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特開2023-93473インテグリン結合ペプチド及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093473
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】インテグリン結合ペプチド及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20230627BHJP
   C07K 7/04 20060101ALI20230627BHJP
   C07K 7/52 20060101ALI20230627BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20230627BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20230627BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230627BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230627BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20230627BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230627BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C07K7/04 ZNA
C07K7/52
A61K38/08
A61K38/10
A61P29/00
A61P35/00
A61K49/00
A61P1/16
G01N33/53 Y
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023051878
(22)【出願日】2023-03-28
(62)【分割の表示】P 2021048450の分割
【原出願日】2016-10-21
(31)【優先権主張番号】15191256.5
(32)【優先日】2015-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】517318414
【氏名又は名称】ウニフェルシタイト・トゥヴェンテ
(71)【出願人】
【識別番号】518142454
【氏名又は名称】ジャイ・プラカシュ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジャイ・プラカシュ
(57)【要約】
【課題】1つには、インテグリン結合ペプチド、特にITGA5、ITGA11、α5β1インテグリン及びα11β1結合ペプチドを提供すること。
【解決手段】本発明は、インテグリン結合ペプチド、そのペプチドを含む医薬品組成物、並びに治療剤、診断剤、画像化剤及び標的化剤としてのその使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
6~25個のアミノ酸からなり、アミノ酸配列TTVRYYRITYGETGGNを含むか又は前記アミノ酸配列の変異体を含む、単離又は組換えインテグリンアルファ5(ITGA5)結合ペプチドであって、前記変異体が、
- 前記配列の6~16個の連続アミノ酸からなり、前記6~16個の連続アミノ酸が、少なくとも前記配列の5~10位のアミノ酸を含み、
- 前記配列の1、2、3、4、5、7、8、10、11、12、13、14、15及び16位のアミノ酸から選択される前記6~16個の連続アミノ酸の或るアミノ酸の、他のアミノ酸による最大3個の置換を有し、それにより、前記変異体の前記アミノ酸の最大で25%が、他のアミノ酸によって置換されている、
ペプチド。
【請求項2】
アミノ酸配列TTVRYYRITYGETGGNの前記変異体が、前記配列の1、2、4、5、6、7、8、9、11及び12位のアミノ酸から選択される或るアミノ酸の、他のアミノ酸による最大1個の置換を有する、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
前記ITGA5結合ペプチドが、RYYRITY、RYYRITYC、TTVRYYRITYGE及びYYRITYGETGGNからなる群から選択されるアミノ酸配列からなる、請求項1又は2に記載のペプチド。
【請求項4】
- 前記配列の4位の及び/若しくは7位のアルギニンが、リジン、ヒスチジン及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸によって、若しくは対応する非天然アミノ酸によって置き換えられ、並びに/又は
- 前記配列の5位の及び/若しくは10位のチロシンが、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン及びトリプトファンからなる群から選択されるアミノ酸によって、若しくは対応する非天然アミノ酸によって置き換えられ、並びに/又は
- 前記配列の8位のイソロイシンが、アラニン、バリン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファンからなる群から選択されるアミノ酸によって、若しくは対応する非天然アミノ酸によって置き換えられる、
請求項1又は2に記載のペプチド。
【請求項5】
前記ペプチドが、α5β1インテグリン及び/又はITGA5阻害活性を有し、好ましくは、前記阻害活性が、α5β1インテグリン及び/又はITGA5の、線維芽細胞、星状細胞、筋線維芽細胞、周皮細胞及び/又は間葉系起源の他の細胞への結合の阻害を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項6】
環式又は二環式ペプチドである、請求項1から5のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか一項に記載の2つのペプチドを含む、二量体ペプチド。
【請求項8】
前記二量体ペプチドの前記2つのペプチドの各々が、システイン残基を含む、請求項7に記載の二量体ペプチド。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載のペプチド又は二量体ペプチドを含む、化合物。
【請求項10】
少なくとも1つのさらなる部分を含む、請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
前記少なくとも1つのさらなる部分が、標識、リンカー、N末端修飾、C末端修飾、及び/又は内部修飾を含む、請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
前記化合物が、ナノ粒子、微粒子、ナノカプセル、ナノ複合体、ポリプレックス、カーボンナノチューブ、量子ドット、マイクロカプセル、リポソーム、ミクロスフェア、ヒドロゲル、ポリマー、ミセル、デンドリマー、脂質複合体、血清アルブミン、抗体、抗体フラグメント、シクロデキストリン及びデキストランからなる群から選択される担体に結合された又はその中にカプセル化された、前記ペプチド又は二量体ペプチドを含む、請求項9から11のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項13】
請求項1から6のいずれか一項に記載のペプチドをコードする核酸配列を含む、核酸分子。
【請求項14】
請求項1から8のいずれか一項に記載のペプチド若しくは二量体ペプチド若しくはその薬学的に許容される塩、請求項9から12のいずれか一項に記載の化合物、又は請求項13に記載の核酸分子、並びに少なくとも1つの薬学的に許容される担体、希釈剤及び/又は賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項15】
治療剤、予防剤又は診断剤としての使用のための、請求項1から8のいずれか一項に記載のペプチド若しくは二量体ペプチド、請求項9から12のいずれか一項に記載の化合物、又は請求項13に記載の核酸分子。
【請求項16】
線維症若しくは線維症関連疾患、炎症性疾患又はがんの治療又は予防における使用のための、請求項1から8のいずれか一項に記載のペプチド若しくは二量体ペプチド、請求項9から12のいずれか一項に記載の化合物、又は請求項13に記載の核酸分子。
【請求項17】
画像化剤又は標的化剤としての、請求項1から8のいずれか一項に記載のペプチド又は二量体ペプチドの使用。
【請求項18】
インテグリンアルファ5(ITGA5)を発現する組織を画像化する方法であって、請求項1から8のいずれか一項に記載のペプチド又は二量体ペプチドと前記組織を接触させることによる、方法。
【請求項19】
前記組織が、α5β1インテグリンを発現する、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学及び医学の分野に関する。より詳細には、本発明は、インテグリン結合ペプチドの分野に関し、線維症、線維症関連障害、炎症性疾患又はがんの処置又は予防に関する。
【背景技術】
【0002】
インテグリンは、細胞-細胞相互作用及び細胞-マトリックス相互作用を媒介する糖タンパク質膜貫通受容体のファミリーである。インテグリンは、2つの異なる鎖、αサブユニット及びβサブユニットを有するヘテロ二量体である。哺乳動物においては、18個のαサブユニットと8個のβサブユニットが記載されている。
【0003】
インテグリンα11(α11)であるITGA11は、1166アミノ酸長(145kDa)の膜結合受容体である。ITGA11受容体は、FG-GAPの7つのリピート、23アミノ酸の膜貫通領域、及び24アミノ酸の細胞質側末端を有する大きな細胞外ドメインを含有する。細胞質側末端は、他のアルファ鎖と比べて高度に保存されている。α11受容体は、共受容体インテグリンベータ1(β1)と会合し、この二量体受容体α11β1はコラーゲンI型に結合する。インテグリンβ1は、多くのインテグリンα受容体との共同パートナーであり、多くの組織によって発現されている。しかし、ITGA11の発現は、高度に構築された間質性コラーゲンネットワークの領域の間葉系非筋肉細胞に限定されることが明らかになっている(Tiger CFら、Dev Biol 2001, 237(1): 116~129頁)。
【0004】
ITGA11は、間葉系非筋肉細胞の細胞接着、移動及びコラーゲン再構築に関与している。非筋肉間葉系細胞は、線維性疾患、例えば、肝線維症、腎線維症、心筋線維症、アテローム性動脈硬化症、及び他の線維性疾患等に見られる筋線維芽細胞を主として含む。更に、非悪性腫瘍成分である腫瘍間質は、大部分ががん関連線維芽細胞(CAF)と呼ばれる筋線維芽細胞から構成されている。CAFは、間質の前駆腫瘍形成作用を担う腫瘍間質における最も顕著な細胞型である。肺がん(小細胞肺がん及び非小細胞肺がん)においては、ITGA11の発現がCAFでアップレギュレートされていることがわかっている(Zhu CQら、PNAS 2007, 104(28): 11754~11759頁;Navab Rら、PNAS 2011, 108(17): 7160~7165頁)。他のタイプのがんにITGA11が関与する可能性はあるが、まだ探求されてはいない。更に、高レベルのITGA11発現が、糖尿病性心筋症及び腎線維症に存在する筋線維芽細胞において明らかになっている(Talior-Volodarsky Iら、Cardiovasc Res 2012, 96(2):265~275頁;Svendsen OSら、Arterioscler Thromb Vase Biol 2009, 29(11): 1864~1870頁)。また他の線維性疾患、例えば、特発性肺疾患、肝線維症及び皮膚線維症等においてITGA11の発現レベルが高い可能性がある。
【0005】
インテグリンα5β1は、サブユニットITGA5(インテグリンα5)及びインテグリンβ1からなる。いくつかのインテグリンはフィブロネクチンに結合するが、α5β1は、相互作用にフィブロネクチンの9番目及び10番目のII型リピート(FNIII-9及びFNIII-10)の両方を必要とするので、フィブロネクチンに対して選択的である。α5β1インテグリンの発現は、主として脈管構造及び結合組織においてである。発現は腫瘍血管において有意に増強されるが、結腸、乳房、卵巣、肺及び脳の腫瘍を含む多くのタイプのがんの腫瘍細胞そのものにおいても増強される。またα5β1インテグリンは、線維芽細胞、造血細胞、免疫細胞、平滑筋細胞、及び上皮細胞を含む多くの細胞型において、様々な程度で更に発現される。α5β1インテグリンの高発現はまた、肺線維症等の線維性組織で観察されている。
【0006】
組織において、正常な線維芽細胞はわずか4~5%の低占有率で存在する。しかし、線維症時にそれらは増殖し、臓器質量の80~90%を占める可能性がある。線維化組織の筋線維芽細胞は、組織を瘢痕化し、機能不全にする多量の細胞外マトリックスタンパク質を産生する。筋線維芽細胞を阻害すると、これらのプロセスを妨げることができる。がんにおいて、腫瘍間質は主として間質筋線維芽細胞(又はCAF)からなり、細胞外マトリックスは乳がん及び膵臓がん等のいくつかのがんのタイプで腫瘍の最大80%を占める可能性がある。CAFは、腫瘍増殖及び転移を刺激するが、がん細胞に化学療法に対する耐性も付与する。したがって、CAF活性を阻害することは、それらの前腫瘍活性をブロックする極めて興味深いアプローチである。更に、CAFは安定的且つ多量に発現される標的であり、画像技術を使用したそれらの検出は、がんに対する新規診断システムにつながり得る。したがって、筋線維芽細胞又はCAFへの画像化剤又は治療剤の特異的送達は、がん及び線維性疾患に対する新規な診断及び治療システムを開発するための極めて興味深いアプローチである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Tiger CFら、Dev Biol 2001, 237(1): 116~129頁
【非特許文献2】Zhu CQら、PNAS 2007, 104(28): 11754~11759頁
【非特許文献3】Navab Rら、PNAS 2011, 108(17): 7160~7165頁
【非特許文献4】Talior-Volodarsky Iら、Cardiovasc Res 2012, 96(2):265~275頁
【非特許文献5】Svendsen OSら、Arterioscler Thromb Vase Biol 2009, 29(11): 1864~1870頁
【非特許文献6】Merrifield (1963)、J. Am. Chem. Soc. 85: 2149~2156頁
【非特許文献7】Athertonら、「Solid Phase Peptide Synthesis」、IRL Press, London, (1989)
【非特許文献8】JPT Technologies社(Berlin Germany)の「Protocol Multiwell Peptide Microarrays」https://www.jpt.com/fileadmin/Multiwell-Peptide-Microarray_Protocol_Rev_1.0_V06.pdf
【非特許文献9】Nagaeら、2012 J. Cell Biol. 131~140頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、インテグリン結合ペプチド、特にITGA5、ITGA11、α5β1インテグリン及びα11β1結合ペプチドを提供することである。このようなペプチドは、例えば、腫瘍疾患及び線維性疾患の診断及び療法、画像誘導手術、画像誘導薬剤送達、画像診断剤又は治療剤の標的送達において幅広く使用される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明は、5~25個のアミノ酸を有する単離又は組換えインテグリンアルファ11(ITGA11)結合ペプチドであって、
- 前記ペプチドが、アミノ酸配列SGLTEWLRWFNS又は前記配列の変異体を含み、前記変異体が:
- 前記配列の5~12個の連続アミノ酸からなり、前記5~12個の連続アミノ酸が少なくとも前記配列の7~9位のアミノ酸を含み、
- 前記配列の1、2、4、5、6、7、8、9、11及び12位のアミノ酸から選択される前記5~12個の連続アミノ酸のアミノ酸の、他のアミノ酸による3個以下の置換を有し、又は、
- 前記ペプチドが、アミノ酸配列SFATWTPNFERN又は前記配列の変異体を含み、前記変異体が、前記配列の5~12個の連続アミノ酸からなり、アミノ酸の他のアミノ酸による3個以下の置換を有する、
ペプチドを提供する。
【0010】
さらなる態様において、本発明は、6~25個のアミノ酸を有し、アミノ酸配列TTVRYYRITYGETGGNを含むか若しくは前記アミノ酸配列の変異体を含み、前記変異体が:
- 前記配列の6~16個の連続アミノ酸からなり、前記6~16個の連続アミノ酸が少なくとも前記配列の5~10位のアミノ酸を含み、
- 前記配列の1、2、3、4、5、7、8、10、11、12、13、14、15及び16位のアミノ酸から選択される前記6~16個の連続アミノ酸のアミノ酸の、他のアミノ酸による3個以下の置換を有する、
単離又は組換えインテグリンアルファ5(ITGA5)結合ペプチドを提供する。
【0011】
またさらなる態様において、本発明は、本発明による少なくとも2つのペプチドを含む多量体ペプチド、好ましくは本発明による2つのペプチドを含む二量体ペプチドを提供する。
【0012】
またさらなる態様において、本発明は、本発明によるペプチド又は多量体ペプチドを含む化合物を提供する。好ましい化合物は、少なくとも1つのさらなる部分、例えば、標識、リンカー、N末端若しくはC末端修飾、又は内部修飾を含むのが好ましい。前記化合物は、好ましくは、ナノ粒子、微粒子、ナノカプセル、ナノ複合体、ポリプレックス、カーボンナノチューブ、量子ドット、マイクロカプセル、リポソーム、ミクロスフェア、ヒドロゲル、ポリマー、ミセル、デンドリマー、脂質複合体、血清アルブミン、抗体、抗体フラグメント、シクロデキストリン及びデキストランからなる群から選択される担体に結合又はカプセル化された前記ペプチド又は多量体ペプチドを含む。
【0013】
またさらなる態様において、本発明は、本発明によるペプチドをコードしている核酸配列を含む核酸分子、本発明による核酸分子を含むベクター、並びに本発明による核酸分子及び/又はベクターを含む組換え宿主細胞を提供する。
【0014】
またさらなる態様において、本発明は、本発明によるペプチド、多量体ペプチド、化合物又は核酸分子と、少なくとも1つの薬学的に許容される担体、希釈剤及び/又は賦形剤とを含む、医薬品組成物を提供する。
【0015】
またさらなる態様において、本発明は、治療剤、予防剤又は診断剤として使用するための本発明によるペプチド、多量体ペプチド又は核酸分子を提供する。前記薬剤は、好ましくは、線維症若しくは線維症関連疾患、炎症性疾患又はがんの処理又は予防で使用するためのものである。
【0016】
またさらなる態様において、本発明は、画像診断剤又は標的化剤としての、本発明によるペプチド又は多量体ペプチドの使用を提供する。
【0017】
またさらなる態様において、本発明は、インテグリンアルファ5(ITGA5)又はインテグリンアルファ11(ITGA11)を発現する、好ましくはα5β1又はα11β1インテグリンを発現する組織を、本発明によるペプチド又は多量体ペプチドと前記組織とを接触させることにより画像化する方法を提供する。
