制動ランク「0110」(<制動ランク「0101」)を選択する(ST267)。
【0196】
以上説明した他の変形例においては、第1端子O1に出力される調速パルスのデューティ比、第2端子O2に出力される調速パルスのデューティ比、電磁ブレーキDBのデューティ比を、予め設定された制動ランクに対応付けていることにより、回路上での制動力の扱いが容易である。すなわち、制御回路44による制動力の制御が容易である。
【0197】
[第2実施形態]
次に、図33図35を参照して、第2実施形態について説明する。図33及び図34は、第2実施形態における制動制御の一例を示す図である。
【0198】
ここで、電磁ブレーキDBが作用している期間においては、コイル43が短絡していることより逆起電圧は検出されない。すなわち、図33の下段に示す電磁ブレーキDBの作用期間b1において逆起電圧は0[V]である。図33の上段における波形の破線部分は、電磁ブレーキDBが作用していない場合において検出され得る波形を示しており、図33の上段における波形の実線部分は、検出された波形を示している。なお、上述の図10図15図21図22図25図28、及び後述の図36図37Cにおいても同様に電磁ブレーキDBが作用している期間において逆起電圧は検出されないが、視認性の都合上、逆起電圧の波形を全て実線で示している。
【0199】
第2実施形態においては、調速パルスの出力による制動力の制御を行わず、電磁ブレーキを作用することによる制動力の制御を行う例を説明する。第2実施形態における物理的構成は、図1図5を参照して説明した第1実施形態と同様であるとよいが、歩度調整手段40が調速パルス出力回路46を有していなくてもよい。
【0200】
電磁ブレーキによる制動は、調速パルスの出力による制動と比較して消費電力が小さいという利点がある一方で、テン輪31の低速化を実現するにあたり制動力が不足する可能性がある。そこで、第2実施形態においては、第1実施形態と比較して電磁ブレーキの作用期間を長くすることによりテン輪31の低速化を実現できる程度の制動力を生じさせることが可能な構成を採用する。また、第2実施形態においては、検出信号DEの検出タイミングの進み具合及び遅れ具合に応じて、電磁ブレーキの作用期間を可変とする構成を採用する。例えば、検出信号DEの検出タイミングが進んでいる場合における電磁ブレーキの作用期間を、検出信号DEの検出タイミングが遅れている場合における電磁ブレーキの作用期間よりも長くする。
【0201】
なお、第2実施形態は、電磁ブレーキを作用することにのみによって制動力の制御を行っている点で、図10を参照して説明した第1実施形態の第2実施例と同様である。第2実施形態は、2ステップ(2秒)基準で電磁ブレーキを作用させる制御を含む点で第1実施形態の第2実施例と異なる。
【0202】
図33においては、2ステップ(2秒)基準で基準信号OSを設定した例を示す。これにより、検出信号DEが2ステップ毎に検出され、電磁ブレーキDBが2ステップ毎に作用している。以下の説明において、1ステップ(1秒)毎に電磁ブレーキDBを作用させるモードを第1制動モードと呼び、2ステップ(2秒)毎に電磁ブレーキDBを作用させるモードを第2制動モードと呼ぶ。第1制動モードにおいては、基準信号OSが1秒間隔(第1間隔)で出力されると共に、電磁ブレーキDBの作用期間が第1間隔よりも短いとよい。第2制動モードにおいては、基準信号OSが2秒間隔(第2間隔)で出力されると共に、電磁ブレーキDBの作用期間が第2間隔よりも短いとよい。
【0203】
第2実施形態においては、図33の下段に示すように、検出信号DEが検出されてから時間tb1が経過したタイミングで、1秒よりも長く2秒よりも短い作用期間b1の電磁ブレーキDBを作用させる制御を含む。
【0204】
また、第2実施形態においては、制御回路44が、検出信号DEの検出タイミングに基づいて、制動モードを切り替える。また、第2実施形態においては、制御回路44が、検出信号DEの検出タイミングに基づいて、電磁ブレーキの制動ランクを選択する。制動ランクは、デューティ比に応じたランクである。第2実施形態においては、デューティ比とは、所定の区間における電磁ブレーキが作用される作用期間の割合である。
【0205】
図34(a)は、第1制動モードにおける電磁ブレーキの作用タイミング及び作用期間の一例を示しており、図34(b)は、第2制動モードにおける電磁ブレーキの作用期間の一例を示している。
