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特開2023-93577昆虫細胞における向上したAAVカプシド産生
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093577
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】昆虫細胞における向上したAAVカプシド産生
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/864 20060101AFI20230627BHJP
   C12N 15/35 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N15/35 ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023064782
(22)【出願日】2023-04-12
(62)【分割の表示】P 2020500898の分割
【原出願日】2018-07-20
(31)【優先権主張番号】17182429.5
(32)【優先日】2017-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】511185106
【氏名又は名称】ユニキュアー アイピー ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100217157
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 梨沙
(72)【発明者】
【氏名】デュ プレッシス, ダヴィッド ヨハンネス フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】テルブレイク, オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】ボスマ, セバスチャン メノ
(72)【発明者】
【氏名】ペトリ, ハラルド ピーター アルバート
(72)【発明者】
【氏名】ルベルスキ, ヤツェク
(57)【要約】      (修正有)
【課題】昆虫細胞において非常に効率的に産生され得るアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)を提供する。
【解決手段】オープンリーディングフレームを含むヌクレオチド配列の昆虫細胞における発現のための発現制御配列を含む核酸構築物であって、オープンリーディングフレーム配列が、i)AAVカプシドタンパク質VP1、VP2、及びVP3、並びにii)VP1に対するATG翻訳開始コドンをコードし、ヌクレオチド配列が、オープンリーディングフレームの上流に、オープンリーディングフレームと読み枠がずれている代替スタートコドンを含む、核酸構築物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オープンリーディングフレームを含むヌクレオチド配列の昆虫細胞における発現のための発現制御配列を含む核酸構築物であって、前記オープンリーディングフレーム配列が、
i)アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質VP1、VP2、及びVP3、並びに
ii)VP1に対するATG翻訳開始コドン
をコードし、前記ヌクレオチド配列が、前記オープンリーディングフレームの上流に、前記オープンリーディングフレームと読み枠がずれている代替スタートコドンを含む、核酸構築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昆虫細胞におけるアデノ随伴ウイルスの産生、及び向上した感染力を提供するアデノ随伴ウイルスに関する。本発明は、アデノ随伴ウイルスベクターライブラリーを伴う手段及び方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、ヒト遺伝子療法のための最も有望なウイルスベクターの1つと考えることができる。AAVは、分裂並びに非分裂ヒト細胞に効率的に感染する能力を有し、AAVウイルスゲノムは、宿主細胞のゲノムにおける単一の染色体部位に組み込まれ、最も重要なことには、たとえAAVが多くのヒトに存在しているとしても、AAVはいかなる疾患とも関連付けられたことがない。これらの利点を考慮して、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)は、血友病B、悪性黒色腫、嚢胞性線維症、及び他の疾患に対する遺伝子療法臨床試験において評価されているところである。アリポジーンチパルボベック(Alipogene tiparvovec)(グリベラ(Glybera)(登録商標)、uniQure)など、欧州における遺伝子療法医薬の数々の臨床試験及び認可は、AAVが臨床実践の主流(main stay)になる見込みを秘めている。
【0003】
一般的に、組み換えAAVのための2つの主なタイプの産生システムがある。一方では、哺乳類細胞タイプ(293細胞、COS細胞、HeLa細胞、KB細胞など)における従来の産生システムがあり、他方では、昆虫細胞を用いた産生システムがある。
【0004】
哺乳類産生システムはいくつかの欠点に悩まされており、欠点には、細胞あたり作出されるrAAV粒子の限定された数(10個粒子の桁)(Clark、2002、Kidney Int.61(補足1):9~15において総説されている)及び煩雑な大規模製造が含まれることがある。臨床研究に関しては、1015個粒子を上回る数のrAAVが要されることがある。この数のrAAV粒子を産生するためには、5,000個の175cmフラスコの細胞と等価であるおよそ1011個の培養ヒト293細胞を用いたトランスフェクション及び培養が要されると考えられ、それは最高で1011個の293細胞にトランスフェクトすることを意味する。それ故、臨床試験のための材料を獲得するための、哺乳類細胞培養システムを用いたrAAVの大規模産生は問題があることがすでに証明されており、大きな商業規模での産生は実現可能でさえないことがある。さらに、哺乳類細胞培養において産生される臨床使用のためのベクターは、哺乳類宿主細胞に存在する、望ましくないおそらく病原性の材料で汚染されるという危険性が常にある。
【0005】
哺乳類産生システムのこれらの問題を克服するために、昆虫細胞を用いたAAV産生システムが開発されている(Urabeら、2002、Hum.Gene Ther.13:1935~1943;米国特許出願公開第20030148506号;及び米国特許出願公開第20040197895号)。野生型ウイルス由来のAAV野生型カプシドは、約60個のカプシドタンパク質、すなわち約1:1:10の化学量論のVP1、VP2、及びVP3からなる。理論によって拘束されることなく、化学量論は、組み換えAAVの優れた効力、すなわち優れた形質導入を達成するために重要であると思われる。野生型ウイルスにおいて、すなわち哺乳類細胞において、3種のAAVカプシドタンパク質(VP1、VP2、及びVP3)の約1:1:10の化学量論を達成することは、2つのスプライスアクセプター部位の交互使用の組み合わせ、及びVP2に対するACG開始コドンのそれほど最適ではない利用に依存する。しかしながら、昆虫細胞におけるAAVの産生に関して、発現ストラテジーは、それが哺乳類細胞において生じるようには昆虫細胞において再現されないため、改変が必要であった。昆虫細胞におけるカプシドタンパク質の向上した産生を獲得するために、Urabeら(2002、前出)は、スプライシングを要することなく3種すべてのVPタンパク質を発現し得る単一のポリシストロン性メッセンジャーに転写され、最初の翻訳開始コドンがACGコドンによって置き換えられている構築物を用いた。国際公開第2007/046703号は、昆虫細胞におけるAAVカプシドタンパク質の比率をさらに最適化することによる、バキュロウイルスにより産生されるrAAVベクターの感染力のさらなる向上を開示している。
【0006】
Urabeら(J.Virol.、2006、80(4):1874~1885)は、VP1カプシドタンパク質の開始コドンとしてACGを用いたバキュロウイルスシステムにおいて産生されたAAV5粒子が不十分な形質導入効率又は効力を有すること、及びACG開始コドンから発現されるVP1を有するAAV2とは対照的に、AAV5 VP1コード配列における+4位置をG残基に変異させることが感染力を向上させなかったことを報告した。Urabeらは、AAV5 VP1の少なくとも49個のアミノ酸のN末端部分が、AAV2 VP1の相当する部分と置き換えられたキメラAAV2/5 VP1タンパク質を構築し、そのキメラタンパク質はビリオンの形質導入特性を向上させた。
【0007】
さらなる手法では、AAVカプシドコード配列において、準最適な(ATG以外の)翻訳開始コドンと、野生型カプシドアミノ酸配列の位置2におけるアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基をコードするコドンとの間に1つ又は複数のアミノ酸残基を挿入することによって、AAVカプシドタンパク質の発現が向上した(Lubelskiら、国際公開第2015137802号)。
【0008】
医学的治療における使用のためのAAV遺伝子療法ベクターの製造のための、カプシドの昆虫細胞に基づく産生の向上にもかかわらず、AAVカプシド産生をさらに向上させる必要性、及び向上したAAVカプシド構築物を昆虫細胞における発現について選択する新たな方法を提供する必要性が依然としてある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、AAVカプシドが、重複するリーディングフレームからのVP1、VP2、及びVP3タンパク質に対する転写産物をコードする発現構築物であって、VP1がAUG開始コドンから翻訳される発現構築物から、昆虫細胞において非常に効率的に産生され得ることを驚くべきことに見い出した。ATG開始コドンを含有する先行技術の構築物は、約1:1:10という野生型AAVにおいて観察されるようなVP1:VP2:VP3の比率をもたらさず、それ故、理論によって拘束されることなく、強力なAAVを産生しない。本発明において同定された発現構築物は、医学的治療における使用のための、かなりの分量の非常に強力なAAV遺伝子療法ベクターの昆虫細胞における効率的な産生を可能にする。そのようなベクターは、CTG又はGTGなどの代替スタートコドンから産生されるAAV遺伝子療法ベクターよりも効力及び分量に関して向上したとまではいかないとしても、少なくとも同程度である(図4を参照されたい)。
【0010】
したがって、本発明の構築物は、VP1スタートコドンにおける翻訳開始の低下を一見もたらすVP1 ATGスタートコドンから5’に付加的なアウトオブフレームスタートコドンを含有し、VP1、VP2、及びVP3の十分な分量の翻訳を可能にする。理論によって拘束されることなく、そのような構築物は、VP1、VP2、及びVP3アミノ酸配列が野生型ウイルスにおいて見い出されるように、VP1、VP2、及びVP3アミノ酸配列の発現を可能にし得る。
【0011】
実施例において示されるように、そのような構築物は、昆虫細胞に対してAAVカプシド発現構築物のライブラリーを用いることによって同定された。昆虫細胞におけるAAVカプシドの非常に効率的な産生を第一に要し、及び選択された標的細胞で高度に感染性であることを第二に要して、構築物を選択した。したがって、本発明者らは、向上した特性、例えば向上した産生及び/又は向上した感染力を有するAAVカプシド発現構築物を提供する非常に効率的な選択法も提供する。
【0012】
したがって、本発明における第1の態様において、オープンリーディングフレームを含むヌクレオチド配列の昆虫細胞における発現のための発現制御配列を含む核酸構築物であって、前記オープンリーディングフレーム配列は、
i)アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質VP1、VP2、及びVP3;並びに
ii)VP1に対するAUG翻訳開始コドン
をコードし、前記ヌクレオチド配列は、オープンリーディングフレームの上流に、オープンリーディングフレームと読み枠がずれている代替スタートコドンを含む、核酸構築物が提供される。言い換えれば、代替スタートコドンは、スタートコドンの3N+1又は3N+2ヌクレオチド上流にあることが好ましい。
【0013】
別の態様において、本発明は、昆虫細胞における産生のための、パルボウイルスカプシドタンパク質をコードする核酸構築物を提供するための方法であって、前記核酸構築物は1つ又は複数の向上した特性を有し、方法は、
a)複数の核酸構築物を提供するステップであって、各構築物は、発現制御配列に作動的に連結されたパルボウイルスカプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列、及び発現制御配列に作動的に連結されたパルボウイルスカプシドタンパク質をコードする前記ヌクレオチド配列に隣接する少なくとも1つのパルボウイルス逆位末端反復(ITR)配列を含む、ステップ;
b)前記複数の核酸構築物を、パルボウイルスRepタンパク質を発現し得る昆虫細胞に移入するステップ;
c)前記昆虫細胞を、パルボウイルスカプシドタンパク質及びパルボウイルスrepタンパク質の発現を可能にする条件に供し、それにより、前記核酸構築物はパルボウイルスカプシドにパッケージされてパルボウイルスビリオンを提供し得るステップ;
d)前記昆虫細胞及び/又は昆虫細胞上清からパルボウイルスビリオンを回収するステップ;
e)前記パルボウイルスビリオンと標的細胞とを接触させて、標的細胞の感染を可能にするステップ;
f)前記標的細胞から前記核酸構築物を回収するステップ
を含む、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ライブラリー作出及び選択工程の概略的表示である。(a)まず、DNAライブラリーが提供されている。この特定の例において、発現構築物のライブラリーは、AAV5 VP1に対する多様なスタートコドン(XXX)を有し、選択された位置(N)にランダムなヌクレオチドを有し(配列番号71)、そのような構築物の例が列挙されている(1は配列番号1であり;2は配列番号63であり;nは配列番号65である);(b)DNAライブラリーは、AAV5 VP1、VP2、及びVP3のカプシドタンパク質(Cap(VP123))の発現のためのプロモーター(P)を有する発現カセットを有するベクター構築物に移入され、前記発現カセットは、AAVカプシドにおけるカプシド化を可能にする2つのAAV逆位末端反復(ITR)によって隣接されている。また、Rep52及びRep78に対する発現カセット(複数可)が提供されている;(c)前記Cap及びRep構築物は、その後昆虫細胞に、この例ではSf9細胞に移入される。移入は、感染多重度(multiplicity of infection)を制御することが可能であるバキュロウイルスベクターを介したものであり得る;(d)したがって、昆虫細胞において、発現されるRep52及びRep78タンパク質は、カプシド発現カセットを含有するAAVベクターゲノムを複製し及びカプシド化する。述べられているように、バキュロウイルスベクターが用いられる場合、感染多重度はよく制御され得、この感染多重度は好ましくはCap構築物に対して1より下に保たれて、Sf9細胞あたり平均で1つのみのライブラリーメンバーを有して交差パッケージングを回避する。カプシドを有効に産生するCap発現カセットのみがベクターゲノムをカプシド化すると考えられる;(e)次に、ベクターゲノムを含有するカプシドは、感染力、すなわち標的細胞へのベクターゲノムの効率的な移入について試験される。ベクターゲノムを有するベクター粒子は例えば非感染性であり得るが、一方でベクターゲノム及び約1:1:10のVP1:VP2:VP3比を有するベクター粒子は高度に感染性である。この例では、AAVベクターゲノムを複製もし得るHeLaRC32細胞株が用いられている。標的細胞から、ベクターゲノムはその後同定され得る。例えば、(a)に示される様々な配列を含有するベクターゲノム配列又はその一部が決定され得る。代替的に、識別子配列を決定して、標的細胞の感染に成功している(a)のライブラリーメンバーを同定し得る。 したがって、組み合わせると、ステップ(c)及び(e)により、昆虫細胞における効率的な産生を可能にし、標的細胞で感染性ビリオンを産生するカプシド発現構築物を選択することが可能となる。集団を支配する選択された発現構築物は、特に適切な候補であることがある。選択された候補発現構築物(隣接するITRなし)を、その後、例えばバキュロウイルスベクターにおいて用いて又は細胞株に挿入して、AAV遺伝子療法ベクターを産生し得る。
図2A】これらのプロットでは、特定のスタートコドンを有するライブラリーメンバー(x軸)のパーセンテージ(y軸)が、選択工程の各段階で示されている;A)このプロットは、AAV ITRによって隣接された発現カセットを有する、作製されたプラスミドDNAライブラリーのスタートコドンの分布を示している。普及率は約4%~約8%の間で様々である。
図2B】B)このプロットは、AAV ITRによって隣接された挿入された発現カセットを有する、作製されたバキュロウイルスライブラリーのスタートコドンの分布を示している。普及率は約4%~約9%の間で様々であり、このライブラリーの分布プロファイルはプラスミドライブラリーに非常に類似していることに留意されたい。
図2C】C)このプロットは、図2B)のバキュロウイルスライブラリーから作製されたAAVライブラリーに含有されるスタートコドンの分布を示している。スタートコドンの分布は、1つの例外として、すなわち0.5%をはるかに下回る普及率を有するATGスタートコドンを除いて、約4%~9%に及び、バキュロウイルスライブラリーに非常に類似していることに留意されたい。
