(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093943
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】硬化剤およびそれを用いたエポキシ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/44 20060101AFI20230628BHJP
C07C 243/38 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
C08G59/44
C07C243/38 CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209095
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000132404
【氏名又は名称】株式会社スリーボンド
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】古川 聖純
【テーマコード(参考)】
4H006
4J036
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AB49
4J036AA04
4J036AB01
4J036AB02
4J036AB10
4J036AD08
4J036AF06
4J036DA04
4J036DB06
4J036DC23
4J036DC41
4J036DD07
4J036FA03
4J036FA05
4J036FB11
4J036HA12
4J036JA06
4J036KA01
(57)【要約】
【課題】2つの被着体間の高い接着力は保ちつつ、易解体性(易剥離性)を有する硬化剤を提供する。
【解決手段】下記の一般式1の構造を有する化合物:
式中、nは2以上の整数であり、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、フェノール基を有さない有機基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式1の構造を有する化合物:
【化1】
上記一般式1中、nは1以上の整数であり、
R
1およびR
2は、それぞれ独立して、フェノール基を有さない有機基を表す。
【請求項2】
前記一般式1において、nは2または3である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記一般式1において、R2における炭素数の合計が3以上である、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
前記一般式1において、R2がエステル基を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
前記一般式1において、R1がベンゼン環を含む基である、請求項1~4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の化合物を含む硬化剤。
【請求項7】
下記の(A)成分および(B)成分を含み、溶剤を含まないエポキシ樹脂組成物:
(A)成分:エポキシ樹脂、
(B)成分:請求項1~5のいずれか1項に記載の化合物または請求項6に記載の硬化剤。
【請求項8】
さらに、(C)成分として硬化触媒を含む、請求項7に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
前記(C)成分がリン系硬化触媒を含む、請求項8に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
前記(A)成分が非水溶性エポキシ樹脂および水溶性エポキシ樹脂を含む、請求項7~9のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項11】
前記水溶性エポキシ樹脂が、アルキレンオキサイド骨格を有するエポキシ樹脂、グリセロール骨格を有するエポキシ樹脂、分子内に水酸基を有するエポキシ樹脂および分子内にカルボキシル基を有するエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1つのエポキシ樹脂を含む、請求項10に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項12】
請求項7~11のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物を加熱により硬化した硬化物。
【請求項13】
請求項12に記載の硬化物を酸化分解で分解する方法。
【請求項14】
前記酸化分解は次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いて行われる、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化剤およびそれを用いたエポキシ樹脂組成物に関する。より詳細には、本発明は、2つの被着体の接着力が高く、同時に易解体性を有する硬化剤、および当該硬化剤を用いたエポキシ樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、接着剤、塗料、電気絶縁材料、複合材料、土木建築材料など、様々な用途で使用されている。エポキシ樹脂は難分解性である。例えば、エポキシ樹脂を用いた接着剤は、一旦接着させると再び剥離・解体することは容易ではない。一方、近年、環境保護や資源リサイクルの観点から、使用時には十分な接着力を発揮するが、剥離・解体時には容易に剥離・解体できる硬化剤に対する需要が高まっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリ(ジアシルヒドラジン)の製造方法が記載される。当該文献に記載のポリ(ジアシルヒドラジン)は、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤により良好に分解される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のポリマーは、高分子体であることから成型物などに使用することには適しているが、接着力を発現させることはできない。
【0006】
上述したように、従来は、硬化物の特性として接着力が高く、一方で剥離・解体時に接着物を剥離・解体し易くすることは困難であった。
【0007】
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、2つの被着体間の高い接着力は保ちつつ、易解体性(易剥離性)を有する硬化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するべく鋭意検討した。その結果、特定の構造の化合物であれば、上記課題を解決できることを知得し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記態様・形態を包含する。
