(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093539
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】ウイルスと抗原の精製及び結合
(51)【国際特許分類】
C12N 7/01 20060101AFI20230627BHJP
C07K 14/11 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
C12N7/01
C07K14/11
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023061219
(22)【出願日】2023-04-05
(62)【分割の表示】P 2020569171の分割
【原出願日】2019-06-11
(31)【優先権主張番号】62/683,865
(32)【優先日】2018-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】522222412
【氏名又は名称】クビオ・ホールディングス・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー・バーデン
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン・ディー・ヒューム
(72)【発明者】
【氏名】ジョシュア・モートン
(72)【発明者】
【氏名】グレッグ・ポーグ
(72)【発明者】
【氏名】バリー・ブラッチャー
(72)【発明者】
【氏名】ヒュー・エイ・ヘイドン
(72)【発明者】
【氏名】キャリー・エイ・シンプソン
(72)【発明者】
【氏名】ニック・パーティン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ダブリュ・シェパード
(72)【発明者】
【氏名】ケルシー・スウォープ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】免疫療法剤及び他の治療剤の送達用ワクチンを形成するために、ウイルス精製、抗原精製、及びウイルスとタンパク質(例えば抗原)の結合に関連する方法と代表的な組成物を提供する。
【解決手段】ウイルス及び抗原を含むウイルス-抗原コンジュゲートを含む組成物であって、前記抗原がインフルエンザヘマグルチニン抗原(HA)を含み、少なくとも約50%の三量体形成を示し、前記ウイルスの表面のリジン残基が前記HAと化学的に会合している、前記組成物とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質とウイルスを結合させる方法であって、ウイルスをpH約5.5以下の環境に置くことにより前記ウイルスを活性化させる工程と、前記活性化工程後に前記ウイルスとタンパク質を結合反応において混合し、コンジュゲート混合物を形成する工程を含む、前記方法。
【請求項2】
前記ウイルス活性化工程が、前記タンパク質のアミン標的結合を促進するように前記ウイルスの表面露出リジン残基を化学的に修飾する工程を更に含み、前記ウイルス活性化工程を緩衝液中で約18時間~約72時間実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記タンパク質が抗原であり、前記混合工程の前に、前記抗原を精製するサブ工程と、前記抗原を約6.5以下のpHに曝露するサブ工程により、前記抗原を調製する工程を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗原を資源抗原から採取する工程を更に含み、前記抗原を精製する工程が、前記抗原から細胞破片を除去する段階と、前記抗原を濃縮する段階と、少なくとも1種の化学的分離を実施し、前記抗原から宿主細胞夾雑物を分離する段階と、前記抗原をアフィニティークロマトグラフィーに供し、抗原を溶出させる段階と、前記抗原をマルチモードクロマトグラフィーに供し、保持物としての不純物と透過物としての抗原のサイズ差に基づいて前記抗原から前記不純物を分離する段階を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
多孔質フィルターを含むタンジェンシャルフロー濾過装置に前記ウイルスを通して前記ウイルスを精製する工程と、多孔質膜を含む膜濾過装置に前記少なくとも1種のウイルスを通して前記ウイルスを濃縮する工程を更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記タンパク質がインフルエンザヘマグルチニン抗原(HA)を含む抗原であり、前記ウイルスがタバコモザイクイルス(TMV)である、請求項1又は3に記載の方法。
【請求項7】
前記TMVと前記HAを少なくとも約4:1の比で混合する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記TMVと前記HAを約1:1~4:1の比で混合する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
遊離アミンを含有する少なくとも1種の液体を使用して前記結合反応を停止させる工程を更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記停止工程後に、保持物としての不純物と透過物としての前記コンジュゲート混合物のサイズ差に基づいて前記コンジュゲート混合物から残留不純物を分離する工程を更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記結合反応により、未結合の天然分子量のウイルスコートタンパク質の少なくとも約50%の低減が達成される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ウイルスがTMVであり、前記TMVが半径を有しており、前記活性化工程中に前記TMV半径が少なくとも2.75倍に増加した後に、前記ウイルスとタンパク質を混合する前記工程を実施する、請求項1、7又は8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ウイルスがTMVであり、前記TMVが半径を有しており、前記活性化工程中に前記TMV半径が少なくとも約195nmまで増加した後に、前記ウイルスとタンパク質を混合する前記工程を実施する、請求項1,7又は8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ウイルス-抗原コンジュゲートを含む組成物であって、前記抗原がインフルエンザヘマグルチニン抗原(HA)を含み、少なくとも約50%の三量体形成を示す、前記組成物。
【請求項15】
前記ウイルスがタバコモザイクイルス(TMV)である、請求項14に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願に記載する実施形態は抗原担体としての高純度組換えウイルスを生産するためのマルチセット法の使用を含み、更に他の種々の実施形態は精製ウイルスと精製抗原を使用したワクチン生産に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスは核酸分子をタンパク質コートで包み込んだものであり、他の生物の生きた細胞の中でしか複製できない。ウイルスは有害であると考えられていることが多く、広範なウイルスがヒト、家畜及び植物等のあらゆる種類の生命体に感染することが可能である。一方、有用な側面として、一連の治療目的にウイルスを使用することに関心が高まっており、限定するものではないが、数例を挙げると、ワクチン創製、遺伝子治療及びがん治療が挙げられる。しかし、ウイルスについて研究し、その構造を解明し、ウイルスを分子ツールや疾患治療用ベクター・担体に応用するためには、先ずウイルスを精製し、ウイルスに期待される機能を妨害する恐れのある細胞破片、高分子繊維、オルガネラ、脂質及び他の不純物を除去する必要がある。
【0003】
一旦精製すると、ウイルスは多数の用途に利用できるようになる。従来認識されているようにウイルスに対する遺伝子ストラテジーの研究開発にウイルス(この文脈では病原体とみなす)を使用することも、本開示に関連する用途の1つである。しかし、本開示では、ワクチンを製造するための抗原担体として精製ウイルスを使用することについてより詳細に記載する。抗原は生体に適切に送達されると、抗原の分子構造に合致する生体内の抗体と結合して抗体産生を刺激することにより、この生体内に免疫応答を生じることが可能な分子である。組換えDNAを公知技術によりベクターにクローニングした後、特定の宿主細胞に導入すると、組換え抗原が生産され、このような宿主細胞の例をいくつか挙げると、細菌、哺乳動物細胞、酵母細胞及び植物細胞が挙げられる。組換え抗原はその後、宿主細胞の翻訳装置を使用して発現される。発現後、組換え抗原を採取し、結合(conjugation)と呼ばれる方法により、共有結合を介してウイルスと結合させることができる。抗原をウイルスと結合させた後、ウイルスは抗原を生体に送達して免疫系応答を活性化させるための担体として機能することができる。こうして、ウイルス-抗原コンジュゲートを治療用途に利用することができる。抗原が免疫応答を活性化させ、資源生物の宿主細胞内で抗体を産生するためには、適正なウイルス-抗原結合が必要である。この適正な結合はウイルスと抗原の両方の精製により促進される。
【0004】
現行のウイルス精製法は一般に、例えばナノグラム~ミリグラムのオーダーの少量の生化学量での使用に限られており、グラム~キログラムのオーダーの工業量では実証されていない。例えば、「粗感染細胞ライセート(Crude Infected Cell Lysate)」と呼ばれる従来使用されている方法はウイルス感染細胞からの粗細胞ライセート又は細胞培養培地を利用している。感染した哺乳動物細胞を凍結・解凍又は他の公知方法により溶解させ、低速遠心法により破片を除去した後、上清を実験に使用している。無傷の感染生体を物理的に破砕又は粉砕し、得られた抽出液を遠心又は濾過により清澄化し、粗ウイルス調製物を生産している。しかし、この方法は実験実施能とウイルス操作能に影響を与える多くの非ウイルス因子による深刻な汚染の問題がある。
【0005】
従来の精製工程の第2の例は高速超遠心法であり、ウイルスをペレット化したり、低密度ショ糖溶液を使用したペレット化により更に精製したり、種々の密度のショ糖溶液に懸濁する方法である。この方法は、高速分離のサイズと大規模化が限られているため、少量でしか精製ウイルスを生産できず、他の宿主タンパク質もウイルス試料と共精製してしまうことが多いため、ウイルス純度が低いという欠点がある。
【0006】
ウイルス純度を上げるために従来使用されている第3の方法は密度勾配超遠心法である。この方法では、集合したウイルス粒子を分離するため又は遺伝子成分を含まない粒子を除去するために塩化セシウム、ショ糖、イオジキサノール又は他の溶液の勾配を使用している。この方法の欠点としては、ウイルスを精製するために時間がかかり(多くの場合には2~3日間)、試料数が限られており、一度に分析できる試料の量が少なく(一般にローター当たり6個)、精製できるウイルスの量が少ない(一般に最終産物マイクログラム~ミリグラム量)。
【0007】
例えば脂質と葉緑体を除去することなどにより、植物由来ウイルスを含めたウイルスを精製するために、有機溶媒抽出法とポリエチレングリコール沈殿法も使用されている。しかし、これらの公知方法も純度が低く、一般には産物が宿主タンパク質、核酸、脂質及び糖質と結合したままであるため、得られるウイルス産物は凝集が顕著になる。これらの欠点により、米国食品医薬品局(US Food and Drug Administration:FDA)が制定した現行適正製造規範(Current Good Manufacturing Practice:cGMP)規則に適合するような最終産物の有用性は低下する。
【0008】
FDAにより公布された現行のcGMP規則は医薬品の製造、加工及び包装に使用される方法、施設及び管理について最小限の要件を定めている。これらの規則は製品の安全性と共に、製品が表示通りの成分と含有量であると保証することを目的としている。従って、ワクチン創製、遺伝子治療、がん治療及び他の臨床環境でウイルスを利用できるようにするためには、最終ウイルス産物がcGMP規則に適合していなければならない。最終ウイルス産物がポリエチレングリコール沈殿法により得られる産物のようにcGMP規則に適合していない場合には、臨床環境で使用するためのその有用性は得られないか又は著しく低下する。
【0009】
大規模化とは、産物量が例えば実験室規模(<0.1平方メートル)から少なくとも>20平方メートルのシステムまで増加しても同一産物を安定的且つ再現可能に生産する方法を意味する。上述したような従来使用されている方法はいずれも一貫性がなく、大規模化しにくく(即ち産物が生化学量でしか得られない)、cGMP規則に適合しないという問題がある。
【0010】
