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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094029
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】防水層表面への塗装方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20230628BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230628BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/63
C09D5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209228
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000159032
【氏名又は名称】菊水化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】荒川 諒
(72)【発明者】
【氏名】山田 美織
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038EA011
4J038JC32
4J038PB05
(57)【要約】
【課題】マッドカーリング現象の発生が少なく、アスファルト部分と砂部分との付着性が良好であり、その付着強度のバランスも良く、アスファルトの動きやそれに付着された鉱物系粒子の動きに対応することができ、簡単に塗装することができる防水層表面への塗装方法を提供する。
【解決手段】アスファルトルーフィング又は砂付アスファルトルーフィングの表面に合成樹脂エマルションを主成分とする水性塗料を塗布する塗装方法において、その水性塗料の顔料体積濃度が7.0~60容積%の範囲であり、塗膜の伸び率が100~500%の範囲であり、アスファルトへの付着力が0.5~5.0N/mmの範囲で、鉱物系粒子への付着力が0.5~5.0N/mmの範囲である水性塗料を塗装することにより、マッドカーリング現象の発生が少ないものとなる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
防水層にアスファルトルーフィング又は砂付アスファルトルーフィングを用い、その表面に合成樹脂エマルションを主成分とする水性塗料を塗布する塗装方法において、
その水性塗料が体質顔料を含み、その顔料体積濃度が7.0~60容積%の範囲であり、
その水性塗料により形成される塗膜の伸び率が100~500%の範囲であり、
アスファルトへの付着力が0.5~5.0N/mmの範囲で、鉱物系粒子への付着力が0.5~5.0N/mmの範囲
である水性塗料を防水層表面に塗装する防水層表面への塗装方法。
【請求項2】
前記水性塗料に用いられる合成樹脂の分子量が17万~20万の範囲で、その合成樹脂に対して、0.5~1.0重量%のビニルメトキシシラン及び/又はメタクリロキシプロピルトリメトキシシランを含有しているものである防水層表面への塗装方法。
【請求項3】
前記水性塗料を入隅から500mmの範囲で塗布する請求項1又は請求項2に記載の防水層表面への塗装方法。
【請求項4】
前記水性塗料を排水溝から500mmの範囲で塗布する請求項1又は請求項2に記載の防水層表面への塗装方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、建築物や土木構造物等の屋根や屋上,ベランダなどに用いられるアスファルト防水層の表面に水性塗料を塗装する防水層表面への塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、建築物や土木構造物の屋根や屋上、ベランダなどの部位には、アスファルトルーフィングなどアスファルト系の防水材料により防水が行われていることがある。
このアスファルトルーフィングによる防水は、その施工性や耐久性などにより用いられることが多い。
【0003】
このアスファルトルーフィングには、その用途や施工部位により各種提供されている。表面にアスファルトが露出したものやルーフィングの表面や裏面に鉱物系粒子である砂を散布し、付着させた砂付アスファルトルーフィングが用いられることがある。
この砂付アスファルトルーフィングは、耐久性や強度に優れ、施工性も高く、施工後の表面の粘着を低減させるため、埃などの付着を少なくすることができるものである。また、表面などの粘着性を低減させることで、より施工性が良好なものである。
