(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093683
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】フコシル化オリゴ糖の製造のための改良された方法
(51)【国際特許分類】
C12P 19/12 20060101AFI20230627BHJP
C12P 19/04 20060101ALI20230627BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230627BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
C12P19/12 ZNA
C12P19/04
C12N1/21
C12N15/54
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071286
(22)【出願日】2023-04-25
(62)【分割の表示】P 2019521756の分割
【原出願日】2017-10-24
(31)【優先権主張番号】16196486.1
(32)【優先日】2016-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】511149751
【氏名又は名称】クリスチャン.ハンセン・ハー・エム・オー・ゲー・エム・ベー・ハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・イェネバイン
(72)【発明者】
【氏名】ディルク・ワルテンベルク
(72)【発明者】
【氏名】カティア・パーシャート
(57)【要約】 (修正有)
【課題】フコシル化オリゴ糖、特に、2’-フコシルラクトースの生合成が、100g/Lを超える力価で可能になる、改良された発酵プロセスを提供する。
【解決手段】糖新生基質で培養される組換え原核宿主細胞を使用することによってフコシル化オリゴ糖を製造する方法であって、宿主細胞は、フルクトース-6-リン酸変換酵素の活性が消失又は低下されるという点で遺伝子改変されており、製造されたフコシル化オリゴ糖の細胞膜を通した輸送は、外因性輸送タンパク質によって促進される、方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子改変原核宿主細胞を使用してフコシル化オリゴ糖を製造するための方法であって、
・少なくとも、(i)改変されていない宿主細胞において通常レベルを有するフルクトース-6-リン酸変換酵素の活性が、低下又は消失される;(ii)GDPフコースのデノボ合成に必要な酵素をコードする少なくとも1つの遺伝子が、宿主細胞において過剰発現される;(iii)アルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼ及び/又はアルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼをコードする外因性遺伝子が、宿主細胞内で発現される、ように遺伝子改変された原核宿主細胞を準備するステップと、
・グリセロール、スクシネート、マレート、ピルベート、ラクテート、エタノール、シトレートのうちの少なくとも1つから選択される炭素供給源及び/又はエネルギー供給源から、培養培地中で、前記遺伝子改変宿主細胞を培養する及び/又は増殖させるステップと
・前記培養培地にラクトースを提供するステップと
を含み、
それによって、前記宿主細胞が培養される培地から得ることができるフコシル化オリゴ糖を製造する、方法。
【請求項2】
フコシル化オリゴ糖が、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース又はジフコシルラクトースからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
宿主細胞が、細菌宿主細胞からなる群から選択され、好ましくは、大腸菌株、ラクトバチルス(Lactobacillus)属種又はコリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)株から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ホスホフルクトキナーゼ、グルコース-6-リン酸イソメラーゼ、フルクトース-6-リン酸アルドラーゼ、トランスケトラーゼ若しくはトランスアルドラーゼの群から選択されるフルクトース-6-リン酸変換酵素の活性を低下若しくは消失させることによって、及び/又はフルクトース-1,6-ビスリン酸ホスファターゼの活性を増加させることによって、細胞内のフルクトース-6-リン酸プールが増加する、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
GDPフコースのデノボ合成に必要な酵素をコードする遺伝子が、ホスホマンノムターゼをコードする遺伝子、好ましくはmanB、マンノース-1-リン酸グアノシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、好ましくはmanC、GDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼをコードする遺伝子、好ましくはgmd、及びGDP-L-フコースシンターゼをコードする遺伝子、好ましくはwcaGである、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つのフコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子が、アルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼ及び/又はアルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼ活性を示す、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
アルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子が、大腸菌O126由来のwbgL又はヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)由来のfucT2からなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
アルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子が、アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)、ヘリコバクター・ピロリ又はヘリコバクター・ヘパティカス(Helicobacter hepaticus)の各種のアルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子からなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
宿主細胞が、所望のフコシル化オリゴ糖の培養培地への排出を可能にする又は促進するタンパク質をコードする遺伝子を発現するように、さらに遺伝子改変されている、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
ラクトースの移入のための内因性又は外因性パーミアーゼが、過剰発現される、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
宿主細胞において改変されている又は宿主細胞を改変する遺伝子が、内因性又は外因性遺伝子である、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
宿主細胞において改変されている又は宿主細胞を改変する遺伝子の少なくとも1つが、内因性若しくは外因性誘導の際に、又は構成的に過剰発現される、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
所望のフコシル化オリゴ糖の排出を可能にする又は促進するタンパク質をコードする遺伝子が、糖流出トランスポーターであり、好ましくはyberc0001_9420及びSetAから選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
フルクトース-1,6-ビスリン酸ホスファターゼが、ピサム・サチバム(Pisum sativum)由来のフルクトース-1,6-ビスリン酸ホスファターゼ(fbpase)の機能活性バリアントである遺伝子によってコードされる、請求項4~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
ラクトースパーミアーゼが、大腸菌のLacYである、請求項10~13のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
ラクトースを提供することが、培養の初期からラクトースを少なくとも5mMの濃度で、好ましくは30、40、50、60、70、80、90、100、150mMの濃度で、より好ましくは300mMを超える濃度で添加することによって達成される、請求項1~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
ラクトースを提供することが、培養培地にラクトースを、培養の生産期を通して、少なくとも5mM、好ましくは10mM又は30mMのラクトース濃度が得られるような濃度で添加することによって達成される、請求項1~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
宿主細胞が、少なくとも約60、80、100若しくは約120時間又は連続方式で培養される、請求項1~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
外因性遺伝子が、宿主株のゲノムに組み込まれる、請求項1~18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
フコシル化オリゴ糖を製造するための原核細胞であって、細胞が、少なくとも(i)改変されていない宿主細胞において通常レベルを有するフルクトース-6-リン酸変換酵素の活性が、低下又は消失される、(ii)GDPフコースのデノボ合成に必要な酵素をコードする少なくとも1つの遺伝子が、過剰発現される、(iii)アルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼ及び/又はアルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼをコードする外因性遺伝子が、細胞内で発現される、ように遺伝子改変されることを特徴とする原核細胞。
【請求項21】
大腸菌株、ラクトバチルス株又はコリネバクテリウム株から選択される、請求項20に記載の原核細胞。
【請求項22】
フルクトース-6-リン酸の細胞内プールが、(i)ホスホフルクトキナーゼ、グルコース-6-リン酸イソメラーゼ、フルクトース-6-リン酸アルドラーゼ、トランスケトラーゼ若しくはトランスアルドラーゼの群から選択されるフルクトース-6-リン酸変換酵素の活性を低下若しくは消失させること、又は(ii)フルクトース-1,6-ビスリン酸ホスファターゼ活性を増加させることによって、増加される、請求項20又は21に記載の原核細胞。
【請求項23】
GDPフコースのデノボ合成に必要な酵素をコードする遺伝子が、過剰発現される、請求項19~22のいずれかに記載の原核細胞。
【請求項24】
アルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼ及び/又はアルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼをコードする外因性遺伝子が、アルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼに関しては、大腸菌O126由来のwbgL又はヘリコバクター・ピロリ由来のfucT2、アルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼに関しては、アッカーマンシア・ムシニフィラ、バクテロイデス・フラジリス、ヘリコバクター・ピロリ又はH.ヘパティカスの各種の遺伝子から選択される、請求項19~23のいずれかに記載の原核細胞。
【請求項25】
フコシル化オリゴ糖、好ましくは2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース又はジフコシルラクトースの製造のための、請求項19~24のいずれかに記載の原核細胞の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子改変原核宿主細胞を使用してフコシル化オリゴ糖を製造するための方法、並びにこの方法において用いられる宿主細胞及びフコシル化オリゴ糖を高力価に製造するためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトミルクは、炭水化物、脂肪、タンパク質、ビタミン、ミネラル及び微量元素の複合混合物である。群を抜いて優勢な画分は炭水化物によって代表され、炭水化物は、ラクトースとより複雑なオリゴ糖(ヒトミルクオリゴ糖、HMO)とにさらに分類され得る。ラクトースはエネルギー供給源として使用されるが、複合オリゴ糖は幼児には代謝されない。複合オリゴ糖の画分は、総炭水化物画分の最大20%を占め、200種を超える異なるオリゴ糖からなる。これらの複合オリゴ糖の出現率及び濃度はヒトに特異的であり、したがって、他の哺乳動物のミルクには多量には見出すことができない。
【0003】
これまでに、およそ200種の構造的に異なるHMOが特定されており、多数の有益な特性が報告されている。HMOは、母乳で育てられた幼児には消化されないが、腸内のビフィドバクテリウム(Bifidobacteria)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属及びバクテロイデス(Bacteroides)属の有益な細菌の貴重な炭素供給源及びエネルギー供給源を表し、これらの細菌が消化管内で優勢になるようにし、これらの細菌が病原体を打ち負かすことができるようにして、それ故に、消化管上皮の感染を防止する。しかし、HMOはまた、病原体細菌、原生動物及びウイルスに直接結合し、グリカンの細胞表面受容体を模倣することによって病原体-宿主間相互作用を遮断し、それによって、母乳で育てられた子供を感染性疾患から保護する。
【0004】
最も顕著なオリゴ糖は、2’-フコシルラクトースである。ヒトミルク中に存在するさらに顕著なHMOは、3-フコシルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース及びラクト-N-フコペンタオースである。これらの中性オリゴ糖の他に、例えば、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトース並びにシアリルラクト-N-テトラオースa、b及びc又はシアリルラクト-N-フコペンタオースIIなどのような酸性HMOもヒトミルク中に見出すことができる。これらの構造は、上皮細胞表面の複合糖質のエピトープ、ルイス組織血液型抗原及び細菌病原体に対する保護特性を説明する上皮エピトープに対するHMOの構造相同性に密接に関連する。
【0005】
これらの有益な特性によって、HMOは、最大複数トンの規模で、大量にHMOの製造を必要とする、幼児用調製粉乳及び他の食品の成分として含まれることが好ましい。
【0006】
供給が限定されていること及び個々のヒトミルクオリゴ糖の純粋な画分を得ることの困難さによって、これらの複合分子の一部への化学的経路が開発された。しかし、化学的及び生体触媒によるアプローチは、商業的に維持することができないことが判明し、さらに、特にヒトミルクオリゴ糖への化学合成経路は、最終製品を汚染するリスクを負わせるいくつかの有毒化学物質に関与する。
【0007】
ヒトミルクオリゴ糖の化学合成に関与する課題によって、いくつかの酵素法及び発酵によるアプローチが開発された。今日、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、ラクト-N-フコペンタオースI、ラクト-N-ジフコヘキサオースII、3’-シアリルラクトース及び6’-シアリルラクトースのようないくつかのHMOについて、組換え大腸菌などの主に遺伝子操作された細菌株を使用して、発酵によるアプローチが開発されている。
【0008】
しかし、今日利用可能な細菌の発酵に基づく最も有効なプロセスでさえ、培養ブロスにおいてHMO力価が20g/L超に達しない又はほとんど達しない。工業規模のプロセスは、典型的には、力価が50g/Lを超えなければならないが、100g/Lがより望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、フコシル化オリゴ糖、特に、2’-フコシルラクトースの生合成が、100g/Lを超える力価で可能になる、改良された発酵プロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要旨)
この目的及び他の目的は、遺伝子改変原核宿主細胞を使用してフコシル化オリゴ糖を製造するための方法であって、
・少なくとも、(i)改変されていない宿主細胞において通常レベルを有するフルクトース-6-リン酸変換酵素の活性が低下又は消失される;(ii)GDPフコースのデノボ合成に必要な酵素をコードする少なくとも1つの遺伝子が宿主細胞において過剰発現される;(iii)フコシルトランスフェラーゼ、好ましくは、アルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼ及び/又はアルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼをコードする外因性遺伝子が、宿主細胞内で発現される、好ましくは、過剰発現されるように、遺伝子改変された宿主細胞を準備するステップ、
・グルコース、スクロース、グリセロール、スクシネート、シトレート、ピルベート、マレート、ラクテート又はエタノールのうちの少なくとも1つから選択される炭素及びエネルギー供給源を含有する培養培地中で、前記遺伝子改変宿主細胞を培養するステップ、並びに
・ラクトースを有する培養培地にラクトースを提供するステップ
を含む方法によって解決される。
【0011】
次のステップで、このようにして製造されたフコシル化オリゴ糖は、宿主細胞が培養される培地から回収されてもよく又は得られてもよい。
【0012】
遺伝子改変宿主細胞を増殖し培養するステップ及び培養培地にラクトースを添加するステップは、遺伝子改変宿主細胞が、最初にある特定の期間培養され、この最初の培養時間後の次のステップで、ラクトースを宿主細胞が培養される培地に添加することによってラクトースが提供されるように実施することができ;あるいは、ラクトースは、遺伝子改変宿主細胞の培養時間の初期からある特定量で提供されてもよく、ある特定量で絶えず添加されてもよい。あるいは、ラクトースは内部で生成され得る。
【0013】
前記目的は、少なくとも(i)改変されていない宿主細胞において通常レベルであるフルクトース-6-リン酸変換酵素の活性が低下若しくは消失される、及び/又は宿主細胞におけるフルクトース-6-リン酸生成酵素の活性を増加させることによって改変されていない宿主細胞において通常レベルで存在するフルクトース-6-リン酸変換酵素の活性が低下若しくは消失される;(ii)GDPフコースのデノボ合成に必要な酵素をコードする少なくとも1つの遺伝子が過剰発現される;(iii)フコシルトランスフェラーゼ、好ましくは、アルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼ及び/又はアルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼをコードする外因性遺伝子が、宿主細胞内で発現される、好ましくは、過剰発現されるように、宿主細胞が遺伝子改変された、遺伝子改変原核宿主細胞によって及びフコシル化オリゴ糖の製造のためのその使用によって、さらに解決される。
【0014】
任意選択的に、宿主細胞は、(iv)所望のフコシル化オリゴ糖の宿主細胞が培養される培地中への輸送を可能にする若しくは促進するタンパク質をコードする遺伝子を発現するように;並びに/又は(v)二官能性L-フコキナーゼ/L-フコース1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼをコードする外因性遺伝子を発現するように;並びに/又は(vi)L-フコース-イソメラーゼ及びL-フコース-キナーゼをコードする遺伝子が不活性化若しくは欠失されるように;並びに/又は(vii)コラン酸合成の酵素をコードする遺伝子が不活性化若しくは破壊されるように;並びに/又は(viii)ラクトースパーミアーゼを発現するように;並びに/又は(ix)内因性ベータ-ガラクトシダーゼ遺伝子が不活性化若しくは欠失されるように;並びに/又は(x)外因性の調節可能なベータ-ガラクトシダーゼ遺伝子を発現するように;並びに/又は(xi)ガラクトースを代謝するための外因性遺伝子を過剰発現するように、並びに/又は(xii)フルクトース-1,6-ビスリン酸ホスファターゼ活性を示す酵素をコードする外因性遺伝子を発現するようにさらに遺伝子改変されている。
【0015】
また、遺伝子改変原核宿主細胞を使用してフコシル化オリゴ糖を製造するための方法であって、
・少なくとも、(i)改変されていない宿主細胞において通常レベルを有するフルクトース-6-リン酸変換酵素の活性を低下若しくは消失させることによって、又はフルクトース-6-リン酸生成酵素の活性を増加させることによって、前記遺伝子改変宿主細胞におけるフルクトース-6-リン酸のプールが増加する;(ii)GDPフコースのデノボ合成に必要な酵素をコードする少なくとも1つの遺伝子が、宿主細胞において過剰発現される;(iii)アルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼ及び/又はアルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼをコードする外因性遺伝子が、宿主細胞内で発現されるように、遺伝子改変された原核宿主細胞を準備するステップ、
・グルコース、スクロース、グリセロール、スクシネート、シトレート、ピルベート、マレート、ラクテート又はエタノールのうちの少なくとも1つから選択される炭素及びエネルギー供給源を含有する培養培地中で、前記遺伝子改変宿主細胞を培養するステップ;並びに
・ラクトースを有する培養培地にラクトースを提供するステップ
を含む方法が本明細書で提供される。
【0016】
本発明の基礎となる目的は、このようにして完全に解決される。
【0017】
本発明による方法及び方法で用いられる遺伝子改変宿主細胞により、50g/L、さらには100g/L、よりさらには150g/Lを超える力価でフコシル化オリゴ糖を製造し、したがって、フコシル化オリゴ糖の大規模、したがって、工業規模での発酵による製造にとって成功するツールを提供することが可能である。
【0018】
現在、最新の技術において一般に理解されるように、「フコシル化オリゴ糖」は、ヒトミルクにおいて見出されるフコシル化オリゴ糖、すなわち、フコース残基を保有するオリゴ糖である。好ましくは、フコシル化オリゴ糖は、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース又はジフコシルラクトースから選択されるものである。
