(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009408
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】PM型2相ステッピングモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 37/14 20060101AFI20230113BHJP
【FI】
H02K37/14 535Z
H02K37/14 535C
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112651
(22)【出願日】2021-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】593137554
【氏名又は名称】株式会社東京マイクロ
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(72)【発明者】
【氏名】川村 賢次
(57)【要約】
【課題】 『振動による音』を削減できる今までにない構造を備えたPM型2相ステッピングモータを提供する
【課題解決手段】 回転子20の重量を、モータ性能を維持しつつ、最大限の軽量化を行うとともに、モータのディテントトルクを大幅減とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PM型2相ステッピングモータの振動及び振動による騒音の削減方法であって、
回転子の重量を、モータ性能を維持しつつ、最大限の軽量化を行うとともに、
モータのディテントトルクを大幅減とした、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
PM型2相ステッピングモータのディテントトルクの削減方法であって、
ステータを下記の「疑似4相2階建て」構造とすることにより、モータ発生トルクを極力低下させずに、ディテントトルクを大幅に削減したことを特徴とする方法;
「疑似4相2階建て」の構造とは、PM型4相ステッピングモータのステータの4相分の極歯のうちから、半分の2相分の極歯を一部分ずつ抽出したものを合成して第1合成相を作成し、残りの半分の2相分の極歯を一部分ずつ抽出したものを合成して第2合成相を作成し、該2組の合成相を2階建てに配置した構造である。
【請求項3】
PM型2相ステッピングモータのディテントトルクの削減方法であって、
ステータを下記の「疑似8相2階建て」構造とすることにより、モータ発生トルクを極力低下させずに、ディテントトルクを大幅に削減したことを特徴とする方法;
「疑似8相2階建て」構造とは、PM型8相ステッピングモータのステータの8相分の極歯のうちから、半分の4相分の極歯を一部分ずつ抽出したものを合成して第1合成相を作成し、残りの半分の4相分の極歯を一部分ずつ抽出したものを合成して第2合成相を作成し、該2組の合成相を2階建てに配置した構造である。
【請求項4】
外周面に多極着磁された永久磁石(21)を有するロータ(20)と、
該ロータの外周域に配置されたコイル(15)、及び、複数の極歯(14)の形成されたステータ(11・13)、を有する相(10)と、
前記コイル(15)に励磁電流を送る駆動回路と、
を備えるPM型2相ステッピングモータ(1)であって、
前記ステータ(10)が、
第1相のコイル(15A)、及び、2相以上の分の極歯を一部分ずつ抽出して合成した第1合成相のA相(10A)と、
第2相のコイル(15B)、及び、他の2相以上の分の極歯を一部分ずつ抽出して合成した第2合成相のB相(10B)と、を有し、
前記駆動回路が、前記第1相のコイル(15A)に第1相の励磁電流を流し、前記第2相のコイル(15B)に第2相の励磁電流を流すように構成されていることを特徴とするPM型2相ステッピングモータ。
【請求項5】
外周面に多極着磁された永久磁石(21)を含むロータ(20)と、
該ロータの外周域に配置されたコイル(15)、及び、複数の極歯(14)の形成されたヨーク(11)を有する相(10)と、
前記コイル(15)に励磁電流を送る駆動回路と、
を備えるPM型ステッピングモータ(1)であって、
前記相(10)が4相であり、
前記駆動回路が、前記ステータの隣り合う2つの相に第1相の励磁電流を流し、前記ステータの隣り合う他の2つ相に第2相の励磁電流を流すように構成されていることを特徴とするPM型ステッピングモータ。
【請求項6】
PM型ステッピングモータの耐久性を向上させる方法であって、
a)モータ軸(3)の軸受摺動部(3m)の軸径を細くする、とともに、
b)軸受部に自動給油機構を設けたことを特徴とする方法。
【請求項7】
さらに、請求項1記載のモータの振動の低減方法も行うことを特徴とする請求項6記載のPM型ステッピングモータの耐久性を向上させる方法。
【請求項8】
回転子(マグネットロータ)の軽量化により、回転子のバランスを改善することで、振動を軽減し、その結果、騒音を軽減することを特徴とするPM型ステッピングモータの振動及び騒音の軽減方法。
【請求項9】
外周面に多極着磁された永久磁石製の円筒体(21)、及び、
該円筒体の内周部に配設された前記円筒体(21)を支える、前記永久磁石よりも比重が小さい物質からなるマグネットホルダー(23)、
を有するロータ(20)、
を備えることを特徴とするPM型ステッピングモータ(1)。
【請求項10】
ロータ軸の軸受摺動部を小径として周長を短くし、軸受部における軸周速を遅くすることにより、軸受の寿命が延ばしたことを特徴とするPM型ステッピングモータの耐久性の向上方法。
【請求項11】
外周面に多極着磁された永久磁石(21)を有するロータ(20)と、
該ロータを支持するモータ軸(3)と、
該モータ軸を回転自在に支持するすべり軸受(31)と、
を備えるPM型ステッピングモータ(1)であって、
前記モータ軸(3)の、前記軸受(31)と回転摺動する軸受摺動部(3m)の外径が、前記ロータ(20)を支持する嵌合支持部(3g)よりも細いことを特徴とするPM型ステッピングモータ(1)。
【請求項12】
外周面に多極着磁された永久磁石(21)を有するロータ(20)と、
該ロータを支持するモータ軸(3)と、
該モータ軸を回転自在に支持するすべり軸受(31)と、
を備えるPM型ステッピングモータ(1)の軸受給油方法であって、
軸受と別にグリス溜りの構造を設け、毛細管現象にて軸受に自動給油することを特徴とする方法。
【請求項13】
外周面に多極着磁された永久磁石(21)を有するロータ(20)と、
該ロータを支持するモータ軸(3)と、
該モータ軸を回転自在に支持するすべり軸受(31)と、
を備えるPM型ステッピングモータ(1)であって、
前記モータ軸(3)の、前記軸受(31)と回転摺動する軸受摺動部(3m)の軸方向反ロータ側端部、及び、前記すべり軸受(31)の軸方向反ロータ側端部、を覆うグリス保持用の軸受キャップ(33)をさらに備えることを特徴とするPM型ステッピングモータ(1)。
【請求項14】
前記軸受キャップ(33)のロータ側端面に、グリス溜めとなる内凹部(33b)が形成されていることを特徴とする請求項13記載のPM型ステッピングモータ(1)。
【請求項15】
前記内凹部(33b)に、前記モータ軸(3)の軸受摺動部(3m)の反ロータ側端部、及び、前記軸受(31)の反モータ側に突出するオーバーラップ部(31j)が入り込んでいることを特徴とする請求項14記載のPM型ステッピングモータ(1)。
【請求項16】