【0018】
またさらなる態様において、本発明は、線維症若しくは線維症関連疾患、炎症性疾患又はがんに罹患している対象を処置するための方法であって、前記対象に、治療有効量の本発明によるペプチド、多量体ペプチド、核酸分子又は医薬品組成物を投与する工程を含む、方法を提供する。
【0019】
またさらなる態様において、本発明は、本発明によるペプチドを調製するための方法であって、
- 本発明によるペプチドをコードしている核酸配列を含む核酸分子を提供する工程と;
- 前記核酸分子で宿主細胞を形質転換する工程と;
- 前記ペプチドを発現させる条件下で前記宿主細胞を培養する工程と;
- 前記細胞から前記ペプチドを回収する工程と
を含む、方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
詳細な説明
本発明者らは、ITGA11が肝線維症及び肝硬変症及び膵臓がんにおいて発現されること、星状細胞でのITGA11発現がTGFβ1による活性化後にCCl-4誘導性肝線維症において増加されることを見出した。更に、配列SGLTEWLRWFNS又はSFATWTPNFERNを有するペプチド及びその変異体がITGA11に対して高親和性で結合することも見出した。また、この配列の少なくとも5個の連続アミノ酸を有するペプチドSGLTEWLRWFNSのより短い変異体が結合能力を維持すること、又は更に結合能力を増加させることもわかった。本発明によるこのようなATGA11結合ペプチドは、インテグリンのαサブユニット(α11)に結合するが、多くのインテグリンに存在するβ1には結合しないという利点を有する。したがって、本発明によるATGA11結合ペプチドは、α11β1インテグリンに高度に特異的である。ITGA11は腫瘍及び線維性疾患において筋線維芽細胞により高度に発現されるので、本発明によるITGA11結合ペプチドを使用するITGA11の標的化は、腫瘍細胞及び繊維性組織細胞を標的とする最適な方法である。
【0021】
本発明のITGA11結合ペプチドは、抗線維化作用を有することが更に見出された。実施例で明らかにしたように、ペプチドAXI-I(SGLTEWLRWFNS)は、TGFβによる活性化後のコラーゲン発現の低下で示したとおりLX2細胞の活性化を阻害することが示された(図8A)。更に、このペプチドは、CC14誘導性肝線維症モデルにおいて実証されたように、筋線維芽細胞のマーカーであるITGA5及びITGA11の遺伝子発現の低下、並びに肝臓におけるコラーゲン-I及びIIIのタンパク質発現の低下により、線維形成を低減することを示した(図8B)。
【0022】
したがって、第1の態様において、本発明は、5~25個のアミノ酸を有し、アミノ酸配列SGLTEWLRWFNS又は前記配列の変異体を含み、前記変異体が:
- 前記配列の5~12個の連続アミノ酸からなり、前記5~12個の連続アミノ酸が少なくとも前記配列の7~9位のアミノ酸を含み、
- 前記配列の1、2、4、5、6、7、8、9、11及び12位のアミノ酸から選択される前記5~12個の連続アミノ酸のアミノ酸の、他のアミノ酸による3個以下の置換を有する、
単離又は組換えインテグリンアルファ11(ITGA11)結合ペプチドを提供する。前記ペプチドは、好ましくは、配列MSLRWFNSGSVRPATTILFPからなることはない。
【0023】
配列SGLTEWLRWFNSの変異体は、前記配列の5~12個の連続アミノ酸を有する。好ましくは、前記変異体は前記配列の6~12個の連続アミノ酸を有し、より好ましくは前記配列の7~12個の連続アミノ酸を有し、より好ましくは前記配列の8~12個の連続アミノ酸を有し、より好ましくは前記配列の9~12個の連続アミノ酸を有し、より好ましくは前記配列の10~12個の連続アミノ酸を有し、例えば、前記配列の10、11又は12個の連続アミノ酸を有する。特に好ましいITGA11結合ペプチドは、配列SGLTEWLRWFNSの5~12個、好ましくは6~12個、例えば7~12個、8~12個、9~12個、10~12個、11~12個又は12個の連続アミノ酸からなる。
【0024】
配列SGLTEWLRWFNSの変異体は、少なくとも前記配列の7~9位のアミノ酸を更に含む。したがって、前記変異体は、任意選択により本明細書で定義した1~3個の置換を有し、好ましくは本明細書で定義した1個又は2個のアミノ酸置換を有し、より好ましくは本明細書で定義した1個のアミノ酸置換を有する、少なくともアミノ酸配列LRWを含む。好ましくは、前記変異体は、少なくとも前記配列の6~9位のアミノ酸を含み、すなわち、変異体は、任意選択により本明細書で定義した1~3個の置換を有し、好ましくは本明細書で定義した1個又は2個のアミノ酸置換を有し、より好ましくは本明細書で定義した1個のアミノ酸置換を有する、少なくともアミノ酸配列WLRWを含む。一実施形態において、変異体は少なくとも配列WLRWを含む。
【0025】
配列SGLTEWLRWFNSの変異体は、前記5~12個の連続アミノ酸のアミノ酸の、他のアミノ酸による3個以下の置換を更に有する。前記3個以下の置換は、配列SGLTEWLRWFNSの1、2、4、5、6、7、8、9、11及び12位のアミノ酸から選択される。好ましくは、本明細書で定義した配列SGLTEWLRWFNSの変異体は、アミノ酸置換を有さないか又は1若しくは2個の前記アミノ酸置換を有し、より好ましくは、アミノ酸置換を有さないか又は1個の前記アミノ酸置換を有する。更に、好ましくは、本発明による配列SGLTEWLRWFNSの前記変異体のアミノ酸の最大25%が他のアミノ酸により置換されている。さらなる好ましい実施形態において、本発明による配列SGLTEWLRWFNSの前記変異体のアミノ酸の最大20%が他のアミノ酸により置換されている。さらなる好ましい実施形態において、本発明による配列SGLTEWLRWFNSの前記変異体のアミノ酸の最大150%が他のアミノ酸により置換されている。さらなる好ましい実施形態において、本発明による配列SGLTEWLRWFNSの前記変異体のアミノ酸の最大10%が他のアミノ酸により置換されている。
【0026】
前記配列中に少なくとも1個のアミノ酸置換を有する前記配列SGLTEWLRWFNSの変異体は、好ましくは3個以下、より好ましくは1若しくは2個の保存的アミノ酸置換、アラニンによる置換又は対応する非天然アミノ酸による置換を含む。特に好ましい実施形態において、前記変異体は、前記アミノ酸置換の1個を有するか、又はアミノ酸置換を有さない。
【0027】
より好ましくは、前記配列中に少なくとも1個のアミノ酸置換を有する前記配列SGLTEWLRWFNSの変異体は、好ましくは以下のアミノ酸置換の3個以下、より好ましくは1又は2個、より好ましくは1個を含む:
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの1位及び/又は12位のセリンが、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、アラニン、バリン、イソロイシン及びロイシンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの2位のグリシンが、プロリン、アラニン、システイン、セリン、トレオニン、アスパラギン、アスパラギン酸及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの4位のトレオニンが、セリン、アスパラギン、グルタミン、アラニン、バリン、イソロイシン及びロイシンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの5位のグルタミン酸が、アスパラギン酸、アラニン、バリン、イソロイシン及びロイシンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの6位及び/又は9位のトリプトファンが、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン及びチロシンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの7位のロイシンが、アルギニン、リジン、ヒスチジン、アラニン、バリン及びイソロイシンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの8位のアルギニンが、リジン、ヒスチジン、アラニン、バリン、イソロイシン及びロイシンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの11位のアスパラギンが、プロリン、アラニン、システイン、グリシン、セリン、トレオニン、アスパラギン酸及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられている。
【0028】
より好ましくは、前記配列中に少なくとも1個のアミノ酸置換を有する前記配列SGLTEWLRWFNSの変異体は、好ましくは以下のアミノ酸置換の3個以下、より好ましくは1又は2個を含む:
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの1位及び/又は12位のセリンが、トレオニン、アスパラギン、グルタミン及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの2位のグリシンが、プロリン、アラニン、システイン、セリン、トレオニン、アスパラギン及びアスパラギン酸からなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの4位のトレオニンが、セリン、アスパラギン、グルタミン及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの5位のグルタミン酸が、アスパラギン酸及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの6位及び/又は9位のトリプトファンが、アラニン、フェニルアラニン及びチロシンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの7位のロイシンが、アラニン、バリン、イソロイシン及びメチオニンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの8位のアルギニンが、リジン、ヒスチジン及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの11位のアスパラギンが、トレオニン、セリン、グルタミン及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられている。
【0029】
より好ましくは、前記配列中に少なくとも1個のアミノ酸置換を有する前記配列SGLTEWLRWFNSの変異体は、好ましくは以下のアミノ酸置換の3個以下、より好ましくは1又は2個を含む:
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの1位及び/又は12位のセリンが、トレオニン、アスパラギン、グルタミン及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの2位のグリシンが、プロリン、アラニン、システイン、セリン、トレオニン、アスパラギン及びアスパラギン酸からなる群から選択されるアミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの4位のトレオニンが、セリン、アスパラギン、グルタミン及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの5位のグルタミン酸が、アスパラギン酸及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの6位及び/又は9位のトリプトファンが、アラニン、フェニルアラニン及びチロシンからなる群から選択されるアミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの7位のロイシンが、アラニン、バリン、イソロイシン及びメチオニンからなる群から選択されるアミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの8位のアルギニンが、リジン、ヒスチジン及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの11位のアスパラギンが、トレオニン、セリン、グルタミン及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸により置き換えられている。
【0030】
好ましい実施形態において、配列SGLTEWLRWFNSの変異体の前記1、2又は3個のアミノ酸置換、好ましくは1又は2個の置換、より好ましくは1個の置換は、配列SGLTEWLRWFNSの1、2、4、5、6、7、8、9、11及び12位のアミノ酸のアミノ酸のアラニンによるものである。
【0031】
本発明による配列SGLTEWLRWFNSペプチドの変異体は、好ましくは、前記配列の1、2、4、5、6、7、8、9、11及び12位のアミノ酸から選択されるアミノ酸の本明細書で定義した他のアミノ酸による3個以下の置換、好ましくは2個以下の置換、好ましくは1個の置換を有するアミノ酸配列SGLTEWLRWFNSの12個すべてのアミノ酸からなる。
【0032】
本発明による好ましいITGA11結合ペプチドは、アミノ酸配列SGLTEWLRWFNS又は本明細書で定義した前記配列の変異体を含む。本発明の特に好ましいITGA11結合ペプチドは、配列SGLTEWLRWFNSからなるか、又は本明細書で定義した前記配列の変異体からなる。
【0033】
配列SGLTEWLRWFNSの特に好ましい変異体は、table 1(表1)の配列から選択される配列を有する。本発明による特に好ましいITGA11結合ペプチドは、table 1(表1)の配列から選択される配列からなる。
【0034】
特に好ましい実施形態において、6~12個のアミノ酸を有し、アミノ酸配列SGLTEWLRWFNS又は前記配列の変異体を含み、前記変異体が:
- 前記配列の6~12個の連続アミノ酸からなり、前記6~12個の連続アミノ酸が少なくとも前記配列の6~9位のアミノ酸を含み、
- 任意選択により、前記6~12個の連続アミノ酸のアミノ酸の3個以下の置換、好ましくは1又は2個の置換、より好ましくは1個の置換を有し、それにより、前記アミノ酸置換が、
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの1位及び/又は12位のセリンの、トレオニン、アスパラギン、グルタミン及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸、好ましくはアラニンによる置換、
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの2位のグリシンの、プロリン、アラニン、システイン、セリン、トレオニン、アスパラギン及びアスパラギン酸からなる群から選択されるアミノ酸、好ましくはアラニンによる置換、
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの4位のトレオニンの、セリン、アスパラギン、グルタミン及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸、好ましくはアラニンによる置換、
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの5位のグルタミン酸の、アスパラギン酸及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸、好ましくはアラニンによる置換、
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの6位及び/又は9位のトリプトファンの、アラニン、フェニルアラニン及びチロシンからなる群から選択されるアミノ酸、好ましくはアラニンによる置換、
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの7位のロイシンの、アラニン、バリン、イソロイシン及びメチオニンからなる群から選択されるアミノ酸、好ましくはアラニンによる置換、
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの8位のアルギニンの、リジン、ヒスチジン及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸、好ましくはアラニンによる置換、
- 前記配列SGLTEWLRWFNSの11位のアスパラギンの、トレオニン、セリン、グルタミン及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸、好ましくはアラニンによる置換
からなる群から選択される、
単離又は組換えインテグリンアルファ11(ITGA11)結合ペプチドを提供する。
【0035】
さらなる態様において、本発明は、5~25個のアミノ酸を有し、アミノ酸配列SFATWTPNFERN又は前記配列の変異体を含み、前記変異体が前記配列の5~12個の連続アミノ酸からなり、アミノ酸の他のアミノ酸による3個以下の置換を有する、単離又は組換えインテグリンアルファ11(ITGA11)結合ペプチドを提供する。
【0036】
配列SFATWTPNFERNの変異体は、前記配列の5~12個の連続アミノ酸を有する。好ましくは、前記変異体は前記配列の6~12個の連続アミノ酸を有し、より好ましくは前記配列の7~12個の連続アミノ酸を有し、より好ましくは前記配列の8~12個の連続アミノ酸を有し、より好ましくは前記配列の9~12個の連続アミノ酸を有し、より好ましくは前記配列の10~12個の連続アミノ酸を有し、例えば、前記配列の10、11又は12個の連続アミノ酸を有する。特に好ましいITGA11結合ペプチドは、配列SGLTEWLRWFNSの5~12個、好ましくは6~12個、例えば7~12個、8~12個、9~12個、10~12個、11~12個又は12個の連続アミノ酸からなる。一実施形態において、ITGA11結合ペプチドは、配列SFATWTPNFERNからなる。
【0037】
配列SFATWTPNFERNの変異体は、前記5~12個の連続アミノ酸のアミノ酸の、他のアミノ酸による3個以下の置換を更に有する。好ましくは、本明細書で定義した配列SFATWTPNFERNの変異体は、アミノ酸置換を有さないか又は1若しくは2個の前記アミノ酸置換を有し、より好ましくは、アミノ酸置換を有さないか又は1個の前記アミノ酸置換を有する。更に、好ましくは、本発明による配列SFATWTPNFERNの前記変異体のアミノ酸の最大25%が他のアミノ酸により置換されている。さらなる好ましい実施形態において、本発明による配列SFATWTPNFERNの前記変異体のアミノ酸の最大20%が他のアミノ酸により置換されている。さらなる好ましい実施形態において、本発明による配列SFATWTPNFERNの前記変異体のアミノ酸の最大150%が他のアミノ酸により置換されている。さらなる好ましい実施形態において、本発明による配列SFATWTPNFERNの前記変異体のアミノ酸の最大10%が他のアミノ酸により置換されている。
