(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009355
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】車載装置、車載通信システムおよび時刻同期方法
(51)【国際特許分類】
H04L 7/00 20060101AFI20230113BHJP
【FI】
H04L7/00 990
H04L7/00 330
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112535
(22)【出願日】2021-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000682
【氏名又は名称】弁理士法人ワンディ-IPパ-トナ-ズ
(72)【発明者】
【氏名】松本 真
(72)【発明者】
【氏名】北川 和樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 和之
(72)【発明者】
【氏名】陶山 洋次郎
(72)【発明者】
【氏名】泉 達也
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀幸
【テーマコード(参考)】
5K047
【Fターム(参考)】
5K047AA18
(57)【要約】
【課題】車載装置間における時刻同期をより正確に行う。
【解決手段】車載装置は、自己の前記車載装置である自装置における、外部から、データの受信時刻の計測基準位置までの第1伝送遅延時間と、他装置における、外部から、データの受信時刻の計測基準位置までの第2伝送遅延時間との第1の組、または、前記自装置におけるデータの送信時刻の計測基準位置から外部までの第3伝送遅延時間と、前記他装置におけるデータの送信時刻の計測基準位置から外部までの第4伝送遅延時間との第2の組を含む遅延時間情報を記憶し、時刻同期用の情報を前記他装置との間で送受信することにより、前記自装置と前記他装置との間の伝搬遅延時間を計測し、記憶している前記遅延時間情報に基づいて、計測した前記伝搬遅延時間を補正し、補正後の前記伝搬遅延時間に基づいて、前記自装置と前記他装置との間における時刻同期を行う。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載装置であって、
自己の前記車載装置である自装置における、外部から、データの受信時刻の計測基準位置までの第1伝送遅延時間と、他の車載装置である他装置における、外部から、データの受信時刻の計測基準位置までの第2伝送遅延時間との第1の組、または、前記自装置におけるデータの送信時刻の計測基準位置から外部までの第3伝送遅延時間と、前記他装置におけるデータの送信時刻の計測基準位置から外部までの第4伝送遅延時間との第2の組を含む遅延時間情報を記憶する記憶部と、
時刻同期用の情報を前記他装置との間で送受信することにより、前記自装置と前記他装置との間の伝搬遅延時間を計測する処理部と、
前記記憶部に保存されている前記遅延時間情報に基づいて、前記処理部により計測された前記伝搬遅延時間を補正する補正部と、
前記補正部による補正後の前記伝搬遅延時間に基づいて、前記自装置と前記他装置との間における時刻同期を行う時刻同期部とを備える、車載装置。
【請求項2】
前記遅延時間情報は、前記第1の組および前記第2の組の両方を含む、請求項1に記載の車載装置。
【請求項3】
前記各計測基準位置は、MAC(Medium Access Control)レイヤの処理を行うMAC処理部とPHY(Physical)レイヤの処理を行うPHY処理部との間に存在する、請求項1または請求項2に記載の車載装置。
【請求項4】
前記車載装置は、さらに、
3つ以上の通信ポートにおいてデータを中継可能な中継部を備え、
前記記憶部は、前記通信ポートごとの前記遅延時間情報であって、3つ以上の前記通信ポートのうちの一部の前記通信ポートの前記遅延時間情報を記憶する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車載装置。
【請求項5】
第1車載装置と、
第2車載装置とを備え、
前記第1車載装置は、前記第1車載装置における、外部から、データの受信時刻の計測基準位置までの第1伝送遅延時間と、前記第2車載装置における、外部から、データの受信時刻の計測基準位置までの第2伝送遅延時間との第1の組、または、前記第1車載装置におけるデータの送信時刻の計測基準位置から外部までの第3伝送遅延時間と、前記第2車載装置におけるデータの送信時刻の計測基準位置から外部までの第4伝送遅延時間との第2の組を含む遅延時間情報を記憶し、
前記第1車載装置は、時刻同期用の情報を前記第2車載装置との間で送受信することにより、前記第2車載装置との間のデータの伝搬遅延時間を計測し、記憶している前記遅延時間情報に基づいて、計測した前記伝搬遅延時間を補正し、補正後の前記伝搬遅延時間に基づいて前記第2車載装置との間における時刻同期を行う、車載通信システム。
【請求項6】
車載装置における時刻同期方法であって、
前記車載装置は、自己の前記車載装置である自装置における、外部から、データの受信時刻の計測基準位置までの第1伝送遅延時間と、他の車載装置である他装置における、外部から、データの受信時刻の計測基準位置までの第2伝送遅延時間との第1の組、または、前記自装置におけるデータの送信時刻の計測基準位置から外部までの第3伝送遅延時間と、前記他装置におけるデータの送信時刻の計測基準位置から外部までの第4伝送遅延時間との第2の組を含む遅延時間情報を記憶し、
時刻同期用の情報を前記他装置との間で送受信することにより、前記自装置と前記他装置との間の伝搬遅延時間を計測するステップと、
記憶している前記遅延時間情報に基づいて、計測した前記伝搬遅延時間を補正するステップと、
補正後の前記伝搬遅延時間に基づいて、前記自装置と前記他装置との間における時刻同期を行うステップとを含む、時刻同期方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車載装置、車載通信システムおよび時刻同期方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の装置間における時刻同期に関する技術が開発されている。たとえば、特開2016-5214号公報(特許文献1)には、以下のようなネットワークシステムが開示されている。すなわち、ネットワークシステムは、ネットワーク構成が動的に変化しない時刻同期網を構成し、マスタとして機能するノードを含む複数のノードを備え、前記複数のノードの夫々は、前記マスタを示すマスタ情報と、前記時刻同期網の論理トポロジを示すトポロジ情報と、を含む同期情報を格納する記憶手段と、自ノードを制御する制御手段と、を備え、前記制御手段が、前記記憶手段に格納された前記同期情報を、前記時刻同期網における自ノードの同期情報として、自ノードを起動することにより、前記時刻同期網を形成する。
【0003】
また、特定の装置が他の装置と時刻情報を同期する際における、当該特定の装置が行うMAC処理に要する時間がシステムの状態に応じて変動することを考慮して、時刻同期処理を行う技術が開発されている。たとえば、特開2016-219870号公報(特許文献2)には、以下のような時刻同期制御装置が開示されている。すなわち、時刻同期制御装置は、外部装置から受信した第1の時刻情報を含む入力信号を受信したときに、時刻出力部から出力された現在時刻情報を、第2の時刻情報として記憶する記憶部と、当該入力信号に対して所定の信号処理を行う信号処理部が当該入力信号に対する当該信号処理を終了したときに時刻出力部から出力された現在時刻情報である第3の時刻情報と、第1の時刻情報と、記憶部に記憶された第2の時刻情報と、に基づいて、時刻出力部が出力する現在時刻情報を更新する更新部と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-5214号公報
