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特開2023-93387音声認識を用いたパーキンソン病の状態の評価
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093387
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】音声認識を用いたパーキンソン病の状態の評価
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20230627BHJP
   G10L 25/66 20130101ALI20230627BHJP
   G16H 10/60 20180101ALI20230627BHJP
   G16H 50/30 20180101ALI20230627BHJP
   A61B 5/08 20060101ALI20230627BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
A61B10/00 H
G10L25/66
G16H10/60
G16H50/30
A61B5/08
A61B5/11 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】31
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022202820
(22)【出願日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】63/292,570
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】513119196
【氏名又は名称】ニューロダーム リミテッド
【氏名又は名称原語表記】NEURODERM LTD
【住所又は居所原語表記】3 Pekeris Street 7670212 Rehovot ISRAEL
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ショル,エラン
(72)【発明者】
【氏名】ベン デイヴィッド,タミル
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィッド,ウリ
【テーマコード(参考)】
4C038
5L099
【Fターム(参考)】
4C038SS08
4C038SV01
4C038SV05
4C038VA04
4C038VB31
5L099AA04
5L099AA22
(57)【要約】      (修正有)
【課題】音声分析を用いることによって、パーキンソン病の状態またはその進行を評価するシステムおよびその方法、ならびに治療システムおよびその方法を提供する。
【解決手段】パーキンソン病を有する対象の現在の音声サンプルと、データ記憶ユニットに保存されている過去の音声サンプルとを分析し、前記パーキンソン病を有する対象に直接関連する音声の特徴を判定し、現在の音声の特徴と類似した音声の特徴とを比較して、パーキンソン病の状態またはその進行を評価することを即時または経時的に行ってもよい。治療には、薬剤送達パラメータを治療に有益なレベルに調整することが含まれていてもよく、「オフ」時間の発生の阻止もしくはその遅延、「オフ」時間の持続時間の短縮、または運動低下性ディサースリアの症状もしくは別の症状の緩和に有益なレベルに薬剤送達パラメータを調整することが含まれていてもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーキンソン病を有する対象においてパーキンソン病の状態を評価する方法であって、
パーキンソン病を有する対象の音声サンプルを分析する工程;
前記音声サンプルの分析に基づいて、前記パーキンソン病を有する対象の音声の特徴を判定する工程;および
前記音声の特徴から、前記パーキンソン病を有する対象のパーキンソン病の状態を評価する工程
を含む方法。
【請求項2】
前記パーキンソン病の状態が、(1)今後起こる可能性のある「オフ」時間の発生とその持続時間、(2)運動低下性ディサースリアの症状の状態、(3)うつ病、(4)認知症および(5)アルツハイマー病からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
今後予期される「オフ」時間の発生とその持続時間を予測する予測値を前記音声サンプルから計算する工程をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記パーキンソン病の状態の重症度を示すパーキンソン病の重症度値を前記音声サンプルから計算する工程をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記パーキンソン病の重症度値が、運動低下性ディサースリアの症状の重症度を示す運動低下性ディサースリアの重症度値である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記音声サンプルが、過去の音声サンプル、現在の音声サンプルおよび基準となる音声サンプルを含み、これらの音声サンプルが、発話された単語、句、文、子音および/または母音を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記基準となる音声サンプルが、前記パーキンソン病を有する対象自身が発話した単語、句、文、子音および/または母音を示す、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記過去の音声サンプルから過去の音声の特徴を判定し、該過去の音声の特徴とパーキンソン病の過去の1つ以上の「オフ」時間の発生およびその持続時間との間の相関関係から、今後起こる可能性のある「オフ」時間の発生時間とその持続時間を求める工程をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記過去の音声サンプルから過去の音声の特徴を判定し、該過去の音声の特徴と過去の運動低下性ディサースリアの症状またはその他のパーキンソン病の症状との間の相関関係から、運動低下性ディサースリアの症状またはその他のパーキンソン病の症状の進行を評価する工程をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記音声サンプルが、前記パーキンソン病を有する対象の無作為に選択された通話中に得られたものであるか、前記パーキンソン病を有する対象の事前に予定されていた通話中に得られたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記通話のタイミングが、今後予期されるパーキンソン病の「オフ」時間または「オン」時間に予定される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
睡眠中に音声と音をサンプリングして、呼吸音、いびきの音および就寝時の体動による雑音を測定し、測定した呼吸音、いびきの音および就寝時の体動による雑音と、音声分析とを組み合わせることによって、前記パーキンソン病を有する対象の言語障害またはその他のパーキンソン病の状態の検出を最適化または向上させる工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記パーキンソン病の状態の進行の評価が、前記過去の音声サンプルを訓練セットとして機械学習アルゴリズムに提供する工程を含み、前記過去の音声サンプルが、過去の「オン」時間と「オフ」時間、過去の運動低下性ディサースリアの症状、または過去のその他のパーキンソン病の症状を反映する、請求項8または9に記載の方法。
【請求項14】
前記パーキンソン病の状態の進行の評価が、音声パラメータまたは音声の特徴の変化を検出することにより行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
今後予期される「オフ」時間の阻止もしくはその発生の遅延、「オフ」時間の持続時間の短縮、および/またはその他のパーキンソン病の症状の軽減を目的として、前記パーキンソン病の状態の評価に基づき、前記パーキンソン病を有する対象への薬剤送達を調整する工程をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項16】
パーキンソン病の症状の緩和を目的として、前記パーキンソン病を有する対象への薬剤送達を調整する工程をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項17】
