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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093984
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】二次電池用樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20230628BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230628BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20230628BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/139
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209156
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】出口 直幹
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA05
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB12
5H050CB20
5H050DA11
5H050EA01
5H050EA23
5H050GA10
5H050GA15
5H050GA22
5H050HA00
(57)【要約】
【課題】
本発明の課題は、銅などの金属異物が混入しても短絡等により電池性能が低下せず、優れた電池特性を達成することができる二次電池用樹脂組成物を製造することである。
【解決手段】
上記課題は、重合体と分散媒とを含む二次電池用樹脂組成物の製造方法であって、該二次電池用樹脂組成物中に含まれる金属成分を酸化する工程を含む二次電池用樹脂組成物の製造方法により解決できる。また、上記課題は、前記金属成分を酸化する工程が、前記二次電池用樹脂組成物に酸素ガスを接触させる工程である二次電池用樹脂組成物の製造方法により解決できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体と分散媒とを含む二次電池用樹脂組成物の製造方法であって、
該二次電池用樹脂組成物中に含まれる金属成分を酸化する工程を含む二次電池用樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記金属成分を酸化する工程が、前記二次電池用樹脂組成物に酸素ガスを接触させる工程である請求項1に記載の二次電池用樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記酸素ガスの吹き込み流量が、前記二次電池用樹脂組成物1mあたり、20NL/h以上である請求項2に記載の二次電池用樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
さらに導電材を含む、請求項1~3いずれかに記載の二次電池用樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
さらに無機酸及び/又は無機塩基を含む、請求項1~4いずれかに記載の二次電池用樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5いずれかに記載の製造方法により得られた二次電池用樹脂組成物と電極活物質とを含有する二次電池電極用スラリー組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法により得られた二次電池電極用スラリー組成物を塗工する電極膜の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法により得られた電極膜を電極基材上に形成する電池用電極の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の製造方法により得られた電池用電極を用いたリチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用樹脂組成物の製造方法に関する。
【0002】
リチウムイオン二次電池は、電気自動車及び携帯機器等のバッテリーとして広く用いられている。電気自動車及び携帯機器等の高性能化に伴い、リチウムイオン二次電池には、高容量、高出力、及び小型軽量化といった要求が年々高まっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の電極は、リチウムイオンを含む正極活物質と導電材と結着材などからなる電極合材を金属箔の集電体の表面に固着させた正極、及び、リチウムイオンの脱挿入可能な負極活物質と導電材と結着材などからなる電極合材を金属箔の集電体の表面に固着させた負極が使用されている。
リチウムイオン二次電池の容量は、主材料である正極活物質及び負極活物質に依存し、電極膜内の電極活物質の充填量を増加すれば、容量を増加させることができる。従って、導電性や、結着性を担保しつつも、活物質を高充填化することにより、電池を高容量化する試みがなされている。
【0004】
一方で、リチウムイオン二次電池においては、金属成分の負極上での還元・析出による電池性能劣化や、短絡の発生による過剰発熱や発火等も重要な問題である。金属成分による性能劣化や短絡の要因としては、(1)製造工程に由来する金属不純物の混入(例えば、輸送用配管等に使用されるステンレス由来もの)や、導電材、樹脂(分散剤、結着材)等の原料由来の金属不純物の混入、また、(2)正極、集電体、電池容器等に含まれる金属イオンが電解液中へ溶出した後に、負極上で還元・析出することや、(3)正極の劣化により、正極活物質から金属イオンが溶出し、負極上で還元・析出すること、等が挙げられる。特に自動車用途など、電池の大型化を伴う用途においては、重大な事故になり得るため、より厳重に金属微粒子の混入を防ぐ、または排除する必要性が増していく。
【0005】
特許文献1では、目的は異なるが、磁力により、二次電池用樹脂組成物中の粒子状金属成分を除去する方法が提案されている。しかしながら、この発明方法によれば、鉄のような磁性を有する金属に関しては、混入しても磁力により回収が可能である一方で、銅のような磁性を有しない金属に関しては、混入後の除去が難しいという問題がある。
【0006】
銅のような磁性を有しない金属不純物が混入したとき、その金属イオンの電解液への溶出、そして負極への異物析出を抑制するため、様々な添加剤が検討されている。特許文献2では、アルカリ電池の正極合剤にEDTAなどのキレート剤を配合したアルカリ電池を提案している。この発明では、正極合材に対し、キレート剤を添加することにより、正極合材中の金属不純物である銅がイオン化した場合であっても、銅イオンを錯体化することで溶出を防止する試みがなされている。しかしながら、電解液を通じてキレート剤が拡散し、イオン化した活物質をキレート形成により捕捉するため、活物質の容量低下と、それに伴う放電容量が低下などの問題があり、この発明では不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開2010/032784号
【特許文献2】特開2008-21497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上の状況を鑑み、本発明では、銅などの金属異物が混入しても短絡等により電池性能が低下せず、優れた電池特性を達成することができる二次電池用樹脂組成物を製造することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、二次電池用樹脂組成物中の金属異物を酸化することで、金属異物が混入しても短絡等による性能低下しない電池性能に優れた電池を実現できることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0010】
本発明は、重合体と分散媒とを含む二次電池用樹脂組成物の製造方法であって、
該二次電池用樹脂組成物中に含まれる金属成分を酸化する工程を含む二次電池用樹脂組成物の製造方法に関する。
