(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093839
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】架空配電設備設計システムおよび架空配電設備設計プログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 13/00 20060101AFI20230628BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20230628BHJP
H02G 1/02 20060101ALN20230628BHJP
【FI】
H02J13/00 301J
H02J3/00 170
H02J13/00 301A
H02G1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208925
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 友一
(72)【発明者】
【氏名】丸山 泰廣
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
5G352
【Fターム(参考)】
5G064BA02
5G064CB06
5G064DA03
5G066AA03
5G066AE03
5G066AE07
5G066AE09
5G352AB09
5G352AD04
5G352AM05
5G352AM06
(57)【要約】
【課題】工事対象の架空配電設備の配設状態を事前にイメージさせることを可能にする。
【解決手段】 既設の架空配電設備の配設位置を含む設備情報を記憶する設備情報データベース3と、架空配電設備を設置する際に遵守すべき遵守事項を記憶する遵守事項データベース4と、工事対象の架空配電設備の配設場所候補の周辺を撮影して周辺画像を生成するスマートフォン2と、配設場所候補の位置情報と周辺画像が入力されると、位置情報と周辺画像と設備情報に基づいて、遵守事項を遵守するように工事対象の架空配電設備と必要に応じてその周辺の架空配電設備の配設位置を含む設計事項を演算し、その演算結果に基づいて、工事対象の架空配電設備が配設された場合のイメージ画像を生成する設計サーバ5と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の架空配電設備の配設位置を含む設備情報を記憶する設備情報記憶手段と、
架空配電設備を設置する際に遵守すべき遵守事項を記憶する遵守事項記憶手段と、
工事対象の架空配電設備の配設場所候補の周辺を撮影して周辺画像を生成する撮影手段と、
前記配設場所候補の位置情報と前記周辺画像が入力されると、前記位置情報と前記周辺画像と前記設備情報に基づいて、前記遵守事項を遵守するように前記工事対象の架空配電設備と必要に応じてその周辺の架空配電設備の配設位置を含む設計事項を演算し、その演算結果に基づいて、前記工事対象の架空配電設備が配設された場合のイメージ画像を生成する演算手段と、
を備えることを特徴とする架空配電設備設計システム。
【請求項2】
前記演算手段は、前記周辺画像中において前記工事対象の架空配電設備が配設された場合の状態を示す画像を、前記イメージ画像として生成する、
ことを特徴とする請求項1に記載の架空配電設備設計システム。
【請求項3】
前記演算手段は、前記工事対象の架空配電設備が配設された場合の平面状態を示す画像を、前記イメージ画像として生成する、
ことを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の架空配電設備設計システム。
【請求項4】
前記撮影手段は、画像を表示する表示部を備え、
前記演算手段は、前記イメージ画像を前記表示部に表示させる、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の架空配電設備設計システム。
【請求項5】
前記設備情報として、各需要家の契約電力および使用電力量の少なくとも一方が記憶されている、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の架空配電設備設計システム。
【請求項6】
