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特開2023-94122表面処理剤及びそれを用いて表面処理した皮革
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094122
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】表面処理剤及びそれを用いて表面処理した皮革
(51)【国際特許分類】
   C08L 75/04 20060101AFI20230628BHJP
   D06M 15/568 20060101ALI20230628BHJP
   D06M 15/263 20060101ALI20230628BHJP
   D06M 15/507 20060101ALI20230628BHJP
   D06M 15/277 20060101ALI20230628BHJP
   D06N 3/00 20060101ALI20230628BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20230628BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20230628BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20230628BHJP
   C08G 18/10 20060101ALI20230628BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20230628BHJP
   C08G 18/32 20060101ALI20230628BHJP
   C08G 18/66 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
C08L75/04
D06M15/568
D06M15/263
D06M15/507
D06M15/277
D06N3/00
C08L33/04
C08L27/12
C08L67/00
C08G18/10
C08G18/08 019
C08G18/32 003
C08G18/66 033
C08G18/66 040
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209403
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 邦晃
(72)【発明者】
【氏名】南北 直輝
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 雄介
【テーマコード(参考)】
4F055
4J002
4J034
4L033
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055AA03
4F055BA12
4F055BA13
4F055CA15
4F055CA16
4F055DA08
4F055EA01
4F055EA04
4F055EA21
4F055EA23
4F055EA30
4F055FA09
4F055FA10
4F055FA15
4F055GA03
4F055HA17
4J002BD12Y
4J002BG02X
4J002BG03X
4J002BG04X
4J002BG05X
4J002BG07X
4J002CF044
4J002CF204
4J002CK02W
4J002CK03W
4J002FD200
4J002GT00
4J002HA07
4J034CA04
4J034CA05
4J034CA15
4J034CA16
4J034CA22
4J034CB03
4J034CB04
4J034CB07
4J034CB08
4J034CC03
4J034DA01
4J034DB04
4J034DB07
4J034DF02
4J034HA01
4J034HA07
4J034HA11
4J034HC03
4J034HC12
4J034HC17
4J034HC22
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034HC73
4J034JA42
4J034QC05
4J034RA03
4L033AB09
4L033AC03
4L033AC04
4L033AC15
4L033CA18
4L033CA22
4L033CA46
4L033CA50
(57)【要約】
【課題】皮革用基材に、耐屈曲性を損なうことなく、優れた耐摩耗性を付与し、さらに、優れたSG性とSR性とを併せ持つ防汚性能を付与することが可能な表面処理剤を提供すること。
【解決手段】(A)水性ポリウレタン樹脂と(B)アクリル系樹脂と(C)含フッ素化合物と(D)親水性化合物とを含有し、
前記(A)水性ポリウレタン樹脂が、(a)有機ポリイソシアネート、(b)ポリオール、(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物及び(d)多価アルコールの反応生成物であるイソシアネート基末端プレポリマーの中和物の(e)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミンによる鎖伸長物であり、
前記(b)ポリオールが、(b1)炭素数が3~10の整数である分岐構造を有するジオール由来の構造単位を有するポリカーボネートジオール及び(b2)炭素数が3~9の奇数である直鎖構造を有するジオール由来の構造単位を有するポリカーボネートジオールからなる群から選択される少なくとも1種を含むものであり、
前記(d)多価アルコールが、少なくとも3個以上の活性水素を有する多価アルコールを含むものである
ことを特徴とする表面処理剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水性ポリウレタン樹脂と(B)アクリル系樹脂と(C)含フッ素化合物と(D)親水性化合物とを含有し、