1.下記の一般式1の構造を有する化合物:
【0010】
【0011】
上記一般式1中、nは1以上の整数であり、
R1およびR2は、それぞれ独立して、フェノール基を有さない有機基である。
2.前記一般式1において、nは2~3の整数である、上記1.に記載の化合物。
3.前記一般式1において、R2における炭素数の合計が3以上である、上記1.または2.に記載の化合物。
4.前記一般式1において、R2がエステル基を含む、上記1.~3.のいずれかに記載の化合物。
5.前記一般式1において、R1がベンゼン環を含む基である、上記1.~4.のいずれかに記載の化合物。
6.上記1.~5.のいずれかに記載の化合物を含む硬化剤。
7.下記の(A)成分および(B)成分を含み、溶剤を含まないエポキシ樹脂組成物:
(A)成分:エポキシ樹脂、
(B)成分:1.~5.のいずれかに記載の化合物または6.に記載の硬化剤。
8.さらに、(C)成分として硬化触媒を含む、上記7.に記載のエポキシ樹脂組成物。
9.前記(C)成分がリン系硬化触媒を含む、上記8.に記載のエポキシ樹脂組成物。
10.前記(A)成分が非水溶性エポキシ樹脂および水溶性エポキシ樹脂を含む、上記7.~9.のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
11.前記水溶性エポキシ樹脂が、アルキレンオキサイド骨格を有するエポキシ樹脂、グリセロール骨格を有するエポキシ樹脂、分子内に水酸基を有するエポキシ樹脂および分子内にカルボキシル基を有するエポキシ樹脂からなる群から少なくとも1つ選択されるエポキシ樹脂を含む、上記10.に記載のエポキシ樹脂組成物。
12.上記7.~11.のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を加熱により硬化した硬化物。
13.上記12.に記載の硬化物を酸化分解で分解する方法。
14.前記酸化分解は次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いて行われる、上記13.に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る化合物であれば、2つの被着体間の高い接着力は保ちつつ、易解体性(易剥離性)を有する硬化剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0014】
また、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で行う。
【0015】
[化合物]
本開示の化合物は、下記の一般式1の構造を有する。本開示の化合物であれば、2つの被着体間の高い接着力は保ちつつ、易解体性(易剥離性)を有する硬化剤を提供できる。具体的には、本開示の化合物を硬化剤として使用することにより、硬化物の特性としての初期接着力は高いが、剥離・解体時には、分解しにくい条件である面接着に対しても適当な処理(例えば、酸化分解)により接着強度を低下させて、剥離・解体を容易にする(易剥離性および易解体性を発揮する)ことができる。ゆえに、商品を破棄する際の解体およびその後のリサイクルが容易である。上記効果は、硬化対象物がエポキシ樹脂である場合に特に顕著に発揮できる。なお、本明細書において、易剥離性および易解体性を、一括して「易剥離・解体性」とも称する。
【0016】
【0017】
なお、以下では、R1に結合する下記構造を「置換基X」とも称する。
【0018】
【0019】
上記一般式1中、nは1以上の整数である。接着時の接着力(初期接着力)および易剥離・解体性ならびにこれらのバランスのさらなる向上の観点から、nは、2または3であることが好ましく、3であることがより好ましい。
【0020】
上記一般式1中、R1およびR2は、それぞれ独立して、フェノール基を有さない有機基を表す。ここで、R1およびR2は、同じであってもまたは異なるものであってもよい。R1およびR2において、「フェノール基」とは、置換基を有してもよいフェノール由来の基を意図する。すなわち、「R1およびR2は、それぞれ独立して、フェノール基を有さない有機基を表す」とは、R1およびR2は、置換基を有してもよいフェノール由来の基ではなく、置換基を有してもよいフェノール由来の基を持たないことを意味する。
【0021】
R1およびR2としての有機基は、特に制限されないが、直鎖のもしくは分岐した、アルキル基、直鎖のもしくは分岐したアルケニル基、直鎖のもしくは分岐したアルキニル基およびシクロアルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、エステル基;ならびにこれらの組み合わせなどが挙げられる。また、R1およびR2としての有機基は、非置換であっても、または置換基を有していてもよい。
【0022】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、1,3-ジメチルブチル基、1-イソプロピルプロピル基、1,2-ジメチルブチル基、n-ヘプチル基、1,4-ジメチルペンチル基、3-エチルペンチル基、2-メチル-1-イソプロピルプロピル基、1-エチル-3-メチルブチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、3-メチル-1-イソプロピルブチル基、2-メチル-1-イソプロピル基、1-tert-ブチル-2-メチルプロピル基、n-ノニル基、3,5,5-トリメチルヘキシル基、n-デシル基、イソデシル基、n-ウンデシル基、1-メチルデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基などが挙げられる。
【0023】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、2-ブテニル基、1,3-ブタジエニル基、2-ペンテニル基、イソプロペニル基などが挙げられる。
【0024】
アルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロパルギル基などが挙げられる。
【0025】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0026】
芳香族炭化水素基としては、ベンゼン(ベンゼン環)、ペンタレン、インデン、ナフタレン、アントラセン、アズレン、アセナフテン、フェナレン、フルオレン、フェナントリン、ビフェニル、テルフェニル、クアテルフェニル、ピレン、9,9-ジフェニルフルオレン、9,9’-スピロビ[フルオレン]、9,9-ジアルキルフルオレン等の芳香族炭化水素由来の基などが挙げられる。
【0027】
