(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093581
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】血管障害を治療するための調節性マクロファージ
(51)【国際特許分類】
A61K 35/15 20150101AFI20230627BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230627BHJP
A61P 9/14 20060101ALI20230627BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20230627BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
A61K35/15
A61P9/10
A61P9/14
A61P17/02
A61P37/02
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064853
(22)【出願日】2023-04-12
(62)【分割の表示】P 2020515645の分割
【原出願日】2018-09-12
(31)【優先権主張番号】17190982.3
(32)【優先日】2017-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】518322746
【氏名又は名称】トリゼル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】フェンドリヒ フレッド
(57)【要約】 (修正有)
【課題】糖尿病性足潰瘍または静脈性下腿潰瘍等の下肢の微小血管障害または大血管障害を治療する方法、並びに、創傷治癒を誘導する方法を提供する。
【解決手段】マーカーCD258、DHRS9およびIDOを発現する免疫調節性マクロファージを投与する方法である。前記方法が、患者へ1×105~1×107のマクロファージを、皮下注射または筋肉内注射によって、潰瘍へ直接投与することが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において下肢の微小血管障害または大血管障害を治療する方法で使用するための、マーカーCD258、DHRS9およびIDOを発現する免疫調節性マクロファージ。
【請求項2】
対象において創傷治癒を誘導する方法で使用するための、マーカーCD258、DHRS9およびIDOを発現する免疫調節性マクロファージ。
【請求項3】
前記マクロファージが、マーカーCD258、DHRS9、IDOおよびTGFβ1を発現する、請求項1または2に記載の方法で使用するための免疫調節性マクロファージ。
【請求項4】
前記マクロファージが、マーカーCD258、DHRS9、IDO、TGFβ1およびPAEPを発現する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法で使用するための免疫調節性マクロファージ。
【請求項5】
前記マクロファージが、CD258、DHRS9、IDO、TGFβ1およびPAEPを発現する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法で使用するための免疫調節性マクロファージ。
【請求項6】
前記マクロファージが更に、マクロファージ系列マーカーCD33、CD33、CD11bおよびHLA-DRからなる群から選択されるマーカーのうち、少なくとも1つを更に発現する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法で使用するための免疫調節性マクロファージ。
【請求項7】
前記微小血管障害または前記大血管障害が、糖尿病性微小血管障害または大血管障害である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法で使用するための免疫調節性マクロファージ。
【請求項8】
前記微小血管障害または前記大血管障害が、糖尿病性足潰瘍または静脈性下腿潰瘍である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法で使用するための免疫調節性マクロファージ。
【請求項9】
前記方法が、患者へ1×105~1×107のマクロファージを投与することを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法で使用するための免疫調節性マクロファージ。
【請求項10】
前記方法が、皮下注射または筋肉内注射によって、該潰瘍へ直接マクロファージを投与することを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法で使用するための免疫調節性マクロファージ。
【請求項11】
前記が、血管炎、動脈炎、血管形成異常、白色萎縮、強皮症、ディターマン症候群、糖尿病性血管障害、閉塞性血管内膜炎、紅痛症、線維筋性形成異常症、足穿孔症、メンケベルグ中膜石灰化硬化症、オスラー病、コンパートメント症候群、Paget-von-Schroetter症候群、レイノー病および足潰瘍からなる群から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法で使用するための免疫調節性マクロファージ。
【請求項12】
前記大血管障害が、動脈瘤、解離、アテローム性動脈硬化症、アテローム性血栓症、末梢動脈閉塞性疾患(PAD)、間欠性跛行、壊死および壊疽、血管奇形、ルリッシュ症候群または圧迫症候群からなる群から選択される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法で使用するための免疫調節性マクロファージ。
【請求項13】
前記対象が糖尿病に罹患している、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法で使用するための免疫調節性マクロファージ。
【請求項14】
マーカーCD258、DHRS9およびIDOを発現する免疫調節性マクロファージを含む、対象において下肢の微小血管障害または大血管障害を治療する方法で使用するための医薬組成物。
【請求項15】
マーカーCD258、DHRS9およびIDOを発現する免疫調節性マクロファージを含む、対象において創傷治癒を誘導するための方法で使用するための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管の病理学的変化に関連する疾患を治療するための免疫調節性マクロファージの使用に関する。本発明は詳細には、下肢の微小血管障害および大血管障害を治療するための免疫調節性マクロファージの使用に関する。本発明は更には、組織再構築を促進し、創傷治癒を促すための免疫調節性マクロファージの使用に関する。免疫調節性マクロファージを含む、列挙した治療にて使用するための医薬組成物もまた開示されている。
【背景技術】
【0002】
下肢の血管性潰瘍は、患者およびヘルスケアシステムに関する深刻な問題を引き起こす。足潰瘍は急性または慢性であり得る。急性足潰瘍は、場合によっては治癒の正常期に引き続いて起こると定義される。こうした潰瘍は4週間未満で治癒の兆候を示すと予想されており、外傷性および術後の創傷を含む。慢性足潰瘍は4週間超持続するものであり、多くの場合、複雑で十分理解されていない原因のものである。慢性足潰瘍は通常、糖尿病を患っている患者に生じる。
【0003】
静脈内レーザー焼灼、高周波焼灼およびフォーム硬化療法を含み、表在する伏在静脈幹の不全を管理する最小限の侵襲性方法が、足潰瘍を抱える患者を治療するために使用されている。加えて、足潰瘍患者向けには、穿通枝結紮は通常、表在静脈手術と組み合わされる。しかしこの方法の効果は今のところ不十分である。少数の薬物が足潰瘍治癒を促進する際に有益であることが示されている。しかしながら足潰瘍の治癒は未だ複雑なものであり、再発が頻繁に観察されている。
【0004】
足潰瘍治療分野で築かれた進歩にも関わらず、急性または慢性足潰瘍(特に慢性足潰瘍)を治療するための更なる化合物および方法を提供する、継続的な必要性が存在し続けている。驚くべきことに現在、糖尿病性足潰瘍といった慢性創傷を治療するため、特定の免疫調節細胞が使用できることがわかった。本明細書に示されるように、こうした細胞を慢性創傷およびその近くへと直接投与することで、治癒の加速をもたらす。
【0005】
特定の疾患治療を目的とする免疫調節細胞の使用、特に、これらの細胞[1]を受け取るレシピエントの免疫学的耐性を確立することを目的とする使用は、近年大きな注目を集めている。現在、調節性T細胞[2]、免疫寛容誘導性樹状細胞[3]および調節性マクロファージ[4]を含めたいくつかの免疫調節細胞種が前臨床開発の時点に到達しつつあり、そのことは、免疫抑制剤としてそれらを初期治験で調査するのを可能にするであろう。
【0006】
