(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009343
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】ポリマ、その水溶液およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 220/06 20060101AFI20230113BHJP
C08F 212/08 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
C08F220/06
C08F212/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112508
(22)【出願日】2021-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000187046
【氏名又は名称】東レ・ファインケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】小山内 良隆
(72)【発明者】
【氏名】菅 康和
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AB00Q
4J100AB02Q
4J100AJ02P
4J100AK03P
4J100AK08P
4J100AL03Q
4J100AL04Q
4J100AL08P
4J100AL09P
4J100AQ08P
4J100BA03P
4J100BA08P
4J100BA31P
4J100BA32P
4J100BC03Q
4J100BC04Q
4J100BC08Q
4J100BC49Q
4J100CA04
4J100DA38
4J100DA62
4J100FA19
4J100FA28
4J100FA30
(57)【要約】
【課題】 疎水性の共重合ユニットの含有量が多いにもかかわらず、酸性域でも水溶性を損なわず、かつ透明性を有する水溶性ポリマを提供する。
【解決手段】 疎水性の重合性単量体(A)由来の共重合ユニット(a)10~50モル%と親水性の重合性単量体(B)由来の共重合ユニット(b)50~90モル%からなるポリマあって、該ポリマを水に溶解させたポリマ水溶液のpHを5.5~8.0としたとき、前記ポリマ水溶液の濁度が1.5NTU以下であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性の重合性単量体(A)由来の共重合ユニット(a)10~50モル%と親水性の重合性単量体(B)由来の共重合ユニット(b)50~90モル%からなるポリマあって、該ポリマを水に溶解させたポリマ水溶液のpHを5.5~8.0としたとき、前記ポリマ水溶液の濁度が1.5NTU以下であるポリマ。
【請求項2】
疎水性の重合性単量体(A)が芳香族または脂環族の置換基を有する請求項1に記載のポリマ。
【請求項3】
疎水性の重合性単量体(A)がスチレンである請求項1または2に記載のポリマ。
【請求項4】
親水性の重合性単量体(B)がカルボキシル基を有する請求項1~3のいずれかに記載のポリマ。
【請求項5】
親水性の重合性単量体(B)がアクリル酸である請求項1~4のいずれかに記載のポリマ水溶液。
【請求項6】
重量平均分子量が3,000~20,000である請求項1~5のいずれかに記載のポリマ。
【請求項7】
ポリマ中の共重合ユニット(a)(b)の配列を13C NMRにより求めるとき、配列が(a)-(b)-(a)である3連子の全3連子中の割合(モル%)の、ポリマ中の共重合ユニット(a)の含有量(モル%)に対する比が、0.8以上である請求項1~6のいずれかに記載のポリマ。
【請求項8】
ポリマが水溶性ポリマである請求項1~7のいずれかに記載のポリマ。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載のポリマを水に溶解させたポリマ水溶液であって、ポリマの濃度が10~50質量%であるポリマ水溶液。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載のポリマ14~16質量%と、水86~84質量%を含有するポリマ水溶液。
【請求項11】
疎水性の重合性単量体(A)10~50モル%と親水性の重合性単量体(B)50~90モル%を、界面活性剤を使用しないで共重合するポリマの製造方法。