前記演算手段は、前記配設場所候補の位置情報と前記周辺画像が入力されると、前記遵守事項を遵守する前記設計事項が出力されるように、過去の実績データに基づいて機械学習された設計用学習モデルを用いる、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の架空配電設備設計システム。
【請求項7】
コンピュータを、
既設の架空配電設備の配設位置を含む設備情報を記憶する設備情報記憶手段と、
架空配電設備を設置する際に遵守すべき遵守事項を記憶する遵守事項記憶手段と、
工事対象の架空配電設備の配設場所候補の位置情報と周辺画像が入力されると、前記位置情報と前記周辺画像と前記設備情報に基づいて、前記遵守事項を遵守するように前記工事対象の架空配電設備と必要に応じてその周辺の架空配電設備の配設位置を含む設計事項を演算し、その演算結果に基づいて、前記工事対象の架空配電設備が配設された場合のイメージ画像を生成する演算手段、
として機能させることを特徴とする架空配電設備設計プログラム。
【請求項8】
前記演算手段は、前記配設場所候補の位置情報と前記周辺画像が入力されると、前記遵守事項を遵守する前記設計事項が出力されるように、過去の実績データに基づいて機械学習された設計用学習モデルを用いる、
ことを特徴とする請求項7に記載の架空配電設備設計プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電柱や電線などの架空配電設備の設計を行う架空配電設備設計システムおよび架空配電設備設計プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
架空配電設備を設計する場合、従来、専門的な知識や経験を有する技術員が現地へ赴き、電柱や支線などの新設、取り替えを要する場合には、電柱の施設位置などについて地権者と交渉して決定する。また、電柱などの新設、取り替えに加えて、電線の張替えを要する場合には、電線が支持される隣接する架空配電設備の状況を把握する。すなわち、電柱などの強度および電線を含む既存設備の地上高さ、他物との離隔距離などを把握する。そして、新設あるいは取り替える電柱などの強度、電線、機器などの地上高さ、他物等との離隔などについて、所定の規程に適合するように設計するとともに、各需要家の契約電力や使用電力量等に基づいて、電線の径や変圧器容量(架空配電設備の大きさ)が所定の規程に適合するように設計する。
【0003】
このように、従来、架空配電設備の設計を人手で行っていたため、多大な労力と時間を要するばかりでなく、技術員のスキルによって設計品質に優劣・バラツキが生じるおそれがあった。このため、架空線を架設する際に電力供給計画に基づいて、設計および工事計画を効率的に行うことを可能にする、という架空線架設管理システムが知られている(例えば、特許文献1参照。)。このシステムは、既設設備データベースと工事基準データベースを具備し、電力供給計画に基づいて、データベースを参照しながら架設する電線を選定するとともに、架設方式やルートなどを選定、設計するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電柱や支線などの新設や取り替えを行う場合、地権者は、どこにどのように電柱や支線などが設置されるかを事前に知りたいものである。そして、事前に配設状態がイメージできれば、地権者からの了承を受けやすかったり、地権者にとって望ましい場所に設置したりすることが可能となる。しかしながら、特許文献1に記載の架空線架設管理システムでは、設計および工事計画を効率的に行うことを可能にはするが、事前に配設状態をイメージさせることはできない。
【0006】
そこで本発明は、工事対象の架空配電設備の配設状態を事前にイメージさせることを可能にする、架空配電設備設計システムおよび架空配電設備設計プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、既設の架空配電設備の配設位置を含む設備情報を記憶する設備情報記憶手段と、架空配電設備を設置する際に遵守すべき遵守事項を記憶する遵守事項記憶手段と、工事対象の架空配電設備の配設場所候補の周辺を撮影して周辺画像を生成する撮影手段と、前記配設場所候補の位置情報と前記周辺画像が入力されると、前記位置情報と前記周辺画像と前記設備情報に基づいて、前記遵守