(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093773
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】培養容器、培養容器を使用した再生毛包原基の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20230627BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20230627BHJP
C12N 5/07 20100101ALI20230627BHJP
【FI】
C12M1/00 D
C12N5/077
C12N5/07
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076880
(22)【出願日】2023-05-08
(62)【分割の表示】P 2021527743の分割
【原出願日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】P 2019121816
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】508253111
【氏名又は名称】株式会社オーガンテック
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100132045
【弁理士】
【氏名又は名称】坪内 伸
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】森 悠
(72)【発明者】
【氏名】岸本 恭介
(72)【発明者】
【氏名】坂井 久
(72)【発明者】
【氏名】上野 涼
(72)【発明者】
【氏名】辻 孝
(72)【発明者】
【氏名】岡本 尚一
(72)【発明者】
【氏名】小川 美帆
(57)【要約】
【課題】再生毛包原基を簡便に又は安定して製造することが可能な培養容器及びその培養容器を使用した再生毛包原基の製造方法を提供することである。
【解決手段】第1側壁部11と、下方に向かって径が小さくなる第1底部12とを有する第1凹部10と、第2側壁部21と、下方に向かって径が小さくなる第2底部22とを有し、第1凹部10の第1底部12に開口した第2凹部20と、を備え、第1底部12の開き角度は、第2側壁部21の開き角度よりも大きい培養容器1及び上記培養容器の第2凹部20内で上皮性細胞32aを含む細胞集団を凝集させる工程と、第2凹部20内で間葉性細胞32bを含む細胞集団を凝集させる工程と、第2凹部20にガイド糸31を挿入する工程と、培養支持体を使用せずに凝集させた上皮性細胞32aを含む細胞集団と凝集させた間葉性細胞32bを接触させながら培養する工程とを含む、再生毛包原基の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイド糸を付するための培養容器であって、
第1側壁部と、下方に向かって径が小さくなるように傾斜する第1底部とを有する第1凹部と、
第2側壁部と、下方に向かって径が小さくなるように傾斜する第2底部とを有し、前記第1凹部の前記第1底部に開口した第2凹部と、を備え、
前記第1底部の開き角度は、前記第2側壁部の開き角度よりも大きい、培養容器。
【請求項2】
請求項1に記載の培養容器であって、
前記第1底部の開き角度は、30°以上及び90°以下である、培養容器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の培養容器であって、
前記第2側壁部の開き角度は、0°以上及び30°以下である、培養容器。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の培養容器であって、
前記第2側壁部は、前記第1底部から下方に延びている、培養容器。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の培養容器であって、
前記第1底部の開き角度は、前記第1側壁部の開き角度よりも大きい、培養容器。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の培養容器であって、
前記第1側壁部の開き角度は、0°以上及び10°以下である、培養容器。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の培養容器であって、
前記第2底部の開き角度は、前記第2側壁部の開き角度よりも大きい、培養容器。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の培養容器であって、
前記第2底部の開き角度は、60°以上及び170°以下である、培養容器。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の培養容器であって、
前記第2凹部は、前記開口を上面視したときに前記開口の中央部に、前記第2底部の頂点を有する、培養容器。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の培養容器であって、
前記第2底部は前記第2側壁部から下方に延びている、培養容器。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の培養容器であって、
前記第2底部の表面粗さは前記第2側壁部よりも大きい、培養容器。
【請求項12】
再生毛包原基の製造方法であって、
請求項1~11のいずれかに記載の前記培養容器の前記第2凹部内で上皮性細胞を含む細胞集団を凝集させる工程と、
前記第2凹部内で間葉性細胞を含む細胞集団を凝集させる工程と、
前記第2凹部に前記ガイド糸を挿入する工程と、
培養支持体を使用せずに凝集させた上皮性細胞を含む細胞集団と凝集させた間葉性細胞を接触させながら培養する工程と、を含む、再生毛包原基の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2019年6月28日に出願された日本国特許出願2019-121816号の優先権を主張するものであり、この先の出願の開示全体をここに参照のために取り込む。
