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特開2023-94098抗菌剤又は抗ウイルス剤、抗菌剤又は抗ウイルス剤が基材に担持された抗菌性材料又は抗ウイルス性材料、或いは抗菌剤又は抗ウイルス剤を含む抗菌性塗料又は抗ウイルス性塗料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094098
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】抗菌剤又は抗ウイルス剤、抗菌剤又は抗ウイルス剤が基材に担持された抗菌性材料又は抗ウイルス性材料、或いは抗菌剤又は抗ウイルス剤を含む抗菌性塗料又は抗ウイルス性塗料
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/16 20060101AFI20230628BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20230628BHJP
   C09D 5/14 20060101ALI20230628BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230628BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20230628BHJP
   D06M 13/50 20060101ALI20230628BHJP
   A01N 25/02 20060101ALN20230628BHJP
【FI】
A01N59/16 Z
A01P1/00
C09D5/14
C09D7/63
C09D201/00
D06M13/50
A01N25/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209365
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】520114030
【氏名又は名称】AZUL Energy株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100195796
【弁理士】
【氏名又は名称】塩尻 一尋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 晃寿
【テーマコード(参考)】
4H011
4J038
4L033
【Fターム(参考)】
4H011AA04
4H011BB18
4H011DA13
4J038EA011
4J038JC38
4J038NA02
4J038PC10
4L033AA01
4L033AA02
4L033AA04
4L033AB01
4L033AC10
4L033BA92
(57)【要約】      (修正有)
【課題】優れた抗菌活性及び抗ウイルス活性を有する抗菌剤又は抗ウイルス剤、抗菌剤又は抗ウイルス剤が基材に担持された抗菌性材料又は抗ウイルス性材料、或いは抗菌剤又は抗ウイルス剤を含む抗菌性塗料又は抗ウイルス性塗料を提供すること。
【解決手段】以下の式(1)又は(2):

(式中、Mは金属原子であり、DからD28は、それぞれ独立に、窒素原子、硫黄原子又は炭素原子であり、DからD28が炭素原子である場合、前記炭素原子は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基が結合していてもよい)で表される、金属錯体又はその付加体を含む、抗菌剤又は抗ウイルス剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(1)又は(2):
【化1】
(式中、
Mは金属原子であり、
からD28は、それぞれ独立に、窒素原子、硫黄原子又は炭素原子であり、
からD28が炭素原子である場合、前記炭素原子は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基が結合していてもよい)
で表される、金属錯体又はその付加体を含む、抗菌剤又は抗ウイルス剤。
【請求項2】
前記式(1)又は(2)において、Mが、マンガン原子、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、銅原子又は亜鉛原子である、請求項1に記載の抗菌剤又は抗ウイルス剤。
【請求項3】
前記式(1)又は(2)において、DからD16が、窒素原子又は炭素原子である、請求項1又は2に記載の抗菌剤又は抗ウイルス剤。
【請求項4】
前記式(1)又は(2)において、D17からD28が、硫黄原子又は炭素原子である、請求項1又は2に記載の抗菌剤又は抗ウイルス剤。
