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2023-93725グリコサミノグリカン誘導体とケモカイン受容体活性調節材とを含む組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093725
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】グリコサミノグリカン誘導体とケモカイン受容体活性調節材とを含む組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/726 20060101AFI20230627BHJP
   A61K 31/728 20060101ALI20230627BHJP
   A61K 31/197 20060101ALI20230627BHJP
   A61K 31/5375 20060101ALI20230627BHJP
   A61K 31/4545 20060101ALI20230627BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230627BHJP
   A61K 31/216 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
A61K31/726
A61K31/728
A61K31/197
A61K31/5375
A61K31/4545
A61P27/02
A61K31/216
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074483
(22)【出願日】2023-04-28
(62)【分割の表示】P 2021083964の分割
【原出願日】2016-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2015110784
(32)【優先日】2015-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000195524
【氏名又は名称】生化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】喜助田 知央
(72)【発明者】
【氏名】後藤 康裕
(72)【発明者】
【氏名】力石 裕一
(72)【発明者】
【氏名】畠中 貴弘
(57)【要約】
【課題】 投与に伴う急激な組織変性が抑制され、優れたケモカイン受容体活性調節作用や、後眼部疾患等に対する優れた薬効を示す組成物及び医薬組成物を提供する。
【解決手段】 GAG誘導体とケモカイン受容体活性調節材とを含む組成物及びそれを含む医薬組成物が提供される。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコサミノグリカン誘導体とケモカイン受容体活性調節材とを含む組成物。
【請求項2】
グリコサミノグリカン誘導体が、疎水基導入グリコサミノグリカンである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
グリコサミノグリカン誘導体が、グリコサミノグリカン架橋体である請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
グリコサミノグリカン誘導体とケモカイン受容体活性調節材の共有結合物を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
グリコサミノグリカン誘導体が、ヒアルロン酸又はコンドロイチン硫酸の誘導体である請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
ケモカイン受容体活性調節材が、ケモカイン受容体拮抗剤である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物を含む医薬組成物。
【請求項8】
後眼部疾患処置剤である請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物の後眼部疾患処置剤としての使用。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物を硝子体内へ投与することを含む後眼部疾患の処置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコサミノグリカン誘導体とケモカイン受容体活性調節材とを含む組成物及び医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
病的な血管新生が関与する後眼部疾患である加齢黄斑変性症(Age-related Macular degeneration:以下、「AMD」と略記する)は、滲出型と萎縮型に大別される。滲出型AMDは、黄斑部の網膜色素上皮細胞-ブルッフ膜-脈絡膜の変化により発生する脈絡膜新生血管(choroidal neovascularization:以下、「CNV」と略記する)とその増殖変化を本態とする疾患であり、進行も早く、永続する高度の視力低下を生じる。
【0003】
CCケモカイン受容体(以下、「CCR」と略記する)の1つであるCCR3が滲出型AMD患者から採取したCNVの血管内皮細胞に特異的に発現していることが知られており(例えば、Nature, 2009, 460: 225-230.参照)、AMD病態モデルであるレーザー誘発マウスCNVモデルにおいて、CCR3阻害剤の硝子体内投与が、CNVを抑制し、滲出型AMD治療に有用とされている(例えば、米国特許第8,592,482号明細書参照)。
【0004】
一方、硫酸化されたグリコサミノグリカン(以下、グリコサミノグリカンを「GAG」と略記する)であるヘパラン硫酸やヘパリンのレーザー誘発マウスCNVモデルへの硝子体内投与は、CNVを抑制し、滲出型AMD治療に有用とされている(例えば、国際公開第2011/122321号参照)。また、Heebeom Kooらは、ヒアルロン酸(以下、「HA」と略記する)に5β-コラン酸を導入した化合物を硝子体内投与し、病理組織標本を用いて眼内分布を評価している(例えば、Biomaterials, 2012, 33: 3485-3493.参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第8,592,482号明細書
【特許文献2】国際公開第2011/122321号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nature, 2009, 460: 225-230.
【非特許文献2】Biomaterials, 2012, 33: 3485-3493.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、米国特許第8,592,482号明細書に記載された、薬効を有する濃度のCCR3阻害剤を調製するために所定量以上のDMSOなどの可溶化剤を含む溶液は、硝子体内投与直後に、硝子体に近接する組織(例えば水晶体など)の急激な変性等を生じる場合がある。またBiomaterials, 2012, 33: 3485-3493.及び国際公開第2011/122321号には、ケモカイン受容体活性調節材については開示されておらず、示唆もされていない。
【0008】
本発明は、投与に伴う急激な組織変性が抑制され、優れたケモカイン受容体活性調節作用や、後眼部疾患等に対する優れた薬効を示す組成物及び医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りであり、本発明は以下の態様を包含する。
<1>GAG誘導体とケモカイン受容体活性調節材とを含む組成物。
<2>GAG誘導体が、疎水基導入GAGである<1>に記載の組成物。
<3>GAG誘導体が、GAG架橋体である<1>又は<2>に記載の組成物。
<4>GAG誘導体とケモカイン受容体活性調節材の共有結合物を含む<1>~<3>のいずれかに記載の組成物。
<5>GAG誘導体が、HA又はコンドロイチン硫酸(以下、「CS」と略記する)の誘導体である<1>~<4>のいずれかに記載の組成物。
<6>ケモカイン受容体活性調節材が、ケモカイン受容体拮抗剤である<1>~<5>のいずれかに記載の組成物。
<7><1>~<6>のいずれかに記載の組成物を含む医薬組成物。
<8>後眼部疾患処置剤である<7>に記載の医薬組成物。
<9><1>~<6>のいずれかに記載の組成物の後眼部疾患処置剤としての使用。
<10><1>~<6>のいずれかに記載の組成物を硝子体内へ投与することを含む後眼部疾患の処置方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、投与に伴う急激な組織変性が抑制され、優れたケモカイン受容体調節作用や、後眼部疾患等に対する優れた薬効を示す組成物及び医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】動物モデルに本実施形態に係るKi19003導入CS誘導体を硝子体内投与したときの、CNVの抑制作用を示すグラフである。
図2】動物モデルに本実施形態に係るKi19003導入CS誘導体を硝子体内投与した時の、CNVの抑制作用を示すグラフである。
図3】動物モデルに本実施形態に係るKi19003導入CS誘導体を硝子体内投与した時の、CNVの抑制作用を示すグラフである。
図4】動物モデルに本実施形態に係るSB328437とCS誘導体とを含む組成物を硝子体内投与した時の、CNVの抑制作用を示すグラフである。
図5】動物モデルに本実施形態に係るSB225002とHA誘導体とを含む組成物を硝子体内投与した時の、CNVの抑制作用を示すグラフである。
図6】動物モデルに本実施形態に係るGW766994とHA誘導体とを含む組成物を硝子体内投与した時の、CNVの抑制作用を示すグラフである。
図7】動物モデルに本実施形態に係るKi19003とHA誘導体とを含む組成物を硝子体内投与した時の、CNVの抑制作用を示すグラフである。
図8】動物モデルに本実施形態に係るAZD3778とHA誘導体とを含む組成物を硝子体内投与した時の、CNVの抑制作用を示すグラフである。
図9】動物モデルに本実施形態に係るSB328437とHA誘導体とを含む組成物を硝子体内投与した時の、CNVの抑制作用を示すグラフである。
図10】動物モデルに本実施形態に係るGW766994とGAG誘導体とを含む組成物を硝子体内投与した時の、CNVの抑制作用を示すグラフである。
図11】動物モデルに本実施形態に係るKi19003とGAG誘導体とを含む組成物を硝子体内投与した時の、CNVの抑制作用を示すグラフである。
図12】動物モデルに本実施形態に係るGW766994とCS誘導体とを含む組成物を硝子体内投与した時の、CNVの抑制作用を示すグラフである。
図13】動物モデルに本実施形態に係るRS504393とHA誘導体とを含む組成物を硝子体内投与した時の、CNVの抑制作用を示すグラフである。
図14】動物モデルに本実施形態に係るPS372424とHA誘導体とを含む組成物を硝子体内投与した時の、CNVの抑制作用を示すグラフである。
図15】動物モデルに本実施形態に係るGW766994とCS誘導体とを含む組成物を硝子体内投与した時の、CNVの抑制作用を示すグラフである。
図16】動物モデルにCSを硝子体内投与した時の、CNVの抑制作用を確認したグラフである。
図17】動物モデルにCS又はCS誘導体を硝子体内投与した時の、CNVの抑制作用を確認したグラフである。
図18A】動物にKi19003溶液を硝子体内投与した後の、眼内状態を示す画像である。
図18B】動物にSB328437溶液を硝子体内投与した後の、眼内状態を示す画像である。
図18C】動物にGW766994溶液を硝子体内投与した後の、眼内状態を示す画像である。
