(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093910
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】液晶性ポリウレタンを含有するペレットおよびその製造方法、ならびに液晶ポリウレタンエラストマー
(51)【国際特許分類】
C08L 75/04 20060101AFI20230628BHJP
C08G 18/32 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
C08L75/04
C08G18/32 015
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209043
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 知花
【テーマコード(参考)】
4J002
4J034
【Fターム(参考)】
4J002BB032
4J002BF032
4J002BG052
4J002CK051
4J002FD140
4J002GC00
4J002GK00
4J002GM00
4J002GQ00
4J002GR00
4J034BA02
4J034BA06
4J034BA08
4J034CA04
4J034CA05
4J034CA15
4J034CB03
4J034CB04
4J034CB05
4J034CB07
4J034CC03
4J034CC26
4J034CC45
4J034CC62
4J034CC65
4J034DA01
4J034DB04
4J034DB07
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4J034DG01
4J034DG03
4J034DG04
4J034FA01
4J034FA02
4J034FA04
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4J034FD01
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4J034HA01
4J034HA07
4J034HA08
4J034HB03
4J034HB12
4J034HB15
4J034HC03
4J034HC09
4J034HC12
4J034HC22
4J034HC45
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC54
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034HC73
4J034JA01
4J034JA32
4J034KA01
4J034KB02
4J034KC02
4J034KC08
4J034KC16
4J034KC17
4J034KD02
4J034KD04
4J034KD08
4J034KD12
4J034KE02
4J034LA23
4J034QB12
4J034QB14
4J034RA09
4J034RA14
4J034RA15
(57)【要約】
【課題】膠着(ブロッキング)が抑制された、液晶性ポリウレタンを含有するペレットおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】液晶性ポリウレタンを含有するペレットであって、少なくとも表面の一部にアンチブロッキング剤が付着していることを特徴とするペレット。該ペレットは好適には、溶融状態にある液晶性ポリウレタンをペレットに成形する第1工程と、第1工程で成形されたペレットに対し、アンチブロッキング剤を含有する処理液を付着させる第2工程とを有し、処理液が含有する液体成分の全量を100質量%としたとき、エタノールの含有量が40~96質量%である液晶性ポリウレタンを含有するペレットの製造方法により製造される。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶性ポリウレタンを含有するペレットであって、少なくとも表面の一部にアンチブロッキング剤が付着していることを特徴とするペレット。
【請求項2】
前記アンチブロッキング剤の前記ペレットへの付着度合いが、
前記ペレットを少なくとも横6cm×縦4.5cmの面積を有する部分Aを含むシート状に成形し、前記部分Aをさらに1格子当たり1.5cm×1.2cm、計12格子に分割したとき、各格子で測定した色差に基づき算出した標準偏差が1.0未満である請求項1に記載のペレット。
【請求項3】
液晶性ポリウレタンを含有するペレットの製造方法であって、
溶融状態にある液晶性ポリウレタンをペレットに成形する第1工程と、
前記第1工程で成形されたペレットに対し、アンチブロッキング剤を含有する処理液を付着させる第2工程とを有し、
前記処理液が含有する液体成分の全量を100質量%としたとき、エタノールの含有量が40~96質量%であることを特徴とする、液晶ポリウレタンエラストマーを含有するペレットの製造方法。
【請求項4】
液晶性ポリウレタンを成型してなる液晶ポリウレタンエラストマーであって、少なくとも表面の一部にアンチブロッキング剤が付着していることを特徴とする液晶ポリウレタンエラストマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶性ポリウレタンを含有するペレットおよびその製造方法、ならびに液晶ポリウレタンエラストマーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