【0038】
前記アミノ酸置換は、好ましくは、保存的アミノ酸置換、アラニンによる置換、又は対応する非天然アミノ酸による置換である。特に好ましい実施形態において、前記変異体は、前記アミノ酸置換の1個を有するか、又はアミノ酸置換を有さない。
【0039】
より好ましくは、前記配列中に少なくとも1個のアミノ酸置換を有する配列SFATWTPNFERNの前記変異体は、好ましくは、以下のアミノ酸置換の3個以下、より好ましくは1又は2個、より好ましくは1個を含む:
- 前記配列の1位のセリンが、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、アラニン、バリン、イソロイシン及びロイシンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列の2位及び/又は9位のフェニルアラニンが、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、チロシン及びトリプトファンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列の3位のアラニンが、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、
- 前記配列の4位及び/又は6位のトレオニンが、セリン、アスパラギン、グルタミン、アラニン、バリン、イソロイシン及びロイシンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列の5位のトリプトファンが、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン及びチロシンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列の7位のプロリンが、アラニン、システイン、グリシン、セリン、スレオニン、アスパラギン及びアスパラギン酸からなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列の8位及び/又は12位のアスパラギンが、トレオニン、セリン、グルタミン、アラニン、バリン、イソロイシン及びロイシンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列の10位のグルタミン酸が、アスパラギン酸、アラニン、バリン、イソロイシン及びロイシンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列の11位のアルギニンが、リジン、ヒスチジン、アラニン、バリン、イソロイシン及びロイシンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられている。
【0040】
より好ましくは、前記配列中に少なくとも1個のアミノ酸置換を有する前記配列SFATWTPNFERNの変異体は、好ましくは以下のアミノ酸置換の3個以下、より好ましくは1又は2個、より好ましくは1個を含む:
- 前記配列の1位のセリンが、トレオニン、アスパラギン、グルタミン及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列の2位及び/又は9位のフェニルアラニンが、チロシン、トリプトファン及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列の3位のアラニンが、バリン、イソロイシン、ロイシン及びメチオニンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列の4位及び/又は6位のトレオニンが、セリン、アスパラギン、グルタミン及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列の5位のトリプトファンが、アラニン、フェニルアラニン及びチロシンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列の8位及び/又は12位のアスパラギンが、トレオニン、セリン、グルタミン及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列の10位のグルタミン酸が、アスパラギン酸及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列の11位のアルギニンが、リジン、ヒスチジン及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられている。
【0041】
より好ましくは、前記配列中に少なくとも1個のアミノ酸置換を有する配列SFATWTPNFERNの前記変異体は、好ましくは以下のアミノ酸置換の3個以下、より好ましくは1又は2個、より好ましくは1個を含む:
- 前記配列の1位のセリンが、トレオニン、アスパラギン、グルタミン及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列の2位及び/又は9位のフェニルアラニンが、チロシン、トリプトファン及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列の3位のアラニンが、バリン、イソロイシン、ロイシン及びメチオニンからなる群から選択されるアミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列の4位及び/又は6位のトレオニンが、セリン、アスパラギン、グルタミン及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列の5位のトリプトファンが、アラニン、フェニルアラニン及びチロシンからなる群から選択されるアミノ酸と置き換えられており、及び/又は
- 前記配列の8位及び/又は12位のアスパラギンが、トレオニン、セリン、グルタミン及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列の10位のグルタミン酸が、アスパラギン酸及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列の11位のアルギニンが、リジン、ヒスチジン及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸により置き換えられている。
【0042】
好ましい実施形態において、配列SFATWTPNFERNの変異体の前記1、2又は3個のアミノ酸置換、好ましくは1又は2個の置換、より好ましくは1個の置換は、アミノ酸アラニンによる置換である。
【0043】
本発明による配列SFATWTPNFERNペプチドの変異体は、好ましくは、本明細書で定義した3個以下のアミノ酸置換、好ましくは本明細書で定義した2個以下の置換、より好ましくは本明細書で定義した1個の置換を有する、アミノ酸配列SGLTEWLRWFNSの12個すべてのアミノ酸からなる。
【0044】
本発明の好ましいITGA11結合ペプチドは、配列SFATWTPNFERNを含むか、又は本明細書で定義した前記配列の変異体を含む。本発明の特に好ましいITGA11結合ペプチドは、配列SFATWTPNFERNからなるか、又は本明細書で定義した前記配列の変異体からなる。
【0045】
本発明者らは、ITGA5が膵臓がん、腎臓線維症、皮膚線維芽細胞及び膵星状細胞において発現され、発現がTGFβ1による活性化後に増強されることを更に見出した。オーバーラップ配列TTVRYYRITYGE及びYYRITYGETGGNを有するペプチド及びその変異体は、ITGA5に対して高親和性で結合することも更に見出した。また、これらの配列のより短いペプチド変異体が結合能力を維持し、又は結合能力の増大を有することも見出した。本発明によるそのようなATGA5結合ペプチドは、インテグリンのサブユニット(α5)には結合するが、多くのインテグリンにおいて存在するβ1には結合しないという利点を有する。したがって、本発明によるATGA5結合ペプチドは、α5β1インテグリンに高度に特異的である。
【0046】
本発明のITGA5結合ペプチドは抗線維化作用を有することが更に見出された。実施例において明らかなように、ペプチドAV3(RYYRITY)は、TGFβによる活性化後のαSMA発現の阻害(図14A)及び線維化マーカー、例えばα-SMA、Col-1a1及びビメンチンの発現の阻害(図14B)によって示したとおり、膵臓星状細胞の活性化を阻害することが示された。更に、IGTA5結合ペプチドは、ヒト線維芽細胞の移動を阻害することも示した(図15)。
【0047】
さらなる態様において、本発明は、そのために、6~25個のアミノ酸を有し、アミノ酸配列TTVRYYRITYGETGGNを含むか、又は前記アミノ酸配列の変異体を含み、前記変異体が:
- 前記配列の6~16個の連続アミノ酸からなり、前記配列の6~16個の連続アミノ酸が少なくとも前記配列の5~10位のアミノ酸を含み、
- 前記配列の1、2、3、4、5、7、8、10、11、12、13、14、15及び16位のアミノ酸から選択される前記6~16個の連続アミノ酸のアミノ酸の、他のアミノ酸による3個以下の置換を有する、
単離又は組換えインテグリンアルファ5(ITGA5)結合ペプチドを提供する。
【0048】
配列TTVRYYRITYGETGGNの変異体は、前記配列の6~16個の連続アミノ酸を有する。好ましくは、前記変異体は、前記配列の7~16個の連続アミノ酸を有する。さらなる実施形態において、前記変異体は、前記配列の8~16個、9~16個、10~16個、11~16個又は12~16個の連続アミノ酸を有する。特に好ましいITGA5結合ペプチドは、配列TTVRYYRITYGETGGNの6~16個、好ましくは7~16個の連続アミノ酸、例えば、配列TTVRYYRITYGETGGNの6、7、8、9、10、11、12、13、14、15又は16個の連続アミノ酸を有する変異体からなる。
【0049】
配列TTVRYYRITYGETGGNの変異体は、少なくとも前記配列の5~10位のアミノ酸を更に含む。したがって、前記変異体は、任意選択により3個以下、好ましくは2個以下、好ましくは1個以下の本明細書で定義したアミノ酸置換を有する、少なくともアミノ酸配列YYRITYを含む。好ましくは、前記変異体は、前記配列の4~10位に少なくともアミノ酸を含み、すなわち、この変異体は、任意選択により1~3個以下の本明細書で定義した置換、好ましくは1又は2個の本明細書で定義した置換、より好ましくは1個の本明細書で定義したアミノ酸置換を有する、少なくともアミノ酸配列RYYRITYを含む。一実施形態において、変異体は、少なくとも配列YYRITYを含み、好ましくは配列RYYRITYを含む。
【0050】
配列TTVRYYRITYGETGGNの変異体は、前記6~16個の連続アミノ酸のアミノ酸の、他のアミノ酸による3個以下の置換を更に有する。前記3個以下の置換は、配列TTVRYYRITYGETGGNの1、2、3、4、5、7、8、10、11、12、13、14、15及び16位のアミノ酸から選択される。更に好ましくは、本発明による配列TTVRYYRITYGETGGNの前記変異体のアミノ酸の最大25%が他のアミノ酸により置換されている。さらなる好ましい実施形態において、本発明による配列TTVRYYRITYGETGGNの前記変異体のアミノ酸の最大20%が他のアミノ酸により置換されている。さらなる好ましい実施形態において、本発明による配列TTVRYYRITYGETGGNの前記変異体のアミノ酸の最大150%が他のアミノ酸により置換されている。さらなる好ましい実施形態において、本発明による配列TTVRYYRITYGETGGNの前記変異体のアミノ酸の最大10%が他のアミノ酸により置換されている。好ましくは、本明細書で定義した配列TTVRYYRITYGETGGNの変異体は、アミノ酸置換を有さないか、又は1若しくは2個の前記アミノ酸置換を有するか、より好ましくはアミノ酸置換を有さないか、又は1個の前記アミノ酸置換を有する。前記1又は2個の置換は、好ましくは、配列TTVRYYRITYGETGGNの5位及び8位の一方又は両方のアミノ酸の置換である。
【0051】
前記配列中の少なくとも1個のアミノ酸置換を有する配列TTVRYYRITYGETGGNの前記変異体は、好ましくは3個以下、より好ましくは1若しくは2個の保存的アミノ酸置換、アラニンによる置換又は対応する非天然アミノ酸による置換を含む。特に好ましい実施形態において、前記変異体は、前記アミノ酸置換の1個を有するか、又はアミノ酸置換を有さない。前記3個以下、好ましくは2個以下、より好ましくは1個以下のアミノ酸置換は、好ましくは、前記配列の5~10位のアミノ酸の置換である。
【0052】
より好ましくは、前記配列中の少なくとも1個のアミノ酸置換を有する配列TTVRYYRITYGETGGNの、好ましくは配列RYYRITYの前記変異体は、好ましくは、以下のアミノ酸置換の3個以下、より好ましくは1又は2個、より好ましくは1個を含む:
- 前記配列の4位及び/又は7位のアルギニンが、リジン、ヒスチジン、アラニン、バリン、イソロイシン及びロイシンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列の5位及び/又は10位のチロシンが、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン及びトリプトファンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、
- 前記配列の8位のイソロイシンが、アラニン、バリン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられている。
【0053】
より好ましくは、前記配列中の少なくとも1個のアミノ酸置換を有する配列TTVRYYRITYGETGGNの、好ましくは配列RYYRITYの前記変異体は、好ましくは、以下のアミノ酸置換の3個以下、より好ましくは1又は2個、最も好ましくは1個を含む:
- 前記配列の4位及び/又は7位のアルギニンが、リジン、ヒスチジン及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列の5位及び/又は10位のチロシンが、アラニン、フェニルアラニン及びトリプトファンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられており、
- 前記配列の8位のイソロイシンが、アラニン、バリン、ロイシン及びメチオニンからなる群から選択されるアミノ酸により、又は対応する非天然アミノ酸により置き換えられている。
【0054】
より好ましくは、前記配列中の少なくとも1個のアミノ酸置換を有する配列TTVRYYRITYGETGGNの、好ましくは配列RYYRITYの前記変異体は、好ましくは、以下のアミノ酸置換の3個以下、より好ましくは1又は2個を含む:
- 前記配列の4位及び/又は7位のアルギニンが、リジン、ヒスチジン及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸により置き換えられており、及び/又は
- 前記配列の5位及び/又は10位のチロシンが、アラニン、フェニルアラニン及びトリプトファンからなる群から選択されるアミノ酸により置き換えられており、
- 前記配列の8位のイソロイシンが、アラニン、バリン、ロイシン及びメチオニンからなる群から選択されるアミノ酸により置き換えられている。
【0055】
好ましい実施形態において、配列RYYRITYの変異体の前記1、2又は3個のアミノ酸置換、好ましくは1又は2個の置換、より好ましくは1個の置換は、配列RYYRITYの1、2、4、5又は7位のアミノ酸のアミノ酸アラニンとの置換である。
【0056】
好ましい実施形態において、6~16個のアミノ酸を有し、アミノ酸配列TTVRYYRITYGETGGN又は前記配列の変異体を含み、前記変異体が:
- 前記配列の6~16個の連続アミノ酸からなり、前記6~16個の連続アミノ酸が少なくとも前記配列の5~10位のアミノ酸を含み、
- 任意選択により前記配列の5~10位の前記アミノ酸のアミノ酸の3個以下の置換、好ましくは1又は2個の置換、より好ましくは1個の置換を有し、それにより、前記アミノ酸置換が次からなる群から選択される:
- 前記配列の4位のアルギニンが、リジン、ヒスチジン及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸、好ましくはアラニンにより置き換えられており、
- 前記配列の7位のアルギニンが、リジン、ヒスチジン及びアラニンからなる群から選択されるアミノ酸、好ましくはアラニンにより置き換えられており、
- 前記配列の5位のチロシンが、アラニン、フェニルアラニン及びトリプトファンからなる群より選択されるアミノ酸、好ましくはアラニンにより置き換えられており、
- 前記配列の10位のチロシンが、アラニン、フェニルアラニン及びトリプトファンからなる群から選択されるアミノ酸、好ましくはアラニンにより置き換えられており、
- 前記配列の8位のイソロイシンが、アラニン、バリン、ロイシン及びメチオニンからなる群から選択されるアミノ酸、好ましくはアラニンにより置き換えられている、
単離又は組換えインテグリンアルファ5(ITGA5)結合ペプチドを提供する。
【0057】
更に好ましい実施形態において、6~16個のアミノ酸を有し、アミノ酸配列TTVRYYRITYGETGGN又は前記配列の変異体を含み、前記変異体が:
- 前記配列の6~16個の連続アミノ酸からなり、前記6~16個の連続アミノ酸が少なくとも前記配列の5~10位のアミノ酸を含み、
- 任意選択により前記配列の5~10位の前記アミノ酸のアミノ酸の1又は2個の置換、より好ましくは1個の置換を有し、それにより、前記アミノ酸置換が次からなる群から選択される:
- 前記配列の5位のチロシンが、アラニン、フェニルアラニン及びトリプトファンからなる群より選択されるアミノ酸、好ましくはアラニンにより置き換えられており、
- 前記配列の8位のイソロイシンが、アラニン、バリン、ロイシン及びメチオニンからなる群から選択されるアミノ酸、好ましくはアラニンにより置き換えられている、
単離又は組換えインテグリンアルファ5(ITGA5)結合ペプチドを提供する。
【0058】
配列TTVRYYRITYGETGGNの特に好ましい変異体は、table 2(表2)の配列から選択される。本発明による特に好ましいITGA5結合ペプチドは、table 2(表2)の配列から選択される配列からなる。前記ITGA5結合ペプチドは、例えば、RYYRITY、RYYRITYC、TTVRYYRITYGE及びYYRITYGETGGNからなる群から選択されるアミノ酸配列からなる。
【0059】
本明細書で定義したアミノ酸配列又はその変異体において、アミノ酸は一文字記号によって表示する。これらの一文字記号及び三文字記号は当業者には十分知られており、次の意味を有する:A(Ala)はアラニンであり、C(Cys)はシステインであり、D(Asp)はアスパラギン酸であり、E(Glu)はグルタミン酸であり、F(Phe)はフェニルアラニンであり、G(Gly)はグリシンであり、H(His)はヒスチジンであり、I(Ile)はイソロイシンであり、K(Lys)はリジンであり、L(Leu)はロイシンであり、M(Met)はメチオニンであり、N(Asn)はアスパラギンであり、P(Pro)はプロリンであり、Q(Gln)はグルタミンであり、R(Arg)はアルギニンであり、S(Ser)はセリンであり、T(Thr)はトレオニンであり、V(Val)はバリンであり、W(Trp)はトリプトファンであり、Y(Tyr)はチロシンである。
