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2023-93834試料保持器およびそれを用いた開放形共振器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093834
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】試料保持器およびそれを用いた開放形共振器
(51)【国際特許分類】
   G01N 22/00 20060101AFI20230628BHJP
   H01P 7/06 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
G01N22/00 J
G01N22/00 Y
G01N22/00 V
H01P7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208912
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】597123515
【氏名又は名称】EMラボ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121946
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 泰広
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 由香里
【テーマコード(参考)】
5J006
【Fターム(参考)】
5J006HC02
5J006HC22
5J006LA02
5J006LA23
(57)【要約】
【課題】フィルム状または板状の試料の誘電特性をより高精度に測定するための試料保持器およびそれを用いた開放形共振器を提供する。
【解決手段】誘電特性を測定する試料を保持する試料保持器20は、磁性体26を有する第1の保持筐体としての保持筐体21Aと、保持筐体21Aに対向して配置され、磁性体26に対向する位置に磁石27を有する第2の保持筐体としての保持筐体21Bと、を備える。試料保持器20は、磁性体26と磁石27との間に生じる引力によって、保持筐体21Aと保持筐体21Bとの間に試料を挟持する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電特性を測定する試料を保持する試料保持器であって、
磁性体を有する第1の保持筐体と、
前記第1の保持筐体に対向して配置され、前記磁性体に対向する位置に磁石を有する第2の保持筐体と、を備え、
前記磁性体と前記磁石との間に生じる引力によって、前記第1の保持筐体と前記第2の保持筐体との間に前記試料を挟持する、
試料保持器。
【請求項2】
前記試料を保持した状態で、前記磁性体と前記磁石との間に間隙を有する、
請求項1に記載の試料保持器。
【請求項3】
前記第1の保持筐体または前記第2の保持筐体は、前記試料を配置する凹部を有する、
請求項1または2に記載の試料保持器。
【請求項4】
前記第1の保持筐体および前記第2の保持筐体うちの一方の保持筐体はガイドシャフトを有し、
前記一方の保持筐体と異なる他方の保持筐体は前記ガイドシャフトに沿って可動する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の試料保持器。
【請求項5】
前記試料を、試料保持板を介して保持する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の試料保持器。
【請求項6】
前記第1の保持筐体または前記第2の保持筐体は、前記試料の位置を調整する位置調整機構の台座に固定される、
請求項1~5のいずれか一項に記載の試料保持器。
【請求項7】
前記試料を垂直方向に保持する、
請求項1~6のいずれか一項に記載の試料保持器。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の試料保持器と、
前記試料保持器を挟んで、互いに対向して配置される2つの球面反射鏡を、備える、
開放形共振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体の誘電特性(複素比誘電率の実数部(比誘電率ε’)および誘電正接(tanδ))の測定に適した開放形共振器に関する。
