(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093812
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】シールドマシンの運転方法およびシールドマシン
(51)【国際特許分類】
E21D 9/06 20060101AFI20230628BHJP
【FI】
E21D9/06 301Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208867
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(71)【出願人】
【識別番号】507157676
【氏名又は名称】株式会社クボタ建設
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100117972
【弁理士】
【氏名又は名称】河崎 眞一
(72)【発明者】
【氏名】宮下 学
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 潤弥
(72)【発明者】
【氏名】東 伸一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 隼也
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054AC01
2D054GA13
2D054GA25
2D054GA42
(57)【要約】
【課題】掘削進路に沿ったN値を連続的に把握できない場合でも、可能な限り自動運転による掘削作業を可能にするシールドマシンの運転方法を提供する。
【解決手段】断続的なN値の実測値および/または地質情報に基づいて、掘削進路に亘るN値を推定するN値推定ステップと、前記N値推定ステップで推定したN値が所定の閾値未満である掘削範囲において、掘削方向前方の土圧に基づいて、自動運転に必要なシールドマシンの所定の運転操作因子の推奨値を導出する制御値導出ステップと、を含み、前記制御値導出ステップは、掘削方向前方の土圧を予測して、予測した土圧値に基づいてシールドマシンの前記運転操作因子の推奨値を導出する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断続的なN値の実測値および/または地質情報に基づいて、掘削進路に亘るN値を推定するN値推定ステップと、
前記N値推定ステップで推定したN値が所定の閾値未満である掘削範囲において、掘削方向前方における土圧が予め設定された管理値の範囲に維持されるように、自動運転に必要なシールドマシンの所定の運転操作因子の推奨値を導出する制御値導出ステップと、
を含むシールドマシンの運転方法。
【請求項2】
前記N値推定ステップで推定したN値が前記閾値未満である掘削範囲においては、前記制御値導出ステップで導出した前記運転操作因子の推奨値による自動運転を実行し、前記N値が前記閾値を超える掘削範囲においては、操作員による手動運転を実行する請求項1記載のシールドマシンの運転方法。
【請求項3】
前記N値推定ステップは、前記断続的なN値の実測値および/または地質情報を前記掘削進路に亘って補間した値を、前記掘削進路に亘るN値として推定する請求項1または2記載のシールドマシンの運転方法。
【請求項4】
前記制御値導出ステップは、掘削方向前方の土圧を予測して、予測した土圧値に基づいてシールドマシンの前記運転操作因子の推奨値を導出するものである請求項1から3の何れかに記載のシールドマシンの運転方法。
【請求項5】
少なくとも土圧および所定の運転操作因子の実績値をデータセットとして機械学習を行うことで構築された学習済みモデルにより、掘削方向前方の土圧を予測する請求項4記載のシールドマシンの運転方法。
【請求項6】
外筒の前面に掘削刃を設けた回転体を備え、前記回転体を回転駆動するとともに、前記外筒の後端を押圧機構で押圧しながら掘削するシールドマシンであって、
請求項1から5の何れかに記載のシールドマシンの運転方法を実行することにより、前記回転体および前記押圧機構を制御する制御装置を備えているシールドマシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールドマシンの運転方法およびシールドマシンに関する。
【背景技術】
【0002】
シールド工法によりトンネルなどを築造する際、シールド掘削機が掘削する現場の施工環境(土質、水圧などの地山の状態)は、現場の位置により刻々変化する。そのため、施工環境の変化に対応させて、シールド掘削機の掘削における進行速度及び進行方向などの操作を、オペレータが行なう必要がある。
【0003】
しかし、シールド掘削機を操作するオペレータの熟練度によって、掘削されるトンネルの設計に対する精度や安全性がばらつくという課題がある。
