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特開2023-94006イエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法、この方法により得られる抽出物、および抗炎症医薬組成物
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  • 特開-イエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法、この方法により得られる抽出物、および抗炎症医薬組成物 図1
  • 特開-イエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法、この方法により得られる抽出物、および抗炎症医薬組成物 図2
  • 特開-イエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法、この方法により得られる抽出物、および抗炎症医薬組成物 図3
  • 特開-イエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法、この方法により得られる抽出物、および抗炎症医薬組成物 図4
  • 特開-イエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法、この方法により得られる抽出物、および抗炎症医薬組成物 図5
  • 特開-イエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法、この方法により得られる抽出物、および抗炎症医薬組成物 図6A
  • 特開-イエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法、この方法により得られる抽出物、および抗炎症医薬組成物 図6B
  • 特開-イエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法、この方法により得られる抽出物、および抗炎症医薬組成物 図6C
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094006
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】イエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法、この方法により得られる抽出物、および抗炎症医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   C07D 311/30 20060101AFI20230628BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230628BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20230628BHJP
   A61K 36/28 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
C07D311/30
A61P29/00
A61K31/352
A61K36/28
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021209197
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】No.195,Sec.4,ChungHsingRd.,Chutung,Hsinchu,Taiwan 31040
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(72)【発明者】
【氏名】シン・ジャン・ヤオ
(72)【発明者】
【氏名】ユ-ウェン・チェン
(72)【発明者】
【氏名】チュー-スン・ルー
(72)【発明者】
【氏名】イ-ホン・パン
(72)【発明者】
【氏名】ウェン-イン・チェン
(72)【発明者】
【氏名】ツング-リン,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】アンジェラ・ゴー
【テーマコード(参考)】
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA04
4C086BA08
4C086GA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB11
4C088AB26
4C088AC01
4C088AC03
4C088AC05
4C088AC11
4C088BA09
4C088BA10
4C088BA32
4C088CA08
4C088NA14
4C088ZB11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】イエギク中のルテオリン、アピゲニン等のフラボンアグリコンを抽出する方法を提供する。
【解決手段】方法は、(a)イエギク原料を水または水溶液中に浸し、浸漬工程を3.5時間以上行って浸漬試料を得るステップと、(b)抽出溶媒を浸漬試料中に加え、抽出工程を5~60分行って抽出液を得るステップとを含む。イエギク原料には、イエギクの下記する部位、つまり全草、根、茎、葉および花のうちの少なくとも1つが含まれる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)イエギク原料を水または水溶液中に浸し、浸漬工程を3.5時間以上行って浸漬試料を得るステップであって、
前記イエギク原料には下記するイエギクの部位、つまり全草、根、茎、葉および花のうちの少なくとも1つが含まれ、
前記イエギク原料と前記水または水溶液との重量比は1:10~35であり、
前記浸漬工程は20から70℃で行い、
前記水または水溶液のpH値は3.0から9.5であり、
かつ前記浸漬試料は浸漬したイエギク原料および浸漬液を含む、
ステップと、
(b)抽出溶媒を前記浸漬試料中に加え、抽出工程を5~60分行って抽出液を得るステップであって、
前記イエギク原料と前記抽出溶媒との重量比は1:10~35であり、
前記抽出溶媒にはメタノール、エタノールまたは酢酸エチルが含まれ、
前記抽出工程は15から50℃で行い、
かつ前記抽出液はフラボンアグリコンを含有する、
ステップと、
を含む、イエギク中のフラボンアグリコン(flavone aglycones)を抽出する方法。