【0004】
この砂付アスファルトルーフィングの表面は、その砂を露出させた状態で仕上がるため施工直後から、施工部位を開放できるものである。
しかしながら、施工されたアスファルトルーフィングの表面に経年で、堆積した土砂、塵埃、花粉などが、降雨降雪などの湿潤状態と晴天時の乾燥状態を繰り返すことで、アスファルトルーフィングが捲り上がり、その防水性や防水層が形成された部分の利用に影響を与えることがある。
【0005】
このアスファルトルーフィングが捲り上がる現象は、マッドカーリング現象と呼ばれ、屋上やベランダなどの平坦部に施工されたアスファルトルーフィングに多く見られる。
この現象は、堆積した土砂、塵埃、花粉などが冠水し、湿潤状態と乾燥状態を繰り返し受けることで起こる現象とされている。
【0006】
これは、堆積した土砂、塵埃の表面に糖質である花粉などが堆積し、雨水などの水で湿潤状態となり粘着性がでて、それが乾燥、収縮などを繰り返すことにより起こるとされている。
その湿潤状態と乾燥状態を繰り返すと乾燥応力により堆積物が反り返り、その反り返りに伴って、アスファルトルーフィングも反り返り、その表面に亀裂が発生し、表層が捲れ上がることになる。
【0007】
そのため特許文献1のような屋上アスファルト系防水層保護用塗料組成物が提案されている。
これには、 屋上アスファルト系防水材層保護用水系2液形塗料組成物であって、水系塗料組成物と硬化剤を含み、水系塗料のポリマーは水酸基を含有するポリマーであり、硬化剤がイソシアネートである耐マッドカーリング特性を有する保護層を形成する屋上アスファルト系防水材層保護用水系2液形塗料組成物が記載されている。
【0008】
これにより、アスファルト防水材を破壊して表面に亀裂が発生し、表層がめくれ上がるマッドカーリング現象が発生しない屋上アスファルト系防水材層保護用塗料組成物を提供するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2016-20413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の屋上アスファルト系防水材層保護用塗料組成物では、マッドカーリング現象を防止することが可能であるが、アスファルト部分と砂部分との付着のバランスやその塗膜の伸びの程度により塗膜に割れが生じることがある。
本開示は、マッドカーリング現象の発生が少なく、アスファルト部分と砂部分との付着性が良好であり、その付着強度のバランスも良く、アスファルトの動きやそれに付着された鉱物系粒子の動きに対応することができ、簡単に塗装することができる塗装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
防水層にアスファルトルーフィング又は砂付アスファルトルーフィングを用い、その表面に合成樹脂エマルションを主成分とする水性塗料を塗布する塗装方法において、その水性塗料が体質顔料を含み、その顔料体積濃度が7.0~60容積%の範囲であり、その水性塗料により形成される塗膜の伸び率が100~500%の範囲であり、アスファルトへの付着力が0.5~5.0N/mmの範囲で、鉱物系粒子への付着力が0.5~5.0N/mmの範囲である水性塗料を防水層表面に塗装することである。
【0012】
このことにより、マッドカーリング現象の発生が少なく、アスファルト部分と砂部分との付着性が良好であり、その付着強度のバランスも良く、アスファルトの動きやそれに付着された鉱物系粒子の動きに対応することができ、簡単に塗装することができるものである。
前記水性塗料に用いられる合成樹脂の分子量が17万~20万の範囲で、その合成樹脂に対して、0.5~1.0重量%のビニルメトキシシラン及び/又はメタクリロキシプロピルトリメトキシシランを含有していることである。
【0013】
このことにより、アスファルト部分と砂部分との付着性がより良好になり、その動きに対応することができ、塗膜表面に土砂、塵埃、花粉など堆積し難くなり、マッドカーリング現象を低減させることができる。
前記水性塗料を入隅から500mmの範囲で塗布することにより、比較的動きが大きく、一日を通じ日向と日影になり易く、温度変化がある部分で、よりその効果を発揮することができる。
【0014】
前記水性塗料を排水溝から500mmの範囲で塗布することにより、比較的動きが大きく、水の影響を受け易い部分で、よりその効果を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の実施形態を説明する。