パーキンソン病を有する対象においてパーキンソン病の状態を評価するための音声モニタリングシステム(VMS)であって、
該音声モニタリングシステムが制御装置を含み、
該制御装置が、
(i)データ記憶ユニットに保存されているパーキンソン病を有する対象の音声サンプルを分析し;
(ii)前記音声サンプルの分析に基づいて、前記パーキンソン病を有する対象の音声の特徴を判定し;
(iii)前記音声の特徴から、パーキンソン病の状態のステータスを評価する
ように構成されている、システム。
【請求項18】
前記パーキンソン病の状態が、(1)今後起こる可能性のある「オン」時間および「オフ」時間の発生とその持続時間、(2)運動低下性ディサースリアの症状の状態、(3)うつ病、(4)認知症ならびに(5)アルツハイマー病からなる群から選択される、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記制御装置が、今後起こる可能性のある「オフ」時間の発生とその持続時間を予測する予測値を計算するように構成されている、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記制御装置が、前記パーキンソン病の状態の重症度を示すパーキンソン病の重症度値を前記音声サンプルから計算するように構成されている、請求項18に記載のシステム。
【請求項21】
前記パーキンソン病の重症度値が、運動低下性ディサースリアの症状の重症度を示す運動低下性ディサースリアの重症度値である、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記音声サンプルが、過去の音声サンプル、現在の音声サンプルおよび基準となる音声サンプルを含み、これらの音声サンプルが、発話された単語、句、文、子音および/または母音を示す、請求項17に記載のシステム。
【請求項23】
前記基準となる音声サンプルが、前記パーキンソン病を有する対象自身が発話した単語、句、文、子音および/または母音を示す、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
前記制御装置が、前記過去の音声サンプルから過去の音声の特徴を判定し、該過去の音声の特徴とパーキンソン病の過去の1つ以上の「オフ」時間の発生との間の相関関係から、今後起こる可能性のある「オフ」時間の発生時間とその持続時間を求めるように構成されている、請求項22に記載のシステム。
【請求項25】
前記制御装置が、前記過去の音声サンプルから過去の音声の特徴を判定し、該過去の音声の特徴と過去の運動低下性ディサースリアの症状との間の相関関係から、運動低下性ディサースリアの症状またはその他のパーキンソン病の症状の進行を評価するように構成されている、請求項22に記載のシステム。
【請求項26】
前記制御装置が、前記パーキンソン病を有する対象の無作為に選択された通話中、または前記パーキンソン病を有する対象の事前に予定されていた通話中に、音声をサンプリングするように構成されている、請求項17に記載のシステム。
【請求項27】
前記制御装置が、今後予期されるパーキンソン病の「オフ」時間または「オン」時間に通話を予定するように構成されている、請求項26に記載のシステム。
【請求項28】
前記制御装置が、前記過去の音声サンプルを訓練セットとして機械学習アルゴリズムに提供することによって、該機械学習アルゴリズムを訓練するように構成されており、前記過去の音声サンプルが、過去の「オン」時間と「オフ」時間、過去の運動低下性ディサースリアの症状、または過去のその他のパーキンソン病の症状を反映する、請求項24または25に記載のシステム。
【請求項29】
前記制御装置が、音声パラメータの変化を検出することによって、前記パーキンソン病の状態またはその進行を評価するように構成されている、請求項17に記載のシステム。
【請求項30】
前記制御装置が、今後予期される「オフ」時間の発生の阻止もしくはその遅延、および/または「オフ」時間の持続時間の短縮を目的として、治療を調整するか、薬剤送達パラメータの調整を推奨するように構成されている、請求項18に記載のシステム。
【請求項31】
前記制御装置が、運動低下性ディサースリアの症状またはその他のパーキンソン病の症状の緩和を目的として、治療を調整するか、薬剤送達パラメータの調整を推奨するように構成されている、請求項18に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、パーキンソン病(「PD」)を有する対象の音声(発話された単語または句)から抽出された情報に基づいて、該対象におけるパーキンソン病の状態を評価するシステムおよびその方法に関する。より具体的には、パーキンソン病を有する対象により発せられた発話もしくはその他の音情報、またはパーキンソン病を有する対象から得られた発話もしくはその他の音情報を音声学的に分析することによって、該対象におけるパーキンソン病の状態を評価するシステムおよびその方法に関する。さらに、本発明は、分析した発声/発話に基づいて、かつ/またはその他の音情報の分析に基づいて、パーキンソン病の症状を緩和する手段を開示する。
【背景技術】
【0002】
特定の身体機能により発せられる音の特徴、特に、発話に関する音、呼吸(または呼吸の停止もしくは一時停止)に関する音および呼吸器系に関する音の特徴を測定することによって、パーキンソン症状の診断(状況に応じてはその治療)に有用な可能性のある重要な医療情報が得られる。例えば、いびきの大きさの測定が重要となる場合がある。呼吸器系に関連するその他の例として、ウィーズの強さ(気道の一部が狭窄した際に聞こえる高い笛声音または粗いゴロ音)、ストライダー(上気道の一部の狭窄により呼吸時に聞こえる騒音または高調音)、咳、呼吸数などが挙げられ、これらは、様々なパーキンソン状態やその他の状態の診断において臨床的に重要である場合がある。さらに、対象者の発語系から発せられた音も、パーキンソン状態の評価において臨床的に重要である。
【0003】
パーキンソン病と発声/発話
ヒトの発話には主に4つの身体系が関与している。すなわち、呼吸器系、喉頭系および構音系は、発話を行う際の身体機能を担い、神経系は、意識下および無意識下でこれら身体系を制御している。
【0004】
パーキンソン病患者の多くは、前述の4つの発語系の1つ以上に問題を生じる。パーキンソン病に関連するコミュニケーション障害として最もよく見られるものとして、運動低下性ディサースリアがあり、これは、呼吸、嚥下、発声、発話などの、コミュニケーションに関与する発語系の固縮と緩慢を引き起こす言語障害である。簡潔に述べると、運動低下性ディサースリアは、声の高さの変動の縮小(単調性)、声の大きさの減弱、気息性嗄声、子音の不正確さ、発話速度の変動(制御不能な発話速度)および短い発話の連続といった様々な程度の症状を知覚的に評価することによって特徴付けされる。パーキンソン病患者に認められる1つ以上の症状として、「音声の振幅の縮小」(音声の大きさの減弱)、「発話時間の短縮」、「基本周波数域の縮小」、「嗄声」、「会話の単調性」、「構音の不正確さ」、「子音および母音の不正確さ」、「短い発話の連続」、「不規則な会話の途切れ」、「音声振戦」ならびに「発話速度の変動」を挙げることができる。また、パーキンソン病患者は、単語が不明瞭になったり、口ごもったり、言葉の最後の方で声が小さくなることがある。
【0005】
言語障害を発症しているパーキンソン病対象者の話を聞こうとする際、パーキンソン病対象者が言った言葉を聞き返さないといけないほどに、話を理解することが難しい場合がある。このようなコミュニケーション問題は、パーキンソン病対象者の社会的孤立や寂しさをもたらし、パーキンソン病対象者が、世話を受けている医療従事者や介護者に要望を伝えることも難しくなる。
【0006】
「Speech and language therapy treatment on Hypokinetic dysarthria in Parkinson disease: Systematic review and meta-analysis」(Natalia Munoz-Vigueras et al.、2020年11月24日に初掲載)という論文では、パーキンソン病の運動低下性ディサースリアに対する言語聴覚療法(「SLT」)の効果が評価されている。この論文では、SLTが、パーキンソン病を有する対象者の運動低下性ディサースリアの抑制に有効であり、知覚的明瞭度、音圧レベルおよびセミトーンの標準偏差が改善されることが示唆されている。SLTは、特定の言語障害およびニーズを持つ患者を標的とし、かつ集中的に実施した場合に効果的であることが判明している。
