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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094111
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】溶接トーチ
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/29 20060101AFI20230628BHJP
【FI】
B23K9/29 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209384
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉城 怜士
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001LA05
4E001LB05
4E001LB06
4E001LH02
4E001NA01
(57)【要約】
【課題】シールドガスの偏流を抑制する。
【解決手段】区画室13は、第2空間12の一部がガスレンズ180によって仕切られて形成されている。チップボディ100には、チップボディ100の内側空間10と第1空間11とを連通させる複数の第1貫通孔101が設けられている。オリフィス120には、第1空間11と区画室13とを連通させる複数の第2貫通孔132がオリフィス120の周方向に間隔をあけて並んで設けられている。区画室13におけるガスレンズ180と軸方向において面する壁面部13Wは、軸方向においてガスレンズ180に近づくにしたがって区画室13内の第2空間12が広くなるように傾斜している。複数の第2貫通孔132は、壁面部13Wと軸方向における位置が重なっている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延在する筒状のチップボディと、
前記チップボディの径方向外側に配置され、前記チップボディとの間に環状の第1空間が形成されたオリフィスと、
前記オリフィスの径方向外側に配置され、前記オリフィスとの間に環状の第2空間が形成されたノズルと、
前記オリフィスと前記ノズルとの間に配置されたガスレンズと、
前記第2空間の一部が前記ガスレンズによって仕切られて形成された区画室とを備え、
前記チップボディには、該チップボディの内側空間と前記第1空間とを連通させる複数の第1貫通孔が設けられており、
前記オリフィスには、前記第1空間と前記区画室とを連通させる複数の第2貫通孔が前記オリフィスの周方向に間隔をあけて並んで設けられており、
前記区画室における前記ガスレンズと前記軸方向において面する壁面部は、前記軸方向において前記ガスレンズに近づくにしたがって前記区画室内の前記第2空間が広くなるように傾斜しており、
前記複数の第2貫通孔は、前記壁面部と前記軸方向における位置が重なっている、溶接トーチ。
【請求項2】
前記複数の第1貫通孔は、前記軸方向において、前記複数の第2貫通孔より前記ノズルの先端側に位置する、請求項1に記載の溶接トーチ。
【請求項3】
前記ガスレンズは、前記軸方向において、前記複数の第1貫通孔および前記複数の第2貫通孔の中間位置と、前記ノズルの先端寄りに位置する前記オリフィスの先端と、の間に位置している、請求項2に記載の溶接トーチ。
【請求項4】
前記壁面部は、前記オリフィスの外周面で構成されている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の溶接トーチ。
【請求項5】
前記オリフィスと前記ノズルとの間に配置された環状部材をさらに備え、
前記壁面部は、前記環状部材の内周面で構成されている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の溶接トーチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接トーチに関する。
【背景技術】
【0002】