【0011】
本発明は、前記金属成分を酸化する工程が、前記二次電池用樹脂組成物に酸素ガスを接触させる工程である前記二次電池用樹脂組成物の製造方法に関する。
【0012】
本発明は、前記酸素ガスの吹き込み流量が、前記二次電池用樹脂組成物1mあたり、20NL/h以上である前記二次電池用樹脂組成物の製造方法に関する。
【0013】
本発明は、さらに導電材を含む、前記二次電池用樹脂組成物の製造方法に関する。
【0014】
本発明は、さらに無機酸及び/又は無機塩基を含む、前記二次電池用樹脂組成物の製造方法に関する。
【0015】
本発明は、前記製造方法により得られた二次電池用樹脂組成物と電極活物質とを含有する二次電池電極用スラリー組成物の製造方法に関する。
【0016】
本発明は、前記製造方法により得られた二次電池電極用スラリー組成物を塗工する電極膜の製造方法に関する。
【0017】
本発明は、前記製造方法により得られた電極膜を電極基材上に形成する電池用電極の製造方法に関する。
【0018】
本発明は、前記製造方法により得られた電池用電極を用いたリチウムイオン二次電池の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、銅などの金属異物が混入しても短絡等により電池性能が低下せず、優れた電池特性を達成することができる二次電池用樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、二次電池用バインダー組成物の製造ラインの一実施形態(製造ライン(A))を示す。
図2図2は、二次電池用バインダー組成物の製造ラインの一実施形態(製造ライン(B))を示す
図3図3は、二次電池用バインダー組成物の製造ラインの一実施(製造ライン(C))を示す。
【0021】
以下、本発明の詳細を説明する。尚、本明細書では、「N-メチル-2-ピロリドン」を「NMP」、「正極活物質または負極活物質」を「電極活物質」または「活物質」、「活物質及び樹脂を含む電池用組成物」を「電池用合材スラリー」、「合材スラリー」または「合材組成物」と略記することがある。
【0022】
<二次電池用樹脂組成物>
本発明における二次電池用樹脂組成物は、重合体と分散媒(溶媒)とを含有する。すなわち、二次電池用樹脂組成物は、重合体と、分散媒(溶媒)とを少なくとも含有し、導電材、塩基、酸等の二次電池電極に配合され得る任意の成分を更に含有してもよい。
【0023】
<重合体>
本発明における重合体については特に制限はなく、市販品、合成品に関わらず、単独もしくは2種類以上併せて使用することができる。重合体は主に、導電材や電極活物質を好適に分散処理するための分散剤として含まれることが好ましい。
特に限定されるものではないが、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶剤中で好適に機能する重合体としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセタールやポリビニルアルコール、水素化ニトリルゴム、を用いることができる。また、水中で好適に機能する重合体としては、カルボキシメチルセルロース、アクリル酸等を用いることができる。
【0024】
重合体を使用して炭素系導電材を分散処理する場合、炭素系導電材に対し、十分な量の重合体を添加することによって、分散媒(溶媒)中に均質に分散させることが可能となる。二次電池用樹脂組成物中に含まれる炭素系導電材の量を100質量%としたとき、炭素系導電材の分散処理に用いる重合体の合計量は、1質量%以上200質量%以下であることが好ましい。この量比で重合体を配合することで、二次電池用樹脂組成物として良好な導電性を発現させることが可能となる。重合体は、非導電性成分であり、リチウムイオン二次電池での使用を考えた場合、電気化学的な安定性や非水電解液に対する耐性が低いことが一般的である。そのため、重合体の配合比が200質量%以上の場合、初期の特性は良好だったとしても、経時で特性が劣化する場合がある。重合体の配合比は、炭素系導電材を好適に分散することができる範囲内で、できるだけ少量であることが望ましい。
【0025】
二次電池用樹脂組成物に含まれる重合体の含有量は、二次電池用樹脂組成物の質量を基準として(二次電池用樹脂組成物の質量を100質量%として)、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。また、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。二次電池用樹脂組成物に含まれる重合体の含有量を上記範囲にすることで、沈降やゲル化を防止でき、貯蔵安定性の観点から有用である。また、重合体の含有量は、分散媒への親和性や導電材の分散処理工程の作業性等を考慮して、適当な粘性を示す二次電池用樹脂組成物が得られるよう適宜調整することが好ましい。
【0026】
二次電池用樹脂組成物の粘度は、特に限定されないが、B形粘度計における60rpm時の粘度が5~10000mPa・sの範囲であることが好ましい。二次電池用樹脂組成物の粘度を上記範囲にすることで、製造における作業性が良好となる。また、製造ラインの閉塞等も防止することができる。
【0027】
また、重合体は、上記した分散剤としての成分以外をさらに含んでいてもよく、主に結着剤として機能する成分が挙げられる。結着材とは、電極膜中において電極活物質、導電材等の物質間を結合することができる樹脂であり、例えば、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルピロリドン等を構造単位として含む重合体又は共重合体;ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂等の樹脂;カルボキシメチルセルロースのようなセルロース樹脂;スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴムのようなゴム類;ポリアニリン、ポリアセチレンのような導電性樹脂等が挙げられる。また、これらの変性体、混合物、又は共重合体でもよい。これらの中でも、正極膜の結着材として使用する場合は、耐性面から分子内にフッ素原子を有する重合体又は共重合体、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン等が好ましい。また、負極膜の結着材として使用する場合は、密着性が良好なスチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸等が好ましい。
【0028】
結着材の重量平均分子量は、10,000~2,000,000が好ましく、100,000~1,000,000がより好ましく、200,000~1,000,000が更に好ましい。
【0029】
<分散媒(溶媒)>
本発明における分散媒(溶媒)は、特に限定されないが、例えば、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類、水等が挙げられる。また、これらの二種以上からなる混合溶媒を用いても良い。中でも、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)や水はリチウムイオン二次電池の電極製造に用いられていることが多い。
【0030】
<金属成分(金属異物)>
本発明における金属成分(金属異物)について説明する。金属成分の存在状態としては特に限定されず、金属やその酸化物、真鍮や青銅のような合金であっても良い。代表的な金属成分として銅が挙げられる。また、金属成分の混入経路も特に限定されない。例えば、二次電池用樹脂組成物を構成する原料(導電材や重合体)由来の混入、仕込みや混合等の組成物調製工程での混入が挙げられる。カーボンブラック及び、カーボンナノチューブ等の炭素系導電材には、それらの製造工程由来(製造設備や触媒として)の金属成分が多く含まれている場合がある。本発明は、二次電池用樹脂組成物の質量を基準にして、10ppb以上の金属成分を含む場合に好ましく適用できる。金属成分の含有量は、効果の差はあるが、如何なる量であっても本発明の効果を享受できる。
【0031】
<金属成分を酸化する工程>