【請求項2】
ステップ(a)とステップ(b)との間に、前記浸漬試料から前記浸漬液を除去するステップをさらに含む、請求項1に記載のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法。
【請求項3】
前記浸漬工程を5から96時間行う、請求項1または2に記載のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法。
【請求項4】
前記イエギク原料と前記水または水溶液との重量比が1:15~30である、請求項1~3のいずれか1項に記載のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法。
【請求項5】
前記浸漬工程を室温から70℃で行う、請求項1~4のいずれか1項に記載のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法。
【請求項6】
前記水または水溶液のpH値が4.0から9.5である、請求項1~5のいずれか1項に記載のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法。
【請求項7】
前記抽出工程を10から40分行う、請求項1~6のいずれか1項に記載のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法。
【請求項8】
前記イエギク原料と前記抽出溶媒との重量比が1:15~30である、請求項1~7のいずれか1項に記載のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法。
【請求項9】
前記抽出工程を室温から40℃で行う、請求項1~8のいずれか1項に記載のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法。
【請求項10】
前記イエギク原料が前記イエギクの花であり、前記浸漬工程を5から72時間行い、前記イエギク原料と前記水または水溶液との重量比が1:15~20であり、前記浸漬工程を室温から50℃で行い、前記水または水溶液のpH値が5.0から9.2であり、かつ前記抽出溶媒がエタノールであり、前記イエギクフラボンアグリコンを抽出する方法の、前記イエギク原料に対するフラボンアグリコン抽出率が、フラボンアグリコン2~30mg/イエギク原料1gである、請求項1~9のいずれか1項に記載のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法。
【請求項11】
前記イエギク原料が前記イエギクの茎および葉であり、前記浸漬工程を5から72時間行い、前記イエギク原料と前記水または水溶液との重量比が1:15~20であり、前記浸漬工程を室温から50℃で行い、前記水または水溶液のpH値が5.0から9.2であり、かつ前記抽出溶媒がエタノールであり、前記イエギクフラボンアグリコンを抽出する方法の、前記イエギク原料に対するフラボンアグリコン抽出率が、フラボンアグリコン2~25mg/イエギク原料1gである、請求項1~9のいずれか1項に記載のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法。
【請求項12】
ステップ(b)の後に、前記抽出液に対し固液分離工程を行って上清液を得るステップ(c)をさらに含み、前記上清液が前記フラボンアグリコンを含有する、請求項1~11のいずれか1項に記載のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法。
【請求項13】
前記フラボンアグリコンにはルテオリン、アピゲニンまたはこれらの組み合わせが含まれる、請求項1~12のいずれか1項に記載のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法により得られるイエギク抽出物。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか1項に記載のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法により得られるイエギク抽出物と、
薬学的に許容され得る担体または塩と、
を含む抗炎症医薬組成物。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、イエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法、この方法により得られる抽出物、および抗炎症医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
イエギクはキク科(Asteraceae)植物に属する多年生草本の植物で、主に台湾及び中国等のアジア地区で生産されている。
【0003】
イエギクの頭状花序は乾燥させて飲み物とすることができ、昔からある薬用植物でもある。現代薬理学の研究によれば、イエギクは抗酸化、抗炎症、抗ウィルス、抗がん、神経保護および心血管保護作用を有することが示されている。イエギクはクリサンテミン、アミノ酸、フラボノイドならびに各種ビタミンおよび微量元素を含有している。イエギクの化学成分は複雑で、その中のフラボノイド、トリテルペノイドおよび揮発油が主要な有効成分であるが、産地と品種の違いにより、由来の異なるイエギクの化学成分の組成および含量はそれぞれ相違する。
【0004】
フラボノイドは植物において合成される二次代謝物であり、植物の生長、発育、開花、結実および抗菌・病気予防等の面において重要な作用を有している。フラボノイドは通常、植物体中で糖と結合して配糖体となり、一部分が遊離状態(aglycones)の形で存在する。先の研究では、アグリコンが遊離したフラボノイドが、配糖体誘導体よりも優れた抗炎症活性を備えることが示されている。近年、酵素加水分解または微生物発酵の方法によりフラボノイド配糖体の誘導体を遊離アグリコンに加水分解する試みが多くの研究者によってなされているが、さらに酵素を添加する方式または微生物発酵の方式は、抽出のコストを大幅に増大させてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