本開示は、防水層にアスファルトルーフィング又は砂付アスファルトルーフィングを用い、その表面に合成樹脂エマルションを主成分とする水性塗料を塗布する塗装方法において、その水性塗料が体質顔料を含み、その顔料体積濃度が7.0~60容積%の範囲であり、その水性塗料により形成される塗膜の伸び率が100~500%の範囲であり、アスファルトへの付着力が0.5~5.0N/mmの範囲で、鉱物系粒子への付着力が0.5~5.0N/mmの範囲である水性塗料を防水層表面に塗装することである。
【0016】
まず、アスファルトルーフィングは、建築物の屋上やベランダなどの水平部分の躯体コンクリートの防水に用いられる防水材として、代表的なものである。
また、砂付アスファルトルーフィングは、その表側に平均粒子径が2.0~6.0mmの鉱物系粒子が散布接着されているもので、柔軟性と耐候性があり、水分の浸透を防ぐのに良好なもので通常よく使われるものである。
【0017】
このアスファルトルーフィングなどは、アスファルトを主成分としたものをシート状に加工したのもので、多くの場合では、アスファルト,不織布,アスファルトが積層されたものや、その表面に砕石粉などの鉱物系粒子を散布付着させた砂付アスファルトルーフィングなどが用いられる。
また、この砂付アスファルトルーフィングと同様な効果を得るものとして、屋上などに溶融したアスファルトを塗り、鉱物系粒子を散布し、そのアスファルトが冷却固化されると同時に接着する場合などがある。
【0018】
このアスファルトルーフィングの厚みは、1~7mm程度の範囲内のものが多く、この範囲内であれば、十分な防水性能と施工性を確保できる。
このように構成されたアスファルトルーフィングや砂付アスファルトルーフィングは、その施工の容易さなどにより多く用いられ、数十mのロール巻にされ、効率よく施工されている。
【0019】
このアスファルトルーフィングは、一般的な建築用防水材として用いられるもので良いが、アスファルトの融点が50℃と低いため、施工部位によっては、高温になる夏には、柔らかくなり、動き易くなる。また、それに接着している鉱物系粒子も動き易くなることがある。
また、10℃以下の低温になる冬には、柔軟性が低下し、硬くなる傾向がある。
【0020】
このような温度の変化により、アスファルトルーフィングに劣化やひび割れ,亀裂などが発生することがあるため、合成樹脂などの他の素材と混ぜ合わせた改質アスファルトが好ましく用いられる。
この改質アスファルトは、アスファルトの温度特性や耐候性などの性能をより向上させたもので、アスファルトにゴムや合成樹脂、ポリマー、プラスチックなどを混入させ耐久性を高めたものである。
【0021】
また、改質アスファルトルーフィングに不織布を使用することで、亀裂の発生を低減させ、比較的薄くても防水効果を得ることができるものである。
また、改質アスファルトルーフィングには粘着層が有り、剥離シートを剥がして常温粘着施工することが可能なものや、アスファルト層を溶かして接着するトーチ工法なども可能で、施工を簡単にすることができるものである。
【0022】
このアスファルト部分の厚みは、1~5mmの範囲が好ましく、この範囲より薄い場合では、長期での十分な防水効果を得ることができない場合がある。又、砂付きアスファルトルーフィングの場合では、更に鉱物系粒子の接着が不十分になることもある。
厚い場合では、その施工などに時間が掛かり、その手間が増えることになる。又、砂付アスファルトルーフィングの場合では、高温時に、散布接着された鉱物系粒子が動き易くなり、耐候性などの耐久性が低下することもある。
【0023】
砂付アスファルトルーフィングの表面には、粒子径が2.0~6.0mmの鉱物系粒子が散布接着されている。この鉱物系粒子は、天然石や天然石などを粉砕した粉砕物、これらに人工的に着色を施したものなどが挙げられる。
天然石やその粉砕物には、珪砂,川砂,陸砂,海砂などの天然細砂利、大理石などの石材を粉砕した粉砕粒骨材、スレート砂、鉱物砕砂から適宜選択して用いることができる。
【0024】
また、これらの鉱物系粒子に人工的に着色を施した着色粒子を用いることも可能である。この着色粒子は、それらに対しカーボンブラック、ベンガラ、オーカなど顔料を添加した塗料や釉薬により被覆されたものである。
人工的に着色を施した着色粒子は、天然石やその粉砕物に比べ、粒度、色ともに安定していて、アスファルトとの接着や塗料との付着も安定しているため好ましく使用される。
【0025】
これらの鉱物系粒子は、粒子径が2.0~6.0mmの範囲に粒度調整し用いられるものである。
粒子径は、JIS Z 8801:2019に規定される呼び寸法の異なる数個の篩いを用いて測定することができる。この実施形態では、6.0mmの篩を通過し、2.0mmの篩に残るものである。
【0026】
