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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093957
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】塗膜除去方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 17/02 20060101AFI20230628BHJP
【FI】
B29B17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209111
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】509164164
【氏名又は名称】地方独立行政法人山口県産業技術センター
(71)【出願人】
【識別番号】510032748
【氏名又は名称】小田産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100179729
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 一美
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 翔伍
(72)【発明者】
【氏名】友永 文昭
(72)【発明者】
【氏名】小田 茂正
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AB07
4F401AC03
4F401AD02
4F401EA07
4F401FA01Z
4F401FA03Z
4F401FA06Z
(57)【要約】
【課題】塗膜を分解させる溶剤の浸透を促進するための傷を塗膜につけることができる物理的処理と、この傷に溶剤を浸透させて塗膜をポリマー材料から高効率に剥離可能な化学的処理を組み合わせることで、再生ポリマー材料の生産効率を向上可能な塗膜除去方法を提供する。
【解決手段】塗膜除去方法100は、塗膜付きポリマー材料を破砕して小片を形成するステップS1の破砕工程と、小片の塗膜に剪断力による傷をつけて傷つき塗膜を形成するステップS2の傷つけ工程と、ステップS3の分級工程と、小片の傷つき塗膜を、アルカリ性剥離液を用いてポリマー材料から剥離するステップS4の剥離工程と、アルカリ性剥離液から傷つき塗膜剥離済みポリマー材料を分離するステップS5の固液分離工程と、分離した傷つき塗膜剥離済みポリマー材料を洗浄するステップS6の洗浄工程を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー材料と、このポリマー材料を被覆する塗膜を有する塗膜付きポリマー材料から、前記塗膜を剥離して除去する塗膜除去方法であって、
前記塗膜に傷をつけて傷つき塗膜を形成する傷つけ工程と、
前記傷つき塗膜を、アルカリ性剥離液を用いて前記ポリマー材料から剥離する剥離工程を備えることを特徴とする塗膜除去方法。
【請求項2】
前記剥離工程は、前記アルカリ性剥離液に、前記傷つき塗膜を有する前記塗膜付きポリマー材料を浸漬し、50℃以上、かつ前記ポリマー材料の融点以下の温度で加熱することを特徴とする請求項1に記載の塗膜除去方法。
【請求項3】
前記アルカリ性剥離液は、濃度が5重量%以上の水酸化ナトリウム水溶液であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の塗膜除去方法。
【請求項4】
前記傷つけ工程は、前記塗膜付きポリマー材料に剪断力を加えることで前記傷つき塗膜を形成することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の塗膜除去方法。
【請求項5】
前記傷つけ工程は、前記塗膜付きポリマー材料を投入する混練タンクと、この混練タンクに設置される回転軸を備える混練機を用いて、混練温度を前記塗膜の軟化温度以上、かつ前記ポリマー材料の軟化温度以下とし、前記回転軸の回転数を6rpm以上、かつ300rpm以下とし、混練時間を15分以下とした所定の条件下で、投入された前記塗膜付きポリマー材料を混練することで、前記塗膜付きポリマー材料に前記剪断力を加えることを特徴とする請求項4に記載の塗膜除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜付きポリマー材料から塗膜を剥離して除去する塗膜除去方法に係り、特に、化学的処理の前に物理的処理を行うことによって、塗膜を効率的に剥離可能な塗膜除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のバンパーやドアミラーといった塗膜付きポリマー材料に含まれるポリマー材料を再利用するために、摩擦力を加えるといった物理的処理を行って、ポリマー材料の表面に形成された塗膜を剥離し除去することが行われている。
しかし、物理的処理を行うだけでは塗膜を完全に剥離することが困難であったため、再利用可能なポリマー材料の生産効率が低いという課題があった。