芳香族複素環基としては、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、ピリミジン、トリアジン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、ナフチリジン、アクリジン、フェナジン、ベンゾキノリン、ベンゾイソキノリン、フェナンスリジン、フェナントロリン、ベンゾキノン、クマリン、フルオレノン、フラン、チオフェン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、ピロール、インドール、カルバゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、ピラゾール、インダゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾイソチアゾール、イミダゾリノン、ベンズイミダゾリノン、イミダゾピリジン、イミダゾピリミジン、アザジベンゾフラン、アザカルバゾール、アザジベンゾチオフェン、ジアザジベンゾフラン、ジアザカルバゾール、ジアザジベンゾチオフェン、キサントン、チオキサントンなどの複素環式芳香族化合物由来の基が挙げられる。
【0028】
エステル基としては、式:-COORで表される基である。この際、Rは、炭素数1以上18以下の直鎖のもしくは分岐したアルキル基である。接着時の接着力(初期接着力)および易剥離・解体性ならびにこれらのバランスのさらなる向上の観点から、Rは、好ましくは炭素数3以上15以下の直鎖のもしくは分岐したアルキル基であり、より好ましくは炭素数5以上10以下の直鎖のもしくは分岐したアルキル基であり、特に好ましくは炭素数7以上9以下の直鎖のアルキル基(n-へプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基)である。
【0029】
R1およびR2としての有機基が置換基を有する場合の、置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子のいずれであってもよい)、アミノ基、アシル基などが挙げられるが、これらに限定されることはない。また、R1またはR2が2個以上の置換基を有する場合には、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。
【0030】
これらのうち、接着時の接着力(初期接着力)および易剥離・解体性ならびにこれらのバランスなどの観点から、R1は、置換または非置換の、ベンゼン環を含む基であることがより好ましく、ベンゼン環由来の基であることが特に好ましい。
【0031】
また、接着時の接着力(初期接着力)および易剥離・解体性ならびにこれらのバランスなどの観点から、R2における炭素数の合計が3以上であることが好ましく、5~15であることがより好ましく、8~10であることが特に好ましい。上記に代えて、または上記に加えて、接着時の接着力(初期接着力)および易剥離・解体性ならびにこれらのバランスなどの観点から、R2は、置換または非置換の、エステル基を含むことがより好ましく、非置換のエステル基(式:-COORで表される基、R=n-へプチル基、n-オクチル基またはn-ノニル基)であることがさらに好ましく、-COOC8H17であることがさらにより好ましい。
【0032】
置換基XのR1への結合位置は、特に制限されず、所望の効果(例えば、接着時の接着力(初期接着力)および易剥離・解体性ならびにこれらのバランス)に応じて適切に選択できる。例えば、R1がベンゼン環由来の基であり、かつnが2である場合には、置換基Xはベンゼン環のo-,m-,p-位のいずれであってもよい。また、R1がベンゼン環由来の基であり、かつnが3である場合には、置換基Xはベンゼン環の1,2,3位、1,2,4位、1,2,5位、1,3,4位、1,3,5位のいずれであってもよいが、接着時の接着力(初期接着力)および易剥離・解体性ならびにこれらのバランスなどの観点から、1,3,5位であることが好ましい。
【0033】
具体的には、本開示のさらに好ましい形態では、上記一般式1において、nが3であり、R1がベンゼン環由来の基であり、R2が-COOC8H17である、すなわち、本開示の化合物は下記構造を有する。
【0034】
【0035】
本開示のより好ましい形態では、本開示の化合物は、下記構造を有する。
【0036】
【0037】
本開示の化合物は、公知の方法によって製造でき、例えば、下記実施例の方法を参照して製造できる。具体的には、触媒(例えば、p-トルエンスルホン酸)の存在下で、カルボキシル基を2つおよび水酸基を1つ有するベンゼン化合物(例えば、5-ヒドロキシイソフタル酸)にアルカノール(R2OH)を反応させて、カルボキシル基を-COOR2に変換した化合物(中間体A)を得る。この中間体Aを、例えば、ヒドラジンと反応させて、-COOR2を-CONHNH2に変換した化合物(中間体B)を得る。この中間体Aを、反応性基(例えば、-C(=O)Cl)を有するベンゼン化合物(例えば、トリメシン酸クロリド)と反応させる方法が使用できる。
【0038】
[硬化剤]
本開示の化合物は、2つの被着体間に塗布して硬化させた場合には、十分な接着力(初期接着力)を示す一方、適切な処理(例えば、酸化分解)を施すと、容易に剥離・解体できる(易剥離・解体性を有する)。このため、本開示の化合物は、硬化剤として好適に使用できる。したがって、本発明は、本開示の化合物を含む硬化剤;本開示の化合物の硬化剤としての使用をも提供する。
【0039】
本開示の硬化剤は、本開示の化合物に加えて、他の成分を含んでもよいが、好ましくは本開示の化合物から実質的に構成され、より好ましくは本開示の化合物のみから構成される。なお、本明細書において、「本開示の硬化剤が本開示の化合物から実質的に構成される」とは、本開示の硬化剤に含まれる本開示の化合物の含有量が90質量%を超えることを意図し、好ましくは95質量%を超える(上限:100質量%)。
【0040】
[エポキシ樹脂組成物]
本開示の硬化剤は、特にエポキシ樹脂の硬化剤として好適に使用できる。したがって、本発明は、下記の(A)成分および(B)成分を含み、溶剤を含まないエポキシ樹脂組成物をも提供する:
(A)成分:エポキシ樹脂、
(B)成分:本開示の硬化剤。
【0041】
本開示のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂を含む。このため、本開示のエポキシ樹脂組成物は、接着剤として好適に使用できる。
【0042】