大規模生産の点では、植物による生産が注目を集めているが、その使用には顕著な欠点がある。植物による生産システムはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)等の動物細胞生産システムよりも著しく低コストで工業規模生産量を生産することが可能である。しかし、従来の精製法によっては、ある程度の規模で植物以外のウイルスに適切であっても、植物により生産されたウイルスと抗原には無効な場合がある。これらの欠点は、植物ウイルスの精製と動物細胞培養液からのウイルスの精製との間に非常に多くの相違点があるためである。動物細胞は主にタンパク質と核酸の不純物を生じるが、植物は動物細胞では見られない多量の他の不純物も生じる。これらの不純物をいくつか挙げると、葉緑体膜と液胞膜の脂質組成物、単純糖質と複合糖質の不純物、及びナノ粒子状のオルガネラ不純物が挙げられる。実際に、粗植物抽出液は植物から得られたウイルス物質と抗原物質の処理・精製に使用される装置を汚染することが多いが、これは、例えば装置の分離膜や培地ベッド先端に不純物が蓄積するためである。このような汚染は加圧流不良、濾過不良に繋がり、最終的に産物生産量低下に至ることは避けられない。また、これらの不純物は凝集する傾向があり、植物から得ようとするタンパク質、ウイルス、又は他の「産物」の内側で共精製される可能性があるという問題もある。従って、現行のウイルス精製法は、限定するものではないが、植物抽出液中に存在する不純物を含む全ての不純物又は十分な量の不純物を適切に除去できないであろうし、精製ウイルスを適切に生産することが示されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、商業的規模、即ちグラム~キログラム量以上の規模で且つcGMP規則に適合するように高純度ウイルスを安定的に生産することが可能なウイルス及び抗原精製プラットフォームが大いに必要とされている。このような改善は、ワクチン創製、遺伝子治療及びがん治療用のツールを使用するための臨床開発が可能になるであろう。複数の実施形態及び代替実施形態に従って本願に記載するプラットフォームは本願に概説する他の特徴及び利点に加え、この必要性及び他の必要性を満たすものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
実施形態の概要
本開示に従ういくつかの実施形態において、ウイルス精製法は、少なくとも1種のウイルスを含むウイルス材料を資源生物から採取する工程と;前記少なくとも1種のウイルスから細胞破片を除去することにより、前記少なくとも1種のウイルスの構造を清澄化する工程と;いくつかの実施形態では使用者に選択される所定の限度を超えない寸法の細孔を備える膜を含む濾過装置を使用することにより、前記分離・清澄化したウイルスを濃縮する工程と;前記濃縮したウイルスを一連の分離手順に供することにより処理し、各分離手順後に前記ウイルスを採取する工程を含むマルチセット法であって、少なくとも1種の分離手順が前記ウイルスから宿主細胞夾雑物を分離するためにイオン交換クロマトグラフィーを含み、少なくとも1種の分離手順が少なくとも前記ウイルスと残留不純物のサイズ差に基づき、更に前記不純物と1種以上のクロマトグラフィー用リガンドの間で生じる化学的相互作用に基づいて前記ウイルスから前記不純物を分離するためにマルチモードクロマトグラフィーを含む方法に関する。いくつかの実施形態において、ウイルスの組換え発現を行う資源生物は植物であり、非限定的な例としてベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)やコウキクサ(Lemna minor)が挙げられる。資源生物が植物であるとき、採取工程としては、以下に記載するように一過性遺伝子発現の誘導により種子生産と植物発芽を行い、目的のタンパク質を形成する方法が挙げられる。あるいは、ウイルスの組換え発現を行う資源生物は植物以外の宿主であり、限定するものではないが、細菌、藻類、酵母、昆虫、又は哺乳動物が挙げられる。
【0013】
更に、本願に記載する複数の実施形態の種々の態様は、ウイルスと結合させることができる抗原の生産若しくは精製、又はその両方に関する。いくつかの実施形態において、抗原の組換え発現を行う資源生物は植物であり、あるいは、抗原の組換え発現を行う資源生物は植物以外の宿主であり、限定するものではないが、細菌、藻類、酵母、昆虫、又は哺乳動物が挙げられる。
【0014】
本願に記載する種々の実施形態に従って実施されるマルチセット法は、高純度ウイルス若しくは組換え抗原又はその両方を商業的規模で生産するという利点がある。上流精製プロセスを改善するために、植物ウイルスを高濃度化する等の種々の工程を利用する。いくつかの実施形態は精製組換えウイルスと精製組換え抗原を生産するために、サイズ排除クロマトグラフィー及び他の特徴を利用する。従って、本願に記載する種々の実施形態は、ウイルスと抗原を結合させた1種以上のワクチンの製造に適した1種以上のウイルスと1種以上の抗原を提供する。
【0015】
ウイルスについては、本願に記載する本発明のウイルス精製プラットフォームのいくつかの実施形態の実施により、棒状植物ウイルス(例えばタバコモザイクイルス、即ち「TMV」)と正二十面体植物ウイルス(例えばアカクローバモザイクウイルス)の精製に成功した。本願に記載する複数の実施形態に従い、サイズと構造に関して構造的多様性を示す2種類のウイルスであるTMVとアカクローバモザイクウイルスの精製に成功した。例えば、アカクローバモザイクウイルス等の小型の正二十面体ウイルスは対称性T=3、寸法約31~34nmであり、約180個のカプシドタンパク質を含む。一方、TMVはほぼ直径18nm、長さ300nmであり、2160個のカプシドタンパク質を含む。この多様性に鑑み、本発明の方法は2種類の構造的に異なるウイルスに基づき、望ましくない細胞破片を保持しながらウイルスを透過液側に通過させることに成功した。使用時には、全種のウイルスがいずれも透過液側に通過し、クロロフィル/細胞破片が保持され、タンジェンシャルフロー(TFF)システムが不当又は不時に汚染されずに効率的に運転し続けるように、操作パラメーターを制御することができる。低分子のタンパク質を透過液側に通過させながらウイルスを保持するようにその他のTFF工程も設計し、宿主細胞タンパク質、宿主細胞DNA、内毒素及び植物ポリフェノールを捕捉しながら大小ウイルスを排除するようにデュアルクロマトグラフィー工程を制御する。
【0016】
アカクローバモザイクウイルスとTMVの精製の成功により、複数の実施形態及び代替実施形態に従うウイルス精製プラットフォームは多様なウイルスをうまく精製できると予想され、このようなウイルスとしては、一連の遺伝子材料(例えば2本鎖及び1本鎖DNAウイルスや、RNAウイルス)、幾何形状(例えば棒状、屈曲性棒状及び正二十面体)、及び科名(カリモウイルス科(Caulimoviridae)、ジェミニウイルス科(Geminiviridae)、ブロモウイルス科(Bromoviridae)、クロステロウイルス科(Closteroviridae)、コモウイルス科(Comoviridae)、ポティウイルス科(Potyviridae)、セクイウイルス科(Sequiviridae)、トンブスウイルス科(Tombusviridae))を含むウイルスが挙げられる。
【0017】
本願に記載する実施形態を適用して成功すると予想されるウイルスの非限定的な例としては、バドナウイルス属(Badnavirus)(例えばツユクサ(commelina)黄色斑紋ウイルス);カリモウイルス属(Caulimovirus)(例えばカリフラワーモザイクウイルス);SbCMV様ウイルス属(例えばダイズ退緑斑紋ウイルス);CsVMV様ウイルス属(例えばキャッサバ葉脈モザイクウイルス);RTBV様ウイルス属(例えばイネツングロ桿菌状ウイルス);ペチュニア葉脈透化様ウイルス属(例えばペチュニア葉脈透化ウイルス);マストレウイルス属(Mastrevirus)(サブグループIジェミニウイルス)(例えばトウモロコシ条斑ウイルス)及びクルトウイルス属(Curtovirus)(サブグループIIジェミニウイルス)(例えばビートカーリートップウイルス)及びベゴモウイルス属(Begomovirus)(サブグループIIIジェミニウイルス)(例えばインゲンマメゴールデンモザイクウイルス);アルファモウイルス属(Alfamovirus)(例えばアルファルファモザイクウイルス);イラルウイルス属(Ilarvirus)(例えばタバコ条斑ウイルス);ブロモウイルス属(Bromovirus)(例えばブロムモザイクウイルス);ククモウイルス属(Cucumovirus)(例えばキュウリモザイクウイルス);クロステロウイルス属(Closterovirus)(例えばビート萎黄ウイルス);クリニウイルス属(Crinivirus)(例えばレタス感染性萎黄ウイルス);コモウイルス属(Comovirus)(例えばササゲモザイクウイルス);ファバウイルス属(Fabavirus)(例えばソラマメウイルトウイルス1);ネポウイルス属(Nepovirus)(例えばタバコ輪点ウイルス);ポティウイルス属(Potyvirus)(例えばジャガイモYウイルス);ライモウイルス属(Rymovirus)(例えばライグラスモザイクウイルス);バイモウイルス属(Bymovirus)(例えばオオムギ縞萎縮ウイルス);セクイウイルス属(Sequivirus)(例えばパースニップイエローフレックウイルス);ワイカウイルス属(Waikavirus)(例えばイネ矮化ウイルス);カルモウイルス属(Carmovirus)(例えばカーネーション斑紋ウイルス);ダイアンソウイルス属(Dianthovirus)(例えばカーネーション輪紋ウイルス);マクロモウイルス属(Machlomovirus)(例えばトウモロコシ退緑斑紋ウイルス);ネクロウイルス属(Necrovirus)(例えばタバコえそウイルス);トンブスウイルス属(Tombusvirus)(例えばトマトブッシースタントウイルス);カピロウイルス属(Capillovirus)(例えばリンゴステムグルービングウイルス);カルラウイルス属(Carlavirus)(例えばカーネーション潜在ウイルス);エナモウイルス属(Enamovirus)(例えばエンドウひだ葉モザイクウイルス);フロウイルス属(Furovirus)(例えばコムギ萎縮ウイルス);ホルデイウイルス属(Hordeivirus)(例えばムギ斑葉モザイクウイルス);イダエオウイルス属(Idaeovirus)(例えばラズベリー黄化ウイルス);ルテオウイルス属(Luteovirus)(例えばオオムギ黄萎ウイルス);マラフィウイルス属(Marafivirus)(例えばトウモロコシラヤドフィノウイルス);ポテックスウイルス属(Potexvirus)(例えばジャガイモXウイルス及びクローバモザイクウイルス);ソベモウイルス属(Sobemovirus)(例えばインゲンマメ南部モザイクウイルス);テヌイウイルス属(Tenuivirus)(例えばイネ縞葉枯ウイルス);トバモウイルス属(Tobamovirus)(例えばタバコモザイクイルス);トブラウイルス属(Tobravirus)(例えばタバコ茎えそウイルス);トリコウイルス属(Trichovirus)(例えばリンゴクロロティックリーフスポットウイルス);ティモウイルス属(Tymovirus)(例えばカブ黄化モザイクウイルス);並びにウンブラウイルス属(Umbravirus)(例えばニンジン斑紋ウイルス)のウイルスが挙げられる。
【0018】
商業的規模で且つcGMP規則に適合するようにウイルスをうまく精製することに成功した。いくつかの実施形態において、資源生物は植物であり、本願の実施形態の所定の変形は植物由来ウイルスの生産を含むが、本願に記載する実施形態は植物でのウイルスの製造又は精製に限定されない。いくつかの実施形態において、ウイルス精製プラットフォームは、植物を制御下の栽培室で栽培し、植物に感染させてウイルスを複製し、細胞をディスインテグレーターで破砕し、スクリュープレスにより液体から植物繊維を除去してウイルスを回収することにより開始する。
【0019】
植物由来ウイルスと植物以外のウイルスの両方に関連するいくつかの実施形態において、精製工程は、カセット細孔径、膜間差圧、及び膜表面積1平方メートル当たりの清澄化抽出液の注入量を制御しながら、タンジェンシャルフローシステムを使用して清澄化抽出液を濃縮する段階を含む。膜間差圧(TMP)とは、分離膜の上流側と下流側の差圧であり、次式:((供給液圧力+保持液圧力)/2)-透過液圧力により計算される。ウイルスにセラミックを通過させて清澄化抽出液を形成するために、いくつかの実施形態では、適切なTMPが得られるように供給液圧力、保持液圧力及び透過液圧力を各々制御する。清澄化抽出液を更にイオン交換カラム体積に照らして濃縮し、イオン交換クロマトグラフィー平衡化用緩衝液で洗浄する。いくつかの実施形態では、Capto Qイオン交換カラムを平衡化させ、供給液を注入し、素通り画分で採取する。次にカラムをベースラインまで洗浄し、高塩濃度処理により宿主細胞夾雑物をカラムからストリッピングする。
【0020】