【請求項12】
25℃での水への溶解量が5.0~50.0g/Lのアルコール性水酸基を有する溶剤中で反応させる請求項11に記載のポリマの製造方法。
【請求項13】
前記溶剤が、炭素数5~6の直鎖または分岐アルコールである請求項12に記載のポリマの製造方法。
【請求項14】
共重合したポリマを、中和処理する請求項11~13のいずれかに記載のポリマの製造方法。
【請求項15】
親水性の重合性単量体(B)由来の共重合ユニットをアルカリ剤で中和する請求項11~14のいずれかに記載のポリマの製造方法。
【請求項16】
前記アルカリ剤が、アンモニアまたはアンモニア水である請求項15記載のポリマの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマ、それを水に溶解した水溶液およびその製造方法に関するものであり、とりわけ疎水性置換基を豊富に有しながら、酸性pHでも水溶性を損なわず、かつ透明な水溶液を得ることができる水溶性ポリマに関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性のポリマは、親水性基を分子中に有するポリマを水に溶かして使用されるものであり、水溶性ポリマとして、ポリビニルアルコール系、ポリアミンやポリアミド系、ポリアクリル酸系などのポリマが見いだされている。とりわけポリアクリル酸系の水溶性ポリマは、水系洗浄剤、スケール抑制剤、無機分散剤、食品添加剤、増粘剤、吸水材など多岐にわたり利用されている。このような用途への適合のため、水溶性ポリマは言うまでもなく水に溶ける性質が重要とされ、いわゆる分散液やエマルジョンなどのように白濁した混合液とは異なり、水に完全に溶解して透明な水溶液となることが必要である。
【0003】
従来、特許文献1や特許文献2のようにアクリル酸を主成分として重合したポリマをアルカリ金属やアンモニアなどのアルカリ剤で中和して水溶化するポリマが提案されている。しかし、これら特許文献のポリマは、各実施例に記載の通り、アクリル酸成分が概ね90%以上含まれるポリマである。ここで、アクリル酸と共重合する他の重合成分が、アミノ基、アミド基、スルホン酸基およびそれらの塩などに由来する水溶性基を有する共重合体ではあまり問題にならないが、それ以外の、水溶性の低い疎水性の重合性単量体を、しかも10%を超えて高比率でポリマを共重合し、そのポリマを完全に水に溶解させることは困難である。また、このような水溶性が低いポリマの場合、特許文献2のようにポリマを溶解させた水溶液のpHを7~10程度の中性~アルカリ性にすることで溶解する場合があるものの、pHが7以下の酸性水溶液で完全に溶解させることは困難である。したがって、使用する用途の物性の観点から、疎水性重合性単量体を10%を超えて共重合し、しかもpHが7以下の酸性水溶液で完全に溶解する水溶性のポリマの確立が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5221184号公報
【特許文献2】特許第6375909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、疎水性の重合性単量体を一定以上共重合したポリマでありながら、酸性域pHの水溶液とした場合でも十分な水溶性を維持するポリマに関する。すなわち、ポリマの水溶性の低下により完全に水溶化させることが困難であった従来のポリマ製品の欠点を克服した水溶性ポリマ、その水溶液およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のポリマは、疎水性の重合性単量体(A)由来の共重合ユニット(a)10~50モル%と親水性の重合性単量体(B)由来の共重合ユニット(b)50~90モル%からなるポリマであって、該ポリマを水に溶解させたポリマ水溶液のpHを5.5~8.0としたとき、前記ポリマ水溶液の濁度が1.5NTU以下であることを特徴とする。
【0007】
本発明のポリマ水溶液によれば、上述したポリマを水に溶解させたポリマ水溶液であって、ポリマの濃度が10~50質量%であるポリマ水溶液が提供される。
【0008】