よって、現在、イエギクのフラボンアグリコンを有効に抽出できる一方で、何らの酵素の添加および/または微生物処理をも必要としない新規なフラボンアグリコン抽出の方式が強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、イエギク中のフラボンアグリコン(flavone aglycones)を抽出する方法であって、(a)イエギク原料を水または水溶液中に浸し、浸漬工程を3.5時間以上行って浸漬試料を得るステップと、(b)抽出溶媒を前記浸漬試料中に加え、抽出工程を5~60分行って抽出液を得るステップとを含む方法を提供する。前記イエギク原料には、イエギクの下記する部位、つまり全草、根、茎、葉および花のうちの少なくとも1つが含まれる。前記イエギク原料と前記水または水溶液との重量比は1:10~35であり、前記浸漬工程は20から70℃で行い、前記水または水溶液のpH値は3.0から9.5であり、かつ前記浸漬試料は浸泡したイエギク原料および浸漬液を含む。また、前記イエギク原料と前記抽出溶媒との重量比は1:10~35であり、前記抽出溶媒にはメタノール、エタノールまたは酢酸エチルが含まれ、前記抽出工程は15から50℃で行い、かつ前記抽出液はフラボンアグリコンを含んでいる。
【0007】
本開示はまた、上述のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法により得られるイエギク抽出物も提供する。
【0008】
本開示はさらに、上述の抽出イエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法により得られるイエギク抽出物と、薬学的に許容され得る担体または塩と、を含む抗炎症医薬組成物も提供する。
【0009】
添付の図面を参照にしながら、以下の実施形態において詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
添付の図面を参照にしながら以下の詳細な説明および実施例を読むことによって、本発明をより十分に理解することができる。
【0011】
図1】浸漬時間のそれぞれ異なるイエギクの花の抽出液の高速液体クロマトグラムを示している。
図2】それぞれ異なる浸漬時間(室温下)で得られたイエギクの花の浸漬液および抽出液のアピゲニンおよびルテオリンの単位当たりの薬材抽出量(抽出率)を示している。
図3図3Aは、それぞれ異なるpH値およびそれぞれ異なる浸漬室温で得られたイエギクの花の抽出液のアピゲニン(apigenin)の単位当たりの薬材抽出量(抽出率)を示している。FW:イエギクの花の重量。図3Bは、それぞれ異なるpH値およびそれぞれ異なる浸漬室温で得られたイエギクの花の抽出液のルテオリン(luteolin)の単位当たりの薬材抽出量(抽出率)を示している。FW:イエギクの花の重量。
図4】それぞれ異なる浸漬時間(室温下)で得られたイエギクの茎および葉の抽出液の高速液体クロマトグラムを示している。
図5】それぞれ異なる浸漬時間(室温下)で得られたイエギクの茎および葉の抽出液のアピゲニンおよびルテオリンの単位当たりの薬材抽出量(抽出率)を示している。LW:イエギクの茎および葉の重量。
図6A図6Aは、イエギクの茎および葉の抽出液で処理したAW264.7細胞の細胞生存率を示している。アピゲニンは陽性対照群である。データは平均値±標準偏差である(n=3)。
図6B図6Bは、イエギクの茎および葉の抽出物で処理したRAW264.7細胞のNO 炎症因子の生成を示している。アピゲニンは陽性対照群である。###:p<0.001は陰性対照群との比較、*:p<0.05、***:p<0.001はLPSのみで処理した群との比較である。データは平均値±標準偏差(n=3)であり、統計方法は一元配置分散分析(one-way analysis of variance, one-way ANOVA)およびダネットの多重比較(Dunnett’s multiple comparison)である。
図6C図6Cは、イエギクの茎および葉の抽出物で処理したRAW264.7細胞のIL-6発現量を示している。アピゲニンは陽性対照群である。###:p<0.001は陰性対照群との比較、***:p<0.001はLPSのみで処理した群との比較である。データは平均値±標準偏差(n=3)であり、統計方法は一元配置分散分析およびダネットの多重比較である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の詳細な記載においては、説明の目的で、開示される実施形態が十分に理解されるよう、多数の特定の詳細が示される。ただし、これら特定の詳細がなくとも、1つまたはそれ以上の実施形態が実施可能であることは明らかであろう。また、図を簡潔とするため、周知の構造および装置は概略的に示される。
【0013】
本開示は、イエギク中のフラボンアグリコン(flavone aglycones)を抽出する方法を提供する。上記フラボンアグリコンには、限定はされないが、ルテオリン、アピゲニン等またはこれらの組み合わせが含まれ得る。
【0014】
本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法では、水または水溶液で浸漬するステップを行うだけで、何らの酵素も一切加えることなく、イエギク中からフラボンアグリコンを有効に抽出することができる。また、本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法を、全工程室温下で行ったとしても、依然有効にイエギクからフラボンアグリコンを抽出することが可能である。よって、本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法は、抽出コストを有効に抑えることができると共に、省エネルギー・低炭素の効果もある。
【0015】
また、本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法を使用することにより、イエギク原料のフラボンアグリコンの抽出率が大幅に上昇する。
【0016】
上述の本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法は、限定はされないが、下記のステップを含んでいてよい。
【0017】
先ず、イエギク原料を水または水溶液に浸漬し、浸漬工程を3.5時間以上行って浸漬試料を得る。上述の浸漬試料は、浸泡されたイエギク原料および浸漬液を含み得る。
【0018】
本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法において、上述のイエギク原料には、イエギクの下記する部位、つまり全草、根、茎、葉および花のうちの少なくとも1つが含まれ得る。一実施形態において、上述のイエギク原料はイエギクの花であり得る。別の実施形態において、上述のイエギク原料はイエギクの茎および葉であり得る。