T細胞およびB細胞媒介性自己免疫疾患、慢性炎症性疾患、移植片対宿主病(graft-versus-host disease:GVHD)および移植拒絶反応を含む、多数の免疫学的症状を治療するための免疫調節細胞の使用が企図されている。これらの症状では、細胞に基づく免疫調節療法は、全身的な免疫抑制療法または抗炎症療法の必要性を低減または更には除去することが意図されており、それによって患者をその付随合併症から救う。調節細胞によって支援される類の免疫学的耐性は優勢かつ自己持続性であるため、細胞に基づく免疫調節療法が、それ以外ならば長期の全身的な免疫抑制療法または抗炎症療法を必要とするであろう疾患において、治療選択肢を提供する、という可能性が存在し得る。
【0007】
移植および他の臨床的適応において、補助的免疫抑制剤としての使用のためにとりわけ有望な1つの候補細胞種は、免疫調節性マクロファージ(本明細書および文献では「Mreg」と呼ぶ)である。Mreg細胞は、マクロファージ分化の特有の状態を反映しており、その堅牢な表現型および強力なT細胞抑制剤機能によって他の活性状態にあるマクロファージとは区別される[5]。ヒトMregは、試験管内でマイトジェン刺激によるT細胞増殖を強力に抑制し、それは、インターフェロン(interferon:IFN)γ誘導性インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ活性と接触依存的な活性化T細胞除去とに起因するものであり得る。加えて、Mregは、活性化誘導調節性T細胞の発達を促し、代わってそれはエフェクターT細胞の増殖を抑制しかつ樹状細胞の成熟を抑制する。したがって、Mregをレシピエントに投与する場合には免疫調節のフィード-フォワードループが開始されて外来移植物の長期の抗原特異的免疫学的低応答性をもたらすものと仮定される。
【0008】
一連の事例研究および2つの初期治験において、Mreg含有細胞製剤は既に臨床試験に使用され、補助的免疫抑制治療の一形態として合計19名の腎移植レシピエントに投与された[5]~[9]。これらの試験的研究は、固形臓器移植のためのこの技術の妥当性を明確に実証している。別の2名の生体腎移植レシピエントは現在、約8.0×106cells/kgのより純粋なドナー由来Mregで治療されている[5]。生体腎移植におけるMreg療法の更なる治験は今や、ONE Study(Clinicaltrials.gov:NCT02085629)の枠組み内で規制上の承認を得ている。この治験は、外科手術の7日前における500mg/日のミコフェノール酸モフェチルによる援護下で用量2.5×106~7.5×106個/kg体重のドナー由来Mreg細胞によって16名の患者を治療することを目的としている。Mregによる潰瘍治療は今までの先行技術では企図されておらず、足潰瘍の管理に大きく貢献する。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、確立されたプロトコールに従い調製されたMreg細胞が、足潰瘍、特に慢性足潰瘍の治癒を加速させるといった見識に基づく。したがって、第1の態様では、本発明は、対象において下肢の微小血管障害および大血管障害を治療する方法で使用するための、マーカーCD258、DHRS9およびIDOを発現する免疫調節性マクロファージに関する。
【0010】
本明細書で使用されるように、微小血管障害は、脳の小血管、冠状小血管または足の小脈管といった体内の小血管および毛細血管に悪影響を及ぼす血管疾患である。微小血管障害の間、毛細血管の基底膜は厚く硬くなり、これは毛細血管または小動脈の閉塞または破裂を引き起こす。結果、組織の壊死および機能損失が生じる。対照的に、大血管障害は動脈といった大血管に悪影響を及ぼす血管疾患である。より大きな動脈の閉塞は、糖尿病における心臓発作、心発作および末梢血管疾患の高い発病率につながる。多くの場合、足の動脈閉塞により治癒が遅い潰瘍が足全体に生じる。末梢血管疾患はまた、間欠性跛行を引き起こす。これはすなわち歩行中の疼痛であり、可動性を極度に損なうものである。多くの場合、特に糖尿病患者においては、大血管障害は片方または両方の脚の切断を必要とした。
【0011】
微小血管障害および大血管障害の一因は、長期的な糖尿病にある。糖尿病患者では、血糖値が高くなることで、血管内皮細胞が通常より多くのグルコースを吸収してしまう。続いてこの血管内皮細胞は、その表面上に通常より多くの糖タンパク質を形成する。また、この細胞により血管壁の基底膜がそれまでよりも異常に厚く弱くなってしまう。結果、血管壁は漏れやすくなり、身体中を通る血流が遅くなる。このため、損傷を受けた一部組織は1時間十分な酸素を受け取ることがない。
【0012】
本発明によれば、治療される微小血管障害は、好ましくは血管炎、動脈炎、血管形成異常、白色萎縮、強皮症、ディターマン症候群(Determann syndrome)、糖尿病性血管障害、閉塞性血管内膜炎、紅痛症、線維筋性形成異常症、足穿孔症、メンケベルグ中膜石灰化硬化症、オスラー病、コンパートメント症候群、Paget-von-Schroetter症候群、レイノー病および足潰瘍からなる疾患の群から選択される。特に好ましい態様では、本発明による治療されることになる微小血管障害または大血管障害は足潰瘍である。本明細書で使用されるように、足潰瘍は糖尿病性足潰瘍および静脈性下腿潰瘍を含む。
【0013】
本発明によれば、治療される大血管障害は、好ましくは動脈瘤、解離、アテローム性動脈硬化症、アテローム性血栓症、末梢動脈閉塞性疾患(peripheral arterial occlusive disease:PAD)、間欠性跛行、壊死および壊疽、血管奇形、ルリッシュ症候群または圧迫症候群の群から選択される。
【0014】
実際には、免疫調節性マクロファージは医薬組成物として製剤化される。医薬組成物は、第1組成物として、有効量のMreg細胞またはその細胞成分画分を含む。本明細書で使用されるように、患者に投与されるMreg細胞の有効量は、治療される患者体重当たりで、約1×104~約1×108/kg、好ましくは約1×105~約1×107/kg、より好ましくは、約1×106/kg、約2×106/kg、約3×106/kg、約4×106/kg、約5×106/kg体重、約6×106/kg、約7×106/kgまたは約8×106/kgなど、約1×106~約9×106/kgの範囲である。
【0015】
同様に、本発明がMreg細胞の細胞成分画分の投与を含む場合、この画分は、上記の細胞投与に関連する範囲のうち1つに対応するMreg細胞量に基づき調製されることが好ましい。本明細書で使用されるように、Mreg細胞の細胞成分画分はネクローシス細胞粒子、アポトーシス細胞粒子またはエキソソームを含んでもよい。低浸透圧性溶液、洗浄剤もしくは酸を用いた溶解、凍結溶解もしくは加熱、超音波処理、照射、機械的破壊または長期貯蔵で細胞を処理して調製された細胞可溶化物もまた使用されてよい。細胞成分画分は、全ての細胞タンパク質、膜タンパク質、細胞質タンパク質、精製MHC分子を含有する細胞抽出物もまた含んでよい。
【0016】
Mreg細胞またはその細胞成分画分以外では、医薬組成物は緩衝剤、pH調整剤、防腐剤および同様のものといった更なる添加剤を含むことが可能である。医薬組成物内へと含まれる添加剤の性質およびその量は、投与予定ルートによって決定する。
【0017】
一般的には、個別の投与ルートは治療が必要な患者へMreg細胞またはその細胞成分画分を与えるのに適している。好ましくは、本発明の医薬組成物は、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与または皮内投与といった非経口的投与のために製剤化される。一実施形態では、Mreg細胞もしくはその細胞成分画分または当該細胞もしくは画分を含む組成物は、例えば注射または注入といった静脈内投与によって患者に投与される。注射または注入による静脈内投与に好適な医薬組成物は、通常は滅菌水溶液または懸濁液および滅菌溶液または懸濁液を即時調製するための滅菌粉末を含む。薬物製剤化分野で知られている慣例的な方法を適用することで、Mreg細胞または細胞成分画分の医薬組成物への製剤化が実現可能である。好適な方法は例えば、標準教科書内に記載される。
【0018】
注射または注入による投与向けには、好適な担体は生理食塩水、静菌性水、Cremophor EL(商標)(BASF)またはリン酸緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline:PBS)を含んでよい。担体はまた、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液状ポリエチレングリコールおよび同様のもの)ならびにこれらの好適な混合物を含有する溶媒または分散媒であってよい。例えば、レシチンといったコーティングの使用、分散液の場合に必要とされる粒子径の維持、および界面活性剤の使用により、適切な流動性を維持することが可能である。滅菌ろ過で用いられる1つ以上の上記成分と共に、適切な溶媒中に必要量の細胞または細胞成分画分を導入することにより、滅菌注射溶液は調製されることができる。一般的には、懸濁液は活性化合物(すなわち、細胞またはその細胞成分画分)を、基本的な分散媒および上記の成分由来である、必要とされる他の成分を含有する滅菌媒介物へと導入することにより調製される。滅菌注射溶液の調製用の滅菌粉末の場合、調製方法は、上記滅菌ろ過溶液由来の任意の追加の望ましい成分を加えた、細胞またはその細胞成分画分の粉末を得る、真空乾燥および凍結乾燥である。医薬組成物は、投与時に安定していなければならず、好ましくは、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどを組成物中に含むことにより、細菌および真菌類といった微生物の汚染作用に対し保護される。