本発明のポリマの製造方法は、疎水性の重合性単量体(A)10~50モル%と親水性の重合性単量体(B)50~90モル%を、界面活性剤を使用しないで共重合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリマは、10~50モル%の疎水性重合性単量体(A)由来の共重合ユニット(a)を含むポリマでありながら、pHが5~7の酸性域でも水に完全に溶解することができる。このポリマを適用することで、疎水性の重合性単量体ユニットを豊富に含むポリマであり、かつ、従来は中性~アルカリ性領域の水溶液でしか使用できなかった種の共重合ポリマが、弱酸性の水溶液でも使用可能となり、適用できる製品、用途を拡大することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリマは、疎水性の重合性単量体(A)由来の共重合ユニット(a)10~50モル%と親水性の重合性単量体(B)由来の共重合ユニット(b)50~90モル%からなる。
【0011】
本発明において、疎水性の重合性単量体(A)は、25℃での水への溶解量が2.0g/L以下の重合性単量体である。この水への溶解量の値、情報は各原料メーカーの公表しているSDSなどから得ることができる。また、各種単量体の25℃の水1Lに対する溶解量を、OECD(経済協力開発機構)によるテストガイドラインNo.105に準拠して測定してもよい。
【0012】
疎水性の重合性単量体(A)は、好ましくは芳香族または脂環族の置換基を有するとよく、これら置換基に固有の特性を発現することができる。芳香族の置換基として、例えばフェニル基、α-アルキルフェニル基、ナフチル基、等を挙げることができる。また脂環族の置換基として、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基、等のシクロアルキル基;イソボルニル基、ノルボルニル基、ジシクロペンタニル基、等の多環式アルキル基;等を挙げることができる。
【0013】
疎水性の重合性単量体(A)として、例えばアクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル等のメタクリル酸エステル、スチレン、ビニルナフタレン等のビニル基含有単量体などが挙げられる。これらの単量体は単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよく、目的とするポリマの物性発現に応じて適宜選択できるが、汎用性、価格、入手しやすさを考慮すると、スチレンが好ましい。
【0014】
本発明のポリマは、疎水性の重合性単量体(A)由来の共重合ユニット(a)が、ポリマを構成する全重合性単量体100モル%中の10~50モル%、好ましくは15~45モル%、より好ましくは20~40モル%である。共重合ユニット(a)が10モル%未満であると疎水性の重合性単量体(A)に期待する物性が損なわれる傾向にあり、50モル%を超えると共重合したポリマの水への溶解性が低下する傾向にある。
【0015】
本発明において、親水性の重合性単量体(B)は、25℃で水に溶解し、または自由に混和する重合性単量体である。また、中和により塩となることで水溶化する置換基(例えばカルボキシル基、3級アミノ基等)を含有する重合性単量体を含む。この水溶性の特性、水に対する溶解に関する情報は各原料メーカーの公表しているSDSなどから得ることができる。また、各種単量体の25℃の水1Lに対する溶解量を、OECD(経済協力開発機構)によるテストガイドラインNo.105に準拠して測定してもよい。
【0016】
親水性の重合性単量体(B)として、カルボキシル基またはその塩を有する重合性単量体が好ましく挙げられ、例えばアクリル酸、メタクリル酸;アクリル酸-2-ジメチルアミノエチル、アクリル酸-2-ジエチルアミノエチル、メタクリル酸-2-ジメチルアミノエチル、メタクリル酸-2-ジエチルアミノエチル、N-ビニル-2-ピロリドンなどの3級アミン;アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、エチレングリコール誘導体の(メタ)アクリル酸モノエステル等の水酸基含有重合性単量体;などを挙げることができる。
【0017】
ここで、中和により塩となることで水溶化する置換基として、例えばアクリル酸などのカルボキシル基を有する重合性単量体の場合は、アクリル酸アンモニウム塩、アクリル酸ナトリウム塩などの形態となるようアルカリ剤で中和したものを指し、同様にアクリル酸ジメチルアミノエチルのような3級アミノ基を有する重合性単量体の場合は、アクリル酸ジメチルアミノエチルクロライド塩、アクリル酸ジメチルアミノエチルブロマイド塩などが例示される。