図2D】D)このプロットは、図2C)のAAVライブラリーを感染させた細胞におけるAAVベクターゲノムに含有されるスタートコドンの分布を示している。スタートコドンの分布は、ここでは非常に異なることに留意されたい。CTG及びGTGは、約50%の普及率を有する最も普及しているスタートコドンである。AAVライブラリーにおいてあまり表されなかったATGスタートコドンは、ここでは約8%の普及率を有し、一方で残りのスタートコドンは、約1%~3%の普及率を有した。
図2E】E)このプロットは、図2A)~D)のそれぞれのプロットを統合している。AAVライブラリーに関するATGコドンに対する下落、並びに細胞ライブラリーにおけるCTG、GTG、及びATGに対するピークに留意されたい。
図3】選択された配列(ATG1、ATG2等)を、その後AAV5カプシドの発現のためのバキュロウイルスベクターにクローニングした。バキュロウイルスベクターのクローンを、その後SDS-PAGEによって解析して、VP1:VP2:VP3比を査定した。CTG1は良好なクローンを産生しなかったが、一方でCTG2及びGTG2は産生し、以前に示されている化学量論を呈した(Lubelskiら、国際公開第2015137802号)。TAGクローンは低い力価をもたらし、TGAクローンはVP1を産生しないように見えた。ATG1及びATG2が、CTG2に類似した化学量論を有する良好なクローンを産生したことは驚きである。
図4】AAV効力アッセイのグラフである。CMVプロモーターの制御下における、SEAPレポーター遺伝子を保持する種々のAAVベクターの相対的効力を、Huh7細胞(A)及びHeLa細胞(B)において試験した。細胞に種々の感染多重度(細胞あたり10、10、10ゲノムコピーのAAV(gc))で感染させ、SEAPレポーター遺伝子の発現を判定した。ATG1構築物は最も強力なベクターをもたらし、一方でATG2、CTG2、及びGTG2は類似したプロファイルを有し、一方でTGAは有意に力が弱く、その理由はTGAがVP1タンパク質を全く含有しなかった又はほとんど含有しなかったためである。GTG1 AAVベクターは、低い力価のgc/mlをもたらし、したがって、10のMOIでの感染を可能にしなかった。
図5】効率的なAAVカプシドタンパク質発現のためのATG配列文脈の略図である。A)上側のボックスは、左から右に、VP1に対するオープンリーディングフレームにおけるコドンを示している。VP1スタートコドンを有するボックスは、「ATG」を含有する。下側のボックスは、VP1に対するオープンリーディングフレームと読み枠がずれている。ATGコドンの上流には代替スタートコドン(スタート)があり、その下流にはストップコドン(ストップ)もある。B)ライブラリーから選択された優位な配列の配列が示されている(配列番号1)。アウトオブフレーム重複リーディングフレーム(OOF)において、ATGスタートコドンは、Capに対するインフレームリーディングフレームの上流に見い出される。OOFは、野生型AAV5配列に由来する配列においてTGA下流ストップコドンを有し、そのOOFは、OOF開始コドンから翻訳される場合、6アミノ酸の短いペプチドMHHGK(配列番号72)をもたらすであろう;C)別の上流スタートコドンからのさらなるアウトオブフレーム重複リーディングフレームからの配列が示されている。上側の状況は、AAV5配列に由来する配列のさらに下にあるストップコドンとともに、アウトオブフレームCTGスタートコドン(配列番号2)を有する(とりわけ、配列番号70を参照されたい)。この状況は、TAGストップコドンで終結する約158アミノ酸のより大きなタンパク質配列の翻訳をもたらすであろう。下側の状況も、スタートコドンのすぐ下流にある、変異した配列におけるストップコドンとともに、CTGスタートコドンを有し、その状況は、OOF(配列番号9)から翻訳される場合、4アミノ酸の短いペプチドMEIW(配列番号73)をもたらすであろう;D)図5A~Cに描写される構築物からのVP1、VP2、及びVP3カプシドタンパク質の発現の略図である。DNAは、プロモーター(P)、及びカプシドタンパク質に対するオープンリーディングフレーム(Cap(VP123))を有する発現カセットを含有する。転写開始は矢印によって示されている。転写はmRNAをもたらし、mRNAからまずOOFタンパク質が翻訳され得、その後VP1、VP2、及びVP3カプシドタンパク質が翻訳され得る。OOF配列は、VP1翻訳スタートと重複している。
図6A】AAVライブラリー調製のための様々なベクタービヒクル構成の略図である。図6A:AAVカプシドタンパク質を発現する発現カセット(灰色のボックス)が、AAV ITRの間、バキュロウイルスゲノムに含有される、実施例において用いられる構成が示されている。その構成から産生されるAAVは、発現カセットに隣接するITRを有するベクターゲノムを含有する。
図6B図6B:ベクタービヒクル(例えば、バキュロウイルス)がパルボウイルスカプシドタンパク質に対する発現カセットを含有し、ベクターゲノムITR配列の間に配列識別子(ID)が置かれている構成が示されている。その構成から産生されるAAVは、配列識別子に隣接するITRを有するベクターゲノムを含有する。Cap配列及びIDは連結しているため、例えばシーケンシングにより配列識別子を同定することによって、ID及びCap配列は1つのゲノムにおいて結び付いているため、例えば両方を含有するバキュロウイルスベクターのシーケンシングにより、又は識別子配列及びCap発現配列組み合わせが先験的に(a priori)公知であるような手段でバキュロウイルスベクターが構築されたため、相当するcap配列が決定され得る。
図6C図6C:構築物は、パルボウイルスベクターゲノムにレポーター遺伝子も含むことができる。
【0015】
定義
本明細書において使用するとき、「作動的に連結された」という用語は、機能的関係性にあるポリヌクレオチド(又はポリペプチド)要素の連結を指す。核酸が別の核酸配列と機能的関係性に置かれている場合、核酸は「作動的に連結されて」いる。例えば、転写調節配列がコード配列の転写に影響を及ぼす場合、転写調節配列はコード配列に作動的に連結されている。作動的に連結されたとは、連結されているDNA配列が典型的には近接していること、及び2つのタンパク質コード領域をつなぎ合わせる必要がある場合には、近接しておりリーディングフレームにあることを意味する。
【0016】
「発現制御配列」とは、発現制御配列が作動的に連結しているヌクレオチド配列の発現を調節する核酸配列を指す。発現制御配列がヌクレオチド配列の転写及び/又は翻訳を制御する及び調節する場合、発現制御配列はヌクレオチド配列に「作動的に連結されて」いる。故に、発現制御配列には、プロモーター、エンハンサー、内部リボソーム進入部位(IRES)、転写ターミネーター、タンパク質コード遺伝子の前にあるスタートコドン、イントロンに対するスプライシングシグナル、及びストップコドンが含まれ得る。「発現制御配列」という用語は、配列の存在が発現に影響するように設計されている配列を最低でも含むことを意図され、付加的な有利な構成要素も含み得る。例えば、リーダー配列及び融合パートナー配列は発現制御配列である。前記用語には、インフレーム及びアウトオブフレームにある望ましくない潜在的開始コドンが配列から除去されるような、核酸配列の設計も含まれ得る。前記用語には、望ましくない潜在的スプライス部位が除去されるような、核酸配列の設計も含まれ得る。前記用語には、ポリA配列と称される配列である、ポリAテール、すなわちmRNAの3’末端における一続きのアデニン残基の付加を指揮する配列又はポリアデニル化配列(pA)が含まれる。発現制御配列は、mRNA安定性を増強するようにも設計され得る。転写及び翻訳安定性に影響を及ぼす発現制御配列、例えばプロモーター、並びに翻訳に影響を与える配列、例えばコザック配列が、昆虫細胞において公知である。発現制御配列は、より低い発現レベル又はより高い発現レベルが達成されるように発現制御配列が作動的に連結されているヌクレオチド配列を変調するような性質のものであり得る。
【0017】
本明細書において使用するとき、「プロモーター」又は「転写調節配列」という用語は、1つ又は複数のコード配列の転写を制御するように機能し、コード配列の転写開始部位の転写の方向に対して上流に位置し、DNA依存性RNAポリメラーゼに対する結合部位、転写開始部位、並びに転写因子結合部位、リプレッサー及びアクチベータータンパク質結合部位を含むがそれらに限定されない他の任意のDNA配列、並びにプロモーターからの転写の量を調節するように直接的又は間接的に作用することが当業者に公知のヌクレオチドの他の任意の配列の存在によって構造的に同定されている、核酸フラグメントを指す。「構成的」プロモーターとは、ほとんどの生理学的及び発生学的条件下でほとんどの組織において活性があるプロモーターである。「誘導性」プロモーターとは、例えば化学的誘導因子の適用によって、生理学的に又は発生学的に調節されるプロモーターである。「組織特異的」プロモーターとは、特異的タイプの組織又は細胞においてのみ活性がある。
【0018】
「実質的に同一の」、「実質的同一性」、又は「本質的に類似の」、又は「本質的類似性」という用語は、2つのペプチド又は2つのヌクレオチド配列が、デフォルトパラメーターを用いたGAP又はBESTFITプログラムなどによって最適にアラインされた場合、本明細書における他の箇所で規定される少なくともある特定のパーセンテージの配列同一性を共有することを意味する。GAPは、Needleman及びWunschグローバルアライメントアルゴリズムを用いて2つの配列を2つの配列の長さ全体にわたってアラインし、合致の数を最大限に高めギャップの数を最小限に抑える。一般的に、ギャップ創出ペナルティ=50(ヌクレオチド)/8(タンパク質)、及びギャップ伸長ペナルティ=3(ヌクレオチド)/2(タンパク質)を有するGAPデフォルトパラメーターが用いられる。ヌクレオチドに関して、用いられるデフォルトスコア行列はnwsgapdnaであり、タンパク質に関して、デフォルトスコア行列はBlosum62である(Henikoff&Henikoff、1992、PNAS 89、915~919)。RNA配列がDNA配列と本質的に類似している又はある特定の程度の配列同一性を有すると言われる場合、DNA配列におけるチミン(T)がRNA配列におけるウラシル(U)に等しいと考えられていることは明らかである。Accelrys Inc.、9685 Scranton Road、San Diego、CA 92121-3752 USAから入手可能なGCG Wisconsin Package、バージョン10.3などのコンピュータープログラム、又はWindows向けのオープンソースソフトウェアEmboss(現バージョン2.7.1-07)を用いて、配列同一性パーセンテージに対する配列アライメント及びスコアを決定することができる。代替的に、FASTA、BLASTなどのデータベースに対して検索することによって、類似性又は同一性パーセントを決定することができる。
【0019】
本発明のパルボウイルスRepタンパク質又はCapタンパク質をコードするヌクレオチド配列を、中程度の又は好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、ヌクレオチド配列がそれらそれぞれのヌクレオチド配列とハイブリダイズする能力によっても規定することができる。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは、少なくとも約25個、好ましくは約50個のヌクレオチド、75個又は100個、及び最も好ましくは約200個又はそれを上回る数のヌクレオチドの核酸配列が、約1Mの塩を含む溶液、好ましくは6×SSC、又は匹敵するイオン強度を有する他の任意の溶液にて約65℃の温度でハイブリダイズし、約0.1Mの塩若しくはそれ未満を含む溶液、好ましくは0.2×SSC、又は匹敵するイオン強度を有する他の任意の溶液にて65℃で洗浄することを可能にする条件として本明細書において定義される。ハイブリダイゼーションは、一晩、すなわち少なくとも10時間実施されることが好ましく、洗浄は、洗浄液の少なくとも2回の交換を有して少なくとも1時間実施されることが好ましい。これらの条件は、約90%又はそれを上回る割合の配列同一性を有する配列の特異的ハイブリダイゼーションを通常では可能にすると考えられる。
【0020】
中程度の条件とは、少なくとも約50個のヌクレオチド、好ましくは約200個又はそれを上回る数のヌクレオチドの核酸配列が、約1Mの塩を含む溶液、好ましくは6×SSC、又は匹敵するイオン強度を有する他の任意の溶液にて約45℃の温度でハイブリダイズし、約1Mの塩を含む溶液、好ましくは6×SSC、又は匹敵するイオン強度を有する他の任意の溶液にて室温で洗浄することを可能にする条件として本明細書において定義される。ハイブリダイゼーションは、一晩、すなわち少なくとも10時間実施されることが好ましく、洗浄は、洗浄液の少なくとも2回の交換を有して少なくとも1時間実施されることが好ましい。これらの条件は、最高で50%の配列同一性を有する配列の特異的ハイブリダイゼーションを通常では可能にすると考えられる。当業者であれば、これらのハイブリダイゼーション条件を改変して、50%~90%の間で同一性が様々である配列を特異的に同定し得るであろう。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、哺乳類細胞における核酸の導入及び/又は発現のためのベクターとしての使用のための、動物パルボウイルス、特に感染性ヒト又はサルAAVなどのディペンドウイルス及びその構成要素(例えば、動物パルボウイルスゲノム)の使用に関する。特に、本発明は、昆虫細胞において産生される場合の、そのようなパルボウイルスベクターの感染力の向上に関する。
【0022】
パルボビリダエ(Parvoviridae)ファミリーのウイルスは、小型のDNA動物ウイルスである。パルボビリダエを、2つのサブファミリー:脊椎動物に感染するパルボビリナエ(Parvovirinae)、及び昆虫に感染するデンソビリナエ(Densovirinae)に分割することができる。パルボビリナエサブファミリーのメンバーは、本明細書においてパルボウイルスと称され、ディペンドウイルス属を含む。ディペンドウイルスの属の名前から推測することができるように、ディペンドウイルスのメンバーは、それらメンバーが、細胞培養における生産的な感染のためにアデノウイルス又はヘルペスウイルスなどのヘルパーウイルスとの共感染を通常では要する点において固有である。ディペンドウイルス属には、通常ではヒト(例えば、血清型1、2、3A、3B、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13)又は霊長類(例えば、血清型1及び4)に感染するAAV、及び他の温血動物に感染する近縁ウイルス(例えば、ウシ、イヌ、ウマ、及びヒツジアデノ随伴ウイルス)が含まれる。パルボウイルス及びパルボビリダエの他のメンバーに関するさらなる情報は、Fields Virology(第3編、1996)におけるKenneth I.Berns、「Parvoviridae:The Viruses and Their Replication」、第69章に記載されている。便宜上、本発明は、AAVを参照することによって本明細書においてさらに例示され及び記載される。しかしながら、本発明はAAVに限定されるわけではなく、他のパルボウイルスに同等に適用することができると理解される。
【0023】
すべての公知のAAV血清型のゲノム編成は非常に類似している。AAVのゲノムは、長さが約5,000ヌクレオチド(nt)未満である線状の一本鎖DNA分子である。逆位末端反復(ITR)が、非構造性の複製(Rep)タンパク質及び構造(VP)タンパク質に対する固有のコードヌクレオチド配列に隣接する。VPタンパク質(VP1、-2、及び-3)はカプシドを形成する。末端の145ntは自己相補的であり、T字型ヘアピンを形成するエネルギー的に安定な分子内二重鎖を形成することができるように編成される。これらのヘアピン構造は、ウイルスDNA複製のための起点として機能し、細胞DNAポリメラーゼ複合体に対するプライマーとして働く。哺乳類細胞におけるwtAAV感染の後、Rep遺伝子(すなわち、Rep78及びRep52)がそれぞれP5プロモーター及びP19プロモーターから発現され、両Repタンパク質はウイルスゲノムの複製における機能を有する。Rep ORFにおけるスプライシング事象は、実際には4種のRepタンパク質(すなわち、Rep78、Rep68、Rep52、及びRep40)の発現をもたらす。しかしながら、哺乳類細胞において、AAVベクター産生には、Rep78及びRep52タンパク質をコードするスプライシングされていないmRNAで十分であることが示されている。昆虫細胞においても、AAVベクター産生にはRep78及びRep52タンパク質で十分である。3種のカプシドタンパク質VP1、VP2、及びVP3は、p40プロモーターから単一のVPリーディングフレームから発現される。哺乳類細胞におけるwtAAV感染は、カプシドタンパク質産生について、2つのスプライスアクセプター部位の交互使用の組み合わせ、及びVP2に対するACG開始コドンの準最適な利用に依存する。
【0024】
昆虫細胞において、VP1(AUGスタートコドンを有する)、VP2、及びVP3タンパク質をコードするAAVオープンリーディングフレームを有する転写産物、すなわちmRNAの発現は、約1:1:10の比率の強力なAAVをもたらす量のVP1、VP2、及びVP3カプシドタンパク質を通常では産生しない。効力とは、AAVベクターがそのベクターゲノムを標的細胞に移入し導入遺伝子の効率的な発現を可能にする能力として本明細書において定義される。本発明者らは、AAVカプシドが、VP1、VP2、及びVP3タンパク質に対する転写産物をコードする発現構築物であって、VP1がAUG開始コドンから翻訳される発現構築物から、昆虫細胞において非常に効率的に産生され得ることを今回驚くべきことに見い出した。
【0025】
