(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093835
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】杖用石突及び杖
(51)【国際特許分類】
A45B 9/04 20060101AFI20230628BHJP
【FI】
A45B9/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208913
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000115784
【氏名又は名称】THKリズム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079359
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 進
(72)【発明者】
【氏名】久米 理絵
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 章文
(72)【発明者】
【氏名】島沢 利宏
【テーマコード(参考)】
3B104
【Fターム(参考)】
3B104DA01
3B104DB02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】異物により自在継手の機能が失われることを防止して耐久性に優れ、更により安全に安心して杖を突くことを可能とする。
【解決手段】杖本体に連結可能な杖用石突であって、上端側を杖本体に連結可能とするスタッド部1000と、スタッド部1000の下端側に設けられた球頭部1002とを備えるボールスタッド100と、球頭部1002を球頭受部1020に当接させて収容し、上端側にスタッド部1000が突出する開口部1022を設け、ボールスタッド100を傾動及び回動自在に保持するソケット102と、上端側にスタッド部1000が密接するように挿通される小径開口部1040が形成されると共に、下端側にソケット102に密接する大径開口部1042が形成され、弾性を有するブーツ104と、上端側がソケット102に保持され、下端側が地面に接地することになる接地体106と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
杖本体に連結可能な杖用石突であって、
一端側を前記杖本体に連結可能とするスタッド部と、前記スタッド部の他端側に設けられた球頭部とを備えるボールスタッドと、
前記ボールスタッドの前記球頭部を球頭受部に当接させて収容し、一端側に前記ボールスタッドの前記スタッド部が突出する開口部を設け、前記ボールスタッドを傾動及び回動自在に保持するソケットと、
一端側に前記ボールスタッドのスタッド部が密接するように挿通される第1開口部が形成されると共に、他端側にソケットに密接する第2開口部が形成され、弾性を有するブーツと、
一端側が前記ソケットに保持され、他端側が地面に接地することになる接地体と、
を備えたことを特徴とする杖用石突。
【請求項2】
請求項1記載の杖用石突であって、
前記ブーツの弾性力は、前記杖用石突が前記杖本体に連結され離地状態である場合に、前記杖本体と前記杖用石突との位置関係を所定の初期状態に戻すように設定されたことを特徴とする杖用石突。
【請求項3】
請求項2記載の杖用石突であって、
前記杖本体と前記杖用石突との位置関係を前記所定の初期状態に戻そうとする前記ブーツの弾性復元力が、前記ボールスタッドの前記球頭部の作動面と前記ソケットの前記球頭受部の作動面との摩擦力、及び前記ソケットから前記接地体までの重さによる位置変更力の合計よりも大きくなるように、前記ブーツの弾性力が設定されたことを特徴とする杖用石突。
【請求項4】
請求項2又は3記載の杖用石突であって、
前記杖用石突の軸と前記杖本体の軸とが一直線となる位置関係に前記杖用石突と前記杖本体が位置する状態を前記所定の初期状態とすることを特徴とする杖用石突。
【請求項5】
請求項2又は3記載の杖用石突であって、
前記杖用石突の軸に対して前記杖本体の軸が所定の角度で傾斜する位置関係に前記杖用石突と前記杖本体が位置する状態を前記所定の初期状態とすることを特徴とする杖用石突。
【請求項6】
請求項1乃至5何れかに記載の杖用石突であって、