図18D】動物に本実施形態に係るKi19003とCS誘導体とを含む組成物を硝子体内投与した後の、眼内状態を示す画像である。
図18E】動物に本実施形態に係るGW766994とCS誘導体とを含む組成物を硝子体内投与した後の、眼内状態を示す画像である。
図18F】動物に本実施形態に係るKi19003とCS誘導体とを含む組成物を硝子体内投与した後の、眼内状態を示す画像である。
図18G】動物に本実施形態に係るKi19003とCS誘導体とを含む組成物を硝子体内投与した後の、眼内状態を示す画像である。
図18H】動物に本実施形態に係るSB328437とHA誘導体とを含む組成物を硝子体内投与した後の、眼内状態を示す画像である。
図19A】動物にRS504393溶液を硝子体内投与した後の、眼内状態を示す画像である。
図19B】動物にPS372424溶液を硝子体内投与した後の、眼内状態を示す画像である。
図19C】動物に本実施形態に係るRS504393とHA誘導体とを含む組成物を硝子体内投与した後の、眼内状態を示す画像である。
図19D】動物に本実施形態に係るPS372424とHA誘導体とを含む組成物を硝子体内投与した後の、眼内状態を示す画像である。
図19E】動物に本実施形態に係るGW766994とCS誘導体とを含む組成物を硝子体内投与した後の、眼内状態を示す画像である。
図19F】動物に本実施形態に係るGW766994とCS誘導体とを含む組成物を硝子体内投与した後の、眼内状態を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において「ステップ」の語は、独立したステップはもちろん、他のステップと明確に区別できなくてもそのステップの所期の目的が達成される態様も含む。また組成物中の成分の含有量は、当該成分に属する物質が組成物中に複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
以下、本発明を発明の実施形態により詳説する。
【0013】
(1)組成物
本発明の組成物は、GAG誘導体とケモカイン受容体活性調節材とを含有する。本発明の組成物は、GAG誘導体とケモカイン受容体活性調節材とをそれぞれ独立した化合物として含有していてもよく、GAG誘導体とケモカイン受容体活性調節材とが物理的相互作用又は化学結合によって複合化した複合物として含有していてもよい。
【0014】
この「GAG誘導体」としては、例えば、GAGに由来する基と疎水基とが、場合によりスペーサー基を介して、共有結合した疎水基導入GAG;GAGが分子内又は分子間で架橋されてなるGAG架橋体;GAGに由来する基とスペーサー基とを含む化合物等が挙げられる。
【0015】
また「疎水基導入GAG」としては、例えば、GAGが有するカルボキシ基とのアミド結合若しくはエステル結合、又はGAGが有するヒドロキシ基とのエーテル結合若しくはエステル結合により、疎水基が、場合によりスペーサー基を介して、共有結合した化合物が挙げられる。また「GAG架橋体」としては、例えば、GAGが分子内又は分子間でGAGが有するカルボキシ基又はヒドロキシ基が架橋性基を介して互いに共有結合して形成される化合物、GAGが分子内又は分子間でGAGが有するカルボキシ基とヒドロキシ基とが架橋性基を介さずに架橋して形成される化合物等が挙げられる。
【0016】
GAG誘導体を構成するGAGは、アミノ糖とウロン酸(又はガラクトース)からなる二糖の繰り返し構造を有する酸性多糖である。このようなGAGの例としては、HA、コンドロイチン、CS、デルマタン硫酸及びケラタン硫酸が挙げられ、中でもHA及びCSが好ましい。また、GAGが有するカルボキシ基等の酸性官能基は、塩を形成していない遊離状態であっても、薬学的に許容されうる塩を形成している状態であっても構わない。
【0017】
薬学的に許容されうる塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属イオンとの塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属イオンとの塩が挙げられる。なかでも生体への適合性及び親和性の観点から、薬学的に許容されるアルカリ金属イオンとの塩が好ましく、ナトリウム塩がより好ましい。
GAGの重量平均分子量は特に限定されず、目的等に応じ適宜選択することができる。GAGの重量平均分子量としては、500Da~1000万Da又は4万Da~500万Daが例示できる。GAGの重量平均分子量は、光散乱法により測定することができる。
【0018】
GAG誘導体を構成するGAGは、その種類に応じ、公知の方法で製造することができる。このような方法として、例えば、動物由来原料からの抽出精製、GAG産生菌等からの培養精製、糖鎖修飾、糖鎖合成などを挙げることができる。
【0019】
疎水基導入GAGにおける「GAGに由来する基」とは、GAGが有するカルボキシ基からヒドロキシ基が取り除かれて形成される基、GAGが有するヒドロキシ基等から水素原子が取り除かれて形成される基等である。
疎水基導入GAGにおける「疎水基」は特に限定されず、胆汁酸であるコール酸、リトコール酸、デオキシコール酸、これらの基本骨格であるコラン酸等の脂環式化合物に由来する基、ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸に由来する基が例示され、これらから選択される少なくとも1種が好ましく、脂環式化合物に由来する基がより好ましく、コラン酸、中でも5β-コラン酸に由来する基が更に好ましい。ここで「脂環式化合物に由来する基」とは、脂環式化合物から水素原子又はヒドロキシ基が取り除かれて形成される基であり、「脂肪酸に由来する基」とは脂肪酸からヒドロキシ基が取り除かれて形成される基である。
また、疎水基のGAGへの導入率は特に限定されず、目的等に応じて適宜選択することができ、例えば、0.1~80mol%が例示できる。
【0020】
疎水基導入GAGは、GAGに由来する基がスペーサー基を介して疎水基と共有結合していてもよい。
「スペーサー基」とは2つの基を共有結合で連結し得る2価の基であり、具体的には、
-NH-(CH-NH-、-C(=O)-(CH-NH-、
-C(=O)-(CH-C(=O)-、-NH-(CH-O-、
-NH-CH-(OCH-NH-、-NH-CH-(OCH-O-、
-C(=O)-CH-(OCH-NH-、
-C(=O)-CH-(OCH-(C=O)-、
-C(=O)-(CH-O-、-C(=O)-CH-(OCH-O-などが例示でき、これらから選択される少なくとも1種が好ましく、下式:
-NH-(CH-NH- (I)
-C(=O)-(CH-NH- (II)又は
-NH-(CH-O- (III)
で表される基がより好ましい。ここで、mは互いに独立して2~12の整数を表し、2~5が好ましく、2が特に好ましい。
【0021】
なお、スペーサー基は直鎖に限定されず、スペーサー基に含まれるメチレン基にアルキル基、アリール基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子などの置換基を有してもよい。またメチレン基の少なくとも一部が酸素原子、アリール基などに置き換えられたものでもよい。
【0022】
疎水基導入GAGは、GAGと、疎水基を形成する化合物と、必要に応じて用いられるスペーサー基を形成する化合物とを、縮合剤等を用いて結合させる通常の方法で製造することができる。
【0023】
GAG架橋体は、例えば架橋性基を2つ有する架橋性化合物を用いて、GAGが有するカルボキシ基やヒドロキシ基の少なくとも一方を、架橋性基を介して互いに共有結合させることで形成できる。架橋性化合物としては光反応性基、重合性官能基、アミノ基又はチオール基を有する化合物が例示され、好ましくは光反応性基又は重合性官能基を有する化合物である。GAGの架橋方法としては、例えば下記の4つのカテゴリーを挙げることができるが、その方法は限定されない。
(a)ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドのようなアルデヒド架橋剤による架橋。
(b)GAGが有するカルボキシ基とGAGが有するヒドロキシ基とによる、架橋性基を用いない自己架橋。
(c)ジエポキシド化合物、ジビニルスルホン、ジアミン化合物、ジヒドラジド化合物などのホモ二官能性架橋剤や、エピハロヒドリンなどのヘテロ二官能性架橋剤による架橋。
(d)光反応性基、重合性官能基、アミノ基、チオール基、ハロゲン原子などの官能基が導入されたGAGと、上記官能基に対して相補的な反応性基が導入されたGAGや該反応性基を2つ有する架橋剤とを反応させることによる架橋。
【0024】
これらの中でも(d)の架橋によるGAG架橋体が好ましく、光反応性基が導入されたGAGを光架橋させたGAG誘導体、重合性官能基が導入されたGAGを、チオール基を2つ有する架橋剤で架橋させたGAG架橋体等がより好ましい。
【0025】
この光反応性基としては、桂皮酸に由来する基等が例示される。このような光反応性基はスペーサー基を介してGAGに由来する基と結合していてもよく、上式(I)、(II)又は(III)で表されるスペーサー基を介して、桂皮酸に由来する基がGAGに共有結合していることが好ましい。重合性官能基としては、(メタ)アクリル酸に由来する基等が例示され、これらの重合性官能基はスペーサー基を介してGAGに由来する基と結合していてもよく、上式(I)、(II)又は(III)で表されるスペーサー基を介して、(メタ)アクリル酸に由来する基がGAGに共有結合していることが好ましい。重合性官能基に相補的な反応性基としては例えば、チオール基等が挙げられ、チオール基を2つ有する架橋剤としてはチオール‐PEG‐チオール等が例示される。
【0026】
GAG架橋体における架橋性基の含有量は特に制限されず、目的等に応じて適宜選択される。
【0027】
「GAGに由来する基とスペーサー基とを含む化合物」は、GAGに由来する基にスペーサー基の一端が共有結合してなる化合物である。組成物が該化合物を含む場合、スペーサー基の他端にはケモカイン受容体活性調節材に由来する基が共有結合していることが好ましい。GAGに由来する基及びスペーサー基については既述のとおりであり、ケモカイン受容体活性調節材に由来する基は、後述するケモカイン受容体活性調節材から水素原子又はヒドロキシ基が取り除かれて形成される基である。
GAGに由来する基とスペーサー基とを含む化合物におけるスペーサー基の含有量は特に制限されず、目的等に応じて適宜選択される。
【0028】
「ケモカイン受容体活性調節材」とは、ケモカイン受容体又はケモカイン受容体に結合する物質に作用し、ケモカイン受容体を介するシグナル伝達を調節(抑制又は亢進)する化合物(薬剤)であり、例えば、ケモカイン受容体阻害剤、抗ケモカイン抗体、ケモカイン受容体作動剤などが挙げられる。ケモカイン受容体を介するシグナル伝達を抑制する薬剤としては、例えば、ケモカイン受容体拮抗剤としてケモカイン受容体を競合阻害若しくは非競合阻害する薬剤等が挙げられ、その中でも、CCR3拮抗剤、CXC受容体(CXCR)2拮抗剤、CCR2拮抗剤等が好ましい。ケモカイン受容体を介するシグナル伝達を亢進する薬剤としては、ケモカイン受容体作動剤としてケモカイン受容体に作用し、その作用を増強させる薬剤等が挙げられ、例えば、CXCR3作動剤等が好ましい。
【0029】
具体的には、CCR3拮抗剤として、Ki19003(例えば、国際公開02/059081号参照)、SB328437(例えば、Journal of Biological Chemistry,2000,275(47),36626-31.参照)、GW766994(例えば、国際公開03/082292号参照)、AZD3778(例えば、国際公開03/004487号参照)等が例示され、CXCR2拮抗剤としては、SB225002(例えば、Bioorganic & Medicinal Chemistry, 2009, 17(23), 8102-8112.参照)が例示される。CCR2拮抗剤として、RS504393(例えば、J. Biol. Chem., 2000, 275(33)参照)が例示される。CXCR3作動剤として、PS372424(例えば、Biochem. Biophys. Res. Commun., 2006,349(1), 221-8参照)が例示される。なかでも、CCR3拮抗剤を用いることが特に好ましい。以下にケモカイン受容体活性調節材の具体例を構造式で示すが、本発明に用いるケモカイン受容体活性調節材はこれらの化合物に限定されない。