【0206】
第2実施形態の第1制動モードにおいて、検出信号DEが検出された後の区間であって予め設定される制動区間tcの期間を100%とした場合、電磁ブレーキの作用期間が25%であるランクを、制動ランク「10011」とする。同様に、電磁ブレーキの作用期間が50%、75%であるランクをそれぞれ、制動ランク「10010」、「10001」とする。
【0207】
また、第2実施形態の第2制動モードにおいて、検出信号DEが検出された後の区間であって予め設定される制動区間tc2(>tc1)の期間を100%とした場合、電磁ブレーキの作用期間が65%であるランクを、制動ランク「11011」とする。同様に、電磁ブレーキの作用期間が75%、85%であるランクをそれぞれ、制動ランク「11010」、「11001」とする。
【0208】
なお、第2制動モードの制動ランクそれぞれにおける電磁ブレーキの作用期間は、第1制動モードの制動ランクそれぞれにおける電磁ブレーキの作用期間よりも長いとよい。すなわち、第2制動モードの制動ランクそれぞれにおける電磁ブレーキの制動力は、第1制動モードの制動ランクそれぞれにおける電磁ブレーキの制動力よりも大きいとよい。
【0209】
また、第2制動モードの制動ランクそれぞれにおける電磁ブレーキの作用期間は、第1制動モードにおける基準信号OSの出力間隔(第1間隔)よりも長いとよい。これにより、第2制動モードにおいては、制動力を大きくすることができる。また、第2制動モードの制動ランクそれぞれにおける電磁ブレーキの作用期間は、基準信号OSの2ステップ(2秒)分よりは短いとよい。
【0210】
また、第1制動モードの制動ランクそれぞれにおける電磁ブレーキの作用期間は、基準信号OSが出力される間隔よりも短いとよい。これにより、第1制動モードにおいては、検出信号DEを毎秒検出することができ、かつ発電量を維持することができる。
【0211】
また、第2実施形態において、制動回路80は、第1制動モードと第2制動モードのそれぞれにおいて、作用期間が互いに異なる複数の制動力を生じさせることが可能に構成されているとよい。
【0212】
図34(a)においては、制御回路44は、歩度に進みがある場合、制動ランク「10001」(第2作用期間の電磁ブレーキ)を選択し、歩度に進み及び遅れが無い場合、制動ランク「10010」(第1作用期間の電磁ブレーキ)を選択し、歩度に遅れがある場合、制動ランク「10011」(第3作用期間の電磁ブレーキ)を選択する例を示している。すなわち、歩度が進んでいる程、相対的に制動力を大きくしている。
【0213】
図34(b)においては、制御回路44は、歩度に進みがある場合、制動ランク「11001」(第2作用期間の電磁ブレーキ)を選択し、歩度に進み及び遅れが無い場合、制動ランク「11010」(第1作用期間の電磁ブレーキ)を選択し、歩度に遅れがある場合、制動ランク「11011」(第3作用期間の電磁ブレーキ)を選択する例を示している。すなわち、歩度が進んでいる程、相対的に制動力を大きくしている。
【0214】
なお、図34(b)においては、制動力の制御に寄与していない基準信号OSの出力期間を、出力期間ttsとして示している。なお、第2制動モードにおいては、基準信号OSの出力タイミング自体を2ステップ(2秒)としてもよい。すなわち、出力期間ttsで示される基準信号OSは出力されなくてもよい。この場合、水晶振動子70に基づく発振信号を分周することで約2000[ms]毎に出力される基準信号OSを生成するとよい。
【0215】
[第2実施形態における制動制御のフローチャート]
図35は、第2実施形態における制動制御の一例を示すフローチャートである。なお、制動ランクについては、図34を参照して説明したものと同じである。
【0216】
第2実施形態においては、永久磁石41の運動により発電が行われることにより電源回路60が起動した後(ST1のY)、制動制御が開始される。そして、所定の閾値Vth以上の逆起電圧が発生した後、すなわち、回転検出回路45により検出信号DEが検出された後(ST2のY)、検出信号DEと基準信号OSとの期間差(基準信号OSの出力タイミングに対する検出信号DEの検出タイミングのズレ量)を取得する(ST50)。
【0217】
さらに、制御回路44により、現在の制動モードを判定する(ST51)。現在の制動モードが第1制動モードである場合(ST51のY)、以下の制御を行う。