【特許文献2】特開2016-219870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車載ネットワークにおける各車載装置は、たとえば、IEEE(登録商標)802.1の規格により規定されるプロトコルに従い、車載装置間における双方向のデータの伝搬遅延時間の平均値を理論値として定期的に算出し、新たに算出した伝搬遅延時間の理論値を用いて車載装置間の時刻同期を行う。
【0006】
しかしながら、車載装置間における一方の方向のデータの伝搬遅延時間と他方の方向のデータの伝搬遅延時間とが互いに異なることがあり、このような場合、伝搬遅延時間の実際の値と、伝搬遅延時間の理論値とが異なるため、時刻同期の精度が低下する等の問題が生じる。
【0007】
この発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、その目的は、車載装置間における時刻同期をより正確に行うことのできる車載装置、車載通信システムおよび時刻同期方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の車載装置は、自己の前記車載装置である自装置における、外部から、データの受信時刻の計測基準位置までの第1伝送遅延時間と、他の車載装置である他装置における、外部から、データの受信時刻の計測基準位置までの第2伝送遅延時間との第1の組、または、前記自装置におけるデータの送信時刻の計測基準位置から外部までの第3伝送遅延時間と、前記他装置におけるデータの送信時刻の計測基準位置から外部までの第4伝送遅延時間との第2の組を含む遅延時間情報を記憶する記憶部と、時刻同期用の情報を前記他装置との間で送受信することにより、前記自装置と前記他装置との間の伝搬遅延時間を計測する処理部と、前記記憶部に保存されている前記遅延時間情報に基づいて、前記処理部により計測された前記伝搬遅延時間を補正する補正部と、前記補正部による補正後の前記伝搬遅延時間に基づいて、前記自装置と前記他装置との間における時刻同期を行う時刻同期部とを備える。
【0009】
本開示の車載通信システムは、第1車載装置と、第2車載装置とを備え、前記第1車載装置は、前記第1車載装置における、外部から、データの受信時刻の計測基準位置までの第1伝送遅延時間と、前記第2車載装置における、外部から、データの受信時刻の計測基準位置までの第2伝送遅延時間との第1の組、または、前記第1車載装置におけるデータの送信時刻の計測基準位置から外部までの第3伝送遅延時間と、前記第2車載装置におけるデータの送信時刻の計測基準位置から外部までの第4伝送遅延時間との第2の組を含む遅延時間情報を記憶し、前記第1車載装置は、時刻同期用の情報を前記第2車載装置との間で送受信することにより、前記第2車載装置との間のデータの伝搬遅延時間を計測し、記憶している前記遅延時間情報に基づいて、計測した前記伝搬遅延時間を補正し、補正後の前記伝搬遅延時間に基づいて前記第2車載装置との間における時刻同期を行う。
【0010】
本開示の時刻同期方法は、車載装置における時刻同期方法であって、前記車載装置は、自己の前記車載装置である自装置における、外部から、データの受信時刻の計測基準位置までの第1伝送遅延時間と、他の車載装置である他装置における、外部から、データの受信時刻の計測基準位置までの第2伝送遅延時間との第1の組、または、前記自装置におけるデータの送信時刻の計測基準位置から外部までの第3伝送遅延時間と、前記他装置におけるデータの送信時刻の計測基準位置から外部までの第4伝送遅延時間との第2の組を含む遅延時間情報を記憶し、時刻同期用の情報を前記他装置との間で送受信することにより、前記自装置と前記他装置との間の伝搬遅延時間を計測するステップと、記憶している前記遅延時間情報に基づいて、計測した前記伝搬遅延時間を補正するステップと、補正後の前記伝搬遅延時間に基づいて、前記自装置と前記他装置との間における時刻同期を行うステップとを含む。
【0011】
本開示の一態様は、このような特徴的な処理部を備える車載装置として実現され得るだけでなく、かかる特徴的な処理をコンピュータに実行させるためのプログラムとして実現され得る。また、本開示の一態様は、車載装置の一部または全部を実現する半導体集積回路として実現され得る。
【0012】
また、本開示の一態様は、このような特徴的な処理部を備える車載通信システムとして実現され得るだけでなく、かかる特徴的な処理をステップとする時刻同期方法として実現され得たり、かかるステップをコンピュータに実行させるためのプログラムとして実現され得る。また、本開示の一態様は、車載通信システムの一部または全部を実現する半導体集積回路として実現され得る。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、車載装置間における時刻同期をより正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本開示の実施の形態に係る車載通信システムの構成を示す図である。
【
図2】
図2は、本開示の実施の形態に係るスイッチ装置の構成を示す図である。
【
図3】
図3は、本開示の実施の形態に係るマスター側の機能部の構成を示す図である。
【
図4】
図4は、本開示の実施の形態に係るスイッチ装置による、マスター側の機能部との間におけるデータの伝搬遅延時間の算出方法を説明するための図である。
【
図5】
図5は、本開示の実施の形態に係るスイッチ装置およびマスター側の機能部の各々におけるデータの伝送遅延時間を説明するための図である。
【
図6】
図6は、本開示の実施の形態に係るスイッチ装置における記憶部に保存されている遅延時間情報の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、本開示の実施の形態に係るスレーブ側の機能部の構成を示す図である。
【
図8】
図8は、本開示の実施の形態に係るスレーブ側の機能部およびスイッチ装置の各々におけるデータの伝送遅延時間を説明するための図である。
【
図9】
図9は、本開示の実施の形態に係るスレーブ側の機能部における記憶部に保存されている遅延時間情報の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、本開示の実施の形態に係る車載装置が、他の車載装置との時刻同期を行う際の動作手順を定めたフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
最初に、本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)本開示の実施の形態に係る車載装置は、自己の前記車載装置である自装置における、外部から、データの受信時刻の計測基準位置までの第1伝送遅延時間と、他の車載装置である他装置における、外部から、データの受信時刻の計測基準位置までの第2伝送遅延時間との第1の組、または、前記自装置におけるデータの送信時刻の計測基準位置から外部までの第3伝送遅延時間と、前記他装置におけるデータの送信時刻の計測基準位置から外部までの第4伝送遅延時間との第2の組を含む遅延時間情報を記憶する記憶部と、時刻同期用の情報を前記他装置との間で送受信することにより、前記自装置と前記他装置との間の伝搬遅延時間を計測する処理部と、前記記憶部に保存されている前記遅延時間情報に基づいて、前記処理部により計測された前記伝搬遅延時間を補正する補正部と、前記補正部による補正後の前記伝搬遅延時間に基づいて、前記自装置と前記他装置との間における時刻同期を行う時刻同期部とを備える。
【0016】
このように、第1の組に含まれる第1伝送遅延時間および第2伝送遅延時間、または第2の組に含まれる第3伝送遅延時間および第4伝送遅延時間を用いて伝搬遅延時間の補正を行う構成により、車載装置間における一方の方向のデータの伝搬遅延時間と他方の方向のデータの伝搬遅延時間とが互いに異なる場合であっても、より正確な伝搬遅延時間を算出することが可能となる。したがって、車載装置間における時刻同期をより正確に行うことができる。
【0017】
(2)前記遅延時間情報は、前記第1の組および前記第2の組の両方を含んでもよい。
【0018】
このような構成により、データの送信側および受信側の両方における伝送遅延時間を用いて伝搬遅延時間の補正を行うことができるため、より一層正確な伝搬遅延時間を算出することができる。