【0030】
【化1】
【0031】
このようなケモカイン受容体活性調節材は、塩(例えば薬学的に許容される塩)を形成していてもよい。塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸水素塩、リン酸水素塩、メタンスルホン酸塩、硝酸塩、マレイン酸水素塩、酢酸塩、クエン酸水素塩、フマル酸水素塩、酒石酸水素塩、シュウ酸水素塩、コハク酸水素塩、安息香酸塩、p-トルエンスルホン酸塩などが例示される。
【0032】
ケモカイン受容体活性調節材は、GAG誘導体と物理的相互作用によって複合化した複合物として組成物に含まれていてもよい。疎水基導入GAGやGAG架橋体などのGAG誘導体と、ケモカイン受容体活性調節材とを含む複合物は、投与に伴う急激な組織変性を抑制できると共に、優れたケモカイン受容体活性調節作用や、AMDなどの後眼部疾患等に対する優れた薬効を示す。
【0033】
またケモカイン受容体活性調節材とGAG誘導体とが化学結合により複合物を形成していてもよく、中でもGAGに由来する基がスペーサー基を介してケモカイン受容体活性調節材に由来する基と共有結合した共有結合物が好ましい。中でも、GAGのカルボキシ基と、ケモカイン受容体活性調節材が有するカルボキシ基とが下式(III)で表されるスペーサー基を介して共有結合した共有結合物であることが好ましく、GAGのカルボキシ基が式(III)のスペーサー基とアミド結合を形成している共有結合物であることが特に好ましい。
-NH-(CH-O- (III)
式中、mは2~12の整数を示し、2~5が好ましく、2がより好ましい。
【0034】
前記共有結合物における、ケモカイン受容体活性調節材に由来する基とスペーサー基との間の共有結合形式も特に限定されず、例えばエステル結合が例示できる。
前記共有結合物の調製方法、ケモカイン受容体活性調節材の導入率等は特に制限されず、目的等に応じて適宜選択することができる。
本発明の組成物では、従来、単剤では薬効を示さないような低濃度であっても硝子体内投与のために可溶化剤に溶解せざるを得なかったケモカイン受容体活性調節材についても、可溶化剤を用いずに、また用いたとしてもごく少量に留めて硝子体内投与することもできる。
ここで本願明細書にいう「可溶化剤」とは、難水溶性のケモカイン受容体活性調節材を溶解できるものであれば特に限定されず、例えば、DMSO等の有機溶剤、ポリソルベート80、マクロゴール400、シクロデキストリンなどが例示される。
本発明の組成物は、このような可溶化剤(例えば、有機溶剤)の含有量が10重量%以下であることが好ましく、実質的に含有しないものがより好ましい。
また、本発明の組成物は、眼内へ投与した際に、眼内出血悪化を起こさないものであることが好ましい。眼内出血悪化の有無は後述する実施例の方法により確認できる。
【0035】
(2)組成物の製造方法
本発明の組成物の実施形態として、例えば、GAG誘導体とケモカイン受容体活性調節材とが混合されたものや、GAG誘導体とケモカイン受容体活性調節材とが共有結合してなる共有結合物を挙げることができる。この場合の混合方法や、共有結合方法も特に限定されない。例えば、混合方法としては、GAG誘導体のPBS溶液とエタノール等の溶媒に溶解したケモカイン受容体活性調節材とを撹拌混合する方法が例示できる。また、例えば、共有結合方法としては、GAG誘導体(好ましくは、スペーサー基を含むGAG誘導体)の官能基にケモカイン受容体活性調節材をアミド結合、エステル結合、又はエーテル結合させる方法などが挙げられる。その後、必要に応じて透析、沈殿、凍結乾燥、濃縮乾固等させてもよい。
【0036】
(2-1)疎水基導入GAGとケモカイン受容体活性調節材とを含む組成物の製造方法
(2-1-1)疎水基導入GAGの製造方法
疎水基導入GAGは、例えば、GAG分子が有する官能基(例えば、カルボキシ基)と、疎水基が有する官能基(カルボキシ基)とをスペーサー基を介して共有結合させることで得ることができる。以下、疎水基導入GAGの製造方法の一例として、疎水基を形成する化合物が5β‐コラン酸である場合について説明するが、これに限定されるものではない。GAGに由来する基と5β-コラン酸に由来する基とをスペーサーを介して共有結合してなる疎水基導入GAGは、例えば以下のステップを含む方法で製造することができる。
【0037】
(A)5β-コラン酸が有するカルボキシ基をスペーサー形成分子のアミノ基と縮合して共有結合(アミド結合)させることと、
(B)GAGが有するカルボキシ基をスペーサー形成分子のアミノ基と縮合して共有結合(アミド結合)させることと、を含む製造方法。
【0038】
(A)のステップでは、5β-コラン酸が有するカルボキシ基とスペーサー形成分子のアミノ基とを縮合して共有結合させる。このときスペーサー形成分子のGAGと反応する予定のアミノ基は、必要に応じて通常用いられる方法で保護しておいてもよい。
(B)のステップでは、GAGが有するカルボキシ基とスペーサー形成分子のアミノ基とを縮合して共有結合させる。
GAG誘導体の製造方法は(A)のステップと(B)のステップとを含んでいればよく、ステップが実行される順番は限定されない。
【0039】
なお、スペーサー形成分子としては、下式で表される化合物を挙げることができる。
N-(CH-NH
式中、mは1~12の整数を表し、2~5が好ましく、2がより好ましい。
【0040】
疎水基導入GAGの製造に用いられる縮合(エステル化、アミド化)方法は、通常用いられる方法から適宜選択すればよい。例えば、水溶性カルボジイミド(例えば、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミドハイドロクロライド(WSC))、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロライド含水和物(DMT-MM)、ジシクロヘキシルカルボジイミド等の縮合剤を用いる方法、対称酸無水物法、混合酸無水物法、活性エステル法などの方法を挙げることができる。縮合反応条件は適用する縮合反応に応じて適宜選択される。
縮合反応において用いる溶媒としては、例えば、水、DMSO、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトニトリル、DMF、THF、ホルムアミド、およびこれらの混合溶媒を挙げることができ、好ましくはエタノールと水の混合溶媒及びDMFとホルムアミドの混合溶媒である。
【0041】
(2-1-2)疎水基導入GAGとケモカイン受容体活性調節材の混合方法
疎水基導入GAGのPBS溶液と、例えばエタノールに溶解したケモカイン受容体活性調節材とを混合後、透析・凍結乾燥して得ることができる。混合方法、透析・凍結乾燥方法については限定されず、通常用いられる方法から適宜選択することができる。
【0042】
(2-2)GAG架橋体とケモカイン受容体活性調節材とを含む組成物の製造方法1
(2-2-1)GAG架橋体の製造方法
GAG架橋体の一例として、例えば、特開2002-249501号公報に記載の方法により光架橋性GAGを調製することができる。具体的には、光反応性基(例えば桂皮酸誘導体)をGAGのカルボキシ基に縮合反応で導入することにより、光反応架橋性GAGを得ることができる。得られる光架橋性GAGを、光反応に付することによりGAG架橋体を製造できる。
【0043】
(2-2-2)GAG架橋体とケモカイン受容体活性調節材との混合方法
上記で得られるGAG架橋体の水溶液にケモカイン受容体活性調節材を撹拌混合することにより、目的とする組成物を調製することができる。
【0044】
(2-3)GAG架橋体とケモカイン受容体活性調節材とを含む組成物の製造方法2
(2-3-1)GAG架橋前駆体の製造方法
例えば後述する実施例に記載される方法により、GAGのカルボキシ基にメタクリル基を、必要に応じてスペーサー基を介して導入することで、GAG架橋前駆体を調製することができる。得られるGAG架橋前駆体は例えば、チオール‐PEG‐チオールと反応させることで架橋体を生成することができるが、この化合物に限定されない。
【0045】
(2-3-2)組成物の製造方法
上記で得られるGAG架橋前駆体にケモカイン受容体活性調節材を混合し、さらにチオール‐PEG‐チオール等の架橋剤で架橋反応を行うなどの方法により、所望の組成物を得ることができる。
【0046】
(2-4)GAG誘導体とケモカイン受容体活性調節材との共有結合物の製造方法3
ケモカイン受容体活性調節材が共有結合したGAG誘導体は、GAGが有する官能基(例えば、カルボキシ基)と、ケモカイン受容体活性調節材が有する官能基(例えば、カルボキシ基)とをスペーサー基を介して共有結合させることで得ることができる。
【0047】
(2-4-1)ケモカイン受容体活性調節材が共有結合されたGAGの製造方法
GAGに由来する基とケモカイン受容体活性調節材に由来する基とをスペーサーを介して共有結合してなるGAG誘導体は、例えば以下のステップを含む方法で製造することができる。
(A)ケモカイン受容体活性調節材が有するカルボキシ基をスペーサー形成分子のヒドロキシ基と縮合して共有結合(エステル結合)させることと、
(B)GAGが有するカルボキシ基をスペーサー形成分子のアミノ基と縮合して共有結合(アミド結合)させることと、を含む製造方法。
【0048】
(A)のステップでは、ケモカイン受容体活性調節材が有するカルボキシ基とスペーサー形成分子のヒドロキシ基とを縮合して共有結合させる。このときスペーサー形成分子のGAGと反応する予定のアミノ基は、必要に応じて通常用いられる方法で保護しておいてもよい。
(B)のステップではGAGが有するカルボキシ基とスペーサー形成分子のアミノ基とを縮合して共有結合させる。
GAG誘導体の製造方法は(A)のステップと(B)のステップとを含んでいればよく、ステップが実行される順番は限定されない。
【0049】
なお、スペーサー形成分子としては下式で表される化合物を挙げることができる。
HO-(CH-NH
式中、mは1~12の整数を表し、2~5が好ましく、2がより好ましい。
また縮合(エステル化、アミド化)方法は、通常用いられる方法から適宜選択すればよい。
【0050】
GAG誘導体は、種々の構造をとり得る。GAG誘導体の構造の具体例としては、例えばCS誘導体の場合、下記化学式(IVa)、HA誘導体の場合下記化学式(Va)で表される少なくとも1種の構造単位を、少なくとも1個を含む構造を例示することができる。
【0051】
【化2】
【0052】
12又はR13で表される基は、式中の*の位置でGAGに由来するカルボニル基と共有結合で結合する。
【0053】
GAG誘導体とケモカイン受容体活性調節材との共有結合物の構造の具体例としては、例えばCS誘導体の場合は下記化学式(IVb)、HA誘導体の場合は下記化学式(Vb)で表される少なくとも1種の構造単位を、少なくとも1個を含む構造を例示することができる。
【0054】
【化3】
【0055】
22又はR23で表される基は、式中の*の位置でGAGに由来するカルボニル基と共有結合で結合する。
【0056】
(3)医薬組成物
本発明の医薬組成物は、前記組成物を含み、必要に応じて、薬学的に許容される賦形剤等その他の成分を更に含んでいてもよい。その他の成分としては、薬学的に許容される賦形剤の他、界面活性剤、安定化剤、液状媒体等を挙げることができる。
医薬組成物の用途は特に制限されないが、例えば、後眼部疾患処置に用いられることが好ましい。
【0057】
(4)後眼部疾患処置剤