本発明は二次電池用樹脂組成物に含まれる金属成分を酸化する工程を含む。金属成分を酸化する工程は特に限定されない。例えば、電気化学的な方法や、酸、塩基等の添加物による化学処理の方法等が挙げられる。中でも、酸素ガスを接触させる方法が好ましく、二次電池用樹脂組成物を攪拌しつつ、酸素ガスを吹き込み、気-液混合させる方法が好ましい。
【0032】
二次電池用樹脂組成物を攪拌する方法は特に限定されないが、一般的には、ディスパー(攪拌羽根)等が用いられる。その形状としては、プロペラ型、タービン型など様々なタイプがあるが、二次電池用樹脂組成物を均質に攪拌できるものであれば、特に限定されない。攪拌速度は0.5m/s以上とすることが好ましく、撹拌羽根のサイズや回転数を適宜調整して決定する。攪拌速度が0.5m/s以上であると、二次電池用樹脂組成物と酸素ガスが十分に気-液混合できるため好ましい。攪拌速度の上限は特に限定されず、実操業のプロセスで許容される範囲内で適宜設定すればよい。二次電池用樹脂組成物と酸素ガスが十分に気-液混合されている条件とは、一意的に決定することはできないが、二次電池用樹脂組成物の粘度や生産スケール、タンク内容量に加え、撹拌羽根サイズや回転数、撹拌羽根の形状やタンク底面からの距離等を適宜調整し、ひいては、本発明の目的が達成されるように設定する。
【0033】
酸素(空気)ガスを吹き込む方法は特に限定されないが、例えば、図1~3に示したような製造ラインが考えられる。図1は、二次電池用樹脂組成物を内包するタンクの上部より酸素(空気)ガスを直接的に吹き込む場合を示している。図2は、タンクに、配管を介してスタティックミキサーが取り付けられ、タンク内の二次電池用樹脂組成物をポンプにて循環しつつ、酸素(空気)ガスを直接組成物中に吹き込む場合を示している。図3は、タンク内下部にバブラーを設置し、タンク内の二次電池用樹脂組成物に酸素(空気)ガスを直接組成物中に吹き込む場合を示している。ガス導入配管のサイズや長さ、口径等は二次電池用樹脂組成物の生産スケール、タンク内容量を加味し、本発明の目的が達成されるように設定すればよい。
【0034】
スタティックミキサーとは、駆動手段を有さない静止型のミキサーであって、内部に6~10枚程度のエレメントと呼ばれるガイド(ジャマ板)が螺旋上に配置されており、内部を流れる流体がエレメントのねじれ面に沿って流れることにより乱流が発生し、酸素(空気)ガスが高速で分散されて小気泡化され、分散媒への分散・溶解を促進する。例えば、ノリタケカンパニーリミテド社より気-液混合タイプとして種々販売されており、配管径や循環ガス流量、スケール等に応じて選定し、使用することができる。
【0035】
本発明において、酸素ガスの吹き込み流量は、二次電池用樹脂組成物1mあたりに20NL/hour(以後hと表記)以上が好ましい。好ましくは100NL/h以上、さらに好ましくは300NL/h以上である。酸素ガスの代替として圧縮空気を使用する場合は、空気中における酸素量の割合(約20%)から計算され、1mあたりに100NL/h以上が好ましい。好ましい範囲としては、同様に、500NL/h以上、さらに好ましくは1500NL/h以上となる。
【0036】
NL(ノルマルリットル)とは、大気圧0.1013MPa(1気圧)、温度0℃、相対湿度0%の条件下で測定された学術的な気体の体積を表す。実使用(生産)条件下での体積を算出する場合は、理想気体の状態方程式より近似的に計算することが可能である。例えば、大気圧0.1013MPa(1気圧)、温度25℃における気体の体積は約1.080Lとなる。
【0037】
<導電材(炭素系導電材)>
二次電池用樹脂組成物は、導電材を更に含んでいてもよい。本発明における導電材は炭素系導電材である。炭素系導電材としては、導電性を有する炭素材料であれば特に限定されるものではないが、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー、フラーレン等を単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。導電材は、後述する電極活物質とは異なる物質(材料)である。
【0038】
カーボンブラックとしては、市販のアセチレンブラック、ファーネスブラック、中空カーボンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラックなど各種のものを用いることができる。また、カーボンブラックは、中性、酸性、塩基性のいずれでもよく、酸化処理されたカーボンブラックや、黒鉛化処理されたカーボンブラックを使用してもよい。
【0039】
カーボンナノチューブ(CNT)は、平面的なグラファイトを円筒状に巻いた形状、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブを含み、これらが混在してもよい。単層カーボンナノチューブは一層のグラファイトが巻かれた構造を有する。多層カーボンナノチューブは、二又は三以上の層のグラファイトが巻かれた構造を有する。また、カーボンナノチューブの側壁はグラファイト構造でなくともよい。また、例えば、アモルファス構造を有する側壁を備えるカーボンナノチューブも本明細書ではカーボンナノチューブである。
【0040】
カーボンナノチューブの形状は限定されない。かかる形状としては、針状、円筒チューブ状、魚骨状(フィッシュボーン又はカップ積層型)、トランプ状(プレートレット)及びコイル状を含む様々な形状が挙げられる。本実施形態においてカーボンナノチューブの形状は、中でも、針状、又は、円筒チューブ状であることが好ましい。カーボンナノチューブは、単独の形状、または2種以上の形状の組合せであってもよい。
【0041】
カーボンナノチューブの形態は、例えば、グラファイトウィスカー、フィラメンタスカーボン、グラファイトファイバー、極細炭素チューブ、カーボンチューブ、カーボンフィブリル、カーボンマイクロチューブ及びカーボンナノファイバー等が挙げられる。カーボンナノチューブは、これらの単独の形態又は二種以上を組み合わせられた形態を有していてもよい。
【0042】
炭素系導電材の炭素純度は一般的なCHN元素分析により求めることができ、炭素系導電材中の炭素原子の含有率(質量%)で表される。炭素純度は、炭素系導電材の質量を基準として(炭素系導電材の質量を100質量%として)、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上が更に好ましい。炭素純度を上記範囲にすることにより、二次電池に用いる際に不純物によってデンドライトが形成されショートが起こる等の不具合を防ぐことができる。
【0043】
前記炭素系導電材中に含まれる金属量は、炭素系導電材100質量%に対して、10質量%未満が好ましく、5質量%未満がより好ましく、2質量%未満がさらに好ましい。特に、カーボンナノチューブに含まれる金属としては、カーボンナノチューブを合成する際に触媒として使用される金属や金属酸化物が挙げられる。具体的には、鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウム、マグネシウム、シリカ、マンガンやモリブデン等の金属、金属酸化物やこれらの複合酸化物が挙げられる。
【0044】
また、前記炭素系導電材は、製造過程で使用される触媒のうち鉄金属元素を50ppm以下、より具体的には、20ppm以下の含有量で含んでもよい。このように、炭素系導電材内に残留する不純物としての鉄含有量を著しく減少させることで、電極内の副反応の恐れなしに、より優れた導電性を示すことができる。導電材内に残留する金属不純物の含有量は、高周波誘導結合プラズマ(inductively coupled plasma、ICP)を用いて分析することができる。また、前記炭素系導電材は、鉄金属元素を含まなくてもよい。
【0045】
炭素系導電材のBET比表面積は、20~1,000m/gであることが好ましく、30~500m/gであることがより好ましい。
【0046】
二次電池用樹脂組成物に含まれる炭素系導電材の含有量は、二次電池用樹脂組成物の質量を基準として(二次電池用樹脂組成物の質量を100質量%として)、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましい。二次電池用樹脂組成物に含まれる導電材の含有量を上記範囲にすることで、沈降やゲル化を起こすことなく、導電材を良好に、かつ安定に存在させることができる。また、導電材の含有量は、導電材の比表面積や分散媒への親和性等を考慮して、適当な粘性を示す二次電池用樹脂組成物が得られるよう適宜調整することが好ましい。