【0019】
(3)前記各計測基準位置は、MAC(Medium Access Control)レイヤの処理を行うMAC処理部とPHY(Physical)レイヤの処理を行うPHY処理部との間に存在してもよい。
【0020】
このような構成により、各車載装置におけるデータの送信時または受信時における当該データに対するPHY処理に要する時間を考慮して、伝搬遅延時間のより適切な補正を行うことができる。
【0021】
(4)前記車載装置は、さらに、3つ以上の通信ポートにおいてデータを中継可能な中継部を備え、前記記憶部は、前記通信ポートごとの前記遅延時間情報であって、3つ以上の前記通信ポートのうちの一部の前記通信ポートの前記遅延時間情報を記憶してもよい。
【0022】
ここで、2つの車載装置間において、一方の装置が伝搬遅延時間に基づく時刻補正を行えばよく、当該一方の車載装置が遅延時間情報を保持していればよい。上記のように、車載装置が、3つ以上の通信ポートのうちの一部の通信ポートの遅延時間情報を保持する構成により、たとえば、当該一部の通信ポートを使用するデータの送受信においては当該車載装置が通信相手との間の時刻補正を行い、他の通信ポートを使用するデータの送受信においては当該車載装置の通信相手が当該車載装置との間の時刻補正を行う構成を採用することができるため、時刻補正を行う機能を有する車載ネットワークをより効率的に実現することができる。
【0023】
(5)本開示の実施の形態に係る車載通信システムは、第1車載装置と、第2車載装置とを備え、前記第1車載装置は、前記第1車載装置における、外部から、データの受信時刻の計測基準位置までの第1伝送遅延時間と、前記第2車載装置における、外部から、データの受信時刻の計測基準位置までの第2伝送遅延時間との第1の組、または、前記第1車載装置におけるデータの送信時刻の計測基準位置から外部までの第3伝送遅延時間と、前記第2車載装置におけるデータの送信時刻の計測基準位置から外部までの第4伝送遅延時間との第2の組を含む遅延時間情報を記憶し、前記第1車載装置は、時刻同期用の情報を前記第2車載装置との間で送受信することにより、前記第2車載装置との間のデータの伝搬遅延時間を計測し、記憶している前記遅延時間情報に基づいて、計測した前記伝搬遅延時間を補正し、補正後の前記伝搬遅延時間に基づいて前記第2車載装置との間における時刻同期を行う。
【0024】
このように、第1の組に含まれる第1伝送遅延時間および第2伝送遅延時間、または第2の組に含まれる第3伝送遅延時間および第4伝送遅延時間を用いて伝搬遅延時間の補正を行う構成により、車載装置間における一方の方向のデータの伝搬遅延時間と他方の方向のデータの伝搬遅延時間とが互いに異なる場合であっても、より正確な伝搬遅延時間を算出することが可能となる。したがって、車載装置間における時刻同期をより正確に行うことができる。
【0025】
(6)本開示の実施の形態に係る時刻同期方法は、車載装置における時刻同期方法であって、前記車載装置は、自己の前記車載装置である自装置における、外部から、データの受信時刻の計測基準位置までの第1伝送遅延時間と、他の車載装置である他装置における、外部から、データの受信時刻の計測基準位置までの第2伝送遅延時間との第1の組、または、前記自装置におけるデータの送信時刻の計測基準位置から外部までの第3伝送遅延時間と、前記他装置におけるデータの送信時刻の計測基準位置から外部までの第4伝送遅延時間との第2の組を含む遅延時間情報を記憶し、時刻同期用の情報を前記他装置との間で送受信することにより、前記自装置と前記他装置との間の伝搬遅延時間を計測するステップと、記憶している前記遅延時間情報に基づいて、計測した前記伝搬遅延時間を補正するステップと、補正後の前記伝搬遅延時間に基づいて、前記自装置と前記他装置との間における時刻同期を行うステップとを含む。
【0026】
このように、第1の組に含まれる第1伝送遅延時間および第2伝送遅延時間、または第2の組に含まれる第3伝送遅延時間および第4伝送遅延時間を用いて伝搬遅延時間の補正を行う方法により、車載装置間における一方の方向のデータの伝搬遅延時間と他方の方向のデータの伝搬遅延時間とが互いに異なる場合であっても、より正確な伝搬遅延時間を算出することが可能となる。したがって、車載装置間における時刻同期をより正確に行うことができる。
【0027】
以下、本開示の実施の形態について図面を用いて説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。また、以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0028】
<構成および基本動作>
[全体構成]
図1は、本開示の実施の形態に係る車載通信システムの構成を示す図である。
図1を参照して、車載通信システム301は、車両1に搭載され、1または複数のスイッチ装置101と、複数の機能部111とを備える。
図1では、一例として、スイッチ装置101である2つのスイッチ装置101A,101B、および機能部111である6つの機能部111A,111B,111C,111D,111E,111Fを示している。各スイッチ装置101および各機能部111は、車載装置であり、たとえばECU(Electronic Control Unit)である。
【0029】
スイッチ装置101は、たとえばイーサネット(登録商標)ケーブル10により複数の車載装置と接続されており、自己に接続された複数の車載装置と通信を行うことが可能である。
【0030】
図1に示す例では、スイッチ装置101Aには、機能部111A,111B,111C,111Dおよびスイッチ装置101Bが接続されている。また、スイッチ装置101Bには、機能部111E,111Fが接続されている。
【0031】
たとえば、スイッチ装置101は、機能部111からのデータを他の機能部111へ中継する中継処理を行う。車載装置間では、たとえば、IPパケットが格納されたイーサネットフレームを用いて情報のやり取りが行われる。
【0032】
機能部111は、車外通信ECU、センサ、カメラ、ナビゲーション装置、自動運転処理ECU、ADAS(Advanced Driving Assistant System)ECU、エンジン制御デバイス、AT(Automatic Transmission)制御デバイス、HEV(Hybrid Electric Vehicle)制御デバイス、ブレーキ制御デバイス、シャーシ制御デバイス、ステアリング制御デバイスおよび計器表示制御デバイス等である。
【0033】
[スイッチ装置およびマスター側の機能部]
(スイッチ装置の構成)
図2は、本開示の実施の形態に係るスイッチ装置の構成を示す図である。ここでは、スイッチ装置101Aの構成について説明する。スイッチ装置101Bの構成は、スイッチ装置101Aの構成と同様である。
【0034】
図2を参照して、スイッチ装置101Aは、中継部51と、時刻同期部52と、記憶部53と、通信ポート54A~54Eとを備える。中継部51および時刻同期部52は、たとえば、CPU(Central processing Unit)およびDSP(Digital Signal processor)等のプロセッサにより実現される。記憶部53は、たとえば不揮発性メモリである。
【0035】
中継部51は、スイッチ部61と、制御部62とを含む。時刻同期部52は、処理部63と、補正部64とを含む。以下、通信ポート54A~54Eの各々を、単に「通信ポート54」とも称する。
【0036】
(スイッチ装置による中継処理)
通信ポート54は、スイッチ装置101Aの入力端および出力端に相当し、たとえばイーサネットケーブル10を接続可能な端子である。なお、通信ポート54は、集積回路の端子であってもよい。各通信ポート54は、イーサネットケーブル10を介して複数の車載装置のうちのいずれか1つに接続されている。この例では、通信ポート54Aが機能部111Aに接続され、通信ポート54Bが機能部111Bに接続され、通信ポート54Cが機能部111Cに接続され、通信ポート54Dが機能部111Dに接続され、通信ポート54Eがスイッチ装置101Bに接続されている。
【0037】