【0218】
期間差tが±1[ms]以内の場合(ST511のY)、制御回路44は制動ランク「10010」を選択する(ST512)。期間差tが1[ms]より大きく5[ms]以下の場合(ST513のY)、制御回路44は制動ランク「10001」(>制動ランク「10010」)を選択する(ST514)。
【0219】
期間差tが-1より小さい場合(ST515のY)、制御回路44は制動ランク「10011」(<制動ランク「10010」)を選択する(ST516)。期間差tが5[ms]より大きい場合(ST517のY)、制御回路44は制動ランク「10001」を選択する(ST518)。
【0220】
また、期間差tが5[ms]より大きい場合(ST517のY)、すなわち、検出信号DEが大きく進んでいる場合、制動モードを第1制動モードから第2制動モードに切り替える(ST519)。すなわち、制動力が大きくなるよう制動モードを切り替える。このように制動力を大きくすることにより、テン輪31の低速化を維持することができる。
【0221】
一方、現在の制動モードが第2制動モードである場合(ST51のN)、以下の制御を行う。
【0222】
期間差tが±1[ms]以内の場合(ST521のY)、制御回路44は制動ランク「11010」を選択する(ST522)。期間差tが-5[ms]以上であって、1[ms]より小さい場合(ST523のY)、制御回路44は制動ランク「11011」(<制動ランク「10010」)を選択する(ST524)。
【0223】
期間差tが1よりも大きい場合(ST525のY)、制御回路44は制動ランク「11001」(>制動ランク「10010」)を選択する(ST526)。期間差tが-5[ms]より小さい場合(ST527のY)、制御回路44は制動ランク「11011」を選択する(ST528)。
【0224】
また、期間差tが-5[ms]より小さい場合(ST527のY)、すなわち、検出タイミングが大きく遅れている場合、制動モードを第2制動モードから第1制動モードに切り替える(ST529)。すなわち、制動力が小さくなるよう制動モードを切り替える。このように制動力を小さくすることにより、過度な制動力が生じることを抑制し、歩度精度を維持することができる。
【0225】
以上説明した第2実施形態においては、電磁ブレーキDBの作用期間を長くすることでテン輪31の低速化を実現することができる。また、電磁ブレーキDBの作用期間が長い分、検出信号DEの誤検出を抑制することができる。
【0226】
なお、第2実施形態においては、検出信号DEと基準信号OSとの期間差(基準信号OSの出力タイミングに対する検出信号DEの検出タイミングのズレ量)に応じて、制動モードを切り替える例を説明したが、これに限られない。例えば、機械式時計1内に温度センサを設けて、温度センサの出力に基づいて制動モードを切り替えてもよい。例えば、温度センサが検出した温度が所定値以上となった場合、制動モードを第2制動モードに切り替えるとよい。これは、温度が上昇すると、コイル43の抵抗が上昇し、電磁ブレーキDBが効きにくくなるためである。温度上昇により電磁ブレーキDBが効きにくくなった状態において、電磁ブレーキDBの作用期間が長い第2制動モードを実行することにより、歩度精度を維持することができる。
【0227】
なお、第2実施形態においては、第1制動モードと第2制動モードとを切り替え可能な例について説明したが、これに限られず、第2制動モードのみを行う構成であってもよい。すなわち、制御回路44は、常に2ステップ(2秒)毎に電磁ブレーキDBを作用させるように制動回路80を制御してもよい。この場合、電磁ブレーキDBの作用期間は、テン輪31の一方の回転方向における回転速度が最大値に達した後であって、次にテン輪31が一方の回転方向の逆方向における回転速度が最大値に達するタイミングを含む期間であるとよい。また、第2実施形態においては、検出信号DEが2ステップ毎に検出され、電磁ブレーキDBが2ステップ毎に作用している例を示したが、制動力が不足している場合は2ステップ(2秒)に限らず、3ステップ(3秒)毎、4ステップ(4秒)毎のように、電磁ブレーキDBの作用期間を長くするとともに検出信号DEが検出されるステップ数が変更されてもよい。
【0228】