そこで、近年、塗膜付きポリマー材料から塗膜を効率的に剥離して、ポリマー材料の生産効率を向上させるための技術が開発されており、それに関して既にいくつかの発明が開示されている。
【0003】
特許文献1には、「ポリマー材料からの塗料除去方法」という名称で、主に剪断によってポリマー材料からコーティングを剥離する発明が開示されている。
特許文献1に開示された発明は、ポリマー材料からコーティングを剪断剥離すること、破砕されたポリマー材料とコーティングの混合物を流体媒質に入れること、流体媒質中でコーティングからのポリマー材料の分離を実施すること、ポリマー材料を回収すること、およびコーティングを別に回収することを含み、流体媒質は、破砕されたポリマー材料と水との混合体であり、さらにこの混合体に界面活性剤が添加されたものであることを特徴とする。
このような特徴を有する発明においては、剪断によって、塗膜が研磨されてポリマー材料から剥離される。また、界面活性剤によって、ポリマー粒子混合物および塗料粒子の間で相分離が起こり、塗料粒子がポリマー材料から分離することが促進される。
したがって、特許文献1に開示された発明によれば、リサイクル可能な破砕されたポリマー粒子を得ることができる。
【0004】
次に、特許文献2に開示された発明は、「樹脂塗膜の除去方法および再生ポリプロピレン系樹脂成形体の製造方法」という名称で、塗膜剥離剤と研磨石を用いてポリプロピレン系樹脂部材から塗膜を除去する発明が開示されている。
特許文献2に開示された発明は、ポリプロピレン系樹脂部材の破砕物と、芳香族アルコールおよびグリコールエーテルのうちの少なくとも1種を含有する塗膜剥離剤とを、その質量比が1:3~1:40となる範囲で、かつ25~100℃の温度下で接触させながら、破砕物の比重の1.05~2.5倍の比重を有する研磨石を用いて破砕物に物理的剥離処理を施すことを特徴とする。
このような特徴を有する発明においては、破砕物と研磨石を塗膜剥離剤中で高速回転(例えば、300rpm)させることによって、破砕物に剪断力や摩擦力といった物理的な力を加え、樹脂塗膜およびプライマー層を剥離する。
したがって、特許文献2に開示された発明によれば、樹脂塗膜およびプライマー層が確実に除去されたポリプロピレン系樹脂成形体を得ることができる。
【0005】
さらに、特許文献3に開示された発明は、「樹脂塗膜剥離システム」という名称で、剥離装置を用いて樹脂材から塗膜を除去する発明が開示されている。
特許文献3に開示された発明は、塗膜が付着する樹脂材の粉砕片を昇温する昇温装置と、昇温装置で昇温された粉砕片から塗膜を剥離する剥離装置と、剥離装置から排出される粉砕片を洗浄する洗浄装置と、洗浄装置で洗浄された粉砕片を、塗膜が付着した粉砕片と塗膜が付着していない粉砕片とに分離・選別する選別装置と、各装置を統合的に運転制御する制御装置と、を備え、剥離装置を構成する塗膜剥離部が備える剥離筒内の粉砕片の圧力は、剥離筒の排出側に設けられる抵抗蓋の押し付け力による負荷、剥離筒内の剥離ロールの回転数、剥離筒内への粉砕片の供給量の少なくとも一つにより調整されることを特徴とする。
このような特徴を有する発明においては、塗膜筒内において、粉砕片が、剥離ロール周面に形成された複数の突条により衝突作用と撹拌作用を受ける。さらに、昇温装置による昇温効果と、粉砕片が剥離ロールの突条に衝突したり、粉砕片同士が相互に擦れたりする際に生じる摩擦熱の効果と、によって塗膜が効率よく剥離する。また、塗膜の剥離効果は、剥離筒内の粉砕片の圧力を調整するほか、剥離装置において粉砕片を複数回循環させることで高められる。
さらに、制御装置は、各装置を統合的に運転制御するため、例えば、粉砕片に作用する圧力の過度の上昇を抑制するよう剥離装置の運転条件を調整できる。その結果、粉砕片同士の溶着によって剥離効果が低下することが防止される。
したがって、特許文献3に開示された発明によれば、塗膜を剥離した樹脂材が、効率的かつ効果的に回収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2003-507164号公報
【特許文献2】特開2014-151581号公報
【特許文献3】特許第5368329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された発明においては、界面活性剤によって、塗料粒子がポリマー材料から分離することを促進するとされる。詳細には、界面活性剤は、静電気を帯びた塗料粒子を中性化してこれらの粒子がポリマー粒子から自由に落下できるように作用するとのことであるから、塗膜自体の化学構造を変化させるものではない。そのため、界面活性剤が、塗料粒子をポリマー材料から分離させることを促進する効果は、塗膜自体の化学構造を変化可能な溶媒と比較すると、それほど高くないと考えられる。
すなわち、特許文献1に開示された発明においては、界面活性剤を用いているとしても塗膜剥離は主に剪断によるものであると考えられるから、従来技術と同様に、塗膜を完全に剥離できない可能性がある。
【0008】
また、特許文献2に開示された発明においては、破砕物と、塗膜剥離剤の質量比を1:3~1:40とし、さらに破砕物と、研磨石との質量比を1:2~1:50とすることが望ましいとされていることから、大量の塗膜剥離剤と研磨石を要する。よって、処理が容易でなく高コストになる可能性がある。
