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特開2023-93388樹脂組成物、その成形品、並びにエラストマー組成物及びその成形品の物性を変化させる方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093388
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】樹脂組成物、その成形品、並びにエラストマー組成物及びその成形品の物性を変化させる方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20230627BHJP
   C08G 63/06 20060101ALI20230627BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20230627BHJP
【FI】
C08L67/04
C08G63/06 ZBP
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202847
(22)【出願日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2021208340
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591267855
【氏名又は名称】埼玉県
(71)【出願人】
【識別番号】302064588
【氏名又は名称】株式会社 フューエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】山田 岳大
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩三
(72)【発明者】
【氏名】クマール ケー スデッシュ
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
4J200
【Fターム(参考)】
4J002CF181
4J002GB00
4J002GC00
4J029AA02
4J029AB01
4J029AB07
4J029AC02
4J029AE06
4J029EA02
4J029KE17
4J200AA04
4J200AA06
4J200AA14
4J200BA12
4J200BA15
4J200CA01
4J200DA22
4J200DA24
4J200EA04
4J200EA07
4J200EA09
4J200EA11
(57)【要約】
【課題】オゾン耐性を有する、生分解性ポリマーの樹脂組成物及び成形品を提供すること。
【解決手段】ポリヒドロキシアルカン酸として、実質的に3-ヒドロキシブタン酸及び3-ヒドロキシヘキサン酸のみからなる樹脂組成物であって、射出成形等により任意の3次元形状のプラスチック成形品及びエラストマー成形品を容易に量産することができ、この成形品の生分解性、生物適合性、オゾン耐性などの特徴に加えて、弾性率、強度、伸び、硬さを調整する方法を提供することにより、産業及び医薬用途等の幅広い用途への適用が可能となる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヒドロキシアルカン酸を含む樹脂組成物であって、ポリヒドロキシアルカン酸が、実質的に3-ヒドロキシブタン酸(3-HB)及び3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)のみからなり、前記3-ヒドロキシブタン酸と前記3-ヒドロキシヘキサン酸とはコポリマー(P(3-HB-co-3-HH))として存在し、前記3-ヒドロキシヘキサン酸の割合が、前記ポリヒドロキシアルカン酸の繰り返し単位の全量に対してモル比として8~27mol%の範囲であり、オゾン水及びオゾンガスに耐性を有する樹脂組成物。
【請求項2】
樹脂組成物が、3-ヒドロキシヘキサン酸の割合が、ポリヒドロキシアルカン酸の繰り返し単位の全量に対してモル比として8mol%以上であり、15mol%未満であるプラスチック組成物である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
樹脂組成物が、3-ヒドロキシヘキサン酸の割合が、ポリヒドロキシアルカン酸の繰り返し単位の全量に対してモル比として15mol%以上であり、27mol%以下であるエラストマー組成物である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
水中オゾン濃度が約15mg/lまでのオゾン水に耐性を有する、及び/又はオゾンガス濃度が約61000体積ppmまでのオゾンガスに耐性を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含む成形品。
【請求項6】
請求項4に記載の樹脂組成物を含む成形品。
【請求項7】
水中オゾン濃度が約15mg/lまでのオゾン水に耐性を有する、及び/又はオゾンガス濃度が約61000体積ppmまでのオゾンガスに耐性を有する、請求項5に記載の成形品。
【請求項8】
水中オゾン濃度が約15mg/lまでのオゾン水に耐性を有する、及び/又はオゾンガス濃度が約61000体積ppmまでのオゾンガスに耐性を有する、請求項6に記載の成形品。
【請求項9】
成形品が、射出成形によるものである、請求項5に記載の成形品。
【請求項10】
成形品が、射出成形によるものである、請求項7に記載の成形品。
【請求項11】
成形品が、射出成形によるものである、請求項8に記載の成形品。
【請求項12】
請求項3に記載の樹脂組成物において、前記樹脂組成物に含まれる3-ヒドロキシヘキサン酸の含有量を変化させることにより、エラストマー組成物及び/又は前記エラストマー組成物を含むエラストマー成形品の物性を変化させる方法。
【請求項13】
物性が、引張最大応力、引張破断伸び、引張弾性率、引張永久ひずみ、及び/又は硬度である、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性バイオポリマーであるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を含む組成物であって、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)が実質的に3-ヒドロキシブタン酸(3-HB)及び3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)のみからなり、3-ヒドロキシブタン酸と3-ヒドロキシヘキサン酸とはコポリマー(P(3-HB-co-3-HH))として存在し、3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)の割合が8~27mol%の範囲であり、耐オゾン性を有する樹脂組成物及びその成形品、並びに3-ヒドロキシヘキサン酸の含有量を変化させることにより、エラストマー組成物及びその成形品の物性を変化させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石油を主原料とする合成樹脂は軽く、設計自由度も高いことから、金属やガラスなどの主要材料と並んで普及し、利便性を向上させ、社会を豊かにしてきた。特に、加熱すると溶融し、冷却すると固化するといった熱的可逆性の特徴を有する合成樹脂である熱可塑性樹脂は、生産性や加工性、さらにはリサイクル性にも優れることから、日用雑貨や産業部品、医療部品に加工・適用され、成形加工材料として材料開発が盛んに行われている。熱可塑性樹脂の中でも比較的新しく開発された、ゴム的な性質を有するエラストマーは、多様な柔軟部材に向けた材料開発が進み、市場を広げている。今後も高分子材料としてのエラストマーの開発が社会に果たす役割は大きくなっていくものと考えられている。
一方、これからの新しい材料の開発を含めた製品技術の開発は、製品開発を取り巻く状況を見れば、環境に対する負荷が最小になる形で発展せざるを得ない。プラスチックやエラストマーを含む合成樹脂についても、原料となる石油価格が変動し、原料供給が一定しないといった問題に加え、環境へのマイナスの影響として、温室効果ガスを産生すると共に、製造過程においてあるいは製品として使用された後、排水処理場を通り抜け、あるいは最終製品が崩壊、投棄あるいは廃棄され河川・海洋などに流入することにより、様々な問題を生じるなど、世界的規模での解決が迫られている。
【0003】
特に、最近では、海洋でのマイクロプラスチックの汚染が問題となっている。例えば、プラスチックごみが波や紫外線で粉砕されると長さ5ミリメートル以下のマイクロプラスチックとなり、魚の体内にマイクロプラスチックが蓄積する。50年後には海のプラスチックごみは魚の総重量を超えるとされ、プラスチックごみを削減させることは人類にとって喫緊の課題となってきている。したがって、合成樹脂が必須の産業分野においても、環境汚染の低減や脱炭素社会の観点から、高分子材料として従来から使用している合成樹脂の転換が迫られている。
【0004】
また、エラストマーは一般的な熱可塑性樹脂の量産機で容易に成形できることから、産業用途に広く普及し、柔軟性のある容器やシール部材、医療分野においても注射器や瓶栓、チューブなどの医療機器から生体組織と接触する人工肺膜やドレーン、人工血管などの製品技術要素として既に大きな需要がある。これら医療分野では、安全性の観点から生体に適応したエラストマー成形品も使用されているが、生体反応や可滅菌性などの安全性・性能・適合性のさらなる向上が求められている。したがって、医療分野におけるエラストマー成形品として、生体内での安全な使用を可能とするために安全性・適合性・生体内分解性などの条件を満たしながら、より有用な物性・性能を持つことが必須となっている。
さらに、エラストマーを適用する分野は広範にわたることから、物性についても、適用する用途に応じた弾性率や強度、伸び、硬さが可変であることも必須となる。近年、脱臭や除菌、滅菌、殺菌工程に使用されるオゾンや、こうしたオゾンを利用する産業用機器用途に対するオゾン耐性も検討するべき重要な技術課題となっている。こうした課題は、エラストマーに限られるものではなく、プラスチックにおいても同様である。