【請求項5】
前記金属錯体又はその付加体が、以下の式:
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
で表される、請求項1から4のいずれか一項に記載の抗菌剤又は抗ウイルス剤。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の抗菌剤又は抗ウイルス剤が基材に担持された、抗菌性材料又は抗ウイルス性材料。
【請求項7】
前記基材が、繊維又は紙である、請求項6に記載の抗菌材料又は抗ウイルス材料。
【請求項8】
前記繊維が、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、又は合成繊維である、請求項8に記載の抗菌材料又は抗ウイルス材料。
【請求項9】
請求項1から5のいずれか一項に記載の抗菌剤又は抗ウイルス剤を含む、抗菌性塗料又は抗ウイルス性塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌剤又は抗ウイルス剤、抗菌剤又は抗ウイルス剤が基材に担持された抗菌性材料又は抗ウイルス性材料、或いは抗菌剤又は抗ウイルス剤を含む抗菌性塗料又は抗ウイルス性塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新型コロナウイルス感染症等の対策として、抗菌及び抗ウイルスへの関心が高まっている。感染予防としては種々の方策が講じられているが、日常的に使用される生活用品についても抗菌性及び抗ウイルス性を有するものが求められている。また、代表的な感染症対策であるマスクについても、抗菌性及び抗ウイルス性を有するものへの需要が高まっている。
【0003】
抗菌剤及び抗ウイルス剤として、金属フタロシアニンを有効成分とするものが知られている。特許文献1には、特定の金属フタロシアニンの誘導体を有効成分に含むアレルゲン分解剤が担持されている繊維素材が開示されている。また、特許文献2には、特定の金属フタロシアニンからなる抗ウイルス剤が開示されている。
【0004】
しかしながら、これらの金属フタロシアニンを有効成分として抗菌剤及び抗ウイルス剤では、その抗菌活性及び抗ウイルス活性が十分ではない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-144219号公報
【特許文献2】特開2010-30983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、優れた抗菌活性及び抗ウイルス活性を有する新規な金属フタロシアニン系化合物を見出して本発明を完成したものである。すなわち、本発明は、優れた抗菌活性及び抗ウイルス活性を有する抗菌剤又は抗ウイルス剤、抗菌剤又は抗ウイルス剤が基材に担持された抗菌性材料又は抗ウイルス性材料、或いは抗菌剤又は抗ウイルス剤を含む抗菌性塗料又は抗ウイルス性塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題について鋭意検討した結果、予期しないことに、特定の構造を有する金属錯体又はその付加体を使用することにより、優れた抗菌活性及び抗ウイルス活性を有することを見出し本発明に到達した。
【0008】
本発明の目的は、以下の式(1)又は(2):
【化1】
(式中、
Mは金属原子であり、
からD28は、それぞれ独立に、窒素原子、硫黄原子又は炭素原子であり、
からD28が炭素原子である場合、前記炭素原子は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基が結合していてもよい)
で表される、金属錯体又はその付加体を含む、抗菌剤又は抗ウイルス剤によって達成される。
【0009】
前記式(1)又は(2)において、Mは、マンガン原子、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、銅原子又は亜鉛原子であることが好ましい。
【0010】
前記式(1)又は(2)において、DからD16は、窒素原子又は炭素原子であることが好ましく、D17からD28は、硫黄原子又は炭素原子であることが好ましい。
【0011】
前記金属錯体又はその付加体は、以下の式:
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
で表されることが好ましい。
【0012】
本発明はまた、本発明の抗菌剤又は抗ウイルス剤が基材に担持された、抗菌性材料又は抗ウイルス性材料にも関する。
【0013】
前記基材は、繊維又は紙であることが好ましい。また、前記繊維は、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、又は合成繊維であることが好ましい。