事項を遵守するように前記工事対象の架空配電設備と必要に応じてその周辺の架空配電設備の配設位置を含む設計事項を演算し、その演算結果に基づいて、前記工事対象の架空配電設備が配設された場合のイメージ画像を生成する演算手段と、を備えることを特徴とする架空配電設備設計システムである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の架空配電設備設計システムにおいて、前記演算手段は、前記周辺画像中において前記工事対象の架空配電設備が配設された場合の状態を示す画像を、前記イメージ画像として生成する、ことを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の架空配電設備設計システムにおいて、前記演算手段は、前記工事対象の架空配電設備が配設された場合の平面状態を示す画像を、前記イメージ画像として生成する、ことを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1から3に記載の架空配電設備設計システムにおいて、前記撮影手段は、画像を表示する表示部を備え、前記演算手段は、前記イメージ画像を前記表示部に表示させる、ことを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1から4に記載の架空配電設備設計システムにおいて、前記設備情報として、各需要家の契約電力および使用電力量の少なくとも一方が記憶されている、ことを特徴とする。
【0012】
請求項6の発明は、請求項1から5に記載の架空配電設備設計システムにおいて、前記演算手段は、前記配設場所候補の位置情報と前記周辺画像が入力されると、前記遵守事項を遵守する前記設計事項が出力されるように、過去の実績データに基づいて機械学習された設計用学習モデルを用いる、ことを特徴とする。
【0013】
請求項7の発明は、コンピュータを、既設の架空配電設備の配設位置を含む設備情報を記憶する設備情報記憶手段と、架空配電設備を設置する際に遵守すべき遵守事項を記憶する遵守事項記憶手段と、工事対象の架空配電設備の配設場所候補の位置情報と周辺画像が入力されると、前記位置情報と前記周辺画像と前記設備情報に基づいて、前記遵守事項を遵守するように前記工事対象の架空配電設備と必要に応じてその周辺の架空配電設備の配設位置を含む設計事項を演算し、その演算結果に基づいて、前記工事対象の架空配電設備が配設された場合のイメージ画像を生成する演算手段、として機能させることを特徴とする架空配電設備設計プログラムである。
【0014】
請求項8の発明は、請求項7に記載の架空配電設備設計プログラムにおいて、前記演算手段は、前記配設場所候補の位置情報と前記周辺画像が入力されると、前記遵守事項を遵守する前記設計事項が出力されるように、過去の実績データに基づいて機械学習された設計用学習モデルを用いる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1および請求項7に記載の発明によれば、工事対象の架空配電設備の配設場所候補の位置情報および周辺画像と、既設の架空配電設備の設備情報に基づいて、遵守事項を遵守するように工事対象の架空配電設備などに対する設計事項が演算される。そして、その演算結果に基づいて、工事対象の架空配電設備が配設された場合のイメージ画像が生成されるため、架空配電設備の配設状態を地権者や設計者などに事前にイメージさせることが可能となる。この結果、地権者から容易に了承を受けたり、地権者にとって望ましい場所に設置したり、あるいは、設計者が演算結果を検証してより適正な設計を行ったりすることが可能となる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、周辺画像中において工事対象の架空配電設備が配設された場合の状態を示す画像が、イメージ画像として生成されるため、工事対象の架空配電設備を配設することで、撮影した周辺画像がどのように変わるかを把握することができる。