【0019】
また、現在、「遺伝子改変原核宿主細胞」は、遺伝子材料が遺伝子操作技法を使用して変更された原核細胞を意味する。例えば、宿主細胞は、前記宿主細胞において天然に存在する内因性核酸配列のいずれかが、欠失している、中断されている又はそうでなければ、これらの発現が改変される、すなわち、消失される、低下され、抑制される、増強されるなどのように影響を受けるように、遺伝子改変されている、及び/又は外因性核酸、すなわち、前記宿主細胞に対して外来性の核酸が、宿主細胞において、例えば、制御可能なプロモーターの制御下で、発現される宿主細胞に導入されている。この点について、このような遺伝子改変宿主細胞は、「組換え宿主細胞」とも呼ばれる。例えば、対象の原核宿主細胞は、異種核酸、例えば、原核宿主細胞に対して外来性の外因性核酸又は原核宿主細胞において通常見られない組換え核酸の適切な原核宿主細胞への導入による、遺伝子改変原核宿主細胞である。
【0020】
したがって、細菌宿主細胞に関して本明細書で使用される場合、用語「組換え」は、細菌細胞が異種核酸を複製する、又は異種核酸(すなわち、「前記細胞にとって外来性の」配列)によってコードされるペプチド若しくはタンパク質を発現することを示す。組換え細胞は、細胞のネイティブ(非組換え)形態内に見られない遺伝子を含有することができる。組換え細胞は、遺伝子が改変され、人工的手段によって細胞へと再導入された、細胞のネイティブ形態に見られる遺伝子も含有することができる。この用語は、細胞由来の核酸を除去することなく改変された、細胞に対して内因性である核酸を含有する細胞も包含し、このような改変は、遺伝子置き換え、部位特異的突然変異及び関連技法によって得られたものを含む。したがって、「組換えポリペプチド」は、組換え細胞によって生成されたものである。「異種配列」又は「異種核酸」は、本明細書で使用する場合、特定の宿主細胞に対して外来性の供給源(例えば、異なる種)を起源とするものであり、又は同じ供給源を起源とする場合、その元の形態から改変されている。したがって、プロモーターに作動可能に連結した異種核酸は、プロモーターが導出されたものと異なる供給源に由来し、又は同じ供給源に由来する場合、その元の形態から改変されている。異種配列は、例えば、宿主微生物細胞のゲノムへ、トランスフェクション、形質転換、コンジュゲーション又は形質導入によって安定して導入することができ、技法は、導入される宿主細胞及び配列に応じて適用することができる。種々の技法が当業者に知られており、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.(1989)に開示されている。
【0021】
したがって、「遺伝子改変原核宿主細胞」は、現在、形質転換若しくはトランスフェクトされた、又は外因性ポリヌクレオチド配列による形質転換若しくはトランスフェクションが可能である原核細胞として理解される。
【0022】
本発明において使用される核酸配列は、例えば、安定して形質転換/トランスフェクトされる又はそうでなければ宿主微生物細胞に導入されるベクターに含まれてよい。
【0023】
本発明の遺伝子を発現させるために多種多様な発現系が使用され得る。このようなベクターは、とりわけ、染色体、エピソーム及びウイルス由来のベクター、例えば、細菌のプラスミド由来、バクテリオファージ由来、トランスポゾン由来、酵母エピソーム由来、挿入エレメント由来、酵母染色体エレメント由来、ウイルス由来のベクター並びにコスミド及びファージミドのようなプラスミド及びバクテリオファージの遺伝エレメント由来のもののようなこれらの組合せ由来のベクターを含む。発現系構築物は、発現を調節及び引き起こす制御領域を含有する場合がある。一般的に、宿主において、ポリヌクレオチドを維持し、増やし又は発現させ、ポリペプチドを合成するのに適する任意の系又はベクターは、この点での発現に対して使用され得る。適当なDNA配列は、例えば、Sambrookら(上掲)に示されるもののような様々な周知及び日常的な技法のいずれかによって、発現系に挿入され得る。
【0024】
当技術分野は、選択された宿主生物の形質転換において使用するための遺伝材料の単離、合成、精製及び増幅に関する「組換えDNA」方法論に関する特許及び文献が豊富に存在する。したがって、選択された外因性(すなわち、外来性又は「異種性の」)DNA配列を含む「ハイブリッド」ウイルス又は環状プラスミドDNAを有する宿主生物を形質転換することは常識である。当業者は、選択された宿主生物の形質転換において使用するための「ハイブリッド」ベクターを達成するための様々な方法を知っている。
【0025】
用語「...をコードする核酸配列」は、一般的に、改変されていないRNA若しくはDNA又は改変RNA若しくはDNAであってよい、任意のポリリボヌクレオチド又はポリデオキシリボヌクレオチドを指し、一般的に、ある特定のポリペプチド又はタンパク質をコードする遺伝子を表す。用語は、限定することなく、一本鎖及び二重鎖DNA、一本鎖及び二重鎖領域又は一本鎖、二重鎖及び三重鎖領域の混合物であるDNA、一本鎖及び二重鎖RNA並びに一本鎖及び二重鎖領域の混合物であるRNA、一本鎖若しくはより典型的には二重鎖若しくは三重鎖領域又は一本鎖及び二重鎖領域の混合物であってよいDNA及びRNAを含むハイブリッド分子を含む。この用語はまた、コーディング配列及び/又は非コーディング配列を含有してもよいさらなる領域と一緒に、ポリペプチドをコードする単一の連続領域又は不連続領域(例えば、組み込まれたファージ又は配列の挿入若しくは編集により分断されたもの)を含むポリヌクレオチドを包含する。
【0026】
本明細書で使用する場合、用語「培養すること」は、培地中並びに所望のオリゴ糖の製造を許容する及びその製造に適する条件下で、細菌細胞を増殖させること及び/又はインキュベートすることを意味する。数種の適切な細菌宿主細胞並びにこれらの培養のための培地及び条件が、当業者の技術的及び専門的背景に関連して、この発明の開示を読む際に当業者に容易に利用可能である。
【0027】
本明細書に開示された発明について、本明細書で定義する1つ以上のオリゴ糖の製造は、本明細書に開示された関連するタンパク質/酵素をコードするそれぞれの核酸が細胞内に含まれる限り可能であることが理解されるべきである。
【0028】
本明細書で使用する場合、用語「回収すること」は、本発明に従って、宿主微生物によって生成されたオリゴ糖を宿主微生物培養物から単離すること、採取すること、精製すること、収集すること又はそうでなければ分離することを意味する。
【0029】
本発明の方法及び使用の実施形態によれば、製造されるフコシル化オリゴ糖は、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース又はジフコシルラクトースのうちの少なくとも1つから選択される。
【0030】
本発明の方法の実施形態によれば、原核宿主細胞は、細菌宿主細胞からなる群から選択される、好ましくは、大腸菌株、ラクトバチルス属種又はコリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)株から選択される。
【0031】
好ましくは、宿主細胞は、大腸菌、コリネバクテリウム・グルタミクム、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・デルブリュッキー(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)細胞から選択される細菌宿主細胞である。当業者は、本開示を読む場合にさらなる細菌株を認識する。
【0032】
現在、及び一般的に理解されるように、表現「フコシルトランスフェラーゼ」は、GDPフコース(グアノシン二リン酸フコース)ドナー基質からアクセプター基質へとL-フコース糖を転移させて、フコシル化オリゴ糖を形成する酵素として理解される。アクセプター基質は、本発明において、オリゴ糖である。また、フコシルトランスフェラーゼは、グリカンアクセプターの存在下でフコシル化を触媒するだけでなく、アクセプター基質が利用不可能でない場合に、GDP-L-フコースを加水分解することもできる。
【0033】
したがって、用語「アルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼ」又は「フコシルトランスフェラーゼ」又は「アルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼ」若しくは「フコシルトランスフェラーゼ」をコードする核酸/ポリヌクレオチドは、ドナー基質、例えば、GDPフコースからフコース部分の、アルファ-1,2連結におけるアクセプター分子への転移を触媒するグリコシルトランスフェラーゼを指す。用語「アルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼ」又は「フコシルトランスフェラーゼ」又は「アルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼ」若しくは「フコシルトランスフェラーゼ」をコードする核酸/ポリヌクレオチドは、ドナー基質、例えば、GDPフコースからフコース部分の、アルファ-1,3連結におけるアクセプター分子への転移を触媒するグリコシルトランスフェラーゼを指す。
アクセプター分子は、例えば、ラクトース、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース又はこれらの誘導体であり得る。
【0034】
本発明によれば、フコシルトランスフェラーゼをコードする外因性遺伝子は、アルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼ活性を示すタンパク質を発現する遺伝子、アルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼ活性を示すタンパク質を発現する遺伝子又はアルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼ及びアルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼ活性を発現する遺伝子から選択される。
【0035】
好ましい実施形態によれば、2’-フコシルラクトースの合成に対して適切なアルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼが発現され、3-フコシルラクトースの合成に対して適切なアルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼが発現され、2’,3-ジフコシルラクトースの合成に対して適切なアルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼとアルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼの両方又はアルファ-1,2-及びアルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼ活性を示すタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子が発現される。
【0036】