【0014】
本発明はまた、本発明の抗菌剤又は抗ウイルス剤を含む、抗菌性塗料又は抗ウイルス性塗料にも関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、本発明の抗菌剤又は抗ウイルス剤を用いることによって、優れた抗菌活性及び抗ウイルス活性を提供することができる。
【0016】
また、本発明は、優れた抗菌活性及び抗ウイルス活性を有する抗菌剤及び抗ウイルス剤を含む抗菌性材料及び抗ウイルス材料、或いは抗菌性塗料又は抗ウイルス性塗料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[金属錯体又はその付加体]
本発明の抗菌剤又は抗ウイルス剤は、金属錯体又はその付加体を含むものであり、金属錯体又はその付加体は、以下の式(1)又は(2):
【化7】
(式中、
Mは金属原子であり、
からD28は、それぞれ独立に、窒素原子、硫黄原子又は炭素原子であり、
からD28が炭素原子である場合、前記炭素原子は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基が結合していてもよい)
で表される。
【0018】
窒素原子とMとの間の結合は、窒素原子のMへの配位を意味する。Mには配位子としてハロゲン原子、水酸基、又は炭素数1~8の炭化水素基がさらに結合していてもよい。また、電気的に中性になるように、アニオン性対イオンが存在していてもよい。さらに、電気的に中性の分子が付加した付加体として存在していてもよい。
【0019】
Mの価数は特に制限されない。金属錯体又はその付加体が電気的に中性となるように、配位子(例えば、軸配位子)としてハロゲン原子、水酸基、又は、炭素数1~8の(アルキルオキシ基)アルコキシ基が結合していてもよく、アニオン性対イオンが存在していてもよい。アニオン性対イオンとしては、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオンが例示される。また、炭素数1~8の(アルキルオキシ基)アルコキシ基が有するアルキル基の構造は、直鎖状、分岐状、又は環状であってもよい。
【0020】
Mとしては、スカンジウム原子、チタン原子、バナジウム原子、クロム原子、マンガン原子、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、銅原子、亜鉛原子、イットリウム原子、ジルコニウム原子、ニオブ原子、ルテニウム原子、ロジウム原子、パラジウム原子、ランタン原子、セリウム原子、プラセオジム原子、ネオジム原子、プロメチウム原子、サマリウム原子、ユウロピウム原子、ガドリニウム原子、テルビウム原子、ジスプロシウム原子、ホルミウム原子、エルビウム原子、ツリウム原子、イッテルビウム原子、ルテチウム、アクチニウム原子、トリウム原子、プロトアクチニウム原子、ウラン原子、ネプツニウム原子、プルトニウム原子、アメリシウム原子、キュリウム原子、バークリウム原子、カリホルニウム原子、アインスタイニウム原子、フェルミウム原子、メンデレビウム原子、ノーベリウム原子、及びローレンシウム原子が例示される。これらの中でも、Mは、マンガン原子、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、銅原子、又は亜鉛原子であることが好ましく、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、又は銅原子であることがより好ましい。
【0021】
本発明においてハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素が挙げられる。
【0022】
本発明においてアルキル基とは、直鎖状又は分岐鎖状の一価の炭化水素基を表す。アルキル基の炭素原子数は1~20個であることが好ましく、1~12個であることがより好ましく、1~6個であることがさらに好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基、及びn-ヘキシル基が例示される。
【0023】
本発明においてシクロアルキル基としては、環状の一価の炭化水素基を表す。シクロアルキル基の炭素原子数は3~20個であることが好ましく、3~12個であることがより好ましく、3~6個であることがさらに好ましい。シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1-メチルシクロプロピル基、2-メチルシクロプロピル基、及び2,2-ジメチルシクロプロピル基が例示される。
【0024】