【0005】
これらの課題の解決方法の一つとして、様々な形態及び態様において、生分解性バイオポリマーを原料とした耐オゾン性を有する樹脂組成物やその成形品を使用することが提案されている。
【0006】
特許文献1には、ポリヒドロキシ酪酸にヒドロキシヘキサン酸を共重合させ、一つの応用例としてエラストマーへの適用が記載されている。
特許文献2には、生分解性エラストマーを含むポリマー層フィルムから構成される制御放出の抗生物質ソケットにおける素材の一例として4-ヒドロキシ酪酸(PHB)とポリヒドロキシアルカエート類(PHA)が挙げられている。
オゾンに関しては特許文献3では、臭気が低減され、熱安定性に優れ、伸び率等の機械的特性に優れるPHAの提供について記載されている。温度が0~50℃、オゾン濃度が0.001以上10ppm以下に保たれたオゾンに接触処理されたことを特徴とするPHAを含有する樹脂組成物が記載されている。
しかしながら、これらの先行技術文献に記載された技術的事項からは、生分解性材料の特徴を十分に生かし、量産機で容易に3次元形状の成形品に成形できる柔軟なエラストマー組成物を含む樹脂組成物を得ることは困難であり、所望の物性さらにはオゾンに耐性を有する成形品の実用化には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表平9―508424
【特許文献2】特開2021―72894
【特許文献3】特開2016-094547
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、樹脂組成物を構成する原料として生分解性バイオポリマーであるポリヒドロキシアルカン酸を使用することで、樹脂組成物の製造工程及び製品としての使用後における処理工程での環境問題に対応すると共に、医療用途を含めた広範囲な用途において求められる多様な特性に適応させ、また、滅菌などのオゾンが生じる環境に耐性を有する材料を提供することが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討した結果、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の繰り返し単位として実質的に3-ヒドロキシブタン酸(3-HB)及び3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)のみからなるコポリマーを含む樹脂組成物を射出成形機により成形した成形品は、3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)の割合により、プラスチックとしての物性、又は柔軟で引き伸ばされても元に戻るといったエラストマーとしての物性を有することを見出し、また、かかるコポリマーにおける3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)の含有量を変化させることにより、コポリマーを含むエラストマー組成物及びその成形品の弾性率、強度、伸び、硬さが変化することを見出した。さらに、こうした樹脂組成物及びその成形品がオゾンガス及び高濃度オゾン水に対する耐性が高いことを見出し、本発明を完成するに至った。なお、本発明に係る組成物は、3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)の含有量により、プラスチック組成物又はエラストマー組成物となるものであり、プラスチック組成物とエラストマー組成物とを総称して樹脂組成物と記載している。
本発明は、以下の特定事項により特定されるとおりのものである。
【0010】
(1)ポリヒドロキシアルカン酸を含む樹脂組成物であって、ポリヒドロキシアルカン酸が、実質的に3-ヒドロキシブタン酸(3-HB)及び3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)のみからなり、前記3-ヒドロキシブタン酸と前記3-ヒドロキシヘキサン酸とはコポリマー(P(3-HB-co-3-HH))として存在し、前記3-ヒドロキシヘキサン酸の割合が、前記ポリヒドロキシアルカン酸の繰り返し単位の全量に対してモル比として8~27mol%の範囲であり、オゾン水及びオゾンガスに耐性を有する樹脂組成物。
(2)樹脂組成物が、3-ヒドロキシヘキサン酸の割合が、ポリヒドロキシアルカン酸の繰り返し単位の全量に対してモル比として8mol%以上であり、15mol%未満であるプラスチック組成物である、(1)に記載の樹脂組成物。
(3)樹脂組成物が、3-ヒドロキシヘキサン酸の割合が、ポリヒドロキシアルカン酸の繰り返し単位の全量に対してモル比として15mol%以上であり、27mol%以下であるエラストマー組成物である、(1)に記載の樹脂組成物。
(4)水中オゾン濃度が約15mg/lまでのオゾン水に耐性を有する、及び/又はオゾンガス濃度が約61000体積ppmまでのオゾンガスに耐性を有する、(1)~(3)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(5)(1)~(3)のいずれかに記載の樹脂組成物を含む成形品。
(6)(4)に記載の樹脂組成物を含む成形品。
(7)水中オゾン濃度が約15mg/lまでのオゾン水に耐性を有する、及び/又はオゾンガス濃度が約61000体積ppmまでのオゾンガスに耐性を有する、(5)に記載の成形品。
(8)水中オゾン濃度が約15mg/lまでのオゾン水に耐性を有する、及び/又はオゾンガス濃度が約61000体積ppmまでのオゾンガスに耐性を有する、(6)に記載の成形品。
(9)成形品が、射出成形によるものである、(5)に記載の成形品。
(10)成形品が、射出成形によるものである、(7)に記載の成形品。
(11)成形品が、射出成形によるものである、(8)に記載の成形品。
(12)(3)に記載の樹脂組成物において、前記樹脂組成物に含まれる3-ヒドロキシヘキサン酸の含有量を変化させることにより、エラストマー組成物及び/又は前記エラストマー組成物を含むエラストマー成形品の物性を変化させる方法。
(13)物性が、引張最大応力、引張破断伸び、引張弾性率、引張永久ひずみ、及び/又は硬度である、(12)に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を含む樹脂組成物は、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の繰り返し単位として実質的に3-ヒドロキシブタン酸(3-HB)と3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)のみを含むことにより、自然環境での生分解性及び生体適合性を有するものである。また、本発明によれば、加工性に優れ、オゾンガス及びオゾン水に耐性を有するエラストマー成形品及びプラスチック成形品として利用できる樹脂組成物を提供するものである。さらに、本発明によれば、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の繰り返し単位として実質的に3-ヒドロキシブタン酸(3-HB)と3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)のみを含むエラストマー組成物において、3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)の含有量を変化させることにより、エラストマー組成物及びその成形品の硬度及び弾性率、強度、破断伸びなどの物性を変化させることができることから、より広範囲な用途に使用可能なエラストマー組成物を提供するものである。
したがって、本発明によれば、生分解性であり、生体適合性、オゾンガス及びオゾン水に対する耐性を備え、成形性に優れ、広い用途で使用可能な物性を有するポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を含む樹脂組成物、その成形品、並びにエラストマー組成物及び成形品の硬度及び弾性率、強度や破断伸びなどの物性を変化させる方法を提供することができる。
そして、本発明に係る樹脂組成物及びその成形品は、滅菌や殺菌に使用するオゾンに耐性があることから、オゾンによる滅菌や殺菌処理が可能で生体安全性や衛生性を担保する材料として優位な樹脂組成物である。また、廃棄処分においても生分解処理が可能で、除菌などが可能かつ再成形も可能なことからリサイクルによる資源循環も可能となるため、焼却処理を減らし、海洋汚染やマイクロプラスチックなどのゴミ問題等といった環境への負荷を低減するという効果も期待できる。さらに、本発明に係るエラストマー組成物及びその成形品は、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の有する生体適合性や生体内分解性に加えて、広範囲な用途に使用可能な物性を有することができることから、これまでのエラストマー組成物としての用途に加えて、医療用途やオゾン関連機器用途において幅広く使用できる可能性を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を8mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有するダンベル形プラスチック成形品の引張応力-ひずみ曲線を示す。
図2】3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を15mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有するダンベル形エラストマー成形品の引張応力-ひずみ曲線を示す。
図3】3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を20mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有するダンベル形エラストマー成形品の引張応力-ひずみ曲線を示す。
図4】3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を27mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有するダンベル形エラストマー成形品の引張応力-ひずみ曲線を示す。