【0047】
炭素系導電材の分散方法は特に限定されないが、ディスパー、ホモジナイザー、シルバーソンミキサー、ニーダー、2本ロールミル、3本ロールミル、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、アニュラー型ビーズミル、アトライター、プラネタリーミキサー、又は高圧ホモジナイザー等の各種の分散手段を用いる方法が挙げられる。
【0048】
<無機酸及び無機塩基>
二次電池用樹脂組成物は、無機酸及び/又は無機塩基を更に含んでいてもよい。本発明における無機酸としては、無機化合物による酸を指し、特に限定されないが、例えば、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸などのオキソ酸や塩酸、シアン化水素酸、ヘキサフルオロリン酸などの水素酸が挙げられる。無機塩基としては、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の、塩化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、タングステン酸塩、バナジウム酸塩、モリブデン酸塩、ニオブ酸塩、又はホウ酸塩;及び、水酸化アンモニウム等が挙げられる。なお、無機塩基が有する金属は、遷移金属であってもよい。
【0049】
無機酸及び無機塩基の使用量は、二次電池用樹脂組成物の質量を基準として0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましい。また、無機酸及び無機塩基の使用量は、二次電池用樹脂組成物の質量を基準として20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。
【0050】
<二次電池電極用スラリー組成物>
二次電池電極用スラリー組成物は、前記二次電池樹脂組成物と、電極活物質とを少なくとも含有する。更に換言すると、二次電池電極用スラリー組成物は、重合体と分散媒と、電極活物質とを少なくとも含有し、導電材、塩基、酸、結着材等の任意の成分を更に含有してもよい。本明細書において、「二次電池電極用スラリー組成物」を「合材スラリー」もしくは「電極膜用スラリー」という場合がある。
【0051】
電極活物質とは、電池反応の基となる材料のことである。電極活物質は、起電力から正極活物質と負極活物質に分けられる。
【0052】
正極活物質としては、特に限定はされないが、リチウムイオンを可逆的にドーピング又はインターカレーション可能な材料を用いることができる。例えば、金属酸化物、金属硫化物等の金属化合物等が挙げられる。具体的には、Fe、Co、Ni、Mn等の遷移金属の酸化物、リチウムとの複合酸化物、遷移金属硫化物等の無機化合物等が挙げられる。具体的には、MnO、V、V13、TiO2等の遷移金属酸化物粉末;層状構造のニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、スピネル構造のマンガン酸リチウムなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末;オリビン構造のリン酸化合物であるリン酸鉄リチウム系材料;TiS、FeSなどの遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。正極活物質は、少なくともNiを含有する物質であることが好ましい。正極活物質は、1種又は複数を組み合わせて使用することもできる。
【0053】
負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的にドーピング又はインターカレーション可能な材料を用いることができる。例えば、金属Li、その合金であるスズ合金、シリコン合金、鉛合金等の合金系;LiFe、LiFe、LiWO(xは0<x<1の数である。)、チタン酸リチウム、バナジウム酸リチウム、ケイ素酸リチウム等の金属酸化物系;ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレン等の導電性高分子系;高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、天然黒鉛等の炭素質粉末;樹脂焼成炭素材料などの炭素系材料が挙げられる。負極活物質は、1種又は複数を組み合わせて使用することもできる。
【0054】
二次電池電極用スラリー組成物中の重合体の含有量は、電極活物質の質量を基準として(電極活物質の質量を100質量%として)、0.01~10質量%であることが好ましく、0.05~5質量%であることがより好ましい。
【0055】
二次電池電極用スラリー組成物中の導電材の含有量は、電極活物質の質量を基準として(電極活物質の質量を100質量%として)、0.01~10質量%であることが好ましく、0.02~5質量%であることがより好ましく0.03~3質量%であることが更に好ましい。
【0056】
二次電池電極用スラリー組成物が結着材を含有する場合、二次電池電極用スラリー組成物中の結着材の含有量は、電極活物質の質量を基準として(電極活物質の質量を100質量%として)、0.1~30質量%であることが好ましく、0.5~20質量%であることがより好ましく、1~10質量%であることが更に好ましい。
【0057】
本発明の二次電池電極用スラリー組成物中の固形分量は、二次電池電極用スラリー組成物の質量を基準として(二次電池電極用スラリー組成物の質量を100質量%として)、30~90質量%であることが好ましく、30~80質量%であることがより好ましく、40~75質量%であることが更に好ましい。
【0058】
二次電池電極用スラリー組成物は、従来公知の様々な方法で作製することができる。例えば、二次電池用樹脂組成物に電極活物質を添加して作製する方法(重合体は結着材としての機能も有するため、結着材を加えなくとも二次電池電極用スラリー組成物を得ることができる。);二次電池用樹脂組成物に結着材を添加した後、電極活物質を添加して作製する方法;二次電池用樹脂組成物に電極活物質を添加した後、結着材を添加して作製する方法などが挙げられる。
【0059】
二次電池電極用スラリー組成物を作製する方法としては、二次電池用樹脂組成物に結着材を添加した後、電極活物質を更に加えて分散処理を行う方法が好ましい。分散に使用される分散装置は特に限定されない。炭素系導電材の分散方法の説明において挙げた分散手段を用いて、二次電池電極用スラリー組成物を得ることができる。また、二次電池用樹脂組成物に結着材を添加することなく、電極活物質を加えて分散処理を行ってもよい。
【0060】
<電極膜>
電極膜は、前記二次電池電極膜用スラリー組成物を用いて形成した膜を含み、更に、集電体を含んでもよい。例えば、電極膜は、集電体上に二次電池電極膜用スラリー組成物を塗工し、乾燥させることで得ることができ、集電体と膜とを含む。本明細書において、「二次電池電極膜用スラリー組成物を用いて形成した膜」を「電極合材層」という場合がある。
【0061】
電極膜の形成に用いられる集電体の材質及び形状は特に限定されず、各種二次電池にあったものを適宜選択することができる。例えば、集電体の材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、又はステンレス等の金属又は合金が挙げられる。また、形状としては、一般的には平板上の箔が用いられるが、表面を粗面化した集電体、穴あき箔状の集電体、又はメッシュ状の集電体も使用できる。
【0062】
集電体上に二次電池用電極スラリー組成物を塗工する方法としては、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法又は静電塗装法等を挙げることができる。乾燥方法としては、放置乾燥、又は、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、若しくは遠赤外線加熱機等を用いる乾燥を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0063】
塗工後に、平版プレス、カレンダーロール等による圧延処理を行ってもよい。形成された膜の厚みは、例えば、1μm以上500μm以下であり、好ましくは10μm以上300μm以下である。