【0004】
特許文献1には、熟練したオペレータのシールド掘削機の操作を、対応する施工環境の監視データとの関係に基づいてモデル化することにより、操作支援や操作の均一化を図ることを可能とするシールド掘削機操作分析システムが提案されている。
【0005】
当該シールド掘削機操作分析システムは、シールド掘削機に対する操作に関し、シールド掘削機の掘削状況を監視する監視項目データの各々と当該監視項目データそれぞれに対応した熟練したオペレータの操作の操作値との対応関係を分析するシールド掘削機操作分析システムであって、前記操作値の変化を検出する操作データ変化検出部と、前記操作値の変化が発生したタイミングである操作値変化タイミングにおいて前記監視項目データを抽出する監視項目データ検出部と、前記操作値の変化量と、当該操作値の前記操作値変化タイミングで抽出した前記監視項目データの各々の変化量との相関を求めることにより、前記監視項目データ検出部の各々から、前記操作値と関連性のある監視項目データを抽出するデータ関連性分析部とを備えている。
【0006】
監視項目データとして、カッタートルク、カッター速度、推進圧力、推進速度、推進速度指示書逸脱値、制御土圧、切羽土圧平均値指示書範囲外ダミー、アジテータトルク、スクリュー速度、1次スクリュー圧力、2次スクリュー圧力、NO.1コピーストローク、NO.1コピーストローク指示値差、NO.1コピー位置、NO.1コピー位置指示書逸脱値、ピッチング、ピッチング指示値差、ローリング、ローリング指示値差、上下中折れ角度、上下中折れ角度指示値差、左右中折れ角度、左右中折れ角度指示値差、S/M前胴方位、S/M前胴方位指示値差、S/M後胴方位、S/M後胴方位指示値差、計画路線水平偏差(管理点)、計画路線垂直偏差(管理点)、方位(管理点)、方位指示値差(管理点)、計画路線方位(管理点)、ピッチ(管理点)、計画路線ピッチ(管理点)など、非常に多くのデータが監視対象となり、これらの監視項目データを説明変数とし、操作データを被説明変数としたモデルが作成される。
【0007】
つまり、入力される説明変数と出力される被説明変数との間のモデルを機械学習により作成し、このモデルを用いることにより、説明変数の組合せに対応して、関連性の高い被説明変数が得られるようにする。このモデルを用いることにより、説明変数である監視項目データの変化に対応して、被説明変数である操作データのいずれを操作する必要があるかが明確に得られるというものである。
【0008】
また、特許文献2には、ボーリング用の掘削機に対する掘削の自動制御の実現化を図ることを目的とする制御装置が提案されている。
当該制御装置は、掘削機から出力される1以上の出力パラメータの各値を取得する出力パラメータ取得手段と、前記1以上の出力パラメータの各値のうち少なくとも1以上の値に基づいて、掘削対象の地層又は硬さを予測判断する判断手段と、前記地層の層種毎に予め用意される自動掘削の第1制御モードと前記地層の深度毎に予め用意される自動掘削の第2制御モードとを有し、前記判断手段により予測判断された前記地層又は硬さに応じて前記第1制御モード又は第2制御モードに切替えて前記掘削機に対する掘削の制御を実行する制御手段と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2018-021402号公報
【特許文献1】特開2019-206906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、実際にシールドマシンを用いて掘削する場合には、掘削土壌の締まり具合や強度の基準となるN値(標準貫入試験値)の影響を受けるため、機械学習により得られる操作値に従っても、適切に掘削することが保証されるものではなかった。特に、N値の大きな硬い土壌では好ましい結果が得られないということが、本願発明者らの試験研究に結果、明らかになっている。
【0011】
一方、地上構造物などの影響でボーリング調査が困難な区域もあるため、掘削進路に沿って変動するN値を連続的に把握するのは極めて困難である。
【0012】
本発明の目的は、上述した状況に鑑み、掘削進路に沿ったN値を連続的に把握できない場合でも、可能な限り自動運転による掘削作業を可能にするシールドマシンの運転方法およびシールドマシンを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的を達成するため、本発明によるシールドマシンの運転方法の第一の特徴構成は、断続的なN値の実測値および/または地質情報に基づいて、掘削進路に亘るN値を推定するN値推定ステップと、前記N値推定ステップで推定したN値が所定の閾値未満である掘削範囲において、掘削方向前方における土圧が予め設定された管理値の範囲に維持されるように、自動運転に必要なシールドマシンの所定の運転操作因子の推奨値を導出する制御値導出ステップと、を含む点にある。