植物由来ウイルスに関連するいくつかの実施形態では、タンジェンシャルフローセラミック濾過を使用してクロロフィルと、高分子繊維、オルガネラ、脂質等の他の大きな細胞破片を除去する前に、抽出用緩衝液を加える。いくつかの実施形態では、セラミック濾過により、ウイルス通過を最適化しながら植物宿主からのクロロフィル、細胞破片及び他の不純物の保持を促進する。植物由来ウイルスであるか植物以外のウイルスであるかに拘わらず、目的の物質(ウイルス又は抗原)が透過物として通過し、不純物が保持物として保持されるこのアプローチは、プロセスの大規模化を促進する。更に、ウイルスにセラミックを通過させて清澄化抽出液を形成するように、膜間差圧、セラミック細孔径、及び1平方メートル当たりのバイオマス注入量等のパラメーターを全て制御する。セラミックTFFシステムは大規模化し易く、より多量のバイオマスに対応するように、TMP、クロスフロー速度、細孔径及び表面積等のパラメーターを容易に大規模化することができる。このシステムは他のセラミックモジュールも追加し易い。効率的なクロスフロー速度を維持し、システムのファウリングが殆ど又は全く起きないようにするために、供給液圧力、保持液圧力及び透過液圧力も制御することができる。いくつかの実施形態では、規模の増減に合わせてウイルスを効率的に通過させるために、TMPが約10~20psiとなるようにクロスフロー速度と差圧を設定・制御する。セラミックTFFシステムはGMP要件に従って清浄化試験を実施できるように、硝酸、漂白剤及び水酸化ナトリウム等の非常に効率的な化学洗浄剤の使用に対応可能である。
【0021】
植物由来ウイルスであるか植物以外のウイルスであるかに拘わらず、複数の実施形態及び代替実施形態に従い、更に他の点で大規模化可能な高スループットのウイルス精製法の開発に一致する精製法は、少なくとも前記ウイルスと残留不純物のサイズ差に基づき、更に前記不純物と1種以上のクロマトグラフィー用リガンドの間で生じる化学的相互作用に基づいて前記ウイルスから前記不純物を分離するためにマルチモードクロマトグラフィーを用いた少なくとも1種の分離手順を利用する。例えば、Capto(R)Core 700クロマトグラフィー用樹脂(GE Healthcare Bio-Sciences)を用いて少なくとも1種の分離手順を実施することが実施形態の範囲に含まれる。Capto(R)Core 700「ビーズ」は疎水性と正荷電性を兼備し、一定のサイズ、例えば700キロダルトン(kDA)未満の分子を捕捉するように設計されたオクチルアミンリガンドを含む。ウイルスによってはかなり大きく(例えば700kDA超)、ビーズ外面は不活性であるため、Capto(R)Core 700はサイズ排除によりウイルスの精製を可能にし、目的の物質(ウイルス又は抗原)は透過物として通過し、不純物は保持物として保持される。
【0022】
同じく植物由来ウイルスであるか植物以外のウイルスであるかに拘わらず、いくつかの実施形態では、マルチモードクロマトグラフィーカラムの前に、5カラム体積の平衡化用緩衝液で平衡化を行う。いくつかの実施形態では、Capto Qイオン交換クロマトグラフィーからの素通り画分と洗浄画分を合一してマルチモードクロマトグラフィーカラムに注入し、ウイルスをカラムのボイドボリュームで採取する。カラムをベースラインまで洗浄し、高導電率水酸化ナトリウムでストリッピングする。いくつかの実施形態の態様では、この工程中に注入比、カラムベッド高、滞留時間及びクロマトグラフィー用緩衝液を制御する。
【0023】
精製したウイルスを例えば透析濾過により滅菌濾過し、保存する。
【0024】
抗原については、本願に記載する本発明の抗原精製プラットフォームのいくつかの実施形態の実施により、組換え抗原としてH5組換えインフルエンザヘマグルチニン(rHA)、H7rHA、ウエストナイルウイルスのドメインIII(WNVrDIII)、及びラッサ熱ウイルス組換えタンパク質1/2(LFVrGP1/2)を生産・精製した。本願に記載する種々の実施形態の抗原は多数の資源に由来することができ、細菌、酵母、昆虫、哺乳動物又は植物による発現アプローチを含む従来の組換えタンパク質製造ストラテジーを使用して生産することができる。
【0025】
いくつかの実施形態において、抗原製造プラットフォームは、植物を制御下の栽培室で栽培し、植物に感染させて組換え抗原を複製した後、ディスインテグレーターで処理した後、スクリュープレスにより水性液体から繊維を除去して抗原を回収することにより開始する。クロロフィル(植物の場合)と大きな細胞破片を濾過により除去し易くするために抽出用緩衝液を加える。植物由来抗原であるか植物以外の抗原であるかに拘わらず、抗原がフィルターを通過し易くするために、供給液圧力、濾液透過細孔径、清澄化剤、及び膜表面積1平方メートル当たりのバイオマス注入量を制御する。大規模ウイルス及び抗原精製を行うのに適した種々の工程内制御の(非限定的な)説明については、実施例のセクションに更に詳細に述べる。
【0026】
同じく植物由来抗原であるか植物以外の抗原であるかに拘わらず、いくつかの実施形態では、次にタンジェンシャルフローシステムを使用して清澄化抽出液を濃縮する。この任意工程中には、カセット細孔径、膜間差圧、及び膜表面積1平方メートル当たりの清澄化抽出液の注入量を含む因子を制御する。いくつかの実施形態では、この任意工程を完全に省略する。この後、次に清澄化抽出液を濃縮し、イオン交換クロマトグラフィー平衡化用緩衝液で洗浄する。この工程の実施方法の1例は、平衡化させたCapto Qイオン交換カラムに供給液を注入した後、平衡化用緩衝液で洗浄し、塩で溶出/ストリッピングする。その後、抗原画分を溶出液で採取し、コバルト固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)に備える。IMACを平衡化させ、供給液を注入した後、平衡化用緩衝液で洗浄し、溶出させる。溶出画分を希釈し、pHを確認した後、マルチモードセラミックハイドロキシアパタイト(CHT)クロマトグラフィーカラムに注入する。CHT樹脂を平衡化用緩衝液で平衡化させ、抗原を溶出させる。制御する因子としては、注入比、カラムベッド高、滞留時間及びクロマトグラフィー用緩衝液が挙げられる。最後に、抗原を濃縮し、生理食塩水緩衝液で透析濾過する。組換え抗原を滅菌濾過した後、保存する。
【0027】
更に、本願に開示する種々の実施形態に従い、H7rHAとTMV、H1N1(インフルエンザA/ミシガン)とTMV、H3N2(インフルエンザA/シンガポール)とTMV、及びTMVと2種類のB型インフルエンザウイルス(B/コロラド及びB/プーケット)を結合させるのに成功した。いくつかの実施形態において、タンパク質は、複数の実施形態及び代替実施形態に従ってウイルスと結合させてワクチンを作製した後に資源生物に送達して免疫応答を生じることが可能な任意種類の治療剤から構成される。従って、本願の開示は、ウイルス-抗原コンジュゲートを含む一連のウイルス-タンパク質コンジュゲートを含有する組成物を提供する。いくつかの実施形態において、選択されるウイルスはTMVであり、あるいは本願の教示により指定及び/又は指示される多数のウイルスのいずれかである。更に、いくつかの実施形態において、前記タンパク質は限定するものではないが、インフルエンザヘマグルチニン抗原(HA)等の抗原とすることができ、限定するものではないが、本段落に記載したものが挙げられる。いくつかの実施形態において、HAは少なくとも約50%の三量体形成を示す。HAは生体が産生する特定の抗体により認識される傾向があり、種々のインフルエンザ感染症に対する主要な防御手段となるので、臨床的に重要である。HA抗原性、従って、HA免疫原性は立体構造と相関するので、免疫応答誘発の点でHA三量化は単量体よりも有利であることが知られている。
【0028】
いくつかの実施形態では、精製した抗原とウイルスを濃縮し、微酸性緩衝液で透析濾過することにより結合が開始する。その後、モル濃度に基づいて抗原とウイルスを合一し、混合する。モル濃度に基づいて混合しながら、新たに調製した1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(別称EDC)等の水溶性カルボジイミドを混合物に加える。次に、カルボキシル基をアミン反応性N-ヒドロキシスルホスクシンイミドエステルに変換するための化学試薬(例えばThermoFisher社のスルホNHS)をモル濃度に基づいて加える。予定の停止時点まで反応を続ける。その後、1例としてアミン基(例えば遊離アミンを含有する液体)の添加により反応を停止し、反応を促進するために使用した化学リンカー(例えばEDC、スルホNHS)をマルチモードクロマトグラフィー工程又は透析濾過により除去した後、混合物を目標濃度まで希釈する。いくつかの実施形態では、タンパク質及び抗原で修飾されたこれらの結合・精製ウイルス粒子をワクチン及び/又は診断ツールに使用することができる。これらの粒子は宿主生体内で抗原を追跡することができるため、診断ツールとして使用することができる。
【0029】
いくつかの実施形態では、本願に開示する種々の実施形態以外に、遺伝子融合により精製ウイルス-抗原融合体を得ることができる。抗原と(コートの内側に配置された)ウイルス構造タンパク質は1本の連続したオープンリーディングフレームを形成する。いくつかの実施形態において、オープンリーディングフレームはコートタンパク質がウイルス粒子に自己集合するように植物体内で抗原-コートタンパク質を産生する。次に、本願に開示する実施形態に従って植物材料を採取し、ウイルス粒子を精製する。その後、本願に開示する種々の実施形態に従い、融合体-コートタンパク質で修飾されたウイルス粒子をワクチン及び/又は診断ツールとして使用することができる。
【0030】
ウイルスによっては(例えば非限定的な例として正二十面体ウイルスのように)特定のpH条件下で膨潤するものがあり、いくつかの実施形態では、この「膨潤」を結合に使用することができる。複数の実施形態及び代替実施形態に従い、ウイルス構造体を酸性pH条件下においてウイルスを「膨潤」させることにより、精製ウイルスを治療剤に結合させることができる。ウイルス構造体を中性pH条件で処理することにより、ウイルス構造体は弛緩し、ウイルスの五量体又は他の構造サブユニット間に空隙を形成する。次に、治療剤(例えば化学療法剤)を緩衝液に加え、弛緩したウイルス粒子内に拡散させる。pHを再び変化させることにより、ウイルス粒子は収縮して空隙構造を埋め、五量体又は構造サブユニットが緊密に詰まり、薬剤はウイルス粒子の内外に拡散できなくなる。次に、本願に開示する実施形態に従って植物材料を採取し、ウイルス粒子を精製し、治療剤を封入したウイルス粒子を薬物送達に使用する。
【0031】
従って、複数の実施形態及び代替実施形態は1種以上の高純度ウイルスの生産に関する。更に、複数の実施形態及び代替実施形態は組換え抗原の生産若しくは精製又はその両方に関する。更に、複数の実施形態及び代替実施形態はワクチン用としての精製抗原と精製ウイルスの結合に関する。本願の実施形態に従い、ウイルスの精製のみを実施してもよい。同様に、本願の実施形態に従い、組換え抗原の生産又は精製のみを実施してもよい。任意に、これらの複数の実施形態の種々の態様を組合せることもでき、実施形態の組合せとしては、これらの実施形態を実施する種々の方法のうちで特に、1種以上の資源生物から出発して1種以上のウイルスと1種以上の抗原を生産した後、このようなウイルスと抗原を精製し、その後、少なくとも1種の抗原と少なくとも1種のウイルスのコンジュゲートであるワクチンを形成する方法が挙げられる。
【0032】
本願に記載する図面と実施形態は本願に開示する複数の実施形態及び代替実施形態の複数の代替構造、態様及び特徴を例証するものであり、これらの実施形態及び代替実施形態の範囲を制限するものと解釈すべきではない。更に当然のことながら、本願に記載・提示する図面は縮尺通りではなく、実施形態は図示する厳密な構成、図解及び手段に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】複数の実施形態及び代替実施形態に従い、本開示の範囲に含まれる特定のウイルス精製プラットフォームにおける諸工程を示すフローチャートである。
【
図2】複数の実施形態及び代替実施形態に従う精製正二十面体アカクローバモザイクウイルスを示す。
【
図3】複数の実施形態及び代替実施形態に従う正二十面体アカクローバモザイクウイルスの精製のウエスタンブロット分析結果である。
【
図4】複数の実施形態及び代替実施形態に従う精製正二十面体アカクローバモザイクウイルスを示す。
【
図5】複数の実施形態及び代替実施形態に従う正二十面体アカクローバモザイクウイルスの精製のウエスタンブロット分析結果である。
【
図6】複数の実施形態及び代替実施形態に従う精製棒状タバコモザイクイルスを示す。
【
図7】複数の実施形態及び代替実施形態に従う棒状タバコモザイクイルスの精製のウエスタンブロット分析結果である。
【
図8】複数の実施形態及び代替実施形態に従う抗原製造プラットフォームの諸工程を示すフローチャートである。
【
図9】複数の実施形態及び代替実施形態に従う抗原製造プラットフォームの諸工程のいくつかのウエスタンブロット分析結果である。
【
図10】複数の実施形態及び代替実施形態に従う抗原製造プラットフォームの諸工程のいくつかのウエスタンブロット分析結果である。
【
図11】複数の実施形態及び代替実施形態に従う抗原製造プラットフォームの諸工程のいくつかのウエスタンブロット分析結果である。
【
図12】複数の実施形態及び代替実施形態に従う抗原製造プラットフォームによる種々の抗原の精製のウエスタンブロット分析結果である。
【
図13】複数の実施形態及び代替実施形態に従う組換え抗原とウイルスの結合の模式図である。
【
図14】複数の実施形態及び代替実施形態に従う抗原とウイルスの結合のSDS-PAGE分析結果である。
【
図15】複数の実施形態及び代替実施形態に従う抗原とウイルスの結合のSDS-PAGE分析結果である。
【
図16】複数の実施形態及び代替実施形態に従う抗原とウイルスの結合のSDS-PAGE分析結果である。
【
図17】複数の実施形態及び代替実施形態に従う遊離TMV産物のサイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SEC-HPLC)の結果である。
