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特開2023-9379回路基板の製造方法および切削加工装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009379
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】回路基板の製造方法および切削加工装置
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/04 20060101AFI20230113BHJP
【FI】
H05K3/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112598
(22)【出願日】2021-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】永浦 淳
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 円
(72)【発明者】
【氏名】横田 喜正
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 拓哉
【テーマコード(参考)】
5E339
【Fターム(参考)】
5E339AB07
5E339AD01
5E339AE10
5E339BC02
5E339BC03
5E339BD06
5E339BD11
5E339BE01
5E339BE11
5E339EE10
(57)【要約】
【課題】放熱機能を有する回路基板の製造方法において、製造効率を向上させコストダウンを実現する技術を提供する。
【解決手段】絶縁層11と、絶縁層11上に積層された金属層20Aとを有する金属基板12において、金属層20Aに切削加工により溝20Cを形成して回路パターン20を形成する、放熱基板10(回路基板)を製造する回路基板製造方法であって、切削具(エンドミル)を用いて、金属層20Aに溝20Cを形成する切削工程(S12)を備え、切削工程(S12)は、エンドミルが切削している部分に切削液を浸ける。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、前記絶縁基板上に積層された金属板とを有する金属基板において、前記金属板に切削加工により溝を形成して回路パターンを形成する回路基板を製造する回路基板製造方法であって、
切削具を用いて、前記金属板に前記溝を形成する切削工程を備え、
前記切削工程は、前記切削具が切削している部分に切削液を浸ける、回路基板の製造方法。
【請求項2】
前記切削工程は、前記溝を形成する際に、前記金属板を厚さ方向に一部を残して切削する、請求項1に記載の回路基板の製造方法。
【請求項3】
前記溝の底と前記絶縁基板との間に残った前記金属板をエッチングにより取り除くエッチング工程をさらに備える、請求項2に記載の回路基板の製造方法。
【請求項4】
前記金属板は銅板またはアルミニウム板である、請求項1から3までのいずれか1項に記載の回路基板の製造方法。
【請求項5】
前記切削具の刃径が0.5mm以上5.0mm以下である、請求項1から4までのいずれか1項に記載の回路基板の製造方法。
【請求項6】
前記切削具の刃長が1.0mm以上3.0mm以下である、請求項1から5までのいずれか1項に記載の回路基板の製造方法。
【請求項7】
前記切削具の切削回転数が10000rpm以上90000rpm以下である、請求項1から6までのいずれか1項に記載の回路基板の製造方法。
【請求項8】
前記切削具の送り速度が100mm/分以上2000mm/分以下である、請求項1から7までのいずれか1項に記載の回路基板の製造方法。
【請求項9】
前記切削具のシャンク径が3.0mm以上6.0mm以下である、請求項1から8までのいずれか1項に記載の回路基板の製造方法。
【請求項10】
前記切削具の刃数が2枚である、請求項1から9までのいずれか1項に記載の回路基板の製造方法。
【請求項11】
前記溝の幅は、0.5mm以上5.0mm以下である、請求項1から10までのいずれか1項に記載の回路基板の製造方法。
【請求項12】
前記溝の深さは1.0mm以上3.0mm以下である、請求項1から11までのいずれか1項に記載の回路基板の製造方法。
【請求項13】
前記切削液は、水または水溶性切削油である、請求項1から12までのいずれか1項に記載の回路基板の製造方法。