本発明に従って使用することができ、本発明の一部となるフコシルトランスフェラーゼの非限定例は、例えば、細菌のフコシルトランスフェラーゼ、及び好ましくはアルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼ、より好ましくは大腸菌のwbgL遺伝子によってコードされるアルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼ、若しくはヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)のfucT遺伝子によってコードされるアルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼ、又はアルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼ、より好ましくはアッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)、H.ピロリ若しくはH.ヘパティカス(H.hepaticus)由来のアルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼである。好ましくは、その内容が本明細書に関してはっきりと言及されており、この発明の主題を構成するEP2479263A1に開示されている又はEP2439264に由来する又はWO2010/142305に開示されているグリコシルトランスフェラーゼ又はそれらのバリアントが使用される。
【0037】
「バリアント」は、用語が本明細書で使用される場合、それぞれ、基準のポリヌクレオチド又はポリペプチド、特に本明細書で言及され使用される酵素と異なるが、基準のポリヌクレオチド又はポリペプチドの本質的(酵素の)特性を保持するポリヌクレオチド又はポリペプチドである。ポリヌクレオチドの典型的なバリアントは、別の、基準のポリヌクレオチドとヌクレオチド配列が異なる。バリアントのヌクレオチド配列の変化は、基準のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドのアミノ酸配列を変更してもしなくてもよい。ヌクレオチドの変化は、以下で議論するように、基準配列によってコードされるポリペプチドにおけるアミノ酸置換、付加、欠失、融合及び切断を生じる場合がある。ポリペプチドの典型的なバリアントは、別の、基準のポリペプチドとアミノ酸配列が異なる。一般的に、基準のポリペプチドとバリアントの配列が全体として非常に類似し、多くの領域で同一であるように差異が限定される。バリアントと基準のポリペプチドは、任意の組合せで1つ以上の置換、付加、欠失によってアミノ酸配列が異なる可能性がある。置換された又は挿入されたアミノ酸残基は、遺伝情報によってコードされたものであってもなくてもよい。ポリヌクレオチド又はポリペプチドのバリアントは、対立遺伝子バリアントのような天然に存在するものであってもよく、天然に存在することが知られていないバリアントであってもよい。ポリヌクレオチド及びポリペプチドの天然に存在しないバリアントは、突然変異誘発技法によって、直接的合成によって及び当業者に公知の他の組換え方法によって作製されてよい。
【0038】
本発明の範囲内で、好ましくは少なくとも約25、50、100、200、500、1000又はそれより多いアミノ酸の領域にわたって、本明細書で言及したポリペプチドに対して、例えば、本明細書で使用されるフルクトース-6-リン酸変換酵素、特にホスホフルクトキナーゼA、グルコース-6-リン酸イソメラーゼ、フルクトース-6-リン酸アルドラーゼ、トランスケトラーゼ、例えば、tktA、tktB又はトランスアルドラーゼ、例えば、talA、talB、フルクトース-1,6-ビスリン酸ホスファターゼに対して、ホスホマンノムターゼ、好ましくはmanB、マンノース-1-リン酸グアノシルトランスフェラーゼ、好ましくはmanC、GDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼ、好ましくはgmd、及びGDP-L-フコースシンターゼ、好ましくはwcaGに対して、本明細書で使用されるフコシルトランスフェラーゼに対して、フルクトース-1,6-ビスリン酸ホスファターゼ、好ましくはピサム・サチバム(Pisum sativum)由来のフルクトース-1,6-ビスリン酸ホスファターゼ(fbpase)の機能活性バリアントに対して、糖流出トランスポーター、例えば、yberc0001_9420又はSetAに対して並びに本明細書で使用されるラクトースパーミアーゼ、例えば、LacYに対して、約60%超のアミノ酸配列同一性、65%、70%、75%、80%、85%、90%、好ましくは91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%若しくは99%又はそれを超えるアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列/核酸配列を有する核酸/ポリヌクレオチド及びポリペプチド多型バリアント、対立遺伝子、突然変異体並びに種間相同体もこれらの用語に含まれる。
【0039】
したがって、本明細書で開示される遺伝子/タンパク質のいずれかの「機能的断片」は、それぞれの断片が由来する遺伝子又はタンパク質と同じ又は幾分劣る活性を依然として保持している遺伝子/タンパク質の配列バリアントを示すことを意味する。
【0040】
本明細書で定義するように、本明細書における及び当分野で一般的な用語「内因性」は、目的の酵素をコードする核酸が細菌宿主細胞を起源とし、前記宿主細胞に導入されたものではなく、一方、「外因性」又は「組換え」核酸は、前記宿主細胞に導入されたものであり、前記宿主細胞を起源としないことを意味する。
【0041】
別の実施形態によれば、核酸/遺伝子は、相同性又は異種性である。現在、及び関連分野で一般的に理解されるように、表現「相同性の」は、特定の生成物(単数又は複数)をコードし、核酸配列が挿入される同一種に由来する前記核酸配列/遺伝子を指す。したがって、用語「異種性の」は、特定の生成物(単数又は複数)をコードし、核酸配列/遺伝子が挿入されるもの以外の種に由来する前記核酸配列/遺伝子を指す。
【0042】
別の実施形態によれば、本発明の宿主細胞は、内因性又は外因性/組換え核酸配列/遺伝子の過剰発現の制御を可能とする制御配列をさらに含む。上で定義するように、本明細書で、表現「核酸/遺伝子発現制御配列」と同義に使用される用語「制御配列」は、プロモーター配列、シグナル配列、又は配列が制御配列に作動可能に連結する核酸配列又は遺伝子の転写及び/又は翻訳に影響を及ぼす転写因子結合部位のアレイを含む。
【0043】
現在、用語「作動可能に連結する」は、本明細書で使用する場合、核酸/遺伝子発現制御配列(プロモーター、シグナル配列又は転写因子結合部位のアレイのような)と第2の核酸配列又は遺伝子の間の機能的連結を意味することになり、発現制御配列は、第2の配列に対応する核酸の転写及び/又は翻訳に影響を及ぼす。したがって、用語「プロモーター」は、通常、DNAポリマーにおいて遺伝子に「先行し」、mRNAへの転写の開始のための部位を提供するDNA配列を示す。「調節」DNA配列は、通常、所与のDNAポリマーの遺伝子の「上流」にあり(すなわち、先行し)、「調節」DNA配列は、転写開始の頻度(又は割合)を決定するタンパク質に結合する。「プロモーター/調節」又は「制御」DNA配列と総称される、機能的DNAポリマーの選択された遺伝子(又は一連の遺伝子)に先行するこれらの配列は、協同して遺伝子の転写(及び最終的な発現)が起こる否かを決定する。DNAポリマーの遺伝子に「続き」、mRNAへの転写の終結のためのシグナルをもたらすDNA配列は、転写「終結」配列と称される。
【0044】
既に上でさらに概説されたように、本発明に従って使用される核酸配列/遺伝子は、例えば、細菌宿主細胞へと安定に形質転換/トランスフェクトされるベクター内に含まれてよい。上で概説した組換え生産に対する定義及び詳細な説明は、この段落に適用されることになる。
【0045】
一部の実施形態では、核酸配列/遺伝子は、発現のレベルが、例えば、温度、pH、嫌気又は好気条件、光、転写因子及び化学物質のような環境又は発生因子によって変更可能である遺伝子の発現を対象とするプロモーターである、誘導可能なプロモーターの制御下に置かれる。このようなプロモーターは、本明細書において、「誘導可能な」プロモーターと称され、本発明において使用されるタンパク質の発現のタイミングを制御することを可能にする。大腸菌及び他の細菌宿主細胞に対する誘導可能なプロモーターは当業者に公知である。
【0046】
本発明を通して、表現「遺伝子」は、タンパク質へと翻訳された場合、タンパク質/ペプチドの発現へと導くRNAの合成に関するコードされた指示をもたらすDNAセグメントに沿ったヌクレオチドの直鎖状配列(又は核酸配列;上を参照のこと。)を表すことを意味する。タンパク質/ペプチドは、本発明におけるように、ある特定の酵素機能を有する。「核酸」は、一本鎖又は二重鎖形態のいずれかのデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドポリマーを指し、他に限定されていなければ、天然に存在するヌクレオチドに類似する方式で核酸にハイブリダイズする天然ヌクレオチドの公知の類似体を包含する。他に指定されていなければ、特定の核酸配列はその相補配列を含む。
【0047】
用語「...をコードする核酸配列」又は「...をコードする(encoding)/コードする(coding)遺伝子」は、一般的に、改変されていないRNA若しくはDNA又は改変RNA若しくはDNAであってよい任意のポリリボヌクレオチド又はポリデオキシリボヌクレオチドを指し、一般的に、ある特定のポリペプチド又はタンパク質をコードする遺伝子を表す。この用語は、限定することなく、一本鎖及び二本鎖DNA、一本鎖及び二本鎖領域又は一本鎖、二本鎖及び三本鎖領域の混合物であるDNA、一本鎖及び二本鎖RNA、並びに一本鎖及び二本鎖領域の混合物であるRNA、一本鎖若しくはより典型的には二本鎖若しくは三本鎖領域、又は一本鎖及び二本鎖領域の混合物であってよいDNA及びRNAを含むハイブリッド分子を含む。この用語はまた、コーディング配列及び/又は非コーディング配列を含有してもよいさらなる領域と一緒に、ポリペプチドをコードする単一の連続領域又は不連続領域(例えば、組み込まれたファージ又は配列の挿入若しくは編集により分断されたもの)を含むポリヌクレオチドを包含する。
【0048】
したがって、本発明において、用語「遺伝子」及び「核酸配列」は互換的に使用される。
【0049】
さらに、本明細書で使用される場合、酵素に言及する場合の用語「活性」は、酵素活性を呈し、触媒として作用して反応によって変化を受けないまま特定の生化学反応をもたらす任意の分子、特にタンパク質を含むことを意味する。特に、酵素活性を有するタンパク質は、この用語に含まれることを意味し、基質を生成物へと変換することができる。
【0050】
酵素反応において、プロセスの開始時に基質と呼ばれる分子は、生成物と呼ばれる異なる分子へと変換される。生体細胞におけるほとんどすべての化学反応が、生命に対して十分な速度で起こるために酵素を必要とする。酵素は、それらの基質に対して選択的であり、多くの可能性の中からいくつかの反応のみをスピードアップさせるため、細胞内で作製された酵素のセットが、その細胞内で生じる代謝経路を決定する。
【0051】
したがって、本発明によれば、酵素活性が「消失」又は「低下」されると、酵素は、酵素又はその発現が改変されていない場合に有する活性を有さず、すなわち、その場合、活性は、改変されていない酵素/酵素発現と比較して消失又は低下される。
【0052】
本発明の発明者らは、それによって、100g/Lを超える生成物力価でフコシル化オリゴ糖を製造することができる方法及び遺伝子改変宿主細胞を提供することができた。
【0053】
本発明の方法又は宿主細胞の発明の一実施形態によれば、改変されていない宿主細胞において、該当する場合、通常レベルであるフルクトース-6-リン酸変換酵素の活性は、低下又は消失される。宿主細胞として、大腸菌を使用する場合、本発明による方法及び宿主細胞において、フルクトース-6-リン酸変換酵素は、ホスホフルクトキナーゼ、好ましくはホスホフルクトキナーゼA(PfKA)、グルコース-6-リン酸イソメラーゼ、フルクトース-6-リン酸アルドラーゼ、トランスケトラーゼ、好ましくはtktA、tktB又はトランスアルドラーゼ、好ましくはtalA、talBからなる群から選択され、そうでなければ改変されていない大腸菌宿主細胞において存在し活性であるフルクトース-6-リン酸変換酵素は、その活性が低下又は消失されるように改変されていることが好ましい。