図5】オゾンガス暴露に対する暴露時間と、3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を8mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有する暴露試験用のプラスチック成形品の重量との関係を示す。
図6】オゾンガスに対する各暴露時間における、3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を8mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有する暴露試験用のプラスチック成形品の表面状態を示す。
図7】各オゾンガス暴露時間における、3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を8mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有する暴露試験用のプラスチック成形品の赤外吸光度波形を示す。
図8】オゾンガス暴露に対する暴露時間と、3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を15mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有する暴露試験用のエラストマー成形品の重量との関係を示す。
図9】オゾンガスに対する各暴露時間における、3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を15mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有する暴露試験用のエラストマー成形品の表面状態を示す。
図10】各オゾンガス暴露時間における、3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を15mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有する暴露試験用のエラストマー成形品の赤外吸光度波形を示す。
図11】オゾンガス暴露に対する暴露時間と、3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を20mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有する暴露試験用のエラストマー成形品の重量との関係を示す。
図12】オゾンガスに対する各暴露時間における、3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を20mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有する暴露試験用のエラストマー成形品の表面状態を示す。
図13】各オゾンガス暴露時間における、3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を20mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有する暴露試験用のエラストマー成形品の赤外吸光度波形を示す。
図14】低濃度オゾンガス試験前後における、3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を20mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有するダンベル形エラストマー成形品の表面状態を示す。
図15】低濃度オゾンガス試験前後における、3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を27mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有するダンベル形エラストマー成形品の表面状態を示す。
図16】オゾン水に対する浸漬時間と、3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を8mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有する浸漬試験用のプラスチック成形品の重量との関係を示す。
図17】オゾン水に対する各浸漬時間における、3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を8mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有する浸漬試験用のプラスチック成形品の表面状態を示す。
図18】各オゾン水浸漬時間における、3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を8mol含むポリヒドロキシアルカン酸を含有する浸漬試験用のプラスチック成形品の赤外吸光度波形を示す。
図19】オゾン水に対する浸漬時間と、3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を15mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有する浸漬試験用のエラストマー成形品の重量との関係を示す。
図20】オゾン水に対する各浸漬時間における、3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を15mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有する浸漬試験用のエラストマー成形品の表面状態を示す。
図21】各オゾン水浸漬時間における、3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を15mol含むポリヒドロキシアルカン酸を含有する浸漬試験用のエラストマー成形品の赤外吸光度波形を示す。
図22】オゾン水に対する浸漬時間と、3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を20mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有する浸漬試験用のエラストマー成形品の重量との関係を示す。
図23】オゾン水に対する各浸漬時間における、3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を20mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有する浸漬試験用のエラストマー成形品の表面状態を示す。
図24】各オゾン水浸漬時間における、3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を20mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有する浸漬試験用のエラストマー成形品の赤外吸収度波形を示す。
図25】各オゾン水浸漬時間における、3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を20mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有する浸漬試験用のエラストマー成形品の1H-NMRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための最良の形態を含め、具体的な形態について説明する。
【0014】
[ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)]
ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)は、下記化学式(1)で例示されるヒドロキシアルカン酸のポリエステルであり、生分解性の重合体である。
【0015】
【化1】
【0016】
ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の繰り返し単位としては、下記化学式(2)で示される3-ヒドロキシアルカン酸、及び下記化学式(3)で示される4-ヒドロキシアルカン酸が知られている。
【0017】
【化2】
【0018】
【化3】
【0019】
3-ヒドロキシアルカン酸単位(3-HA)は、アルキル基(R)として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基などを取ることができる。
本発明に係るポリヒドロキシアルカン酸(PHA)はその繰り返し単位として、実質的に下記化学式(4)で示される3-ヒドロキシアルカン酸単位におけるアルキル基がメチル基である3-ヒドロキシブタン酸(3-HB)、及び下記化学式(5)で示される3-ヒドロキシアルカン酸単位におけるアルキル基がプロピル基である3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)のみを含むことを特徴とするものである。本発明に係るポリヒドロキシアルカン酸(PHA)がその繰り返し単位として、3-ヒドロキシブタン酸単位(3-HB)と3-ヒドロキシヘプタン酸単位(3-HH)とを含む場合、以下に例示する3-ヒドロキシブタン酸(3-HB)と3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)とのコポリマー(P(3-HB-co-3-HH))として含まれることが好ましい。
【0020】
【化4】
【0021】
