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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094066
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】静電誘導型振動素子
(51)【国際特許分類】
   H02N 1/08 20060101AFI20230628BHJP
   H04R 19/01 20060101ALI20230628BHJP
   H04R 19/00 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
H02N1/08
H04R19/01
H04R19/00 330
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209301
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(71)【出願人】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋口 原
(72)【発明者】
【氏名】芝田 泰
(72)【発明者】
【氏名】石黒 巧真
(72)【発明者】
【氏名】三屋 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】下村 典子
【テーマコード(参考)】
5D019
5D021
【Fターム(参考)】
5D019DD01
5D019FF01
5D021CC03
5D021CC08
(57)【要約】
【課題】櫛歯型電極間の接触を抑制し、外的な衝撃に強い静電誘導型振動素子を提供する
【解決手段】可撓性部材と、前記可撓性部材に絶縁された状態で一端側が固定され、前記可撓性部材から立設する複数の第1の櫛歯型電極と、前記可撓性部材に絶縁された状態で一端側が固定され、前記可撓性部材から前記第1の櫛歯型電極と間隔を隔てて立設する複数の第2の櫛歯型電極と、を有する静電誘導型振動素子であって、前記可撓性部材が振動する際に、前記第1の櫛歯型電極と前記第2の櫛歯型電極の他端側の間隔が変動する静電誘導型振動素子を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性部材と、
前記可撓性部材に絶縁された状態で一端側が固定され、前記可撓性部材から立設する複数の第1の櫛歯型電極と、
前記可撓性部材に絶縁された状態で一端側が固定され、前記可撓性部材から前記第1の櫛歯型電極と間隔を隔てて立設する複数の第2の櫛歯型電極と、
を有する静電誘導型振動素子であって、
前記可撓性部材が振動する際に、前記第1の櫛歯型電極と前記第2の櫛歯型電極の他端側の間隔が変動する静電誘導型振動素子。
【請求項2】
前記第1の櫛歯型電極および前記第2の櫛歯型電極の少なくともいずれか一方は表面近傍にエレクトレットが形成されている請求項1に記載の静電誘導型振動素子。
【請求項3】
前記可撓性部材は一端が固定された片持ち梁構造を有し、前記片持ち梁構造の自由端に錘が設置され、前記第1の櫛歯型電極と前記第2の櫛歯型電極は、前記可撓性部材の前記固定端と前記自由端との間の領域に設置される請求項1または2に記載の静電誘導型振動素子。
【請求項4】
前記第1の櫛歯型電極および前記第2の櫛歯型電極の延在方向は、前記可撓性部材の片持ち梁構造の梁中心軸に対して垂直な水平方向に設置される、請求項3に記載の静電誘導型振動素子。
【請求項5】
前記可撓性部材は一対であり、錘を中心に対称的に延伸し、端部がそれぞれ固定された両持ち梁構造を有し、前記第1の櫛歯型電極と前記第2の櫛歯型電極は、前記可撓性部材の前記固定端と前記錘との間のそれぞれの領域に設置される請求項1または2に記載の静電誘導型振動素子。
【請求項6】
前記第1の櫛歯型電極および前記第2の櫛歯型電極の延在方向は、前記可撓性部材の両持ち梁構造の梁中心軸に対して垂直な水平方向に設置される、請求項5に記載の静電誘導型振動素子。
【請求項7】
静電誘導型発電素子として用いられる、請求項1~6のいずれか一項に記載の静電誘導型振動素子。
【請求項8】
前記可撓性部材は膜部材から形成され、前記第1の櫛歯型電極と前記第2の櫛歯型電極は開口部を画定し、前記開口部を覆うように前記可撓性部材が設置される、請求項1または2に記載の静電誘導型振動素子。