【0019】
医薬組成物を注射しようとする場合、注射される総量は1~100ml、好ましくは20ml、30mlまたは40mlといった10~50mlである。医薬組成物を注入しようとする場合、注入される総量は50~500mlである。90ml~250mlの量が特に好ましく、90ml~150mlの量が更により好ましい。
【0020】
Mreg細胞は、個別の投与治療方式によって治療の必要がある患者へ投与されることができる。例えば細胞または細胞画分が静脈内注入により患者に投与される場合、投与されるMreg細胞または細胞画分の総量は、1回または2回以上の注入によって提供可能である。好ましい実施形態では、Mreg細胞または細胞画分は200μmフィルタを有する注入セットを用いて患者に提供される。Mreg細胞または細胞画分を含む懸濁液は、0.9%NaClでプライミングされてよい。懸濁液は1回の注入で供与されてよく、より好ましくは、例えば60分以内、30分以内、20分以内または15分以内といった60分未満内での短時間の注入で供与されてよい。好ましくは、中心静脈カテーテルをMreg細胞懸濁液の投与用として使用する。
【0021】
Mreg細胞または細胞画分の投与は、先述した他の活性剤投与と同時にまたは投与後に完了することができる。例えば、Mreg細胞または細胞画分が、微小血管障害または大血管障害を患っている患者に投与される場合、ドベシル酸カルシウムといった血液過粘稠に対する化合物、ナフタゾンといった毛細血管強化効果を発現する化合物などは、Mreg投与前か、Mreg投与と同時か、またはMreg投与後に投与されることができる。
【0022】
本発明の第1の態様に記載される方法によって得られたMreg細胞は安定した表現型を示すが、安全上、Mreg細胞またはMreg細胞から得られた細胞成分画分は細胞培地から収集後24時間以内に投与されることが推奨される。好ましくは、培養物から細胞を収集後、細胞は20時間以内、16時間以内、12時間以内、8時間以内または4時間以内に投与される。
【0023】
別の態様では、本発明は、対象における外科的創傷、外傷性創傷または他の創傷の治癒を促進する方法で使用されるための免疫調節性マクロファージに関する。Mreg療法は急性または慢性創傷の治癒を促進するため、任意には、従来の管理(すなわち、洗浄、縫合およびドレッシング)と組み合わせて使用されてよい。創傷は開放性または閉鎖性であってよい。開放性創傷は切開、裂傷、擦傷、剥離、貫通性外傷または刺傷を含んでよい。閉鎖性創傷は挫滅外傷または血腫を含んでよい。切開は外傷性または医原性(すなわち外科的切開)であってよい。Mregは自家植皮または同種異系植皮の生着を促進するために使用されてよい。Mregは、熱、極低温、化学薬品、摩擦、放射線または電流に皮膚が曝露することにより生じ得る熱傷の治癒を加速させることができる従来の管理と組み合わせて使用されてもよい。潰瘍の治療と関連付けて作成された記載は、創傷または熱傷の治療に同様に適用される。
【0024】
本発明の方法で使用するためのMregの調製は、文献で広く記載されている。Mreg細胞は、ヒトCD14+血液単球から誘導される。Mreg細胞の特徴ある生物学的特性を誘導するため、単球は成長因子、サイトカインおよび受容体リガンドの特異的な組合せにより処理される。本プロセスにより得られた細胞は、血液単球、他の種の単球由来マクロファージ、単球由来樹状細胞および他の抑制型の骨髄単球性細胞産物と該細胞を区別する特別な表現型により特徴付けられる。
【0025】
Mregを調製するための好適なプロセスは、
(a)対象の血液試料からCD14陽性単球を単離することと、
(b)(i)M-CSFおよび/またはGM-CSFならびに(ii)CD16のリガンドを含有する培地中で単球を培養することと、
(c)IFN-γと細胞を接触させることと、
(d)培地からMreg細胞を得ることと、を含む。
【0026】
本方法は、出発物質として血液単球を使用する。本方法はヒト血液単球からMreg細胞を生成するために使用される方法であることが好ましいが、本方法はヒト由来細胞の分化に制限されない。実際には、他の種の非ヒト細胞、特に、例えば非ヒト霊長類細胞またはブタ細胞といった脊椎動物細胞にもまた適用可能である。
【0027】
本方法は、ヒトドナーのCD14陽性単球をMregに分化させるために使用されてよい。本発明の方法の出発物質としての役割を果たす単球は、ヒトドナーの末梢血から得られる。ドナーは、健常な対象または1つ以上の疾患を患っている患者であり得る。単球ドナーは、意図される分化Mreg細胞のレシピエントであってよい(自家アプローチ)。代替的には、単球ドナーは分化したMreg細胞の所定のレシピエントとは異なる人間であってよい(同種異系アプローチ)。後者の場合、ドナーおよびレシピエントは遺伝的な関連があってもなくてもよい。ドナーとレシピエント間の好ましい関係は、所定の臨床用途によって変化する。自家Mreg細胞の使用は、特定の副作用防止に役立ち得る。したがって、自家Mreg細胞の使用が通常好ましい。
【0028】
末梢血由来の単核細胞を濃縮するための種々の方法が当該技術分野で知られており、これらの各方法を上記調製方法に関して使用することができる。例えば、静脈穿刺によって得た血液を抗凝血剤で処理することができ、続いて分離用媒体、例えばFicoll-Paque Plusを使用することによって分離することができる。このため、Ficoll-Paque Plus溶液上に抗凝血剤処理済血液試料を積層して遠心分離し、それによって種々の細胞種を含有する層が形成されることになる。下層は、Ficoll-Paque Plus試薬によって凝集および沈降した赤血球を含有する。赤血球層のすぐ上の層は、大部分において、Ficoll-Paque Plus層を通って移動した顆粒球を含有する。単球およびリンパ球は、それらのより低い密度のために、血漿とFicoll-Paque Plusとの間の界面に見いだされる。単核球画分の濃縮は、層の単離ならびにそれに続く洗浄および遠心分離によって実現可能である。
【0029】
単核白血球を血液試料から分離するための別の慣例的に用いられている方法には、白血球搬出法が挙げられる。白血球搬出法は、末梢血から白血球をそれらの相対密度によって連続プロセスで得る特異な類のアフェレーシスである。この手順において対象の血液は、選択された白血球の画分を収集して残りの血球および血漿をドナーに返す特別な遠心分離装置に通される。白血球搬出法は、今日においては白血球または幹細胞を末梢血から得るための慣例的な臨床手段である。本発明に関して白血球搬出法を行うために使用することができる種々の装置はいくつかの製造業者から入手することができ、例えば、Terumo BCTからのSpectra Optia(登録商標)アフェレーシスシステムがある。COBE(登録商標)Spectraアフェレーシスシステムの使用によって白血球搬出法を実施する場合、製造業者によって提供される操作説明書のプロトコールを用いることが好ましい、というのも、このプロトコールはAutoPBSCプロトコールに比べてより良い品質の単球をもたらすことがわかったからである。
【0030】
Ficoll-Paque Plusのような分離用媒体の使用および白血球搬出装置の使用はどちらも、単球だけでなくリンパ球も含有する細胞画分をもたらすものである。本発明によれば、単球は、細胞をMreg調製方法に投入する前に既知の方法、例えば、磁気ビーズ分離、フローサイトメトリーによる選別、浄化、ろ過またはプラスチック付着によってリンパ球から濃縮および分離され得る。しかしながら、Mreg調製方法においては、一様な単球画分を使用することは必須ではない。実際、単球画分における0.1~20%、好ましくは10~20%の量のリンパ球の存在は、Mregへの単球の分化に良い影響を与え得る。
【0031】
単球が濃縮された単核球製剤を得るためには、末梢血単核球を例えばCD14陽性単球と結合するCD14マイクロビーズに接触させてもよい。上記方法の工程(a)における単球は白血球搬出法により単離されてよく、その後、CD14親和分子を用いた分離工程の対象となってよい。CD14親和分子は好ましくはCD14抗体である。こうした精製工程は非単球を有する出発物質の汚染を大いに軽減する。T細胞汚染の軽減は、患者の安全性という視点から非常に価値がある、というのも、それはドナー対レシピエント反応の潜在的なリスクを最小限に抑えるからである。CD14単球の単離は、自動単離システムによって支援されることができる。例えば、本発明の方法で使用されるCD14単球は、CliniMACS(登録商標)Technology(Miltenyi Biotec GmbH,Bergisch Gladbach,Germany)で単離することができる。