記憶部53には、通信ポート54のポート番号と接続先装置のMAC(Media Access Control)アドレスとの対応関係を示すアドレステーブルAtが保存されている。
【0038】
スイッチ部61は、通信ポート54A~54Eにおいて、他の車載装置間のデータを中継する。すなわち、スイッチ部61は、他の車載装置から送信されたイーサネットフレームを、当該車載装置に対応する通信ポート54経由で受信すると、受信したイーサネットフレームに対して中継処理を行う。
【0039】
より詳細には、スイッチ部61は、記憶部53に保存されているアドレステーブルAtを参照し、受信したイーサネットフレームに含まれる送信先MACアドレスに対応するポート番号を特定する。そして、スイッチ部61は、受信したイーサネットフレームを、特定したポート番号の通信ポート54から送信する。
【0040】
(マスター側の機能部の構成)
図3は、本開示の実施の形態に係るマスター側の機能部の構成を示す図である。
図1に示す機能部111A~111Fのうち、機能部111Aが、車載通信システム301における基準時刻を保持しているマスター側の機能部111であるとする。また、他の機能部111B~111Fが、スレーブ側の機能部111であるとする。
【0041】
図3を参照して、マスター側の機能部111Aは、通信部81Aと、時刻同期部82Aと、記憶部83Aと、通信ポート84Aとを備える。通信部81Aおよび時刻同期部82Aは、たとえば、CPUおよびDSP等のプロセッサにより実現される。記憶部83Aは、たとえば不揮発性メモリである。
【0042】
通信ポート84Aは、機能部111Aの入力端および出力端に相当し、たとえばイーサネットケーブル10を接続可能な端子である。なお、通信ポート84Aは、集積回路の端子等であってもよい。通信ポート84Aは、イーサネットケーブル10を介してスイッチ装置101Aに接続されている。
【0043】
(マスター側の機能部およびスイッチ装置間のデータの伝搬遅延時間の算出)
図4は、本開示の実施の形態に係るスイッチ装置による、マスター側の機能部との間におけるデータの伝搬遅延時間の算出方法を説明するための図である。
【0044】
図2~
図4を参照して、スイッチ装置101Aは、たとえば、IEEE802.1の規格に従い、マスター側の機能部111Aとの間で時刻同期用の情報を送受信することにより、機能部111Aとスイッチ装置101Aとの間のデータの伝搬遅延時間を計測する。そして、スイッチ装置101Aは、計測した伝搬遅延時間に基づいて、機能部111Aとの間における時刻同期を行う。
【0045】
2つの車載装置間のうち、伝搬遅延時間に基づく時刻補正を行う一方の装置を「Initiator」とも称し、他方の装置を「Responder」とも称する。ここでは、スイッチ装置101Aおよび機能部111A間において、スイッチ装置101AがInitiatorであり、機能部111AがResponderである。
【0046】
詳細には、スイッチ装置101Aは、定期的または不定期に、機能部111Aおよびスイッチ装置101A間のデータの伝搬遅延時間Td1を算出し、既に保持している伝搬遅延時間Td1を、新たに算出した伝搬遅延時間Td1に更新する。
【0047】
より詳細には、スイッチ装置101Aにおける処理部63は、伝搬遅延時間Td1の更新に用いられる時刻情報を要求するための要求情報(Pdelay_Req)を、中継部51および通信ポート54A経由で機能部111Aへ送信する。以下、要求情報を、「要求メッセージ」とも称する。また、中継部51における制御部62は、要求メッセージの送信時刻t1をタイムスタンプとして記憶部53に保存する。
【0048】
機能部111Aにおける通信部81Aは、スイッチ装置101Aから送信された要求メッセージを通信ポート84A経由で受信し、受信した要求メッセージを時刻同期部82Aへ出力する。また、通信部81Aは、要求メッセージの受信時刻t2をタイムスタンプとして記憶部83Aに保存する。
【0049】
時刻同期部82Aは、通信部81Aから要求メッセージを受けて、当該要求メッセージに対する時刻情報(Pdelay_Resp)を通信部81Aへ出力する。通信部81Aは、時刻同期部82Aから受けた時刻情報を、通信ポート84A経由でスイッチ装置101Aへ送信する。このとき、時刻同期部82Aは、記憶部83Aに保存されている要求メッセージの受信時刻t2を、時刻情報に含めて送信する。以下、時刻情報を、「応答メッセージ」とも称する。また、通信部81Aは、応答メッセージの送信時刻t3をタイムスタンプとして記憶部83Aに保存する。
【0050】
また、時刻同期部82Aは、応答メッセージの送信後、記憶部83Aに保存されている応答メッセージの送信時刻t3を、フォローアップメッセージ(Pdelay_Resp_Follow_Up)に含めて通信部81Aへ出力する。通信部81Aは、時刻同期部82Aから受けたフォローアップメッセージを、通信ポート84A経由でスイッチ装置101Aへ送信する。
【0051】
スイッチ装置101Aにおける制御部62は、機能部111Aから送信された応答メッセージおよびフォローアップメッセージを通信ポート54A経由で受信する。そして、制御部62は、応答メッセージの受信時刻t4をタイムスタンプとして記憶部53に保存する。また、制御部62は、当該応答メッセージに含まれる時刻t2、および当該フォローアップメッセージに含まれる時刻t3を時刻同期部52に通知する。
【0052】
時刻同期部52における処理部63は、制御部62から通知された時刻t2,t3、および記憶部53に保存されている時刻t1,t4に基づいて、機能部111Aおよびスイッチ装置101A間のデータの伝搬遅延時間Td1を算出する。より詳細には、処理部63は、スイッチ装置101Aおよび機能部111A間における両方向のデータの伝搬遅延時間の平均値を、伝搬遅延時間Td1として算出する。
【0053】
具体的には、処理部63は、以下の式(1)を用いて、要求メッセージの、スイッチ装置101Aにおける送信時刻t1から機能部111Aにおける受信時刻t2までの時間と、応答メッセージの、機能部111Aにおける送信時刻t3からスイッチ装置101Aにおける受信時刻t4までの時間との平均値を、伝搬遅延時間Td1として算出する。そして、処理部63は、記憶部53に保存されている伝搬遅延時間Td1を、新たに算出した伝搬遅延時間Td1に更新する。
Td1=((t4-t1)-(t3-t2))/2 ・・・(1)
【0054】
(スイッチ装置における時刻の補正)
機能部111Aにおける時刻同期部82Aは、定期的または不定期に、Syncメッセージを通信部81Aへ出力する。通信部81Aは、時刻同期部82Aから受けたSyncメッセージを通信ポート84A経由でスイッチ装置101Aへ送信する。また、通信部81Aは、Syncメッセージの送信時刻tm1をタイムスタンプとして記憶部83Aに保存する。
【0055】
また、時刻同期部82Aは、Syncメッセージの送信後、記憶部83Aに保存されている時刻tm1を、フォローアップメッセージ(Follow_Up)に含めて通信部81Aへ出力する。通信部81Aは、時刻同期部82Aから受けたフォローアップメッセージを通信ポート84A経由でスイッチ装置101Aへ送信する。
【0056】
スイッチ装置101Aにおける制御部62は、機能部111Aから送信されたSyncメッセージおよびフォローアップメッセージを通信ポート54A経由で受信する。そして、制御部62は、Syncメッセージの受信時刻ty1をタイムスタンプとして記憶部53に保存する。また、制御部62は、フォローアップメッセージに含まれる時刻tm1を時刻同期部52に通知する。
【0057】
時刻同期部52における処理部63は、制御部62から通知された時刻tm1、ならびに記憶部53に保存されている時刻ty1および伝搬遅延時間Td1に基づいて、機能部111Aとの間における時刻同期を行う。
【0058】
ここでは、処理部63は、時刻tm1,ty1および伝搬遅延時間Td1を用いて、機能部111Aの時刻とスイッチ装置101の時刻との差である時刻差D1=tm1+Td1-ty1を算出すると仮定する。そして、処理部63は、算出した時刻差D1を用いて、自己のスイッチ装置101Aにおける時刻を補正することにより、機能部111Aとの時刻同期を確立させる。