【請求項9】
超音波振動子として用いられる、請求項8に記載の静電誘導型振動素子。
【請求項10】
請求項9に記載の静電誘導型振動素子を複数含む超音波側送受信装置であって、少なくとも一つの前記静電誘導型振動素子が超音波送信子として機能し、少なくとも一つの静電誘導型振動素子が超音波発信子として機能する、超音波送受信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電誘導型振動素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギーを印加して振動を発生、または振動エネルギーを電気信号または電気エネルギーに変換する振動素子は、マイクロフォンや超音波センサ、または振動発電の分野で利用されている(例えば、特許文献1および特許文献2等参照)。
【0003】
特許文献2に記載の静電誘導型振動素子は、対向する櫛歯型電極にエレクトレット、すなわち、誘電体に電圧を印加するなどして帯電を維持させた部材が用いられている。これらエレクトレット面の重なる面積が変化することで、櫛歯型電極間に働く静電力により力学的な仕事が静電エネルギーに変換され、起電力を発生することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-22576号公報
【特許文献2】特許第6682106号
【特許文献3】特開2013-78206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、一方で、櫛歯型電極の静電ギャップが、極めて小さく設定されていることから、外的な衝撃に対して、電極同士の貼り付きが生じてしまうおそれがあった。具体的には、静電誘導型振動素子の動作時において、外的な衝撃により、櫛歯間の静電ギャップに変動が生じ、櫛歯側面の静電引力のバランスが崩れると、変動が増長されることがあった。この状況下においては際、櫛歯型電極間でプルインが生じ、櫛歯同士が接触すると、電位差を持った電極間に瞬時に大電流が流れ、最悪の場合には、電極同士の融着による貼り付きが生じて復帰不能な状態となることがあった。(特許文献3等参照)。
【0006】
これらを鑑み、本発明は、櫛歯型電極間の接触を抑制し、外的な衝撃に強い静電誘導型振動素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る一実施態様の静電誘導型振動素子は、
可撓性部材と、
前記可撓性部材に絶縁された状態で一端側が固定され、前記可撓性部材から立設する複数の第1の櫛歯型電極と、
前記可撓性部材に絶縁された状態で一端側が固定され、前記可撓性部材から前記第1の櫛歯型電極と間隔を隔てて立設する複数の第2の櫛歯型電極と、
を有する静電誘導型振動素子であって、
前記可撓性部材が振動する際に、前記第1の櫛歯型電極と前記第2の櫛歯型電極の他端側の間隔が変動する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は櫛歯型電極間の接触を抑制し、外的な衝撃に強い静電誘導型振動素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1の実施形態に係る静電誘導型振動素子を示す上面図である。
図2】(a)図1の静電誘導型振動素子の静止時の断面図である。(b)図1の静電誘導型振動素子の撓んだ時の断面図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係る静電誘導型振動素子を示す上面図である。
図4】(a)図3の静電誘導型振動素子の静止時の断面図である。(b)図3の静電誘導型振動素子の撓んだ時の断面図である。
図5】本発明の第3の実施形態に係る静電誘導型振動素子を示す裏面斜視図である。
図6】(a)図5の静電誘導型振動素子の静止時の断面図である。(b)図5の静電誘導型振動素子の撓んだ時の断面図である。
図7】本発明の第3の実施形態の静電誘導型振動素子を用いた超音波送受信装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明するが、本発明はこれらに限られない。
【0011】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る静電誘導型振動素子100を示す上面図である。
