(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093504
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】活性成分としてTSP1タンパク質インヒビターを含有する、ファブリー病を予防または処置するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20230627BHJP
A61K 31/4439 20060101ALI20230627BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20230627BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20230627BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20230627BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20230627BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61K31/4439
A61P3/00
A61K31/7088
A61K38/02
C12N15/113 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023058154
(22)【出願日】2023-03-31
(62)【分割の表示】P 2021518582の分割
【原出願日】2019-08-30
(31)【優先権主張番号】10-2018-0118430
(32)【優先日】2018-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】515238703
【氏名又は名称】コリア アドヴァンスド インスティテュート オブ サイエンス アンド テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ヨンマン
(72)【発明者】
【氏名】ド,ヒョサン
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、活性成分としてTSP1タンパク質インヒビターを含有する、ファブリー病を予防または処置するための医薬組成物を提供することである。
【解決手段】本発明の、ファブリー病患者に由来する人工多能性幹細胞においてTSP1遺伝子をノックアウトすることにより生産した血管内皮細胞において、細胞形態の回復、TSP1遺伝子の発現の減少、抗血管新生因子である、TSP1タンパク質およびリン酸化SMADタンパク質の発現レベルの減少、および血管新生因子である、KDRタンパク質およびeNOSタンパク質の発現レベルの増大が確認され、よって、TSP1遺伝子発現インヒビターまたはTSP1タンパク質活性インヒビターは、ファブリー病の処置において有効的に使用され得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分としてTSP1(トロンボスポンジン1)遺伝子発現インヒビターまたはTSP1タンパク質活性インヒビターを含む、ファブリー病を予防または処置するための医薬組成物。
【請求項2】
TSP1遺伝子が、配列番号1により表されるヌクレオチド配列から構成されるポリヌクレオチドである、請求項1に記載のファブリー病を予防または処置するための医薬組成物。
【請求項3】
TSP1遺伝子発現インヒビターが、TSP1遺伝子を構成するポリヌクレオチドに対する、アンチセンスヌクレオチド、siRNA(低分子干渉RNA)、shRNA(ショートヘアピンRNA)およびリボザイムからなる群から選択される、いずれか1以上を含む、請求項1に記載のファブリー病を予防または処置するための医薬組成物。
【請求項4】
TSP1タンパク質が、配列番号2により表されるアミノ酸配列から構成されるポリペプチドである、請求項1に記載のファブリー病を予防または処置するための医薬組成物。
【請求項5】
TSP1タンパク質活性インヒビターが、TSP1タンパク質を構成するポリペプチドに相補的に結合する化合物、ペプチド、ペプチド模倣物、マトリックス類似体、アプタマー、および抗体からなる群から選択されるいずれか1以上を含む、請求項1に記載のファブリー病を予防または処置するための医薬組成物。
【請求項6】
活性成分として、TSP1遺伝子発現インヒビターまたはTSP1タンパク質活性インヒビターを含む、ファブリー病を予防または寛解するための健康機能性食品。
【請求項7】
ファブリー病のための候補治療剤のスクリーニング方法であって、以下のステップ:
1)TSP1タンパク質を発現する細胞株に試験材料を処置すること;
2)細胞株におけるTSP1タンパク質の発現レベルを測定すること;および
3)試験材料で処置していない対照と比較して、TSP1タンパク質の低減した発現レベルを有する試験材料を選択すること
を含む、前記スクリーニング方法。
【請求項8】
ステップ1)の試験材料が、ペプチド、タンパク質、非ペプチド化合物、活性化合物、発酵産物、細胞抽出物、植物エキス、動物組織抽出物および血漿からなる群から選択される1以上の物質である、請求項7に記載のファブリー病のための候補治療剤のスクリーニング方法。
【請求項9】
ステップ2)のタンパク質発現レベルが、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ、サンドイッチ酵素免疫アッセイ、ウェスタンブロット、免疫沈殿、免疫組織化学、蛍光免疫アッセイおよびフローサイトメトリー(FACS)からなる群から選択されるいずれか1以上の方法により測定される、請求項7に記載のファブリー病のための候補治療剤のスクリーニング方法。
【請求項10】
ファブリー病のための候補治療剤のスクリーニング方法であって、以下のステップ:
1)TSP1タンパク質に試験材料を処置すること;
2)TSP1タンパク質の活性レベルを測定すること;および
3)試験材料で処置していない対照と比較して、TSP1タンパク質の低減した活性レベルを有する試験材料を選択すること
を含む、前記スクリーニング方法。
【請求項11】
ステップ2)のタンパク質活性レベルが、酵素免疫アッセイ、蛍光免疫アッセイ、SDS-PAGE、質量分析およびタンパク質チップからなる群から選択されるいずれか1以上の方法により測定される、請求項10に記載のファブリー病のための候補治療剤のスクリーニング方法。
【請求項12】
ファブリー病の診断に必要な情報を提供するためのタンパク質検出方法であって、以下のステップ:
1)対象に由来する試料中のTSP1タンパク質の発現レベルを測定すること;および
2)ファブリー病を発症するリスクのある対象として、対照群と比較してTSP1タンパク質の増大した発現レベルを有する対象を決定すること
を含む、前記タンパク質検出方法。
【請求項13】
活性成分としてSB-431542を含む、ファブリー病を予防または処置するための医薬組成物。
【請求項14】
SB-431542が、以下の式1:
【化1】
により表される化合物である、請求項13に記載のファブリー病を予防または処置するための医薬組成物。
【請求項15】
SB-431542が、ファブリー病を有する患者の血管内皮細胞中のTSP1タンパク質の発現を低減させる、請求項13に記載のファブリー病を予防または処置するための医薬組成物。
【請求項16】
SB-431542が、ファブリー病を有する患者の血管内皮細胞中のKDR(キナーゼ挿入ドメイン受容体)およびeNOS(内皮型一酸化窒素合成酵素)タンパク質の発現を増大させる、請求項13に記載のファブリー病を予防または処置するための医薬組成物。
【請求項17】
活性成分として、SB-431542を含む、ファブリー病を予防または寛解するための健康機能性食品。
【請求項18】
SB-431542が、ファブリー病を有する患者の血管内皮細胞中の、TSP1タンパク質の発現を低減させる、およびKDRおよびeNOSタンパク質の発現を増大させる、請求項17に記載のファブリー病を予防または寛解するための健康機能性食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の背景
1.本発明の分野
本発明は、活性成分としてTSP1タンパク質インヒビターを含有する、ファブリー病を予防または処置するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術の説明
ファブリー病は、α-ガラクトシダーゼをコードする遺伝子であるGLAにおける突然変異によって引き起こされるX遺伝子に関連する劣性遺伝性疾患である。GLA遺伝子は、ヒトにおいては第7エクソンのxq22.1位置に存在する遺伝子であり、合計429個のアミノ酸から構成される前駆体タンパク質からプロセシングされた370個のアミノ酸から構成される糖タンパク質をコードする(Schiffmann, R. Pharmacology & therapeutics 122, 65-77 (2009))。
現在までに、GLA遺伝子に現れることが知られている400個超の突然変異部位が報告されており(http://www.hgmd.cf.ac.uk)、ファブリー病の症状の重症度は、GLA遺伝子の突然変異位置に応じて異なる。アルファ-ガラクトシダーゼの活性を、ほとんどの突然変異では全く示さないが、いくつかのミスセンス突然変異により、5~10%の残余酵素活性を示す。これらの突然変異を有する患者は、臨床的に重要な病態生理を示さない(Clarke, J. T. Annals of internal medicine 146, 425-433 (2007))。
【0003】
ファブリー病はまた、リソソーム酵素の欠損を示す。この酵素欠損は、バーキットリンパ腫細胞において志賀毒素受容体として作用する中性スフィンゴ糖脂質であるグロボトリアオシルセラミド(Gb3、CD77)の過剰な蓄積に起因することが知られている(Nudelman, E. et al. Science New York, N.Y 220, 509-511 (1983))。Gb3の蓄積は、ファブリー病を有する患者において、血管細胞、心細胞、腎臓上皮細胞、または神経細胞などの様々な細胞に現れる。とりわけ、血管細胞におけるGb3の蓄積は、脳卒中または心筋梗塞などの全身性の心臓血管機能障害を引き起こす。
【0004】
過去、ファブリー病は、117,000人の男性に1人が発症すると報告されていた(Meikle, P. J. et al. Jama 281, 249-254 (1999))。しかしながら、近年、発生頻度が急速に上昇し、3,100~3,700人の男性の子供(male children)の1人が発症すると報告されている(Spada, M. et al. American journal of human genetics 79, 31-40 (2006))。
【0005】