【0014】
掘削進路に亘る連続的なN値が実測できない場合であっても、掘削進路に亘り断続的にN値が把握できれば、それらの値に基づいてN値を推定するN値推定ステップを実行することで、掘削進路に亘る連続的なN値を獲得することができる。そして、制御値導出ステップでは、N値の推定値に基づいて、N値が所定の閾値未満であり軟質な土壌であると推定される範囲で、掘削方向前方における土圧が予め設定された管理値の範囲に維持されるように、運転操作因子の推奨値を導出することにより、適切な自動運転が可能になる。
【0015】
同第二の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記N値推定ステップで推定したN値が前記閾値未満である掘削範囲においては、前記制御値導出ステップで導出した前記運転操作因子の推奨値による自動運転を実行し、前記N値が前記閾値を超える掘削範囲においては、操作員による手動運転を実行する点にある。
【0016】
N値推定ステップでN値が所定の閾値未満であり、軟質な土壌であると推定される掘削範囲において、制御値導出ステップで導出した運転操作因子の推奨値による自動運転を実行すれば、適切かつ円滑に掘削作業が進み、N値が閾値を超え、硬質な土壌であると推定される掘削範囲で、操作員による手動運転を実行することにより、適切な掘削作業が進行する。
【0017】
同第三の特徴構成は、上述した第一または第二の特徴構成に加えて、前記N値推定ステップは、前記断続的なN値の実測値および/または地質情報を前記掘削進路に亘って補間した値を、前記掘削進路に亘るN値として推定する点にある。
【0018】
掘削進路に亘るN値として、断続的なN値の実測値および/または地質情報を掘削進路に亘って補間した値を採用することが好ましい。補間アルゴリズムとして、例えば、線形補間、ラグランジュ補間、スプライン補間などを用いることができる。
【0019】
同第四の特徴構成は、上述した第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記制御値導出ステップは、掘削方向前方の土圧を予測して、予測した土圧値に基づいてシールドマシンの前記運転操作因子の推奨値を導出するものである点にある。
【0020】
掘削方向前方の土圧を予測することで、予測した土圧値に対応した適切なシールドマシンの運転操作因子の推奨値を導出することで、良好な自動運転が可能になる。
【0021】
同第五の特徴構成は、上述した第四の特徴構成に加えて、少なくとも土圧および所定の運転操作因子の実績値をデータセットとして機械学習を行うことで構築された学習済みモデルにより、掘削方向前方の土圧を予測する点にある。
【0022】
掘削方向前方の土圧を予測するために、少なくとも土圧および所定の運転操作因子の実績値をデータセットとして機械学習を行うことにより構築された学習済みモデルを用いることで、適切な運転操作因子が求まる。
【0023】
本発明によるシールドマシンの特徴構成は、外筒の前面に掘削刃を設けた回転体を備え、前記回転体をモータで駆動するとともに、前記外筒の後端を押圧機構で押圧しながら掘削するシールドマシンであって、上述した第一から第五の何れかの特徴構成を備えたシールドマシンの運転方法を実行することにより、前記回転体および前記押圧機構を制御する制御装置を備えている点にある。
【発明の効果】
【0024】
以上説明した通り、本発明によれば、掘削進路に沿ったN値を連続的に把握できない場合でも、可能な限り自動運転による掘削作業を可能にするシールドマシンの運転方法およびシールドマシンを提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2】(a)はN値推定ステップの説明図、(b)は推定されたN値に基づき、自動運転と手動運転を切り分ける閾値の説明図
【
図4】実測値に基づき機械学習装置で予測された予測値の特性説明図
【
図5】シールドマシンの運転方法を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明によるシールドマシンの運転方法およびシールドマシンを説明する。
【0027】
「シールド工法」とは、シールドマシンを後方に設置されたシールドジャッキで押し込んで地盤を掘削し、トンネルを築造する工法をいい、シールドマシンが進むと後方にセグメントと称するリング状の支保材を組み立て、当該セグメントでシールドジャッキの反力を受けて、さらにシールドマシンを推進させる工法をいう。
【0028】
図1に示すように、シールドマシン1は、本体胴部2の前部に、カッター駆動モータ4により回転駆動されるカッターヘッド3が設けられている。本体胴部2の後部にはシールドジャッキ5が配され、回転駆動されるカッターヘッド3が、セグメント13で反力を受けるシールドジャッキ5により押圧されることにより地中を掘削する。