【
図18】複数の実施形態及び代替実施形態に従い、ウイルスと抗原を15分間結合させた場合のSEC-HPLCの結果である。
【
図19】複数の実施形態及び代替実施形態に従い、ウイルスと抗原を2時間結合させた場合のSEC-HPLCの結果である。
【
図20】複数の実施形態及び代替実施形態に従うウイルスと抗原の結合のウエスタンブロット分析結果である。
【
図21】複数の実施形態及び代替実施形態に従い、種々のレベルのUV照射で処理したウイルスの感染性を示すグラフである。
【
図22】複数の実施形態及び代替実施形態に従う組換え抗原とウイルスの結合プラットフォームの諸工程のいくつかの模式図である。
【
図23】複数の実施形態及び代替実施形態に従う抗原とウイルスの結合のSDS-PAGE分析結果である。
【
図24】複数の実施形態及び代替実施形態に従う組換え抗原のネガティブ染色透過型電子顕微鏡(TEM)画像である。
【
図25】複数の実施形態及び代替実施形態に従うウイルスのネガティブ染色TEM画像である。
【
図26】複数の実施形態及び代替実施形態に従い、組換え抗原を別の組換え抗原と結合させてウイルスを加えた場合のネガティブ染色TEM画像である。
【
図27】複数の実施形態及び代替実施形態に従い、1:1のウイルス対組換え抗原比で組換え抗原をウイルスと結合させた場合のネガティブ染色TEM画像である。
【
図28】複数の実施形態及び代替実施形態に従い、1:1のウイルス対組換え抗原比で組換え抗原をウイルスと結合させた場合のネガティブ染色TEM画像である。
【
図29】複数の実施形態及び代替実施形態に従い、4:1のウイルス対組換え抗原比で組換え抗原をウイルスと結合させた場合のネガティブ染色TEM画像である。
【
図30】複数の実施形態及び代替実施形態に従い、16:1のウイルス対組換え抗原比で組換え抗原をウイルスと結合させた場合のネガティブ染色TEM画像である。
【
図31】複数の実施形態及び代替実施形態に従う抗原の正規化沈降係数分布である。
【
図32】複数の実施形態及び代替実施形態に従うウイルスの正規化沈降係数分布である。
【
図33】複数の実施形態及び代替実施形態に従い、1:1のウイルス対組換え抗原比で組換え抗原をウイルスと結合させた場合の正規化沈降係数分布である。
【
図34】複数の実施形態及び代替実施形態に従い、1:1のウイルス対組換え抗原比で組換え抗原をウイルスと結合させた場合の正規化沈降係数分布である。
【
図35】複数の実施形態及び代替実施形態に従い、1:1のウイルス対組換え抗原比で組換え抗原をウイルスと結合させた場合の正規化沈降係数分布である。
【
図36】複数の実施形態及び代替実施形態に従い、4:1のウイルス対組換え抗原比で組換え抗原をウイルスと結合させた場合の正規化沈降係数分布である。
【
図37】複数の実施形態及び代替実施形態に従い、16:1のウイルス対組換え抗原比で組換え抗原をウイルスと結合させた場合の正規化沈降係数分布である。
【
図38】複数の実施形態及び代替実施形態に従い、種々のウイルス対組換え体比のウイルス-抗原産物を投与後の資源生物における抗原関連力価の散布図である。
【
図39】複数の実施形態及び代替実施形態に従い、種々のウイルス対組換え体比のウイルス-抗原産物を投与後の資源生物における抗原関連力価を示す幾何平均試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
複数の実施形態及び代替実施形態
本願に記載する複数の実施形態及び代替実施形態に従うマルチセット法は上流精製プロセスを改善し、植物ウイルスを更に高濃度化し、ワクチンを形成するためにウイルスと抗原の結合を促進する。複数の実施形態及び代替実施形態に従ってウイルスを生産・精製するための諸工程を表1及び
図1に照らしながら列挙し、説明する。同様に、抗原を生産・精製するための諸工程を表2に照らしながら列挙し、説明する。種々のプラットフォームには以下に記載する特定の実施形態を含むが、本願に含まれる実施形態の範囲は特定のいずれか1種の実施形態に制限されない。
【0035】
ウイルス生産及び精製
表1及び
図1は複数の実施形態及び代替実施形態に従うウイルス精製プラットフォームの諸工程を示す。
【0036】
【0037】
この精製プラットフォームは商業的大規模化とcGMP規則に適合するように設計され、全精製工程を通して1種類の緩衝液を利用している。複数の実施形態及び代替実施形態によると、植物発現に関してウイルス精製プラットフォームの諸工程は以下の通りである。なお、以下に記載するような地上組織採取と細胞破砕後の工程は植物以外のウイルスにも適用される(但し、例えば植物繊維の除去のように、文脈が明白に植物に関する場合は除く)。
【0038】
本願に記載する複数の実施形態及び代替実施形態に従い、特定の宿主に適切な方法によりウイルス発現を行う。いくつかの実施形態では、改変型TMV発現ベクターを使用してウイルスによる植物宿主への遺伝子送達を行い、タバコ植物にウイルスを組換え形成させる。利用可能なこのような方法の1例は米国特許第7,939,318号、発明の名称「フレキシブルワクチンアセンブリ及びワクチン送達プラットフォーム(Flexible vactine assembly and vactine delivery platform)」に記載されているGENEWARE(R)プラットフォームである。同特許に記載されているこの植物による一過性発現プラットフォームは植物ウイルスであるTMVを利用し、短期間の接種後採取期間(例えば21日未満)で種々のウイルスを発現する植物タンパク質生産機序を活用している。ウイルス遺伝子を接種したタバコ植物は感染細胞で特定のウイルスを発現するので、採取時にこれらのウイルスを抽出する。接種方法としては、本願に記載する方法の使用者により選択される例として、手作業による葉面への接種、苗床への機械的接種、葉への高圧噴霧、又はバキュームインフィルトレーション法が挙げられる。
【0039】
ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)以外に、他の植物及び植物以外の宿主も本開示により想定され、発明の概要の欄に記載したものが挙げられる。GENEWARE(R)プラットフォーム以外に他のストラテジーを利用し、植物(非限定的な例としてイボウキクサ(Lemna gibba)又はコウキクサ(Lemna minor))及び植物以外の生物(非限定的な1例として藻類)に遺伝子を送達することもできる。これらの他のストラテジーとしては、トランスフェクトした植物体全身の多数の細胞にアグロバクテリウム(Agrobacterium)細菌ベクターによりウイルス遺伝子を導入する方法であるアグロインフィルトレーション法が挙げられる。別の方法はエレクトロポレーションであり、宿主の細胞膜に孔を開けて遺伝子を導入し、限定するものではないが、下記実施例1及び3に記載するもの等のウイルスと抗原を組換え生産する方法である。別の方法はTMVRNAによる過剰発現(TRBO)ベクターであり、John Lindbo,“TRBO:A High-Efficiency Tobacco Mosaic Virus RNA-Based Overexpression Vector,”Plant Physiol.Vol 145,2007に記載されているように、TMVコートタンパク質遺伝子配列をもたない35Sプロモーター駆動型TMVレプリコンを利用する方法である。
【0040】
いくつかの実施形態では、制御下の栽培室でベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)野生型植物の栽培を行う。潅水、光周期及び施肥周期により植物栽培を制御する。無土壌培地で植物を栽培し、全工程を通して温度を制御する。
【0041】
適切な播種後日数(DPS)、例えば23~25DPS後に植物に感染させてウイルスを複製する。感染後、植物に潅水のみを行い、ウイルスの種類に応じて特定の感染後日数(DPI)の間、光周期と温度により制御する。
【0042】
植物を高さ、感染症状について検査し、地上組織を採取する。
【0043】
ウイルス回収/細胞破砕工程では、最適な刃/スクリーンサイズをもつように構成されたディスインテグレーターで処理した後に、残留セルロース植物繊維を(例えば、1例としてスクリュープレスにより)水性液体から除去する。
【0044】
得られた抽出液に適切な抽出用緩衝液を1:1の緩衝液対組織比で加える(例えば200mM酢酸ナトリウム,pH5.0;非限定的な1例として
図1の工程201)。クロロフィルと大きな細胞破片をパイロット規模で除去するには、タンジェンシャルフロー(TFF)セラミック濾過(1.4ミクロン/5.0ミクロン)を使用する。ウイルスがセラミックを通過できるように、膜間差圧、セラミック細孔径及び膜表面積1平方メートル当たりのバイオマス注入量を全て制御する。いくつかの実施形態では、得られる膜間差圧が約1.5~2バールTMPの範囲となるように、供給液圧力、保持液圧力及び透過液圧力を設定・制御する。
【0045】
ガラス繊維深層濾過の使用によりセラミック透過液を更に清澄化する(非限定的な1例として
図1の工程203)。
【0046】
清澄化した抽出液をTFFシステム(Sartorius社市販品)で濃縮する。カセット細孔径(100~300kDa)、本願に記載するような適切なTMP、及び膜表面積1平方メートル当たりの清澄化抽出液の注入量を制御する。
【0047】
清澄化した抽出液をイオン交換カラム体積の2倍以下まで濃縮し、イオン交換クロマトグラフィー平衡化用緩衝液で7回洗浄する(200mM酢酸ナトリウム,pH5.0、非限定的な1例として
図1の工程204)。Capto Qイオン交換カラムを5カラム体積の200mM酢酸ナトリウム,pH5.0で平衡化させ(非限定的な1例として
図1の工程205)、供給液を注入し、素通り画分で採取する。カラムをベースラインまで洗浄し、宿主細胞夾雑物を高塩濃度処理によりカラムからストリッピングする。
【0048】
素通り画分と洗浄画分を採取し、合一し、マルチモードCapto(R)Core 700クロマトグラフィーに備える。マルチモードクロマトグラフィーカラムを5カラム体積の平衡化用緩衝液で平衡化させる(200mM酢酸ナトリウム,pH5.0;非限定的な1例として
図1の工程206)。
【0049】
Capto Qイオン交換クロマトグラフィーからの素通り画分と洗浄画分を合一してカラムに注入し、ウイルスをカラムのボイドボリュームで採取する。カラムをベースラインまで洗浄し、高導電率水酸化ナトリウムでストリッピングする。注入比、カラムベッド高、滞留時間及びクロマトグラフィー用緩衝液を全て制御する。いくつかの実施形態では、TFFシステム(例えばSartorius社システム)を用いてウイルスの調液と濃縮(工程208、
図2)を行う。細孔径(30~300kDa)、本願に記載するような適切なTMP、膜表面積1平方メートル当たりの注入量及び細孔材料を全て制御する。ウイルスを10mg/ml等の適切な濃度まで濃縮し、いくつかの実施形態では、リン酸ナトリウム等の適切な緩衝液で透析濾過する。調液したウイルスを適宜滅菌・保存する。いくつかの実施形態では、PESフィルターにより滅菌を行う。
【実施例0050】
本願に記載する全実施例はウイルス生産、ウイルス精製、抗原生産、抗原精製、及びウイルス-抗原結合のいずれか又は全部の複数の実施形態及び代替実施形態の種々の態様を例証するものである。これらの実施例は非限定的であり、本願の複数の代替実施形態の特徴を示すものに過ぎない。
【0051】
[実施例1]正二十面体アカクローバモザイクウイルスの精製
混合物中の種々のタンパク質を検出するための公知技術として
図3に示すウエスタンブロットの結果は、
図2に示す正二十面体アカクローバモザイクウイルスの精製に成功したことを示す。同様に、
図5のウエスタンブロットの結果は
図4に示す正二十面体アカクローバモザイクウイルスの精製に成功したことを示す。どちらのウイルスも本願に記載する実施形態に従って精製した。公知検出技術に従い、組織から標的タンパク質を抽出した。次に、タンパク質の等電点、分子量、電荷又はこれらの因子の種々の組み合わせに基づくゲル電気泳動を使用して試料のタンパク質を分離した。次に、試料をゲルの種々のレーンに注入し、1レーンは「ラダー」とし、規定分子量の公知タンパク質の混合物を加えた。例えば、
図3ではレーン12をラダーとする。次にゲルに電圧を印可し、上記因子に基づく異なる速度で種々のタンパク質をゲル内に泳動させた。夫々
図3及び5に示すように、各レーン内で種々のタンパク質の可視バンドへの分離が生じた。ウエスタンブロットでは、物質の純度が高いほど明白な可視バンドとして現れるが、これらの図面ではこの特徴が認められる。
【0052】
図3及び5はウイルス精製プラットフォームが正二十面体アカクローバモザイクウイルスの精製に成功したことを示す。ウエスタンブロットの各レーンはウイルス精製プラットフォームにおける異なる工程の完了後のウイルスの純度を示す。
図3中、レーンは以下の通りである。レーン1-抽出液、レーン2-TFFセラミック清澄化保持液、レーン3-TFFセラミック清澄化透過液、レーン4-TFFカセット保持液、レーン5-TFFカセット透過液、レーン6-イオン交換、レーン7-イオン交換、レーン8-マルチモード、レーン9-マルチモード、レーン10-30K TFF透過液、レーン11-30K保持液、レーン12-マーカー。