ファブリー病を処置する唯一の方法として、反復酵素補充療法が用いられている。具体的には、アルファ-ガラクトシダーゼとして、ファブラザイム(アガルシダーゼ ベータ)(Eng, C.M. et al. The New England journal of medicine 345, 9-16 (2001))またはリプレガル(アガルシダーゼ アルファ)(Schiffmann, R. et al. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 97, 365-370 (2000))を投与することにより、ファブリー病を有する患者の様々な細胞種に蓄積されたGb3を除去する。静脈内注射により投与された酵素は、原形質膜上のマンノース6-ホスファート(M6P)受容体を介して細胞内に入り、リソソームに移動する。このような治療用酵素の投与は、ファブリー病の処置において中心的な役割を果たす。しかしながら、ファブラザイムまたはリプレガルなどの組換え酵素は血液中で不安定であり、反復投与によりアレルギー反応が誘導され得る可能性がある(Eng, C. M. et al. The New England journal of medicine 345, 9-16 (2001); Schiffmann, R. et al. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 97, 365-370 (2000); Sakuraba, H. et al. Journal of human genetics 51, 180-188 (2006))。
【0006】
ファブリー病の研究や治療剤の開発のためには、マウスにおいてGLAのノックアウトを誘導した後、内皮機能障害におけるGb3の蓄積の役割を研究することが一般的である。GLAノックアウトマウスモデルにおいて、大動脈内皮細胞のカベオラにおいてGb3の異常な蓄積が観察された(Shu, L. & Shayman, J. A. The Journal of biological chemistry 282, 20960-20967 (2007))。このようなGb3の異常な蓄積は、GLAノックアウト内皮細胞においてカルシウムチャネル機能の減少を引き起こし得ることが報告されている(Park, S. et al. Cardiovascular research 89, 290-299 (2010))。それにもかかわらず、GLAノックアウトマウスにおけるGb3の蓄積の程度はファブリー病患者のそれとはやや異なるため、GLAノックアウトマウスモデルは、ファブリー病患者において誘導される様々な合併症を再現できないという点で限界を有する(Taguchi, Maruyama et al, Biochemical Journal 456, 373-383 (2013))。
【0007】
他方、幹細胞は、組織を構成する各細胞に分化する前の段階の細胞であり、胚、胎児および成人の各組織から得ることができる。そして、幹細胞とは、未分化な状態で無限に増殖することができる自己増殖能と、特定の分化刺激によって様々な組織の細胞に分化する潜在能力である多能性を有する細胞を指す。幹細胞は、分化(環境)の刺激によって特定の細胞に分化し、細胞分裂が停止している分化細胞とは異なり、それらは細胞分裂によってそれら自身と同一の細胞を生産することができ(自己再生)、よって増殖(拡大)特徴を有する。幹細胞は、異なる環境または分化刺激によって他の細胞に分化することもでき、よって分化の柔軟性を有する。
【0008】
人工多能性幹細胞(iPSC)を含むヒト多能性幹細胞(hPSC)は、様々な種類の細胞種に分化することができる。人工多能性幹細胞(iPSC)は、in vitroで分化させることができ、免疫拒絶を伴うことなく疾患を処置するために、または疾患の初期メカニズムの理解および評価の手段として使用することができる(Muotri, A. R. Epilepsy Behav 14 Suppl 1: 81-85 (2009); Marchetto, M. C., B. Winner, et al. Hum Mol Genet 19(R1): R71-76 (2010))。
【0009】
様々な遺伝性疾患を有する患者に由来するiPSCを、疾患に関連する細胞種に直接分化させると、それらは疾患特異的な表現型を示す(Park, I. H. et al. Cell 134, 877-886 (2008); Tiscornia, G. et al. Nature medicine 17, 1570-1576 (2011))。これらの疾患特異的なiPSCは、疾患に関連する細胞種に分化させることができ、よって疾患の特定のメカニズムの確認や治療剤のスクリーニングに有効に使用することができる。
【0010】
よって、本発明者らは、ファブリー病のための治療剤として使用されているファブラザイムの問題を認識し、その問題を克服することができる患者特異的な治療剤の開発を試みた。その一方で、本発明者らは、iPSCを使用してファブリー病を研究するための幹細胞モデルを確立し、TSP1(トロンボスポンジン1)タンパク質がファブリー病の血管障害の原因であることを同定した。加えて、本発明者らは、ファブリー病を有する患者に由来する血管内皮細胞の細胞形態の回復、TSP1(トロンボスポンジン1)遺伝子の発現の減少、抗血管新生因子である、TSP1タンパク質およびリン酸化SMADタンパク質の発現レベルの減少、血管新生因子である、KDR(キナーゼ挿入ドメイン受容体)タンパク質およびeNOS(内皮型一酸化窒素合成酵素)タンパク質の発現レベルの増大を確認することにより、本発明を完成させた。
【発明の概要】
【0011】
本発明の概要
本発明の目的は、ファブリー病を予防または処置するための、TSP1タンパク質インヒビターの使用を提供することである。
上記目的を達成するために、本発明は、活性成分としてTSP1(トロンボスポンジン1)遺伝子発現インヒビターまたはTSP1(トロンボスポンジン1)タンパク質活性インヒビターを含む、ファブリー病を予防または処置するための医薬組成物を提供する。
本発明はまた、活性成分としてTSP1遺伝子発現インヒビターまたはTSP1タンパク質活性インヒビターを含む、ファブリー病を予防または寛解するための健康機能性食品を提供する。
【0012】
本発明はまた、ファブリー病のための候補治療剤のスクリーニング方法であって、以下のステップ:
1)TSP1タンパク質を発現する細胞株に試験材料を処置すること;
2)細胞株におけるTSP1タンパク質の発現レベルを測定すること;および
3)試験材料で処置していない対照と比較して、TSP1タンパク質の低減した発現レベルを有する試験材料を選択すること
を含む、前記スクリーニング方法を提供する。
本発明はまた、ファブリー病のための候補治療剤のスクリーニング方法であって、以下のステップ:
1)TSP1タンパク質に試験材料を処置すること;
2)TSP1タンパク質の活性レベルを測定すること;および
3)試験材料で処置していない対照と比較して、TSP1タンパク質の低減した活性レベルを有する試験材料を選択すること
を含む、前記スクリーニング方法を提供する。
【0013】
本発明はまた、ファブリー病の診断に必要な情報を提供するためのタンパク質検出方法であって、以下のステップ:
1)対象に由来する試料中のTSP1タンパク質の発現レベルを測定すること;および
2)ファブリー病を発症するリスクのある対象として、対照群と比較して、TSP1タンパク質の増大した発現レベルを有する対象を決定すること
を含む、前記タンパク質検出方法を提供する。
本発明はまた、活性成分としてSB-431542を含む、ファブリー病を予防または処置するための医薬組成物を提供する。
加えて、本発明は、活性成分として、SB-431542を含む、ファブリー病を予防または寛解するための健康機能性食品を提供する。
【発明の効果】
【0014】
有利な効果
本発明の、ファブリー病患者に由来する人工多能性幹細胞中のTSP1遺伝子をノックアウトすることにより生産される血管内皮細胞において、細胞形態の回復、TSP1遺伝子の発現の減少、抗血管新生因子である、TSP1タンパク質およびリン酸化SMADタンパク質の発現レベルの減少、および血管新生因子である、KDRタンパク質およびeNOSタンパク質の発現レベルの増大が確認されており、よってTSP1遺伝子発現インヒビターまたはTSP1タンパク質活性インヒビターは、ファブリー病の処置において有効に使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図面の簡単な説明
【
図1】
図1は、ファブリー病を有する4人の患者(Fab#1、Fab#2、Fab#3およびFab#4)の細胞から調製される人工多能性幹細胞(FB-iPS)における幹細胞性マーカーであるOCT4、SOX2、NANOG、SSEA4、Tra-1-81およびTra-1-60の発現を示す図表である。
【
図2】
図2は、ファブリー病を有する4人の患者(Fab#1、Fab#2、Fab#3およびFab#4)の細胞から調製されるFB-iPSCの核型を示す図表である。
【
図3】
図3は、ファブリー病を有する4人の患者(Fab#1、Fab#2、Fab#3およびFab#4)の細胞から調製されるFB-iPSCにおけるアルファガラクトシダーゼ(GLA)活性を示す図表である。
【
図4】
図4は、ファブリー病を有する4人の患者(Fab#1、Fab#2、Fab#3およびFab#4)の細胞から調製されるFB-iPSCにおけるLC3タンパク質の発現レベルを示す図表である。
【0016】
【
図5】
図5は、ファブリー病を有する4人の患者(Fab#1、Fab#2、Fab#3およびFab#4)に由来するFB-iPSCから分化した血管内皮細胞におけるLC3、ベクリン1およびユビキチンタンパク質の発現レベルを示す図表である。
【
図6】
図6は、FB-iPSCから血管内皮細胞を分化させる方法を示す概略図である。
【
図7】
図7は、ファブリー病を有する4人の患者(Fab#1、Fab#2、Fab#3およびFab#4)に由来するFB-iPSCから分化した血管内皮細胞においてCD34およびCD31を同時に発現する細胞の割合を示す図表である。
【0017】
【
図8】
図8は、ファブリー病を有する4人の患者(Fab#1、Fab#2、Fab#3およびFab#4)に由来するFB-iPSCから分化した血管内皮細胞におけるKDR、CD31およびVE-カドヘリン発現の分布、ならびにCD31およびCD105タンパク質の発現のFACS結果を示す図表である。
【
図9】
図9は、ファブリー病を有する患者(Fab#1)に由来するFB-iPSCから分化した血管内皮細胞の形態を確認する図表である。
【
図10】
図10は、ファブリー病を有する4人の患者(Fab#1、Fab#2、Fab#3およびFab#4)に由来するFB-iPSCから分化した血管内皮細胞の管形成を確認する図表である(FZ:ファブラザイム)。
【0018】
【
図11】
図11は、ファブリー病を有する4人の患者(Fab#1、Fab#2、Fab#3およびFab#4)に由来するFB-iPSCから分化した血管内皮細胞におけるGLA活性を示す図表である。
【
図12】
図12は、ファブリー病を有する患者(Fab#1)に由来するFB-iPSCから分化した血管内皮細胞におけるKDRタンパク質発現の分布を確認する図表である。
【
図13】
図13は、ファブリー病を有する4人の患者(Fab#1、Fab#2、Fab#3およびFab#4)に由来するFB-iPSCから分化した血管内皮細胞におけるTSP1、KDRおよびeNOSタンパク質の発現レベルを示す図表である。
【0019】
【
図14】
図14は、ファブリー病を有する4人の患者(Fab#1、Fab#2、Fab#3およびFab#4)に由来するFB-iPSCから分化した血管内皮細胞におけるSMAD2タンパク質のリン酸化レベルを示す図表である(agal:ファブラザイム)。
【
図15】