【0018】
これらの親水性の重合性単量体(B)、は単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよく、汎用性、価格、入手しやすさを考慮すると、アクリル酸が好ましい。
【0019】
親水性の重合性単量体(B)由来の共重合ユニット(b)は、ポリマを構成する全重合性単量体100モル%中の50~90モル%、好ましくは55~85モル%、より好ましくは60~80モル%である。共重合ユニット(b)が50モル%未満であると水溶性ポリマの水への溶解性が低下する傾向にあり、90モル%を超えると疎水性の重合性単量体(A)に期待する物性が損なわれる傾向にある。
【0020】
本発明のポリマは、そのポリマを水に溶解させたポリマ水溶液のpHを5.5~8.0としたとき、ポリマ水溶液の濁度が1.5NTU以下であることを特徴とする。ここでポリマ水溶液の濁度は、水溶液の濁りの指標であり、NTUは濁度の単位であり、濁度計によって測定することができる。ポリマ水溶液の濁度は、ポリマの水への溶解状態を表しており、一般に、濁度が1.5NTU以下であれば人が目視した場合でもほぼ透明と判断することができるレベルであり、ポリマの溶解状態は良好なものと判断できる。ポリマ水溶液の濁度は、好ましくは1.0NTU以下、より好ましくは0.5NTU以下であるとよい。本明細書において、ポリマ水溶液の濁度は、比濁法によって測定することができ、例えば濁度計、LaMotte社製2020weを使用し、ブランクをイオン交換水にして測定することができる。
【0021】
ポリマ水溶液のpHは、酸、アルカリ剤の添加量によって調整することができる。例えば、アクリル酸が共重合されたポリマにアンモニア水、3級アミン等のアルカリ剤を目的のpHになるまで加えることにより調整することができる。調整するpHが5.5未満になるとポリマの水溶性が著しく低下する傾向があり、8.0を超えても溶解性は損なわないが、酸性~中性で使用したい用途に適合できなくなるため、pHは5.5~8.0、好ましくは5.5~7.5、さらに好ましくは5.5~7.0に調整することが好ましい。
【0022】
本発明のポリマは、重量平均分子量が好ましくは3,000~20,000、より好ましくは5,000~20,000、さらに好ましくは5,000~10,000であるとよい。重量平均分子量が3,000未満であると分子量調整剤や重合開始剤が大量に必要になる、高圧設備を要するなど一般的な設備、条件での作製が困難になる傾向があり、重量平均分子量が20,000を超える場合は水への溶解性を損なう傾向がある。本明細書において、ポリマの重量平均分子量は、実施例に記載された方法により求めることができる。
【0023】
本発明において、ポリマ中の共重合ユニット(a)(b)の配列を13C NMRにより求めるとき、配列が(a)-(b)-(a)である3連子の全3連子中の割合(モル%)の、ポリマ中の共重合ユニット(a)の含有量(モル%)に対する比が、0.8以上であるとよい。ポリマ中の共重合ユニット(a)(b)の配列を13C NMRにより測定すると、理論上、以下の配列を有する3連子が測定される。
(a)-(a)-(a)
(a)-(b)-(a)
(a)-(a)-(b)、または(b)-(a)-(a)
(b)-(a)-(b)
(a)-(b)-(b)、または(b)-(b)-(a)
(b)-(b)-(b)
配列が(a)-(b)-(a)である3連子の全3連子中の割合(モル%)とは、測定された3連子の合計を100モル%としたとき、(a)-(b)-(a)の配列を有する3連子のモル%である。
【0024】
また、ポリマ中の共重合ユニット(a)の含有量(モル%)は、ポリマの共重合比、すなわち13C NMRにより測定される、それぞれの13C NMRスペクトルの面積比に基づき、ポリマ中の共重合ユニット(a)および(b)の含有量の合計100モル%に対する、共重合ユニット(a)の含有量の割合(モル%)である。
【0025】
ポリマ中の共重合ユニット(a)の含有量(モル%)に対する(a)-(b)-(a)の配列を有する3連子の割合(モル%)の比が0.8以上であると、共重合ユニット(a)がポリマ中に良好に分配されていることを意味し、水に対する溶解性を高くすることができる。(a)-(b)-(a)の配列を有する3連子の割合(モル%)の、共重合ユニット(a)の含有量(モル%)に対する比は、0.7以上、さらに好ましくは0.85以上、特に好ましくは0.9以上であるとよい。