後眼部疾患処置剤は、前記組成物を含む医薬組成物であって、後眼部疾患の処置に用いられる。
本明細書において用いられる「処置」とは、疾患について施される何らかの処置であればよく、例えば、疾患の治療、改善及び進行の抑制(悪化の防止)が挙げられる。
【0058】
後眼部疾患処置剤の形態は、ヒトの眼に投与可能な製剤ないし医薬の形態である限りにおいて特に限定されない。投与時における形態が液体であることが好ましく、例えば溶液や懸濁液等の形態が挙げられる。溶液や懸濁液は、前記組成物の粉体を用時溶解して調製することにより、投与することもできる。
【0059】
後眼部疾患処置剤の投与量としては、例えば液体の場合、硝子体内投与であれば10~1000μL程度が例示できる。
また、液体の場合の後眼部疾患処置剤の濃度は、ケモカイン受容体活性調節材として、0.001~5重量%、GAG誘導体としては、0.01~10重量%を例示できる。
【0060】
後眼部疾患処置剤の投与方法としては、例えば、硝子体内投与、結膜下投与、結膜嚢投与、テノン嚢下投与、点眼投与、眼内に留置したデバイスへの投与等を挙げることができるが、硝子体内投与が好ましい。硝子体内投与の中でも、硝子体内注射であることが最も好ましい。
後眼部疾患処置剤の投与頻度は、病態や薬剤の濃度等に応じて適宜設定すればよい。あるいは、病態悪化時に必要に応じ投与することができるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
後眼部疾患処置剤は、後眼部疾患の処置に適用することを目的とする。ここで「後眼部疾患」とは、新生血管に起因または血管新生を呈する病態へ進展する後眼部で起こる疾患その他の何らかの異常を意味し、例えば、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜動脈閉塞症、網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)、未熟児網膜症、中心性漿液性脈絡網膜症、中心性滲出性脈絡網膜症、新生血管黄斑症、AMD(CNV病変を有する滲出型AMDとCNV発症のリスクを有するならびに/または滲出型AMDへ移行する萎縮型AMD)などが含まれる。これらのなかでも、本発明の後眼部疾患処置剤のより好ましい適応疾患はAMD、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫であり、特に好ましい適応疾患は滲出型AMDである。
【0062】
後眼部疾患処置剤の態様としては、例えば、眼内出血悪化を引き起こさず、可溶化剤の含有量が10重量%以下である液剤;眼内出血悪化を引き起こさず、GAG架橋体及びケモカイン受容体活性調節材を含んでなる液剤;眼内出血悪化を引き起こさず、可溶化剤の含有量が10重量%以下であり、GAG架橋体及びケモカイン受容体活性調節材を含んでなる液剤;眼内出血悪化を引き起こさず、光架橋HA及びケモカイン受容体拮抗剤を含んでなる液剤;眼内出血悪化を引き起こさず、可溶化剤の含有量が10重量%以下であり、光架橋HA及びケモカイン受容体拮抗剤を含んでなる液剤;眼内出血悪化を引き起こさず、疎水性基導入GAG及びケモカイン受容体活性調節材を含んでなる液剤;眼内出血悪化を引き起こさず、可溶化剤の含有量が10重量%以下であり、疎水性基導入GAG及びケモカイン受容体活性調節材を含んでなる液剤;眼内出血悪化を引き起こさず、疎水性基導入CS及びケモカイン受容体拮抗剤を含んでなる液剤;眼内出血悪化を引き起こさず、可溶化剤の含有量が10重量%以下であり、疎水性基導入CS及びケモカイン受容体拮抗剤を含んでなる液剤;眼内出血悪化を引き起こさず、コラン酸に由来する基が導入されたCS及びCCR3阻害剤を含んでなる液剤;眼内出血悪化を引き起こさず、可溶化剤の含有量が10重量%以下であり、コラン酸に由来する基が導入されたCS及びCCR3阻害剤を含んでなる液剤;等が挙げられる。これらの態様の後眼部疾患処置剤は、ヒトの眼の硝子体内に注射により投与されることを特徴とする滲出型AMD進行抑制剤として用いることができる。
【0063】
(5)後眼部疾患の処置方法
後眼部疾患の処置方法は、後眼部疾患処置剤を眼内投与するステップを含む。後眼部疾患の処置方法は必要に応じ他のステップを更に含んでいてもよい。後眼部疾患の処置方法は、前記(4)後眼部疾患処置剤における説明に従って同様に実施でき、好ましい処置剤の条件・投与頻度等は、前記と同様である。
【実施例0064】
以下、本発明の実施例及び試験例をより具体的に詳説する。しかしながら、これにより本発明の技術的範囲が制限されるものではない。なお、組成物内のGAG置換基及びケモカイン受容体活性調節材の含量は後述の方法により測定した。またGAGの分子量は重量平均分子量である。
【0065】
(1)GAG誘導体及び組成物の調製
(実施例1)アミノエチル5β-コラノアミドの合成
5β-コラン酸(1g、アルドリッチ社製)にメタノール(5ml)、濃塩酸(0.18ml)を加え、60℃で6時間撹拌後、反応液を室温まで冷却して析出した固体をろ取した。得られた化合物にエチレンジアミン(5ml、和光純薬工業社製)を加え、130℃で5時間撹拌し、LCMSで目的物を確認後、室温に戻し得られた固体をろ取し、蒸留水で洗浄した後乾燥して、化合物1を得た(895mg)。
ESI-MS; Calcd for C267H3746N2O [M+H]+, 404; found 404
【0066】
(実施例2)5β-コラン酸導入HAの合成
HA(平均分子量約21万、Lifecore Biomedical社製、500mg)にホルムアミド(40ml)を加えて40℃で2時間加熱撹拌することにより溶解させ、WSC(和光純薬工業株式会社製、205mg)、N-ヒドロキシスクシンイミド(渡辺化学工業株式会社製、123mg)を加え撹拌した。そこに化合物1(96mg)のDMF溶液(10ml)を加え、さらにDMF(30ml)を加えて室温で24時間撹拌した。反応液を透析膜(スペクトラ/ポア RC バイオテックメンブレン MWCO 8-10kDa、フナコシ社より購入)に入れ、メタノール:蒸留水(3:1)、メタノール:蒸留水(1:1)、蒸留水の順で三日間透析を行った。透析液を回収し陽イオン交換樹脂(DOWEXTM 50Wx8 50-100,2g,ワコーケミカル社製)を加えて30分間撹拌した。反応液をろ過し、凍結乾燥して化合物2(590mg)を得た。なお、5β-コラン酸の導入率は4.7mol%であった。
【0067】
(実施例3)5β-コラン酸導入CSの合成
CS(平均分子量約4万、生化学工業社製、500mg)を用い実施例2の方法に準じて反応を行い、化合物3(490mg)を得た。なお、5β-コラン酸の導入率は10.0mol%であった。動物投与用薬液については、凍結乾燥品をPBSで10mg/mlになるように溶解し、0.22μmフィルターでろ過することにより調製した。
【0068】
(実施例4)Ki19003含有HA誘導体の調製
Ki19003(国際公開02/059081A2に準じて合成、35mg)をエタノール(2ml)に溶解し、実施例2で合成した化合物2(40mg)のPBS(8ml,pH7.4)溶液を加えて溶解後、混合撹拌し、蒸留水で7時間透析(スペクトラ/ポア RC バイオテックメンブレン MWCO 3.5-5kDa、スペクトラム・ラボラトリーズ社製)した。透析液を回収後0.45μmフィルターでろ過し、凍結乾燥することにより組成物4(35mg)を得た。Ki19003含有率は14.0重量%であった。得られた組成物4をPBSで3mg/mlになるように溶解し、0.22μmフィルターでろ過することにより調製し、動物投与用試料とした。
【0069】
(実施例5)Ki19003含有CS誘導体の調製
実施例3で合成した化合物3(35mg)のPBS(8ml,pH7.4)溶液を用いて、実施例4の方法に準じて反応を行い、組成物5(33mg)を得た。Ki19003含有率は22.0wt%であった。得られた組成物5をPBSで3mg/mlになるように溶解し、0.22μmフィルターでろ過することにより調製し、動物投与用試料とした。
【0070】
(実施例6)GW766994含有HA誘導体の調製
GW766994(国際公開03/082292A1に準じて合成、30mg)をエタノール(2ml)に溶解し、実施例2で合成した化合物2(40mg)のPBS(8ml,pH7.4)溶液を加えて分散し、得られた分散液を蒸留水で7時間透析(スペクトラ/ポア RCバイオテックメンブレン, MWCO 3.5-5kDa)した。透析液を回収後0.45μmフィルターでろ過し、凍結乾燥することにより組成物6(35mg)を得た。GW766994含有率は23.5重量%であった。得られた組成物6をPBSで3mg/mlになるように溶解し、0.22μmフィルターでろ過することにより調製し、動物投与用試料とした。
【0071】
(実施例7)GW766994含有CS誘導体の調製(1)
実施例3で合成した化合物3(35mg)のPBS(8ml,pH7.4)溶液を用いて、実施例6の方法に準じて反応を行い、組成物7(31mg)を得た。GW766994含有率は27.7重量%であった。得られた組成物7をPBSで3mg/mlになるように溶解し、0.22μmフィルターでろ過することにより調製し、動物投与用試料とした。
【0072】
(実施例8)GW766994含有CS誘導体の調製(2)
GW766994(12mg)をエタノール(2ml)に溶解し、実施例3で合成した化合物3(60mg)のPBS(8ml,pH7.4)溶液を加えて、混合撹拌した。混合液を蒸留水で7時間透析(Slide-A-Lyzer, MWCO 3.5kDa、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を行った。透析液を回収し0.22μmフィルターろ過し、凍結乾燥することにより組成物8(40mg)を得た。GW766994含有率は9.4重量%であった。得られた組成物8をPBSで10mg/mlになるように溶解することにより調製し、動物投与用試料とした。
【0073】
(実施例9)2-アミノエチルエステル化されたKi19003の合成
Ki19003(190mg)を塩化メチレン(2ml)に溶解し、ジメチルアミノピリジン(和光純薬工業株式会社製、13mg)、WSC(和光純薬工業社製、206mg)、N-Boc-エタノールアミン(和光純薬工業社製、174mg)を加え、窒素雰囲気下室温で3時間撹拌した。LCMSにて反応終了を確認後、反応液を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで脱水、ろ過、濃縮し、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:2)で精製し、白色固体(81mg)を得た。これに4M HCl/AcOEt(10ml、国産化学工業社製)を加え、室温で1時間撹拌した。LCMSで目的物を確認後、反応液を濃縮して化合物9(71mg)を得た。
ESI-MS; Calcd for C27H37Cl3N4O3 [M+H]+, 573; found 573
【0074】
(実施例10)Ki19003導入CSの合成
CS(平均分子量約4万、生化学工業社製、270mg)に蒸留水(4ml)を加えて30分間撹拌し、溶解させた。化合物9(64mg)のエタノール溶液(4ml)を加え、さらにDMT-MM(和光純薬工業社製、47mg)を加えて室温で一晩撹拌した。反応液に食塩(270mg)を加え、エタノール(40ml)の中に滴下した。析出した白色固体をろ取し、90%エタノール水で3回洗浄し、真空ポンプで終夜乾燥して化合物10(281mg、導入率18.0重量%)を得た。得られた化合物10をPBSで3mg/mlになるように溶解し、再度0.22μmフィルターでろ過することにより組成物10を得た。これを動物投与用試料とした。
【0075】
(実施例11)Ki19003導入CSの合成2