また、一般的に樹脂部材には不純物が混入されている。そのため、高速回転によって発生する過度な衝突力によって不純物が粉砕され、再生されたポリプロピレン系樹脂成形体に混入するおそれもある。
【0009】
さらに、特許文献3に開示された発明においては、樹脂塗膜剥離システムの構成が複雑であるから、安価な導入や保守管理が容易でないと考えられる。
また、塗膜の剥離効果を高めるために、粉砕片に加えられる圧力等が過度になることがないように調整が可能であるが、この圧力調整は砕片同士の溶着を防止することを目的としている。すなわち、粉砕片に混入した不純物が、剥離ロールの回転数が過度になることで粉砕される可能性については考慮されていない。そのため、溶着を防止し得る回転数であっても、不純物を粉砕してしまう可能性がある。したがって、特許文献2に開示された発明と同様に、粉砕された不純物が塗膜を剥離した樹脂材に混入するおそれがある。
【0010】
本発明は、このような従来の事情に対処してなされたものであり、塗膜を分解させる溶剤の浸透を促進するための傷を塗膜につけることができる物理的処理と、この傷に溶剤を浸透させて塗膜をポリマー材料から高効率に剥離可能な化学的処理を組み合わせることで、再生ポリマー材料の生産効率を向上させることができ、しかも物理的処理において、塗膜の粉末化や不純物の粉砕を防止可能な塗膜除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、第1の発明は、ポリマー材料と、このポリマー材料を被覆する塗膜を有する塗膜付きポリマー材料から、塗膜を剥離して除去する塗膜除去方法であって、塗膜に傷をつけて傷つき塗膜を形成する傷つけ工程と、傷つき塗膜を、アルカリ性剥離液を用いてポリマー材料から剥離する剥離工程を備えることを特徴とする。
このような構成の発明において、ポリマー材料として、例えば、ポリプロピレンが想定される。また、塗膜は、例えば、ポリマー材料の表面を直接被覆するプライマーと、このプライマーを被覆するウレタン化合物と、このウレタン化合物を被覆するトップコートからなるものが想定される。
また、塗膜に傷をつけるための手段として、例えば、一定容量のタンクを有し、このタンク内に塗膜付きポリマー材料を投入して混練する混練機や、塗膜付きポリマー材料を研磨できる研磨機が使用される。
さらに、アルカリ性剥離液として、例えば、水酸化ナトリウム水溶液が使用される。そして、アルカリ性剥離液にポリマー材料を接触させる手段として、例えば、アルカリ性剥離液と傷つき塗膜を反応させる反応槽が使用される。
なお、傷つけ工程が前述の物理的処理に該当し、剥離工程が前述の化学的処理に該当する。
【0012】
上記構成の発明においては、傷つけ工程において、例えば混練機や研磨機に投入された塗膜付きポリマー材料同士が、混練または研磨されることによって擦れ合うため、塗膜付きポリマー材料を構成する塗膜が変形し、傷が形成される。このとき、塗膜付きポリマー材料に過度な摩擦力や衝突力が発生して塗膜が溶融したり、不純物が粉砕されたりすることがないよう、混練機等の運転条件を適切に設定することが望ましい。
次に、剥離工程において、アルカリ性剥離液が塗膜に形成された傷に浸透する。そのため、アルカリ性剥離液によって、塗膜の化学構造が傷の周辺において変化し得る。詳細には、傷の周辺において、浸透したアルカリ性剥離液により、塗膜を構成する成分の分子結合を切断する化学反応が誘発される。その結果、傷つき塗膜が、ポリマー材料に強固に付着できなくなって、ポリマー材料から剥離されることになる。
また、剥離工程の前に傷つけ工程が実施されることにより、剥離工程における反応時間や反応温度を、いずれも短縮、低下させることが期待できる。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、剥離工程は、アルカリ性剥離液に、傷つき塗膜を有する塗膜付きポリマー材料を浸漬し、50℃以上、かつポリマー材料の融点以下の温度で加熱することを特徴とする。
このような構成の発明において、50℃は、一般的な成分で構成された塗膜の軟化点である。また、浸漬された塗膜付きポリマー材料を加熱する加熱手段として、例えば、アルカリ性剥離液と塗膜付きポリマー材料を反応させるための反応槽に設置されるヒーターが使用される。
上記構成の発明においては、第1の発明の作用に加えて、傷つき塗膜を有する塗膜付きポリマー材料がアルカリ性剥離液に浸漬されることで、傷つき塗膜に形成された傷にアルカリ性剥離液が浸透する。また、アルカリ性剥離液は、50℃以上、かつポリマー材料の融点以下の加熱温度で加熱されるため、一般的な成分で構成された傷つき塗膜はアルカリ性剥離液に分解し始めるが、ポリマー材料は分解しない。
【0014】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、アルカリ性剥離液は、濃度が5重量%以上の水酸化ナトリウム水溶液であることを特徴とする。
このような構成の発明においては、第1又は第2の発明の作用に加えて、濃度が5重量%以上の水酸化ナトリウム水溶液であれば、塗膜自体の化学構造を変化させて塗膜を十分に分解可能であるものと考えられる。