分子構造内にメソゲン基を有する液晶ポリウレタンエラストマーは、液晶(メソゲン基)の配向度の変化に伴って物性が変化する。このような性質に着目し、液晶ポリウレタンエラストマーを様々な用途で利用する試みがなされている。液晶ポリウレタンエラストマーは通常、数mm~数cmの大きさのペレットに成形された未架橋の液晶性ポリウレタンを原料として製造されることが多い。例えば液晶性ポリウレタンを含有するペレットを押出成形機などを用いて所定の形状に成形することが多い。
【0003】
例えば、ジイソシアネート成分と、高分子量ポリオール成分と、メソゲンジオールとの反応によって得られる液晶性ポリマーをマトリックスとして含む熱応答性材料がある(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の液晶性ポリマーをマトリックスとして含む熱応答性材料は、本出願人が開発したものであり、液晶性発現温度領域でゴム弾性を有するものである。しかしながら、ここで得られたペレットは、成形後すぐに、あるいは時間経過につれて、ペレット同士の膠着(ブロッキング)が発生し易い。ペレットのブロッキングが発生すると、次工程での秤量や成形機への投入が困難になるため、再度、ペレットを粉砕などが必要となる。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、膠着(ブロッキング)が抑制された、液晶性ポリウレタンを含有するペレットおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は下記構成により達成し得る。すなわち本発明は、液晶性ポリウレタンを含有するペレットであって、少なくとも表面の一部にアンチブロッキング剤が付着していることを特徴とするペレットに関する。
【0008】
上記において、前記アンチブロッキング剤の前記ペレットへの付着度合いが、前記ペレットを少なくとも横6cm×縦4.5cmの面積を有する部分Aを含むシート状に成形し、前記部分Aをさらに1格子当たり1.5cm×1.2cm、計12格子に分割したとき、各格子で測定した色差に基づき算出した標準偏差が1.0未満であることが好ましい。
【0009】
また、本発明は液晶性ポリウレタンを含有するペレットの製造方法であって、溶融状態にある液晶性ポリウレタンをペレットに成形する第1工程と、前記第1工程で成形されたペレットに対し、アンチブロッキング剤を含有する処理液を付着させる第2工程とを有し、前記処理液が含有する液体成分の全量を100質量%としたとき、エタノールの含有量が40~96質量%であることを特徴とする、液晶ポリウレタンエラストマーを含有するペレットの製造方法に関する。
【0010】
さらに本発明は、液晶性ポリウレタンを成型してなる液晶ポリウレタンエラストマーであって、少なくとも表面の一部にアンチブロッキング剤が付着していることを特徴とする液晶ポリウレタンエラストマーに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る、液晶性ポリウレタンを含有するペレットは、少なくとも表面の一部にアンチブロッキング剤(以下、「AB剤」ともいう)が付着しているため、ペレット同士の膠着(ブロッキング)が抑制されている。したがって、本発明に係るペレットは作業性に優れる。特に、ペレットを少なくとも横6cm×縦4.5cmの面積を有する部分Aを含むシート状に成形し、部分Aをさらに1格子当たり1.5cm×1.2cm、計12格子に分割したとき、各格子で測定した色差に基づき算出した標準偏差が1.0未満となるように、AB剤のペレットへの付着度合いを制御した場合、ペレット同士のブロッキングをより効果的に抑制できるため好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るペレットは、液晶性ポリウレタンを含有するペレットであって、少なくとも表面の一部にアンチブロッキング剤が付着したものである。ペレットの形状は特に限定なく、球形状、立方体形状、直方体形状、円錐形状やこれらに近い形状であってもよい。ペレットの大きさとしては、いずれの形状であっても、最も長い部分の長さが2~10mm程度が例示される。
【0013】
本発明に係るペレットは、ペレット同士のブロッキングを抑制する観点から、アンチブロッキング剤のペレットへの付着度合いが、ペレットを少なくとも横6cm×縦4.5cmの面積を有する部分Aを含むシート状に成形し、部分Aをさらに1格子当たり1.5cm×1.2cm、計12格子に分割したとき、各格子で測定した色差に基づき算出した標準偏差が1.0未満であると、アンチブロッキング剤がムラなくペレットに付着していることを意味する。色差は当業者に公知の色差計を用いて測定することが可能である。測定方法については後述する。
【0014】