CS(平均分子量約15万、生化学工業社製、150mg)を実施例10に記載の方法に準じて反応を行った。反応液に食塩(150mg)を加え、エタノール(40ml)の中に滴下した。析出した白色固体をろ取し、90%エタノール水で3回洗浄し、真空ポンプで終夜乾燥して白色固体を得た。得られた固体を蒸留水に溶解し、0.22μmフィルターでろ過し、凍結乾燥することにより化合物11(91mg、導入率5.3重量%)を得た。得られた化合物11をPBSで10mg/mlになるように溶解することにより組成物11を得た。これを動物投与用試料とした。
【0076】
(実施例12)2―アミノエチルメタクリレート塩酸塩の合成
N-Boc-エタノールアミン(15.5g、東京化成工業社製)とジイソプロピルエチルアミン(25.2mL、東京化成工業社製)の塩化メチレン(180mL)溶液に、アルゴン雰囲気下、-78℃下でメタクリロイルクロリド(10.5mL、東京化成工業社製)を3分間かけて滴下し1時間撹拌した。その後、室温下で14時間撹拌した。反応液を水洗し、塩化メチレンで抽出後、硫酸ナトリウムで乾燥した。固体をろ過で除去後、濃縮して得た油状物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)にて精製した。得られた黄色固体をジエチルエーテルとヘキサンで洗浄してN-Boc化されたエステル体(12.3g)を白色固体として得た。
1H-NMR (CDCl3) δ6.71 (1H, br-s), 5.75 (1H, s), 5.33-5.33 (1H, m), 4.96 )1H, br-s), 3.40-3.43 (2H, m), 3.32-3.35 (2H, m), 1.96-1.96 (3H, m), 1.44 (9H, s)
この固体に4M HCl/Dioxane(120mL、国産化学工業社製)を加えて室温下、3時間撹拌した。反応液を濃縮し、析出した固体をヘキサンで洗浄した。室温下で減圧乾燥し、化合物12(8.83g)を白色固体として得た。
1H-NMR (D2O) δ5.73 (1H, s), 5.47 (1H, s), 3.15 (2H, t, J=6.0 Hz), 2.54 (2H, t, J=6.0 Hz), 1.90 (3H, s)
【0077】
(実施例13)メタクリル基導入CSの合成
CS(平均分子量約4万、生化学工業社製、4.03g)を脱イオン水(120mL)に溶解させ、室温下、化合物12(0.23g)、DMT-MM(0.36g)を順次加えて、18時間撹拌した。
反応液に重曹(3.0g)を加えて30分間撹拌した後、酢酸でpH7.0に中和した。30分間撹拌した後、食塩(12.0g)を加えて30分間撹拌した。90%エタノール(240mL)を加えて30分間撹拌した後、上澄み液を廃棄した。再度90%エタノール(240mL)を加えて30分間撹拌後、上澄み液を廃棄した。この操作をさらに2回実施後、固体を蒸留水で終夜透析(セルロースチューブ 36/32,MWCO 10kDa、エーディア社製)した。凍結乾燥して化合物13(4.34g)を白色固体として得た。導入率は9.5mol%であった。
【0078】
(実施例14)SB328437含有CS誘導体の調製1
化合物13(50.0mg)とSB328437(2.0mg、Journal of Biological Chemistry,2000,275(47),36626-31.に従って合成)にチオール‐PEG‐チオール(分子量3400、Laysan Bio社製)のsaline溶液(0.2mg/mL)を65μL加えた後、salineを135μL加えた。1分間撹拌後、48時間静置してゲル状化合物を得た。ゲル状化合物をsaline(3mL)の中に加えた後、24時間静置した。先端部で2本を連結させた滅菌シリンジにゲル状化合物のみを移し、プランジャーをシリンジバレルに挿入した。シリンジ内部の空気を除いた後、プランジャーを交互に30回押したゲル状化合物を一方のシリンジに移し、組成物14を得た。これを動物投与用試料とした。
【0079】
(実施例15)SB328437含有CS誘導体の調製2
実施例14における、チオール‐PEG‐チオールのsaline溶液(0.2mg/mL)の添加量を100μL、その後のsaline添加量を100μLとして反応を行い、同様に合成して組成物15を得た。これを動物投与用試料とした。
【0080】
(実施例16)SB328437含有CS誘導体の調製3
実施例14における、チオール‐PEG‐チオールのsaline溶液(0.2mg/mL)の添加量を200μLとして反応を行い、同様に合成して組成物16を得た。これを動物投与用試料とした。
【0081】
(実施例17)アミノエチルオレイン酸アミドの合成
オレイン酸(500mg、東京化成工業社製)をジメチルホルムアミド(8ml、和光純薬工業社製)に溶解し、トリエチルアミン(和光純薬工業社製、0.49ml)、WSC(和光純薬工業社製、408mg)、HOBT(国産化学社製、406mg)、N-Boc-ジエチルアミン(和光純薬工業社製、312mg)を加え、窒素雰囲気下室温で3時間撹拌した。LCMSにて反応終了を確認後、反応液に酢酸エチルを加え、有機層を飽和重層水、飽和塩化アンモニウム水、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで脱水、ろ過、濃縮し、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で精製し、白色固体(360mg)を得た。これをメタノール(2ml、和光純薬工業社製)と4M HCl/AcOEt(10ml、国産化学工業社製)を加え、室温で一晩撹拌した。LCMSで目的物を確認後、反応液を濃縮して化合物17(250mg)を得た。
ESI-MS; Calcd for C20H40N2O [M+H]+, 325; found 325
【0082】
(実施例18)オレイン酸導入CSの合成
CS(平均分子量約4万、生化学工業社製、500mg)に蒸留水(20ml)を加えて30分間撹拌し、溶解させた。化合物17(36mg)のエタノール溶液(20ml)を加え、さらにDMT-MM(トクヤマ社製、55mg)を加えて室温で一晩撹拌した。反応液に1規定水酸化ナトリウム水溶液(2.5mL)を加えて30分間撹拌し、反応液の全量を透析膜(Slide-A-Lyzer G2、MWCO10K、30mL、フナコシ社より購入)に入れ、エタノール:蒸留水(1:1)、蒸留水の順で二日間透析を行った。透析液を回収し陽イオン交換樹脂(DOWEXTM 50Wx8 50-100,2g,ワコーケミカル社製)を加えて30分間撹拌した。反応液をろ過し、凍結乾燥して化合物18(277mg)を得た。なお、5β-オレイン酸の導入率は10.3mol%であった。
【0083】
(実施例19)GW766994含有オレイン酸導入CSの合成
GW766994(15mg)をエタノール(2ml)に溶解し、実施例18で合成した化合物18(90mg)のPBS(9ml,pH7.4)溶液を加えて混合し、得られた液を蒸留水で7時間、透析(Slide-A-Lyzer G2、MWCO3.5K、15mL、フナコシ社より購入)した。透析液を回収後0.22μmフィルターでろ過し、凍結乾燥することにより組成物19(75mg)を得た。GW766994含有率は8.62重量%であった。得られた組成物19をPBSで10mg/mlになるように溶解し、0.22μmフィルターでろ過することにより調製し、動物投与用試料とした。
【0084】
(実施例20)アミノエチルリトコール酸アミドの合成
リトコール酸(500mg、東京化成工業社製)をジメチルホルムアミド(8ml、和光純薬工業社製)に溶解し、WSC(和光純薬工業社製、305mg)、HOBT(国産化学社製、304mg)、N-Boc-ジエチルアミン(和光純薬工業社製、254mg)を加え、窒素雰囲気下室温で3時間撹拌した。LCMSにて反応終了を確認後、反応液に酢酸エチルを加え、有機層を飽和重層水、飽和塩化アンモニウム水、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで脱水、ろ過、濃縮し、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で精製し、白色固体(310mg)を得た。これをTHF(2ml、和光純薬工業社製)と4M HCl/AcOEt(10ml、国産化学工業社製)を加え、45度で1時間撹拌した。LCMSで目的物を確認後、反応液を濃縮して化合物20(305mg)を得た。
ESI-MS; Calcd for C26H46N2O2[M+H]+, 419; found 419
【0085】
(実施例21)リトコール酸導入CSの合成
CS(平均分子量約4万、生化学工業社製、400mg)に蒸留水(18ml)を加えて30分間撹拌し、溶解させた。化合物20(36mg)のエタノール溶液(18ml)を加え、さらにDMT-MM(トクヤマ社製、55mg)を加えて室温で一晩撹拌した。反応液に1規定水酸化ナトリウム水溶液(2.0mL)を加えて30分間撹拌し、反応液の全量を透析膜(Slide-A-Lyzer G2、MWCO10K、30mL、フナコシ社より購入)に入れ、エタノール:蒸留水(1:1)、蒸留水の順で二日間透析を行った。透析液を回収し陽イオン交換樹脂(DOWEXTM 50Wx8 50-100,2g,ワコーケミカル社製)を加えて30分間撹拌した。反応液をろ過し、凍結乾燥して化合物21(250mg)を得た。なお、5β-リトコール酸の導入率は10.0mol%であった。
【0086】
(実施例22)GW766994含有リトコール酸導入CSの合成
GW766994(11mg)をエタノール(2ml)に溶解し、実施例21で合成した化合物21(66mg)のPBS(6ml,pH7.4)溶液を加えて混合し、得られた液を蒸留水で7時間、透析(Slide-A-Lyzer G2、MWCO3.5K、15mL、フナコシ社より購入)した。透析液を回収後0.22μmフィルターでろ過し、凍結乾燥することにより組成物22(75mg)を得た。GW766994含有率は10.3重量%であった。得られた組成物22をPBSで10mg/mlになるように溶解し、0.22μmフィルターでろ過することにより調製し、動物投与用試料とした。
【0087】
(GAG置換基及びケモカイン受容体活性調節材の含量率の測定方法)
(A)5β‐コラン酸導入率測定法
実施例1及び2における5β-コラン酸導入率は以下のとおり測定した。
重水-重メタノール(1:1)混合溶媒中でH-NMRを測定して、下記式から算出した。
5β‐コラン酸導入率(mol%)=
(5β-コラン酸の21位メチル基由来の積分値)/(GAGのN-アセチル基由来の積分値)
【0088】
(B)メタクリル基導入率測定法
実施例13におけるメタクリル基導入率は以下のとおり測定した。
重水中でH-NMRを測定して下式から算出した。
メタクリル基導入率(mol%)=
(メタクリル基由来の積分値)/(GAGのN-アセチル基由来の積分値)
【0089】
(C)ケモカイン受容体活性調節材の含量測定法
・実施例4及び5におけるKi19003含有率測定法
分光光度計(島津製作所、UV SPECTROPHOTOMETER、測定波長220nm)を用いて検量線を作成後、測定した。薬物の含有率は下式によって算出した。
含有率(wt%)=
(組成物内のKi19003重量)/(組成物の重量)×100
【0090】
・実施例6、7及び8におけるGW766994含有率測定法
HPLCを用いて以下の条件で検量線を作成後、測定した。
Column:ODS-3,4.6x150mm,5um(GL Science社製)
Flow:0.8ml/min
Detect:225nm
Eluent:アセトニトリル:20mM酢酸アンモニウム水溶液=5:5(isocratic)
【0091】
薬物の含有率は下式によって算出した。
含有率(wt%)=
(組成物内のGW766994重量)/(組成物の重量)×100
【0092】
・実施例10及び11におけるKi19003含有率の算出方法
秤量した化合物10及び11を2M水酸化ナトリウム水溶液中37℃で2時間加温することにより加水分解したのち、遊離したKi19003を以下のHPLCの条件で検量線を作成後、測定した。