【0012】
本発明の第1の実施形態において、静電誘導型振動素子100は、振動発電素子であり、可撓性部材10と、第1の櫛歯型電極20と、第2の櫛歯型電極30と、第1の端子40と、第2の端子50と、および錘60と、を備える。第1の櫛歯型電極20と第2の櫛歯型電極30はそれぞれ、間隔を隔てて交互に延出するように、可撓性部材10に絶縁された状態で設置される。以下、静電誘導型振動素子100の各構成を順に説明する。
【0013】
可撓性部材10は、一端が基部(図示せず)に固定された片持ち梁構造を有し、当該片持ち梁構造の自由端に錘60が配置される。この可撓性部材10は、外部からの振動により、撓みが生じる片持ち梁として機能する。なお、詳細は後述するが、可撓性部材10の固定端と自由端との間の領域に、第1の櫛歯型電極20と第2の櫛歯型電極30が設置される。
【0014】
図1に記載の実施形態において可撓性部材10は三角形状を有するが、これに限定されず、矩形状であってもよい。可撓性部材10は可撓性を有するものであれば、単一の部材により形成されたものであってもよく、また、複数の部材により形成されてもよい。例えば、図2(a)および図2(b)に記載の実施形態では、可撓性部材10はSOI基板ハンドル層10aにSiO2層10bが積層された構造となっている。
【0015】
第1の櫛歯型電極20および第2の櫛歯型電極30は、それぞれ間隔を隔てて交互に延出するように、可撓性部材10上に立設される。櫛歯型電極とは、図1ならびに図2(a)および図2(b)のように、複数の平面状電極を櫛歯のように並列配置した電極である。櫛歯の本数は任意の数であってよく、図1に示したものに限定されない。櫛歯の本数が最小である場合の櫛歯型電極は、第1の櫛歯型電極および第2の櫛歯型電極の一方の電極に2つの櫛歯が形成され、その2つの櫛歯の間に挿入されるように他方の電極に1つの櫛歯が形成されている。このような基本構成を有する櫛歯型電極であれば、櫛歯の本数に関わらず、以下に記載されるような機能を有する振動素子を構成することができる。
【0016】
第1の櫛歯型電極20および第2の櫛歯型電極30は、可撓性部材10に絶縁された状態で設置される。絶縁状態で設置するために、例えば、可撓性部材10の櫛歯型電極が立設される面を絶縁部材で作成してもよい。図2(a)および図2(b)に記載の実施形態では、SiO2層10bが絶縁性を有するため、それに接するように設けられた各櫛歯型電極は絶縁されている。また、各櫛歯型電極を可撓性部材10とは別途に作成し、絶縁性の接着剤等で可撓性部材10に張り付けてもよい。
【0017】
第1の櫛歯型電極20および第2の櫛歯型電極30の少なくともいずれか一方は、それぞれの対向面の表面近傍にエレクトレットが形成されている。これにより、第1の櫛歯型電極20および第2の櫛歯型電極30の少なくとも一方が帯電されることとなる。そのため、可撓性部材10が変形して第1の櫛歯型電極20と第2の櫛歯型電極30の間の距離が変動すると、櫛歯型電極間に静電誘導が生じ、発電を行うことができる。
【0018】
第1の櫛歯型電極20および第2の櫛歯型電極30は、可撓性部材10の固定端と自由端との間の領域に設置される。好ましくは、可撓性部材10の片持ち梁構造の曲げモーメントが大きい固定端近傍に設置される。これにより、振動素子が振動する際に、櫛歯型電極設置部分がより大きく変形し、櫛歯型電極間距離の変動が大きくなるため、より大きな電力を得ることができる。
【0019】
また、第1の櫛歯型電極20および第2の櫛歯型電極30の延在する方向は、可撓性部材10の片持ち梁構造の梁中心軸に対して垂直な水平方向(図1の左右方向)に設置されることが好ましい。これにより、櫛歯型電極間距離が櫛歯型電極設置部分の変形により大きく影響され、大きな変動を得ることができる。
【0020】
第1の端子40および第2の端子50は、第1の櫛歯型電極20および第2の櫛歯型電極30とそれぞれ電気的に接続される。第1の端子および第2の端子は、それぞれ外部回路(図示せず)へと接続され、静電誘導型振動素子100の振動により生じた電気エネルギーを外部回路へと供給する。
【0021】
錘60は、可撓性部材10の自由端に配置される。この錘60は可撓性部材10の変形を大きくし、これにより、静電誘導型振動素子100の振動が大きくなり、結果、より大きな出力電力を静電誘導型振動素子100から得ることができる。