【0029】
カッターヘッド3により掘削された土砂はカッターヘッド3に形成された土砂取込み口からカッターチャンバ6内に取込まれる。カッターチャンバ6は、隔壁7により本体胴部1と区画された密閉構造となっており、掘削添加剤注入口8から注入された掘削添加剤により流動化した土砂をカッターチャンバ6に充満させてカッターCの土圧に対抗する圧力が保持される。カッターヘッド3とカッターチャンバ6により掘削部が構成される。
【0030】
カッターチャンバ6内に取込まれた土砂は、カッターチャンバ6内で掘削添加剤と均一に混合されて塑性流動体化され、先端がチャンバ6内に突出した排土用のスクリューコンベア9を介して搬送され、スクリューコンベア9の後端に備えた排土バルブを介して排出される。符号11はスクリューコンベア駆動モータである。
【0031】
さらに、シールドマシン1には、方向修正や曲線施工を行うための中折れジャッキ12、ローリングを防止するスタビライザ、ジャッキ類の油圧源となる油圧ユニット、電動モータの給電源となる電源ユニット、制御装置を備えている。
【0032】
制御装置には、シールドマシンの状態を伝える各種センサの値が入力され、上述したカッター駆動モータ4、スクリューコンベア駆動モータ11、排土バルブ10、各種ジャッキ5,13,14などを制御することにより、所定の計画線に沿ってシールドマシン1が推進される。各種センサとして、土圧計、傾斜計、油圧系統に備えた圧力計、各種ジャッキのストロークを検出するストローク計、モータの回転数を検知するエンコーダ、モータの電流を検出する電流計などが含まれる。
【0033】
以下、制御装置により実行されるシールドマシンの運転方法について詳述する。シールドマシン1の運転方法は、断続的なN値の実測値および/または地質情報に基づいて、掘削進路に亘るN値を推定するN値推定ステップと、N値推定ステップで推定したN値が所定の閾値未満である掘削範囲において、掘削方向前方における土圧が予め設定された管理値の範囲に維持されるように、自動運転に必要なシールドマシンの所定の運転操作因子の推奨値を導出する制御値導出ステップと、を含む。
【0034】
主な運転操作因子として、シールドジャッキ5による推力、カッター駆動モータ4のカッター電流、排土バルブのゲート開度、スクリューコンベア回転数が採用される。
【0035】
図2(a)に示すように、事前のボーリング調査などにより、計画線である掘削経路に沿って地点A,BにおけるN値が其々a,bと判明している場合に、制御装置は、地点A,B間の任意の地点におけるN値を推定するN値推定ステップを実行する。
【0036】
つまり、N値推定ステップは、断続的なN値の実測値および/または地質情報を掘削進路に亘って補間した値を、掘削進路に亘るN値として推定するように構成されている。掘削区間の全域でN値を実測するのではなく、断続的なN値の実測値を掘削進路に亘って補間した値を採用する。補間アルゴリズムとして、
図2(a)の例では、線形補間法を採用しているが、N値の実測値が三点以上ある倍には、ラグランジュ補間法やスプライン補間法などを用いて曲線近似することで、補間の精度を高めることができる。
【0037】
N値推定の基礎となるN値は、事前のボーリング調査により得られた値に限らず、例えば過去に学術目的で調査された地質情報に含まれるN値などを用いることもできる。また、ボーリング調査が困難な場合などには、掘削進路上のN値でなくとも、掘削進路の近傍のN値を採用することができる。
【0038】
制御装置は、N値推定ステップで得られたN値の推定値が所定の閾値未満であり、軟質な土壌であると推定される範囲で、機械学習装置を用いて掘削方向前方の土圧を予測して、土圧値が予め設定された管理値の範囲に維持される土圧値となるように、シールドマシンの運転操作因子の推奨値を導出することにより、自動運転を実行する。一方、N値の推定値が所定の閾値を超え、硬質な土壌であると推定される範囲では、操作員による手動操作により掘削する。
【0039】
図2(b)に示すように、地点A,Bのボーリング調査で得られたN値a,bに基づいて中間位置のN値を線形補間により求めた場合に、地点A,B間の地点Cにける推定値が閾値cである場合に、N値が閾値cより小さな値の地点AからCの間は自動運転し、N値が閾値cより大きな値の地点CからBの間は手動運転することになる。
【0040】
制御装置により実行される制御値導出ステップは、掘削方向に所定距離前方の土圧を予測して、予測した土圧値に基づいてシールドマシンの運転操作因子の推奨値を導出する処理を繰返し実行するものである。
【0041】
掘削方向前方の土圧を予測することで、予測した土圧値に対応した適切なシールドマシンの運転操作因子の推奨値が導出できる。
【0042】