本発明においてアルケニル基とは、二重結合を含有する直鎖状又は分岐鎖状の一価の炭化水素基を表す。アルケニル基の炭素原子数は2~20個であることが好ましく、2~12個であることがより好ましく、2~6個であることがさらに好ましい。アルケニル基としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-メチル-2-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、1-メチル-2-ブテニル基、2-メチル-2-ブテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基、4-ヘキセニル基、及び5-ヘキセニル基が例示される。
【0025】
本発明においてアルキニル基とは、三重結合を含有する直鎖状又は分岐鎖状の一価の炭化水素基を表す。アルキニル基の炭素原子数は2~20個であることが好ましく、2~12個であることがより好ましく、2~6個であることがさらに好ましい。アルキニル基としては、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、(1-ブチニル基)1-ブチン-1-イル基、(2-ブチニル基)2-ブチン-1-イル基、(3-ブチニル基)3-ブチン-1-イル基、(1-メチル-2-プロピニル基)1-メチル-2-プロピン-1-イル基、(2-メチル-3-ブチニル基)2-メチル-3-ブチン-2イル基、(1-ペンチニル基)1-ペンチン-1-イル基、(2-ペンチニル基)2-ペンチン-1-イル基、(3-ペンチニル基)3-ペンチン-2-イル基、(4-ペンチニル基)4-ペンチン-1-イル基、1-メチル-2-ブチニル基(1-メチル-2-ブチン-1-イル基)、(2-メチル-3-ペンチニル基)2-メチル-3-ペンチン-1-イル基、(1-ヘキシニル基)1-ヘキシン-1-イル基、及び(1,1-ジメチル-2-ブチニル基)1,1-ジメチル-2-ブチン-1-イル基が例示される。
【0026】
本発明においてアリール基とは、一価の芳香族炭化水素基を表す。アリール基の炭素原子数は6~40個であることが好ましく、6~30個であることがより好ましい。アリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ベンゾフェナントリル基、ベンゾアントラセニル基、クリセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ベンゾフルオランテニル基、ジベンゾアントラセニル基、ペリレニル基、及びヘリセニル基が例示される。
【0027】
本発明においてアルキルスルホニル基とは、スルホニル基にアルキル基が結合した一価の基を表す。アルキルスルホニル基中のアルキル基としては上記「アルキル基」として記載した基であることができる。アルキルスルホニル基の炭素原子数は1~20個であることが好ましく、1~12個であることがより好ましく、1~6個であることがさらに好ましい。メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ノルマルプロピルスルホニル基、イソプロピルスルホニル基、n-ブチルスルホニル基、sec-ブチルスルホニル基、tert-ブチルスルホニル基、n-ペンチルスルホニル基、イソペンチルスルホニル基、tert-ペンチルスルホニル基、ネオペンチルスルホニル基、2,3-ジメチルプロピルスルホニル基、1-エチルプロピルスルホニル基、1-メチルブチルスルホニル基、n-ヘキシルスルホニル基、イソヘキシルスルホニル基、及び1,1,2-トリメチルプロピルスルホニル基が例示される。
【0028】
本発明においてアルコキシ基とは、エーテル結合を介して炭化水素基が結合した一価の基を表す。アルコキシ基の炭素原子数は1~20個であることが好ましく、1~12個であることがより好ましく、1~6個であることがさらに好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、及びイソヘキシルオキシ基が例示される。
【0029】
本発明においてアルキルチオ基とは、アルコキシ基のエーテル結合における酸素原子が硫黄原子に置換された基を表す。アルキルチオ基の炭素原子数は1~20個であることが好ましく、1~16個であることがより好ましく、1~12個であることがさらに好ましい。アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、n-ブチルチオ基、n-ペンチルチオ基、n-ヘキシルチオ基、及びイソプロピルチオ基が例示される。
【0030】
アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基、及びアルキルチオ基は、無置換の置換基であってもよいが、それぞれハロゲン、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、シアノ基、カルボニル基、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、及びスルホ基等の1つ以上の置換基で置換されていてもよい。
【0031】
からD16は、窒素原子又は炭素原子であることが好ましく、D17からD28は、硫黄原子又は炭素原子であることが好ましい。DからD16のうちの窒素原子の数は2~12個であることが好ましく、4~8個であることがより好ましい。D17からD28のうちの硫黄原子の数は2~10個であることが好ましく、4~8個であることがより好ましい。
【0032】
好ましくは、本発明の金属錯体又はその付加体は、以下の式で表される化合物である。
【0033】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【0034】
金属錯体又はその付加体の製造方法は特に限定されないが、例えば、ピリジン-2,3-ジカルボニトリル等のジシアノ化合物と金属原子とを塩基性物質の存在下にアルコール溶媒中で加熱する方法が例示される。ここで塩基性物質としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、及び酢酸ナトリウム等の無機塩基;トリエチルアミン、トリブチルアミン、及びジアザビシクロウンデセン等の有機塩基が例示される。
【0035】
[抗菌剤及び抗ウイルス剤]
本発明の抗菌剤又は抗ウイルス剤は、有効成分として金属錯体又はその付加体を含むものであり、金属錯体又はその付加体は1種のみが含まれていてもよく、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0036】
本発明において、「抗菌」とは、細菌類及び真菌類の殺菌又は除菌、或いは細菌類及び真菌類の発生、生育又は増殖を抑制することを意味する。また、「抗ウイルス」とは、病原体ウイルスの不活化又は増殖の抑制を意味する。
【0037】
本発明の抗菌剤又は抗ウイルス剤は、例えば肺炎桿菌などのグラム陰性菌及び黄色ブドウ球菌などのグラム陽性菌等の細菌類、クリプトコッカス症及び白癬菌等の真菌類、又はインフルエンザウイルスなどのエンベロープウイルス及びネコカリシウイルスなどのノンエンベロープウイルス等のウイルスに対して抗菌活性又は抗ウイルス活性を示すことができる。
【0038】
本発明の抗菌剤又は抗ウイルス剤に含まれる金属錯体又はその付加体の濃度は特に限定されないが、好ましくは0.001mg/mL以上、より好ましくは0.01mg/mL以上、最も好ましくは0.1mg/mL以上であってもよく、好ましくは10mg/mL以下、より好ましくは5mg/mL以下、最も好ましくは3mg/mL以下であってもよい。金属錯体又はその付加体の濃度が前記下限値以上であると、優れた抗菌活性及び抗ウイルス活性を得ることができる。
【0039】
抗菌剤又は抗ウイルス剤の溶媒は特に限定されないが、水などの無機溶媒であってもよく、有機溶媒であってもよい。有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール(2-プロパノール)、及び1-ヘキサノール等のアルコール;ジメチルスルホキシド;テトラヒドロフラン;N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、及びアセトン等の非プロトン性極性溶媒;並びにクロロホルム、ジクロロメタン、1,4-ジオキサン、ベンゼン、及びトルエン等の非極性溶媒が例示される。溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
本発明の抗菌剤及び抗ウイルス剤は、任意成分として任意の添加剤を含むことができる。添加剤としては本発明の抗菌性及び抗ウイルス性の効果を阻害しないものであれば特に限定されず、界面活性剤、分散剤、増粘剤、pH調整剤、酸化防止剤、保湿剤、着色剤、紫外線吸収剤、安定化剤、及び香料などが例示される。
【0041】
また、本発明の抗菌剤及び抗ウイルス剤は、金属錯体又はその付加体以外の抗菌性物質又は抗ウイルス性物質を含んでいてもよい。
【0042】
本発明の抗菌剤及び抗ウイルス剤の形態は特に限定されず、液体、クリーム、軟膏、ジェル、ワックス、又はスプレーなどの形態であってもよい。
【0043】
[抗菌性材料及び抗ウイルス性材料]