【0007】
パーキンソン病を有する対象者は、パーキンソン病によって引き起こされる症状(例えば、運動低下性ディサースリアの症状)のいくつかを緩和するために医薬品(例えばレボドパ)を摂取していることが多い。したがって、別の種類の治療方法(例えばSLT)を行うことによって、パーキンソン病を有する対象者に過度な負担を負わせるよりも、運動低下性ディサースリアの症状またはその他の種類のパーキンソン病の状態/症状の特性評価(例えば、その重症度の分類、格付けまたは評点化)を行うとともに、医薬品によるパーキンソン病の症状(例えば、運動低下性ディサースリアの症状)の治療または緩和を行うことによって、パーキンソン病を有する対象者の発話の明瞭度を改善し、話し相手に話を理解してもらえるようになったりすると有益であると考えられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
パーキンソン病を有する対象の音声データと、任意のデータとして、該パーキンソン病を有する対象から得られた(または該パーキンソン病を有する対象により発せられた)その他の音とを分析することによって、パーキンソン病の状態およびその進行を評価するシステムおよびその方法を提供する。パーキンソン病を有する対象のパーキンソン病の状態の進行は、該パーキンソン病を有する対象に関連する(該パーキンソン病を有する対象から得られた)過去の音声データおよび現在の音声データならびにその他の音データの分析に基づいて評価してもよい。
【0009】
いくつかの実施形態において、パーキンソン病を有する対象における「オフ」時間の発生の阻止または「オフ」時間の発生数を最小限に抑えることを目的として、例えば、発声/発話サンプルの分析により発声の明瞭度/発話の明瞭度を評価することなどによって、パーキンソン病の状態を評価してもよい。例えば、本発明のシステムは、発話の評価に基づいて、近いうちに起こる「オフ」時間の発生および/またはその持続時間を判定(予測)してもよい。本発明のシステムは、機械学習アルゴリズムを訓練することによって、過去(以前)の「オフ」時間と過去(以前)の発声/発話の特徴との間の相関関係(関連性)から、今後起こる可能性のある「オフ」時間を予測してもよい。本発明のシステムは、(例えば、本発明のシステムの機械学習アルゴリズムを用いて)今後起こる可能性のある(例えば、近いうちに起こる)「オフ」時間の発現(発生および/またはその持続時間)の可能性を示す数値である「予測値」を出力してもよい。本発明のシステムは、この予測値を用いて、パーキンソン病を有する対象の医薬品の摂取量のパラメータを調整することによって、今後予期される(近いうちに起こる)「オフ」時間の発生を阻止してもよく、「オフ」時間の発生の可能性を最小限に抑えてもよく、「オフ」時間の発生を可能な限り遅延させてもよく、「オフ」時間の持続時間を短縮してもよい。医薬品の摂取量のパラメータの調整は、パーキンソン病を有する対象に医薬品を送達する医薬品送達装置/システムの適切な動作パラメータを調整することによって行ってもよい。(この医薬品送達装置は、本発明のシステムの一部であってもよく、スタンドアローン型の装置であってもよい。)医薬品送達装置の動作パラメータの調整は、手動で(例えば、パーキンソン病を有する対象自身によって)行ってもよく、自動で(医薬品送達装置自体によって)行ってもよい。
【0010】
いくつかの実施形態において、本発明のシステムおよび方法は、パーキンソン病を有する対象において発声の明瞭度/発話の明瞭度を評価することによって、運動低下性ディサースリアの症状(またはその他の種類のパーキンソン病の症状)を緩和してもよい。例えば、本発明のシステムは、パーキンソン病を有する対象の運動低下性ディサースリアの症状および(運動低下性ディサースリア以外の)その他のパーキンソン病の症状の重症度を評価することを目的として、パーキンソン病を有する対象によって発話された(繰り返し発声された)単語、句または文を特定し、その発声/発話の特性/特徴を分析することによって、パーキンソン病の重症度値のなかでも特定の症例である運動低下性ディサースリアの重症度値を判定(例えば計算)してもよい。パーキンソン病の重症度値は、パーキンソン病の症状の重症度を示す数値である。運動低下性ディサースリアの重症度値(パーキンソン病の重症度値のなかでも特定の症例)は、発語障害の重症度を示す数値であり、例えば、パーキンソン病を有する対象によって発話された単語、句および/または文の不明確さ(不明瞭さ)の程度を反映する。本発明のシステムは、運動低下性ディサースリアの重症度値(または、より広い意味では、パーキンソン病の重症度値)を経時的に(例えば、その日1日を通して)モニタリングすることによって、運動低下性ディサースリアの症状(またはパーキンソン病の症状/状態)が安定しているのか、改善しているのか、あるいは悪化しているのかを判定してもよい。本発明のシステムは、モニタリングした運動低下性ディサースリアの重症度値(またはモニタリングしたパーキンソン病の重症度値)に基づいて、パーキンソン病を有する対象の医薬品の摂取量のパラメータを調整することによって、運動低下性ディサースリアの症状(またはパーキンソン病の症状もしくは状態)を軽減させてもよい。医薬品の摂取量のパラメータの調整は、パーキンソン病を有する対象に医薬品を送達する医薬品送達装置の適切な動作パラメータを調整することによって行ってもよい。医薬品送達装置の動作パラメータの調整は、手動で(例えば、パーキンソン病を有する対象自身によって)行ってもよく、自動で(医薬品送達装置自体によって)行ってもよい。
【0011】
本発明のシステムは、パーキンソン病を有する対象によって発話された単語、句および/または文に歪み(異常)を検知した後に、この発話された単語、句および/または文を認識して、歪んだ単語、句および/または文を再構築(修正)し、再構築した単語、句および/または文を音声出力してもよい。本発明のシステムのこのような特徴は、例えば、パーキンソン病を有する対象が人々と言葉を通して交流したい場合、および/または医薬品送達装置と音声を介してやり取りしたい場合(例えば、医薬品送達装置に音声コマンドを入力したい場合)や、より一般的には、音声ユーザーインターフェース(VUI)を備えた(使用した)アプリケーションと音声を介してやり取りしたい場合に有用であると考えられる。
【0012】
運動低下性ディサースリアの重症度(またはより広い意味ではパーキンソン病の重症度)の評価は、運動低下性ディサースリアの症状の評価およびその他のパーキンソン病の症状/状態の重症度の評価に有用である可能性がある。パーキンソン病の状態の重症度の評価は、例えば、運動低下性ディサースリアのパラメータ(例えば発声の明瞭度)を評価することによって、かつ/または必ずしも運動低下性ディサースリアの症状に関連しないが発話に関連するその他のパラメータを評価することによって行うことができる。必ずしも運動低下性ディサースリアの症状に関連しないが発話に関連する音声パラメータとして、例えば、通話中の会話の長さ、1分間あたりに発話された単語数、1日あたりの分単位の合計通話時間などが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
代表的な様々な実施形態および態様を添付の図面に示しているが、本発明は、これらの例示に限定されない。図示を簡潔かつ明確にするため、後掲の図面に示した構成要素は、必ずしも正確な縮尺で表示されていないことは容易に理解できるであろう。さらに、適切であると考えられる場合、各図面において同じ参照番号を使用して、同じ構成要素や類似の構成要素などを示している。以下の図面を添付する。
【0014】
図1】実施形態の一例によるシステムの概略図を示す。
【0015】
図2】実施形態の別の一例によるシステムの概略図を示す。
【0016】
図3】実施形態の一例に従って、パーキンソン病を有する対象の「オフ」時間を治療する方法を示す。
【0017】
図4】実施形態の一例に従って、パーキンソン病を有する対象の運動低下性ディサースリアの症状を治療する方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の説明では、本発明の概念および実施形態の様々な例について詳細に述べる。ただし、以下の説明は、特許請求の範囲を限定するものではなく、本発明の様々な原理およびこれらを実施する方法の一例を説明するものである。
【0019】