【技術分野】
【0002】
本開示は、培養容器、培養容器を使用した再生毛包原基の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
男性型脱毛症(AGA)をはじめ、先天性脱毛、瘢痕(はんこん)、熱傷性脱毛、女性の休止期脱毛などの脱毛症の治療方法として、患者の正常な頭皮から摂取した少量の毛包器官から上皮性幹細胞と間葉性幹細胞とを分離し、これらの幹細胞からなる細胞集団を凝集させたものにガイド糸を挿入して再生毛包原基を製造し、この再生毛包原基を患者の脱毛症部位に移植するようにした治療方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
このような毛包再生治療によれば、毛包器官から分離した上皮性幹細胞と間葉性幹細胞とを培養することで少量の検体から大量の再生毛包原基を製造することができるので、侵襲性を高めることなく、患者の頭皮の毛髪(毛包)の総数を増加させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の実施形態に係る培養容器は、ガイド糸を付するための培養容器であって、第1側壁部と、下方に向かって径が小さくなるように傾斜する第1底部とを有する第1凹部と、第2側壁部と、下方に向かって径が小さくなるように傾斜する第2底部とを有し、前記第1凹部の前記第1底部に開口した第2凹部と、を備え、前記第1底部の開き角度は、前記第2側壁部の開き角度よりも大きい、培養容器、である。
【0007】
また、本開示の実施形態に係る再生毛包原基の製造方法は、本開示に係る何れかの前記培養容器の前記第2凹部内で上皮性細胞を含む細胞集団を凝集させる工程と、前記第2凹部内で間葉性細胞を含む細胞集団を凝集させる工程と、前記第2凹部に前記ガイド糸を挿入する工程と、培養支持体を使用せずに凝集させた上皮性細胞を含む細胞集団と凝集させた間葉性細胞を接触させながら培養する工程と、を含む、再生毛包原基の製造方法、である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一実施の形態に係る培養容器の縦断面図である。
【
図3】
図1に示す培養容器の第2凹部の部分の拡大断面図である。
【
図4A】
図1に示す培養容器により再生毛包原基を培養している様子を模式的に示す図である。
【
図6A】本開示の一実施の形態に係る再生毛包原基の製造方法により再生毛包原基を製造する手順を示す説明図である。
【
図6B】本開示の一実施の形態に係る再生毛包原基の製造方法により再生毛包原基を製造する手順を示す説明図である。
【
図6C】本開示の一実施の形態に係る再生毛包原基の製造方法により再生毛包原基を製造する手順を示す説明図である。
【
図7】実施例で使用した培養容器の、第2凹部の穴径と深さの表を示す図である。
【
図8】実施例の培養容器で製造したマウス再生毛包原基の代表的な写真と、再生毛包原基の形成率と、を示す図である。
【
図9】No.3の培養容器を用いて製造した代表的なマウス再生毛包原基の写真と、再生毛包原基を移植した後の発毛した写真と、を示す図である。
【
図10】No.4の培養容器を用いて製造した代表的なマウス再生毛包原基の写真と、再生毛包原基を移植した後の発毛した写真と、を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
従来では、毛包器官から分離した上皮性幹細胞と間葉性幹細胞との細胞集団を凝集させて高密度、区画化した後、当該細胞集団にガイド糸を挿入してガイド糸付きの再生毛包原基を製造するようにしている。しかしながら、従来は、人の手作業で再生毛包原基を製造していたため、再生毛包原基の仕上がりのバラつきが大きく、また、製造に時間がかかっていた。
【0010】
本開示の目的は、再生毛包原基を簡便に又は安定して製造することが可能な培養容器及びその培養容器を使用した再生毛包原基の製造方法を提供することにある。
【0011】
本開示の実施形態によれば、再生毛包原基を簡便に又は安定して製造することが可能な培養容器及びその培養容器を使用した再生毛包原基の製造方法を提供することができる。
【0012】
以下、図面を参照しつつ、本開示の一実施の形態に係る培養容器及び再生毛包原基の製造方法を詳細に例示説明する。
【0013】
なお、本明細書、特許請求の範囲において、上下方向は、培養容器を
図1に示す正立姿勢とした状態における上下方向を意味するものとする。
【0014】
図1~
図3に示すように、本実施の形態に係る培養容器1は、第1凹部10と第2凹部20とを備えている。第1凹部10と第2凹部20は、それぞれ培養容器1の収納空間2を構成している。
【0015】
収納空間2は、例えば、培養容器1(第1凹部10)の上方を向く開口に着脱自在に装着される蓋体などの閉塞部材により液密に閉塞される構成とすることができる。
【0016】
第1凹部10は第1側壁部11と第1底部12とを備えている。第1側壁部11は円筒状の形状を有し、上下方向の各部位において径(内径)は一定となっている。第1底部12は、下方に向かって径(内径)が小さくなるように傾斜する円錐台状の形状を有し、第1側壁部11の下端に一体に接続している。第1底部12の上下方向の長さは、第1側壁部11の上下方向の長さよりも長くなっている。なお、第1側壁部11も傾斜してもよい。
【0017】
第1凹部10の上下方向の長さ(深さ)は7~11mmとすることができ、第1側壁部11の上下方向の長さ(深さ)は4~6mmとすることができ、第1底部12の上下方向の長さ(深さ)は3~5mmとすることができる。本実施の形態では、第1凹部10の上下方向の長さ(深さ)は9mmであり、第1側壁部11の上下方向の長さ(深さ)は5.1mmであり、第1底部12の上下方向の長さ(深さ)は3.9mmである。また、第1側壁部11の直径は4.0~5.5mmとすることができ、本実施の形態では4.9mmである。また、第1底部12の開き角度θ1は30~90°とすることができ、第1側壁部11の開き角度θ2は0~10°とすることができる。本実施の形態では、第1底部12の開き角度θ1は60°であり、第1側壁部11の開き角度θ2は4°である。