前記(A)水性ポリウレタン樹脂が、(a)有機ポリイソシアネート、(b)ポリオール、(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物及び(d)多価アルコールの反応生成物であるイソシアネート基末端プレポリマーの中和物の(e)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミンによる鎖伸長物であり、
前記(b)ポリオールが、(b1)炭素数が3~10の整数である分岐構造を有するジオール由来の構造単位を有するポリカーボネートジオール及び(b2)炭素数が3~9の奇数である直鎖構造を有するジオール由来の構造単位を有するポリカーボネートジオールからなる群から選択される少なくとも1種を含むものであり、
前記(d)多価アルコールが、少なくとも3個以上の活性水素を有する多価アルコールを含むものである
ことを特徴とする表面処理剤。
【請求項2】
前記(C)含フッ素化合物が、下記式(1):
CH=C(-X)-C(=O)-Y-Z-R (1)
〔前記式(1)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~21の直鎖状又は分岐状のアルキル基、-CFX基(X及びXは水素原子又はハロゲン原子を表す)、シアノ基、炭素数1~21の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、置換又は非置換のベンジル基、或いは置換又は非置換のフェニル基を表し;Yは、-O-又は-NH-を表し;Zは、直接結合、炭素数1~20の直鎖状又は分岐状の2価の脂肪族基、炭素数6~18の2価の置換又は非置換の芳香族基、炭素数3~18の2価の置換又は非置換の環状脂肪族基、-RN(R)-Z-基(Rは炭素数1~10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表し、Rは炭素数1~10の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、Zは-SO-又は-C(=O)-を表す)、-CHCH(OZ)CH-(Ar-O)-基(Zは水素原子又は炭素数1~10のアシル基を表し、Arは炭素数6~18の置換又は非置換のアリーレン基を表し、pは0又は1である)、-(CH-Ar-(O)-基(Arは炭素数6~18の置換又は非置換のアリーレン基を表し、nは0~10の整数であり、qは0又は1である)、或いは-(CH-Z-(CH-基(Zは-SO-又は-S-を表し、mは1~10の整数であり、nは0~10の整数である)を表し;Rは、炭素数1~20の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基を表す〕
で表されるフッ素系モノマーから誘導される繰返し単位を含むフッ素系重合体であることを特徴とする請求項1に記載の表面処理剤。
【請求項3】
前記(D)親水性化合物が、多価カルボン酸成分単位又はそのエステル形成性誘導体成分単位と多価アルコール成分単位とを含む親水性ポリエステル共重合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理剤。
【請求項4】
前記(A)水性ポリウレタン樹脂と前記(B)アクリル系樹脂との質量比が(A):(B)=20:80~80:20であり、
前記(C)含フッ素化合物の含有量が前記(A)水性ポリウレタン樹脂と前記(B)アクリル系樹脂との合計量100質量部に対して10~100質量部であり、
前記(D)親水性化合物の含有量が前記(A)水性ポリウレタン樹脂と前記(B)アクリル系樹脂との合計量100質量部に対して5~50質量部であることを特徴とする請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の表面処理剤。
【請求項5】
皮革用基材と、前記基材の表面に請求項1~4のうちのいずれか一項に記載の表面処理剤により形成された表面処理層とを備えていることを特徴とする皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理剤及びそれを用いて表面処理した皮革に関し、より詳しくは、水性ポリウレタン樹脂を含有する表面処理剤及びそれを用いて表面処理した皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂からなる表皮層を有する合成皮革やポリ塩化ビニル(PVC)レザー等の皮革の製造工程においては、合成皮革やPVCレザーの表面の耐摩耗性や艶消し性を向上させるために、表面処理剤による加工が行われている。従来の表面処理剤に用いられる樹脂組成物は、ジメチルホルムアミド、トルエン、メチルエチルケトン等の有機溶剤を含んだ溶剤系が主流であったが、これらの有機溶剤は引火性が強く、毒性が高いものが多いことから、火災の危険性、作業環境の悪化、大気、水質等の環境汚染等の問題があった。また、合成皮革の製造においては、これらの有機溶剤を回収することも行われているが、多額のコストや労力がかかるという問題点があった。
【0003】
近年、環境規制の高まりだけでなく、有機溶剤系ウレタン樹脂を用いて得られた皮革内部に有機溶剤が残留するため、皮膚障害等の人体への影響も問題とされている。そのため有機溶剤を極力、或いは全く含まない水性の表面処理剤の開発が進められており、特に、自動車内装材に使用される皮革用材においては、残留有機溶剤の人体への影響が危惧されるため、水性の表面処理剤が強く要望されている。
【0004】
また、このような皮革は幅広い用途で使用されているため、優れた強度及び耐摩耗性を有するとともに、種々の汚れに対して十分な対策が図られた防汚性能(SG性(Soil Guard):汚れそのものを付き難くする性能、SR性(Soil Release):汚れが付着しても水拭き等により容易に除去できる性能)を有することが要求されている。
【0005】