一実施形態において、本発明は、音声分析/音声認識を用いて、パーキンソン病を有する対象の「オン」時間および「オフ」時間をモニタリングするシステムを使用することを含む。このモニタリングシステムは、患者の音声の測定用またはサンプリング用の音声(音)センサを備えていてもよい。音声センサは、例えば、スマートフォン(「SP」)の一部に組み込まれていてもよく、音声アシスタント(「VA」)デバイス(例えばAlexa)の一部に組み込まれていてもよく、専用の音声センサであってもよい。(Alexaは、アマゾン社の音声認識AI搭載デジタルアシスタントであり、スマートデバイス・エコシステム全体を動作させることができる。)Alexaは、Echoデバイスからのコマンド入力によって動作させることができる。Echoデバイスは、音声で制御可能なハンズフリースピーカーであり、発話認識を利用してユーザの音声を聞き取り、ユーザから与えられたタスクまたはコマンドを実行する。場合によっては、音声センサは、患者に装着可能であってもよい(装着してもよい)。場合によっては、昼夜を問わずに、または日中もしくは夜間に、患者がいる場所を実用可能な限り多くカバーできるように、患者の居住地(例えば自宅)に多数の音声センサを配置してもよい。
【0020】
本発明のモニタリングシステムは、音声データを保存してこれを分析するためのデータ保存・計算ユニットを備えていてもよく、このデータ保存・計算ユニットは、さらに、信号処理および/または過去の音声データを用いた機械学習機構の訓練を行う。データ保存・計算ユニットは、例えば、スマートフォン(SP)、スマートフォンアプリケーションまたは音声アシスタント(VA)デバイスの一部に組み込まれていてもよい。データ保存・計算ユニットは、それ専用のユニットであってもよい。
【0021】
本発明のモニタリングシステムは、パーキンソン病を有する対象が「オン」時間と「オフ」時間の記録を行うユーザインターフェースを備えていてもよい。ユーザインターフェースは、例えば、スマートフォンアプリケーションの一部に組み込まれていてもよく、専用の装置の一部に組み込まれていてもよい。パーキンソン病を有する対象により記録された「オン」時間と「オフ」時間は、過去の「オン」時間と「オフ」時間であってもよく、保存された音声データと、記録された「オン」時間および「オフ」時間とを訓練データとして併用して機械学習モデルを訓練してもよい。過去の音声データおよび過去の「オン」時間と「オフ」時間は、所定の時間間隔ごとに記録してもよく、例えば、1日1回、週1回、月1回、または例えば患者の要望などに応じたその他の時間間隔で記録してもよい。
【0022】
本発明のモニタリングシステムは、パーキンソン病を有する対象の状態に基づいて薬剤送達装置(ポンプ)を作動させる薬剤ポンプ制御ユニットを備えていてもよい。場合によっては、この薬剤送達装置は、過去の(過去に記録された)「オン」時間と「オフ」時間に応じて動作するように構成されていてもよく、あるいは「オフ」時間が検出された場合に「オフ」時間をできる限り短縮するように構成されていてもよい。
【0023】
本発明のモニタリングシステムは、専用の音声プロトコルを用いることによって、このモニタリングシステム自体を調整、較正もしくは訓練してもよく、かつ/または音声分析処理の正確度を向上させてもよく、特定の時間に投与した薬剤の用量が最適な用量であったかどうかを判定してもよい。パーキンソン病を有する対象における発語系の障害または機能低下に関連して発生する可能性のある問題の重症度を、本発明のモニタリングシステムにより評価できるように、(本発明のモニタリングシステムに分析を行うよう指示するための)発言をするようにパーキンソン病を有する対象を促すことができる事前に選択した単語、句および/または文の一覧を音声プロトコルに規定しておく。本発明のモニタリングシステムは、この音声プロトコルを、パーキンソン病を有する対象によって発話された単語、句および/または文との比較を行う際の基準(基準徴候)となる音声情報として使用してもよい。本発明のモニタリングシステムは、この音声プロトコルを用いることによって、パーキンソン病を有する対象における運動低下性ディサースリアの症状(およびパーキンソン病の症状全般)の重症度を評価することができる。音声プロトコルに含まれる事前に選択された単語、句および/または文は、1つ以上の言語障害を特定できる性能に基づいて選択される。例えば、音声プロトコルに含まれる単語、句および/または文は、本発明のモニタリングシステムによってパーキンソン病を有する対象の1つ以上の言語障害を特定することができるように、個別にまたは集合的に選択してもよい。パーキンソン病を有する対象が、音声プロトコルに含まれる1つの単語または句を発した(はっきりと発話した)ときに、本発明のモニタリングシステムがパーキンソン病を有する対象の特定の言語障害を特定できる場合もあるが、別の状況では、本発明のモニタリングシステムが別の言語障害を特定するためには、パーキンソン病を有する対象が2つ以上の句を発することが必要である。
【0024】
本発明のモニタリングシステムは、音声プロトコルに含まれる単語、句および/または文を音声出力および/またはテキスト出力して、これらの単語、句および/または文を声に出して復唱するように、パーキンソン病を有する対象に促すことによって、比較分析を行ってもよい。すなわち、この比較分析は、パーキンソン病を有する対象が発話した単語、句および/または文を、正しく発音された(正常かつ正しく発音された歪みのない)単語、句および/または文と比較することによって行う。例えば、場合によっては、本発明のモニタリングシステムは、音声プロトコルに含まれる単語および/または句を、パーキンソン病を有する対象に対して音声出力して、その単語および/または句を一語一句違わずに声に出して復唱(はっきりと発話)するようにパーキンソン病を有する対象に促し、それと同時に、パーキンソン病を有する対象が発話した単語および/または句を録音して、音声プロトコルに含まれる事前に記録した基準となる単語および/または句と比較することによって比較分析を行ってもよい。これと同様に、本発明のモニタリングシステムは、例えば、コンピュータ画面を用いて、手書きまたは印字されたテキストの形態で単語または句を出力して、その単語または句を読むようにパーキンソン病を有する対象に促し、音声プロトコルに含まれる事前に記録した基準となる単語または句と比較することによって比較分析を行ってもよい。音声プロトコルに含まれる文は、声に出したときの音の連なりであってもよく、声に出したときの音の連なりを含んでいてもよく、この声に出したときの音は、アルファベット文字、母音および/または子音を含んでいてもよい。
【0025】
本発明のモニタリングシステムは、音声プロトコルに含まれる単語、句および/または文を利用して、音声プロトコルに含まれる発話された単語、句および/または文を認識し、発話されたこれらの単語、句および/または文を、基準となる単語、句および/または文と音声学的に比較することによって、パーキンソン病を有する対象の言語障害の重症度および/または悪化を経時的に評価してもよい。場合によっては、本発明のモニタリングシステムは、音声プロトコルに含まれる発話された単語、句および/または文を認識し、認識した単語、句および/または文を利用することによって、パーキンソン病を有する対象がその日に発した単語、句および/または文を音声学的に修正してもよい。本発明のモニタリングシステムは、音声プロトコルに含まれる単語、句および/または文を、パーキンソン病を有する対象が発話パターンを学習および見習うための訓練用発話として利用してもよい。
【0026】
本発明のモニタリングシステムは、「普段の」通話(無作為に選択された通話)中または特定のタイミングで事前に設定された通話中に、音声サンプリング手順を作動させてもよい。「オフ」時間の発生が特定の時間に起こると予測(予期)されている場合、今後予期される「オン」時間および/または「オフ」時間中に、通話を行うタイミングを設定してもよい。
【0027】
本発明のモニタリングシステムは、睡眠中に音声サンプリング手順を作動させて、呼吸音、いびきの音および就寝時の体動による雑音を測定してもよい。本発明のモニタリングシステムは、例えば運動センサといったその他の種類のセンサを用いてもよく、これらのセンサを、例えば音声分析と組み合わせて使用することによって、パーキンソン病を有する対象の言語障害またはパーキンソン病の別の状態の検出を最適化したり、向上させたりしてもよい。
【0028】
いくつかの実施形態において、本発明のモニタリングシステムによるパーキンソン病の状態の検出(例えば、「オン」時間と「オフ」時間の検出)は、以下の技術の1つ以上を用いて行われる。