本発明において同定された発現構築物は、医学的治療における使用のための、かなりの分量の非常に強力なAAV遺伝子療法ベクターの昆虫細胞における効率的な産生を可能にする。そのようなベクターは、CTG又はGTGなどの代替スタートコドンから産生されるAAV遺伝子療法ベクターよりも効力に関して向上したとまではいかないとしても、少なくとも同程度である(図4)。核酸配列に関して、核酸配列は、A、T、C、及びGを列挙するDNA配列として、又はA、U、C、及びGを列挙するRNA配列として列挙され得ると理解される。発現構築物とは、通常、DNA配列を指してもよく、一方で、発現されたヌクレオチド配列はRNA配列、すなわち発現構築物から転写される又は発現されるmRNAを指すと理解される。
【0026】
本発明の構築物は、VP1スタートコドンにおける翻訳開始の低下を一見もたらすVP1スタートコドンから5’に付加的なアウトオブフレームスタートコドンをコードし、VP2及びVP3の両方の十分な分量のさらなる翻訳を可能にする。理論によって拘束されることなく、そのようなアウトオブフレーム5’スタートコドンは、VP1 AUGスタートコドンにおける転写開始への干渉をもたらし、野生型AAVにおいて生じるのと同様の漏れやすい疑似リボソームスキャニングを可能にする。理論によって拘束されることなく、これら代替スタートコドンからの短いペプチドの合成(例えば、VP2コード配列の前に、アウトオブフレームリーディングフレームの翻訳終結)は、リボソームにVP1 AUG開始コドンの下流をスキャンし続けさせることができ又はリボソームを再開させることができ、同じ転写産物からのVP2及びVP3の翻訳を可能にする。
【0027】
そのような構築物は、先行技術において産生されるAAVカプシドと比較して優れた効力を有する、昆虫細胞におけるAAVカプシドの向上したとまではいかないとしても少なくとも同程度の産生を提供する。そのような構築物は、昆虫細胞に対する発現構築物の作出に利用される場合、VP1、VP2、及びVP3ヌクレオチド配列が野生型ウイルスにおいて見い出されるように、VP1、VP2、及びVP3ヌクレオチド配列が改変されないことを可能にし得ることは有利である。本発明に従った構築物は、VP1、VP2、及びVP3カプシドタンパク質に対するアミノ酸配列が、野生型ウイルスにおいて見い出されるカプシドタンパク質のものと実質的に同一である又はそれらと同一であることを可能にし得る。それ故、この発現ストラテジーは、任意のパルボウイルスベクター構築物又はAAVベクター構築物に一般的に適用可能であり、5’配列又はAAVカプシドオープンリーディングフレームの配列のさらなる調整を全く要しなくてもよい。
【0028】
したがって、本発明の第1の態様において、オープンリーディングフレームを含むヌクレオチド配列の昆虫細胞における発現のための発現制御配列を含む核酸構築物であって、前記オープンリーディングフレーム配列は、
i)アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質VP1、VP2、及びVP3;並びに
ii)VP1に対するATG翻訳開始コドン
をコードし、前記ヌクレオチド配列は、オープンリーディングフレームの上流に、オープンリーディングフレームと読み枠がずれている代替スタートコドンを含む、核酸構築物が提供される。
【0029】
本発明に従ったヌクレオチド配列の発現は、発現されるmRNAに関すると理解される。したがって、代替スタートコドンはmRNAに含まれる対象となり、すなわち、代替スタートコドンは、カプシドタンパク質をコードするオープンリーディングフレームから5’にある配列に含まれ、代替スタートコドンは核酸構築物の転写開始部位から3’にある。故に、代替リーディングフレームは、発現されたmRNAに含まれるVP1 AUGコドンから5’にある。本発明に従ったオープンリーディングフレームは単一のオープンリーディングフレームであると理解され、すなわち、カプシドタンパク質VP1、VP2、及びVP3をコードする配列は重複していると理解される。言い換えれば、VP2及びVP3タンパク質は、VP1配列と同じ配列によってコードされる。そのようなオープンリーディングフレームは近接したオープンリーディングフレームであり得るが、近接していなくてもよく、例えばイントロン配列を含有する。VP1、VP2、及びVP3が翻訳されているオープンリーディングフレームは、近接した単一のオープンリーディングフレームであり、カプシドタンパク質が翻訳され得る転写産物から(例えば、1つの転写産物はVP1をコードし、別の転写産物はVP2をコードし、さらにさらなる転写産物はVP3をコードする場合)、さらなる転写産物は昆虫において転写されないことが好ましい。
【0030】
アウトオブフレームスタートコドンは、CUG、ACG、AUG、UUG、CUC、及びCUUからなる群から選択されることが好ましい。代替スタートコドンは、AUG又はCUGから選択されることがより好ましい。代替スタートコドンはAUGであることが最も好ましい。実施例の節において示されるように、最も普及しているAUGスタートコドンを有する配列は、大部分がアウトオブフレームスタートコドンを含有した。上流アウトオブフレームスタートコドンは、大部分がUUG、CUG、GUG、AUG、及びACGなどの比較的強いコドンである。CUC及びCUUなどのより弱いスタートコドンも観察された。最も普及しており最も好ましいのは、アウトオブフレーム代替スタートコドンとしてのAUGである。
【0031】
代替スタートコドンは、代替オープンリーディングフレームのスタートであり得る。したがって、代替スタートコドンは、リボソームが翻訳を開始し得るコドンを含むと理解される。時には、スタートコドンが、例えばmRNAの5’キャップされた末端に近い場合、そのような配列は、スタートコドンとして機能することが許されないことがある。トリプレットがアミノ酸をコードする遺伝子コードが理由で、核酸配列は、翻訳が開始する及び終結する場所に応じて、3つの異なるアミノ酸配列に翻訳され得ると理解される。アウトオブフレーム代替スタートコドンはVP1 AUG開始コドンの上流にあり、代替スタートコドンに続く遺伝子コードは、好ましくは、リボソームがVP1 AUG開始コドンからの翻訳を開始しない又は開始するのを妨げられるような翻訳終結が生じるようなものである。同様に、理論によって拘束されることなく、VP1 AUG開始コドンの上流にあるアウトオブフレーム代替スタートコドンは、mRNAからの翻訳の開始を可能にする。代替オープンリーディングフレームは、VP1 AUG開始コドンの下流で終結することが好ましい。例えば、VP1 AUG開始コドンの直後にAが続く場合、AUGA配列におけるUGAトリプレットは終結コドンをコードする。したがって、上流にある代替スタートコドンで始まる代替オープンリーディングフレームは、VP1 AUGスタートコドンを包含することが好ましい。
【0032】
それ故、本発明に従ったさらなる実施形態において、オープンリーディングフレームを含むヌクレオチド配列の昆虫細胞における発現のための核酸構築物であって、前記オープンリーディングフレーム配列は、アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質VP1、VP2、及びVP3、並びにVP1に対するAUG翻訳開始コドンをコードし、前記ヌクレオチド配列は、代替スタートコドンで始まる代替オープンリーディングフレームを含み、代替オープンリーディングフレームは前記VP1に対するAUG翻訳開始コドンを包含する、核酸構築物が提供される。
【0033】
代替オープンリーディングフレームは、VP1 AUGスタートコドンから5’にある好ましくは多くても100、90、80、70、60、50、40、30、20、又は10ヌクレオチドから開始し、その後で終結する。代替オープンリーディングフレームは、VP1 AUGスタートコドンの5’から開始し、その後多くても500、400、300、200、150、100、90、80、70、60、50、40、30、20、又は10ヌクレオチドで終結する。代替オープンリーディングフレームは、VP1 AUGスタートコドンから5’にある多くても50ヌクレオチドから開始し得、その後多くても500ヌクレオチドで終結する。代替オープンリーディングフレームは、VP1 AUGスタートコドンから5’にある多くても40ヌクレオチドから開始し得、その後多くても200ヌクレオチドで終結する。代替オープンリーディングフレームは、VP1 AUGスタートコドンから5’にある多くても30ヌクレオチドから開始し得、その後多くても50ヌクレオチドで終結する。代替オープンリーディングフレームは、VP1 AUGスタートコドンから多くても10ヌクレオチドから開始し得、その後多くても20ヌクレオチドで終結する。1つの代替的な実施形態において、代替オープンリーディングフレームは、VP3の開始コドンの前で、好ましくはVP2の開始コドンの前で終結する。例えば、実施例において示されるそのような代替オープンリーディングフレームは、4ヌクレオチド上流で開始し、その後14ヌクレオチドで終結する、又は8ヌクレオチド上流で開始し、その後4若しくはそれを上回る数のヌクレオチドで終結する。
【0034】
そのような代替オープンリーディングフレームは、配列番号70のDNA配列のヌクレオチド105~155によってコードされる配列である、VP1 ATGスタートコドン配列の上流を含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質VP1、VP2、及びVP3をコードするDNA配列に含まれてもよいことが好ましい。ATGスタートコドンの上流にある配列は、RNAに転写される。そのような代替オープンリーディングフレームも、配列番号70のDNA配列のヌクレオチド1~155によってコードされる配列である、VP1 ATGスタートコドン配列の上流を含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質VP1、VP2、及びVP3をコードするDNA配列に含まれてもよい。上流配列は、ATG VP1スタートコドンの上流にあるポリヘドリンプロモーター及び5’リーダー配列をコードする(105~155)。
【0035】
したがって、上で記載される本発明の代替オープンリーディングフレームは、昆虫細胞においてペプチドに翻訳されることが好ましい。1つの実施形態において、ペプチドは、少なくとも4アミノ酸、少なくとも5アミノ酸、少なくとも6アミノ酸の長さを有する。1つの実施形態において、翻訳されたアミノ酸配列は、配列番号72又は配列番号73を含む又はそれからなる。別の実施形態において、ペプチドは、多くても200、150、100、50、40、30、20、又は10アミノ酸の長さを有する。さらなる実施形態において、代替オープンリーディングフレームをコードする本発明に従った核酸構築物は、2~200アミノ酸、2~100、2~50、又は好ましくは2~10アミノ酸に及ぶ長さを有するペプチドに翻訳される。したがって、代替スタートコドンに続く代替オープンリーディングフレームを含む本明細書において記載される本発明に従った核酸構築物は、ペプチドをコードする。ペプチドの長さは、VP1スタートコドンの後の配列、すなわち、例えば天然に由来するAAV配列に由来し得る、又は合成若しくは人工のAAVカプシド配列(例えば、コドン最適化された、又は向上した特性を有する変異バリアント)に由来し得るVP1をコードする配列に依存してもよい。したがって、長さは、VP1 ATGスタートコドンの上流にある代替スタートコドンから始まるアウトオブフレームリーディングフレームにおいてストップコドン(TGA、TAA、TAG)が存在する場所に依存する。スタートコドンの下流にある配列を、アウトオブフレーム上流スタートコドンとインフレームにあるストップコドンを導入するように変異させてもよい。このように、ペプチドの長さを意図的に選択することができる。それによって、VP1コード配列に関してアミノ酸配列に変化を導入しない、言い換えればVP1リーディングフレームにおけるサイレント変異である、アウトオブフレームストップコドンを導入することができる。導入されるアウトオブリーディングフレームストップコドンは、リーディングフレームにおける3つの連続した核酸における1つ、2つ、又は3つの点変異によって導入されてもよい。VP1コード配列にトリプレット配列(すなわち、TGA、TAA、又はTAG)も挿入することができ、トリプレット配列は、コード配列の長さに関して1アミノ酸の挿入をもたらすことができ、及びVP1コード配列の付加的なアミノ酸変化をもたらすことができる(すなわち、VP1コード配列の1つのトリプレットは、アウトオブフレームストップコドンの挿入によって2つのトリプレットに変化する)。
【0036】
別の実施形態において、オープンリーディングフレームを含むヌクレオチド配列の昆虫細胞における発現のための発現制御配列を含む核酸構築物であって、前記オープンリーディングフレーム配列は、
i)アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質VP1、VP2、及びVP3;並びに
ii)VP1に対するAUG翻訳開始コドン
をコードし、前記ヌクレオチド配列は、VP1 AUGのすぐ上流に、配列番号32~62からなる群から選択されるヌクレオチド配列のヌクレオチド1~8を含む、核酸構築物が提供される。配列番号32~62はRNA配列を指し、したがって核酸構築物は、配列番号1~31に列挙されるものなど、RNA配列をコードする相当するDNA配列を有すると理解される。ヌクレオチド配列は、VP1 AUGのすぐ下流にGヌクレオチドを含むことが好ましい。本発明に従った核酸構築物は、VP1スタートコドンをコードする、配列番号1~31からなる群から選択される配列を含み、前記VP1スタートコドンは配列番号1~31の位置9~11に相当することがより好ましい。配列番号1及び配列番号32に由来する配列が最も好ましく、すなわち配列番号1及び配列番号32のヌクレオチド1~8が好ましく、VP1 ATGに直接隣り合ったGを有することが好ましく、いずれか配列番号1の配列全体をコードすることが最も好ましい。
【0037】
さらなる実施形態において、VP1のオープンリーディングフレームの第2のコドンが、アラニン、グリシン、バリン、アスパラギン酸、及びグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸残基をコードする、本発明に従った核酸構築物が提供される。この第2のアミノ酸残基は、スタートコドンと、例えば野生型AAV VP1配列に由来する第2のコドンとの間に挿入されたコドンに由来してもよい、又はVP1ヌクレオチド配列の第2のコドンは、変異したコドンであってもよい(例えば、VP1 ATGコドンの直後の核酸をGに変異させることによる)。VP1の第2のコドンはバリンをコードすることが最も好ましい。第2のコドンは、GUA、GUC、GUU、GUGからなる群から選択されることがより好ましく、第2のコドンはGUAであることが好ましい。オープンリーディングフレームは、第2のコドンの後に、さらなる付加的なアミノ酸残基をコードする1つ又は複数のコドン、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20個の付加的なアミノ酸、しかし好ましくは60、50、40、35、30、25、20、19、18、17、16、15、又は14個未満の付加的なアミノ酸残基に対するコドンを任意選択で含む。容易に理解されるであろうように、付加的なアミノ酸残基をコードするコドンは、カプシドタンパク質のオープンリーディングフレームとインフレームであるべきである。
【0038】
したがって、1つの実施形態において、例えば野生型VP1カプシドタンパク質配列の位置2の改変により、又は野生型VP1カプシドタンパク質配列の位置1と位置2の間へのバリンコドンの挿入により、又は天然に見い出される若しくはすでに選択されたVP1カプシドタンパク質は位置2にバリンを含むため、VP1の位置2にバリンを有するVP1カプシドタンパク質を含むAAVベクターが提供される。昆虫細胞において産生されることが好ましいそのようなカプシドは、本明細書において記載される医学的治療において特に有用であることがある。
【0039】
一実施形態において、オープンリーディングフレームを野生型カプシドタンパク質と比較した場合、カプシドタンパク質をコードするオープンリーディングフレームは、VP1のATG翻訳開始コドンと、相当する野生型カプシドタンパク質における開始コドンにその3’末端ですぐ隣り合ったアミノ酸残基をコードするコドンとの間に挿入された1つ又は複数のアミノ酸残基をコードするコドンをさらに含む。例えば、オープンリーディングフレームは、相当する野生型カプシドタンパク質と比較して、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20個の付加的なアミノ酸残基に対するコドンを含む。オープンリーディングフレームは、相当する野生型カプシドタンパク質と比較して、60、50、40、35、30、25、20、19、18、17、16、15、又は14個未満の付加的なアミノ酸残基に対するコドンを含むことが好ましい。容易に理解されるであろうように、付加的なアミノ酸残基をコードするコドンは、カプシドタンパク質のオープンリーディングフレームとインフレームであるべきである。相当する野生型カプシドタンパク質と比較して付加的なアミノ酸残基をコードするこれらのコドンのうち、第1のコドン、すなわち準最適な翻訳開始コドンにその3’末端ですぐ隣り合っているコドンは、アラニン、グリシン、バリン、アスパラギン酸、及びグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸残基をコードする。故に、翻訳開始コドンと、野生型配列の残基2に相当するアミノ酸残基をコードするコドンとの間に1つのみの付加的なコドンがある場合、その付加的なコドンは、アラニン、グリシン、バリン、アスパラギン酸、及びグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸残基をコードする。翻訳開始コドンと、野生型配列のアミノ酸残基2をコードするコドンとの間に1つを上回る数の付加的なコドンがある場合には、翻訳開始コドンの直後のコドンは、アラニン、グリシン、バリン、アスパラギン酸、及びグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸残基をコードする。準最適な翻訳開始コドンの直後の(すなわち、翻訳開始コドンの3’末端における)付加的なアミノ酸残基はバリンであることが好ましい。言い換えれば、本発明の好ましい実施形態において、準最適な翻訳開始コドンの直後のコドンはバリンをコードする。