【0019】
一実施形態において、上述のイエギク原料に前処理を行うことができるが、これに限定はされない。上述の前処理には、乾燥処理、粉砕処理等またはこれらの任意の組み合わせが含まれる。一実施形態において、上述の前処理は乾燥処理および粉砕処理を含む。
【0020】
また、本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法において、上述の浸漬工程を行う時間は、3.5時間以上が必要である他は特に制限はなく、そのときの操作環境(例えば、温度、湿度、圧力等)、イエギク原料の重量、イエギク原料の状態(例えば粉砕の程度、含水量)および/または採用しようとする浸漬温度等によって決めればよい。例えば、約3.5から96時間、約4から96時間、約5から96時間、約5から72時間、約3.5時間、約4時間、約5時間、約6時間、約10時間、約12時間、約15時間、約16時間、約17時間、約18時間、約20時間、約21時間、約24時間、約27時間、約30時間、約36時間、約40時間、約48時間、約60時間、約72時間、約96時間等であってよいが、これに限定はされない。一実施形態では、本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法において、上述の浸漬工程は約5、17または24時間行う。別の実施形態では、本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法において、上述の浸漬工程は約5、24、48または72時間行う。
【0021】
本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法において、上述の浸漬工程を行う温度は約20℃から70℃、約20℃から65℃、約25℃から70℃または室温から約70℃、約25℃から60℃または室温から約60℃、約25℃から50℃または室温から約50℃、約25℃から40℃または室温から約40℃、約20℃、約25℃、室温、約40℃、約50℃、約55℃、約60℃、約65℃、約70℃であってよいが、これに限定されない。一実施形態では、本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法において、上述の浸漬工程は室温で行う。別の実施形態では、本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法において、上述の浸漬工程は約50℃で行う。
【0022】
本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法において、上述のイエギク原料と上述の水または水溶液との重量比に特に限定はなく、上述の水または水溶液が上述のイエギク原料を覆い、上述のイエギク原料がその中に浸漬され得るものであればよい。一実施形態において、上述のイエギク原料と上述の水または水溶液との重量比は約1:10~35、例えば約1:15~30、約1:15~20、約1:10、約1:15、約1:20、約1:25、約1:30等であってよいが、これに限定はされない。特定の実施形態において、上述のイエギク原料と上述の水または水溶液との重量比は約1:20であり得る。
【0023】
本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法において、上述の水または水溶液はpH値が約3.0から9.5、例えばpH値が約4.0から9.5、pH値が約5.0から9.2、pH値が約3.0、pH値が約4.0、pH値が約5.0、pH値が約7、pH値が約7.18、pH値が約9.0、pH値が約9.2、pH値が約9.5等であるが、これに限定はされない。
【0024】
次いで、本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法において、イエギク原料を水または水溶液に浸漬し、浸漬工程を3.5時間以上行って浸漬試料を得た後に、抽出溶媒をその浸漬試料に加えて抽出工程を行い、抽出液を得る。上述の抽出液はフラボンアグリコンを含有する。
【0025】
上述の抽出溶媒に特に限定はなく、上述の浸漬試料または浸漬されたイエギク原料中のフラボンアグリコンを溶解させることができ、かつそれに対して悪い影響を与えないものであればよい。上述の抽出溶媒の例には、限定はされないが、メタノール、エタノール、酢酸エチル、またはこれら任意の組み合わせが含まれ得る。上述のエタノールの濃度は約50~95%であってよいが、これに限定はされない。一実施形態において、上述の抽出溶媒はエタノールである。
【0026】
本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法において、上述の抽出工程を行う時間に特に限定はなく、そのときの操作環境(例えば、温度、湿度、圧力等)、浸漬試料もしくは浸漬されたイエギク原料の体積および/もしくは重量、ならびに/または採用しようとする抽出温度等によって決めればよい。例えば、約5から60分、約10から60分、約10から55分、約10から45分、約10から40分、約15から30分、約10分、約15分、約20分、約25分、約30分、約35分、約40時間、約45時間、約50時間、約55時間、約60時間等であってよいが、これに限定はされない。一実施形態では、本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法において、上述の抽出工程は約30分行う。
【0027】
また、本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法において、上述の抽出工程を行う温度は約15℃から50℃、約15℃から45℃、約20℃から40℃、約25℃から40℃または室温から約40℃、約15℃、約20℃、約25℃、室温、約30℃、約35℃、約40℃、約45℃、約50℃等であってよいが、これに限定はされない。一実施形態では、本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法において、上述の抽出工程は室温で行う。
【0028】
本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法において、上述のイエギク原料と上述の抽出溶媒との重量比に特に限定はない。一実施形態において、上述のイエギク原料と上述の抽出溶媒との重量比は約1:10~35、例えば約1:15~30、約1:15~20、約1:10、約1:15、約1:20、約1:25、約1:30等であってよいが、これに限定はされない。特定の実施形態において、上述のイエギク原料と上述の抽出溶媒との重量比は約1:20であり得る。