【0026】
本明細書において、ポリマ中の共重合ユニット(a)(b)の配列は、以下の装置および条件で測定することができる。
装置:ECA-400(JEOL RESONANCE社製)
測定方法:single 13C pulse with inverse gated 1H decoupling,測定条件は実施例に記載した条件で測定できる。
得られた共重合ユニット(a)、(b)の13C NMRスペクトルのピークを帰属し、それぞれの13C NMRスペクトルの面積比から重合性単量体(A)および(B)の共重合比が算出できる。また、(a)、(b)の13C NMRスペクトル3連子のピークを帰属し、それぞれの13C NMRスペクトル面積比から3連子の比率が算出できる。
【0027】
本発明のポリマは水に溶解する水溶性ポリマである。ここで、「ポリマが水に溶解する」とは、「溶解させた水溶液が無色透明の状態」であることにより、定義することができる。水溶液が無色透明である指標としては、濁度(単位:NTU)で判定できる。一般に、濁度が5NTU以上であれば肉眼で濁りがわかるとされ、濁度が1.5NTU以下であれば目視でほぼ透明と判断できるレベルであり、水に溶解した状態と判断できる。
【0028】
本発明のポリマを水に溶解させることにより、ポリマ水溶液を得ることができる。
このポリマ水溶液は、そのpHを5.5~8.0としたとき、その濁度が1.5NTU以下である。濁度を1.5NTU以下にすることにより目視でほぼ透明と評価することができ、より広い用途へ適用することが可能になる。ポリマ水溶液の濁度は、好ましくは1.0NTU以下、より好ましくは0.5NTU以下、であるとよい。
【0029】
ポリマ水溶液のpHは、酸、アルカリ剤の添加量によって調整することができる。例えば、アクリル酸が共重合されたポリマにアンモニア水、3級アミン等のアルカリ剤を目的のpHになるまで加える方法などが例示できる。調整するpHが5.5未満になるとポリマの水溶性が著しく低下する傾向があり、8.0を超えても溶解性は損なわないが、酸性~中性で使用したい用途に適合できなくなるため、pHは5.5~8.0、好ましくは5.5~7.5、さらに好ましくは5.5~7.0に調整することが好ましい。
【0030】
ポリマ水溶液は、ポリマの濃度が好ましくは10~50質量%、より好ましくは10~30質量%、さらに好ましくは10~20質量%、特に好ましくは14~16質量%であるとよい。ポリマの濃度をこのような範囲内にすることにより、適用用途にとってハンドリングしやすい低粘度のポリマ水溶液となり好ましい。
【0031】
ポリマ水溶液は、ポリマ14~16質量%と水86~84質量%を含有することが、より一層好ましい。ポリマ水溶液のポリマ含有量は、加える水の量を含まれるポリマの濃度に応じて調整することによって、ポリマ濃度14~16%の水溶液を作製することができる。
【0032】
本発明のポリマの製造方法は、上述した特性を有するポリマが得られる製造方法であれば特に限定しないが、ラジカル重合によって重合性単量体(A)および(B)を共重合する方法によって製造することが好ましい。
【0033】
ラジカル重合では、重合開始剤として一般的なアゾ系、パーオキサイド系の重合開始剤が使用できる。また。分子量の調整剤としてチオール化合物、α-メチルスチレンダイマーなどを必要に応じて使用しても良い。
【0034】
本発明のポリマの製造方法は、疎水性の重合性単量体(A)10~50モル%と親水性の重合性単量体(B)50~90モル%を、界面活性剤を使用しないで共重合するとよい。すなわち、水溶液化する際に均一溶解を妨げる界面活性剤を使用しない重合方法により、ポリマを製造することが望ましい。重合の溶媒に水を使用する場合、界面活性剤を使用する乳化重合、懸濁重合などが重合方法として一般的であるが、本発明の水溶性ポリマの製造形態としては、界面活性剤を使用せず、全ての原料が溶剤に溶解した形態で重合反応を行う均一重合が好適であり、溶剤を重合溶媒とする溶液重合で製造することが特に好ましい。
【0035】
ポリマを製造する溶液重合に使用する溶剤は、25℃での水への溶解量が5.0~50.0g/Lのアルコール性水酸基を有する有機溶剤が好ましい。この水への溶解量の値は各原料メーカーの公表しているSDS、溶剤ハンドブックなどから得ることができる。また、各種溶剤の25℃の水1Lに対する溶解量を、OECD(経済協力開発機構)によるテストガイドラインNo.105に準拠して測定してもよい。