【0040】
ステップa)におけるAAVカプシドタンパク質をコードする配列は、例えば、ヌクレオチド及びアミノ酸配列が、参照により文献全体として本明細書に組み入れられるLubelskiらの国際公開第2015137802号に配列番号13~38として列挙されているAAV1~AAV13のものなど、天然に見い出されるカプシド配列であり得る。したがって、本発明に従った核酸構築物は、Lubelskiらの国際公開第2015137802号によって開示されるAAVカプシドタンパク質に対するオープンリーディングフレーム全体を含み得る。代替的に、配列は人為的なものであり得、例えば配列はハイブリッド形態であってもよい、又は例えばAcmNPv若しくはツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)のコドン使用法などによって、コドン最適化されてもよい。例えば、カプシド配列はAAV1のVP2及びVP3配列から構成されてもよく、一方で残りのVP1配列はAAV5のものである。好ましいカプシドタンパク質は、Lubelskiらの国際公開第2015137802号に列挙されている、好ましくは配列番号22に提供されるAAV5、又は好ましくは配列番号28に提供されるAAV8である。故に、好ましい実施形態において、AAVカプシドタンパク質は、本発明に従って改変されているAAV血清型5又はAAV血清型8カプシドタンパク質である。AAVカプシドタンパク質は、本発明に従って改変されているAAV血清型5カプシドタンパク質であることがより好ましい。カプシドタンパク質の正確な分子量並びに翻訳開始コドンの正確な位置は、種々のパルボウイルス間で異なることがあると理解される。しかしながら、当業者であれば、AAV-5以外のパルボウイルス由来のヌクレオチド配列における相当する位置を同定する方法を知っているであろう。代替的に、AAVカプシドタンパク質をコードする配列は、例えば指向的進化法実験の結果としての、人為的な配列である。この指向的進化法実験は、DNAシャッフリング、エラープローンPCR、バイオインフォマティクス的な合理的設計、部位飽和突然変異誘発による、カプシドライブラリーの作出を含み得る。結果として生じるカプシドは、既存の血清型に基づくが、そのようなカプシドの特質を向上させる様々なアミノ酸又はヌクレオチド変化を含有する。結果として生じるカプシドは、既存の血清型の様々な部分の組み合わせ「シャッフルされたカプシド」であり得る、或いは完全に新規の変化、すなわち、群に編成された又は遺伝子若しくはタンパク質の全長にわたって広がる、1つ又は複数のアミノ酸又はヌクレオチドの付加、欠失、又は置換を含有し得る。例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Schaffer及びMaheshri;Proceedings of the 26th Annual International Conference of the IEEE EMBS San Francisco、CA、USA;2004年9月1~5日、3520~3523ページ;Asuriら(2012)Molecular Therapy 20(2):329~3389;Lisowskiら(2014)Nature 506(7488):382~386を参照されたい。
【0041】
本発明の好ましい実施形態において、VP3カプシドタンパク質をコードするオープンリーディングフレームは、ACG、ATT、ATA、AGA、AGG、AAA、CTG、CTT、CTC、CTA、CGA、CGC、TTG、TAG、及びGTGからなる群から選択される非標準翻訳開始コドンで始まる。非標準翻訳開始コドンは、GTG、CTG、ACG、TTGからなる群から選択されることが好ましく、非標準翻訳開始コドンはCTGであることがより好ましい。
【0042】
AAVカプシドタンパク質の発現のための本発明のヌクレオチド配列は、VP1オープンリーディングフレームのヌクレオチド位置12におけるG、ヌクレオチド位置21におけるA、及びヌクレオチド位置24におけるCの中から選択される、AAV VP1カプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列の少なくとも1つの改変をさらに含むことが好ましく、前記ヌクレオチド位置は野生型ヌクレオチド配列のヌクレオチド位置に相当する。「潜在的な/考え得る偽スタート部位」又は「潜在的な/考え得る偽翻訳開始コドン」とは、カプシドタンパク質(複数可)のコード配列に位置するインフレームのATGコドンを意味すると本明細書において理解される。他の血清型のVP1コード配列にある翻訳のための考え得る偽スタート部位の排除は、昆虫細胞において認識されることがある推定スプライス部位の排除のように、当業者によって十分に理解されるであろう。例えば、位置12におけるヌクレオチドの改変は、Tヌクレオチドが偽ATGコドンを生じさせないことから、組み換えAAV5に要されない。昆虫細胞における適正な発現のための野生型AAV配列の様々な改変は、例えばSambrook及びRussell(2001)「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」(第3編)、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New Yorkに記載されるものなど、周知の遺伝子操作技法の適用によって達成される。VP及びビリオンの産出量を増加させ得る、又は指向性の変更など他の所望の効果を有し得る、又はビリオンの抗原性を低下させ得る、VPコード領域の様々なさらなる改変が当業者に公知である。これらの改変は、本発明の範囲内にある。
【0043】
AAVカプシドタンパク質をコードする本発明のヌクレオチド配列は、昆虫細胞における発現のための発現制御配列に作動的に連結されていることが好ましい。故に、第2の態様において、本発明は、本発明に従った核酸分子を含む核酸構築物であって、アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質をコードするオープンリーディングフレームのヌクレオチド配列が、昆虫細胞における発現のための発現制御配列に作動的に連結されている核酸構築物に関する。これらの発現制御配列は、昆虫細胞において活性があるプロモーターを少なくとも含むと考えられる。昆虫宿主細胞において外来遺伝子を発現させるための当業者に公知の技法を用いて、本発明を実践し得る。昆虫細胞におけるポリペプチドの分子操作及び発現のための方法論は、例えばSummers及びSmith.1986.A Manual of Methods for Baculovirus Vectors and Insect Culture Procedures、Texas Agricultural Experimental Station Bull.第7555号、College Station、Tex.;Luckow.1991.In Prokopら、Cloning and Expression of Heterologous Genes in Insect Cells with Baculovirus Vectors’ Recombinant DNA Technology and Applications、97~152;King,L.A.及びR.D.Possee、1992、The baculovirus expression system、Chapman and Hall、United Kingdom;O’Reilly,D.R.、L.K.Miller、V.A.Luckow、1992、Baculovirus Expression Vectors:A Laboratory Manual、New York;W.H.Freeman及びRichardson,C.D.、1995、Baculovirus Expression Protocols、Methods in Molecular Biology、第39巻;米国特許第4,745,051号;米国特許出願公開第2003148506号;及び国際公開第03/074714号に記載されている。AAVカプシドタンパク質をコードする本発明のヌクレオチド配列の転写のための特に適切なプロモーターは、例えばポリヘドリン(polyhedron)プロモーター(polH)であり、そのようなpolHプロモーターは配列番号70に提供されている(又は、Lubelskiらの国際公開第2015137802号において、配列番号53及びその短縮型の配列番号54として列挙されている)。しかしながら、昆虫細胞において活性があり本発明に従って選択することができる他のプロモーター、例えばポリヘドリン(polH)プロモーター、p10プロモーター、p35プロモーター、4×Hsp27 EcRE+最小Hsp70プロモーター、デルタE1プロモーター、E1プロモーター、又はIE-1プロモーター、及び上記の参考文献に記載されるさらなるプロモーターは、当技術分野において公知である。
【0044】
昆虫細胞におけるAAVカプシドタンパク質の発現のための核酸構築物は、昆虫細胞適合性ベクターであることが好ましい。「昆虫細胞適合性ベクター」又は「ベクター」とは、昆虫又は昆虫細胞の生産的な形質転換又はトランスフェクションが可能な核酸分子であると理解される。例示的な生物学的ベクターには、プラスミド、線状核酸分子、及び組み換えウイルスが含まれる。ベクターが昆虫細胞適合性である限りにおいて、任意のベクターを採用し得る。ベクターは昆虫細胞ゲノムに組み込まれることがあるが、昆虫細胞におけるベクターの存在は永続的である必要はなく、一過性のエピソーム性ベクターも含まれる。ベクターは、公知の任意の手段によって、例えば細胞の化学的処理、エレクトロポレーション、又は感染によって導入され得る。好ましい実施形態において、ベクターは、バキュロウイルス、ウイルスベクター、又はプラスミドである。より好ましい実施形態において、ベクターはバキュロウイルスであり、すなわち構築物はバキュロウイルスベクターである。バキュロウイルスベクター及びバキュロウイルスベクターの使用のための方法は、昆虫細胞の分子操作に関する上で引用される参考文献に記載されている。
【0045】
第3の態様において、本発明は、上で規定される本発明の核酸構築物を含む昆虫細胞に関する。AAVの複製を可能にし培養下で維持され得る任意の昆虫細胞が、本発明に従って用いられ得る。例えば、用いられる細胞株は、ツマジロクサヨトウ由来のもの、ショウジョウバエ細胞株、又は蚊細胞株、例えばヒトスジシマカ(Aedes albopictus)由来細胞株であり得る。好ましい昆虫細胞又は細胞株は、例えばexpresSF+(登録商標)、ショウジョウバエシュナイダー(Schneider)2(S2)細胞、Se301、SeIZD2109、SeUCR1、Sf9、Sf900+、Sf21、BTI-TN-5B1-4、MG-1、Tn368、HzAm1、Ha2302、Hz2E5、及びInvitrogenからのHigh Fiveを含めた、バキュロウイルス感染に感受性である昆虫種由来の細胞である。
【0046】
本発明に従った好ましい昆虫細胞は、(a)少なくとも1つのAAV逆位末端反復(ITR)ヌクレオチド配列を含む第2のヌクレオチド配列;(b)昆虫細胞における発現のための発現制御配列に作動的に連結されたRep52又はRep40コード配列を含む第3のヌクレオチド配列;及び(c)昆虫細胞における発現のための発現制御配列に作動的に連結されたRep78又はRep68コード配列を含む第4のヌクレオチド配列、をさらに含む。
【0047】
本発明の文脈において、「少なくとも1つのAAV ITRヌクレオチド配列」とは、「A」、「B」、及び「C」領域とも称される、大部分が相補的で対照的に並べられた配列を含む回文配列を意味すると理解される。ITRは、複製において「シス」役割を有する部位、すなわち回文及び回文内部の特異的配列を認識するトランス作用性複製タンパク質(例えば、Rep78又はRep68)に対する認識部位である、複製の起点として機能する。ITR配列の対称性の1つの例外は、ITRの「D」領域である。D領域は固有である(1つのITR内に相補体を有しない)。一本鎖DNAのニッキングは、A及びD領域間の接合部で生じる。接合部は、新たなDNA合成が開始する領域である。D領域は、回文の片側に通常では存在し、核酸複製ステップに方向性を提供する。哺乳類細胞において複製するAAVは、典型的には2つのITR配列を有する。しかしながら、結合部位がA領域の両鎖にあり、D領域が回文の両側に1つずつ対称的に位置するように、ITRを操作することが可能である。二本鎖の環状DNA鋳型(例えば、プラスミド)に関して、Rep78又はRep68に支援された核酸複製は、次いで両方向に進み、環状ベクターのAAV複製には単一のITRで十分である。故に、1つのITRヌクレオチド配列が、本発明の文脈において用いられ得る。しかしながら、2つ又は別の偶数の規則的ITRが用いられることが好ましい。2つのITR配列が用いられることが最も好ましい。ウイルスベクターの安全性を考慮して、細胞への初回導入後にさらに繁殖することができないウイルスベクターを構築することが望ましいことがある。レシピエントにおける望ましくないベクター繁殖を抑えるためのそのような安全性機構を、米国特許出願公開第2003148506号に記載されるキメラITRを有するrAAVを用いることによって提供することができる。好ましい実施形態において、パルボウイルスVP1、VP2、及びVP3カプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、国際公開第2009/154452号に記載されるものなど、免疫回避リピートをコードする配列の少なくとも1つのインフレーム挿入を含む。この挿入は、いわゆる自己相補的な又は単量体二重鎖のパルボウイルスビリオンの形成をもたらす。好ましい実施形態において、パルボウイルスVP1、VP2、及びVP3カプシドタンパク質をコードする配列は、単量体二重鎖の又は自己相補的なゲノムを含む。単量体二重鎖AAVベクターの調製に関しては、AAV Repタンパク質及びAAVカプシドタンパク質を、本発明に従った昆虫細胞において少なくとも1つのAAV ITRを含むベクターゲノムの存在下で発現させ、Rep52及び/又はRep40タンパク質発現をRep78及び/又はRep68タンパク質発現と比べて増加させる。単量体二重鎖AAVベクターは、例えば国際公開第2011/122950号に記載されるように、少なくとも1つのAAV ITRによって隣接されたベクターゲノム構築物の存在下で、AAV Repタンパク質及びAAV Capタンパク質を昆虫細胞において発現させ、Rep78及び/又はRep60のニッキング活性をRep52及び/又はRep40のヘリカーゼ/カプシド化活性と比べて低下させることによっても調製され得る。
【0048】
採用されるベクター又は核酸構築物の数は、本発明において限定されていない。例えば、1、2、3、4、5、6つ、又はそれを上回る数のベクターを採用して、本発明に従った昆虫細胞においてAAVを産生し得る。6つのベクターが採用される場合、1つのベクターはAAV VP1をコードし、別のベクターはAAV VP2をコードし、さらに別のベクターはAAV VP3をコードし、なおさらに別のベクターはRep52又はRep40をコードし、一方でRep78又はRep68は別のベクターによってコードされ、最後のベクターは少なくとも1つのAAV ITRを含む。付加的なベクターを採用して、例えばRep52とRep40とを、及びRep78とRep68とを発現させることができるであろう。6つよりも少ないベクターが用いられる場合、ベクターは、少なくとも1つのAAV ITRと、VP1、VP2、VP3、Rep52/Rep40、及びRep78/Rep68コード配列との様々な組み合わせを含み得る。2つのベクター又は3つのベクターが用いられることが好ましく、上で記載されるように2つのベクターがより好ましい。2つのベクターが用いられる場合、昆虫細胞は、(a)上で規定されるAAVカプシドタンパク質の発現のための第1の核酸構築物であって、構築物は、上の(b)及び(c)において規定される第3及び第4のヌクレオチド配列をさらに含み、前記第3のヌクレオチド配列は、昆虫細胞における発現のための少なくとも1つの発現制御配列に作動的に連結されたRep52又はRep40コード配列を含み、前記第4のヌクレオチド配列は、昆虫細胞における発現のための少なくとも1つの発現制御配列に作動的に連結されたRep78又はRep68コード配列を含む、第1の核酸構築物;並びに、(b)少なくとも1つのAAV ITRヌクレオチド配列を含む、上の(a)において規定される第2のヌクレオチド配列を含む第2の核酸構築物、を含むことが好ましい。3つのベクターが用いられる場合、カプシドタンパク質の発現に並びにRep52、Rep40、Rep78、及びRep68タンパク質の発現に別個のベクターが用いられるという点を除いて、2つのベクターに対して用いられるものと同じ構成が用いられることが好ましい。各ベクターでの配列は、互いに対して任意の順序にあり得る。例えば、1つのベクターが、ITRと、VPカプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むORFとを含む場合、ITR配列間のDNAの複製があるとVP ORFが複製される又は複製されないように、VP ORFはベクターに位置し得る。別の例として、Repコード配列、及び/又はVPカプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むORFは、ベクターで任意の順序にあり得る。第2、第3、及びさらなる核酸構築物(複数可)も昆虫細胞適合性ベクターであることが好ましく、上で記載されるバキュロウイルスベクターであることが好ましいと理解される。代替的に、本発明の昆虫細胞において、第1のヌクレオチド配列、第2のヌクレオチド配列、第3のヌクレオチド配列、及び第4のヌクレオチド配列、及び任意選択のさらなるヌクレオチド配列のうちの1つ又は複数は、昆虫細胞のゲノムに安定に組み込まれることがある。当業者であれば、昆虫ゲノムにヌクレオチド配列を安定に導入する方法、及びゲノムにそのようなヌクレオチド配列を有する細胞を同定する方法を知っている。ゲノムへの組み入れを、例えば、昆虫ゲノムの領域に高度に相同なヌクレオチド配列を含むベクターの使用によって支援することができる。トランスポゾンなどの特異的配列の使用は、ゲノムにヌクレオチド配列を導入する別の手段である。
