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特開2023-94018カーボン含有不焼成れんが耐火物及びカーボン含有不焼成れんが耐火物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094018
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】カーボン含有不焼成れんが耐火物及びカーボン含有不焼成れんが耐火物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/043 20060101AFI20230628BHJP
   C04B 35/101 20060101ALI20230628BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20230628BHJP
   C21C 5/44 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
C04B35/043
C04B35/101
F27D1/00 N
C21C5/44 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209212
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】日野 雄太
(72)【発明者】
【氏名】細原 聖司
【テーマコード(参考)】
4K051
4K070
【Fターム(参考)】
4K051AA02
4K051BE03
4K070CC03
(57)【要約】
【課題】転炉への施工の後に当該転炉の予熱処理を経ることで、耐火物の耐熱スポーリング性を向上させることができるカーボン含有不焼成れんが耐火物及びカーボン含有不焼成れんが耐火物の製造方法を提供する。
【解決手段】
平均粒子径が1μm以下である遷移金属又は遷移金属を含有する遷移金属化合物を有機系物質からなる液状のバインダーに混合した混合物と、耐火物原料と、黒鉛原料と、を含有するカーボン含有不焼成れんが耐火物。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が1μm以下である遷移金属又は遷移金属を含有する遷移金属化合物を有機系物質からなる液状のバインダーに混合した混合物と、耐火物原料と、黒鉛原料と、を含有するカーボン含有不焼成れんが耐火物。
【請求項2】
前記耐火物原料は、Al及びMgOのうち少なくとも1種類の化合物で構成され、
前記化合物は、平均粒子径で3mm以上が5~40質量%、1mm以上3mm未満が10~45質量%、0.15mm以上1mm未満が15~30質量%、及び0.15mm未満が5~45質量%の粒度範囲からなる、
請求項1に記載のカーボン含有不焼成れんが耐火物。
【請求項3】
前記バインダーの質量は、前記耐火物原料及び前記黒鉛原料の合計質量に対して外数で2質量%以上5質量%以下である、請求項1又は2に記載のカーボン含有不焼成れんが耐火物。
【請求項4】
前記遷移金属化合物は、Fe又はNiを含有している化合物からなる、請求項1~3のいずれか1項に記載のカーボン含有不焼成れんが耐火物。
【請求項5】
前記Fe又はNiを含有している化合物は、Fe、Fe、FeO、NiCO、及びNiOのいずれかである、請求項4に記載のカーボン含有不焼成れんが耐火物。
【請求項6】
前記遷移金属及び前記遷移金属化合物の合計質量は、前記バインダーの質量に対して0.1質量%以上8.0質量%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のカーボン含有不焼成れんが耐火物。
【請求項7】
平均粒子径が1μm以下である遷移金属又は遷移金属を含有する遷移金属化合物を有機系物質からなる液状のバインダーに混合して混合物を作成する混合工程と、
前記混合工程で作成された前記混合物と、耐火物原料と、黒鉛原料と、を配合して成形する成形工程と、