【請求項14】
前記切削液は不水溶性切削油である、請求項1から12までのいずれか1項に記載の回路基板の製造方法。
【請求項15】
前記切削液は防錆剤を含まない、請求項1から14までのいずれか1項に記載の回路基板の製造方法。
【請求項16】
請求項1から15までのいずれか1項に記載の回路基板の製造方法に用いる切削加工装置であって、
切削具を取り付ける回転軸と、
前記切削具が切削している部分に切削液を供給する切削液供給部と、
前記切削液と切削屑を流して排出する切削液排出部と、
を有する切削加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板の製造方法および切削加工装置に関する。
【0002】
IGBT素子等の電子部品を搭載したパワーモジュールの市場が拡大している。パワーモジュールは、高信頼性・高耐熱が要求される。この種の技術として、これまで放熱機能を有する回路基板(放熱基板ともいう)において様々な開発がなされており、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、半導体素子をリードフレーム等の支持体に搭載し、支持体と、ヒートシンクに接続される放熱板とを、絶縁樹脂層とで接着したパワーモジュールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-216619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、そのような回路基板に対する需要が高まっており、それに伴いコストダウンの要請を強まっている。特許文献1に開示の技術では、コストダウンを考慮した技術ではなく、そのような要求に対して十分に応えられず新たな技術が求められていた。例えば、
絶縁基板上に積層された金属板を有する金属基板において、金属板に切削加工により溝を形成して回路パターンを形成する技術(以下、従来技術という)が知られているが、切削加工の工程を短縮することは理想的な条件であればコストダウンに繋がるものの、切削工程のスピード(すなわち切削速度)をあげると、製造される回路パターンの歩留まりが低下してしまい、結果的にコストダウンに繋がらないという課題があった。
【0005】
本発明はこのような状況に鑑みなされたものであって、放熱機能を有する回路基板の製造方法において、製造効率を向上させコストダウンを実現する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
絶縁基板と、前記絶縁基板上に積層された金属板とを有する金属基板において、前記金属板に切削加工により溝を形成して回路パターンを形成する回路基板を製造する回路基板製造方法であって、
切削具を用いて、前記金属板に前記溝を形成する切削工程を備え、
前記切削工程は、前記切削具が切削している部分に切削液を浸ける、回路基板の製造方法が提供される。
本発明によれば、上述の回路基板の製造方法に用いる切削加工装置であって、
切削具を取り付ける回転軸と、
前記切削具が切削している部分に切削液を供給する切削液供給部と、
前記切削液と切削屑を流して排出する切削液排出部と、
を有する切削加工装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、放熱機能を有する回路基板の製造方法において、製造効率を向上させコストダウンを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る放熱基板の平面図である。
図2】実施形態に係る放熱基板の断面図である。
図3】実施形態に係る切削装置の斜視図である。
図4】実施形態に係るエンドミルの正面図である。
図5】実施形態に係る、放熱基板の製造工程を断面図で示すチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
<放熱基板の概要>
図1は放熱基板10の平面図である。図2は放熱基板10の断面図である。
図示のように、放熱基板10は、発熱体の電子部品等を実装する回路基板であって、金属基板12と、絶縁層11と、回路パターン20とを有して構成されており、図2で示すように下からこの順で積層された積層板(積層体)である。回路パターン20の上に電子部品等が実装される。
【0010】