また、本開示のエポキシ樹脂組成物は、溶剤を含まない。従来では、N-メチルピロリドン等の溶剤が接着剤用のエポキシ樹脂組成物に使用されていたが、溶剤が存在していると、加熱硬化時に溶剤が接着面の内部に籠もり、接着力の不安定化や低下を招く可能性がある。これに対して、本開示のエポキシ樹脂組成物は溶剤を含まない。このため、熱硬化後の接着力の不安定化や低下を抑制できる。また、エポキシ樹脂を熱硬化する際に大気中に溶剤が放出されない。このため、本開示のエポキシ樹脂組成物の使用は、環境面や安全面でも好ましい。本明細書において、「エポキシ樹脂組成物が溶剤を含まない」とは、エポキシ樹脂組成物中に溶媒が意図的に添加されないことを意味し、組成物中に微量の溶媒が存在してもよい。具体的には、エポキシ樹脂組成物中の溶剤の含有量が3質量%未満であることを意図し、好ましくは1質量%未満(下限:0質量%)である。
【0043】
以下、本開示のエポキシ樹脂組成物を説明する。
【0044】
((A)成分)
本開示において、(A)成分としては、エポキシ樹脂である。エポキシ樹脂は、水溶性エポキシ樹脂および非水溶性エポキシ樹脂に分類されるが、水溶性エポキシ樹脂のみを使用する、または水溶性エポキシ樹脂および非水溶性エポキシ樹脂を併用することが好ましく、水溶性エポキシ樹脂および非水溶性エポキシ樹脂を併用することがより好ましい。水溶性エポキシ樹脂および非水溶性エポキシ樹脂を併用することにより、下記に詳述するが、エポキシ樹脂組成物の硬化物を分解する際の分解液(例えば、次亜塩素酸ナトリウム水溶液)が内部まで浸透できる(易剥離・解体性をさらに向上できる)。また、水溶性エポキシ樹脂(水溶性ユニット)が存在することにより、分解(特に酸化分解)後の樹脂の分解物が水に溶解することができる。その一方で、非水溶性エポキシ樹脂を存在させることにより、高湿環境下での接着強度を高めることができる。すなわち、本開示の好ましい形態では、(A)成分が、水溶性エポキシ樹脂のみを含む、または水溶性エポキシ樹脂および非水溶性エポキシ樹脂を含む。本開示のより好ましい形態では、(A)成分が水溶性エポキシ樹脂および非水溶性エポキシ樹脂を含む。
【0045】
水溶性エポキシ樹脂は、少なくとも1つのエポキシ基を有する水溶性のエポキシ樹脂であれば、特に制限されず、通常用いられるエポキシ樹脂から適宜選択することができる。ここで、「水溶性」とは、室温(25℃)で、イオン交換水 100質量部にエポキシ樹脂が10質量部添加・混合した際に透明になることを意味する。水溶性エポキシ樹脂は1種を単独でも、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0046】
水溶性エポキシ樹脂としては、ポリエーテル骨格やポリエステル骨格を有するエポキシ樹脂がある。具体的には、アルキレンオキサイド骨格、グリセロール骨格、分子内に水酸基やカルボキシル基などの水と混和しやすい官能基がポリマー側鎖に存在する骨格を有するエポキシ樹脂がある。水溶性エポキシ樹脂は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。すなわち、本開示の一実施形態では、水溶性エポキシ樹脂は、アルキレンオキサイド骨格を有するエポキシ樹脂、グリセロール骨格を有するエポキシ樹脂、分子内に水酸基を有するエポキシ樹脂および分子内にカルボキシル基を有するエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1つのエポキシ樹脂を含む。本開示の一実施形態では、水溶性エポキシ樹脂は、アルキレンオキサイド骨格を有するエポキシ樹脂、グリセロール骨格を有するエポキシ樹脂、分子内に水酸基を有するエポキシ樹脂および分子内にカルボキシル基を有するエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0047】
水溶性エポキシ樹脂は、合成により得ても、または市販品であってもよい。市販品としては、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコール#400ジグリシジルエーテル(エポライト400E、粘度=60~110(mPa・s/25℃)、エポキシ当量=264~290(g/eq)、エチレンオキサイド平均付加モル数=約9、共栄社化学株式会社製)、グリセロールポリグリシジルエーテル(デナコールEX-313、ナガセケムテックス株式会社製)、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(デナコールEX-321、粘度=130(mPa・s)、エポキシ当量=140(g/eq)、ナガセケムテックス株式会社)等の、デナコールシリーズ(ナガセケムテックス株式会社製)、エチレングリコールジグリシジルエーテル(エポライト40E、粘度=400~800(mPa・s/25℃)、共栄社化学株式会社製)等の、エポライトEシリーズ(共栄社化学株式会社製)などが挙げられる。
【0048】
非水溶性エポキシ樹脂とは、芳香環を含むエポキシ樹脂から適宜選択することができる。ここで、「非水溶性」とは、室温(25℃)で、イオン交換水 100質量部にエポキシ樹脂が10質量部添加・混合した際に透明にならないことを意味する。非水溶性エポキシ樹脂は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0049】
非水溶性エポキシ樹脂としては、具体的には、ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラック骨格を有するエポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0050】
非水溶性エポキシ樹脂は、合成により得ても、または市販品であってもよい。市販品としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(EPICLON(登録商標) EXA-850CRP、エポキシ当量=168~178(g/eq)、粘度=3500~5500(mPa・s/25℃)、DIC株式会社製)等の、EPICLON(登録商標)シリーズ(DIC株式会社製)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER828、粘度=120~150(P/25℃)、エポキシ当量(1グラム当量のエポキシ基を含む樹脂のグラム数(g/eq))=184~194、比重=1.17、分子量(Mw)=約370、三菱ケミカル株式会社製)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER834、粘度=P~U(4)(ガードナーホルト)、エポキシ当量(1グラム当量のエポキシ基を含む樹脂のグラム数(g/eq))=230~270、比重=1.18、分子量(Mw)=約470、三菱ケミカル株式会社製)、多官能フェノールノボラック型エポキシ樹脂(jER152、粘度=14~18/52℃、エポキシ当量(1グラム当量のエポキシ基を含む樹脂のグラム数(g/eq))=176~178、三菱ケミカル株式会社製)等の、jERシリーズ(三菱ケミカル株式会社製)、プロピレングリコールジグリシジルエーテル(エポライト70P、粘度=1000~1400(mPa・s/25℃)、共栄社化学株式会社製)、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(エポライト200P、粘度=600~900(mPa・s/25℃)、共栄社化学株式会社製)等の、エポライトPシリーズ(共栄社化学株式会社製)などが挙げられる。