本発明に係る樹脂組成物は、ポリヒドロキシアルカン酸として、実質的に3-ヒドロキシブタン酸及び3-ヒドロキシヘキサン酸のみを含むものであり、本発明に係るポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の繰り返し単位における3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)の割合は、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の繰り返し単位の全量に対してモル比で8mol%以上であり、27mol%以下である。ポリヒドロキシアルカン酸の繰り返し単位の全量における3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)のモル比が低くなる程、樹脂組成物(成形品)としての引張強度や弾性率、硬さが増し、伸びが低下する傾向にあり、3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)の割合が、ポリヒドロキシアルカン酸の繰り返し単位全量に対してモル比が大きくなるほど、樹脂組成物(成形品)としての弾性率や硬さが低下し、伸びが増加する。すなわち、ポリヒドロキシアルカン酸の繰り返し単位の全量における3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)のモル比が15mol%~27mol%であれば、樹脂組成物はエラストマー組成物となり、一方、ポリヒドロキシアルカン酸の繰り返し単位の全量における3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)のモル比が8mol%~15mol%未満であれば、樹脂組成物はプラスチック組成物となる。3-HHの割合が8mol%以下である場合には、加工性が悪くなり、成形が困難となるおそれがある。また、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の繰り返し単位の全量に対してモル比が27mol%より多い場合には、ポリヒドロキシアルカン酸を含むエラストマー組成物の融点が低くなることから、成形品としての耐熱性が低下し、製品としての使用に困難が生じるおそれがある。さらに、エラストマー組成物に含まれるポリヒドロキシアルカン酸の繰り返し単位の全量における3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)のモル比を変えることで、かかるエラストマー組成物及びその成形品の物性について変化させ、所望の物性を得ることができるものである。
【0022】
また、本発明に係るポリヒドロキシアルカン酸(PHA)は、下記の[ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の製造方法]に記載したとおり、その製造方法としては特に制限されるものではないが、微生物を利用した製造方法が適用できるものである。微生物を利用した製造方法を適用した場合には、製造されるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の繰り返し単位として、3-ヒドロキシブタン酸及び3-ヒドロキシヘキサン酸以外の3-ヒドロキシアルカン酸や4-ヒドロキシアルカン酸が夾雑物として混在する可能性があるが、培養液や培養条件を調整することにより、夾雑物の混在していない、あるいは極めて微量の夾雑物しか混在していない実質的に3-ヒドロキシブタン酸及び3-ヒドロキシヘキサン酸のみを含有する本発明に係るポリヒドロキシアルカン酸を製造することが可能である。したがって、本発明におけるポリヒドロキシアルカン酸が、「実質的に3-ヒドロキシブタン酸及び3-ヒドロキシヘキサン酸のみからなる」とは、微生物を利用した製造方法において、培養液や培養条件を調整することにより得られる、夾雑物の混在していない、あるいは極めて微量の夾雑物しか混在していないポリヒドロキシアルカン酸を含むものである。
【0023】
本発明に係るポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の別の実施態様としては、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の重量平均分子量が1.0×10~13.0×10g/molであり、好ましくは3.0×10~10.0×10g/molであり、より好ましくは3.0×10~8.0×10g/molである。ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の重量平均分子量が上記した範囲にある場合には、溶媒への溶解性、及び耐熱性や耐久性を制御可能とするポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を提供することができるが、上記した範囲を逸脱した場合には、こうした効果が得られないおそれがある。
【0024】
本発明に係るポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の別な実施態様としては、本発明に係るポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の繰り返し単位における3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)の割合を、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の繰り返し単位の全量に対してモル比で8mol%以上であり、27mol%以下とすることにより、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の融点を約81℃以上約133℃以下とすることができる。ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の融点を上記の範囲とすることで、加工性が増し、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を含有するエラストマー成形品として提供することが可能となる。なお、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の融点は、いずれの方法で測定してもかまわないが、例えば、DSC分析により測定可能である。
【0025】
[ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の製造方法]
本発明に係るポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の製造方法は、本発明に係るポリヒドロキシアルカン酸の特徴を備えるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)が得られるのであれば、どのような製造方法でもよく、特に制限されるものではない。
【0026】
例えば、本発明のポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の製造方法の一実施態様としては、以下の工程を含むことができる。
工程1:ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を産生する微生物を準備する工程、
工程2:工程1の微生物を培地内で増殖する工程、
工程3:増殖した微生物を動物に摂取させる工程、及び
工程4:工程3の動物の排泄物からポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を回収・精製する工程
【0027】
本発明に係るポリヒドロキシアルカン酸(PHA)は、微生物を用いて製造することが好ましい。例えば、微生物としてはバチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、カプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)、ラルストニア・ユートロフア(Ralstonia eutropha)、アルカリゲネス・ラタス(Alcaligenes latus)等のポリヒドロキシアルカン酸産生能を有する微生物が挙げられる。これらの中でもカプリアビダス・ネカトールが特に好ましい。
【0028】
微生物としては、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の合成に関与する遺伝子が欠失又は導入された微生物であることが好ましい。例えば、アセトアセチル-CoAレダクターゼ遺伝子を欠失させた微生物を用いることが好ましい。また、ヒドロキシアルカン酸シンターゼ遺伝子や、エノイル-CoAヒドラターゼ遺伝子を導入することが好ましい。これにより、ポリヒドロキシアルカン酸に含まれる3-ヒドロキシヘキサン酸単位(3-HH)の含有量を高めることができる。また、溶融流動性が高く、加工性に優れた3-ヒドロキシブタン酸(3-HB)と3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)とからなるコポリマーP(3HB-co-3HH)を製造することができる。
【0029】
微生物の培養に使用する培地は、微生物が増殖するものであれば、特に制限されない。例えば、炭素源として、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール類、酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、リノール酸、リノレン酸、ミリスチン酸等の飽和・不飽和脂肪酸などの脂肪酸類、グルコース、フルクトース等の糖類、乳酸等の有機酸類、炭素数が10以上である飽和・不飽和脂肪酸を多く含む油脂類を含有する培地である。油脂類としては、例えば、ヤシ油、パーム核油、パーム油、パームオレイン、菜種油、大豆油、米油、ゴマ油等の植物油脂、ラード、牛脂等の動物油脂、魚油等が挙げられる。なお、油脂類は精製前のものや、廃棄食用油等も使用することができる。培地に炭素源として添加する油脂類としては、ラウリン酸を含有するパーム核油又はヤシ油が好ましい。パーム核油又はヤシ油を含有することにより、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の含有量を高めることができる。
【0030】