溶接トーチを開示した先行技術文献として、特開2014-140868号公報(特許文献1)がある。特許文献1に記載された溶接トーチ用においては、チップボディと、チップと、ノズルと、ガスレンズとを備えている。チップボディは、シールドガスを外周側に流出させるシールドガス流出孔を有する。シールドガス流出孔を通じてチップボディの外周側に流出したシールドガスは、ガスレンズを通過して整流されてチップボディとノズルとの間から噴射される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-140868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された溶接トーチにおいては、オリフィスを用いることなくガスレンズによってシールドガスを整流しているが、オリフィスを用いないことによってガスレンズに対して乱流状態で不均一にシールドガスが流入した場合、ガスレンズを通過したシールドガスが偏流した状態で噴射される。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、シールドガスの偏流を抑制することができる、溶接トーチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に基づく溶接トーチは、筒状のチップボディと、オリフィスと、ノズルと、ガスレンズと、区画室とを備える。チップボディは、軸方向に延在する。オリフィスは、チップボディの径方向外側に配置され、チップボディとの間に環状の第1空間が形成されている。ノズルは、オリフィスの径方向外側に配置され、オリフィスとの間に環状の第2空間が形成されている。ガスレンズは、オリフィスとノズルとの間に配置されている。区画室は、第2空間の一部がガスレンズによって仕切られて形成されている。チップボディには、チップボディの内側空間と第1空間とを連通させる複数の第1貫通孔が設けられている。オリフィスには、第1空間と区画室とを連通させる複数の第2貫通孔がオリフィスの周方向に間隔をあけて並んで設けられている。区画室におけるガスレンズと上記軸方向において面する壁面部は、上記軸方向においてガスレンズに近づくにしたがって区画室内の第2空間が広くなるように傾斜している。複数の第2貫通孔は、壁面部と上記軸方向における位置が重なっている。
【0007】
これにより、第2貫通孔を通過して区画室内に流入したシールドガスを、ガスレンズに向けて層流状に流入させることができ、ガスレンズを通過する際にシールドガスを整流してガスレンズからノズル先端へ流れるシールドガスの偏流を抑制することができる。
【0008】
本発明の一形態においては、複数の第1貫通孔は、上記軸方向において、複数の第2貫通孔よりノズルの先端側に位置する。
【0009】
これにより、ノズルの長さを維持しつつ第2貫通孔からノズル先端までの距離を長く確保して、シールドガスを効率的に整流してノズルから噴射することができる。
【0010】
本発明の一形態においては、ガスレンズは、上記軸方向において、複数の第1貫通孔および複数の第2貫通孔の中間位置と、ノズルの先端寄りに位置するオリフィスの先端と、の間に位置している。
【0011】
これにより、ガスレンズへのスパッタの付着を抑制しつつ、区画室内における第2貫通孔からガスレンズまでの距離を長く確保して、ガスレンズに向けてシールドガスを層流状に流入させることができる。
【0012】
本発明の一形態においては、壁面部は、オリフィスの外周面で構成されている。
【0013】
これにより、第2貫通孔と壁面部との上記軸方向における位置合わせを不要にすることができる。
【0014】
本発明の一形態においては、溶接トーチは、オリフィスとノズルとの間に配置された環状部材をさらに備える。壁面部は、環状部材の内周面で構成されている。
【0015】
これにより、第2貫通孔から壁面部に沿ってシールドガスを区画室内に導入することができ、ガスレンズに向けてシールドガスを層流状に流入させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、シールドガスの偏流を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態1に係る溶接トーチの構成を示す断面図である。
図2図1の溶接トーチをII-II線矢印方向から見た断面図である。
図3図1の溶接トーチをIII-III線矢印方向から見た断面図である。
図4】本発明の実施の形態1に係る溶接トーチが備えるオリフィスにおける第1部材の構成を示す斜視図である。
図5図1におけるV部を拡大して溶接トーチにおけるシールドガスの流れを示す断面図である。
図6】本発明の実施の形態2に係る溶接トーチの構成を示す断面図である。
図7図6におけるVII部を拡大して溶接トーチにおけるシールドガスの流れを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の各実施の形態に係る溶接トーチについて図面を参照して説明する。以下の実施の形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0019】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る溶接トーチの構成を示す断面図である。図2は、図1の溶接トーチをII-II線矢印方向から見た断面図である。図3は、図1の溶接トーチをIII-III線矢印方向から見た断面図である。図4は、本発明の実施の形態1に係る溶接トーチが備えるオリフィスにおける第1部材の構成を示す斜視図である。