【背景技術】
【0002】
車載レーダー、光通信、高速デジタル機器、などの応用分野において、ミリ波帯の周波数が用いられているが、レーダーにおける位置分解能の向上、光通信における通信速度の上昇、デジタル機器における処理の高速化が必須の課題となっており、使用されるミリ波の周波数はさらに高まっていくことが想定される。現状では、それぞれ、75-80GHz帯、50GHz帯、40GHz帯が最先端機器での使用周波数帯であるが、今後は100GHzを超える周波数が想定されている。また、第5世代通信網(5G)の次に来る第6世代通信網(6G)においては、330GHz帯まで使うことを想定した議論がなされている。これに伴い、それらの機器に使用される材料特性の測定においても、より高周波を用いた測定が必要となってきている。材料特性のうちでも、高周波化にともなうミリ波のエネルギー損失が大きな問題となることから、材料の誘電特性の測定が必須の課題となっている。
【0003】
ミリ波帯での誘電特性の測定においては、特にそのエネルギー損失の低減が重要な開発課題であることから、誘電正接(損失角、tanδ)の測定が重要であり、従来、共振器を用いた測定が主流である。スプリットシリンダー共振器はその代表的な装置であり、60GHz程度までの低損失材料の誘電正接の測定に用いられている。しかし、スプリットシリンダー共振器ではそれより高い周波数での誘電特性を正確に測定することが困難となってきており、それより上の周波数においては開放形共振器(ファブリペロ共振器)が適している(非特許文献1)。
【0004】
ファブリペロ共振器においては、互いに対向して配置された2つの球面反射鏡の間にフィルム状または板状に加工した試料を挿入し、例えば、100GHz程度の周波数の入力信号を入力して共振測定を行って共振波形を取得し、その試料の誘電特性を測定する。共振測定にはネットワークアナライザを用いることが多い。ネットワークアナライザをファブリペロ共振器につないで、横軸を周波数、縦軸を透過信号強度(透過係数)としたグラフ(共振波形)を取得し、共振特性を測定する。ここで、「共振特性」とは共振の中心周波数(共振周波数)とQ値(本明細書では中心周波数と3dBバンド幅の比を採用)のことである。試料があるときとないときの共振特性から試料の比誘電率と誘電正接を計算またはシミュレーションで求めるのが一般的である。
【0005】
ファブリペロ共振器では共振によって作られる定在波が存在し、定在波の腹の数が奇数となる周波数において、誘電特性の測定を行うことが通常である。測定試料は定在波全体の中心にある腹の中央に設置し、試料がない場合の共振特性と試料を設置した状態での共振特性との差分から誘電率を計算するため、試料位置が腹の中心からずれると、本来の共振特性の変化が生じず、誘電特性の測定に誤差が生じる。従来のファブリペロ共振器ではフィルム状の試料を水平の状態で保持している。貫通孔を有する試料台の上に試料を置き、その上に押えを置くことで試料を固定している。この方式は、任意の形状の試料を簡単に設置することができ、また、柔らかい試料でも設置することが容易であるので、従来のファブリペロ共振器に採用されている。この方式の採用は、従来必要とされていた入力信号の測定周波数が低く、波長が長い場合は、試料の設置位置精度に対する制約が緩いため、試料の設置位置精度よりも設置のしやすさが重視されことによる。
【0006】
ミリ波、サブミリ波においては、従来、用いられた周波数の信号に比べて大幅に波長が短くなり、ファブリペロ共振器を用いた誘電特性の測定において、試料の設置位置の精度への要求が厳しくなってきた。設置位置は、位置だけでなく、平面度が重要である。測定には自由空間の電磁波を用いるため、定在波の腹の位置は完全な平面であり、試料をその平面にたわみやずれなく平行に設置する必要がある。多くの場合、試料は樹脂フィルムであり、水平方向(重力方向と直角をなす方向)に置くと少しではあるが自重でのたわみが生じる。測定周波数がミリ波領域になると、この少しのたわみが波長に比べて無視できない大きさとなり、誤差が生じる。市場で要求される比誘電率の誤差の許容値は約1%であり、たわみによる比誘電率の測定誤差への寄与は0.1%程度に抑える必要がある。試料位置が位相換算で2度ずれると、比誘電率の測定誤差が約0.1%生じる。よって、試料位置は波長の1/180(=2/360)以内の精度で設置する必要がある。