【0029】
一実施形態では、本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法において、上述の抽出工程は振とうまたは撹拌しながら行うことができるが、これに限定はされない。上述の振とうには、限定はされないが、超音波振とう、回転振とう等が含まれ得る。また、上述の撹拌の方式は、例えばパドル式撹拌装置、電磁撹拌装置等のような撹拌装置により行う撹拌であってよいが、これに限定はされない。
【0030】
また、一実施形態において、本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法は、イエギク原料を水または水溶液に浸漬し浸漬工程を3.5時間以上行って浸漬試料を得るステップと、抽出溶媒を浸漬試料に加え抽出工程を行って抽出液を得るステップとの間に、上述の浸漬試料から上述の浸漬液を除去するステップをさらに含む。つまり、抽出溶媒は上述の浸漬したイエギク原料とだけ反応する。
【0031】
また、一実施形態において、本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法は、抽出溶媒をその浸漬試料に加え抽出工程を行って抽出液を得るステップの後に、上述の抽出液に対し固液分離工程を行って上清液を得るステップをさらに含み、上述の上清液は上述のフラボンアグリコンを含有する。
【0032】
上述の固液分離工程に特に限定はなく、抽出液中の固体と液体とを分離できるものであればよい。固液分離工程の例には、限定はされないが、遠心分離またはろ過等が含まれ得る。
【0033】
また、特定の実施形態において、本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法は、上述の上清液を得た後に、さらに上述の上清液から上述のフラボンアグリコンを分離し精製するステップを含んでいてよい。
【0034】
あるいは、別の特定の実施形態において、本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法は、上述の上清液を得た後に、さらに前記上清液に対し濃縮工程を行って濃縮液を得るステップをさらに含んでいてよく、上述の濃縮液は上述のフラボンアグリコンを含有する。また、この特定の実施形態において、本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法は、濃縮液を得た後、上述の濃縮液から上述のフラボンアグリコンを分離し精製するステップをさらに含んでいてよい。
【0035】
特定の実施形態では、本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法において、上述のイエギク原料は前記イエギクの花である。また、この特定の実施形態では、上述の浸漬工程を5から72時間行い、上述のイエギク原料と上述の水または水溶液との重量比を1:15~20とし、上述の浸漬工程を室温から50℃で行い、上述の水または水溶液のpH値を5.0から9.2とし、かつ上述の抽出溶媒はエタノールとする。この特定の実施形態において、本開示のイエギクフラボンアグリコンを抽出する方法の、上述のイエギク原料に対するフラボンアグリコンの抽出率は、フラボンアグリコン2~30mg/イエギク原料1gであり得る。
【0036】
別の特定の実施形態では、本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法において、上述のイエギク原料は上述のイエギクの茎および葉である。またこの特定の実施形態では、上述の浸漬工程を5から72時間行い、上述のイエギク原料と上述の水または水溶液との重量比を1:15~20とし、上述の浸漬工程を室温から50℃で行い、上述の水または水溶液のpH値を5.0から9.2とし、かつ上述の抽出溶媒はエタノールとする。この特定の実施形態において、本開示のイエギクフラボンアグリコンを抽出する方法の、上述のイエギク原料に対するフラボンアグリコンの抽出率は、フラボンアグリコン2~25mg/イエギク原料1gであり得る。
【0037】
上述に基づき、本開示は、任意の上述した本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法により得ることのできるイエギク抽出物も提供することができる。
【0038】
上述の本開示のイエギク抽出物は優れた抗炎症効果を有する。
【0039】
よって、本開示は、限定はされないが、任意の上述した本開示のイエギク中のフラボンアグリコンを抽出する方法により得られるイエギク抽出物を含み得る抗炎症医薬組成物をも提供することができる。
【0040】
上述の本開示は、限定はされないが、薬学的に許容され得る担体または塩をさらに含んでいてよい抗炎症医薬組成物も提供する。
【0041】
上述の薬学的に許容され得る担体には、限定はされないが、溶媒、分散媒(dispersion medium)、コーティング(coating)、抗菌および抗真菌剤ならびに等張剤および吸収遅延(absorption delaying)剤等の薬学的投与と相溶性のあるものが含まれ得る。それぞれ異なる投薬方式に合わせ、一般的な方法を用い、薬学組成物を剤形(dosage form)に製剤することができる。
【0042】
また、上述の薬学的に許容され得る塩には、限定はされないが、無機カチオンを含む塩、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩またはアミン塩のようなアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩のようなアルカリ土類金属塩、亜鉛塩、アルミニウム塩、またはジルコニウム塩のような二価または四価カチオンを含む塩が含まれ得る。また、ジシクロヘキシルアミン塩、メチル-D-グルカミンのような有機塩、アルギニン、リジン、ヒスチジン、グルタミンのようなアミノ酸塩であってもよい。
【0043】
さらに、本開示の医薬組成物は、この医薬組成物を必要とする個体に投与され得るが、これに限定はされない。本開示の医薬組成物の投薬経路には、非経口、経口、吸入噴霧(inhalation spray)による、または埋込型リザーバー(implanted reservoir)を介する方式が含まれ得るが、これに限定はされない。非経口には、限定はされないが、患部への塗布、皮下(subcutaneous)、皮内(intracutaneous)、静脈内(intravenous)、筋肉内(intramuscular)、関節内(intraarticular)、動脈(intraarterial)、関節滑液嚢内(intrasynovial)、胸骨内(intrasternal)、くも膜下腔内(intrathecal)、病巣内(intralesional)注射、および注入技術等が含まれ得る。