【0064】
<非水電解質二次電池>
非水電解質二次電池は、正極と、負極と、電解質とを含み、正極及び負極からなる群から選択される少なくとも1つが、前記電極膜を含む。
【0065】
正極としては、例えば、集電体上に正極活物質を含む二次電池用電極スラリー組成物を塗工し、乾燥させて作製した電極膜を使用することができる。
【0066】
負極としては、例えば、集電体上に負極活物質を含む二次電池用電極スラリー組成物を塗工し、乾燥させて作製した電極膜を使用することができる。
【0067】
電解質としては、イオンが移動可能な従来公知の様々なものを使用することができる。例えば、LiBF、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、Li(CFSON、LiCSO、Li(CFSOC、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF、LiSCN、又はLiBPh(ただし、Phはフェニル基である)等リチウム塩を含むものが挙げられるが、これらに限定されない。電解質は非水系の溶媒に溶解して、電解液として使用することが好ましい。
【0068】
非水系の溶媒としては、特に限定はされないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネート等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、及びγ-オクタノイックラクトン等のラクトン類;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,2-メトキシエタン、1,2-エトキシエタン、及び1,2-ジブトキシエタン等のグライム類;メチルフォルメート、メチルアセテート、及びメチルプロピオネート等のエステル類;ジメチルスルホキシド、及びスルホラン等のスルホキシド類;並びに、アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。これらの溶媒は、それぞれ単独で使用してもよいが、2種以上を混合して使用してもよい。
【0069】
非水電解質二次電池は、セパレーターを含むことが好ましい。セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布及びこれらに親水性処理を施した不織布が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0070】
本実施形態の非水電解質二次電池の構造は特に限定されないが、通常、正極及び負極と、必要に応じて設けられるセパレーターとを備え、ペーパー型、円筒型、ボタン型、積層型等、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。
【実施例0071】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。
【0072】
<導電材>
・カーボンブラック:アセチレンブラック HS-100(デンカ社製)窒素吸着量からS-BET式で求めた比表面積39m/g、以下「CB」と略記する。
・カーボンナノチューブ:多層カーボンナノチューブ 100T(Kumho Petrochemical社製)、繊維径10~15μm、以下「CNT」と略記する。
【0073】
<重合体>
・ポリビニルピロリドン:K30(日本触媒社製)。以下、PVPと略記する。
・水添ニトリルゴム:Zpole(R) 2000L(日本ゼオン社製)。以下、HNBRと略記する。
・カルボキシメチルセルロース:サンローズ(R) 0F01MC(日本製紙社製)。以下、CMCと略記する。
【0074】
<無機酸及び無機塩基>
・水酸化ナトリウム、顆粒状(富士フィルム和光純薬社製)。以下、NaOHと略記する。
・塩酸(富士フィルム和光純薬社製)。以下、HClと略記する。
【0075】
<結着材>
・ポリフッ化ビニリデン:KFポリマーW7300(クレハ社製)、重量平均分子量約100万。以下、PVDFと略記する。
・スチレンブタジエンラバー(以下、SBRと略記する)エマルション溶液:TRD2001(JSR株式会社製)、固形分48%
【0076】
<その他>
・銅粉末:富士フイルム和光純薬(株)、D50 75μm、純度99.9%
・酸化銅:キシダ化学(株)、D50 150μm(100mesh)
【0077】
<電極活物質>
・LiNi1/3Mn1/3Co1/3:正極活物質、ニッケルマンガンコバルト酸リチウム。電子顕微鏡で観察して求めた平均一次粒子径が5.5μm、窒素吸着量からS-BET式で求めた比表面積0.62m/g、以下、「NCM」と略記する。
・人造黒鉛:負極活物質、CGB-20(日本黒鉛工業株式会社製)、平均粒子径12μm、以下、「黒鉛」と略記する。
【0078】
<原料中の金属イオン・原子含有量測定方法>
実施例に使用する導電材、重合体及び結着材を、日本工業規格JIS K 0116;2014に従い酸分解法にて前処理し、ICP発光分析法にて鉄及び銅のイオン・原子の含有量測定を行った。これらを原料として使用することで組成物中に金属異物が混入することが考えられる。
・CB:鉄 0ppm(検出下限以下)、銅 0ppm(検出下限以下)
・CNT:鉄 9976ppm、銅 1.6ppm
・PVP:鉄 13ppm、銅 0ppm(検出下限以下)
・CMC:鉄 0.9ppm、銅 0ppm(検出下限以下)
・HNBR:鉄 28ppm、銅 0ppm(検出下限以下)
・PVDF:鉄 32ppm、銅 0.9ppm
【0079】
以下に、本発明の二次電池用樹脂組成物の製造ラインの一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、タンク上部より酸素(空気)ガスを導入し、ディスパー攪拌により、タンク内の二次電池用樹脂組成物と酸素(空気)ガスを気-液混合する場合の製造ラインの一例を示している。
図2は、タンクに、配管を介してスタティックミキサーが取り付けられ、タンク内の二次電池用樹脂組成物をポンプにて循環しつつ、酸素(空気)ガスを直接組成物中に導入することで気-液混合する場合の製造ラインの一例を示している。
図3は、タンク内下部にバブラーを設置し、タンク内の二次電池用樹脂組成物に酸素(空気)ガスを直接組成物中に導入しつつ、ディスパー攪拌することで気-液混合する場合の製造ラインの一例を示している。
なお、各製造ラインを構成するタンク、配管等の構成部材のサイズは製造スケールに応じて調整して使用する。
【0080】
<二次電池用樹脂組成物の製造ライン(A)>
図1の二次電池用樹脂組成物の製造ライン(A)について、詳細に説明する。
製造ライン(A)は、1Aに示す二次電池用樹脂組成物を溶解/貯蔵/調製するためのタンクと、タンク内の二次電池用樹脂組成物を攪拌するためのディスパー(攪拌羽根)2Aを備えている。タンク上部からは、酸素(空気)ガス導入用の配管31Aが繋がれており、タンク内の二次電池用樹脂組成物を攪拌しながら、酸素(空気)ガスを導入することにより、気-液混合することが可能となる。
【0081】
<二次電池用樹脂組成物の製造ライン(B)>
図2の二次電池用樹脂組成物の製造ライン(B)について、詳細に説明する。
製造ライン(B)は、1Bに示す二次電池用樹脂組成物を溶解/貯蔵/調製するためのタンクと、タンク内の二次電池用樹脂組成物を攪拌するためのディスパー(攪拌羽根)2Bを備え、タンク下部からは、弁5を介して、配管31Bにつながっている。配管31Bは循環用ポンプ6に繋がれており、ポンプ出側配管32Bの先は酸素(空気)ガス導入口7を経て、スタティックミキサー8が取り付けられ、スタティックミキサー8の先の配管33Bは、タンク1Bの上部に繋がれている。これらにより、二次電池用樹脂組成物中に直接的に酸素(空気)ガスを導入しながら、循環・攪拌することで、気-液混合することが可能となる。
【0082】
<二次電池用樹脂組成物の製造ライン(C)>
図3の二次電池用樹脂組成物の製造ライン(C)について、詳細に説明する。
製造ライン(C)は、1Cに示す二次電池用樹脂組成物を溶解/貯蔵/調製するためのタンクと、タンク内の二次電池用樹脂組成物を攪拌するためのディスパー(攪拌羽根)2Cを、また、タンク内下部にバブラーが備え付けられている。これらにより、二次電池用樹脂組成物中に直接的に酸素(空気)ガスをバブリング導入しながら、循環・攪拌することで、気-液混合することが可能となる。