例えば、特開2010-241963号公報(特許文献1)には、アクリル樹脂、アクリルシリカ樹脂、アクリルポリシロキサン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ウレタン樹脂、イソシアネート架橋剤及びシリコーン系触感剤からなる塗膜層を天然皮革のトップコート層として設けた天然皮革が開示されており、前記トップコート層が自動車内部固有の汚れに対する防汚性(SG性及びSR性)、耐摩耗性及び柔軟性を有することも記載されている。また、特開2016-138242号公報(特許文献2)には、水系ウレタン樹脂、艶消し剤、及び特定のポリオルガノシロキサンとアクリル酸エステル単位又はメタクリル酸エステル単位とを特定の割合で含むシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンを含有する皮革用コーティング剤が開示されており、この皮革用コーティング剤が優れた耐摩耗性及び防汚性を有することも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-241963号公報
【特許文献2】特開2016-138242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のトップコート層や特許文献2に記載の皮革用コーティング剤においては、耐摩耗性及び防汚性が必ずしも十分なものではなかった。
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、皮革用基材に、耐屈曲性を損なうことなく、優れた耐摩耗性を付与し、さらに、優れたSG性(Soil Guard)とSR性(Soil Release)とを併せ持つ防汚性能を付与することが可能な表面処理剤、及び耐屈曲性が損なわれることなく、優れた耐摩耗性が付与され、さらに、優れたSG性とSR性とを併せ持つ防汚性能が付与された皮革を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、炭素数が3~10の整数である分岐構造を有するジオール由来のポリカーボネートジオール及び炭素数が3~9の奇数である直鎖構造を有するジオール由来のポリカーボネートジオールのうちの少なくとも1種を用いて調製した水性ポリウレタン樹脂と、アクリル系樹脂と、含フッ素化合物と、親水性化合物とを含有する表面処理剤を用いて皮革用基材の表面を処理することによって、皮革用基材に、耐屈曲性を損なうことなく、優れた耐摩耗性を付与することができ、さらに、優れたSG性とSR性とを併せ持つ防汚性能を付与することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の表面処理剤は、(A)水性ポリウレタン樹脂と(B)アクリル系樹脂と(C)含フッ素化合物と(D)親水性化合物とを含有し、
前記(A)水性ポリウレタン樹脂が、(a)有機ポリイソシアネート、(b)ポリオール、(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物及び(d)多価アルコールの反応生成物であるイソシアネート基末端プレポリマーの中和物の(e)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミンによる鎖伸長物であり、
前記(b)ポリオールが、(b1)炭素数が3~10の整数である分岐構造を有するジオール由来の構造単位を有するポリカーボネートジオール及び(b2)炭素数が3~9の奇数である直鎖構造を有するジオール由来の構造単位を有するポリカーボネートジオールからなる群から選択される少なくとも1種を含むものであり、
前記(d)多価アルコールが、少なくとも3個以上の活性水素を有する多価アルコールを含むものであることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の表面処理剤においては、前記(C)含フッ素化合物が、下記式(1):
CH=C(-X)-C(=O)-Y-Z-R (1)
〔前記式(1)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~21の直鎖状又は分岐状のアルキル基、-CFX基(X及びXは水素原子又はハロゲン原子を表す)、シアノ基、炭素数1~21の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、置換又は非置換のベンジル基、或いは置換又は非置換のフェニル基を表し;Yは、-O-又は-NH-を表し;Zは、直接結合、炭素数1~20の直鎖状又は分岐状の2価の脂肪族基、炭素数6~18の2価の置換又は非置換の芳香族基、炭素数3~18の2価の置換又は非置換の環状脂肪族基、-RN(R)-Z-基(Rは炭素数1~10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表し、Rは炭素数1~10の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、Zは-SO-又は-C(=O)-を表す)、-CHCH(OZ)CH-(Ar-O)-基(Zは水素原子又は炭素数1~10のアシル基を表し、Arは炭素数6~18の置換又は非置換のアリーレン基を表し、pは0又は1である)、-(CH-Ar-(O)-基(Arは炭素数6~18の置換又は非置換のアリーレン基を表し、nは0~10の整数であり、qは0又は1である)、或いは-(CH-Z-(CH-基(Zは-SO-又は-S-を表し、mは1~10の整数であり、nは0~10の整数である)を表し;Rは、炭素数1~20の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基を表す〕