を有するカーボン含有不焼成れんが耐火物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄用精錬設備等の高温プロセスで内張りとして用いられるカーボン含有不焼成れんが耐火物及びカーボン含有不焼成れんが耐火物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カーボンを含有するれんが耐火物として代表的な耐火物には、例えばMgO-Cれんが、Al-Cれんが、Al-SiC-Cれんが等がある。特にMgO-Cれんがは、製鋼スラグへの耐食性が良好であること、焼成れんがと比較して、比較的良好な耐熱衝撃性を備えること等の特徴を有し、製鋼工程の主要設備における内張り耐火物として主に使用されている。その一方、MgO-Cれんがはカーボンを含有しているため、焼成れんがに比べて熱伝導率が高い。
【0003】
また、地球環境のため、世界的規模でのCO排出量の削減活動がなされている。製鉄業においても、多量の炭材を使用するため、高炉の還元材比の低減に伴う熱エネルギーの損失の抑制や、熱の有効利用化技術の開発など、CO削減のための様々な取り組みが重要となっている。耐火物分野においては、熱余裕創出の策として、耐火物の低熱伝導化による炉体からの熱放散の抑止があげられる。特に、MgO-Cれんが等のカーボン含有れんがは、熱伝導率にカーボン濃度依存性が見られるため、低カーボン化は熱エネルギーの損失の抑制に大きく寄与する。また、れんがの低カーボン化は、精錬時におけるカーボンピックアップの抑止など鋼片品質の向上にも寄与する。
【0004】
MgO-Cれんが等のカーボン含有れんが耐火物を低カーボン化した場合、課題となるのが耐熱スポーリング性の低下である。特に、製鉄プロセスで使用される耐火物(MgO-Cれんが)のスポーリング破壊は、長期間による繰り返し熱負荷等で耐火物内に発生したクラックが進展することによって起こる。近年、その対策として、耐熱スポーリング性の低下を抑制したカーボンMgO-Cれんがが提案されている。例えば、特許文献1には、カーボン源としてカーボンファイバー(長さ0.13~50mm、径5μm以上)を50%以下の範囲で耐火物中に添加する技術が開示されている。
【0005】
また、近年、カーボンブラックや、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と記載することがある。)、カーボンナノファイバー(以下、「CNF」と記載することがある。)、フラーレン、グラフェンなど、数多くのカーボンナノ材料が発見され、それらナノマテリアルの添加により機械特性向上、特に、耐スポーリング性の向上を図った技術も多く使用されている。例えば、特許文献2には、メゾフェーズピッチ+熱硬化性樹脂を耐火物中に添加させて、メゾフェーズピッチ+熱硬化性樹脂の熱分解(1000℃以下)により、カーボンナノファイバー(径:最大500nm、長さ:100μm)を生成させ、耐食性かつ耐熱衝撃性を向上させる技術が開示されている。また、特許文献3には、フラーレン類を5%以下の範囲で耐火物中に添加し、耐スポーリング性の向上を図る技術が開示されている。その原理は、フラーレン類とバインダーであるフェノールレジンとが熱間(熱処理:最大1500℃)で反応し、カーボンナノファイバー(CNF)が生成することに因る。この生成されたCNFが、ブリッジング効果の役割をなすため、耐スポーリング性の向上が達成される。ここで、耐スポーリング性の一種として、耐熱スポーリング性がある。
【0006】
特許文献4には、有機バインダーと、粒径1000nm以下の微粒子が溶媒中に分散されたコロイド状又は懸濁液状の遷移金属又は遷移金属塩の溶液又は分散液と、耐火物原料とを混練し、600℃~1200℃の温度で熱処理し、炭素繊維状組織と粒子径1000nm以下の遷移金属又は遷移金属塩とを含む微粒子を分散して生成することにより、耐火物の靭性を向上させる技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献5には、耐火原料の表面に触媒として、V、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Pd、Rh、W、Ptからなる群のうち1種または2種以上の金属が被覆された触媒被覆耐火原料と、有機高分子樹脂またはその前駆体とを原料とし、その耐火物を熱処理することによって、組織中にナノカーボンチューブを均一に分散させて、靭性を向上させる技術が開示されている。