図5中、ウエスタンブロットのレーンは以下の通りである。レーン1-抽出液、レーン3-TFFセラミック清澄化保持液、レーン5-TFFセラミック清澄化透過液、レーン7-TFFカセット保持液、レーン9-TFFカセット透過液、レーン11-イオン交換、レーン13-マルチモード、及びレーン14-マーカー。
【0053】
ウイルス精製プラットフォームで最終工程が行われた後、得られたウイルス産物は
図3のレーン11及び
図5のレーン13に可視バンドに示されるように、高度に精製されている。
【0054】
[実施例2]棒状TMVの精製
図6は本願に開示する複数の実施形態及び代替実施形態の範囲内における精製棒状TMVを示し、
図7はこの精製TMVを得るのに使用したウイルス精製プラットフォームを示す。
図3及び5と同様に、
図7は本ウイルス精製プラットフォームの種々の工程の完了後のウイルス産物の純度を示す。最終精製工程後に、得られた産物は
図7のレーン13における明白な可視バンドに一致する高純度ウイルス産物である。
【0055】
従って、本発明のウイルス精製プラットフォームは、正二十面体ウイルスと棒状ウイルスの両者を含め、本発明者らがこれらの方法を適用した全てのウイルスを精製するのに成功し、このプラットフォームは再現性があり、(全種ではないとしても)ほぼあらゆる種類のウイルスを商業的規模で安定的に精製できると予想される。
【0056】
組換え抗原の生産及び精製
表2及び
図8は複数の実施形態及び代替実施形態に従う抗原精製プラットフォームの諸工程を示す。
【0057】
【0058】
この精製プラットフォームは商業的大規模化とcGMP規則に適合するように設計され、全精製工程を通して1種類の緩衝液を利用している。複数の実施形態及び代替実施形態によると、抗原精製プラットフォームの諸工程は以下の通りである。
【0059】
制御下の栽培室でベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)野生型植物の栽培を行う。潅水、光周期及び施肥周期により植物栽培を制御する。無土壌培地で植物を栽培し、全工程を通して温度を制御する。適切なDPS日数、例えば23~25DPS後に植物に感染させ、選択した抗原のタンパク質を複製する。タグ付けされると、タンパク質はトランスジェニック植物細胞のERに保持されるために十分となる。感染後、植物に潅水のみを行い、抗原の種類に応じて7~14日間等の適切な感染後日数の間、光周期と温度により制御する。植物を高さと感染症状について検査し、地上組織を採取する。
【0060】
植物により生産された抗原の回収工程では、最適な刃/スクリーンサイズをもつように構成されたディスインテグレーターで処理した後に、残留セルロース植物繊維を(例えば、1例としてスクリュープレスにより)水性液体から除去する。
【0061】
得られた抽出液に適切な抽出用緩衝液を1:1の緩衝液対組織比又は2:1の緩衝液対組織比等の適切な比で加える。いくつかの実施形態において、抽出用緩衝液は50~100mMリン酸ナトリウム+2mM EDTA+250mM NaCl+0.1% Tween80,pH8.5とすることができる。クロロフィルと大きな細胞破片を除去するには、濾過を使用する。Celpure300を33g/Lの比で加え、15分間混合する。抗原が通過できるように、供給液圧力(<30 PSI)、濾液透過細孔径(0.3ミクロン)、清澄化剤(Celpure300)及び膜表面積1平方メートル当たりのバイオマス注入量を全て制御する。
【0062】
清澄化した抽出液をTFFシステム(例えばSartorius社システム)で濃縮する。いくつかの実施形態では、カセット細孔径(例えば30kDa)、本願に記載するような適切なTMP、及び膜表面積1平方メートル当たりの清澄化抽出液の注入量を制御する。
【0063】
清澄化した抽出液を濃縮し、適切なイオン交換クロマトグラフィー平衡化用緩衝液(例えば50mMリン酸ナトリウム+75mM NaCl,pH6.5)で7回洗浄する。Capto Qイオン交換カラムを5カラム体積の50mMリン酸ナトリウム+75mM NaCl,pH6.5で平衡化させ、供給液を注入し、平衡化用緩衝液で洗浄し、高塩濃度処理によりカラムを溶出/ストリッピングする。
【0064】
抗原画分を溶出液で採取し、コバルトIMACクロマトグラフィーに備える。IMACを5カラム体積の50mMリン酸ナトリウム+500mM塩化ナトリウム,pH8.0で平衡化させ、供給液を注入し、平衡化用緩衝液で洗浄し、イミダゾールを使用して溶出させる。
【0065】
溶出画分を導電率に照らして希釈し、pHを確認し、マルチモードセラミックハイドロキシアパタイト(CHT)クロマトグラフィーカラムに注入する。CHT樹脂を5カラム体積の平衡化用緩衝液(5mMリン酸ナトリウム,pH6.5)で平衡化させる。リン酸塩とNaClのグラジエントを使用して抗原を溶出させる。注入比、カラムベッド高、滞留時間及びクロマトグラフィー用緩衝液を全て制御する。TFFシステム(例えばSartorius社システム)を使用して抗原の調液と濃縮を行う。本願に更に詳細に説明するように、細孔径(kDa)、TMP、膜表面積1平方メートル当たりの注入量及び細孔材料を全て制御する。
【0066】
次に抗原を3mg/ml等の適切な濃度まで濃縮し、適切な緩衝液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水,pH7.4)で透析濾過する。調液した抗原を適宜滅菌・保存する。いくつかの実施形態では、PESフィルターにより滅菌を行う。
【0067】
図9、10及び11は複数の実施形態及び代替実施形態に従う抗原精製プラットフォームの種々の工程を示す。
図9はCapto Qクロマトグラフィー工程完了後の抗原産物の純度を示し、
図10はアフィニティークロマトグラフィー工程後の抗原産物の純度を示し、
図11はCHTクロマトグラフィーカラム後の純度を示す。
【0068】
[実施例3、4、5及び6]H5rHA、H7rhA、WNVrDIII及びLFVrGP1/2
図12に示すように、複数の実施形態及び代替実施形態に従う抗原精製プラットフォームはH5rHA、H7rhA、WNVrDIII、及びLFVrGP1/2を精製するのに成功した。
図12は抗原精製プラットフォームの結果から撮影した2種類の画像を含み、左側の画像はウイルスベクターTMVNtK(なお、NtKはN末端リジンの省略である。)とインフルエンザ抗原の純度を示すSDSPageゲルを含み、右側の画像はウエストナイル(West Nile)抗原とラッサ熱(Lassa Fever)抗原の免疫反応性を示すウエスタンブロットを含む。
図12に明白な可視バンドにより示されるように、各抗原産物は高純度である。従って、複数の実施形態及び代替実施形態に従う抗原精製プラットフォームは、各種抗原を使用した商業的規模において、cGMP規則に適合するように同抗原を安定的に精製することができた。同様に、このプラットフォームは(全種ではないとしても)ほぼあらゆる種類の抗原を再現可能に精製できると予想される。
【0069】
組換え抗原-ウイルスコンジュゲートの生産
表3は複数の実施形態及び代替実施形態に従う組換え抗原の結合の諸工程を示す。
【0070】
【0071】
1実施形態において、結合プラットフォームの諸工程は以下の通りである。
【0072】
精製した抗原とウイルスを別々に濃縮し、NaClを添加した2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)緩衝液等の微酸性緩衝液で透析濾過する。
【0073】
1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(別称EDC)等の水溶性カルボジイミドを精製水で0.5Mのモル濃度に調液する。
【0074】
カルボキシル基をアミン反応性N-ヒドロキシスルホスクシンイミドエステルに変換するための化学試薬(例えばThermoFisher社のスルホNHS)を精製水で0.1Mのモル濃度に調液する。
【0075】
重量又はモル濃度に基づいて抗原とウイルスを合一し、均一になるまで混合する(例えば1:1mg:mg添加)。
【0076】
モル濃度に基づいて混合しながら、新たに調製した水溶性カルボジイミド(例えばEDC)を混合物に加える。
【0077】
EDC添加から1分以内に、カルボキシル基をアミン反応性エステルに変換するための化学試薬(例えばスルホNHS)をモル濃度に基づいて加える。結合反応が開始し、4時間等の所定の混合停止時点まで反応を続け、室温を制御する。
【0078】
遊離アミンの添加により反応を停止し、Capto(R)Core 700等のマルチモードクロマトグラフィー工程又はリン酸緩衝生理食塩水での透析濾過により化学リンカー(例えばEDCとスルホNHS)を除去する。複数の実施形態及び代替実施形態に従い、保持物としての不純物と透過物としてのコンジュゲート混合物のサイズ差に基づいてコンジュゲート混合物から残留不純物を除去する。
【0079】
コンジュゲート混合物を目標濃度まで希釈する。この時点で、精製ワクチン/原薬として使用するためのウイルス-抗原コンジュゲートが製造される。前記ワクチンの適切な送達メカニズムとしては、液体バイアル又は計画注射用に生理的緩衝液で再構成する凍結乾燥剤が挙げられる。注射は筋肉内又は皮下経路とすることができる。他の送達方法も考えられ、限定するものではないが、鼻腔内投与が挙げられる。
【0080】
[実施例7]H7rhAとTMVの結合
図13は組換え抗原(「ワクチン抗原」と表示)とウイルスの結合の模式図であり、濃淡楕円が本実施例に記載するワクチン抗原の結合の程度を表す。色が薄い部分は遊離ウイルスに相当し、濃い部分はウイルスのタンパク質コートに結合した抗原に相当する。また、
図13に示すように、ウイルスにはRNAゲノムの周囲にコートタンパク質が配置されているものがある。例えば、ウイルスベクターTMVNtKはコートタンパク質との結合点として機能するN末端リジンを含む。いくつかの実施形態では、N末端リジン残基と結合したウイルスの部分を修飾し、組換え抗原の結合のために提示を強化し、タンパク質、例えば抗原とウイルスのアミン標的結合を可能にする。本願における半径測定の記述との関連では、組換え抗原をウイルスコートタンパク質と結合させた後にウイルス半径は著しく増加する。いくつかの実施形態では、ウイルスの残基の提示を強化するようにエンベロープウイルスを改変させるときに修飾を行う。
【0081】
図14~20に示すように、組換え抗原とウイルスの結合プラットフォームはH7rHAをTMVと結合させるのに成功した。
図14~16はpH5.50でH7rHAをTMVと結合させた場合のドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(「SDS-PAGE」)による分析結果を示す。これらの図面に示すように、2時間以内にH7rHAのほぼ全部をTMVと結合させた。rHAタンパク質バンドの消滅と同時に200KDaマーカーよりも上で染色する複合体が出現したことから、複合体が形成されたと判断される。これらのバンドとHA特異的抗体の反応性はこの推論を更に裏付けるものである。
【0082】
SEC-HPLCの結果も、結合プラットフォームの本実施形態に従ってH7rHAをTMVと結合させるのに成功したことを示した。
図17は遊離TMV産物のSEC-HPLCの結果を示す。
図17中、遊離TMV産物のSEC-HPLCの結果は下表4に詳述するシグナルデータを生じた。
【0083】
【0084】
図18は結合プラットフォームの本実施形態に従ってH7rHAをTMVと15分間結合させた後のSEC-HPLCの結果を示す。
図18中、H7rHAをTMVと15分間結合させた後のSEC-HPLCの結果は表5に詳述するシグナルデータを生じた。
【0085】
【0086】
図19は結合プラットフォームの本実施形態に従ってH7rHAをTMVと2時間結合させた後のSEC-HPLC結果を示す。
図19中、結合プラットフォームの本実施形態に従ってH7rHAをTMVと2時間結合させた後に取得したSEC-HPLCの結果は下表6に詳述するシグナルデータを生じた。
【0087】
【0088】
図19及び20に示すように、SEC-HPLCの結果によると、15分間結合後に全TMVロッドはH7rhAである程度被覆されていると判断されたので、更にH7rhAをロッドに2時間まで加えた。2時間後に、それ以上の結合は検出されなかった。複数の実施形態及び代替実施形態によると、SEC-HPLCの結果から判断されるように、結合反応は未結合の天然分子量のウイルスコートタンパク質を少なくとも約50%減少させるのに成功し、結合を4時間行った後に残留している遊離TMVは約3%であった。
【0089】
図20に示すように、コンジュゲート産物のウエスタンブロット分析結果によると、共有結合によりH7rhAをTMVと結合させるのに成功した。
図20は本実施形態に従う結合プラットフォームの種々の工程のウエスタンブロット分析結果を示し、全試料は10μLを注入した。各レーンは抗原とウイルスの種々の結合反応時間を示す。レーン14及び13は15分後にTMVロッドが抗原で被覆されていることを示す。レーン6~9は2時間後にそれ以上結合が生じなかったことを示す。
【0090】
[実施例8]TMVNtKの紫外線不活化