【0020】
図1図4に示すように、本発明の実施の形態1に係る溶接トーチ1は、チップボディ100と、オリフィス120と、ノズル150と、ガスレンズ180とを備える。本実施の形態における溶接トーチ1は、ライナ部材110と、連結部材160と、チップ170と、環状部材190とをさらに備える。溶接トーチ1は、たとえば、レーザ・アークハイブリッド溶接などの高速の溶接に適用される。
【0021】
図1図3に示すように、チップボディ100は、筒状である。チップボディ100は、軸方向(DR1方向)に延在している。チップボディ100は、溶接トーチ1における後端においてライナ部材110に接続されている。
【0022】
チップボディ100は、金属製である。チップボディ100は、たとえば、銅によって構成されている。なお、チップボディ100は、金属材料から構成されていればよく、銅に限定されない。チップボディ100は、図示しないトーチボディから給電される。
【0023】
図1および図2に示すように、チップボディ100には、複数の第1貫通孔101が設けられている。本実施の形態における複数の第1貫通孔101の各々は、軸方向(DR1方向)の周方向において等間隔に並んで配置されている。なお、複数の第1貫通孔101の各々は、軸方向(DR1方向)の位置が互いにずれていてもよい。
【0024】
ライナ部材110は、図示しないワイヤをチップ170へ供給する通路を形成する部材である。ライナ部材110は、ライナ111と、接続部材112とを含む。
【0025】
ライナ111は、チップボディ100を軸方向(DR1方向)に挿通している。チップボディ100には、ライナ111との間に環状の内側空間10が形成されている。
【0026】
接続部材112は、ライナ111の後端側に接続されている。接続部材112は、ライナ111とは反対側の端部において、図示しないトーチボディと接続されている。
【0027】
図1図3に示すように、オリフィス120は、筒状である。オリフィス120は、チップボディ100の径方向外側に配置されている。オリフィス120とチップボディ100との間に、環状の第1空間11が形成されている。
【0028】
チップボディ100における複数の第1貫通孔101の各々は、チップボディ100の内側空間10と第1空間11とを連通させている。
【0029】
オリフィス120は、第1部材130と、第2部材140とを含む。本実施の形態においては、オリフィス120は、二部材で構成されているが、これに限られず、一部材で構成されていてもよい。第1部材130は、第1空間11の外周に位置している。
【0030】
第1部材130は、樹脂製である。第1部材130は、たとえば、フェノール樹脂である。なお、第1部材130は、フェノール樹脂に限定されず、ポリアセタールなどの樹脂またはセラミックであってもよい。チップボディ100とノズル150との間に第1部材130が配置されることによって、チップボディ100とノズル150とが電気的に絶縁されている。
【0031】
図1および図4に示すように、第1部材130は、鍔部131を有している。鍔部131は、溶接トーチ1の後端側に配置されている。鍔部131は、ノズル150の内周面に接触している。第1部材130の外周面に、鍔部131と連続して鍔部131から離れるにしたがって直径が小さくなっているテーパー面133が形成されている。
【0032】
図1図3および図4に示すように、オリフィス120における第1部材130には、第1空間11と後述する区画室13とを連通させる複数の第2貫通孔132がオリフィス120の周方向に間隔をあけて並んで設けられている。本実施の形態における複数の第2貫通孔132の各々は、第1部材130において、鍔部131側に設けられている。具体的には、複数の第2貫通孔132は、テーパー面133に形成されている。これにより、複数の第2貫通孔132は、複数の第1貫通孔101に対して、溶接トーチ1の後端側に位置している。すなわち、複数の第1貫通孔101は、軸方向(DR1方向)において、複数の第2貫通孔132よりノズル150の先端側に位置する。
【0033】
図3および図4に示すように、複数の第2貫通孔132は、オリフィス120の周方向に沿って延在する長孔形状を有している。本実施の形態における複数の第2貫通孔132は、オリフィス120の周方向に6個設けられている。複数の第2貫通孔132の長孔形状における軸方向(DR1方向)の孔径は、たとえば、1.5mmである。
【0034】
オリフィス120の周方向における、第1部材130の全長に対する、複数の第2貫通孔132の合計長さの割合は、たとえば、60~80%である。これにより、シールドガスが複数の第2貫通孔132から過度に高圧で噴出されることが抑制されている。