放熱基板10の総厚T0は、特に限定されないが、例えば、0.3mm以上5.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以上4.0mm以下であることがより好ましい。
【0011】
<金属基板12>
金属基板12は、金属材料で構成された層であって、本実施形態では、この上面に絶縁層11が形成され、下面に放熱フィンやラジエータなどの放熱手段が適宜取り付けられる。
【0012】
金属基板12の厚さT1は、特に限定されないが、放熱基板10で積層される要素(絶縁層11、金属基板12、回路パターン20)の中で最も厚く、総厚T0に対して10~90%が好ましい。
【0013】
金属基板12を構成する金属材料としては、特定の種類に限定されないが、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などを用いることができる。
【0014】
金属基板12の厚さT1の上限値は、例えば、20.0mm以下であり、好ましくは5.0mm以下である。この数値以下の厚さT1の金属基板12を用いることで、放熱基板10全体としての薄型化を行うことができる。また、放熱基板10の外形加工や切り出し加工等における加工性を向上させることができる。
【0015】
また、金属基板12の厚さT1の下限値は、例えば、0.1mm以上であり、好ましくは0.5mm以上であり、さらに好ましくは1.0mm以上である。この数値以上の金属基板12を用いることで、放熱基板10全体としての放熱性を向上させることができる。
【0016】
<絶縁層11>
絶縁層11は、主として樹脂材料で構成された樹脂基板の層であって、金属基板12と回路パターン20とを絶縁する機能を有する。なお、絶縁層11として、セラミック基板(窒化アルミ基板や窒化ケイ素基板など)が用いられてもよい。
【0017】
絶縁層11を構成する樹脂材料としては、特定の種類に限定されないが、例えば、熱硬化性樹脂である、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル(不飽和ポリエステル)樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。なお、樹脂材料には、これらの樹脂のうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0018】
絶縁層11を構成する樹脂材料中には、電気絶縁性かつ高熱伝導性を有する粒子で構成されるフィラーを混合することもできる。かかるフィラーの粒子の構成材料としては、例えば、アルミナ等の金属酸化物、窒化ホウ素等の窒化物が挙げられる。
【0019】
絶縁層11の厚さT2は目的に合わせて適宜設定されるが、機械的強度や耐熱性の向上を図りつつ、電子部品からの熱をより効果的に金属基板12へ伝えることができる観点から、絶縁層11の厚さT2は40μm以上400μm以下が好ましく、放熱基板10全体における放熱性と絶縁性のバランスがより一層優れる観点から、80μm以上300μm以下に設定することがより好ましい。絶縁層11の厚さT2を上記上限値以下とすることで、電子部品からの熱を金属基板12に伝達させやすくすることができる。また、絶縁層11の厚さT2を上記下限値以上とすることで、金属基板12と絶縁層11との熱膨張率差による熱応力の発生を絶縁層11で緩和することが十分にできる。さらに、放熱基板10の絶縁性が向上する。
【0020】
<回路パターン20>
回路パターン20は、導電性を有する金属材料で構成され、例えば半田により発熱体の電子部品(LED等)と電気的に接続されている。回路パターン20を構成する金属材料には、例えば、銅(銅合金を含む)やアルミニウム(アルミニウム合金を含む)を好適に用いることができる。これにより、回路パターン20は、比較的抵抗値が小さくなる。なお、回路パターン20は、その少なくとも一部がレジスト材で覆われていてもよい。
【0021】
回路パターン20は、絶縁層11の絶縁層上面11aに積層された金属層20A(図5参照)を切削及びエッチングにより所定のパターンに加工することにより形成される。形成プロセスについては図5において後述するが、本実施形態では、金属層20Aとして圧延銅が用いられる。
【0022】
回路パターン20の厚さT3の下限値は、例えば、1.0mm以上であり、好ましくは1.5mm以上であり、より好ましくは2.0mm以上である。