【0008】
更に、特許文献6には、耐火物原料の表面にCNT、CNFを被覆した耐火原料を用いた耐火物を適用することにより、強度や耐破壊特性に優れた耐火物を提供する技術が開示されている。
【0009】
これらの技術は、いずれも耐火物の組織中に繊維状物質を存在させて、繊維状物質によるブリッジング効果により、機械的負荷を原因とした耐火物中に発生する亀裂の進展を防ぐことを狙いとする。なお、上記した従来技術は、カーボン含有率の低い低カーボンれんがのみならず、比較的高いカーボン含有量を有するれんがにも適用でき、耐火物の更なる高強度化、あるいは耐スポーリング性の更なる向上に寄与している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭62-9553号公報
【特許文献2】特開2005-139062号公報
【特許文献3】特開2006-8504号公報
【特許文献4】特許第4641316号公報
【特許文献5】特許第4856513号公報
【特許文献6】特許第5192774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1のように繊維物質を添加する場合、耐火物の緻密性が損なわれ、逆に耐火物の成形が困難になるおそれがある。また、耐火物の製造コストの増大も招きかねない。特許文献2の場合には、添加する物質が比較的高価なメゾフェーズピッチであり、製造コストの面で問題がある。特許文献3の場合においても、添加する物質が比較的高価なフラーレンであり、耐火物の製造コストの増大も招きかねない。
【0012】
また、特許文献4の場合、液状の有機バインダーとともにコロイド状、または液状の物質を新たに添加することになる。この時、混錬物の流動性が過剰に増大し、耐火物の成形が非常に困難になる。これは、バインダー添加量をコロイド状物質、あるいは懸濁液量の制限を結果として生じさせることになり、耐火物の製造に関して大きな制約を受けることになる。さらに、特許文献5及び特許文献6に開示された技術は、両者ともに被覆技術を適用したものである。この被覆技術は、通常CVD等の蒸着法を用いるが、この手法もコストが非常に高くなり、また、大量に被覆することが非常に難しいのが課題である。したがって、これらの技術は必ずしも有効とは言えない。
【0013】
本発明は、かかる事情を鑑みてなされたもので、転炉への施工の後に当該転炉の予熱処理を経ることで、耐火物の耐熱スポーリング性を向上させることができるカーボン含有不焼成れんが耐火物及びカーボン含有不焼成れんが耐火物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する本発明の要旨構成は以下のとおりである。
[1]平均粒子径が1μm以下である遷移金属又は遷移金属を含有する遷移金属化合物を有機系物質からなる液状のバインダーに混合した混合物と、耐火物原料と、黒鉛原料と、を含有するカーボン含有不焼成れんが耐火物。
[2]前記耐火物原料は、Al及びMgOのうち少なくとも1種類の化合物で構成され、前記化合物は、平均粒子径で3mm以上が5~40質量%、1mm以上3mm未満が10~45質量%、0.15mm以上1mm未満が15~30質量%、及び0.15mm未満が5~45質量%の粒度範囲からなる、[1]に記載のカーボン含有不焼成れんが耐火物。
[3]前記バインダーの質量は、前記耐火物原料及び前記黒鉛原料の合計質量に対して外数で2質量%以上5質量%以下である、[1]又は[2]に記載のカーボン含有不焼成れんが耐火物。
[4]前記遷移金属化合物は、Fe又はNiを含有している化合物からなる、[1]~[3]のいずれか1つに記載のカーボン含有不焼成れんが耐火物。
[5]前記Fe又はNiを含有している化合物は、Fe、Fe、FeO、NiCO、及びNiOのいずれかである、[4]に記載のカーボン含有不焼成れんが耐火物。
[6]前記遷移金属及び前記遷移金属化合物の合計質量は、前記バインダーの質量に対して0.1質量%以上8.0質量%以下である、[1]~[5]のいずれか1つに記載のカーボン含有不焼成れんが耐火物。