【0083】
<二次電池用樹脂組成物中の金属不純物の酸化効果の評価>
二次電池用樹脂組成物への酸素(空気)ガス導入、気-液混合による酸化効果については、
(1)二次電池用樹脂組成物の磁着物量
(2)意図的に銅粉末を添加した二次電池用樹脂組成物のリニアスイープボルタンメトリー測定(以下、LSV測定)
(3)二次電池用樹脂組成物のろ過残渣を使用したLSV測定
により評価した。
(1)の評価では、二次電池用樹脂組成物を磁気フィルターによりろ過後、その磁着物を回収、秤量することで、組成物中の磁着物量を確認することができる。組成物中の磁性金属(鉄など)が酸化されていれば、磁性を失い、磁着物量が低減する。一方で、銅のように元々磁性を有さない金属には、その酸化の効果を確認することはできない。(2)の評価では、上述したような磁性を有さない金属の代表例である銅を、意図的に二次電池用樹脂組成物中に添加した場合に、添加した銅に対する酸化の効果を確認する。(3)の評価では、二次電池用樹脂組成物中の導電材や重合体、結着材由来の非磁性金属に対する酸化の効果を確認する。
【0084】
LSV測定とは、電極の電位を特定の範囲で掃引させ、それに応じて流れる反応電流を測定し電気化学的な各情報を解析する手法であり、この測定において、電流量より反応量を、傾きより反応速度をそれぞれ定量的に確認することができる。例えば、正極に銅が存在し、負極をリチウム箔としたときに、銅の酸化還元電位は、標準電極電位から考えると約3.4Vとなる。これは、約3.4V以上の電圧において銅の溶出反応に伴う電子移動が起こることを意味する。LSV測定での反応電流の立ち上がりは反応開始電位を表し、反応電流量と傾きは銅の溶出しやすさを表す。酸化により、銅粒子の表面が酸化銅に化学変化した場合は、銅イオンの溶出が抑制されるため、LSV測定での反応開始電位は高電圧側にシフトする。
【0085】
<(1)二次電池用樹脂組成物中の磁着物量の評価>
[実施例1]
製造ライン(A)により二次電池用樹脂組成物の製造を実施した。タンクへNMP540kgを投入し、ディスパーを攪拌しながら、タンク内NMPの温度が60℃となるよう加温した。その後、重合体として、PVP60kgを添加し、完全に溶解するまでディスパー攪拌を続け、濃度10%のPVP-NMP溶液を得た。
続いて、タンク上部の配管より、酸素を20%含むドライエアー(乾燥空気)を流量1500NL/h(酸素分として、300NL/h)にて導入しつつ、タンク内の10%PVP-NMP溶液を追加で8時間ディスパー攪拌し、気-液混合を行うことで、二次電池用樹脂組成物(組成物1)を得た。
得られた二次電池用樹脂組成物は、磁気フィルター(トックエンジニアリング製)を介し、室温、磁束密度12,000ガウスの条件で濾過を実施した。濾過後の磁気フィルターには若干量の磁性を有する粒状の金属片の付着が見られた。これらの金属片を回収し、重量を測定したところ、3.4mgであった。
【0086】
[実施例2~7]
重合体量、濃度、溶剤量、ドライエアー流量、タンク内温度を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして二次電池用樹脂組成物を製造した。その後、実施例1と同様にして磁気フィルター濾過を実施し、磁性付着物の回収と重量測定を実施した。結果を表1に記載した。
【0087】
【表1】
【0088】
[実施例8]
製造ライン(B)により二次電池用樹脂組成物の製造を実施した。タンクへNMP540kgを投入し、ディスパーを攪拌しながら、タンク内NMPの温度が60℃となるよう加温した。その後、重合体としてPVP60kgを添加し、完全に溶解するまでディスパー攪拌を続け、濃度10%のPVP-NMP溶液を得た。
続いて、タンク下部の弁を開き、循環ポンプを駆動させることにより、タンク、ポンプ、スタティックミキサー、タンク(戻り)の順に溶液を循環させ、さらに、酸素(空気)ガス導入口より、酸素を20%含むドライエアー(乾燥空気)を流量1500NL/h(酸素分として、300NL/h)にて導入した。導入したドライエアーは、溶液と共にフローし、スタティックミキサーにて気-液混合がなされた後、タンク内にてさらにディスパー攪拌による気-液混合がなされる。
上記の循環攪拌を8時間実施し、二次電池用樹脂組成物(組成物8)を得た。得られた二次電池用樹脂組成物は、磁気フィルターを介し、実施例1と同様にして、磁気フィルター濾過を実施し、磁性付着物の回収と重量測定を実施したところ、1.6mgであった。結果を表1に記載した。
【0089】
[実施例9]
製造ライン(C)により二次電池用樹脂組成物の製造を実施した。タンクへNMP540kgを投入し、ディスパーを攪拌しながら、タンク内NMPの温度が60℃となるよう加温した。その後、重合体としてPVP60kgを添加し、完全に溶解するまでディスパー攪拌を続け、濃度10%のPVP-NMP溶液を得た。続いて、タンク内下部のバブラーより、酸素を20%含むドライエアー(乾燥空気)を流量1500NL/h(酸素分として、300NL/h)にて導入しつつ、さらに追加で8時間ディスパー攪拌し、気-液混合を行うことで、二次電池用樹脂組成物(組成物9)を得た。
得られた二次電池用樹脂組成物は、磁気フィルターを介し、実施例1と同様にして、磁気フィルター濾過を実施し、磁性付着物の回収と重量測定を実施したところ、2.3mgであった。結果を表1に記載した。
【0090】
[実施例10]
重合体種をHNBRとした以外は、実施例9と同様にして二次電池用樹脂組成物(組成物10)を製造した。その後、実施例1と同様にして磁気フィルター濾過を実施し、磁性付着物の回収と重量測定を実施したところ、3.1mgであった。結果を表1に記載した。
【0091】
[実施例11]
重合体種をCMC、溶剤を水とし、重合体濃度を5%、タンク内温度を40℃に変更した以外は、実施例9と同様にして二次電池用樹脂組成物(組成物10)を製造した。その後、実施例1と同様にして磁気フィルター濾過を実施し、磁性付着物の回収と重量測定を実施したところ、0.7mgであった。結果を表1に記載した。
【0092】
[比較例1~3]
酸素ガスの導入を実施しなかった以外は、表1の記載のとおり、二次電池用樹脂組成物を製造した。その後、磁気フィルター濾過を実施し、磁性付着物の回収と重量測定を実施した。結果を表1に記載した。
【0093】
[実施例12]
製造ライン(C)により二次電池用樹脂組成物の製造を実施した。タンクへNMP534kgを投入し、ディスパーを攪拌しながら、タンク内NMPの温度が60℃となるよう加温した。その後、重合体としてHNBR60kgを添加し、完全に溶解するまでディスパー攪拌を続け、濃度10%のHNBR-NMP溶液を得た。続いて、ディスパーを攪拌しながら、無機塩基としてNaOH6kgをゆっくりと加えた後、タンク内下部のバブラーより、酸素を20%含むドライエアー(乾燥空気)を流量1500NL/h(酸素分として、300NL/h)にて導入しつつ、さらに追加で8時間ディスパー攪拌し、気-液混合を行うことで、無機塩基を含む二次電池用樹脂組成物(組成物12)を得た。
得られた二次電池用樹脂組成物は、磁気フィルターを介し、実施例1と同様にして、磁気フィルター濾過を実施し、磁性付着物の回収と重量測定を実施したところ、1.2mgであった。結果を表1に記載した。
【0094】
[実施例13]
製造ライン(C)により二次電池用樹脂組成物の製造を実施した。タンクへ水558kgを投入し、ディスパーを攪拌しながら、タンク内の水の温度が40℃となるよう加温した。その後、重合体としてCMC30kgを添加し、完全に溶解するまでディスパー攪拌を続け、濃度5%のCMC水溶液を得た。続いて、ディスパーを攪拌しながら、無機酸としてHCl12kgをゆっくりと加えた後、タンク内下部のバブラーより、酸素を20%含むドライエアー(乾燥空気)を流量1500NL/h(酸素分として、300NL/h)にて導入しつつ、さらに追加で8時間ディスパー攪拌し、気-液混合を行うことで、無機酸を含む二次電池用樹脂組成物(組成物13)を得た。
得られた二次電池用樹脂組成物は、磁気フィルターを介し、実施例1と同様にして、磁気フィルター濾過を実施し、磁性付着物の回収と重量測定を実施したところ、0.2mgであった。結果を表1に記載した。