1.機械学習アルゴリズムを使用することによって、訓練セットとして使用した過去の「オン」時間と「オフ」時間に関連する音声データに基づいて、「オン」時間と「オフ」時間(例えば、「オフ」時間の発生とその持続時間)を特定する。例えば、「オン」と「オフ」という2つのパーキンソン状態/病態を判別できるように、ディープニューラルネットワーク(「DNN」)を訓練してもよい。DNNを訓練するには、パーキンソン病患者の「オン」状態と「オフ」状態に関連することがよく知られている複数の因子(例えば、パーキンソン病患者の「オン」状態と「オフ」状態によって発生することがよく知られている複数の因子、またはパーキンソン病患者の「オン」状態と「オフ」状態に見られることがよく知られている複数の因子)に由来および/または関連するデータを用いて、類似したデータがDNNにより「オン」状態または「オフ」状態に分類されるように、DNNをファインチューニングしてもよい。
2.例えば、音声の大きさ、振幅およびイントネーションの変化などの音声パラメータの変化を測定(モニタリング)し、発声の明瞭度をモニタリングする。発声の明瞭度は、例えば、パーキンソン病を有する対象により発話された単語、句および/または文を、「正常な」(期待される明瞭な「正しく発音された」)音の同じ単語、句および/もしくは文と比較することによって、またはパーキンソン病を有する対象自身によって過去に発話された同じ単語、句および/もしくは文と比較することによって、評価することができる。パーキンソン病を有する対象によって発せられた音声と期待される音との音の違いから、発声の明瞭度を定量することができる。例えば、パーキンソン病を有する対象によって発話された単語、句および/または文と、これらの単語、句および/または文の期待される音との差が小さいほど、発話の明瞭度が高くなる。
3.例えば、1時間あたり、1日あたり、1週間あたり、または1ヶ月あたりのパーキンソン病の状態の総合評点(例えば、運動低下性ディサースリアの全体的な重症度値)を計算する。
4.音声認識/音声分析を用いて、パーキンソン病の状態のモニタリングと同時に神経学的共存症をモニタリングする。このような神経学的共存症として、例えば、うつ病、認知症、アルツハイマー病などが挙げられる。
【0029】
うつ病
うつ病は気分障害を伴う。軽症うつ病の患者は、うつ状態、不安、興味の喪失および自己評価の低下という症状を示し、重症うつ病の患者は、悲観的かつ絶望的で幻覚妄想状態であり、身体機能が低下しており、自殺願望を有することもある。うつ病患者は、医薬品、心理療法および物理療法により緩和と治療を行うことができる。
【0030】
臨床観察および臨床研究から、うつ病の程度と様々な特徴の間に顕著な相関関係が認められることが見出されている。うつ病患者の話し方は、単調で遅く陰鬱であるという特徴があり、正常な集団の話し方とは異なる。音声信号に基づいてうつ病を認識する技術は、様々な利点(例えば、低コスト、データ収集の容易さ、および「非接触型」技術)があることから、研究者から音声学的な関心を集めている。例えば、Automatic Speech Depression Detection(ASDD)は、音声信号を分析することによって、話者の内面の感情および心理活動を調査することを目的としている。別の例として、うつ病に関する音声信号の回帰モデルを用いて、うつ病の評価を行ってもよい。うつ病に関する音声信号の回帰モデルは、マルチスケール音声信号差分正規化(MADN)特徴量抽出アルゴリズムを使用してもよい。
【0031】
認知症
認知障害は、認知症に罹患した患者においてよく見られ、認知症としては、アルツハイマー病(AD)が最もよく認められる。発話は複雑な認知能力であることから、パーキンソン病を有する対象の音声記録を分析することによって、この対象の認知状態を知ることができる。深層学習技術(例えば、長短期記憶(LSTM)や畳み込みニューラルネットワーク(CNN))を利用することによって、音声記録を自動処理し、パーキンソン病を有する対象の認知症のステータスを分類することができる。
【0032】
いくつかの実施形態において、本発明の装置は、パーキンソン病患者の音声アウトカムを再構築する(すなわち、発話の質を改善する)ことを目的として使用され、この音声アウトカムの再構築は、
歪んだ音声および/または小さい音声を自動的に収集する工程、
パーキンソン病を有する対象の実際の(例えば、障害を受けた)音声を、基準となる良好な質の(「正しく発音された」)過去の音声(音)の記録と比較し、この比較結果を用いて音声を修正する工程、ならびに
文章でのメッセージを明瞭で理解しやすい音声メッセージに変換する工程
によって行われる。
【0033】
パーキンソン病患者の音声アウトカムを再構築することによって、薬剤送達ポンプの充填ステーション、テクニカルサポート、アシストデバイス、デジタルコンパニオンなどとパーキンソン病患者とが音声を介してやり取りすることが可能となる。
【0034】
さらに、本発明は、パーキンソンを有する対象におけるパーキンソン病の進行の判定に加えて、パーキンソン病を有する対象におけるパーキンソン病の状態の状況(重症度)の判定を含む。本明細書で述べるように、パーソナライズされた過去の音声データを用いることによって、パーキンソン病を有する対象における「オン」時間と「オフ」時間の検出の正確度を向上させてもよく、かつパーキンソン病の状態の検出の正確度を向上させてもよい。しかし、「オン」時間と「オフ」時間の検出およびパーキンソン病の状態の検出は、過去の音声データを用いずに行うこともできる。例えば、このような検出は、瞬間的な(例えば現在の)音声パラメータ値および/またはその変動に基づいて行ってもよい。
【0035】
「オフ」時間の発生とその持続時間の予測
いくつかの実施形態において、本発明のモニタリングシステムは、音声認識を用いて、パーキンソン病を有する対象自身の音声に基づき、該パーキンソン病を有する対象において今後起こる可能性のある「オフ」時間(例えば、近いうちに起こる「オフ」時間または次の「オフ」時間)の発生時間を示す予測値を計算し、かつ今後起こる可能性のある「オフ」時間の持続期間を計算してもよい。この予測値は、以下のように利用してもよい。
(1)本発明のモニタリングシステムは、今後起こる可能性のある(例えば、近いうちに起こる)「オフ」時間の発生の阻止またはその発生確率の最小化を目的として、パーキンソン病を有する対象(または例えば、療法士や介護者などの本発明のモニタリングシステムのその他のユーザ)に対して予測値を提示し(例えば、視覚出力および/または音声出力し)、パーキンソン病を有する対象(またはその介護者)に対して、該対象の日々または現在の医薬品の摂取量(例えば、医薬品の摂取用量またはその流速)のパラメータを調整して推奨値に設定するように推奨してもよい。パーキンソン病を有する対象は、本発明のモニタリングシステムによる予測値の出力(視覚出力および/または音声出力)に応じて、本発明のモニタリングシステムの推奨に従い、医薬品の摂取量のパラメータを調整してもよい。また、本発明のモニタリングシステムは、パーキンソン病を有する対象に予測値を提示することなく、パーキンソン病を有する対象(またはその介護者)にパラメータを調整して推奨値に設定するように推奨してもよい。
(2)本発明のモニタリングシステムは、計算した予測値に基づいて、医薬品の摂取量のパラメータを自動的に調整してもよく、本発明のモニタリングシステムによって行われたパラメータの調整プロセスは、ユーザに対して透明性を確保していてもよく、ユーザに対して透明性を確保していなくてもよい。
【0036】
本発明のモニタリングシステムは、過去の「オフ」時間が発生する前に認められた過去の音声データの特徴を判定し、パーキンソン病を有する対象の経時的な音声の変化の傾向をモニタリングし、過去の音声データと類似した特徴を現在の音声データにおいて同定することによって、音声サンプルまたは音声記録から今後起こる可能性のある「オフ」時間または近いうちに起こる「オフ」時間を予測してもよい。別の方法として、音声サンプルまたは音声記録からの今後起こる可能性のある「オフ」時間または近いうちに起こる「オフ」時間の予測は、過去の音声データ(例えば、記録/保存された音声データ)に基づいて行ってもよいが、この場合、本発明のモニタリングシステムは、過去の同じ時刻に記録された音声データを評価することによって、パーキンソン病を有する対象が「オフ」状態にあるのかどうかを確認してもよい。この方法は、日々の「オフ」時間は、同じ時刻または同程度の時刻に起こる傾向があるという見解に基づく。さらに別の方法として、本発明のモニタリングシステムは、過去の音声データの変動をモニタリングして、パーキンソン病を有する対象の発話の質(発話の明瞭度)/発声の明瞭度が経時的に改善または悪化したのかどうか判定する。パーキンソン病を有する対象の発話の質/発声の明瞭度が経時的に悪化していた場合、過去に「オフ」時間が発生した際の時刻よりも早い時刻に次の「オフ」時間が発生すると予期(予測)されることを意味していてもよい。