[7]平均粒子径が1μm以下である遷移金属又は遷移金属を含有する遷移金属化合物を有機系物質からなる液状のバインダーに混合して混合物を作成する混合工程と、前記混合工程で作成された前記混合物と、耐火物原料と、黒鉛原料と、を配合して成形する成形工程と、を有するカーボン含有不焼成れんが耐火物の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、転炉への施工の後に当該転炉の予熱処理を経ることで、耐火物中に繊維状物質を効率的に生成させることが可能となる。そして、耐火物の耐熱スポーリング性の向上が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】バインダー及び遷移金属(遷移金属化合物)の混合物の加熱温度パターンを示す図である。
図2】遷移金属化合物(Fe)を用いた場合におけるフェノール樹脂乾留生成物(CNT)のTEM写真を示す図である。
図3】遷移金属化合物(NiCO)を用いた場合におけるフェノール樹脂乾留生成物(CNT)のTEM写真を示す図である。
図4】通常れんが及びNiCO添加れんがにおける荷重及び変位の関係を示すグラフである。
図5】通常れんが及びNiCO添加れんがにおける静的弾性率を示すグラフである。
図6】遷移金属としてFeOをフェノール樹脂に添加した場合におけるCNT生成メカニズムを簡易的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を通じて本発明を説明する。本発明における「不焼成れんが耐火物」は、耐火物原料、黒鉛原料、バインダー等を配合して成形する成形工程と、成形工程にて成形された成形物を焼成する焼成工程とを行うことによって製造されるれんが耐火物に対して、当該焼成工程を実施する前のれんが耐火物を意味する。なお、成形工程には、必要に応じてバインダーを熱硬化させるための処理(例えば成形品を150~300℃程度で長時間(24~72時間)保持する処理(キュアリング処理))が含まれる。
【0018】
製鋼プロセスにおいては、複数の精錬工程がバッチ式で実施されるため、熱の吸収及び放出が周期的に行われる。耐火物設備が繰り返しの熱負荷を受け続けると、耐火物に発生する熱応力もそれに応じて変動する。そのため耐火物内に亀裂が発生し、耐火物の破壊が引き起こされる。よって、耐火物の靭性を向上させて耐用性向上を達成できれば、製鉄プロセスにおける耐火物設備の寿命増加をもたらすことができる。
【0019】
耐火物の靭性を向上させる方法の一つとしては、材料内における破壊の原因となる亀裂の発生・進展を妨げることが挙げられる。亀裂の発生・進展を妨げる方法としては、繊維状物質のようなアスペクト比の高い物質を耐火物に添加し、ブリッジングを強化することが考えられる。ここで、繊維状物質としては、軽量で引張り強度の高い炭素繊維などが考えられる。しかし、単純に繊維状物質を添加すると、体積差や形状、表面状態などの点から、耐火物成形時にラミネーションが発生するなどの問題を有する。
【0020】
MgO-Cれんがなどに代表される耐火物は、骨材及び微粉などの耐火物原料、黒鉛原料(鱗状黒鉛)、フェノール樹脂などに代表される有機系物質からなる液状のバインダー、及びその他の各種添加材から構成される。その他の添加材としては、例えば硬化剤などが挙げられる。バインダーの種類によっては、硬化剤が必要な場合と不要な場合がある。
【0021】
ここで、有機系物質からなる液状のバインダーは、加熱すると揮発分が抜け、アモルファスカーボンなどの炭素物質が生成する。この時、バインダーを原料として、カーボンナノチューブなどのナノ繊維状物質を加熱中に生成させることができれば、より低コストでかつラミネーション発生などの課題を解決できる可能性がある。そこで、発明者らはバインダー材料(例えばタールや、フェノール樹脂、ピッチ等の有機樹脂)の加熱時にカーボンナノ繊維物質の生成可否について検討を行った。
【0022】
ここで、カーボンナノチューブの生成については、FeやNiなどの遷移金属の微粒子が存在すると、その微粒子を核としてナノチューブが生成し成長する。そこで、発明者らは、加熱中にバインダー材料の成分により還元生成したFeやNi粒子を核としたナノチューブ生成を狙いとして、FeやNiの酸化物をバインダー材料に添加して観察を行った。以下、調査実験内容を記す。