【0032】
白血球搬出法および/またはその他の方法によって単離した単球画分は、M-CSFおよび/またはGM-CSFならびにCD16リガンドと共にインキュベートすることによる分化のために直接使用することができ、またはそれを更なる使用の時まで抗凝血性クエン酸デキストロース溶液(Anticoagulant Citrate Dex-trose Solution:ACD-A)中もしくはその他の任意の適切な緩衝剤を補充した自家血漿中に貯蔵することができる。単離した単球画分を別の分化プロセス実施場所へ輸送しなければならない場合には、細胞の単離から24時間以内、好ましくは単球の単離から18時間以内、12時間以内、6時間以内、4時間以内または2時間以内に、M-CSF/GM-CSFとのインキュベーションによる細胞の分化を開始する配慮がなされなければならない。長期間の貯蔵のためには、単球画分を適切な凍結保存溶液中に再懸濁させて20℃未満の温度、好ましくは80℃未満の温度で長期間貯蔵してもよい。
【0033】
単球を単離した後、細胞をM-CSF/GM-CSFおよびCD16リガンドの存在下でインキュベートする。例えば、M-CSFおよび/またはGM-CSFならびにCD16リガンドを含有する培地中で細胞を懸濁させてもよい。代替的には、細胞培養の開始からしばらく経った後にM-CSF/GM-CSFおよびCD16リガンドを添加することも可能である。上記方法の工程(b)で使用する培地は、単球および/またはマクロファージの培養での使用に適切なものとして文献に記載されているいかなる培地であってもよい。適切な培地としては、例えば、PromoCellマクロファージ生成培地(PromoCell GmbH,Heidelberg,Germany)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、DMEM:F12混和物、Medium199、またはRPMI-1640培地が挙げられる。培地は好ましくは、化学的に定義された培地である。培地は、M-CSF/GM-CSFの他に、上皮成長因子(EGF)、またはIL-4といった成長因子およびサイトカイン;脂肪酸、コレステロールおよびその他の脂質;ビタミン、トランスフェリンおよび微量元素;インスリン、グルココルチコイド;コレカルシフェロールまたはエルゴカルシフェロール、およびその他のホルモン;非特異的免疫グロブリンおよびその他の血漿タンパク質を含む、Mregの生存および分化を促進する他の因子を含有することができる。本発明の好ましい実施形態では、培地は、RPMI-1640またはそれに由来する培地である。
【0034】
単離したCD14陽性単球をインキュベートするために使用する培地は、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF、CSF1としても知られる)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)またはその両方を含有してよい。M-CSFは、当該技術分野において、単球、マクロファージおよび骨髄前駆細胞の増殖、分化および生存に影響を与える造血性成長因子として知られている。顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF、CSF2としても知られる)は、サイトカインとして機能し、マクロファージ、T細胞、マスト細胞、NK細胞、上皮細胞および線維芽細胞によって分泌される、単量体型糖タンパク質である。様々な種からのM-CSFおよびGM-CSFタンパク質について記載されており、様々な製造業者からの購入が可能である。M-CSFおよび/またはGM-CSFの選択は、Mreg細胞へと分化させる単球の由来によって変化するだろう。例えば、上記記載のプロセスを用いてヒト単球をMregに分化させるのであれば、使用する培地はヒトM-CSFおよび/またはヒトGM-CSF、好ましくは組換え型ヒトM-CSFおよび/または組換え型ヒトGM-CSFを含有するであろう。同様に、分化方法においてブタ単球を使用するのであれば、培地に添加するM-CSFおよび/またはGM-CSFはブタ由来のものであろう。
【0035】
大抵、上記方法の工程(b)の培地中のM-CSFの濃度は、培地1mlあたり1~100ngタンパク質の範囲である。培地中のM-CSFの量を測定する経過実験は、初期用量5ng/mlのM-CSFを使用した培養物が培養2日目までに生理学的レベル以下の濃度を含有していたようにM-CSFが経時的に消費または分解され、それとは対照的に、初期用量25ng/mlのM-CSFを使用した培養物が7日間の培養期間全体を通して10ng/mlを上回る濃度を維持したということを明らかにした。この結果、培地中のM-CSF濃度は、20~25ng/mlなど、通常は20~75ng/mlの範囲である。M-CSFの代わりにGM-CSFを使用する場合、M-CSFに関して上に概説したのと同じ濃度を培地中で用いることができる。GM-CSFはM-CSFと比べて強力であると思われることから、培地1mlあたり0.1~100ngタンパク質のGM-CSFの濃度が示唆される。M-CSFとGM-CSFとの両方を培地で使用する場合、これら2つの成長因子の全体濃度は上記の範囲内、すなわち20~75ng/mlの範囲内である。
【0036】
上記方法の工程(b)で使用する培地は、M-CSFおよび/またはGM-CSFの他に、CD16リガンドも含む。単球上のCD16細胞表面受容体の刺激はそれらのMreg細胞への分化を誘導するために必要である。CD16細胞表面受容体の刺激は、ヒトまたは非ヒト免疫グロブリン、より好ましくはヒト免疫グロブリンまたはその断片の添加によって得ることができる。免疫グロブリン断片は、例えば、免疫グロブリンのFc断片であり得る。免疫グロブリンはFcγRIII(CD16)を通じて活性し、Mreg表現型を誘導すると想定されている。CD16リガンド刺激を得るための単純な方法は、培地にヒト血清を添加することである。結果、Mreg細胞の生成に使用される培地は、1~20%のヒトAB型血清を含有し得る。
【0037】
Mreg細胞を血管新生の誘導が望まれる治療用途で使用することが意図される場合、本発明の方法の工程(b)にて単球を培養するために使用される培地は、M-CSF/GM-CSFおよびCD16リガンドの他、リポリサッカライド(LPS)、モノホスホリルリピドA(MPLA)または高移動度群ボックスタンパク質1(HMGB1)といったトル様受容体(TLR)リガンドを含むことができ、VEGF-Aのような血管新生因子の産生を増強する。TLRリガンドは、1000ng/ml~1μg/mlの濃度範囲で培地に添加することができる。TLRリガンドは、産生方法の任意の段階で添加することができる。これは、単球を培養するのに使用される初期培地、すなわち培養0日目の時点で存在することができ、または例えば培養5日目、6日目もしくは7日目といった後の段階で添加することができる。好ましくは、TLRリガンドはIFN-γの添加と同時に添加される。
【0038】
本発明の方法の工程(c)では、細胞はサイトカインであるインターフェロンガンマ(IFN-γ)と接触する。本発明の方法で使用されるIFN-γの選択は、本発明の方法に供される単球の由来によって変化する。仮にヒト単球がMregへと分化されると、添加されるIFN-γは通常組換え型ヒトIFN-γとなる。単球培養物へと添加されるIFN-γ量は、5~100ng/mlの範囲である。1mlの培地あたり25ngのIFN-γ量が特に適切である。
【0039】
IFN-γはM-CSF/GM-CSFおよびCD16リガンドと同時に培地に添加することができる。これは、例えば単球の培養開始時にサイトカインが添加され得ることを意味する。こうした方法において、本発明の方法によって分化される単球は、全培養期間中、M-CSF/GM-CSF、CD16リガンドおよびIFN-γの存在下で培養される。しかしながら通常は、IFN-γの存在下での培養期間は、M-CSF/GM-CSFの存在下での培養期間よりも大幅に短い。これは、IFN-γがM-CSF/GM-CSFの存在下で細胞が3日間培養された後に添加され、IFN-γの存在下での培養が、更に18~72時間続くことを意味する。
【0040】
M-CSF/GM-CSFおよびCD16リガンドの存在下で細胞を6日間培養し、IFN-γを18~24時間パルスして、その後7日目に収集する際、特に良好な結果が得られた。分化したマクロファージは、マクロファージを用いた使用に適する、5%のヒト血清アルブミンを追加したリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline:PBS)などの緩衝剤で洗浄してよい。Mreg細胞は、輸液バッグ、ガラス製注入装置、または輸送可能である別の閉鎖系容器に移され、貯蔵されることができる。
【0041】