【0022】
(振動発電素子の動作について)
図2(a)に示すように、静電誘導型振動素子100の静止時には、第1の櫛歯型電極20および第2の櫛歯型電極30の一端側が可撓性部材10に絶縁された状態で固定されている一方、第1の櫛歯型電極20および第2の櫛歯型電極30の自由端側である他端側は、互いに離間している。
【0023】
次に、図2(b)に示すように、静電誘導型振動素子100が取り付けられた構造体(不図示)の振動により、可撓性部材10が撓んだ時には、第1の櫛歯型電極20および第2の櫛歯型電極30の他端側の間隔が変動し発電が行われる。この際、第1の櫛歯型電極20および第2の櫛歯型電極30の一端側は可撓性部材10に固定されているため、電位差を持った電極同士が接触することを抑制することができる。さらに、仮に、可撓性部材10の上方への撓みが大きくなり、櫛歯型電極同士が接触し得る程度に接近した場合でも、接触面積は、従来技術の面接触と比べ、極めて小さい線接触となるため、電極同士の融着が生じること、つまり、貼り付きが生じることを抑制することができる。加えて、この線接触は継続するものではなく、次の瞬間に、可撓性部材10が下方へと撓むことにより、櫛歯型電極が互いに離れる方向に力がかかるため、電極同士の線接触は即座に解消される。以上より、第1の実施形態の静電誘導型振動素子100は、外的な衝撃に強い構成であるため、従来の課題を解消することができる。
【0024】
なお、本実施形態の静電誘導型振動素子100において、必須の構成ではないがストッパ(図示せず)を有してもよい。ストッパは、可撓性部材10の変形が櫛歯型電極同士が接触する程度まで大きくなることを抑制するためのものである。例えば、ストッパは、錘60の移動先に設置し、錘60の過剰な移動を抑止してもよい。
【0025】
<第2の実施形態>
図3は、本発明の第2の実施形態に係る静電誘導型振動素子200を示す上面図である。第2の実施形態に係る静電誘導型振動素子200は、錘60を中心に一対の可撓性部材10が対称的に延伸し、端部がそれぞれ基部(図示せず)に固定された両持ち梁構造を有する点で、第1の実施形態に係る静電誘導型振動素子100と相違するが、その他の基本構成は第1の実施形態と同一である。ここで、同一構成には同一符号を付し、重複する説明は省略する。第2の実施形態の場合、一対の可撓性部材10の固定端と錘60との間のそれぞれの領域に、第1の櫛歯型電極20と第2の櫛歯型電極30が設置される。第1の実施形態と同様、第1の櫛歯型電極20および第2の櫛歯型電極30の延在する方向は、可撓性部材10の両持ち梁構造の梁中心軸に対して垂直な水平方向(図3の左右方向)に設置されることが好ましい。これにより、櫛歯型電極間距離が櫛歯型電極設置部分の変形により大きく影響され、大きな変動を得ることができる。
【0026】
(振動発電素子の動作について)
第2の実施形態では、図4(a)に示すように、静電誘導型振動素子200の静止時には、第1の櫛歯型電極20および第2の櫛歯型電極30の一端側が可撓性部材10に絶縁された状態で固定されている一方、第1の櫛歯型電極20および第2の櫛歯型電極30の自由端側である他端側は、互いに離間している。
【0027】
次いで、図4(b)に示すように、静電誘導型振動素子200が取り付けられた構造体(不図示)の振動により、錘60が下方向に移動するように可撓性部材10が撓んだ時には、第1の櫛歯型電極20および第2の櫛歯型電極30の他端側の間隔が変動し発電が行われる。この際、第1の実施形態と同様、第1の櫛歯型電極20および第2の櫛歯型電極30の一端側は可撓性部材10に固定されているため、電位差を持った電極同士が接触することを抑制することができる。そのため、仮に、可撓性部材10の上方への撓みが大きくなり、櫛歯型電極同士が接触し得る程度に接近した場合でも、接触面積は、従来技術の面接触と比べ、極めて小さい線接触となるため、電極同士の融着が生じること、つまり、貼り付きが生じることを抑制することができる。加えて、第2の実施形態は両持ち梁構造を有するため、錘60の上下運動は特定の範囲内に規制され、可撓性部材10の過度の変形による櫛歯型電極間の接触が抑制される。以上より、第2の実施形態の静電誘導型振動素子200は、外的な衝撃に強い構成であるため、従来の課題を解消することができる。
【0028】
<第3の実施形態>