【0059】
[課題の説明]
ところで、スイッチ装置101Aおよび機能部111Aの各車載装置では、データの送信時または受信時において、たとえば、A/D変換等のPHY(Physical)レイヤの処理を行うIC(Integrated Circuit)チップ、またはイーサネットフレームに格納されたMACアドレスの処理等のMACレイヤの処理を行うICチップが、当該データに対するタイムスタンプとして送信時刻または受信時刻を保存する。タイムスタンプの計測の基準となる位置を、以下、単に「計測基準位置」とも称する。
【0060】
車載装置における計測基準位置と、当該車載装置の外部との間におけるデータの伝送遅延時間は、当該車載装置のベンダおよび種類等に応じて異なることがある。以下、図面を用いてより詳細に説明する。
【0061】
(InitiatorからResponderへのデータの送信時)
図5は、本開示の実施の形態に係るスイッチ装置およびマスター側の機能部の各々におけるデータの伝送遅延時間を説明するための図である。
【0062】
図5を参照して、Initiator側であるスイッチ装置101Aは、通信ポート54Aに対応する、MAC処理部M11と、PHY処理部P11とを備える。MAC処理部M11は、MACレイヤの処理を行うICチップCM11を含む。PHY処理部P11は、PHYレイヤの処理を行うICチップCP11を含む。ICチップCM11は、たとえば、
図2に示す制御部62の機能の一部をさらに担う。
【0063】
スイッチ装置101Aにおける通信ポート54Aに対応する計測基準位置X1は、ICチップCM11およびICチップCP11間、具体的には、ICチップCM11およびICチップCP11間における、プリント基板の配線等のデータの伝送経路L1と、ICチップCM11との境界付近に位置しているとする。
【0064】
また、Responder側である機能部111Aは、MAC処理部M12と、PHY処理部P12とを備える。MAC処理部M12は、MACレイヤの処理を行うICチップCM12を含む。PHY処理部P12は、PHYレイヤの処理を行うICチップCP12を含む。ICチップCM12は、たとえば、
図3に示す通信部81Aの機能の一部をさらに担う。
【0065】
機能部111Aにおける計測基準位置X2は、ICチップCM12およびICチップCP12間、具体的には、ICチップCM12およびICチップCP12間における、プリント基板の配線等のデータの伝送経路L2と、ICチップCM12との境界付近に位置しているとする。
【0066】
スイッチ装置101Aが機能部111Aへデータを送信する場合、ICチップCM11は、当該データが計測基準位置X1を通過する時刻、すなわち当該データをICチップCP11へ出力する送信時刻をタイムスタンプとして記憶部53に保存する。そして、ICチップCP11は、ICチップCM11から受けたデータに対するPHYレイヤの処理を行い、通信ポート54Aを介して当該データをスイッチ装置101Aの外部へ出力する。ICチップCM11がデータの送信時刻を保存してから、当該データがスイッチ装置101Aの外部へ出力されるまで、すなわちスイッチ装置101Aの出力端から出力されるまでの伝送遅延時間を「T11」とする。
【0067】
機能部111Aがスイッチ装置101Aからのデータを受信する場合、ICチップCP12は、通信ポート84Aを介して外部から受信した当該データに対するPHYレイヤの処理を行い、ICチップCM12へ出力する。ICチップCM12は、ICチップCP12からのデータが計測基準位置X2を通過する時刻、すなわち当該データをICチップCP12から受けた受信時刻をタイムスタンプとして記憶部83Aに保存する。機能部111Aが入力端において外部からのデータを受信してから、ICチップCM12が当該データの受信時刻を保存するまでの伝送遅延時間を「T21」とする。
【0068】
(ResponderからInitiatorへのデータの送信時)
機能部111Aがスイッチ装置101Aへデータを送信する場合、ICチップCM12は、当該データが計測基準位置X2を通過する時刻、すなわち当該データをICチップCP12へ出力する送信時刻をタイムスタンプとして記憶部83Aに保存する。そして、ICチップCP12は、ICチップCM12から受けたデータに対するPHYレイヤの処理を行い、通信ポート84Aを介して当該データを機能部111Aの外部へ出力する。ICチップCM12がデータの送信時刻を保存してから、当該データが機能部111Aの外部へ出力されるまで、すなわち機能部111Aの出力端から出力されるまでの伝送遅延時間を「T22」とする。
【0069】
スイッチ装置101Aが機能部111Aからのデータを受信する場合、ICチップCP11は、通信ポート54Aを介して外部から受信した当該データに対するPHYレイヤの処理を行い、ICチップCM11へ出力する。ICチップCM11は、ICチップCP11からのデータが計測基準位置X1を通過する時刻、すなわち当該データをICチップCP11から受けた受信時刻をタイムスタンプとして記憶部53に保存する。スイッチ装置101Aが入力端において外部からのデータを受信してから、ICチップCM11が当該データの受信時刻を保存するまでの伝送遅延時間を「T12」とする。
【0070】
なお、スイッチ装置101Aでは、ICチップCM11がデータの送信時刻または受信時刻を保存する構成であるとしたが、このような構成に限らず、ICチップCP11がデータの送信時刻または受信時刻を保存する構成であってもよい。この場合、計測基準位置X1は、ICチップCP11とイーサネットケーブル10との境界付近に位置する。
【0071】
また、機能部111Aでは、ICチップCM12がデータの送信時刻または受信時刻を保存する構成であるとしたが、このような構成に限らず、ICチップCP12がデータの送信時刻または受信時刻を保存する構成であってもよい。この場合、計測基準位置X2は、ICチップCP12とイーサネットケーブル10との境界付近に位置する。
【0072】
(伝搬遅延時間Td1の理論値と、計測基準位置を考慮した伝送遅延時間との関係について)
機能部111Aおよびスイッチ装置101A間におけるイーサネットケーブル10の通過に要するデータの伝搬時間をTk1とする。この場合、スイッチ装置101Aにおけるデータの送信時刻から、機能部111Aにおける当該データの受信時刻までの時間、すなわちスイッチ装置101Aから機能部111Aまでのデータの、各装置における計測基準位置X1,X2と外部との間の伝送遅延時間を考慮した伝搬遅延時間Ttxは、以下の式(2)のように表される。
Ttx=T11+Tk1+T21 ・・・(2)
【0073】
また、機能部111Aにおけるデータの送信時刻から、スイッチ装置101Aにおける当該データの受信時刻までの時間、すなわち機能部111Aからスイッチ装置101Aまでのデータの、各装置における計測基準位置X1,X2と外部との間の伝送遅延時間を考慮した伝搬遅延時間Ttrは、以下の式(3)のように表される。
Ttr=T22+Tk1+T12 ・・・(3)
【0074】
スイッチ装置101Aにおける処理部63は、
図4を用いて説明したように、スイッチ装置101Aおよび機能部111A間における両方向のデータの伝搬遅延時間の平均値を、機能部111Aおよびスイッチ装置101A間のデータの伝搬遅延時間Td1の理論値として算出する。
【0075】
すなわち、
図4に示す時刻t1,t2,t3,t4の代わりに、上述した時間T11,T12,T21,T22,Tk1を用いると、処理部63により算出される伝搬遅延時間Td1の理論値は、以下の式(4)により表される。
Td1=(Ttx+Ttr)/2
={(T11+Tk1+T21)+(T22+Tk1+T12)}/2 ・・・(4)
【0076】
ここで、車載装置における計測基準位置と当該車載装置の外部との間のデータの伝送遅延時間は、当該車載装置のベンダおよび種類等に応じて異なることがある。具体的には、
図5に示す伝送遅延時間T11,T12,T21,T22は、スイッチ装置101Aおよび機能部111Aのベンダ等に応じて異なることがある。
【0077】