また、第2実施形態においては、図20を参照して説明したように、基準信号OSの出力タイミングに対する検出信号DEの検出タイミングのズレ量を蓄積する蓄積部であるカウンタを設け、制御回路44がズレ量の蓄積量に応じて制動力を制御する構成を採用してもよい。
【0229】
また、第2実施形態においては、基準信号OSの出力タイミングに対する検出信号DEの検出タイミングのズレ量に応じて、電磁ブレーキのデューティ比が25%~85%の間で可変である例を示したが、デューティ比はこれに限られるものではない。また、電磁ブレーキのデューティ比が0%である制動力を選択可能に構成してもよい。すなわち、例えば、検出信号DEの検出タイミングが大きく遅れている場合、電磁ブレーキDBを作用させないこととしてもよい。
【0230】
[第3実施形態]
次に、図36を参照して、第3実施形態について説明する。図36は、第3実施形態における制動制御の一例を説明する図である。
【0231】
第3実施形態においては、検出信号DEが検出される逆起電圧Vの閾値Vthを低く設定した。図36においては、閾値Vthが0[V]よりもわずかに高い例を示している。このように閾値Vthを低く設定することにより、時間の経過に伴い動力ゼンマイ11の動力が弱まった状態においても、検出信号DEを検出でき、歩度の精度を維持することができる。
【0232】
しかしながら、閾値Vthを低く設定した場合、テン輪31の回転速度が最大値となる回転角度以外の回転角度において、検出信号DEが検出されてしまう可能性がある。すなわち、検出信号DEを誤検出してしまう可能性がある。特に、図6で示すように、テン輪31の回転角度が最大に達した後において、逆起電圧Vにおける2番目に大きいピークが発生するため、このピークに応じて検出信号DEを誤検出してしまう可能性がある。
【0233】
一方で、第1端子O1、第2端子O2を短絡させることで電磁ブレーキDBを作用させている期間においては、そもそも逆起電圧Vは検出されず、検出信号DEが検出されることは無い。そのため、電磁ブレーキDBが作用していない期間において、検出信号DEの誤検出を抑制できると好ましい。
【0234】
そこで、第3実施形態においては、コイル43に生じる逆起電圧Vの波形に関わらず検出信号DEを検出しない非検出期間DE_offを設けることとした。非検出期間DE_offは、逆起電圧Vが閾値Vth以上であるか否かに関わらず、検出信号DEを検出しない期間である。非検出期間DE_offは、検出信号DEを検出してから所定期間経過後に開始されるとよい。すなわち、逆起電圧Vの波形のピークの最大値が生じた後、所定期間が経過後に開始されるとよい。また、非検出期間DE_offは、テン輪31の正逆回転運動のうち正方向運動及び逆方向運動において、テン輪31の回転速度が最大値に達した後であって、次にテン輪31の回転速度が最大値となる前の期間であるとよい。すなわち、非検出期間DE_offは、逆起電圧Vのピークの最大値が検出されるタイミングと重ならない期間であるとよい。これにより、発電量を維持することができる。
【0235】
また、非検出期間DE_offと電磁ブレーキDBの作用期間は開始タイミングが同じであるとよい。また、非検出期間DE_offは、電磁ブレーキDBの作用期間の少なくともいずれかよりも長いとよい。すなわち、非検出期間DE_offの終点は、電磁ブレーキDBの作用期間のうちいずれかの終点よりも後であるとよい。
【0236】
図36においては、作用期間がそれぞれ異なる電磁ブレーキDBが作用した例を示している。図36においては、1番目の検出信号DEが検出された後に作用期間が最も長い電磁ブレーキDBが作用し、2番目の検出信号DEが検出された後に作用期間が2番目に長い電磁ブレーキDBが作用し、3番目の検出信号DEが検出された後に作用期間が最も短い電磁ブレーキDBが作用する例を示している。
【0237】
また、図36においては、非検出期間DE_offが、3番目の検出信号DEが検出された後に作用する電磁ブレーキDBよりも長い例を示している。このように、第3実施形態においては、非検出期間DE_offが電磁ブレーキDBの作用期間の少なくともいずれかよりも長いとよい。これにより、閾値Vthを低く設定した場合においても、電磁ブレーキDBの作用期間が経過した後における検出信号DEの誤検出を抑制することができる。その結果、歩度精度を維持することができる。
【0238】