アスファルトの表側に粒子径が2.0~6.0mmの範囲の鉱物系粒子が散布接着されていることで、その表面の状態を良好なものとし、アスファルトの露出を効率的に極力少なくすることができ、積層構造の耐久性を上げることができる。又、この積層構造の上を歩行する場合に滑り難くする効果もある。
また、この大きさの範囲であれば、後述される塗膜が十分に付着する面積を確保することができる。特に、この塗膜が水性塗料により形成される塗膜の場合では、この鉱物系粒子の表面に塗膜を形成させることが可能になり、その効果を十分に発揮することができる。
【0027】
このようなアスファルトルーフィングでは、温度が高くなるとアスファルトが軟らかく、動き易くなり、アスファルトルーフィングの表面に堆積したものの影響により、マッドカーリング現象が起こり易い状態になり、その防水性に影響を与えることがある。
砂付アスファルトルーフィングの場合では、更に接着されている鉱物系粒子が動きやすい状態となるため、よりマッドカーリング現象が起こり易い状態になる。
【0028】
このようなアスファルトルーフィングの表面に伸び率が100~500%の範囲で、アスファルトへの付着力が0.5~5.0N/mmの範囲で、鉱物系粒子への付着力が0.5~5.0N/mmの範囲である塗膜を形成できる水性塗料を塗装する。
これにより、マッドカーリング現象の発生が少なく、アスファルト部分と砂部分との付着性が良好であり、その付着強度のバランスも良く、アスファルトの動きやそれに付着された鉱物系粒子の動きに対応することができ、簡単に塗装することができるものである。
【0029】
このように塗装することで、入隅や出隅、排水溝周辺など複雑な形状にも対応することができる。
この塗料の中でも、有機溶剤をあまり含まない水性塗料が用いられる。これは、有機溶剤の影響によりアスファルトが溶解、膨潤などが起こる場合があるためである。
【0030】
この水性塗料は、合成樹脂エマルションを主成分とし、白色顔料や体質顔料などの顔料成分を加え、顔料体積濃度(以下、PVCとする。)を7.0~60.0容積%の範囲に調整したものである。
このPVCとは、塗料によって形成される乾燥塗膜の全容積に占める顔料の容積(白色顔料の容積と着色顔料の容積と体質顔料の容積との和)の割合を百分率で示したものである。
【0031】
このPVCが7.0容積%より少ない場合では、塗膜の伸び率は大きくなるが、その塗膜の隠蔽率も低下し、アスファルトの劣化を促進させてしまうことがある。また、アスファルトや鉱物系粒子の色が透けて斑となり、良好な仕上がりとならないことがある。
PVCが60.0容積%より多い場合では、塗膜が硬くなり、ゴム弾性を低下させ、伸び率が少なくなり、塗膜に割れが生じることがあり、塗膜の防水性が低下する場合がある。又、塗膜のチョーキングなどの劣化が速くなるなど耐久性が劣ることがある。
【0032】
好ましくは、このPVCが10.0~30.0容積%の範囲に調整したものであれば、塗膜の硬さや伸び、付着性が良好になり、アスファルトやそれに接着された鉱物系粒子の動きに追従し易いものとなり、その仕上がりも良好なものとなる。
この水性塗料は、他に、必要に応じて通常の水性塗料に用いられる添加剤などを使用することができる。
【0033】
この添加剤には、消泡剤,分散剤,湿潤剤などとして用いられる界面活性剤や造膜助剤,防凍剤などとして用いられる高沸点溶剤などがある。又、粘度,粘性調整のための増粘剤やレベリング剤、防腐剤、防藻剤、防黴剤、pH調整剤、艶消し材、架橋剤、シランカップリング剤などがある。
さらに、この水性塗料には、紫外線吸収剤やヒンダードアミンライトスタビライザーが好ましく添加され、酸化防止剤も添加されることがある。これにより、塗膜の耐候性をより向上させることができる。
【0034】
水性塗料の主成分である合成樹脂エマルションは、アスファルトや鉱物系粒子と付着し、アスファルトルーフィングの表面に塗膜を形成されるためのものである。この合成樹脂エマルションは、合成樹脂を水に分散させたもので、乳化重合のような通常の重合技術で製造できるものである。
水性塗料に合成樹脂エマルションを用いることで、アスファルト部分を溶かすことなく、膨潤がし難く、その取扱いが良いものである。
【0035】
この合成樹脂エマルションに用いられる合成樹脂には、アクリル樹脂,シリコーン樹脂,アクリルシリコン樹脂,フッ素樹脂,ポリウレタン樹脂,スチレン樹脂,エポキシ樹脂,メラミン樹脂,アルキッド樹脂,塩化ビニル樹脂などがある。
また、酢酸ビニル樹脂,ポリエステル樹脂,ポリエーテル樹脂,フェノール樹脂,ケトン樹脂などもある。又、これらの樹脂を単独又は、2種類以上を混合して用いても良い。
【0036】
この合成樹脂の分子量が17万~20万の範囲であることが好ましい。この範囲内の合成樹脂を用いることで、アスファルト部分と砂部分との付着性がより良好になり、十分に砂の動きに対応することができるものとなる。