前記接地体は、前記接地体の一端側が前記ソケットの他端側を覆うように密接した状態で前記ソケットに保持されたことを特徴とする杖用石突。
【請求項7】
請求項1乃至6何れかに記載の杖用石突と前記杖本体を連結させたことを特徴とする杖。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、障害者や老人等の体を支えて歩行を助ける杖、健康の維持増進目的のウォーキングポール等の、杖の先端に設けられる杖用石突、及び当該杖用石突を備えた杖に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、杖の先端に設けられた杖用石突は、地面に対して杖を突き立てた際に杖が地面に対して滑るのを防ぐために、地面との接地部にゴム等で形成された滑り止めを備えることで、杖の使用上の安全性を確保している。
【0003】
しかし、杖が地面に対して垂直となる場合には、杖用石突の接地部が十分に地面と接地することから、十分な滑り止め効果が発揮されて使用上の安全性を確保できるが、杖が地面に対して垂直ではない場合には、杖用石突の接地部が十分に地面と接地しないことから、十分な滑り止め効果が発揮されず、使用上の安全性を確保できない問題があった。
【0004】
そのため、杖の先端に自在継手を介して滑り止め体(杖用石突)を固着することで、杖が地面に対してどの角度になったとしても、常に滑り止め体が地面に対して垂直に当接し、十分な滑り止め効果が発揮され、使用上の安全性を確保することができる杖が提案されている(引用文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、引用文献1のような自在継手を用いた杖にあっては、自在継手のボール8が外部に露出した構造をしており、収納部9内への異物により自在継手が機能しなくなる懸念がある。
【0007】
例えば、経年劣化により切欠球状弧面部10の押えが緩み、ボール8と切欠球状弧面部10との隙間から収納部9内に異物が侵入する場合や、ボール8に付着した異物がボール8の回転により収納部9内に侵入する場合等が想定され、ボール8と硬質板13(又はボール受台13a)との間に異物が侵入した場合には、自在継手としての機能が低下・喪失して使用上の安全性が低下することや、ボール8と硬質板13との接触面の摩耗を早めることにより使用寿命を縮めることが懸念される。また、泥水等の水分が侵入した場合には収納部9内での錆付き等が発生することになり、使用寿命を更に縮めることとなる。
【0008】
また、従来の自在継手を用いた杖にあっては、杖が杖用石突を介して地面に接地している場合には、杖本体の角度に変化があったとしても、杖用石突の接地部は地面に対して十分に接地した状態を保っているが、一度杖用石突が地面から離れた場合には、杖用石突の接地部と地面との角度は一定を保つことなく、その角度は調整されなくなる場合がある。
【0009】
つまり、杖用石突が地面から離れた状態では、作動面の摩擦力(引用文献1にあってはボール8と硬質板13との接触面の摩擦力)が当該作動面よりも地面側に位置する杖用石突部分の重さによる位置変更力以上であれば、最後に地面に接地していた状態の杖本体と杖用石突との位置関係を維持する一方、当該作動面よりも地面側に位置する杖用石突部分の重さによる位置変更力が作動面の摩擦力を超えれば、重力の作用する方向に応じて杖用石突はその向きを変え、最後に地面に接地していた状態から杖本体と杖用石突との位置関係は変わってしまうこととなる。
【0010】
つまり、従来の杖を使用して歩行する場合には、杖の杖用石突は地面との接地と離地を繰り返すことになるが、杖が杖用石突を介して地面に接地する直前の状態において、杖本体と杖用石突との位置関係が一定に定まっていなく、杖を突く度に杖用石突が地面に接地する際の挙動が異なる可能性があり、安定した歩行を妨げることとなる。また、使用者が想定していない挙動をした場合には、転倒等の危険が生じて、使用上の安全性について問題を引き起こすことになる。
【0011】
本発明は、異物により自在継手の機能が失われることを防止して耐久性に優れ、更により安全に安心して杖を突くことを可能とする杖用石突、及び当該杖用石突を備えた杖を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(杖用石突)
本発明は、杖本体に連結可能な杖用石突であって、