さらに、前記軸受キャップ(33)の前記内凹部(33b)の外縁に、前記軸受(31)の反モータ側端面に入り込むオーバーラップ部(33f)が形成されていることを特徴とする請求項15記載のPM型ステッピングモータ(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PM(Permanent Magnet)型2相ステッピングモータに関する。特には、低振動による低騒音、あるいは、高寿命な どの特長の一つ以上を有するPM型2相ステッピングモータに関する。より具体的には、高耐久性・高寿命の仕様が厳しい監視カメラなどの用途に好適なステッピングモータに関する。あるいは、録音機能を持っている製品用など、低騒音の要求が厳しい用途に好適なステッピングモータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セキュリティ対策として、世界的に、監視カメラが急速に普及(激増)している。監視カメラについては、高画質化や、拡大撮影の必要性に伴いズームやフォーカス機能の付いたレンズの要求が高まっている。さらに、広い監視範囲をカバーでき、なおかつ、鮮明に録画できる監視カメラが、一層求められている。
【0003】
そこで、監視カメラには従来用いられることがあまりなかった、DVC(Digital Video Cassette)などに使われている、光学的に高機能な鏡筒が、そのまま監視カメラに転用される場合も起きている。また、高画質や拡大撮影に対応するため、レンズの枚数も増え、鏡筒の重量も重くなっている。
【0004】
監視用のカメラは、通常の家電製品と異なり、設置されると連続運転にて、数年・数十年単位で使用される。また、設置される場所の環境は、鏡筒に装備されたモータにとって決して良い環境とは言えない。
【0005】
PM型2相ステッピングモータは、DVC用鏡筒に多用されている。
《 寿命面 》
ステッピングモータは、モータを分類すると、ブラシレスタイプに属し、また、性能的に、高速及び、高トルク対応が出来ない理由で、他のアクチェータより寿命は長い。
ブラシレスであるステッピングモータの寿命を決定するのは、軸受周りの部品である。よって、軸受として、耐久性の高いボールベアリングを使用すれば、モータの寿命を容易に伸ばすことができる。しかしながら、ステッピングモータは、構造的に部品点数が少なく、生産性も良いため、「コストが安い」ということで多用されている側面もある。したがって、ステッピングモータ用の軸受として、高価なボールベアリングは不向きである。
【0006】
ステッピングモータ用の軸受の寿命を長くする対策の一つとして、ステッピングモータの振動を低減して、軸受へのストレスを下げることが挙げられる。振動の低減は、騒音の低減にもつながる。振動・騒音の低減は、監視カメラ以外の用途(特に録音機能付き製品)のステッピングモータにおいても、重要なテーマである。
【0007】
ここで、ステッピングモータなどのアクチュエータから生じる振動/騒音について、説明する。
アクチェータから発生する騒音には、“放射ノイズ”と“振動による音”の2種類がある。“放射ノイズ”は、モータを宙に浮かした状態で発生する音である。“振動による音”は、直接、耳で聞こえる音ではなく、アクチュエータの振動が、鏡筒などの媒介物を震えさせて生じる音である。
【0008】
“放射ノイズ”は、摺動音(摺動部から発生する“スレ音”等)、異音(部材間のガタから発生する“メタル音”等)、風切り音、磁気音、電気音(“コイル鳴き”等)などを含む。“放射ノイズ”は、周波数帯域は広いが、アクチュエータそのものから発生している音である。“振動による音”は、アクチュエータそのものから直接には聞こえないが、共鳴部材を介して発生する音である。総合的に騒音の音量としてとらえた時、占める割合は、“振動による音”の方が大きい場合が多い。
【0009】
モータは、用途に応じて色々な種類はあるが、様々な用途・種類において、低騒音のニーズは高い。低騒音は、モータ選択・採用時における、最も大きなファクターの一つと言える。本発明は、PM型2相ステッピングモータの振動を削減し、『静かなモータ』を実現した。
【0010】
ステッピングモータは、その名のごとく、ステップ駆動する。そのため、回転に滑らかさは無く、不規則で振動が発生しやすいアクチェータと言える。「低振動が必要とされる製品にはステッピングモータは不向きである」と述べている文献もあるほどである。具体例でいえば、2相10極のステッピングモータの基本動作は、18°(360/20)毎のステップ動作である。このステップごとに、スタート→加速→減速→停止の動きが繰り返される。振動は、加速及び減速によって発生する。特に、急停止による“慣性力”=ma(m;質量、a;加速度)”が振動の原因である。
【0011】
しかしながら、ステッピングモータは、オープン制御ができ、センサー等の電気部品が不要でコストが安い。また、制御回路も簡単で、多様な動作指示信号への応答性に優れていて、操作性も良い。したがって、ステッピングモータは、市場性が高く、あらゆる分野で使われている。特に、DVC(Digital Video Cassette)やDSC(Digital Still Camera)、交換レンズなどのフォーカスやズーム用としてレンズの駆動に数多く採用されている。
【0012】
上記の様に、ステッピングモータは、振動が発生しやすく、鏡筒等を媒体とし発生する騒音は、振動の周波数により、色々な音に変化し発生する。よって、録音機能を持っている製品には不向きである。しかし、使い勝手が良いアクチェータなので、何とか使いこなすため、今まで、振動の低減による静音化は、ハード的及びソフト的な側面より対策を行われてきた。
【0013】
ちなみに、今まで行われた代表的な対策は、ハード面では、マグネットの形状や着磁の技術、ステータの形状や位相角などである。具体的には、マグネットのダンベル形状やステータの形状による適正な位相差などがある。特許文献1は、本願出願人による、ステッピングモータの振動低減技術の一例である。
【0014】
ソフト面では、分割数の細分化(矩形波を細分化してサイン波に近づける)など、駆動用ドライバーの開発、モータパワーの制御などがある。いずれも、ステップ駆動時のトルクムラを抑えることによる振動を低減する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、『振動による音』を削減できる今までにない構造を備えたPM型2相ステッピングモータを提供することを目的とする。また、長寿命なステッピングモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この「課題を解決するための手段」及び「特許請求の範囲」においては、添付図各部の参照符号を括弧書で示すことがあるが、これは単に参考のためであって、権利範囲を添付図のものに限定するものではない。
【0018】
本発明者は、PM型2相ステッピングモータの振動及び振動による騒音の削減に際し、以下の内容を行い、難題を解決した。
解決策1) 回転子の重量を、モータ性能を維持し、最大限の軽量を行った。
解決策2) ディテントトルクを大幅減(例えば半減以下)とした。
上記の対策は、同時に行う事で、効果が相乗効果となり技術的成果を拡大できた。
【0019】
上記の課題に対し、解決策を導き出す方法として、以下の項目に着眼した。
《ア》振動低減による低騒音化ついては
(ア1)回転子(マグネットロータ)の軽量化のよる重量アンバランスの低減