このような場合、スイッチ装置101Aおよび機能部111A間における両方向のデータの伝搬遅延時間Ttx,Ttrは、互いに異なる大きさとなり(Ttx≠Ttr)、伝搬遅延時間Ttx,Ttrの各々は、これら伝搬遅延時間Ttx,Ttrの平均値である伝搬遅延時間Td1の理論値と異なる大きさとなる(Td1≠Ttx,Td1≠Ttr)。これに対して、本開示の実施の形態に係る車載通信システム301における各車載装置は、以下のような構成により、より正確な伝搬遅延時間の算出を可能とする。
【0078】
[スイッチ装置における、伝送時間テーブルの保持および伝搬遅延時間の補正]
(伝送時間テーブルの保持)
図6は、本開示の実施の形態に係るスイッチ装置における記憶部に保存されている遅延時間情報の一例を示す図である。
【0079】
図2および
図6を参照して、スイッチ装置101Aにおける記憶部53には、自己のスイッチ装置101AがInitiatorとなる場合における、上述した伝送遅延時間T11,T12、およびResponderである機能部111Aにおける、上述した伝送遅延時間T21,T22を含む遅延時間情報を示すテーブルStaが保存されている。
【0080】
すなわち、遅延時間情報は、スイッチ装置101Aの計測基準位置X1から外部すなわちスイッチ装置101Aの出力端までの伝送遅延時間(第3伝送遅延時間)T11、スイッチ装置101Aの外部すなわちスイッチ装置101Aの入力端からスイッチ装置101Aの計測基準位置X1までの伝送遅延時間(第1伝送遅延時間)T12、機能部111Aの外部すなわち機能部111Aの入力端から機能部111Aの計測基準位置X2までの伝送遅延時間(第2伝送遅延時間)T21、および機能部111Aの計測基準位置X2から外部すなわち機能部111Aの出力端までの伝送遅延時間(第4伝送遅延時間)T22を含む。
【0081】
なお、
図1に示す車載通信システム301では、機能部111Bおよびスイッチ装置101A間において、機能部111BがInitiatorであり、スイッチ装置101AがResponderである。また、機能部111Cおよびスイッチ装置101A間において、機能部111CがInitiatorであり、スイッチ装置101AがResponderである。また、機能部111Dおよびスイッチ装置101A間において、機能部111DがInitiatorであり、スイッチ装置101AがResponderである。
【0082】
また、スイッチ装置101Bおよびスイッチ装置101A間において、スイッチ装置101BがInitiatorであり、スイッチ装置101AがResponderである。また、機能部111Eおよびスイッチ装置101B間において、機能部111EがInitiatorであり、スイッチ装置101BがResponderである。また、機能部111Fおよびスイッチ装置101B間において、機能部111FがInitiatorであり、スイッチ装置101BがResponderである。
【0083】
このように、スイッチ装置101Aは、通信ポート54Aを介する機能部111Aとの間のデータの送受信においてInitiatorとなる。また、スイッチ装置101Aは、通信ポート54B~54Dをそれぞれ介する機能部111B~111Dとの間のデータの送受信、および通信ポート54Eを介するスイッチ装置101Bとの間のデータの送受信において、Responderとなる。
【0084】
図6に示すテーブルStaは、スイッチ装置101Aにおける5つの通信ポート54A~54Eのうち、スイッチ装置101AがInitiatorとなる場合に用いられる通信ポート54Aの遅延時間情報、すなわち通信ポート54Aを介するデータの送受信に関する遅延時間情報を示す。
【0085】
(伝搬遅延時間Td1の補正)
スイッチ装置101Aにおける補正部64は、たとえば、記憶部53に保存されているテーブルStaの示す遅延時間情報を参照して、処理部63により算出された伝搬遅延時間Td1を補正する。
【0086】
より詳細には、以下の式(5)に示すように、伝搬遅延時間Td1から補正値Cvを減算した値が、スイッチ装置101Aから機能部111Aへメッセージを送信する際における伝搬遅延時間Ttxであるとする。また、以下の式(6)に示すように、伝搬遅延時間Td1に補正値Cvを加算した値が、機能部111Aからスイッチ装置101Aへメッセージを送信する際における伝搬遅延時間Ttrであるとする。
Ttx=Td1-Cv ・・・(5)
Ttr=Td1+Cv ・・・(6)
【0087】
この場合、補正値Cvは、以下の式(7)により表される。
Cv=Td1-Ttx
={(T11+Tk1+T21)+(T22+Tk1+T12)}/2-(T11+Tk1+T21)
={(T22-T11)+(T12-T21)}/2 ・・・(7)
【0088】
補正部64は、たとえば式(7)を用いて補正値Cvを算出し、伝搬遅延時間Td1の補正として、伝搬遅延時間Td1から補正値Cvを減算する。そして、補正部64は、補正後の伝搬遅延時間(Td1-Cv)である伝搬遅延時間Ttxを、機能部111Aへのデータの送信時における伝搬遅延時間として処理部63に通知する。
【0089】
また、補正部64は、伝搬遅延時間Td1の補正として、伝搬遅延時間Td1に補正値Cvを加算する。そして、補正部64は、補正後の伝搬遅延時間(Td1+Cv)である伝搬遅延時間Ttrを、機能部111Aからのデータの受信時における伝搬遅延時間として処理部63に通知する。
【0090】
処理部63は、補正部64から通知された伝搬遅延時間Ttx,Ttrを記憶部53に保存する。また、処理部63は、たとえば、
図4に示す、制御部62から通知されたSyncメッセージの機能部111Aにおける送信時刻tm1、および記憶部53に保存されている当該Syncメッセージの受信時刻ty1に加えて、さらに、記憶部53に保存されている伝搬遅延時間Ttrを用いて、機能部111Aの時刻とスイッチ装置101Aの時刻との時刻差D1を算出する。
【0091】
具体的には、処理部63は、時刻差D1=tm1+Ttr-ty1を算出する。そして、処理部63は、算出した時刻差D1を用いて、自己のスイッチ装置101Aにおける時刻を補正することにより、機能部111Aとの時刻同期を確立させる。
【0092】
なお、処理部63は、伝搬遅延時間Ttrを用いる代わりに、伝搬遅延時間Ttxを用いて時刻同期を行ってもよい。たとえば、処理部63は、スイッチ装置101Aから機能部111Aへのメッセージのスイッチ装置101Aにおける送信時刻、当該メッセージの機能部111Aにおける受信時刻、および記憶部53に保存されている伝搬遅延時間Ttxを用いて、機能部111Aの時刻とスイッチ装置101Aの時刻との時刻差D1を算出してもよい。
【0093】
また、遅延時間情報は、伝送遅延時間T11,T12,T21,T22を含む構成に限らない。たとえば、遅延時間情報は、スイッチ装置101Aおよび機能部111Aの各々のデータの受信時における伝送遅延時間T12,T21の第1の組を含み、スイッチ装置101Aおよび機能部111Aの各々のデータの送信時における伝送遅延時間T11,T22の第2の組を含まなくてもよい。また、たとえば、遅延時間情報は、上記の第2の組を含み、かつ上記の第1の組を含まなくてもよい。
【0094】
ここで、車載装置において、データの送信時における伝送遅延時間と比較して、データの受信時における伝送遅延時間の方が長くなることが多い。すなわち、上記の第2の組に含まれる伝送遅延時間T11,T22よりも上記の第1の組に含まれる伝送遅延時間T12,T21の方が、伝搬遅延時間の長さに大きく影響する場合がある。この場合、遅延時間情報は、第1の組を含む構成であることが好ましい。
【0095】
[スレーブ側の機能部]
図7は、本開示の実施の形態に係るスレーブ側の機能部の構成を示す図である。ここでは、機能部111Bの構成について説明する。機能部111C~111Fの構成は、機能部111Bの構成と同様である。
【0096】
図7を参照して、スレーブ側の機能部111Bは、通信部81Bと、時刻同期部82Bと、記憶部83Bと、通信ポート84Bとを備える。通信部81Bおよび時刻同期部82Bは、たとえば、CPUおよびDSP等のプロセッサにより実現される。記憶部83Bは、たとえば不揮発性メモリである。