【0060】
本明細書で使用する場合の「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸が、類似の化学的特性、特に電荷又は疎水性を持つ側鎖を有する他のアミノ酸により置換されている置換である。保存的アミノ酸置換は、典型的には、ペプチドのATGA5結合特性又はATGA11結合特性を実質的に変化させない。以下の5つのグループは、それぞれ、互いに保存的置換であるアミノ酸を挙げている:
1)セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン;
2)アスパラギン酸、グルタミン酸;
3)ヒスチジン、アルギニン、リジン;
4)イソロイシン、ロイシン、メチオニン、アラニン、バリン、及び、
5)フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン。
【0061】
本明細書で使用される場合、「対応する非天然アミノ酸」とは、言及天然アミノ酸の誘導体である非天然アミノ酸を意味する。例えば、天然アミノ酸は、対応するβ-アミノ酸により置換される。β-アミノ酸は、天然アミノ酸でのようにα炭素にではなく、β炭素に結合されているそれらのアミノ基を有する。例えば、α-アラニンはβ-アラニン等により置換される。前記天然アミノ酸の誘導体である非天然アミノ酸による天然アミノ酸の置換の他の好ましい例は、以下のとおりである。アラニンに関する好ましい非天然アミノ酸置換基は、β-アラニン、t-ブチルアラニン、2-ナフチルアラニン;L-3-(2-ナフチル)アラニン及び2-アミノイソ酪酸からなる群から選択される。アルギニンに関する好ましい非天然アミノ酸置換基は、ホモアルギニン、オルニチン、N5-カルバモイルオルニチン及び3-アミノ-プロピオン酸からなる群から選択される。アスパラギンに関する好ましい非天然アミノ酸置換基は、N-エチルアスパラギンである。アスパラギン酸に関する好ましい非天然アミノ酸置換基は、4-tert-ブチル水素2-アジドコハク酸である。システインに関する好ましい非天然アミノ酸置換基は、システイン酸及びホモシステインからなる群から選択される。グルタミン酸に関する好ましい非天然アミノ酸置換基は、γ-カルボキシ-DL-グルタミン酸及び4-フルオロ-DL-グルタミン酸からなる群から選択される。グルタミンに関する好ましい非天然アミノ酸置換基は、D-シトルリン及びチオ-L-シトルリンからなる群から選択される。グリシンに関する好ましい非天然アミノ酸置換基は、N-メチルグリシン、t-ブチルグリシン、N-メチルグリシン及びD-アリルグリシンからなる群から選択される。ヒスチジンに関する好ましい非天然アミノ酸置換基は、3-(3-メチル-4-ニトロベンジル)-L-ヒスチジンメチルエステルである。イソロイシンに関する好ましい非天然アミノ酸置換基は、イソデスモシン、N-メチルイソロイシン及びアロ-イソロイシンからなる群から選択される。ロイシンに関する好ましい非天然アミノ酸置換基は、ノルロイシン、デスモシン及び5,5,5-トリフルオロ-ロイシンからなる群から選択される。リジンに関する好ましい非天然アミノ酸置換基は、6-N-メチルリジン、2-アミノヘプタン酸、N-アセチルリジン、ヒドロキシリジン及びアロ-ヒドロキシリジンからなる群から選択される。メチオニンに関する好ましい非天然アミノ酸置換基は、メチオニンスルホキシドである。フェニルアラニンに関する好ましい非天然アミノ酸置換基は、p-アミノ-L-フェニルアラニン、3-ベンゾチエニルアラニンp-ブロモフェニルアラニン、p-アシル-L-フェニルアラニン、2-フルオロフェニルアラニン、3-フルオロフェニルアラニン及び4-フルオロフェニルアラニンからなる群から選択される。プロリンに関する好ましい非天然アミノ酸置換基は、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン及び1-アセチル-4-ヒドロキシ-L-プロリンからなる群から選択される。セリンに関する好ましい非天然アミノ酸置換基は、ホモセリン、イソセリン及び3-フェニルセリンからなる群から選択される。スレオニンに関する好ましい非天然アミノ酸置換基は、D-チロキシン及びアロ-トレオニンからなる群から選択される。トリプトファンに関する好ましい非天然アミノ酸置換基は、5-ヒドロキシ-トリプトファン、5-メトキシ-トリプトファン及び5-フルオロ-トリプトファンからなる群から選択される。チロシンに関する好ましい非天然アミノ酸置換基は、O-メチル-L-チロシン、O-4-アリル-L-チロシン及び3-クロロ-チロシンからなる群より選択される。バリンに関する好ましい非天然アミノ酸置換基は、ノルバリン、N-メチルバリン及び3-フルオロ-バリンからなる群から選択される。
【0062】
本明細書で使用される場合、「ペプチド」とは、複数のアミノ酸を含むペプチド又はポリペプチドをいう。用語「ペプチド」及び「ポリペプチド」は同義的に使用される。ITGA11に結合することが示された本発明による最小のペプチドは、5個のアミノ酸の長さを有する。ITGA5に結合することが示された本発明による最小のペプチドは、6個のアミノ酸の長さを有する。しかし、アミノ酸配列又はその変異体は、より大きなペプチドの一部、すなわち、1個又は複数のさらなるアミノ酸によってN末端延長及び/又はC末端延長されたペプチドの一部であり得る。本発明のペプチドのアミノ酸配列又はその変異体は、好ましくは、N末端及び/又はC末端伸長基を含むことにより、N末端及び/又はC末端修飾されていてもよい。或いは、前記アミノ酸配列又はその変異体は、N末端及び/又はC末端延長されている。
【0063】
したがって、本発明によるITGA11結合ペプチドは、少なくとも5個のアミノ酸、好ましくは少なくとも6個のアミノ酸を含み、25個以下のアミノ酸を含み得る。このため、本発明によるITGA11結合ペプチドは、好ましくは、5~25個のアミノ酸、より好ましくは6~25個のアミノ酸からなる。より好ましくは、本発明によるITGA11結合ペプチドは、7~25個のアミノ酸、より好ましくは8~25個のアミノ酸からなる。実施例は、8個のアミノ酸のITGA11結合ペプチドが、より小さなペプチドに比べてITGA11に対する強い結合を示したことを明らかにしている。さらなる実施形態において、本発明のITGA11結合ペプチドは、好ましくは、9~25個、10~25個、11~25個、12~25個のアミノ酸からなる。ITGA5結合ペプチドは、少なくとも6個のアミノ酸を含み、25個以下のアミノ酸を含み得る。したがって、本発明によるITGA5結合ペプチドは、好ましくは6~25個のアミノ酸、より好ましくは6~25個のアミノ酸からなる。より好ましくは、本発明によるITGA11結合ペプチドは、7~25個のアミノ酸からなる。実施例は、7個のアミノ酸のITGA5結合ペプチド(AV3)が受容体に対して高親和性を有することを示している。さらなる実施形態において、本発明によるITGA5結合ペプチドは、好ましくは、9~25個、10~25個、11~25個、12~25個のアミノ酸の長さを有する。しかし、より小さなペプチドが好ましい。したがって、本発明による好ましいペプチドは、長さが5~20個のアミノ酸、より好ましくは5~16個のアミノ酸、より好ましくは5~15個のアミノ酸、より好ましくは5~14個のアミノ酸、より好ましくは5~13個のアミノ酸、より好ましくは5~12個のアミノ酸を含む。例えば、本発明によるペプチドは、5~16個のアミノ酸、すなわち、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15又は16個のアミノ酸を含む。好ましくは、前記ペプチドは、少なくとも6個のアミノ酸、例えば、6~20個、6~16個、又は6~15個、6~14個、6~13個、6~12個のアミノ酸を含む。特に好ましいペプチドは、6~20個のアミノ酸、6~16個のアミノ酸、又は6~12個のアミノ酸を有する。更に本発明による特に好ましいペプチドは、7~20個のアミノ酸、7~16個のアミノ酸又は7~12個のアミノ酸からなる。更に本発明による特に好ましいペプチドは、8~20個のアミノ酸、8~16個のアミノ酸又は8~12個のアミノ酸からなる。更に本発明による特に好ましいペプチドは、10~20個のアミノ酸、10~16個のアミノ酸又は10~12個のアミノ酸からなる。
【0064】
本発明によるペプチドは、N末端修飾、C末端修飾及び/又は内部修飾を更に有していてもよい。したがって、N末端修飾、C末端修飾及び/又は内部修飾を含む本発明によるペプチドを提供する。また、ペプチドがN末端修飾、C末端修飾又は内部修飾を有する、本発明によるペプチドを含む化合物も提供する。好ましいN末端修飾は、アセチル化である。好ましいC末端修飾は、アミド化である。好ましい内部修飾は、例えば、2個のシステイン残基間のジスルフィド結合形成の結果としての環化又は二環化である。したがって、N末端修飾、C末端修飾及び/又は内部修飾を含む、本発明によるペプチドを提供する。
【0065】
また、アミノ酸配列SGLTEWLRWFNS若しくは本明細書で定義したその変異体、及び/又はアミノ酸配列SFATWTPNFERN若しくは本明細書で定義したその変異体、及び/又はアミノ酸配列TTVRYYRITYGETGGN若しくは本明細書で定義したその変異体を含む、本発明の少なくとも1つのペプチドの多量体、例えば二量体、三量体、四量体、五量体、六量体、七量体又は八量体を提供する。好ましい多量体は、本発明による2つのペプチドの二量体である。そのような多量体、好ましくは、二量体は、本発明による複数の同一ペプチドを含むホモ多量体、例えば、本発明による2つの同一ペプチドのホモ二量体であり得る。或いは、そのような多量体は、本発明による少なくとも2つの異なるペプチドを含むヘテロ多量体、例えば、本発明の2つの異なるペプチドのヘテロ二量体であり得る。例えば、アミノ酸配列SGLTEWLRWFNS又は本発明により本明細書で定義したその変異体を含む、2つの異なるITGA11結合ペプチドの二量体を提供する。別の例として、アミノ酸配列TTVRYYRITYGETGGN又は本発明により本明細書で定義したその変異体を含む、2つの異なるITGA5結合ペプチドの二量体である。更に別の例として、アミノ酸配列SGLTEWLRWFNS又は本発明により本明細書で定義したその変異体を含む1つのITGA11結合ペプチドと、アミノ酸配列TTVRYYRITYGETGGN又は本発明により本明細書で定義したその変異体を含むITGA5結合ペプチドの二量体を提供する。二量体は、例えば、ペプチド単量体中に存在する2つのシステイン残基間のジスルフィド結合形成の結果として形成される。したがって、本発明によるペプチドは、好ましくはシステイン残基を含む。本発明による好ましい二量体は、本発明による2つのペプチドを含み、各ペプチドは少なくとも1つのシステイン残基を含む。したがって、本発明による特に好ましいペプチドは、RYYRITYCである。実施例において示したように(図15を参照されたい)、このペプチドは、線維芽細胞の移動を阻害するのに特に活性である。理論に縛られるものではないが、2つの異なるペプチド分子中の2つのシステイン残基間にジスルフィド結合が形成された結果、二量体がこのペプチドから形成されること、またペプチドの二量体の形態がより効果的であることが考えられる。したがって、本発明による2つのペプチドを含む二量体を提供する。前記ペプチドは、好ましくは、それぞれシステイン残基を含む。前記2つのペプチドは、更に好ましくは、同一である。
【0066】
一実施形態において、本発明のペプチドは天然においてペプチドとして存在しないペプチドであり、すなわち、本発明のペプチドは、非天然起源ペプチドである。本明細書で使用される場合の「非天然起源」とは、ペプチドがその形態で天然では確認されないこと、好ましくは、そのペプチドのアミノ酸配列が天然では確認されないことを意味する。したがって、このような実施形態において、本発明のペプチドは、好ましくは、本明細書で定義したアミノ酸配列に少なくとも1個のアミノ酸置換を含む。
【0067】
本発明のペプチドは、制御放出担体及び/又は標的送達担体中に組み込まれるのが有利である。本明細書で使用される場合、用語「制御放出」とは、時間依存的方法における本発明のペプチドの放出を意味する。一実施形態において、制御放出とは徐放を意味する。本明細書で使用される場合、用語「標的送達」とは、部位特異的方法における本発明のペプチドの放出を意味する。制御放出ビヒクルを使用すると、本発明のペプチドの注射等の頻繁な投与を回避することができるという利点がある。標的送達ビヒクルを使用すると、本発明のペプチドが、対象の体内の目的部位、例えば炎症部位又は感染部位等に効果的に送達及び/又は保持されるという利点がある。好ましくは、本発明のペプチドは、細菌、菌類、ウイルス及び寄生生物を含めた微生物により感染した部位を標的とする。制御放出担体及び/又は標的送達担体は、当技術分野において公知である。制御放出ビヒクル及び/又は標的送達ビヒクルの非限定的な例は、ナノ粒子、微粒子、ナノカプセル、ナノ複合体、ポリプレックス、カーボンナノチューブ、量子ドット、マイクロカプセル、リポソーム、ミクロスフェア、ヒドロゲル、ポリマー、ミセル、デンドリマー、脂質複合体、血清アルブミン、抗体、抗体フラグメント、シクロデキストリン及びデキストランである。制御放出は、例えば、本発明のペプチドをそのような担体中又はその表面に組み込むことによって提供される。担体は、本発明のペプチドを捕捉し、適切な環境で、例えば水性、酸性若しくは塩基性の環境又は体液等でゆっくりと分解又は溶解し、それによりペプチドを放出する粒子を形成する物質である。標的送達は、例えば、その表面に標的化基を有する担体を提供することにより達成される。標的化基を含むこのような担体の例は、抗体官能化担体、部位特異的リガンドを有する担体、及び正又は負の表面電荷を有する担体である。制御放出及び/又は標的送達のための好ましい粒子はナノ粒子、すなわち、直径が約1~500nmの範囲の粒子、好ましくは直径が約200nm以下の粒子、及び任意選択により標的化基と共に提供されるリポソームである。本発明は、本発明によるペプチド又は本発明による多量体、好ましくは二量体ペプチドを含む化合物を更に提供する。前記成分は、好ましくは、少なくとも1つのさらなる部分を含む。前記化合物は、好ましくは、標識、リンカー、例えばPEGリンカー、N末端修飾、C末端修飾又は内部修飾を含むか、前記化合物は、ナノ粒子、微粒子、ナノカプセル、ナノ複合体、ポリプレックス、カーボンナノチューブ、量子ドット、マイクロカプセル、リポソーム、ミクロスフェア、ヒドロゲル、ポリマー、ミセル、デンドリマー、脂質複合体、血清アルブミン、抗体、抗体フラグメント、シクロデキストリン及びデキストランからなる群から選択される担体に結合又はカプセル化された前記ペプチド又は多量体ペプチドを含む。
【0068】
また本発明によるペプチドの塩も提供する。このような塩としては、限定するものではないが、酸付加塩及び塩基付加塩が挙げられる。本明細書で使用される場合、ペプチドの「薬学的に許容される塩」とは、ペプチドの所望するITGA11又はITGA5結合活性を保持し、ヒト又は動物への投与に好適な塩を意味する。ペプチドの塩を調製する方法は当技術分野において公知であり、一般に、例えば、塩が不溶性である溶媒若しくは媒体中で、又は水等の溶媒中で、生成物の遊離酸又は遊離塩基形態を1当量以上の適切な酸又は塩と反応させ、次いで、これを真空内で又は凍結乾燥により除去することによって、或いは適切なイオン交換樹脂で既存の塩のカチオンを別のカチオンと交換することによって、本ペプチドを薬学的に許容される酸又は塩基と混合することを含む。薬学的に許容される酸及び塩基の例としては、有機酸及び無機酸、例えば、ペプチドの遊離アミノ基とアンモニウム塩を形成する、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、グリコール酸、シュウ酸、ピルビン酸、コハク酸、マレイン酸、マロン酸、トリフルオロ酢酸、珪皮酸、硫酸、塩酸、臭化水素酸、硝酸、過塩素酸、リン酸及びチオシアン酸、並びにペプチドの遊離カルボン酸基とカルボン酸塩を形成する塩基、例えば、エチルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、並びに他のモノ-、ジ-及びトリアルキルアミン、及びアリールアミン等が挙げられる。
【0069】
本発明によるペプチドは、様々な方法によって調製することができる。例えば、ペプチドは、一般に使用される固相合成方法、例えば、当技術分野において公知であるアルファ-アミノ基のt-BOC又はFMOC保護を含む方法によって合成することができる。ここで、アミノ酸はアミノ酸の伸長している鎖に順次付加される。そのような方法は、例えば、Merrifield (1963)、J. Am. Chem. Soc. 85: 2149~2156頁; 及びAthertonら、「Solid Phase Peptide Synthesis」、IRL Press, London, (1989) に記載されている。固相合成方法は、ペプチドの合成又は比較的短い長さ、例えば約70以下のアミノ酸の長さを有するペプチドの大規模生産に特に適している。或いは、本発明のペプチドは、ペプチドをコードしているヌクレオチド配列が宿主細胞において発現される当技術分野において公知の組換え技術を使用して調製することができる。
【0070】
本発明は、本明細書において本発明による核酸分子とも呼ばれる、本発明によるペプチドをコードしている核酸配列を含む核酸分子を更に提供する。本明細書において使用される場合、本発明の核酸分子又は核酸配列は、ヌクレオチド、好ましくはDNA及び/又はRNAの鎖を含む。
【0071】
更に、本発明による核酸配列分子を含むベクターを提供する。本明細書において使用される場合の用語「ベクター」とは、異種性核酸配列を宿主細胞に導入することが可能な核酸分子、例えばプラスミド、バクテリオファージ又は動物ウイルス等を意味する。本発明によるベクターは、宿主細胞において異種性核酸配列によりコードされている本発明のペプチドを発現又は産生させる。本発明により使用されるベクターは、例えば動物ウイルス由来であり、その例としては、限定するものではないが、ワクチニアウイルス(改変ワクチニアウイルスAnkara、MVA等の弱毒化誘導体を含む)、ニューカッスル病ウイルス(NDV)、アデノウイルス又はレトロウイルスが挙げられる。本発明によるベクターは、好ましくは、選択された宿主細胞における本発明によるペプチドの転写の開始に適したプロモーターを含む発現カセットを含む。真核宿主細胞における本発明によるペプチドの発現に適したプロモーターの例としては、限定するものではないが、哺乳動物宿主用のベータ-アクチンプロモーター、イムノグロビンプロモーター、5S RNAプロモーター、又はウイルス由来プロモーター、例えばサイトメガロウイルス(CMV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)及びサルウイルス40(SV40)プロモーター等が挙げられる。
【0072】