【0018】
本実施の形態では、第1凹部10は第1側壁部11を備えた構成とされているが、第1底部12が下方に向かって径が小さくなるように傾斜している構成の場合には、第1側壁部11を備えない構成とすることもできる。また、本実施の形態では、第1底部12は下方に向かって径が一定の割合で直線的に小さくなる円錐台状の形状とされているが、これに限らず、例えば下方に向かって徐々に径が小さくなる凸状または凹状の湾曲面形状とするなど、その形状は種々変更可能である。特に、第1凹部10が第1側壁部11を備えた構成の場合には、第1底部12は上下方向に対して垂直な平面形状とすることもできる。
【0019】
第2凹部20は第2側壁部21と第2底部22とを備えている。第2凹部20は第1凹部10の下方に設けられ、第2側壁部21において第1凹部10の第1底部12の中央部に開口している。第2凹部20の上下方向の長さ(深さ)は、第1凹部10の上下方向の長さ(深さ)よりも短く(浅く)なっている。
【0020】
第2側壁部21は上下方向の各部位において径(内径)が一定の円筒状の形状を有し、第1底部12への開口23は円形となっている。また、第2側壁部21は、その上下方向の長さAが開口23の径(直径)Bよりも長い縦長の形状となっている。
【0021】
第2底部22は、下方に向かって径が小さくなるように傾斜する円錐状の形状を有し、第2側壁部21の下端に一体に接続している。第2底部22の頂点24は、第2凹部20の開口23を上面視(平面視)したときに第2底部22の中央部に位置している。第2側壁部21と第2底部22とが接続した接続部25は円形であり、接続部25の径(直径)Bは開口23の径(直径)と同一となっている。
【0022】
第2底部22の上下方向の長さ、すなわち第2底部22の深さCは、接続部25の径(直径)Bよりも小さいのが好ましい。
【0023】
また、第2底部22の深さCは、第2側壁部21の上下方向の長さAよりも小さいのが好ましい。
【0024】
さらに、第2底部22の表面粗さは、第2側壁部21の表面粗さよりも大きいのが好ましい。
【0025】
第2凹部20の上下方向の長さ(深さ)は0.56~1.70mmとすることができ、第2側壁部21の上下方向の長さ(深さ)は0.5~1.5mmとすることができ、第2底部22の上下方向の長さ(深さ)は0.06~0.20mmとすることができる。本実施の形態では、第2凹部20の上下方向の長さ(深さ)は1.0mmであり、第2側壁部21の上下方向の長さ(深さ)は0.9mmであり、第2底部22の上下方向の長さ(深さ)は0.09mmである。また、第2側壁部21すなわち接続部25の径Bは0.3~1.0mmとすることができ、本実施の形態では0.42mmである。また、第2底部22の開き角度θ3は60~170°とすることができる。本実施の形態では、第2底部22の開き角度θ3は120°である。
【0026】
図4に示すように、培養容器1は、収納空間2において再生毛包原基30を培養することができる。再生毛包原基30は、ガイド糸31と、ガイド糸31の先端部に位置した複数の細胞32と、を有するものである。
【0027】
上記の再生毛包原基30において、ガイド糸31は、例えばナイロン等のポリマー、ステンレス等の金属、炭素繊維、ガラス繊維等の化学繊維などにより糸状(繊維状)に形成されたものとすることができる。本実施の形態では、ガイド糸31はナイロン製である。ガイド糸31としては、第2凹部20の第2側壁部21の直径(接続部25の径B)よりも細く、且つ、第2凹部20の上下方向の長さよりも長さが長いものが用いられる。
【0028】
ガイド糸31の長さは3~10mmとすることができ、ガイド糸31の直径は0.02~1.20mmとすることができる。本実施の形態では、ガイド糸31の長さは5mm、ガイド糸31の直径は0.5mmである。
【0029】
上記の再生毛包原基30において、複数の細胞32は、例えば、複数の上皮性細胞32a(
図4中においてクロスハッチングを付して示す。)を含む細胞集団と、複数の間葉性細胞32b(
図4中においてハッチングを付して示す。)を含む細胞集団とで構成されたものとすることができる。この場合、複数の上皮性細胞32aを含む細胞集団よりもガイド糸31の先端31aの側(第2底部22の側)に複数の間葉性細胞32bを含む細胞集団が配置されるのが好ましい。
【0030】
「上皮性細胞」とは、上皮組織から採取した細胞及び採取した細胞を培養して得られる細胞を意味し、例えば毛包由来バルジ領域の外毛根鞘の最外層から採取した細胞(バルジ領域由来の上皮性細胞)、成体又は胎児皮膚の表皮から採取した細胞、多能性幹細胞から誘導した上皮性細胞、毛包、皮膚を構成する上皮性幹細胞に分化する可能性がある上皮性前駆細胞やそれらの幹細胞などを挙げることができる。
【0031】
「間葉性細胞」とは、間葉組織から採取した細胞及び採取した細胞を培養して得られる細胞を意味し、例えば、毛乳頭由来の細胞(例えば、毛乳頭細胞)、毛母細胞、毛根鞘細胞、内毛根鞘細胞、外毛根鞘細胞(最外層の細胞を除く)、成体又は胎児皮膚間葉性細胞、多能性幹細胞から誘導した毛包間葉性細胞、血液細胞を含まない骨髄細胞、骨髄由来の間葉性細胞、顎骨内部の骨髄細胞、頭部神経堤細胞に由来する間葉性細胞またはこれらの細胞に分化する可能性がある間葉性前駆細胞や幹細胞等を挙げることができる。
【0032】
「多能性幹細胞」とは、生体の様々な組織に分化する能力を有する細胞を意味し、例えば、ES細胞(Embryonic stem cells)、ntES細胞 (nuclear transfer Embryonic stem cells)、EG細胞(Embryonic germ cells)、GS細胞(Germline stem cells)、iPS細胞(induced Pluripotent Stem cells)が挙げられる、
【0033】