【0054】
PfkAは、フルクトース-6-リン酸をフルクトース-1,6-ビスリン酸に効率的にリン酸化する。フルクトース-6-リン酸は、解糖及び糖新生経路と、フルクトース-6-リン酸のマンノース-6-リン酸へのManAに触媒された異性化から出発するGDP-L-フコースの合成とにおける分岐点である。グリセロールのような糖新生基質で大腸菌が増殖する場合、PfkAによるフルクトース-6-リン酸のリン酸化は、ATPの消費量の多いトレッドミル反応であり、さらに、基質に対してManAと競合する。
【0055】
本発明の方法及び宿主細胞の実施形態によれば、フルクトース-6-リン酸生成酵素は、フルクトース-6-リン酸のプールを増加させるようにその活性が増加され得るフルクトース-1,6-ビスリン酸ホスファターゼである。
【0056】
本発明の別の実施形態によれば、GDPフコースのデノボ合成に必要な酵素をコードする少なくとも1つの遺伝子は、宿主細胞において過剰発現される。
【0057】
GDPフコースは、上述のように、L-フコースをアクセプター基質へと転移させてフコシル化オリゴ糖を形成するフコシルトランスフェラーゼの反応に対するL-フコースドナーとして働く。
【0058】
内部でGDPフコースを生成するために遺伝子改変された原核宿主細胞に関して、サルベージ経路を介してGDPフコースに変換され得るL-フコースの外部からの添加は必要とされず、その理由は、宿主細胞が、所望のオリゴ糖のフコシル化プロセスに必要なGDPフコースを効果率的に生成するためである。
【0059】
GDPフコースのデノボ合成に必要な酵素をコードし、宿主細胞において過剰発現される少なくとも1つの遺伝子は、宿主細胞のゲノムに組み込まれ得る内因性遺伝子又は外因性遺伝子であり得る。
【0060】
本発明の実施形態では、GDPフコースのデノボ合成に必要な酵素をコードする外因性遺伝子は、ホスホマンノムターゼ、好ましくはmanBをコードする遺伝子、マンノース-1-リン酸グアノシルトランスフェラーゼ、好ましくはmanCをコードする遺伝子、GDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼ、好ましくはgmdをコードする遺伝子、及びGDP-L-フコースシンターゼ、好ましくはwcaGをコードする遺伝子である。
【0061】
本発明の実施形態によれば、及び上でさらに言及されているように、フコシルトランスフェラーゼをコードする少なくとも1つの外因性遺伝子は、アルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼ活性及び/又はアルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼ活性を示すタンパク質を発現する遺伝子から選択される。この点について、アルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼが、大腸菌:O126のwbgL又はヘリコバクター・ピロリのfucT2遺伝子によってコードされるアルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼからなる群から選択される場合、及びアルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子が、アッカーマンシア・ムシニフィラ及びバクテロイデス・フラジリス、ヘリコバクター・ピロリ又はヘリコバクター・ヘパティカスの各種のアルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼからなる群から選択される場合が特に好ましい。
【0062】
本発明の別の実施形態によれば、宿主細胞が、(i)所望のフコシル化オリゴ糖の培養培地への排出を可能にする若しくは促進するタンパク質をコードする遺伝子、好ましくは外因性遺伝子を発現するように;並びに/又は(ii)二官能性L-フコキナーゼ/L-フコース1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼをコードする外因性遺伝子を発現するように;並びに/又は(iii)L-フコース-イソメラーゼ(Fucl)及びL-フコース-キナーゼ(FucK)の活性の低下若しくは消失を導く遺伝子fucl及びfucKの突然変異若しくは欠失を示すように、(iv)並びに/又はコラン酸合成の酵素をコードする遺伝子が不活性化若しくは破壊されるように;並びに/又は(v)ラクトースの移入のための内因性及び/若しくは外因性パーミアーゼを発現、好ましくは過剰発現するように;並びに/又は(vi)内因性ベータ-ガラクトシダーゼ遺伝子が不活性化若しくは欠失されるように;並びに/又は(vii)ベータ-ガラクトシダーゼ、好ましくは外因性の調節可能なベータ-ガラクトシダーゼをコードする遺伝子を発現するように;並びに/又は(viii)フルクトース-1,6-ビスリン酸ホスファターゼをコードする内因性及び/若しくは外因性遺伝子を過剰発現するようにさらに遺伝子改変される場合が好ましい。
【0063】
上で示したように、さらなる遺伝子改変によって、フコシル化オリゴ糖を製造するための方法は、さらにより改良され得る。
【0064】
L-フコースイソメラーゼ(例えば、Fucl)及びL-フコース-キナーゼ(例えば、FucK)をコードする遺伝子の欠失又は不活性化によってて、細胞内フコースの異化が回避され得る。
【0065】
コラン酸生合成の酵素をコードする遺伝子(例えば、宿主細胞としての大腸菌では、コラン酸合成の第1のステップを触媒するwcaJ遺伝子)の破壊、欠失又は不活性化によって、それがなければ基質であるGDP-L-フコースに対するフコシルトランスフェラーゼ反応と競合し得るコラン酸の細胞内生成が防止される。
【0066】
好ましい実施形態によれば、所望のフコシル化オリゴ糖の培養培地への排出を可能にする又は促進するタンパク質は、yberc0001_9420及び大腸菌 SetAから好ましくは選択される糖流出トランスポーターである。
【0067】
好ましい実施形態によれば、二官能性L-フコキナーゼ/L-フコース1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼをコードする遺伝子は、バクテロイデス・フラジリス由来のfkpである。
【0068】
好ましい実施形態によれば、フルクトース-1,6-ビスリン酸ホスファターゼは、ピサム・サチバム由来のフルクトース-1,6-ビスリン酸ホスファターゼ(fbpase)の機能活性バリアントである遺伝子によってコードされる。
【0069】
好ましい実施形態によれば、ラクトースパーミアーゼは大腸菌のLacYである。
【0070】
例えば、バクテロイデス・フラジリスのfkp遺伝子のGDP-L-フコースの合成を触媒する二官能性L-フコキナーゼ/L-フコース1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の発現によって、GDP-L-フコースの加水分解後の副産物として蓄積され得る遊離L-フコースの形成が防止され、それによって、所望のフコシル化オリゴ糖の合成のための遊離L-フコースを救出する。
【0071】
好ましい実施形態によれば、ガラクトースを代謝するための外因性遺伝子は、大腸菌由来のgalETKMオペロン及び/又はgalPを含む遺伝子である。
【0072】
本発明の実施形態によれば、宿主細胞において改変されている又は宿主細胞を改変する遺伝子は、内因性又は外因性遺伝子である。
【0073】
本発明を通して、外因的に宿主細胞に導入された各遺伝子/核酸に適用する場合、本方法及び宿主細胞の実施形態によれば、好ましくは宿主細胞のゲノムに組み込まれた外因性遺伝子の少なくとも1つが、好ましくは内因性若しくは外因性誘導の際に、又は構成的に過剰発現される場合が好ましい。
【0074】
したがって、(i)GDPフコースのデノボ合成に必要な酵素をコードする外因性遺伝子;(ii)フコシルトランスフェラーゼをコードする外因性遺伝子;(iii)糖流出トランスポーターをコードする外因性遺伝子;(iv)二官能性L-フコキナーゼ/L-フコース1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼをコードする外因性遺伝子;(v)ラクトースパーミアーゼ;(vi)ベータ-ガラクトシダーゼをコードする外因性の調節可能な遺伝子;及び/又は(vii)ガラクトースを代謝するための外因性遺伝子;(viii)フルクトース-1,6-ビスリン酸ホスファターゼをコードする外因性遺伝子の遺伝子のうちの少なくとも1つが過剰発現され、過剰発現が、例えば、培養中のある特定の時点若しくは期間に又は全培養時間中のいずれかに、遺伝子の転写を開始する調節可能なプロモーターによって、起こり得る場合が好ましい。
【0075】
また、好ましい実施形態によれば、本発明による方法において用いられる宿主細胞に導入される外因性遺伝子は、宿主細胞のゲノムに組み込まれる。
【0076】
また、本発明の一態様によれば、及び他に定義されていなければ、本発明に従って、宿主細胞において改変されている/宿主細胞を改変する遺伝子はまた、内因性遺伝子であり得、これらの発現は、増強若しくは増加若しくは過剰発現され、又はそうでなければ消失若しくは低下され得る。
【0077】
内因性ベータ-ガラクトシダーゼ遺伝子の不活性化又は欠失により、外部から添加されたラクトースの分解が防止されるが、代謝されていない、またそうでなければ所望のフコシル化オリゴ糖の精製を妨害する、分解されたラクトースを有することが望ましいため、ベータ-ガラクトシダーゼ又はベータ-ガラクトシダーゼの突然変異形態をコードする外因性の調節可能な遺伝子が宿主細胞で発現される場合も好ましい。例えば、lacZ遺伝子のlacZΩ断片を発現することができ、例えば、この発現は、リプレッサーによって、例えば、温度感受性転写リプレッサー、例えば、cl857によって調節することができる。この場合には、ベータ-ガラクトシダーゼΩ断片の合成は、42℃に温度を上昇させることによって開始され得る。
【0078】
最新の技術において現在及び一般的に理解されるように、リプレッサーは、オペレーター又は関連するサイレンサーに結合することによって1つ以上の遺伝子の発現を阻害するDNA又はRNA結合タンパク質である。DNA結合リプレッサーは、RNAポリメラーゼのプロモーターへの付着を遮断し、したがって、遺伝子のメッセンジャーRNAへの転写を防止する。
【0079】
外因性ベータ-ガラクトシダーゼアルファ断片に対するプロモーターとして、例えば、大腸菌BL21(DE3)のPgbAプロモーターが使用され得る。ベータ-ガラクトシダーゼα及びΩ断片が組み合わされて、細胞内に活性なベータ-ガラクトシダーゼを生じる。
【0080】
好ましい実施形態では、培養の初期からラクトースを少なくとも5mMの濃度で、より好ましくは10、20、30、40、50、60、70、80、90又は100mM超の濃度で、さらにより好ましくは300mM又は300より高い、又は400mMの濃度で添加することによって、ラクトースが提供される。
【0081】
さらに別の実施形態によれば、培養培地にラクトースを、培養の生産期を通して、少なくとも5mMの、より好ましくは少なくとも10、20又は30mMのラクトース濃度が得られるような濃度で添加することによって、ラクトースが提供される。
【0082】
あるいは、ラクトースは、その内容が本明細書に関して明示的に言及され、参照により組み込まれる、特許EP1927316A1に記載されるように、宿主細胞によって細胞内で生成され得る。
【0083】
本発明による方法では、宿主細胞が、少なくとも約60、80、100若しくは約120時間又は連続的方式で培養される場合が好ましい。