100GHzのミリ波の場合、これは17μm程度となり、小さなたわみも許容できなくなっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】A. L. CULLEN and P. K. YU, The accurate measurement of permittivity by means of open resonator, Proc. R. Soc. Lond. A. 325, 493-509 (1971)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
測定試料の設置時の位置精度を高めることにより、フィルム状または板状の試料の誘電特性をより高精度に測定することができる試料保持器およびそれを用いた開放形共振器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の試料保持器は、誘電特性を測定する試料を保持する試料保持器であって、磁性体を有する第1の保持筐体と、前記第1の保持筐体に対向して配置され、前記磁性体に対向する位置に磁石を有する第2の保持筐体と、を備え、前記磁性体と前記磁石との間に生じる引力によって、前記第1の保持筐体と前記第2の保持筐体との間に前記試料を挟持する。また、本開示の開放形共振器は、前記試料保持器と、前記試料保持器を挟んで、互いに対向して配置される2つの球面反射鏡を、備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示の試料保持器によれば、フィルム状または板状の試料の設置時のたわみやたるみを抑えることにより、試料の位置精度を高めることできるので、試料の誘電特性を高精度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1に係るファブリペロ共振器の模式図
図2】実施の形態1に係るファブリペロ共振器の試料保持器の斜視図
図3】実施の形態1に係るファブリペロ共振器の試料保持板への試料の取付を示す図
図4A】実施の形態1に係るファブリペロ共振器の試料保持器のZ方向から見た模式図
図4B図4Aに示す4B-4B断面線による断面を示す説明図
図4C図4Aに示す4C-4C断面線による断面を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係るファブリペロ共振器の模式図である。図1に示すように、実施の形態1に係るファブリペロ共振器100は、固定台10、第1の球面反射鏡11、第2の球面反射鏡12、試料保持器20、位置調整機構35および覆い50を有する。ファブリペロ共振器100は、開放形共振器の一例である。以下の説明では、図1に示すXYZ直交座標系を用いて説明し、X方向は上下方向、Y方向は前後方向、Z方向は左右方向に、それぞれ対応する。
【0013】
固定台10には、図1に示すように、第1の反射球面13を有する第1の球面反射鏡11と第2の反射球面14を有する第2の球面反射鏡12が、互いに対向して配置される。このとき、第1の反射球面13の中心と第2の反射球面14の中心とは、所定の球面間距離D0を有する。第1の反射球面13および第2の反射球面14の中心には、それぞれ第1の導波管41および第2の導波管42が配置され、第1の導波管41および第2の導波管42の球面側の先端開口部には、所望の共振特性を得る結合状態を形成するための微小の径を有する第1の結合孔15および第2の結合孔16がそれぞれ形成されている。第1の球面反射鏡11の第1の導波管41は試料の誘電特性の測定のための入力信号が入力される信号注入部であり、第2の球面反射鏡12の第2の導波管42は検出信号が出力される信号検出部である。
【0014】
図2は、試料保持器20の斜視図である。図2に示すように、試料保持器20は、互いに対向して配置される2つの保持筐体21A、21B、4つの磁性体26、4つの磁石27および2つのガイドシャフト28を有する。試料保持器は、図1に示すように、互いに対向する第1の球面反射鏡11と第2の球面反射鏡12との間に配置される。試料保持器20は、誘電特性の測定の対象となる試料33(図3参照)を取り付ける試料取付機構である(詳細は後述する)。
【0015】