【0035】
複数の第2貫通孔132の各々を長孔形状にすることにより、複数の第2貫通孔の各々が当該長孔形状の短径と同一寸法の直径を有する真円形状である場合と比較して、複数の第2貫通孔132を通過する際のシールドガスの圧力損失を低減することができる。また、複数の第2貫通孔132の各々を長孔形状にすることによって、開口面積を確保するのに必要な貫通孔の数量を減らすことができるため、穿設に要する製造コストを削減することができる。
【0036】
図1に示すように、第2部材140は、軸方向(DR1方向)において第1部材130に接続され、第1部材130よりノズル150の先端側に位置している。
【0037】
第2部材140は、金属製である。第2部材140は、たとえば、銅によって構成されている。なお、第2部材140は、比較的融点の高い金属材料から構成されていればよく、銅に限定されない。
【0038】
第1部材130と第2部材140とは、オリフィス120の周方向に沿って嵌合することにより互いに接続されている。本実施の形態においては、第1部材130の内周部と第2部材140の外周部とが嵌合部121において嵌合されることによって、互いに接続されている。これにより、オリフィス120の径方向における厚みを、第1部材130と第2部材140とに形成された雌ねじと雄ねじとを螺合させて締結する場合などと比較して薄くすることができる。
【0039】
図1図3に示すように、ノズル150は、筒状である。ノズル150は、オリフィス120の径方向外側に配置されている。ノズル150とオリフィス120との間に、環状の第2空間12が形成されている。ノズル150の先端側は、外部に開放されている。ノズル150は、金属材料から構成されている。
【0040】
ガスレンズ180は、オリフィス120とノズル150との間に配置されている。ガスレンズ180は、円環状の形状を有し、軸方向(DR1方向)に積層された金属製のメッシュ層を含む。これにより、ガスレンズ180は、多孔状の整流部を有する。メッシュ層は、たとえば、ステンレス鋼で構成されている。
【0041】
図1に示すように、本実施の形態においては、ガスレンズ180は、軸方向(DR1方向)において、第1貫通孔101および第2貫通孔132の中間位置Mと、ノズル150の先端寄りに位置するオリフィス120の先端と、の間に位置している。具体的には、ガスレンズ180は、軸方向(DR1方向)において、第1貫通孔101および第2貫通孔132の中間位置Mと第1貫通孔101との間に位置している。ただし、軸方向(DR1方向)におけるガスレンズ180の位置は、上記に限られない。
【0042】
図1に示すように、第2空間12の一部がガスレンズ180によって仕切られて、区画室13が形成されている。具体的には、区画室13は、オリフィス120の第1部材130と環状部材190とガスレンズ180とによって囲まれている。
【0043】
区画室13におけるガスレンズ180と軸方向(DR1方向)において面する壁面部13Wは、軸方向(DR1方向)においてガスレンズ180に近づくにしたがって区画室13内の第2空間12が広くなるように傾斜している。本実施の形態においては、壁面部13Wは、オリフィス120の外周面で構成されている。具体的には、壁面部13Wは、第1部材130のテーパー面133で構成されている。
【0044】
複数の第2貫通孔132は、壁面部13Wと軸方向(DR1方向)における位置が重なっている。すなわち、複数の第2貫通孔132の各々は、区画室13内の第2空間12が漸次狭くなっている区画室13の隅部に開口している。
【0045】
環状部材190は、円筒状の形状を有している。環状部材190は、オリフィス120の第1部材130とノズル150との間に配置されている。環状部材190の外周面はノズル150の内周面と接しており、環状部材190の内周面は第1部材130の鍔部131と接している。本実施の形態においては、環状部材190は、樹脂またはセラミックスなどの絶縁材料で構成されている。ただし、環状部材190は、導電材料で構成されていてもよい。
【0046】
連結部材160は、チップボディ100とノズル150とを連結する部材である。連結部材160は、第1連結部材161と、第2連結部材162とを含む。
【0047】
第1連結部材161は、チップボディ100の径方向外側に設けられている。第2連結部材162は、第1連結部材161に一部が嵌合されて接続されている。第2連結部材162の径方向外側には、ノズル150が嵌合されている。第1連結部材161は、絶縁材料で構成されている。第1連結部材161は、第1部材130とともにチップボディ100とノズル150とを電気的に絶縁している。第2連結部材162は、導電材料で構成されている。なお、第2連結部材162は、絶縁材料で構成されていてもよい。