【0084】
したがって、本発明の一態様によれば、すなわち、連続的方法では、宿主細胞の培養ステップの間、培地に炭素供給源が絶えず添加される。培養ステップの間、炭素供給源を絶えず添加することによって、一定の有効なオリゴ糖の製造が達成される。
【0085】
別の態様によれば、本発明による方法は、基質が培養物を希釈することなく供給される一定体積のフェドバッチ培養又は発酵体積が供給される基質によって発酵時間と共に変化する可変体積フェドバッチ培養のいずれかの、フェドバッチ発酵方法である、又はこれを含む。
【0086】
上述のように、本発明は、(i)改変されていない宿主細胞において、通常レベルであるフルクトース-6-リン酸変換酵素の活性が低下又は消失される;(ii)GDPフコースのデノボ合成に必要な酵素をコードする少なくとも1つの遺伝子が過剰発現される;(iii)フコシルトランスフェラーゼをコードする外因性遺伝子、好ましくはアルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼ及び/又はアルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子が細胞内で発現されるように宿主細胞が遺伝子改変された、遺伝子改変原核宿主細胞にも関する。
【0087】
上記方法について述べたように、宿主細胞は、好ましくは、大腸菌株、ラクトバチルス株又はコリネバクテリウム株から選択される。
【0088】
本発明による宿主細胞の実施形態によれば、フルクトース-6-リン酸の細胞内プールは、(i)ホスホフルクトキナーゼ、グルコース-6-リン酸イソメラーゼ、フルクトース-6-リン酸アルドラーゼ、トランスケトラーゼ、例えば、tktA、tktB若しくはトランスアルドラーゼ、例えば、talA、talBの群から選択されるフルクトース-6-リン酸変換酵素の活性を低下若しくは消失させること、又は(ii)フルクトース-1,6-ビスリン酸ホスファターゼ活性を増加させることによって、増加される。
【0089】
好ましい実施形態では、GDPフコースのデノボ合成に必要な酵素をコードする遺伝子は過剰発現される。
【0090】
さらに別の好ましい実施形態では、少なくとも1つのフコシルトランスフェラーゼをコードする外因性遺伝子は、アルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼ及び/又はアルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子であり、アルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼに関しては、大腸菌O126由来のwbgL又はヘリコバクター・ピロリ由来のfucT2、アルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼに関しては、アッカーマンシア・ムシニフィラ、バクテロイデス・フラジリス、ヘリコバクター・ピロリ又はヘリコバクター・ヘパティカスの各種の遺伝子から選択される。
【0091】
実施形態によれば、上述の宿主細胞は、任意選択的に、(iv)糖流出トランスポーターをコードする外因性遺伝子を発現するために;並びに/又は(v)二官能性L-フコキナーゼ/L-フコース1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼをコードする外因性遺伝子を発現するために;並びに/又は(vi)L-フコース-イソメラーゼ及びL-フクロース-キナーゼをコードする遺伝子が不活性化若しくは欠失されるために;並びに/又は(vii)UDP-グルコース:ウンデカプレニルリン酸グルコース-1-リン酸トランスフェラーゼをコードする遺伝子が不活性化若しくは破壊されるために;並びに/又は(viii)外因性ラクトースパーミアーゼを発現するために;並びに/又は(ix)内因性ベータ-ガラクトシダーゼ遺伝子が不活性化若しくは欠失されるために;並びに/又は(x)ベータ-ガラクトシダーゼをコードする外因性の調節可能な遺伝子を発現するために;並びに/又は(xi)ガラクトースを代謝するための外因性遺伝子を発現するために;並びに/又はフルクトース-1,6-ビスリン酸ホスファターゼをコードする外因性遺伝子を発現するために、さらに遺伝子改変される。
【0092】
本発明は、フコシル化オリゴ糖の製造のための本発明による遺伝子改変原核宿主細胞の使用にも関する。
【0093】
さらなる利点は、実施形態の記載及び添付の図面に従う。
【0094】
上述の特徴及び以下にさらに説明される特徴は、本発明の範囲を逸脱することなく、それぞれ、具体化された組合せにおいてだけでなく、他の組合せにおいて又はそれら自体についても使用することができることは言うまでもない。
【0095】
本発明のいくつかの実施形態は、図面において例証され、以下の記載においてより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【
図1】本発明による方法において使用される遺伝子改変宿主細胞の模式的な、例示的例証を示す図である。
【
図2】HPLCによる、2’-フコシルラクトース生成大腸菌株のグリセロール増殖培養物由来の上清のHPLC分析を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0097】
図1は、例示的フコシル化オリゴ糖である2’-フコシルラクトースの発酵のための例示的経路が示されている、本発明による方法において用いられる本発明による宿主細胞の例示的例証を示す。
図1では、2’-フコシルラクトースの生成に関する、本発明に従って遺伝子改変された例示的細菌宿主細胞が示される。
【0098】
図1から分かるように、ラクトースが外部から添加される一方で、グリセロールが炭素供給源として例示的に使用される。ラクトースは、パーミアーゼ(例えば、LacY)を介して宿主細胞に輸送される。グリセロールは、GlpFにより促進される拡散によって宿主細胞に取り込まれる。原核宿主細胞内で、グリセロールは、グリセルアルデヒド-3-リン酸に変換され、これが、(i)Fbpaseをコードする外因性遺伝子の過剰発現によって促進され、(ii)ホスホフルクトキナーゼA(PfkA)の不活性化によって逆反応が阻害されて、フルクトース-6-リン酸に変換される。GDPフコースのデノボ合成に必要な外因性酵素、すなわち、ホスホマンノムターゼManB、マンノース-1-リン酸グアノシルトランスフェラーゼManC、GDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼGmd及びGDP-L-フコースシンターゼWcaGの過剰発現によって、GDP-L-フコースが生成される。
【0099】
次のステップでは、アルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼ、例えば、WbgLの作用によって、GDP-L-フコースは、内在化したラクトースと反応し、2-フコシルラクトースを生成し、これが、流出トランスポーター、例えば、TPYbを介して宿主細胞が培養される培地中へと排出される。
【0100】
図2では、HPLCによる、2’-フコシルラクトース生成大腸菌株のグリセロール増殖培養物由来の上清のHPLC分析の結果が示される。
【0101】
図2で示されるのは、異種トランスポーターをコードする遺伝子yberc0001_9420を保有する2’-フコシルラクトース生成株由来の発酵ブロスのHPLCプロファイル(黒色)及び異種トランスポーターをコードする遺伝子yberc0001_9420の欠失後の同一株の発酵ブロスのHPLCプロファイル(灰色)である。両株の発酵は、炭素及びエネルギーの供給源としてグリセロールを使用して、28℃で111時間行われた。
【実施例0102】
[実施例1]
2’-フコシルラクトースの製造のための大腸菌BL21(DE3)株の工学的操作
【0103】
親宿主として大腸菌BL21(DE3)を使用して、全細胞生合成アプローチにおける2’-フコシルラクトースの製造のための株を構築した。株のゲノム操作は、遺伝子の破壊及び欠失事象並びに異種遺伝子の組込みを含んだ。
【0104】
2’-フコシルラクトースを、細菌培養に適用されるラクトースから、及び生細胞から生成されるGDPフコースから合成するため、最初に、内因性β-ガラクトシダーゼをコードするlacZ遺伝子の野生型コピーを、ミスマッチオリゴヌクレオチドを使用した突然変異誘発によって不活性化した(Ellisら、「High efficiency mutagenesis,repair,and engineering of chromosomal DNA using single-stranded oligonucleotides」、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:6742~6746頁(2001年)を参照のこと。)。同じ方法を使用して、アラビノース-イソメラーゼに対する遺伝子araAを破壊した。
【0105】
lacZΩ遺伝子断片を、温度感受性転写リプレッサーcl857の制御下で導入した。lacZα断片遺伝子は、株内で大腸菌BL21(DE3)のPgbAプロモーターの制御下で発現され、LacZ+株が出現する。
【0106】
Datsenko及びWarnerの方法に従って、λRedに媒介される組換えによって、ゲノム欠失を実行した(「One-step inactivation of chromosomal genes in Escherichia coli K-12 using PGR products」、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:6640~6645頁(2000年)を参照のこと。)。それぞれ、L-フコースイソメラーゼ及びL-フクロースキナーゼをコードする遺伝子fucl及びfucKは、L-フコースの分解を防止するために欠失した。また、遺伝子wzxC-wcaJも欠失した。WcaJは、おそらく、コラン酸合成の最初のステップを触媒するUDP-グルコース:ウンデカプレニルリン酸グルコース-1-リン酸トランスフェラーゼをコードし(Stevensonら、「Organization of the Escherichia coli K-12 gene cluster responsible for production of the extracellular polysaccharide colonic acid」、J.Bacteriol.178:4885~4893頁;(1996年)を参照のこと。);コラン酸の製造は、GDPフコースのためにフコシルトランスフェラーゼ反応と競合することになる。
【0107】
異種遺伝子のゲノムへの組込みを、転位によって実行した。大きな遺伝子クラスターをマリナートランスポザーゼの高活性C9突然変異体Himar1によって媒介されるゲノムに組み込み(Lampeら、「Hyperactive transposase mutants of the Himar1 mariner transposon」、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:11428~11433頁(1999年)を参照のこと。)、Paraプロモーターの転写制御下で、プラスミドpEcomarに挿入した。GDPフコースのデノボ合成を増強するために、大腸菌K12DH5α由来のホスホマンノムターゼ(manB)、マンノース-1-リン酸グアノシルトランスフェラーゼ(manC)、GDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼ(gmd)及びGDP-L-フコースシンターゼ(wcaG)をコードする遺伝子を、大腸菌BL21(DE3)株で過剰発現させ;オペロンmanCBを構成的プロモーターPtetの制御下で設定し、オペロンgmd、wcaGを構成的PT5プロモーターから転写する。マリナー様エレメントHimar1トランスポザーゼによって特異的に認識される逆位末端配列によって隣接したトリメトプリム抵抗性に関するジヒドロフォレートレダクターゼに対する遺伝子を含むトランスポゾンカセット<Ptet-manCB-PT5-gmd、wcaG-FRT-dhfr-FRT>(配列番号1)を、pEcomar C9-manCB-gmd、wcaG-dhfrから大腸菌のゲノムに挿入した。