すなわち、工事対象の架空配電設備の配設前後の状態を容易に把握することができるため、地権者や設計者などへの利便性がより高まる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、工事対象の架空配電設備が配設された場合の平面状態を示す画像が、イメージ画像として生成されるため、工事対象の架空配電設備を配設することで、平面状態がどのように変わるかを把握することができ、地権者や設計者などへの利便性がより高まる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、生成されたイメージ画像が撮影手段の表示部に表示されるため、撮影手段で架空配電設備の配設場所候補の周辺を撮影した後に、その場でイメージ画像を撮影手段の表示部に表示させることができる。つまり、配設場所候補の現地で撮影してイメージ画像を見ることができるため、地権者や設計者などへの利便性がより高まる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、各需要家の契約電力や使用電力量が設備情報として記憶され、これらの情報に基づいて工事対象の架空配電設備などに対する設計事項が演算されるため、より適正に設計事項を演算することが可能となる。
【0020】
請求項6および請求項8に記載の発明によれば、機械学習された設計用学習モデルを用いて工事対象の架空配電設備などに対する設計事項が出力されるため、より適正に設計事項を演算することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】この発明の実施の形態に係る架空配電設備設計システムを示す概略構成図である。
【
図2】
図1の架空配電設備設計システムの設計サーバの概略構成ブロック図である。
【
図3】
図1の架空配電設備設計システムのスマートフォンで撮影された周辺画像を示す図である。
【
図4】
図1の架空配電設備設計システムで生成された第1のイメージ画像を示す図である。
【
図5】
図1の架空配電設備設計システムで生成された第2のイメージ画像を示す図である。
【
図6】
図2の設計サーバの設計用学習モデルの概略構成を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0023】
図1~
図6は、この発明の実施の形態を示し、
図1は、この実施の形態に係る架空配電設備設計システム1を示す概略構成図である。この架空配電設備設計システム1は、電柱Pや電線Lなどの架空配電設備の設計を行うシステムであり、この実施の形態では、電力事業者が架空配電設備を設計する場合について説明する。
【0024】
この架空配電設備設計システム1は、主として、スマートフォン(撮影手段)2と、設備情報データベース(設備情報記憶手段)3と、遵守事項データベース(遵守事項記憶手段)4と、設計サーバ(演算手段)5と、を備える。
【0025】
スマートフォン2は、既製・既存の多機能携帯端末と同等の構成でカメラ機能を備え、電力事業者の技術員(設計者)Mなどが携帯して、工事対象の架空配電設備の配設場所候補の周辺を撮影して周辺画像を生成する。また、タッチパネル(表示部)を備え、画像や文字を表示したり、情報や指令を入力したりできるようになっている。さらに、自己の位置情報(緯度、経度)を検出するためのGPS機能を備え、配設場所候補の位置情報と周辺画像を取得できるようになっている。すなわち、この実施の形態では、工事対象の架空配電設備の配設場所候補の近くで、つまり、新設や取り替えを予定している場所の近くで、技術員Mがスマートフォン2で配設場所候補の周辺を撮影すると、周辺画像を生成するとともに、スマートフォン2つまり技術員Mの位置情報を取得する。
【0026】
ここで、技術員Mの位置と配設場所候補(工事対象の架空配電設備)の位置とは同位置ではないが、後述する設計サーバ5において設備情報を参照することで、配設場所候補を特定できる場合がある。あるいは、周辺画像において配設場所候補を指定したり、配設場所候補に標識を設けた状態で撮影して、周辺画像上で配設場所候補を特定できるようにしたりしてもよい。
【0027】
このようにして生成、取得した配設場所候補の位置情報と周辺画像を設計サーバ5に送信することで、設計サーバ5において後述するような設計が行われる。
【0028】
設備情報データベース3は、既設の架空配電設備の配設位置を含む設備情報を記憶するデータベースである。すなわち、地図上に電柱Pや電線Lなどの各架空配電設備の配設位置を示す配電系統図(平面図)を記憶するとともに、各架空配電設備の大きさ・容量、例えば、電柱Pの強度・種類(コンクリート柱か金属柱かなど)や長さ、電線Lの径(許容電流値)、柱上変圧器の容量などを記憶する。