Column:ODS-3,4.6x150mm,5um(GL Science社製)
Flow:0.8ml/min
Detect:225nm
Eluent:アセトニトリル:50mMギ酸水溶液=3:7(isocratic)
含有率については下式によって算出した。
含有率(wt%)=
(化合物から遊離したKi19003重量)/(化合物の重量)×100
【0093】
(2)評価方法
(試験例1)組成物10を用いたCNV抑制作用の検証
ラットのレーザー誘発CNVモデルを作製し、組成物10あるいはKi19003の硝子体内投与による血管新生抑制作用を検討した。
【0094】
<試験物質>
Ki19003をDMSOに溶解して、Ki19003(0.6mg/mL)の溶液を得た。試験物質として、以下を使用した。
1)組成物10(0.54mg/mLのKi19003を含む)
2)Ki19003(0.6mg/mL)
3)DMSO
(組成物10は、実施例10で調製した動物投与用試料を用いた)
【0095】
<方法>
(1)レーザー誘発CNVモデル作製および試験物質投与
動物モデルにはBN/CrlCrljラット(雄性、日本チャールス・リバー株式会社)を用いた。麻酔用混合液(生理食塩液:ソムノペンチル=9:1)の腹腔内投与(約2mL/body)による全身麻酔下、ミドリンP点眼液の点眼によって両眼を散瞳させた。視神経乳頭周囲の網膜にレーザーを照射し、CNVを誘発させた。レーザー照射にはスコピゾル眼科溶液、ファンダス5.4mmレーザーレンズ、レーザー光凝固装置および細隙灯照射システムを用いた。レーザー照射直後、5μL/eyeの試験物質を両眼の硝子体内に単回投与した。投与直後、抗菌薬(ベガモックス点眼液0.5%)を一滴点眼した。
【0096】
(2)フラットマウントの作製
モデル作製後10日にCOにより安楽死させた。眼球を摘出し、10%中性緩衝ホルマリン液に浸漬した(室温、約60分間)。眼杯を作製し、PBSで洗浄、メタノールで脱水を行った後、1% bovine serum albuminと0.5% Triton X-100含有PBSに眼杯を浸した(室温、約60分間)。網膜を取り除いた後、眼杯に0.5% fluorescein griffonia simplicifolia lectin I, FITC-conjugateを60μL添加して放置した(冷蔵、一晩)。これによって、CNVの血管内皮細胞をFITC-lectinで蛍光染色した。眼杯に放射状の切り込みを8箇所入れ、フラットマウントを作製した。フラットマウントを0.1% Triton X-100含有PBSで2回洗浄した後、約120μLのProlong Gold Antifade Reagentを用いてスライドガラスに封入した。
【0097】
(3)CNV画像撮影および面積測定
蛍光顕微鏡を用いて、スライドガラスに封入したフラットマウントのCNV蛍光画像を撮影した。画像解析ソフト(Image pro exp)を用いてCNV面積を測定した。
【0098】
<統計解析>
各群のCNV面積に関して、対応のない2群の検定(t検定)により解析した。有意水準は両側5%とした。
【0099】
<試験結果>
CNV面積測定の結果を下表及び図1に示した。
組成物10はDMSOおよびKi19003に比べて有意なCNV抑制作用を示した。
【0100】
【表1】
【0101】
(試験例2)組成物11を用いたCNV抑制作用の検証1
ラットのレーザー誘発CNVモデルを作製し、組成物11あるいはKi19003の硝子体内投与による血管新生抑制作用を検討した。
【0102】
<試験物質>
Ki19003をDMSOに溶解して、Ki19003(0.53mg/mL)の溶液を得た。試験物質として、以下を使用した。
1)組成物11(0.53mg/mLのKi19003を含む)
2)Ki19003(0.53mg/mL)
3)DMSO
(組成物11は、実施例11で調製した動物投与用試料を用いた)
【0103】
<方法>
試験例1の<方法>と同様に実施した。
【0104】
<統計解析>
各群のCNV面積に関して、対応のない2群の検定(t検定)により解析した。有意水準は両側5%とした。
【0105】
<試験結果>
CNV面積測定の結果を下表及び図2に示した。
組成物11はDMSOおよびKi19003に比べて有意なCNV抑制作用を示した。
【0106】
【表2】
【0107】
<結論>
試験例1、試験例2より、Ki19003導入CSがKi19003を上回る薬効を示す後眼部疾患処置剤、特にAMD治療剤として使用できることが示された。GAG誘導体を構成するGAGとして、CSが使用できることが示された。
【0108】
(試験例3)組成物11を用いたCNV抑制作用の検証2
ラットのレーザー誘発CNVモデルを作製し、組成物11あるいはCSとKi19003の配合剤の硝子体内投与による血管新生抑制作用を検討した。
【0109】
<試験物質>
CS(19mg、実施例11におけるCSと同じもの、生化学工業社製)、Ki19003(1mg)をPBS(2mL)と混合し、振とうすることによりCSとKi19003の配合剤1を調製した。試験物質として、以下を使用した。
1)組成物11(0.53mg/mLのKi19003を含む)
2)配合剤1((0.5mg/mLのKi19003を含む)
3)DMSO
(組成物11は、実施例11で調製した動物投与用試料を用いた)
【0110】
<方法>
試験例1の<方法>と同様に実施した。
【0111】
<統計解析>
各群のCNV面積に関して、対応のない2群の検定(t検定)により解析した。有意水準は両側5%とした。
【0112】
<試験結果>
CNV面積測定の結果を下表及び図3に示した。
組成物11はDMSOに比べて有意なCNV抑制作用を示した。
【0113】
【表3】
【0114】
<結論>
Ki19003導入CSが、CSとKi19003の配合剤を上回る薬効を示す後眼部疾患処置剤、特にAMD治療剤として使用できることが示された。GAGとケモカイン受容体拮抗剤を単に配合するだけでは、後眼部疾患処置剤として十分でないことが示され、GAG誘導体とケモカイン受容体拮抗剤との共有結合物を用いる有用性が確認された。
【0115】
(試験例4)組成物14、組成物15及び組成物16を用いたCNV抑制作用の検証
ラットのレーザー誘発CVNモデルを作製し、組成物14、組成物15、組成物16及びSB328437の硝子体内投与による血管新生抑制作用を検討した。
【0116】
<試験物質>
SB328437をDMSOに溶解して、SB328437(2mg/mL)の溶液を得た。試験物質として、以下を使用した。
1)組成物14(1.33mg/mLのSB328437を含む)
2)組成物15(1.67mg/mLのSB328437を含む)
3)組成物16(3.33mg/mLのSB328437を含む)
4)SB328437(2mg/mL)
(組成物14、15、16は、それぞれ実施例14、15、16で調製した動物投与用試料を用いた)
【0117】
<方法>
試験例1の<方法>と同様に実施した。
【0118】
<統計解析>
各群のCNV面積に関して、対応のない2群の検定(t検定)により解析した。有意水準は両側5%とした。
【0119】
<試験結果>
CNV面積測定の結果を下表及び図4に示した。
組成物14、組成物15及び組成物16は、SB328437に比べて有意なCNV抑制作用を示した。
【0120】
【表4】
【0121】
<結論>
SB328437とCS架橋体を含む組成物が、SB328437を上回る薬効を示す後眼部疾患処置剤、特にAMD治療剤して使用できることが示された。GAG誘導体としてGAG架橋体を使用できることが示され、GAGとしてCSが使用できることが示された。また、ケモカイン受容体拮抗剤として、SB328437が使用できることが示された。
【0122】
(試験例5)
SB225002とHA架橋体(Gel-One)とを含む組成物を用いたCNV抑制作用の検証
ラットのレーザー誘発CNVモデルを作製し、SB225002とGel-One(光架橋HA:生化学工業社製)とを含む組成物及びSB225002の硝子体内投与による血管新生抑制作用を検討した。
【0123】
<試験物質>
SB225002(Bioorganic & Medicinal Chemistry, 2009, 17(23), 8102-8112に従って合成)をDMSOに溶解して、SB225002(0.02mg/mL)の溶液を得た。SB225002をDMSOに溶解して、SB225002(0.2mg/mL)の溶液を得た後、SB225002(0.2mg/mL)溶液0.15mLとGel-One(1.5mL)とを混合し、撹拌することにより組成物31を得た。SB225002をDMSOに溶解して、SB225002(2mg/mL)を得た後、2mg/mLのSB225002(0.015mL)とGel-One(1.5mL)を混合し、撹拌することにより組成物32を得た。試験物質として、以下を使用した。
1)組成物31(0.018mg/mLのSB225002を含む)
2)組成物32(0.02mg/mLのSB225002を含む)
3)SB225002(0.02mg/ml)
4)DMSO
【0124】
<方法>
試験例1の<方法>と同様に実施した。
【0125】
<統計解析>
各群のCNV面積に関して、対応のない2群の検定(t検定)により解析した。有意水準は両側5%とした。
【0126】
<試験結果>
CNV面積測定の結果を下表及び図5に示した。
組成物31および組成物32がDMSOおよびSB225002に比べて有意なCNV抑制作用を示した。
【0127】
【表5】
【0128】
<結論>
SB225002とGel-Oneとを含む組成物が、SB225002を上回る薬効を示す後眼部疾患処置剤、特にAMD治療剤として使用できることが示された。GAG誘導体としてGAG架橋体が使用できることが示され、GAGとしてHAが使用できることが示された。また、ケモカイン受容体拮抗剤として、SB225002が使用できることが示された。
【0129】
(試験例6)GW766994とHA架橋体(Gel-One)とを含む組成物を用いたCNV抑制作用の検証
ラットのレーザー誘発CNVモデルを作製し、GW766994とGel-One(光架橋HA:生化学工業社製)とを含む組成物及びGW766994の硝子体内投与による血管新生抑制作用を検討した。
【0130】
<試験物質>
GW766994をDMSOに溶解して、GW766994(2mg/mL)の溶液を得た。GW766994をDMSOに溶解して、GW766994(50mg/mL)を得た後、50mg/mLのGW766994(0.0417mL)とGel-One(1.0mL)を混合し、撹拌することにより組成物33を得た。試験物質として、以下を使用した。
1)組成物33(2mg/mLのGW766994を含む)
2)GW766994(2mg/ml)
3)DMSO
【0131】
<方法>
試験例1の<方法>と同様に実施した。
【0132】
<統計解析>
各群のCNV面積に関して、対応のない2群の検定(t検定)により解析した。有意水準は両側5%とした。
【0133】
<試験結果>
CNV面積測定の結果を下表及び図6に示した。
組成物33はDMSOおよびGW766994に比べて有意なCNV抑制作用を示した。
【0134】
【表6】
【0135】
<結論>
GW766994とGel-Oneとを含む組成物が、GW766994を上回る薬効を示す後眼部疾患処置剤、特にAMD治療剤として使用できることが示された。ケモカイン受容体拮抗剤としてGW766994が使用できることが示された。
【0136】
(試験例7)Ki19003とHA架橋体(Gel-One)とを含む組成物を用いたCNV抑制作用の検証
ラットのレーザー誘発CNVモデルを作製し、Ki19003とGel-One(光架橋HA:生化学工業社製)とを含む組成物及びKi19003の硝子体内投与による血管新生抑制作用を検討した。
【0137】
<試験物質>