再生毛包原基を作製するために使用する上皮性細胞及び間葉性細胞は、哺乳動物のヒト、サル、ブタ、ウシ、ウマ、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコなど種々の動物等から採取することができる。
【0034】
毛包、皮膚などの組織から外科的に採取又はディスパーゼ、コラゲナーゼ、トリプシン等の酵素を反応させることにより、上皮組織及び間葉組織に分離させ、分離させた上皮組織又は間葉組織とディスパーゼ、コラゲナーゼ、トリプシン等の酵素とを反応させることにより、上皮性細胞又は間葉性細胞を採取することができる。酵素の反応時間は組織の大きさ、組織を構成する細胞の性質(例えば、細胞間結合に関与するタンパク質や細胞間結合の強度等)等によって適宜変更する。また、上皮組織及び間葉組織との分離又は上皮組織や間葉組織から上皮性細胞又は間葉性細胞を採取するために反応させる酵素は2種類以上混合させてもよい。
【0035】
「細胞集団」とは細胞が液内で分散している状態である細胞懸濁液を意味し、採取した上皮性細胞又は間葉性細胞又はこれらの細胞を培養した細胞に当該細胞を培養できる培地を添加し、混合により分散させることによって調製できる。
【0036】
大量の上皮性細胞又は間葉性細胞を得るために当該細胞を培養することができる。当該細胞を培養する場合、培養に用いられる培地としては、動物細胞の培養に用いられる基礎培地でよく、例えばダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)やAdvanced DMEM/F12培地などを挙げることができる。また、上皮性細胞又は間葉性細胞を効率的に増殖させるために血清やFGF(Fibroblast growth factor)、EGF(Epidermal growth factor)等の細胞増殖因子を添加することができる。また、細胞の機能を維持するための添加剤としてY27632、Noggin又はSAGなどを添加してもよく、PenicillinやStreptomycin等の抗生物質を必要に応じて添加してもよい。上皮性細胞又は間葉性細胞の性質によって基礎培地、血清、細胞増殖因子、添加剤を適宜変更する。細胞の培養条件は細胞が増殖できる環境でよく、例えば37℃の温度で5%CO2濃度のインキュベーター内での培養が適用される。
【0037】
複数の上皮性細胞32aを含む細胞集団としては、バルジ領域上皮由来の細胞を含む細胞集団を用いるのが好ましい。また、複数の間葉性細胞32bを含む細胞集団としては、毛乳頭由来の細胞を含む細胞集団を用いるのが好ましい。
【0038】
上記構成の再生毛包原基30は、ガイド糸31の先端部に複数の細胞32を位置させた構成を有するので、頭皮に設けた切開部分を通して頭皮の内部に複数の細胞32を移植する際に、ピンセットによりガイド糸31を掴むことができるので、移植時における取り扱いが容易である。また、頭皮の外部にガイド糸31を突出させるように複数の細胞32を頭皮に移植することにより、複数の細胞32を複数の上皮性細胞32aを含む細胞集団と、複数の間葉性細胞32bを含む細胞集団とで構成されたものとした場合に、上皮性細胞32aを含む細胞集団を頭皮の表面側に、間葉性細胞32bを含む細胞集団を頭皮の内部側に位置するように複数の細胞32を容易に移植することができる。さらに、ガイド糸31は、移植後の頭皮皮膚組織の上皮性細胞と再生毛包原基30を構成する上皮性細胞32aとの連続性を向上させることにより、発毛作用を促進する。
【0039】
本実施の形態の培養容器1を用いて再生毛包原基30を培養する際には、収納空間2は培養液40で満たされ、複数の細胞32は第2凹部20の内部に収容され、ガイド糸31は下方側を向く先端31aにおいて第2底部22に接し、上方側を向く他端側の部分は複数の細胞32から上方に突出する。
【0040】
ここで、本実施の形態の培養容器1では、第2凹部20の第2底部22は、収納空間2に収納された再生毛包原基30のガイド糸31を、開口23を上面視(平面視)したときに開口23の中央部に位置決め可能な構成となっている。すなわち、第2底部22は、再生毛包原基30が収納空間2に収納されたときに、再生毛包原基30のガイド糸31を第2凹部20の軸心に沿って配置されるように位置決めやすくすることができる。
【0041】
本実施の形態では、第2底部22は、下方に向かって径が小さくなるように傾斜する円錐状の形状を有し、上面視において中央部に位置する頂点24が下方に向けて最も深く凹んだ形状となっている。したがって、培養容器1の収納空間2に再生毛包原基30を収納したときに、ガイド糸31の先端31aの、頂点24から径方向への移動を低減して、開口23を上面視したときに開口23の中央部に位置するようにガイド糸31を位置決めしやすくすることができる。
【0042】
このように、本実施の形態の培養容器1では、第2凹部20は、開口23を上面視したときに開口23の中央部にガイド糸31を位置決め可能な、第2底部22を有しているので、ガイド糸31と、ガイド糸31の先端部に位置した複数の細胞32と、を有する再生毛包原基30を収納空間2で培養する際に、当該ガイド糸31を第2凹部20の中央部に位置決めすることができる。これにより、ガイド糸31を第2凹部20の軸心に沿って配置することができるので、再生毛包原基30を簡便に又は安定して製造することができる。
【0043】
また、本実施の形態の培養容器1では、第2底部22を下方に向かって径が小さくなるように傾斜した構成としたので、ガイド糸31を第2凹部20の内部に挿入したときに、ガイド糸31の先端31aが第2底部22の傾斜に沿って第2底部22の中央部に案内されるようにして、ガイド糸31をより容易に開口23の中央部に位置決めすることができる。
【0044】
特に、本実施の形態のように、第2底部22を円錐状の形状とした場合には、ガイド糸31を第2凹部20の内部に挿入したときに、ガイド糸31の先端31aが頂点24により案内されるようにして、ガイド糸31を開口23の中央部に位置決めすることができる。
【0045】