【0108】
単一遺伝子の染色体組込みのために、EZ-Tn5(商標)トランスポザーゼ(Epicentre、USA)を使用した。EZ-Tn5トランスポゾンを生成するために、FRT部位に隣接した抗生物質抵抗性カセットと一緒に、目的の遺伝子を、EZ-Tn5トランスポザーゼに対する19bpのMosaic End認識部位(5’-CTGTCTCTTATACACATCT(配列番号8))である両部位に保有されたプライマーで増幅した。EZ-Tn5(商標)トランスポザーゼを使用して、大腸菌K12 TG1(受託番号ABN72583)由来のラクトースインポーターLacYに対する遺伝子、大腸菌:O126(受託番号ADN43847)由来の2-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子wbgL及びエルシニア・ベルコビエリ(Yersinia bercovieri)ATCC 43970(受託番号EEQ08298)由来の主要なファシリテータースーパーファミリーの糖流出トランスポーターをコードする遺伝子yberc0001_9420を、それぞれの組込みカセット:<Ptet-lacY-FRT-aadA-FRT>(配列番号2)、<Ptet-wbgLco-FRT-neo-FRT>(配列番号3)及び<Ptet-yberc0001_9420co-FRT-cat-FRT>(配列番号4)を使用して組み込み、株を得た。遺伝子wbgL及びyberc0001_9420を合成的に合成し、GenScript Cooperation(USA)によってコドン最適化した(co)。lacY遺伝子の組込みの成功後に、抵抗性遺伝子を、プラスミドpCP20にコードされたFLPリコンビナーゼによって、ストレプトマイシン抵抗性クローンから排除した(Datsenko及びWarner、「One-step inactivation of chromosomal genes in Escherichia coli K-12 using PGR products」、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:6640~6645頁(2000年))。
【0109】
大腸菌BL21(DE3)は機能的galオペロンを欠くため、大腸菌K由来のgalETKMオペロンの自然に調節されたコピーを、組込みカセット<Pgal-galE-galT-galK-galM>(配列番号5)を使用するEZ転位によってB株へと組み込んだ。組込み体を、1%のガラクトースを含有するMacConkeyアガーから、赤色コロニーとして選択した。得られた株は、単糖であるグルコース及びラクトースの加水分解から生じるガラクトースを代謝することができる。
【0110】
[実施例2]
エルシニア・ベルコビエリATCC 43970の糖流出トランスポーターによる2’-フコシルラクトース排出の増強の検証
【0111】
yberc0001 9420のノックアウト
エルシニア・ベルコビエリATCC 43970由来の異種の糖トランスポーターの機能性を実証するために、遺伝子yberc0001_9420を、遺伝子yberc0001_9420に挿入されたプラスミドpBBR-MCS5(Kovach,Elzerら 1995年、「Four new derivatives of the broad-host-range cloning vector pBBR1MCS,carrying different antibiotic-resistance cassettes」、Gene 166、175~176頁)由来のゲンタマイシン抵抗性カセットaacC1を使用して、manB、manC、gmd、wcaG、lacY、wbgLの染色体組込みを含有した、大腸菌BL21(DE3)株のlacZ-、araA-、fucl-、fucK-、wcaJ-;並びにDatsenko及びWanner(2000年;上記を参照のこと。)に従った相同組換えによるyberc0001_9420から欠失させて、株Δyberc0001_9420を得た。
【0112】
2’-フコシルラクトース生成のための培養条件
【0113】
異種エクスポーターyberc0001_9420を保有する大腸菌BL21(DE3)株及びΔyberc0001_9420株を、3Lの発酵器(New Brunswick、Edison、USA)中で、炭素供給源として1.5%のグリセロール並びに抗生物質であるトリメトプリム10μg/ml及びカナマイシン15μg/mlを含有する、1mL/Lの微量元素溶液(54.4g/Lのクエン酸アンモニウム鉄、9.8g/LのMnCl2×4H2O、1.6g/LのCoCl2×6H2O、1g/LのCuCl2×2H2O、1.9g/LのH3BO3、9g/LのZnSO4×7H2O、1.1g/LのNa2MoO4×2H2O、1.5g/LのNa2SeO3、1.5g/LのNiSO4×6H2O)を補充した、7g/LのNH4H2PO4、7g/LのK2HPO4、2g/LのKOH、0.3g/Lのクエン酸、2g/LのMgSO4×7H2O及び0.015g/LのCaCl2×6H2Oを含有する800mLのミネラル塩培地を用いて出発して、28℃で培養した。培養は、同じグリセロール含有培地中で増殖させたプレ培養物から2.5%(v/v)を接種して開始した。フコシルトランスフェラーゼ反応におけるアクセプターとしてのラクトースを7時間以内に添加して、約10のOD660nmで出発する培養物において30mMの濃度を得た。次いで、過剰なアクセプター分子を維持するようにラクトースを手作業で調整し;グリセロールを連続して添加した。
【0114】
HPLCによる培養上清の分析及び2’-フコシルラクトースの検出
【0115】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分析を、HPLCシステム(Shimadzu、Germany)に接続した屈折率検出器(RID-10A)(Shimadzu、Germany)及びReproSil Carbohydrate、5μm(250mm×4.6mm)(Dr.Maisch GmbH、Germany)を使用して実施した。溶出を、35℃及び1.4ml/分の流速で、溶出液としてアセトニトリル:H2O(68/32(v/v))を用いて、均一濃度で実施した。20μlの試料をカラムにアプライした。2’-フコシルラクトースの濃度を標準曲線から算出した。したがって、10%(v/v)の100mMスクロースを、濾過(0.22μm孔径)する前に、内部標準としてHPLC試料に添加し、イオン交換マトリックス(Strata ABW、Phenomenex)における固相抽出によって取り除いた。
【0116】
大腸菌BL21(DE3)培養物の上清における2’-フコシルラクトースの検出
【0117】
炭素供給源としてグリセロールを含むミネラル塩培地における28℃での111時間の発酵後、yberc0001_9420トランスポーター遺伝子を含有する株及び欠如する株の培養上清において、73mM(35.6g/L)及び25mM(12.2g/L)の2’-フコシルラクトースをHPLCによって検出した、
図2を参照のこと。
図2に示されたのは、異種トランスポーターをコードする遺伝子yberc0001_9420を保有する2’-フコシルラクトース生成株由来の発酵ブロスのHPLCプロファイル(黒色)及び異種トランスポーターをコードする遺伝子yberc0001_9420の欠失後の同一株の発酵ブロスのHPLCプロファイル(灰色)である。株における異種の糖エクスポーターyberc0001_9420の欠失は、上清における2’-フコシルラクトースの検出量を低下させる。このことは、yberc0001_9420遺伝子を除き遺伝背景は両株で同一であるため、実際に、輸送タンパク質は、三糖を細胞外により迅速に輸送することによって2’-フコシルラクトース生成を増強するというエビデンスを与える。さらに、2’-フコシルラクトースエクスポーターを欠如する細胞において、おそらく、細胞内の強力な糖蓄積によって引き起こされる浸透圧ストレスにより、より低い細胞密度が達成された。
図2に示すように、Δyberc0001_9420培養物で検出された2’,3-ジフコシルラクトースの量は、元の株のブロスの約2倍である。L-フコースが、フコシルトランスフェラーゼ触媒反応によって2’-フコシルラクトースに転移される2’,3-ジフコシルラクトース生成の増加はまた、yberc0001_9420ノックアウト株におけるアクセプター分子2’-フコシルラクトースの細胞内濃度が、yberc0001_9420過剰発現株と比較して高いことを示唆する。
【0118】
図2では、より明るい線、すなわち、灰色の線は、Δyberc0001_9420 大腸菌BL21(DE3)株のΔyberc0001_9420の上清を示し、黒い線は、yberc0001_9420を含有する大腸菌BL21(DE3)の培養物の上清を示す。試料は、炭素供給源としてグリセロールを使用するミネラル塩培地中、28℃で111時間の発酵後に採取した。
【0119】
[実施例3]
発酵プロセスにおける2’-フコシルラクトースの生成
【0120】
発酵を、3Lの発酵器中で、30℃及びpH7.0で行い;pHは、25%のアンモニアによる滴定で調節した。実施例2で記載した株を、炭素及びエネルギー供給源としてグリセロールを使用する実施例2で記載したミネラル塩培地中で培養した。1Lの出発体積を有する発酵器に、同じ培地で培養されたプレ培養物を接種した。バッチ内に含有された2%のグリセロールの消費後、グリセロール(60%v/v)を連続して供給した。0.66Mの濃度のラクトースを、OD600nmが6に達した際に、それぞれ10mLで3回に分けて(1時間間隔で)添加した。その後、発酵器内のラクトース濃度を少なくとも10mMに保持するように、ラクトースを連続フローで与えた。86時間の培養後、最終力価91.3mM(44.6g/L)の2’-フコシルラクトースに達した。温度を42℃にシフトさせることによって、β-ガラクトシダーゼ遺伝子が発現し、ラクトース並びにその分解産物であるグルコース及びガラクトースが、2’-フコシルラクトース生成株によって代謝される。
【0121】
[実施例4]
培養上清のHPLC分析
【0122】
HPLCによる分析を、HPLCシステム(Shimadzu、Germany)に接続した屈折率検出器(RID-10A)(Shimadzu、Germany)及びWaters XBridge Amide Column 3.5μm(250 x 4.6mm)(Eschborn、Germany)を使用して実施した。溶出を、35℃及び1.4ml/分の流速で、溶出液としてddH2O中30%のA:50%(v/v)のACN、ddH2O中0.1%(v/v)のNH4OH及び70%のB:80%(v/v)のACN、0.1%(v/v)のNH4OH(v/v)を用いて、均一濃度で実施した。10μlの試料をカラムにアプライし、2’-フコシルラクトースの濃度を標準曲線から算出した。したがって、10%(v/v)の100mMスクロース溶液を、濾過(0.22μm孔径)する前に、内部標準としてHPLC試料に添加し、イオン交換マトリックス(Strata ABW、Phenomenex)における固相抽出によって取り除いた。L-フコース、3-フコシルラクトース、2’,3-ジフコシルラクトース及びフコシルガラクトースのような副産物も、同じ分析条件を使用して検出した。
【0123】
[実施例5]
代謝の工学的操作による2’-フコシルラクトース生成株の改良