このような数値以上であれば、高電流を要する用途であっても、回路パターンの発熱を抑えることができる。また、回路パターン20の厚さT3の上限値は、例えば、4.0mm以下であり、好ましくは3.0mm以下であり、さらに好ましくは2.5mm以下である。このような数値以下であれば、回路加工性を向上させることができ、また、基板全体としての薄型化を図ることができる。
【0023】
隣接する回路パターン20間、すなわち溝20Dの幅aは、各回路パターン20の金属層側面において高さ方向中央部分の間の距離とする。幅aの下限は、0.7mm以上であり、好ましくは1.0mm以上であり、より好ましくは1.5mm以上である。
幅aの上限は、6.0mm以下であり、好ましくは5.0mm以下であり、より好ましくは4.0mm以下である。
【0024】
回路パターン20間の幅を従来と比較して狭い幅で設けることができるので、回路パターン20の面積を大きくとることができ、放熱性能を向上させることができる。また、回路パターン20のパターン形状の自由度が高くなる。すなわち、放熱設計の自由度が高まり、回路パターン20に電子部品等を実装し駆動させたときの放熱基板10全体の熱分布のコントロール性が向上する。
【0025】
<放熱基板10の製造装置>
図3および図4を参照して切削工程に用いる切削装置200、エンドミル100および切削液について説明する。
【0026】
<切削装置200>
図3は、切削装置200を模式的に示した斜視図である。
切削装置200は、基台201と、基台201に取り付けられた主軸ヘッド202と、主軸ヘッド202の下側端部において切削具(ここではエンドミル100)を取り付け軸支するチャック204(ホルダともいう)と、切削液供給部210と、切削液排出部220とを備える。
【0027】
主軸ヘッド202は、内部にモータとその回転速度を減衰させる減速機とを有した回転軸であって、チャック204に取り付けたエンドミル100を高速回転させて、金属層20Aを切削する。
【0028】
<切削液供給部210>
切削液供給部210は、チャック204に取り付けられたエンドミル100を取り囲むように周方向に90度間隔で4箇所に配置されており、エンドミル100に対して4方向から切削液を吹き掛けることができる。切削液供給部210の設置位置や設置数等は、切削液を吹き掛ける位置や方法、量により適宜調整することができる。
【0029】
エンドミル100及びエンドミル100が切削している金属層20Aに切削液を吹き掛けて、エンドミル100及び切削分の各表面に油の切削液による膜をつくり、潤滑機能、冷却機能、洗浄機能を実現する。これによって、エンドミル100で金属層20Aを切削するときの切削効率を向上させることができる。すなわち、エンドミル100による一回当たりの切削深さを深くしつつ切削幅(言い換えると刃部110の刃径D1)を広くでき、さらに、エンドミル100の送り速度を速めることができる。
【0030】
切削液排出部220は、上述の4箇所に配置された切削液供給部210の間に位置するように4箇所に配置され、使用された切削液を切削部分から取り除く。ここでは、切削液排出部220は、切削液および切削により生じた切削屑(金属片)を吸引する。このとき、使用された切削液が一定方向に流れるように吸引してもよい。それによって、切削液および切削屑を切削部分から円滑に取り除き、切削部分には常に新しい切削液を供給することができる。
【0031】
<エンドミル100>
図4は、エンドミル100の正面図である。エンドミル100は、一般的な構成を有しており、刃部110と、シャンク部120と、刃部110とシャンク部120の間の首部130とを有する。エンドミル100は、一般的な仕様のものを用いることができ、ここではスクエアタイプを示している。切削精度を確保しつつ切削効力を向上させる観点において以下の仕様のエンドミル100が好ましい。
【0032】
エンドミル100の刃径D1が0.5mm以上5.0mm以下である。
刃径D1の下限値は、好ましくは0.7mm以上であり、より好ましくは1.0mm以上である。刃径D1の上限値は、好ましくは4.5mm以下であり、より好ましくは4.0mm以下である。
エンドミル100の刃径D1を上記範囲とすることで、溝20Cを切削して形成する際に、好適である。すなわち、溝20Cと実質的に同寸法の刃径D1とすることで、エンドミル100の切削を一度の送りだけで、品質上不適切となるような傾きやバリを発生させること無く、溝20Cを形成することができ、作業工数の簡素化の繋がる。
【0033】