【0036】
25℃での水への溶解量が5.0~50.0g/Lのアルコール性水酸基を有する有機溶剤として、例えばアミルアルコール、イソペンチルアルコール、n-ヘキサノール、2-メチル-4-ペンタノールなどの炭素数が5~6の直鎖または分岐アルコールが挙げられる。これらの溶剤は単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよく、実施したい重合温度等に応じて適宜選択できる。
【0037】
ポリマを重合する際の溶剤の使用量は、重合性単量体の総量を100質量部とした場合、好ましくは100~900質量部、より好ましくは150~600質量部、さらに好ましくは200~600質量部使用するとよい。この比率が100質量部未満であると粘度が高くなりハンドリング性を損なう傾向にあり、900質量部を超えると重合性単量体が希薄で重合率不足になる傾向にある。
【0038】
有機溶剤を使用して溶液重合するとき、親水性の重合性単量体(B)をあらかじめ中和処理すると、重合生成したポリマが溶媒に対して溶解性不良となり均一重合を妨げる傾向がある。このため、親水性の重合性単量体(B)を中和処理していない状態で溶液重合することが好ましい。
【0039】
ポリマ水溶液は、上述した製造方法で得られたポリマを必要に応じて水中で中和するなどして水に溶解させることで得ることができる。すなわち、共重合したポリマを中和処理するとよい。一例を挙げれば、親水性の重合性単量体(B)としてカルボキシル基含有単量体を選択して得られたポリマの場合、親水性の重合性単量体(B)由来の共重合ユニットをアルカリ剤で中和することによってポリマに水溶性を付与することが出来る。この場合のアルカリ剤として、例えば、アンモニアまたはアンモニア水を好ましく挙げることができる。ポリマ水溶液のポリマ含有量は、加える水の量を含まれるポリマの濃度に応じて調整することによって調整可能である。
【0040】
ポリマ水溶液の製造方法は、ポリマ含有量、pHを調整可能な方法であれば特に限定されないが、溶剤中で重合したポリマを水で希釈して中和した後、溶媒を液液分離で除く方法が好ましい。溶剤中で重合したポリマを再沈等により溶剤から単離し、水中で中和溶解して作製する方法、溶剤中で重合したポリマを水で希釈して中和した後、溶媒を蒸留等で除く方法も適用できなくはないが、ポリマ重合の際に使用する溶剤の種類によっては複雑な工程になるため好ましくない。
【実施例0041】
以下に実施例で本発明の詳細を説明する。原料は特にことわりがない場合、試薬を用いた。なお、以下の実施例では、測定方法、評価方法等を次の通りとした。
【0042】
1)ポリマ濃度(単位:質量%)
試料の加熱残分(質量%)を測定し、これを重合体の含有濃度(質量%)とした。加熱条件は温度170℃、時間は60分とした。
【0043】
2)重合体の重量平均分子量(Mw)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)「HLC-8220GPC」(東ソー(株)の試験装置)を使用し、キャリアーをテトラヒドロフランとしてマルチポアタイプのカラムを用い測定した。重量平均分子量(Mw)は標準ポリスチレン換算で算出した。
【0044】
3)水溶液のpH
25℃の試料を、pHメーター(HORIBA社製LAQUAact D-71)を使用して測定した。
【0045】
4)水溶液の濁度(単位:NTU)
25℃の試料を、濁度計(2020we:LaMotte社製)を用いて、イオン交換水をブランクとして測定した。
【0046】
5)13C NMR
使用装置:ECA-400(JEOL RESONANCE社製)
測定方法:single 13C pulse with inverse gated 1H decoupling
測定周波数:100.53 MHz
パルス幅:5.78 μs
ロック溶媒:Dimetylsulfoxide(DMSO)-d6
化学シフト基準:DMSO(39.50 ppm)
積算回数:10000回
測定温度:90℃
試料回転数:15 Hz
得られた共重合ユニット(a)、(b)の13C NMRスペクトルのピークを帰属し、それぞれの13C スペクトルの面積比から重合性単量体(A)および(B)の共重合比を算出した。また、(a)、(b)の13C NMRスペクトル3連子のピークを帰属し、それぞれの13C NMRスペクトル面積比から3連子の比率を算出した。