【0044】
塗布による局部への使用形式には、軟膏、乳剤、液剤、ゲル等が含まれ得るが、これに限定はされない。
【0045】
また、上述したこの医薬組成物が投与される必要のある個体には、限定はされないが、脊椎動物が含まれ得る。そして上述した脊椎動物には、魚類、両生類、爬虫類、鳥類または哺乳類が含まれ得るが、これに限定はされない。哺乳類の例には、限定はされないが、ヒト、オラウータン、サル、ウマ、ロバ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ラットおよびマウスが含まれ得る。一実施形態において、上述の個体はヒトである。
【0046】
実施例
【0047】
A.材料
【0048】
A-1.イエギク原料の前処理
【0049】
A-1-1.イエギクの花の前処理
【0050】
イエギクの花を採取した後、先ずは室温に2時間置いて萎凋させ(時間は6時間をこえてはならない)、水分を均一に取り除いた。
【0051】
次いで、イエギクの花に乾燥工程を行って、その水分含有量を10%未満にした。上述の乾燥工程は、50℃で4~8時間乾燥、60℃で4~8時間乾燥、または70℃で2~4時間乾燥とすることができる。次いで、上述の乾燥させたイエギクの花を粉砕装置で粉砕し、イエギクの花の乾燥粉砕物を得た。
【0052】
A-1-2.イエギクの茎および葉の前処理
【0053】
イエギクの茎および葉を採取した後、萎凋工程は行わずに、45℃で48時間乾燥させてその水分含有量を10%未満にした。
【0054】
次いで、上述の乾燥させたイエギクの茎および葉を粉砕装置で粉砕し、イエギクの茎および葉乾燥粉砕物を得た。
【0055】
A-2.pH値の異なる緩衝溶液の調製
【0056】
A-2-1.pH2.7、pH5.0およびpH7.18のクエン酸塩-リン酸塩(citrate-phosphate)緩衝溶液の調製
【0057】
0.1Mクエン酸(citric acid)(2.1gを水100mLに溶解)原液、および0.2M NaHPO(2.84gを水100mLに溶解)原液をそれぞれ調製した。
【0058】
(1)pH2.7のクエン酸塩-リン酸塩緩衝溶液の調製
【0059】
上述の0.1Mクエン酸原液89.1mLおよび上述の0.2M NaHPO原液10.9mLを混合し、pH2.7のクエン酸塩-リン酸塩緩衝溶液を得た。
【0060】
(2)pH5.0のクエン酸塩-リン酸塩緩衝溶液の調製
【0061】
上述の0.1Mクエン酸原液53.25mLおよび上述の0.2M NaHPO原液46.75mLを混合し、pH5.0のクエン酸塩-リン酸塩緩衝溶液を得た。
【0062】
(3)pH7.18のクエン酸塩-リン酸塩緩衝溶液の調製
【0063】
上述の0.1Mクエン酸原液17.65mLおよび上述の0.2M NaHPO原液82.35mLを混合し、pH7.18のクエン酸塩-リン酸塩緩衝溶液を得た。
【0064】
A-2-2.pH9.0の重炭酸塩(carbonate-bicarbonate)緩衝溶液の調製
【0065】
無水炭酸ナトリウム(anhydrous sodium carbonate)0.11gおよび炭酸水素ナトリウム(sodium bicarbonate)0.756gに、量的に100mLとなるまで水を加えて混合し、pH9.0の重炭酸塩緩衝液を得た。
【0066】
B.分析方法
【0067】
高速液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography, HPLC)
【0068】
下記する条件に基づいて、高速液体クロマトグラフィーで試料中のフラボンアグリコンを分析した。
【0069】
カラムのタイプ:Hypersil Gold aQ 3um, 4.0×150 mmまたは同等のもの
【0070】
検出波長:254nm
【0071】
Pump流速:1.0mL/分
【0072】
各試料の分析時間:55分
【0073】
カラム温度:35℃
【0074】
全注入体積:20μL
【0075】
移動相の調製:移動相A=0.1%リン酸水溶液;移動相B=クロマトグラフィーグレードアセトニトリル
【0076】
【表1】
【0077】
C.実験方法および結果
【0078】
実施例1
【0079】
イエギクの花の成分に対する浸漬時間の影響
【0080】
上述のイエギクの花の乾燥粉砕物1gをRO水20mL中に加え、室温に0、1、5または17時間置いて浸漬試料を作った。
【0081】
次いで、95%エタノール20mLを上述の浸漬試料中に加え、30分振とうし、抽出液を作った。
【0082】
次いで、上述の抽出液に固液分離工程を行い、得られた上清液に高速液体クロマトグラフィーを行って、浸漬時間のそれぞれ異なる抽出液の化学成分の変化を確認した。その中から2つのフラボンアグリコン、アピゲニン(apigenin)およびルテオリン(luteolin)をイエギク抽出物の指標成分として選んだ。
【0083】
結果は図1に示すとおりである。図1から明らかであるように、ルテオリンおよびアピゲニンの抽出液中の含量は、イエギクの花の浸漬時間の増加に伴って増えていた。
【0084】
実施例2
【0085】
イエギクの花のフラボンアグリコン抽出量に対する浸漬時間の影響
【0086】
イエギクの花の2つのフラボンアグリコン指標成分であるアピゲニンおよびルテオリンの抽出量に対する浸漬時間の影響を検討するため、以下の試験および分析を行った。
【0087】
上述のイエギクの花の乾燥粉砕物1gをRO水20mL中に加え、室温に0、5、24、48または72時間置いて浸漬試料を作った。
【0088】
上述の浸漬試料1mLを取り、10,000rpmで10分遠心分離して得られた上清液を浸漬液の試料とした。
【0089】
また、95%エタノール20mLを余剰の上述の浸漬試料中に加え、30分振とうし、抽出液を作った。
【0090】
上述の抽出液を1mL取り、10,000rpmで10分遠心分離して固液分離工程を行い、得られた上清液を抽出液の試料とした。
【0091】
上述の浸漬液の試料および抽出液の試料に対して高速液体クロマトグラフィーを行って、そのアピゲニンおよびルテオリンの含量を確認した。結果は表2および図2に示されるとおりである。
【0092】
【表2】
【0093】