【0015】
第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、傷つけ工程は、塗膜付きポリマー材料に剪断力を加えることで傷つき塗膜を形成することを特徴とする。
このような構成の発明においては、例えば、剪断力を加える手段として回転軸を備える混練機を使用した場合に、その回転軸の回転数を、塗膜付きポリマー材料や、塗膜付きポリマー材料に混入している不純物が勢いよく衝突し合うことがない程度の比較的低いレベルに抑制することで、塗膜付きポリマー材料に対し、主に剪断力を加えることができると考えられる。
よって、上記構成を有する発明においては、第1乃至第3のいずれかの発明の作用に加えて、剪断力によって傷つき塗膜が形成されるとともに、衝突力が抑制されることにより塗膜付きポリマー材料や不純物が粉砕されることが防止される。
【0016】
第5の発明は、第4の発明において、傷つけ工程は、塗膜付きポリマー材料を投入する混練タンクと、この混練タンクに設置される回転軸を備える混練機を用いて、混練温度を塗膜の軟化温度以上、かつポリマー材料の軟化温度以下とし、回転軸の回転数を6rpm以上、かつ300rpm以下とし、混練時間を15分以下とした所定の条件下で、投入された塗膜付きポリマー材料を混練することで、塗膜付きポリマー材料に剪断力を加えることを特徴とする
このような構成の発明において、所定の条件とは、混練温度、混練時間及び回転軸の回転数がすべて組み合わされたものである。
詳細には、所定の条件に含まれる混練温度に設定することにより、塗膜は軟化する一方でポリマー材料は軟化しないので、塗膜に傷が形成され易く、かつポリマー材料の形状および成分の変化が回避される。
次に、所定の条件に含まれる混練時間に設定することにより、塗膜に傷が確実に形成され、かつこの傷つき塗膜が融解し始めることがないため、剥離工程において、傷つき塗膜がポリマー材料から剥離され易くなる。
さらに、所定の条件に含まれる回転数に設定することにより、前述したように、剪断力によって傷つき塗膜が形成されるとともに、塗膜付きポリマー材料や不純物が粉砕されることが防止される。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明によれば、傷つけ工程において、塗膜付きポリマー材料を構成する塗膜に傷が形成されるので、この後の剥離工程において、アルカリ性剥離液を傷に十分浸透させることができる。このとき、混練機等の運転条件を適切に設定することで、過度な摩擦力や衝突力が発生して塗膜の粉末化や不純物が粉砕されることを抑制できる。よって、傷つけ工程によれば、粉末化された塗膜等の不要物を除去する除去工程を加えることなく、再生ポリマー材料の生産効率向上に寄与できる。
次に、剥離工程において、傷つき塗膜の傷にアルカリ性剥離液が浸透し、この傷つき塗膜がポリマー材料から剥離されることになる。よって、傷つけ工程の後に剥離工程が設けられることにより、例えば、塗膜をポリマー材料から剥離可能な反応時間や反応温度を、従来の化学的処理よりも短縮させたり、低温に設定したりすることが期待できる。
したがって、第1の発明によれば、傷つけ工程と剥離工程が組み合わされることにより、再生ポリマー材料の生産効率を向上させることができる。
【0018】
第2の発明によれば、第1の発明の効果に加えて、傷つき塗膜に形成された傷にアルカリ性剥離液が浸透し、さらに一般的な成分で構成された傷つき塗膜はアルカリ性剥離液に分解し始めるが、ポリマー材料は分解しないため、傷つき塗膜をポリマー材料から効率的に剥離可能な状態にすることができる。
【0019】
第3の発明によれば、第1又は第2の発明の効果に加えて、濃度が5重量%以上の水酸化ナトリウム水溶液であれば、塗膜自体の化学構造を変化させて塗膜を十分に分解可能なため、確実に塗膜を剥離させることができる。
【0020】
第4の発明によれば、第1乃至第3のいずれかの発明の効果に加えて、剪断力によって傷つき塗膜が形成されるとともに、衝突力が抑制されることにより塗膜付きポリマー材料や不純物が粉砕されることが防止されるため、再生ポリマー材料の生産効率を向上させるとともに再生ポリマー材料の品質も向上させることができる。
【0021】
第5の発明によれば、第4の発明と同様の効果を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係る塗膜除去方法を実施するための塗膜除去装置の構成図である。
図2】本発明に係る塗膜除去方法の処理対象物である塗膜付きポリマー材料の縦断面図である。
図3】本発明に係る塗膜除去方法の工程図である。
図4】実施例1に係る塗膜付きポリマー材料の未処理画像である。
図5】実施例1に係る再生ポリマー材料の画像である。
図6】実施例2に係る再生ポリマー材料の画像である。
図7】実施例3に係る再生ポリマー材料の画像である。
図8】実施例5に係る再生ポリマー材料の画像である。
図9】実施例6と、比較例1に係る再生ポリマー材料の画像である。
図10】実施例8と、比較例2に係る再生ポリマー材料の画像である。