【0095】
[比較例4、5]
酸素ガスの導入を実施しなかった以外は、表1の記載のとおり、無機酸もしくは無機塩基を含む二次電池用樹脂組成物を製造した。その後、磁気フィルター濾過を実施し、磁性付着物の回収と重量測定を実施した。結果を表1に記載した。
【0096】
[実施例14]
表2に示す組成に従い、ステンレス製タンクに、NMPを投入し、ディスパー撹拌しながら、PVPを追加することで溶解させ、所定の濃度に調整した。続いて、CNTをディスパー撹拌しながら添加していき、角穴ハイシアスクリーンを装着したハイシアミキサー(SILVERSON製)にてグラインドゲージでの粒度が250μm以下になるまでバッチ式分散処理を行った。次に、ステンレスタンクから、配管を介して高圧ホモジナイザー(スターバースト10、スギノマシン製)に被分散液を供給し、追加分散処理を行った。追加分散処理は、シングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.25mm、圧力100MPaにて45回パス式分散処理を行い、導電材を含む二次電池用樹脂組成物(組成物12)60kgを得た。
得られた二次電池用樹脂組成物(組成物14)を、製造ライン(B)により、ドライエアー流量1500NL/h(酸素分として、300NL/h)にて8時間、温度40℃で気-液混合させた。最後に、磁気フィルター濾過を実施し、磁性付着物の回収とその重量測定を実施したところ、15.3mgであった。
【0097】
[実施例15]
表2に示す組成に従い、二次電池用樹脂組成物の製造を実施した。ステンレス製タンクに、イオン交換水を投入し、ディスパー撹拌しながら、CMCを追加することで溶解させ、所定の濃度に調整した。続いて、CBをディスパー撹拌しながら添加していき、角穴ハイシアスクリーンを装着したハイシアミキサー(SILVERSON製)にてグラインドゲージでの粒度が250μm以下になるまでバッチ式分散処理を行った。次に、ステンレスタンクから、配管を介して、直径1.00mmのジルコニアビーズを充填したビーズミル(ダイノーミルMULTI LAB、シンマルエンタープライゼス社製)に被分散液を供給し、追加分散処理を行った。追加分散処理は、被分散液のグラインドゲージでの粒度が20μm以下になるまで続け、粘度が低下し、十分な流動性を有すること確認した後に分散を終了し、導電材を含む二次電池用樹脂組成物(組成物15)60kgを得た。
た。
得られた導電材を含む二次電池用樹脂組成物(組成物15)は、製造ライン(B)により、ドライエアー流量1500NL/h(酸素分として、300NL/h)にて8時間、温度40℃で気-液混合を実施した。最後に、磁気フィルター濾過を実施し、磁性付着物の回収とその重量測定を実施したところ、0.9mgであった。
【0098】
[実施例16]
表2に示す組成に従い、二次電池用樹脂組成物の製造を実施した。ステンレス製タンクに、NMPを投入し、ディスパー撹拌しながら、PVPを追加することで溶解させ、所定の濃度に調整した。続いて、CBとPVDF(PVP:PVDFの質量比率は1:5)の粉末をディスパー撹拌しながら、同時に添加していき、角穴ハイシアスクリーンを装着したハイシアミキサー(SILVERSON製)にてグラインドゲージでの粒度が20μm以下になるまでバッチ式分散処理を行い、二次電池用樹脂組成物(組成物16)を得た。
得られた二次電池用樹脂組成物(組成物16)60kgは、製造ライン(B)により、ドライエアー流量1500NL/h(酸素分として、300NL/h)にて8時間、温度45℃で気-液混合を実施した。最後に、磁気フィルター濾過を実施し、磁性付着物の回収とその重量測定を実施したところ、10.4mgであった。
【0099】
[比較例6]
ドライエアーの導入を実施しなかった以外は、実施例14と同様にして、二次電池用樹脂組成物を製造した。その後、磁気フィルター濾過を実施し、磁性付着物の回収と重量測定を実施したところ、172mgであった。結果を表2に記載した。
【0100】
[比較例7]
ドライエアーの導入を実施しなかった以外は、実施例15と同様にして、二次電池用樹脂組成物を製造した。その後、磁気フィルター濾過を実施し、磁性付着物の回収と重量測定を実施したところ、12.8mgであった。結果を表2に記載した。
【0101】
[比較例8]
ドライエアーの導入を実施しなかった以外は、実施例16と同様にして、二次電池用樹脂組成物を製造した。その後、磁気フィルター濾過を実施し、磁性付着物の回収と重量測定を実施したところ、90.2mgであった。結果を表2に記載した。
【0102】
【表2】
【0103】
表1の磁着物量の評価結果において、同一系における酸素(空気)ガス導入の有無による差異に着目すると(例えば、実施例1と比較例1や、実施例10と比較例2など)、酸素(空気)ガス導入により、大きく磁着物量が減少していることがわかる。これは、酸素(空気)ガスの導入により、系中の磁性金属成分が酸化され、磁気フィルターに反応しなくなったためであると推測される。酸化の効果に着目すると、実施例1と2の結果から、タンク内温度がより高く、また、実施例1と実施例5~7の結果より、酸素(空気)ガス導入量が多いほうが、酸化効果が高いことがわかる。また、実施例1及び実施例8、9の結果から、二次電池用樹脂組成物中に直接酸素(空気)ガスを導入することにより高い効果が得られることがわかる。これらは、溶剤種や重合体種、濃度に依存せず、大きな効果が得られている。無機酸及び無機塩基の効果に着目すると、実施例10と12の結果、また、実施例11と13の結果から、磁着物量が減少していることが確認できる。加えて、比較例4、5の結果を踏まえると、酸素(空気)ガスの導入をせず、単に無機酸及び無機塩基にて処理するだけではその効果は小さいことがわかる。
表2より、導電材や結着材を含む二次電池用樹脂組成物においても、同様の酸化効果が得られていることがわかる。
【0104】
<(2)意図的に銅粉末を添加した二次電池用樹脂組成物のLSV測定>
[実施例17]
製造ライン(A)により二次電池用樹脂組成物の製造を実施した。タンクへNMPを投入し、ディスパーを攪拌しながら、タンク内NMPの温度が60℃となるよう加温した。その後、重合体として、PVPを添加し、完全に溶解するまでディスパー攪拌を続け、濃度10%のPVP-NMP溶液を得た。続いて、銅粉末を500ppmとなるように添加した後、タンク上部の配管より、酸素を20%含むドライエアー(乾燥空気)を流量1500NL/h(酸素分として、300NL/h)にて導入しつつ、タンク内の10%PVP-NMP溶液を追加で8時間ディスパー攪拌し、気-液混合を行うことで、銅粉末を含む二次電池用樹脂組成物(組成物17)を得た。
【0105】
(実施例17で得られた二次電池用樹脂組成物のLSV測定)
まず、300mlのポリプロピレン製カップに銅粉末を500ppm含む二次電池用樹脂組成物(組成物17)12gを秤量し、次いで、NMP164gを加えた。角穴ハイシアスクリーンを装着したハイシアミキサー(SILVERSON製)により攪拌しながら、導電材としてCBを19.2g、PVDF4.8gを同時に添加し、グラインドゲージでの粒度が20μm以下になるまでバッチ式分散処理を行った。調製した導電性ペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔にドクターブレードを用いて塗布した後、減圧下120℃で加熱乾燥し、これを半径9mmに打ち抜き作用極とした。金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極及び対極の間に多孔質ポリプロピレンフィルムからなるセパレータ(厚さ20μm、空孔率50体積%)を挿入積層し、非水電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを容量比1:1で混合した混合溶媒にLiPFを1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝泉社製HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立ては、アルゴンガス置換したグローブボックス内で行った。
【0106】
LSV測定は下記条件にて実施した。
・掃引開始電位;3.0V(vsLi/Li
・掃引終了電位;4.3V(vsLi/Li
・掃引速度;10mV/min.