本発明に係るポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を生産するための、微生物の培養条件としては、好気性条件下であることが好ましい。また、必要であれば、窒素源や無機物を添加してもよい。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩等が挙げられる。無機物としては、例えばリン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。
培養温度は20℃~40℃が好ましく、より好ましくは25℃~35℃である。培養時間は特に限定されないが、好ましくは48~72時間である。
【0031】
本発明に係るポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の製造方法において、上記のアセトアセチル-CoAレダクターゼ遺伝子と、エノイル-CoAヒドラターゼ遺伝子の発現量を制御することで、3-ヒドロキシブタン酸(3-HB)と3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)とのコポリマーにおける3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)の含有量を制御することができる。
また、炭素源の残存量の制御や、培養液における無機成分濃度の調整、酸素の通気量及び培養時間を調整することでも、3-ヒドロキシブタン酸(3-HB)と3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)とのコポリマーにおける3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)の含有量を制御することが可能である。
【0032】
ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の回収・精製方法は特に限定されないが、培地から遠心分離によって回収し、溶媒等で抽出する方法や、上記微生物を動物により消化・吸収させ、排泄物として回収する方法などが挙げられる。ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の濃度を簡便に濃縮できるという観点から、動物により微生物を消化・吸収させ、排泄物に含まれる顆粒状のポリヒドロキシアルカン酸(PHA)として回収する方法が好ましい。
上記動物としては、げっ歯類、ヤギ、ヒツジ、ウシ、トリ等の動物、水生生物、甲虫、虫等が挙げられる。中でもミールワーム等の甲虫の幼虫が好ましく、35日齢のイエバエの虫食い(ダニカムシの幼虫、Tenebrio molitor)がより好ましい。
ミールワーム等の幼虫に上記微生物を餌として与えた後に、糞便ペレットを回収し、メッシュを用いて篩い分けした後、水、水酸化ナトリウム等の塩基で洗浄、乾燥を行うことで、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を回収することができる。
【0033】
ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の製造方法についての具体的な態様を以下に例示する。
(1)P(3-HB-co-3-HH)の製造方法
(ア)P(3HB-co-3HH)製造のためのミネラル培地調製
P(3HB-co-3HH)製造のためのミネラル培地は、4.0g/LのNaHPO、4.6g/LのNaHPO、0.45g/LのKSO、0.39g/LのMgSO、62mg/LのCaCl、1mL/Lの微量元素溶液(微量元素溶液は0.1MのHClに溶解した15g/LのFeSO・7HO、2.4g/LのMnSO・HO、2.4g/LのZnSO・7HOおよび0.48g/LのCuSO・5HOを含む。)からなり、オートクレーブにより滅菌する前に、培地のpHを7.0に調整した。
(イ)13L発酵槽を用いたP(3HB-co-3HH)の生合成
P(3HB-co-3HH)の生合成は、ポリヒドロキシアルカン酸シンターゼ遺伝子を導入したカプリアビダス・ネカトールを用いて行った。
まず、ポリヒドロキシアルカン酸シンターゼをコードする遺伝子を導入したカプリアビダス・ネカトールを寒天プレート上に画線し、30℃で24時間培養した。次に、前培養として、50mLの培養液に白金耳を用いて2回前記カプリアビダス・ネカトールを接種し、30℃のインキュベーターシェーカーで、培養液のOD600nmが4になるまで8時間振とうした。尿素0.54g/L、MgSO0.39g/L、CaCl62mg/L、微量元素溶液1mL/L及び粗パーム核油1質量%となるように添加されたミネラル培地100mLに対して、前記培養液約3mLを接種した。粗パーム核油はミネラル培地へ添加する前に、オートクレーブ処理を行った。さらに、このミネラル培地を、18時間培養して、6Lの発酵槽に接種した。接種された前記カプリアビダス・ネカトールの形態を、発酵槽に移す前にチェックした(10%v/v)。培養培地の温度は30℃に維持しつつ、培地のpHについては3MのNaOH及び3MのHPOの添加により7.0±0.1に設定した。攪拌は、Rushtonタービンを用いて200~900rpm攪拌速度で攪拌を行った。フィルターカートリッジ(Sartorius stedim、Germany)を通して、1vvm(空気体積/発酵槽の作業体積/分)で空気を供給し、溶存酸素濃度を40%以上に維持した。MgSO・7HOは培養後18時間目に、尿素は6時間ごとに添加した。微量元素は植え付けの間及び培養の18時間目に1mLを添加した。粗パーム核油は、微生物による油の消費に応じて、6時間ごとに10g/L~20g/Lの濃度で供給した。細菌培養物の残留油分、湿潤細胞重量および光学密度を決定するために、サンプリングを6時間ごとに行った。培養時間は、細菌の増殖に応じて48時間から72時間の範囲であった。
(ウ)P(3HB-co-3HH)の生物学的回収
35日齢のミールワーム(ダニカムシの幼虫、Tenebrio molitor)を周囲温度(約25℃)でプラスチック容器で飼育した。前記飼育したミールワーム100gに対して、上記P(3HB-co-3HHx)を含む乾燥微生物を給した。
給された微生物の量は、ミールワームの体重に基づいて供給した(体重の1日あたり5%)。新しいバッチの微生物を供給する前に、ミールワームの糞便ペレットを回収し、0.50mmおよび0.25mmのサイズのメッシュを用いて篩い分けした。二重ふるい分けを行うことにより、他の不純物を取り除き、その後の洗浄工程を容易にすることができた。
(エ)蒸留水を用いたP(3HB-co-3HH)の精製
約10%(w/v)の糞便ペレットに水道水を加え、100g/Lの濃度とした。糞便ペレット懸濁液を数回すすぎ、上清を捨てる前に沈降させた。上清を除去し、回収したP(3HB-co-3HH)を一定質量になるまで50℃のオーブンで乾燥させた。
さらに、前記乾燥させたP(3HB-co-3HH)を0.25M NaOH中で1時間すすぎ、混合物を沈降させ、上清を除去し、回収したペレットをpHが9.5未満に低下するまで水道水中でさらに1時間撹拌した。次いで、回収されたP(3HB-co-3HH)顆粒を50℃のオーブンで一定質量になるまで乾燥させ、目的とするP(3HB-co-3HH)を回収した。
【0034】
[ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を含有する樹脂組成物]
本発明に係る樹脂組成物は、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)のみを用いてもよいが、その他の添加物と混合して樹脂組成物とすることもできる。その他の添加剤としては、用いられる用途に応じて、本発明のポリヒドロキシアルカン酸(PHA)以外のその他の樹脂、可塑剤、無機充填剤、結晶核剤等を用いることができる。
【0035】
本発明に係る樹脂組成物に用いられるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)以外のその他の樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられ、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリグリコール酸、フェノール樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸、ノルボルネン樹脂、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、エステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ウレタン系エラストマー、シリコン系エラストマー、フッ素系エラストマー、ポリ乳酸系エラストマー等が挙げられる。その中でも、本発明に係る樹脂組成物が生分解性ポリマーであるポリヒドロキシアルカン酸を用いていることから、かかる樹脂組成物に添加するその他の樹脂としては、ポリ乳酸や生分解性を有するウレタン系エラストマーなどの生分解性樹脂が望ましい。
【0036】
[ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を含有する樹脂組成物からなる成形品]
ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を含有する樹脂組成物からなる成形品は、シートやチューブといった単一断面の成形品や、3次元形状を有する成形品として使用することが可能である。射出成形機を利用した3次元形状を有する成形品では、短時間で多くの製品を量産でき、また、クリーンルームの環境下でも成形できることから、不純物も含まなく、量産面と衛生面にも優れる。低温かつ環境負荷の小さいオゾンによる滅菌や殺菌処理されれば、より衛生性の高い成形品が得られる。量産品では使用後の環境負荷の少ない処分に対応する必要があるが、このような量産成形品には、生体適合性とオゾン耐性を有し、生分解性ポリマーであるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を含有する樹脂組成物からなる成形品を用いることの効果は大きい。本発明に係る成形品は、通常の手段により、製造することができるものであり、成形品を成形する手段は特に制限されるものではない。