(ア2)ディテントトルクの低減による回転中のトルクムラの低減
《イ》寿命を延ばす方法としては
(イ1)上記アの振動低減により軸受ストレス下げて寿命延長
(イ2)ロータ軸の軸受摺動部を小径として軸受部における軸周速を遅くする
(イ3)自動的に軸受回りに油(グルス等)が供給される機構
以下、(ア1)→(イ2)→(イ3)→(ア2)順に説明する。
【0020】
(ア1)回転子の軽量化
振動の削減による低騒音化のため、回転子(マグネットロータ)のバランス(回転中の重量偏芯)の改善のためには、回転子のバランスは重量バランスが重要である。回転子のバランスの改善方法は二つある。一つ目は、回転子の軽量化である。二つ目は、機械的にバランスを取る方法(軸中心に対しアンバランスな部分に、ウェイト付け調整する。例えば、車のタイヤの回転バランスの調整など)である。後者は、ステッピングモータに適用するには、対象物(ワーク、回転子)が小さく、作業性が悪く、専用の機械や設備が必要となり、さらに工数的に、コストがかかる。そこで、前者の軽量化を採用した。
【0021】
PM型ステッピングモータのロータマグネットの材質は、多極着磁が必要で、かつ、なるべく高出力を得るため、ネオジウム磁石の等方性のものが使用されている(本願発明をネオジウム磁石のものに限定する意味ではない)。ロータマグネットの着磁の仕様は、表面着磁のため、ロータマグネットの形状は薄いリング形状(パイプ状)が可能となる。そこで、比重の軽い材料(樹脂など)と組み合わせることで、ロータの全体重量を下げることができる。この軽量化の効果として、アンバランスの低減が可能となる。さらに、慣性モーメントも小さくなり、起動性能や応答性能が向上する。詳細の構造や軽量化効果については、
図1、
図3を参照しつつ実施形態を説明する。
【0022】
本発明の第一のPM型ステッピングモータ(1)は、外周面に多極着磁された永久磁石製の円筒体(21)、及び、該円筒体の内周部に配設された前記円筒体(21)を支える、前記永久磁石よりも比重が小さい物質からなるマグネットホルダー(23)、を有するロータ(20)、を備えることを特徴とする。
【0023】
(イ2)ロータ軸の軸受摺動部を小径化
PM型ステッピングモータのロータ軸の軸受摺動部を小径として周長が短くし、軸受部における軸周速を遅くすることにより、軸受の寿命が延びる。あるいは、モータの起動性が良くなり、周波数特性の高速域が伸びることも期待できる。
【0024】
本発明の第二のPM型ステッピングモータ(1)は、 外周面に多極着磁された永久磁石(21)を有するロータ(20)と、 該ロータを支持するモータ軸(3)と、 該モータ軸を回転自在に支持するすべり軸受(31)と、 を備えるPM型ステッピングモータ(1)であって、 前記モータ軸(3)の、前記軸受(31)と回転摺動する軸受摺動部(3m)の外径が、前記ロータ(20)を支持する嵌合支持部(3g)よりも細いことを特徴とする。
【0025】
本発明の第二のPM型ステッピングモータ(1)の具体的な実施形態については、
図1・
図3を参照しつつ後述する。
【0026】
(イ3)軸受自動給油
軸受と別に『グリス(油)溜り』の構造があり、毛細管現象にて、『自動給油機構』を備えている。本発明の第三のPM型ステッピングモータ(1)は、 外周面に多極着磁された永久磁石(21)を有するロータ(20)と、 該ロータを支持するモータ軸(3)と、該モータ軸を回転自在に支持するすべり軸受(31)と、 を備えるPM型ステッピングモータ(1)であって、 前記モータ軸(3)の、前記軸受(31)と回転摺動する軸受摺動部(3m)の軸方向反ロータ側端部、及び、前記すべり軸受(31)の軸方向反ロータ側端部、を覆うグリス保持キャップ(33)をさらに備えることを特徴とする。
詳しくは、具体例の
図4を参照しつつ後述する。
【0027】
(ア2)ディテントトルク低減によるトルクムラ低減
ディテントトルクの削減にあたり、新構造『疑似4相(多相)構造』(下述)を発明し、ディテントトルクの半減に成功した。この新構造『疑似4相構造』は、トルクの構成要素が同じであるモータ発生トルクとディテントトルクに対し(下述)、「モータ発生トルクを極力維持しつつ、ディテントトルクを極力低減(例えば半減することもできる)と言う、従来の常識では「矛盾していてあり得ない効果」を達成することができるという、とんでもない解決手段となった。
【0028】
なぜコアドタイプのPM型ステッピングモータの振動にディテントトルクが影響を及ぼしているかについて考える。コアドタイプのモータは、電磁石側に、コイルと、コイルから発生する磁力を効率よく増幅する鉄などのコア(ヨーク、クローポールなど)から構成されている。“トルク”の観点から考えると、コアドタイプのモータには、永久磁石と電磁石の吸引と反発から発生するモータの発生トルク以外に、ディテントトルク(コッキングトルク)が必ず存在する。
【0029】
ディテントトルクは、無通電時のホールディングトルクで、単に、『永久磁石が金属を吸引する』特性であり、モータの性能(起動性、トルク等)に対し、必要な要素ではない。それどころか、起動性を悪化させ、高速域のトルクを下げるなどの悪影響を与える要素といえる。
【0030】
ディテントトルクの力の要素は、1)ステータの表面積、2)マグネットの磁力、3)エアーギャップである。この3要素は、モータの発生トルクと同じであるので、モータトルクとディテントトルクは、比例関係である。つまり、『モータトルクを維持し、ディテントトルクを下げる』ことには、矛盾が生じる。そこで、この矛盾を解決するため、本発明者は、新構造を開発し、ディテントトルクの削減に成功し、目論見通りに、振動を低減できた。
【0031】
その内容は、機械的(ステータの配列)には『4相』、電気的(配線)には、『2相』とした場合、モータの発生トルクの“要素1)ステータの面積”は、ほぼ同じとなり、ディテントトルクの強さを決めるステータの面積は半減する。つまり、『4相』にする事により、ディテントトルクに関与する面積を分断し、半分にする。
したがって、上記の矛盾が解消される。本発明は、今までにない新構造を駆使して対策を行い、実現できた。よって、『次世代のアクチェータ』と呼んでも過言ではない。さらに、振動や騒音以外の性能改善に好影響をもたらし、軸受ストレスを下げてモータ寿命改善にも効果を及ぼした。
【0032】
この次世代のアクチェータを『疑似4相(多数相)構造』と名付けた。この構造は、ディテントトルクを削減し(理論的に、4相では半減、6相では1/3、8相では1/4となる)、回転中のトルクリップルを分散し、振動の削減に成功した。さらに、2相内に何相分のステータを入れ込むかで、『疑似N相』となる。ポイントの一つは、モータの相数は、『2相』と言うことである。基本は、PM型2相ステッピングモータである(この2相が現在のPM型ステッピングモータ産業の置かれた状況下では重要である)。2相でありながら4相のステータがレーアウトされているため、『疑似4相』となる。
【0033】
上記『2相』とは、通常、向かい合うステータ(クローポール、くし歯状の磁極が2列向き合ったもの)とコイルのセットで形成している相の数が2つという意味である。2つの相の各々は、一定のズレ角にて構成されている。この一定のズレ角は、マグネットの極数と相数で決まる。例えば、10極着磁で、2相の場合は、ステータの総数は、20枚で、
ズレ角は、18°(360°/20)で、4相の場合は、ステータの総数が40枚なので、ズレ角は
9°(360°/40)となる。
【0034】