一端側を杖本体に連結可能とするスタッド部と、スタッド部の他端側に設けられた球頭部とを備えるボールスタッドと、
ボールスタッドの球頭部を球頭受部に当接させて収容し、一端側にボールスタッドのスタッド部が突出する開口部を設け、ボールスタッドを傾動及び回動自在に保持するソケットと、
一端側にボールスタッドのスタッド部が密接するように挿通される第1開口部が形成されると共に、他端側にソケットに密接する第2開口部が形成され、弾性を有するブーツと、
一端側がソケットに保持され、他端側が地面に接地することになる接地体と、
を備えたことを特徴とする。
【0013】
(ブーツの弾性力)
ブーツの弾性力は、杖用石突が杖本体に連結され離地状態である場合に、杖本体と杖用石突との位置関係を所定の初期状態に戻すように設定される。
【0014】
(ブーツの弾性力の詳細)
杖本体と杖用石突との位置関係を所定の初期状態に戻そうとするブーツの弾性復元力が、ボールスタッドの球頭部の作動面とソケットの球頭受部の作動面との摩擦力、及びソケットから接地体までの重さによる位置変更力の合計よりも大きくなるように、ブーツの弾性力が設定される。
【0015】
ここで、「作動面」とは、ボールスタッドを傾動及び回動自在に動かす際に、ボールスタッドの球頭部とソケットの球頭受部との接触している面のことを指す。
【0016】
(杖本体と杖用石突との位置関係の初期状態1)
杖用石突の軸と杖本体の軸とが一直線となる位置関係に杖用石突と杖本体が位置する状態を所定の初期状態とする。
【0017】
(杖本体と杖用石突との位置関係の初期状態2)
杖用石突の軸に対して杖本体の軸が所定の角度で傾斜する位置関係に杖用石突と杖本体が位置する状態を所定の初期状態とする。
【0018】
(接地体がソケットに密接した状態での保持)
接地体は、接地体の一端側がソケットの他端側を覆うように密接した状態でソケットに保持される。
【0019】
(杖用石突と杖本体を連結させた杖)
また、本発明は、前述した杖用石突と杖本体を連結させた杖に関するものである。
【発明の効果】
【0020】
(基本的な効果)
本発明は、杖本体に連結可能な杖用石突であって、一端側を杖本体に連結可能とするスタッド部と、スタッド部の他端側に設けられた球頭部とを備えるボールスタッドと、ボールスタッドの球頭部を球頭受部に当接させて収容し、一端側にボールスタッドのスタッド部が突出する開口部を設け、ボールスタッドを傾動及び回動自在に保持するソケットと、一端側にボールスタッドのスタッド部が密接するように挿通される第1開口部が形成されると共に、他端側にソケットに密接する第2開口部が形成され、弾性を有するブーツと、一端側がソケットに保持され、他端側が地面に接地することになる接地体と、を備えたため、ボールスタッドの球頭部を収容したソケットの一端側の開口部がブーツにより完全に覆われており、ソケット内部に異物が侵入することを防ぎ、ボールスタッドの球頭部及びソケットの球頭受部の作動面の摩耗や錆付き等を抑制することができ、耐久性の高い杖用石突を提供することを可能とする。
【0021】
(ブーツの弾性力による効果)
また、ブーツの弾性力は、杖用石突が杖本体に連結され離地状態である場合に、杖本体と杖用石突との位置関係を所定の初期状態に戻すように設定され、具体的には、杖本体と杖用石突との位置関係を所定の初期状態に戻そうとするブーツの弾性復元力が、ボールスタッドの球頭部の作動面とソケットの球頭受部の作動面との摩擦力、及びソケットから接地体までの重さによる位置変更力の合計よりも大きくなるように、ブーツの弾性力が設定されるようにしたため、杖用石突が地面を離れると杖本体と杖用石突との位置関係は所定の初期状態に戻り、杖を突き始めるときに杖本体に対する杖用石突の相対位置を常に一定に保つことができ、杖の使用者は安全に安定した歩行をすることが出来る。
【0022】
また、ブーツの弾性復元力を利用して杖本体と杖用石突との位置関係を所定の初期状態に戻すようにしたことで、杖本体と杖用石突との位置関係を所定の初期状態に戻すための追加の機構や構成を不要とし、杖用石突を構成する部品点数を増やすことなく、安価に杖用石突の性能を向上させることを可能とする。
【0023】
(杖本体と杖用石突との位置関係の初期状態による効果)