【0049】
故に、好ましい実施形態において、本発明に従った昆虫細胞は、(a)本発明に従った第1の核酸構築物であって、前記第1の核酸構築物は、上で規定される第3及び第4のヌクレオチド配列をさらに含む、第1の核酸構築物;並びに(b)上で規定される第2のヌクレオチド配列を含む第2の核酸構築物であって、前記第2の核酸構築物は昆虫細胞適合性ベクターであることが好ましく、バキュロウイルスベクターであることがより好ましい、第2の核酸構築物、を含む。
【0050】
本発明の好ましい実施形態において、本発明の昆虫細胞に存在する第2のヌクレオチド配列、すなわち少なくとも1つのAAV ITRを含む配列は、関心対象の遺伝子産物をコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列(哺乳類細胞における発現のためのものであることが好ましい)をさらに含み、関心対象の遺伝子産物をコードする前記少なくとも1つのヌクレオチド配列は、昆虫細胞において産生されるAAVのゲノムに組み入れられることになることが好ましい。関心対象の遺伝子産物をコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列は、哺乳類細胞における発現のための配列であることが好ましい。第2のヌクレオチド配列は2つのAAV ITRヌクレオチド配列を含み、関心対象の遺伝子産物をコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列は前記2つのAAV ITRヌクレオチド配列の間に位置することが好ましい。関心対象の遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列(哺乳類細胞における発現のためのもの)は、ヌクレオチド配列が2つの規則的ITRの間に位置する場合又は2つのD領域を有するように操作されたITRのいずれかの側に位置する場合、昆虫細胞において産生されるAAVゲノムに組み入れられることが好ましい。故に、好ましい実施形態において、本発明は、第2のヌクレオチド配列が2つのAAV ITRヌクレオチド配列を含み、関心対象の遺伝子産物をコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列が前記2つのAAV ITRヌクレオチド配列の間に位置する、本発明に従った昆虫細胞を提供する。
【0051】
ITRを含めた関心対象の遺伝子産物は、典型的に長さが5,000ヌクレオチド(nt)又はそれ未満である。別の実施形態において、特大のDNA、すなわち長さが5,000ntを上回るものは、本発明によって記載されるAAVベクターを用いることによってインビトロ又はインビボで発現され得る。特大のDNAとは、5kbpの最大AAVパッケージング限度を超えるDNAとして本明細書で理解される。それ故、通常では5.0kbよりも大きなゲノムによってコードされる組み換えタンパク質を産生し得るAAVベクターの作出も実現可能である。例えば、本発明者らは、昆虫細胞においてhFVIIIの部分的な単一方向にパッケージされたフラグメントを含有するrAAV5ベクターを作出した。少なくとも5.6kbを包含するベクターゲノムの総サイズを、FVIIIフラグメント含有AAV5粒子の2つの集団にパッケージした。これらのバリアントAAV5-FVIIIベクターは、活性なFVIIIの発現及び分泌を推進することが示された。この推進はインビトロで確認され、Huh7細胞の感染後の、第VIII因子をコードする関心対象の遺伝子産物を含むAAVベクターは、活性なFVIIIタンパク質の産生をもたらした。同様に、マウスにおけるrAAV.FVIIIの尾静脈送達は、活性なFVIIIタンパク質の産生をもたらした。カプシド化産物の分子解析は、5.6kbpのFVIII発現カセットがAAV粒子において完全にカプシド化されるわけではないことをはっきりと示した。いかなる理論によっても拘束されることなく、本発明者らは、カプシド化された分子の+及び-DNA鎖は、欠けた5’末端を示したという仮説を立てている。この仮説は、4.7~4,9kbp限度を有する「ヘッドフル(head-full)原理」に従って作動する、以前に報告された単一方向の(3’末端で始まる)パッケージング機構と一致している(例えば、Wuら[2010]Molecular Therapy 18(1):80~86;Dongら[2010]Molecular Therapy 18(1):87~92;Kapranovら[2012]Human Gene Therapy 23:46~55;及び特にLaiら[2010]Molecular Therapy 18(1):75~79を参照されたい)。5.6kbベクターゲノム全体のおよそ5kbのみがカプシド化されたものの、ベクターは強力であり、活性なFVIIIの発現につながる。本発明者らは、FVIIIの産生のための正しい鋳型が、+及び-DNA鎖の部分的相補性、それに続く第2鎖の合成に基づいて標的細胞において会合したことを示した。
【0052】
故に、本明細書において上で規定される第2のヌクレオチド配列は、昆虫細胞において複製されるAAVゲノムにヌクレオチド配列が組み入れられるように位置する、哺乳類細胞における発現のための少なくとも1つの「関心対象の遺伝子産物」をコードするヌクレオチド配列を含んでもよい。構築物がAAVビリオンのパッケージング容量の範囲内にとどまる限りにおいて、本発明に従って産生されたAAVをトランスフェクトされた哺乳類細胞に、後の発現のために、任意のヌクレオチド配列が組み入れられ得る。ヌクレオチド配列は、例えばタンパク質をコードしてもよく、ヌクレオチド配列はRNAi作用物質、すなわち、例えばshRNA(短いヘアピンRNA)又はsiRNA(短い干渉RNA)など、RNA干渉が可能であるRNA分子を発現させてもよい。「siRNA」とは、哺乳類細胞において有毒でない短い長さの二本鎖RNAである小さな干渉RNAを意味する(Elbashirら、2001、Nature 411:494~98;Caplenら、2001、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:9742~47)。好ましい実施形態において、第2のヌクレオチド配列は2つのヌクレオチド配列を含んでもよく、それぞれは哺乳類細胞における発現のための関心対象の1つの遺伝子産物をコードする。関心対象の産物をコードする2つのヌクレオチド配列のそれぞれは、昆虫細胞において複製されるrAAVゲノムにそれぞれが組み入れられるように位置する。
【0053】
哺乳類細胞における発現のための関心対象の産物は、治療用遺伝子産物であってもよい。治療用遺伝子産物は、標的細胞において発現した場合、例えば非所望の活性の除去、例えば感染細胞の除去、又は例えば酵素活性の欠損を引き起こす遺伝子欠陥の相補などの所望の治療効果を提供する、ポリペプチド、又はRNA分子(siRNA)、又は他の遺伝子産物であり得る。治療用ポリペプチド遺伝子産物の例には、CFTR、第IX因子、リポタンパク質リパーゼ(LPL、好ましくはLPL S447X;国際公開第01/00220号を参照されたい)、アポリポタンパク質A1、ウリジン二リン酸グルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)、網膜色素変性症GTPaseレギュレーター相互作用タンパク質(RP-GRIP)、例えばIL-10のようなサイトカイン又はインターロイキン、ジストロフィン、PBGD、NaGLU、Treg167、Treg289、EPO、IGF、IFN、GDNF、FOXP3、第VIII因子、VEGF、AGXT、及びインスリンが含まれる。代替的に、又は第2の遺伝子産物として加えて、本明細書において上で規定される第2のヌクレオチド配列は、細胞形質転換及び発現を査定するマーカータンパク質として働くポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含んでもよい。この目的のための適切なマーカータンパク質は、例えば蛍光タンパク質GFP、及び選択可能マーカー遺伝子HSVチミジンキナーゼ(HAT培地での選択用)、細菌ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(ハイグロマイシンBに対する選択用)、Tn5アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(G418に対する選択用)、及びジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)(メトトレキサートに対する選択用)、CD20、低アフィニティーの神経成長因子遺伝子である。これらマーカー遺伝子を獲得するための供給源及びそれらマーカー遺伝子の使用のための方法は、Sambrook及びRussel(2001)「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」(第3編)、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New Yorkに提供されている。さらに、本明細書において上で規定される第2のヌクレオチド配列は、必要と判断される場合、本発明のrAAVを形質導入された細胞から対象を治癒させるフェイルセーフ機構として働くことができるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含んでもよい。自殺遺伝子としばしば称されるそのようなヌクレオチド配列は、タンパク質が発現されるトランスジェニック細胞を殺傷し得る毒性物質にプロドラッグを変換し得るタンパク質をコードする。そのような自殺遺伝子の適切な例には、例えば大腸菌(E.coli)シトシンデアミナーゼ遺伝子、又は単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、及び水痘・帯状疱疹ウイルス由来のチミジンキナーゼ遺伝子の1つが含まれ、その場合、ガンシクロビルをプロドラッグとして用いて、対象におけるトランスジェニック細胞を殺傷することができる(例えば、Clairら、1987、Antimicrob.Agents Chemother.31:844~849を参照されたい)。
【0054】
別の実施形態において、関心対象の遺伝子産物はAAVタンパク質であり得る。特に、Rep78若しくはRep68などのRepタンパク質、又はその機能的フラグメント。Rep78及び/又はRep68をコードするヌクレオチド配列は、本発明のrAAVゲノムに存在し本発明のrAAVを形質導入された哺乳類細胞において発現する場合、形質導入された哺乳類細胞のゲノムへのrAAVの組み込みを可能にする。rAAVを形質導入された又は感染させた哺乳類細胞におけるRep78及び/又はRep68の発現は、rAAVによって細胞に導入された関心対象の他の任意の遺伝子産物の長期にわたる又は永続的な発現を可能にすることによって、rAAVのある特定の使用に利点を提供し得る。
【0055】
本発明のrAAVベクターにおいて、哺乳類細胞における発現のための関心対象の遺伝子産物をコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列(複数可)は、少なくとも1つの哺乳類細胞適合性発現制御配列、例えばプロモーターに作動的に連結されていることが好ましい。多くのそのようなプロモーターが当技術分野において公知である(Sambrook及びRussel、2001、前出を参照されたい)。CMVプロモーターなど、多くの細胞タイプにおいて広く発現される構成的プロモーターが用いられてもよい。しかしながら、誘導性、組織特異的、細胞タイプ特異的、又は細胞周期特異的であるプロモーターがより好ましいであろう。例えば、肝臓特異的発現のために、プロモーターは、α1-アンチトリプシンプロモーター、甲状腺ホルモン結合グロブリンプロモーター、アルブミンプロモーター、LPS(チロキシン結合グロビン)プロモーター、HCR-ApoCIIハイブリッドプロモーター、HCR-hAATハイブリッドプロモーター及びアポリポタンパク質Eプロモーター、LP1、HLP、最小TTRプロモーター、FVIIIプロモーター、ハイペロン(hyperon)エンハンサー、ealb-hAATから選択されてもよい。他の例には、腫瘍選択的な、特に神経系細胞腫瘍選択的な発現のためのE2Fプロモーター(Parrら、1997、Nat.Med.3:1145~9)、又は単核血液細胞における使用のためのIL-2プロモーター(Hagenbaughら、1997、J Exp Med;185:2101~10)が含まれる。
【0056】
AAVは多くの哺乳類細胞に感染し得る、例えば、Tratschinら、Mol.Cell Biol.、5(11):3251~3260(1985)、及びGrimmら、Hum.Gene Ther.、10(15):2445~2450(1999)を参照されたい。しかしながら、ヒト滑膜線維芽細胞のAAV形質導入は、類似のマウス細胞においてよりも有意に効率的であり、Jenningsら、Arthritis Res、3:1(2001)、AAVの細胞トロピシティー(cellular tropicity)は血清型によって異なる。例えば、Davidsonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、97(7):3428~3432(2000)(哺乳類CNS細胞の指向性及び形質導入効率に関して、AAV2、AAV4、及びAAV5間の違いを考察している)を参照されたい。
【0057】
述べられているように、昆虫細胞におけるAAVの産生のための本発明において用いることができるAAV配列は、任意のAAV血清型のゲノムに由来し得る。一般的に、AAV血清型は、アミノ酸及び核酸レベルでかなり相同なゲノム配列を有し、同一の一連の遺伝子機能を提供し、本質的には物理的及び機能的に等価であるビリオンを産生し、事実上同一の機構によって複製し及び会合する。様々なAAV血清型のゲノム配列及びゲノム類似性の概説に関しては、例えばGenBankアクセッション番号U89790;GenBankアクセッション番号J01901;GenBankアクセッション番号AF043303;GenBankアクセッション番号AF085716;Chloriniら(1997、J.Vir.71:6823~33);Srivastavaら(1983、J.Vir.45:555~64);Chloriniら(1999、J.Vir.73:1309~1319);Rutledgeら(1998、J.Vir.72:309~319);及びWuら(2000、J.Vir.74:8635~47)を参照されたい。ヒト又はサルアデノ随伴ウイルス(AAV)血清型は、本発明の文脈における使用のためのAAVヌクレオチド配列の好ましい供給源であり、通常ではヒト(例えば、血清型1、2、3A、3B、4、5、6、7、8、9、10、11、12、及び13)又は霊長類(例えば、血清型1及び4)に感染するAAV血清型がより好ましい。
【0058】
本発明の文脈における使用のためのAAV ITR配列は、AAV1、AAV2、AAV5、及び/又はAAV4に由来することが好ましい。同様に、Rep52、Rep40、Rep78、及び/又はRep68コード配列は、AAV1、AAV2、及び/又はAAV4に由来することが好ましい。本発明の文脈における使用のためのVP1、VP2、及びVP3カプシドタンパク質をコードする配列は、公知の42種の血清型のいずれかから、より好ましくはAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、若しくはAAV9、又は例えばカプシドシャッフリング技法及びAAVカプシドライブラリーによって獲得される新たに開発されたAAV様粒子から選ばれてもよい。好ましい実施形態において、VP1、VP2、及びVP3カプシドタンパク質をコードする配列は、AAV5又はAAV8由来のものであり、AAV5由来のものであることがより好ましい。
【0059】
AAV Rep及びITR配列は、ほとんどの血清型の間で特に保存されている。様々なAAV血清型のRep78タンパク質は、例えば89%を上回って同一であり、AAV2、AAV3A、AAV3B、及びAAV6間でのゲノムレベルにおける全体的ヌクレオチド配列同一性は82%前後である(Bantel-Schaalら、1999、J.Virol.、73(2):939~947)。さらには、多くのAAV血清型のRep配列及びITRは、哺乳類細胞におけるAAV粒子の産生において、他の血清型由来の相当する配列を効率的に交差補完する(すなわち、機能的に代わりになる)ことが公知である。米国特許出願公開第2003148506号は、AAV Rep及びITR配列が、昆虫細胞においても他のAAV Rep及びITR配列を効率的に交差補完することを報告している。
【0060】
AAV VPタンパク質は、AAVビリオンの細胞トロピシティーを決定することが公知である。VPタンパク質コード配列は、種々のAAV血清型の間でRepタンパク質及び遺伝子よりもかなり保存されていない。Rep及びITR配列が他の血清型の相当する配列を交差補完する能力は、一血清型(例えば、AAV3)のカプシドタンパク質と、別のAAV血清型(例えば、AAV2)のRep及び/又はITR配列とを含む偽型AAV粒子の産生を可能にする。そのような偽型AAV粒子は、本発明の一部である。
【0061】
述べられているように、改変された「AAV」配列も、本発明の文脈において、例えば昆虫細胞におけるrAAVベクターの産生に用いられ得る。そのような改変された配列は、例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、又はAAV9 ITR、Rep、又はVPと少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、又はそれを上回る割合のヌクレオチド及び/又はアミノ酸配列同一性を有する配列(例えば、約75~99%のヌクレオチド配列同一性を有する配列)を含み、野生型AAV ITR、Rep、又はVP配列の代わりに用いられ得る。