【0029】
さらに、各需要家の契約電力および使用電力量(月平均値など)が記憶され、これらのデータ・情報は、契約を管理するサーバや使用電力量・料金を管理するサーバなどから送信されて記憶される。ここで、このような設備情報データベース3を複数のデータベースで構成してもよいし、遵守事項データベース4などと一体で構成してもよい。
【0030】
遵守事項データベース4は、保安・安全などの観点から、架空配電設備を設置する際に遵守すべき遵守事項を記憶するデータベースであり、法律上の規定事項や社内上の規定事項などを記憶する。具体的には、電柱Pの種類ごとの許容強度や複数の規定された長さ、電線Lの径ごとの許容電流値、柱上変圧器の型式ごとの容量などが記憶されている。また、架空配電設備ごとに、隣接物(他の架空配電設備、建物や樹木など)との最小離隔距離、地上からの最小配設高さ、電線Lの配設間隔などが記憶されている。
【0031】
設計サーバ5は、工事対象の架空配電設備の配設位置などを設計したり、工事対象の架空配電設備が配設された場合のイメージ画像を生成したりするサーバであり、
図2に示すように、主として、入力部51と、通信部52と、演算タスク(演算手段)53と、学習タスク54と、設計用学習モデル55と、設計用実績データベース56と、これからを制御などする中央処理部57と、を備える。
【0032】
入力部51は、各種情報・指令を入力するためのインターフェイスであり、例えば、任意のタイミングで演算タスク53を起動させるための起動指令を入力したりする。通信部52は、外部と通信するためのインターフェイスであり、例えば、スマートフォン2と情報・データを送受信したり、設備情報データベース3および遵守事項データベース4から情報・データを取得したりする。
【0033】
演算タスク53は、工事対象の架空配電設備等の配設位置を含む設計事項を演算したり、イメージ画像を生成したりするためのプログラム・タスクであり、スマートフォン2から配設場所候補の位置情報と周辺画像を受信すると起動される。まず、工事対象の架空配電設備(以下、適宜「工事対象設備」という)の配設場所候補の位置情報および周辺画像と、既設の架空配電設備の設備情報とに基づいて、遵守事項を遵守するように工事対象の架空配電設備と、必要に応じてその周辺の架空配電設備(以下、適宜「周辺設備」という)の配設位置を含む設計事項を演算する。すなわち、工事対象設備を配設場所候補の周辺に配設しようとする場合に、遵守事項を遵守するように、工事対象設備の配設位置や大きさ・容量などを設計したり、必要に応じて周辺設備の配設位置や大きさ・容量などを設計したりする。
【0034】
例えば、
図1の電柱Pを取り替える場合、この電柱Pを工事対象設備として周辺画像が撮影され、
図3に示すような周辺画像と位置情報とを受信すると、電柱Pが配設されている場所つまり配設場所候補に新たな電柱Pを配設する場合の配設位置や大きさ・容量などを設計する。この際、周辺画像を画像解析して周辺画像中の設備や建物などの位置、寸法を取得し、電柱Pの許容強度や隣接物との最小離隔距離などの遵守事項を遵守するように、電柱Pの配設位置や種類、長さなどを設計する。それと同時に、この電柱Pの設計に伴って変更、新設などを要する周辺設備に対しても設計を行う。例えば、周辺設備としての電線Lに対して、許容電流値や隣接物との最小離隔距離、地上からの最小配設高さなどの遵守事項を遵守するように、電線Lの径や配設位置(架設ルート)、地上からの配設高さなどを設計する。同様に、周辺設備としての柱上変圧器などに対しても、必要に応じて配設位置や容量、地上からの配設高さなどを設計する。
【0035】
このような設計に際して、周辺需要家の契約電力や使用電力量も考慮して、遵守事項を遵守するように設計にする。すなわち、契約電力や使用電力量に対して電線Lの許容電流値や柱上変圧器の許容電力などの遵守事項を遵守するように、電線Lの径や柱上変圧器の容量などを設計する。さらに、工事費が最小になるように設計する。例えば、電柱の長さや強度・種類、電線Lの径、柱上変圧器の容量が過大・過剰にならないように設計する。
【0036】