上記調製プロセスにより、Mreg細胞を他の調節性または非調節性マクロファージと区別する、特定のマーカー分子の発現によって特徴付けられる免疫調節性マクロファージを生じる。最も重要なのは、本発明の方法で使用するためのMregは、マーカーCD258、DHRS9およびIDOを発現する。これら3つのマーカーの組合せは、Mregを明確に検出し、他のマクロファージとMregを分離するための信頼性の高い手段を提供する。
【0042】
CD258は、文献ではLIGHTまたはTNFSF14と呼ばれてもいるが、TNFスーパーファミリーの分泌タンパク質である。CD258のヒト配列は、NCBI遺伝子_ID8740のもとで見ることができる。IDOはインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼを意味する。このマーカーをコード化しているヒト遺伝子配列は、NCBI遺伝子_ID3620のもとで見ることができる。IDOの別名は、IDO1またはINDOである。DHRS9はレチノールデヒドロゲナーゼのSDRファミリーのレチノールデヒドロゲナーゼである。このマーカーをコード化しているヒト遺伝子配列は、NCBI遺伝子_ID10170のもとで見ることができる。
【0043】
本発明の好ましい実施形態では、本発明の方法で使用するための免疫調節性マクロファージは、TGFβ1およびPAEPからなる群から選択されるマーカーの少なくとも1つを更に発現する。TGFβ1は、トランスフォーミング増殖因子ベータであり、トランスフォーミング増殖因子スーパーファミリーに所属する多機能サイトカインを表す。このマーカーをコード化しているヒト遺伝子配列は、NCBI遺伝子_ID7040のもとで見ることができる。PAEPは黄体ホルモン関連子宮内膜タンパク質を表す。このマーカーをコード化しているヒト遺伝子配列は、NCBI遺伝子_ID5047のもとで見ることができる。
【0044】
Mregはマクロファージであることから、これらはまた共通のマクロファージマーカーも発現する。したがって、好ましい実施形態では、MregはCD33、CD11bおよびHLA-DRからなる群から選択されるマクロファージマーカーのうち少なくとも1つを更に発現する。
【0045】
特に好ましい実施形態では、本発明に従って使用されるMreg細胞は、以下の表現型のうち1つである:
(1)CD258、DHRS9、IDO;
(2)CD258、DHRS9、IDO、TGFβ1;
(3)CD258、DHRS9、IDO、PAEP;
(4)CD258、DHRS9、IDO、TGFβ1、PAEP;
(5)CD258、DHRS9、IDO、TGFβ1、PAEP、CD33;
(6)CD258、DHRS9、IDO、TGFβ1、PAEP、CD33、CD11b;
(7)CD258、DHRS9、IDO、TGFβ1、PAEP、CD33、CD11b、HLA-DR;
(8)CD258、DHRS9、IDO、CD33、CD11b、HLA-DR;
(9)CD258、DHRS9、IDO、CD33、CD11b、HLA-DR、TGFβ1;
(10)CD258、DHRS9、IDO、CD33、CD11b、HLA-DR、PAEP。
【0046】
ここで、CD258、DHRS9、IDO、TGFβ1およびPAEPを発現する免疫調節性マクロファージが、特に好ましい。
【0047】
好ましい態様では、本発明の方法で使用されるMregは、マーカーClec-9a、CD10およびCD103のうち少なくとも1つを発現しない。別の好ましい態様では、本発明の方法で使用されるMregは、マーカーClec-9a、CD10およびCD103の全てを発現しない。別の好ましい態様では、本発明の方法で使用されるMregは、マーカーCD38、CD209およびシンデカン-3のうち少なくとも1つを発現する。更に別の好ましい態様では、本発明の方法で使用されるMregは、マーカーCD38、CD209およびシンデカン-3の全てを発現する。別の好ましい態様では、本発明の方法で使用されるMregは、マーカーClec-9a、CD10およびCD103のうち少なくとも1つを発現しないが、マーカーCD38、CD209およびシンデカン-3のうち少なくとも1つを発現する。
【0048】
マーカーの発現は、mRNAまたはタンパク質量によって測定されることができる。特に好ましい実施形態では、マーカーの検出は転写量で行われる。転写量での遺伝子発現を観測するための適切な方法には、mRNA量の定量的または半定量的検出が可能であるものが挙げられる。例えば、定量RT-PCR(例えば、TaqMan(商標)RT-PCR)、リアルタイムRT-PCR、ノーザンブロッティング分析または当該技術分野で周知である他の方法である。
【0049】
転写量での検出は、第1工程として、例えば血液試料から得られるマクロファージといった分析されるマクロファージからのmRNAの単離を通常は必要とする。mRNAといったRNAを単離するための方法は当該技術分野で周知であり、文献にて詳細が議論されている(例えばSambrook et al(1989),Molecular Cloning - A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor、New York and Ausubel et al(1994),Current Protocols in Molecular Biology,Current Protocols Publishing,New Yorkを参照されたい)。こうした方法は通常、試験にかけられる対象から得られた細胞または組織の溶解を含む。細胞溶解は、細胞の原形質膜を破壊することができる洗浄剤の使用により実施されてよい。例えば、グアニジンチオシアネートおよび/またはSDSを含有する緩衝剤が細胞溶解に使用されてよい。この方法は、発現量の観測といった、更に下流の用途の妨げとなり得る微量のDNAを含まない純粋なRNAを得るため、細胞のDNAが酵素消化される工程を含んでよい。RNAの分解を導く酵素の阻害剤は、溶解緩衝剤に添加されてもよい。高純度RNAを調製するためのキットは、Qiagen、Ambion、Stratagene、Clontech、Invitrogen、Promegaおよびその他といった、いくつかの製造業者から入手することができる。
【0050】
市販のキットを使用することで細胞試料または組織試料から単離されたRNAは、通常様々な種のRNAを含む。好ましくは、組織試料から得られたRNAは、mRNA、転移RNA(tRNA)およびリボソームRNA(rRNA)を含む全RNAである。本発明の方法向けには、他の細胞のRNAの画分に対し、mRNA画分を濃縮させることが望ましい。好ましくは、mRNAは他のRNA分子から分離される。mRNAを濃縮または精製するための方法は、当該技術分野で知られている。例えば、mRNAはポリ(A)尾部をその3’末端に含有するため、セルロースまたはSephadex(商標)マトリックスといった固体マトリックスに結合するオリゴ(dT)またはポリ(U)を使用するアフィニティークロマトグラフィーを実施することができる(例えば、Ausubel et al.(1994),Current Protocols in Molecular Biology,Current Protocols Publishing,New Yorkを参照されたい)。アフィニティーマトリックスに結合したポリ(A)+mRNAは、2mMのEDTA/0.1%のSDSを用いて溶離可能である。
【0051】
転写量で発現を検出するために一般的に使用される方法の1つは、RT-PCRである。この方法では、mRNAテンプレートは逆転写(RT)反応によりcDNAへと転写される。RNAテンプレートの逆転写は逆転写酵素により触媒され、反応は特異的なオリゴヌクレオチドプライマーか、または代替的にはオリゴ-dTプライマーによって開始される。次いで、cDNAは続くPCR反応用のテンプレートとして使用される。続くPCR工程では、特異的なオリゴヌクレオチドプライマーおよび例えばTaqポリメラーゼといったポリメラーゼ酵素の使用により、cDNAは増幅される。好ましい実施形態では、RT-PCR反応はリアルタイムRT-PCRとして実施される。これにより、増幅されたDNAの検出および同時定量化がリアルタイムで可能となる。定量化は、コピーの絶対数、または追加的な遺伝子発現産物の使用により標準化される相対量のいずれかとして起こる。
【0052】