更に本発明は、本発明による核酸分子及び/又はベクターを含む組換え宿主細胞を提供する。宿主細胞は、本発明によるベクター等の核酸分子により形質転換されている細胞又は形質転換可能な細胞である。「形質転換」とは、外来核酸のレシピエント細胞への導入を意味する。宿主細胞の形質転換は、前記細胞による組換えタンパク質の一過性発現をもたらすことができ、組換えタンパク質が規定の期間に対してのみ発現されることを意味する。或いは、レシピエント細胞の形質転換は安定な発現をもたらすことができ、核酸が細胞のゲノムに導入され、それにより細胞の次世代に伝えられることを意味する。更に、組換えタンパク質の誘導性発現を達成することができる。誘導性発現系は、本発明のペプチドをコードしている核酸配列を発現させる分子の存在又は非存在を必要とする。誘導性発現系の例としては、限定するものではないが、Tet-On発現系及びTet-Off発現系、ホルモン誘導性遺伝子発現系、例えばエクジソン誘導性遺伝子発現系、アラビノース誘導性遺伝子発現系等、及び誘導性メタロチオネインプロモーターを含むpMT/BiPベクター(Invitrogen社)を使用するショウジョウバエ誘導性発現系を含む。本発明によるペプチドを調製する方法において使用される宿主細胞は、例えば、グラム陽性原核生物、グラム陰性原核生物又は真核生物である。好ましくは、前記宿主細胞は、真核細胞、例えば、植物細胞、酵母細胞、哺乳動物細胞又は昆虫細胞等であり、最も好ましくは昆虫細胞又は哺乳動物細胞である。好適な宿主細胞の例としては、トウモロコシ細胞、イネ細胞、ウキクサ(duckweed)細胞、タバコ細胞(例えば、BY-2又はNT-1細胞)及びジャガイモ細胞等の植物細胞が挙げられる。酵母細胞の例は、サッカロミセス属(Saccharomyces)及びピキア属(Pichia)である。昆虫細胞の例は、ヨトウガ(Spodoptera frugiperda)細胞、例えばTn5、SF-9及びSF-21細胞等、並びにショウジョウバエ属(Drosophila)細胞、例えばショウジョウバエ(Drosophila Schneider)2 (S2)細胞等である。本発明によるペプチドの発現に適した哺乳動物細胞の例としては、限定するものではないが、アフリカミドリザル腎臓(Vero)細胞、ベビーハムスター腎臓(例えばBHK-21)細胞、ヒト網膜細胞(例えばPerC6細胞)、ヒト胚性腎臓細胞(例えばHEK293細胞)、メイディンダービーイヌ腎臓(MDCK)細胞、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)、ニワトリ胚腎臓細胞(CEK細胞)、胚盤葉由来胚性幹細胞(例えばEB14)、マウス胚性線維芽細胞(例えば3T3細胞)、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、及びこれらの細胞型の誘導体が挙げられる。
【0073】
したがって本発明は:
- 本発明によるペプチドをコードしている核酸配列を含む核酸分子を提供する工程と、
- 前記核酸分子で宿主細胞を形質転換する工程と、
- 前記ポリペプチドを発現させる条件下で、前記宿主細胞を培養する工程と、
- 前記細胞から前記ペプチドを回収する工程と
を含む本発明によるペプチドを調製するための方法を提供する。
【0074】
本発明による方法は、好ましくは、本発明によるポリペプチドを精製及び/又は単離する工程を更に含む。得られた本発明によるペプチドは、好ましくは、任意選択によるさらなる精製、単離又はプロセシングの工程、例えばゲル電気泳動又はクロマトグラフィー方法を使用する精製の後に、ヒト治療において使用される。
【0075】
一実施形態において、本発明によるペプチドは、ITGA11及び/又はα11β1インテグリンに結合する。別の実施形態において、本発明によるペプチドは、ITGA5及び/又はα5β1インテグリンに結合する。ITGA11、α11β1インテグリン、ITGA5及び/又はα5β1インテグリンへのペプチドの結合は、例えば、実施例で記載されているように、コーティングされた受容体(ITGA11、α11β1インテグリン、ITGA5又はα5β1インテグリン)又はペプチドマイクロアレイを使用して決定される。第1のアッセイにおいて、適切な受容体を例えばELISAプレートにコーティングし、続いて、ペプチドと共にインキュベートする。第2のアッセイにおいては、ペプチドをアレイに固定化し、続いて適切な受容体と共にインキュベートする。
【0076】
本発明によるITGA11結合ペプチドは、好ましくは、α11β1インテグリン及び/又はITGA11阻害活性を有する。前記阻害活性は、好ましくは、α11β1インテグリン及び/又はITGA11の線維芽細胞、星状細胞、筋線維芽細胞、周皮細胞及び/又は間葉系起源の他の細胞への結合の阻害、線維芽細胞、星状細胞、筋線維芽細胞、周皮細胞及び/又は間葉系起源の他の細胞の移動の阻害、線維芽細胞、星状細胞、筋線維芽細胞、周皮細胞及び/又は間葉系起源の他の細胞の分化の阻害、並びに/或いは細胞外マトリックスの合成及び/又は沈着の阻害を含む。
【0077】
本発明によるITGA5結合ペプチドは、好ましくは、α5β1インテグリン及び/又はITGA5阻害活性を有する。前記阻害活性は、好ましくは、α5β1インテグリン及び/又はITGA5の線維芽細胞、星状細胞、筋線維芽細胞、周皮細胞及び/又は間葉系起源の他の細胞、好ましくは線維芽細胞、筋線維芽細胞及び/又は星状細胞に対する結合の阻害、線維芽細胞、星状細胞、筋線維芽細胞、周皮細胞及び/又は間葉系起源の他の細胞、好ましくは線維芽細胞、筋線維芽細胞及び/又は星状細胞の移動の阻害、線維芽細胞、星状細胞、筋線維芽細胞、周皮細胞及び/又は間葉系起源の他の細胞、好ましくは線維芽細胞、筋線維芽細胞及び/又は星状細胞の分化の阻害、並びに/或いは細胞間マトリックス合成及び/又は沈着の阻害を含む。星状細胞としては、限定するものではないが、肝星状細胞、膵星状細胞及び有足細胞が挙げられる。前記阻害活性は、より好ましくは、少なくとも線維芽細胞、星状細胞、筋線維芽細胞、周皮細胞及び/又は間葉系起源の他の細胞の、好ましくは線維芽細胞、筋線維芽細胞及び/又は星状細胞の、より好ましくは線維芽細胞の移動の阻害を含む。
【0078】
本発明によるペプチド又は化合物は、治療適用及び非治療適用の両方において有利に使用することができる。特に、本発明によるペプチド及び化合物は、治療剤、予防剤、診断剤又は標的化剤として有用である。
【0079】
したがって、更に、本発明によるペプチド若しくは本発明による多量体、好ましくは二量体ペプチド又はその薬学的に許容される塩、又は本発明による核酸分子と、少なくとも1つの薬学的に許容される担体、希釈剤及び/又は賦形剤を含む、医薬品組成物を提供する。そのような医薬組成物は、本発明によるITGA11結合ペプチド若しくは多量体ペプチド、本発明によるITGA5結合ペプチド若しくは多量体ペプチド、又はそれらの組み合わせを含む。或いは、医薬品組成物は、本発明による2つ以上のITGA11結合ペプチド若しくは多量体ペプチド、及び/又は本発明による2つ以上のITGA5結合ペプチド若しくは多量体ペプチド、又はその組み合わせを含む。
【0080】
また、本発明によるペプチド又は本発明による多量体、好ましくは二量体ペプチドと、少なくとも1つの薬学的に許容される担体、希釈剤及び/又は賦形剤を含む、医薬品組成物を提供する。そのような医薬組成物は、本発明によるITGA11結合ペプチド若しくは多量体ペプチドを含む1つ若しくは複数の化合物、本発明によるITGA5結合ペプチド若しくは多量体ペプチドを含む1つ若しくは複数の化合物、又はそれらの組み合わせを含み得る。
【0081】
本発明は更に、医薬として使用するための本発明によるペプチド又は本発明による多量体、好ましくはペプチドを提供する。更に医薬として使用するための、本発明のペプチドをコードしている核酸配列を含む核酸分子を提供する。更に、医薬として使用するための本発明によるペプチド又は本発明による多量体、好ましくはペプチドを含む、本発明による化合物を提供する。前記医薬は、治療剤又は予防剤であり得る。
【0082】
本明細書に記載した医薬組成物は、様々な異なる方法で投与することができる。例としては、本発明によるペプチド又は本発明のよる多量体、好ましくはペプチドを含み、薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物を、経口、鼻腔内、直腸内、局所、腹腔内、静脈内、筋肉内、皮下、真皮下、経皮、クモ膜下腔内及び頭蓋内方法を介して投与することが挙げられる。経口投与に関しては、活性成分は、カプセル剤、錠剤及び粉剤等の固体投与剤形、又はエリキシル剤、シロップ剤及び懸濁剤等の液体投与剤形で投与することができる。
【0083】
本発明による医薬組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤を含む。好適な担体の例は、例えば、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、血清アルブミン(例えば、BSA又はRSA)、及びオボアルブミンを含む。好ましい実施形態において、前記好適な担体は、溶液、例えば生理食塩水である。錠剤、カプセル剤等に組み込むことが可能な賦形剤の例は、次のとおりである:トラガカントゴム、アラビアゴム、コーンスターチ又はゼラチン等の結合剤;微結晶セルロース等の賦形剤;コーンスターチ、アルファ化デンプン、アルギン酸等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤;ショ糖、ラクトース又はサッカリン等の甘味剤;ペパーミント、冬緑油又はチェリー等の風味剤。単位投与剤形がカプセル剤である場合、上記種類の材料に加えて、脂肪油等の液体担体を含有することができる。様々な他の材料は、コーティング剤として存在してもよいし、又は他に投与単位の物理的剤形を変更するために存在していてもよい。例えば、錠剤は、セラック、糖又はその両方でコーティングされ得る。シロップ剤又はエリキシル剤は、活性化合物、甘味剤としてのショ糖、保存剤としてのメチル及びプロピルパラベン、色素及びチェリー又はオレンジフレーバー等の風味剤を含有することができる。本発明による医薬組成物は、好ましくは、ヒトでの使用に好適である。
【0084】
注射用の滅菌組成物は、本発明のペプチドを注射用ビヒクル、例えば、水、又はゴマ油、ココナッツ油、ピーナッツ油、綿実油等の天然に存在する植物油、又はオレイン酸エチル等の合成脂肪系ビヒクル等に溶解又は懸濁させることにより、従来の医薬用常法により製剤化することができる。また、緩衝液、保存剤、抗酸化物質等も組み込むことができる。
【0085】
また、局所投与用の組成物も従来の製薬業務によって製剤化することができる。本明細書で使用される場合の「局所投与」とは、微生物感染又は寄生虫感染から生じる症状を局所的に処置するための身体表面、例えば皮膚又は粘膜等への適用を意味する。局所投与に好適な製剤の例としては、限定するものではないが、クリーム、ゲル、軟膏、ローション、フォーム、懸濁剤、スプレー、エアロゾル、粉末エアロゾルが挙げられる。局所用医薬は、皮膚上のものであってよく、皮膚に直接適用することを意味する。局所用医薬は、例えば、気道粘膜上皮に適用するための吸入用であってもよく、又は結膜に適用される点眼薬若しくは耳に入れる点耳薬等の皮膚以外の組織表面に適用され得る。局所投与用に製剤化された前記医薬組成物は、好ましくは、局所適用に好適な少なくとも1つの薬学的賦形剤、例えば、乳化剤、希釈剤、保水剤、保存剤、pH調整剤及び/又は水等を含む。
【0086】
本発明によるペプチド又は本発明による多量体、好ましくは二量体のペプチドは、線維症及び/又は線維症関連疾患、炎症性疾患及び/又はがんの処置又は予防に特に有用である。好ましくは、本発明によるペプチド又は本発明による多量体、好ましくは二量体のペプチドは、線維症及び/又は線維症関連疾患又はがんの処置において、より好ましくは線維症又は線維症関連疾患の処置において使用される。本発明者らは、新規のITGA5結合ペプチド及びITGA11結合ペプチドを開発した。理論により束縛するものではないが、これらのペプチドを使用して、例えば、線維芽細胞、星状細胞、筋線維芽細胞、周皮細胞及び/又は間葉系起源の他の細胞におけるITGA5又はITGA11をブロックし、それによりそれらの分化を阻害することができると考えられる。組織修復中、線維芽細胞及び星状細胞等の細胞は、それらの表現型を細胞間マトリックスのターンオーバーに関与している正常な相対的静止状態から増殖表現型及び収縮表現型をより多く有する筋線維芽細胞に変化させる。正常組織修復プロセス中に、瘢痕が形成され、筋線維芽細胞がアポトーシスを受ける。病理学的線維症において、筋線維芽細胞は組織内に留まり、マトリックス合成の増加及び組織の収縮を介して線維症の原因となる。したがって、例えば、線維芽細胞、星状細胞、筋線維芽細胞、周皮細胞及び/又は間葉系起源の他の細胞の分化を阻害することは、線維症の発症及び/又は進行を妨げることに寄与する。本発明のペプチドは、このように、抗線維化剤及び抗がん剤として使用することができる。
【0087】
したがって、線維症又は線維症関連疾患、炎症性疾患又はがんに罹患している対象を処置するための方法であって、前記対象に、治療有効量の本発明によるペプチド又は本発明による多量体、好ましくはペプチド又は本発明による医薬組成物を投与することを含む、方法を提供する。また、線維症又は線維症関連疾患、炎症性疾患又はがんに罹患している対象を処置するための方法であって、前記対象に、治療有効量の本発明による核酸分子を投与することを含む、方法を提供する。
【0088】
また、線維症及び/又は線維症関連疾患、炎症性疾患及び/又はがんの処置又は予防において使用するための、本発明によるペプチド又は本発明による多量体、好ましくはペプチドを提供する。更に、線維症及び/又は線維症関連疾患、炎症性疾患及び/又はがんの処置又は予防において使用するための、本発明によるペプチド又は本発明による多量体、好ましくはペプチドを含む化合物を提供する。
【0089】
また、線維症及び/又は線維症関連疾患、炎症性疾患及び/又はがんを処置又は予防する医薬を調製するための、本発明によるペプチド又は本発明による多量体、好ましくはペプチドの使用も提供する。更に、線維症及び/又は線維症関連疾患、炎症性疾患及び/又はがんを処置又は予防する医薬を調製するための、本発明によるペプチド又は本発明による多量体、好ましくはペプチドを含む化合物の使用を提供する。
【0090】
本明細書で使用される場合、「対象」はヒト又は動物である。対象としては、限定するものではないが、ヒト、ブタ、シロイタチ、アザラシ、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ及びウマ等の哺乳動物が挙げられる。本発明の好ましい実施形態において、対象は哺乳動物である。特に好ましい実施形態では、対象はヒトである。
【0091】
本ペプチド、化合物、及びペプチド又は化合物を含有する組成物は、予防的処置及び/又は治療的処置において投与することができる。好ましい実施形態において、本ペプチド、化合物、及びペプチド又は化合物を含有する組成物は、治療的処置において投与される。治療的適用において、ペプチド又は組成物は、線維症又は線維症関連疾患、炎症性疾患又はがんに既に罹患している対象、好ましくはヒトに、疾患及びその合併症を妨げるのに十分な量で投与される。本ペプチド又は化合物は、典型的には、症状又は疾患、特に線維症又は線維症関連疾患、炎症性疾患又はがんを改善するのに十分な量である治療量で本発明による医薬組成物中に存在する。本発明によるペプチド又は本発明による多量体、好ましくはペプチドの投与の典型的な量は、ペプチドのサイズに応じて、体重1kgあたり0.01~10mgのペプチドである。
【0092】
本明細書で使用される場合の用語「線維症」とは、肺、腎臓、心臓、肝臓、皮膚及び関節を含めた、皮膚又は器官の細胞外マトリックス成分の沈着と、それによる瘢痕組織の発生を特徴とする症状を意味する。またこの用語は、瘢痕組織の形成プロセスを意味する。線維症又は線維症関連疾患の処置とは、既に線維化症状を発症している対象の処置を意味する。線維症又は線維症関連疾患の予防とは、線維化症状を発症するリスクのある対象の予後処置を意味する。用語「線維症関連障害」とは、本明細書では、線維症の結果として生じ得る、又は線維症に随伴する障害又は症状として定義される。線維症及び/又は線維症関連障害は、好ましくは、腎線維症、肝線維症、肝硬変、肺線維症、皮膚線維症、胆管線維症、腹膜線維症;心筋線維症;膵線維症、肝臓移植又は腎臓移植後の再潅流傷害、間質性肺疾患(ILD)、嚢胞性線維症(CF)、アテローム性動脈硬化、全身性硬化症、骨硬化症、脊椎円板ヘルニア形成及び他の脊髄損傷、線維腫症、線維筋痛症、関節炎、再狭窄からなる群から選択される疾患又は症状を意味する。肺線維症としては、特発性肺線維症及び強皮症肺線維症が挙げられる。皮膚線維症としては、強皮症、ケロイド、過形成性瘢痕、皮膚線維腫、創傷、慢性創傷、皮膚瘢痕化、乾癬及び火傷が挙げられる。好ましい実施形態において、線維症及び/又は線維症関連障害は、肝線維症、皮膚線維症、特発性肺線維症、腎臓線維症及びアテローム性動脈硬化症からなる群から選択される。
【0093】
炎症は、線維症の初期段階であり得る。例えば、肝炎は肝線維症に至り、腎炎は腎線維症に至る。本明細書で使用される場合の「炎症性疾患」とは、過剰な炎症反応又は制御されない炎症反応に関連した任意の疾患を意味する。本発明に従って処置される炎症性疾患は、好ましくは、組織損傷及び線維症を引き起こす炎症性疾患である。好ましくは、本発明に従って処置される炎症性疾患は、関節炎、例えば、慢性関節リウマチ(RA)、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎及び若年性特発性関節炎;炎症性腸感染、例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病、小児脂肪便症、腸炎、壊死性小腸大腸炎及びグルテン過敏性腸疾患;呼吸器系の炎症性疾患、例えば、気管支喘息、アレルギー喘息、内因性喘息、外因性喘息及び塵埃喘息を含めた喘息、特発性間質性肺炎、成人型呼吸窮迫症候群、アレルギー性鼻炎、慢性閉塞性気道疾患、可逆性閉塞性気道疾患、過敏性肺疾患、気道応答性亢進及び毛細気管支炎;皮膚の炎症性疾患、例えば、乾癬、強皮症、湿疹、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎、皮膚筋炎、皮膚炎多形性紅斑及び蕁麻疹;自己免疫性肝炎及びウイルス性肝炎を含めた肝炎;糸球体腎炎、間質性腎炎及び腎盂腎炎を含めた腎炎;膵臓炎、脈管炎、歯肉炎、歯根膜炎サルコイドーシス、甲状腺炎、耳炎、結膜炎、副鼻腔炎、サルコイドーシス及び病原微生物によって引き起こされた感染症からなる群から選択される。特に好ましい実施形態において、前記炎症性疾患は、腎炎、肝炎、膵臓炎、皮膚の炎症性疾患及び呼吸器系の炎症性疾患からなる群から選択される。
【0094】
用語「がん」は任意のタイプの悪性腫瘍又は悪性新生物を意味する。本発明に従って処置されるがんは、好ましくは、肺がん、膵臓がん、乳がん、肝臓がん、脳腫瘍、皮膚がん、結腸がん、小腸がん、胃がん、子宮がん、腎臓がん、腎細胞がん、前立腺がん、胆嚢がん、頭部又は頚部のがん、卵巣がん、子宮頸がん、膠芽腫、メラノーマ、軟骨肉腫、繊維肉腫、線維形成性小円形細胞腫瘍、子宮内膜腫瘍、食道腫瘍、眼部又は消化管間質の腫瘍、脂肪肉腫、鼻咽頭腫瘍、甲状腺腫瘍、膣部及び外陰部の腫瘍、並びに線維形成を伴う他の腫瘍からなる群から選択される。好ましい実施形態において、本発明に従って処置されるがんは、線維形成を伴う腫瘍である。本明細書で使用される場合の「線維形成を伴う腫瘍」とは、線維組織又は結合組織の増殖を随伴する腫瘍を意味する。特に好ましい実施形態において、前記がんは、肺がん、膵臓がん、肝臓がん、乳がん、前立腺がん、腎臓がんからなる群から選択される。がんの処置は、腫瘍サイズの縮小、腫瘍増殖の阻害及び転移形成の阻害を包含する。