一実施形態において、本発明は、本発明の抗菌剤又は抗ウイルス剤が基材に担持された、抗菌性材料又は抗ウイルス性材料に関する。例えば、抗菌剤又は抗ウイルス剤を基材の表面に塗布する、又は基材を抗菌剤又は抗ウイルス剤に浸漬し、溶媒を除去することによって、抗菌剤又は抗ウイルス剤を基材に担持させることができる。
【0044】
抗菌剤又は抗ウイルス剤が担持される基材は特に限定されないが、繊維又は紙であってもよく、糸、織物、ウェブ、不織布、ネットなどに成形されていてもよい。繊維は、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、又は合成繊維であってもよい。天然繊維としては、麻及び綿などの植物系繊維、羊毛及び絹などの動物系繊維が挙げられる。再生繊維としては、レーヨン及びキュプラなどが挙げられる。半合成繊維としては、アセテート及びトリアセテートが挙げられる。合成繊維としては、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリオレフィン系繊維、及びポリウレタン系繊維などが挙げられる。
【0045】
本発明の抗菌性材料又は抗ウイルス性材料は衣料品、シーツなどの寝具、梱包材、カーテン及び壁紙などの建築用内装部材、マスクなどの衛生用品、タオルなどの生活用品、乗り物用内装部材、うがい薬並びに歯みがき粉等、抗菌性又は抗ウイルス性が求められる製品に特段の限定なく使用することができる。
【0046】
[抗菌性塗料及び抗ウイルス性塗料]
一実施形態において、本発明は、本発明の抗菌剤又は抗ウイルス剤を含む、抗菌性塗料又は抗ウイルス性塗料に関する。本発明の抗菌剤又は抗ウイルス剤に含まれる金属錯体又はその付加体自体が着色剤として作用してもよく、又は本発明の抗菌剤又は抗ウイルス剤に他の着色剤を加えて塗料とすることもできる。
【0047】
本発明の抗菌性塗料又は抗ウイルス性塗料は、一般住宅などの建築物の内外壁面等に特段の限定なく使用することができる。
【実施例0048】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0049】
(金属錯体又はその付加体の調製)
合成例1 化合物(16)の合成
1.29gの2,3-ジシアノピリジン及び390mgの無水塩化コバルトに10mLの1-ペンタノールを加え、0.1mLの1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エンを添加したのち、155℃に加熱し、一晩反応を行った。
【0050】
この反応液にN,N-ジメチルホルムアミド20mLを添加し、さらに155℃で30分撹拌を行った。室温まで冷却し、析出した固体を減圧濾過で取り、N,N-ジメチルホルムアミドで洗浄し、さらに水、メタノールついでアセトンで洗浄を行い、乾燥して目的物を得た。収量0.75g。
【0051】
合成例2 化合物(8)の合成
(1)5,6-ジメチル-2,3-ピラジンジカルボニトリルの合成
3.24gのジアミノマレオニトリルに10mLの酢酸を加え、2.64mLのジアセチルを添加し、1時間加熱還流を行った。放冷すると結晶が析出した。これに水10mLを添加し、結晶を濾取した。水洗を行ったのち、乾燥し目的物を得た。収量4.45g。
【0052】
(2)化合物(9)の合成
6.32gの5,6-ジメチル-2,3-ピラジンジカルボニトリルに30mLの1-ペンタノールを加え、さらに1.78gの無水第二塩化鉄、1.9mLの4-メチルピリジンを添加し、145℃に設定したオイルバスで加熱し、反応を行った。5時間反応後、加熱を止めた。反応液の温度が100℃になった時点でメタノール30mLを滴下した。室温まで放冷したのち、減圧濾過を行い、水及びメタノールで丁寧に洗浄したのちアセトンで洗浄し、乾燥し目的物を得た。収量6.8g。
【0053】
(3)化合物(8)の合成
1.8gの化合物(9)をとり、濃硫酸20mLを加えて室温で撹拌した。1時間後、これを200mLの水に滴下した。析出した固体を遠心分離で取り出し、得られた固体を水、メタノールで遠心分離機を用いて洗浄し、化合物(8)を得た。収量1.0g。
【0054】
(抗菌性試験及び抗ウイルス性試験用試料の作製)
調製した化合物(16)及び化合物(8)のジメチルスルホキシド(DMSO)溶液(1mg/mL)に、日本薬局方ガーゼを浸漬させた後、メタノールですすぎ、溶媒を蒸発させて乾燥させた。また、標準布として、無処理の日本薬局方ガーゼも用意した。
【0055】
(抗菌性試験)
JIS L 1902:2015「繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果」に従って行った。具体的には、1/20ニュートリエント培地で菌液を調製し、バイアル瓶に入れた試料に菌液を接種後、バイアル瓶のキャップを閉めた。菌液を接種した試料を37℃で18時間培養し、接種直後と18時間培養後の生菌数を測定した。