【0037】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。なお、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【実施例0038】
[実施例1]3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を8%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有するプラスチック組成物、その成形品の強度測定、永久ひずみ、硬さ測定
ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の繰り返し単位として、3-ヒドロキシブタン酸(3-HB)と3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)とのみからなるポリヒドロキシアルカン酸を上記した製造方法により製造した。
製造したポリヒドロキシアルカン酸(PHA)について、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の繰り返し単位の全量に対する3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)の割合がモル比で8mol%であり、3-ヒドロキシブタン酸(3-HB)と3ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)とは、P(3HB-co-3HH)の構造であるコポリマーで存在することを確認した。得られた3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)8mol%を含むポリヒドロキシアルカン酸の融点は133.11℃であった。
3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を8%含むP(3-HB-co-3-HH)の構造であるプラスチックをRambaldi Co小型射出成形機babyplast6/12を用いてJIS K 7139 ダンベル形引張試験片(タイプA)縮尺型試験片(A12 縮尺1:2、ダンベル形プラスチック成形品)と幅が40mm、長さが40mm、厚さが2mmの矩形プラスチック成形品に成形した。成形されたプラスチック成形品の引張強度測定、永久ひずみ測定、硬さ測定を、以下のとおり行った。
【0039】
1)引張強度測定
JIS K 7161(プラスチック引張特性の求め方に)に準じて、株式会社島津製作所製万能材料試験機AGS―5KNIと同社製非接触伸び計TRviewX500Dでダンベル形プラスチック成形品の引張特性を測定した。前記の試験機で引張速度は毎分100mmの速さに設定して、測定した。標線間は25mmに設定した。3試料の測定結果を平均した値は以下のとおりであった。図1には測定した代表的な応力―ひずみ曲線を示す。
引張最大応力:30.5MPa
引張破断伸び:27.4%
引張弾性率:1134.8MPa
【0040】
2)引張永久ひずみ測定
JIS K 6273に準じてダンベル形プラスチック成形品の永久ひずみを測定した。標線間距離25mmのダンベル形プラスチック成形品に対して、引張ひずみ15%を30分維持したのち、万能材料試験機から取外し、木製の平坦な非粘着性の台上に、30分静置し、成形品の標線間距離を測定した。以下の式から引張永久ひずみを算出した。測定結果は以下のとおりであった。
【数1】
引張永久ひずみ:27%
【0041】
3)硬さ測定
JIS K 6253に準じてエクセル株式会社 Hildebrand製マイクロゴム硬度計Micro―IRHD―1を用いて矩形プラスチック成形品の硬度を測定した。測定結果は以下のとおりであった。
マイクロゴム硬度計による硬さ(IRHD):100
デュロメータAによる硬さ:98
デュロメータDによる硬さ:75
【0042】
[実施例2]3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を15%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有するエラストマー組成物、その成形品の強度測定、永久ひずみ、硬さ測定
ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の繰り返し単位の全量に対する3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)の割合が重量比で15%であるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を実施例1に記載した製造方法に準じて、製造した。得られたポリヒドロキシアルカン酸の繰り返し単位の全量に対する3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)の割合が重量比で15%であることを確認し、また、3-ヒドロキシブタン酸(3-HB)と3ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)とは、P(3HB-co-3HH)の構造であるコポリマーで存在することを確認した。得られた3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を15%含むポリヒドロキシアルカン酸の融点は127.14℃あった。
実施例1と同一の成形方法でエラストマー成形品を成形し、実施例1と同一の測定条件で、成形品の引張強度、引張永久ひずみ、硬さを測定した。3試料の測定結果を平均した値は以下のとおりであった。測定結果は以下のとおりであった。
【0043】
1)引張強度測定
引張最大応力:14.1MPa
引張破断伸び:243.1%
100%モジュラス:10.3MPa
引張弾性率:241.8MPa
図2には、測定した代表的な引張応力-ひずみ曲線を示す。
【0044】
2)引張永久ひずみ測定
引張永久ひずみ:26%
【0045】
3)硬さ測定
マイクロゴム硬度計による硬さ(IRHD):100
デュロメータAによる硬さ:98
デュロメータDによる硬さ:59
【0046】
[実施例3]3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を20mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有するエラストマー組成物、その成形品の強度測定、永久ひずみ測定、硬さ測定
ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の繰り返し単位として、3-ヒドロキシブタン酸(3-HB)と3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)とのみからなるポリヒドロキシアルカン酸を実施例1に記載した製造方法に準じて、製造した。
製造したポリヒドロキシアルカン酸(PHA)について、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の繰り返し単位の全量に対する3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)の割合がモル比で20mol%であり、3-ヒドロキシブタン酸(3-HB)と3ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)とは、P(3HB-co-3HH)の構造であるコポリマーで存在することを確認した。得られた3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)20mol%を含むポリヒドロキシアルカン酸の融点は111.96℃であった。
実施例1と同一の成形方法で、幅が40mm、長さが40mm、厚さが2mmの矩形エラストマー成形品を成形した。成形された成形品の引張強度測定、引張永久ひずみ測定、硬さ測定を、株式会社島津製作所製万能材料試験機AGS―100KNIと同社製非接触伸び計TRviewX800Dを用いて、実施例1と同一の測定条件で測定した。
【0047】
1)引張強度測定
引張最大応力:13.1MPa
引張破断伸び:590%
100%モジュラス:8.08MPa
300%モジュラス:8.24MPa
引張弾性率:392MPa
図3には、測定した代表的な引張応力―ひずみ曲線を示す。
【0048】
2)引張永久ひずみ測定
引張永久ひずみ:26%
【0049】
3)硬さ測定 マイクロゴム硬度計による硬さ:100 IRHD
タイプAデュロメータによる硬さ:HDA 98
タイプDデュロメータによる硬さ:HDD 48
【0050】
[実施例4]3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を27mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有するエラストマー組成物、その成形品の強度測定、永久ひずみ、硬さ測定
ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の繰り返し単位の全量に対する3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)の割合がモル比で27mol%であるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を実施例1に記載した製造方法に準じて、製造した。得られたポリヒドロキシアルカン酸の繰り返し単位の全量に対する3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)の割合がモル比で27mol%であることを確認し、また、3-ヒドロキシブタン酸(3-HB)と3ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)とは、P(3HB-co-3HH)の構造であるコポリマーで存在することを確認した。得られた3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を27mol%含むポリヒドロキシアルカン酸の融点は81.21℃あった。