更に好ましい実施形態では、TaqMan RT-PCRはマーカーの発現量測定のために使用される。TaqMan RT-PCRは、特異的でありPCR中の増幅産物の蓄積物を検出する、蛍光体を基にしたRT-PCR法である。TaqMan RT-PCRでは、RNAは逆転写酵素により最初にcDNAへと転写される。続くPCR反応では、DNAテンプレート内にあり、かつ2つのPCRプライマー間に位置付けられた10~60個のヌクレオチドの断片に相補的である、一本鎖オリゴヌクレオチドプローブが添加される。蛍光体およびクエンチャー色素は、それぞれプローブの5’および3’末端に共有結合的に付着する。代替的には、クエンチャー色素は内部ヌクレオチドにも付着することができるが、一方で蛍光体はプローブの5’もしくは3’端部に付着するか、またはその逆にも同様に付着する。当該蛍光体が選択的に励起する際、プローブに付着する蛍光体およびクエンチャー色素の間が近接することにより、蛍光体からの蛍光発光の妨害となる。PCRでDNA合成中、Taqポリメラーゼの5’エキソヌクレアーゼ活性はテンプレートDNAにハイブリダイズされるオリゴヌクレオチドプローブを切断させる。これにより、蛍光体およびクエンチャー色素を立体的に分離させる。蛍光はPCRサイクル中に検出される。これは放出された蛍光体およびPCR中に存在するDNAテンプレートの量に直接比例する。当該技術分野で知られる全ての蛍光体クエンチャー対は、本発明の方法で使用可能である。適切な蛍光体の例は、FAM(6-カルボキシフルオレスチン)、TET(テトラクロロフルオレスチン)またはVICである。好適なクエンチャー色素は、TAMRA(テトラメチルローダミン)である。TaqManアプローチでプローブとして使用されるオリゴヌクレオチドの構造および標識は、文献にて非常に詳細に記載されている。TaqMan反応は、例えばABI PRISM 7700システム(Perkin-Elmer/Applied Biosystems,Foster City,Calif.,USA)またはLightcyclerシステム(Roche Molecular Biochemicals,Manheim,Germany)を使用して実施されることができる。
【0053】
マイクロアレイは、発現プロファイリングにて一般的に使用される別の手段である。マイクロアレイは、例えば核酸プローブなど立体的に分解されたプローブを、基板上に順序正しく配列したものを指す。こうしたアレイは、例えばCD258、DHRS9、IDO遺伝子といった関心のある遺伝子に対して相補的である、少なくとも1つ、好ましくは2つ以上のオリゴヌクレオチドを含有することができる。このことにより、各遺伝子配列またはその転写をハイブリダイズする。基板は好ましくは、個別の既知の位置(スポット)に付着した複数のプローブを有する表面を有する、固相基板である。マイクロアレイ上のスポットは通常、マイクロアレイ上に印刷されるか、またはフォトリソグラフィまたはインクジェット印刷によって合成されるかのいずれかである。一般的なマイクロアレイ上に数千のスポットが存在し得、各スポットは、核酸の断片またはオリゴヌクレオチドといった大量の同一プローブを含有することができる。こうしたマイクロアレイは、通常、1cm2あたり少なくとも100個のオリゴヌクレオチドまたは断片の密度を有する。特定の実施形態では、アレイは、1cm2あたり約少なくとも500個、少なくとも1000個、少なくとも10,000個、少なくとも105個、少なくとも106個、少なくとも107個のオリゴヌクレオチドまたは断片の密度を有することができる。支持体は、プローブが固定位置もしくはスポットに付着されている表面上のガラスまたはプラスチック製のスライドまたは膜であることができる。
【0054】
本明細書で言及されるPCRまたはRT-PCR反応で使用されるプライマーまたはプローブは、例えばCD258、DHRS9またはIDO遺伝子といった各マーカー遺伝子内で、特異的なハイブリダイズおよびそれに続く標的配列の増幅が可能となるように設計されている。本開示に基づき、当業者は、各Tregマーカー遺伝子の発現を検出するために使用されることができるオリゴヌクレオチドプライマーおよび/またはプローブを設計することが、容易に可能であるだろう。PCRまたはRT-PCR用の配列特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを設計するための方法は、例えば、Dieffenbach
and Dveksler,”PCR Primer”,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York,2003といった科学文献にて非常に詳細に議論されている。PCRプライマーを設計する際考慮されるべきパラメータには、例えばヌクレオチドの数、プライマーのG/C含有量、溶解温度、2次構造につながり得る相補的ヌクレオチドの存在および同様のものが挙げられる。本発明の方法で使用するためのオリゴヌクレオチドは、好ましくは少なくとも8個のヌクレオチドの長さを有し、より好ましくは少なくとも10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48または50個のヌクレオチドの長さを有する。オリゴヌクレオチドプライマーは、当該技術分野で知られている任意の適切な技術によって調製されることができる。例えば、オリゴヌクレオチドプライマーは、例えばホスホアミダイト法によって、合成的に誘導されてよい。天然に生じたヌクレオチド塩基であるアデニン、チミン(ウリジン)、シトシンまたはグアニンを含有するオリゴマーまたはポリマーとは別にして、本発明のオリゴヌクレオチドプライマーはまた、5-メチルシトシン、5-ヒドロキシメチルシトシンおよび同等のものといった修飾塩基を含み得る。
【0055】
本明細書に示されるマーカーの検出用プローブおよびプライマーは、各マーカーのヒトゲノム配列に基づく慣例法によって設計されることができる。これらのマーカーの配列は当該技術分野で知られており、配列データベースで検索することができる。プローブおよびプライマーは、その全長にわたり、ゲノム配列に完全に相補的であると示す必要は必ずしもないことが理解されるだろう。プローブおよびプライマーが各mRNAに対して特異的結合を示す限り、限られた数の配列のずれは許容可能である。標準的には、同種のmRNA分子に対するプローブおよびプライマーの全体配列の同一性は、少なくとも約90%、95%、96%、97%、98%、99%以上である。ヌクレオチド配列間の一致度を測定するためのコンピュータプログラムは、例えば、Wisconsin Sequence Analysis Package,Version 8(Genetics Computer Group,Madison,USAから入手することができる)で入手することができ、例えばプログラムBESTFIT、FASTAおよびGAPなどが挙げられる。これは、Smith and Watermanのアルゴリズムに基づいている。これらのプログラムは、製造業者によって推奨される標準パラメータを用いて使用されることができる。
【0056】
例えばCD258、DHRS9およびIDOなどのマーカーの高レベルのmRNAが検出される場合、この細胞はMregであると仮定することができる。休止マクロファージといった非Mreg細胞はまた、ある程度上記で示されたマーカーのうち1つか2つ以上を発現し得るが、こうした発現は比較的低い。それ故、本発明によれば、非Mreg細胞、特に休止マクロファージによるマーカーの発現がネガティブコントロールとして使用されることが好ましい。ネガティブコントロール、すなわち休止マクロファージの各量よりも少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、少なくとも約250%、少なくとも約300%、少なくとも約350%、少なくとも約400%、少なくとも約450%、少なくとも約500%、少なくとも約550%、少なくとも約600%、少なくとも約750%または少なくとも約1000%高いRNAレベルでのマーカー発現の測定は、試験にかけられる細胞がMreg細胞であることを明確に示す。
【0057】
更に別の特に好ましい実施形態では、例えばCD258、DHRS9およびIDOといったMregマーカーの検出は、翻訳レベルでのマーカー遺伝子発現の検出を含む。これは、CD258、DHRS9およびIDOといった各Mregマーカーのタンパク質量が測定されることを意味する。Mregタンパク質量は、生物学的試料中でマーカータンパク質を特に検出することが可能である、任意の適切な方法により測定されてよい。タンパク質の検出は、タンパク質に特に結合する分子に基づいてよく、または試料中に存在する他のタンパク質からのタンパク質の分離に基づいてよい。Tregマーカータンパク質に特に結合する分子は、抗体およびMregマーカー向けの結合活性を有する抗体断片を含む。CD258、DHRS9およびIDOのようなMregマーカータンパク質に誘導される多数の抗体が調製され、商業的な追跡が可能である。こうした抗体またはその断片は、ウェスタンブロット法、定量的ウェスタンブロット法、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、偏光分析法(定量的)、表面プラズモン共鳴(SPR)または定量的な電子顕微鏡法を含む免疫組織化学的方法を用いる、Mregマーカータンパク質の検出のために使用されてよい。本発明の特に好ましい実施形態では、マーカーの検出はELISAを含む。特異的結合を検出可能である他の方法は、例えば蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を含む。生物学的試料内の他の成分からタンパク質を分離することにより、Tregマーカータンパク質の定量的検出が可能となる方法は、定量的質量分析法、2次元ゲル電気泳動といった電気泳動法、サイズ排除クロマトグラフィーまたはイオン交換クロマトグラフィーといったクロマトグラフィー法を含む。