バイオ医薬品のウイルス汚染を避けるために、多くの場合には、ウイルスが非感染性となるようにウイルスを不活化(又は滅菌)することが必要である。更に、多くの規制機関はウイルス産物の精製プロセスに少なくとも1種の有効な不活化工程が必要であるという規則(例えばcGMP規則)を定めている。水処理システムでは長年UV-C照射が使用されているが、バイオ医薬品でのその使用については検討されておらず、ウイルスを有効に不活化できるかどうかについての研究は乏しい。
【0091】
そこで、ウイルスを生産・精製後で組換え抗原と結合させる前に、TMVNtKを有効に不活化・滅菌するために、種々のUV-C条件(即ちエネルギー密度と波長)と種々のTMV濃度を評価した。多数のエネルギー密度を試験したが、TMVNtKを不活化させるのに成功したのは高レベルのエネルギー密度のみであった。更に、TMV溶液を適切な濃度まで希釈しなかった場合には、UV-C照射により試料中の全ウイルスを有効に滅菌できなかったため、ウイルス不活化の成功は濃度に依存することが判明した。従って、UV-C照射が各ウイルスと相互作用して有効に不活化できるようにするためには、TMV溶液を適切に希釈する必要がある。
【0092】
図21に示すように、種々の量のUV-C照射(エネルギー密度300J/m
2~2400J/m
2)をタバコ(Nicotiana tabacum)植物で試験し、感染性を評価した。
図21に示すように、2400J/m
2のUV-Cエネルギー照射後に病変はゼロまで減少したため、ウイルスの不活化に成功したと判断された。更に、著しく高レベルのエネルギー照射も試験した処、4800J/m
2~5142J/m
2のエネルギー密度でもTMVNtKの不活化に成功することが判明した。
【0093】
複数の実施形態及び代替実施形態によると、(精製後で結合前の)ウイルス不活化の諸工程は以下の通りである。
【0094】
(試料を波長260nmのUV光に曝露し、試料を通過する光の量を測定することにより核酸を定量する一般的な方法である)A260により測定した場合に濃度が50μg/ml未満になるまでTMVNtK溶液を希釈する。
【0095】
TMV溶液を0.45ミクロンフィルターで濾過し、細菌とUV光路を妨げるような他の大きな種類の粒子を除去する。
【0096】
ウイルスをエネルギー密度約2400J/m2~約5142J/m2のUVスペクトルの光に曝露することによりTMVNtKを不活化させる。いくつかの実施形態において、UV光のエネルギー密度は約4800J/m2~約5142J/m2とする。複数の実施形態及び代替実施形態によると、UV光の波長は254nmである。
【0097】
次に、不活化させたTMVNtKは組換え抗原と結合させる準備が整う。
【0098】
これらのウイルス不活化工程は商業的大規模化とcGMP規則に適合するように設計されている。
【0099】
[実施例9]結合のpH依存性
酸性pHでウイルスをインキュベーションすることにより高品質の結合が得られるか否かを評価するために、ウイルスの調液のみを変更した以外は同一バッチのウイルス、抗原、緩衝液及びエステルを使用して実験を行った。反応1では、複数の実施形態及び代替実施形態に従い、pH5.50の1×MES結合用緩衝液で3.1mg/mlの濃度にTMVを調液した。反応2では、TMVをリン酸緩衝液で11.0mg/mlまで濃縮し、結合反応体積の15%として直接加えた。これらの工程後、結合過程をSECによりモニターし、遊離TMVがゼロ分(T=0により示す)から規則的に減少しているならば結合に成功したとみなした。
【0100】
表7及び8に示すように、反応1は(ゼロ分から遊離TMVが規則的に減少したため)結合の成功を示したが、反応2は残留遊離TMVの百分率から分かるように不成功であった。
【0101】
【0102】
【0103】
従って、表7に示すように、ウイルスを酸性pHでインキュベーションすることにより、90%超の結合が得られる。酸性pHインキュベーション工程を行わない場合には、(表8に示すように)結合百分率は50%未満に止まる。
【0104】
この実験に基づき、(
図22に示す)結合モデルを開発した。複数の実施形態及び代替実施形態によると、ウイルスと抗原の会合の化学的な生じ易さを改善する(本願では「活性化させる」、「活性化」又は「活性化する」と言う)ことにより、精製ウイルスと精製抗原(
図22中、「rHA」で示す)の結合は著しく強化される。いくつかの実施形態では、結合反応前にウイルスを酸性pHで調液して正電荷をウイルス表面に凝集させることにより、ウイルス活性化を行う。いくつかの実施形態において、活性化工程は活性化に十分な時間をかけてウイルスを約5.5以下のpHに曝露する。いくつかの実施形態において、このような時間は約18~72時間である。複数の実施形態及び代替実施形態によると、精製ウイルスを酸性pHで処理し、コートタンパク質リジンを荷電させることによりウイルスを活性化させる。この活性化工程の結果、アミン基のクラスター化により(
図22に示すように)ウイルス表面に正電荷が凝集し、ウイルスは組換え抗原のカルボキシル末端と結合できるようになる。
【0105】
従来のアプローチでは、ウイルス保存時のpHを一般に中性pH又はその付近に維持するが、複数の実施形態及び代替実施形態に従うウイルス活性化工程はこれとは対照的である。
図22に示すように、従来のアプローチはウイルス表面に正電荷を凝集させず、その結果、結合百分率は50%未満に止まる(表8参照)。更に、従来のアプローチはリン酸緩衝液を利用しており、表面電荷を良好にすることを犠牲にして溶解度を促進している。
【0106】
TMVとの結合の成功を検討中に、動的光散乱法(Dynamic Light Scattering:DLS)により測定したウイルスの半径が活性化工程中に少なくとも2.75倍に増加するときに一般に結合が成功することが分かった(表9Aを表9Bと比較参照)。一般に、これらの表に示すように、(例えば表9Cに記載するような)TMV結合の成功はDLS半径が約70nmから約195nm以上に増加するという特徴があった。
【0107】
ウイルス活性化を利用した結合の成功に基づき、精製抗原を精製ウイルスと結合させるためのプラットフォームを開発した。複数の実施形態及び代替実施形態によると、精製抗原の結合準備工程は以下の通りである。
【0108】
結合反応のpH制御を確保するために、反応開始直前に精製抗原を反応用緩衝液で調液する。
【0109】
結合前に、精製抗原を中性~微塩基性pHのリン酸緩衝生理食塩水中に保存する。
【0110】
抗原pH目標値は分子の種類に応じて一般的にpH5.50~6.50とする。
【0111】
ウイルスとの結合を促進するために、限外濾過を使用して保存用緩衝液を酸性pHのMES/NaCl緩衝液に交換する。タンパク質濃度も3mg/mL超まで上げる。
【0112】
その後、タンパク質構造の不安定化を防ぐために、抗原準備完了から4時間以内に結合反応を開始する。
【0113】
複数の実施形態及び代替実施形態によると、精製ウイルスの結合準備工程は以下の通りである。
【0114】
中性pHで保存後、ウイルスを結合前に酸性pHで活性化させる。反応を成功させるために、結合反応開始前に最短約18時間~最長約72時間をかけてウイルスをpH7.4のリン酸緩衝液からpH5.50の酢酸緩衝液に交換して調液する。いくつかの実施形態では、結合反応開始前に最短約18時間~最長72時間をかけてウイルスをpH7.4のリン酸緩衝液からpH4.50の酢酸緩衝液に交換して調液する。72時間を超えてウイルスを酸性pHで保存すると、ウイルス間で自己会合が生じ、ウイルス不溶性の原因となり、結合効率が低下することが分かった。
【0115】
表9A及び9Bは更にDLSにより測定した場合のウイルス(この場合はTMV)の半径増加の観点から活性化工程を実証する。具体的には、表9Aは活性化後で結合成功が生じる前のTMVのDLS半径増加のデータを示し、右端の列に抗原名を記載する。「半径増加倍率」は活性化後のTMV半径を中性pHでの典型的なTMV半径である約70nmで割った値である。一方、表9Bは活性化工程開始後で結合試行不成功の前のTMVのDLS半径増加のデータを示し、右端の列に抗原名を記載する。表9A及び9B中、左端の列は中性pHで一般的な保存条件下、即ち活性化前のTMVロッドの標準半径を示す。
【0116】
【0117】
【0118】
これらの準備工程後に、抗原とウイルスの反応成分を混合し、DLS法とSDS-PAGE法を使用して結合経過をモニターした。表9Cは酸性pHを使用してウイルスを活性化させた後にDLSを使用して測定した結合反応の平均分子半径の経時変化を示す。表9Cに示すように、分子半径はウイルスロッドを抗原分子で被覆するのに成功したか否かを示す1つの指標である。
【0119】
【0120】
次に、
図23は複数の実施形態及び代替実施形態に従って活性化後のTMVNtKと精製抗原を結合させた場合のSDS-PAGEによる分析結果を示す。
図23に示すように、遊離TMVNtKと遊離抗原のいずれも経時的に規則的に減少すると共に、>200kDAのタンパク質バンドが出現したことから、結合に成功したと判断される。
【0121】
[実施例10]精製ウイルス対精製抗原の結合比を変化させたTEMイメージング
精製ウイルスと精製抗原の望ましい結合反応は下式により表される。
ウイルス + 抗原 → ウイルス-抗原 (式1)
しかし、抗原が自己結合し易く、下式に示すように、望ましい反応が得られないことは周知である。
ウイルス + 抗原 → ウイルス-抗原 + 抗原-抗原 (式2)
抗原-抗原コンジュゲートはサイズクロマトグラフィー工程中に除去されず、その結果、免疫応答が最小になるか又は低下するため、精製抗原の自己結合はワクチンの開発成功に問題となる。
【0122】
この自己結合の問題に対処するために、種々の実験を行い、未反応抗原と抗原コンジュゲートがどのように消費されるかを調べた。先ず、自己結合を抑制する試薬に抗原を曝露することにより抗原をキャッピングした。この従来のアプローチは成功すると予想されたが、反応時間が短か過ぎたため、このアプローチは失敗した。
【0123】
次に、ウイルス対抗原比を調節し、適切な結合比を調べた。表10及び11と
図24~30に示すように、7種類の異なる試料をネガティブ染色透過型電子顕微鏡(TEM)イメージングにより分析した。試料1~3は対照群とし、試料4~7は(表3の操作工程5に示すような結合プラットフォームの混合工程で)ヘマグルチニン(HA)対TMV比を変化させた。
【0124】
【0125】
【0126】
図24は倍率52,000倍及びスケールバー200nmで示した試料1(遊離HA、ロット19UL-SG-001)のTEM画像である。
図24では、この試料は小球状粒子(矢印Aで示す)と約5nm~約9nmの寸法の細長い粒子(矢印Bで示す)を含んでいた。これらの粒子の外観は規則的構造を示し、HAが天然三量体立体構造を維持しながら規則的に凝集していることを意味する。更に、これらの粒子は良好に分散しており、塊状化は最小限であった。
【0127】
図25は倍率52,000倍及びスケールバー200nmで示した試料2(TMVNtK単独、ロット18HA-NTK-001)のTEM画像である。
図25では、長さ約125nm~約700nm及び幅約18nm~約20.5nmの寸法の棒状粒子(矢印A)が認められた。これらの寸法はTMV粒子のサイズと形状に一致する。更に、ロッドの内部にはTMVの公知特徴である約4nmの中心内孔が認められた(矢印B)。複数のロッドが高頻度でその長軸に平行に整列されており、ロッドの表面はほぼ平滑であった。数例では、約8nm~約10nmの小球状粒子(矢印C)が認められ、ロッドの表面に結合しているものと、バックグラウンドで棒状粒子に結合していないものがあった。これらの球状粒子(矢印C)は個々のHA三量体と似ていなかった。
【0128】
図26は倍率52,000倍及びスケールバー200nmで示した試料3(HA:HAセルフコンジュゲートにTMVNtKを加えたもの、ロット19UL-SG-004)のTEM画像である。
図26では、長さ約25nm~約885nm及び幅約18nm~約20.5nmの棒状粒子(矢印A)と約4nmの中心内孔(矢印B)が認められた。ロッドは全く修飾されていないものと、種々のサイズと形状の小さいタンパク質粒子(矢印C)で低密度に修飾されているものがあった。バックグラウンドには、ロッドと結合していない多少の小さいタンパク質粒子も認められた(矢印D)。
図26はHA粒子のより大きな塊を示すが、予想通り、TMVは(
図25に示す)未結合のTMVと同一のようである。
【0129】
図27は倍率52,000倍及びスケールバー200nmで示した試料4(1:1比のTMV:HA、ロット18TAP-SG-002)のTEM画像である。
図27では、長さ約50nm~約1000nm超及び幅約18nm~約20.5nmの寸法の棒状粒子(矢印A)と、約4nmの中心内孔(矢印B)が認められた。粒子ロッドは、ロッドの大半がその表面を小さいタンパク質粒子で強く修飾されていた(矢印C)が、それ以外は
図28で認められた結合TMVと同様のサイズと形状であった。バックグラウンドには、ロッドと結合していない多少の小さいタンパク質粒子も認められた(矢印D)。
図27に示す試料5は他のTEM画像よりも優れているようであるが、これは結合前のウイルス処理の相違による可能性が非常に高い。このバッチについて、ウイルスをpH5.50で調液した後、15分間かけてpHを4.50まで下げ、結合反応の開始時にpH5.50に戻した。
図28~30に示すバッチについては、ウイルスを直接pH4.50で調液し、結合前に一晩維持した。
【0130】
図28は倍率52,000倍及びスケールバー200nmで示した試料5(1:1比のTMV:HA、ロット19UL-SG-001)のTEM画像である。