実施例1と同一の成形方法でエラストマー成形品を成形し、実施例3と同一の測定条件で、引張強度と引張永久ひずみ、硬さを測定した。3試料の測定結果を平均した結果は以下のとおりであった。
【0051】
1)引張強度測定
引張最大応力:6.08MPa
引張破断伸び:653%
100%モジュラス:4.19MPa
300%モジュラス:4.32MPa
引張弾性率:104MPa
図4には、測定した代表的な引張応力-ひずみ曲線を示す。
【0052】
2)引張永久ひずみ測定
引張永久ひずみ:1.1%
【0053】
3)硬さ測定
マイクロゴム硬度計による硬さ:96 IRHD
タイプAデュロメータによる硬さ:HDA 96
タイプDデュロメータによる硬さ:HDD 44
【0054】
[実施例5]3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を8mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有するプラスチック組成物から成形した成形品の高濃度オゾンガス耐性の評価
実施例1と同一の成形方法で矩形プラスチック成形品を成形した。高濃度オゾンガスへの曝露試験用のプラスチック成形品として矩形プラスチック成形品を長さが40mm、幅が20mm、厚さが2mmとなるように切断した。乾燥重量は1.840g、表面積はおおよそ1840mmである。エコデザイン株式会社製オゾン発生器ED―OG―R4を利用して毎分200mlの高濃度オゾンガスを発生させた。オゾンガスに含まれる不純物を取り除くためのシリカゲル通過させたオゾンガスを40℃に設定した恒温槽に設置したデシケータ内のプラスチック成形品に対して曝露させた。オゾンガス濃度は体積濃度では約61,000vol-ppmである。曝露時間は24時間とした。
8時間毎に曝露試験用のプラスチック成形品をデシケータから取り出し、エスペック株式会社製真空乾燥機LV―120を用いて40℃で24時間以上真空乾燥させたのちに、ザルトリウス株式会社製精密天秤BP211Dによる浸漬試験用のプラスチック成形品の重量測定とデジタルマイクロスコープによる表面観察、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製赤外分光分析装置NICOLET iN10MX+NICOLET iZ10による材料の赤外吸収スペクトルから、分子構造解析を行った。これら測定に加えて曝露試験用のプラスチック成形品をオゾンガスに曝露させてから24時間後に、マイクロゴム硬度計とアカシ株式会社デュロメータtypeA・typeDによる硬さ測定を行った。
【0055】
1)重量変化
図5に、オゾンガスに対する曝露時間と曝露試験用のプラスチック成形品の重量との関係を示す。曝露時間にともなう重量変化はほとんどないことを確認した。
【0056】
2)表面観察
図6に、各曝露時間における曝露試験用のプラスチック成形品の表面状態を示す。各曝露時間において表面に亀裂などは確認できなかった。
【0057】
3)硬さ変化
表1に、曝露時間が0時間と24時間の曝露試験用のプラスチック成形品の硬さを示す。試験前後で硬さに大きな変化はなかった。
【表1】
【0058】
4)分子構造解析
図7に、赤外分光分析装置による、各曝露時間における曝露試験用のプラスチック成形品表面付近の赤外吸収スペクトルを示す。曝露時間が0時間から24時間にかけて得られた赤外吸収スペクトルにおいて、酸化されると変化する1730cm-1付近のカルボニル基を示すピークや、3600cm-1付近のOH基を示すピークに変化はなかった。赤外吸収スペクトル全体を通しても大きな変化がないことを確認した。
【0059】
[実施例6]3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を15mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有するエラストマー組成物から成形した成形品の高濃度オゾンガス耐性の評価
実施例2と同一の成形方法で矩形エラストマー成形品を成形した。高濃度オゾンガスへの曝露試験用のエラストマー成形品として矩形エラストマー成形品を長さが40mm、幅が20mm、厚さが2mmとなるように切断した。乾燥重量は1.905g、表面積はおおよそ1840mmである。測定は実施例5と同一の条件で行った。
【0060】
1)重量変化
図8に、オゾンガスに対する曝露時間と曝露試験用のエラストマー成形品の重量との関係を示す。曝露時間にともなう重量変化はほとんどないことを確認した。
【0061】
2)表面観察
図9に、各曝露時間における曝露試験用のエラストマー成形品の表面状態を示す。各曝露時間において表面に亀裂などは確認できなかった。
【0062】
3)硬さ変化
表2に、曝露時間が0時間と24時間の曝露試験用のエラストマー成形品の硬さを示す。試験前後で硬さに大きな変化はなかった。
【表2】
【0063】
4)分子構造解析
図10に、赤外分光分析装置による、各曝露時間における浸漬試験用のエラストマー成形品表面付近の赤外吸収スペクトルを示す。曝露時間が0時間から24時間にかけて得られた赤外吸収スペクトルにおいて、酸化されると変化する1730cm-1付近のカルボニル基を示すピークや、3600cm-1付近のOH基を示すピークに変化はなかった。赤外吸収スペクトル全体を通しても大きな変化がないことを確認した。
【0064】
[実施例7]3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を20mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有するエラストマー組成物から成形した成形品の高濃度オゾンガス耐性の評価
実施例3と同一の成形方法で矩形エラストマー成形品を成形した。高濃度オゾンガスへの曝露試験用のエラストマー成形品として矩形エラストマー成形品を長さが40mm、幅が21mm、厚さが2mmとなるように切断した。乾燥重量は1.940g、表面積はおおよそ1910mmである。エコデザイン株式会社製オゾン発生器ED―OG―R4を利用して毎分300mlの高濃度オゾンガスを発生させた。オゾンガスに含まれる不純物を取り除くためのシリカゲル通過させたオゾンガスを40℃に設定した恒温槽に設置したデシケータ内のエラストマー成形品に対して曝露させた。オゾンガス濃度は体積濃度では約57,000vol-ppmである。曝露時間は24時間とした。8時間毎に曝露試験用のエラストマー成形品をデシケータから取り出し、エスペック株式会社製真空乾燥機LV―120を用いて40℃で24時間以上真空乾燥させたのちに、ザルトリウス株式会社製精密天秤BP211Dによる曝露試験用のエラストマー成形品の重量測定とデジタルマイクロスコープによる表面観察、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製赤外分光分析装置NICOLET iN10MX+NICOLET iZ10による材料の赤外吸収スペクトルから、分子構造解析を行った。これら測定に加えて曝露試験用のエラストマー成形品をオゾンガスに曝露させてから24時間後に、マイクロゴム硬度計とアカシ株式会社デュロメータtypeA・typeDによる硬さ測定を行った。
【0065】
1)重量変化
図11に、オゾンガスに対する曝露時間と曝露試験用のエラストマー成形品の重量との関係を示す。曝露時間にともなう重量変化はほとんどないことを確認した。
【0066】
2)表面観察
図12に、各曝露時間における曝露試験用のエラストマー成形品の表面状態を示す。各曝露時間において表面に亀裂などは確認できなかった。
【0067】
3)硬さ変化
表3に、曝露時間が0時間と24時間の曝露試験用のエラストマー成形品の硬さを示す。試験前後で硬さに大きな変化はなかった。
【表3】
【0068】
4)分子構造解析
図13に、赤外分光分析装置による、各曝露時間における浸漬試験用のエラストマー成形品表面付近の赤外吸収スペクトルを示す。曝露時間が0時間から24時間にかけて得られた赤外吸収スペクトルにおいて、酸化されると変化する1730cm-1付近のカルボニル基を示すピークや、3600cm-1付近のOH基を示すピークに変化はなかった。赤外吸収スペクトル全体を通しても大きな変化がないことを確認した。
【0069】
[実施例8]3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を20mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有するエラストマー組成物から成形した成形品の低濃度オゾンガス耐性の評価
実施例3と同一の成形方法でダンベル形エラストマー成形品を成形した。スガ試験機株式会社製オゾン劣化試験機OMS―LNを使用して、ダンベル形エラストマー成形品の引張ひずみを10%、オゾン濃度を500ppb、試験温度を40℃、試験時間を72時間に設定した条件でオゾンガス曝露試験を実施した。JIS K 6259―1静的オゾン劣化試験における亀裂状態観察法に準じ、ダンベル形エラストマー成形品の表面の亀裂の有無をライカマイクロスコープシステム株式会社製デジタルマイクロスコープDvm6Aで確認した。試験前後のダンベル形エラストマー成形品表面状態を図14に示す。亀裂状態観察法による評価の結果、オゾンガス曝露試験の前後で表面状態は変わらず、表面に亀裂は見られなかった。
【0070】
[実施例9]3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を27mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有するエラストマー組成物から成形した成形品の低濃度オゾンガス耐性の評価
実施例4と同一の成形方法でダンベル形エラストマー成形品を成形した。実施例8と同一の試験方法と同一の評価方法で試験した。試験前後のダンベル形エラストマー成形品表面状態を図15に示す。亀裂状態観察法による評価の結果、試験の前後で表面状態は変わらず、表面に亀裂は見られなかった。
【0071】
[実施例10]3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を8mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有するプラスチック組成物から成形した成形品の高濃度オゾン水耐性の評価