ここで、このような設計・演算をさせる際に、工事対象設備の種類や取り替え、新設などの工事内容をスマートフォン2から指定、入力して演算タスク53を起動してもよいし、所定のルールに従って工事内容を演算タスク53で割り出してもよい。例えば、上記のように、周辺画像に既設の電柱Pのみが撮影されている場合に、工事内容をこの電柱Pの取り替えと割り出してもよい。また、上記のように、既存の架空配電設備が工事対象設備の場合には、既存の架空配電設備の配設位置が配設場所候補となる場合があるが、上記のように、周辺画像で指定された場所を配設場所候補としたり、周辺画像上で標識がある場所を配設場所候補としたりしてもよい。
【0037】
次に、演算結果に基づいて、工事対象設備が配設された場合のイメージ画像を生成する。つまり、演算結果・設計どおりに工事対象設備や周辺設備が配設された場合に、どのような状態になるかをシミュレーションした画像を生成する。具体的には、
図4に示すように、スマートフォン2からの周辺画像中において工事対象設備が配設された場合の状態を示す画像を、第1のイメージ画像G1として生成する。すなわち、工事前の状態つまり現状が撮影された周辺画像(図中実線)中において、工事後に工事対象設備や必要に応じてその周辺設備(図中破線で示す設備)がどのように配設されるかを示す第1のイメージ画像G1を生成する。
【0038】
さらに、
図5に示すように、工事対象設備が配設された場合の平面状態を示す画像を、第2のイメージ画像G2として生成する。すなわち、設備情報データベース3に記憶された工事前の状態を示す配電系統図(図中実線)上に、工事後に工事対象設備や周辺設備(図中破線で示す設備)がどのように配設されるかを示す平面図を、第2のイメージ画像G2として生成する。
【0039】
そして、このようにして生成したイメージ画像G1、G2をスマートフォン2に送信することで、スマートフォン2のタッチパネルにイメージ画像G1、G2を表示させるものである。
【0040】
このような演算タスク53は、配設場所候補の位置情報と周辺画像が入力されると、この位置情報および周辺画像と既設の架空配電設備の設備情報に基づいて、遵守事項を遵守する設計事項が出力されるように、過去の実績データに基づいて機械学習された設計用学習モデル55を用いる。この設計用学習モデル55は、学習タスク54によって作成される。
【0041】
すなわち、学習タスク54は、設計用実績データベース56に記録・蓄積されている過去の実績データを用いて、ニューラルネットワーク等の公知の機械学習アルゴリズムにより設計用学習モデル55を作成する。この設計用実績データベース56は、入力情報としての配設場所候補の位置情報と周辺画像と設備情報に基づいて、架空配電設備を設計する専門家が遵守事項を遵守するように設計した設計事項を含む実績データが記録・蓄積されているデータベースである。なお、過去の実績データには、実際の配設場所候補の位置情報と周辺画像と設備情報と、架空配電設備を設計する専門家が実際に設計した設計事項とに基づいて作成されたデータの他、事前訓練などで作成されたデータなどが含まれる。
【0042】
この学習タスク54は、
図6に示すように、ニューラルネットワークを利用した機械学習・深層学習を用い、設計用実績データベース56に記録されている実績データに基づいて、例えば、配設場所候補の位置情報と周辺画像と設備情報を入力層、遵守事項を遵守する設計事項を出力層、入力層から出力層への解析処理を中間層とするニューラルネットワークを作成する。そして、学習タスク54は、設計用学習モデル55の実績データを学習データとして用いて、中間層における各種パラメータについて学習を行う。すなわち、学習タスク54は、配設場所候補の位置情報と周辺画像と設備情報に基づいて、適正な設計事項が演算されるように、中間層における各種パラメータの学習を行う。
【0043】
以上のように、この架空配電設備設計システム1によれば、工事対象の架空配電設備の配設場所候補の位置情報および周辺画像と、既設の架空配電設備の設備情報に基づいて、遵守事項を遵守するように工事対象の架空配電設備などに対する設計事項が演算される。そして、その演算結果に基づいて、工事対象の架空配電設備が配設された場合のイメージ画像G1、G2が生成されるため、架空配電設備の配設状態を地権者や技術員Mなどに事前にイメージさせることが可能となる。この結果、地権者から容易に了承を受けたり、地権者にとって望ましい場所に設置したり、あるいは、技術員Mが演算結果を検証してより適正な設計を行ったりすることが可能となる。