【0095】
本発明のペプチドは、例えば、目的の部位に治療分子又は造影剤を送達するための標的化送達剤として適切に使用される。したがって、画像診断剤又は標的化剤としての、本発明によるペプチド又は本発明による多量体、好ましくはペプチドの使用を提供する。また、標的化剤として使用するための、本発明によるペプチド又は本発明による多量体、好ましくはペプチドを提供する。また、インテグリンアルファ11(ITGA11)を発現する、好ましくはα11β1インテグリンを発現する組織を、ITGA結合ペプチド又は本発明による多量体、好ましくは二量体ペプチドと前記組織とを接触させることにより画像化する方法も提供する。一実施形態において、前記方法は、例えば、組織又は細胞サンプルを画像化するための、インビトロでの方法である。別の実施形態において、前記方法は、例えば、組織又は細胞をインビボで画像化するための、インビボでの方法ある。ITGA11結合ペプチドは、好ましくは、ITGA11及び/又はα11β1インテグリンを発現する組織、例えば、線維性組織又は腫瘍組織に治療剤又は造影剤を送達するために使用される。また、インテグリンアルファ5(ITGA5)を発現する、好ましくはα5β1を発現する組織を、ITGA5結合ペプチド又は本発明による多量体、好ましくは二量体ペプチドと前記組織とを接触させることにより画像化する方法も提供する。一実施形態において、前記方法は、例えば、組織又は細胞サンプルを画像化するための、インビトロでの方法である。別の実施形態において、前記方法は、例えば、組織又は細胞をインビボで画像化するための、インビボでの方法ある。ITGA5結合ペプチドは、好ましくは、ITGA5及び/又はα5β1インテグリンを発現する細胞又は組織、例えば、線維性組織又は腫瘍組織(内の細胞)に治療剤又は造影剤を送達するために使用される。
【0096】
本発明のペプチドを使用して目的の部位を標的とすることができる治療分子は、例えば、タンパク質又はペプチド、サイトカイン、薬物含有ナノ粒子、小分子治療剤及び/又は化学療法剤である。そのような治療分子は、例えば、本発明によるペプチド又は本発明による多量体、好ましくはペプチドに結合される。一実施形態において、本発明によるペプチド又は本発明による多量体、好ましくはペプチドは、好ましくは治療分子を、ITGA11及び/又はα11β1インテグリン並びに/或いはITGA5及び/又はα5β1インテグリンを発現する線維性組織又は線維性組織内の細胞に標的化するために使用される。治療剤は、線維症又は線維症関連障害の処置に適した当技術分野で公知の任意の薬剤、例えば、ピルフェニドン(5-メチル-1-フェニルピリジン-2-オン)、トラニラスト(2-{[(2E)-3-(3,4-ジメトキシフェニル)プロパ-2-エノイル]アミノ}安息香酸、インターフェロン-β1a、インターフェロン-γ、コルヒチン、D-ペニシラミン、リラキシン、ロバスタチン、アセチルシステイン、ケラチノサイト増殖因子、肝細胞増殖因子、カプトプリル、ビリルビン及びイマチニブからなる群から選択されるものであってよい。別の実施形態において、本発明によるペプチド又は本発明による多量体、好ましくはペプチドは、好ましくは治療分子を、ITGA11及び/又はα11β1インテグリン並びに/或いはITGA5及び/又はα5β1インテグリンを発現する腫瘍細胞に標的化するために使用される。治療剤は、ホルモン療法剤、化学療法剤、免疫療法剤等の当技術分野で公知の任意の抗がん剤であってよく、限定するものではないが、デキサメサゾン、プレドニゾロン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、アビラテロン、リアロゾール、シクロホスファミド、イホスファミド、ホスフェストロール、ジエチルスチルベストロール、クロロトリアニセン、酢酸メドロキシプロゲステロン、酢酸メゲストロール、クロルマジノン、酢酸シプロテロン、ダナゾール、アリルエストレノール、ゲストリノン、メパリシン、ラロキシフェン、オルメロキシフェン、レボメロキシフェン、タモキシフェン、トレミフェン、フルベストラント、ゴナドトロピン、卵胞刺激ホルモン、メピチオスタン、テストラクトン、アミノグルテチミド、ゴセレリン、ブセレリン、リュープロレリン、ドロロキシフェン、エピチオスタノール、エチニルエストラジオール、アナストロゾール、レトロゾール、エキセメスタン、ボロゾール、ホルメスタン、フルタミド、フィナステリド、デュタステリド、エプテリステリド、チオテパ、カルボコン、インプロスルファン、ブスルファン、ニムスチン、ミトブロニトール、メルファラン、ダカルバジン、ラニムスチン、エストラムスチン、カルマスティン、ロムスチン、ストレプトゾシン、エトグルシド、カルボプラチン、シスプラチン、ミボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、アルトレタミン、アンバムスチン、ジブロスピジウム、フォテムスチン、プレドニマスチン、プミテパ、リボムスチン、テモゾロミド、トレオスルファン、トロホスファミド、ジノスタチンスチマラマー、アドゼレシン、システムスチン、ビゼレシン、メルカプトプリン、6-メルカプトプリンリボシド、チオイノシン、メトトレザト、エノシタビン、シタラビン、シタラビン、アンシタビン、フルオロウラシル、ドキシフルリジン、カルモフール、ガロシタビン(gallocitabine)、エミッテフール(emmitefur)、アミノプテリン、ブトシン(butocine)、ホリナートカルシウム、レボホリナートカルシウム、クラドリビン、エミテフール、フルダラビン、ゲムシタビン、ペントスタチン、ピリトレキシム、イドクスウリジン、ミトグアゾン、チアゾフリン(thiazophrine)、アンバムスチン、アクチノマイシンD、アクチノマイシンC、マイトマイシンC、クロモマイシンA3、ブレオマイシン、硫酸ブレオマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、エピルビシン、ネオカルチノスタチン、ミトラマイシン、ザルコマイシ、カルジノフィリン、ミトタン、ゾルビシン、ミトキサントロン、イダルビシン、エトポシド、エトポシドリン酸塩、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、テニポシド、パクリタキセル、ドセタセル、ビノレルビン、ピシバニール、クレスチン、シゾフィラン、レンチナン、ウベニメクス、インターフェロン、インターロイキン、マクロファージコロニー刺激因子、果粒球コロニー刺激因子、エリトロポイエチン及びリンフォトキシンからなる群から選択されるものを含む。
【0097】
本発明によるペプチド又は本発明による多量体、好ましくはペプチドは、画像化標識と共に提供することができる。使用可能な画像化標識の例としては、酵素、蛍光化合物、放射性同位元素、化学発光化合物及び生物発光化合物が挙げられる。このような画像化標識は、当技術分野において公知であり一般に利用可能である。標識の非限定的な例は、ビオチン、フルオレセイン、ダンシル、7-メトキシクマリン酢酸(Mca)、パルミチン酸である。このような標識は、例えば、当技術分野で公知の利用可能な方法を使用して、ペプチドのN末端又はC末端に結合される。したがって、本発明によるペプチドと、標識、好ましくは画像化標識とを含む化合物を提供する。標識の好ましい例は、酵素、蛍光標識、放射性同位体、化学発光標識及び生物発光標識である。特に好ましい標識は、蛍光標識である。
【0098】
画像化標識と共に提供される本発明によるペプチドは、インビトロ及びインビボの両方で使用することができる。例えば、インビトロでの使用は、例えば、研究目的又は診断目的における個体の組織サンプル中のITGA11及び/又はα11β1インテグリン並びに/或いはITGA5及び/又はα5β1インテグリンの標識を包含する。本発明によるペプチド又は本発明による多量体、好ましくはペプチドのインビボでの使用の例は、画像誘導手術及び画像誘導薬物送達である。画像誘導外科手術とは、目的の組織が、外科処置を補助又はガイドするためにリアルタイムで標識される、外科処置を意味する。画像誘導薬物送達においては、腫瘍局在化及び薬物送達は、(非侵襲性)画像化により誘導及びモニターされる。
【0099】
したがって、診断剤としての使用するための、本発明によるペプチド又は本発明による多量体、好ましくはペプチド又はそのようなペプチドを含む本発明による化合物を提供する。そのようなペプチドは、例えば、本明細書に記載されている画像化標識に結合される。前記診断剤は、好ましくは、線維症又は線維症関連障害、炎症性疾患又はがんの診断に使用するためのものである。また、線維症又は線維症関連障害、炎症性疾患又はがんを診断するための方法であって、線維症又は線維症関連障害、炎症性疾患又はがんに罹患している疑いのある対象由来のサンプルを、本発明によるペプチド又は本発明による多量体、好ましくはペプチド又はそのようなペプチドを含む本発明による化合物と接触させる工程を含む、方法を提供する。更に、画像化剤としての使用するための、本発明によるペプチド又は本発明による多量体、好ましくはペプチド又はそのようなペプチドを含む本発明による化合物を提供する。そのようなペプチドは、例えば、本明細書に記載されている画像化標識に結合される。前記画像化剤は、好ましくは、線維症又は線維症関連障害、炎症性疾患又はがんの診断において使用するためのものである。
【0100】
特徴は、本明細書では、明確化及び簡潔な説明を目的として、同一若しくは別の態様、又は本発明の実施形態の一部として説明することができる。本発明の範囲は、同一又は別の実施形態の一部として本明細書に説明されている特徴の全部又は一部の組み合わせを有する実施形態を包含し得ることは、当業者には理解されよう。
【0101】
本発明を以下の非限定的な実施例においてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0102】
図1】TGF-β1で活性化したヒト肝星状細胞(A)における、及びCC14誘導性肝線維症マウスモデルの肝線維症の異なるステージで単離した肝臓(B)におけるα-SMA及びインテグリンα11の遺伝子発現レベルを示す図である。正常に対し、*p<0.05、**p<0.01。
図2A】A. ヒト肝臓肝硬変症におけるITGA11;B. 膵臓がんにおけるITGA11;C. ヒト腎臓線維症におけるITGA11を示す図である。図A及び図Bの画像は、ITGA11(緑色)及びα-SMA(赤色)及びそれらのマージ(黄色)の免疫蛍光染色を示す。図Cは、ITGA11(赤色)及びα-SMA(緑色)及びそれらのマージ(オレンジ~黄色)の免疫蛍光染色を示す。これらの画像は、線維芽細胞マーカーα-SMAと共局在するすべての病理学的症状の線維化領域においてITGA11が強く発現されることを示し、マージ画像においてはオレンジ~黄色で示した。
図2B】A. ヒト肝臓肝硬変症におけるITGA11;B. 膵臓がんにおけるITGA11;C. ヒト腎臓線維症におけるITGA11を示す図である。図A及び図Bの画像は、ITGA11(緑色)及びα-SMA(赤色)及びそれらのマージ(黄色)の免疫蛍光染色を示す。図Cは、ITGA11(赤色)及びα-SMA(緑色)及びそれらのマージ(オレンジ~黄色)の免疫蛍光染色を示す。これらの画像は、線維芽細胞マーカーα-SMAと共局在するすべての病理学的症状の線維化領域においてITGA11が強く発現されることを示し、マージ画像においてはオレンジ~黄色で示した。
図2C】A. ヒト肝臓肝硬変症におけるITGA11;B. 膵臓がんにおけるITGA11;C. ヒト腎臓線維症におけるITGA11を示す図である。図A及び図Bの画像は、ITGA11(緑色)及びα-SMA(赤色)及びそれらのマージ(黄色)の免疫蛍光染色を示す。図Cは、ITGA11(赤色)及びα-SMA(緑色)及びそれらのマージ(オレンジ~黄色)の免疫蛍光染色を示す。これらの画像は、線維芽細胞マーカーα-SMAと共局在するすべての病理学的症状の線維化領域においてITGA11が強く発現されることを示し、マージ画像においてはオレンジ~黄色で示した。
図3】α11β1のα4β1に対するファージの結合を示す、ファージELISAアッセイを示す図である。
図4】ITGA11へのペプチドの結合を示す図である。Aは、コーティングしたα11β1受容体へのAXI-I-PEG-FITCの結合を示す。AXI-I-FITCは濃度の増加に伴って受容体に結合し、結合は過剰の非標識AXI-Iでブロックされた。空のウェル又は無関係な受容体α5β1へのペプチドの結合は、特異的結合に至らなかった。B及びCは、緑色で表示した、LX2肝星状細胞へのAXI-I-FITC(B)ペプチド及びAXI-II-FITC(C)ペプチドの結合を示す。
図5】コーティングしたα11β1受容体(A)及びLX2細胞(B)に対するFITC標識したITGA11結合ペプチド(AXI-I)の結合試験を示す図である。受容体に対し、結合は、10倍高濃度の非標識ペプチドを添加することにより競合的にブロックされた。受容体結合データは、n=4の独立した実験の平均であり、それぞれ2連である。平均+標準偏差。LX2におけるITGA11のノックダウンは、ペプチド結合を完全に阻害した。
図6】初代ヒト膵星状細胞におけるAXI-I-PEG-FITC結合アッセイ-フローサイトメトリーを示す図である。異なる濃度のAXI-I-PEG-FITCを、懸濁した膵星状細胞と4℃で1時間インキュベートし、洗浄し、0.5%ホルムアルデヒドで固定し、フローサイトメトリーで測定した。結果は、AXI-I-PEG-FITCがこれらの細胞に対して濃度依存的に結合し、約1uMの解離定数(kd)値を導くことを示している。
図7】AXI-Iペプチド(SGLTEWLRWFNS)に対するアラニンスキャニング及びペプチド鎖長スキャンを示す図である。
図8】マウスのLX2細胞のインビトロでの活性化(A)及びCC14誘発肝線維症モデルにおけるインビボでの活性化(B、C)に対するAXI-Iの効果を示す図である。A) AXI-Iによる処置は、TGFβ-活性化LX2細胞において漸増濃度でコラーゲン-Iの発現を阻害したが、スクランブルしたペプチド(SAXI)は不活性のままであった。B)及びC) CC14誘導性肝線維症モデルおいて、AXI-I(200ug/kg/d)i.p.注射による処置は、ビヒクル対照(C)と比べて、肝臓におけるITGA5及びITGA11(B)の遺伝子発現、筋線維芽細胞のマーカー並びにコラーゲン-I及びIIIのタンパク質発現の減少によって示されるように、線維形成を低減した。*p<0.05 平均+標準偏差。
図9】膵臓がんにおけるITGA5を示す図である。A.左画像は健常なヒト膵臓におけるITGA5の免疫染色を示し、右画像は膵臓腫瘍における染色を示す。膵臓腫瘍はITGA5の強い染色を示すが、健常な膵臓は染色を示さない。B. α-SMA染色(筋線維芽細胞用のマーカー)及びCD31染色(内皮細胞用のマーカー)によるITGA5の共局在化を示す。二重染色法は、ITGA5はa-SMAに完全に合致するが、CD31とはわずかしか合致せず、ITGA5が筋線維芽細胞で高度に発現されることを示唆している。
図10】ヒト皮膚線維芽細胞及び膵星状細胞におけるITGA5発現を示す図である。A. ヒト皮膚線維芽細胞(BJhtert)は、TGF-β1で8時間、24時間及び48時間の活性化後、ITGA5レベルの増加を示した。B. TGFβ又はpanc-1腫瘍細胞馴化培地による膵星状細胞の活性化は、24時間後にITGA5発現レベルを誘導した。
図11】ITGA5に対するペプチドの設計を示す図である。JPT Technologies社(Berlin Germany)の「Protocol Multiwell Peptide Microarrays」https://www.jpt.com/fileadmin/Multiwell-Peptide-Microarray_Protocol_Rev_1.0_V06.pdfから得た画像である。
図12】コーティングしたα5β1受容体及びLX2細胞へのペプチドの結合を示す図である。FITC標識化nAV2:YYRITYGETGGN-K-PEG(6)-フルオレセイン;nAV2:YYRITYGETGGN;AV3:RYYRITY。A. nAV2-FITCは、コーティングしたα5β1受容体に結合したが、これは過剰のnAV2ペプチドによりブロックされ、過剰のAV3ペプチドでより強固となった。B. LX2細胞(DAPIで染色)へのnAV2-FITCの結合を示し、緑色(FITC)で表示した。
図13】不可欠なアミノ酸を確認するためのペプチドRYYRUTYのアラニン置き換えアッセイを示す図である。太字で下線を付したアミノ酸、特にY3及びT6は、結合にとって重要であると思われる。
図14】A. AV3ペプチドの抗線維化効果。B. インビトロでのPSC活性化に対するAV3-cysペプチド効果(濃度20μΜ、倍率20倍)。A. TGFβによるPSCの活性化は、α-SMA発現におり示したように、これらの細胞の活性化をもたらした。AV3ペプチドによる処置は、20μΜでα-SMA発現を有意に阻害した。B. PSCのTGFβ1とのインキュベーションは、免疫染色で示したように、α-SMA、Col-1al及びビメンチン等の線維化マーカーの発現を増強した。AV3-cysペプチドでの処置は、これらのバイオマーカーの発現を明らかに阻害した。反対に、スクランブルされたAV3-cysは、阻害作用を全く示さなかった。
図15】ヒト線維芽細胞の移動に対するペプチドの効果を示す図である。ヒト皮膚線維芽細胞BJhtertを十分な培養密度まで増殖させ、傷(創傷)をつくり、ペプチドの効果を24時間後に創傷閉鎖(線維芽細胞の移動)で決定した。A. AV3-cysは線維芽細胞の移動を有意に阻害したが、そのスクランブルされたバージョンは効果を示さなかったことを示している。B. 線維芽細胞の移動に対する異なるペプチドの効果を示している。AV3.3のみ、移動に対して約30%の低減を示したが、他のバージョンは効果はわずかであるか、効果を示さなかった。
図16】ペプチドAV3及びAXI-Iの特異性を示す図である。蛍光標識したペプチド(AV3-PEG(6)-5FAM(A)及びAXI-I-PEG(6)-FITC(B))について、α5β1受容体及びα11β1受容体に対するそれらの結合親和性をそれぞれ試験した。
図17】ヒト皮膚線維芽細胞の活性化に対するAV3ペプチドの濃度応答効果を示す図である。
図18】AV3ペプチドを使用する腫瘍画像化を示す図である。800CW色素で標識したAV3ペプチド(AV3-800CW)の分布を示す光学画像である。ヒト膵星状細胞(PSC)と組み合わせたヒト膵臓腫瘍細胞(Panc-1)をSCIDマウスの側腹部に同時注入し、約200mm3のサイズまで増殖させた。腫瘍担持マウスに、AV3-800CW(1nmol)を単独で静脈内注射するか(A)、又は50倍過剰の非標識AV3を静脈内注射した(B)。画像は、Pearlイメージャー(LICOR社)を使用して捕捉した。
【実施例0103】
(実施例1)
材料及び方法
材料
ペプチドファージディスプレーPh.D.12(商標)ライブラリーは、最初はNew England Biolabs社より入手した。大腸菌(E. coli) ER2738宿主株は、New England Biolabs社から購入した。標的タンパク質rhインテグリンα11β1及び対照タンパク質rhインテグリンα4/β1は、R&D systems社から購入した。
【0104】
バイオパニング