また、杖用石突の軸と杖本体の軸とが一直線となる位置関係に杖用石突と杖本体が位置する状態を所定の初期状態とするか、又は杖用石突の軸に対して杖本体の軸が所定の角度で傾斜する位置関係に杖用石突と杖本体が位置する状態を所定の初期状態とするようにしたため、使用者が杖を突くときの地面に対する杖本体の角度を考慮して、所定の初期状態である杖本体と杖用石突との位置関係を設定することができ、杖の使用者はより安全に安定した歩行をすることが出来る。
【0024】
(接地体がソケットに密接した状態での保持による効果)
また、接地体は、接地体の一端側がソケットの他端側を覆うように密接した状態でソケットに保持されたことにより、ソケットの他端側への異物の侵入を防止することができるため、ソケットの他端側にボールスタッドの球頭部を収容する部分へ連通する穴が開口していても、杖用石突の耐久性を維持できる。よって、ソケットの他端側に開口部を有する構造の継手であっても、その開口部を閉塞するための部品を必要とせず、安価に杖用石突の性能を向上させることを可能とする。
【0025】
(杖用石突と杖本体を連結させた杖の効果)
前述した杖用石突と杖本体を連結させた杖についても、杖用石突と同じ効果を有するものであるから、その説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明に係る杖用石突を備えた杖の実施形態を示した説明図である。
【
図2】本発明に係る杖用石突の第1実施形態を示した断面図である。
【
図3】本発明に係るブーツの実施形態を示した断面図である。
【
図4】本発明に係る杖の接地状態と離地状態を示した説明図である。
【
図5】本発明に係る杖用石突の第2実施形態を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明に係る杖用石突及び杖の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。その内容については以下のように分けて説明する。
a. 杖の実施形態
b. 杖用石突の第1実施形態
c. 接地状態及び離地状態における杖本体と杖用石突の位置関係
d. 杖用石突の第2実施形態
e. 本発明の変形例
【0028】
尚、以下の実施形態により、この発明が限定されるものではない。また、本実施形態の説明において使用する「上下」は、使用時に地面側に位置する方を「下」として定義されたものである。
【0029】
[a.杖の実施形態]
図1は、本発明に係る杖の実施形態を示した説明図である。杖1は、杖用石突10、杖本体20により構成されるものである。
【0030】
杖本体20の下端側には中空部が形成されており、杖用石突10が備えるボールスタッドのスタッド部1000を杖本体20の中空部に挿入固定して、杖用石突10と杖本体20とを連結することで杖1となる。また、杖用石突10と杖本体20とに構成を分けずに一体としても良く、杖用石突10と杖本体20との連結方法はこれに限定されない。
【0031】
[b.杖用石突の第1実施形態]
図2は、本発明に係る杖用石突の第1実施形態を示した断面図である。杖用石突10は、ボールスタッド100、ソケット102、ブーツ104、接地体106により構成されるものである。
【0032】
ボールスタッド100は、上端側を杖本体20の中空部に挿入することで連結可能とするスタッド部1000と、スタッド部1000の下端側に設けられた球頭部1002とを備えるものであり、例えば金属等の剛性材で形成されたものである。尚、スタッド部1000の「上端側」は請求項における「一端側」に、「下端側」は請求項における「他端側」に対応する。
【0033】
ソケット102は、ボールスタッド100の球頭部1002を球頭受部1020に当接させて収容し、上端側にボールスタッド100のスタッド部1000が突出する開口部1022を設け、ボールスタッド100を傾動及び回動自在に保持するものである。また、ソケット102の下端側の開口部1024は、キャップ103をカシメや圧入等により固着させることで閉塞されている。
【0034】
尚、ソケット102の「上端側」は請求項における「一端側」に、「下端側」は請求項における「他端側」に対応し、ボールスタッド100を傾動及び回動自在に動かす際に、球頭受部1020の面と球頭部1002の球面の接触している面のことを、以下「作動面」と名称する。
【0035】