【0051】
(A)成分として水溶性エポキシ樹脂および非水溶性エポキシ樹脂を併用する場合の、水溶性エポキシ樹脂および非水溶性エポキシ樹脂の混合比は、特に制限されず、所望の特性に応じて適切に選択できる。水溶性エポキシ樹脂および非水溶性エポキシ樹脂との混合比(水溶性エポキシ樹脂:非水溶性エポキシ樹脂の質量比)は、例えば、0.5~10:1であり、好ましくは0.7~5.0:1であり、より好ましくは1.0~4.5:1であり、特に好ましくは1.5~3.5:1である。エポキシ樹脂組成物の硬化物は一般的に高湿環境に弱く、高湿環境下では引張せん断試験による強度が低下する場合がある。しかし、上記したような混合比で水溶性エポキシ樹脂および非水溶性エポキシ樹脂を混合することにより、高湿環境下での強度を高めることができる。
【0052】
((B)成分)
本開示において、(B)成分としては、本開示に係る化合物または本開示に係る硬化剤である。本開示に係る化合物または本開示に係る硬化剤は、上記と同様であるため、ここでは説明を省略する。硬化剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0053】
(B)成分の配合量は、(A)成分 100質量部に対して、例えば、50~250質量部、好ましくは60~210質量部であり、より好ましくは75~145質量部である。
【0054】
((C)成分)
本開示のエポキシ樹脂組成物は、(A)成分および(B)成分を必須に含むが、これらに加えて、硬化触媒((C)成分)を含むことが好ましい。これにより、硬化をさらに促進できる。すなわち、本発明の好ましい形態では、エポキシ樹脂組成物は、さらに、(C)成分として硬化触媒を含む。
【0055】
(C)成分としては、(A)成分のエポキシ樹脂と(B)成分の硬化剤との重合を促進させる硬化触媒であればよく、エポキシ樹脂および硬化剤の種類に応じて、公知の硬化触媒から適切に選択できる。(A)成分と(B)成分との反応をさらに促進させるとの観点から、(C)成分は、リン系硬化触媒であることが好ましい。リン系硬化触媒の具体例としては、アルキルフォスフィン(アルキルホスフィン)類、トリフェニルフォスフィン(トリフェニルホスフィン)等のアリールフォスフィン(アリールホスフィン)類、フォスフィンオキサイド(ホスフィンオキサイド)類、ホスホニウム塩類などが挙げられる。硬化触媒は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0056】
エポキシ樹脂組成物が(C)成分を含む際の、(C)成分の配合量は、(A)成分 100質量部に対して、例えば、0.2~10質量部、好ましくは2~8質量部であり、より好ましくは3~6質量部である。
【0057】
上記に代えてまたは上記に加えて、エポキシ樹脂組成物が(C)成分を含む際の(C)成分の配合量は、(B)成分 100質量部に対して、例えば、2~10質量部、好ましくは3~6質量部であり、より好ましくは3.5~5.0質量部である。
【0058】
(他の成分)
本開示のエポキシ樹脂組成物は、(A)成分および(B)成分、ならびに必要であれば(C)成分を含むが、本開示による特性を損なわない範囲において、上記(A)~(C)成分以外の成分(以下、他の成分)をさらに含んでいてもよい。当該他の成分としては、顔料、染料などの着色剤、硬化促進剤、無機充填剤、ポリスチレンフィラー、ポリウレタンフィラー、ポリ(メタ)アクリルフィラー、ゴムフィラーなどの有機充填剤、熱可塑性樹脂、ゴム、エラストマー、可塑剤、気泡防止剤、難燃剤、酸化防止剤、重合禁止剤、消泡剤、カップリング剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤などが挙げられる。これらのうち、無機充填剤、熱可塑性樹脂、ゴム、エラストマー、気泡防止剤、カップリング剤が好ましく使用される。上記他の成分は、それぞれ、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。また、上記他の成分は、それぞれ1種以上を組み合わせて使用されてもよい。これらの他の成分の添加により、樹脂強度・接着強さ・作業性・保存性等に優れた組成物およびその硬化物が得られる。上記成分の含有量は特に制限されず、本発明の特性を損なわない範囲において、当業者であれば適宜設定することができる。
【0059】
無機充填剤としては、例えば、アモルファスシリカ、シリカ、疎水性フュームドシリカ、親水性フュームドシリカ、金属粉、炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、水酸化アルミニウム、ソーダ石灰ガラス、ガラスビーズなどが使用できる。これらのうち、アモルファスシリカ、疎水性フュームドシリカ、親水性フュームドシリカ、ソーダ石灰ガラス、ガラスビーズが好ましく使用され、疎水性フュームドシリカ、親水性フュームドシリカ、ソーダ石灰ガラス、ガラスビーズが好ましく使用され、疎水性フュームドシリカ、ソーダ石灰ガラス、ガラスビーズがより好ましく使用され、疎水性フュームドシリカが特に好ましく使用される。これらの充填剤を(A)成分および(B)成分ならびに必要であれば(C)成分と組み合わせることにより、接着時の接着力(初期接着力)および易剥離・解体性をさらに向上・両立できる。また、低い粘度と高い構造粘性比との両立および安定化に寄与することができる。無機充填剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0060】
無機充填剤の大きさは、特に制限されないが、例えば、平均一次粒子径が、1nm~300μmであり、好ましくは5nm~50μmであり、より好ましくは10~50nmである。また、アモルファスシリカの場合には、平均一次粒子径が1~100nmであり、BET法による比表面積が10~300m2/gである親水性シリカ粉(粒子)である。なお、本明細書において、平均一次粒子径は、測定対象の走査型電子顕微鏡画像から、画像解析ソフトウエア等を使用して測定される値を採用する。具体的には、統計学上信頼性のある所定個数(例えば一視野当たり100個×10面以上の合計1000個以上)の粒子を観察し、解析ソフトを使用して粒子画像を抽出し、粒子径(平均)を算出する。
【0061】
無機充填剤は、市販品または合成品のいずれを使用してもよく、市販品の具体例としては、シリコーンオイルで表面処理された疎水性フュームドシリカ(AEROSIL RY-200 EVONIK社製、粒径=12nm)、親水性フュームドシリカ(AEROSIL 200 EVONIK社製、粒径=12nm)、ソーダ石灰ガラス粒子(ユニビーズSPL-200 ユニチカ株式会社製、平均粒径=200μm)、マイクロガラスビーズ(EMB-20 ポッターズ・バロティーニ株式会社製、平均粒径=20μm)、EVONIK社製のAEROSIL(登録商標)シリーズ OX50、50、90G、130、150、200、300、380などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