【0048】
チップ170は、チップボディ100の先端に接続されている。チップ170には、軸方向(DR1方向)に延在する貫通孔が設けられている。貫通孔には、図示しないワイヤが挿通可能である。チップ170にワイヤを挿通させつつ、チップボディ100を通じてチップ170が給電されることによって、ワイヤと図示しない被溶接部材との間でアーク放電が発生する。
【0049】
ここで、本発明の実施の形態1における溶接トーチ1におけるシールドガスの流れについて説明する。図5は、図1におけるV部を拡大して溶接トーチにおけるシールドガスの流れを示す断面図である。
【0050】
溶接トーチ1においては、ノズル150の先端側から不活性ガスなどにより構成されるシールドガスが噴出する。溶接トーチ1の内部におけるシールドガスの流れとしては、図5に示すように、まず、図示しないトーチボディから接続部材112の内部を通流したシールドガスが内側空間10を通流する。次に、シールドガスは、内側空間10から複数の第1貫通孔101を通過して第1空間11に流入する。次に、シールドガスは、第1空間11から複数の第2貫通孔132を通過して区画室13に流入する。壁面部13Wに沿いつつ軸方向(DR1方向)に区画室13を通流したシールドガスは、ガスレンズ180に向けて層流状に流入する。ガスレンズ180を通過して整流されたシールドガスは、第2空間12を通流してノズル150の先端から外部へ噴出される。
【0051】
上述したシールドガスの流れにおいて、複数の第2貫通孔132の開口面積の合計値は、複数の第1貫通孔101の開口面積の合計値以上である。これにより、複数の第2貫通孔132から噴出するシールドガスが過度に高圧になることを抑制し、オリフィス120の周方向におけるシールドガスの流速分布のムラを低減することができる。
【0052】
また、複数の第2貫通孔132の開口面積の合計値は、複数の第1貫通孔101の開口面積の合計値に対して、1.3倍以下である。これにより、第1空間11内が過度に低圧になることを抑制し、オリフィス120によるシールドガスの整流特性を高く維持できるため、シールドガスの偏流を抑制することができる。
【0053】
さらに、内側空間10および第2空間12の各々におけるシールドガスの通流方向と、第1空間11におけるシールドガスの通流方向とが、軸方向(DR1方向)において互いに反対向きであることによって、シールドガスが溶接トーチ1の内部の通流する距離を長くしてシールドガスの整流区間を確保し、シールドガスの偏流を抑制することができる。
【0054】
本発明の実施の形態1に係る溶接トーチ1においては、第2空間12の一部がガスレンズ180によって仕切られて区画室13が形成され、区画室13におけるガスレンズ180と軸方向(DR1方向)において面する壁面部13Wは、軸方向(DR1方向)においてガスレンズ180に近づくにしたがって区画室13内の第2空間12が広くなるように傾斜しており、第2貫通孔132が壁面部13Wと軸方向(DR1方向)における位置が重なっていることによって、第2貫通孔132を通過して区画室13内に流入したシールドガスを、ガスレンズ180に向けて層流状に流入させることができ、ガスレンズ180を通過する際にシールドガスを整流してガスレンズ180からノズル150の先端へ流れるシールドガスの偏流を抑制することができる。
【0055】
本発明の実施の形態1に係る溶接トーチ1においては、第1貫通孔101が、軸方向(DR1方向)において、第2貫通孔132よりノズル150の先端側に位置することによって、ノズル150の長さを維持しつつ第2貫通孔132からノズル150の先端までの距離を長く確保して、シールドガスを効率的に整流してノズル150から噴射することができる。
【0056】
本発明の実施の形態1に係る溶接トーチ1においては、ガスレンズ180が、軸方向(DR1方向)において、第1貫通孔101および第2貫通孔132の中間位置Mと、ノズル150の先端寄りに位置するオリフィス120の先端と、の間に位置していることによって、ガスレンズ180へのスパッタの付着を抑制しつつ、区画室13内における第2貫通孔132からガスレンズ180までの距離を長く確保して、ガスレンズ180に向けてシールドガスを層流状に流入させることができる。
【0057】
本発明の実施の形態1に係る溶接トーチ1においては、壁面部13Wがオリフィス120の外周面で構成されていることによって、第2貫通孔132と壁面部13Wとの軸方向(DR1方向)における位置合わせを不要にすることができる。
【0058】