で表されるフッ素系モノマーから誘導される繰返し単位を含むフッ素系重合体であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の表面処理剤においては、前記(D)親水性化合物が、多価カルボン酸成分単位又はそのエステル形成性誘導体成分単位と多価アルコール成分単位とを含む親水性ポリエステル共重合体であることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明の表面処理剤においては、前記(A)水性ポリウレタン樹脂と前記(B)アクリル系樹脂との質量比が(A):(B)=20:80~80:20であり、前記(C)含フッ素化合物の含有量が前記(A)水性ポリウレタン樹脂と前記(B)アクリル系樹脂との合計量100質量部に対して10~100質量部であり、前記(D)親水性化合物の含有量が前記(A)水性ポリウレタン樹脂と前記(B)アクリル系樹脂との合計量100質量部に対して5~50質量部であることが好ましい。
【0014】
本発明の皮革は、皮革用基材と、前記基材の表面に前記本発明の表面処理剤により形成された表面処理層とを備えるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐屈曲性が損なわれることなく、優れた耐摩耗性が付与され、さらに、優れたSG性とSR性とを併せ持つ防汚性能が付与された皮革を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0017】
〔表面処理剤〕
先ず、本発明の表面処理剤について説明する。本発明の表面処理剤は、(A)水性ポリウレタン樹脂と(B)アクリル系樹脂と(C)含フッ素化合物と(D)親水性化合物とを含有するものである。以下、各成分について説明する。
【0018】
(A)水性ポリウレタン樹脂
本発明に用いられる(A)水性ポリウレタン樹脂は、(a)有機ポリイソシアネート、(b)ポリオール、(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物及び(d)多価アルコールの反応生成物であるイソシアネート基末端プレポリマーの中和物の(e)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミンによる鎖伸長物であって、自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂である。なお、前記自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂における「水性」とは、自己乳化型のポリウレタン樹脂を水に乳化分散させて水中の樹脂分濃度が35質量%である乳化分散液を調製した後に、この乳化分散液を20℃で12時間静置しても分離や沈降が観察されないような状態とすることが可能であることを意味する。
【0019】
(a)有機ポリイソシアネート
本発明に用いられる(a)有機ポリイソシアネートとしては特に制限はなく、従来より一般に用いられている芳香族、脂肪族及び脂環式のポリイソシアネートが挙げられる。例えば、芳香族ポリイソシアネートとしては、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、3,3’-ジクロロ-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、テトラメチレンキシリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。脂肪族ポリイソシアネートとしては、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。脂環式ポリイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。これらの有機ポリイソシアネートは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの有機ポリイソシアネートの中でも、得られる水性ポリウレタン樹脂が無黄変性のものとなるという観点から、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環式ポリイソシアネートが好ましく、耐熱性の観点から、脂環式ポリイソシアネートがより好ましい。
【0020】
(b)ポリオール
本発明に用いられる(b)ポリオールは、(b1)炭素数が3~10の整数である分岐構造を有するジオール由来の構造単位を有するポリカーボネートジオール及び(b2)炭素数が3~9の奇数である直鎖構造を有するジオール由来の構造単位を有するポリカーボネートジオールからなる群から選択される少なくとも1種を含むものである。
【0021】
前記(A)水性ポリウレタン樹脂においては、前記(b1)ポリカーボネートジオールが、炭素数が3~10の整数である分岐構造を有するジオールに由来する構造単位と炭素数が3~10の整数である直鎖構造を有するジオールに由来する構造単位とを有するポリカーボネートジオールであることが好ましく、また、前記(b2)ポリカーボネートジオールが、炭素数が3~9の奇数である直鎖構造を有するジオールに由来する構造単位と炭素数が4~10の偶数である直鎖構造を有するジオールに由来する構造単位とを有するポリカーボネートジオール、及び、炭素数が3~9の奇数である直鎖構造を有するジオールのみに由来する構造単位を有するポリカーボネートジオールからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0022】
前記(b1)ポリカーボネートジオール及び前記(b2)ポリカーボネートジオールの重量平均分子量としては、500~3000が好ましく、800~2500がより好ましい。前記(b1)ポリカーボネートジオール及び前記(b2)ポリカーボネートジオールの重量平均分子量が前記下限未満になると、皮革の耐屈曲性が低下するおそれがあり、他方、前記上限を超えると、ポリカーボネートジオール自体の粘度が高くなり過ぎる傾向にあり、取り扱いが困難となるおそれがある。
【0023】
前記炭素数が3~10の整数である分岐構造を有するジオールとしては、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール等が挙げられる。前記炭素数が3~9の奇数である直鎖構造を有するジオールとしては、1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,9-ノナンジオールが挙げられる。前記炭素数が4~10の偶数である直鎖構造を有するジオールとしては、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオールが挙げられる。