エンドミル100の刃部110の長さ(すなわち刃長L1)が、1.0mm以上3.0mm以下である。
刃長L1の下限値は、好ましくは1.2mm以上であり、より好ましくは1.5mm以上である。刃長L1の上限値は、好ましくは2.8mm以下であり、より好ましくは2.5mm以下である。
エンドミル100の刃長L1を上記範囲とすることで、溝20Cを切削して形成する際に、好適である。すなわち、溝20Cと実質的に同寸法の刃長L1とすることで、エンドミル100の切削を一度の送りだけとすることができ、作業工数の簡素化が実現できる。
【0034】
エンドミル100のシャンク部120のシャンク径D2が3.0mm以上6.0mm以下である。
シャンク径D2の下限値は、好ましくは3.5mm以上であり、より好ましくは4.0mm以上である。シャンク径D2の上限値は、好ましくは5.5mm以下であり、より好ましくは5.0mm以下である。
シャンク径D2を上記範囲とすることで、エンドミル100が切削時に作用する加工負荷による撓みを抑えることができる。
【0035】
エンドミル100の刃部110の刃数が2枚である。
刃部110の刃数が2枚であっても、上述のような刃径D1や刃長L1の範囲や、切削装置200による次に示すエンドミル100の動作条件とすることで、切削時の切削条件をシャンク径D2を上記範囲とすることで、品質上不適切となるような傾きやバリを発生させること無く溝20Cを形成することができ、切削工数の簡素化に繋がる。なお、刃数は3枚や4枚であってもよいが、コストの観点から2枚が好ましい。
【0036】
エンドミル100の材料は、耐摩耗性、耐熱性、耐欠損性、耐塑性変形性、化学的安定性、熱伝導性などを考慮して選択されるが、回路パターン20の材料として銅やアルミニウムを想定した場合に、例えば、超硬合金を用いることができる。超硬合金は、一般にはタングステンと炭素からなる化合物である炭化タングステンの粒を、バインダにコバルトを使用して焼結することで得られる。
【0037】
次に切削装置200によるエンドミル100の動作条件(切削条件)を説明する。
エンドミル100の切削回転数が10000rpm以上90000rpm以下である。
切削回転数の下限は、好ましくは15000rpm以上であり、より好ましくは20000rpm以上である。切削回転数の上限は、好ましくは80000rpm以下であり、より好ましくは70000rpm以上である。
エンドミル100の切削回転数を上記範囲とすることで、溝20Cを形成する際に、一度の送りで、品質上不適切となるような傾きやバリを発生させること無く溝20Cを形成することができ、作業工数の簡素化の繋がる。
【0038】
エンドミル100の送り速度が100mm/分以上2000mm/分以下である。
送り速度の下限は、好ましくは120mm/分以上であり、より好ましくは140mm/分以上である。送り速度の上限は、好ましくは180mm/分以下であり、より好ましくは160mm/分以下である。
エンドミル100の送り速度を上記範囲とすることで、溝20Cを形成する際に、一度の送りで、品質上不適切となるような傾きやバリを発生させること無く溝20Cを形成することができ、作業工数の簡素化の繋がる。
【0039】
<切削液>
切削液は、水、水溶性切削油及び不水溶性切削油を用いることができる。
水溶性切削油として、例えばエマルション型、ソリューブル型、ケミカルソリューション型の3種類が例示できるが、いずれの種類の水溶性切削油であっても用いることができる。
不水溶性切削油として、不活性タイプ(混成タイプ、不活性タイプ、中活性タイプ)、活性タイプのいずれの種類の不水溶性切削油であっても用いることができる。
切削液は防錆剤を含まないことが好ましい。従来技術による放熱基板10の製造方法では、その製造では切削液を用いないドライ切削が用いられてきた。切削液を用いることを想定した場合、防錆の観点から防錆剤を含む切削液が検討される。切削液に含まれる防錆剤は、金属の表面に皮膜を形成し、エンドミル100や放熱基板10のサビ・腐食の発生を抑制する。しかし、金属層20Aの表面に皮膜が形成されると、次のエッチング工程で適切なエッチングができなくなる。そこで、本実施形態では、切削液が水溶性切削液(水を含む)または不水溶性切削液のいずれの場合であっても、防錆剤を含まないようにする。
【0040】
<放熱基板10の製造方法>
図5を参照して放熱基板10の製造方法を説明する。図5は放熱基板10の製造工程を示すチャート図であって断面図で示している。