なお、図36においては、非検出期間DE_offが常に一定である例を示すが、これに限られず、電磁ブレーキDBの作用期間に応じて可変としてもよい。具体的には、例えば、電磁ブレーキDBの作用期間が短い程、非検出期間DE_offを長くするとよい。これにより、検出信号DEの誤検出をより精度良く抑制することができる。
【0239】
[電磁ブレーキの作用期間の変動]
ここで、図37A図37Cを参照して、電磁ブレーキの作用期間の変動の例について説明する。図37Aは、始点又は終点のいずれかを固定して電磁ブレーキの作用期間を変動させる例を示す図である。図37Bは、所定の基準タイミングを基準として電磁ブレーキの作用期間を変動させる例を示す図である。図37Cは、ランクの高さに応じて電磁ブレーキの作用期間を変動させる例を示す図である。なお、図37A図37Bにおいては、制動ランクをランク1~3で切り替え可能な例を示しており、図37Cにおいては、制動ランクをランク1~5で切り替え可能な例を示している。また、これら制動ランクは数字が大きいほどデューティ比が大きいことを示している。
【0240】
上述の図34等では、電磁ブレーキDBの作用期間の終点を制動区間tcの終点に固定し、電磁ブレーキの作用期間の始点を変動させてデューティ比に応じた電磁ブレーキ期間を設定する例を説明した。この例は図37Aの上段で示す制動ランクをランク1~3で切り替える例に対応する。しかしながら、電磁ブレーキの作用期間の変動はこれに限られない。
【0241】
例えば、図37Aの下段で示すように電磁ブレーキの作用期間を変動させるとよい。すなわち、電磁ブレーキDBの作用期間の始点を制動期間tcの始点に固定し、電磁ブレーキの終点を変動させてもよい。
【0242】
また、図37Bに示すように、作用期間の始点及び終点を固定せず、所定の基準タイミングを基準として作用期間を変動させてもよい。具体的には、所定の基準タイミングの前後の期間をランクの大きさに応じて変動させるとよい。図37Bにおいては、所定の基準タイミングを基準として、ランクが上がる毎に前後で同じ長さ作用期間を長くする例を示している。
【0243】
また、図37Cに示すように、制動ランクの大きさに応じて、作用期間の始点と終点のいずれを変動させるかを切り替え可能としてもよい。図37Cに示す例においては、制御回路44は、第1作用期間群に含まれる複数の作用期間(ランク1~3の作用期間)においては、その始点のタイミングを固定すると共に、その終点のタイミングを制御する。また、制御回路44は、第2作用期間群に含まれる複数の作用期間(ランク4~5)においては、その始点のタイミングを制御すると共に、その終点のタイミングを固定する。なお、第2作用期間群に含まれる複数の作用期間それぞれは、第1作用期間群に含まれる複数の作用期間よりも長い。
【0244】
このように、作用期間の終点が制動区間tcの終点に一致するまでは、ランクが上がるに従い作用期間の終点を遅らせるとよい。そして、作用期間の終点が制動区間tcの終点と一致した後においては、ランクが上がるに従い作用期間の始点を早めるとよい。
【0245】
また、図37Cに示すように、第1作用期間群に含まれる複数の作用期間(ランク1~3の作用期間)の始点のタイミングは、制動区間tcの始点以降の所定の基準タイミングである。また、第1作用期間群に含まれる複数の作用期間(ランク1~3の作用期間)の終点のタイミングは、制動区間tcの終点以前である。また、第2作用期間群に含まれる複数の作用期間(ランク4~5の作用期間)の始点のタイミングは、基準タイミングよりも前であり、また、第2作用期間群に含まれる複数の作用期間(ランク4~5の作用期間)の終点のタイミングは、制動区間tcの終点のタイミングである。なお、図37Cに示す例において、基準タイミングは、テン輪31の正逆回転運動のうち正方向運動及び逆方向運動において、テン輪31の回転速度が最大値に達した後であって、次に逆起電圧の波形のピーク(図37Cに示す波形の負のピーク)が生じる前のタイミングである。
【0246】
このように、低いランクでは、作用期間の始点を、逆起電圧の最大値が検出されるタイミング以降に設定し、高いランクでは、作用期間が逆起電圧の最大値が検出されるタイミングと重なるように始点を設定するとよい。なお、逆起電圧の最大値が検出されるタイミングは発電のピークである。図37Cに示すように作用期間の始点又は終点を設定することにより、低いランクでは発電量の少ない領域で制動力を調整することができ、高いランクではより制動力が高くなる発電量の多い領域で制動力を調整することができる。その結果、発電と制動の両立が可能となる。