【0024】
前記(b1)ポリカーボネートジオールとして、具体的には、3-メチル-1,5-ペンタンジオール/1,6-ヘキサンジオール由来のポリカーボネートジオール(例えば、株式会社クラレ製のクラレポリオールC-1090(重量平均分子量:1000)、クラレポリオールC-2090(重量平均分子量:2000)、クラレポリオールC-3090(重量平均分子量:3000))、2-メチル-1,3-プロパンジオール由来のポリカーボネートジオール(例えば、宇部興産株式会社製のETERNACOLL UP-100(重量平均分子量:1000)、ETERNACOLL UP-200(重量平均分子量:2000))等が挙げられる。前記(b2)ポリカーボネートジオールとして、具体的には、1,5-ペンタンジオール/1,6-ヘキサンジオール由来のポリカーボネートジオール(例えば、旭化成ケミカルズ株式会社製のデュラノールT5651(重量平均分子量:1000)、デュラノールT5652(重量平均分子量:2000))、1,3-プロパンジオール由来のポリカーボネートジオール(例えば、豊国製油株式会社製HS PD-2003(重量平均分子量:2000))等が挙げられる。
【0025】
前記(A)水性ポリウレタン樹脂において、前記(b)ポリオールにおける前記ポリカーボネートジオール(b1)及び(b2)の合計量の割合としては、皮革の耐摩耗性及び耐屈曲性の観点から、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましく、100質量%が最も好ましい。前記ポリカーボネートジオール(b1)及び(b2)の合計量の割合が前記下限未満になると、皮革の耐摩耗性又は耐屈曲性のうちの少なくとも一方が低下するおそれがある。
【0026】
また、前記(A)水性ポリウレタン樹脂において、前記(b)ポリオールにおける前記ポリカーボネートジオール(b1)及び(b2)の合計量の割合が100質量%未満の場合に含まれる、前記ポリカーボネートジオール(b1)及び(b2)以外のポリオール(以下、「その他のポリオール」ともいう)としては、例えば、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、前記ポリカーボネートジオール(b1)及び(b2)以外のポリカーボネート系ポリオール(以下、「その他のポリカーボネート系ポリオール」ともいう)等の高分子ポリオール、低分子量ジオールが挙げられる。
【0027】
前記ポリエーテル系ポリオールとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドの重合物が挙げられる。このような重合物は1種類のアルキレンオキサイドの単独重合物であってもよいし、2種類以上のアルキレンオキサイドの共重合物であってもよい。共重合物である場合、ランダム重合物であっても、ブロック重合物であってもよい。また、このようなポリエーテル系ポリオールの分子量としては、400~5000が好ましい。また、前記ポリエーテル系ポリオールとして、低分子量2価アルコールに1種又は2種以上のアルキレンオキサイドを付加した化合物を使用することもできる。前記低分子量2価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等が挙げられる。
【0028】
前記ポリエステル系ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、分子量300~1000のポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン又はこれらのアルキレンオキサイド付加体等のジオール成分と、ダイマー酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、無水マレイン酸、フマル酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、1,2-ビスフェノキシエタン-p,p’-ジカルボン酸、ジカルボン酸の無水物又はエステル形成性誘導体等のジカルボン酸成分との脱水縮合反応によって得られるポリエステル系ポリオール、ε-カプロラクトン等の環状エステル化合物の開環重合反応により得られるポリエステル系ポリオール、これらを共重合したポリエステル系ポリオール等が挙げられる。
【0029】
前記その他のポリカーボネート系ポリオールとしては、例えば、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、ジエチレングリコール等の炭素数が偶数のグリコールと、ジフェニルカーボネート、ホスゲン等との反応によって得られるポリカーボネート系ポリオール等が挙げられる。
【0030】
前記低分子量ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ノナンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。
【0031】
これらのその他のポリオールは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0032】
(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物
本発明に用いられる(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物は、カルボキシ基、カルボキシレート基、スルホ基、スルホネート基等のアニオン性親水基とヒドロキシ基等の活性水素含有基2個以上とを有する化合物である。この(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物を共重合させることによって、自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂が得られる。前記(c)化合物としては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロール吉草酸、ジヒドロキシマレイン酸、2,6-ジヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。