Ki19003をDMSOに溶解して、Ki19003(0.5mg/mL)の溶液を得た。Ki19003をDMSOに溶解して、Ki19003(25mg/mL)を得た後、25 mg/mLのKi19003(0.0204mL)とGel-One(1.0 mL)を混合し、撹拌することにより組成物34を得た。試験物質として、以下を使用した。
1)組成物34(0.5mg/mLのKi19003を含む)
2)Ki19003(0.5mg/ml)
3)DMSO
【0138】
<方法>
試験例1の<方法>と同様に実施した。
【0139】
<統計解析>
各群のCNV面積に関して、対応のない2群の検定(t検定)により解析した。有意水準は両側5%とした。
【0140】
<試験結果>
CNV面積測定の結果を下表及び図7に示した。
組成物34はDMSOに比べて有意なCNV抑制作用を示した。
【0141】
【表7】
【0142】
<結論>
Ki19003とGel-Oneとを含む組成物が、Ki19003を上回る薬効を示す後眼部疾患処置剤、特にAMD治療剤として使用できることが示された。また、試験例1、試験例2、試験例3、試験例7より、Ki19003は複数のGAG誘導体(疎水基導入GAGあるいはGAG架橋体)と組合せ可能であった。このことから、GAG誘導体とケモカイン受容体拮抗剤の組合せは1対1対応とは限らないことが示された。
【0143】
(試験例8)AZD3778とHA架橋体(Gel-One)とを含む組成物を用いたCNV抑制作用の検証
ラットのレーザー誘発CNVモデルを作製し、AZD3778(国際公開03/004487A1に準じて合成)とGel-One(光架橋HA:生化学工業社製)とを含む組成物及びAZD3778の硝子体内投与による血管新生抑制作用を検討した。
【0144】
<試験物質>
AZD3778をDMSOに溶解して、AZD3778(0.1mg/mL)の溶液を得た。AZD3778をDMSOに溶解して、AZD3778(5mg/mL)を得た後、5mg/mLのAZD3778(0.0204mL)とGel-One(1.0mL)を混合し、撹拌することにより組成物35を得た。試験物質として、以下を使用した。
1)組成物35(0.1mg/mLのAZD3778を含む)
2)AZD3778(0.1mg/ml)
3)DMSO
【0145】
<方法>
試験例1の<方法>と同様に実施した。
【0146】
<統計解析>
各群のCNV面積に関して、対応のない2群の検定(t検定)により解析した。有意水準は両側5%とした。
【0147】
<試験結果>
CNV面積測定の結果を下表及び図8に示した。
組成物35はAZD3778に比べて有意なCNV抑制作用を示した。
【0148】
【表8】
【0149】
<結論>
AZD3778とGel-Oneとを含む組成物が、AZD3778を上回る薬効を示す後眼部疾患処置剤、特にAMD治療剤として使用できることが示された。また、ケモカイン受容体拮抗剤として、AZD3778が使用できることが示された。
【0150】
(試験例9)SB328437とHA架橋体(Gel-One)とを含む組成物を用いたCNV抑制作用の検証
ラットのレーザー誘発CNVモデルを作製し、SB328437とGel-One(光架橋HA:生化学工業社製)とを含む組成物及びSB328437の硝子体内投与による血管新生抑制作用を検討した。
【0151】
<試験物質>
SB328437をDMSOに溶解して、SB328437(1mg/mL)の溶液を得た。SB328437をDMSOに溶解して、SB328437(50mg/mL)を得た後、50mg/mLのSB328437(0.02mL)とGel-One(1.0mL)を混合し、撹拌することにより組成物36を得た。試験物質として、以下を使用した。
1)組成物36(1mg/mLのSB328437を含む)
2)SB328437(1mg/ml)
3)DMSO
【0152】
<方法>
試験例1の<方法>と同様に実施した。
【0153】
<統計解析>
各群のCNV面積に関して、対応のない2群の検定(t検定)により解析した。有意水準は両側5%とした。
【0154】
<試験結果>
CNV面積測定の結果を下表及び図9に示した。
組成物36はSB328437に比べて有意なCNV抑制作用を示した。
【0155】
【表9】
【0156】
<結論>
SB328437とGel-Oneとを含む組成物が、SB328437を上回る薬効を示す後眼部疾患処置剤、特にAMD治療剤として使用できることが示された。また、ケモカイン受容体拮抗剤として、SB328437が使用できることが示された。試験例5、試験例6、試験例7、試験例8、試験例9より、GAG架橋体は複数のケモカイン受容体拮抗剤(GW766994、Ki19003、AZD3778、SB328437、SB225002)と組合せ可能であった。このことから、GAG誘導体とケモカイン受容体拮抗剤の組合せは1対1対応とは限らないことが示された。
【0157】
(試験例10)組成物6及び組成物7を用いたCNV抑制作用の検証
ラットのレーザー誘発CNVモデルを作製し、組成物6、組成物7及びGW766994の硝子体内投与による血管新生抑制作用を検討した。
【0158】
<試験物質>
GW766994をDMSOに溶解して、GW766994(1.5mg/mL)の溶液を得た。試験物質として、以下を使用した。
1)組成物6(0.71mg/mLのGW766994を含む)
2)組成物7(0.83mg/mLのGW766994を含む)
3)GW766994(1.5mg/mL)
4)DMSO
(組成物6、7はそれぞれ実施例6、7で調製した動物投与用試料を用いた)
【0159】
<方法>
試験例1の<方法>と同様に実施した。
【0160】
<統計解析>
DMSO群と他群のCNV面積に関して、Dunnett検定により解析した。有意水準は両側5%とした。また、GW766994群と組成物群のCNV面積に関して、Dunnett検定により解析した。有意水準は両側5%とした。
【0161】
<試験結果>
CNV面積測定の結果を下表及び図10に示した。
組成物6、組成物7はGW766994に比べて有意なCNV抑制作用を示した。
【0162】
【表10】
【0163】
<結論>
GW766994と疎水基導入HAとを含む組成物、GW766994と疎水基導入CSとを含む組成物が、GW766994を上回る薬効を示す後眼部疾患処置剤、特にAMD治療剤として使用できることが示された。疎水基導入GAGに用いるGAGとして、HAおよびCSが使用できることが示された。
【0164】
(試験例11)組成物4及び組成物5を用いたCNV抑制作用の検証
ラットのレーザー誘発CNVモデルを作製し、組成物4、組成物5及びKi19003の硝子体内投与による血管新生抑制作用を検討した。
【0165】
<試験物質>
Ki19003をDMSOに溶解して、Ki19003(0.6mg/mL)の溶液を得た。試験物質として、以下を使用した。
1)組成物4(0.42mg/mLのKi19003を含む)
2)組成物5(0.66mg/mLのKi19003を含む)
3)Ki19003(0.6mg/mL)
4)DMSO
(組成物4、5は、それぞれ実施例4、5で調製した動物投与用試料を用いた)
【0166】
<方法>
試験例1の<方法>と同様に実施した。
【0167】
<統計解析>
DMSO群と他群のCNV面積に関して、Dunnett検定により解析した。有意水準は両側5%とした。
【0168】
<試験結果>
CNV面積測定の結果を下表及び図11に示した。組成物4、組成物5はDMSOに比べて有意なCNV抑制作用を示した。
【0169】
【表11】
【0170】
<結論>
Ki19003と疎水基導入HAとを含む組成物及びKi19003と疎水基導入CSとを含む組成物が、Ki19003を上回る薬効を示す後眼部疾患処置剤、特にAMD治療剤として使用できることが示された。疎水基導入GAGに用いるGAGとして、HAおよびCSが使用できることが示された。
【0171】
(試験例12)組成物8を用いたCNV抑制作用および眼内出血への影響の検証
ラットのレーザー誘発CNVモデルを作製し、組成物8あるいはヘパリンとGW766994の配合剤の硝子体内投与による血管新生抑制作用および眼内出血への影響を検討した。
【0172】
<試験物質>
GW766994をDMSOに溶解して、GW766994(10mg/mL)の溶液を得た。ヘパリン(10mg、アルドリッチ社製)をPBS(1ml)に溶解し、ヘパリン(10mg/mL)を得たのち、10mg/mLのGW766994(0.1mL)と混合し、ヘパリンとGW766994の配合剤2を調製した。試験物質として、以下を使用した。
1)組成物8(0.96mg/mLのGW766994を含む)
2)配合剤2(0.91mg/mLのGW766994を含む)
3)PBS
(組成物8は、実施例8で調製した動物投与用試料を用いた)
【0173】
<方法>
(血管新生抑制作用)
試験例1の<方法>と同様に実施した。
【0174】
(眼内出血への影響)
試験物質投与直後および投与後10日に、眼内出血のスコア評価を行い、眼内出血悪化の有無より眼内出血への影響を検討した。
【0175】
(1)試験物質投与直後の眼内出血スコア評価
スリットランプ等を用いて眼内観察を行い、下記の眼内出血スコア基準を用いて、眼内出血スコアとした。
スコア0:出血が観察範囲内に観察されない。
スコア1:出血が観察範囲内の1/4以下観察された。
スコア2:出血が観察範囲内の1/4以上1/2以下観察された。
スコア3:出血が観察範囲内の1/2以上観察された。
【0176】
(2)投与後10日目の眼内出血スコア評価
眼杯作製直後に、硝子体液・網膜を観察し、下記の硝子体液・網膜の出血スコア基準を用いてスコア化した。硝子体液・網膜の出血スコアの平均値を眼内出血スコアとした。
スコア0:出血が観察範囲内に観察されない。
スコア1:出血が観察範囲内の1/4以下観察された。
スコア2:出血が観察範囲内の1/4以上1/2以下観察された。
スコア3:出血が観察範囲内の1/2以上観察された。
【0177】
(3)眼内出血悪化の有無の算出
試験物質投与直後および投与後10日における眼内出血スコアの差より、悪化あり(差が+の眼)の眼数、および悪化なし(差が-もしくは0)の眼数を算出した。
【0178】
<統計解析>
各群のCNV面積に関して、対応のない2群の検定(t検定)により解析した。有意水準は両側5%とした。
各群の眼内出血悪化の有無に関して、2×2Fisherの直接確率検定により解析した。有意水準は片側5%とした。
【0179】
<試験結果>
CNV面積測定の結果を表12及び図12に示した。組成物8はPBSに比べて有意なCNV抑制作用を示した。
眼内出血への影響の結果を表13に示した。ヘパリンとGW766994との配合剤2は、PBSおよび組成物8に比べて、眼内出血の悪化数が有意に多いことが示された。
【0180】
【表12】
【0181】
【表13】
【0182】
<結論>
GW766994と疎水基導入CSとを含む組成物が、ヘパリンとGW766994との配合剤2を上回る薬効を示す後眼部疾患処置剤、特にAMD治療剤として使用できることが示された。GAGとケモカイン受容体拮抗剤を単に配合するだけでは、後眼部疾患処置剤として十分でないことが示され、GAG誘導体とケモカイン受容体拮抗剤とを含む組成物を用いる有用性が確認された。
ヘパリンとGW766994の配合剤2では眼内出血が悪化したことから、硝子体内投与には適さないことが確認された。
【0183】
(試験例13)特許文献1に用いられている可溶化剤(DMSO)を用いたケモカイン受容体拮抗剤溶液と、本発明に係る組成物の硝子体内投与時の組織変性の検証
ラットの硝子体内に試験物質を単回投与し、眼内の状態を観察した。
【0184】
<試験物質>
試験物質として、以下を使用した。
1)Ki19003(0.6mg/mL)
2)SB328437(1mg/mL)
3)GW766994(1.5mg/mL)
4)組成物5(0.66mg/mLのKi19003を含む)
5)組成物7(0.83mg/mLのGW766994を含む)