ER2738宿主細胞は一晩培養し、それらを新たに使用した。コーティング緩衝液(0.1M NaHCO3)中の標的タンパク質α11β1(50~100μg/mL)の100μLを96ウェルプレートで一晩4℃にてインキュベートした。次いで、各ウェルを300μLのブロッキング緩衝液0.1M NaHCO3(pH8.6)、5mg/mLのBSA、0.02% NaN3、0.1μg/mLのストレプトアビジンで、37℃にて2時間ブロックした。次いで、ブロックしたウェルを、0.1%~0.3%のTween-20を含むPBST中の2%スキムミルクで6回洗浄した。その後、予めサブトラクトされたファージをウェルに移し、37℃で1時間インキュベートした。ウェルをPBST(0.1~0.3%Tween20)中の2%ミルクで10回洗浄した。結合ファージを酸性溶出緩衝液で溶出し、1MのTris-HCl(pH9.1)で中和した。
【0105】
溶出液の滴定
簡単に述べると、1μLの溶出液を100μLのLB培地で希釈し、連続希釈液を調製した。希釈液をまず試験管中の200μLの対数中期の宿主細胞と混合し、次いで混合物を3mLの予め加温したアガローストップ(Agarose Top)(45℃)に添加し、素早くボルテックスし、予め加温したLB/IPTG/Xgalプレートに注ぎ入れ、アガローストップを均一に広げた。室温で約5分間冷却した後、プレートを上下逆にし、次いで37℃で一晩インキュベートした。最後に、プレートを詳しく調べ、約100プラークを有するプレート上の青色プラーク(ファージベクターを有する)をカウントした。1mL当たりのpfu(プラーク形成単位)は、各数値に希釈係数を乗じることにより決定した。
【0106】
溶出液の増幅
1回目又は2回目のスクリーニングの溶出液の残りは、20mLのER2738細胞培養物を感染させ、37℃で4.5時間インキュベートすることにより増幅させた。細胞上清中に含有される増幅したファージを1/6容量のPEG/NaClを加えることにより沈澱させ、4℃で一晩インキュベートした。沈殿したファージをLB/IPTG/X-galプレートで滴定し、次回のスクリーニングのために保存した。
【0107】
ファージELISAアッセイ
各クローンについて、20mLのLB培地にER2738と共に接種し、わずかに混濁するまで37℃でインキュベートした。ファージの単一プラークを各培養物に接種し、次いで、激しく通気しながら37℃で4.5時間インキュベートした。培養物を新しい遠心チューブに移し、10,000rpmで10分間遠心分離した。上清の上方80%を新しいチューブに移し、PEG/NaClで2回沈澱させた。次いで、ペレットを250μLのTBSに懸濁した。96ウェルのELISAプレートを、コーティングバッファー中の1μg/mL標的の100μLでコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。次いで、プレートを洗浄緩衝液(TBS中0.1%Tween)で1回洗浄した。全ウェルを250μLのブロッキング緩衝液で1~2時間4℃でブロックした。次いで、プレートを洗浄緩衝液で6回洗浄し、ペーパータオルで押さえて過剰の緩衝液を除去した。その後、1ウェルあたり100μLのファージビリオンを添加した。競合ファージELISAにおいて、競合抗原を洗浄緩衝液中のファージと混合し、ウェルに添加し、室温で1~2時間攪拌しながらインキュベートした。プレートを洗浄緩衝液で6回洗浄した。HRP結合抗M13抗体(GE healthcare社、ブロッキング緩衝液中1:5000)を各ウェルに添加し、室温で1時間攪拌しながらインキュベートした。次いで、プレートを洗浄緩衝液で6回洗浄した。100μLのHRP基質溶液(21mLのOPDストック溶液に30% H2O2の36μLを新たに加えた、100mLの50mMクエン酸ナトリウム中22mg OPD(Sigma社)、pH4.0)を各ウェルに加え、室温で10~60分間インキュベートした。プレートは、490nmでマイクロプレートリーダーを使用して読み取った。
【0108】
配列決定のためのssDNAの単離
単一プラークは、2mLのER2738細胞培養物に感染させ、37℃で4.5時間インキュベートすることにより増幅させた。500μLのファージ含有上清を新しいチューブに移し、200μLのPEG/NaClを加え、混合した。チューブを最高速度で10分間遠心分離し、上清を廃棄した。ペレットを100μLのヨウ化物緩衝液中に完全に懸濁させ、250μLのエタノールを加え、10分間室温でインキュベートした。次いで、チューブを10分間遠心分離し、上清を廃棄した。ペレットを70%エタノールで洗浄し、短時間真空下で乾燥させた。ペレットを30μLのTE緩衝液に懸濁し、再懸濁した鋳型の5μLをDNA配列決定に使用した。配列は、プロフェッショナルソフトウェア(Vector社 NTI(登録商標)、バージョン10)を用いて翻訳した。
【0109】
ペプチド及びペプチド-PEG-FITCの合成
ペプチド及びペプチド-PEG(6)-FITCは、Chinapeptides社(Shanghai, China)により95%を超える純度でカスタム合成された。ペプチドの合成の成功は、質量分析により確認した。
【0110】
ペプチドのITGA11受容体への結合
精製したITGA11受容体(α11β1;100μg/mL-ストック;R&D systems社)を、1×PBSで5μg/mLに希釈した。96ウェルのELISA White Maxisorbプレート(Nunc社)を、50μLの5μg/mL ITGA11(又は対照としてのα5β1)受容体で一晩4℃にてコーティングした。次いで、200μLのブロッキング緩衝液(5% BSAを含有する1×PBS)でウェルを3~4時間ブロックした。ウェルを200μLの洗浄緩衝液(0.5% BSA及び0.05% Tween20を含有する1×PBS)で3回洗浄した。FITCと結合させたペプチドを洗浄緩衝液で異なる濃度に希釈し、次いでプレートに添加し、37℃で1時間インキュベートした。更に、ペプチドの結合は、10倍高い量の非標識ペプチドとの同時インキュベーションによりブロックした。続いて、ウェルを洗浄緩衝液で3回洗浄した。次いで、1×PBSの100μLを添加し、蛍光プレートリーダーを用いてプレートを485nm/520nmで読み取った。
【0111】
細胞結合実験
ヒト肝星状細胞(LX2、15,000細胞/ウェル)を、permanox Lab-Tek 8ウェルチャンバースライド(Nunc社)中で一晩培養した。一晩インキュベートした後、細胞を0.5%BSA含有培地で3回洗浄し、次いで、FITC標識ペプチド(20μM)を添加し、断続的に振盪しながら室温で2時間インキュベートした。次いで、細胞を0.5% BSA含有培地及び2×PBSで3回洗浄した。その後、細胞を4%パラホルムアルデヒド(1×PBSで調製したもの)で20分間固定化し、1×PBSで3回洗浄した。次いで細胞を、DAPI(vector labs社)を含むマウント培地でマウントし、蛍光顕微鏡(Nikon社 E600)下で視覚化した。ファロイジン染色については、固定後の細胞を、TRITC結合ファロイジン(0.1%トリトンX100を含有する1×PBSで調製した1:1000)と共に10分間インキュベートした。次いで、細胞をPBSで3回洗浄し、DAPI含有マウント培地でマウントした。
【0112】
CC14誘発性肝線維症マウスモデル
すべての動物実験は、ユトレヒト大学の倫理委員会によって承認された。C57/BL6マウス(7~8週齢)は、Harlan社(Zeist、The Netherlands)からを入手し、12/12明暗サイクルで適切な食物及び水を供給しながら維持した。CC14は、4週間(軽度の線維症)及び8週間(進行した線維症)、マウスに腹腔内投与した(週に2回;オリーブ油で調製した1.0mL/kg)。最後に投与した24時間後に動物を安楽死させ、各肝臓葉から切片を切り出し、エッペンドルフチューブに回収し、RNA単離のため液体窒素中で急速凍結させた。健常の対照マウスにはオリーブ油を与えた。肝線維症に対するAXI-1ペプチドの効果を評価するため、0日目に単回投与のCC14(1mL/kg)を動物に注射した。続いて、1日目及び2日目に、マウスにペプチド(200μg/kg/d、i.p)又はビヒクル(PBS)を注射した。4日目にマウスを安楽死させ、肝臓サンプルを免疫組織化学分析及び遺伝子発現試験用に処理した。
【0113】
インビトロ遺伝子発現試験
肝星状LX2細胞(80,000細胞/ウェル)を12ウェルプレートにプレーティングし、37℃/5% CO2で一晩インキュベートした。次いで、細胞を0.5%血清含有培地で一晩飢餓状態にし、次いで、5ng/mLのTGFβで24時間活性化した。続いて、細胞を1×PBSで洗浄し、200μLのRNA溶解緩衝液で溶解させた。全RNAは、製造元の指示に従い、SV Total RNA Isolation System(Promega社)を使用して単離した。RNA濃度はUV分光光度計(Nanodrop technologies社)を使用して定量した。iScript cDNA合成キット(Biorad社)を使用し、1μgのRNAを逆転写した。リアルタイムPCR反応は、製造元の指示に従い、2×SYBR green PCRマスターミックス(Bioline社)を使用して20ng cDNAで実施し、Biorad CFX384 Real-Time PCR検出システムにより分析した。最後に、閾値サイクル(Ct)を計算し、相対遺伝子発現をハウスキーピング遺伝子としてのGAPDH(マウスに関して)で正規化した。
ITGA 11ヒトフォワード:CAGCTCGCTGGAGAGATACG; リバース:TTACAGGACGTGTTCGCCTC; GAPDHヒトフォワード:TCCAAAATCAAGTGGGGCGA; リバース:TGATGACCCTTTTGGCTCCC; a-smaヒトフォワード:GAACCCTGTGTCCTGCATCA; リバース:TTGGAGTTCCACCTCGAAGC; ITGA11マウスフォワード:TTGGGCTACTACAACCGCAG; リバース:CTTGTTGGTGCCTTCCAAGC; GAPDHマウスフォワード:ACAGTCCATGCCATCACTGC; リバース:GATCCACGACGGACACATTG; α-smaマウスフォワード:ACTACTGCCGAGCGTGAGAT; リバース:CCAATGAAAGATGGCTGGAA。
【0114】
ペプチドマイクロアレイにおける結合試験
ペプチドマイクロアレイは、PEGリンカーを使用してN末端でペプチドをガラススライドに結合させることによって調製した。各ペプチドを異なる位置で3回提示させ、人為産物とエラーを回避した。結合試験については、ペプチドアレイはTBST中の3% BSAで2時間ブロックした。次いで、アレイスライドをTBSTで5回洗浄し、続いて37℃で1時間、標的受容体(α11β1、PBSに溶解した10μg/mL)と共にインキュベートした。スライドをTBSTで洗浄し、次いでITGA11に対する一次抗体(1μg/mL)と共に37℃で1時間インキュベートした。次いでスライドを洗浄し、蛍光色素標識二次抗体と共に30分間インキュベートした。スライドをTBST及び水で洗浄し、次いで乾燥させ、マイクロアレイスキャナーでスキャンしてペプチドの結合を検出した。ImageJソフトウェアを使用して照らされたスポットを分析した。非特異的結合を決定するために、ペプチドアレイを、受容体インキュベーション工程を行うことなく、一次抗体及び二次抗体のみとインキュベートした。次いで、非特異的結合のシグナルを全結合から差し引き、特異的結合を算出した。
【0115】
ヒト肝臓肝硬変症及び膵臓がんにおけるITGAの発現
免疫組織化学的染色を実施例2に記載したように実施した。
【0116】
ヒト膵星状細胞へのAXI-PEG FITC結合
PSCはトリプシン-EDTA溶液を使用してトリプシン処理し、細胞数を4×104細胞/mLに希釈した。細胞を37℃で30分間インキュベートし、受容体を回復させた。次いで、異なる濃度のAXI-I-FITCを、細胞を含有する2%FBSに添加し、4℃で60分間インキュベートした。その後、細胞を4℃で10分間、1500rpmで遠心分離した。上清を除去し、細胞をPBSで3回洗浄し、次いで4℃で1時間、0.5%ホルムアルデヒドで固定し、フローサイトメトリーで蛍光について測定した。
【0117】
結果
肝星状細胞及び肝線維症におけるITGA11発現
本発明者らは、肝線維症において最も重要な細胞型であって、細胞外マトリックスの産生を担う肝星状細胞におけるITGA11の発現を調べた。本発明者らは、TGFβ1による星状細胞の活性化がITGA11遺伝子発現を有意に増加させることを見出した(図1A)。これらのデータは、星状細胞活性化マーカーα-SMAの発現レベルの増加に裏付けられている。更に本発明者らは、マウスにおけるCC14誘導性肝線維症モデルにおけるITGA11の発現を調べた。本発明者らは、ITGA11の発現レベルが、CC14の4週間(軽度の線維症)及び8週間(進行した線維症)の処置後に、線維化の進行に伴って有意に増強されることを見出した(図1B)。このデータは、ITGA11が肝線維症の重要なバイオマーカーであることを示唆している。放射性同位元素又は造影剤で標識されたITGA11に対するリガンドの助けを借りてMRI、SPECT、PET、CT、光音響又は他の種類の技術等の画像処理技術を使用するITGA11の検出により、肝線維症の診断に適用することができ、肝線維症の進行を決定することができる。
【0118】
本発明者らは、ヒトの様々な病理学的状態におけるITGA11の発現を決定した。本発明者らは、ITGA11が、肝硬変、膵臓腫瘍間質及び腎臓線維症等の検査したすべての病理学的状態の線維性領域において強く発現されることを見出した(図2)。ITGA11染色は、マージ画像のオレンジ~黄色で示したように、線維芽細胞マーカーα-SMAと十分に共局在した。
【0119】
ファージディスプレイ選択ペプチド:
α4β1受容体から取り去った後のα11β1受容体に結合したファージを溶出させ、増幅させた。無作為に40クローンをピックアップし、ファージELISAアッセイを使用してα11β1及びα4β1受容体への結合について調べた(図3)。クローン番号11、13、14、16、19、20、21、22、24、25、27、28、29、30、31及び38は、α4β1及び非コーティングウェルと比べてα11β1への高い結合を示した。DNA配列決定データから、クローン番号11、13、14、16、19、20、21、22、24、25、28、29、30、31及び38は単一配列(5'-tctggtctgactgagtggttgaggtggtttaattcg-3')又はアミノ酸配列(AXI-I:SGLTEWLRWFNS)の結果となり、クローン27はDNA配列(5'-agattgcgacgtggactccgaattttgagaggaat-3')又はアミノ酸配列(AXI-II:SFATWTPNFERN)の結果となったことが示された。
【0120】
ITGA11に結合するペプチド
ペプチドがITGA11受容体に特異的に結合するかどうかを決定するため、本研究者らは固定化ヒトITGA11(α11β1)受容体へのFITC標識AXI-1ペプチドの結合を実施した。本発明者らは、結合が10倍過剰の非標識ペプチドによってブロックされることから、AXI-I-FITCがITGA11受容体に特異的に結合することを見出した(図4A)。更に、ペプチドは他のインテグリン受容体(すなわち、α5β1)への結合が非常に低く、これは空のウェルへの結合と類似していることがわかった。β1受容体は、α11β1及びα5β1の両方に共通の共受容体であり、α5β1へのペプチド結合はないが、α11β1への高結合は、ペプチドがα11により好ましく結合されることを示している。更に、本発明者らは、マウスα11β1受容体に対するAXI-1の結合を調べたところ、ペプチドはヒトに対する結合親和性と同様の結合親和性を有し、マウスITGA11受容体とヒトITGA11受容体との間に約80%の相同性があることを見出した。固定化受容体への結合を確認した後、本発明者らは、ITGAII発現肝星状細胞に対するペプチドの結合を試験した。本発明者らは、AXI-IとAXI-IIは両方とも星状細胞に結合するが、AXI-Iの結合がAXI-IIよりも明らかに強いことを見出した(図4B)。
【0121】
コーティングしたα11β1受容体に対するFITC標識ITGA11結合ペプチド(AXI-1)の結合試験からは、受容体に結合したペプチドが空のウェルに比べて特異的に結合することが示された。この結合は、10倍高濃度の非標識ペプチドを添加することによって競合的にブロックされ、ペプチドの特異的結合が示唆された(図5A)。更に、本発明者らは、蛍光顕微鏡法を使用し、ITGA11発現LX2細胞へのペプチドの結合を確認した。これらの細胞におけるshRNA-ITGA11を使用したITGA11のノックダウンは、蛍光シグナルが検出されなかったので、ペプチド結合を完全に阻害していた(図5B)。
【0122】
アラニンスキャニング及びペプチド鎖長スキャン
ペプチド結合に関与するアミノ酸及び最も効率的な結合ペプチドを確認するため、AXI-1ペプチド(SGLTEWLRWFNS)に対するアラニン置換及びより短いペプチドを用いたペプチドマイクロアレイを開発した(図7)。
【0123】
AXI-Iペプチド(SGLTEWLRWFNS)において、L3又はF10の置換は、α11β1受容体に結合するペプチドを著しく減少させた。このことはこれらのアミノ酸がエピトープを形成することを示唆している。ペプチド鎖の短縮は、LTEWLRWFペプチドが受容体への最も強固な結合を誘導することを示した。対照として、このペプチドアレイをα5β1に曝露し、LTEWLRWFペプチドの非特異的結合をチェックした。Table 1(表1)は、ITGA11結合ペプチドの配列を示す。
【0124】
【表1】
【0125】
ヒト膵星状細胞に結合するAXI-PEG FITC
様々な濃度のAXI-I-PEG-FITCを、懸濁したPSCと共に4℃で1時間インキュベートし、洗浄し、0.5%ホルムアルデヒドで固定し、フローサイトメトリーで測定した。結果は、AXI-I-PEG-FITCのPSCへの結合が濃度の増加と共に増加し、20μM濃度でプラトーに達したことを示している(図6)。全結合の50%、すなわち解離定数(kd)値は約1uMであった。ペプチドはPEG鎖及びフルオロフォアで修飾されているので、立体障害に起因するペプチドの結合親和性の低下が生じる場合がある。
【0126】
LX2細胞に対するインビトロでのAXI-1ペプチドの効果及びマウスにおけるCC14誘発性肝臓線維症モデルにおけるAXI-1ペプチドの効果
本発明者らは、LX2細胞におけるAXI-1ペプチドの阻害効果を調べた。TGFβ1によるLX2細胞の活性化は、コラーゲン-1の発現を誘導した。興味深いことに、AXI-1の濃度増加による処置は、コラーゲン-Iの発現を阻害した(図8A)。反対に、スクランブルしたペプチドは、コラーゲン染色の低下を示さなかった。
【0127】
更に、本発明者らは、マウスにおけるCC14誘発性肝線維症モデルにおけるAXI-1の効果を調べた。本発明者らは、200μg/kg/日の腹腔内投与のAXI-1による処置が、ビヒクル対照と比べて、ITGA5及びITGA11の遺伝子発現の減少、筋線維芽細胞のマーカー及び肝臓におけるコラーゲンI及びIIIのタンパク質発現によって示したように、線維形成を低下させることを見出した(図8B)。これらのデータは、AXI-1が抗線維特性を有し、異なる用量で最適化される必要があることを示唆している。