【0097】
時刻同期部82Bは、処理部91Bと、補正部92Bとを含む。通信ポート84Bは、機能部111Bの入力端および出力端に相当し、たとえばイーサネットケーブル10を接続可能な端子である。なお、通信ポート84Bは、集積回路の端子等であってもよい。通信ポート84Bは、イーサネットケーブル10を介してスイッチ装置101Aに接続されている。
【0098】
(スイッチ装置およびスレーブ側の機能部間のデータの伝搬遅延時間の算出)
機能部111Bは、スイッチ装置101Aと機能部111Bとの間のデータの伝搬遅延時間Td2を計測する。
【0099】
より詳細には、機能部111Bにおける処理部91Bは、定期的または不定期に、スイッチ装置101Aおよび機能部111B間のデータの伝搬遅延時間Td2を算出し、記憶部83Bに保存されている伝搬遅延時間Td2を、新たに算出した伝搬遅延時間Td2に更新する。処理部91Bにより伝搬遅延時間Td2の算出方法は、
図4を用いて説明したスイッチ装置101Aにおける処理部63による伝搬遅延時間Td1の算出方法と同様である。
【0100】
(スレーブ側の機能部およびスイッチ装置間におけるデータの伝送遅延時間)
(a)InitiatorからResponderへのデータの送信時
図8は、本開示の実施の形態に係るスレーブ側の機能部およびスイッチ装置の各々におけるデータの伝送遅延時間を説明するための図である。
【0101】
図8を参照して、Initiator側である機能部111Bは、MAC処理部M21と、PHY処理部P21とを備える。MAC処理部M21は、MACレイヤの処理を行うICチップCM21を含む。PHY処理部P21は、PHYレイヤの処理を行うICチップCP21を含む。ICチップCM21は、たとえば、
図7に示す通信部81Bの機能の一部をさらに担う。
【0102】
機能部111Bにおける計測基準位置X3は、ICチップCM21およびICチップCP21間、具体的には、ICチップCM21およびICチップCP21間における、プリント基板の配線等のデータの伝送経路L3と、ICチップCM21との境界付近に位置しているとする。
【0103】
また、Responder側であるスイッチ装置101Aは、通信ポート54Bに対応する、MAC処理部M22と、PHY処理部P22とを備える。MAC処理部M22は、MACレイヤの処理を行うICチップCM22を含む。PHY処理部P22は、PHYレイヤの処理を行うICチップCP22を含む。ICチップCM22は、たとえば、
図2に示す制御部62の機能の一部をさらに担う。
【0104】
スイッチ装置101Aにおける通信ポート54Bに対応する計測基準位置X4は、ICチップCM22およびICチップCP22間、具体的には、ICチップCM22およびICチップCP22間における、プリント基板の配線等のデータの伝送経路L4と、ICチップCM22との境界付近に位置しているとする。
【0105】
機能部111Bがスイッチ装置101Aへデータを送信する場合、ICチップCM21は、当該データが計測基準位置X3を通過する時刻、すなわち当該データをICチップCP21へ出力する送信時刻をタイムスタンプとして記憶部83Bに保存する。そして、ICチップCP21は、ICチップCM21から受けたデータに対するPHYレイヤの処理を行い、通信ポート84Bを介して当該データを機能部111Bの外部へ出力する。ICチップCM21がデータの送信時刻を保存してから、当該データが機能部111Bの外部へ出力されるまで、すなわち機能部111Bの出力端から出力されるまでの伝送遅延時間を「T31」とする。
【0106】
スイッチ装置101Aが機能部111Bからのデータを受信する場合、ICチップCP22は、通信ポート54Bを介して外部から受信した当該データに対するPHYレイヤの処理を行い、ICチップCM22へ出力する。ICチップCM22は、ICチップCP22からデータが計測基準位置X4を通過した時刻、すなわち当該データをICチップCP22から受けた受信時刻をタイムスタンプとして記憶部53に保存する。スイッチ装置101Aが入力端において外部からのデータを受信してから、ICチップCM22が当該データの受信時刻を保存するまでの伝送遅延時間を「T41」とする。
【0107】
(b)ResponderからInitiatorへのデータの送信時
スイッチ装置101Aが機能部111Bへデータを送信する場合、ICチップCM22は、当該データが計測基準位置X4を通過する時刻、すなわち当該データをICチップCP22へ出力する送信時刻をタイムスタンプとして記憶部53に保存する。そして、ICチップCP22は、ICチップCM22から受けたデータに対するPHYレイヤの処理を行い、通信ポート54Bを介して当該データをスイッチ装置101Aの外部へ出力する。ICチップCM22がデータの送信時刻を保存してから、当該データがスイッチ装置101Aの外部へ出力されるまで、すなわちスイッチ装置101Aの出力端から出力されるまでの伝送遅延時間を「T42」とする。
【0108】
機能部111Bがスイッチ装置101Aからのデータを受信する場合、ICチップCP21は、通信ポート84Bを介して外部から受信した当該データに対するPHYレイヤの処理を行い、ICチップCM21へ出力する。ICチップCM21は、ICチップCP21からのデータが計測基準位置X3を通過する時刻、すなわち当該データをICチップCP21から受けた受信時刻をタイムスタンプとして記憶部83Bに保存する。機能部111Bが入力端において外部からのデータを受信してから、ICチップCM21が当該データの受信時刻を保存するまでの伝送遅延時間を「T32」とする。
【0109】
(伝送時間テーブルの保持)
図9は、本開示の実施の形態に係るスレーブ側の機能部における記憶部に保存されている遅延時間情報の一例を示す図である。
【0110】
図7から
図9を参照して、機能部111Bにおける記憶部83Bには、自己の機能部111BがInitiatorとなる場合における、上述した伝送遅延時間T31,T32、およびResponderであるスイッチ装置101Aにおける、上述した伝送遅延時間T41,T42を含む遅延時間情報を示すテーブルStbが保存されている。
【0111】
(伝搬遅延時間Td2の補正)
機能部111Bにおける補正部92Bは、たとえば、記憶部83Bに保存されているテーブルStbの示す遅延時間情報を参照して、処理部91Bにより算出された伝搬遅延時間Td2を補正する。
【0112】
より詳細には、補正部92Bは、スイッチ装置101Aにおける補正部64と同様に、補正値Cvを算出し、伝搬遅延時間Td2の補正として、伝搬遅延時間Td2から補正値Cvを減算する。そして、補正部92Bは、補正後の伝搬遅延時間(Td2-Cv)である伝搬遅延時間Ttxを、スイッチ装置101Aへのメッセージの送信時における伝搬遅延時間として処理部91Bに通知する。
【0113】
また、補正部92Bは、伝搬遅延時間Td2の補正として、伝搬遅延時間Td2に補正値Cvを加算する。そして、補正部64は、補正後の伝搬遅延時間(Td2+Cv)である伝搬遅延時間Ttrを、スイッチ装置101Aからのメッセージの受信時における伝搬遅延時間として処理部91Bに通知する。
【0114】
処理部91Bは、補正部92Bから通知された伝搬遅延時間Ttx,Ttrを記憶部83Bに保存する。また、処理部91Bは、たとえば、Syncメッセージのスイッチ装置101Aにおける送信時刻tm2、および当該Syncメッセージの受信時刻ty2に加えて、さらに、伝搬遅延時間Ttrを用いて、スイッチ装置101Aの時刻と機能部111Bの時刻との時刻差D2を算出する。
【0115】
具体的には、処理部91Bは、時刻差D2=tm2+Ttr-ty2を算出し、算出した時刻差D2を用いて、自己の機能部111Bにおける時刻を補正することにより、スイッチ装置101Aとの時刻同期を確立させる。
【0116】
ここで、マスター側の機能部111Aとスイッチ装置101Aとの時刻同期が確立されている場合、スイッチ装置101Aから機能部111Bへ送信されるフォローアップメッセージに含まれる時刻は、機能部111Aに同期した時刻である。このため、機能部111Bにおける処理部91Bが時刻補正を行うことにより、機能部111Bとスイッチ装置101Aとの時刻同期が確立し、その結果、機能部111Bと機能部111Aとの時刻同期が確立する。