保持筐体21Aには、図2に示すように、凹部22と貫通孔24Aが設けられている。凹部22は、-X方向、±Y方向および-Z方向側に壁を有し、+X方向および+Z方向側が開放された形状である。凹部22には、2つの試料保持板31A、31B(総称して、試料保持板31という)の間に試料33を挟んで保持した試料保持板31が載置される。貫通孔24Aは、凹部22に形成され、Z方向に貫通する円形状の孔である。保持筐体21Aには、図2に示すように、4つの磁性体26および2つのガイドシャフト28が取り付けられている。4つの磁性体26は、凹部22の外側であって保持筐体21Aの4つの角の近傍に、保持筐体21Bに対向するように配置される。2つのガイドシャフト28は、凹部22の外側にY方向に並んで配置され、保持筐体21Bの側(+Z方向)に突出している。保持筐体21Aは第1の保持筐体の一例である。
【0016】
保持筐体21Bには、図2に示すように、凸部23、貫通孔24Bおよび2つの軸受け孔29が設けられている。凸部23は、保持筐体21Aの凹部22と対応する位置に設けられ、-Z方向に突出し、凹部22との間で試料保持板31を挟持する。貫通孔24Bは、凸部23に形成され、Z方向に貫通する円形状の孔であり、貫通孔24Aと実質的の同一の径を有する。2つの軸受け孔29には、保持筐体21Aの2つのガイドシャフト28が、それぞれ挿通される。保持筐体21Bには、図2に示すように、4つの磁石27が取り付けられている。4つの磁石27は、凸部23の外側であって保持筐体21Bの4つの角の近傍に、保持筐体21Aに取り付けられた4つの磁性体26にそれぞれ対向するように配置される。4つの磁石27が4つの磁性体26に近づくと、4つの磁性体26との間に生じる引力が大きくなり、保持筐体21Bは、ガイドシャフト28に沿って、保持筐体21Aに引き寄せられ、試料保持板31は、保持筐体21Aの凹部22と保持筐体21Bの凸部23との間で挟持される。保持筐体21Bは第2の保持筐体の一例である。
【0017】
位置調整機構35は、図1に示すように、台座36およびマイクロメータ37を有する。台座36は固定台10(即ち、第1の球面反射鏡11および第2の球面反射鏡12)に対してZ方向に可動(スライド)するように設置されている。作業者はマイクロメータ37を操作することにより台座36を可動させることができる。台座36には、試料保持器20の保持筐体21Aが固定されている。即ち、作業者は、マイクロメータ37を操作して台座36を介して台座36に固定された試料保持器20を可動させることにより、試料保持器20に取り付けられた試料33のZ方向の位置を調整することができる。
【0018】
覆い50は、透明のアクリル板からなる前板、背板および前板と背板とを接続する天板を有してコの字形状に形成されている。図1に示すように、誘電特性の測定時においては、覆い50の前板、背板および天板は、それぞれファブリペロ共振器100の前面側、背面側および上面側を覆う。また、試料取付時においては、覆い50は上方にスライドされてファブリペロ共振器100から外され、第1の球面反射鏡11と第2の球面反射鏡12との間の空間(即ち、試料保持器20が配置される空間)が露出した状態となっている。
【0019】
図3は、ファブリペロ共振器100の試料保持板31への試料の取付を示す図である。2つの試料保持板31A、31Bは、円形状の貫通孔32A、32B(総称して、貫通孔32という)をそれぞれ有し、実質的に同一の形状を有する。2つの試料保持板31A、31Bの間に試料33を配置した状態で、2つの貫通孔32A、32Bが重なるように2つの試料保持板31A、31Bを重ね合わせることにより、試料33が試料保持板31に取り付けられる。この場合、貫通孔32から試料33が露出した状態となる。実施の形態1では、2つの試料保持板31A、31Bはアルミニウム製の板(アルミ板)である。2つの試料保持板31A、31Bとして他の非磁性の金属や樹脂の板を用いてもよい。
【0020】