【0058】
上述の通り、非Mreg細胞も例えばCD258、DHRS9およびIDOといった、上で言及したMregマーカーを低量で産生し得る可能性がある。したがって、非調節性マクロファージといった非Mreg細胞のタンパク質量は、ネガティブコントロールを提供するためには測定もされるべきである。仮に試験にかけられる細胞に対するタンパク質量により、マーカー発現がネガティブコントロールよりも高いことが明らかにされると、試験される細胞がMregであると結論づけることができる。特異的には、ネガティブコントロール、すなわち非調節マクロファージなどの非Mreg細胞での各量よりも、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、少なくとも約250%、少なくとも約300%、少なくとも約350%、少なくとも約400%、少なくとも約450%、少なくとも約500%、少なくとも約550%、少なくとも約600%、少なくとも約750%、または少なくとも約1000%高いタンパク質量でのマーカー発現を測定することは、試験された細胞がMreg細胞であることを明確に示す。
【0059】
本発明の一層より好ましい実施形態では、Mregマーカーの検出はフローサイトメトリーを含む。フローサイトメトリーは、細胞表面マーカーおよび細胞内分子の発現を分析するために広く使用される方法である。フローサイトメトリーは、細胞カウント、細胞分取およびバイオマーカープロファイリングなどの用途向けに慣例的に使用されている。特にフローサイトメトリーは、異種細胞集団内で異なる細胞種を決定するために使用されることができる。フローサイトメトリーは、細胞表面上のマーカーを検出する蛍光標識された抗体により生じた蛍光強度を測定するために主に使用される。これは細胞内マーカーの検出のために使用されることもできるが、こうした検出はあまり所望されていない。というのは、抗体は通常、細胞を殺す細胞を透過させなくてはならないからである。これは、生存可能な同一細胞集団の貯蔵を目的とした、細胞分取用途用の細胞内マーカーの検出を妨げる。
【0060】
別の好ましい実施形態では、本発明の方法で使用するためのMreg細胞は、CD25+FoxP3+iTregを誘導する能力を有する。Tregを誘導するための能力は、Mregを5日間、同種異系T細胞と1:2の比率で共培養する時までに試験することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】1×10
7Mregの注射により、末梢動脈疾患(PAD)を患っている患者の足潰瘍を治療した結果を示す。[
図2]ヒトMregの表現型および特化した機能特性を記載する。
【
図2A】RT-qPCRにより強いDHRS9 mRNAの発現がMreg内で検出されたが、これは比較マクロファージ種(n=6;平均±SD)ではないことを示す。
【
図2B】DHRS9タンパク質の発現により、Mregと比較マクロファージとを区別することを実証する、免疫ブロット法の結果を示す。
【
図2C】マイクロアレイ分析(n=3、平均±SD)により定量化された比較マクロファージのパネル内でのTNFSF14/CD258 mRNAの発現を示す。
【
図2D】フローサイトメトリーによって検出された、ヒトMregによるCD258の細胞表面発現を示す。
【
図2E】ヒトMregを有するナイーブCD25
-FoxP3
-CD4
+T細胞の直接相互作用が、活性化CD25
+FoxP3
+CD4
+T細胞への変換を引き起こすことを示すための、実験用システムを例示する。
【
図2F】1:2の比率で共培養した際、ヒトMregとの相互作用によってナイーブCD25-FoxP3
-CD4
+T細胞から生成されたiTregを示す。
【
図2G】マイクロアレイ分析(n=3、平均±SD)により定量化された比較マクロファージのパネル内でのIDO mRNAの発現を示す。
【
図2H】細胞内染色およびフローサイトメトリーにより検出されたヒトMregによる、IDOの発現を示す。
【
図2I】マイクロアレイ分析(n=3、平均±SD)により定量化された比較マクロファージのパネル内でのPAEP mRNAの発現を示す。
【
図2J】PAEPに対する中和抗体を用いた分泌PAEPタンパク質の中和が、iTreg生成における著しい減少につながったことを示す。
【
図2K】マイクロアレイ分析(n=3、平均±SD)により定量化された比較マクロファージのパネル内でのTGFβ1 mRNAの発現を示す。
【
図2L】ヒトMregおよび比較マクロファージによる、TGFβ1の24時間の分泌を示す。
【
図2M】Treg誘導に関するPCMOを有する、Mregの比較を示す。
【実施例0062】
Mregを現行の滅菌医薬品の製造に関するGMP基準に基づいて製造した。汚染および不衛生に対し、製品、材料および機器を防護するといった注意が全加工工程で払われる。
【0063】
実施例1:Mregの調製
第1のMreg製剤(「Mreg A」)を、Hutchinsonの改善プロトコールに基づいて調製した。Mreg生成用出発物質として使用される末梢血単核細胞(PBMC)を収集するため、健康なヒトドナーに白血球搬出法を施した。全ドナーは、感染症を含む関連疾患のマーカーを対象とし、白血球搬出法に先駆け最大30日間スクリーニングされた。ドナーは、白血球搬出法当日にも同じ疾患マーカーを再度スクリーニングされた。白血球搬出法は、Terumo BCT Cobe Spectra deviceまたは同様の装置を用いて実施した。CD14+単球は、製造業者の指示に基づき、Miltenyi CliniMACS(登録商標)システムを用いて白血球搬出法産物から単離された。
【0064】
10%のヒトAB型血清(Lonza)、2mMのL-グルタミン(Lonza)、100U/mlのペニシリン、10μg/mlのストレプトマイシン(Lonza)、および、0.1%ヒト血清アルブミン(Aventi)で希釈(carried on)した組換え型ヒトM-CSF(RSCDシステム)を終濃度5ng/mlが添加され、フェノールレッド(Lonza)を含まないRPMI l640ベースの培地30ml中に、密度35×106単球/175cm2培養フラスコ(Cell+T175フラスコ;Sarstedt)で、プラスチック付着単球を添加した。細胞を6日間、そのうち、1日目、2日目および4日目に完全培地を交換して培養した。6日目には、25ng/mlの組換え型ヒトIFN-γ(Imukin;Boehringer Ingelheim)で培養物を刺激した。7日目には、トリプシンEDTA処理(フェノールレッド非含有TrpE Express;Invitrogen)し、その後慎重に掻き取ることにより、付着単球画分を回収した。全フラスコからのMregは、5%ヒトアルブミンを含有する生理食塩水溶液で貯蔵および再懸濁された。
【0065】
第2のMreg製剤(「Mreg B」)は、国際出願番号PCT/EP2017/055839の実施例1に記載されるプロトコールに基づいて調製された。Mreg生成用出発物質として使用される末梢血単核細胞(PBMC)を収集するため、健康なヒトドナーに白血球搬出法を施した。全ドナーは、感染症を含む関連疾患のマーカーを対象とし、白血球搬出法に先駆け最大30日間スクリーニングされた。ドナーは、白血球搬出法当日にも同じ疾患マーカーを再度スクリーニングされた。白血球搬出法は、Terumo BCT Cobe Spectra deviceまたは同様の装置を用いて実施した。
【0066】
CD14+単球は、製造業者の指示に基づき、Miltenyi CliniMACS(登録商標)システムを用いて白血球搬出法産物から単離された。簡潔には、白血球搬出法産物を0.5%ヒト血清アルブミン(HSA)を含有するPBS/EDTA緩衝剤で充填されたバッグへと移動させた。製造業者の指示に従い、CliniMACS(登録商標)CD14試薬で標識する前に細胞は一旦洗浄された。CD14+単球を磁気分離によって単離するため、標識細胞懸濁液を滅菌チューブセットに接続し、CliniMACS(登録商標)装置へと導入した。陽性単離されたCD14+単球画分は培地で洗浄され、CliniMACS(登録商標)分離緩衝剤を除去した。10%ヒト男性AB型血清(貯蔵および熱不活性化されたもの)、2mM GlutaMAX(商標)および25ng/ml組換え型ヒト単球コロニー刺激因子(M-CSF)を追加されたRPMI媒体中で、106cells/mlの密度にて、単離したCD14+単球を再懸濁した。各バッグは1×106cells/cm2内部表面領域で播種されるように、この単球懸濁液をMiltenyi(登録商標)細胞分化バッグへと分配した。培養のため、分化バッグは36~38℃、5±1%CO2、60%以上の湿度に設定された培養器内の棚に水平に置かれた。単球は、1日経過した後、培養バッグの下面上に沈殿させることが可能であった。1日目にバッグを反転させ、単球が反対側の面に付着できるようにした。培養は更に5日間、培養器中で継続された。単球のMregへの最終分化を誘導し、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)発現を誘導するため、25ng/mlのIFN-γを添加することにより、単球を刺激した。IFN-γ添加後、もう1度分化バッグを反転した。次いで、36~38℃、5±1%CO2、60%以上の湿度で更に18~24時間、バッグをインキュベートした。7日目に分化したMregを収集した。全ての平行な培養バッグからの細胞は、貯蔵され、表現型分析および機能的分析前に洗浄した。