アンチブロッキング剤(AB剤)は、通常、エチレン・酢酸ビニル重合体、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート架橋体などのアンチブロッキング効果を奏する化合物を水に分散させた水分散体として流通している。ただし本発明に係るペレットの製造方法では、AB剤として、アンチブロッキング効果を奏する化合物を水と有機溶剤との混合溶剤中に分散させた「水/有機溶剤分散体」、特には、アンチブロッキング効果を奏する化合物を水とエタノールとの混合溶剤中に分散させた「水/エタノール分散体」を使用することが好ましい。水/有機溶剤分散体、特には水/エタノール分散体であるAB剤を使用した場合、製造したペレットのブロッキングが著しく抑制できるため好ましい。水/有機溶剤(エタノール)分散体中の有機溶剤(エタノール)エタノール濃度は、40~96質量%であることが好ましく、50~70質量%であることがより好ましい。
【0015】
本発明に係る、液晶性ポリウレタンを含有するペレットの製造方法は、溶融状態にある液晶性ポリウレタンをペレットに成形する第1工程と、第1工程で成形されたペレットに対し、アンチブロッキング剤を含有する処理液を付着させる第2工程とを有し、処理液が含有する液体成分の全量を100質量%としたとき、有機溶剤、特にはエタノールの含有量が40~96質量%であることが好ましい。以下、製造方法について説明する。
【0016】
(第1工程)
第1工程では、溶融状態にある液晶性ポリウレタンをペレットに成形する。ペレットに成形する方法は限定されるものではないが、例えば、所定の吐出口を有する金型を使用し、溶融状態にある液晶性ポリウレタンをストランド状物となるように押出成形する際、任意の大きさとなるように途中でカッティング工程を設ける方法、あるいは溶融状態にある液晶性ポリウレタンを冷却後、粉砕してペレット状に成形する方法が挙げられる。
【0017】
(第2工程)
第2工程では、第1工程で成形されたペレットに対し、アンチブロッキング剤を含有する処理液を付着させる。アンチブロッキング剤を含有する処理液をペレットに付着させる方法は特に限定されるものではないが、例えば、ペレットを撹拌しつつ、処理液を噴霧する方法、あるいはペレットを処理液中に浸漬する方法などが挙げられる。前記のとおり、アンチブロッキング剤を含有する処理液としては、アンチブロッキング効果を奏する化合物を水とエタノールとの混合溶剤中に分散させた「水/エタノール分散体」を使用することが好ましい。
【0018】
以下に、ペレットを構成する液晶性ポリウレタンを説明する。かかる液晶性ポリウレタンとしては、メソゲン基を有する液晶性ポリウレタンであれば特に限定されるものではないが、例えば下記に示す、活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物と、活性水素基を有する光重合性基含有化合物との反応物である光架橋性液晶性ポリウレタンが挙げられる。以下に、原料となる各成分について説明する。
【0019】
[メソゲン基含有化合物]
メソゲン基含有化合物としては、例えば、下記の一般式(1)で表される化合物が好ましい。
【化1】
【0020】
上記一般式(1)において、Xは活性水素基であり、R1は隣接する結合基の一部をなす単結合、-N=N-、-CO-、-CO-O-、または-CH=N-であり、R2は隣接する結合基の一部をなす単結合、または-O-であり、R3は隣接する結合基の一部をなす単結合、または炭素数1~20のアルキレン基である。ただし、R2が-O-であり、且つR3が隣接する結合基の一部をなす単結合であるものを除く。)なお、「隣接する結合基の一部をなす単結合」とは、当該単結合が隣接する結合基の一部と共有されている状態を意味する。例えば、上記一般式(1)において、R1が隣接する結合基の一部をなす単結合である場合、単結合であるR1は両側のベンゼン環と共有された状態となり、当該両側のベンゼン環とともにビフェニル構造を形成する。Xとしては、例えば、OH、SH、NH2、COOH、二級アミンなどが挙げられる。メソゲン基含有化合物の配合量は、光架橋性液晶性ポリウレタンを構成する原料中、20~80質量%、好ましくは40~70質量%となるように調整される。メソゲン基含有化合物の配合量が20質量%未満の場合、最終的に製造された液晶ポリウレタンエラストマーに液晶性が発現し難くなる。メソゲン基含有化合物の配合量が80質量%を超える場合、液晶相-等方相間の相転移温度(Ti)が高くなり、常温を含む低温領域で液晶ポリウレタンエラストマーを成形することが困難となる。
【0021】
メソゲン基含有化合物には、アルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドを併用することが好ましい。アルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドは、液晶ポリウレタンエラストマーにおける液晶相の発現温度を低下させるように機能するため、メソゲン基含有化合物にアルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドを併用して生成した液晶ポリウレタンエラストマーは、常温での実用性に優れた製品となり得る。アルキレンオキシドは、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、またはブチレンオキシドを使用することができる。上掲のアルキレンオキシドは、単独で使用してもよいし、複数種を混合して使用してもよい。スチレンオキシドについては、ベンゼン環にアルキル基、アルコキシ基、ハロゲンなどの置換基を有するものでもよい。アルキレンオキシドは、上掲のアルキレンオキシドと、上掲のスチレンオキシドとを混合したものを使用することも可能である。アルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドの配合量は、メソゲン基含有化合物1モルに対して、アルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドが1~10モル、好ましくは2~6モル付加されるように調整される。アルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドの付加モル数が1モル未満の場合、液晶ポリマーの液晶相が発現する温度範囲を十分に低下させることが困難となり、そのため、無溶媒で且つ液晶相が発現した状態で液晶性ポリウレタンを連続成形することが困難となる。アルキレンオキシドおよび/またはスチレンオキシドの付加モル数が10モルを超える場合、液晶ポリマーの液晶相が発現し難くなる虞がある。
【0022】
[イソシアネート化合物]
イソシアネート化合物は、例えば下記に示すジイソシアネート化合物を使用することができる。ジイソシアネート化合物を例示すると、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-キシリレンジイソシアネート、およびm-キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;エチレンジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート、および1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート;並びに1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’-ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、およびノルボルナンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネートなどが挙げられる。例示したジイソシアネート化合物は、単独で使用してもよいし、複数種を混合して使用してもよい。なお、本発明ではイソシアネート化合物として3官能以上のイソシアネート化合物を併用しても良いが、得られる液晶性ポリウレタンの熱可塑性を確保するため、使用するイソシアネート化合物の全量を100質量%としたとき、ジイソシアネート化合物の割合は98質量%以上であることが好ましく、99質量%以上であることがより好ましく、略100質量%であることがさらに好ましい。3官能以上のイソシアネート化合物を例示すると、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート、リジンエステルトリイソシアネート、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、1,8-ジイソシアネート-4-イソシアネートメチルオクタン、ビシクロヘプタントリイソシアネートなどのトリイソシアネート、およびテトライソシアネートシランなどのテトライソシアネートが挙げられる。
【0023】
光架橋性液晶性ポリウレタンを構成するメソゲン基含有化合物の全量を100質量部としたとき、イソシアネート化合物の割合は20~70質量部であることが好ましく、30~60質量部であることがより好ましい。イソシアネート化合物の配合量が20質量部未満である場合、ウレタン反応による高分子化が不十分となるため、光架橋性液晶性ポリウレタンを連続成形することが困難となる。一方、イソシアネート化合物の割合が70質量部を超える場合、液晶性ポリウレタンの原材料全体に占めるメソゲン基含有化合物の配合量が相対的に少なくなるため、光架橋性液晶性ポリウレタンおよび液晶ポリウレタンエラストマーの液晶性が低下する。
【0024】
なお、イソシアネート化合物が有するイソシアネート基は、メソゲン基含有化合物が有する水酸基などの活性水素基、および光重合性基含有化合物が有する水酸基などの活性水素基と反応し得る。メソゲン基含有化合物および光重合性基含有化合物が有する活性水素基の理論量に対するイソシアネート化合物が有するイソシアネート基の理論量であるNCO INDEX(NCO/OH)は、0.95~1.10であることが好ましく、1.00~1.05であることがより好ましい。
【0025】
[光重合性基含有化合物]
活性水素基を有する光重合性基含有化合物は、例えば、アクリロイル基含有化合物、メタクリロイル基含有化合物、アリル化合物を使用することができる。アクリロイル基含有化合物を例示すると、プロピレングリコールジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、エチレングリコールジグリシジルエーテルメタクリル酸付加物、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、グリセリンジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、ビスフェノールA PO2mol付加物ジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、β-カルボキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、2-アクリロイロキシエチル-コハク酸、2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-アクリロイロキシエチル-フタル酸、2-アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸、2-アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートなどが挙げられる。