【0117】
なお、
図1に示す車載通信システム301では、InitiatorおよびResponderのうちの少なくとも一方がスイッチ装置101であるが、このような構成に限定されない。すなわち、InitiatorおよびResponderの両方が機能部111であってもよい。
【0118】
また、車載通信システム301では、マスター側の機能部111Aは、他の車載装置との関係においてInitiatorとならないため、遅延時間情報を保持していない。しかしながら、機能部111Aは、このような構成に限らず、たとえば、通信ポート84Aの遅延時間情報を保持してもよい。
【0119】
<動作の流れ>
次に、車載通信システム301において、Initiatorとなる車載装置が、Responderとなる車載装置との時刻同期を行う際の動作について図面を用いて説明する。
【0120】
車載通信システム301における各装置は、メモリを含むコンピュータを備え、当該コンピュータにおけるCPU等の演算処理部は、以下のフローチャートの各ステップの一部または全部を含むプログラムを当該メモリから読み出して実行する。これら複数の装置のプログラムは、それぞれ、外部からインストールすることができる。これら複数の装置のプログラムは、それぞれ、記録媒体に格納された状態でまたは通信回線を介して流通する。
【0121】
図10は、本開示の実施の形態に係る車載装置が、他の車載装置との時刻同期を行う際の動作手順を定めたフローチャートである。ここでは、一例として、スイッチ装置101Aがマスター側の機能部111Aとの時刻同期を行う際の動作手順について説明する。
【0122】
図10を参照して、まず、処理部63は、時刻情報を要求するための要求メッセージを、中継部51および通信ポート54A経由で機能部111Aへ送信する。また、制御部62は、要求メッセージの送信時刻t1をタイムスタンプとして記憶部53に保存する(ステップS101)。
【0123】
次に、制御部62は、機能部111Aから送信された応答メッセージを通信ポート54A経由で受信し、当該応答メッセージに含まれる、機能部111Aにおける要求メッセージの受信時刻t2を処理部63に通知する(ステップS102)。
【0124】
次に、制御部62は、機能部111Aから送信されたフォローアップメッセージを通信ポート54A経由で受信し、当該フォローアップメッセージに含まれる、機能部111Aにおける応答メッセージの送信時刻t3を処理部63に通知する。また、制御部62は、応答メッセージの受信時刻t4をタイムスタンプとして記憶部53に保存する(ステップS103)。
【0125】
次に、処理部63は、制御部62から通知された時刻t2,t3、および記憶部53に保存されている時刻t1,t4に基づいて、機能部111Aおよびスイッチ装置101A間のデータの伝搬遅延時間Td1を算出する(ステップS104)。
【0126】
次に、補正部64は、記憶部53に保存されているテーブルStaの示す遅延時間情報を参照して、処理部63により算出された伝搬遅延時間Td1を補正し、補正後の伝搬遅延時間を処理部63に通知する(ステップS105)。
【0127】
次に、処理部63は、補正部64により通知された補正後の伝搬遅延時間に基づいて、機能部111Aの時刻とスイッチ装置101Aの時刻との時刻差D1を算出する(ステップS106)。そして、処理部63は、算出した時刻差D1を用いて、自己のスイッチ装置101Aにおける時刻を補正する。これにより、機能部111Aとスイッチ装置101Aとの時刻同期が確立する(ステップS107)。
【0128】
上記実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0129】
以上の説明は、以下に付記する特徴を含む。
[付記1]
車載装置であって、
自己の前記車載装置である自装置における、外部から、データの受信時刻の計測基準位置までの第1伝送遅延時間と、他の車載装置である他装置における、外部から、データの受信時刻の計測基準位置までの第2伝送遅延時間との第1の組、または、前記自装置におけるデータの送信時刻の計測基準位置から外部までの第3伝送遅延時間と、前記他装置におけるデータの送信時刻の計測基準位置から外部までの第4伝送遅延時間との第2の組を含む遅延時間情報を記憶する記憶部と、
時刻同期用の情報を前記他装置との間で送受信することにより、前記自装置と前記他装置との間の伝搬遅延時間を計測する処理部と、
前記記憶部に保存されている前記遅延時間情報に基づいて、前記処理部により計測された前記伝搬遅延時間を補正する補正部と、
前記補正部による補正後の前記伝搬遅延時間に基づいて、前記自装置と前記他装置との間における時刻同期を行う時刻同期部とを備え、
前記処理部は、IEEE802.1の規格に従い、前記伝搬遅延時間を計測し、
前記遅延時間情報は、前記第1の組および前記第2の組の両方を含み、
前記補正部は、前記第4伝送遅延時間と前記第3伝送遅延時間との差、および前記第1伝送遅延時間と前記第2伝送遅延時間との差を用いて補正値を算出し、前記伝搬遅延時間の補正として、前記伝搬遅延時間に前記補正値を加算するか、または前記伝搬遅延時間から前記補正値を減算する、車載装置。
【0130】
[付記2]
第1車載装置と、
第2車載装置とを備え、
前記第1車載装置は、前記第1車載装置における、外部から、データの受信時刻の計測基準位置までの第1伝送遅延時間と、前記第2車載装置における、外部から、データの受信時刻の計測基準位置までの第2伝送遅延時間との第1の組、または、前記第1車載装置におけるデータの送信時刻の計測基準位置から外部までの第3伝送遅延時間と、前記第2車載装置におけるデータの送信時刻の計測基準位置から外部までの第4伝送遅延時間との第2の組を含む遅延時間情報を記憶し、
前記第1車載装置は、時刻同期用の情報を前記第2車載装置との間で送受信することにより、前記第2車載装置との間のデータの伝搬遅延時間を計測し、記憶している前記遅延時間情報に基づいて、計測した前記伝搬遅延時間を補正し、補正後の前記伝搬遅延時間に基づいて前記第2車載装置との間における時刻同期を行い、
前記第1車載装置は、複数の車載装置間におけるデータを中継可能なスイッチ装置であり、
前記第2車載装置は、前記自装置および前記他装置を含む車載通信システムにおける基準時刻を保持しているマスター側の機能部であり、
さらに、前記第1車載装置に接続される第3車載装置を備え、
前記第3車載装置は、前記第3車載装置における、外部から、データの受信時刻の計測基準位置までの第5伝送遅延時間と、前記第1車載装置における、外部から、データの受信時刻の計測基準位置までの第6伝送遅延時間との第3の組、または、前記第3車載装置におけるデータの送信時刻の計測基準位置から外部までの第7伝送遅延時間と、前記第1車載装置におけるデータの送信時刻の計測基準位置から外部までの第8伝送遅延時間との第4の組を含む遅延時間情報を記憶し、
前記第3車載装置は、時刻同期用の情報を前記第1車載装置との間で送受信することにより、前記第1車載装置との間のデータの伝搬遅延時間を計測し、記憶している前記遅延時間情報に基づいて、計測した前記伝搬遅延時間を補正し、補正後の前記伝搬遅延時間に基づいて前記第1車載装置との間における時刻同期を行う、車載通信システム。
【符号の説明】
【0131】
1 車両
10 イーサネットケーブル
51 中継部
52,82A,82B 時刻同期部
53,83A,83B 記憶部
54,54A~54H,84A~84F 通信ポート
61 スイッチ部
62 制御部
63,91B 処理部
64,92B 補正部
81A,81B 通信部
101,101A,101B スイッチ装置
111,111A~111F 機能部
301 車載通信システム
CM11,CP11,CM12,CP12 ICチップ
CM21,CP21,CM22,CP22 ICチップ
M11,M12,M21,M22 MAC処理部
P11,P12,P21,P22 PHY処理部
X1~X4 計測基準位置
L1~L4 伝送経路
Sta,Stb テーブル