【0067】
実施例2:Mregの表現型特徴付け
実施例1で得られた「Mreg A」細胞を、種々のマーカーの発現のため試験した。とりわけ、Mregに対する特異性を潜在的に有する種々のマーカーの発現を、RT-PCRにより検査した。
【0068】
DHRS9:DHRS9発現により単球由来マクロファージおよび樹状細胞由来のヒトMregを区別することを示すことができた。強いDHRS9 mRNA発現は、Mreg中で検出されたが、比較マクロファージ種((n=6;平均±SD)は検出されなかった。
図4Aを参照されたい。特別仕様のウサギ抗DHRS9pAbによる免疫ブロット法により、DHRS9タンパク質発現は比較マクロファージ由来のMregを区別することを実証した。
図4Bを参照されたい。
【0069】
CD258:CD258(TNFSF14)は、ヒトMregの情報マーカーであることが明らかにされた。TNFSF14 mRNA発現は、Mreg中で検出されたが、比較マクロファージ(n=3;平均±SD)中では検出されなかった。
図4Cを参照されたい。
【0070】
IDO:MregはIDOを発現することが明らかにされていたが、その一方、比較マクロファージはこのマーカーを発現しない。MregによるIDOの発現は、フローサイトメトリーによって検出された。
図4Dを参照されたい。
【0071】
PAEP:MregはPAEPを発現することが明らかにされていたが、その一方、比較マクロファージはこのマーカーを発現しない。
図4Eは、比較マクロファージ(n=3;平均±SD)のパネルにてPAEP mRNAが発現することを示している。
【0072】
TGFβ1:MregはTGFβ1を発現することが明らかにされていたが、その一方、比較マクロファージはこのマーカーを発現しない。
図4Fは、比較マクロファージ(n=3;平均±SD)のパネルにてTGFβ1mRNAが発現することを示している。
【0073】
Treg誘導:末梢血CD14+単球から生成されたヒトMregは、1:2の比率で同種異系T細胞と5日間共培養された。次いでT細胞はフローサイトメトリーおよび機能アッセイによって分析された。5日間同種異系Mregで共培養されたT細胞は、T細胞抑制型CD25+FoxP3+iTreg(
図4F)用に濃縮された。これは、αCD3/αCD28ビーズで5日間刺激することによって生成されたCD25+FoxP3-/低 ポリクローナル活性化T細胞と容易に区別された。MregをPCMO細胞と比較した。結果を
図2Mに示す。これより、Tregを誘導する能力は、Mregには制限されることを理解することができる。
【0074】
実施例3:足潰瘍治療用Mreg
右下肢IIa期および左下肢III期末梢動脈疾患(PAD)を患っている78歳の高齢男性患者は、複数回の経皮的血管形成術(PTA)処置、ならびに左膝窩動脈と共に、総大腿動脈(AFC)と浅大腿動脈(AFS)の各バイパス手術を受けたことがあった。彼は歩行中および安静時、特に夜中に強い疼痛が出現することに悩まされていた。
【0075】
患者は実施例1より得られたMreg製剤(「Mreg A」)による治療を受けた。とりわけ、12mlの5%のヒト血清アルブミンで希釈された1×107Mregは、潰瘍の外側部分に沿って6か所の注射部位、すなわち1つの注射部位につき2mlずつ注射された。創傷下の筋組織に届く場合には、注射は筋肉内へと供された。それ以外の場合には、注射は皮下に供された。追加治療はその後一切実施しなかった。乾燥した包帯により創傷は滅菌状態を保たれ、包帯は毎日取り換えられた。
【0076】
結果:患者の臨床経過観察は、経時的に創傷が閉鎖したという点で著しい改善を示している。臨床的には、夜に生じる疼痛は、安静時の虚血性疼痛を伴うことなく完全に消失した。この改善はMreg注射後3か月で最初に観察された。歩行距離は2km以上に改善された。治療結果を
図1に示す。
【0077】
実施例4:PAD治療用Mreg
拡張した動脈障害コンポーネントおよび右下肢にIV期末梢動脈疾患(PAD)を有する糖尿病(diabetes mellitus with an extended arteriopathic component and peripheral artery disease (PAD))を患っている64歳の高齢女性患者がいた。彼女は骨がむき出しの状態である踵部潰瘍を発症していた。浅大腿動脈(AFS)または下腿の広範囲で側副血行路がもはや存在していなかった。下腿の接続血管が欠如していたため、手術可能な治療介入は一切不可能であった。大腿部切断が最後の治療手段として考えられていた。
【0078】
患者は実施例1により得られたMreg製剤(「Mreg A」)による治療を受けた。実施例3で記載されるように、総量で50,000のMregが5つの個別識別されている(血管造影)治療ポイントにて投与された。追加治療はその後一切実施しなかった。創傷は滅菌状態を保ち、毎日包帯を取り換えた。
【0079】
結果:患者の臨床経過観察は、注射2週間後に創傷が治癒したという点で著しい改善を実証した。3か月後、創傷治癒は完全に終了し、右脚の血行も補償された。追加の側副血行路の形成も血管造影により実証された。大腿部切断は回避された。
【0080】
文献
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[2] Tang Q, Bluestone JA, Kang SM. CD4(+) Foxp3(+) regulatory T cell therapy in
transplantation. J Mol Cell Biol 2012; 4: 11-21.
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dendritic cells in transplantation. Transplant Res 2012; 1: 13.
[4] Broichhausen C, Riquelme P, Geissler EK, et al. Regulatory macrophages as therapeutic targets and therapeutic agent in solid organ transplantation. Curr Opin Organ Transplant 2012; 17: 332-42.
[5] Hutchinson JA, Riquelme P, Sawitzki B, et al. Cutting edge: immunological consequences and trafficking of human regulatory macrophages administered to renal transplant recipients. J Immunol 2011; 187: 2072-8.
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[7] Hutchinson JA, Brem-Exner BG, Riquelme P, et al. A cell-based approach to the minimization of immunosuppression in renal transplantation. Transpl Int 2008; 21: 742-54.
[8] Hutchinson JA, Roelen D, Riquelme P, et al. Preoperative treatment of a pre- sensitized kidney transplant recipient with donor-derived transplant acceptance-inducing cells. Transpl Int 2008; 21: 808-13.
[9] Hutchinson JA, Govert F, Riquelme P, et al. Administration of donor-derived
transplant acceptance-inducing cells to the recipients of renal transplants
from deceased donors is technically feasible. Clin Transplant 2009; 23: 140
-5.
前記マクロファージが更に、マクロファージ系列マーカーCD33、CD33、CD11bおよびHLA-DRからなる群から選択されるマーカーのうち、少なくとも1つを更に発現する、請求項1~3のいずれか一項に記載の免疫調節性マクロファージ。