本実施の形態では、第2凹部20は第2側壁部21を備えているが、第2底部22が下方に向かって径が小さくなるように傾斜している構成の場合には、第2側壁部21を備えない構成とすることもできる。また、本実施の形態では、第2底部22は、下方に向かって径が小さくなる円錐状の形状とされているが、これに限らず、開口23を上面視したときに開口23の中央部にガイド糸31を位置決め可能であれば、例えば下方に向かって徐々に径が小さくなる凸状または凹状の湾曲面形状とするなど、その形状は種々変更可能である。
【0046】
本実施の形態では、第1底部12を下方に向かって径が小さくなるように傾斜した構成としたので、再生毛包原基30を収納空間2に収納する際に、ガイド糸31の先端31a及び複数の細胞32が第1底部12に沿って第2凹部20に案内されるようにして、ガイド糸31の先端31a及び複数の細胞32を第2凹部20に容易に収納させることができる。
【0047】
上記構成の培養容器1は、例えばポリスチレン製とすることができる。この場合、培養容器1は、ポリスチレンの塊を切削加工して形成されたものとしてもよく、成形型を用いてポリスチレンを射出成形して形成されたものとしてもよい。成形型を用いてポリスチレンを射出成形して培養容器1を製造する場合には、培養容器1の量産が容易である。
【0048】
なお、培養容器1は、ポリスチレン製に限らず、例えば、テフロン(登録商標)、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、環状ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルメタクリレート、ポリアリレート、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリメチルペンテン、シリコン樹脂、アクリル、PFAなどの他の樹脂材料で形成されたものとすることができ、また、ガラス等の他の材質で形成されたものとすることもできる。
【0049】
上記構成の培養容器1では、第2凹部20は、第2側壁部21の上下方向の長さAが開口23の径Bよりも長い形状となっているので、第2凹部20で培養される複数の細胞32は発毛に適した形状となるように培養することができる。なお、第2凹部20は、第2側壁部21の上下方向の長さAが開口23の径Bと同一の長さとなる形状としてもよく、第2側壁部21の上下方向の長さAが開口23の径Bよりも短い形状としてもよい。
【0050】
また、上記構成の培養容器1では、第2凹部20は、第2側壁部21の上下方向の長さAが第2底部22の深さCよりも長い形状となっているので、第2凹部20で培養される複数の細胞32を、ガイド糸31の先端31aの側となる底部が丸みを帯びた発毛に適した形状となるように培養することができる。なお、第2凹部20は、第2側壁部21の上下方向の長さAが第2底部22の深さCと同一の長さとなる形状としてもよく、第2側壁部21の上下方向の長さAが第2底部22の深さCよりも短い形状としてもよい。
【0051】
さらに、上記構成の培養容器1では、第2凹部20は、第2底部22の深さCが接続部25の径Bよりも小さい形状となっているので、第2凹部20で培養される複数の細胞32を、安定して、ガイド糸31の先端31aの側となる底部が丸みを帯びた発毛に適した形状となるように培養することができる。なお、第2凹部20は、第2底部22の深さCが接続部25の径Bと同一の長さとなる形状としてもよく、第2底部22の深さCが接続部25の径Bよりも大きい形状としてもよい。
【0052】
さらに、上記構成の培養容器1では、第2底部22の表面粗さは、第2側壁部21の表面粗さよりも大きくされているので、第2凹部20で培養される複数の細胞32を、安定して、培養することができる。なお、第2凹部20は、第2底部22の表面粗さが第2側壁部21の表面粗さと同一となる構成としてもよく、第2底部22の表面粗さが第2側壁部21の表面粗さよりも小さくされた構成としてもよい。
【0053】
上記構成の培養容器1では、第1凹部10及び第2凹部20が再生毛包原基30の製造に適した形状となっているので、複数の細胞32が発毛に適した形状の再生毛包原基30を製造することができる。
【0054】
【0055】
図5に示すように、第2凹部20は、第2側壁部21が下方に向かって径が小さくなるように傾斜した構成とすることもできる。この場合、培養容器1は、第1底部12、第2側壁部21及び第2底部22が、それぞれ上下方向に対して傾斜した構成となり、第1底部12及び第2底部22の上下方向に対する角度は、第2側壁部21の上下方向に対する角度よりも大きくなっている。なお、第2側壁部21の開き角度θ4は0~30°とすることができる。本実施の形態では、第2側壁部21の開き角度θ4は2°である。
【0056】
このような構成により、ガイド糸31の先端31a及び複数の細胞32が下方に向かって径が小さくなるように傾斜した第1底部12に沿って第2凹部20にまで案内されるとともに、下方に向かって径が小さくなるように傾斜した第2側壁部21に沿って第2底部22にまで案内されるようにして、ガイド糸31の先端31aを第2底部22の中央部に容易に位置決めさせるとともに複数の細胞32を第2凹部20の内部に容易に収納させることができる。
【0057】
次に、
図6を参照しつつ本実施の形態の培養容器1を用いて再生毛包原基30を製造する方法について説明する。
【0058】
本実施の形態の再生毛包原基の製造方法では、まず、培養容器1の第2凹部20内で間葉性細胞32bを含む細胞集団を凝集させる工程を行う。当該工程においては、間葉性細胞を複数含む細胞懸濁液50(細胞密度:1x10
5個~2x10
6個/mL)を培養容器1の収納空間2に適量充填し(10~100μL)、遠心により(500~700xgで1~10分間)、複数の間葉性細胞32bを第2凹部20の第2底部22の側に凝集させる(細胞数:1x10
3~2x10
5個)。なお、当該工程において、添加する細胞懸濁液量は容器から溢れない量であればよく、また、遠心条件においても細胞の機能障害が生じない条件であればよい。これにより、
図6Aに示すように、第2凹部20の内部に第2底部22に隣接させて複数の間葉性細胞32bを含む細胞集団を凝集させる。
【0059】