図11】実施例12に係る再生ポリマー材料の画像である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0023】
本発明に係る塗膜除去方法を実施するための塗膜除去装置について、図1を用いて説明する。図1は、本発明に係る塗膜除去方法を実施するための塗膜除去装置の構成図である。
図1に示すように、本発明に係る塗膜除去方法を実施するための塗膜除去装置1は、破砕機2と、二軸混練機3と、分級機4と、剥離槽5と、スクリューコンベア6,8と、洗浄槽7と、破砕機2乃至剥離槽5の間をそれぞれ連結する複数のコンベア(図示せず)を備える。これら破砕機2、二軸混練機3、分級機4、剥離槽5、スクリューコンベア6,8及び洗浄槽7は、それぞれ公知の構成のものである。
上記のうち、破砕機2は、塗膜除去方法の対象である塗膜付きポリマー材料50を破砕して、小片51を形成する。
また、二軸混練機3は、塗膜付きポリマー材料を投入する混練機混練タンク3aと、この混練タンク3aに設置される回転軸3b,3cと、混練タンク3a内を加熱するヒーター3dを備え、破砕機2で破砕された小片51を、所定の混練温度に加熱して混練し、傷つき塗膜付きポリマー材料52を形成する。このうち、回転軸3b,3cは、互いに逆方向に回転することで、回転軸3bと、回転軸3cとの間に塗膜付きポリマー材料50を導入し、混練する。
さらに、分級機4は、二軸混練機3によって形成された傷つき塗膜付きポリマー材料52を、スクリーン(図示せず)を用いて分級する。具体的には、分級機4は、破砕機2において所定のサイズに破砕された傷つき塗膜付きポリマー材料52を剥離槽5へ送り、所定のサイズよりも大きいサイズの傷つき塗膜付きポリマー材料52を破砕機2へ送り返す。
【0024】
そして、剥離槽5は、アルカリ性剥離液60を貯留する反応槽5aと、この反応槽5aの上方開口部に取り付けられる蓋5bと、アルカリ性剥離液60を撹拌する回転翼5cと、反応槽5a内を加熱するヒーター5dを備える。よって、剥離槽5は、分級機4によって分級された傷つき塗膜付きポリマー材料52を、反応槽5a内で、所定の反応温度に加熱されたアルカリ性剥離液60と反応させて傷つき塗膜を剥離し、傷つき塗膜剥離済みポリマー材料52aを形成する。
次いで、スクリューコンベア6は、下端6aが反応槽5aに差し込まれ、傷つき塗膜剥離済みポリマー材料52aをアルカリ性剥離液60から分離する。
さらに、洗浄槽7は、洗浄液として水が貯留され、スクリューコンベア6によって分離された傷つき塗膜剥離済みポリマー材料52aを洗浄する。
その後、スクリューコンベア8が、洗浄された傷つき塗膜剥離済みポリマー材料52aを洗浄液から分離して、再生ポリマー材料53として回収する。
【0025】
続いて、本発明に係る塗膜除去方法の処理対象物について説明する。 図2は、本発明に係る塗膜除去方法の処理対象物である塗膜付きポリマー材料の縦断面図である。
図2に示すように、塗膜付きポリマー材料50は、バンパーやドアミラーといった自動車材料であって、ポリプロピレンを主成分とするポリマー材料54と、このポリマー材料54の一方の面54aを被覆する塗膜55を有する。
また、塗膜55は、一方の面54aを被覆する下層55aと、この下層55aの上方に積層される中層55bと、この中層55bの上方に積層される上層55cからなる。具体的には、下層55a乃至上層55cは、それぞれプライマー、アクリルウレタン、トップコートである。
さらに、二軸混練機3によって形成される傷56は、少なくとも中層55bに到達する深さがあればよい。
【0026】
さらに、本発明に係る塗膜除去方法について説明する。図3は、本発明に係る塗膜除去方法の工程図である。
図3に示すように、本発明に係る塗膜除去方法100は、塗膜付きポリマー材料50から、塗膜55を剥離して除去する塗膜除去方法であって、ステップS1の破砕工程と、ステップS2の傷つけ工程と、ステップS3の分級工程と、ステップS4の剥離工程と、ステップS5の固液分離工程と、ステップS6の洗浄工程を備える。以下、各工程について説明する。
まず、ステップS1の破砕工程では、破砕機2において、未処理の塗膜付きポリマー材料50を破砕して小片51を形成する。
次に、ステップS2の傷つけ工程は、塗膜付きポリマー材料50の小片51を投入する混練タンク3aと、この混練タンク3aに設置される回転軸3b,3cを備える二軸混練機3を用いて、投入された小片51を混練することでこの小片51に剪断力を加え、その塗膜55に傷56をつけて傷つき塗膜を形成する工程である。
詳細には、混練タンク3aに投入され、かつ回転軸3bと、回転軸3cとの間に巻き込まれた小片51を所定の条件下で混練し、この小片51に剪断力を加える。これにより、小片51の塗膜55に、少なくとも中層55bに達する傷56が形成される。なお、小片51のほかに混練タンク3aに投入する物質はない。
また、所定の条件とは、小片51を混練する混練温度が塗膜55の軟化温度以上、かつポリマー材料54の軟化温度以下であることを含む。具体的には、混練温度はヒーター3dによって設定され、50~150℃が好適である。
そして、小片51を混練する混練時間は、15分以下が好適である。ただし、混練は数秒で終了する場合もあるため、混練時間の下限値はゼロ秒より長いものであればよい。