図5は、本発明の第3の実施形態に係る静電誘導型振動素子300を示す裏面斜視図である。第3の実施形態に係る静電誘導型振動素子300は、可撓性部材10’が膜部材からなる点、錘を有しない点、第1の櫛歯型電極20’及び第2の櫛歯型電極30’の配置関係、及び、超音波振動子として用いられる点で、第1の実施形態に係る静電誘導型振動素子100と相違するが、その他の基本構成は第1の実施形態と同一である。ここで、同一構成には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0029】
本発明の第3の実施形態において、静電誘導型振動素子300は、超音波振動子であり、可撓性部材10’と、第1の櫛歯型電極20’と、第2の櫛歯型電極30’と、第1の端子40と、および第2の端子50と、を備える。以下、静電誘導型振動素子300の各構成を順に説明する。
【0030】
可撓性部材10’は、外周が基部(図示せず)に固定された膜構造を有し、可撓性の膜部材から形成される。第1の櫛歯型電極20’および第2の櫛歯型電極30’が当該外周の内側に位置し、開口部70を画定する。詳細は後述するが、可撓性部材10’は、第1の櫛歯型電極20’、第2の櫛歯型電極30’および開口部70を覆うように、かつこれらの電極と絶縁された状態で設置される。
【0031】
第1の櫛歯型電極20’および第2の櫛歯型電極30’はそれぞれ、半径方向に間隔を隔てた状態で、交互に円周方向に延在するように設置される。第1の櫛歯型電極20’は第1の端子40と、第2の櫛歯型電極30’は第2の端子50とそれぞれ電気的に接続され、第1の端子40および第2の端子50は外部回路(図示せず)に電気的に接続される。外部回路は外部電源を備えてもよい。
【0032】
ここから、図6(a)および(b)を用いて、超音波振動子である静電誘導型振動素子300が、超音波受信機(センサ)(図7の300R参照)、及び、超音波発生器(図7の300T参照)として機能することを説明する。
【0033】
まず、静電誘導型振動素子300が、超音波受信機(センサ)300Rとして機能する場合について説明する。櫛歯型電極20’および30’は、それぞれの対向面の表面近傍にエレクトレットが形成されているか、または外部回路に備えられた外部電源から直流バイアス電圧が印加され、櫛歯型電極間に電位が生じている(図6(a))。
【0034】
次いで、膜状の可撓性部材10’が超音波を受信して振動すると、膜の固定端近傍、すなわち、櫛歯型電極の設置部分に曲げモーメントが発生して、図6(b)に示すように、櫛歯型電極間距離が広がる方向に変形する。その際に櫛歯型電極間に生じた静電誘導は、電気信号を発生させ、第1の端子40および第2の端子50から、静電誘導型振動素子300と接続する外部回路(図示せず)に送られる。
【0035】
次に、静電誘導型振動素子300が、超音波発生器300Tとして機能する場合について説明する。超音波発生器300Tの場合も、櫛歯型電極20’および30’は、それぞれの対向面の表面近傍にエレクトレットが形成されているか、または外部回路に備えられた外部電源から直流バイアス電圧が印加され、櫛歯型電極間に電位が生じている。
【0036】
そして、電位が生じている櫛歯型電極20’および30’に交流電圧を重畳させると櫛歯型電極間に印加周波数と同じ周波数で振動(線形振動)が生じ、その結果、膜状の可撓性部材10’が振動して超音波を発生させることができる。
【0037】
(超音波送受信装置の動作について)
図7は、本発明の第3の実施形態の静電誘導型振動素子300を複数組み合わせて作成した超音波送受信装置の模式図である。超音波発生器300Tは、電位差を有する櫛歯型電極間に交流電圧が印加され、超音波を発生する。次いで、もう一方の超音波受信機(センサ)300Rは、物体に当たって反射した超音波によって振動し、電気信号を発生させ、物体の存在を感知することができる。
【0038】
このように、本発明の第3の実施形態の静電誘導型振動素子300では、第1の実施形態と同様の効果(櫛歯同士の接触を抑制し、外的な衝撃に強い構成)を奏する。加えて、第3の実施形態の静電誘導型振動素子300では、同じ構成でありながら超音波発生装置としても、超音波受信装置としても利用することができるため、生産性の向上や低コスト化を行うことができるとの効果を奏する。
【0039】