【0023】
原料は、遷移金属化合物として粉末状のFe又はNiCOを用い、バインダーとしてフェノール樹脂を用いた。カーボンるつぼの中にフェノール樹脂を10g添加し、その後、粉末状のFe、もしくはNiCOをるつぼ内に添加した。添加量、および実験水準を表1に示す。それぞれの条件とも、るつぼ内でフェノール樹脂と粉末状の遷移金属化合物とを十分に混合し、図1に示す温度パターンにて、Ar雰囲気で加熱した。冷却後の試料をTEM(透過電子顕微鏡)にて観察した。それぞれの条件でのTEM写真を図2~3に示す。図2~3よりサブμmサイズの擬繊維状のフェノール樹脂乾留生成物の存在が確認された。図2は、遷移金属化合物としてFeを用いた場合におけるフェノール樹脂乾留生成物の一例であるCNTのTEM写真を示す。図3は、遷移金属化合物としてNiCOを用いた場合におけるフェノール樹脂乾留生成物の一例であるCNTのTEM写真を示す。
【0024】
【表1】
【0025】
この調査実験結果を受け、粉末状のNiCOをバインダーに対して1質量%分添加して、バインダーと粉末状のNiCOを事前混合した混合物を作成し、当該混合物と、耐火物原料と、黒鉛原料とを配合して成形した成形物に対して加熱処理を行うことで、MgO-10%Cれんがを試作した。ここで、「MgO-10%Cれんが」は、マグネシア(MgO)と、10質量%の黒鉛原料(C)とを混合して成るれんがを意味する。れんがの曲げ強度(σ:MPa)、静的弾性率(E:MPa)を3点曲げ試験(JIS R2213:2005 耐火れんがの曲げ強さの試験方法)から評価した。ここで、静的弾性率(E)は以下の(1)式を用いて評価した。ここで、Lは支点間距離(m)、Bは試料の幅(m)、Wは試料の高さ(m)、Δuはたわみ(mm)、ΔPは線形域の最大荷重(N)である。
【0026】
【数1】
【0027】
結果を図4~5に示す。図4は、縦軸を荷重(N)、横軸を変位(mm)として、変位と荷重との関係を示す図である。図5は、縦軸を静的弾性率(MPa)として示す図である。図4から曲げ強度の結果が分かり、図5から静的弾性率の結果が分かる。図5から、NiCOを添加したMgO-10%Cれんが(NiCO添加れんが)の静的弾性率は、NiCOを添加しなかった通常のMgO-Cれんが(通常れんが)の場合と比較してほぼ同様であることが確認できる。また、図4から、NiCO添加れんがは、通常れんがと比較して曲げ強度が向上することも確認できる。これにより、次の(2)式で定義される熱衝撃破壊抵抗R(単位:K)は、ナノNiCOを添加したバインダーの適用によって向上することが示唆される。
【0028】
【数2】
【0029】
(2)式において、νはポアソン比(無次元数(ここでは0.3))、αは材料の熱膨張係数(1/K)である。実際に熱衝撃破壊抵抗Rを両者で比較すると、通常れんがではRが22、NiCO添加れんがではRが34となり、熱衝撃破壊抵抗Rが大きく増加した。
【0030】
ここで、本発明のCNT生成メカニズムについて、遷移金属としてFeOを添加した場合を例に、図6を用いて説明する。熱処理の実施により、まず、図6(a)に示す通り、フェノール樹脂(レジン)から還元性ガス(CxHy、H、CO)が揮発する。そして、図6(b)に示す通り、還元性ガスとFeOとが酸化還元反応を起こし、金属Feが生成する。その後、図6(c)に示す通り、フェノール樹脂から揮発した還元性ガスが金属Feの表面で分解し、金属Feを核としてカーボンが生成及び拡散される。これを受けて、図6(d)に示す通り、金属Feの触媒作用により、金属Feの表面において拡散されたカーボンが結合(C-C結合)し、CNTとして生成及び成長する。
【0031】
この熱処理中の反応を利用して、耐火物中に効率よくCNTを生成、成長させることが可能である。転炉の築炉~操業を例にとると、築炉時はCNT生成前の耐火物を従来の耐火物と同様に施工し、転炉の予熱中(800~1200℃)に、図6に示す原理によって反応が起こり、CNTが耐火物内部に一様に生成される。この生成したCNTによるブリッジング効果によって、耐火物の靭性が大きく向上して耐火物寿命向上が達成される。