【0037】
医薬品の摂取量のパラメータの調整-本発明のモニタリングシステムは、(音声に基づいて)近いうちに起こる「オフ」時間が、例えば60分間以内に始まると予測した場合、この予測に基づき、医薬品の取り込み時間も考慮に入れて医薬品の送達量を増加してもよい。例えば、医薬品の取り込みに、例えば30分を要する場合、本発明のモニタリングシステムは、「オフ」時間の発生の予測時刻の少なくとも30分前に用量を増加させる。
【0038】
運動低下性ディサースリアの症状の緩和
場合によっては、本発明のモニタリングシステムは、音声認識/発話認識を用いて、パーキンソン病を有する対象によって発話された単語、句および/または文を認識する。次に、本発明のモニタリングシステムは、認識した発話中の単語、句および/または文に基づいて、「運動低下性ディサースリアの重症度値」を計算する。計算された「運動低下性ディサースリアの重症度値」は、例えば、基準となる単語、句もしくは文、またはパーキンソン病を有する対象自身が過去に発話した単語、句もしくは文と比較したときの、該パーキンソン病を有する対象が発話した単語、句または文の歪みの程度を示す定量値である。例えば、この重症度値が大きいほど、パーキンソン病対象から発話され認識された単語、句または文の歪みが大きいことが示されてもよい。
【0039】
本発明のモニタリングシステムは、運動低下性ディサースリアの症状(すなわち、運動低下性ディサースリアの目的とする症状)の重症度をモニタリングして、モニタリングした運動低下性ディサースリアの重症度値に基づき、運動低下性ディサースリアの症状に対する医薬品の摂取量の有効性を評価してもよい。運動低下性ディサースリアの症状の重症度のモニタリングとは、パーキンソン病を有する対象によって発話された単語、句および/または文に対して、繰り返し、連続的、断続的、時折または(パーキンソン病を有する対象自身がユーザインターフェースを利用することによって)「要求に応じて」音声認識を適用し、各回の音声認識の適用後に運動低下性ディサースリアの重症度値を計算することを意味する。
【0040】
本発明のモニタリングシステムによる医薬品の摂取量の有効性の評価は、
(i)本発明のモニタリングシステムにより、単一の運動低下性ディサースリアの重症度値または一連の運動低下性ディサースリアの重症度値を計算し、計算された運動低下性ディサースリアの重症度値に応じて、医薬品の摂取量のパラメータ値を調整する工程;
(ii)調整したパラメータ値に従って医薬品送達装置(ポンプ)を動作させて、パーキンソン病を有する対象に医薬品を送達する工程;および
(iii)パーキンソン病を有する対象に医薬品を送達した後または医薬品の送達中に、本発明のモニタリングシステムにより、単一の運動低下性ディサースリアの重症度値(または一連の運動低下性ディサースリアの重症度値)を再計算し、再計算した単一の運動低下性ディサースリアの重症度値に基づいて(または再計算した一連の運動低下性ディサースリアの重症度値に基づいて)、治療対象の/標的とする運動低下性ディサースリアの症状が軽減されたかどうか、または治療対象の/標的とする運動低下性ディサースリアの症状が悪化したかどうか(すなわち、症状の重症度が増加したかどうか)を判定する工程
によって行ってもよい。
【0041】
いくつかの実施形態において、医薬品送達装置は、「オフ」時間の発生に関連する「予測値」を示す入力信号/データを受信してもよく、あるいはパーキンソン病を有する対象の音声に基づいて予測値を計算してもよい。医薬品送達装置は、受信した入力シグナル/データまたは計算された予測値を用いて医薬品送達のパラメータを調整することによって、近いうちに起こる「オフ」時間の発生を阻止してもよく、その発生を遅延させてもよい。別の例において、医薬品送達装置は、運動低下性ディサースリアの症状に関連する「運動低下性ディサースリアの重症度値」を示す入力信号/データを受信してもよく、あるいはパーキンソン病を有する対象の音声分析に基づいて運動低下性ディサースリアの重症度値を計算してもよい。医薬品送達装置は、運動低下性ディサースリアの重症度値を用いて医薬品送達のパラメータを調整することによって、運動低下性ディサースリアの症状を緩和してもよい。
【0042】
いくつかの実施形態において、本発明のモニタリングシステムは、パーキンソン病を有する対象が他の人々と会話を通して交流することができ、音声コマンドに応答するように構成されたあらゆるデバイスまたはシステムと音声を介して対話ができるように、パーキンソン病を有する対象が罹患している運動低下性ディサースリアの症状を緩和してもよい。このようにして、パーキンソン病を有する対象は、医薬品送達装置と音声を介して対話することが可能となってもよく、音声を介して対話できるように構成されたあらゆるコンピュータ用アプリケーションと音声を介してやり取りが可能となってもよい。
【0043】
図1は、パーキンソン病を有する対象に関連する状態を治療するための治療薬剤送達システム(100)の第1の構成を示す。より具体的には、この治療薬剤送達システム(100)は、例えば、パーキンソン病を有する対象において、今後起こる可能性のある「オフ」時間(例えば、近いうちに起こる「オフ」時間)の発生の阻止もしくはその遅延、および/または「オフ」時間の最短化、ならびに運動低下性ディサースリアの症状/障害の緩和を目的とした治療薬剤送達システムである。この構成において、治療薬剤送達システム100は、2つの別個のサブシステムとして、(1)薬剤送達装置(「DDD」)110と、(2)音声モニタリングシステム(「VMS」)120を備えていてもよい。この2つのサブシステム(110,120)は、同じ通信プロトコルを利用してもよく、適切な通信チャネル130を介して互いに通信してもよい(例えば、データおよびコマンドを交換してもよい)。通信チャネル130は、コンピュータ通信ケーブル(例えば、同軸ケーブル、イーサネットケーブル、USBケーブルなど)により実装してもよく、公知の通信プロトコルを用いた無線通信(例えば、BlueTooth、WiFi、GSM(global system for mobile communications)など)により実装してもよい。
【0044】
DDD110は、制御可能な薬剤送達ユニット(「DDU」)140、DDU140の動作を制御する(152)ための制御装置150、ユーザインターフェース(「UI」)160、データ記憶ユニット(「DSU」)170、通信インタフェース180、およびDDD110に電力を供給するための電池190(再充電可能な電池または使い捨て電池)を備えていてもよい。通信インタフェース180は、例えば、(図1に示すように)VMS120と通信するように構成することができ、あるいは様々な実施形態において、データ記憶媒体(例えば、クラウドまたはサーバの記憶装置や、例えば、FitBit、Whoop Band、Apple Watchなどのサードパーティー製トラッカーをホストとするコンピュータ)と通信するように構成することができる。DDD110は、パーキンソン病を有する対象112に装着可能または取り付け可能に設計されていてもよい。DDU140は、治療薬剤を貯蔵するための治療薬剤リザーバ142と、制御可能な(152)分注機構144を備えていてもよい。この分注機構144は、制御下(146)において治療薬剤リザーバ142から治療薬剤を放出する(146)ように作動する駆動機構により(機械的もしくは電気的に、または機械的かつ電気的に)作動するように設計されており(この駆動機構は分注機構144に含まれる)、放出された治療薬剤は、例えば、注入カテーテル148などを介して患者112に送達される。
【0045】