次に、試料保持器20の詳細を説明する。図4Aは、試料33を保持した試料保持板31を挟持した状態における試料保持器20のZ方向から見た模式図であり、図4Bは、図4Aに示す4B-4B断面線による断面を示し、図4Cは、図4Aに示す4C-4C断面線による断面を示している。前述のように、4つの磁性体26と4つの磁石27との間に生じる引力によって、試料33を保持した試料保持板31は、保持筐体21Aの凹部22と保持筐体21Bの凸部23との間で挟持される(図4B参照)。この場合、図4Bに示すように、フィルム状の試料33は、XY平面に平行(即ち、垂直方向(重力方向と平行な方向))に、試料保持器20に保持される。また、試料保持板31が試料保持器20に挟持された状態で、貫通孔32A、32Bは貫通孔24A、24Bに対応した位置に配置される。実施の形態1では、貫通孔32A、32Bの径は貫通孔24A、24Bの径よりも小さい。貫通孔32A、32Bの径を貫通孔24A、24Bの径以下に設定することにより、試料33のたるみを抑えて保持筐体21Aの凹部22と保持筐体21Bの凸部23とにより確実に試料保持板31を挟持することができる。
【0021】
また、図4Cに示すように、試料33を保持した状態で、磁性体26と磁石27とは直接接触せず、間隙Gを有する。間隙Gを有することにより、直接接触している場合に比べて、試料保持板31を試料保持器20から取り外す際の保持筐体21Aから保持筐体21Bを遠ざける作業がしやすくなる。即ち、比較的容易に保持筐体21Aから保持筐体21Bを遠ざけることができるため、位置調整機構35等の他の構成要素に力が加わってそれらを動かしてしまうことを避けることができる。共振器本体が動くと、接続されている導波管やケーブルからの応力が変化し、対面している一対の球面反射鏡間の球面間距離D0が変化する。これにより、共振周波数が変化し、測定誤差となる。球面間距離D0の1μmの変化で、標準的な試料の場合、比誘電率で1%程度の誤差となる。実際、共振器本体の少しの動きでも数μmの変化が観測されているので、誤差としては数%程度になり、許容範囲外となる。磁性体26に直接接触してしまった磁石27を引きはがす際に共振器本体が動いてしまうかす危険を回避するためにも、磁石27が直接、磁性体26と接触しない構造としている。
【0022】
実施の形態1の試料保持器20では、磁性体26として、鉄製の皿ネジを用いている。これにより、容易に保持筐体21Aに磁性体26を取り付けることができる。また、磁性体26としてネジを用い、それを回転させることにより、磁性体26と磁石27との間隙Gを容易に調整することができる。
【0023】
実施の形態1のガイドシャフト28は、フッ素樹脂(PTFE:ポリテトラフルオロエチレン)製である。これにより、ガイドシャフト28と保持筐体21Bの軸受け孔29との間の摺動時の摩擦が小さくなり、磁石27の磁力を必要以上に大きくすることなく、保持筐体21Bを保持筐体21Aに引き寄せることができる。なお、ガイドシャフト28として、フッ素樹脂コーティングを施した金属製のシャフトを用いてもよいし、軸受け孔29にフッ素樹脂コーティングを施してもよい。
【0024】
(誘電特性の測定)
ファブリペロ共振器100による誘電特性の測定の手順(ステップ)は次の通りである。
1)ファブリペロ共振器100、ネットワークアナライザおよびコントローラをケーブルで接続する。
2)試料を装着しない状態(試料無)で、測定する共振周波数において、共振特性(第1の共振特性)を測定し共振波形のバンド幅からQ値Qemptyを求める。
3)測定する周波数における共振とその前後の共振とを合わせた5個の共振を測定し、5個の共振周波数から、反射球面間の球面間距離D0を計算で求める。
4)覆い50を外して試料33挟んだ試料保持板31を試料保持器20に装着した後、覆い50で第1の球面反射鏡11と第2の球面反射鏡12との間の空間を覆う。
5)マイクロメータ37を操作して、試料33の位置調整を行う(共振周波数が最小値を示す位置に試料33の位置を合わせる)。
6)試料33の位置調整がされた状態(試料有)で、測定する共振周波数において、共振特性(第2の共振特性)を測定し、試料33の挿入によって移動した共振の中心周波数(共振周波数Fsample)とQ値Qsampleを求める。
7)試料33の厚さt、球面間距離D0、試料を装着しない状態のQ値Qempty、試料を装着した状態の共振周波数Fsample、試料を装着した状態のQ値Qsampleから試料の比誘電率ε’と誘電正接tanδを計算で求める。
同一の試料33に対して複数の周波数で誘電特性を測定するときは、上記ステップ1)の後、上記ステップ2)および3)を測定対象のすべての周波数で行い、次に上記ステップ4)および5)を行った後、上記ステップ6)および7)を測定対象のすべての周波数で行う。
【0025】