表2および図2の結果からわかるように、浸漬液のアピゲニンおよびルテオリンの抽出量がイエギクの花の浸漬時間の増加に伴って減少している一方で、抽出液のアピゲニンおよびルテオリンの単位当たりの薬材抽出量はイエギクの花の浸漬時間の増加に伴って増えている。
【0094】
イエギクの花を室温で48時間浸漬して得られた抽出液のアピゲニンおよびルテオリンの単位当たりの薬材抽出量は最も高かった。浸漬していないイエギクの花(浸漬0時間)の抽出液では、イエギクの花1g当たりアピゲニンおよびルテオリンを0.71mgしか抽出できていないのに対し、室温下イエギクの花を48時間浸漬して得た抽出液では、イエギクの花1g当たりアピゲニンおよびルテオリンを16.4mg抽出できており、その抽出量は大幅に、2300%も高まった。
【0095】
浸漬液中のアピゲニンおよびルテオリンの抽出量が浸漬時間の増加に伴い減少する原因に関しては、浸漬液中のグリコシドフラボノイドから加水分解したフラボンアグリコンは水に対する溶解性に劣るために沈殿が生じ、このため等量の95%エタノールを浸漬液に加えて上述の抽出液とした後、フラボンアグリコンが溶液中に再溶解して、フラボンアグリコンに対する高い抽出量が示されたのではないかと推測される。
【0096】
実施例3
【0097】
イエギクの花のフラボンアグリコン抽出量に対する高温高圧前処理の影響
【0098】
上述のイエギクの花の乾燥粉砕物1gをオートクレーブ中に入れ、120℃で20分滅菌した。次いで、この高温高圧処理した粉砕物を室温まで冷却した。
【0099】
次いで、この高温高圧処理した粉砕物をRO水20mL中に加え、室温に24時間置いて浸漬試料を作った。
【0100】
次いで、95%エタノール20mLを上述の浸漬試料中に加え、30分振とうし、抽出液を作った。
【0101】
次いで、上述の抽出液に固液分離工程を行い、得られた上清液に高速液体クロマトグラフィーを行って、高温高圧処理したイエギクの花の抽出液のアピゲニンおよびルテオリンの抽出量を確認した。
【0102】
結果より、高温高圧処理した試料では、イエギク花1g当たりからアピゲニンおよびルテオリンが0.72mgしか抽出されず、高温高圧処理していない試料からアピゲニンおよびルテオリンが12.15mgも抽出され得るのと比較して、明らかな差異があることが示された。
【0103】
このことから、浸漬の過程におけるアピゲニンおよびルテオリンの含量の増加が、それ自体の化合物の自然な分解によるものではないことが証明される。上述の結果からわかるように、高温高圧処理によってもグリコシド結合を加水分解することはできない。
【0104】
これに対し、本開示が採用するマイルドな処理の浸漬工程を行うだけで、高速液体クロマトグラムから(図1参照)、ある成分は浸漬時間の増加に従って減少し、またある成分は浸漬時間の増加に伴って増加していることが見て取れる。よって、浸漬工程は、イエギクの内生的なグリコシド結合に対する加水分解酵素の活性を活性化し、ひいてはアピゲニンおよびルテオリンの抽出量を高め得ることが推測される。
【0105】
実施例4
【0106】
イエギクの花のフラボンアグリコン抽出量に対する浸漬温度およびpH値の影響
【0107】
最適な浸漬温度およびpH値を検討すべく、上述のイエギクの花の乾燥粉砕物1gRO水20mL、またはpH値の異なる緩衝水溶液(pH2.7、pH5.0、pH7.18およびpH9.2)に加え、4℃、25℃または50℃の温度に24時間置いて、浸漬試料を作った。
【0108】
次いで、95%エタノール20mLを上述の浸漬試料中に加え、30分振とうし、抽出液を作った。
【0109】
次いで、上述の抽出液に固液分離工程を行い、得られた上清液に高速液体クロマトグラフィーを行って含量を分析した。
【0110】
結果は図3に示すとおりである。図3からわかるように、イエギクの花をRO水またはpH2.7から9.2の緩衝水溶液のいずれに浸漬しても、浸漬の温度を4℃から50℃まで上げると、アピゲニンおよびルテオリンの抽出量はいずれも浸泡温度の上昇に伴って増加した。イエギクの花を浸漬するのに用いた緩衝水溶液のpH値を2.7から5.0まで上げると、アピゲニンおよびルテオリンの抽出量はpH値の上昇に伴って増加したが、緩衝水溶液のpH値が7.18および9.2のとき、アピゲニンおよびルテオリンの抽出量は、緩衝水溶液のpH値が5.0のときのアピゲニンおよびルテオリンの抽出量よりも低くなった。
【0111】
イエギクの花をRO水のみで浸漬したアピゲニンおよびルテオリンの抽出量は、イエギクの花のpH値5.0の緩衝水溶液によるアピゲニンおよびルテオリンの抽出量よりもやや低かった。イエギクの花を浸漬した後のRO水のpH値を測定したところ4.5であり、上述のイエギクの花を浸漬するのに用いた緩衝水溶液のpH値が2.7から5.0まで上がったときにアピゲニンおよびルテオリンの抽出量がpH値の上昇に伴って増加したという観察結果と一致した。RO水浸漬後に抽出されるアピゲニンおよびルテオリンの抽出量はpH値5.0の緩衝水溶液浸漬後に抽出されるアピゲニンおよびルテオリンの抽出量に比べてやや低いものの、直接RO水で浸泡するというのはより簡単、手軽かつ低コストな手法である。
【0112】
実施例5
50%エタノール水溶液を用いた浸漬・抽出
【0113】
上述のイエギクの花の乾燥粉砕物1gを50%エタノール水溶液40mLに加えて均一になるようよく振ってから、室温に1、5または24時間置いて、浸漬試料を作った。
【0114】
上述の浸漬試料を30分振とうし、抽出液を作った。
【0115】
次いで、上述の抽出液に固液分離工程を行い、得られた上清液に高速液体クロマトグラフィーを行って含量を分析した。結果は表3に示すとおりである。
【0116】
【表3】
【0117】
表3からわかるように、50%エタノール水溶液で浸漬工程を行っても、アピゲニンおよびルテオリンの抽出量を増加させることはできなかった。
【0118】
実施例6
【0119】
イエギクの茎および葉の成分に対する浸漬時間の影響
【0120】
イエギクの花を採取した後、一般にその茎と葉は農業廃棄物として廃棄される。本研究では、イエギクの茎および葉にも大量のフラボン配糖体成分が含有されていることを見出した。イエギクの茎および葉に含まれるフラボンアグリコンのグリコシル誘導体は花のものとは異なるが、それが主にアピゲニンおよびルテオリンから誘導されたものであるということには変わりはない。よって、イエギクの花に浸漬のプロセスを施すことが、イエギクの内生配糖体加水分解酵素を活性化してフラボンアグリコンの抽出量増加を促すということであるならば、同一植物における異なる部位である茎および葉にも同じ効果が生じる可能性がある。そして、浸漬の方式によって茎および葉のアピゲニンおよびルテオリンの抽出量が高まるのであれば、農業廃棄物であるイエギクの茎および葉に高い経済的価値を与えることができると共に、廃棄物の再利用という効果を達成することもできる。