図28では、長さ約65nm~約720nm及び幅約18nm~約20.5nmの多数の棒状粒子(矢印A)と、約4nmの中心内孔(矢印B)が認められた。粒子ロッドはサイズと形状が
図25で認められた遊離TMVNtK(試料2)と似ていた。一方、
図25に示した未結合ウイルスとは対照的に、
図28で認められた粒子ロッドはタンパク質粒子で中程度に修飾されていた(矢印C)。これらの粒子は形状とサイズが不規則であり、ロッドの表面にランダムに結合しているようであり、明白なパターンは認められなかった。バックグラウンドには、ロッドと結合していない多少の小さいタンパク質粒子も認められた(矢印D)。
【0131】
図29は倍率52,000倍及びスケールバー200nmで示した試料6(4:1比のTMV:HA、ロット19UL-SG-002)のTEM画像である。
図29では、長さ約25nm~約1000nm超及び幅約18nm~約20.5nmの棒状粒子(矢印A)と、約4nmの中心内孔(矢印B)が認められた。
図29で認められた粒子ロッドは先述の結合試料と同様の寸法であったが、小さいタンパク質粒子(矢印C)による表面修飾レベルが中程度~低密度であった。バックグラウンドには、ロッドと結合していない多少の小さいタンパク質粒子も認められた(矢印D)。
【0132】
図30は倍率52,000倍及びスケールバー200nmで示した試料7(16:1比のTMV:HA、ロット19UL-SG-003)のTEM画像である。
図30では、長さ約30nm~約1000nm超及び幅約18nm~約20.5nmの棒状粒子(矢印A)と、約4nmの中心内孔(矢印B)が認められた。
図30で認められた粒子ロッドは先述の結合試料と全体的な形態が似ていた。一方、ロッドはタンパク質(矢印C)で低密度にしか修飾されていないか、又は全く修飾されていなかった。バックグラウンドには、ロッドと結合していないほんの僅かの小さいタンパク質粒子が認められた(矢印D)。
【0133】
図24~30から明らかなように、1:1比は完全なロッド修飾を示し、4:1比は中程度の修飾を示し、16:1比は低密度の修飾を示した。換言するならば、1:1比ではHA抗原で強く抗原修飾された(即ち高密度)ウイルスロッドが生成されたが、16:1比ではHA抗原による各ロッドの抗原修飾が少ない(即ち低密度)ウイルスロッドが生成された。主に1:1比の反応では、結合反応の副生物としてHA-HAセルフコンジュゲートが認められた。更に、TEM画像とSDS-PAGE反応分析(データは示さず)によると、1:1反応と比較して4:1反応では遊離HA又はHA-HAコンジュゲートが少なく、16:1反応では更に少ないようであった。換言するならば、1:1反応と比較して16:1比ではHAとTMVロッド全体との結合効率は高かったが、ロッド1本当たりのHAの密度は低かった。
【0134】
[実施例11]種々の結合条件の沈降速度分析
分析用超遠心機(「AUC」)で測定した沈降速度(「SV」)はタンパク質不均一性と凝集の会合状態に関する情報を得るための理想的な方法である。具体的には、沈降係数の差に基づいて凝集物又は種々のオリゴマーを検出することができる。この方法は1重量%未満の濃度の凝集物又は他の微量成分も検出する。更に、SVは成分種の相対量の高品質定量が可能であると共に、凝集物の正確な沈降係数も得られる。
【0135】
種々の結合条件下で自己結合した未反応のHAの量と、TMVNtKに結合したHAの量を測定するために、SV-AUCを使用して、遊離抗原、遊離ウイルス、及び種々のTMV:HA比の沈降に関連する総シグナルを測定した。試験した試料と組成を表12に示す。
【0136】
【0137】
これらのストックを(冷凍ではなく)冷蔵輸送後、分析時まで2~8℃で保存した。Corning社製品1×PBSを試料希釈用及び参照ブランクとして使用した。1×PBSで試料1を1:1に希釈し、試料2~7を1:3に希釈し、沈降速度試料を調製した。これらの希釈は試料の総吸光度が吸光度検出システムの直線範囲内に入るように実施した。
【0138】
方法。光路長12mmの2チャネルチャコールエポンセンターピースを含むセルに希釈試料を注入した。1×PBSを各セルの参照チャネルに注入した。注入済みのセルを分析用ローターにはめ込み、分析用超遠心機に挿入し、20℃に設定した。次にローターを3000rpmに設定し、試料を(280nmで)スキャンし、正しくセルに注入されていることを確認した。試料2~7については、ローターを9,000rpmの最終回転速度に設定した。このローター速度でできるだけ迅速(3分毎)に約11時間スキャンを記録した(各試料の合計スキャン数250)。試料1(遊離HA)については、ローターを35,000rpmに設定し、スキャンを4分毎に5.3時間記録した。次にSchuck,P.(2000),“Size-distribution analysis of macromolecules by sedimentation velocity ultracentrifugation and Lamm equation modeling,”Biophys.J.78,1606-1619に記載されているc(s)解析法を使用してデータを解析した。この方法を使用し、分解能を高めるためにデータに及ぼす拡散の影響をモデル化しながら、沈降係数分布を誘導するように粗スキャンを直接フィットさせた。
【0139】
結果及び考察。試料1~7の高分解能沈降係数分布を
図31~37に示す。これらの図面では、縦軸に濃度を示し、横軸に沈降係数に基づく分離挙動を示す。曲線下の総面積を1.0(100%)とすることにより各分布を正規化し、各ピーク下の面積が成分種の比率を表すようにした。試料2~7は広範囲の沈降係数で沈降する物質を含むことから、2000スベドベリ(Svedburg)単位(S)程度の高速で沈降する成分種に対応するようにデータ解析を進めたため、横軸は対数目盛である。対数目盛によりピークの可視面積が歪むのを補正するために、縦軸に沈降係数を乗じ、相対ピーク面積の目盛を正しくする。試料1(遊離HA)のデータは従来通りに直線沈降係数目盛で表す。
【0140】
図31は試料1(HA単独、ロット19S-G-001)の正規化沈降係数分布である。遊離抗原はウイルスよりも寸法が著しく小さいので、サイズ分布を適切に特性決定するためにこの試料は試料2~7(9,000RPM)よりも著しく速いローター速度(35,000rpm)で解析した。
図31に示すように、試料1はある程度均一であり、8.967Sで73.7%の主ピークを生じた。これはHA抗原単独試料に予想された結果であった。この沈降係数を主境界の幅と勘案すると、この主ピーク成分種は分子量約222kDaであると考えられ、主ピークは予想される約70kDa単量体のHA三量体にほぼ対応すると思われる。この沈降係数が単量体に対応するとは物理的に考えられず、主ピークは単量体よりも大きいオリゴマー状態に対応する。下表13に示すように、HA3シンガポール放出のSEC HPLCデータを見ると、HAの>90%が三量体状態で同定され、分析した試料4種のうちの3種は三量化が50%超である。
【0141】
【0142】
更に
図31に示すように、主ピークよりも速く沈降する7個の副次的なピークが検出され、合計すると、総沈降吸光度の6.2%に相当する。これらのうちの2個のピークは高分子量不純物ではなく、産物凝集物に相当すると思われる。12.4S(4.25%)の主凝集物種は単量体の1.4倍の速さで沈降しており、これは二量体に通常認められる1.4倍~1.5倍の範囲に該当する比である。この比から推測すると、この成分種は主ピーク物質の二量体(恐らく約70kDa単量体の六量体)であると思われるが、その沈降係数から推測すると、主ピーク物質の非常に長い三量体又は部分的に折り畳まれていない三量体(恐らく約70kDa単量体の九量体)であるとも考えられる。
【0143】
図31中、次の15.3S(0.96%)のピークは単量体の1.7倍の速さで沈降し、主ピーク物質の三量体であると考えられる。沈降係数が30.9S超では、吸収は検出されなかった。更に、主ピークよりもゆっくりと沈降する3個の副次的なピークも2.8S(2.81%)、4.5S(12.44%)、及び6.0S(4.94%)で検出された。これらの副次的なピークのうち、4.5Sのピークは抗原単量体に対応する可能性が最も高い。
【0144】
図32は試料2(遊離TMVNtK、ロット18HA-NTK-001)の正規化沈降係数分布である。
図32に示すように、約60S未満で沈降する物質は検出されなかった。この試料は非常に不均一なようであり、最大量のピークは229S(30.9%)で沈降した。2番目に量の多いピークは191S(28.7%)で検出された。どのピークが完全に結合したウイルスに対応するかは不明である。更に、総シグナルの25.3%は本実施例11で可能であった最大沈降係数である229S~2,000Sで沈降することが認められた。約60S~2000Sで部分的に分解したピークが何に相当するかは不明である。
【0145】
図33~37はウイルス-抗原コンジュゲートの正規化沈降係数分布を示す。これらの各図は沈降しなかった約0.15ODの顕著な吸収を示す。これは、残りの全物質をペレット化するために各回の試験の完了後にローター速度を35,000RPMまで上げることにより確認された。この物質は遊離抗原試料や遊離TMVNtK試料では認められなかった。しかし、この物質は沈降しなかったので、サイズ分布の測定結果に影響を与えなかった。
【0146】
図33は試料3(TMV対HA比1:1、ロット19UL-SG-004)の正規化沈降係数分布である。
図33に示すように、沈降係数の結果は約40S~2000Sであり、遊離ウイルスで認められた結果と同様である(
図33に示す)。1~40Sの沈降係数範囲で9.9S(28.3%)、18.7S(7.8%)、及び34.5S(1.0%)の3個のピークも認められた。9.9Sで認められたピークは(
図32に示した)遊離HA試料で認められた主ピークに対応すると思われる。種々の小さいピークはHA-HA自己結合イベントを反映していると思われる。
【0147】
図34は試料4(TMV対HA比1:1、ロット18TAP-SG-002)の正規化沈降係数分布であり、
図35は試料5(TMV対HA比1:1、ロット19UL-SG-001)の正規化沈降係数分布である。
図34及び35に示す結果は試料3について記載した(
図33に示した)結果と同様である。しかし、いくつかの顕著な相違点が認められた。第1に、遊離抗原試料で相違点(1~40S)が認められたが、このローター速度では分解能が低いため、これについて論じるのは難しい。一方、
図34及び35は(ウイルスと結合した物質を表す)40S~2,000Sに存在する総シグナルが試料3よりも多い。
【0148】
図36は試料6(TMV対HA比4:1、ロット19UL-SG-002)の正規化沈降係数分布であり、
図37は試料7(TMV対HA比16:1、ロット19UL-SG-003)の正規化沈降係数である。
図36はウイルスと結合した合計物質(即ちウイルス-抗原コンジュゲート)が91.1%であることを示し、
図37はウイルスと結合した物質(即ちウイルス-抗原コンジュゲート)が99.4%であることを示す。
【0149】
図33~37に示したようなウイルス-抗原正規化沈降係数分布の結果を表14にまとめる。上述したように、1~40Sの比率はHA単量体/三量体の百分率を表し、40~2000Sの比率は複数の実施形態及び代替実施形態に従うTMVNtK-HAコンジュゲートの百分率を示す。
【0150】
【0151】
表14の結果によると、1:1比は4:1比及び16:1比と比較してHA及びHA産物の自己結合度が高い。更に、TMV対HA比を増加すると、HA産物はTMV結合イベントに実質的に完全に寄与する(試料7ではほぼ100%の結合に近づく)。
【0152】
複数の実施形態及び代替実施形態に従い、TMVNtK対HA比を1:1から16:1に増加することにより結合反応におけるHAの量を減らすと、(1)実施例10及び
図24~30で認められるように、各TMVロッドへのHA抗原の凝集が減り、(2)
図31~37及び表14に示すように、自己結合の量と未反応HAイベントがほぼゼロまで減り、(3)
図31~37及び表14に示すように、自己結合及び未反応HAイベントと比較して(百分率としての)HAとTMVの結合が増加する。
【0153】
[実施例12]マウスにおける免疫応答
本発明のウイルス-抗原コンジュゲートの投与後の免疫応答を調べるために、ワクチンとしてのコンジュゲートを筋肉内注射によりマウスに投与した。各ワクチンは本願に記載するように1:1(TMV:HA)比で生産したTMV:HAコンジュゲートとし、動物の大半には試験の0日目と14日目に投与した(対照動物には緩衝液単独、TMV単独又はHA単独を投与した)。投与したこれらのワクチンには下表15に示すように抗原15μg(マイクログラム)、7.5μg、又は3.75μgを加えた。第1のコホートは7日目に試料を採取し、第2のコホートは14日目と21日目に採取し、第3のコホートは28日目と42日目と90日目に採取した後、試料を赤血球凝集抑制(HAI)アッセイに供した。
【0154】