また、回転軸3b,3cの回転数は、6rpm以上、かつ300rpm以下が好適である。このように、回転数を従来の値(特許文献2では、300rpmの高速回転であった。)よりも低速とした理由は、高速回転の場合、小片51同士に発生する摩擦力により、塗膜55が融解して粉末となってしまうおそれがあることと、小片51に過度な衝突力が加わることによって、塗膜付きポリマー材料50中に混入する不純物が粉砕されるおそれを考慮したものである。
【0027】
続いて、ステップS3の分級工程では、二軸混練機3によって形成された傷つき塗膜付きポリマー材料52を、分級機4を用いて分級し、所定のサイズに破砕された小片51、すなわち傷つき塗膜付きポリマー材料52のみを剥離槽5へ送る。所定のサイズとは、例えば、傷つき塗膜付きポリマー材料52の一辺が、1mm以上であるものをいう。
そして、ステップS4の剥離工程では、剥離槽5において、傷つき塗膜付きポリマー材料52を構成する傷つき塗膜を、アルカリ性剥離液60を用いてポリマー材料54から剥離し、傷つき塗膜剥離済みポリマー材料52aを得る。
また、ステップS4の剥離工程は、アルカリ性剥離液60に、傷つき塗膜を有する傷つき塗膜付きポリマー材料52を浸漬し、ヒーター5dにより、50℃以上、かつポリマー材料54の融点以下の温度で加熱する。なお、ポリマー材料54の融点とは、ポリマー材料54がポリプロピレンを主成分とする場合、150~180℃である。
なお、アルカリ性剥離液60とは、具体的には、濃度が5重量%以上の水酸化ナトリウム水溶液である。
【0028】
そして、ステップS5の固液分離工程では、スクリューコンベア6を用いて、剥離槽5から傷つき塗膜剥離済みポリマー材料52aを引き上げて、固液分離する。
その後、ステップS6の洗浄工程では、洗浄槽7において、この洗浄槽7に貯留された洗浄液を用いて、アルカリ性剥離液60が付着した傷つき塗膜剥離済みポリマー材料52aを洗浄する。
そして、スクリューコンベア8を用いて、洗浄槽7から洗浄した傷つき塗膜剥離済みポリマー材料52aを引き上げて、固液分離し、乾燥させる。これにより、再生ポリマー材料53が回収される。
【0029】
次に、塗膜除去方法100を用いた実施例1乃至実施例12の実施条件について、それぞれ説明する。
(実施例1)
サンプルとして、塗膜付きポリマー材料50に該当するA社製塗膜付きバンパーを、ステップS1の破砕工程において破砕し、小片51(図4参照)を得た。そして、この小片51について、2本の回転軸3b,3cをもつ二軸混練機3(佐竹化学機械工業(株)製)を用い、ステップS2の傷つけ工程を実施した。
具体的には、ステップS2の傷つけ工程では、小片51を混練温度60℃に加熱し、3分間混練して塗膜55の表面に傷をつけ、傷つき塗膜付きポリマー材料52を得た。そして、ステップS2の傷つけ工程を実施していない小片51の塗膜剥離率を0(%)としたときの、実施例1に係る傷つき塗膜付きポリマー材料52の塗膜剥離率(%)を以下の表1に示すとともに、その画像を図5に示した。なお、塗膜剥離率(%)は、図5乃至図7に示す各画像の残存した塗膜の面積を、図4に示す無処理の画像の塗膜面積で割った値の百分率として計算した。
【0030】
(実施例2)
実施例1に係る小片51について、混練時間を5分としてステップS2の傷つけ工程を実施し、傷つき塗膜付きポリマー材料52を得た。このとき、混練時間以外の条件は、実施例1の条件と同様である。
実施例2に係る傷つき塗膜付きポリマー材料52の塗膜剥離率(%)を表1に示すとともに、その画像を図6に示した。
【0031】
(実施例3)
実施例1に係る小片51について、混練時間を15分としてステップS2の傷つけ工程を実施し、傷つき塗膜付きポリマー材料52を得た。このとき、混練時間以外の条件は、実施例1の条件と同様である。
実施例2に係る傷つき塗膜付きポリマー材料52の塗膜剥離率(%)を表1に示すとともに、その画像を図7に示した。
【0032】
ここで、表1を以下に示す。表1は、実施例1-3における塗膜付きポリマー材料に、ステップS2の傷つけ工程までの処理を加えたときの塗膜剥離率を示している。ただし、表中「未処理」の列は、ステップS2の傷つけ工程を実施していない小片51の塗膜剥離率0%である。また、3分が実施例1、5分が実施例2、15分が実施例3の各混練時間である。
【0033】
【表1】
【0034】
表1に示すように、混練時間をそれぞれ3分、5分、15分に設定した場合の傷つき塗膜付きポリマー材料52の各塗膜剥離率は、いずれも74%以上である。よって、ステップS2の傷つけ工程が実施されることにより、塗膜剥離率が未処理の場合と比較して飛躍的に向上する結果となった。
【0035】
(実施例4)
サンプルとして、塗膜付きポリマー材料50に該当するB社製塗膜付きバンパーを、ステップS1の破砕工程において破砕し、小片51を得た。そして、この小片51について、ステップS2の傷つけ工程を実施し、傷つき塗膜付きポリマー材料52を得た。各工程の条件は、実施例2の条件とそれぞれ同様である。
【0036】
(実施例5)