【0032】
ここで、本発明で用いるバインダーへの添加物(触媒)には、平均粒子径が1μm以下である遷移金属あるいは遷移金属を含有する遷移金属化合物(酸化物、炭酸塩その他化合物)を用いる必要がある。バインダーに添加する遷移金属(遷移金属化合物)の粒子が平均1μmを超える場合、CNTが生成し難いためである。添加する粒子は遷移金属粒子を用いるのが最も好ましいが、比較的高価であると共に、取り扱い時の安全性に十分注意を払う必要がある。そこで、取扱い時の安全性を確保でき、同等の効果を有する意味で遷移金属化合物(酸化物や炭酸塩その他化合物)を添加するほうが望ましい。用いる遷移金属化合物としてはFe、Niを含有する化合物であることが好ましく、さらにNiCO、Fe、Fe、FeO、NiO等であればなお好ましい。また、遷移金属として用いる場合は、Fe又はNiが好ましい。そして、バインダーへの添加物としては、遷移金属と遷移金属化合物との混合物(例えば、FeとFeOとの混合物)であってもよく、遷移金属化合物同士の混合物(例えば、FeとFeOとの混合物)であってもよい。
【0033】
ここで、本発明では、平均粒子径が1μm以下である遷移金属又は遷移金属化合物を予め有機系物質からなる液状のバインダーと混合して混合物にした後で、耐火物原料や黒鉛原料に添加して、カーボン含有不焼成れんが耐火物とすることを特徴とする。通常、耐火物に金属粒子を含有させる場合には、耐火物原料に金属粒子を添加することが一般的である。しかし、耐火物原料に金属粒子を添加した場合には、バインダーと金属粒子とが上手く混合されず、CNTの生成及び成長は難しい。また、特許文献4のように、溶液を介して金属粒子をバインダーに混合する場合には、耐火物の成形性が低下する。これに対し、本発明のように、耐火物原料及び黒鉛原料と配合して成形する工程(成形工程)の前に、遷移金属又は遷移金属化合物とバインダーとを予め混合させて混合物を作成する工程(混合工程)を設けることで、耐火物の成形性を低下させることなく遷移金属をバインダーに確実かつ均一に分散させることができ、CNTをより容易に生成、成長できる。なお、遷移金属(遷移金属化合物)とバインダーの混合方法は、ミキサーなどの撹拌機や混錬機など、様々な方法で行えばよく、その方法については限定しない。
【0034】
また、耐火物に添加するバインダーの質量は、耐火物原料及び黒鉛原料の合計質量に対して外数(外掛け)で2質量%以上5質量%以下とすることが望ましい。2質量%未満ではバインダーとして十分でなく、5質量%超えでは逆にバインダーが多すぎて耐火物の成形時にバインダーが染み出すおそれがある。
【0035】
さらに、平均粒子径が1μm以下である遷移金属(遷移金属化合物)の添加量は、有機系物質からなる液状のバインダーに対して、0.1質量%以上8.0質量%以下とすることが望ましい。0.1質量%未満ではCNT生成量が抑制され、8.0質量%よりも多い添加量では、8.0質量%と効果が同等であり過度の効果が望めない。また、逆に耐火物組織の細密充填性に影響を及ぼすため好ましくない。
【0036】
本発明は、MgO-CやAl-Cなどの各種カーボン含有れんがに適用できる。なお、耐火物原料としてAl及びMgOのうち少なくとも1種類の化合物を用いる場合、Al及びMgOの粒度範囲は、平均粒子径で3mm以上が5~40質量%、1mm以上3mm未満が10~45質量%、0.15mm以上1mm未満が15~30質量%、及び0.15mm未満が5~45質量%の粒度範囲とすることが耐火物として好ましい。もちろん、これらの耐火物にAlやSiなどの酸化防止剤を添加しても全くかまわない。むしろ、Alなどがウィスカー生成に寄与するため、より高い効果が十分期待できる。また、SiCを添加した系の耐火物でも適用できる。
【0037】
なお、本発明に使用する耐火物原料としては、電融品、焼結品、天然材質(海水MgOも含む)のいずれでも適用できる。また、黒鉛原料も、鱗状黒鉛、カーボンブラック、薄肉黒鉛など、各種材質が適用できる。
【実施例0038】