モータ中心部にある多極着磁されたマグネットを回転させるため、この2相のコイルに交番電流が入力される。この交番電流の信号パターンを“ステータス”という。ここでいう『2相』は、電磁石の相数及び入力信号(ステータス)は、単に従来と同様の2相であるが、この各相のステータ(クローポール)に細工(後述)を施して、2相を超える多数相(例えば4相)を形成する。この細工のことを、『疑似多数相』構造という。『2相』の意味合いや、『疑似多数相』構造については、後述する実施形態では、「疑似4相」及び「疑似8相」を具体的に説明する。
【0035】
なお、極数10の場合、2相は、360°÷(2×10)=18°の位相ズレで2セットとなる。4相は、360°÷(4×10)=9°ズレで4セットとなる。8相は、360°÷(8×10)=4.5°ズレで8セットとなる。上記のカッコ内は、(相数X極数)である。
【0036】
ただし、本発明の技術的思想の範囲、すなわち本発明の新規な技術思想の範囲、産業上適用可能で意義のある範囲、本発明の特許権者が「業として特許発明の実施をする権利を専有する」範囲は、『2相』や『疑似4相構造』に限定されるものではなく、『2以外のN相』や『疑似多相(前記Nよりも多い)構造』にも及ぶものである。
【0037】
モータ内部のスペースが同じ(同径、同全長)という条件下、《極数》、《相数》、《ディテントの振幅回数》、《ディテントの強さ》の関係は、以下の様になる。
《極数》 × 《相数》 = 《ディテントの振幅回数》 = ステップ数(2相励磁)
《ディテントの振幅回数》 × 《ディテントの強さ》 = 《一定》
上記の関係は、ディテントトルクの力の要素“ステータの表面積”から導き出せる。
【0038】
《極数》が一定の場合、《相数》と《ディテントの振幅回数》は比例であり、同スペースにて、相数を増やした場合、1相あたりのステータの表面積は、反比例する。同時に、《ディテントの強さ》についても同様である。したがって、《ディテントの振幅回数》と《ディテントの強さ》の積は、一定となる。今回の発明は、この関係を利用した。
【0039】
具体例として、同じサイズ(同径、同全長)の2相と4相の場合、ディテントトルクの振幅回数は以下である。
2相;10(極) × 2(相) = 20(回)
4相;10(極) × 4(相) = 40(回)
《ディテント振幅;20》 × 《ディテントの強さF1》 = 《ディテント振幅;40》 × 《ディテントの強さF2》
ゆえに、 F1 = 1/2・F2 となる。
つまり、4相は、2相に比べ、ディテントトルクの振幅回数は2倍で、トルクの絶対値は半分となる。具体例については、発明の実施の形態において、図を参照しつつ詳しく説明する。
【0040】
本発明の第四のPM型2相ステッピングモータ(1)は、 外周面に多極着磁された永久磁石(21)を有するロータ(20)と、 該ロータの外周域に配置された空芯コイル(15)、及び、複数の極歯(14)の形成されたステータ(12)と、それを囲うヨーク(11)、を有する相(10)と、 前記コイル(15)に励磁電流を送る駆動回路と、 を備えるPM型ステッピングモータ(1)であって、 前記相(10)が、 第1相のコイル(15A)、及び、2相以上の分の極歯を一部分ずつ抽出して合成した第1合成相のA相(10A)と、 第2相のコイル(15B)、及び、他の2相以上の分の極歯を一部分ずつ抽出して合成した第2合成相のB相(10B)と、を有し、 前記駆動回路が、前記第1相のコイル(15A)に第1相の励磁電流を流し、前記第2相のコイル(15B)に第2相の励磁電流を流すように構成されていることを特徴とする。
【0041】
上記第4のPM型2相ステッピングモータの技術思想は、相数N(Nは2以上で偶数)のPM型ステッピングモータにおいて、M相分(Mは2以上で偶数)の極歯を一部分ずつ抜き出して合成したN個の合成ステータを有するPM型ステッピングモータに拡張できる。
【0042】
M相分(Mは2以上で偶数)の極歯(14)を一部分ずつ抽出して(抜き出して)合成する極歯レイアウトにおいては、以下の考慮を行うことが好ましい。
(あ)M相の各相から均等な割合で極歯を抽出する。
(い)磁気バランスに注意する;マグネットを囲むステータについて、対岸に同じ相
のステータを配置すれば、磁気バランスがとれる。
(う)効率の良いスペース配分に注意する;1相内に、2相以上のステータを入れる場合、デッドスペース(歯抜けスペース)ができるが、この歯抜けスペースを、片寄らない様に、ステータのレーアウトを行う。
【0043】
本発明の他のステッピングモータは、 外周面に多極着磁された永久磁石(21)を含むロータ(20)と、 該ロータの外周域に配置されたコイル(15)、及び、複数の極歯(14)の形成されたステータ(12)とそれを囲うヨーク(11)を有する相(10)と、 前記コイル(15)に励磁電流を送る駆動回路と、 を備えるPM型ステッピングモータ(1)であって、 前記、相(10)が4相であり、 前記駆動回路が、前記コイルの隣り合う2つの相に第1相の励磁電流を流し、前記コイルの隣り合う他の2つ相に第2相の励磁電流を流すように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0044】
本発明は、『振動による音』を削減できる今までにない構造を備えたPM型2相ステッピングモータを提供することができる。また、長寿命なステッピングモータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】実施形態のPM型ステッピングモータ1の全体構造を示す断面図である。
【
図2】
図1のPM型ステッピングモータ1の固定子や軸受31の構成概要を示す分解斜視図である。
【
図3】(A)は、
図1のPM型ステッピングモータのロータ20及びモータ軸3を拡大して示す断面図である。(B)は、従来のPM型ステッピングモータの回転子磁石121及びモータ軸103を拡大して示す断面図である。
【
図4】
図1のPM型ステッピングモータの軸受33の周辺を拡大して示す断面図である。
【
図5】発明の前提(背景技術)の説明として、2相PM型ステッピングモータのステータと4相ステータにおける一般的な極歯配置を示す図である。
図5(A)は2相ステータの場合、
図5(B)は4相ステータの場合である。
【
図6】
図6(A)は、
図5のPM型2相ステッピングモータの逆起電圧の波形と、黒塗星印は、ディテントトルクの発生ポイント(最大値)と相対的な強さ(トルク強さ要素1)のステータの最大面積を示す代用値)を表す図である。
図6(B)は、停止位置(各ステータス≪1≫~≪8≫)に於ける励磁状況を表す。
【
図7】
図7(A)は、
図5のPM型4相ステッピングモータの逆起電圧の波形と、黒塗星印は、ディテントトルクの発生ポイント(最大値)と相対的な強さ(トルク強さ要素1)のステータの最大面積を示す代用値)を表す図である。
図7(B)は、停止位置(各ステータス≪1≫~≪8≫)に於ける励磁状況を表す。ここで、分かる様に、黒塗星印は、2相時に対し、面積が半分となる為、相対的な強さが半分となり、回数が倍となる。
【
図8】疑似4相2階建てのPM型ステッピングモータの極歯の構成、及び、その構成手法の例を説明するための図である。(A)は4相分のステータヨークの極歯配列の展開図である。(B)は元々2相分の極歯を選択的に抜き出して一つの合成相とし、その合成相を2階建てにした極歯配置の展開図である。
【
図9】各々の相から発生した逆起電圧(面積が40%なので、出力も40%となる。);点線と合成された逆起電圧(実際に、出力される値、