【0047】
[合成例A1]
窒素ガス導入管、還流冷却器、撹拌装置、仕込み口を有する0.5L四つ口フラスコに、メチルイソブチルカルビノール 234gを仕込み、窒素ガスを封入しながら攪拌し、温度を95℃に調節した。次に、アクリル酸 73g、スチレン 27g、メルカプトプロピオン酸 2g、メルカプト酢酸 2g、2,2´-アゾビス(イソブチロニトリル) 2gを三角フラスコに仕込み、均一になるまで溶解混合した。この混合液を3時間かけて95℃の四つ口フラスコ内に滴下した。その後95℃で3時間熟成重合し、ポリマ溶液A1を得た。ポリマ溶液A1は、アクリル酸/スチレン=80/20(モル比)、ポリマ濃度 30.9質量%、重量平均分子量(Mw)4,400で得られた。
【0048】
[合成例A2]
アクリル酸の仕込み量を62g、スチレンの仕込み量を38gとする以外は、合成例A1と同様にして、ポリマ溶液B1を得た。ポリマ溶液B1は、アクリル酸/スチレン=70/30(モル比)、ポリマ濃度 30.8質量%、重量平均分子量(Mw) 5,400であった。
【0049】
[合成例A3]
アクリル酸の仕込み量を51g、スチレンを49gとする以外は、合成例A1と同様にして、ポリマ溶液C1を得た。ポリマ溶液C1はアクリル酸/スチレン=60/40(モル比)、ポリマ濃度 30.4質量%、重量平均分子量(Mw) 6,200であった。
【0050】
[合成例B2]
使用する溶剤をメチルイソブチルカルビノールから、イソプロピルアルコールに変更する以外は、合成例A2と同様にして、ポリマ溶液B2を得た。次に、1Lミキサーにイオン交換水 900g、ポリマ溶液B2 50gを仕込み、10秒ミキシングした。析出したポリマを200メッシュ濾布で濾過回収し、約3Lのイオン交換水中で攪拌水洗した。これを3回繰り返した後、50℃の真空乾燥機で72時間乾燥し、ポリマ粉末B2を得た。ポリマ粉末B2は、アクリル酸/スチレン=70/30(モル比)、ポリマ濃度 99.6質量%、重量平均分子量(Mw) 4,800であった。
【0051】
[合成例B3]
使用する溶剤をメチルイソブチルカルビノールから、イオン交換水およびレオドールTW-O120V(POEソルビタンモノオレエート:花王(株)製)に変更する以外は、合成例A2と同様にして、ポリマスラリB3を得た。ポリマスラリB3はアクリル酸/スチレン=70/30(モル比)、ポリマ濃度 33.1質量%、重量平均分子量(Mw) 4,600であった。
【0052】
<実施例1>
2Lビーカーにポリマ溶液A1 340g、イオン交換水 539gを仕込み攪拌した。液温を20~30℃に保ち28%-アンモニア水 58gを2時間かけて滴下し、その後1時間攪拌を継続して分液ロートに移し室温で静置した。溶液が完全に二相に分離するのを目視確認した後、ポリマが溶解している水槽(重相側)を抜き出し、実施例1の水溶液を得た。実施例1の水溶液は、ポリマ濃度14.5質量%、pHが6.9であった。
【0053】
<実施例2>
ポリマ溶液をB1に変更し、イオン交換水の仕込み量を485g、28%-アンモニア水の仕込み量を27gとする以外は、実施例1と同様の方法で実施例2のポリマ水溶液を得た。実施例2の水溶液は、ポリマ濃度14.8質量%、pHが5.6であった。
【0054】
<実施例3>
イオン交換水の仕込み量を530g、28%-アンモニア水の仕込み量を38gとする以外は、実施例2と同様の方法で実施例3のポリマ水溶液を得た。実施例3の水溶液は、ポリマ濃度14.6質量%、pHが6.1であった。
【0055】
<実施例4>
イオン交換水の仕込み量を548g、28%-アンモニア水の仕込み量を49gとする以外は、実施例2と同様の方法で実施例4のポリマ水溶液を得た。実施例4の水溶液は、ポリマ濃度14.6質量%、pHが6.8であった。
【0056】
<実施例5>
イオン交換水の仕込み量を546g、28%-アンモニア水の仕込み量を55gとする以外は、実施例2と同様の方法で実施例5のポリマ水溶液を得た。実施例5の水溶液は、ポリマ濃度14.6質量%、pHが7.9であった。
【0057】
<実施例6>
ポリマ溶液をC1に変更し、イオン交換水の仕込み量を556g、28%-アンモニア水の仕込み量を41gとする以外は、実施例1と同様の方法で実施例6のポリマ水溶液を得た。実施例6の水溶液は、ポリマ濃度14.4質量%、pHが7.3であった。