本開示のエポキシ樹脂組成物が無機充填剤を含む場合の、無機充填剤の配合量は、特に制限されないが、例えば、(A)成分 100質量部に対して、例えば、0.5~10質量部、好ましくは1~7質量部であり、より好ましくは3質量部を超え6質量部未満である。
【0063】
熱可塑性樹脂、ゴム、エラストマーは非反応性であり、25℃で液体または固体である。25℃で液体であれば、(A)成分に相溶または分散させて使用することができ、25℃で固体であれば(A)成分に溶解させて使用することができる。具体例としては、ポリエステルポリオール樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリスチレンエラストマー、ポリ(メタ)アクリレートエラストマー、ポリブタジエン、水素添加ポリブタジエン、ポリイソプレン、水素添加ポリブタジエン、ポリブテン、ポリイソブチレン、これらの単量体の共重合体、これらのジブロック重合体およびこれらのトリブロック重合体などゴム系のエラストマーが挙げられる。熱可塑性樹脂、ゴム、エラストマーは、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0064】
熱可塑性樹脂は、市販品または合成品のいずれを使用してもよく、市販品の具体例としては、ポリエステルポリオール樹脂(ポリライトBC40 DIC株式会社製)等のポリライトシリーズ(DIC株式会社製)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
本開示のエポキシ樹脂組成物が熱可塑性樹脂、ゴム、エラストマーを含む場合の、熱可塑性樹脂、ゴム、エラストマーの配合量は、特に制限されないが、例えば、(A)成分 100質量部に対して、例えば、1~40質量部、好ましくは9~30質量部であり、より好ましくは10質量部を超え25質量部未満である。
【0066】
気泡防止剤としては、例えば、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、塩化カルシウム等が挙げられる。気泡防止剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0067】
本開示のエポキシ樹脂組成物が気泡防止剤を含む場合の、気泡防止剤の配合量は、特に制限されないが、例えば、(A)成分 100質量部に対して、例えば、1~10質量部が好ましく、3~8質量部がより好ましい。このような配合であれば、得られる硬化物が十分な強度を発揮できる。
【0068】
カップリング剤としては、特にシランカップリング剤である。その具体例として、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどのグリシジル基含有シランカップリング剤、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル基含有シランカップリング剤、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどの(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有シランカップリング剤、その他γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。カップリング剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらの中でもより密着性の向上が期待できるという観点から、エポキシ基または(メタ)アクリロイル基を含有するシランカップリング剤が好ましく用いられる。
【0069】
本開示のエポキシ樹脂組成物がカップリング剤を含む場合の、カップリング剤の配合量は、特に制限されないが、例えば、(A)成分 100質量部に対して、例えば、0.5~20質量部が好ましく、1~10質量部がより好ましく、1~7質量部がさらに好ましい。
【0070】
本開示のエポキシ樹脂組成物の製造方法は、特に制限されない。例えば、本開示のエポキシ樹脂組成物が(A)成分、(B)成分、(C)成分および他の成分を含む場合には、まず(A)成分および(B)成分を秤量して、混合した後、例えば、25~120℃、好ましくは60℃以上100℃以下の温度で、例えば、5~60分間、好ましくは5~30分間、加熱撹拌して、混合物を得る。次に、(C)成分および他の成分を秤量して、上記混合物に添加撹拌して、分散させる。これにより本開示のエポキシ樹脂組成物が得られる。
【0071】
[硬化物]
本開示のエポキシ樹脂組成物は、加熱により硬化される。したがって、本発明は、本開示のエポキシ樹脂組成物を加熱により硬化した硬化物、または本開示のエポキシ樹脂組成物を加熱により硬化することを有する、硬化物の製造方法をも提供する。
【0072】
ここで、硬化条件は、特に制限されないが、硬化温度は、例えば、80℃を超え200℃以下であり、100℃以上180℃以下である。硬化時間は、例えば、30分を超え7時間以下であり、1~5時間である。このような条件であれば、本開示のエポキシ樹脂組成物は、十分硬化される。
【0073】
[硬化物の分解]
本開示の硬化物は、酸化分解などの適切な処理により容易に分解できる。したがって、本発明は、本開示の硬化物を酸化分解で分解する方法をも提供する。
【0074】
本開示による酸化分解に使用できる分解剤は、特に制限されず、エポキシ樹脂組成物の組成により適切に選択できる。具体的には、次亜塩素酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムなどが挙げられる。これらのうち、試薬自体の入手の容易さや価格、試薬自体の安全性などの観点から、次亜塩素酸ナトリウムが好ましく使用される。ここで、分解剤は、そのまままたは水溶液として使用されてもよいが、混合しやすさ(ゆえに分解しやすさ)などの観点から、水溶液の形態で使用されることが好ましく、分解剤を含む水溶液に硬化物を浸漬することによって硬化物を分解することがより好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、酸化分解は次亜塩素酸ナトリウムを用いて行われる。本発明のより好ましい形態では、酸化分解は次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いて行われる。本発明の特に好ましい形態では、酸化分解は、硬化物を次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬することによって、行われる。
【0075】
次亜塩素酸ナトリウム水溶液を酸化分解に使用する場合の、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の濃度は、特に制限されず、例えば、1~12質量%、好ましくは3~10質量%である。
【0076】
また、酸化分解条件は、特に制限されず、エポキシ樹脂組成物の組成により適切に選択できる。酸化分解温度は、例えば、25~80℃であり、好ましくは40~60℃である。酸化分解時間は、例えば、1~72時間であり、12~48時間である。このような条件であれば、本開示の硬化物は、十分分解できる。
【実施例0077】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。以下、エポキシ樹脂組成物を単に「組成物」とも称する。
【0078】
[合成例1:合成物1の合成]
下記スキーム1に従って、下記式2の合成物1を合成した。
【0079】
【0080】
【0081】
(工程1)
5-ヒドロキシイソフタル酸(試薬)を12.5g(68.7mmol)、p-トルエンスルホン酸一水和物(試薬)を1.97g(10.4mmol)、オクタノール(試薬)を23.0ml(251mol)、トルエン40mlを全てナスフラスコへ加えた。その後、ディーンスターク装置を取り付けた後、110℃で15時間還流を行った。加熱還流中、反応により生成した水はディーンスターク装置により、適宜、反応系外へと除去した。その後、オクタノールとトルエンをエバポレーターにより除去した。残留物を酢酸エチル100mlに溶かした溶液を分液ロートに移して、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で3回洗浄した。前記溶液を硫酸マグネシウムにより脱水を行った後、硫酸マグネシウムを濾過して、エバポレーターにより酢酸エチルを除去した。その結果、中間体1として白色固体の1-ヒドロキシ-3,5-オクチルエステル-ベンゼンを26.7g(収率:96質量%)で得た。
【0082】
(工程2)
ナスフラスコに、上記で得られた中間体1を112g(276mmol)添加して、エタノール300mlを加えて中間体1を溶解した後、ヒドラジン1水和物(試薬)を26.8ml(552mmol)加えて、混合物を得た。この混合物を40℃で48時間攪拌した後、エバポレーターでエタノールを除去して、固体を得た。得られた固体をソックスレー抽出器へ移し、ジメトキシエタンを循環させて副生成物を濾紙で除き、ジメトキシエタンに溶解した中間体2を得た。この溶液をエバポレーターでジメトキシエタンを除去した。その結果、中間体2として白色固体の3-ヒドロキシ-5-オクチルエステルベンゼン-モノヒドラジドを78.8g(収率:92質量%)で得た。
【0083】
(工程3)
ナスフラスコに、上記で得られた中間体2を41.2g(134mmol)およびテトラヒドロフラン400mlを加えて溶解した。さらに、トリメシン酸クロリド(試薬)を11.5g(43.2mmol)を加えて、0℃で3時間攪拌を行った。このナスフラスコに水酸化ナトリウム水溶液を加えて中和した後、1Lの水が入ったビーカーに流し込み、合成物1を沈殿させた。吸引濾過により合成物1を回収した後、水で洗浄し、合成物1を40.5g(収率:94質量%)で得た。
【0084】
[合成例2:合成物2の合成]
下記スキーム2に従って、下記式4の合成物2を合成した。
【0085】
【0086】
【0087】
(工程4)
5-ヒドロキシイソフタル酸(試薬)を50.0g(275mmol)、p-トルエンスルホン酸一水和物(試薬)を10.4g(54.7mmol)およびエタノールを800mlをナスフラスコへ加えた。ディーンスターク装置を取り付けた後、80℃で48時間還流を行った。エタノールをエバポレーターにより除去後、残留物を酢酸エチルに溶かした溶液を分液ロートに移して、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した。前記溶液を硫酸マグネシウムにより脱水を行った後、硫酸マグネシウムを濾過して、エバポレーターにより酢酸エチルを除去した。中間体3として白色固体の1-ヒドロキシ-3,5-エチルエステル-ベンゼンを60.5g(収率94%)得た。
【0088】
(工程5)
ナスフラスコに、上記で得られた中間体3を23.8g(102mmol)添加して、エタノール120mlを加えて中間体3を溶解した後、ヒドラジン1水和物(試薬)を10.1ml(204mmol)加えて、混合物を得た。この混合物を40℃で72時間攪拌した後、水を加えて中間体4を析出させた。吸引濾過により中間体4を回収した後、水および酢酸エチルで洗浄した。その結果、中間体4として白色固体の3-ヒドロキシ-5-エチルエステルベンゼン-モノヒドラジドを21.0g(収率:92質量%)で得た。
【0089】
(工程6)
上記で得られた中間体5 19.6g(87.2mmol)、N-メチルピロリドン50ml、アセトニトリル50mlおよび水50mlをナスフラスコへ入れた。その後、ペルオキシ一硫酸カリウム(Oxone メルク社製)を60.2g(97.9mmol)を加えて、室温で72時間攪拌した。得られた溶液を500mlの水が入ったビーカーに移して、合成物2を沈殿させた。吸引濾過により合成物2を回収した後、水で洗浄し、白色固体の合成物2を19.8g(収率:78質量%)得た。
【0090】
[合成例3:合成物3の合成]
下記スキーム3に従って、下記式6の合成物3を合成した。
【0091】
【0092】
【0093】
合成例1の工程1および工程2と同様にして、中間体2を合成した。得られた中間体2 29.8g(96.9mmol)、N-メチルピロリドン80ml、アセトニトリル80mlおよび水70mlをナスフラスコへ入れた。その後、ペルオキシ一硫酸カリウム(Oxone メルク社製)を66.1g(107mmol)を加えて、40℃で72時間攪拌した。得られた溶液を600mlの水が入ったビーカーに移して、合成物3を沈殿させた。吸引濾過により合成物3を回収した後、水で洗浄した。その結果、白色固体である合成物3を22.5g(収率:80質量%)で得た。
【0094】
[実施例1~19、比較例1~9]
組成物を調製するために下記成分を準備した。
【0095】
(A)成分:エポキシ樹脂(非水溶性エポキシ樹脂)
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(EPICLONEXA-850CRP DIC株式会社製)
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER828 三菱ケミカル株式会社製)
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER834 三菱ケミカル株式会社製)
・多官能フェノールノボラック型エポキシ樹脂(jER152 三菱ケミカル株式会社製)