メタクリロイル基含有化合物を例示すると、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシブチルメタクリレート、2-メタクリロイロキシエチルコハク酸、2-メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-メタクロイロキシエチルアシッドホスフェート、グリセリンジメタクリレート、ビスフェノールA PO2mol付加物ジグリシジルエーテルメタクリル酸付加物、ビスフェノールAジグリシジルエーテルメタクリル酸付加物、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート、2-メタクリロイルオキシエチルサクシネートなどが挙げられる。アリル基含有化合物を例示すると、グリセリンモノアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテルなどが挙げられる。
【0026】
光架橋性液晶性ポリウレタンを構成するメソゲン基含有化合物の全量を100質量部としたとき、光重合性基含有化合物の割合は0.1~10質量部であることが好ましく、0.3~7質量部であることがより好ましい。光重合性基含有化合物の割合が0.1質量部未満の場合、原材料に光照射を行っても十分に硬化しないため、最終的に製造された液晶ポリウレタンエラストマーは熱応答性を発現し難くなる。光重合性基含有化合物の割合が10質量部を超える場合、光照射後のポリマー中の架橋密度が高くなり過ぎるため、この場合も最終的に製造された液晶ポリウレタンエラストマーは熱応答性を発現し難くなる。
【0027】
[その他の原材料]
活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物と、活性水素基を有する光重合性基含有化合物とに加え、光架橋性液晶性ポリウレタンの原材料として、活性水素基含有化合物を使用してもよい。活性水素基含有化合物としては、例えば、ポリオール化合物、アミン化合物が挙げられる。ポリオール化合物としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、meso-エリトリトール、ペンタエリスリトール、テトラメチロールシクロヘキサン、メチルグルコシド、ソルビトール、マンニトール、ズルシトール、スクロース、2,2,6,6-テトラキス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサノール、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、およびトリエタノールアミンなどが挙げられる。アミン化合物としては、エチレンジアミン、トリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、ジエチレントリアミン、モノエタノールアミン、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール、およびモノプロパノールアミンなどが挙げられる。上掲の各活性水素基含有化合物は、単独で使用してもよいし、複数種を混合して使用してもよい。
【0028】
また、活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物と、活性水素基を有する光重合性基含有化合物とを反応させる場合、当業者に公知のウレタン重合触媒を使用してもよい。かかる重合触媒としては、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンテトラ―2-エチルへキソキシド、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)などの有機チタン触媒、ジルコニウムテトラノルマルブトキシド、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネートなどの有機ジルコニウム触媒、ナフテン酸亜鉛などの有機亜鉛触媒、ジブチル錫ジラウレートやオクチル酸錫などの有機錫系触媒、トリエチレンジアミンおよびその誘導体、N-メチルモルホリン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミン、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7(DBU)、ビス(N,N-ジメチルアミノ-2-エチル)エーテル、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテルなどの第3級アミン系触媒、酢酸カリウム、オクチル酸カリウムなどのカルボン酸金属塩触媒、イミダゾール系触媒などが挙げられる。これらの中でも、トリエチレンジアミンおよびその誘導体の使用が好ましい。
【0029】
活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物と、活性水素基を有する光重合性基含有化合物との反応物を製造する際、光反応開始剤を配合することが好ましい。