サンプルとして、塗膜付きポリマー材料50に該当するC社製塗膜付きバンパーを、ステップS1の破砕工程において破砕し、小片51を得た。そして、この小片51について、混練温度を80℃、混練時間を5分としてステップS2の傷つけ工程を実施し、傷つき塗膜付きポリマー材料52を得た。このとき、混練温度、混練時間以外の条件は、実施例1の条件と同様である。
実施例5に係る傷つき塗膜付きポリマー材料52の画像を図8に示した。
【0037】
(実施例6)
実施例1で得られた傷つき塗膜付きポリマー材料52に対して、ステップS4の剥離工程を実施した。具体的には、剥離槽5を用いて、20重量%の水酸化ナトリウム水溶液に傷つき塗膜付きポリマー材料52を浸漬し、反応温度を90℃として1時間反応させた。なお、剥離槽5は、常圧容器(内部温度は反応温度と一致する90℃)である。
その結果、塗膜55は剥離した。剥離した結果を〇として表2に示すとともに、その画像を図9に示した。
【0038】
(実施例7)
実施例1で得られた傷つき塗膜付きポリマー材料52に対して、ステップS4の剥離工程を実施した。具体的には、剥離槽5を用いて、20重量%の水酸化ナトリウム水溶液に傷つき塗膜付きポリマー材料52を浸漬し、反応温度を110℃として1時間反応させた。なお、剥離槽5は、加圧容器(同上110℃)である。
その結果、塗膜は剥離した。剥離した結果を〇として表2に示した。
【0039】
(実施例8)
実施例1で得られた傷つき塗膜付きポリマー材料52に対して、ステップS4の剥離工程を実施し、反応温度を130℃として1時間反応させた。このとき、反応温度以外の条件は、実施例7の条件と同様である。
その結果、塗膜は剥離した。剥離した結果を〇として表2に示すとともに、その画像を図10に示した。
【0040】
(実施例9)
実施例4で得られた傷つき塗膜付きポリマー材料52に対して、ステップS4の剥離工程を実施し、反応温度を110℃として1時間反応させた。このとき、反応温度以外の条件は、実施例7の条件と同様である。
その結果、塗膜は剥離しなかった。剥離しなかった結果を×として表2に示した。
【0041】
(実施例10)
実施例4で得られた傷つき塗膜付きポリマー材料52に対して、ステップS4の剥離工程を実施し、反応温度を130℃として1時間反応させた。このとき、反応温度以外の条件は、実施例9の条件と同様である。
その結果、塗膜は剥離した。剥離した結果を〇として表2に示した。
【0042】
(実施例11)
実施例4で得られた傷つき塗膜付きポリマー材料52に対して、ステップS4の剥離工程を実施し、反応温度を170℃として1時間反応させた。このとき、反応温度以外の条件は、実施例9の条件と同様である。
その結果、塗膜は剥離した。剥離した結果を〇として表2に示した。
【0043】
(実施例12)
実施例5で得られた傷つき塗膜付きポリマー材料52に対して、ステップS4の剥離工程を実施し、反応温度を140℃、反応時間を20分として反応させた。このとき、反応温度及び反応時間以外の条件は、実施例7の条件と同様である。
その結果、塗膜は剥離した。剥離した結果を〇として表3に示すとともに、その画像を図11に示した。
【0044】
さらに、比較例1乃至実施例8の実施条件について、それぞれ説明する。
(比較例1)
実施例1で得られた小片51(A社製塗膜付きバンパー由来)に対して、ステップS4の剥離工程を実施した。具体的には、剥離槽5を用いて20重量%の水酸化ナトリウム水溶液に傷つき塗膜付きポリマー材料52を浸漬し、反応温度を90℃として1時間反応させた。なお、剥離槽5は、常圧容器である。
その結果、塗膜55は剥離しなかった。剥離しなかった結果を×として表2に示すとともに、その画像を図9に示した。
【0045】
(比較例2)
実施例1で得られた小片51に対して、ステップS4の剥離工程を実施し、反応温度を130℃として1時間反応させた。このとき、反応温度以外の条件は、比較例1の条件と同様である。
その結果、塗膜55は剥離しなかった。剥離しなかった結果を×として表2に示すとともに、その画像を図10に示した。
【0046】
(比較例3)
実施例1で得られた小片51に対して、ステップS4の剥離工程を実施し、反応温度を140℃として1時間反応させた。このとき、反応温度以外の条件は、比較例2の条件と同様である。
その結果、塗膜55は剥離しなかった。剥離しなかった結果を×として表2に示した。
【0047】
(比較例4)
実施例1で得られた小片51に対して、ステップS4の剥離工程を実施し、反応温度を150℃として1時間反応させた。このとき、反応温度以外の条件は、比較例2の条件と同様である。
その結果、塗膜55は剥離した。剥離した結果を〇として表2に示した。
【0048】
(比較例5)
実施例4で得られた小片51(B社製塗膜付きバンパー由来)に対して、ステップS4の剥離工程を実施し、反応温度を130℃として1時間反応させた。このとき、反応温度以外の条件は、比較例2の条件と同様である。
その結果、塗膜55は剥離しなかった。剥離しなかった結果を×として表2に示した。
【0049】
(比較例6)
実施例4で得られた小片51に対して、ステップS4の剥離工程を実施し、反応温度を170℃として1時間反応させた。このとき、反応温度以外の条件は、比較例2の条件と同様である。
その結果、塗膜55は剥離しなかった。剥離しなかった結果を×として表2に示した。