【0121】
上述のイエギクの茎および葉の乾燥粉砕物1gをRO水20mLに加え、室温に0、1、5、24、48または72時間置いて、浸漬試料を作った。
【0122】
次いで、95%エタノール20mLを上述の浸漬試料中に加え、30分振とうし、抽出液を作った。
【0123】
次いで、上述の抽出液に固液分離工程を行い、得られた上清液に高速液体クロマトグラフィーを行って、浸漬時間のそれぞれ異なる抽出液の化学成分の変化を確認した。結果は図4に示されるとおりである。
【0124】
図4に示される高速液体クロマトグラムに基づいて、抽出液中のアピゲニンおよびルテオリンの抽出量をそれぞれ算出した。結果は図5および表4に示されるとおりである。
【0125】
【表4】
【0126】
図5および表4の結果に示されているように、イエギクの茎および葉を室温で一定時間浸漬した後は、アピゲニンおよびルテオリンの抽出量が浸漬時間の増加に伴って増えており、浸漬していない試料ではイエギクの茎および葉1g当たりアピゲニンおよびルテオリンがそれぞれ0.3mgしか抽出できていないのに対し、イエギクの茎および葉を48時間浸漬した後、その1gにつき抽出され得るアピゲニンおよびルテオリンの総量は5.69mgにも達した。総抽出量が1890%増加し、抽出率が著しく高まった。
【0127】
実施例7
【0128】
イエギクの茎および葉の抽出物の抗酸化活性分析
【0129】
1.イエギクの茎および葉の抽出物の作製
【0130】
CML-A:上述のイエギクの茎および葉の乾燥粉砕物10gを水200Lに加え、室温において24時間浸漬し、浸漬試料を作った。次いで、浸漬試料を遠心分離し、その後で水層を捨てた。残渣を95%エタノール200Lに加え、30分振とうしてから、固液分離を行い、得られた抽出液に減圧濃縮乾燥を行った。
【0131】
CML-B:上述のイエギクの茎および葉の乾燥粉砕物10gを50%エタノール水溶液(95%エタノール:水=1:1v/v)200Lに加え、30分振とうしてから固液分離を行い、得られた抽出液に減圧濃縮乾燥を行った。
【0132】
CML-C:上述のイエギクの茎および葉の乾燥粉砕物10gを200Lに加え、沸騰させ、1時間加熱還流した後、固液分離を行い、得られた抽出液に減圧濃縮乾燥を行った。
【0133】
2.抗酸化活性分析
【0134】
単球/マクロファージ(RAW264.7)細胞で構築された抗酸化活性分析プラットフォームにより、上述にて作製したイエギクの茎および葉抽出物のRAW264.7細胞に対する影響およびその抗酸化活性を評価した。
【0135】
実施の詳細なステップは以下のとおりである。細胞を陰性対照群、陽性対照群および3つの実験群に分けた。陰性対照群は何らの処理もしていない細胞、陽性対照群は10μMおよび100μMのアピゲニンで処理した細胞、3つの実験群はそれぞれCML-A(12.5から100μg/mL)、CML-B(12.5から100μg/mL)およびCML-C(12.5から100μg/mL)で処理した細胞である。
【0136】
RAW264.7細胞を96ウェルプレートで一晩培養した後、陽性対照群および実験群にLPS100ng/mLを加え、細胞の炎症を誘発した。細胞を24時間続けて培養した後、細胞培養物の上清液を収集し、-20℃の冷蔵庫に一時保管し、後続の試験に備えた。
【0137】
細胞生存試験において、各ウェル中の細胞にMTT50μL(5mg/mL)を加え、37℃で20分反応させた。次いで、各ウェルにDMSO溶媒150μLを加えた。培養プレートをオービタルシェーカー上で5分振とうし、MTT結晶を完全に溶解させて、590nmにおける吸光値を読み取った。
【0138】
下式により細胞生存率(cell viability)を算出した。
細胞生存率(%)=(試験物質の蛍光値/陰性対照群の蛍光値)×100
【0139】
結果は図6Aに示されるとおりである。図6Aからわかるように、イエギクの茎および葉抽出物(CML-A、CML-BおよびCML-C)がRAW264.7細胞生存率に影響を与えることはなかった。
【0140】
細胞の一酸化窒素(NO2-)分析では、製造メーカーPromega Griessの試薬キットのステップにしたがって細胞培養物の上清液中の亜硝酸塩(NO)の含量を測定し、NO の生成を確かめた。540nmにおける吸光値を読み取って、NO2-生成率(production)を算出した。結果は図6Bに示されるとおりである。
【0141】
図6Bに示されるように、CML-A 25μg/mL、50μg/mLおよび100g/mLならびにCML-B 100μg/mLでは、NO 炎症因子の生成が明らかに低減されていた。
【0142】
インターロイキン-6(Interleukin-6,IL-6)分析においては、サンドイッチ酵素結合免疫吸着アッセイ(Sandwich Enzyme-linked immunosorbent assay, ELISA)を用いて試験を行った。実施の詳細なステップは以下のとおりである。
【0143】
抗体を96ウェルプレートに固定化し、4℃で一晩置いた。翌日、固定化されていない抗体および不純物を洗い流してから、細胞上清液(検体)を加え、検体中の抗原を固定化された抗体と結合させた。室温で2時間反応させた後、余分な検体を洗い流し、抗原特異的かつHRPが付けられた抗体をさらに加えて、検体中の抗原をこの抗体と結合させた。室温で1時間反応させた後、結合しなかった抗体を洗い流し、酵素基質を加えて呈色させた。450nmの吸光値により被検抗原の含量を計算し、IL-6の濃度を算出した。結果は図6Cに示されるとおりである。
【0144】
図6Cに示されるように、CML-A50 μg/mLおよび100μg/mLは、IL-6炎症因子の発現量を著しく低下させることができている。
【0145】
上述した結果からわかるように、本開示の抽出方法により得られる抽出物は優れた抗炎症効果を備える。
【0146】
開示された実施形態に対して様々な変更や変化を加え得るということは、当業者には明らかであろう。本明細書および実施例は単に例示として認められるということが意図されており、本開示の真の範囲は以下の特許請求の範囲およびそれらの均等物によって示される。


図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
【外国語明細書】