【0062】
多くの点において他のAAV血清型と類似しているものの、AAV5は、他の公知のヒト及びサル血清型よりも、他のヒト及びサルAAV血清型とは異なる。そのことを考慮して、AAV5の産生は、昆虫細胞における他の血清型の産生とは異なり得る。本発明の方法を採用してrAAV5を産生する場合、1つ又は複数のベクターは、1つを上回る数のベクターの場合には集合的に、AAV5 ITRを含むヌクレオチド配列を含み、一ヌクレオチド配列はAAV5 Rep52及び/又はRep40コード配列を含み、一ヌクレオチド配列はAAV5 Rep78及び/又はRep68コード配列を含むことが好ましい。そのようなITR及びRep配列を所望のとおりに改変して、昆虫細胞におけるrAAV5又は偽型rAAV5ベクターの効率的な産生を獲得し得る。例えば、Rep配列のスタートコドンを改変し得る。
【0063】
好ましい実施形態において、第1のヌクレオチド配列、第2のヌクレオチド配列、第3のヌクレオチド配列、及び任意選択で第4のヌクレオチド配列は、昆虫細胞のゲノムに安定に組み込まれる。
【0064】
本発明に従った好ましいAAVは、関心対象の遺伝子産物をコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列をAAVのゲノムに含むビリオンであり、少なくとも1つのヌクレオチド配列は天然のAAVヌクレオチド配列ではないことが好ましく、AAVビリオンは、アミノ酸位置1にメチオニン及び位置2にバリンを含むVP1カプシドタンパク質を含む。例えば本明細書において下で規定される方法において、上で規定される昆虫細胞から獲得可能であるAAVビリオンがさらにより好ましい。
【0065】
本発明のAAVビリオンの利点は、それらビリオンの向上した感染力である。いかなる理論によっても拘束されることなく、感染力は、VP1の位置2におけるバリンと組み合わせて、カプシドにおけるVP2及び/又はVP3の量との関係においてカプシドにおけるVP1タンパク質の量の増加とともに増加するように見える。AAVビリオンの感染力とは、導入遺伝子の発現率及び導入遺伝子から発現される産物の量又は活性から推測することができるように、ビリオンに含まれる導入遺伝子の形質導入の効率を意味すると本明細書において理解される。
【0066】
本発明のAAVビリオンは、CFTR、第IX因子、リポタンパク質リパーゼ(LPL、好ましくはLPL S447X;国際公開第01/00220号を参照されたい)、アポリポタンパク質A1、ウリジン二リン酸グルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)、網膜色素変性症GTPaseレギュレーター相互作用タンパク質(RP-GRIP)、例えばIL-10のようなサイトカイン又はインターロイキン、ジストロフィン、PBGD、NaGLU、Treg167、Treg289、EPO、IGF、IFN、GDNF、FOXP3、第VIII因子、VEGF、AGXT、及びインスリンからなる群から選択されるポリペプチド遺伝子産物をコードする関心対象の遺伝子産物を含むことが好ましい。関心対象の遺伝子産物は、第IX因子又は第VIII因子タンパク質をコードすることがより好ましい。
【0067】
別の態様において、故に、本発明は、昆虫細胞においてAAVを産生するための方法に関する。方法は、(a)本明細書において上で規定される昆虫細胞をAAVが産生されるような条件下で培養するステップ;及び任意選択で(b)前記AAVを回収するステップを含むことが好ましい。培養下にある昆虫細胞に対する成長条件、及び培養下にある昆虫細胞における異種産物の産生は、当技術分野において周知であり、例えば昆虫細胞の分子操作に関する上で引用される参考文献に記載されている。
【0068】
方法は、抗AAV抗体、好ましくは固定した抗体を用いた、AAVのアフィニティー精製のステップをさらに含むことが好ましい。抗AAV抗体はモノクローナル抗体であることが好ましい。特に適切な抗体は、例えばラクダ又はラマから獲得可能である、単鎖ラクダ科抗体又はそのフラグメントである(例えば、Muyldermans、2001、Biotechnol.74:277~302を参照されたい)。AAVのアフィニティー精製のための抗体は、AAVカプシドタンパク質のエピトープに特異的に結合する抗体であることが好ましく、エピトープは、1種を上回る種類のAAV血清型のカプシドタンパク質に存在するエピトープであることが好ましい。例えば、抗体は、AAV2カプシドへの特異的結合に基づいて作り出されても又は選択されてもよいが、同時にまた抗体は、AAV1、AAV3、及びAAV5カプシドにも特異的に結合してもよい。
【0069】
本発明の別の態様において、パルボウイルスカプシドタンパク質をコードする核酸構築物を提供するための方法であって、前記核酸構築物は1つ又は複数の向上した特性を有し、方法は、
a)複数の核酸構築物を提供するステップであって、各構築物は、発現制御配列に作動的に連結されたパルボウイルスカプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列、及び発現制御配列に作動的に連結されたパルボウイルスカプシドタンパク質をコードする前記ヌクレオチド配列に隣接する少なくとも1つのパルボウイルス逆位末端反復(ITR)配列を含む、ステップ;
b)前記複数の核酸構築物を、パルボウイルスRepタンパク質を発現し得る昆虫細胞に移入するステップ;
c)前記昆虫細胞を、パルボウイルスカプシドタンパク質及びパルボウイルスrepタンパク質の発現を可能にする条件に供し、それにより、前記核酸構築物はパルボウイルスカプシドにパッケージされてパルボウイルスビリオンを提供し得るステップ;
d)前記昆虫細胞及び/又は昆虫細胞上清からパルボウイルスビリオンを回収するステップ;
e)前記パルボウイルスビリオンと標的細胞とを接触させて、標的細胞の感染を可能にするステップ;
f)前記標的細胞から前記核酸構築物を回収する又は同定するステップ
を含む、方法が提供される。
【0070】
実施例の節において示されるように及び上で記載されるように、この方法は、構築物が、ベクターゲノムを含有するかなりの量のカプシドを産生し得るという意味で、昆虫細胞において非常に機能的である核酸構築物をまず第1に選択するのに特に有用であり、構築物のDNAを標的細胞に移入することにおいて非常に有効でありその後構築物のDNAを発現させる、カプシドに含有された構築物を作出もし得る。
【0071】
複数の核酸構築物に関しては、発現制御配列、及び/又はカプシドタンパク質のアミノ酸配列をコードする核酸配列、及び/又はカプシドタンパク質のアミノ酸配列、及び/又はITR配列(複数可)に関して様々である構築物を意味すると理解される。したがって、核酸構築物における任意の変形が企図され得る。特性の任意の向上に関しては、特性は、参照配列、例えば野生型配列又は昆虫細胞におけるAAVカプシドの産生のための先行技術の核酸構築物との関係にあり得る。複数の核酸構築物において様々であり得る配列に関係する、向上を必要とすることがある任意の特性が企図され得る。そのような特性には、例えば効力の向上、産出量の向上、標的細胞選択性の向上が含まれてもよいが、それらに限定されるわけではない。
【0072】
分子多様性を創出すること又は突然変異誘発は、本発明の方法における第1のステップである。例えばエラープローン(EP)PCRにより、向上が求められる参照配列にランダム点変異を導入することによって、複数の核酸は変異配列(すなわち、変異核酸のライブラリー)をコードする。述べられているように、ランダム変異は、非コード配列及び/又はコード配列に含有されてもよい。導入され得る変異の頻度を、鋳型及びPCRサイクルの量、並びに用いられる変異原性プライマーを様々に変えることによって変化させることができる。参照が複数に対してなされる場合、この参照は、複数の核酸構築物に導入される対象となる変形に応じて、100個若しくはそれを上回る、好ましくは1,000個若しくはそれを上回る、10,000個若しくはそれを上回る、100,000個若しくはそれを上回る、又は1000,0000個若しくはそれを上回る数の異なる配列を伴うと理解される。「ライブラリー」又は「複数」という用語は、用語が、例えば関連し得る、すなわち実質的な配列同一性を有し得る数多くの異なる配列を指すという意味で、本明細書において同じ意味を有し得ると理解される。ライブラリーの各メンバー、すなわち異なる各配列は、ライブラリーにおいて1回を上回って表されることがある。例えば、ライブラリーが1,000個の固有の配列を含有する場合、ライブラリーは全体で1000,000個の配列を含有することがある。このことは、各ライブラリーメンバーの平均で、1000コピーがライブラリーに存在することを意味する。
【0073】
突然変異誘発は、当業者に公知の任意の様式で行われてもよい。例えば、そのような突然変異誘発はランダムであり得るが、そのような突然変異誘発は指向的であり得る(すなわち、例えば核酸構築物内の特異的な配列/構造を標的にする)。ランダム突然変異誘発を行って、低い変異率を達成することができ、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10個、又はそれを上回る数のアミノ酸変化(突然変異誘発が行われる出発配列と比較して)を有するCapタンパク質をコードする配列を提供することができる。
【0074】
ランダム突然変異誘発を行うために用いることができる技法には、大腸菌XL1red、UV照射、化学的方法(例えば、脱アミノ化、アルキル化、又は塩基類似体変異原)、又はPCR法(例えば、DNAシャッフリング、部位指向的ランダム突然変異誘発、又はエラープローンPCR)が含まれる。
【0075】
エラープローンPCRは、ポリメラーゼの天然のエラー率を変更する及び増強するように設計された、標準的PCRプロトコールの改変である。ATからGCへの変化に偏ったエラーを有するTaqポリメラーゼの天然に高いエラー率が理由で、Taqポリメラーゼを用いることができる。しかしながら、偏りが変異タイプの変形の増加(すなわち、より多くのGCからATへの変化)を可能にする、ポリメラーゼの代替形態を用いることも可能である。
【0076】
エラープローンPCR反応は、非相補的ペアを安定させるために、基本的なPCR反応と比較してより高濃度のMgClを典型的には含有する。MgClを添加して、エラー率も増加させ得る。変異率を改変する他の手段には、反応におけるヌクレオチドの比率(ration)を様々に変えること、又は8-オキソ-GTP若しくはdITPなどのヌクレオチド類似体を含めることが含まれる。サイクルの数を増加させる/減少させることにより有効な倍増の数を変化させることによって、又は初回鋳型濃度を変化させることによっても、変異率を改変することができる。
【0077】
とにかく、どちらの手段で変異が導入されるとしても、結果として生じる複数の配列をその後核酸構築物内にクローニングして、複数の核酸構築物を獲得する。核酸構築物は、発現制御配列に作動的に連結された、パルボウイルスカプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列に隣接する1つ又は複数のパルボウイルス又はAAV ITRを含有する(典型的には2つのAAV ITRによって隣接される)。核酸構築物は、CMV及びバキュロウイルスp10プロモーターなどのプロモーターの制御下で、例えばITRの間に、任意選択で緑色蛍光タンパク質(GFP)発現カセットなどのレポーター遺伝子発現カセットも含有することができる。複数の構築物を、目的地ベクター、例えばバキュロウイルスベクターにその後導入して、バキュロウイルスのライブラリーを獲得し得る。この導入は、相同組み換えなどの一般の生体分子技法を用いることによって、及びBac-to-Bacのような市販のシステムを用いることによっても容易に達成され得る。ライブラリーにおける各バキュロウイルスは単一の核酸構築物を含有し、前記単一の核酸構築物は、意図された配列変形を有する。ライブラリーの複雑性は、バキュロウイルスライブラリーが作出された場合に維持される(すなわち、バキュロウイルスライブラリーにおける固有の配列の量が、核酸ライブラリーと比較した場合にほぼ同じままである)ことが好ましい。したがって、上記の方法のステップa)において規定される核酸構築物は、バキュロウイルスベクターに含有されることが好ましい。
【0078】
その後、複数の構築物を昆虫細胞に移入する。複数のバキュロウイルスを用いることが好ましい。この理由は、バキュロウイルスを用いると、感染多重度をよく制御し得るためである。したがって、バキュロウイルスライブラリーを用いる場合、感染多重度は1よりも下に保たれることが好ましく、0.5よりも下に保たれることが好ましく、0.1よりも下に保たれることがより好ましい。例えば、0.5のmoiを用いると、昆虫細胞の大多数は細胞あたり単一のバキュロウイルスを有すると考えられるが、しかしながら、これらの細胞のかなりの部分は細胞あたりライブラリー由来の2匹のバキュロウイルスを有し、ほとんどの細胞は感染されない。細胞あたりのバキュロウイルスの数は、ポアソン分布によって影響を受ける。moiを下げることにより、1匹を上回る数のバキュロウイルスを有する細胞の数はさらにもっと低下する。しかしながら、感染多重度を知ることは、本発明に従って必要でなくてもよい。例えば、実施例の節において示されるように、複数のバキュロウイルスの希釈系列(dilution serious)も用いられ得、最適なAAVベクターライブラリー産生(例えば、最も高い力価及び/又は最も少ない交差パッケージング)を提供する希釈を選択することができる。
【0079】
複数の構築物が提供される昆虫細胞は、パルボウイルスRepタンパク質も発現し得る。例えば、Rep発現構築物を含有する付加的なバキュロウイルスを用いて、細胞にRep発現構築物を移入してもよい。Repが限定因子ではないように、すなわち細胞に複数の構築物のうちの1つが提供された場合に、細胞がRep発現構築物も有する可能性が大きいように、比較的高い感染多重度が用いられることが好ましい。代替的に、Rep発現構築物を含有する安定な細胞株も用いることができ、安定な細胞株は、複数の構築物のうちの1つが細胞に移入された場合に、Repタンパク質を構成的に発現し得る又はRepを誘導的に発現させることができる。いずれの場合でも、パルボウイルスRepタンパク質を発現し得、本発明に従った複数の構築物のうちの1つ(又は複数)を提供される昆虫細胞は、次に、パルボウイルスカプシドタンパク質及びパルボウイルスrepタンパク質の発現を可能にする条件に供され、それにより、核酸構築物はパルボウイルスカプシドにパッケージされてパルボウイルスビリオンを提供し得る。例えばバキュロウイルスシステムが用いられる場合、この供することは、大部分が細胞をしばらくの間培養するステップを伴う。バキュロウイルスベクターシステムが用いられる場合、ほとんどではないとしても多くの細胞が構築物ライブラリーのいくつかのメンバーを含有するような程度までバキュロウイルスの広がりを可能にしない条件を選択することが好ましい。ライブラリー由来の構築物を含有する細胞の大多数が、単一の構築物を含有し、前記単一の構築物も含有する、前記構築物によってコードされるパルボウイルスカプシドのみを産生するような条件を選択することが好ましい。1つを上回る種類の構築物が昆虫細胞に含有されるであろう条件が選択された場合、構築物の1つは感染性の又は強力なAAVを産生し、それほど強力でない又は感染性でない構築物は交差パッケージされ、この交差パッケージは、パッケージされたすべての構築物のうちのどの構築物が強力なAAVを産生し得るかを判定することを難しくする。言い換えれば、低い交差パッケージングを有することが、よりストリンジェントでより有効な選択を可能にする。
【0080】
次に、パルボウイルスビリオンを昆虫細胞及び/又は昆虫細胞上清から回収する。パルボウイルスビリオンの回収のための数々の方法が使用可能であり、実施例の節において記載されるものなどの方法を含む。また、密度(ステップ)勾配遠心分離などの従来の方法(イオジキサノール、CsCl)、及び/又はタンジェンシャルフロー濾過を用いてもよい。そのような従来の方法は、例えばカプシド配列に、アフィニティークロマトグラフィーに対して効果を有し得る変形が導入される場合に有用であることがある。それにもかかわらず、どの構築物を選択することができるかに基づき、特異的アフィニティークロマトグラフィーステップを特質の1つとして含むことも企図することができる。したがって、特異的アフィニティークロマトグラフィー特質の向上は、同様に向上させることを企図することができる特質の1つであってもよい。それにもかかわらず、昆虫細胞における効率的な産生、及び感染力又は効力は、とどまることを必要とする及び/又は向上し得る特質のままである。
【0081】
別の実施形態において、上で記載される方法によって産生されたパルボウイルスビリオンライブラリーが提供される。さらなる実施形態において、多様なパルボウイルスベクターを含むパルボウイルスライブラリーが提供され、前記パルボウイルスベクターライブラリーはパルボウイルスベクターカプシドを含み、各パルボウイルスカプシドは、パルボウイルスカプシドタンパク質の発現のための発現カセットを含むパルボウイルスベクターゲノムを含有する。多様なパルボウイルスベクターを含むパルボウイルスベクターライブラリーは、パルボウイルスベクターカプシドを含み、各パルボウイルスカプシドは、昆虫細胞におけるパルボウイルスカプシドタンパク質の発現のための発現カセットを含むパルボウイルスベクターゲノムを含有することが好ましい。多様なパルボウイルスベクターを含むパルボウイルスベクターライブラリーは、パルボウイルスベクターカプシドを含み、実質的にそれぞれのパルボウイルスカプシドはライブラリーに含有され、パルボウイルスカプシドは、パルボウイルスカプシドタンパク質の昆虫細胞における発現のための発現カセットを含むパルボウイルスベクターゲノムを含有し、パルボウイルスベクターゲノムはカプシド化されていることがより好ましい。代替的に、述べられているように、ベクターゲノムは必ずしも発現カセットを含有しなくてもよいが、ベクターゲノムがカプシド化されている、パルボウイルスアミノ酸配列(及び/又はパルボウイルスアミノ酸配列をコードする発現カセット)を同定することができる配列識別子も含有してもよい(図6を参照されたい)。言い換えれば、ベクターゲノムに含有される配列から、ベクターゲノムが含有されている相当するパルボウイルスカプシド(すなわち、パルボウイルスカプシドのアミノ酸配列)が同定され得る限りにおいて、ライブラリーは、カプシド化されたベクターゲノム内の任意の配列を含有することができるパルボウイルスカプシドを実質的に含有する。