図15は、正常なiPSCから分化した血管内皮細胞におけるアクチビンAの処置によるTSP1タンパク質および血管新生関連タンパク質の発現レベルの変化を示す図表である(ACTA:アクチビンA)。
【
図16】
図16は、ファブリー病を有する4人の患者(Fab#1、Fab#2、Fab#3およびFab#4)に由来するFB-iPSCから分化した血管内皮細胞におけるTSP1タンパク質発現の分布を確認する図表である。
【0020】
【
図17】
図17は、正常なiPSCから分化した血管内皮細胞におけるLysoGb3タンパク質の処置による細胞形態変化を確認する図表である。
【
図18a】
図18aは、正常なiPSCから分化した血管内皮細胞における1日間のLysoGb3タンパク質の処置後のTSP1、KDRおよびeNOS遺伝子の発現レベルの変化を示す図表である。
【
図18b】
図18bは、正常なiPSCから分化した血管内皮細胞における3日間のLysoGb3タンパク質の処置後のTSP1、KDRおよびeNOS遺伝子の発現レベルの変化を示す図表である。
【0021】
【
図18c】
図18cは、正常なiPSCから分化した血管内皮細胞における5日間のLysoGb3タンパク質の処置後のTSP1、KDRおよびeNOS遺伝子の発現レベルの変化を示す図表である。
【
図19】
図19は、正常なiPSCから分化した血管内皮細胞におけるLysoGb3タンパク質の処置によるTSP1、KDRおよびeNOSタンパク質の発現レベルの変化ならびにAKTタンパク質のリン酸化レベルの変化を示す図表である。
【
図20】
図20は、正常なiPSCから分化した血管内皮細胞におけるLysoGb3タンパク質の処置によるTSP1タンパク質発現の分布の変化を確認する図表である。
【0022】
【
図21a】
図21aは、正常なiPSCから分化した血管内皮細胞におけるSB431542の処置による細胞形態を確認する図表である(FZ:ファブラザイム、SB:SB431542)。
【
図21b-d】
図21bは、ファブリー病を有する患者(Fab#1)に由来するFB-iPSCから分化した血管内皮細胞におけるSB431542の処置による細胞形態変化を確認する図表である(FZ:ファブラザイム、SB:SB431542)。
図21cは、ファブリー病を有する患者(Fab#2)に由来するFB-iPSCから分化した血管内皮細胞におけるSB431542の処置による細胞形態変化を確認する図表である(FZ:ファブラザイム、SB:SB431542)。
図21dは、ファブリー病を有する患者(Fab#3)に由来するFB-iPSCから分化した血管内皮細胞におけるSB431542の処置による細胞形態変化を確認する図表である(FZ:ファブラザイム、SB:SB431542)。
【0023】
【
図21e】
図21eは、ファブリー病を有する患者(Fab#4)に由来するFB-iPSCから分化した血管内皮細胞におけるSB431542の処置による細胞形態変化を確認する図表である(FZ:ファブラザイム、SB:SB431542)。
【
図22】
図22は、ファブリー病を有する4人の患者(Fab#1、Fab#2、Fab#3およびFab#4)に由来するFB-iPSCから分化した血管内皮細胞におけるSB431542の処置によるTSP1、KDRおよびeNOSタンパク質の発現レベルの変化を示す図表である(FZ:ファブラザイム、SB:SB431542)。
【
図23a】
図23aは、正常なiPSCから分化した血管内皮細胞におけるSB431542の処置による管形成変化を確認する図表である(FZ:ファブラザイム、SB:SB431542)。
【0024】
【
図23b-d】
図23bは、ファブリー病を有する患者(Fab#1)に由来するFB-iPSCから分化した血管内皮細胞におけるSB431542の処置による管形成変化を確認する図表である(FZ:ファブラザイム、SB:SB431542)。
図23cは、ファブリー病を有する患者(Fab#2)に由来するFB-iPSCから分化した血管内皮細胞におけるSB431542の処置による管形成変化を確認する図表である(FZ:ファブラザイム、SB:SB431542)。
図23dは、ファブリー病を有する患者(Fab#3)に由来するFB-iPSCから分化した血管内皮細胞におけるSB431542の処置による管形成変化を確認する図表である(FZ:ファブラザイム、SB:SB431542)。
【
図23e】
図23eは、ファブリー病を有する患者(Fab#4)に由来するFB-iPSCから分化した血管内皮細胞におけるSB431542の処置による管形成変化を確認する図表である(FZ:ファブラザイム、SB:SB431542)。
【0025】
【
図24a】
図24aは、ファブリー病を有する患者(Fab#1)に由来するFB-iPSCから分化した血管内皮細胞におけるSB431542またはロサルタンの処置による細胞形態変化を確認する図表である(FZ:ファブラザイム、SB:SB431542、Los:ロサルタン)。
【
図24b】
図24bは、ファブリー病を有する患者(Fab#2)に由来するFB-iPSCから分化した血管内皮細胞におけるSB431542またはロサルタンの処置による細胞形態変化を確認する図表である(FZ:ファブラザイム、SB:SB431542、Los:ロサルタン)。
【
図25】
図25は、ファブリー病を有する患者(Fab#1)に由来するFB-iPSCにおける突然変異したGLA遺伝子の位置を示す概略図である。
【0026】
【
図26】
図26は、CRISPR/CAS9システムを使用する、ファブリー病を有する患者(Fab#1)に由来するFB-iPSCからアイソタイプ対照細胞株を調製する方法を示す概略図である。
【
図27】
図27は、ファブリー病を有する患者(Fab#1)に由来するFB-iPSCから調製したアイソタイプ対照細胞株におけるGLA遺伝子の修正を確認する図表である。
【
図28】
図28は、ファブリー病を有する患者(Fab#1)に由来するFB-iPSCから調製したアイソタイプ対照細胞株およびそれから分化した血管内皮細胞におけるGLA活性を示す図表である。
【
図29】
図29は、ファブリー病を有する患者(Fab#1)に由来するFB-iPSCから調製したアイソタイプ対照細胞株から分化した血管内皮細胞におけるTSP1タンパク質および血管新生関連タンパク質の発現レベルならびにSMADタンパク質のリン酸化レベルを示す図表である(agal:ファブラザイム)。
【0027】
【
図30】
図30は、ファブリー病を有する患者(Fab#1)に由来するFB-iPSCから調製したアイソタイプ対照細胞株から分化した血管内皮細胞におけるTSP1およびVE-カドヘリン発現の分布を確認する図表である(agal:ファブラザイム)。
【
図31】
図31は、ファブリー病を有する患者(Fab#1)に由来するFB-iPSCから調製したアイソタイプ対照細胞株から分化した血管内皮細胞の管形成を確認する図表である(agal:ファブラザイム)。
【
図32】
図32は、CRISPR/CAS9システムを使用する、ファブリー病を有する患者(Fab#1)に由来するFB-iPSCからTSP1遺伝子ノックアウト細胞株を調製する方法を示す概略図である。
【0028】
【
図33】
図33は、配列決定法により、ファブリー病を有する患者(Fab#1)に由来するFB-iPSCから調製したTSP1遺伝子ノックアウト細胞株におけるTSP1遺伝子のノックアウトを確認する図表である。
【
図34】
図34は、TSP1遺伝子がノックアウトされている、ファブリー病を有する患者(Fab#1)に由来するFB-iPSCから分化した血管内皮細胞の形態を確認する図表である(agal:ファブラザイム)。
【
図35】
図35は、TSP1遺伝子がノックアウトされている、ファブリー病を有する患者(Fab#1)に由来するFB-iPSCから分化した血管内皮細胞におけるTSP1遺伝子の発現レベルを示す図表である。
【0029】
【
図36】
図36は、TSP1遺伝子がノックアウトされている、ファブリー病を有する患者(Fab#1)に由来するFB-iPSCから分化した血管内皮細胞における、TSP1、KDRおよびeNOSタンパク質の発現レベル、ならびにSMADタンパク質のリン酸化レベルを示す図表である(agal:ファブラザイム)。
【
図37】
図37は、TSP1遺伝子がノックアウトされている、ファブリー病を有する患者(Fab#1)に由来するFB-iPSCから分化した血管内皮細胞の管形成を確認する図表である(agal:ファブラザイム)。
【発明を実施するための形態】
【0030】
好ましい態様の説明
以下、本発明は、詳細に説明される。
本発明は、活性成分としてTSP1遺伝子発現インヒビターまたはTSP1タンパク質活性インヒビターを含む、ファブリー病を予防または処置するための、医薬組成物を提供する。
TSP1遺伝子は、当該技術分野において知られているいずれかの配列から構成されるすべてのポリヌクレオチドを含み得、活性を低減させない、1以上の置換、挿入、欠失、およびそれらの組み合わせを有するバリアントを含み得る。バリアントは、本発明のTSP1遺伝子配列と80%、90%、95%、98%以上の相同性を有し得る。本発明の態様において、TSP1遺伝子は、配列番号1により表されるヌクレオチド配列から構成されるポリヌクレオチドであり得る。TSP1遺伝子発現インヒビターは、TSP1タンパク質をコードする遺伝子のmRNAを抑制する限り、当該技術分野において知られているいずれかの材料を含むことができ、化学合成またはin vitro転写合成などの様々な方法によって調製され得る。発現インヒビターは、TSP1遺伝子を構成するポリヌクレオチドに相補的に結合する、アンチセンスヌクレオチド、siRNA(低分子干渉RNA)、shRNA(ショートヘアピンRNA)およびリボザイムからなる群から選択される、いずれか1以上を含み得る。
【0031】
ワトソン・クリック塩基対で定義されるアンチセンスヌクレオチドとは、DNA、未成熟なmRNAまたは成熟したmRNAの相補的なヌクレオチド配列に結合(ハイブリダイズ)することにより、DNAからタンパク質への遺伝情報の流れを妨げる配列を指す。加えて、アンチセンスヌクレオチドはモノマー単位の長鎖であるため、標的RNA配列に対するアンチセンスヌクレオチドは容易に合成することができる。
【0032】
前記siRNAとは、特定のmRNAの切断を介してRNA干渉を誘導することができる短い二本鎖RNAを指す。加えて、siRNAは、二本鎖RNAが完全に対をなす領域に限定されるものではなく、ミスマッチ(対応するヌクレオチドは相補的でない)やバルジ(一方の鎖に対応するヌクレオチドがない)に起因する、鎖が対をなさない領域を含み得る。siRNAの末端構造は、標的遺伝子の発現がRNA干渉効果により抑制され得る限り、平滑末端または突出末端のいずれかを有していてもよく、接着性の末端構造は、3’末端突出構造や5’末端突出構造の両方であり得る。
【0033】
前記shRNAとは、強力なヘアピンターンを作るRNAの配列を指し、これを、RNA干渉を介して遺伝子の発現をサイレンシングするために使用することができる。加えて、細胞導入のためのベクターを使用してshRNAは細胞へ送達され得、かかるベクターは常に娘細胞へ送達され、遺伝子サイレンシングは継承され得る。shRNAヘアピン構造は、細胞内メカニズムによりsiRNAに分解され、RNA誘導サイレンシング複合体に結合し、複合体がsiRNAに対応するmRNAに結合してそれを分解する。
【0034】