また、その合成樹脂に対して、0.5~1.0重量%の範囲でビニルメトキシシラン及び/又はメタクリロキシプロピルトリメトキシシランを含有しているものが好ましい。これにより塗膜表面に土砂、塵埃、花粉などが堆積し難くなり、マッドカーリング現象を低減させることができる。
【0037】
これは、これらの一部で架橋に係わらなかったものがシラノールとして残り、そのシラノールが空気中の水分を吸着し、塗膜を帯電し難くし、塗膜に塵埃、花粉などの堆積を低減させることができるためである。
このビニルメトキシシラン,メタクリロキシプロピルトリメトキシシランは、シラン系化合物のカップリング剤として用いられることが多く、これを水性塗料に用いることで、塗膜が強靭なものとなり、塗膜表面に土砂、塵埃、花粉などを付着し難くすることができる。
【0038】
これら合成樹脂を用いた合成樹脂エマルションの中でも、耐候性の良好なアクリル系合成樹脂エマルション,ウレタン系合成樹脂エマルション,シリコーン系合成樹脂エマルション,フッ素系合成樹脂エマルション,アクリルシリコン系合成樹脂エマルションを用いることが好ましい。
また、これらの合成樹脂エマルションは、耐候性の他にも塗料適性,塗膜の物性や入手の容易性などの点でも好適に用いられ、これらにより塗装面の耐候性など耐久性が向上するものである。
【0039】
この中でもシリコーン系合成樹脂エマルションやアクリルシリコン系合成樹脂エマルションなどシリコーン樹脂を含有したものが好ましく、これらの樹脂を用いることで、形成された塗膜が強靭なものとなり、マッドカーリングに対しての抵抗性を向上させることができる。
また、合成樹脂のシリコーン架橋を増やすことで、より耐マッドカーリング性を向上させる傾向となる。しかし、これが多過ぎた場合では、アスファルトとの付着性に影響を与えることがあるので、適宜確認を行う必要がある。
【0040】
これらを用いた水性塗料の場合、帯電防止剤を添加することにより、より一層形成された塗膜に塵埃,花粉などを付き難くすることができる。また、他の合成樹脂を用いた水性塗料の場合であっても、帯電防止剤などを添加した場合には同様な効果を得ることができる
合成樹脂は、水性塗料中に15重量%以上が好ましい。15重量%より少ない場合には、塗膜が脆く、劣化が速い場合がある。
【0041】
この合成樹脂エマルションに使われている合成樹脂のガラス転移点(以下、Tg)は-10~40℃の範囲が好ましい。-10℃より低い場合では十分な強度を確保できない。40℃より高い場合では、形成された塗膜が硬いものとなり、アスファルトの動きに追従しきれず、塗膜に割れが生じる場合もある。
顔料成分には、白色顔料,体質顔料,着色顔料が含まれ、アルミニウム顔料やパール顔料などの光輝性顔料も含まれ、水性塗料のPVCに影響を与える成分である。
【0042】
白色顔料には、酸化チタン,酸化亜鉛などがあり、水性塗料や形成される塗膜の隠蔽性に影響を与えるものである。
体質顔料には、炭酸カルシウム,カオリン,タルク,クレー,珪藻土,水酸化アルミニウム,ホワイトカーボン,沈降性硫酸バリウム,炭酸バリウム,アルミナホワイト,樹脂ビーズ,ガラスビーズ,中空バルーン,シリカ粉などを挙げることができる。
【0043】
着色顔料には、酸化鉄,ベンガラ,カーボンブラック,カドミウムレッド,モリブデンレッド,クロムエロー,酸化クロム,プルシアンブルー,コバルトブルーなどの無機顔料がある。
また、有機顔料には、アゾ顔料,ジケトピロロピロール顔料,ベンズイミダゾロン顔料,フタロシアニン顔料,キナクリドン顔料,イソインドリン顔料,イソインドリノン顔料,スレン系顔料,ペリレン顔料,ペリノン顔料,ジオキサン系顔料などがある。
【0044】
これらの着色顔料は、塗膜に色を付けるために使われるものであり、遮熱性がある顔料(遮熱性顔料)も用いられることもある。遮熱性顔料を用いることで、塗膜の温度が上がり難く、被塗布物であるアスファルトや鉱物系粒子の温度上昇を抑えることができ、熱劣化を遅らせることができる。
白色顔料や体質顔料の平均粒子径は、150μm以下のものが用いられることが多く、0.2~3μmの範囲のものを用いることが好ましいものである。又、着色顔料の粒子径は、一般的には0.01~0.24μmの範囲のものが用いられることが多い。
【0045】
これらの顔料成分は、単独でも他の無機又は有機顔料との併用も何ら問題ない。
上記成分により構成された水性塗料は、通常の塗装方法である吹付塗装,塗装用ローラー,刷毛などの器具を用いて、アスファルトルーフィングや砂付アスファルトルーフィングの表面に塗装される。
【0046】