上記ステップ4)においては、例えば、図2に示すように、保持筐体21Aから保持筐体21Bを遠ざけた状態で、試料33を挟んだ試料保持板31を保持筐体21Aの凹部に載置する。その後、保持筐体21Bを保持筐体21Aに近づけると、徐々に磁性体26と磁石27との間に生じる引力が大きくなり、保持筐体21Bは、ガイドシャフト28に沿って、自然と保持筐体21Aに引き寄せられる。このとき、試料保持板31は、保持筐体21Aの凹部22と保持筐体21Bの凸部23との間で挟持され、試料保持板31に挟まれている試料33は、高い平面度を保った状態で試料保持器20に保持される。
【0026】
(効果等)
前述の通り、誘電特性を測定する試料33を保持する試料保持器20は、磁性体26を有する保持筐体21Aと、保持筐体21Aに対向して配置され、磁性体26に対向する位置に磁石27を有する保持筐体21Bと、を備える。磁性体26と磁石27との間に生じる引力によって、保持筐体21Aと保持筐体21Bとの間に試料33を挟持する。これにより、機械的に単純かつ簡素な構成でフィルム状または板状の試料の設置時のたわみやたるみを抑えることができるとともに、小型の試料保持器20を構成することができる。
【0027】
例えば、バネやレバーを使って測定試料を保持しようとすると、そのための構造体が大きくなり、ファブリペロ共振器が無意味に大きくなってしまう。大きな構造体は、使い勝手が悪化するだけでなく、熱膨張や振動の影響を受けやすくなり、安定した共振が得られない。また、大きく複雑な金属の構造体は隙間、穴、突起などの形状を有しており、これらの形状はすべて何らかの「共振器」を形成する。複雑な凹凸のある構造は不要共振を生じさせ、共振器としての性能劣化につながる。さらに、レバーを用いた機構では、レバーを締める瞬間に加わる力により共振器本体が動いてしまう危険があり、共振器本体が動いた場合の誘電特性の測定に与える影響は前述のとおりである。また、ネジを用いて試料を挟んだ保持筐体を手作業で締め付ける構造では、まず、作業性が悪い。さらに、ネジの締め圧が各所で同一にならないことで、試料に不均一な圧力がかかり、試料の保持状態の形状に歪が生じる。この歪は、誘電特性の測定値に誤差を生じさせる。
【0028】
前述の通り、試料保持器20は、試料33を保持した状態で、磁性体26と磁石27との間に間隙Gを有する。これにより、様々な厚みを有する試料33に対応することができる。試料33の厚みには、数μmから200μm程度の範囲がある。特に、厚みの薄い試料33の場合、磁石27と磁性体26が直接に接触すると、試料33を確実に挟持できない可能性がある。また、同じ試料を再度装着した場合にも一定の力で試料を押さえるため、測定結果の再現性が高まる。
【0029】
前述の通り、試料保持器20の保持筐体21Aは、試料33が配置される凹部22を有する。これにより、保持筐体21Bの凸部23との間で確実に試料33を挟持することができる。
【0030】
前述の通り、試料保持器20の保持筐体21Aはガイドシャフト28を有し、保持筐体21Bはガイドシャフト28に沿って可動する。これにより、保持筐体21Aの凹部22と保持筐体21Bの凸部23との間に確実に試料33を挟持することができる。
【0031】
前述の通り、試料保持器20は、試料保持板31を介して試料33を保持する。これにより、比較的薄く、柔らかい試料33であっても、試料保持器20への装着が容易となるとともに、高い平面度を保って保持することができる。
【0032】
前述の通り、試料保持器20の保持筐体21Aは、試料33の位置を調整する位置調整機構35の台座36に固定される。これにより、保持筐体21Aが固定された状態で、保持筐体21Bをガイドシャフト28に沿ってスライドさせて、試料33を装着することができる。
【0033】
前述の通り、試料保持器20は、試料33を垂直方向に保持する。これにより、フィルム状の試料33の自重によるたわみを抑えた状態で、試料33を保持することができる。
【0034】
前述の通り、ファブリペロ共振器100は、試料保持器20と、試料保持器20を挟んで、互いに対向して配置される第1の球面反射鏡11および第2の球面反射鏡12を、備える。これにより、試料33が高い平面度を保って保持されている状態で、試料33の共振特性を測定することができ、試料33の誘電特性を高い精度で測定することができる。
【0035】
(他の実施の形態)