【0030】
[光反応開始剤]
光反応開始剤は、例えば、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフォンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン/ベンゾフェノン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]-フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、オキシ-フェニル-アセチックアシッド2-[2-オキソ-2-フェニル-アセトキシ-エトキシ]-エチルエステル/オキシ-フェニル-アセチックアシッド2-[2-ヒドロキシ-エトキシ]-エチルエステル、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モリフォリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)フェニル-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)、ヨードニウム,(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]-ヘキサフルオロフォスフェート(1-)/プロピレンカーボネート、トリアリールスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート、トリアリールスルフォニウムテトラキス-(ペンタフルオロフェニル)ボレート、オキシムスルホネート系光酸発生剤を使用することができる。光反応開始剤の割合は、液晶性ポリウレタンを構成するメソゲン基含有化合物の全量を100質量部としたとき、0.1~10質量部であることが好ましく、0.1~8質量部であることがより好ましい。光反応開始剤の配合量が0.1質量部未満の場合、光照射時に均一に重合反応が進行しないため、あるいは硬化が不十分となるため、生成した液晶ポリウレタンエラストマーは熱応答性を発現し難くなる。光反応開始剤の配合量が10質量部を超える場合、生成したエラストマー中のメソゲン基の含有量が減少するため、液晶相が発現し難くなる。光反応開始剤は、200~600nmに吸収波長を有するものが好ましい。光反応開始剤が上記範囲の吸収波長を有していれば、液晶性ポリウレタンまたはその原材料の透明度(可視光の透過率)が低いものであっても、光反応開始剤が光を吸収し、確実に光架橋反応を進行させることができる。
【0031】
光架橋性液晶性ポリウレタンは、光反応開始剤の存在下、活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物と、活性水素基を有する光重合性基含有化合物とを反応させることにより、製造することができる。反応させる際の反応条件としては、例えば光反応開始剤と共に、活性水素基を有するメソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物と、活性水素基を有する光重合性基含有化合物とを押出成形機に投入し、例えば60~150℃に加熱した状態で加熱溶融しつつ、これらを反応させる方法が挙げられる。前記のとおり、ペレット形状の光架橋性液晶性ポリウレタンは、溶融状態にある液晶性ポリウレタンを冷却後、粉砕してペレット状に成形する方法などにより製造することができる。ペレット形状の光架橋性液晶性ポリウレタンは、最終的には液晶ポリウレタンエラストマーを製造する原料となる。液晶ポリウレタンエラストマーを製造する方法としては、例えばペレット形状の光架橋性液晶性ポリウレタンを押出成形機を用いて所定の形状に成形した後、液晶相を発現する温度領域(すなわち、ガラス転移温度(Tg)以上かつ相転移温度(Ti)以下)で延伸しながら押出成形してもよい。
【0032】
前記で得られた、高度な配向性を有する光架橋性液晶性ポリウレタンの成形体を適切な形状に成形して冷却し、延伸状態を保ったまま波長200~600nm光を照射すると、配向性を維持したまま原材料間で架橋反応が進行し、低温での液晶相の発現性と弾性とを兼ね備えた液晶ポリウレタンエラストマーが完成する。このようにして製造された液晶ポリウレタンエラストマーは、低温領域ではメソゲン基が延伸方向に配向しているが、加熱して相転移温度(Ti)を上回るとメソゲン基の配向が崩れて(不規則となって)延伸方向に収縮し、冷却して相転移温度(Ti)を下回るとメソゲン基の配向が復活して延伸方向に伸張するという特異的な熱応答性挙動を示す。
【0033】
ちなみに、液晶ポリウレタンエラストマーの配向性は、メソゲン基の配向度によって評価することができる。配向度の値が大きいものは、メソゲン基が一軸方向に高度に配向している。配向度は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いた1回全反射測定法(ATR)により、芳香族エーテルの逆対称伸縮振動の吸光度(0°、90°)、およびメチル基の対称変角振動の吸光度(0°、90°)を測定し、これらの吸光度をパラメータとする以下の計算式に基づいて算出される。
【0034】
配向度=(A-B)/(A+2B)
A:0°で測定したときの芳香族エーテルの逆対称伸縮振動の吸光度/0°で測定したときのメチル基の対称変角振動の吸光度