塗装された水性塗料は、硬化乾燥した後に、塗膜が形成され、アスファルトルーフィングや砂付アスファルトルーフィングの表面に、その塗膜が積層される。この乾燥には、屋上やベランダなど屋外で使用される場合は、自然に乾燥させることが多い。
シート状のアスファルトルーフィングなどの表面に、工場内で塗装することも可能で、この場合の乾燥条件は、自然に乾燥させることもあるが、比較的低温の遠赤炉,ガス炉,電気炉などを使用して、強制的に乾燥させることも可能である。
【0047】
この水性塗料により形成される塗膜の厚みは、特に制限されないが、塗装対象部位に均一な膜を形成することができる範囲であれば良い。
好ましくは50~300μmの範囲であり、50μmより薄い場合では、十分な防水性が期待できないことがある。300μmより厚い場合では、場合によっては塗膜に亀裂などが発生することがある。
【0048】
より好ましくは80~200μmであり、十分な性能を発揮するものである。
この形成された塗膜の伸び率は、100~500%の範囲のものであり、好ましくは200~400%の範囲である。
【0049】
この伸び率は、上記記載の膜厚である50~300μmの範囲の試験体の標点間のひずみの平均値を示すもので、引張試験において、試験片が破断するまでに、試験片上の標線間に生じた伸びと標線間距離との比を百分率で表したものである。
この伸び率が100%より小さい場合では、アスファルトやアスファルトに接着した鉱物系粒子の動きに対応することができず、塗膜に割れなどが発生し、マッドカーリング現象が起こることになる。
【0050】
また、500%より大きい場合では、塗膜が柔らか過ぎ、塗膜に塵埃,花粉などが付き易くなることで、マッドカーリングが起こることがある。
この塗膜の伸び率が200~400%の範囲であることで、アスファルトに付着した鉱物系粒子の動きに十分に対応することができ、マッドカーリング現象の発生をより少なくすることができる。
【0051】
この伸び率の測定方法は、JIS A6909:2021 7.26伸び試験に記載の20℃の伸び試験方法により行う。この方法では、膜厚が1mmにより測定を行うことになっているが、本開示では、膜厚が50~300μmの範囲の中で、伸び率が100~500%の範囲であれば良い。
また、このJIS A6909:2021 7.26に記載の伸び試験には、-10℃の伸び,浸水後の伸び,加熱後の伸びの試験方法の記載があり、本開示の塗膜では、これらの条件であっても、その膜厚が50~300μmの範囲の各伸び率が20~100%の範囲であることが望ましい。
【0052】
これにより、形成された塗膜が、経年での外気の条件に十分対応し、マッドカーリング現象の発生が少なく、アスファルト部分と砂部分との付着性が良好であり、その付着強度のバランスも良く、アスファルトやアスファルトに接着した鉱物系粒子の動きに対応することができるものである。
この塗膜の伸び率の他に、ゼロスパンテンション伸び量が1~5mmの範囲が好ましい。
【0053】
このゼロスパンテンション伸び量は、下地であるアスファルトルーフィングや砂付アスファルトルーフィングにひび割れができ隙間(スパン)ゼロの状態から引っ張られた際の、その伸び量のことである。
ゼロスパンテンション伸び量が1~5mmの範囲であることにより、アスファルトに付着した鉱物系粒子の動きに十分に対応することができる。
【0054】
このゼロスパンテンション伸び量は、50mm×100mmの厚手の粘着テープ上に、50mm×50mm×厚さ5mmのフレキシブルボードを隙間ができないように貼り付け基材とする。その基材に試験用の水性塗料などで厚み1mmとなるように塗付け試験体とする。
この試験体を23℃、65%RH条件下に2週間静置し、試験を行う。試験は、塗膜に対して負荷が掛からないように粘着テープを剥がし、長手方向の両端を固定し、毎分5mmの速度で引張り、塗膜が破断したときの引張り距離を測定値とする。
【0055】
また、この塗膜のアスファルトへの付着力は、0.5~5.0N/mmの範囲で、鉱物系粒子への付着力は、0.5~5.0N/mmの範囲のものである。この付着力は、JIS A6909:2021 7.10付着強さ試験の記載に準じて測定することができる。
この付着試験の試験体としては、モルタルやスレート板のような基材にアスファルトルーフィングを施工要領に沿って貼り付けたものを試験体とし、付着試験を行う。
【0056】
この付着試験での塗膜のアスファルトへの付着力は、0.5~5.0N/mmの範囲である。0.5N/mmより小さい場合では、その付着力が十分ではなく、塗膜の剥がれなどが生じることがある。
5.0N/mmより大きい場合では、付着力が強くなり過ぎ、アスファルトに亀裂が生じることがある。また、直射日光などの熱で柔らかくなったアスファルトを起こしてしまうこともある。