前記リボザイムとは、特異的なRNA切断を触媒することができる酵素RNA分子を指す。リボザイムの分子配列と相補的な標的RNAとの特異的なハイブリダイゼーションにより、エンドヌクレアーゼ的(endonucleolytic)切断を誘導することができる。リボザイムは、標的RNAに相補的な1以上の配列の切断を担う既知の配列、または機能的に等価な配列を含むことができる。加えて、リボザイムは、ハンマーヘッドリボザイムまたはセッシュ(Cech)型リボザイム、エンドリボヌクレアーゼRNAであり得、安全性と標的化を向上させるために、修飾されたオリゴヌクレオチドによって形成され得る。その一方で、リボザイムは、in vivoで標的遺伝子を発現する細胞へ分配され得る。トランスフェクトされた細胞が内因性の標的メッセンジャーを破壊し、翻訳を阻害するのに充分な量のリボザイムを産生できるように、強力な構成的ポリメラーゼIIIまたはポリメラーゼIIプロモーターの制御下でリボザイムをコードするDNAコン構築物が使用され得る。リボザイムは触媒活性を有するので、他のアンチセンス分子とは異なり、細胞内で低濃度に維持される必要があるかもしれない。
【0035】
前記TSP1タンパク質は、当該技術分野で知られている、いずれかの配列から構成されるポリペプチドを含み得る。ポリペプチドは、タンパク質の機能に影響を与えない範囲内で、アミノ酸残基の欠失、挿入、置換またはそれらの組み合わせにより異なる配列を有するアミノ酸のバリアントであり得る。全体として分子の活性を変化させないタンパク質やペプチドのアミノ酸交換は当該技術分野において知られている。いくつかのケースにおいて、それは、リン酸化、硫酸化、アクリラート化、グリコシル化、メチル化、ファルネシル化などにより修飾され得る。バリアントは、本発明のTSP1タンパク質と少なくとも80%、90%、または95%の相同性を有し得る。本発明の態様において、TSP1タンパク質は、配列番号2により表されるアミノ酸配列から構成されるポリペプチドであり得る。
【0036】
TSP1タンパク質活性インヒビターは、TSP1タンパク質を構成するポリペプチドに相補的に結合する化合物、ペプチド、ペプチド模倣物、マトリックス類似体、アプタマー、および抗体からなる群から選択されるいずれか1以上を含み得る。
【0037】
ペプチドおよびペプチド模倣物は、TSP1タンパク質の他のタンパク質に対する結合を抑制することによりTSP1タンパク質活性を阻害し得る。ペプチド模倣物は、ペプチドまたは非ペプチドであり得、psi結合などの非ペプチド結合により結合するアミノ酸から構成され得る。非加水分解性ペプチド模倣物は、β-ターンジペプチドコア、ケト-メチレン偽ペプチド、アゼピン、ベンゾジアゼピン、β-アミノアルコールまたは主残基としての置換ガンマラクタム環を使用して調製され得る。
【0038】
前記アプタマーとは、それ自体により安定した3次構造を有し、高い親和性と特異性で標的分子に結合することができる一本鎖核酸(DNA、RNA、または修飾された核酸)を指す。アプタマーは、有機物、ペプチド、膜タンパク質などと結合し、その機能を遮断することができるため、単一の抗体に代わる一種の化学抗体とみなすことができる。加えて、アプタマーは、SELEX(指数的濃縮によるリガンドの系統進化法)と呼ばれるオリゴヌクレオチドライブラリーを用いて、特定の化学分子や生体分子に高い親和性および選択性で結合するオリゴマーを分離することによって得られる。
【0039】
前記抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、または組換え抗体であり得る。特定のタンパク質に対する抗体は、タンパク質の配列が知られている場合、当該技術分野において周知である技法を使用して容易に調製することができる。具体的には、抗体は、ハイブリドーマ法やファージ抗体ライブラリー技術を使用して調製することができる。一般に、モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ細胞は、抗原タンパク質を注射した、マウスなどの免疫学的に適切な宿主動物から単離された免疫細胞と、がん細胞株とを融合させることにより調製することができる。これらの2つの群の細胞の融合は、ポリエチレングリコールまたは同種のものを使用して行い、抗体産生細胞は標準的な培養方法により増殖され得る。均一な細胞集団を限界希釈法を使用したサブクローニングにより得た後、抗原特異的な抗体を産生することができるハイブリドーマ細胞は、in vitroまたはin vivoで大量培養することにより調製することができる。上記の方法により調製された抗体は、ゲル電気泳動、透析、塩析、イオン交換クロマトグラフィー、およびアフィニティークロマトグラフィーなどの方法を使用して分離および精製することができる。
【0040】
ポリクローナル抗体は、バイオマーカータンパク質またはそのフラグメントを免疫原として外部の宿主に注射することによって調製され得る。外部宿主は、マウス、ラット、ヒツジ、およびウサギなどの哺乳動物であり得る。免疫原が筋肉内、腹腔内、または皮下注射により注射される場合、それは、抗原性を増大させるためにアジュバントとともに投与され得る。その後、外部の宿主から定期的に血液を回収して、抗原に対する改善された力価と特異性を示す血清を得て、それから抗体は単離および精製され得る。
【0041】
本発明の好ましい態様において、本発明者らは、ファブリー病を有する患者の細胞を使用して人工多能性幹細胞(FB-iPSC)を調製し、幹細胞の特徴(
図1および2)、GLA活性の低下(
図3)、およびリソソーム関連タンパク質の発現レベルの増大(
図4および5)を確認した。本発明者らはまた、FB-iPSCから分化した血管内皮細胞を調製し(
図6および7)、血管内皮細胞の特徴(
図8~10)、GLA活性の減少(
図11)、KDRタンパク質及びeNOSタンパク質の発現レベルの減少(
図12および13)、およびTSP1タンパク質の発現レベルの増大(
図14~16)を確認した。
【0042】
本発明者らはまた、FB-iPSCから分化させた血管内皮細胞において、Gb3タンパク質によって血管障害が誘導されること(
図17~20)、TGF-βインヒビターであるSB431542が血管障害の処置において効果を有すること(
図21~23)を確認した。しかしながら、別のTGF-βインヒビターであるロサルタンの治療効果は確認できなかった(
図24)。
【0043】
加えて、本発明者らは、FB-iPSCのアイソタイプ対照細胞株(
図25~27)とそれから分化した血管内皮細胞を調製し、GLA活性(
図28)および血管障害(
図29~31)の回復を確認した。本発明者らはまた、TSP1遺伝子をノックアウトしたFB-iPSC細胞株を調製し(
図32および33)、血管障害の回復を確認した(
図34~37)。
したがって、本発明のTSP1遺伝子発現インヒビターまたはTSP1タンパク質活性インヒビターは、ファブリー病の予防または処置に有効に使用され得る。
【0044】
本発明の医薬組成物は、活性成分として、本発明のTSP1遺伝子発現インヒビターまたはTSP1タンパク質活性インヒビターを組成物の総重量に対して10~95重量%の濃度で含有することができる。加えて、本発明の医薬組成物は、活性成分に加えて、活性成分と同じまたは同様の機能を有する1以上の有効成分を含有することができる。
【0045】
本発明の医薬組成物は、担体、希釈剤、賦形剤、または生物学的調製物に一般的に使用されるもののうち少なくとも2つの組み合わせを含有することができる。薬学的に許容し得る担体は、本発明の組成物を生体内で制限されることなく送達することができるいずれかの担体であり得る、生理食塩水、滅菌水、リンガー溶液、緩衝生理食塩水、デキストロース溶液、麦芽デキストリン溶液、グリセロール、エタノール、およびこれらの構成成分の1以上を含む混合物などの、Merck Index, 13th ed., Merck & Co. Inc.に記載されている化合物により例示される。必要ならば、酸化防止剤、緩衝剤、および静菌剤などの一般的な添加剤をさらに加えることができる。
【0046】
組成物を製剤化する場合、それは一般的に使用される、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤および界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を使用して調製される。
本発明の組成物は、経口製剤または非経口製剤として製剤化され得る。経口投与用のための固形製剤は、錠剤、丸薬、粉末、顆粒、およびカプセルである。これらの固形製剤は、1以上の組成物を、デンプン、炭酸カルシウム、スクロース、ラクトース、およびゼラチンなどの1以上の好適な賦形剤と混合することによって調製される。加えて、ステアリン酸マグネシウムやタルクなどの潤滑剤をそれに添加することができる。経口投与のための液体製剤は、懸濁液、溶液、エマルションまたはシロップであり、上記の製剤は、湿潤剤、甘味料、芳香剤および防腐剤などの様々な賦形剤を含有し得る。
【0047】
非経口投与のための製剤は、滅菌水溶液、水不溶性賦形剤、懸濁液、およびエマルションである。水不溶性賦形剤や懸濁液は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、エチロレート(ethylolate)のような注射可能なエステルなどを含有し得る。
本発明の組成物は、経口的または非経口的に投与することができ、非経口投与は、皮膚外用または腹腔内注射、直腸内注射、皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射、および胸腔内注射からなる群から選択され得る。
【0048】
組成物は、薬学的に有効な量で投与することができる。有効量は、疾患のタイプ、重症度、薬剤の活性、薬剤に対する患者の感受性、投与時間、投与ルート、処置の期間、同時に使用する薬剤などに応じて決定することができる。本発明の組成物は、単独で、または他の治療剤と組み合わせて投与することができる。併用投与においては、投与は逐次的でまたは同時であり得る。しかしながら、所望される効果のために、本発明による医薬組成物に含まれる活性成分の量は、0.001~10,000mg/kg、具体的に言うと0.1~5g/kgであり得る。投与頻度は、1日1回または1日数回であり得る。
【0049】
本発明はまた、活性成分としてTSP1遺伝子発現インヒビターまたはTSP1タンパク質活性インヒビターを含む、ファブリー病を予防または寛解するための健康機能性食品を提供する。
TSP1遺伝子およびTSP1遺伝子発現インヒビターは、上に記載のとおりの特徴を有し得る。例えば、TSP1遺伝子は、配列番号1により表されるヌクレオチド配列から構成されるポリヌクレオチドであり得る。加えて、発現インヒビターは、TSP1遺伝子を構成するポリペプチドに相補的に結合する、アンチセンスヌクレオチド、siRNA、shRNAおよびリボザイムからなる群から選択されるいずれか1以上を含み得る。
【0050】
TSP1タンパク質およびTSP1タンパク質活性インヒビターは、上に記載のとおりの特徴を有し得る。例えば、TSP1タンパク質は、配列番号2により表されるアミノ酸配列から構成されるポリペプチドであり得る。加えて、活性インヒビターは、TSP1タンパク質を構成するポリペプチドに相補的に結合する化合物、ペプチド、ペプチド模倣物、マトリックス類似体、アプタマー、および抗体からなる群から選択されるいずれか1以上を含み得る。
【0051】