実施例1と同一の成形方法で矩形プラスチック成形品を成形した。高濃度オゾン水への浸漬試験用のプラスチック成形品として矩形プラスチック成形品を長さが40mm、幅が20mm、厚さが2mmとなるように切断した。乾燥重量は1.907g、表面積はおおよそ1840mmである。エコデザイン株式会社製オゾン発生器ED―OG―R4を利用して毎分300mlの高濃度オゾンガスを発生させた。オゾンガスに含まれる不純物を取り除くため、純水を通過させたオゾンガスを、浸漬試験用のプラスチック成形品が浸漬する純水に対して曝気した。水中オゾン濃度は14.9mg/lである。オゾン水温度はおおよそ30℃、浸漬時間は24時間とした。
8時間毎に浸漬試験用のプラスチック成形品をオゾン水から取り出し、エスペック株式会社製真空乾燥機LV―120を用いて40℃で24時間以上真空乾燥させたのちに、ザルトリウス株式会社製精密天秤BP211Dによる浸漬試験用のプラスチック成形品の重量測定とデジタルマイクロスコープによる表面観察、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製赤外分光分析装置NICOLET iN10MX+NICOLET iZ10による材料の赤外吸収スペクトルから、分子構造解析を行った。これら測定に加えて浸漬試験用のプラスチック成形品をオゾン水に浸漬させてから24時間後に、マイクロゴム硬度計とアカシ株式会社デュロメータtypeA・typeDによる硬さ測定を行った。
【0072】
1)重量変化
図16に、オゾン水に対する浸漬時間と浸漬試験用のプラスチック成形品の重量との関係を示す。浸漬時間にともなう重量変化はほとんどないことを確認した。
【0073】
2)表面観察
図17に、各浸漬時間における浸漬試験用のプラスチック成形品の表面状態を示す。各浸漬時間において表面に亀裂などは確認できなかった。
【0074】
3)硬さ変化
表4に、浸漬時間が0時間と24時間の浸漬試験用のプラスチック成形品の硬さを示す。試験前後で硬さに大きな変化はなかった。
【表4】
【0075】
4)分子構造解析
図18に、赤外分光分析装置による、各浸漬時間における浸漬試験用のプラスチック成形品表面付近の赤外吸収スペクトルを示す。浸漬時間が0時間から24時間にかけて得られた赤外吸収スペクトルにおいて、酸化されると変化する1730cm-1付近のカルボニル基を示すピークや、3600cm-1付近のOH基を示すピークに変化はなかった。赤外吸収スペクトル全体を通しても大きな変化がないことを確認した。
【0076】
[実施例11]3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を15mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有するエラストマー組成物から成形した成形品の高濃度オゾン水耐性の評価
実施例2と同一の成形方法で矩形エラストマー成形品を成形した。高濃度オゾン水への浸漬試験用のエラストマー成形品として矩形エラストマー成形品を長さが40mm、幅が20mm、厚さが2mmとなるように切断した。乾燥重量は1.921g、表面積はおおよそ1840mmである。実施例10と同一の測定条件で、重量変化、表面観察、硬さ変化、及び分子構造解析を実施した。
【0077】
1)重量変化
図19に、オゾン水に対する浸漬時間と浸漬試験用のエラストマー成形品の重量との関係を示す。浸漬時間にともなう重量変化はほとんどないことを確認した。
【0078】
2)表面観察
図20に、各浸漬時間における浸漬試験用のエラストマー成形品の表面状態を示す。各浸漬時間において表面に亀裂などは確認できなかった。
【0079】
3)硬さ変化
表5に、浸漬時間が0時間と24時間の浸漬試験用のエラストマー成形品の硬さを示す。試験前後で硬さに大きな変化はなかった。
【表5】
【0080】
4)分子構造解析
図21に赤外分光分析装置による、各浸漬時間における浸漬試験用のエラストマー成形品表面付近の赤外吸収スペクトルを示す。浸漬時間が0時間から24時間にかけて得られた赤外吸収スペクトルにおいて、酸化されると変化する1730cm-1付近のカルボニル基を示すピークや、3600cm-1付近のOH基を示すピークに変化はなかった。赤外吸収スペクトル全体を通しても大きな変化がないことを確認した。
【0081】
[実施例12]3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)を20mol%含むポリヒドロキシアルカン酸を含有するエラストマー組成物から成形した成形品の高濃度オゾン水耐性の評価
実施例3と同一の成形方法で矩形エラストマー成形品を成形した。高濃度オゾン水への浸漬試験用のエラストマー成形品として矩形エラストマー成形品を長さが40mm、幅が20mm、厚さが2mmとなるように切断した。乾燥重量は1.835g、表面積は1840mmである。エコデザイン株式会社製オゾン発生器ED-OG-R4を利用して毎分200mlの高濃度オゾンガスを発生させた。オゾンガスに含まれる不純物を取り除くための純水を通過させたオゾンガスを、浸漬試験用のエラストマー成形品が浸漬する純水に対して曝気した。水中オゾン濃度は13.6mg/lである。オゾン水温度はおおよそ30℃、浸漬時間は24時間とした。
8時間毎に浸漬試験用のエラストマー成形品をオゾン水から取り出し、エスペック株式会社製真空乾燥機LV-120を用いて40℃で24時間以上真空乾燥させたのちに、ザルトリウス株式会社製精密天秤BP211Dによる浸漬試験用のエラストマー成形品の重量測定とデジタルマイクロスコープによる表面観察、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製赤外分光分析装置NICOLET iN10MX+NICOLET iZ10による材料の赤外吸収スペクトルから、分子構造解析を行った。これら測定に加えて浸漬試験用のエラストマー成形品をオゾン水に浸漬させてから24時間後に、マイクロゴム硬度計とアカシ株式会社デュロメータtypeA・typeDによる硬さ測定とブルカージャパン株式会社製FT-NMR装置AVANCENEO500を用いた浸漬試験用のエラストマー成形品の分子構造解析を行った。
【0082】
1)重量変化
図22に、オゾン水に対する浸漬時間と浸漬試験用のエラストマー成形品の重量との関係を示す。浸漬時間の経過にともなう重量変化はほとんどないことを確認した。
2)表面観察
図23に、オゾン水に対する各浸漬時間における浸漬試験用のエラストマー成形品の表面状態を示す。各浸漬時間において表面に亀裂などは確認できなかった。
3)硬さ変化
表6に、オゾン水に対する浸漬時間が0時間と24時間の浸漬試験用のエラストマー成形品の硬さを示す。浸漬試験前後で硬さに大きな変化はなかった。
【0083】
【表6】
【0084】
4)分子構造解析
図24に赤外分光分析装置による、オゾン水に対する各浸漬時間における浸漬試験用のエラストマー成形品表面付近の赤外吸収スペクトルを示す。各浸漬時間(0時間から24時間)で得られた赤外吸収スペクトルにおいて、酸化されると変化する1730cm-1付近のカルボニル基を示すピークや、3600cm-1付近のOH基を示すピークに変化はなかった。赤外吸収スペクトル全体を通しても大きな変化がないことを確認した。図25に、浸漬試験用のエラストマー成形品のH-NMRスペクトルを示す。浸漬時間が0時間のスペクトルと浸漬時間が24時間後のスペクトルではほとんど変化がなかった。また、積分比においてもほとんど変化がなかった。
【0085】
以上の結果から、本発明に係るポリヒドロキシアルカン酸として、実質的に3-ヒドロキシブタン酸及び3-ヒドロキシヘキサン酸のみからなる樹脂組成物は、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の融点を加工の容易な範囲である、約81℃及び約133℃とすることができたことから、加工性に優れたエラストマー組成物として利用でき、市販の射出成形機などの量産機においてもエラストマー成形品が成形できることを確認した。得られたエラストマー成形品の強度特性や硬さについては、合成樹脂からなる市販のエラストマーの一部のグレードと同等の強度特性や硬さを示すことが確認できた。また、本発明に係るエラストマー組成物において、3-ヒドロキシヘキサン酸の含有量を変化させることにより、エラストマー組成物及びその成形品の引張強度や弾性率、伸び、硬さなどの強度特性や柔軟性を変化させることが確認できた。したがって、本発明に係るエラストマー組成物は、ポリヒドロキシアルカン酸の繰り返し単位としての3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)の配合割合を調整し、弾性率や、伸び、硬さを調整することで、様々な使用環境と用途に応じた適用が可能である。さらに、本発明に係る樹脂組成物から成形した成形品は、約61,000vol-ppmの高濃度のオゾンガスや約15mg/lの高濃度のオゾン水に対して、物性や分子構造の変化はなく、優れた耐性を有していることも確認できた。このため、オゾン環境下においても使用可能な成形品として適用ができる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に係るポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を含む樹脂組成物は、3-ヒドロキシヘキサン酸(3-HH)の配合割合を調整することにより、容易に量産できるエラストマー成形品として、自然環境下での生分解性、生体適合性・生体内分解性等に優れると共に、ゴムのような柔軟な強度特性を有し、この柔軟な強度特性を調整することができ、また、可塑性を有するプラスチック成形品としても製造することも可能であり、しかも高い耐オゾン性を有することから、オゾンを利用した除菌、滅菌や殺菌が必要な個所の利用や、オゾン劣化が問題となっている箇所への利用など、多くの産業用途や医療用途に用いることができる。
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
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