ブーツ104は、上端側にボールスタッド100のスタッド部1000が密接するように挿通される小径開口部1040が形成されると共に、下端側にソケット102に密接する大径開口部1042が形成され、弾性を有する、例えばゴム等の弾性材等で形成されたものである。また、ブーツ104でソケット102の上端側の開口部1022を覆うことで、ソケット102の収容部に水や埃等の異物が侵入することを防いでいる。
【0036】
尚、ブーツ104の「上端側」は請求項における「一端側」に、「下端側」は請求項における「他端側」に、「小径開口部1040」は請求項における「第1開口部」に、「大径開口部1042」は請求項における「第2開口部」に対応する。
【0037】
ここで
図3は、本発明に係る杖用石突の構成品であるブーツの一例を示した断面図である。
図3におけるブーツ104は、膜部1044の上端に小径開口部1040が形成され、膜部1044の下端に大径開口部1042が形成されている。また、大径開口部1042には、金属や合成樹脂等の高剛性体で形成された補強環1046が設けられている。
【0038】
そして、ブーツ104の大径開口部1042をソケット102に嵌め込むことでソケット102の上端側外周部とブーツ104の大径開口部1042の内周部を密接させた状態でソケット102とブーツ104とが取り付けられることになる。
【0039】
また、ソケット102が取り付けられると共に、ボールスタッド100のスタッド部1000の外周面に小径開口部1040の内周部を嵌め合わせることで、ボールスタッド100のスタッド部1000とブーツ104の小径開口部1040を密接させた状態でボールスタッド100とブーツ104とが取り付けられることになる。尚、取り付けに際し、小径開口部1040は弾性により拡径することで、スタッド部1000に設けられた鍔部10002を通過することができる。
【0040】
接地体106は、上端側がソケット102に保持され、下端側が杖を突く際に地面に接地するものである。また、接地体106は、歩行に際し安全性を確保するために、弾性を有する、例えばゴム等の弾性材等で形成され、下端側には複数の凹部による滑り止め部1060が形成されている。
【0041】
尚、接地体106の「上端側」は請求項における「一端側」に、「下端側」は請求項における「他端側」に対応する。
【0042】
そして、本実施形態の杖用石突10は、ソケット102の開口部1022がブーツ104により覆われることになり、またボールスタッド100のスタッド部1000は、弾性力のあるブーツ104の小径開口部1040に密接した状態で挿通されることから、砂等の侵入による作動面の摩耗や、泥水等の水分の侵入による作動面の錆付き等を確実に防止することができ、杖用石突として高い耐久性を有することになる。
【0043】
[c.接地状態及び離地状態における杖本体と杖用石突の位置関係]
図4は、本発明に係る杖について、接地状態と離地状態を示した説明図である。尚、
図4(A)は、地面に対して杖本体が垂直である場合の接地状態と離地状態を示し、
図4(B)は、地面に対して杖本体が垂直より傾斜している場合の接地状態と離地状態を示している。
【0044】
本発明に係る杖1にあっては、使用者が杖1を突いている間の接地状態では、杖用石突10のブーツ104が弾性を有することから、地面に対する杖本体2の角度に変化があった場合でも、杖用石突10の接地状態が解除されることなく、その接地状態を保つことから、接地体106の滑り止め部1060による滑り止め効果が十分な発揮され、歩行上の安全性が確保されている。尚、
図4では、地面が平坦な面である場合で示しているが、地面が傾斜面である場合も同様に、接地体106の滑り止め部1060による滑り止め効果が十分な発揮され、歩行上の安全性が確保されるものである。
【0045】
そして、本発明に係る杖1にあっては、使用者が再度別の場所に杖1を突くために杖1を地面から離して杖用石突10が地面を離れた離地状態では、杖用石突10と杖本体20との位置関係が所定の初期状態に戻ることになる。
【0046】
ここで、本実施形態の「所定の初期状態」とは、
図4(A)、(B)で示す杖の離地状態のように、杖用石突10の軸と杖本体20の軸が一直線となる位置関係に杖用石突10と杖本体20が位置する状態のことを指す。
【0047】