本発明の好ましい態様において、本発明者らは、ファブリー病を有する患者の細胞を使用して人工多能性幹細胞(FB-iPSC)を調製し、幹細胞の特徴(
図1および2)、アルファ-ガラクトシダーゼ(GLA)活性の低下(
図3)、およびリソソーム関連タンパク質の発現レベルの増大(
図4および5)を確認した。本発明者らはまた、FB-iPSCから分化した血管内皮細胞を調製し(
図6および7)、血管内皮細胞の特徴(
図8~10)、GLA活性の減少(
図11)、KDRタンパク質及びeNOSタンパク質の発現レベルの減少(
図12および13)、およびTSP1タンパク質の発現レベルの増大(
図14~16)を確認した。
【0052】
本発明者らはまた、FB-iPSCから分化させた血管内皮細胞において、Gb3タンパク質によって血管障害が誘導されること(
図17~20)、TGF-βインヒビターであるSB431542が血管障害の処置において効果を有すること(
図21~23)を確認した。しかしながら、別のTGF-βインヒビターであるロサルタンの治療効果は確認できなかった(
図24)。
【0053】
加えて、本発明者らは、FB-iPSCのアイソタイプ対照細胞株(
図25~27)とそれから分化した血管内皮細胞を調製し、GLA活性(
図28)および血管障害(
図29~31)の回復を確認した。本発明者らはまた、TSP1遺伝子をノックアウトしたFB-iPSC細胞株を調製し(
図32および33)、血管障害の回復を確認した(
図34~37)。
したがって、本発明のTSP1遺伝子発現インヒビターまたはTSP1タンパク質活性インヒビターは、ファブリー病の予防または寛解に有効に使用され得る。
【0054】
本発明のTSP1遺伝子発現インヒビターまたはTSP1タンパク質活性インヒビターは、食品添加剤として使用され得る。そのケースにおいて、本発明のTSP1遺伝子発現インヒビターまたはTSP1タンパク質活性インヒビターは、そのまま、または従来の方法による他の食品構成要素と混合されて、添加されてもよい。活性成分の量は、使用の目的に従って、調節され得る。一般に、本発明の活性成分は、好ましくは食品の総重量に対して、0.01~90重量部で健康機能性食品に添加される。
加えて、健康機能性食品の形態およびタイプについて具体的な限定はない。上記の物質が添加される健康機能性食品の形態は、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、液体および丸薬であり得る。
【0055】
本発明の健康機能性食品は、他の従来の健康食品のように、様々なフレーバーまたは天然の炭水化物などを追加的に含む。上記の天然の炭水化物は、グルコースおよびフルクトースなどの単糖類、マルトースおよびスクロースなどの二糖類、デキストリンおよびシクロデキストリンなどの多糖類、ならびにキシリトール、ソルビトールおよびエリスリトールなどの糖アルコールのうちの1つであり得る。そのほかに、タウマチンおよびステビア抽出物などの天然の甘味剤、ならびにサッカリンおよびアスパルテームなどの合成甘味剤が、甘味剤として含まれ得る。
上に言及された成分に加えて、本発明の健康機能性食品は、様々な栄養素において、ビタミン、ミネラル、フレーバー、着色剤、ペクチン酸およびその塩、アルギン酸およびその塩、有機酸、保護コロイド粘稠化剤、pH調節因子、安定剤、防腐剤、グリセリン、アルコールなどを含み得る。すべての言及した成分は、単独でまたは一緒に添加され得る。これらの成分の比率は、本発明の組成物の100重量部に対して、0.01~0.1重量部の範囲から選択され得る。
【0056】
本発明はまた、TSP1タンパク質を使用する、ファブリー病のための候補治療剤のスクリーニング方法を提供する。
TSP1タンパク質は、上記のとおりの特徴を有し得る。例えば、TSP1タンパク質は、配列番号2により表されるアミノ酸配列から構成されるポリヌクレオチドであり得る。
【0057】
具体的に言うと、方法は、以下のステップ:
1)TSP1タンパク質を発現する細胞株に試験材料を処置すること;
2)細胞株におけるTSP1タンパク質の発現レベルを測定すること;および
3)試験材料で処置していない対照と比較して、TSP1タンパク質の低減した発現レベルを有する試験材料を選択すること
から構成され得る。
ステップ1)の試験材料は、ペプチド、タンパク質、非ペプチド化合物、活性化合物、発酵産物、細胞抽出物、植物抽出物、動物組織抽出物および血漿からなる群から選択される1以上の物質であり得る。
ステップ2)のタンパク質発現レベルは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ、サンドイッチ酵素免疫アッセイ、ウェスタンブロット、免疫沈殿、免疫組織化学、蛍光免疫アッセイおよびフローサイトメトリー(FACS)からなる群から選択されるいずれか1以上の方法により測定され得る。
【0058】
別の方法は、以下のステップ:
1)TSP1タンパク質に試験材料を処置すること;
2)TSP1タンパク質の活性レベルを測定すること;および
3)試験材料で処置していない対照と比較して、TSP1タンパク質の低減した活性レベルを有する試験材料を選択すること
から構成され得る。
ステップ1)の試験材料は、ペプチド、タンパク質、非ペプチド化合物、活性化合物、発酵産物、細胞抽出物、植物抽出物、動物組織抽出物および血漿からなる群から選択される1以上の物質であり得る。
ステップ2)のタンパク質活性レベルが、酵素免疫アッセイ、蛍光免疫アッセイ、SDS-PAGE、質量分析およびタンパク質チップからなる群から選択されるいずれか1以上の方法により測定され得る。
【0059】
本発明の好ましい態様において、本発明者らは、ファブリー病を有する患者に由来するFB-iPSCから分化した血管内皮細胞におけるTSP1タンパク質の発現レベルの増大(
図14~16)、およびTSP1遺伝子をノックアウトしたFB-iPSC細胞株から分化した血管内皮細胞における血管障害の回復(
図34~37)を確認した。したがって、TSP1タンパク質の発現または活性のレベルを測定する方法は、ファブリー病の候補治療剤をスクリーニングするために有効的に使用され得る。
【0060】
本発明はまた、TSP1タンパク質を使用する、ファブリー病の診断に必要な情報を提供するためのタンパク質検出方法を提供する。
TSP1タンパク質は、上記のとおりの特徴を有し得る。例えば、TSP1タンパク質は、配列番号2により表されるアミノ酸配列から構成されるポリヌクレオチドであり得る。
具体的に言うと、方法は、以下のステップ:
1)患者に由来する試料中のTSP1タンパク質の発現レベルを測定すること;および
2)ファブリー病を発症するリスクのある対象として、対照群と比較して、TSP1タンパク質の増大した発現レベルを有する対象を決定すること
から構成され得る。
【0061】
本発明の好ましい態様において、本発明者らは、ファブリー病を有する患者に由来するFB-iPSCから分化した血管内皮細胞におけるTSP1タンパク質の発現レベルの増大(
図14~16)、およびTSP1遺伝子をノックアウトしたFB-iPSC細胞株から分化した血管内皮細胞における血管障害の回復(
図34~37)を確認した。したがって、TSP1タンパク質の発現のレベルを測定する方法は、ファブリー病の診断に必要な情報を提供するために有効的に使用され得る。
【0062】
本発明はまた、活性成分としてTGF-βシグナリング経路インヒビターであるSB-431542を含む、ファブリー病を予防または処置するための、医薬組成物を提供する。
「TGF(トランスフォーマミング成長因子)ベータシグナリング経路インヒビター」とは、TGFベータにより媒介されるシグナリングを阻害する物質を意味する。TGFベータは、in vivoにおいて、細胞増殖、分化、アポトーシス、遊走、細胞外マトリックス(ECM)産生、血管新生、および発生などの様々な生理学的なプロセスを調節するタンパク質である。
TGFベータシグナリング経路インヒビターは、SB-431542であり得るが、TGFシグナリングを阻害することができるいずれかの物質であれば、とくに限定することなく使用することができる。本発明において、SB431542が、TGFベータシグナリング経路インヒビターとして使用され、これは、以下の式1により表され得る。
【化1】
【0063】
前記SB-431542は、ファブリー病を有する患者の血管内皮細胞におけるTSP1タンパク質の発現を低減させ、KDR(キナーゼ挿入ドメイン受容体)およびeNOS(内皮型一酸化窒素合成酵素)タンパク質の発現を増大させることができる。
【0064】
本発明の好ましい態様において、本発明者らは、Gb3タンパク質によって、FB-iPSCから分化した血管内皮細胞において、血管障害が誘導されたこと(
図17~20)、およびTGF-βインヒビターであるSB431542が血管障害の処置において効果を有すること(
図21~23)を確認した。したがって、本発明のSB-431542化合物は、ファブリー病の予防または処置のために有効的に使用することができる。
【0065】
医薬組成物は、上記のとおりの特徴を有し得る。
加えて、本発明は、活性成分としてTGF-βシグナリング経路インヒビターであるSB-431542を含む、ファブリー病を予防または寛解するための健康機能性食品を提供する。
TGF-βシグナリング経路インヒビターまたはSB-431542は、上記のとおりの特徴を有し得る。例えば、SB-431542は、以下の式1の構造を有し得、ファブリー病を有する患者の血管内皮細胞におけるTSP1タンパク質の発現を低減させ得、KDRおよびeNOSタンパク質の発現を増大させ得る。
【化2】
【0066】
本発明の好ましい態様において、本発明者らは、Gb3タンパク質によって、FB-iPSCから分化した血管内皮細胞において、血管障害が誘導されたこと(
図17~20)、およびTGF-βインヒビターであるSB431542が血管障害の処置において効果を有すること(
図21~23)を確認した。したがって、本発明のSB-431542化合物は、ファブリー病の予防または寛解のために有効的に使用することができる。
健康機能性食品は、上記のとおりの特徴を有し得る。
【0067】
以下、本発明を以下の例により詳細に説明する。
しかしながら、以下の例は本発明を説明するためのみのものであり、本発明の内容はこれに限定されるものではない。
【実施例0068】
例1:ファブリー病を有する患者に由来する人工多能性幹細胞(iPSC)の調製
ファブリー病の研究について、線維芽細胞をファブリー病を有する患者から単離し、以下の様式でiPS細胞を誘導した。
具体的には、Asan Medical Center(Seoul、Korea)においてファブリー病を有する患者の同意を得て、患者を局所麻酔に供し、次いでパンチ生検を使用した皮膚組織生検を実施することにより皮膚組織を得た。ファブリー病を有する4人の患者の臨床情報を以下の表1に示す。すべての実験は、病院の施設内審査委員会の審査の下で実施した。
【0069】
【0070】