【0247】
[ランク切り替え]
次に、図38を参照して、ランク切り替えの一例を説明する。図38は、ランク切り替えの一例を示すフローチャートである。図38においては、同じランクの電磁ブレーキを所定回数連続して作用させた場合において、蓄積された期間差tに応じてランクを変動させる例を示している。具体的には、蓄積された期間差tが0又は正であればランクを1つ上げ、蓄積された期間差tが負であれば、ランクを一つ下げる例を示している。
【0248】
永久磁石41の運動により発電が行われることにより電源回路60が起動した後(ST1のY)、制動制御が開始される。そして、所定の閾値Vth以上の逆起電圧が発生した後、すなわち、回転検出回路45により検出信号DEが検出された後(ST2のY)、検出信号DEと基準信号OSとの期間差を算出し、期間差tを蓄積する(ST60)。
【0249】
同じランクでの制動制御を連続して行った回数が4回未満の場合(ST61のN)、現在の制動ランクに応じた制動制御を行う(ST62)。
【0250】
同じランクでの制動制御を連続して行った回数が4回に達している場合であって(ST61のY)、蓄積された期間差tが0以上である場合(ST63のY)、制動ランクを1つ上げた上で(ST64)、上げられた後の制動ランクに応じた制動制御を行う(ST62)。
【0251】
同じランクでの制動制御を連続して行った回数が4回に達している場合であって(ST61のY)、蓄積された期間差tが0未満である場合(ST63のN)、制動ランクを一つ下げた上で(ST65)、下げられた後の制動ランクに応じた制動制御を行う(ST65)。
【0252】
さらに、図39を参照して、図38で示したランク切り替えの変形例を説明する。図39は、図38で示したランク切り替えの変形例を示すフローチャートである。図39においては、蓄積された期間差tが大きく、かつ同じランクの電磁ブレーキを所定回数連続して作用させた場合、ランクを大きく変動させる例を示している。具体的には、蓄積された期間差tが±30[ms]よりも大きい場合、ランクを2つ上げる又は2つ下げる例を示している。
【0253】
永久磁石41の運動により発電が行われることにより電源回路60が起動した後(ST1のY)、制動制御が開始される。そして、所定の閾値Vth以上の逆起電圧が発生した後、すなわち、回転検出回路45により検出信号DEが検出された後(ST2のY)、検出信号DEと基準信号OSとの期間差を算出し、期間差tを蓄積する(ST70)。
【0254】
蓄積された期間差tが30[ms]以下であって、-30[ms]以上である場合(ST71のN)、同じランクでの制動制御を4回以上連続して行ったか否かを判定する(ST72)。同じランクでの制動制御を連続して行った回数が4回以上であると判定された場合であって(ST72のY)、蓄積された期間差tが0以上である場合(ST74のY)、ランクを1つ上げる(ST75)。そして、上げられた後の制動ランクに応じた制動制御を行う(ST73)。同じランクでの制動制御を連続して行った回数が4回以上であると判定された場合であって(ST72のY)、蓄積された期間差tが0未満である場合(ST74のN)、ランクを1つ下げる(ST76)。そして、下げられた後の制動ランクに応じた制動制御を行う(ST73)。
【0255】
一方、蓄積された期間差tが30[ms]より大きい、又は-30[ms]未満である場合(ST71のY)、同じランクでの制動制御を2回以上連続して行ったか否かを判定する(ST77)。同じランクでの制動制御を連続して行った回数が2回未満であると判定された場合(ST77のN)、現在の制動ランクに応じた制動制御を行う(ST73)。
【0256】
同じランクでの制動制御を連続して行った回数が2回以上であると判定された場合であって(ST77のY)、蓄積された期間差tが0以上である場合(ST78のY)、ランクを2つ上げる(ST79)。そして、上げられた後の制動ランクに応じた制動制御を行う(ST73)。同じランクでの制動制御を連続して行った回数が2回以上であると判定された場合であって(ST77のY)、蓄積された期間差tが0以上である場合(ST78のN)、ランクを2つ下げる(ST710)。そして、下げられた後の制動ランクに応じた制動制御を行う(ST73)。