大腸菌株による2’-フコシルラクトースの合成に関するさらなる改良を、ホスホフルクトキナーゼをコードするpfkA遺伝子の欠失によって達成した。グリセロールのような糖新生基質において大腸菌を培養する場合、PfkAによるフルクトース-6-リン酸のリン酸化は、ATP消費量の多いトレッドミル反応であり、さらに、基質に対して、ManAと競合する。pfkA遺伝子は、lox71/66部位によって隣接したゲンタマイシン抵抗性カセット(aacC1)を使用して、Datsenko及びWanner(2000年、上記を参照のこと。)に従った相同組換えによって欠失した(Lambert,Bongersら 2007年「Cre-lox-based system for multiple gene deletions and selectable-marker removal in Lactobacillus plantarum」、Appl.Environ.Microbial.73、1126~113頁を参照のこと。)。pfkA遺伝子の欠失が成功した後、抗生物質抵抗性遺伝子を、pKD46(Datsenko及びWanner、2000年を参照のこと。)シャーシにおけるParaプロモーターの制御下でクローニングされたCreリコンビナーゼを使用して大腸菌のゲノムから除去した(Abremski,Hoessら 1983年、「Studies on the properties of P1 site-specific recombination: evidence for topologically unlinked products following recombination」、Cell 32、1301~1311頁を参照のこと。)。
【0124】
トランスフェラーゼ以外の異なるフコシルトランスフェラーゼの活性として、GDP-L-フコースヒドロラーゼ活性が実証された。wbgL、2’-フコシルラクトース合成のために本明細書で使用されるアルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼについても、この加水分解活性が示された(EP3050973A1を参照のこと。)。2’-フコシルラクトース生成のための遊離L-フコースを救出し、培養ブロスから夾雑しているL-フコースを排除するために、Ptetプロモーターの転写制御下で、lox71/66によって隣接したaacC1遺伝子と一緒に、バクテロイデス・フラジリスの二官能性L-フコキナーゼ/L-フコース1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼをコードするfkp遺伝子を、EZ-Tn5(商標)トランスポザーゼ、<Ptet-fkp-lox-aacC1-lox>(配列番号6)を使用する転位によって、実施例1に記載した株に染色体組込みした。組込みの成功後に、ゲンタマイシン抵抗性遺伝子を、上述のゲノムから除去した。
【0125】
[実施例6]
2’-フコシルラクトースの生成のために最適化された発酵プロセス
【0126】
1mL/Lの微量元素溶液(54.4g/Lのクエン酸アンモニウム鉄、9.8g/LのMnCl2×4H2O、1.6g/LのCoCl2×6H2O、1g/LのCuCl2×2H2O、1.9g/LのH3BO3、9g/LのZnSO4×7H2O、1.1g/LのNa2MoO4×2H2O、1.5g/LのNa2SeO3、1.5g/LのNiSO4×6H2O)及び炭素供給源バッチとして2%のグリセロールと共に、3g/LのKH2PO4、12g/LのK2HPO4、5g/Lの(NH4)2SO4、0.3g/Lのクエン酸、2g/LのMgSO4×7H2O、0.1g/LのNaCl及び0.015g/LのCaCl2×6H2Oを含有する最適化されたミネラル塩培地を使用して、実施例5に記載した大腸菌株を、3Lの発酵器中で、33℃で培養した。pHは、25%のアンモニアを滴定することによって、7.0に保持した。発酵器に、同じ培地で増殖させたプレ培養物を、0.1のOD600nmに接種した。培養物が5のOD600nmを得た際にラクトースを添加し、30mMの濃度を得た。HPLC分析に従って調節して、20~30mMのラクトース濃度を、発酵プロセス全体を通して保持した。バッチ内のグリセロールが消費された後に、グリセロール供給(60%v/v)を、4.5ml/L/hの流速で20時間開始し、その後、5.7ml/L/hで33時間及び18時間の期間にわたって7.1ml/L/h供給した(供給速度は、出発体積を参照する。)。全体として、93時間後に、106.5g/L(217mM)の2’-フコシルラクトース力価が得られた。
【0127】
[実施例7]
代謝チャレンジにより増強された2’-フコシルラクトース生成株の工学的操作
【0128】
糖新生経路を介する代謝された炭素供給源であるグリセロールのトリオース-リン酸からフルクトース-6-リン酸への流れを増強して、GDPフコース生合成に供給するために、フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼ(fbaB)及びピサム・サチバム由来の異種のフルクトース-1,6-ビスリン酸ホスファターゼ(fbpase)をコードする遺伝子を、実施例5で記載された株において過剰発現させた。大腸菌BL21(DE3)由来のfbaB遺伝子をPtetプロモーターと融合させた。葉緑体のP.サチバムFBPaseの活性は、チオレドキシンによる還元によって、ジスルフィド-ジチオール交換によってアロステリックに調節する。システイン残基153のセリンへの交換は、構成的に活性な酵素を生じる。P.サチバム由来の葉緑体のFBPaseをコードする遺伝子(受託番号AAD10213)を購入し、大腸菌における発現のためにコドン最適化し、ヘキサヒスチジンタグでN末端をタグ付けし、Genescriptからの酵素のC153Sバリアントをコードするように改変した。fbpase遺伝子は、T7プロモーターから転写する。カセット<Ptet-fbaB-PT7-His6-fbpase-lox-aacC1-lox>(配列番号7)を、宿主株におけるEZ-Tn5(商標)トランスポザーゼに媒介される組込みのために使用した。ゲンタマイシン抵抗性遺伝子の大腸菌ゲノムからの除去後に、株を2’-フコシルラクトース生成のために使用した。
【0129】
[実施例8]
発酵プロセスによる150g/Lの2’-フコシルラクトースの生成
【0130】
実施例7で記載されたように遺伝子改変された2’-フコシルラクトース生成株を、実施例5で記載されたのと同じ培地で、33℃にて培養した。さらに、2%のグリセロールバッチに、60mMのラクトースを発酵培地に最初に添加した。0.66Mのラクトースによるラクトースの連続的供給を、約10のOD600nmで開始した。さらに、ラクトースの補充を、1Mのストック溶液を用いて行った。ラクトース濃度をおよそ30mMに保った。バッチ相を放置した後、溶解酸素レベルの上昇によって示される、グリセロール供給(60%v/v)は、6.9ml/L/hの流速で37時間開始した(出発体積を参照する。)。その後、9.4ml/L/hで19時間まで供給を低減し、次いで、7.3ml/L/hで19時間まで再度上昇させた。発酵器への播種の93時間後、150.2g/Lの2’-フコシルラクトース力価に達した。
【0131】
[実施例9]
グリセロールからの3-フコシルラクトースの生成
【0132】
GDPフコースのデノボ合成のための酵素をコードする遺伝子(ManB、ManC、Gmd、WcaG)の染色体組込みを有する大腸菌BL21(DE3)のlacZ ΔwcaJ ΔfuclKを使用して、3-フコシルラクトース生成株を構築した。
【0133】
大腸菌由来の糖流出トランスポーターSetAをコードする遺伝子(US2014/0120611A1)及びゲンタマイシン抵抗性を付与する遺伝子と一緒に、バクテロイデス・フラジリス由来のアルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子(EP2439264A1)を、大腸菌のゲノムに組み込んだ。3-フコシルラクトースを生成するために、株の発酵を、実施例6に記載の条件下で行った。バッチ相を放置した後に、7.4ml/L/hの供給速度でグリセロール供給を開始した(出発体積を参照する。)。OD600nmが30に達した際に、33mMの濃度まで、ラクトースを培養物に添加した。プロセスを通して、上清の濃度を少なくとも10mMに保持するようにラクトースを添加した。88時間後、上清の3-フコシルラクトース濃度が30g/Lで、プロセスを停止させた。
フルクトース-1,6-ビスリン酸ホスファターゼの活性を増加させることによって、細胞内のフルクトース-6-リン酸プールが増加する、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
ホスホマンノムターゼをコードする遺伝子がmanBであり、マンノース-1-リン酸グアノシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子がmanCであり、GDP-マンノース-4,6-デヒドラターゼをコードする遺伝子がgmdであり、GDP-L-フコースシンターゼをコードする遺伝子がwcaGである、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
少なくとも1つのフコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子が、アルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼ及び/又はアルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼ活性を示す、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
アルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子が、大腸菌O126由来のwbgL又はヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)由来のfucT2からなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
アルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子が、アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)、ヘリコバクター・ピロリ又はヘリコバクター・ヘパティカス(Helicobacter hepaticus)の各種のアルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子からなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
宿主細胞が、所望のフコシル化オリゴ糖の培養培地への排出を可能にする又は促進するタンパク質をコードする遺伝子を発現するように、さらに遺伝子改変されている、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
宿主細胞において改変されている又は宿主細胞を改変する遺伝子の少なくとも1つが、内因性若しくは外因性誘導の際に、又は構成的に過剰発現される、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
フルクトース-1,6-ビスリン酸ホスファターゼが、ピサム・サチバム(Pisum sativum)由来のフルクトース-1,6-ビスリン酸ホスファターゼ(fbpase)の機能活性バリアントである遺伝子によってコードされる、請求項4~13のいずれかに記載の方法。
ラクトースを提供することが、培養培地にラクトースを、培養の生産期を通して、少なくとも5mMのラクトース濃度が得られるような濃度で添加することによって達成される、請求項1~16のいずれかに記載の方法。