得られた皮膚組織から線維芽細胞を単離し、10%ウシ胎児血清(FBS)、1%ペニシリン-ストレプトマイシンおよび1%非必須アミノ酸を補充したDMEM中で培養した。次いで、多能性マーカーであるOCT4、SOX2、KLF4およびC-MYCを発現するレトロウイルスの形質導入による異所性発現について当技術分野において知られている技法を使用して、線維芽細胞からFB-iPSCの発生を誘導した(Takahashi, K et al, Cell 131(5): 861-872, 2007)。細胞を3日間培養し、培養フィーダー細胞としてマウス胎児線維芽細胞を使用して継代培養し、20%KOSR(ノックアウト血清置換)、50ユニット/mlのペニシリン-ストレプトマイシン、0.1mM非必須アミノ酸、1mM L-グルタミン、0.1mM β-メルカプトエタノールおよび10ng/mlの塩基性線維芽細胞成長因子を補充したDMEM/F12培地中で長期間培養した。その後、幹細胞のそれと同様の形態的特徴を有するコロニーを単離して、FB-iPSC細胞株を構築した。
【0071】
実験例1:ファブリー病を有する患者に由来するiPSCの幹細胞特徴の確認
<1-1>FB-IPSCの多能性の確認
未分化のFB-iPSCが多能性を示すかどうかを確認するために、免疫染色を使用してFB-iPSCにおける幹細胞性マーカーの発現を確認した。
具体的には、例1において調製したFB-iPSCを、ホルムアルデヒド溶液を使用して固定し、それを0.1%triton X-100で処置して細胞膜を透過性にした。その後、処置した細胞をPBST(Tween-20を含有するPBS)で3回洗浄し、4%の正常ロバ血清を添加し、これに続いて、室温にて1時間ブロッキングした。次いで、一次抗体として、抗OCT4抗体(1:300、R&D Systems, USA)、抗SOX2抗体(BD Transduction Laboratories, USA)、抗NANOG抗体(1:300、Cell Signaling Technology, USA)、抗SSEA-4抗体(1:300、R&D Systems, USA)、抗TRA-1-81抗体(1:300、Millipore, USA)または抗TRA-1-60抗体(1:300、Millipore, USA)で処置し、4℃で反応させ、これに続きPBSTで3回洗浄した。洗浄後、Alexa Fluor488またはAlexaFluor 594抱合二次抗体(Invitrogen、USA)で処置し、室温にて1時間反応させ、これに続いて、PBSTで6回洗浄した。この時、最後の洗浄時に核をDAPI(4’、6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)で蛍光染色した。次いで、染色されたFB-iPSCを蛍光顕微鏡(Olympus, Japan)またはZeiss LSM 510共焦点顕微鏡(Carl Zeiss, Germany)で観察することにより、OCT4、SOX2、NANOG、SSEA4、TRA-1-81、およびTRA-1-60タンパク質の発現を確認した。
その結果、
図1に示すように、幹細胞性マーカーであるOCT4、SOX2、NANOG、SSEA4、Tra-1-81およびTra-1-60タンパク質がFB-iPSCにおいて正常細胞のレベルで発現していた。以上の結果から、FB-iPSCは胚性幹細胞と同じ多能性を有することが確認された。
【0072】
<1-2>FB-IPSCの核型の確認
例1において調製したFB-iPSCの核型分析をGenDix(Korea)に依頼し、例1で調製したFB-iPSCが正常な核型を有することが確認された。
図2に示すように、FB-iPSCは、46、XYの正常な核型を有していた。
【0073】
実験例2:FB-iPSCにおけるアルファ-ガラクトシダーゼ(α-ガラクトシダーゼ、GLA)の減少した活性の確認
ファブリー病を有する患者において、GLA活性はゼロに近いはずであるので、FB-iPSCのGLA活性を以下の方法で確認した。
具体的には、100mMクエン酸ナトリウムおよび200mMリン酸ナトリウム二塩基性を含有する200μlのGLAアッセイ緩衝液(pH4.6)を、例1で調製したFB-iPSCの細胞ペレットに添加し、これに続き、1秒粉砕、1秒休憩の合計10秒のプログラムで超音波処理した。その後、細胞ライセートの上清を、4℃において1300rpmで30分間の遠心分離により得た。次いで、30μlの200mM N-アセチル-D-ガラクトサミン(GalNAC)、6μlの50mM 4-MU-α-D-ガラクトピラノシド(4MUaGal)、14μlのGLAアッセイ緩衝液、および10μlの得られた細胞ライセート上清を混合することにより、GLA分析のための混合物を調製した。調製した混合物を96ウェルプレートに添加し、これに続き37℃で1時間インキュベートした。
培養が完了したら、200mMグリシン(pH10.32)を含有するGLA停止緩衝液を各ウェルに添加して反応を停止し、Victorプレートリーダー(Perkin Elmer、USA)を使用して、355および460nmの波長で蛍光を確認した。
その結果、
図3に示すように、正常な対照群とは異なり、GLA活性はFB-iPSCにおいて示されなかった。
【0074】
実験例3:ファブリー病を有する患者におけるリソソーム関連タンパク質発現レベルの確認
ファブリー病はリソソーム蓄積症に分類されるため、FB-iPSCおよびファブリー病患者の試料の各々におけるリソソーム関連タンパク質の発現レベルを以下の方法により確認した。
<3-1>FB-iPSCにおけるLC3(オートファジー関連タンパク質軽鎖3)タンパク質発現レベルの確認
FB-iPSCにおけるリソソーム関連タンパク質LC3の発現レベルを、ウエスタンブロッティングにより確認した。
具体的には、例1において調製したFB-iPSCを、ファブリー病のための治療剤であるファブラザイムと飢餓培地との様々な組み合わせで処置した。Pro-Prep solution(Intron Biotechnology, Korea)を各試料に添加し、4℃で反応させ、これに続き1300rpmで10分間遠心分離して、上清を得た。得られた上清をアクリルアミドゲルで電気泳動し、ニトロセルロース膜に転写し、これに続き4%スキムミルクでブロッキングした。次いで、抗LC3抗体(1:1000、Santacruz, USA)で処置し、4℃で24時間反応させ、これに続きtween-20を含有するTBSで3回洗浄した。タンパク質の発現レベルを、従来のウエスタンブロッティングによって確認した。各タンパク質の発現レベルを、対照としてGAPDHを使用して補正した。
その結果、
図4に示すように、ファブラザイム処置に関係なく、LC3タンパク質の発現レベルは正常細胞においてよりもFB-iPSCにおいて高かった。
【0075】
<3-2>ファブリー病を有する患者の試料におけるLC3、ベクリン1およびユビキチンタンパク質の発現レベルの確認
ファブリー病患者試料におけるリソソームシグナリングシステムに関連するLC3、ベクリン1、およびユビキチンタンパク質の発現レベルを、ウエスタンブロッティングによって確認した。
具体的には、血管内皮細胞を、例1のファブリー病を有する患者から得られた皮膚組織から単離し、ファブラザイムで処置した。次いで、LC3、ベクリン1およびユビキチンタンパク質の発現レベルを、実験例<3-1>に記載したのと同じ様式でウエスタンブロッティングを実施することにより確認した。このとき、抗体として、抗LC3抗体(1:1000、Santacruz, USA)、および抗ベクリン1抗体(1:500、Santacruz, SA)、および抗ユビキチン抗体(1:1000、Santacruz, USA)を使用した。
その結果、
図5に示すように、LC3、ベクリン1、ユビキチンタンパク質の発現レベルは、ファブラザイム処置に関係なく、正常細胞においてよりもファブリー病を有する患者の血管内皮細胞において高かった。
上記の結果から、ファブリー病を有する患者においてリソソームは正常に機能せず、治療剤であるファブラザイムの処置後でさえもリソソーム蓄積症の特徴は回復しなかったことが確認された。
【0076】
例2:ファブリー病を有する患者に由来する血管内皮細胞の調製
ファブリー病を有する患者の血管障害を確認するために、血管内皮細胞を以下の方法に従って、FB-iPSCから分化させた(
図6)。
具体的には、例1で調製したFB-iPSCを、フィーダーフリー状態で3日間培養した。その後、培地を1% B27を含有するRPMI-1640培地と交換し、それに50ng/mlのアクチビンAおよび20ng/mlのBPM4を成長因子として添加し、次いで細胞を2日間培養して中胚葉細胞に分化させた。培地を、0.5% B27を含有するRPMI-1640培地と交換し、それに50ng/mlのVEGFAおよび50ng/mlのbFGFを成長因子として添加し、次いで、細胞を2日間培養して、血管前駆体に分化させた。血管内皮細胞に分化することができるCD34陽性細胞を、CD34磁気ビーズを使用して磁気活性化セルソーティング(MACS)を実施することにより、誘導された血管前駆体から単離した。単離されたCD34陽性細胞を、100ng/mlのVEGF-Aおよび100ng/mlのbFGFを成長因子として含有するEGM-2培地(Lonza, USA)中でさらに2日間培養して、血管内皮細胞に分化させた。
その結果、
図7に示すように、FB-iPSCから血管内皮細胞の分化が誘導され、CD34およびCD31を発現する15%超の細胞が生成された。
【0077】
実験例4:ファブリー病を有する患者に由来する血管内皮細胞の特徴の確認
<4-1>血管内皮細胞マーカータンパク質の発現の確認
ファブリー病患者に由来する血管内皮細胞が正常に分化したかどうかを確認するために、免疫染色を使用して血管内皮細胞マーカータンパク質であるKDR(キナーゼ挿入ドメイン受容体)、CD31およびVE-カドヘリン(血管内皮カドヘリン)の発現を確認した。実験は、例2において調製した血管内皮細胞を使用して、実験例<1-1>に記載したのと同じ様式で実施した。このとき、抗KDR抗体(1:300、Cell Signaling Technologies, USA)、抗CD31抗体(1:300、Cell Signaling Technologies, USA)、および抗VE-カドヘリン抗体(1:300、Abcam, UK)を一次抗体として使用した。
その一方で、血管内皮細胞間でのCD31およびCD105を発現する細胞の分布を、FACS(蛍光活性化セルソーター)によって確認した。具体的には、例2において調製した血管内皮細胞をアキュターゼで処置し、遠心分離して細胞ペレットを得た。細胞ペレットを2%ウシ胎児血清を含有するPBS(FACS緩衝液)に再懸濁し、40μmの孔径を有するストレーナーを使用して細胞をろ過した。ろ過した細胞をFACS特異的抗体として抗CD31抗体(1:200、Biolegend, USA)および抗CD105抗体(1:200、Biolegend, USA)で処置し、4℃で3分間反応させた。反応が完了したら、細胞をFACS緩衝液で5回洗浄し、細胞分布をFACSキャリバーフローサイトメーター(BD biosciences)を使用して確認した。
その結果、
図8に示すように、血管内皮細胞マーカーであるKDR、CD31、VE-カドヘリンタンパク質が、ファブリー病を有する患者に由来する血管内皮細胞において正常細胞レベルで発現し、CD31およびCD105タンパク質の発現は、一様に分布していた。上記の結果から、血管内皮細胞は正常にFB-iPSCから分化したことが確認された。
【0078】
<4-2>血管内皮細胞の形態と脈管形成の確認
ファブリー病を有する患者に由来する血管内皮細胞の形態の変化と脈管形成を以下の方法で確認した。
最初に、例2において調製した血管内皮細胞を13日間培養しながら、9日目、11日目、および13日目に細胞の形態を位相差顕微鏡で確認した。
他方、70μlのマトリゲル(corning)ストック溶液を96ウェルプレートに入れ、37℃で硬化させ、次いで例2において調製した1x10