図8(B)の逆起電圧)及び、2相時の基本出力の波形と、黒塗星印は、ディテントトルクの発生ポイント(最大値)と相対的な強さ(トルク強さ要素1)のステータの最大面積を示す代用値)を表す図である。ディテントトルクの強さも、40%となる。
【
図10】疑似8相2階建てのPM型ステッピングモータの極歯の構成、及び、その構成手法の例を説明するための図である。(A)は8相分の極歯配列の展開図である。(B)は元々4相分の極歯を選択的に抜き出して一つの合成相とし、その合成相を2階建てにした極歯配置の展開図である。
【
図11】各々の相から発生した逆起電圧(面積が20%なので、出力も20%となる。);点線と合成された逆起電圧(実際に、出力される値、
図10(B)の逆起電圧)及び、2相時の基本出力の波形と、黒塗星印は、ディテントトルクの発生ポイント(最大値)と相対的な強さ(トルク強さ要素1)のステータの最大面積を示す代用値)を表す図である。ディテントトルクの強さも、20%となる。
【
図12】本発明に係るモータ(実施例)と現行モータ(比較例)における、モータの速度別の自起動電圧検証結果を表すグラフである。
【
図13】本発明に係るモータ(実施例)と現行モータ(比較例)における、ディテントトルクの比較をまとめた表である。
【
図14】本発明の実施形態に係るモータ(「開発モータ」)における振動低減効果を示すグラフである。(駆動条件;矩形波4分割、3V)。
【
図15】本発明の実施形態に係るモータ(「開発モータ」)における振動低減効果を示すグラフである。(駆動条件;Sin波64分割、3V)。
【符号の説明】
【0046】
1;PM型(2相)ステッピングモータ
3;モータ軸、3b;送りねじ部、3g;ロータ嵌合支持部、3m;軸受摺動部
10;相(固定子)、10A;A相(第1の合成相)、10B;B相(第2の合成相)
11;外周ヨーク、11A;A相外周ヨーク、11B;B相外周ヨーク、
12;ステータ、12AR;A相左側ステータ、12AL;A相右側ステータ、
12BL;B相左側ステータ
14;極歯(クローポール)
15;コイル
20;ロータ(回転子)
21;永久磁石製の円筒体(ロータ磁石)、21c;内周面、21f;端面
23;マグネットホルダー、23b;内孔、23g;厚肉円筒部、23m;外周面、23r;外凸部
23v;段部、23w;外周面
31;すべり軸受、31b;内径部、31f;軸受部、31j;オーバーラップ部
31s;外筒部、31t;内周、31v;軸端延出部、31w;外周部、31z;外端部
33;グリス保持キャップ、33b;内凹部、33f;オーバーラップ部、33m;右側面
37;板バネ
【発明を実施するための形態】
【0047】
まず、
図1及び
図2を参照しつつ、実施形態のPM型2相ステッピングモータ1の全体構成を説明する。
図1・2における矢印の左右・上下・奥手前の角方向は、図を見た者の感得する方向である。なお、左は、モータ軸3が延び出す方向であり、右はモータ軸端を支える軸受31のある方向である。
【0048】
PM2相型ステッピングモータ1は、回転子(ロータ)20と、同回転子の外周域に配置された固定子10を備える。
回転子20は、外周面にN極とS極が交互に多極着磁された永久磁石製の円筒体(ロータ磁石)21、及び、該円筒体の内周部に配設されたマグネットホルダー23を有し、モータ軸3とともに回転自在に支持されている。
【0049】
この実施形態のロータ磁石21は、左右に2個(2相)配置されている。各ロータ磁石21A・21Bの磁極の数は、N極が5極とS極が5極の10極であり、隣接する磁極のピッチ角度は、360÷10=36°である。左右に配置された2個は、左右直線状同一に位置する。
【0050】
マグネットホルダー23は、モータ軸3のロータ嵌合保持部3gに嵌合保持されている。モータ軸3は、左端部の軸受摺動部3mにおいて、すべり軸受け31に回転自在に支持されている。モータ軸3の左端部も、図示されてはいないが、軸受に支持されている。本実施形態のマグネットホルダー23の具体的な形状材質や軽量化結果、並びに、本実施形態のモータ軸3の特徴については、
図3を参照しつつ後述する。本実施形態のすべり軸受け31の特徴(自動給油機構)については、
図4を参照しつつ後述する。
【0051】
PM型2相ステッピングモータ1の固定子10は、ロータ磁石21の磁極と同数の極歯(クローポール)14を有する2相10A・10Bと、該ステータの磁極を磁化する2相の空芯コイル15A・15B(
図2には図示されず)を有する。
【0052】
空芯コイル15は、A相のコイル15AとB相のコイル15Bの2組が、モータ軸方向に並んで配置されている。
【0053】
モータ軸方向に並んだA相10A、及び、B相10Bを有する。各相は、A相10Aの符号で表せば、外周ヨーク11A、並びに、極歯14付きの左側ステータ12AR、及び、右ステータ12AL、を有する。極歯14は、ロータ磁石21の外周域に隙間をおいて円筒面を形成するように、交互に左右方向に張り出している。極歯14の配置は、ディテントトルク低減を一つの目的とする本願発明の重要事項であり、
図5・
図8・
図10を参照しつつ後述する。
【0054】
マグネットホルダー23の具体的形状について
図3(A)を参照しつつ説明する。マグネットホルダー23は、全体として厚肉円筒状のものである。同ホルダー23をモータ軸方向(左右方向)に沿う断面で見ると、凸状であり、厚肉円筒部23gの外側に外凸部23rが突き出ている。
【0055】
厚肉円筒部23gには、左右方向に延びる内孔23bが形成されている。同内孔23bには、モータ軸3のロータ嵌合支持部3gが、貫通するように嵌合し、接着または、圧入等で、固定されている。マグネットホルダー23の厚肉円筒部23gの外周面23mには、ロータ磁石21の内周面21cが嵌合固定されている。厚肉円筒部23gの外周面23mの幅は、ロータ磁石21の内周面21cの幅よりもかなり狭い。これにより、ロータ磁石21の内凹部に軸受31のかなりの部分を収容して、モータの軸方向長さを短くすることができる。
【0056】
外凸部23rは、厚肉円筒部23gの外周面23mの左右方向中央部に張り出している。外凸部23rの左右の段部23vには、ロータ磁石21の端面21fが当接している。外凸部23rの外周面23wは、ロータ磁石21の外周面より、小径である。外凸部23rの軸方向の幅Wは、
1相内のステータの位置関係より決まる寸法である。つまり、相内のセンターから、1相当たりのマグネット全長が決まり、モータ全長から、マグネット全長が決まり、
W=(マグネット全長)-(1相のマグネット全長)x2となる。
【0057】
従来のロータ磁石121は、
図3(B)に示すように、ネオジウム磁石の一体成型品である。本実施形態の一例のロータと、従来の一例のロータの重量などの比較(設計計算値)は以下のとおりである。なお、ロータの外径はφ4.4mm、長さは5.0mmで同じである。
従来例の材質;ネオジウム磁石(比重5.3)
実施例の材質;ネオジウム磁石(比重5.3)+POM(比重1.4)
従来例の質量;ネオジウム磁石0.299g
実施例の質量;ネオジウム磁石0.064gx2+POM0.037g=0.214g
従来例の慣性モーメント;0.850g-mm
2
実施例の慣性モーメント;0.734g-mm
2
このように、ロータの質量は、およそ28%及び慣性モーメントは、およそ15%、
低減できた。
【0058】
次に、
図3及び