【0041】
(S10:積層体準備工程)
下から順に金属基板12と、絶縁層11と、金属層20Aとが積層された積層板10Aを用意する。金属層20Aが、以下の工程により加工されることで回路パターン20となる。
積層板10Aの製造方法は、公知の手法を用いることができる。例えば、金属基板12をキャリアとして、厚さT1の金属基板12上に、絶縁層11の構成材料としての液状材料(ワニス状材料)を、例えばスプレー法等により付与する。
その後、金属基板12上の液状材料を自然乾燥または強制乾燥により乾燥される。これにより、厚さT2の絶縁層11が得られる。このとき絶縁層11が完全に硬化していない状態(いわゆるBステージの状態)であってもよい。
【0042】
つぎに、絶縁層11(すなわち絶縁層上面11a)上に厚さT3’の金属層20Aを形成する。すなわち、絶縁層11の絶縁層上面11aに、回路パターン20となる金属層20A、例えば圧延銅(銅板)を熱圧プレス等により積層する。これにより、積層板10Aが得られる。
【0043】
金属層20Aの厚さT3’は、上述した回路パターン20の厚さT3と後述するエッチング工程を考慮して設定される。金属層20Aの厚さT3’の下限値は、例えば、1.2mm以上であり、好ましくは1.6mm以上であり、より好ましくは2.1mm以下である。金属層20Aの厚さT3’の上限値は、例えば、5.0mm以下であり、好ましくは4.0mm以下であり、さらに好ましくは3.0mm以下である。このような数値以下であれば、回路加工性を向上させることができ、また、基板全体としての薄型化を図ることができる。
【0044】
(S12:回路パターンの切削工程)
つづいて、切削装置200及びエンドミル100を用いて、上述の積層板10Aの金属層20Aを所望のパターンとなるように切削して溝20Cを形成する。
切削工程では、エンドミル100が切削している部分(被削材である金属層20A及び刃部110)に切削液を浸ける。ここで、「切削液を浸ける」とは、切削液をエンドミル100に切削液を吹き掛ける場合と、所定深さに溜めた切削液に放熱基板10(金属層20A)を浸す場合の両方を指す。
【0045】
パターンでない部分については、所定厚さの金属層(薄銅部20B1)を残すことで、絶縁層11上には暫定回路パターン20Bが形成される。すなわち、切削のみで全てのパターンを形成すると、絶縁層11を破損させる虞があるので、余裕を持たせて所定厚さの金属層(薄銅部20B1)を残存させる。
【0046】
エンドミル100で切削して形成する溝20Cの幅bは0.5mm以上5.0mm以下である。幅bの下限値は、好ましくは0.7mm以上であり、より好ましくは1.0mm以上である。幅bの上限値は、好ましくは4.5mm以下であり、より好ましくは4.0mm以下である。
エンドミル100で切削して形成する溝20Cの幅bを上記範囲とすることで、エッチング後の放熱基板10cにおける回路パターン20の溝20Dの幅を、上述の範囲とすることができる。また、溝20Cの幅bと同寸法の切削径(すなわち刃径D1)を有するエンドミル100を選定することで、一回の送りによる切削で、所望の幅a2の溝20Cを形成できる。
【0047】
溝20Cの深さT3cは1.0mm以上3.0mm以下である。
深さT3cの下限値は、好ましくは1.2mm以上であり、より好ましくは1.5mm以上である。深さT3cの上限値は、好ましくは2.8mm以下であり、より好ましくは2.5mm以下である。
溝20Cの深さT3cを上記範囲とすることで、エッチング工程により、暫定回路パターン20Bの金属層(薄銅部20B1)を溶かし、絶縁層11を露出させることができる。
また、溝20Cの深さT3cより長い刃長L1を有するエンドミル100を選択することで、一度の送りによる切削で、所望の深さT3cの溝20Cを形成することができる。
【0048】
(S14:エッチング工程)
暫定回路パターン20Bを有する積層板10Bをエッチング処理することで、残存している暫定回路パターン20Bの金属層(薄銅部20B1)を溶かし、所望のパターンを形成することで最終的な回路パターン20が得られる。
【0049】