4血管内皮細胞とEGM2培地をそれに添加して管形成を確認した。
その結果、
図9および
図10に示すように、正常対照群とは異なり、ファブリー病を有する患者に由来する血管内皮細胞は、培養が進行して異常な形状に変化するにつれて、広範に広がり、マトリゲル上に管形成は観察されなかった。上記の結果から、ファブリー病を有する患者に由来する血管内皮細胞が血管障害を示すことが確認された。
【0079】
実験例5:ファブリー病を有する患者に由来する血管内皮細胞における減少したGLA活性の確認
ファブリー病を有する患者に由来する血管内皮細胞におけるGLA活性を、以下の方法で確認した。実験を、例2において調製した血管内皮細胞を使用して、実験例2に記載されたのと同じ様式で実施した。
その結果、
図11に示すように、正常対照群とは異なり、ファブリー病を有する患者に由来する血管内皮細胞はGLA活性を何ら示さなかった。
【0080】
実験例6:ファブリー病を有する患者に由来する血管内皮細胞におけるKDRタンパク質の発現の確認
ファブリー病は血管合併症を引き起こすため、KDRタンパク質の発現を以下の方法により確認し、ファブリー病を有する患者において血管障害を確認した。
<6-1>KDRタンパク質の発現部位の確認
FB-iPSCから分化した血管内皮細胞におけるKDRタンパク質の発現部位を免疫染色により確認した。実験を、例2で調製した血管内皮細胞を使用して、実験例<1-1>に記載したのと同じ様式で実施した。このとき、抗KDR抗体(1:300、Cell Signaling Technologies, USA)を一次抗体として使用した。
その結果、
図12に示すように、ファブリー病を有する患者に由来するの血管内皮細胞におけるKDRタンパク質の発現部位が正常対照群とは異なることが確認された。
【0081】
<6-2>KDRタンパク質シグナリングシステムの確認
FB-iPSCから分化した血管内皮細胞におけるKDRタンパク質シグナリングシステムに関連するKDR、eNOS(内皮型一酸化窒素合成酵素)およびTSP1(トロンボスポンジン1型)の発現レベルをウエスタンブロッティングにより確認した。
具体的に、例2において調製した血管内皮細胞をファブラザイムで処置し、実験例<3-1>に記載したのと同じ様式でウエスタンブロッティングを行った。そのとき、抗KDR抗体(1:1000、Cell Signaling Technologies, USA)、抗eNOS抗体(1:1000、Cell Signaling Technologies, USA)、および抗TSP1抗体(1:1000、Santacruz, USA)を抗体として使用した。
その結果、
図13に示すように、KDRおよびeNOSタンパク質の発現レベルは、正常対照群と比較して、ファブリー病を有する患者に由来する血管内皮細胞において減少し、TSP1タンパク質の発現レベルは、ファブラザイム処置にかかわらず正常対照群と比較して増大した。上記の結果から、TSP1タンパク質の発現レベルは、ファブリー病により増大し、それはファブラザイムにより阻害されなかったことが確認された。
【0082】
実験例7:ファブリー病を有する患者に由来する血管内皮細胞におけるTSP1タンパク質の発現の確認
ファブリー病の血管関連合併症がTSP1タンパク質の過剰発現によって引き起こされているかどうかを判断するために、TSP1タンパク質のシグナリングシステムを以下の方法により確認した。
【0083】
<7-1>TGF-β(トランスフォーミング成長因子ベータ)活性化の確認
FB-iPSCから分化した血管内皮細胞におけるTSP1タンパク質の上流シグナリングシステムであるTGF-βタンパク質の活性化を確認するために、ウエスタンブロッティングを使用してSMAD2タンパク質のリン酸化を確認した。
具体的には、例2において調製した血管内皮細胞をファブラザイムで処置し、実験例<3-1>に記載したのと同じ様式でウエスタンブロッティングを行った。このとき、抗体として抗SMAD2抗体(1:1000、Cell Signaling Technologies, USA)および抗リン酸化SMAD2抗体(1:1000、Cell Signaling Technologies, USA)を使用した。
その結果、
図14に示すように、SMAD2タンパク質のリン酸化レベルは、ファブラザイム処置に関わらず、正常対照群と比較して、ファブリー病を有する患者に由来する血管内皮細胞において増大した。上記の結果から、FB-iPSCから分化した血管内皮細胞においてTGF-βタンパク質が活性化されたことが確認された。
【0084】
<7-2>TGF-βの活性化によるTSP1タンパク質の発現レベルの増大の確認
TGF-βの活性化がTSP1タンパク質の発現レベルを増大させるかどうかを確認するために、TSP-1タンパク質を含む関連タンパク質の発現レベルをウエスタンブロッティングを使用して確認した。
具体的には、正常なiPSCから分化した血管内皮細胞をアクチビンAで処置してTGF-βを活性化し、実験例<3-1>に記載したのと同じ様式でウエスタンブロッティングを行った。このとき、抗体として抗TSP1抗体(1:1000、Santacruz, USA)、抗リン酸化SMAD2抗体(1:1000、Cell Signaling Technologies, USA)、抗SMAD2抗体(1:1000、Cell Signaling Technologies, USA)、抗KDR抗体(1:1000、Cell Signaling Technologies, USA)、抗eNOS抗体(1:1000、Cell Signaling Technologies, USA)、抗bFGF抗体(1:1000、Bioss, USA)、抗ANG2抗体(1:1000、Bioss, USA)および抗vEGF抗体(1:1000、Santacruz、USA)を使用した。
その結果、
図15に示すように、TSP1タンパク質の発現は、正常なiPSCから分化した血管内皮細胞においてアクチビンAによって増大した。上記の結果から、TGF-βタンパク質の活性化によりTSP1タンパク質の発現レベルが増大したことが確認された。
【0085】
<7-3>TSP1タンパク質の発現場所の確認
FB-iPSCから分化した血管内皮細胞におけるTSP1タンパク質の発現場所を免疫染色により確認した。実験を、例2において調製した血管内皮細胞を使用して、実験例<1-1>に記載したのと同じ様式で実施した。抗TSP1抗体(1:200、Santacruz, USA)を一次抗体として使用した。
その結果、
図16に示すように、ファブリー病を有する患者に由来する血管内皮細胞において増大したTSP1タンパク質は、正常な対照と比較して細胞全体に分布していた。
【0086】
実験例8:Gb3(グロボトリアオシルセラミド3)タンパク質によって誘導された血管障害の確認
ファブリー病を有する患者の細胞および器官に蓄積されたGb3タンパク質が血管障害を誘導するかどうかを以下の方法により確認した。
<8-1>血管内皮細胞の形態の変化の確認
Gb3タンパク質により引き起こされる血管内皮細胞の形態の変化を、以下の方法で確認した。
具体的には、正常なiPSCから分化した血管内皮細胞をLysoGb3タンパク質(MATREYA LLC, USA)で9日間処置し、次いで細胞の形態を確認した。
その結果、
図17に示すように、正常な血管内皮細胞の形態は、Gb3タンパク質によってFB-iPSCから分化した血管内皮細胞のように広がった形態に変化した。
【0087】
<8-2>血管障害関連遺伝子の発現レベルの確認
Gb3タンパク質による血管障害関連遺伝子の発現レベルの変化を、RT-PCR(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)を使用して確認した。
具体的には、正常なiPSCから分化した血管内皮細胞をLysoGb3タンパク質で1、3または5日間処置し、easy-BLUE(Intron)を使用して細胞からRNAを抽出した。次いで、従来の様式でRT-PCRを行い、血管障害に関連する、KDR、eNOS、およびTSP1(トロンボスポンジン1)遺伝子のRNA発現レベルを確認した。
その結果、
図18a~18cに示すように、KDR、eNOS、およびTSP1遺伝子のRNA発現レベルは、LysoGb3タンパク質の処置の1日後に増大した。RNA発現レベルは徐々に減少し、3日後および5日後、KDRおよびeNOS遺伝子のRNA発現レベルは正常対照細胞のそれよりも低く、TSP1遺伝子のRNA発現レベルは正常対照細胞のそれと同様であった。
【0088】
<8-3>血管障害関連タンパク質の発現レベルの確認
Gb3タンパク質による血管障害関連タンパク質の発現レベルの変化を、ウエスタンブロッティングを使用して確認した。具体的には、正常なiPSCから分化した血管内皮細胞をLysoGb3タンパク質で3、6または9日間処置し、実験例<3-1>に記載したのと同じ様式でウエスタンブロッティングを行った。そのとき、抗体として抗TSP1抗体(1:1000、Santacruz, USA)、抗KDR抗体(1:1000、Cell Signaling Technologies, USA)、抗eNOS抗体(1:1000、Cell Signaling Technologies, USA)、抗AKT抗体(1:1000、Cell Signaling Technologies, USA)、および抗リン酸化AKT抗体(1:1000、Cell Signaling Technologies, USA)を使用した。
その結果、
図19に示すように、LysoGb3タンパク質の処置によりTSP1タンパク質の発現レベルは増大し、KDRおよびeNOSタンパク質の発現レベルおよびAKTタンパク質のリン酸化は減少した。
【0089】
<8-4>TSP1タンパク質の発現場所の確認
FB-iPSCから分化した血管内皮細胞におけるTSP1タンパク質の発現場所を免疫染色により確認した。正常なiPSCから分化した血管内皮細胞をLysoGb3タンパク質で処置した後、実験例<1-1>に記載されているのと同じ様式で実験を行った。一次抗体として抗TSP1抗体(1:200、Santacruz, USA)を使用した。
その結果、
図20に示すように、LysoGb3タンパク質の処置によって増大したTSP1タンパク質は、細胞全体に分布していた。
上記の結果から、Gb3タンパク質がファブリー病を有する患者の血管障害を引き起こす主要な物質であることが確認された。
【0090】
実験例9:ファブリー病を有する患者の血管障害に対するTGF-βインヒビターの治療効果の確認
<9-1>SB431542による血管内皮細胞の形態の変化の確認
TGF-βインヒビターであるSB431542による血管内皮細胞の形態の変化を以下の方法により確認した。
具体的には、例2において調製した血管内皮細胞に対してファブラザイムのみで処置した対照群、SB431542(Cayman Chemical, USA)のみで処置した実験群、およびファブラザイムおよびSB431542で処置した実験群を使用して、細胞の形態を確認した。
その結果、
図21a~21eに示すように、FB-iPSCから分化した血管内皮細胞の異常な形態がSB431542により正常に回復した。
【0091】
<9-2>SB431542による血管内皮細胞のシグナリングシステムの確認
SB431542による血管障害関連タンパク質の発現レベルの変化を、ウエスタンブロッティングを使用して確認した。