制御装置150は、通信インタフェース180を介して音声データを受信するように構成されていてもよく、かつ/または発声/音センサ(マイクロホン)を備えたユーザインターフェース160を用いて、発話された単語を記録するように構成されていてもよい。音声データは、パーキンソン病を有する対象が発言/発話した単語、句または文を、例えば、データ記憶装置(DSU)126またはデータ記憶装置(DSU)170に記録/保存したものであり、記録/保存された単語、句または文は、(例えば、制御装置150または制御装置122において)例えば、基準となる単語、句または文(例えば、基準/プロトコルに含まれる発話された単語、句または文)と比較することによって評価される。制御装置150(または制御装置122)は、基準となる発話された単語、句または文と比較することによって音声データを分析してもよく、この音声分析の結果に基づいて、今後起こる可能性のある「オフ」時間(例えば、近いうちに起こる「オフ」時間)の発生を予測する「予測値」を計算してもよい。例えば、予測値の値が高いほど(大きいほど)、パーキンソン病を有する対象により発話された単語、句または文の明瞭度が低くなることから(すなわち、発話された単語、句または文の歪みが大きくなることから)、次の「オフ」時間の発生までの時間が短くなる。制御装置150は、今後起こる可能性のある「オフ」時間の発生が阻止され、今後起こる可能性のある「オフ」時間の発生が遅延し、かつ/または「オフ」時間の持続時間が短縮されるように、予測値(すなわち、次の「オフ」時間が発生するまでの推定時間)に応じて、制御装置150の1つ以上の動作パラメータを調整することにより、薬剤分注機構144の動作を調整してもよい。
【0046】
本発明の一態様によれば、制御装置(150または122)は、例えば、パーキンソン病を有する対象の音声を一定時間サンプリングし、サンプリングした音声に対応する予測値を計算することによって、予測値の傾向をモニタリングしてもよく、この予測値の傾向から、次の「オフ」時間が、最初に提示した(計算または予測した)時間よりも早く起こることが示された場合、制御装置(150または122)により、薬剤送達ユニット(DDU)140の動作パラメータを調整して、パーキンソン病を有する対象に送達する医薬品の量を増加させてもよい。また、制御装置122は、パーキンソン病を有する対象の音声をモニタリングして、予測値を計算するように構成されていてもよく、さらに、制御装置122は、DDU140の動作パラメータを計算してもよい。また、制御装置150は、通信インタフェース180を介して、予測値および/またはDDU140の動作パラメータ値を受信するように構成されていてもよい。
【0047】
ユーザインターフェース(UI)160を使用することによって、DDD110のユーザ(例えば、医師、パーキンソン病患者またはその支援に携わる介護者)が、様々な種類のデータ(例えば、パーキンソン病を有する対象により発話された単語、句および/または文を示す音声データ、予測値を示すデータ、運動低下性ディサースリアの重症度値を示すデータ)をDSU170に手動で保存することが可能となる。さらに、ユーザインターフェース(UI)160を使用することによって、DDD110のユーザが、治療に有効な1つ以上の動作パラメータ値を制御装置150に設定することが可能になってもよい。ユーザによって動作パラメータに設定される値はDSU170に保存してもよい。制御装置150は、設定された動作パラメータ値を実行または使用して、この動作パラメータ値に従って薬剤分注機構144の動作を制御してもよい。
【0048】
ユーザによって制御装置150の動作パラメータに設定してもよい値は、(例えば制御装置150によって)この動作パラメータ値を薬剤分注機構144に適用することによって、次の「オフ」時間の発生の阻止もしくはその遅延、または「オフ」時間の持続時間の短縮が達成されるように選択してもよい。薬剤分注機構144を動作させるために制御装置150が用いてもよい動作パラメータの例として、薬剤の流速、薬剤送達のタイミング(薬剤送達の開始時間および/または薬剤送達の停止時間を含む)、単位時間あたりの薬剤の流速の増加、単位時間あたりの薬剤の流速の減少など、またはこれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0049】
本明細書で述べたように、呼吸器系、喉頭系および構音系は、発話を行う際の身体機能を担っており、進行性疾患であるパーキンソン病では、時間の経過とともに発声の明瞭度が低下し、運動低下性ディサースリアの症状が起こる。本発明の一態様によれば、制御装置(150または122)は、例えば、パーキンソン病を有する対象の音声を一定時間サンプリングし、サンプリングした音声に対応する運動低下性ディサースリアの重症度値を計算することによって、パーキンソン病を有する対象の発声の明瞭度をモニタリングしてもよく、この運動低下性ディサースリアの重症度値の傾向から、パーキンソン病を有する対象の発声/発話が不明瞭化または悪化しつつあることが示された場合、制御装置(150または122)により薬剤送達ユニット(DDU)140の動作パラメータを調整することによって、パーキンソン病を有する対象に送達する医薬品の量を増加させて、運動低下性ディサースリアの症状を緩和させる。制御装置122は、パーキンソン病を有する対象の音声をモニタリングして、予測値および/または運動低下性ディサースリアの重症度値を計算するように構成されていてもよく、さらに、制御装置122は、予測値および/または運動低下性ディサースリアの重症度値に従って、DDU140の動作パラメータを調整してもよい。また、制御装置150は、通信インタフェース180を介して、予測値および/または運動低下性ディサースリアの重症度値および/またはDDU140の動作パラメータ値を受信するように構成されていてもよい。次の「オフ」時間の発生までの時間または緩和される運動低下性ディサースリアの症状の種類に応じて、DDU140の異なる動作パラメータ(または別の動作パラメータ)を使用してもよい。
【0050】
さらに、ユーザインターフェース(UI)160は、有益な情報が得られるフィードバック信号(視覚信号、聴覚信号および/または触覚信号)をユーザに対して出力してもよく、このフィードバック信号は、保存したデータに関するフィードバック信号、ユーザによって動作パラメータに設定された値に関するフィードバック信号、動作パラメータに応じて得られる瞬間的な(その時点での)薬剤の送達流速および/もしくは制御装置150により現在実行中または実行予定の薬剤送達のタイミングに関するフィードバック信号、関連性のある予測値とこれに関連する次の「オフ」時間の発生時間に関するフィードバック信号、ならびに/または関連性のある運動低下性ディサースリアの重症度値とこれに関連する発声の明瞭度に関するフィードバック信号である。
【0051】
本明細書で述べたように(例えば前述したように)、DDD110のユーザは、UI160を介して、治療に有効な動作パラメータ値を制御装置150に設定することによって、制御装置150が、この動作パラメータ値に従って薬剤分注機構144の動作を制御できるようにしてもよい。あるいは、制御装置150は、通信インタフェース180を利用して、1つ以上の音声センサから得られたシグナルに基づく音声データを受信してもよく、1つ以上の音声センサから得られたシグナルに由来する音声データを受信してもよい。音声センサは、処置を受けるパーキンソン病の対象に装着可能であってもよく、処置を受けるパーキンソン病の対象に別の方法で接続されてもよい。制御装置150は、通信インタフェース180を介して受信した音声データの分析を行うために、公知のアルゴリズムを用いてもよい。制御装置150は、音声データからDDU140の動作パラメータ値を決定してもよく(例えば、計算してもよく)、音声データに基づいてDDU140の動作パラメータ値を決定してもよい(例えば、計算してもよい)。通信インタフェース180を介して制御装置150により受信されてもよい音声データおよび制御装置150によって決定された(例えば、計算された)パラメータ値は、DSU170に保存してもよい。制御装置150は、パーキンソン病を有する対象に対して、治療条件に有利な薬剤送達パターン(「DDP」)で治療薬剤組成物(または治療化合物)を送達するように構成されているか、「オフ」時間の発生を阻止するか、その発生を遅延させるように(もしくは「オフ」時間の持続時間が短縮されるように)構成されているか、または運動低下性ディサースリアに関連する発話の不明瞭度を緩和するように構成されている。薬剤送達パターン(DDP)は、パーキンソン病を有する対象の治療中に送達される薬剤の流速と、各薬剤流速のタイミングおよび持続時間を指す。
【0052】
音声モニタリングシステム(VMS)120は、制御装置122、ユーザインターフェース(UI)124、データ記憶ユニット(DSU)126、通信インタフェース128、およびセンサインターフェース132を備えていてもよい。通信インタフェース128と通信インタフェース180は、通信チャネル130を介して(電気的通信およびソフトウェアにより)互いに通信するように構成されている。