なお、上述の回路パターンの切削工程(S12)では、余裕を持たせて所定厚さの金属層(薄銅部20B1)を残存させたが、これに限らず、金属層(薄銅部20B1)を残さず切削して、エッチング工程(S14)を省いてもよい。このとき、絶縁層11の一部が切削されるが、切削される絶縁層11の厚みをあらかじめ設定しておくことで、所望の厚さの絶縁層11が得られる。切削後の絶縁層11の厚みは例えば100μm以上とすることができる。なお、放熱特性の観点から絶縁層11厚みを薄くしたい場合は、エッチング工程S14のエッチング加工で絶縁層11を露出する方法が望ましい。
【0050】
<実施形態の効果>
実施形態の特徴および効果をまとめると次の通りである。
(1)絶縁層11(絶縁基板)と、絶縁層11上に積層された金属層20A(金属板)とを有する金属基板12において、金属層20Aに切削加工により溝20Cを形成して回路パターン20を形成する、放熱基板10(回路基板)を製造する回路基板製造方法であって、
切削具(例えばエンドミル100)を用いて、金属層20Aに溝20Cを形成する切削工程(S12)を備え、
切削工程(S12)は、エンドミル100が切削している部分に切削液を浸ける。
従来技術のように洗浄液を用いないドライ切削において、一度の送りによる切削で溝20Cを形成した場合、加工断面観察より溝壁面が数度程度傾いたり、屈曲形状が生じることがあった。傾きはエンドミル100の進行方向に依存し、アップカット側に傾く傾向がある。これは、切削時にエンドミル100に作用する負荷により、エンドミル100が撓むことによると考えられる。この現象は、加工深さが浅い状態であっても発生することがあった。また、溝20Cの開口周縁(ダウンカット側)にバリが発生する傾向があった。また、一つの溝20Cを形成する際に、少しずつ深くなるように複数回(例えば2回)エンドミル100を送り切削して所望の深さの溝20Cを形成することもできるが、同じような現象が生じたり、また、切削工数の簡素化およびコストダウンの観点から、エンドミル100の送りの回数を抑えたいという要望があった。
しかしながら、本実施形態では、切削液を切削分に吹き掛けるいわゆるウェット切削による製造方法を用いている。これによって、従来技術において懸念されているような品質上の課題を解消しつつ、エンドミル100の切削時の送り回数を抑制し、例えば送り回数を1回とすることができる。
【0051】
(2)切削工程(S12)は、溝20Cを形成する際に、金属層20Aを厚さ方向に一部(薄銅部20B1)を残して切削する。
(3)溝20Cの底と絶縁層11との間に残った金属板(すなわち薄銅部20B1)をエッチングにより取り除くエッチング工程(S14)をさらに備える。
(4)金属層20Aは銅板またはアルミニウム板である。
(5)エンドミル100(切削具)の刃径D1が0.5mm以上5.0mm以下である。
(6)エンドミル100の刃長が1.0mm以上3.0mm以下である。
(7)エンドミル100の切削回転数が10000rpm以上90000rpm以下である。
(8)エンドミル100の送り速度が100mm/分以上2000mm/分以下である。
(9)エンドミル100のシャンク径が3.0mm以上6.0mm以下である。
(10)エンドミル100の刃数が2枚である。
(11)溝20Cの幅bは0.5mm以上5.0mm以下である。
(12)溝20Cの深さは1.0mm以上3.0mm以下である。
(13)切削液は水または水溶性切削油である。
(14)切削液は不水溶性切削油である。
(15)切削液は防錆剤を含まない。
(16)切削装置200は、上述の放熱基板10の製造方法に用いる切削加工装置であって、
エンドミル100(切削具)を取り付ける回転軸(主軸ヘッド202、回転駆動部203、チャック204)と、
エンドミル100が切削している部分に切削液を供給する切削液供給部210と、
切削液と切削屑を流して排出する切削液排出部220と、
を有する。
【0052】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。例えば、切削具として、スクエアタイプのエンドミルを例示したがこれに限る趣旨ではなく、ラジアルタイプのエンドミルを用いることができ、さらにルータービットを用いることができる。
【符号の説明】
【0053】
10 放熱基板
10A、10B、10C 積層板
11 絶縁層
12 金属基板
20 回路パターン
20A 金属層
20B 暫定回路パターン
20C、20D 溝
20B1 薄銅部
100 エンドミル
110 刃部
120 シャンク部
130 首
200 切削装置
201 基台
202 主軸ヘッド
204 チャック
210 切削液供給部
220 切削液排出部
図1
図2
図3
図4
図5