土圧値の予測に際して、例えばランダムフォレストを採用した機械学習装置を用いることができる。推力、カッター電流、ゲート開度、スクリューコンベア回転数を説明変数として、当該機械学習装置により目的変数となる土圧値を推定する。
【0043】
図3(a)に示すように、推力、カッター電流、ゲート開度、スクリューコンベア回転数を説明変数とし、土圧値を目的変数として、それらの実計測値を学習データ(教師データ)として準備し、当該学習データに基づいて説明変数に応じた目的変数が出力されるように、機械学習装置をチューニングする。
【0044】
次に、
図3(b)に示すように、チューニングした機械学習装置に、推力、カッター電流、ゲート開度、スクリューコンベア回転数でなる運転操作因子の初期値を入力して、掘削方向前方の土圧値を推定する。
土圧値の推定値が予め設定した管理値の許容範囲に入らない場合には、運転操作因子を初期値から順次更新して、機械学習装置による土圧値を推定する処理を土圧値の推定値が予め設定した管理値に入るまで繰返し、運転操作因子の推奨値を決定する。
【0045】
制御装置は、このようにして土圧値の推定値が予め設定した管理値の許容範囲に入る運転操作因子の推奨値に基づいてシールドマシンを自動制御する。
【0046】
図4は、このようにしてチューニングした機械学習装置を用いて土圧値を推定したときの推定値と実測値とを対比した特性が示されている。この時の決定係数R2は0.83であった。
【0047】
機械学習装置を用いて得られる運転操作因子の推奨値に基づいてシールドマシンを自動運転することにより、土圧値を許容範囲に維持することが可能であることが判明している。
【0048】
図5には、上述した制御装置により実行される運転制御の手順が示されている。
制御装置は、断続的に得られたN値に基づいて掘削進路に亘るN値を線形補間により推定し(S1)、推定N値が予め定めた閾値未満であれば(S2,Y)、自動運転モードに入り、運転操作因子の初期値を設定し(S3)、機械学習装置により掘削方向前方における土圧値を予測する(S4)。土圧値の予測値が予め設定されている管理範囲に入らない場合には(S5,N)、土圧値の予測値が予め設定されている管理範囲に入るまで、運転操作因子を初期値から順次更新しながら、ステップS4からステップS5の処理を繰り返す。土圧値の予測値が予め設定されている管理範囲に入る場合には(S5,Y)、運転操作因子の推奨値として設定値に決定して(S6)、自動運転制御を実行する(S7)。
【0049】
予め設定された掘削距離に達するまでの間は(S8,N)、ステップS2からステップS7の自動運転制御を継続し、予め設定された掘削距離に達すると(S8,Y)、ステップS2の推定N値の判定処理に戻る。なお、予め設定された掘削距離は、適宜設定される値であり、具体的な値に限定されるものではない。
【0050】
ステップS2で、推定N値が予め定めた閾値以上であれば、自動運転が困難と判断して(S2,N)、手動運転制御のモードに入り(S9)、推定N値が予め定めた閾値未満になるまで(S2,Y)、手動運転制御を継続する。
【0051】
上述した実施形態では、自動運転制御として、ランダムフォレストを採用した機械学習装置を用いて、運転操作因子の推奨値を求める例を説明したが、機械学習装置として、ランダムフォレスト以外の学習アルゴリズムを用いてもよい。例えば、教師データを用いて学習するニューラルネットワークなどの学習アルゴリズムを採用することも可能である。
【0052】
上述した実施形態では、自動運転制御として、機械学習装置を用いて運転操作因子の推奨値を求める例を説明したが、例えばPID制御のように、土圧センサで検出される土圧値に基づいて、フィードバック演算を実行することにより、運転操作因子の推奨値を算出し、算出結果に基づいて自動運転制御を実行してもよい。
【0053】
上述した実施形態では、機械学習装置を用いた土圧値の予測に対して寄与度が高い運転操作因子として、推力、カッター電流、ゲート開度、スクリューコンベア回転数の4種類を採用した例を説明した。しかし、土圧値を管理値に維持するための運転操作因子はこれらの4種類に限るものではなく、スクリューコンベアを駆動する電動モータの電流などを採用することも可能である。
【0054】
なお、シールドマシン1を所定の計画線に沿って推進するためには、土圧値の制御に加えて、中折れジャッキ12、タビライザなどの制御が別途必要となることは言うまでもない。
【0055】
上述した実施形態は何れも本発明の一例であり、該記載により本発明の技術的範囲が限定されるものではなく、本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0056】
1:シールドマシン
2:本体胴部
3:カッターヘッド
4:カッター駆動モータ
5:シールドジャッキ
6:カッターチャンバ
7:隔壁
8:掘削添加剤注入口
9:スクリューコンベア
C:カッター
CNT:制御装置