具体的には、例2において調製した血管内皮細胞をファブラザイムのみで処置した対照群、ならびにファブラザイムおよびSB431542で処置した実験群を使用して、実験例<3-1>に記載したのと同様の方法でウエスタンブロッティングを行った。そのとき、抗TSP1抗体(1:1000、Santacruz, USA)、抗KDR抗体(1:1000、Cell Signaling Technologies, USA)、および抗eNOS抗体(1:1000、Cell Signaling Technologies, USA)を抗体として使用した。
その結果、
図22に示すように、TSP1タンパク質の発現レベルはSB431542によって減少したが、KDRおよびeNOSタンパク質の発現レベルは増大した。
【0092】
<9-3>SB431542による血管内皮細胞の脈管形成の確認
SB431542により引き起こされる血管内皮細胞の脈管形成を以下の方法により確認した。
具体的には、例2において調製した血管内皮細胞をファブラザイムのみで処置した対照群、SB431542のみで処置した実験群、ファブラザイムとSB431542で処置した実験群を使用し、管形成を実験例<4-2>に記載したのと同じ様式において確認した。
その結果、
図23a~23eに示すように、血管内皮細胞はSB431542によってマトリゲル上に管形状を形成した。
【0093】
<9-4>ロサルタンによる血管内皮細胞の形態の変化の確認
TGF-βインヒビターであるロサルタンによる血管内皮細胞の形態の変化を以下の方法で確認した。
具体的には、例2において調製した血管内皮細胞をファブラザイムのみで処置した対照群、ファブラザイムとSB431542で処置した実験群、ファブラザイムとロサルタン(Cayman Chemical, USA)で処置した実験群を使用して、細胞の形態を確認した。
その結果、
図24aおよび24bに示すように、FB-iPSCから分化した血管内皮細胞の異常な形態はSB431542によって正常に回復した一方で、ロサルタンは効果がなかった。
上記の結果から、SB431542はファブリー病を有する患者における血管障害に対する治療効果を示したが、ロサルタンの効果は確認できなかった。
【0094】
例3:FB-iPSCアイソタイプ対照細胞株の調製
ファブリー病を有する患者の血管障害に関する客観的な実験のために、CRISPR/CAS9システムを使用してFB-iPSCアイソタイプ対照細胞株を調製した(
図25および26)。
具体的には、例1において調製したFB-iPSCにおいて、GLA遺伝子の欠損を、以下の表2に示す配列を標的とするCRISPR/CAS9システムを用いた従来の方法により修正した。標的(表3)についてより高いインデル頻度を有する標的2を使用して編集細胞株を調製し、それからDNAを抽出し、これに続き、配列決定した。
【0095】
【0096】
【表3】
その結果、
図27に示すように、修正されたGLA遺伝子を有するFB-iPSCのアイソタイプ対照細胞株が得られた。
【0097】
例4:FB-iPSCのアイソタイプ対照細胞から分化した血管内皮細胞の調製
血管内皮細胞を、例2に記載されているのと同じ様式で、例3において調製したFB-iPSCアイソタイプ対照細胞を分化させることによって調製した。
【0098】
実験例10:FB-iPSCアイソタイプ対照細胞株および血管内皮細胞におけるGLA活性の回復の確認
FB-iPSCアイソタイプ対照細胞株およびそれから分化した血管内皮細胞においてGLA活性が回復したかどうかを以下の方法で確認した。実験を、例3において調製したFB-iPSCアイソタイプ対照細胞株および例4において調製した血管内皮細胞を使用して、実験例2に記載したのと同じ様式で実施した。
その結果、
図28に示すように、GLA活性はFB-iPSCアイソタイプ対照細胞株およびそれから分化した血管内皮細胞において回復した。
【0099】
実験例11:FB-iPSCアイソタイプ対照細胞から分化した血管内皮細胞における血管障害の回復の確認
<11-1>血管障害関連タンパク質の発現レベルの確認
FB-iPSCアイソタイプ対照細胞から分化した血管内皮細胞における血管障害関連タンパク質の発現レベルを、ウエスタンブロッティングによって確認した。例2において調製した血管内皮細胞およびGLA(Genzyme, USA)で処置した例4において調製した血管内皮細胞を使用して、実験例<3-1>に記載したのと同じ様式で、ウエスタンブロッティングを行った。そのとき、抗TSP1抗体(1:1000、Santacruz, USA)、抗SMAD2抗体(1:1000、Cell Signaling Technologies, USA)、抗リン酸化SMAD2抗体(1:1000、Cell Signaling Technologies, USA)、抗KDR抗体(1:1000、Cell Signaling Technologies, USA)および抗eNOS抗体(1:1000、Cell Signaling Technologies, USA)を抗体として使用した。
その結果、
図29に示すように、FB-iPSCから分化した血管内皮細胞と比較して、FB-iPSCアイソタイプ対照細胞から分化した血管内皮細胞において、TSP1タンパク質の発現レベルとSMADタンパク質のリン酸化が減少し、KDRおよびeNOSタンパク質の発現レベルが増大した。
【0100】
<11-2>抗脈管形成因子タンパク質の発現場所の確認
FB-iPSCアイソタイプ対照細胞から分化した血管内皮細胞における抗脈管形成因子タンパク質の発現場所を免疫染色により確認した。
具体的には、実験を、例2において調製した血管内皮細胞およびGLAで処置した例4において調製した血管内皮細胞を使用して、実験例<1-1>に記載したのと同じ様式で実施した。一次抗体として、抗VE-カドヘリン抗体(1:300、Abcam, UK)および抗TSP1抗体(1:200、Santacruz, USA)を使用した。
その結果、
図30に示すように、FB-iPSCから分化した血管内皮細胞と比較して、FB-iPSCアイソタイプ対照細胞から分化した血管内皮細胞においてTSP1タンパク質の分布が減少した。
【0101】
<11-3>血管内皮細胞の脈管形成の確認
FB-iPSCアイソタイプ対照細胞から分化した血管内皮細胞の脈管形成を以下の方法により確認した。実験を、例2において調製した血管内皮細胞およびGLAで処置した例4において調製した血管内皮細胞を使用して、実験例<4-2>に記載したのと同じ様式で実施した。
その結果、
図31に示すように、FB-iPSCから分化した血管内皮細胞と比較して、FB-iPSCアイソタイプ対照細胞から分化した血管内皮細胞は、マトリゲル上でより良好な管形状を形成した。
上記の結果から、GLA遺伝子の修正がファブリー病を有する患者において血管障害を回復させたことが確認された。
【0102】
例5:TSP1遺伝子ノックアウトFB-iPSC細胞株の構築
ファブリー病患者の血管障害の原因として知られているTSP1遺伝子がノックアウトされたFB-iPSC細胞株を、CRISPR/CAS9システムを使用して構築した(
図32)。
具体的には、例1において調製したFB-iPSCのTSP1遺伝子を、以下の表4に示す配列を標的とするCRISPR/CAS9システムを使用した従来の方法によりノックアウトした。ノックアウト細胞株を、標的について高いインデル頻度を有する標的2(表5)を使用して調製し、それからDNAを抽出し、これに続き、配列決定をした。
【0103】
【0104】
【表5】
その結果、
図33に示すように、TSP1遺伝子がノックアウトされたFB-iPSC細胞株が得られた。
【0105】
例6:TSP1遺伝子ノックアウトFB-iPSC細胞から分化した血管内皮細胞の調製
血管内皮細胞を、例2に記載したのと同じ様式で、例5において調製したTSP1遺伝子ノックアウトFB-iPSC細胞を分化させることにより調製した。
【0106】
実験例12:TSP1遺伝子ノックアウトFB-iPSC細胞から分化した血管内皮細胞における血管障害の回復の確認
<12-1>血管内皮細胞の形態の変化の確認
TSP1遺伝子ノックアウトFB-iPSC細胞から分化した血管内皮細胞の形態の変化を以下の方法で確認した。実験において、例2において調製した血管内皮細胞とGLAで処置した例6において調製した血管内皮細胞を使用して細胞形態を確認した。
その結果、
図34に示すように、FB-iPSCから分化した血管内皮細胞は異常な形態を示した一方で、TSP1遺伝子ノックアウトFB-iPSC細胞から分化した血管内皮細胞は正常な形態を示した。
【0107】
<12-2>血管内皮細胞におけるTSP1遺伝子の発現レベルの確認
TSP1遺伝子ノックアウトFB-iPSC細胞から分化した血管内皮細胞におけるTSP1遺伝子のRNA発現レベルをRT-PCRにより確認した。具体的には、RT-PCRは、例2において調製した血管内皮細胞および例6において調製した血管内皮細胞を使用して、実験例<8-2>に記載したのと同じ様式で実施した。
その結果、
図35に示すように、TSP1遺伝子ノックアウトFB-iPC細胞から分化した血管内皮細胞において、TSP1遺伝子のRNA発現レベルは、正常対照細胞やFB-iPSCから分化した血管内皮細胞と比較して減少した。
【0108】
<12-3>血管障害関連タンパク質の発現レベルの確認
TSP1遺伝子ノックアウトFB-iPSC細胞から分化した血管内皮細胞における血管障害関連タンパク質の発現レベルをウエスタンブロッティングにより確認した。具体的には、ウエスタンブロッティングを、例2において調製した血管内皮細胞および例6において調製した血管内皮細胞を使用して、実験例<3-1>に記載したのと同じ様式で実施した。抗TSP1抗体(1:1000、Santacruz, USA)、抗KDR抗体(1:1000、Cell Signaling Technologies, USA)、抗eNOS抗体(1:1000、Cell Signaling Technologies, USA)、抗リン酸化SMAD2抗体(1:1000、Cell Signaling Technologies, USA)および抗SMAD2抗体(1:1000、Cell Signaling Technologies, USA)を抗体として使用した。
その結果、
図36に示すように、FB-iPSCから分化した血管内皮細胞と比較して、TSP1遺伝子ノックアウトFB-iPSC細胞から分化した血管内皮細胞において、TSP1タンパク質の発現レベルとSMADタンパク質のリン酸化が減少し、KDRおよびeNOSタンパク質の発現レベルが増加した。
【0109】
<12-4>血管内皮細胞の脈管形成の確認
TSP1遺伝子ノックアウトFB-iPSC細胞から分化した血管内皮細胞の脈管形成を以下の方法で確認した。実験を、例2において調製した血管内皮細胞およびGLAで処置した例4において調製した血管内皮細胞を使用して、実験例<4-2>に記載したのと同じ様式で実施した。
その結果、
図37に示すように、FB-iPSCから分化した血管内皮細胞と比較して、TSP1遺伝子ノックアウトFB-iPSC細胞から分化した血管内皮細胞は、マトリゲル上でより良好な管形状を形成した。
上記の結果から、TSP1タンパク質はファブリー病を有する患者において血管障害を引き起こす主要なタンパク質であり、その発現の阻害がファブリー病を治癒し得ることが確認された。
活性成分としてTSP1(トロンボスポンジン1)遺伝子発現インヒビターまたはTSP1タンパク質活性インヒビターを含む、ファブリー病を予防または処置するための医薬組成物。