6)組成物10(0.54mg/mLのKi19003を含む)
7)組成物11(0.53mg/mLのKi19003を含む)
8)組成物36(1mg/mLのSB328437を含む)
(組成物5、7、10、11、36については、それぞれ、実施例5、7、10、11、試験例9で調製した動物投与用試料を用いた)
Ki19003は試験例1と、SB328437は試験例9と、GW766994は試験例10と同様に得た。
【0185】
<方法>
(1)試験物質投与
動物はBN/CrlCrljラット(雄性、日本チャールス・リバー株式会社)を用いた。麻酔用混合液(生理食塩液:ソムノペンチル=9:1)の腹腔内投与(約2mL/body)による全身麻酔下、ミドリンP点眼液の点眼によって両眼を散瞳させた。その後、5μL/eyeの試験物質を両眼の硝子体内に単回投与した。投与直後、抗菌薬(ベガモックス点眼液0.5%)を一滴点眼した。
【0186】
(2)眼内撮影
デジタルマイクロスコープを用いて、ラットの眼内の状態を撮影した。
【0187】
<試験結果>
眼内撮影の結果を図18A~18Hに示した。
可溶化剤を用いたケモカイン受容体拮抗剤溶液(Ki19003(図18A)、SB328437(図18B)、GW766994(図18C))では、図中の矢印で示したように、水晶体の組織変性が生じた。一方で、GAG誘導体とケモカイン受容体拮抗剤とを含む組成物である組成物5(図18D)、組成物7(図18E)、組成物10(図18F)、組成物11(図18G)及び組成物36(図18H)では、水晶体の組織変性は観察されなかった。
【0188】
<結論>
可溶化剤を用いたケモカイン受容体拮抗剤溶液に比べて、GAG誘導体とケモカイン受容体拮抗剤とを含む組成物は、急激な組織変性の発生が抑制され、優れたケモカイン受容体拮抗作用を有することが示された。
【0189】
(試験例14)RS504393とHA架橋体(Gel-One)とを含む組成物を用いたCNV抑制作用の検証
ラットのレーザー誘発CNVモデルを作製し、RS504393とGel-One(光架橋HA:生化学工業社製)とを含む組成物及びRS504393の硝子体内投与による血管新生抑制作用を検討した。
【0190】
<試験物質>
RS504393(10mg、abcam社製)をDMSOに溶解して、RS504393(0.01mg/mL)の溶液を得た。RS504393をDMSOに溶解して、RS504393(1mg/mL)を得た後、1mg/mLのRS504393(0.01mL)とGel-One(1.0mL)を混合し、撹拌することにより組成物37を得た。試験物質として、以下を使用した。
1)組成物37(0.01mg/mLのRS504393を含む)
2)RS504393(0.01mg/ml)
3)DMSO
【0191】
<方法>
試験例1の<方法>と同様に実施した。
【0192】
<統計解析>
各群のCNV面積に関して、対応のない2群の検定(t検定)により解析した。有意水準は両側5%とした。
【0193】
<試験結果>
CNV面積測定の結果を下表及び図13に示した。
組成物37はDMSOおよびRS504393に比べて有意なCNV抑制作用を示した。
【0194】
【表14】
【0195】
<結論>
RS504393とGel-Oneとを含む組成物が、RS504393を上回る薬効を示す後眼部疾患処置剤、特にAMD治療剤として使用できることが示された。また、ケモカイン受容体拮抗剤として、RS504393が使用できることが示された。
【0196】
(試験例15)PS372424とHA架橋体(Gel-One)とを含む組成物を用いたCNV抑制作用の検証
ラットのレーザー誘発CNVモデルを作製し、PS372424とGel-One(光架橋HA:生化学工業社製)とを含む組成物及びPS372424の硝子体内投与による血管新生抑制作用を検討した。
【0197】
<試験物質>
PS372424(10mg、Calbiochem社製)をDMSOに溶解して、PS372424(0.1mg/mL)の溶液を得た。PS372424をDMSOに溶解して、PS372424(1mg/mL)を得た後、1mg/mLのPS372424(0.1mL)とGel-One(1.0mL)を混合し、撹拌することにより組成物38を得た。試験物質として、以下を使用した。
1)組成物38(0.091mg/mLのPS372424を含む)
2)PS372424(0.1mg/ml)
3)DMSO
【0198】
<方法>
試験例1の<方法>と同様に実施した。
【0199】
<統計解析>
各群のCNV面積に関して、対応のない2群の検定(t検定)により解析した。有意水準は両側5%とした。
【0200】
<試験結果>
CNV面積測定の結果を下表及び図14に示した。
組成物38はDMSOおよびPS372424に比べて有意なCNV抑制作用を示した。
【0201】
【表15】
【0202】
<結論>
PS372424とGel-Oneとを含む組成物が、PS372424を上回る薬効を示す後眼部疾患処置剤、特にAMD治療剤として使用できることが示された。また、ケモカイン受容体作動剤 として、PS372424が使用できることが示された。
【0203】
(試験例16)組成物22(リトコール酸導入CS:実施例22)及び組成物19(オレイン酸導入CS:実施例19)を用いたCNV抑制作用の検証
ラットのレーザー誘発CNVモデルを作製し、組成物22、組成物19の硝子体内投与による血管新生抑制作用を検討した。
【0204】
<試験物質>
試験物質として、以下を使用した。
1)PBS
2)組成物22(0.86mg/mLのGW766994を含む)
3)組成物19(1.03mg/mLのGW766994を含む)
(組成物22、19は、それぞれ実施例22、19で調製した動物投与用試料を用いた)
【0205】
<方法>
試験例1の<方法>と同様に実施した。
【0206】
<統計解析>
PBS群と他群のCNV面積に関して、対応のない2群の検定(t検定)により解析した。有意水準は両側5%とした。
【0207】
<試験結果>
CNV面積測定の結果を下表及び図15に示した。組成物22、組成物19はPBSに比べて有意なCNV抑制作用を示した。
【0208】
【表16】
【0209】
なお、試験例6及び10に記載のとおり、DMSOに溶解したGW766994
(2mg/mL及び1.5mg/mL)は、DMSOに比べて、どちらの濃度でもCNV抑制作用を有していなかった。
【0210】
<結論>
GW766994と疎水基導入CSとを含む組成物が、GW766994を上回る薬効を示す後眼部疾患処置剤、特にAMD治療剤として使用できることが示された。疎水基導入GAGにおける「疎水基 」について、胆汁酸であるリトコール酸等の基本骨格であるコラン酸等の脂環式化合物に由来する基オレイン酸等の脂肪酸に由来する基が使用できることが示された。
【0211】
(試験例17)米国特許第8,592,482号明細書に用いられている可溶化剤(DMSO)を用いたケモカイン受容体活性調節剤溶液と、本発明に係る組成物の硝子体内投与時の組織変性の検証
ラットの硝子体内に試験物質を単回投与し、眼内の状態を観察した。
【0212】
<試験物質>
試験物質として、以下を使用した。
1)RS504393(0.01mg/mL)
2)PS372424(0.1mg/mL)
3)組成物37(0.01mg/mLのRS504393を含む)
4)組成物38(0.1mg/mLのPS372424を含む)
5)組成物22(0.86mg/mLのGW766994を含む)
6)組成物19(1.03mg/mLのGW766994を含む)
(組成物37、RS504393については試験例14で、組成物38、PS372424については試験例15で、組成物22については実施例22で、組成物19については実施例19で、それぞれ調製した動物投与用試料を用いた)
【0213】
<方法>
試験例13の<方法>と同様に実施した。
【0214】
<試験結果>
眼内撮影の結果を図19A~19Fに示した。
可溶化剤を用いたケモカイン受容体活性調節剤溶液(RS504393(図19A)、PS372424(図19B))では、図中の矢印で示したように、水晶体の組織変性が生じた。一方で、GAG誘導体とケモカイン受容体活性調節剤とを含む組成物である組成物37(図19C)、組成物38(図19D)、組成物22(図19E)及び組成物19(図19F)では、水晶体の組織変性は観察されなかった。
【0215】
<結論>
可溶化剤を用いたケモカイン受容体活性調節剤溶液に比べて、GAG誘導体とケモカイン受容体活性調節剤とを含む組成物は、急激な組織変性の発生が抑制され、優れたケモカイン受容体活性調節作用を有することが示された。
【0216】
(試験例18)CSを用いたCNV抑制作用の検証
ラットのレーザー誘発CNVモデルを作製し、CSの硝子体内投与による血管新生抑制作用を検討した。
【0217】
<試験物質>
CS(平均分子量約14万、生化学工業社製)をPBSに溶解して、CS(20mg/mL)を得た。試験物質として、以下を使用した。
1)CS(20mg/mL)
2)PBS
【0218】
<方法>
試験例1の<方法>と同様に実施した。
【0219】
<統計解析>
各群のCNV面積に関して、対応のない2群の検定(t検定)により解析した。有意水準は両側5%とした。
【0220】
<試験結果>
CNV面積測定の結果を下表及び図16に示した。
CSはPBSに比べて有意なCNV抑制作用を示さなかった。
【0221】
【表17】
【0222】
CS単独では加齢黄斑変性治療薬として有意に薬効を示さなかった。
【0223】
(試験例19)化合物3を用いたCNV抑制作用の検証
ラットのレーザー誘発CNVモデルを作製し、化合物3の硝子体内投与による血管新生抑制作用を検討した。
【0224】
<試験物質>
CS(平均分子量約4万、生化学工業社製)をPBSに溶解して、CS(10mg/mL)を得た。試験物質として、以下を使用した。
1)化合物3
2)CS(10mg/mL)
【0225】
<方法>
試験例1の<方法>におけるフラットマウントの作製を、モデル作製後10日の代わりにモデル作製後4日としたこと以外は、試験例1と同様に実施した。
【0226】
<統計解析>
各群のCNV面積に関して、対応のない2群の検定(t検定)により解析した。有意水準は両側5%とした。
【0227】
<試験結果>
CNV面積測定の結果を下表及び図17に示した。
化合物3はCSに比べて有意なCNV抑制作用を示さなかった。
【0228】
【表18】
【0229】
<結論>
コラン酸導入CSのみでは、CSのみと同様に加齢黄斑変性治療薬として有意に薬効を示さなかった。
【0230】
日本国特許出願2015-110784号(出願日:2015年5月29日)の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18A
図18B
図18C
図18D
図18E
図18F
図18G
図18H
図19A
図19B
図19C
図19D
図19E
図19F
【手続補正書】
【提出日】2023-04-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコサミノグリカン誘導体(これを構成するグリコサミノグリカンの酸性官能基は、塩を形成していない遊離状態であっても、薬学的に許容されうる塩を形成していてもよい)と、CCR3拮抗剤とを含む後眼部疾患処置剤であって、
前記グリコサミノグリカン誘導体は、疎水基導入グリコサミノグリカン又はグリコサミノグリカン架橋体であり、
前記グリコサミノグリカン誘導体の濃度が0.01~10重量%であり、
前記グリコサミノグリカンは、ヒアルロン酸又はコンドロイチン硫酸であり、
前記CCR3拮抗剤は、下記化合物(I)~(IV)からなる群から選択される少なくとも1つの化合物又はその塩である、処置剤。
【化1】
【請求項2】
前記後眼部疾患処置剤が、硝子体内投与剤である、請求項1に記載の処置剤。
【請求項3】
前記後眼部疾患処置剤が、加齢黄斑変性症(AMD)の処置に適用される、請求項1又は2に記載の処置剤。