次に、培養容器1の第2凹部20内で上皮性細胞32aを含む細胞集団を凝集させる工程を行う。当該工程においては、間葉性細胞を複数含む細胞懸濁液50の上澄み液を除去した後、上皮性細胞を複数含む細胞懸濁液60(細胞密度:1x10
5~4x10
6個/mL)を培養容器1の収納空間2に適量充填し(10~100μL)、遠心により(500~700xgで1~10分間)、複数の上皮性細胞32aを第2凹部20において間葉性細胞32bの上方に重ねて凝集させる(細胞数:1x10
3~4x10
5個)。当該工程において、添加する細胞懸濁液量は容器から溢れない量であればよく、また、遠心条件においても細胞の機能障害が生じない条件であればよい。これにより、
図6Bに示すように、第2凹部20の内部に、間葉性細胞32bの上方に重ねて複数の上皮性細胞32aを含む細胞集団を凝集させる。なお、細胞懸濁液50の上澄み液は除去しなくてもよい。
【0060】
次に、
図6Cに示すように、第2凹部20にガイド糸31を挿入する。第2凹部20に挿入されたガイド糸31は、間葉性細胞32b及び上皮性細胞32aからなる細胞集団を上方から下方に向けて貫通し、その下方側を向く先端31aは第2底部22に当接する。上記の通り、第2凹部20の第2底部22は、開口23を上面視したときに開口23の中央部にガイド糸31を位置決め可能な構成となっているので、先端31aが第2底部22に接したガイド糸31は、第2底部22により先端31aが頂点24に一致するように位置決めされて開口23を上面視したときに開口23の中央部に位置するように配置される。これにより、ガイド糸31を、間葉性細胞32b及び上皮性細胞32aからなる細胞集団の中央部を貫通するように配置される。
【0061】
次に、上記の工程で凝集させた上皮性細胞32aを含む細胞集団と凝集させた間葉性細胞32bを、第2凹部20の内部で互いに接触させながら培養することができる。当該培養は、上皮性細胞と間葉性細胞の機能を維持しつつ、相互作用できる培養条件でよく、例えば約37℃の温度で5%CO2濃度のインキュベーター内で12~36時間培養すればよい。
【0062】
このような再生毛包原基の製造方法により、ガイド糸31の先端部の周囲に、凝集させた間葉性細胞32b及び凝集させた上皮性細胞32aからなる複数の細胞32が均一に位置するようにして、発毛に適した形状の再生毛包原基30を簡便に安定して製造することができる。
【0063】
例えば、培養容器1として、第2側壁部21の上下方向の長さAが900±10μm、第2凹部20の開口23及び接続部25の径Bが450±10μmのものを用いることで、再生毛包原基30を簡便に安定的に製造しやすくすることができる。
【0064】
なお、本実施の形態では、培養容器1の第2凹部20内で上皮性細胞32aからなる細胞集団を凝縮させる工程を行う前に、間葉性細胞32bを含む細胞集団を凝集させる工程を行うようにしているが、培養容器1の第2凹部20内で上皮性細胞32aを含む細胞集団を凝縮させる工程を行ってから、間葉性細胞32bを含む細胞集団を凝集させる工程を行うようにしてもよい。
【0065】
また、本実施の形態では、上皮性細胞32aを含む細胞集団と間葉性細胞32bを含む細胞集団を凝集させる工程の後にガイド糸31を挿入する工程を行うようにしているが、最初に第2凹部20にガイド糸31を挿入して当該ガイド糸31を第2底部22によって開口23の中央部に位置決めした後に、上皮性細胞32aを含む細胞集団と間葉性細胞32bを含む細胞集団を凝集させる工程を行うようにしてもよい。この場合においても、ガイド糸31の先端部の周囲に、間葉性細胞32b及び上皮性細胞32aからなる細胞集団が均一に位置する再生毛包原基30を容易かつ精度よく製造することができる。
【0066】
本実施の形態では、上皮性細胞32aを含む細胞集団をバルジ領域上皮由来の細胞を含む細胞集団としたが、これに限らず、上皮性細胞32aを含む細胞集団として他の細胞集団を用いることもできる。また、本実施の形態では、間葉性細胞32bを含む細胞集団を毛乳頭由来の細胞を含む細胞集団としたが、これに限らず、間葉性細胞32bを含む細胞集団として他の細胞集団を用いることもできる。
【実施例0067】
以下において、本発明を、実施例を参照してより詳細に説明する。なお、本発明は、細胞播種数、培地交換の時期、培養期間、使用する試薬、試薬の濃度、酵素の反応時間などを種々変更した様々な態様により具現化することができ、ここに記載される実施例に限定されるものではない。
【0068】
図7に示すように、実施例の培養容器として、それぞれ上記構成を有するとともに、第2凹部の穴径(開口の径)が0.30mm、第2凹部の深さが0.75mmのNo.1の容器、第2凹部の穴径が0.30mm、第2凹部の深さが1.00mmのNo.2の容器、第2凹部の穴径が0.45mm、第2凹部の深さが0.75mmのNo.3の容器、第2凹部の穴径が0.45mm、第2凹部の深さが0.90mmのNo.4の容器、及び、第2凹部の穴径が0.45mm、第2凹部の深さが1.00mmのNo.5の容器を用意した。また、それぞれの容器について、ポリスチレン又はテフロン(登録商標)を切削加工して形成したもの(切削型))、を用意した。
【0069】
[実施例1]マウスを用いた再生毛包原基の製造及び器官誘導能評価
【0070】
(1)試薬の調製
【0071】
(1-1)解剖用培地の調製
DMEM(ThermoFisherScientific社製)にFBS(Biowest社製、終濃度:10%)、HEPES(ThermoFisherScientific社製、終濃度:10mM)及びPenicillin-Streptomycin(ThermoFisherScientific社製、終濃度:1%)を混合した。
【0072】
(1-2)マウス毛乳頭細胞培養用培地の調製
DMEMにFBS(終濃度:10%)、Penicillin-Streptomycin(終濃度:1%)及びbFGF(富士フイルム和光純薬社製、終濃度:10ng/mL)を添加後、混合した。
【0073】
(1-3)0.05%Trypsin―EDTAの調製
0.5%Trypsin-2g/L EDTA・4Na(Sigma-Aldrich社製)をPBS(-)(ナカライテスク社製)で10倍希釈し、混合することにより調製した。