【0033】
また、前記(A)水性ポリウレタン樹脂中の前記アニオン性親水基の含有量としては、乳化安定性、貯蔵安定性及び皮革の耐屈曲性の観点から、0.3~3.0質量%が好ましく、0.5~2.5質量%がより好ましい。アニオン性親水基の含有量が前記下限未満になると、水性ポリウレタン樹脂の乳化安定性及び貯蔵安定性が低下する傾向にあり、水性ポリウレタン樹脂を安定に使用することができない場合があり、他方、前記上限を超えると、水性ポリウレタン樹脂が硬くなり過ぎる傾向にあり、皮革の耐屈曲性が低下するおそれがある。
【0034】
(d)多価アルコール
本発明に用いられる(d)多価アルコールは、少なくとも3個以上の活性水素を有する多価アルコールを含むものである。このような多価アルコールとしては、例えば、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の3価以上の低分子多価アルコールが挙げられる。また、このような3価以上の低分子多価アルコール又は低分子ポリアルキレンポリアミンに1種又は2種以上のアルキレンオキサイドを付加した分子量500以下の化合物等も前記(d)多価アルコールとして使用することができる。前記低分子量ポリアルキレンポリアミンとしては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等が挙げられる。前記アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられる。このような多価アルコールのうち、皮革の耐摩耗性と耐屈曲性の観点から、3~4価の多価アルコールが好ましく、3価の多価アルコールがより好ましい。
【0035】
また、前記(A)水性ポリウレタン樹脂において、前記(b)ポリオール、前記(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物及び前記(d)多価アルコールの合計量に対する前記(d)多価アルコールの割合としては、皮革の耐摩耗性と耐屈曲性の観点から、0.1~1.5質量%が好ましく、0.3~1.1質量%がより好ましい。(d)多価アルコールの割合が前記下限未満になると、水性ポリウレタン樹脂の架橋密度が低くなる傾向にあり、皮革の耐摩耗性が不足するおそれがあり、他方、前記上限を超えると、水性ポリウレタン樹脂の架橋密度が高くなり過ぎる傾向にあり、皮革の耐屈曲性が低下するおそれがある。
【0036】
(e)ポリアミン
本発明に用いられる(e)ポリアミンは、アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するものである。このようなポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ヒドラジン、2-メチルピペラジン、イソホロンジアミン、ノルボランジアミン、ジアミノジフェニルメタン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン等のジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン等のポリアミン;ジ第一級アミン及びモノカルボン酸から誘導されるアミドアミン;ジ第一級アミンのモノケチミン等の水溶性アミン誘導体;シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、1,1’-エチレンヒドラジン、1,1’-トリメチレンヒドラジン、1,1’-(1,4-ブチレン)ジヒドラジン等のヒドラジン誘導体が挙げられる。これらのポリアミンは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、このような(e)ポリアミンの使用量としては、後述するイソシアネート基末端プレポリマーの遊離イソシアネート基に対して、0.8~1.2当量のアミノ基等を含む量が好ましい。
【0037】
(イソシアネート基末端プレポリマー)
本発明に用いられるイソシアネート基末端プレポリマーは、前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール、前記(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物及び前記(d)多価アルコールの反応生成物である。
【0038】
このようなイソシアネート基末端プレポリマーの製造方法は特に制限はなく、例えば、従来公知の一段式のいわゆるワンショット法、多段式のイソシアネート重付加反応法が挙げられる。反応温度としては40~150℃が好ましい。この際、必要に応じて、ジブチル錫ジラウレート、スタナスオクトエート、ジブチル錫ジ-2-エチルヘキソエート、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N-メチルモルホリン、ビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)等の反応触媒、あるいは燐酸、燐酸水素ナトリウム、パラトルエンスルホン酸、アジピン酸、塩化ベンゾイル等の反応抑制剤を添加してもよい。
【0039】
また、反応中又は反応終了後に、イソシアネート基と反応しない有機溶剤を添加してもよい。このような有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、塩化メチレン等が挙げられる。これらの有機溶剤のうち、メチルエチルケトン、トルエン、酢酸エチルが特に好ましい。また、これらの有機溶剤は、プレポリマーの乳化分散及び鎖伸長後、加熱減圧することによって除去することができる。
【0040】