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2に係る溶接トーチについて図を参照して説明する。本発明の実施の形態2に係る溶接トーチは、壁面部の構成が本発明の実施の形態1に係る溶接トーチ1と異なるため、本発明の実施の形態1に係る溶接トーチ1と同様である構成については説明を繰り返さない。
【0059】
図6は、本発明の実施の形態2に係る溶接トーチの構成を示す断面図である。図6に示すように、本発明の実施の形態2に係る溶接トーチ2は、チップボディ100と、オリフィス220と、ノズル150と、ガスレンズ180と、環状部材290とを備える。
【0060】
オリフィス220は、第1部材230と、第2部材140とを含む。第1部材230は、円筒状の形状を有している。第1部材230には、第1空間11と区画室13とを連通させる複数の第2貫通孔132がオリフィス220の周方向に間隔をあけて並んで設けられている。
【0061】
環状部材290は、円筒状の形状を有している。環状部材290は、オリフィス220の第1部材230とノズル150との間に配置されている。環状部材290の外周面はノズル150の内周面と接しており、環状部材290の内周面は第1部材230の後端と接している。環状部材290の内周面において、第2貫通孔132と面する位置に、環状部材290の後端に近づくにしたがって環状部材290の内径が小さくなっているテーパー面291が形成されている。
【0062】
区画室13は、オリフィス220の第1部材230と環状部材290とガスレンズ180とによって囲まれている。区画室13におけるガスレンズ180と軸方向(DR1方向)において面する壁面部13Wは、軸方向(DR1方向)においてガスレンズ180に近づくにしたがって区画室13内の第2空間12が広くなるように傾斜している。本実施の形態においては、壁面部13Wは、環状部材290の内周面で構成されている。具体的には、壁面部13Wは、環状部材290のテーパー面291で構成されている。
【0063】
複数の第2貫通孔132は、壁面部13Wと軸方向(DR1方向)における位置が重なっている。すなわち、複数の第2貫通孔132の各々は、区画室13内の第2空間12が漸次狭くなっている区画室13の隅部に開口している。
【0064】
ここで、本発明の実施の形態2における溶接トーチ2におけるシールドガスの流れについて説明する。図7は、図6におけるVII部を拡大して溶接トーチにおけるシールドガスの流れを示す断面図である。
【0065】
溶接トーチ2においては、ノズル150の先端側から不活性ガスなどにより構成されるシールドガスが噴出する。溶接トーチ2の内部におけるシールドガスの流れとしては、図7に示すように、まず、図示しないトーチボディから接続部材112の内部を通流したシールドガスが内側空間10を通流する。次に、シールドガスは、内側空間10から複数の第1貫通孔101を通過して第1空間11に流入する。次に、シールドガスは、第1空間11から複数の第2貫通孔132を通過して区画室13に流入する。壁面部13Wに沿いつつ軸方向(DR1方向)に区画室13を通流したシールドガスは、ガスレンズ180に向けて層流状に流入する。ガスレンズ180を通過して整流されたシールドガスは、第2空間12を通流してノズル150の先端から外部へ噴出される。
【0066】
本発明の実施の形態2に係る溶接トーチ2においては、壁面部13Wが環状部材290の内周面で構成されていることによって、第2貫通孔132から壁面部13Wであるテーパー面291に沿ってシールドガスを区画室13内に導入することができ、ガスレンズ180に向けてシールドガスを層流状に流入させることができる。
【0067】
なお、本発明の各実施の形態に係る溶接トーチにおいては、MIG(Metal Inert Gas)溶接について例示したが、本発明の適用はMIG溶接用の溶接装置に限定されない。本発明は、MIG溶接を含む消耗電極式アーク溶接に適用することができる。
【0068】
なお、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本開示の技術的範囲は、上記した実施の形態のみによって解釈されるものではない。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。上述した実施の形態の説明において、組み合わせ可能な構成を相互に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1,2 溶接トーチ、10 内側空間、11 第1空間、12 第2空間、13 区画室、13W 壁面部、100 チップボディ、101 第1貫通孔、120,220 オリフィス、130,230 第1部材、132 第2貫通孔、140 第2部材、150 ノズル、180 ガスレンズ、190,290 環状部材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7