【0074】
(1-4)マウス毛乳頭細胞回収用培地の調製
DMEMにFBS(終濃度:10%)及びPenicillin-Streptomycin(終濃度:1%)を添加後、混合した。
【0075】
(1-5)分離酵素液の調製
Dispase(ベクトンディッキンソン・アンド・カンパニー社製、濃度:50caseinolytic U/mL)にCollagenaseI(Worthington社製、終濃度:50U/mL)を添加し、混合した。
【0076】
(1-6)単一化酵素反応液の調製
2.5%Trypsin(ThermoFisherScientific社製)をPBS(-)で50倍希釈し、混合した(終濃度:0.05%)。
【0077】
(1-7)NFFSE培地の調製
Advanced DMEM/F-12(ThermoFisherScientific社製)にHEPES(ThermoFisherScientific社製、終濃度:10mM)、Glutamax(ThermoFisherScientific社製、終濃度:1x)、B27 supplement(ThermoFisherScientific社製、終濃度:1x)、N2 supplement(ThermoFisherScientific社製、終濃度:1x)、Rock inhibitor(Y27632、富士フイルム和光純薬社製、終濃度:10μM)、EGF(Peprotech社製、終濃度:50ng/mL)、FGF-7(R&D Systems社製、終濃度:50ng/mL)、FGF-10(R&D Systems社製、終濃度:50ng/mL)、SHH agonist(SAG、cayman Chemical社製、終濃度:50ng/mL)、及びBMP inhibitor(Noggin、Peprotech社製、50ng/mL)、ならびにPenicillin-Streptomycin(終濃度:1%)を添加し、混合した。
【0078】
(1-8)HEPESの調製
HEPES(DOJINDO社(同仁化学研究所)製)をMilliQ水に溶解後、NaOH(富士フイルム和光純薬社製)でpHを7.4に調整することにより、1M HEPESを調製した。
【0079】
(1-9)NaHCO3の調製
NaHCO3(富士フィルム和光純薬社製)をMilliQ水に溶解することにより、1M NaHCO3を調製した。
【0080】
(1-10)DMEMの調製
1L用のDMEMパウダー(ThermoFisherScientific社製)をMilliQ水100mLで溶解させることにより、10xDMEMを調製した。
【0081】
(2)マウス毛乳頭の培養
【0082】
(2-1)マウス毛乳頭の採取及び播種
7-8週齢のC57BL/6マウス(SLC社)またはC57BL/6-TgN(act-EGFP)マウス(SLC社)を頸椎脱臼により安楽死させた後、剪刀を用いて髭を除去した。剪刀を用いて毛球部を傷つけないように頬髭組織を採取した。頬髭組織をイソジン(Meiji Seikaファルマ社製)、PBS(-)、解剖用培地(前掲)で各2回ずつ消毒及び洗浄した。解剖用培地中で頬髭組織の皮下組織を除去した後、頬髭組織から頬髭毛包を引き抜くことにより、頬髭毛包を回収した。成長期I~IV期の頬髭毛包を選択後、メスを用いて毛球部の上部を切断し、25G注射針を用いて毛球部から毛乳頭を摘出した。なお、摘出した毛乳頭は解剖用培地に回収した。回収した毛乳頭を35mm培養用dish(ベクトンディッキンソン・アンド・カンパニー社製)または60mm培養用dish(ベクトンディッキンソン・アンド・カンパニー社製)に播種し、マウス毛乳頭細胞培養用培地(前掲)で6~8日間培養した。
【0083】
(2-2)マウス毛乳頭細胞の回収
培養6~8日後、上清を除去し、PBS(-)で2回洗浄した。洗浄後、0.05%Trypsin-EDTA(前掲)を添加し、全体行き渡らせた後、37℃で5分間反応させた。マウス毛乳頭細胞回収用培地(前掲)を添加することにより、反応を停止させ、細胞を回収することにより、細胞回収液を調製した。細胞回収液を250xg、4℃、5分間遠心し、上清を除去後、マウス毛乳頭細胞回収用培地で懸濁することにより、マウス毛乳頭細胞懸濁液を調製した。調製後、細胞濃度を計測した。マウス毛乳頭細胞懸濁液をマウス毛乳頭細胞回収用培地で1×104個/10~50μLになるように調製した。
【0084】
(3)マウス上皮性細胞の培養
【0085】
(3-1)マウス上皮性細胞の採取及び播種
頬髭毛包のリングブルストをメスで切断し、コラーゲン鞘を除去することにより、バルジ領域組織を分離した。解剖用培地を添加した35mm petri dish(ベクトンディッキンソン・アンド・カンパニー社製)にバルジ領域組織を回収した。解剖用培地を除去し、分離酵素液(前掲)を添加後(約150本のバルジ領域組織に対して1mL添加)、37℃設定及びCO2濃度5%設定のCO2インキュベーター(パナソニックヘルスケア社製)で5分間反応させた。反応後、解剖用培地で2回洗浄し、35U/mL DNase TypeI(Sigma-Aldrich社製)含有解剖用培地を2mL添加後、25G注射針を用いて外科的にバルジ領域組織の周囲にある間葉組織を除去することにより、バルジ領域上皮組織を採取した。PBS(-)でバルジ領域上皮組織を2回洗浄後、単一化酵素反応液(前掲)を約150本のバルジ領域上皮組織に対して2mL添加し、37℃設定及びCO2濃度5%設定のCO2インキュベーターで1時間反応させた。反応後、70U/mL DNase TypeI含有解剖用培地を1mL添加することにより、酵素反応を停止させ、ピペッティングで混合し、35μmセルストレーナー(Corning社製)に通し、310xg、4℃で3分間遠心した。遠心後、解剖用培地を添加及び混合することにより、マウス上皮性細胞を調製した。マウス上皮性細胞の細胞濃度を測定後、細胞懸濁液をチューブに分取した。チューブを310xg、4℃で3分間遠心して上清を除去し、HEPES(DOJINDO社(同仁化学研究所)社製、終濃度:10mM)、NaHCO3(前掲、終濃度:10mM)及びDMEM(前掲、終濃度:1x)を含有する1%アテロコラーゲン溶液(高研)を添加及び混合することにより、5×104~1×105個/mLの細胞懸濁液を調製した。遠心により気泡を除去後、細胞懸濁液を6ウェルプレート(ベクトンディッキンソン・アンド・カンパニー社製)に90μL/ウェルずつ播種した。37℃設定及びCO2濃度5%設定のCO2インキュベーター内で30分程度ゲルを固化させた後、NFFSE培地を3mL/ウェルで添加し、37℃設定及びCO2濃度5%設定のCO2インキュベーターで5~6日間、3次元培養を行った。