【0057】
このことにより、マッドカーリング現象の発生が少なく、アスファルト部分と砂部分との付着性が良好であり、その付着強度のバランスも良く、アスファルトやアスファルトに接着した鉱物系粒子の動きに対応することができるものである。
鉱物系粒子への付着力は、その粒子径が比較的小さいため、基材にエポキシ系接着剤など塗膜の付着力より強力な接着力のある接着剤を塗布し、その表面に鉱物系粒子を散布接着し、その表面に水性塗料を塗装し、塗膜を形成させ、試験体として、付着試験を行う。
【0058】
この付着試験での塗膜の付着力は、0.5~5.0N/mmの範囲である。0.5N/mmより小さい場合では、その付着力が十分ではなく、塗膜の剥がれなどが生じる。
5.0N/mmより大きい場合では、付着力が強いため、アスファルトに付着している鉱物系粒子間で亀裂が生じることがある。また、直射日光などの熱で柔らかくなったアスファルトを起こしてしまうこともある。場合によっては、アスファルトに接着した鉱物系粒子をアスファルトから剥がしてしまうこともある。
【0059】
これらの付着力は、鉱物係粒子への付着力がアスファルトへの付着力より大きいことが好ましい。これは、温度が上昇するとアスファルトが柔らかくなり、鉱物系粒子が動き易くなる。この鉱物系粒子が動き始めた時に、アスファルト部分から適度に剥がれ、その動きに追従し易くなるためである。
【0060】
このように、平均粒子径が2.0~6.0mmの範囲の鉱物系粒子が散布接着されている砂付アスファルトルーフィングに上記記載の水性塗料を塗装することで、マッドカーリング現象の発生が少ないものとなる。
また、上記記載の水性塗料により形成される塗膜はアスファルト部分と砂部分との付着性が良好であり、その付着強度のバランスも良く、アスファルトに付着された鉱物系粒子の動きに対応することができるものとなる。
【0061】
そのため、このような特徴を持つ構造体は建築用防水材として、好適に使うことができる。
建築用防水材として用いた場合には、特に入隅や排水溝に用いられる。この部位では、その表面に土砂、塵埃、花粉などが堆積し易く、水の溜まり易い部分になり、マッドカーリングが発生し易いため、その効果をより発揮するものである。
【0062】
上記実施形態によれば、以下の効果も得ることができる。
この水性塗料に遮熱性顔料を用いることで、塗膜の温度が上がり難く、被塗布物であるアスファルトや鉱物系粒子の温度上昇を抑えることができ、それにより温度上昇によるアスファルトの動きやそれに付着された鉱物系粒子の動きを少なくすることができ、熱劣化も遅らせることができる。
【0063】
この水性塗料により形成される塗膜の厚みが、50~300μm、より好ましくは80~200μmの範囲で塗装対象部位に均一な塗膜を形成することにより、塗膜の亀裂などの発生が少なく、十分な防水性が期待できるものである。
その水性塗料により形成される塗膜のゼロスパンテンション伸び量が1~5mmの範囲であることにより、アスファルトに付着された鉱物系粒子の動きに十分に対応することができる。
【0064】
以下、上記記載の実施形態をより具体的に説明する。
水性塗料の配合例
合成樹脂エマルション(固形分40重量%) :57.0重量%
配合水 :15.0重量%
酸化チタン :15.0重量%
炭酸カルシウム : 4.0重量%
増粘剤(固形分20重量%) : 0.5重量%
界面活性剤等その他の成分(平均して固形分40重量%): 8.5重量%
【0065】
この配合例の水性塗料は、固形分が45.3重量%で、PVCが18.4容量%であった。この水性塗料にある合成樹脂は、水性塗料中に22.8重量%含まれているものであった。この水性塗料の色調は、白であった。
この界面活性剤等その他の成分には、消泡剤,分散剤,湿潤剤などとして用いられる界面活性剤が含まれ、その他の成分として造膜助剤,防凍剤としての高沸点溶剤と防腐剤が含まれているものであった。
【0066】
この水性塗料に用いられた合成樹脂エマルションには、アクリルシリコン樹脂,アクリル樹脂の二種類を用いて評価した。
このアクリルシリコン樹脂の中でも、分子量を15万,19万,23万に各々調整したものと、17万に調整したアクリル樹脂のものを用いた。合成樹脂エマルションに使われている合成樹脂のTgは、アクリルシリコン樹脂のものは、20℃,45℃であり、アクリル樹脂は、10℃であった。
【0067】
また、合成樹脂にビニルメトキシシランを0.5重量%添加したものも用意した。
この配合例により調整した塗料は、以下の6種類であった。
【0068】
(1)分子量が15万で、Tgが20℃のアクリルシリコン樹脂を用いた合成樹脂エマルションによる水性塗料。