・測定温度;25℃
銅の溶出しやすさの指標である銅の酸化還元開始電位は、電位掃引開始から、電流密度が20μA/cm到達時点の電位とした。
上記条件にて構築した試験用電池を評価したところ、銅の酸化還元反応に由来する電流が測定されなかった。これは、添加した銅が酸素(空気)ガス導入により酸化されたためと考えられる。なお、CBに含まれる銅は本測定では検出されない。
【0107】
[比較例9]
ドライエアーの導入を実施しなかった以外は、実施例17と同様にして、二次電池用樹脂組成物、次いで、試験用電池を構築し、LSV測定により評価を行ったところ、酸化還元電位は約3.4Vであり、また、電位掃引している間に短絡(ショート)が発生した。これは、正極側で電位掃引により銅粒子が溶出した後、負極側で還元生成したためと考えられる。
【0108】
[製造例1]
銅に代わり、酸化銅を添加した以外は、実施例17と同様にして、二次電池用樹脂組成物、次いで、試験用電池を構築し、LSV測定により評価を行ったところ、銅の酸化還元反応に由来する電流が測定されなかった。この結果は、同じく銅の酸化還元反応に由来する電流が測定されなかった実施例17の結果と矛盾せず、銅が酸化されていれば、電流が測定されないことを示している。
【0109】
<(3)二次電池用樹脂組成物のろ過残渣を使用したLSV測定>
[実施例18]
まず、表2に示した実施例14の組成に従い、ステンレス製タンクにNMPを投入し、ディスパー撹拌しながら、PVPを追加することで溶解させ、所定の濃度に調整した。続いて、CNTをディスパー撹拌しながら添加していき、角穴ハイシアスクリーンを装着したハイシアミキサー(SILVERSON製)にてグラインドゲージでの粒度が250μm以下になるまでバッチ式分散処理を行った。次に、ステンレスタンクから、配管を介して高圧ホモジナイザー(スターバースト10、スギノマシン製)に被分散液を供給し、追加分散処理を行った。追加分散処理は、シングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.25mm、圧力100MPaにて45回パス式分散処理を行い、導電材を含む二次電池用樹脂組成物(組成物18)を得た。
得られた二次電池用樹脂組成物(組成物18)60kgを、製造ライン(B)により、ドライエアー流量1500NL/h(酸素分として、300NL/h)にて8時間、温度40℃で気-液混合させた。続いて、磁気フィルター濾過を実施し、磁性異物を除去した。続いて、NMPにより10倍に希釈した後、25μmメッシュで濾過することで、銅などの非磁性金属異物を含む残渣固形物を回収した。得られた残渣をNMP洗浄し40℃で減圧乾燥させ、銅などの非磁性金属異物を含む残渣固形物30mgを得た。得られた非磁性金属異物は、二次電池用樹脂組成物(組成物18)中のCNT及びPVP、製造ライン等を主要因として混入した非磁性の金属異物と推測される。
【0110】
(実施例18で得られた二次電池用樹脂組成物のろ過残渣を使用したLSV測定)
導電材としてCB、PVDFをそれぞれ使用し、CB:PVDFが8:2となるように秤量し、これにさらに上述の非磁性金属を含む残渣固形物を対CBで1%の割合で加え、これらを溶媒NMPに分散させて導電ペーストを調製した。調製した導電ペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔にドクターブレードを用いて塗布した後、減圧下120℃で加熱乾燥し、これを半径9mmに打ち抜き作用極とした。金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極及び対極の間に多孔質ポリプロピレンフィルムからなるセパレータ(厚さ20μm、空孔率50体積%)を挿入積層し、非水電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを容量比1:1で混合した混合溶媒にLiPFを1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝泉社製HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立ては、アルゴンガス置換したグローブボックス内で行った。構築した試験用電池を実施例17と同様にLSV測定により評価したところ、銅の酸化還元反応に由来する電流が測定されなかった。これは、添加した残渣固形物が既に酸素(空気)ガス導入により酸化されていたためと考えられる。
【0111】
[比較例10]
ドライエアーの導入を実施しなかった以外は、実施例18と同様にして、二次電池用樹脂組成物、次いで、試験用電池を構築し、LSV測定により評価を行ったところ、酸化還元電位は約3.4Vであり、また、電位掃引している間に短絡(ショート)が発生した。これは、残渣固形物中に含まれる銅粒子が、正極側で電位掃引により溶出した後、負極側で還元生成したためと考えられる。
【0112】
<実施例19:正極用合材スラリー及び正極膜の作製>
以下に、本発明にて製造した二次電池用樹脂組成物を用いた電極合材スラリー及び該スラリーを塗工した電極の製造例を示す。
容量150mLのプラスチック容器に、導電材として、CBを1.08g、実施例1にて製造した二次電池用樹脂組成物(組成物1)を0.54g(PVPを固形分0.054g;対CB比5%を含む)と、8質量%PVDF溶液を9g(PVDFを固形分として0.72g含む)を加えた後、自転及び公転ミキサー(株式会社シンキー製あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌した。次いで、電極活物質としてNMC34.2gを添加し、自転及び公転ミキサーを用いて、2,000rpmで20分間にわたり撹拌した。その後、NMPを5.18g添加し、自転及び公転ミキサーを用いて、2,000rpmで30秒間撹拌して、固形分約72%の正極用合材スラリーを得た。
【0113】
上記正極用合材スラリーを集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にアプリケーターを用いて塗工し、電気オーブン中で120℃±5℃で25分間にわたり乾燥させて電極を作製した。この際、単位面積当たりの目付量が20mg/cmとなるように、アプリケーターギャップを逐次調整した。得られた電極を、さらにロールプレス(株式会社サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、正極合材層の密度が3.1g/cmとなる正極膜を作製した。
【0114】
<実施例20:負極用合材スラリー及び負極膜の作製>
容量150mLのプラスチック容器に、実施例15にて作製した二次電池用樹脂組成物0.6g(導電材としてCB;HS-100を0.12g含む)と、CMC0.24gと、水25.14gとを加えた後、自転及び公転ミキサーを用いて、2,000rpmで30秒間撹拌した。さらに負極活物質として人造黒鉛を23.28g添加し、自転及び公転ミキサーを用いて、2,000rpmで150秒間撹拌した。続いて、SBRエマルション溶液0.75g(SBRを固形分として0.36gを含む)を加えて、自転及び公転ミキサーを用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、固形分約48%の負極用合材スラリーを得た。負極用合材スラリー中の負極活物質:導電材:CMC:SBRの固形分比率は97:0.5:1:1.5とした。
【0115】
上記負極用合材スラリーを集電体となる厚さ20μmの銅箔上にアプリケーターを用いて塗工した後、電気オーブン中で80℃±5℃で25分間にわたり乾燥させて電極を作製した。この際、単位面積当たりの目付量が10mg/cmとなるように、アプリケーターギャップを逐次調整した。さらにロールプレス(株式会社サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、負極合材層の密度が1.6g/cmとなる負極を作製した。
【0116】
<実施例21:非水電解質二次電池の作製>
実施例19の正極膜及び実施例20の負極膜を各々50mm×45mm、45mm×40mmに打ち抜き、その間に挿入されるセパレーター(多孔質ポリプロプレンフィルム)をアルミ製ラミネート袋に挿入し、電気オーブン中、70℃で1時間乾燥させた。続いて、アルゴンガスで満たされたグローブボックス内で、電解液を2mL注入し、アルミ製ラミネート袋を封口して電池を作製した。電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートを1:1:1(体積比)の割合で混合した混合溶媒を作製し、さらに添加剤として、VC(ビニレンカーボネート)を電解液100部に対して1部加えた後、LiPFを1Mの濃度で溶解させた非水電解液である。
【0117】
<非水電解質二次電池のレート特性評価>
非水電解質二次電池を25℃の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工株式会社製、SM-8)を用いて充放電測定を行った。充電電流10mA(0.2C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流1mA(0.02C))を行った後、放電電流10mA(0.2C)にて、放電終止電圧3Vで定電流放電を行った。この操作を3回繰り返した後、充電電流10mA(0.2C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流(1mA(0.02C))を行い、放電電流0.2C及び3Cで放電終止電圧3.0Vに達するまで定電流放電を行って、それぞれ放電容量を求めた。レート特性は0.2C放電容量と3C放電容量の比、以下の式1で表すことができる。

(式1)
レート特性 = 3C放電容量/3回目の0.2C放電容量 ×100 (%)

上記の結果、作製した電池のレート特性は80%以上を示し、優良な結果であった。
【0118】
<非水電解質二次電池のサイクル特性評価方法>
非水電解質二次電池を25℃の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工株式会社製、SM-8)を用いて充放電測定を行った。充電電流25mA(0.5C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流2.5mA(0.05C))を行った後、放電電流25mA(0.5C)にて、放電終止電圧3Vで定電流放電を行った。この操作を200回繰り返した。サイクル特性は25℃における3回目の0.5C放電容量と200回目の0.5C放電容量の比、以下の式2で表すことができる。

(式2)
サイクル特性 = 3回目の0.5C放電容量/200回目の0.5C放電容量 ×100(%)

上記の結果、作製した電池のサイクル特性は85%以上を示し、優良な結果であった。
【0119】
以上のように、本発明の製造方法により得られた二次電池用樹脂組成物を使用することで、レート特性及びサイクル特性が優良な電池を製造することが確認できた。
【0120】
実施の形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記によって限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0121】
1A、1B、1C:タンク
2A、2B、2C:ディスパー(攪拌羽根)
5:弁
6:循環用ポンプ
7:酸素(空気)導入口
8:スタティックミキサー
9:バブラー
31A、31B、31C、32B、33B:配管
40:ガスボンベ
図1
図2
図3