【0053】
センサインターフェース132は、n個のセンサに有線接続されていてもよく、n個のセンサに無線接続されていてもよい(図1に、「センサ-1」、「センサ-2」、...、「センサ-n」として示す)。n個のセンサのうち、1個以上のセンサは、発声/発話の記録を容易にするための音センサ/オーディオセンサであってもよい。その他のセンサとして、例えば、電極、ニューロン活動センサ、EEGセンサ、ECGセンサ、EMGセンサ、睡眠ポリグラフ(PSG)センサ、睡眠センサ、睡眠状態センサ、局所集合電位センサ、加速度センサ、運動センサ、位置センサ、パーキンソン病を有する対象の睡眠中の体動を検出するように構成された腕時計、光学センサ、カメラなどが挙げられる。このようなセンサのうちのいくつかは、パーキンソン病を有する対象の空間上での(3次元)動作を検知可能であってもよい。
【0054】
いくつかの実施形態において、VMS120は、例えば、パーキンソン病を有する対象の音声のモニタリング、音声サンプルの保存、過去の音声および現在の音声の分析および/またはその特性評価、予測値の計算、運動低下性ディサースリアの重症度値(もしくはパーキンソン病のその他の種類の重症度値)の計算などを含むあらゆる機能およびタスクを実行できるように構成されたスタンドアローン型の(すなわち、DDD110とは機能的に分離された)システムである。例えば、パーキンソン病を有する対象の音声の特徴をモニタリングし、モニタリングした音声の特徴からパーキンソン病を有する対象のパーキンソン病の状態の進行を判定することを目的として、DDD110の制御装置150と同様にしてVMS120の制御装置122を動作させてもよい。このような実施形態において、VMS120は、データネットワーク136を介して、遠隔地のコンピュータまたはサーバ(例えば、医師のコンピュータ134)とやり取りを行ってもよい。VMS120と医師のコンピュータ/サーバ134の間のやり取りの一例として、パーキンソン病を有する対象の音声を示す音声データまたはパーキンソン病を有する対象の音声に関連する音声データを、ネットワーク136を介してVMS120から医師のコンピュータ134へと転送することが挙げられる。医師のコンピュータ/サーバ134は、受信した音声データに応答して、発声モニタリングパラメータに関する指示または情報を(ネットワーク136を介して)VMS120に返送してもよく、すなわち、モニタリングされたパーキンソン病を有する対象に対してこのような指示または情報を返送してもよい。さらに、医師のコンピュータ/サーバ134は、利用可能な音声データに基づいて、パーキンソン病の状態の治療の最適化に関する推奨事項をVMS120に送信してもよい。VMS120は、パーキンソン病を有する対象のパーキンソン病のステータスもしくは状態をモニタリングしてもよく、パーキンソン病を有する対象の「オン」状態および「オフ」状態を特定してもよく、パーキンソン病を有する対象の参照用にメッセージもしくは警告を表示してもよく、かつ/またはコンピュータ/サーバ134を用いてメッセージもしくは警告を医師に送信してもよい。
【0055】
図2は、パーキンソン病を有する対象に関連する状態を治療するための薬剤送達装置(DDD)200の別の構成を示す。この薬剤送達装置(DDD)200は、例えば、実施形態の一例に従って、「オフ」時間の発生の阻止もしくはその遅延、「オフ」時間の持続時間の短縮、および/または運動低下性ディサースリアの症状もしくはその他の症状の緩和を目的とした薬剤送達装置である。図1図2において、同じ参考番号を用いて同じ部品/構成要素を示している。例えば、図2の制御装置150は、図1の制御装置150に関して述べた機能と同じ機能を有していてもよく、図2の薬剤送達ユニット(DDU)140は、図1のDDU140に関して述べた機能と同じ機能を有していてもよく、その他の構成要素に関しても同様である。薬剤送達装置(DDD)200は、図1の構成において述べたような、音声モニタリングシステム120によって実行される機能/タスクも担うように構成されている。
【0056】
図3は、実施形態の一例に従って、パーキンソン病を有する対象の「オフ」時間に対処する方法を示す。工程310において、治療薬剤送達システム(例えば、治療薬剤送達システム100または200)は、例えば、パーキンソン病を有する対象の発声の明瞭度などの特徴を反映する音声サンプルを受信し、この音声サンプルを分析し、この音声分析に基づいて、次の(今後予期される)「オフ」時間の発生時間を示す予測値を決定する。この予測値は、例えば、音声パラメータの変化を経時的に評価することによって決定してもよい。所定時間内の音声パラメータの値が、事前に設定した閾値を超えて変化した場合、この音声パラメータの変動から、パーキンソン病を有する対象の状態の変化が示される。例えば、音声パラメータとして音声の振幅を考慮に入れた場合、平均音声振幅の低下が(例えば)10分間で1STD(「STD」-標準偏差)を超えることから、「オン」時間から「オフ」時間への変化が予想される。
【0057】
治療薬剤送達システムは、得られた予測値に基づいて、該治療薬剤送達システムの動作パラメータを、今後予期される「オフ」時間の発生の阻止もしくはその遅延に有益な値、「オフ」時間の発生確率の低下に有益な値、または「オフ」時間の持続時間の短縮に有益な値に設定してもよい。工程320において、治療薬剤送達システムは、該治療薬剤送達システムの動作パラメータ値に応じて、パーキンソン病を有する対象に治療薬剤を送達する。
【0058】
工程330において、治療薬剤送達システムは、連続的な音声分析に基づいて、今後予期される「オフ」時間(例えば、今後予期される「オフ」時間の発生時間および/または「オフ」時間の持続時間)に対する薬剤送達の有効性を決定してもよい。治療薬剤送達システムは、薬剤送達の有効性の変化に基づいて動作パラメータ値を調整してもよい。
【0059】
図4は、実施形態の一例に従って、パーキンソン病を有する対象の運動低下性ディサースリアの症状を緩和する方法を示す。工程410において、治療薬剤送達システム(例えば、治療薬剤送達システム100または200)は、運動低下性ディサースリアの症状の特徴を反映する音声サンプルを受信し、この音声サンプルを分析し、この音声分析に基づいて、パーキンソン病を有する対象の運動低下性ディサースリアの症状に関連する運動低下性ディサースリアの重症度値を決定する。運動低下性ディサースリアの重症度値は、例えば、過去の同程度の時刻に測定された音声パラメータ値と比べたときの音声パラメータの変動から決定してもよい。重症度値は、設定された閾値を超える所定期間のパラメータの変動を計算することによって決定する。例えば、発声の明瞭度をパラメータとして考慮に入れた場合、1ヶ月間に1週間あたりの平均発声明瞭度の低下が、1STD、2STDまたは3STDを超えた場合、1STDを超える平均音声明瞭度の低下から低重症度であることが示され、2STDを超える平均音声明瞭度の低下から中程度の重症度であることが示され、3STDを超える平均音声明瞭度の低下から高重症度であることが示される。治療薬剤送達システムは、運動低下性ディサースリアの重症度値に基づいて、薬剤送達システムの動作パラメータを、運動低下性ディサースリアの症状の緩和に有益な値に設定する。
【0060】
工程420において、治療薬剤送達システムは、該治療薬剤送達システムの動作パラメータに設定された値に応じて、パーキンソン病を有する対象に治療薬剤を送達する。工程430において、治療薬剤送達システムは、連続的な音声分析に基づいて(一連の連続した運動低下性ディサースリアの重症度値に基づいて)、運動低下性ディサースリアの症状に対する薬剤送達の有効性を決定する。治療薬剤送達システムは、薬剤送達の有効性の変化に応じて動作パラメータ値を調整してもよい。
【0061】
本発明の代表的な実施形態について述べてきたが、当業者であれば、本発明の範囲内において、開示した実施形態を変更できることを容易に理解できるであろう。したがって、別の実施形態では、機能的に同等の物体/物を含んでいてもよい。特定の実施形態の特徴は、本明細書に記載の別の実施形態において使用してもよい。本開示は、様々なパーキンソン症状/障害、非運動症状、薬剤送達ポンプ、治療薬剤、治療薬剤分注装置などに関する(例えば、本開示は、薬剤送達ポンプ、治療薬剤、治療薬剤分注装置などにより実施してもよく、これらを使用してもよく、様々なパーキンソン症状/障害や非運動症状などに対して使用してもよい)。したがって、後述の特許請求の範囲は本開示により限定されない。
図1
図2
図3
図4
【外国語明細書】