【0050】
(比較例7)
実施例5で得られた小片51(C社製塗膜付きバンパー由来)に対して、ステップS4の剥離工程を実施した。具体的には、反応温度を140℃、反応時間を20分として反応させた。このとき、反応温度と、反応時間以外の条件は、比較例2の条件と同様である。
その結果、塗膜55は剥離しなかった。剥離しなかった結果を×として表3に示した。
【0051】
(比較例8)
実施例5で得られた小片51に対して、ステップS4の剥離工程を実施し、反応温度を140℃として1時間反応させた。このとき、反応温度以外の条件は、比較例2の条件と同様である。
その結果、塗膜55は剥離した。剥離した結果を〇として表3に示した。
【0052】
ここで、表2及び表3を以下に示す。
表2は、ステップS2の傷つけ工程を実施した場合(実施例6-11)と、実施しなかった場合(比較例1-6)について、ステップS4の剥離工程における反応温度をそれぞれ変化させたときに、塗膜55が剥離されたか否かという結果を示したものである。
表3は、ステップS2の傷つけ工程を実施した場合(実施例12)と、実施しなかった場合(比較例7,8)について、ステップS4の剥離工程における反応時間をそれぞれ変化させたときに、塗膜55が剥離されたか否かという結果を示したものである。
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
表2に示すように、A社製塗膜付きバンパーにおいて、比較例1-4では、比較例4のように反応温度を150℃まで上昇させなければ、塗膜剥離が確認されなかった。これに対し、実施例6-8では、実施例6のように、反応温度が90℃のときに塗膜剥離が確認された。
また、B社製塗膜付きバンパーにおいて、比較例5,6では、反応温度を170℃まで上昇させても、塗膜剥離が確認されなかった。これに対し、実施例9-11では、実施例10のように、反応温度が130℃で塗膜剥離が確認された。
さらに、図9に示すように、実施例6に係る傷つき塗膜剥離済みポリマー材料52aでは白色の物質がほとんど存在しないが、比較例1では白色の物質が一様に残存している。また、図10における実施例8の画像と、比較例2の画像も、同様の結果となっている。なお、この白色の物質は、中層55b(図2参照)をなすアクリルウレタンである。
これは、水酸化ナトリウム水溶液がアクリルウレタンのアクリル部分のエステル結合を分解することで架橋を切断するという作用と、ステップS2の傷つけ工程で傷56が少なくとも中層55bに到達する深さに形成される作用と、によってもたらされると考えられる。すなわち、水酸化ナトリウムが傷56を介して中層55bに浸透し、傷56の周辺のアクリル部分を分解する結果、傷つき塗膜がポリマー材料54から剥がれ易くなるものと考えられる。
【0056】
また、表3に示すように、C社製塗膜付きバンパーにおいて、比較例7,8では、比較例8のように反応時間を60分まで延長させなければ、塗膜剥離が確認されなかった。これに対し、実施例12では、反応時間が20分で塗膜剥離が確認された。
以上から、塗膜除去方法100によれば、比較例1-8のようにステップS2の傷つけ工程を実施しない場合と比べて、水酸化ナトリウム水溶液の反応温度を低めに、かつ反応時間を短めにしつつ、塗膜55を確実に剥離することができる。
よって、ステップS4の剥離工程での実施条件を緩和することが可能である。したがって、融点が150℃以下の低融点樹脂についても、その塗膜を十分に剥離することができる。
【0057】
以上説明したように、塗膜除去方法100によれば、塗膜55を分解させる水酸化ナトリウムの浸透を促進するための傷56を塗膜55につけることができるステップS2の傷つけ工程と、この傷56に水酸化ナトリウムを浸透させて傷つき塗膜をポリマー材料54から高効率に剥離可能なステップS4の剥離工程を組み合わせることで、再生ポリマー材料53の生産効率を向上させることができる。
しかも、塗膜除去方法100によれば、ステップS2の傷つけ工程において、塗膜55の粉末化や不純物の粉砕を防止可能であるから、高品質の再生ポリマー材料53を生産可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、塗膜付きポリマー材料から塗膜を剥離して除去する塗膜除去方法として適用可能である。
【符号の説明】
【0059】
1…塗膜除去装置 2…破砕機 3…二軸混練機 3a…混練タンク 3b,3c…回転軸 3d…ヒーター 4…分級機 5…剥離槽 5a…反応槽 5b…蓋 5c…回転翼 5d…ヒーター 6,8…スクリューコンベア 6a…下端 7…洗浄槽 50…塗膜付きポリマー材料 51…小片 52…傷つき塗膜付きポリマー材料 52a…傷つき塗膜剥離済みポリマー材料 53…再生ポリマー材料 54…ポリマー材料 54a…一方の面 55…塗膜 55a…下層 55b…中層 55c…上層 56…傷 60…アルカリ性剥離液 100…塗膜除去方法 S1…破砕工程 S2…傷つけ工程 S3…分級工程 S4…剥離工程 S5…固液分離工程 S6…洗浄工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11