【0082】
企図することができる特異的識別子配列(図6Bを参照されたい)は、長さが少なくとも10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20ヌクレオチドであることが好ましい。企図することができる特異的識別子配列は、長さが多くても50、60、70、80、又は90ヌクレオチドであってもよい。少なくとも15ヌクレオチドの識別子配列を用いると、約10e9個の考え得る固有の組み合わせが可能である。より長い配列識別子を有することは、より多くの冗長性及びより確実な同定を可能にし得る。配列識別子を、特異的カプシド配列に先験的に共役させてもよい。したがって、そのようなシナリオにおいて配列識別子がシーケンスされる又は検出される場合、表を参照することによって、相当するカプシド発現カセットを同定することができる。代替的に、配列識別子と結び付いているカプシド発現カセット配列又はその一部が決定され得るように、バキュロウイルスゲノムなどのベクタービヒクルゲノムを捕捉する及び/又はシーケンスすることによって、配列識別子を用いてもよい。そのような解析及び/又は配列決定は、後に行われてもよい。複雑なライブラリーから配列を同定するための、ハイスループット技術を用いた配列決定のためのそのような手段及び方法は、当技術分野において周知である。
【0083】
上で記載される本発明に従った又は上で記載されるように産生されたライブラリーは、粗溶解物又は精製産物として提供されてもよい。特に、そのようなライブラリーは、ベクターゲノムを含有しパルボウイルスカプシドタンパク質をコードするウイルスベクターから産生されてもよいことが好ましい。ライブラリーを作出するために用いられる好ましいベクターは、昆虫細胞において活性があるパルボウイルスカプシドタンパク質に対する発現カセットを含有するバキュロウイルスベクターであってもよい。代替的に、任意の代替的な適切なウイルスベクターライブラリーを容易に構想し得、細胞株を企図することができ、例えばアデノウイルス、HSV、レンチウイルスベクターに基づくシステムなどをバキュロウイルスの代わりに用いてもよく、カプシドタンパク質に対する発現カセットは、例えばHeLa細胞、293細胞、CHO細胞、A549、293T、COSなどの哺乳類細胞における発現に適している(又は、発現について選択される対象となる)。企図することができるそのような代替的なベクタービヒクル及び適切な細胞株は、当技術分野において周知であり、例えばGene and Cell Therapy-Therapeutic Mechanisms and strategiesの第4編、Nancy Smith Templeton編、2015、CRC Pressに記載されている。したがって、代替的な実施形態において、バキュロウイルスベクター及び昆虫細胞を用いる代わりに、適切な哺乳類ウイルスビヒクルと組み合わせた哺乳類細胞に対して、本明細書において記載される手段及び方法を容易に用いることができる。いずれの場合でも、AAVベクターライブラリーなど、本発明に従って提供されるパルボウイルスベクターライブラリーは、産生細胞あたりのコピー数の制御を可能にするベクタービヒクルを用いて作出され、ベクターライブラリーの品質は、そのような制御を可能にしない、プラスミドにより産生されたライブラリーと比較して有意に向上する。
【0084】
次に、パルボウイルスビリオンが回収され、又は違う言い回しをすれば、パルボウイルスベクターライブラリーが提供され、パルボウイルスベクターライブラリーは粗溶解物又は精製産物であってもよく、そのパルボウイルスビリオンと選択された標的細胞とをその後接触させて、パルボウイルスを標的細胞に感染させる。遺伝子療法が開発されているところである肝臓細胞、腎臓細胞、ニューロンなどの適切な標的細胞であってもよい適切な標的細胞を選択することができる。適切な標的細胞は、例えばHeLa細胞、HEK293細胞、若しくはHuH細胞などのいずれかの細胞株であってもよく、又は初代細胞であってもよい。接触には、適切な動物モデル、例えばラット、マウス、サルへの送達が含まれ、様々な送達経路、例えば静脈内又は筋肉内注射も含まれてもよいこと、及び後続の標的細胞は、そのような動物モデルにおける選択された候補臓器であることを想定することさえできる。いずれの場合でも、任意の細胞タイプを選択することができ、パルボウイルスビリオンと任意の細胞タイプとを任意の手段で、すなわちインビボ又はインビトロで接触させて、感染、すなわちカプシドビリオンに含有されている核酸構築物の細胞への移入を可能にし得る。細胞を、形質導入工程を支援する、例えば形質導入を誘導する、アデノウイルスと共感染させることもできると理解される。共感染は、例えばレポーター遺伝子構築物が核酸構築物に含有されており、DNAの効率的な移入を可能にするだけでなく、核酸構築物を核に送達する細胞内部の効率的なトラフィッキングも可能にする細胞を選択したい場合に有益であることがある(図6を参照されたい)。理論によって拘束されることなく、カプシド配列を変異させる並びに/又はVP1、VP2、及びVP3の化学量論を変化させる場合、共感染は内部トラフィッキングの妨げにつながることがある。例えば、VP1を欠くカプシドは細胞に感染し得るが、核には入らない。核酸構築物を含有するカプシドは、その後(than)エンドソームにとどまり、プロテアソームによるタンパク質分解の標的にされる。したがって、選択工程の目的に基づいて選択ステップを含めること、すなわち核への核酸構築物の効率的な送達を達成して、核酸構築物からの発現を可能にすることは興味深いものであることがある。選択ステップは、例えばレポーター遺伝子又は関心対象の他の任意の遺伝子を介したものであってもよい。選択ステップはまた、ベクターゲノムの効率的な送達を達成するビリオンが増幅される、HeLa RC32細胞又は同様のものであってもよい。
【0085】
最後に、細胞を標的細胞に感染させて、好ましくは効率的な形質導入を可能にした場合、核酸構築物が標的細胞から回収される。細胞集団全体から核酸構築物を回収してもよい。細胞集団の部分集合、例えばレポーター導入遺伝子発現を示し、故に標的細胞に形質導入することにおいて有効であった部分集合からも核酸構築物を回収してもよい。細胞集団全体から、しかし特に全細胞由来の核からも核酸構築物を回収してもよい。このように、標的細胞に形質導入することに優れていると予想される核酸構築物(及び、付随して核酸構築物が同様にコードするカプシド)を選択することができる。回収された核酸構築物を次にシーケンシングに供して、核酸構築物を同定することができる。述べられているように、核酸構築物は、構築物を同定する識別子配列を含有してもよい。例えばバキュロウイルスベクターシステム及び昆虫細胞がパルボウイルスベクターライブラリー作出に用いられており、パルボウイルスベクターゲノムがそれが含有されるパルボウイルスカプシドに対する発現カセットを含有する場合、発現カセット又はその一部は識別子配列であると考えることができるとも理解される。発現カセットは、哺乳類細胞に導入される場合、発現カセットが昆虫細胞プロモーターを有し哺乳類細胞において活性があるプロモーターでない場合にはAAVカプシドを産生することができない。特に、変形が導入された核酸構築物の部分(又は、相当する識別子配列)を、例えば小区分が短時間で増幅されたPCR反応の後に、シーケンシングに供することができる。核酸構築物全体又はカプシドコード配列全体もシーケンスすることができる。シーケンシングには、ハイスループットシーケンシング又は当技術分野において公知の他の任意の適切なシーケンス法が含まれる(incude)と理解される。
【0086】
特に興味深いのは、向上した配列を同定することであってもよい。向上した配列が非常に制限的であるような条件が選択される場合、回収されたすべての核酸構築物及びその配列は、向上した核酸構築物である。したがって、核酸構築物の回収は、向上した核酸構築物の選択を含む。それにもかかわらず、回収された配列の集団と、例えば初回に構築されたライブラリーに含有される配列の集団とを比較することによって、回収された核酸構築物に由来する向上した配列を確認しても又は同定してもよい。初回集団と比較した場合に、回収された集団において非常に支配的である回収された配列は、所望の向上した核酸構築物であることを指し示す。したがって、核酸構築物の回収に加えて、付加的なステップは、向上した核酸構築物に相当する、ライブラリー由来の核酸構築物の同定を含んでもよい。そのような同定は、例えば初回ライブラリー、核酸構築物を含有するバキュロウイルスライブラリー、パルボウイルスカプシドに含有される核酸構築物集団からの1つ又は複数のものの集団配列との比較を含んでもよい。
【0087】
特性に対して核酸構築物が選択された向上した特性を有する核酸構築物がいったん提供される又は同定されると、次のステップは、ステップf)において回収される、発現制御配列に作動的に連結された、パルボウイルスカプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子療法ベクターの産生のための核酸構築物を作出するステップg)である。遺伝子療法ベクターの産生のための核酸構築物は、パルボウイルスITR配列によって隣接されたパルボウイルスカプシドタンパク質に対する発現構築物を有しない。したがって、遺伝子療法ベクターの産生のための核酸構築物は、パルボウイルスカプシドタンパク質に対する発現構築物を含有することが好ましく、例えば遺伝子療法構築物、すなわちパルボウイルスITRによって隣接された治療用遺伝子、及び/又はRep発現構築物など、さらなるパルボウイルス構成要素を任意選択で含有してもよく、すべての構築物は昆虫細胞産生との適合性のために構築される。したがって、作出された核酸構築物は、バキュロウイルスベクター又は昆虫細胞に含まれることが好ましい。AAVウイルスベクターは遺伝子療法にふさわしい候補であるため、特に前記パルボウイルスカプシドタンパク質、パルボウイルスRepタンパク質、及び/又はITRヌクレオチド配列は、アデノ随伴ウイルスに由来することが好ましい。遺伝子療法ベクターの産生のための核酸構築物を作出するために用いられる回収された核酸構築物は、例えば回収された核酸構築物から関心対象の配列を切り出すことによって獲得される、実際の物理的核酸であってもよいと理解される。代替的に、関心対象の配列、例えばパルボウイルスカプシド発現カセット又はその一部を、PCR反応により増幅し、その後用いてもよい。また、配列を決定することができ、関心対象の配列をデノボ、例えばDNA合成器によって作出してもよい。
【0088】
選択工程全体は、医学的治療における使用のための遺伝子療法ベクターの昆虫細胞に基づく製造のための向上した構築物を同定するためのものであるため、さらなる実施形態において、上で記載されるステップa)~g)を含む、パルボウイルスベクターの産生のための方法であって、昆虫細胞に、
遺伝子療法ベクターの産生のための作出された核酸構築物;
少なくとも1つの逆位末端反復(ITR)ヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列を含有する核酸構築物;及び
昆虫細胞においてパルボウイルスRepタンパク質を発現し得る、パルボウイルスRepタンパク質をコードする核酸構築物
を提供し、前記昆虫細胞を、パルボウイルスベクターが産生されるような条件下で培養し;任意選択で(b)産生されたパルボウイルスベクターの回収、を含む方法が提供される。パルボウイルスベクターはAAVベクターであることが好ましい。したがって、VP1 ATGコドンの前にアウトオブフレーム開始コドンを有するVP1、VP2、及びVP3発現構築物を有するAAVベクターの産生のための上で記載される方法のいずれかは、遺伝子療法ベクターの産生のための任意の同定された向上した構築物及び作出された核酸構築物にも適用される。
【0089】
この文書において及びこの文書の特許請求の範囲において、「含む(comprise)」という動詞及びその活用は、前記単語に続く項目は含まれるが、具体的に挙げられていない項目が除外されるわけではないことを意味する前記単語の非限定的な意味で用いられる。加えて、「a」又は「an」という不定冠詞による要素への言及は、1つ及び1つのみの要素があることを文脈がはっきりと要していない限り、1つを上回る数の要素が存在する可能性を除外するわけではない。故に、「a」又は「an」という不定冠詞は、「少なくとも1つ」を通常では意味する。
【0090】
本明細書において引用されるすべての特許及び文献参考文献は、参照により参考文献全体として本明細書によって組み入れられる。
【0091】
以下の実施例は、単なる例示目的のために提示されるものであり、本発明の範囲を限定することを意図されるものでは決してない。
【実施例0092】
1.序論
バキュロウイルス発現システム(BEVS)におけるAAVカプシドの発現は、適度な比率で産生されるべき3種のウイルスカプシドタンパク質をもたらす単一のmRNA転写産物を促すような発現カセットの改変を要する。Urabeら(2002;前出)によってなされた研究は、イントロンスプライシング部位の除去と組み合わせたスタートコドンの適応が、昆虫細胞における3種すべてのVPタンパク質の発現をもたらすことを実証した。さらなる研究により、CTG及びGTGは、BEVSシステムにおけるAAVの産生のための効率的なスタートコドンとして用いられ得ることが示された。それに付随して、第2の位置におけるアラニンは、例えばAAV5カプシド配列におけるアラニンの導入によって、天然のVP1~VP3カプシドタンパク質比を有するAAV5カプシドをもたらした。
【0093】
しかしながら、合理的設計工程において、組み換えバキュロウイルスを産生する労働集約的な研究に起因して、構築物及び組み合わせの限定された部分集合が可能である。したがって、AAV5カプシド内のランダム化された文脈配列と組み合わせて一連の代替スタートコドン(合計17種)を設計するように設計するライブラリー手法を用いて、BEVSシステム由来のAAVカプシドの品質及び産出量の向上を選択する余地がまだあるかどうかを判定した(方法の概略に関しては図1を参照されたい)。下で描写される結果及び手法はAAV5に限定されるわけではなく、他の血清型及び他のパルボウイルスに同様に適用され得、パルボウイルス遺伝子療法ベクターの他の特質の向上を選択するためにも同様に用いられ得る。
【0094】
材料及び方法
構築物設計及びプラスミドライブラリー
種々の真核生物及び原核生物にわたる以下の代替推定スタートコドンを文献において見い出し、AAV5 VP1産生のための考え得るスタートコドンとして利用した:ATT、ATG、ATA、AGA、AGG、AAA、CTG、CTT、CTC、CTA、CGA、CGC、TTG、TGA、TAA、TAG、及びGTG。構築物は、以下の文脈的設計を有した:NNN NNN NNN GNN NNN(配列番号71)。NNNがVP1に対する上記スタートコドンのいずれかの挿入を示す場合、一方でNは、均等な分布を有してA、T、C、又はGをランダムに表す。スタートコドンに続く最初の三量体における「G」は固定されている。このライブラリーの理論的複雑性は、7.1×10(411×17)、すなわち作出され得る固有の配列の最大数として算出される。スタートコドンライブラリーをGeneArt(ThermoFisher)において合成し、AAV5コードカプシド配列及び遺伝子発現配列を有する完全な配列を、産生されたAAVカプシドがカプシド自身の中に導入遺伝子としてカプシドコード遺伝子をカプシド化するように、ITR含有プラスミドにクローニングした。プラスミドライブラリーをGeneArtにおいて作出し、ライブラリー由来の100個の単一コロニーをサンガーシーケンシングに供して、ライブラリー内の複雑性及び多様性を確認した。
【0095】
バキュロウイルスライブラリー
BEVSシステムの能力を利用し、その能力によって新たな設計をBEVSシステムとの設計の適合性についてスクリーニングするために、本発明者らは、上記の供給されたプラスミドライブラリーから組み換えバキュロウイルスライブラリーを作出した。ライブラリーの理論的多様性は7.1×10である。標準的な組み換えプロトコールにおいて、本発明者らは、1μgのBsu36I消化BacAMT5バキュロウイルス骨格(7.34×10個分子)とともに1μgのドナープラスミド(8.12×1010個プラスミド分子)を用いた。限定因子は、100%の組み換え効率の場合に103倍もの理論的ライブラリー複雑性を表すバキュロウイルス骨格である。プールされたP0ライブラリーをSF9細胞において増幅し、バキュロウイルスはおよそ1000倍増幅し、十分に複雑なライブラリーを表すP1ライブラリーをもたらすと予想される。
【0096】
AAVライブラリー作出
AAVライブラリーの作出に関しては、SF9細胞をmlあたり100万個細胞で接種した。MOI(感染多重度)を、以下のように算出した:MOI=0.7×ウイルスの容積×力価/細胞密度×細胞の容積。本発明者らは、バキュロウイルスライブラリーのP1継代が、およそ2×1011gc/mlの力価を有すると判定した。平均でバキュロウイルスのTCID50値は、ゲノムコピー力価よりも約2log値下回ると概算される。2×10/mlの概算TCID50値をもたらす。P1バキュロウイルスライブラリーに対して2×10の算出される感染力価を用いて、最初のAAVライブラリー(0.5のMOI)を作出した。3Lの昆虫細胞をmlあたり100万個細胞で接種することによって、本発明者らは、カプシド/導入遺伝子に関して0.5のMOIを有する。言い換えれば、細胞あたり1個未満の感染粒子。カプシドは導入遺伝子でもあるため、(それ故、カプシド)カセットは、レプリカーゼによって細胞あたりおよそ1000倍増幅されると考えられる。この二重感染は、三重感染と比較した場合、ポアソン分布に関して統計的により効率的でもある。5、25、及び50の概算MOIを用いて、さらなる3つのAAVライブラリーを作出した。0.5のMOIで作出されたAAVライブラリーは、選択方法において最高の性能を発揮することが見い出された。