【0056】
試験菌としては、以下の3種類を使用した。
(1)黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureus NBRC 12732
(2)肺炎かん菌 Klebsiella pneumoniae NBRC 13277
(3)メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 Methicillin resistant Staphylococcus aureus IID 1677
【0057】
生菌数は混釈平板培養法で測定し、以下の計算式から計算される抗菌活性値を求めた。
【0058】
抗菌活性値=(logC―logC)-(logT―logT
【0059】
計算式中、Cは18時間培養後の標準布の生菌数、Cは接種直後の標準布の生菌数、Tは18時間培養後の抗菌加工布の生菌数、Tは接種直後の抗菌加工布の生菌数を表す。
【0060】
一般的に、抗菌活性値が2.0以上で抗菌効果が認められ、3.0以上である場合には、強い抗菌効果が認められるとされている。化合物(16)及び(8)で抗菌加工した布について、(1)から(3)の3種類の試験菌に対して抗菌活性値を求めた結果を以下の表1及び2に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
表1及び表2に示したとおり、化合物(16)及び化合物(8)のいずれについても、黄色ブドウ球菌、肺炎かん菌、及びメチシリン耐性黄色ブドウ球菌のいずれの菌種に対しても、生菌数の大幅な減少効果が認められた。菌接種の18時間後において、標準布では生菌数が約1,000倍に増殖したが、化合物(16)及び化合物(8)で抗菌加工した布では、生菌数が接種直後のおよそ1/1,000~1/100倍まで減少した。
【0064】
(抗ウイルス性試験)
JIS L 1922「繊維製品の抗ウイルス性試験方法」に従って行った。具体的には、A型インフルエンザウイルス(H3N2)及びA型インフルエンザウイルス(H1N1)については宿主細胞であるMDCK細胞(犬腎臓由来細胞)にウイルスを感染させ、培養後、遠心分離によって細胞残渣を除去したものをウイルス懸濁液とした。また、ネコカリシウイルス(F-9)についてはCRFK細胞(ネコ腎臓由来細胞)にウイルスを感染させ、培養後、遠心分離によって細胞残渣を除去したものをウイルス懸濁液とした。得られたウイルス懸濁液を滅菌蒸留水を用いて10倍希釈し、1~5×10PFU/mLに調整したものを試験ウイルス懸濁液とした。
【0065】
各試料に試験ウイルス懸濁液を0.2mL接種し、25℃で2時間作用後、洗い出し液を20mL加え、ボルテックスミキサーで攪拌し、試料からウイルスを洗い出した。
【0066】
試験ウイルスとしては、以下の3種類を使用した。
(1)A型インフルエンザウイルス(H3N2) A/Hong Kong/8/68;TC adapted ATCC VR-1679
(2)A型インフルエンザウイルス(H1N1) A/PR/8/34;TC adapted ATCC VR-1469
(3)ネコカリシウイルス(F-9) Feline calicivirus; Strain: F-9 ATCC VR-782
【0067】
感染価はプラーク測定法で測定し、以下の計算式から計算される抗ウイルス活性値を求めた。
【0068】
抗ウイルス活性値=logV―logV
【0069】
計算式中、Vは接種直後の標準布のウイルス感染価、Vは2時間作用後の抗ウイルス加工布のウイルス感染価を表す。
【0070】
化合物(16)で抗ウイルス加工した布について、(1)から(3)の3種類の試験ウイルスに対して抗ウイルス活性値を求めた結果を以下の表3に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
表3に示したとおり、化合物(16)について、A型インフルエンザウイルス(H3N2)、A型インフルエンザウイルス(H1N1)、及びネコカリシウイルス(F-9)のいずれのウイルスに対しても、ウイルス感染価の減少効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の抗菌剤又は抗ウイルス剤は、各種の真菌及びウイルスに対して優れた抗菌活性及び抗ウイルス活性を有するため有用である。また、本発明の抗菌剤又は抗ウイルス剤を基材に担持させることにより、優れた抗菌活性及び抗ウイルス活性を示す抗菌性材料及び抗ウイルス性材料とすることができる。さらに、本発明の抗菌剤又は抗ウイルス剤を含むことで、優れた抗菌活性及び抗ウイルス活性を示す抗菌性塗料及び抗ウイルス性塗料とすることができる。