以上説明した実施の形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0040】
(1)静電誘導型振動素子は、可撓性部材と、前記可撓性部材に絶縁された状態で一端側が固定され、前記可撓性部材から立設する複数の第1の櫛歯型電極と、前記可撓性部材に絶縁された状態で一端側が固定され、前記可撓性部材から前記第1の櫛歯型電極と間隔を隔てて立設する複数の第2の櫛歯型電極と、を有する静電誘導型振動素子であって、前記可撓性部材が振動する際に、前記第1の櫛歯型電極と前記第2の櫛歯型電極の他端側の間隔が変動する静電誘導型振動素子を備える。
【0041】
このように構成したので、静電誘導型振動素子は、櫛歯型電極間の接触を抑制し、外的な衝撃に強い静電誘導型振動素子を提供することができる。
【0042】
(2)第1の櫛歯型電極および第2の櫛歯型電極の少なくともいずれか一方は表面近傍にエレクトレットが形成されている。
【0043】
このように構成したので、第1の櫛歯型電極および第2の櫛歯型電極の少なくとも一方が帯電されることとなる。そのため、可撓性部材が変形して第1の櫛歯型電極と第2の櫛歯型電極の間の距離が変動すると、櫛歯型電極間に静電誘導が生じ、発電を行うことができる。
【0044】
(3)可撓性部材は一端が固定された片持ち梁構造を有し、前記片持ち梁構造の自由端に錘が設置され、前記第1の櫛歯型電極と前記第2の櫛歯型電極は、前記可撓性部材の前記固定端と前記自由端との間の領域に設置される。
【0045】
このように構成したので、錘が静電誘導型振動素子の振動を大きくし、それにより可撓性部材の変形が大きくなり、より大きな出力電力を得ることができる。
【0046】
(4)第1の櫛歯型電極および第2の櫛歯型電極の延在方向は、前記可撓性部材の片持ち梁構造の梁中心軸に対して垂直な水平方向に設置される。
【0047】
このように構成したので、櫛歯型電極間距離が櫛歯型電極設置部分の変形により大きく影響され、大きな変動を得ることができる。
【0048】
(5)前記可撓性部材は錘を中心に対称的に延伸し、端部がそれぞれ固定された両持ち梁構造を有し、前記第1の櫛歯型電極と前記第2の櫛歯型電極は前記可撓性部材の固定端と前記錘との間の領域に設置される。
【0049】
このように構成したので、錘の上下運動は特定の範囲内に規制され、可撓性部材の過度の変形による櫛歯型電極間の接触が抑制される。
【0050】
(6)第1の櫛歯型電極および第2の櫛歯型電極の延在方向は、前記可撓性部材の両持ち梁構造の梁中心軸に対して垂直な水平方向に設置される。
【0051】
このように構成したので、櫛歯型電極間距離が櫛歯型電極設置部分の変形により大きく影響され、大きな変動を得ることができる。
【0052】
(7)可撓性部材は膜部材から形成され、前記第1の櫛歯型電極と前記第2の櫛歯型電極は開口部を画定し、前記開口部を覆うように前記可撓性部材が設置される。
【0053】
このように構成したので、膜状の可撓性部材は超音波を受信して振動し、第1の櫛歯型電極および第2の櫛歯型電極間に静電誘導を生じ、電気信号を発生させ、超音波受信機(センサ)として機能でき、また反対に櫛歯型電極に交流電圧を印加し、振動を発生させ、膜状の可撓性部材から超音波を発生させる超音波発生器としても機能することができる。
【0054】
(8)超音波側送受信装置は、超音波振動子を複数含み、少なくとも1の前記超音波振動子が超音波送信子として機能し、少なくとも1の他の超音波振動子が超音波発信子として機能する。
【0055】
このように構成したので、同じ構成でありながら超音波発生装置としても、超音波受信装置としても利用することができ、生産性の向上や低コスト化を行うことができる。
【0056】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【0057】
また、上述の各実施の形態および変形例の一つもしくは複数を、適宜組合せてもよい。
【符号の説明】
【0058】
10、10’ 可撓性部材
20、20’ 第1の櫛歯型電極
30、30’ 第2の櫛歯型電極
40 第1の端子
50 第2の端子
60 錘
70 開口部
100、200、300 静電誘導型振動素子
300R 超音波受信機(センサ)
300T 超音波発生器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7