図1を参照しつつ、「ロータ軸の軸受摺動部の小径化」について説明する。本実施形態のモータ軸3は、図の左から右に、送りねじ部3b、ロータ嵌合支持部3g、軸受摺動部3mからなる。それらの部分の太さの一例は、送りねじ部3bがM2mm、ロータ嵌合支持部3gが1mm、軸受摺動部3mが0.6mmである。尚、シャフト径は、強度、加工、客先の仕様などにより決まる。
【0059】
すなわち、軸受31と回転摺動する軸受摺動部3mの外径が、ロータ20を支持する嵌合支持部3gよりも細い。PM型ステッピングモータのロータ軸の軸受摺動部を小径として周長を短くし、軸受部における軸周速を遅くしている。これにより、軸受の寿命が延びる。あるいは、軸受部の軸周速低下によるヒステリシスが低下し、モータの起動性が良くなり、周波数特性の高速域が伸びることも期待できる。
【0060】
次に、
図4を参照しつつ、「軸受自動給油」について説明する。この実施形態のPM型2相ステッピングモータにおいては、モータ軸3の軸受摺動部3m、及び、すべり軸受31の軸方向反ロータ側端部、を覆うグリス保持キャップ33を備える。そして、グリス保持キャップ33内には、『グリス(油)溜り』の構造があり、毛細管現象などにて、『自動給油する機構』を備えている。なお、具体的な一例として、従来の部品構成は、モータ軸と軸受の後部は、板バネ37でモータ軸3をスラスト方向に押さえ、グリスは、モータ軸と軸受間に塗布される。
【0061】
今回の発明の自動給油構造は、軸受の後部にグリスだまりの部品があり、そのグリスだまりの部品には、多めのグリス入っている。多めのグリスは、常時、軸受とモータ軸間にあり、10μ以下(発明の技術的範囲をこれに限定するものではない)のクリアランスは、毛細管現象を引き起こし、摺動部に、油膜を供給し耐久性を向上する。また、潤滑効果により、摩擦抵抗が低下し、起動特性や応答特性が向上する。
【0062】
軸受31は、低摩擦係数の樹脂製(例えば、摺動グレードの液晶ポリマー等)の、全体として孔開き円盤(ブッシュ)の部材である。大きく分けて、内周側かつ左側の軸受部31fと、外周側かつ右側の外周部31wからなる。軸受部31fは比較的に軸方向に分厚く、その内径部31bが、モータ軸3の軸受摺動部3mの外周面に嵌合する摺動面となっている。
【0063】
軸受部31fの右側には、後述する軸受キャップ33の左側面に形成されている内凹部33bに入り込む(オーバーラップする)オーバーラップ部31jが、突出形成されている。オーバーラップ部31jの内径は、モータ軸3の軸受摺動部3mの外周に対して、少し隙間がある。また、オーバーラップ部31jの外径は、軸受31の軸端延出部31vの内周に対して、少し隙間がある。これらの軸受キャップ33の内凹部33b、及び、軸受31のオーバーラップ部31jの表面にグリスが溜められている。
【0064】
軸受部31fの外側は、外筒部31sから軸端突出部31v、外周部31wへと、右側・外側につながっている。外筒部31sは、ロータ磁石21Bの内周域に存在する。軸端突出部31vの内周31tには、軸受キャップ33のオーバーラップ部33fが嵌まり込んでいる。外周部31wの最も外周部の外端部31zは、B相左側ヨーク12BLの右側面に寄り添っている。外端部31zの右側面は、板バネ37(
図2参照)の左側に寄り添っている。
【0065】
軸受キャップ33は、全体として、円盤状の部材である。軸受キャップ33の左側の端面には、右側に窪んだ内凹部33bが形成されている。内凹部33bの中心部には、モータ軸3の軸受摺動部3mの端面が当たっている。内凹部33bには、上述の軸受31のオーバーラップ部31jが入り込んでいる。同内凹部33bは、グリス溜まりとなっている。
【0066】
軸受キャップ33の右側面33mは、やや左側に湾曲した凹面となっている。この右側面33mには、その右側から板バネ37が当たっている。この板バネ37が、軸受キャップ33を介してモータ軸3を軸方向(スラスト方向)に押さえている。
【0067】
次に、極歯(クローポール)の配置の工夫によるディテントトルクの低減について説明する。
まず、発明の前提(背景技術)の説明として、2相ステータと4相ステータにおける一般的な極歯配置について、
図5を参照しつつ説明する。
図5は、ステータヨークが同径・同全長(L1=L3、L2=L4)という条件下における、極歯配置の展開図であり、
図5(A)は2相ステータの場合、
図5(B)は4相ステータの場合である。
図5においては、左右方向が円周方向であり、上下方向がモータの軸方向である。
【0068】
図5に示すステータの各相は、略二等辺三角形状の、交互に軸方向にかみ合う歯のような極歯14を有する。
図5(A)においては、2相ステータはA相とB相から構成されている。なお、(ステータは、フランジ付きの部品に極歯が立っている。
【0069】
図5(A)のA相のステータにおいては、側ヨーク12ARから図の下方に突出する極歯a1・a2・a3・a4・a5、及び、側ヨーク12ALから図の上方に突出する極歯a’1・a’2・a’3・a’4・a’5が示されている。同様に、B相ヨークにおいては、側ヨーク12BRから図の下方に突出する極歯b1・b2・b3・b4・b5、及び、側ヨーク12ALから図の上方に突出する極歯b’1・b’2・b’3・b’4・b’5が示されている。
【0070】
図5(A)の2相の各ステータは10極である。各相の極歯ピッチは、360°÷10=36°である。A相とB相とのズレは、36°÷2=18°である。すなわち、
図5(A)の2相のステータレーアウトで、機械角;18°、電気角;90°で位相を形成している。機械角は、単に、A/B相のズレ角(360÷10(極)÷2(相数))であり、電気角は、1サイクル360°に対し、機械角72°、つまり、機械角の5倍である。2相の場合、A/B相の関係は、Sin/Cosとなる。
【0071】
図5(B)においては、4相ステータはA相、B相、C相及びD相から構成されている。A相には、極歯a1~5、及び、a’1~5が示されている。B相には、極歯b1~5、及び、b’1~5が示されている。C相には、極歯c1~5、及び、c’1~5が示されている。D相には、極歯d1~5、及び、d’1~5が示されている。
【0072】
図5(B)の4相の各ステータは10極である。各相の極歯ピッチは、360°÷10=36°である。隣り合う各相とのズレは、36°÷4=9°である。すなわち、
図5(B)の4相のステータレーアウトで、機械角は9°、電気角は機械角の5倍の45°である。4相の場合も、相内は、2相と同じで、10極の極歯と10極に着磁されたマグネットが、2相の半分の9°ズレにレーアウトされている。つまり、Sin/Cosの関係は、1相飛ばした、A/C相、B/D相となっている。
【0073】
基本的には、駆動回路は、その相数の専用である。今回は、4相を、2相ずつ繋いで、ダミーの2相にしているから、2相の回路が使える訳である。
【0074】
ここで、4相のA/B相、C/D相を連結させ(各2相のコイルを直列または、並列でつなぐ)、2相で駆動させた場合、分解能も出力トルクも、2相と同じとなる。逆起電圧は、A/B相の合成出力とC/D相の合成出力となり、Sin/Cosの90°ズレとなる。また、停止位置(ステータス)は、合成後、2相と同じになる。ディテントトルクは、合成される前の出力波形(点線)で、ピークは、合成後のピーク(モータトルクの出力)に対し、左右22.5°に分散され、トルクは半減されるが、リップルの回数は倍となる。モータの発生トルク的には、2相のA相と4相のA/B相(2相のB相と4相のC/D相)のステータのトータル面積が、ほぼ同じなので変わらない。この時、4相は、モータ出力トルク的な面は、A/B相の足し算となるが、ディテントトルク的な面積は、半分の1相の面積となる。つまり、2相時の1相(A相またはB相)を2つの相に分割し、4相を形成した。