【0257】
以上説明した図38図39に示すランク切り替えを行うことで、電磁ブレーキの制動力を最適化することができ、その結果、歩度精度を向上することができる。特に、図39に示すランク切り替えを行うことで、機械式時計1のユーザが屋外から屋内へ移動するなど、温度環境が急激に変化した場合であっても、ランクの切り替えを迅速に行うことができる。その結果、歩歩度精度を向上することができる。
【0258】
[まとめ]
以上説明した各実施形態及び変形例においては、機械式時計1の物理的な構造に応じて得られるテン輪31の振動数が高い場合であっても、テン輪31の振動数を低い振動数に合わせ込むことができる。言い換えると、機械式時計1の物理的な構造に応じて得られるテン輪31の振動数の平均値を下げると共に、予め設定される基準信号OSの周期に合わせ込むことができる。これにより、テン輪31の低速化を実現できる。その結果、歩度精度を維持すると共に耐久性の高い機械式時計1を提供することができる。
【0259】
なお、テン輪31の振動数を所定の振動数へ合わせ込むことは、緩急針やフリースプラングのような機構を用いて、手作業のチューニングにて行うことも可能である。しかし、この場合、テン輪31を停止させ、手作業でチューニングを行い、さらにテン輪31を動かして測定するという工程が必要になる。各実施形態及び変形例の制動制御を行うことにより、効率的かつ簡易にテン輪31の振動数を所定の振動数を合わせ込むことができる。
【0260】
[その他]
歩度調整手段40は、2極磁化された永久磁石41の動作に基づいて検出信号を得るものであり、永久磁石41の周辺に磁気的な影響を及ぼす部材が存在する場合、検出精度が低下してしまう可能性がある。そのため、永久磁石41の周辺の部材の材料として、磁気的な影響が少ないものを採用するとよい。例えば、支持部材33及びヒゲ持受34の材料として樹脂材料を用いるとよい。また、支持部材33を地板10に対して固定するための固定具33aの材料としてリン青銅や真鍮を用いるとよい。また、テン輪31の材料として、樹脂材料やアルミニウム、真鍮を用いるとよい。
【0261】
また、上述のように、ヤング率を低減するためにヒゲゼンマイ32を樹脂製としたことより、金属製の場合と比較して、永久磁石41に与える磁気的な影響を低減することができる。また、ヒゲゼンマイ32が磁性を有する金属製である場合、永久磁石41から磁気的な影響を受け、ヒゲゼンマイ32の形状や姿勢が変位してしまう可能性がある。各実施形態及び変形例においては、ヒゲゼンマイ32を樹脂製としたことより、ヒゲゼンマイ32自身の形状や姿勢を安定させることができる。また、別途磁性材料からなる耐磁板を機械式時計1に設けてもよい。これにより、機械式時計1に外部の磁石が近づいた場合であっても、永久磁石41(テン輪31)の正逆回転運動が乱れることが抑制され、安定した制動制御を行うことができる。
【0262】
図30図31を参照して説明した制動区間tcは、各実施形態の各実施例、各変形例に適用されてもよい。すなわち、例えば、図10図11等で説明した例において、調速パルスを出力又は電磁ブレーキを作用させる制動区間tcを予め設定し、制御回路44が制動区間tcにおいて生じる制動力を制御するとよい。
【符号の説明】
【0263】
1 機械式時計、2 巻き真、10 地板、10a 位置決めピン、10b 開口、11 動力ゼンマイ、12 輪列、122 二番車、123 三番車、124 四番車、13 指針軸、131 秒針、20 脱進機構、21 ガンギ車、22 アンクル、221
アンクル真、222 竿部、223 第1腕部、224 第2腕部、30 調速機構、31 テン輪、311 テン真、32 ヒゲゼンマイ、33 支持部材、33a パイプ、33b ネジ、34 ヒゲ持受、35 ワク部材、40 歩度調整手段、41 永久磁石、42 軟磁性コア、421 第1磁性部、421a 第1端部、422 第2磁性部、422a 第2端部、43 コイル、44 制御回路、45 回転検出回路、46 調速パルス出力回路、47 分周回路、48 発振回路、50 整流回路、60 電源回路、70 水晶振動子、80 制動回路、n11,n12,n21,n22 ノッチ。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37A
図37B
図37C
図38
図39