【0086】
(3-2)マウス上皮性細胞の回収
培養5~6日後、細胞がコロニー形成しているゲルについて、セルスクレーパーでゲルを培養皿から剥離した。剥離したゲルを1.5mLチューブに回収し(最大ゲル3個/チューブ)、培養上清を1mL添加した。CollagenaseIを終濃度が100U/mLになるように添加し、37℃で60~90分間反応させることにより、ゲルを溶解させた。590xg、4℃で3分間遠心後、上清を除去し、PBS(-)を1mLで1回洗浄した。洗浄後、PBS(-)で希釈した0.125%Trypsin(ThermoFisherScientific社製)を500μL添加し、37℃で20分間反応させた。35U/mL DNase TypeI含有解剖用培地を1mL添加及び混合することにより、細胞懸濁液を調製した。細胞懸濁液を35μmセルストレーナーに通し、590xg、4℃で3分間遠心した。遠心後、上清を除去し、1%Penicillin-Streptomycin含有Advanced DMEM/F-12培地で懸濁することにより、マウス上皮性細胞懸濁液を調製した。調製後、細胞濃度を計測した。マウス上皮性細胞懸濁液をNFFSE培地で1×104~2×104個/20~50μLになるように調製した。
【0087】
(4)培養容器(再構成用容器)の洗浄
99.5%エタノール(富士フイルム和光純薬社製)をMilliQ水で希釈した70%エタノールに、No.1~No.5の切削型の培養容器をそれぞれ浸し、超音波を室温で30分間処置し、実体顕微鏡(Carl ZEISS社製)で切削の残存物の有無を確認した。中性洗剤(花王社製)を添加したMilliQ水(50mLのMilliQ水に対して中性洗剤を7滴添加)に培養容器を浸し、シェーカー(60rpm)で室温、3時間洗浄した。洗浄後、培養容器を1時間流水洗浄後(流水洗浄開始30分後に実体顕微鏡で切削の残存物の有無を確認)、MilliQ水に浸し、シェーカー(60rpm)で室温、1時間洗浄した。なお、空気抜きをピペッティングで実施した。MilliQ水を交換し、シェーカー(60rpm)で室温、一晩洗浄した。さらにMilliQ水を交換し、シェーカー(60rpm)で室温、1時間洗浄した。70%エタノールで2回消毒し、さらに99.5%エタノールで2回消毒した(空気抜きをピペッティングで実施した)。安全キャビネット内(SANYO社製)で培養容器をシャーレ上で風乾した。
【0088】
(6)再生毛包原基の作製
No.1~No.5の切削型の培養容器を用いて再生毛包原基を作製した。洗浄したそれぞれの培養容器を96ウェルプレート(ベクトンディッキンソン・アンド・カンパニー社製)に挿入した。それぞれの培養容器について、マウス毛乳頭細胞培養用培地を第2凹部の上部まで添加後、マウス毛乳頭細胞懸濁液を培養容器に10~50μL添加し(細胞数:1x10
4個/容器)、590 xg、室温、3~5分間で遠心した。遠心後、第2凹部の上部まで上清を除去し、マウス上皮性細胞懸濁液を培養容器に20~50μL添加し(細胞数:1×10
4~2×10
4個/容器)、590 xg、室温、3~5分間で遠心した。遠心後、全長5mmのナイロン糸(松田医科工業社製)をガイド糸として培養容器内のマウス毛乳頭細胞とマウス上皮性細胞を貫通させるように第2凹部に挿入した。挿入後、37℃設定及びCO
2濃度5%設定のCO
2インキュベーター内にて16~26時間器官培養した。培養後、ガイド糸からマウス毛乳頭細胞凝集体及びマウス上皮性細胞凝集体が外れないようにガイド糸を引き抜き、位相差顕微鏡(Carl ZEISS社製)で再生毛包原基の写真を撮影した。マウス毛乳頭細胞凝集体及びマウス上皮性細胞凝集体の状態、凝集体同士の接触状態、ガイド糸と各凝集体の位置関係から再生毛包原基が形成できているか否かを判断し、再生毛包原基の形成率(再生毛包原基の形成数/再生毛包原基の総作製数×100)を算出した結果、第2凹部の穴径が0.45mmの培養容器でより高い再生毛包原基の形成率を示したことから、より安定な再生毛包原基を製造できる(
図8)。
【0089】
(6)再生毛包原基の器官誘導能評価
再生毛包原基を、従来法に従いマウスの皮内に移植した。すなわち、6から8週齢のBalb/c nu/nuマウス(SLC社)を定法に従って麻酔を行い、背部をイソジン消毒した後に自然横臥位をとらせた。Vランスマイクロメス(日本アルコン社製)を用いて穿刺し、皮膚表皮層から真皮層下層部に至る移植創を形成した。移植創は体表面より垂直方向に約400μmの深度までとし、水平方向は約1mm程度とした。ガイド糸を挿入した再生毛包原基を、移植創の体表側に上皮性細胞成分が向くように、先鋭ピンセットNo.5(夏目製作所社製)を用いて挿入した。移植創上端部に再生毛包原基の上皮性細胞成分の上端部が露出するよう移植深度を調節し、ナイロン糸製のガイド糸が体表面に露出するように位置させた。ガイド糸を移植創に近接した皮膚表面にステリストリップ(スリーエム社製)で固定し、その後、ナースバン(サンプラネット社製、登録商標)及びサージカルテープ(スリーエム社製)で移植創を保護した。移植後5~7日で保護テープ(ナースバン及びサージカルテープ)を除去した。移植物の生着を目視で判定した後に経過観察(2~4日に1回)を行った。経過観察は、麻酔下のマウスの移植部位を蛍光実体顕微鏡(Carl Zeiss社製)による観察・撮影を行い、再生毛包の器官誘導能を評価した。結果を
図9、
図10に示す。No.3及びNo.4の培養容器で作製した再生毛包原基は発毛したことから、器官誘導能を有していた(白矢頭)。
本開示は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。