最大サイズを5.00mmとする電融MgO骨材、1.00mm未満のMgO微粉、および鱗状黒鉛を用いてMgO-Cれんがを製造した。れんが中のカーボン濃度は10.0質量%とした。基準となるMgO-Cれんがの組成を表2に示す。表2に示す組成のMgO-Cれんがは、以下に説明する表3及び表4において、比較例1として示す例である。
【0039】
【表2】
【0040】
発明例、および比較例の一覧を表3に示す。発明例1は平均粒子径が1μm以下の添加物としてCoCOをバインダーに対して9.0質量%の割合でバインダーに予め混合して添加した。発明例2は平均粒子径が1μm以下の添加物としてNiOをバインダーに対して8.0質量%の割合でバインダーに予め混合して添加した。発明例3は平均粒子径が1μm以下の添加物としてFeをバインダーに対して4.0質量%の割合でバインダーに予め混合して添加した。発明例4は平均粒子径が1μm以下の添加物としてFeOをバインダーに対して8.0質量%の割合でバインダーに予め混合して添加した。発明例5は平均粒子径が1μm以下の添加物としてFeをバインダーに対して4.0質量%の割合でバインダーに予め混合して添加した。発明例6は平均粒子径が1μm以下の添加物として金属Feをバインダーに対して4.0質量%の割合でバインダーに予め混合して添加した。発明例7は平均粒子径が1μm以下の添加物としてNiをバインダーに対して4.0質量%の割合でバインダーに予め混合して添加した。発明例8は平均粒子径が1μm以下の添加物としてCoをバインダーに対して4.0質量%の割合でバインダーに予め混合して添加した。
【0041】
【表3】
【0042】
これに対し、比較例1では表2に示す配合の通りで混合し、添加物には何も添加しなかった。比較例2もまた、表2に示す配合の通りで混合したが、添加物にAl粉末を4.0質量%の割合でバインダーとは別に添加した。比較例3では表2に示す配合の通りで混合し、添加物にSi粉末を4.0質量%の割合でバインダーに予め混合して添加した。比較例4は平均粒子径が1μm以下の添加物としてNiCOをバインダーに対して10.0質量%の割合でバインダーとは別に添加した。比較例5は平均粒子径が1μm以下の添加物としてFeを8.5質量%の割合でバインダーとは別に添加した。ここで、比較例2、4、5における「バインダーと別々に添加」とは、金属粒子を耐火物原料に直接添加することを意味する。
【0043】
発明例、比較例ともに原料の混練を行い、その後にフリクションプレス機を用いて成形を行なった。成形品を230℃で24時間保持して、キュアリングを行なった後に、還元雰囲気中1350℃で3時間保持して、焼成処理を行い、評価用試料を得た。評価は、機械的特性として、曲げ強度σ(MPa)および弾性率(動的弾性率)E(MPa)を測定し、熱衝撃破壊抵抗Rを(2)式に従って導出した。この熱衝撃破壊抵抗Rが高いほど破壊しにくい材料となり、耐熱スポーリング性に優れる材料といえる。
【0044】
【表4】
【0045】
結果を表4に示す。平均粒子径が1μm以下である遷移金属又は遷移金属化合物をバインダーに予め混合して添加した発明例1~8は、比較例1に比べて曲げ強度、弾性率が増加した。発明例1~8は、比較例1~3に比べて、熱衝撃破壊抵抗Rが向上した。発明例1~8は、比較例4、5よりも熱衝撃破壊抵抗Rが高く、靭性が向上した。更に、平均粒子径が1μm以下である遷移金属化合物としてFeを採択し、その添加量を4.0質量%として添加した発明例5は、8.0質量%超えで添加した比較例5に比べて熱衝撃破壊抵抗Rが向上した。なお、同一の添加方法(有機バインダーを予め混合して添加した条件)で平均粒子径が1μm以下である遷移金属又は遷移金属化合物の種類別に熱衝撃破壊抵抗Rを比較すると、発明例1~8では大きな差は見られなかった。
【0046】
以上から、本発明に係るカーボン含有不焼成れんが耐火物及びカーボン含有不焼成れんが耐火物の製造方法を利用してカーボン含有不焼成れんが耐火物を製造し、転炉への施工の後に当該転炉の予熱処理を経ることで、耐火物中に繊維状物質を効率的に生成させることが可能となる。そして、カーボン含有れんが耐火物の熱衝撃破壊抵抗性、すなわち耐熱スポーリング性に対して優れた効果を有することが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6