【0097】
AAVの精製及び定量
AAVライブラリー材料を、Akta Explorerでの5ml AVBセファロースカラム(アフィニティークロマトグラフィー)を通して3L CLBから精製した。DNAを単離し、AAVベクターゲノム配列を増幅するプライマーを用いて各画分に対してqPCRを実施した。ここから本発明者らは、HeLa RC32細胞での改変TCID50アッセイのために画分をプールして、ライブラリーにおける新規の変異体に対して選択圧をかけた。下記を参照されたい。他の3つのAAV産生物(それぞれ、5、25、及び50のMOI)を同様の形式で単離した。単離されたすべてのAAVライブラリーから、次世代シーケンシング(NGS)のためにDNAを単離した。
【0098】
AAVライブラリーに対する選択圧
HeLa RC32細胞での改変TCID50アッセイ(Tessier Jら、J.Virol.75(1):375~383、2001)を用いて、最も高い効力を呈するAAVバリアントを選択した。HeLa RC32細胞は、ゲノムに組み入れられたAAV2レプリカーゼ及びカプシド遺伝子を含有する。AAVによる形質導入があると、導入遺伝子はレプリカーゼによって増幅され、HeLa細胞内でも作出されるAAVカプシドにパッケージされる。この細胞株の利点は、原理上、レプリカーゼが、核に入る任意のAAV DNAの増幅器として作用することである。AAVの限界希釈系列を実施し及びHeLa細胞に感染させることによって、本発明者らは、核に何とか上手く到達するそうしたAAVのみを選択的に増幅し得る。言い換えれば、良好な比率でVP1:VP2:VP3を含有する/コードするAAVカプシド及び構築物を選択する。HeLa細胞に形質導入するために用いられた希釈系列は、6400gc/細胞、3200gc/細胞、1600gc/細胞、800gc/細胞、400gc/細胞、及び200gc/細胞であった。
【0099】
AAV DNAの単離
形質導入の2日後、HeLa細胞を溶解し、DNA単離に供して、核に到達したベクターゲノムがHeLa細胞において増幅されているAAVベクターゲノムを回収した。次世代シーケンシング(NGS)への提出前に、単離されたDNAに対して、カプシドライブラリーに対するユニバーサルプライマーセットを用いたエンドポイントPCRを実施した。
【0100】
様々なライブラリーのNGSシーケンシング
プラスミドライブラリーからの単離されたDNA、バキュロウイルスライブラリーのP1継代、AAVライブラリーの産生物、並びに各AAVライブラリー形質導入に対するプールされた希釈物から単離されたDNAに対して、NGSシーケンシングを実施した。各シーケンシング反応に対する調製されたDNAを、増幅及びバーコード化のためにBaseClearに送った。
【0101】
結果
0.5MOI感染によりAAVライブラリーを作出した。AAVライブラリーの産生後、ライブラリーをHeLaRC32細胞の感染に用いた。プラスミドライブラリー、バキュロウイルスライブラリー、AAVライブラリー、及び感染したHeLaRC32を処理し、次世代遺伝子シーケンシングのために解析して、それらの複雑性を判定した。固有の配列を各ステップで同定し、各固有の配列のコピー数も決定し、配列の総数を決定し、各スタートコドンに対する相対パーセンテージを決定し及びプロットした(図2A~Eを参照されたい)。作出されたバキュロウイルスライブラリーは、プラスミドライブラリーの複雑性の概算74%を表した。プラスミドライブラリーとバキュロウイルスライブラリーとの間に、開始コドンの普及率に関して顕著な観察結果はなく(図2A及び2Bを参照されたい)、このことは、開始コドンに対して適用された選択圧がないためと予想される。しかしながら、ATGがスタートコドンとして用いられた場合、この配列はAAVカプシドにおいて最も少なく見い出された(例えば、図2Cを参照されたい)。ここで、ATGは全ライブラリーの0.5%未満を表す。VP1に対する強いスタートコドンは、ほとんど又は全くVP2及びVP3タンパク質産生なしで、大部分がVP1タンパク質を作出し、そのうちVP3はカプシドを作出するのに一般的に必須であるため、この低いパーセンテージは予想された。残りに関して、プラスミドライブラリー、バキュロウイルスライブラリー、及びAAVカプシドライブラリーの間に、観察結果はすべて変動の通常の値域内にあったように(約4~5%から約8~9%に及ぶ)、コドン使用法に関するパーセンテージに関してなされた顕著な観察結果はなかった。最後に、AAVライブラリーは、一般的に、バキュロウイルスライブラリーの複雑性のおよそ96%を表し、バキュロウイルスライブラリーからのAAVの作出における複雑性の包括的移行を示唆した。最後に、HeLa RC32細胞に限界希釈系列でAAVライブラリーを感染させた場合、本発明者らは、CTG及びGTGが、バキュロウイルス発現システムにおける強力なAAVウイルスカプシド粒子の産生のための2つの最も豊富なスタートコドンであることを見い出した。CTG及びGTGは、細胞に上手く形質導入し及び感染する(すなわち、ベクターゲノムDNAを核に移入して、HeLaRC32細胞による増幅を可能にする)全配列のほぼ50%を一緒に構成した。スタートコドンの直後のコドンのみはGに限られるが、スタートコドンの後のコドンは優位にアラニンをコードすることが見い出されたことは顕著であり(示されず)、Alaをコードする三量体が、アミノ酸配列に起因した及び/又はDNA/RNA配列に起因した、昆虫細胞におけるVP1発現のための第2のコドンとしての選好性を有することがあることを裏付けた。細胞から回収された配列は、AAVライブラリー複雑性のほんの5%の回収を示唆することは顕著である。この低い回収は、選択圧が重大であったことを示す。
【0102】
スタートコドンとしてのATGが、完全なライブラリーの約8%で、Hela RC32細胞からの単離されたDNAにおいて3番目に高く表されたスタートコドンであることは興味深い。この割合は、ほんの0.5%での、AAVライブラリーにおける表示とは対照的である。VP1開始コドンを有する配列の上位30が下記の表1に列挙されており、最上位に列挙された最も普及しているもの(配列番号1)は、集団の大多数を占めている。各配列それ自体は、VP1スタートコドン配列文脈の置き換え配列として用いられる場合、AAVカプシドの効率的な産生を可能にする。各配列それ自体は、AAVカプシドの効率的な産生を可能にするある特有の特性を有することがあるが、それに加えて基本的な特質が下で列挙される配列から同定され得、列挙される配列はATGスタートコドンからの強力なAAVの効率的な産生に影響を与える何らかの一般原則を記載していることがある(とりわけ、図5を参照されたい)。基本的な特質は、VP1カプシドの位置2に好ましくはバリンをもたらす、VP1開始コドンの前の(アウトオブフレーム)開始コドン、及び/又はATGコドンの直後のGT配列を含み得るが、必ずしもそれらに限られなくてもよい。30個のクローンの大多数に関して、翻訳開始部位として作用し得る上流アウトオブフレームスタートコドン(ATG、CTG、ACG、TTG、及びGTG)が観察された。そのようなアウトオブフレームスタートコドンは、翻訳された場合、VP1開始コドンの後にストップコドンを有する短いペプチドをもたらすと予想される。また、アウトオブフレームCTT又はCTC非標準スタートコドンが同定され得る。CTT及びCTCは強い非標準スタートコドンとは考えられていないものの、本発明者らは、これら2つのスタートコドンを特異的に含有する様々なカプシドがHeLa細胞から単離されることを観察した。理論によって拘束されることなく、このことは、VP1 ATGに先行するアウトオブフレームスタートコドンが、リボソームに対するおとり翻訳開始文脈として作用することができ、それによってVP1翻訳に干渉し、野生型AAVに関して観察され得る漏れやすい疑似リボソームスキャニングを可能にすることを示唆する。より具体的には、これら代替スタートコドンからの(短い)ペプチドの合成は、リボソームにmRNA転写産物をスキャンし続けさせることができる又はスキャニングを再開させることができる。この遅れた漏れやすい開始は、1つのポリシストロン性mRNA転写産物からのVP2及びVP3の翻訳を可能にすることがある。さらには、この遅れた漏れやすい開始は、CTG、GTG、TTG、及びACGが非標準スタートコドンとして導入される場合に起こることにほぼ間違いなく似ていることがあり(付与された欧州特許第1,945,779 B1号;付与された米国特許第8,163,543号;Urabeら、2002;前出)、それによって、リボソームに非標準VP1スタートコドンで翻訳を規則的に開始させず、単一のmRNA転写産物におけるVP2及びVP3それぞれのスタートコドンからのVP2及びVP3の翻訳の十分な開始を可能にする。
【0103】
【表1】
【0104】
ライブラリーの選択工程が有用な新規のクローンを作出したことを確認するために、それぞれATG、CTG、GTGに対する2つの代表的スタートコドン構築物、並びにTAG及びTGAそれぞれに対する1つの代表的構築物を、安定なバキュロウイルスクローンへの組み換えについて選択した(表1)。これらの構築物を用いて、ウイルスカプシドサブユニット比及び効力を判定した。さらには、本発明者らは、ATGスタートコドンを有する構築物が、高い産出量及び強力なAAVを作出したことを確認することを望んだ。
【0105】
【表2】
【0106】
固有のスタートコドン配列文脈(VP1開始コドンに下線が引かれている)を選択し、AAV5発現構築物配列における置き換えとしてクローニングした(配列番号70及び74、配列番号74はnt148~167に相当する)。配列番号31は、MOI5ライブラリーから選択され及び同定された優位なクローンであった。いくつかのクローンを各候補に対して作出し、VPカプシド発現を解析した(図3)。スタートコドンの相対的文脈を有するスタートコドンは、良好な化学量論を有するAAVカプシドを作出することにおいて様々な程度の成功を有した。ほとんどの場合、構築物ごとに3つのクローンを試験して、バキュロウイルスクローンが安定であるかどうかを判定したことに留意されたい。この点において、ATG1は1つの安定な産生体を有した(図3におけるATG1に関する2番目のレーン)。ATG2に関しては、有り余る安定な産生体があり、すべてが良好な化学量論を有した。CTG1構築物は産生することができず、一方でCTG2は、国際特許出願の国際公開第2015/137802号に記載されるものに類似したカプシド化学量論を産生した(データ示さず)。同様に、GTG2も良好な化学量論を呈したが、一方でTAG(ストップコドン)は非常に少量を産生し、TGA(ストップコドン)はVP1なしのカプシドの産生をもたらした。したがって、本発明者らが、効率的なAAVカプシド構築物、すなわちAAV5であって、良好な化学量論を呈するスタートコドンとしてATGが利用される構築物を作出し得ることが確認されたことは驚くべきことである。
【0107】
スタートコドン構築物のそれぞれに対する安定なクローンを選択し、安定なクローンを用いて、CMVプロモーターの制御下でSEAPレポーター遺伝子を持つAAVを産生した。すべてのAAV構築物は、同程度の値域にある力価(gc/ml)をもたらした。滴定後、本発明者らは、3つの異なるMOIでHuh7及びHeLa細胞の両方に形質導入し、48時間後にSEAP活性を判定した(図5A及び5B)。ATGスタートコドンを有する2つの構築物は、CTG及びGTGと比較して同程度の又は若干向上した効力のカプシドを産生したが、一方でVP1(TGA)を欠くカプシドは、予想されるバックグラウンドを上回る識別可能なSEAP活性を有しなかったことは顕著である。バリンが効力を向上させることがあることの裏付けとなる証拠は、表1において同定される支配的な固有のクローンが位置2でバリンをコードするという事実によって提供される。これらの結果は図3からの観察結果と一致しており、これらのカプシドは、CTG及びGTG構築物に非常に類似したVP1:VP2:VP3化学量論を呈した。
【0108】
さらなる実施形態は以下のとおりである。
[実施形態1]
オープンリーディングフレームを含むヌクレオチド配列の昆虫細胞における発現のための発現制御配列を含む核酸構築物であって、前記オープンリーディングフレーム配列が、
i)アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質VP1、VP2、及びVP3、並びに
ii)VP1に対するATG翻訳開始コドン
をコードし、前記ヌクレオチド配列が、前記オープンリーディングフレームの上流に、前記オープンリーディングフレームと読み枠がずれている代替スタートコドンを含む、核酸構築物。
[実施形態2]
前記代替スタートコドンが、CTG、ATG、ACG、TTG、GTG、CTC、及びCTTからなる群から選択される、実施形態1に記載の核酸構築物。
[実施形態3]
前記ヌクレオチド配列が、前記VP1に対するATG翻訳開始コドンを包含する、前記代替スタートコドンで始まる代替オープンリーディングフレームを含む、実施形態1又は実施形態2に記載の核酸構築物。
[実施形態4]
前記代替スタートコドンに続く前記代替オープンリーディングフレームが、最高で20アミノ酸のペプチドをコードする、実施形態3に記載の核酸構築物。
[実施形態5]
前記オープンリーディングフレームに隣り合い、前記代替スタートコドンを含む前記ヌクレオチド配列が、配列番号1のヌクレオチド残基1~8である、実施形態1~4のいずれか1つに記載の核酸構築物。
[実施形態6]
前記VP1に対するATG翻訳開始コドンを含む前記オープンリーディングフレームが、配列番号1のATGGTAAGCTTTのヌクレオチド配列を有し、位置9~11における残基が前記VP1に対するATG翻訳開始コドンである、実施形態5に記載の核酸構築物。
[実施形態7]
前記オープンリーディングフレームの第2のコドンが、アラニン、グリシン、バリン、アスパラギン酸、及びグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸残基をコードする、実施形態1~6のいずれか1つに記載の核酸構築物。
[実施形態8]
前記AAVカプシドタンパク質がAAV血清型カプシドタンパク質である、実施形態1~7のいずれか1つに記載の核酸構築物。
[実施形態9]
ポリヘドリンプロモーター、p10プロモーター、4×Hsp27 EcRE+最小Hsp70プロモーター、デルタE1プロモーター、及びE1プロモーターからなる群から選択されるプロモーターを含む、実施形態1~8のいずれか1つに記載の核酸構築物。
[実施形態10]
バキュロウイルスベクターである、実施形態1~9のいずれか1つに記載の核酸構築物。
[実施形態11]
実施形態1~10のいずれか1つに記載の核酸構築物を含む昆虫細胞。
[実施形態12]
(a)少なくとも1つのAAV逆位末端反復(ITR)ヌクレオチド配列を含む第2のヌクレオチド配列、
(b)昆虫細胞における発現のための発現制御配列に作動的に連結されたRep78又はRep68コード配列を含む第3のヌクレオチド配列、
(c)任意選択で、昆虫細胞における発現のための発現制御配列に作動的に連結されたRep52又はRep40コード配列を含む第4のヌクレオチド配列
をさらに含む、実施形態11に記載の昆虫細胞。
[実施形態13]
(a)実施形態11又は実施形態12に記載の昆虫細胞をAAVが産生されるような条件下で培養するステップ、及び任意選択で(b)前記AAVを回収するステップを含む、昆虫細胞においてAAVを産生するための方法。
[実施形態14]
パルボウイルスカプシドタンパク質をコードする核酸構築物を提供するための方法であって、前記核酸構築物が1つ又は複数の向上した特性を有し、前記方法は、
a)複数の核酸構築物を用意するステップであって、各構築物が、発現制御配列に作動的に連結されたパルボウイルスカプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列、及び発現制御配列に作動的に連結されたパルボウイルスカプシドタンパク質をコードする前記ヌクレオチド配列に隣接する少なくとも1つのパルボウイルス逆位末端反復(ITR)配列を含む、ステップ、
b)前記複数の核酸構築物を、パルボウイルスRepタンパク質を発現し得る昆虫細胞に移入するステップ、
c)前記昆虫細胞を、パルボウイルスカプシドタンパク質及び前記パルボウイルスrepタンパク質の発現を可能にする条件に供し、それにより、前記核酸構築物がパルボウイルスカプシドにパッケージされてパルボウイルスビリオンを提供し得るステップ、
d)前記昆虫細胞及び/又は昆虫細胞上清からパルボウイルスビリオンを回収するステップ、
e)前記パルボウイルスビリオンと標的細胞とを接触させて、前記標的細胞の感染を可能にするステップ、
f)前記標的細胞から前記核酸構築物を回収するステップ
を含む、方法。
[実施形態15]
ステップa)において規定される核酸構築物がバキュロウイルスベクターに含有される、実施形態14に記載の方法。
[実施形態16]
ステップf)において回収される、発現制御配列に作動的に連結されたパルボウイルスカプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む、遺伝子療法ベクターの産生のための核酸構築物を作出するステップg)をさらに含む、実施形態14又は実施形態15に記載の方法。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
【配列表】
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【外国語明細書】