イソシアネート基末端プレポリマーの製造に際しては、原料のイソシアネート基と水酸基とのモル比(NCO/OH)が、2.0/1.0~1.1/1.0であることが好ましく、1.7/1.0~1.25/1.0であることがより好ましい。原料のイソシアネート基と水酸基とのモル比を前記範囲内に調整することによって、所望の遊離イソシアネート基含有量を有するイソシアネート基末端プレポリマーを得ることができる。一方、原料のイソシアネート基と水酸基とのモル比が前記下限未満になると、遊離イソシアネート基の含有量が低下し過ぎる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、遊離イソシアネート基の含有量が増大し過ぎる傾向にある。
【0041】
このようにして得られるイソシアネート基末端プレポリマーにおける遊離イソシアネート基の含有量としては、0.2~4.0質量%が好ましく、0.6~3.0質量%がより好ましい。前記遊離イソシアネート基含有量が前記下限未満になると、製造時のイソシアネート基末端プレポリマーの粘度が著しく上昇する傾向にあり、多量の有機溶剤が必要となり、コスト的に不利となったり、乳化分散が困難となる傾向にある。他方、前記遊離イソシアネート基含有量が前記上限を超えると、乳化分散後と(e)ポリアミンによる鎖伸長後の水溶性のバランスが大きく変化する傾向にあり、水性ポリウレタン樹脂の経時貯蔵安定性又は加工安定性が低下する場合がある。また、皮革の耐屈曲性が低下するおそれがある。
【0042】
なお、前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール、前記(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物及び前記(d)多価アルコールは、いずれも反応点が複数存在するものであり、このような(a)有機ポリイソシアネート、(b)ポリオール、(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物及び(d)多価アルコールを反応させることによって得られる前記イソシアネート基末端プレポリマーは、構造が複雑であり、一般式(構造式)で直接表すことは不可能である。
【0043】
(イソシアネート基末端プレポリマーの中和物)
本発明に用いられるイソシアネート基末端プレポリマーの中和物は、前記イソシアネート基末端プレポリマー中のアニオン性親水基が中和されたものである。このようなイソシアネート基末端プレポリマーの中和物は、(i)前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール、前記(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物及び前記(d)多価アルコールを反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマー中のアニオン性親水基を公知の方法で中和することによって製造してもよいし、(ii)前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール、前記(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物及び前記(d)多価アルコールを混合した後、前記(c)化合物中のアニオン性親水基を公知の方法で中和し、次いで、この中和した前記(c)化合物、前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール及び前記(d)多価アルコールを反応させることによって製造してもよい。また、前記イソシアネート基末端プレポリマーの中和物は、(iii)前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール、前記アニオン性親水基がアニオン性親水基の塩である前記(c)化合物及び前記(d)多価アルコールを反応させることによって製造することもできる。
【0044】
前記(i)及び(ii)の製造方法において、アニオン性親水基の中和に用いられる塩基性化合物としては特に制限はなく、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリブチルアミン、N-メチル-ジエタノールアミン、N,N-ジメチルモノエタノールアミン、N,N-ジエチルモノエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物;アンモニア等が挙げられる。これらの中でも、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリブチルアミン等の第3級アミン類が特に好ましい。
【0045】
前記(i)及び(ii)の製造方法におけるアニオン性親水基の中和に際して、前記中和用塩基性化合物の使用量としては、アニオン性親水基に対して、0.5~1.5当量が好ましく、0.6~1.4当量がより好ましく、0.7~1.3当量が特に好ましい。前記中和用塩基性化合物の使用量が前記下限未満になると、水性ポリウレタン樹脂の乳化性及び保存安定性が低下する傾向にある。他方、前記上限を超える量の前記中和用塩基性化合物を添加しても、水性ポリウレタン樹脂の乳化性や保存安定性がそれ以上向上しないため、経済的に好ましくない。
【0046】
(水性ポリウレタン樹脂)
前記(A)水性ポリウレタン樹脂は、前記イソシアネート基末端プレポリマーの中和物を、前記(e)ポリアミンを用いて鎖伸長させたもの(鎖伸長物)である。
【0047】
(乳化分散)