実施の形態1の試料保持器20では、保持筐体21Aの4つの角の近傍に4つの磁性体26をそれぞれ配置し、4つの磁性体26に対応する保持筐体21Bの位置に4つの磁石27をそれぞれ配置したが、磁性体26および磁石27の数は4つに限られず、試料33を保持することが可能であれば、3つ以下でも5つ以上でもよい。
【0036】
実施の形態1の試料保持器20では、保持筐体21Aに磁性体26を配置し、保持筐体21Bに磁石27を配置する構成を説明したが、磁性体26と磁石27を入れ替えて、保持筐体21Aに磁石を配置し、保持筐体21Bに磁性体を配置してもよい。また、磁石は磁性体の一種であるので、磁性体26を磁石として、保持筐体21Aと保持筐体21Bの両方に磁石を配置してもよい。
【0037】
実施の形態1の試料保持器20では、2つのガイドシャフト28とそれらに対応する2つの軸受け孔29とにより、2つの保持筐体21A、21Bの位置合わせを行う例を示したが、ガイドシャフト28とそれに対応する軸受け孔29の数は2つに限られず、1つでも3つ以上でもよい。また、実施の形態1の試料保持器20では、保持筐体21Aにガイドシャフト28を配置し、保持筐体21Bの軸受け孔29にガイドシャフト28を挿通する例を示したが、保持筐体21Bにガイドシャフトを配置し、保持筐体21Aに設けられた軸受け孔にガイドシャフトを挿通するように構成することもできる。
【0038】
実施の形態1では、試料33を試料保持板31に挟んだ状態で試料保持器20に保持する例を示した。試料33の自立性、厚みによっては、試料保持板31を用いることなく、試料33を直接、試料保持器20に挟持し保持することも可能である。この場合も、試料33は、4つの磁性体26と4つの磁石27との間に生じる引力によって、保持筐体21Aの凹部22と保持筐体21Bの凸部23との間で挟持され、十分な平面度を有して、試料保持器20に保持される。
【0039】
実施の形態1の試料保持器20では、試料33を挟んだ試料保持板31を保持筐体21Aの凹部22に配置し、保持筐体21Bの凸部23との間で挟持することにより、試料33を保持する例を説明した。保持筐体21Aに凸部を設け、その凸部に対応した凹部を保持筐体21Bに設け、保持筐体21Bに設けた凹部に試料33を挟んだ試料保持板31を配置し保持筐体21Bに設けた凸部との間で挟持することにより、試料33を保持することも可能である。
【0040】
実施の形態1では、試料保持器20により試料33が垂直方向に保持される例を説明したが、試料33は水平方向に保持されてもよい。即ち、ファブリペロ共振器100をZX平面に沿って90度回転させた状態で使用することもできる。前述のように、試料33を水平方向に配置した場合に生じるたわみを考慮すると、試料33の位置精度に対しては垂直方向の配置が有利である。しかしながら、試料33が水平方向に保持される場合であっても、試料33の剛性、厚み、試料保持板31の貫通孔32の大きさ等の条件によって、たわみが比較的小さい場合は、実施の形態1で説明した試料保持器20によって、試料33のたわみやたるみを抑えて、試料33を高精度に配置することができる。
【0041】
実施の形態1のファブリペロ共振器100では、信号注入部および信号検出部に第1の導波管41および第2の導波管42をそれぞれ用いた。測定周波数に応じて、第1の導波管41および第2の導波管42に代えて、先端にループアンテナを有する同軸ケーブルを用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の開放形共振器は、フィルム状または板状の試料の誘電特性をより高精度に測定することに適している。
【符号の説明】
【0043】
10 固定台
11 第1の球面反射鏡
12 第2の球面反射鏡
13 第1の反射球面
14 第2の反射球面
15 第1の結合孔
16 第2の結合孔
20 試料保持器
21A、21B 保持筐体
22 凹部
23 凸部
24A、24B 貫通孔
26 磁性体
27 磁石
28 ガイドシャフト
29 軸受け孔
31、31A、31B 試料保持板
32、32A、32B 貫通孔
33 試料
35 位置調整機構
36 台座
37 マイクロメータ
41 第1の導波管
42 第2の導波管
50 覆い
100 ファブリペロ共振器
D0 球面間距離
G 間隙
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C