【0075】
次の点が、疑似4相構造のPM型ステッピングモータにおけるディテントトルクを低減する本発明の重要な特徴である。すなわち、機械的には、4相(単に、ステータのレーアウト;ズレ角)であるが、モータ性能(電気特性)は、2相であり、モータのトルク及び分解能は、同じだが、ディテントトルクは、半減する。つまり、『疑似(偽物)4相』となる。
【0076】
次に逆起電圧(鎖交磁束)の波形と停止位置、ディテントトルクの最大ポイントより、考察してみる。なお、「逆起電圧」とは、モータの軸・ロータを外部より回転させると、発電機の原理によって交流波の電圧がコイルから発生する電圧のことである。
【0077】
図6(A)は、
図5のPM型2相ステッピングモータの逆起電圧の波形と、黒塗星印は、ディテントトルクの発生ポイント(最大値)と相対的な強さ(トルク強さ要素1)のステータの最大面積を示す代用値)を表す図である。
図6(B)は、停止位置(各ステータス≪1≫~≪8≫)に於ける励磁状況を表す。
【0078】
電気角0°~360°は逆起電圧の一周期であり、機械角0°~72°は、一周期分の逆起電圧が発生する間に回転するモータ軸・ロータの角度である。サインカーブ状の波形が二つあるのは、各相(A相・B相)の逆起電圧である。図中の≪1≫~≪8≫(図中では実際は丸付き数字)は、停止位置(スータス)である。
【0079】
図6(B)は、停止位置(ステータス)で、その時の励磁状態を表す表である。表中のA相ステータス≪1≫における「H/L」の意味は、端子を固定した場合の電位差を示す。「H」は「+」であり、「L」は「-」である。つまり、端子1に+、端子2に-を印加、また、「L/H」は、端子1に-、端子2に+を印加する事である。表中のB相ステータス≪1≫における「L/L」の意味は、無通電である。
【0080】
図6中のサインカーブの各々は、各相の逆起電圧である。二つの逆起電圧の関係は、Sin/Cosと同じ、90°同じである。
【0081】
図7(A)は、
図5のPM型4相ステッピングモータの逆起電圧の波形と、黒塗り星印は、ディテントトルクの発生ポイント(最大値)と相対的な強さ(トルク強さ要素1)のステータの最大面積を示す代用値)を表す図である。
【0082】
図7(B)は、停止位置(各ステータス≪1≫~≪8≫)に於ける励磁状況を表す。ここで、分かる様に、黒塗り星印は、2相時に対し、面積が半分となる為、相対的な強さが半分となるが、回数が倍となる。
【0083】
表中のA1やA2、B1,B2における「H/L」や「L/L」などの意味は、
図6(B)の場合と同様である。
【0084】
図7(A)においては、各相から出力された逆起電圧は、ステータ面積が半分の為、2相に比べ、最大値が半分となる。この時、ディテントトルクの強さを示す黒塗り星印も半分となるが、発生回数は倍となる。実際に、発生する出力は、合成された出力で、2相時と同様に、Sin/Cosの関係となっている。
【0085】
図7には、4相(合成A相のA1相とA2相、及び、合成B相のB1相とB2相)の逆起電圧、停止位置(ステータス)、ディテントトルクのピークポイント(黒塗り矢印)を示してある。ディテントトルクのピークポイントは、4相の各単一相(A1相、A2相、B1相、B2相)のステータの面積が、2相の各単一相(A相、B相)のステータの面積の半分となるため、ディテントトルクの強さも半分となる。一方、モータの出力トルクに対応する逆起電圧は、合成された値(山谷の大きい(高い)サインカーブ状の実線の波形)となる。
【0086】
このモータの出力トルクに対応する逆起電圧を見ても、モータトルクは、
図6(A)の場合と
図7(A)とでほぼ同じである。一方、ディテントトルクは半減し、ディテントトルクのピークの回数は分散され、2倍になったことが分かる。
【0087】
2相のモータトルクピークとディテントトルクピークの場所(位相位置)は、
図6(A)に示すように同じである。それに対して、4相の場合は、モータトルクピークとディテントトルクピークの場所(位相位置)は、
図7(A)に示すように、22.5°ズレで左右に分散し、半減している。
【0088】
つまり、ディテントトルクが半減し、分散したことで、ディテントトルクの変動が少なくなったことが分かる。疑似4相構造は、トルクムラが削減され、振動対策への効果があることが分かった。
【0089】
次に「疑似4相2階建て」のPM型ステッピングモータの実施形態を説明する。
【0090】
「疑似4相2階建て」とは、4相分の極歯のうちから、半分の2相分の極歯を一部分ずつ抽出したものを合成して第1合成相を作成し、残りの半分の2相分の極歯を一部分ずつ抽出したものを合成して第2合成相を作成し、該2組の合成相を2階建てに配置したPM型ステッピングモータのことを意味する。
【0091】
図8は、疑似4相2階建てのPM型ステッピングモータの極歯の構成、及び、その構成手法の例を説明するための図である。(A)は4相分の極歯配列の展開図である。(B)は元々2相分の極歯を一部分ずつ抽出して(選択的に抜き出して)一つの合成相とし、その合成相を2組作って2階建てにした極歯配置の展開図である。すなわち、1階(合成相)の相内に、2相分(A1/A2またはB1/B2)の極歯をレーアウトした。
図8では、抜き出した極歯をハッチングにて区分けしてある。
【0092】
図8(A)の4相ステータは、
図5(B)同様に、A(A1)相、B(A2)相、C(B1)相及びD(B2)相から構成されている。A相には、極歯a1~5、及び、a’1~5が示されている。B相には、極歯b1~5、及び、b’1~5が示されている。C相には、極歯c1~5、及び、c’1~5が示されている。D相には、極歯d1~5、及び、d’1~5が示されている。
【0093】
図8(A)の4相のステータレーアウトで、各相10極である。各相の極歯ピッチは、360°÷10=36°である。各相の位相のズレは、36°÷4=9°である。すなわち、
図8(A)の4相のステータレーアウトで、機械角;9°、電気角;45 °で位相を形成している。
【0094】
A(A1)相とB(A2)相の極歯を一部分ずつ抽出して第1合成相を形成する手法の一例を説明する。第1合成相においては、図の左から右に見て、図の上の側ヨーク121Rから下方に突出する極歯b1・a2・b3・a5がある。図の下の側ヨーク121Lから上方に突出する極歯a´2・b´3・a´4・b´5がある。
【0095】
隣接する極歯中心間の角度は、第1合成相において、以下のとおりである。
各相のズレ量は、;360°÷10(極数)÷4相 =9°
1相のステータ間は、360°÷10(極歯数) =36°
1ステータの間は、360°÷5(極歯数) =72°
より、
b1・a2;72°-9°=63°
a2・a´2;36°
a´2・b3;36°+9°=45°
b3・b´3;36°
b´3・a´4;72°-9°=63°
a´4・a5;36°
a5・b´5;36°+9°=45°
となり、
a2~a’4;36°+45°+36°+63°=180°
a’2~a5;45°+36°+63°+36°=180°
となり、同じ相が、対岸に位置する。
第2合成相においても、隣接する極歯中心間の角度は、上記と同様である。
【0096】
結局、