このアッセイによると、7日目又は14日目にどのワクチンに対しても動物から測定可能な応答は全く生じなかった。しかし、21日目に若干の動物で初期応答が認められた。具体的には、27匹中10匹がH1N1ワクチン(インフルエンザA/ミシガン/45/2015(H1N1pdm09))に対して低レベルの応答(そのうち1匹のみが>80HAI力価)を示した。また、27匹中22匹がH3N2ワクチン(インフルエンザA/シンガポール/INFIMH-16-0019/2016)に対して低レベルの応答を示した(そのうち2匹のみが>80)。28日目に、このコホート内でH1N1ワクチンに対して測定可能に応答する動物数は29匹中8匹であり、そのうち1匹が80HAI力価であったが、その他はいずれもそれよりも低かった。H3N2ワクチンに対して測定可能な応答数は29匹中14匹であり、同様に1匹が80HAI力価であったが、その他はいずれもそれよりも低かった。
【0155】
42日目と90日目に採取した血液試料から最も顕著な結果が認められ、これを下表15に示す。同表には、平均値を標準誤差(SEM)と共に示し、更に応答動物数の割合(Fr.Resp.)を示す。なお、各コホートで一部のマウスにはB型インフルエンザウイルス(夫々B/コロラド/06/2017(V)及びB/プーケット/3073/2013(Y))のワクチンを接種した。B型インフルエンザウイルスと対応するHA免疫原はA型HA免疫原としての効率と有効性でマウスにHAI力価を生じないことが分かっているので、これらの動物ではいずれの試験日でも応答は検出されなかった。
【0156】
【0157】
上記免疫応答試験とは別に、適切なウイルス対抗原比について本発明のシステムを更に評価するために、下記のように対照と共にA型インフルエンザ抗原及びB型インフルエンザ抗原の両者を種々のTMV:HAコンジュゲート比(即ち1:1、4:1、16:1)でワクチン接種後に、マウスにおける液性免疫応答を評価した。こうして、種々の結合比と、免疫応答に及ぼすその影響について試験した。ワクチン接種したマウスの背部皮下領域に、試験の0日目と14日目にHA15μgを注射により投与した。その後、ワクチン接種に対する血清抗体応答をHA特異活性について分析した。表15(捕捉用タンパク質としてH3インフルエンザウイルスを使用)及び16(捕捉用タンパク質として組換えH3タンパク質を使用)はマウスのグループ分け(各グループ12匹)と、投与した物質を示し、各表の右端の列にELISA抗体(Ab)力価結果を示す。
【0158】
【0159】
図38は表16に関連する散布図であり、0、1:1、4:1、及び16:1(TMV:HA)の比でワクチン投与後のH3:HA抗体力価のグラフ解析を示す。
図39も同様に、コーティングとして組換えH3抗原(表17)又は抗A型インフルエンザH3抗原抗体と結合する捕捉用タンパク質として捕捉用H3ウイルス(表17)を使用した抗原関連抗体力価の幾何平均試験の結果をグラフにより示す。密度(TMVの表面積のうちでHAが占める割合)の点では、TEM及びAUC解析により実証されるように、3種類の比の傾向は1:1(最高密度)>4:1>16:1(最低密度)の順となる。H3抗原で得られたELISA結果を表すこれらの図では、最低密度のコンジュゲートで最高の免疫応答が認められた。即ち、免疫応答の傾向は16:1>4:1>1:1であり、密度の傾向とは逆であった。従って、これらのTMV:HA比では、結合密度が低いほど免疫応答が良好になる傾向があることが意外にも判明した。抗原性が最大HA結合イベントに相関しないというこの意外な結果について考えられる解釈としては、(1)密度が比較的低いときには、抗原の均一性度が高くなるにつれて未反応又は自己結合したタンパク質は減少~ゼロになる;(2)結合した抗原はより効率的にプロセシングされ、保存度/均一性の高い抗原立体構造となる;(3)(例えば)TMVロッドはより多くの抗原提示細胞を刺激して注射部位に移動させると共に、結合した抗原のプロセシングを刺激する、又はこれらの因子の組合せが挙げられる。なお、TMV粒子が存在するだけでは結合の必要性に代えられない(例えば、表14及び15参照)。
【0160】
A型インフルエンザH3抗原に加え、組換えB型インフルエンザプーケット抗原とその対応する抗体の結合性を使用してB型インフルエンザ抗原(B-プーケットHA)も試験した。下表17は試験のこの部分の結果を示し、平均ELISA抗体力価の結果によると、明白に16:1>4:1>1:1にはならないということが分かる。
【0161】
【0162】
そうではあっても、16:1比は最高の平均抗体力価を示した。従って、本発明者らは、B型インフルエンザ抗原(B-プーケットHA)の試験にも密度と免疫応答の同じ関係が当てはまると推測するのが妥当であると考える。即ち、H3抗原の結果と同様に、コンジュゲートの密度が低いほど免疫応答は高くなるであろう。更に、4:1比の結合反応は他の比の反応のようには進行しなかったが、これは結合中に異常があった可能性と、この試料では電子顕微鏡分析も超遠心分析も実施しなかったためであると考えるのが妥当である。いずれにせよ、この場合のデータは全3種類の比で免疫応答を示している。複数の比で免疫応答が得られたという事実は、特定の1種類の比に限らないというこのシステムの堅牢性を裏付けている。特定のTMVコンジュゲートワクチンに見られるこのフレキシビリティは、これらの試験で使用したH3及びH1抗原以外の他の抗原をTMVと結合させる場合であっても、また、TMV以外の他のウイルス担体を担体に使用する場合であっても、このシステムが良好に機能することを更に示唆するものであると考えられる。
【0163】
臨床有用性の点では、本願に記載する複数の実施形態及び代替実施形態のいずれかに従って結合させた産物は、精製ウイルスを介して精製抗原を送達することによりワクチンとして利用することができ、限定するものではないが、実施例7、9、10、11及び12に記載したウイルス-抗原コンジュゲートが挙げられる。更に、本開示の実施形態としては、本願に記載するように結合させたいずれかのウイルス-タンパク質コンジュゲート組成物から製造され、適切な緩衝液及び添加剤と共に多数の形態(例えばバイアル)でパッケージングされたあらゆるワクチン産物が挙げられる。この点に関して、実施形態としては、ヒト又は動物患者に提供される単位用量形態でこのようなワクチン産物を送達することが可能な実施形態が挙げられ、限定するものではないが、シリンジ又はスプレーによる投与が可能であり、投与経路としては、限定するものではないが、皮下、筋肉内、皮内投与及び鼻腔内に加え、経口及び/又は局所投与が挙げられ、臨床指定される程度までの経路が挙げられる。非限定的な例として、本願の実施形態の全幅及び範囲から逸脱しない限り、TMVのサイズ(一般的に18nm×300nm)とその棒状形状は抗原提示細胞(APC)による抗原取込みを促進し、従って、T細胞(例えばTh1及びTh2)の免疫原性を強化するのに役立ち、表面に結合したサブユニットタンパク質にアジュバント活性を提供する。この活性はウイルスRNA/TLR7相互作用によっても刺激される。その結果、ワクチン取込み効果と相まってAPCの活性化を直接刺激する。液性免疫は一般的に皮下及び鼻腔内送達によりIgG1サブクラスとIgG2サブクラスのバランスが保たれる。ワクチンが経粘膜送達されると、実質的な全身及び粘膜のIgAの応答も生じる。細胞性免疫も非常に堅牢であり、生きたウイルス感染応答と同様に抗原特異的分泌を誘発する。全長抗原融合体は、ヒト白血球抗原(HLA)多様性の問題を伴わずに、天然細胞傷害性Tリンパ球(CTL)エピトーププロセシングを可能にする。
【0164】
TMV結合なしに試験したサブユニットタンパク質は細胞性又は液性免疫を殆ど又は全く誘導しないが、本実施形態に従うマルチセット精製プラットフォームで得られる広範(液性及び細胞性)で強力な(強さ及び有効性)免疫応答は全く対照的である。これらの免疫応答の結果、本実施形態に従うマルチセットプラットフォームにより創製したワクチンは単剤ワクチンとして防御性の高い応答を促進し、他の従来のワクチンプラットフォームでは得られなかったスピードと安全性を提供する。実際に、この結合プラットフォームは多様なウイルスと(抗原を含む)タンパク質を広範な比で結合し、種々の用量でうまく投与するのに利用できることが判明し、この点でも本システムの堅牢性が明らかである。本実施形態におけるワクチン製造用マルチセットプラットフォームのその他の利点としては、病原体攻撃に対する全身免疫防御のプロアクティブな抗原刺激アプローチであることが挙げられ、本プラットフォームは(ウイルス糖タンパク質又は非分泌型病原体抗原を含む)疾病病原体から抗原性ドメインを作製するために適応性が高く、本プラットフォームはウイルスと細菌性病原体のどちらにも有効なワクチンプラットフォームとして利用できる。
【0165】
ワクチン用途に関する利点に加え、本実施形態に従うマルチセットプラットフォームにより精製した植物ウイルス粒子は種々の薬物送達目的に合わせて製剤化することができる。これらの種々の目的としては、1)治療用抗体をウイルス粒子の表面に結合させて送達し、細胞傷害性作用を強化することにより、免疫療法に利用する、2)遺伝子改変のために特定の細胞種に導入するように特定の核酸を担持させることにより、遺伝子治療に利用する、3)標的腫瘍送達のために化学療法剤をウイルス粒子に担持させることにより、薬物送達に利用することが挙げられる。
【0166】
本願に記載する方法の多数の利点の簡単な例として、先ず上記のようにpH変化に曝露して精製ウイルスを膨潤させることにより、複数の実施形態に従うマルチセットプラットフォームを薬物送達ツールとして利用することができる。その後、この条件下のウイルスをドキソルビシン等の濃厚化学療法剤の溶液と共にインキュベートした後、pHを中性に戻すことにより、ウイルスをその膨潤前の状態に戻し、こうして化学療法剤分子を閉じ込める。次に、必ずしも限定されないが、腫瘍の標的治療用注射を含む群から選択される送達メカニズムによりウイルス粒子を生体に送達することができる。
【0167】
更に、本願に含まれる実施形態としては、イオン交換クロマトグラフィー又は他の化学的分離工程により宿主細胞夾雑物をタンパク質又は抗原から分離する実施形態が挙げられるが、1種類の分離方法を1種類のタンパク質、抗原又はウイルスに特に限定するものではない。方法と組成物の両方に関する本願の実施形態としては、ウイルスがアカクローバモザイクウイルス、ツユクサ黄色斑紋ウイルス、カリフラワーモザイクウイルス、ダイズ退緑斑紋ウイルス、キャッサバ葉脈モザイクウイルス、イネツングロ桿菌状ウイルス、ペチュニア葉脈透化ウイルス、トウモロコシ条斑ウイルス、ビートカーリートップウイルス、インゲンマメゴールデンモザイクウイルス、アルファルファモザイクウイルス、タバコ条斑ウイルス、ブロムモザイクウイルス、キュウリモザイクウイルス、ビート萎黄ウイルス、レタス感染性萎黄ウイルス、ササゲモザイクウイルス、ソラマメウイルトウイルス1、タバコ輪点ウイルス、ジャガイモYウイルス,ライグラスモザイクウイルス、オオムギ縞萎縮ウイルス、パースニップイエローフレックウイルス、イネ矮化ウイルス、カーネーション斑紋ウイルス、カーネーション輪紋ウイルス、トウモロコシ退緑斑紋ウイルス、タバコえそウイルス、トマトブッシースタントウイルス、リンゴステムグルービングウイルス、カーネーション潜在ウイルス、エンドウひだ葉モザイクウイルス、コムギ萎縮ウイルス、ムギ斑葉モザイクウイルス、ラズベリー黄化ウイルス、オオムギ黄萎ウイルス、トウモロコシラヤドフィノウイルス、ジャガイモXウイルス、クローバモザイクウイルス、インゲンマメ南部モザイクウイルス、イネ縞葉枯ウイルス、タバコモザイクウイルス、タバコ茎えそウイルス、リンゴクロロティックリーフスポットウイルス、カブ黄化モザイクウイルス、ニンジン斑紋ウイルスから構成される群から選択される実施形態が挙げられる。
【0168】
いくつかの実施形態において、例えばウイルスが半径を有するTMVであるとき、タンパク質は抗原(限定するものではないが、HAが挙げられる。)とすることができ、活性化工程中にTMV半径が少なくとも2.75倍に増加した後に、ウイルスと抗原を混合する工程を実施する。あるいは、同じく限定するものではないが、活性化工程中にTMV半径が少なくとも約195nmまで増加した後に、ウイルスと抗原を混合する工程を実施する。つまり、方法、組成物及びワクチン産物の趣旨では、ありとあらゆる実現可能な組合せ、変形及び代替実施形態が本開示に含まれる。
【0169】
従って、以上の記載は、(i)植物によるウイルスの製造と精製;(ii)植物による抗原の製造と精製;(iii)ワクチン及び抗原担体として治療上有益なウイルス-抗原コンジュゲートの植物体外での形成;並びに(iv)精製ウイルスと精製抗原を含む治療用ワクチンの送達に関する複数の実施形態と多数の代替アプローチを提供する。
【0170】
当然のことながら、本願に記載する実施形態は上記教示及び記載の詳細又は添付図面の図例にその適用を制限されない。逆に、当然のことながら、本願に記載・請求する本願の実施形態及び代替実施形態は種々の方法で実施又は実現することが可能である。更に、当然のことながら、本願で使用する用語及び語句は説明を目的とし、制限的であるとみなすべきではない。「挙げられる」、「含む」、「例えば」、「含有する」又は「有する」及びこれらの用語の変形を本願で使用する場合には、その対象である項目とその等価物、更には他の項目も含むという意味である。
【0171】
従って、数種の実施形態及び代替実施形態に関する上記記載は上記に開示した内容の範囲を制限するものではなく、例証を目的とする。本願の記載は網羅的なものではなく、また、開示した厳密な形態に実施形態の解釈を制限するものでもない。当技術分野に通常の知識をもつ者であれば、これらの実施形態の変更及び変形も上記教示及び記載に照らして妥当に可能であることが理解されよう。