・プロピレングリコールジグリシジルエーテル(エポライト70P共栄社化学株式会社製)
・トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(エポライト200P 共栄社化学株式会社製)
上記(A)成分:エポキシ樹脂(非水溶性エポキシ樹脂)は、すべて、室温(25℃)で、イオン交換水 100質量部にエポキシ樹脂が10質量部添加・混合した際に透明にならなかったことを確認した。
【0096】
(A)成分:エポキシ樹脂(水溶性エポキシ樹脂)
・1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(試薬)(以下、BDGと略す。)
・ポリプロピレングリコール#400ジグリシジルエーテル(エポライト400E 共栄社化学株式会社製)
・グリセロールポリグリシジルエーテル(デナコールEX-313 ナガセケムテックス株式会社)
・エチレングリコールジグリシジルエーテル(エポライト40E 共栄社化学株式会社製)
・トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(デナコールEX-321 ナガセケムテックス株式会社)
上記(A)成分:エポキシ樹脂(水溶性エポキシ樹脂)は、すべて、室温(25℃)で、イオン交換水 100質量部にエポキシ樹脂が10質量部添加・混合した際に透明になったことを確認した。
【0097】
(B)成分:特定の化合物
・合成物1(一般式1においてn:3、R1:ベンゼン環、R2:-COOC8H17)
(B’)成分:(B)成分以外の化合物
・合成物2
・合成物3
・ヒドロキノン(試薬)
(C)成分:硬化触媒
・トリフェニルフォスフィン(試薬)
硬化促進剤
・イミダゾール(試薬)
熱可塑性樹脂
・ポリエステルポリオール樹脂(ポリライトBC40 DIC株式会社製)
カップリング剤
・3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-403 信越化学工業株式会社製)
気泡防止剤
・酸化カルシウム(CML#35 近江化学工業株式会社製)
充填剤
・粒径12nmのシリコーンオイルで表面処理された疎水性フュームドシリカ(AEROSIL RY-200 EVONIK社製)
・粒径12nmの親水性フュームドシリカ(AEROSIL 200 EVONIK社製)
・平均粒径200μmのソーダ石灰ガラス粒子(ユニビーズSPL-200 ユニチカ株式会社製)
・平均粒径20μmのマイクロガラスビーズ(EMB-20 ポッターズ・バロティーニ株式会社製)
溶剤
・N-メチルピロリドン(試薬)。
【0098】
下記表1に示される組成となるように、前記(A)成分、(B)成分(または(B’)成分)(比較例においては熱可塑性樹脂および溶剤)を秤量して80℃で10分間、加熱攪拌を行い、各成分を均一化した。その後、混合物を室温(25℃)まで冷やした。さらに、下記表1に示される組成となるように、(C)成分(比較例においては硬化促進剤)、充填剤および残りの成分を添加して、1時間撹拌した後、3本ロールにて分散させて、各組成物を調製した。詳細な調製量は表1に従い、数値は全て質量部で表記する。
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
実施例1~19および比較例1~9に対して、下記方法に従って、引張せん断接着強さを測定した。その結果を表2にまとめる。
【0103】
[引張せん断接着強さ測定]
長さ100mm×幅25mm×厚さ2.0mmのアルミニウム(JISH4000 A1061P)製の板を準備する。2枚の板に各組成物を0.5g塗布して、両方の塗布面を長さ10mm×幅25mmの面積で貼り合わせて治具で固定する。その際、はみ出した組成物は拭き取る。その後、150℃雰囲気に設定した熱風乾燥炉に3時間放置して、組成物を硬化させる。所定時間後、熱風乾燥炉から取り出して室温になるまで放置して、テストピースを作製する。その後、株式会社エー・アンド・デイ製のTENSILON RTF-2350を使用し、テストピースの両端をチャックで固定して、引張速度10mm/分で引張方向に引っ張って最大強度を測定し、接着面積から「接着強さ(MPa)」を計算する。当該接着強さを「初期接着強さ(MPa)」とする。また、引っ張った後の接着面を目視で以下の評価基準に従い「状態」を確認し、下記(評価基準)に基づいて評価し、「初期状態」とする。初期接着強さとしては、2.0MPa以上が好ましく、2.4MPa以上がより好ましく、3.0MPa以上がさらに好ましく、5.0MPa以上が特に好ましい。
【0104】
(評価基準)
CF(接着剤の凝集破壊)
AF(被着体界面の界面破壊)
CF/AF(被着体界面の界面破壊と接着剤の凝集破壊がまだら)。
【0105】
上記と同様にして、テストピースを作製する。6質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(キッチンハイター 花王株式会社製)に、各テストピースを50℃×24時間浸漬する。その後、テストピースを取り出して水溶液を拭き取って30分放置する。その後、前記試験方法と同様にして、接着強さの測定および状態の確認を行い、それぞれ、「浸漬後接着強さ(MPa)」および「浸漬後状態」とする。下記の式1より「変化率(%)」を算出して、易剥離性の指標とする。変化率(%)としては、-10%~-100%であることが好ましく、-50%~-90%であることがより好ましい。ただし、浸漬時にテストピースが分解しているものは「脱落」と記載し、変化率を計算しない。浸漬後接着強さとしては、0.1MPa以上が好ましく、0.3MPa以上6.0MPa以下がさらに好ましく、2.0MPa以上5.0MPa未満が特に好ましい。
【0106】
【0107】
【0108】
実施例1~19において、初期接着強さが2.0MPa以上であることから初期の接着力が認められ、浸漬後の変化率がマイナスの数値であることから、浸漬後に接着強さが低下して易剥離の状態であることが分かる。一方、比較例1も初期接着強さが2.0MPa以上であり、変化率がマイナスの数値であるが、組成物に溶剤としてN-メチルピロリドンが大量に含まれており、当該溶剤にて変化率がマイナスに下がっていると考えられる。接着面積が大きくなると加熱硬化時に溶剤が接着面の内部に籠もるため、接着強さが不安定になることが予想される。なお、比較例1において、溶剤(N-メチルピロリドン)量を比較例2や3程度にまで少なくした場合には、浸漬後の接着強度が低下しなかった。これは、溶剤量が少なく硬化剤(合成物2)が均一に分散しないため、硬化助触媒(イミダゾール)が単独でエポキシ樹脂と硬化反応を始め、硬化物の主鎖に硬化剤があまり組み込まれず、樹脂の酸化分解による強度低下が起こらなかったためであると推察される。比較例2~9を見ると変化率がプラスになっているまたは浸漬後に脱落していることから、易剥離でないことがわかる。