図8(A)の4相におけるA相の下方突出極歯5枚+上方突出極歯5枚=10枚に、B相の下方突出極歯5枚+上方突出極歯5枚=10枚を足した合計20枚の極歯のうち、
図8(B)の第1合成相では、A相から抽出した下方突出極歯2枚+上方突出極歯2枚=枚に、B相から抽出した下方突出極歯2枚+上方突出極歯2枚=4枚を足した合計8枚の極歯を配列している。極歯の抽出は、元の各相の各方向突出極歯の中から均等に選択して抽出し、配列している。
そして、極歯抽出と配列においては、隣接する極歯同士の干渉を防ぐため、最小限の歯抜けを行っている。
第2合成相においても、隣接する極歯中心間の角度は、上記と同様である。
【0097】
なお、コイルは、各相、1つである。
【0098】
抽出した極歯は、8/20であるが、抽出した極歯の面積は、ステータの幅が
図8では(B)が(A)の1/2になっていることを補正すれば(同じステータ幅で比較すれば)、合成前と合成後で、極歯の面積は、(10-8)/10=2割の減少に止まっている。
【0099】
図9は、各々の相から発生した逆起電圧(面積が40%なので、出力も40%となる。);点線と合成された逆起電圧(実際に、出力される値、
図8(B)の逆起電圧)及び、2相時の基本出力の波形と、黒塗り星印は、ディテントトルクの発生ポイント(最大値)と相対的な強さ(トルク強さ要素1)のステータの最大面積を示す代用値を表す図である。ディテントトルクの強さも、40%となる。縦軸は電圧、横軸は電気角及び機械角である。図中の≪1≫~≪8≫(図中では実際は丸付き数字)は、
図6の場合と同様に、停止位置(ステータス)である。
【0100】
図9においては、以下の三種類の波形が示されている。
2相ステッピングモータの各相の逆起電圧;想像線で示す最も山谷の大きい(高い、ピークは+Vと-V)サインカーブ状の二本の波形である。
合成された逆起電圧;実線で示す中間の大きさ(高さ)のサインカーブ状の二本の波形である。実際に出力される波形である。
各相から出力される逆起電圧;面積が40%となる為、出力及びディテントトルクのピーク値も40%となる。この逆起電圧が合成され、上記の波形となる。
【0101】
図9に示すように、従来の2相のモータの出力に対し、疑似4相2階建てのモータの出力は73.5%まで低下する。しかし、ディテントトルクは40%以下と、出力よりも格段に低下し、モータの振動の低下に結びつく。
【0102】
図10は、疑似8相2階建てのPM型ステッピングモータの極歯の構成、及び、その構成手法の例を説明するための図である。(A)は8相分の極歯配列の展開図である。(B)は元々8相分の極歯を選択的に抜き出して一つの合成相とし、その合成相を2階建てにした極歯配置の展開図である。すなわち、1階(合成1相)の相内に、4相分(A1/A2/A3/A4)のステータをレーアウトした。
図10では、抜き出した極歯をハッチングにて区分けしてある。
【0103】
図10(A)には、抜き出す極歯が、A1相にa1´・a1、A2相にa2´・a2、A3相にa3´・a3、A3相にa3´・a3、A4相にa4´・a4として示されている。
合成後の第1合成相における隣接する極歯中心間の角度は、以下のとおりである。
各相のズレ量は、;360°÷10(極数)÷8相 =4.5°
1相のステータ間は、360°÷10(極歯数) =36°
1ステータの間は、360°÷5(極歯数) =72°
より、
a1´・a1;36°
a1・a2´;36°+4.5°=40.5°
a2´・a2;36°
a2・a3´;36°+4.5°=40.5°
以下同様である。
第2合成相においても、隣接する極歯中心間の角度は、上記と同様である。
【0104】
このように、本発明は、4相だけ無く、相数を増やすことが可能である。
【0105】
ただし、基本として、2相内でステータをレーアウトする(これに限定されるものではない)。例えば、
図10は、『疑似8相』のステータのレーアウト(8階建ての8相を2階建ての8相に変換)である。
【0106】
図11は、
図10の疑似8相2階建てPM型ステッピングモータの逆起電圧の波形を表すグラフである。縦軸は電圧、横軸は電気角及び機械角である。図中の≪1≫~≪8≫(図中では実際は丸付き数字)は、
図6の場合と同様に、停止位置(ステータス)である。
【0107】
図11においては、以下の三種類の波形が示されている。
2相ステッピングモータの各相の逆起電圧;想像線で示す最も山谷の大きい(高い、ピークは+Vと-V)サインカーブ状の二本の波形である。
合成相の逆起電圧;実線で示す中間の大きさ(高さ)のサインカーブ状の二本の波形である。出力される値は、片側4相の合成された値である。
各相から出力される逆起電圧;面積が40%となる為、出力及びディテントトルクのピーク値も40%となる。この逆起電圧が合成され、上記の波形となる。
【0108】
図11に示すように、従来の2相のモータの出力に対し、トルク的には、2相の71.8%となる。しかし、ディテントトルクは2相の20%以下となる。
【0109】
最後に、発明の検証試作について報告する。
図12は、本発明に係るモータ(実施例)と現行モータ(比較例)における、モータの速度と自起動電圧との関係の検証結果を表すグラフである。縦軸は自起動電圧(ボルト)であり、横軸はモータの回転速度(パルス/秒)である。黒丸付き実線は「発明モータ」(実施例)の特性である。ここで、「発明モータ」は、疑似4相2階建てのものである。黒三角付き破線は「現行モータ」(比較例、東京マイクロ製)の二相モータの特性である。性能比較に於いて、諸々の条件(モータサイズ、ステータ形状、マグネットサイズ、形状、コイル抵抗等)は、同条件とした。
【0110】
両モータの自起動電圧は、広い速度範囲において、「発明モータ」のほうが「現行モータ」よりも、約0.2V低い。ただし、高い速度領域においては、その電圧の差0.2Vは、「現行モータ」の自起動電圧の20%以下である。
【0111】
図13は、本発明に係るモータ(実施例)と現行モータ(比較例)における、ディテントトルクの比較をまとめた表である。表は、各回転方向と、ディテントトルクの最大値;MAX、最小値;MIN、リップル量;P-P(MAX-MIN)の値である。
【0112】
図13にから分かる様に、「発明モータ」のディテントトルクは、「現行モータ」のディテントトルクの4割以下に低減されている。
図12と
図13を合わせて考えると、「発明モータ」は、ディテントトルクの低下により、ヒステリシスが低下し、モータの起動性が改善され、今までにない、優れたPM型ステッピングモータを提供できることが実証できた。しかし、起動性の改善については、別の要素(マグネットの軽量化、小径シャフト)も影響している。
【0113】
図14、15は、本発明の実施形態に係るモータ(「開発モータ」)における振動低減効果を示すグラフである。測定ツールとしては、弊社が採用している『ドップラー』方式(微量振動測定時に最適な測定器)を使い、矩形波(4分割)とSin(64分割)の、3Vの入力条件にて両回転、各回転数について測定した値である。ちなみに、実線は、開発モータで、点線が現行タイプのモータである。
【0114】
振動測定の結果、共振周波数の値が、激減し、今回、盛り込んだ要素の相乗効果が伺えられる。更に、振動の低下は、軸受に対するストレスも低減出来、モータ寿命についても、極めて優位差が伺えられる。
【0115】
以上の検証結果より、本発明の効果が確認でき、今回、投入した要素が、相乗効果をもたらし、今までにない性能のモータを生み出した。尚、モータ寿命については、検証が、数年、数十年ベースの為、記載を控える。