そして、本実施形態では、杖1の離地状態で杖用石突10と杖本体20との位置関係が初期状態に戻るようにするために、ブーツ104の持つ弾性力が調整されている。具体的には、杖用石突10の軸と杖本体20の軸が一直線となる位置関係にない場合に、杖用石突10と杖本体20との位置関係を初期状態に戻そうとするブーツ104の弾性復元力を、ボールスタッド100の球頭部1002の作動面とソケット102の球頭受部1020の作動面との摩擦力、及びソケット102から接地体106までの重さによる位置変更力の合計よりも大きくなるように、ブーツ104の弾性力を設定することで、杖1の離地状態で杖用石突10と杖本体20との位置関係が初期状態に戻るようにしている。
【0048】
つまり、(ブーツ104の弾性復元力)>(作動面の摩擦力)+(位置変更力)を満たす場合に、杖1の離地状態で杖用石突10と杖本体20との位置関係を初期状態に戻すことができるということになる。
【0049】
そして、本実施形態では、杖1の離地状態において、杖用石突10と杖本体20との位置関係が初期状態に戻ることから、杖を突き始めるときに杖本体に対する杖用石突の相対位置を常に一定に保ち、使用者は毎回同じ挙動で杖を突くことができ、転倒等の危険を引き起こす等の問題がなくなることから、安全に安定した歩行をすることができる杖を提供することを可能とする。
【0050】
また、ブーツ104の弾性復元力を利用して杖用石突10と杖本体20との位置関係を所定の初期状態に戻すようにしたことで、杖用石突10と杖本体20との位置関係を所定の初期状態に戻すための追加の機構や構成を不要とし、杖用石突10を構成する部品点数を増やすことなく、安価に杖用石突10の性能を向上させることを可能とする。
【0051】
[d.杖用石突の第2実施形態]
図5は、本発明に係る杖用石突の第2実施形態を示した断面図である。基本的に第1実施形態と同様であるが、ソケット102の下端側の開口部1024がキャップ103で閉塞されていない点で第1実施形態とは異なる。
【0052】
これは、本実施形態に於いて、接地体106の上端側内周部をソケット102の下端側外周部に密接させ、接地体106の上端側でソケット102の下端側を覆うようにしたことで、ソケット102の下端側への砂等の侵入や泥水等の水分の侵入を防止することができるためである。そして、本実施形態では、ソケット102の下端側の開口部1024をキャップ103等の別部品を使って閉塞する必要がなくなるため、ソケット102の下端側が開口する構造の場合には部品点数を削減できる効果がある。
【0053】
また、接地体106の上端側内周部をソケット102の下端側外周部に密接させる方法は、接地体106の弾性力によるソケット102への嵌合や、接地体106とソケット102の接着等、密封性が得られる方法ならば適宜の方法で良い。
【0054】
[e.本発明の変形例]
本発明は上記の実施形態に限定されず、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【0055】
(ブーツの構成)
図3に示すブーツ104の実施形態は一例であり、ボールスタッド100の球頭受部1002を収容するソケット102の上端側の開口部1022を覆い、ソケット102内の収容部に水や埃等の異物が侵入することを防止することが可能な弾性を有する構造であれば、適宜の構成として良い。
【0056】
(ボールスタッド、ソケット及びブーツの取り付け方法)
本実施形態におけるボールスタッド100、ソケット102及びブーツ104の取り付け方法の実施形態は一例であり、これに限定されず他の取り付け構造・方法を採用しても良い。
【0057】
(所定の初期状態における杖用石突と杖本体との位置関係)
本実施形態では、杖用石突10の軸と杖本体20の軸が一直線となる位置関係に杖用石突10と杖本体20が位置する状態を「所定の初期状態」としていたが、必ずしも使用者が地面に対して杖本体20を垂直した状態で杖を突くとは限らず、地面に対して杖本体20を垂直より傾斜させて突く場合の方が多く想定されることから、杖用石突10の軸に対して杖本体20の軸が所定の角度で傾斜する位置関係に杖用石突10と杖本体20が位置する状態を「所定の初期状態」としても良い。
【符号の説明】
【0058】
1:杖
10:杖用石突
100:ボールスタッド
1000:スタッド部
10002:鍔部
1002:球頭部
102:ソケット
1020:球頭受部
1022、1024:開口部
103:キャップ
104:ブーツ
1040:小径開口部
1042:大径開口部
1044:膜部
1046:補強環
106:接地体
20:杖本体