B:90°で測定したときの芳香族エーテルの逆対称伸縮振動の吸光度/90°で測定したときのメチル基の対称変角振動の吸光度
【0035】
液晶ポリウレタンエラストマーが有意な伸縮性を発現するためには、メソゲン基の配向度が0.05以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましい。
【0036】
前記液晶ポリウレタンエラストマーは、衣料製品(繊維)、アクチュエータ、フィルターなどの分野において利用できる可能性がある。
【0037】
なお、液晶性ポリウレタンのペレットと同様、これを成型してなる液晶ポリウレタンエラストマーについても、膠着(ブロッキング)が発生する場合がある。このため、液晶性ポリウレタンを成型してなる液晶ポリウレタンエラストマーについても、少なくとも表面の一部にアンチブロッキング剤が付着していることが好ましい。
【実施例0038】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例などについて説明する。なお、実施例などにおける評価項目は下記のようにして測定を行った。
【0039】
<アンチブロッキング剤のペレットへの付着度合いの評価>
下記にて製造したペレットを、少なくとも横6cm×縦4.5cmの面積を有する部分Aを含むシート状に成形した(シート厚み0.5mm)。部分Aをさらに1格子当たり1.5cm×1.2cm、計12格子に分割したサンプルを作成し、サンプル下に黒色の板を置いた状態で、各々の格子の中心部分の色差(全12格子の平均との色差)を測定した。色差の測定には、コニカミノルタ社製の「CR400」を使用し、測定径11mm、色空間L*a*b*の条件で測定した。色差の測定結果に基づき、ペレットの付着度合いを示す、色差の標準偏差を算出した。
【0040】
(ペレット形状の液晶性ポリウレタンの製造例)
反応容器に、活性水素基を有するメソゲン基含有化合物として式(1)のR1が単結合であるBH6(500g)、水酸化カリウム(19g)、および溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミド(3000ml)を入れて混合し、さらに、アルキレンオキシドとしてプロピレンオキシドを1モルのBH6に対して5当量添加し、これらの混合物を、加圧条件下、120℃で2時間反応させた(付加反応)。次いで、反応容器にシュウ酸(15g)を添加して付加反応を停止させ、反応液中の不溶な塩を吸引ろ過によって除去し、さらに、反応液中のN,N-ジメチルホルムアミドを減圧蒸留法により除去することにより、メソゲンジオールAを得た。メソゲンジオールAの合成スキームを式(3)に示す。なお、式(3)中に示したメソゲンジオールAは代表的なものであり、種々の構造異性体を含み得る。
【0041】
【0042】
得られたメソゲンジオールA100質量部に対し、イソシアネート化合物として1,5-ペンタメチレンジイソシアネート(三井化学社製)を27.5質量部、光重合性基含有化合物として2-ヒドロキシエチルアクリレート(共栄社化学社製)を2質量部、光反応開始剤として2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(TPO)(IGM resins社製)を0.1質量部混合し、光架橋性液晶性ポリウレタンの原材料を調製した。この原材料を撹拌しながら80℃で加熱溶融し、メソゲン基含有化合物と、イソシアネート化合物と、光重合性基含有化合物とを反応させることにより、光架橋性液晶性ポリウレタンおよび光反応開始剤を含有する原料用組成物を製造した。得られた製造物を冷却後、プラスチック粉砕機(品名:ZI-420、株式会社ホーライ製)で粉砕することによりペレットを製造した。
【0043】
実施例1~3に係るペレットは、表1に記載のAB剤(三井化学社製、商品名「ケパミールV100」、ナカライテスク社製の精製水/エタノール分散体)を上記で得られたペレットに噴霧することにより製造した。「ケパミールV100」、エタノールおよび水の配合割合を表1に示す。また、上記評価方法に準拠して、実施例1~3に係るペレットへのアンチブロッキング剤の付着度合い(色差の標準偏差)を評価した。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
(液晶ポリウレタンエラストマーの製造例)
実施例1~3のペレットを、80~120℃に設定した単軸押出機(品名:SZW25GT-24MG-STD、株式会社テクノベル製)に投入し、厚み1.0mmの樹脂シートに成形した。投入の際も、実施例1~3のペレットのブロッキングは十分に抑制されており、作業性に優れるものであった。この樹脂シートを15℃に設定した冷却ロールに通してガラス転移温度(Tg)以上且つ相転移温度(Ti)以下に冷却し、引取りロールで巻き取った。このとき、冷却ロールと引取りロールとの間に回転差を付けることにより、樹脂シートを1.5~10倍に延伸した。さらに、冷却ロールと引取りロールとの間に卓上型UV硬化装置(品名:アイminiグランテージ(ESC-1511U)、アイグラフィックス株式会社製)を設置し、延伸された樹脂シートに高圧水銀ランプまたはメタルハライドランプを光源とした光を照射し、光架橋(硬化)された液晶ポリウレタンエラストマーを得た。
【0045】
実施例1~3で製造したペレットを原料として製造された液晶ポリウレタンエラストマーは熱応答性に優れるものであった。