【0128】
(実施例2)
材料及び方法
ITGA5ペプチド選択
ITGA5へのペプチド模倣体結合を選択するため、ヒトフィブロネクチン-IIIドメイン9-10(Uniprot番号P02751)由来の配列からの12アミノ酸オーバーラッピングペプチド(8オーバーラップ)をドットとして細胞膜に提示させた(図11)。ペプチドは、安定的リンカーを使用してそのC末端部位に結合させた。システインがセリンと交換されて安定性が向上し、またシステインが一般にエピトープを形成しないからである。ペプチド提示細胞膜をメタノール中に1分間浸漬し、トリス緩衝食塩水(TBS)ですすぎ、3回洗浄した。次いで、この膜を室温で3時間、0.05% tween-20を含有するTBS(TBST)中の3% BSAでブロックした。次いで、膜をTBSTで10分間洗浄し、3% BSAを含むTBST中の5μg/mL α5β1ヒト組換えタンパク質(R&D systems社)と室温で1時間、次いで4℃で一晩インキュベートした。続いて、この膜をTBSTで3回洗浄した。その後、膜への結合受容体をPVDF膜に移した。これを達成するために、まず、PVDF膜をメタノールに1分間浸漬し、次いで、5%脱脂脂肪乳で2時間ブロックした。次いで、膜を一次抗α5インテグリン抗体(Sigma-Aldrich社)と共に5%スキムミルク中で一晩インキュベートした。膜をTBSTで3回洗浄し、次いで抗ウサギHRP二次抗体(Dako社)と共にインキュベートし、洗浄し、化学発光検出キットで発色させた。
【0129】
フィブロネクチン由来の以下の配列をオーバーラッピングペプチドの開発に使用した。
【0130】
ヒトFNIII-9(Uniprot番号P02751)
GLDSPTGIDFSDITANSFTVHWIAPRATITGYRIRHHPEHFSGRPREDRVPHSRN
SITLT
NLTPGTEYWSIVALNGREESPLLIGQQST
マウスFNIII-9 (P11276)
AVPPPTDLRFTNIGPDTMRVTWAPPPSIELTNLLVRYSPVKNEEDVAELSISPSDNAWLTNLLPGTEYLVSVSSVYEQHESIPLRGRQKT
部分的ヒトFNIII-10配列
TVRYYRITYGETGGNSPVQEFTVPGSKSTATISGLKPGVDYTITVYAVTGRGDSPASSKPISI
【0131】
コーティングした受容体に対するペプチド結合試験
精製したヒト組換えα5β1又はα11β1受容体(PBS中5μg/mL)は、4℃で一晩インキュベートすることにより96ウェルELISAプレート(White Maxisorb-Nunc)上にコーティングした。次いで、ウェルをブロッキング緩衝液(5%(w/v)BSA、150mM NaCl、25mM Tris)で室温にて2時間ブロックした。次いで、ウェルを200μLの洗浄緩衝液(150mM NaCl、25mM Tris塩基、0.005% Tween20、0.5% BSA)で3回洗浄した。その後、PEG(6)-FITCと結合させたペプチドを、洗浄緩衝液中で異なる濃度に希釈した。この競合試験については、ウェルを10倍高い量の非標識ペプチドと共インキュベートした。プレートを37℃で60分間インキュベートした。次いで、ウェルを洗浄緩衝液で3回洗浄し、続いて蛍光プレートリーダー(Perkin Elmer社)を使用してプレートをフルオレセインシグナルEx/Em 485nm/520nmに対して読み取った。
【0132】
ペプチドマイクロアレイに対する結合試験
ペプチドマイクロアレイは、PEGリンカーを使用してN末端でペプチドをガラススライドに結合させることによって調製した。各ペプチドを異なる位置で3回提示させ、人為産物とエラーを回避した。結合試験については、ペプチドアレイはTBST中の3% BSAで2時間ブロックした。次いで、アレイスライドをTBSTで5回洗浄し、続いて37℃で1時間、標的受容体(α5β1、PBSに溶解した10μg/mL)と共にインキュベートした。スライドをTBSTで洗浄し、次いでITGA5に対する一次抗体(1μg/mL)と共に37℃で1時間インキュベートした。次いでスライドを洗浄し、蛍光色素標識二次抗体と共に30分間インキュベートした。スライドをTBST及び水で洗浄し、次いで乾燥させ、マイクロアレイスキャナーでスキャンしてペプチドの結合を検出した。ImageJソフトウェアを使用して照らされたスポットを分析した。非特異的結合を決定するために、ペプチドアレイを、受容体インキュベーション工程を行うことなく、一次抗体及び二次抗体のみとインキュベートした。次いで、非特異的結合のシグナルを全結合から差し引き、特異的結合を算出した。
【0133】
効果試験
ヒト初代膵星状細胞(PSC)をScienCell社(Carlsbad、CA)から入手し、ペニシリン/ストレプトマイシンを補充した、メーカーによって提供された指定の培地中で培養した。細胞を9継代未満で使用し、Poly-L-リジンをコーティングしたプレートに播種した。
【0134】
PSCは、完全培地の12ウェルプレート(遺伝子発現用、6×104細胞/ウェル)又は24ウェルプレート(染色用)に播種した。24時間後、細胞を無血清培地で飢餓状態にし、次いで24時間後、TGF-β1(5ng/mL)をペプチドと共に、又は非存在で添加した。インキュベーションの24時間後、細胞を溶解緩衝液で溶解し、GenElute(商標) Mammalian Total RNA Miniprepキットを使用して全RNAを単離した。RNA量は、NanoDrop社(登録商標)ND-1000分光光度計(Wilmington、DE)により測定した。続いて、iScript(商標)cDNA合成キット(BioRad社、Veenendaal、The Netherlands)を使用してcDNAを合成した。各PCR反応に対して10ngのcDNAを使用した。ヒトαSMA及びRPS18に対するリアルタイムqPCRプライマーは、Sigma社(The Netherlands)から購入した。遺伝子発現レベルは、ハウスキーピング遺伝子RPS18の発現に対して標準化した。免疫染色については、細胞を洗浄し、アセトン-メタノールで固定し、免疫細胞化学染色の処理を行った。
【0135】
免疫組織化学的染色
ヒト膵臓標本、ヒト肝硬変及び腎臓線維症標本は、オランダのエンスヘーデ(Enschede)所在のLaboratory Pathology East Netherlands(LabPON)の病理部から入手した。倫理承認は、LabPONの地方医学倫理委員会(local Medical Ethical Committee)から得た。サンプルは、ミクロトーム(Leica Microsystems社、Nussloch、Germany)を使用して2μmの切片に切断した。その切片を脱パラフィン処理し、次いでDako抗原回収バッファー中で、一晩80℃でインキュベートし抗原に暴露させた。内因性ペルオキシダーゼ活性は、メタノールで調製した3%のH2O2でブロックした。次いで切片をPBSで洗浄し、一次抗体(抗ITGA11、抗ITGA5、又は抗SMA又は抗CD31)と1時間室温でインキュベートした。次いで、切片を西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合二次抗体と室温で1時間インキュベートした。その後、Alexa488又はAlexa594結合三次抗体と1時間インキュベートした後、これらを1×PBSで3回洗浄した。核は、DAPIを含有するマウント培地(Sigma社)で対比染色した。
【0136】
免疫細胞染色については、細胞を-20℃で30分間、アセトン-メタノール(1:1)で固定し、次いで乾燥させ、10分間再水和させた。次いで細胞を一次抗体と1時間インキュベートし、次いでHRP標識二次抗体と30分間インキュベートした。その後、ペルオキシダーゼ活性は、AEC(3-アミノ-9-エチルカルバゾール)基質キット(Life Technologies社、Gaithersburg、MD)を使用して20分間発色させ、核をヘマトキシリン(Fluka Chemie社、Buchs、Switzerland)で対比染色した。細胞はAquatexマウント培地(Merck、Darmstadt社、Germany)でマウントした。染色を視覚化し、画像を光学顕微鏡(Nikon eclipse E600顕微鏡、Nikon社、Tokyo、Japan)を使用して捕捉した。
【0137】
結果
ITGA5結合ペプチドの選択
インテグリンα5のITGA5はフィブロネクチン(FN)の公知の受容体であり、ITGA5に対するペプチドリガンドを選択するために、ヒトFN-IIIドメイン-9及び10由来のオーバーラッピング配列(8アミノ酸オーバーラップを有する12アミノ酸長)を設計し、細胞性膜に提示した。FNのドメイン9及び10は、ドッキング実験(Nagaeら、2012 J. Cell Biol. 131~140頁)に示されているように、これらのドメインがα5β1受容体への結合を担っていることが報告されているので、ペプチドの設計において選択した。相互作用試験をヒト組換えインテグリンα5β1受容体に対して行い、結合タンパク質を別の膜に移し、ITGA5を抗体で検出した。多くの配列がヒトドメイン及びマウスドメイン由来のα5β1受容体に結合すると思われたが、ヒトFN-IIIドメイン10由来の2つの配列で以下のような最も強固な結合が得られた。
【0138】
ヒトFN-IIIドメイン9由来
配列1. ITANSFTVHWIA - 弱い
配列2. VALNGREESPLL- 非常に弱い
ヒトFN-IIIドメイン10由来
配列3. TTVRYYRITYGE- 強い
配列4. YYRITYGETGGN - 非常に強い
配列5. GDSPASSKPISI - 中程度
マウスFN-IIIドメイン9由来
配列6. SIELTNLLVRYS - 中程度
配列7. TNLLVRYSPVKN - 中程度
【0139】
YYRITYGETGGN配列が最も強いシグナルを生じたので、この配列を更に化学的に合成し、次いでPEG(6)-フルオレセインをペプチドのN末端側に導入し、コーティングしたα5β1受容体に対するペプチド結合アッセイでそれを検出した。しかし驚いたことに、コーティングした受容体に対する結合は確認されなかった。細胞膜に対するペプチドアレイにおいて、ペプチドはC末端を介して結合されたが、ペプチドのN末端では受容体に対する結合はなかった。しかし合成ペプチドにおいては、PEGがN末端に結合され、これがペプチドの結合をブロックした可能性がある。したがって、リジン基を導入することによってPEG(6)-フルオレセインをC末端に結合しPEGを結合させる、新規ペプチド(nAV2)を合成した。
【0140】
興味深いことに、nAV2は、コーティングした受容体に対して良好な結合を示した(図12A)。10倍過剰の非標識ペプチドによるペプチドのブロッキングは、nAV2-PEG(6)-フルオレセインの結合をブロックした。更に、配列番号3及び配列番号4(上記の配列を参照)は共通アミノ酸として「YYRITY」を有し、配列番号4のN末端は受容体への結合に対して重要であったので、新規の短いペプチド(RYYRITY、AV3と称する)も設計した。nAV2-PEG-フルオレセインへの過剰のAV3の添加は、受容体へのその結合を強力にブロックした。このことは、AV3が受容体に対してより高い親和性を有することを示唆している。したがって、さらなる試験を進めるためにAV3を選択した。更に本発明者らはLX2細胞へのnAV2-FITCの結合を実施し、本ペプチドが対照細胞に比べてこれらの細胞に対し明らかに結合することを見出した(図12B)。
【0141】
アラニンスキャニング及びペプチド鎖長スキャン
ペプチド結合に関与するアミノ酸及び最も効率的な結合ペプチドを確認するため、アラニン置換及びより短いペプチドを用いてペプチドマイクロアレイを開発した。更に、配列RYYRITYC(AV3-Cys)を有するペプチドを開発した。AV3(RYYRITY)については、ペプチドマイクロアレイをα5β1受容体とインキュベートし、これを抗α5抗体により捕捉し、次いで蛍光色素標識した二次抗体により捕捉した。結合結果からは、Y3の置き換えにより結合はなくなり、一方、R1、R4及びY7の置き換えによりAV3ペプチドの結合が低下したことが明らかである。T6の置き換えは、インキュベーションする抗体に対するペプチドの非特異的結合を誘導した(図13)。Tabel 2(表2)は、ITGA5結合ペプチドの配列を示す。
【0142】
【表2】
【0143】
初代膵星状細胞(PSC)に対する効果試験
ヒト皮膚線維芽細胞(BJhtert)のTGFβ1による活性化は、8、24及び48時間でITGA5の遺伝子発現レベルを誘導した(図10)。更に、膵星状細胞のTGFβ又はpanc-1腫瘍細胞馴化培地による活性化は、24時間後にITGA5発現レベルも誘導した。
【0144】
皮膚線維芽細胞及びPSCに対する効果試験
TGFβによるPSCの活性化は、α-SMA発現の増加によって示したように、これらの細胞の筋線維芽細胞への活性化及び分化をもたらした。興味深いことに、AV3ペプチドによる処置は、20μMでα-SMA発現を有意に阻害し、AV3ペプチドの抗線維症効果を示した(図14A)。更に、PSCをTGFβ1とインキュベーションすると、免疫組織化学染色で示したように、α-SMA、Col-1a1及びビメンチン等の線維性マーカーの発現が増強された。AV3-cysペプチドによる処置は、これらのバイオマーカーの発現を明らかに阻害し、AV3-cysペプチドがPSCの活性化及び分化を阻害し得ることを示唆している。反対に、スクランブルされたAV3-cysは、いかなる阻害効果も示さなかった(図14B)。加えて、本発明者らは、ヒト皮膚線維芽細胞の移動に対するAV3及びその変異体の効果を試験した。本発明者らは、AV3-cysペプチドが線維芽細胞の移動を有意に阻害するが、そのスクランブルされたバージョンはいかなる効果も示さなかったことを確認した(図15A)。更に、異なるペプチドのバージョンについて、線維芽細胞の移動に対するそれらの効果を試験した。AV3.3のみが移動に対して約30%の低下を示したが、他のバージョンではほとんど又は全く効果を示さなかった(図15B)。
【0145】
ヒト膵臓標本の免疫組織化学的染色
本発明者らは、正常な膵臓及び膵臓腫瘍におけるITGA5の発現を試験した。本発明者らは、正常なヒト膵臓はITGA5の染色を示さないが、膵臓腫瘍は間質領域でITGA5の強い染色を示すことを確認した(図9A)。ITGA5のα-SMA(筋線維芽細胞マーカー)及びCD31染色(内皮細胞マーカー)との共局在化により、ITGA5はα-SMAと完全に一致するが、CD31とはわずかにしか 一致しないことが明らかになり、ITGA5が筋線維芽細胞及び腫瘍脈管構造で高度に発現されることが示唆された(図9B)。
【0146】
(実施例3)
材料及び方法
マイクロスケール熱泳動
蛍光標識ペプチド(AV3-PEG(6)-5FAM又はAXI-I-PEG(6)-FITC)(1μM)を、異なる濃度のヒト組換え受容体(すなわち、α5β1、α11β1又はαvβ3)と10分間エッペンドルフチューブ内でインキュベートした。ペプチドと受容体のこの混合物をNT.115(商標)親水性ガラスキャピラリーに充填した。最良の熱泳動設定を確認するため、ペプチドの標的受容体への結合は、低度(20%)、中度(40%)及び高度(80%)MSTパワーで試験し、また他のすべての結合実験も同じMST設定を使用して実施した。最後に、解離定数(Kd)値を、3回の実験の平均から算出した。
【0147】
マウスにおける腫瘍画像化
すべての実験は、オランダの法律下の動物倫理規定に基づいて実施され、プロトコルは地方動物倫理委員会により承認された。オスのSCIDマウス(約20g)は、Charles River社(Germany)から入手した。ヒト膵星状細胞(PSC)と組み合わせたヒト膵臓腫瘍細胞(Panc-1)をマウスの側腹部に同時注入し、腫瘍を約200mm3のサイズまで増殖させた。800CW(AV3-800CW)(1nmol)と結合させたAV3ペプチドを、単独で、又は50倍過剰の非標識AV3(ブロッカーとして)と共に、腫瘍担持マウスに静脈内注射した。動物を麻酔下でPearl光学画像解析装置(LICOR社)を用いて3時間スキャンし、ペプチドの分布を試験した。
【0148】
ヒト真皮線維芽細胞に対するAV3ペプチドの効果
ヒト皮膚線維芽細胞はScienCell社(Carlsbad、CA)から購入し、2% FBSを含むペニシリン及びストレプトマイシンを補充した線維芽細胞培地(カタログ番号2301、ScienCell社)で培養した。7×104細胞を12ウェルプレートに播種し、24時間後、培地をFCS非含有の培地と交換し、次いで、ヒト組換えTGFβ(5ng/mL)を、異なる濃度のAV3(1、5、20μM)及びスクランブルされたAV3(sAV3; 5及び20μM)ペプチドと共に、又は非存在で添加した。48時間後、細胞を溶解緩衝液で溶解させ、α-SMA及びβ-アクチン発現を分析するためのウェスタンブロット分析を実施した。
【0149】
結果
ペプチドAV3及びAXI-Iの特異性
蛍光標識ペプチド(AV3-PEG(6)-5FAM及びAXI-I-PEG(6)-FITC)を、マイクロスケール熱泳動(MST)を使用し、α5β1及びα11β1受容体に対するそれらの結合親和性について試験した。MSTは、ペプチドを溶液相で受容体と相互作用させる。またこれらのペプチドは、インテグリンファミリーavβ3の無関係な受容体にも曝露し、MST分析を実施した。
【0150】
AV3ペプチドは、α5β1に対して97.8nMの解離定数(Kd)値を有するが、avβ3に対するKd値は36.1uMであることが確認された(図16A)。同様に、α11β1に対するAXI-1ペプチドのKd値は149nMであったが(図16B)、avβ3に対しては全く結合を示さなかった(グラフは示さず)。これらのデータは、AV3及びAXI-Iがそれぞれのインテグリン受容体に高度に特異的であることを示唆している。
【0151】
ヒト真皮線維芽細胞に対するAV3ペプチドの効果
線維芽細胞の活性化及び分化のマーカーであるα-SMAを、異なる濃度のAV3(1、5、20μM)及びスクランブルされたAV3(sAV3、5及び20μM)ペプチドの存在下又は非存在下で、ヒト組換え体TGFβ(5ng/mL)との活性化の48時間後に分析した。
【0152】
AV3ペプチドは線維芽細胞活性化を濃度依存的に阻害したが、sAV3はいかなる阻害も示さないことが確認された(図17)。これらの結果は、皮膚瘢痕の抑制にAV3ペプチドが治療適用されることを示唆している。
【0153】
AV3ペプチドを使用する腫瘍画像化
ヒト膵腫瘍細胞における800CW色素(AV3-800CW)で標識したAV3ペプチドの分布を分析した。ヒト膵星状細胞(PSC)と組み合わせたヒト膵臓腫瘍細胞(Panc-1)をSCIDマウスの側腹部に同時注入し、約200mm3の大きさまで増殖させた。AV3-800CW(1nmol)を、腫瘍担持マウスに単独で(図18A)又は50倍過剰の非標識AV3と共に(図18B)静脈内注射した。
【0154】
画像は、AV3-800CWが腫瘍内に蓄積することを示し(図18Aの矢印)、一方、過剰のAV3によるブロッキングは腫瘍におけるその蓄積を特異的にブロックすることを示している。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【配列表】
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【外国語明細書】