【0058】
<比較例1>
イオン交換水の仕込み量を452g、28%-アンモニア水の仕込み量を22gとする以外は、実施例2と同様の方法で比較例1のポリマ水溶液を得た。比較例1の水溶液は、ポリマ濃度14.7質量%、pHが5.4であった。
【0059】
<比較例2>
2Lビーカーにポリマ粉末B2 100g、イオン交換水 515gを仕込み攪拌した。液温を20~30℃に保ち28%-アンモニア水 50gを2時間かけて滴下し、その後3時間攪拌を継続して比較例2の水溶液を得た。比較例2の水溶液は、ポリマ濃度15.1質量%、pHが7.3であった。
【0060】
<比較例3>
2LビーカーにポリマスラリB3 340g、イオン交換水 300gを仕込み攪拌した。液温を20~30℃に保ち28%-アンモニア水 60gを2時間かけて滴下し、その後3時間攪拌を継続して比較例3の水溶液を得た。比較例3の水溶液は、ポリマ濃度15.1質量%、pHが8.5であった。
【0061】
以上の合成例については表1に、実施例および比較例の合成結果および濁度の評価結果については、表2および表3に示す。
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
実施例1~6のポリマでは、疎水性の重合性単量体を20~40モル%も含む重合体でありながら、その水溶液は濁度が極めて小さく、水に高い溶解性を有するものであることがわかる。また、実施例2、3、および4から、本発明の水溶性ポリマはpHが酸性であっても、水に対して高い溶解性を発現していることがわかる。
【0066】
一方、比較例1のように中和が不十分でpHが低すぎる場合は濁度が高くなり、溶解性が低下することがわかる。このことからpHには適正な領域があることがわかる。
【0067】
また、比較例2のように重合時に水溶性アルコールを溶剤とした場合や、比較例3のように界面活性剤を使用した重合形態の場合などは濁度が高くなることがわかり、共重合組成としては同様なポリマであっても水溶性が異なるポリマがあり、本発明のポリマは水溶性を特に発現するポリマであることがわかる。これについては次のように考察する。
【0068】
表4に疎水性アルコール中で重合した合成例B1のポリマB1と親水性のアルコール中で重合した合成例B2のポリマB2を13C NMRで測定した結果から算出した共重合比率(%)と共重合連鎖の比率(3連子比率(%))を示す。表中、「S」は、スチレンユニット、すなわち疎水性の重合性単量体(A)由来の共重合ユニット(a)を表わし、「A」は、アクリル酸ユニット、すなわち親水性の重合性単量体(B)由来の共重合ユニット(b)を表わす。
【0069】
【0070】
疎水性アルコール中で重合した合成例B1のポリマB1は、配列が(a)-(b)-(a)である3連子[表中、SAS]の全3連子中の割合(モル%)が27モル%、ポリマB1中の共重合ユニット(a)の含有量(モル%)[表中、Sの共重合比率]が30モル%であり、Sの共重合比率に対するSAS連鎖の3連子比率の比[SAS/S]は、0.90である。
【0071】
一方、親水性のアルコール中で重合した合成例B2のポリマB2は、配列が(a)-(b)-(a)である3連子[表中、SAS]の全3連子中の割合(モル%)が21モル%、ポリマB2中の共重合ユニット(a)の含有量(モル%)[表中、Sの共重合比率]が31モル%であり、Sの共重合比率に対するSAS連鎖の3連子比率の比[SAS/S]は、0.68である。
【0072】
ポリマB1とポリマB2はアクリル酸/スチレン=70/30で重合させたものであり、13C NMRの結果からどちらのポリマもほぼ70/30の共重合比で重合された同様のポリマであるといえる。しかし、3連子の比率を見るとポリマB2に比較し、ポリマB1がSASの連鎖が多いことがわかる。このSASの連鎖が、30モル%共重合されているスチレン比率に近いほど、すなわち比[SAS/S]が好ましくは0.8以上であれば、アクリル酸とスチレンの交互性の高いポリマ構造になっていると推測される。従って、SASの連鎖の比率がスチレンの共重合比率により近く比[SAS/S]が0.8以上であるポリマB1は、比[SAS/S]が0.8未満であるポリマB2に比べ、スチレンの偏りが少ない形となっている。この結果が、ポリマB1が高い水溶性を示す一因となっていると考察される。