(2)分子量が19万で、Tgが20℃のアクリルシリコン樹脂を用いた合成樹脂エマルションによる水性塗料。
(3)分子量が23万で、Tgが45℃のアクリルシリコン樹脂を用いた合成樹脂エマルションによる水性塗料。
(4)分子量が17万で、Tgが10℃のアクリル樹脂を用いた合成樹脂エマルションによる水性塗料。
(5)(2)の水性塗料に合成樹脂に対して、ビニルメトキシシランを0.5重量%添加した水性塗料。
(6)(4)の水性塗料に合成樹脂に対して、ビニルメトキシシランを0.5重量%添加した水性塗料。
【0069】
これらの水性塗料を建築物の屋上にある砂付アスファルトルーフィングの上に塗装した。この屋上には、段差による出隅や入隅及び排水溝もあり、これらの部位を6種類の水性塗料で、均等になるように塗分けた。
この塗装には、通常の塗装方法に用いられる塗装用ローラーで、中毛のウールローラーを使用した。塗装後は、自然乾燥により硬化乾燥させた。この水性塗料により形成される塗膜の厚みは、100~200μmの範囲であった。
【0070】
この砂付アスファルトルーフィングは、表側に平均粒子径が2.0~6.0mmの鉱物系粒子が散布接着されているもので、アスファルトには、改質アスファルトが用いられ、不織布が積層している一般的に市販されているものであった。この厚みは、5mmであった。
この状態で1年間放置した後に、それぞれ観察を行った。その結果では、程度は良い方だが、(3)の水性塗料を塗布した部分にマッドカーリング現象を確認することができた。
【0071】
また、(1)の水性塗料を塗装した部分にその兆候を観察することができた。他の水性塗料を塗布した部分では、特にその兆候を観察することができなかった。
砂や埃などの堆積の程度では、(4)が多く、(6)(1)(2)(5)の順で少なくなり、(3)が最も少ないことを確認することができた。
【0072】
また、これとは別に、水性塗料により形成された膜の伸び率、付着力の測定を行った。
伸び率の測定方法は、JIS A6909:2021 7.26伸び試験に記載の20℃の伸び試験方法により行い、膜厚が200μmの塗膜により、その測定を行った。
【0073】
この試験体は、水性塗料を離型紙に塗布し、23℃、65%RH条件下に2週間恒温槽で静置し、離型紙から剥がし、形を整え試験体とした。その結果は、(3)が最も伸び難く、その伸び率が100%であり、(4)(6)が400%であり、(1)(2)(5)が200%であった。
次に、これら水性塗料の付着力を測定した。この付着力は、JIS A6909:2021 7.10付着強さ試験の記載に準じて測定した。
【0074】
まず、アスファルトへの付着試験の試験体としては、モルタル板にアスファルトルーフィングを施工要領に沿って貼り付けたものを試験体とした。
鉱物系粒子への付着試験の試験体としては、砂付アスファルトルーフィングに接着している鉱物系粒子を掻き落とし、その鉱物系粒子を集めた。
【0075】
モルタル板にエポキシ系接着剤を塗布し、集めた鉱物系粒子を隙間ができるだけ少なくなるように塗布したエポキシ系接着剤の表面に敷き詰め、その接着剤が硬化したものを試験体とした。
これらの試験体に水性塗料を塗布して、23℃、65%RH条件下に2週間恒温槽で静置し、付着試験を行った。
【0076】
この付着試験の結果は、(3)の水性塗料以外は、アスファルトへの付着力が0.5~5.0N/mmの範囲内で、鉱物系粒子への付着力が0.5~5.0N/mmの範囲であった。
アスファルトへの付着力 鉱物系粒子への付着力
(1) 1.8N/mm 3.8N/mm
(2) 1.5N/mm 3.3N/mm
(3) 0.3N/mm 2.1N/mm
(4) 1.4N/mm 2.8N/mm
(5) 1.5N/mm 3.0N/mm
(6) 1.2N/mm 3.0N/mm
【0077】
この結果より、水性塗料のPVCが7.0~60容積%の範囲にある塗料で、その水性塗料により形成される塗膜の伸び率が100~500%の範囲で、アスファルトへの付着力が0.5~5.0N/mmの範囲で、砂への付着力が0.5~5.0N/mmの範囲である水性塗料を砂付アスファルトルーフィングなどのアスファルトルーフィングに塗装することで、マッドカーリング現象の発生を減少させることを確認できた。
【0078】
また、合成樹脂の分子量が17万~20万の範囲である水性塗料に、その合成樹脂に対して、0.5~1.0重量%のビニルメトキシシランを添加することで、付着性がより良好になり、その膜表面に土砂、塵埃、花粉などが堆積し難くなることも確認することもできた。
【0079】
この水性塗料の塗装にでは、鉱物系粒子による表面の凹凸や隙間にも対応することができ、塗装が行い易ものであった。