【0044】
また、周辺画像中において工事対象の架空配電設備が配設された場合の状態を示す第1のイメージ画像G1が生成されるため、工事対象の架空配電設備を配設することで、撮影した周辺画像がどのように変わるかを把握することができる。すなわち、工事対象の架空配電設備の配設前後の状態を容易に把握することができるため、地権者や技術員Mなどへの利便性がより高まる。例えば、地権者にとって望ましい場所に設置されるか、適正に設計されているか、などを容易かつ適正に確認、検証することが可能となる。
【0045】
さらに、工事対象の架空配電設備が配設された場合の平面状態を示す第2のイメージ画像G2が生成されるため、工事対象の架空配電設備を配設することで、平面状態がどのように変わるかを把握することができ、地権者や技術員Mなどへの利便性がより高まる。例えば、電線Lなどが地権者の土地にまたがっていないか、架空配電設備に対する離隔が適正に確保されているか、などを容易かつ適正に確認、検証することが可能となる。
【0046】
また、生成されたイメージ画像G1、G2がスマートフォン2のタッチパネルに表示されるため、スマートフォン2で架空配電設備の配設場所候補の周辺を撮影した後に、その場でイメージ画像G1、G2をスマートフォン2のタッチパネルに表示させることができる。つまり、配設場所候補の現地で撮影してイメージ画像G1、G2を見ることができるため、地権者や技術員Mなどへの利便性がより高まる。例えば、その場で配設場所を変更する交渉などを行うことが可能となる。
【0047】
一方、各需要家の契約電力や使用電力量が設備情報として記憶され、これらの情報に基づいて工事対象の架空配電設備などに対する設計事項が演算されるため、より適正に設計事項を演算することが可能となる。さらに、機械学習された設計用学習モデル55を用いて工事対象の架空配電設備などに対する設計事項が出力されるため、より適正に設計事項を演算することが可能となる。
【0048】
以上、この発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、スマートフォン2を撮影手段とする場合について説明したが、撮影機・カメラを撮影手段とし、撮影機で撮影した周辺画像をパーソナルコンピュータなどの通信端末で設計サーバ5に送信、入力してもよい。同様に、配電系統図上などで配設場所候補の位置情報(工事対象の架空配電設備)を指定して設計サーバ5に送信、入力するようにしてもよい。また、配設場所候補の周辺を撮影する際に、スケールを一緒に撮影して、画像解析において周辺画像中の設備や建物などの位置、寸法が容易にわかるようにしてもよい。
【0049】
一方、次のような架空配電設備設計プログラムを汎用のコンピュータにインストールすることで、上記のような設計サーバ5および架空配電設備設計システム1を構成してもよい。すなわち、コンピュータを、既設の架空配電設備の配設位置を含む設備情報を記憶する設備情報記憶手段(設備情報データベース3)と、架空配電設備を設置する際に遵守すべき遵守事項を記憶する遵守事項記憶手段(遵守事項データベース4)と、工事対象の架空配電設備の配設場所候補の位置情報と周辺画像が入力されると、位置情報と周辺画像と設備情報に基づいて、遵守事項を遵守するように工事対象の架空配電設備と必要に応じてその周辺の架空配電設備の配設位置を含む設計事項を演算し、その演算結果に基づいて、工事対象の架空配電設備が配設された場合のイメージ画像G1、G2を生成する演算手段(演算タスク53)、として機能させる架空配電設備設計プログラムであり、演算手段は、配設場所候補の位置情報と周辺画像が入力されると、遵守事項を遵守する設計事項が出力されるように、過去の実績データに基づいて機械学習された設計用学習モデル55を用いる。
【符号の説明】
【0050】
1 架空配電設備設計システム
2 スマートフォン(撮影手段)
3 設備情報データベース(設備情報記憶手段)
4 遵守事項データベース(遵守事項記憶手段)
5 設計サーバ(演算手段)
53 演算タスク(演算手段)
54 学習タスク
55 設計用学習モデル
56 設計用実績データベース
G1 第1のイメージ画像
G2 第2のイメージ画像
P 電柱(架空配電設備)
L 電線(架空配電設備)
M 技術員