前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物の鎖伸長に際しては、先ず、前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物を水に乳化分散させる。乳化分散の方法としては特に制限はなく、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、ディスパー等を用いた従来公知の方法が挙げられる。前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物は、特に乳化剤を添加しなくても、0~40℃の範囲内の温度で水に乳化分散させることが可能である。これにより、イソシアネート基と水との反応を抑制することができる。また、前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物を乳化分散させる際には、必要に応じて、燐酸、燐酸二水素ナトリウム、燐酸水素二ナトリウム、パラトルエンスルホン酸、アジピン酸、塩化ベンゾイル等の反応抑制剤を添加してもよい。
【0048】
(鎖伸長)
次に、このようにして水に乳化分散させた前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物を、前記(e)ポリアミンを用いて鎖伸長させることにより、前記(A)水性ポリウレタン樹脂が形成される。
【0049】
鎖伸長の方法としては特に制限はなく、例えば、前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物の乳化分散物に前記(e)ポリアミンを添加して鎖伸長する方法、或いは、前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物の乳化分散物を前記(e)ポリアミンに添加して鎖伸長する方法が好ましい。前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物とアミンとの反応は、20~50℃の反応温度で、通常、前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物と前記(e)ポリアミンとの混合後、30~120分間で完結する。
【0050】
このような鎖伸長は、前記乳化分散と同時に行ってもよいし、前記乳化分散の後に行ってもよいし、前記乳化分散の前に行ってもよい。また、得られた水性ポリウレタン樹脂に有機溶剤が含まれる場合には、減圧下、30~80℃の温度で前記有機溶剤を除去することが好ましい。
【0051】
なお、前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール、前記(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物及び前記(d)多価アルコールと同様に、前記(e)ポリアミンも反応点が複数存在するものであり、このような(e)ポリアミンを用いて前記イソシアネート基末端プレポリマーの中和物を鎖伸長させることにより得られる前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物の鎖伸長物((A)水性ポリウレタン樹脂)も、前記イソシアネート基末端プレポリマーと同様に、構造が複雑であり、一般式(構造式)で直接表すことは不可能である。
【0052】
このようにして得られた前記(A)水性ポリウレタン樹脂は、水に乳化分散させた状態で使用することが好ましく、その樹脂分濃度としては特に制限はないが、20~60質量%が好ましい。このような(A)水性ポリウレタン樹脂の水乳化分散物における樹脂分濃度は、水を追加又は除去することによって調整することができる。
【0053】
(B)アクリル系樹脂
本発明に用いられる(B)アクリル系樹脂としては、アクリル系モノマーの単独重合体及び共重合体が挙げられる。前記アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸及びその誘導体が挙げられる。ここで、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸を表す。また、これらのアクリル系モノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0054】
前記(B)アクリル系樹脂に用いられる共重合モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸アミド等のアクリルアミド類;ビニルピロリドン等の複素環式ビニル化合物;塩化ビニル、アクリロニトリル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルアミド等のビニル化合物;エチレン、プロピレン等のα-オレフィン;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びそれらの誘導体等が挙げられる。これらの共重合モノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0055】
前記(B)アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)としては、-40~+50℃が好ましく、-20~+30℃がより好ましく、-10~+20℃が最も好ましい。アクリル系樹脂のTgが前記下限未満になると、皮革の耐摩耗性及び防汚性能が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、皮革の耐摩耗性及び防汚性能は向上する傾向にあるものの、耐屈曲性が低下する傾向にある。
【0056】
本発明の表面処理剤においては、前記(B)アクリル系樹脂として、市販のアクリル系樹脂を用いることができる。市販のアクリル系樹脂としては、サイビノールEC-065(Tg=5℃)、サイビノールEC-071(Tg=-20℃)、サイビノールEC-064(Tg=-40℃)、サイビノールUC-6600(Tg=50℃)、サイビノールEC-2020(Tg=17℃)(以上、サイデン化学株式会社製)、DURAFLEX 84S(Tg=0℃)、ORGAL P036V(Tg=0℃)、ORGAL D55HC(Tg=-3℃)、ORGAL DCS80(Tg=-16℃)(以上、ORGANIK KIMYA社製)、トークリルBCX-8111(Tg=-30℃)、トークリルW-168(Tg=-10℃)、トークリルX-4403(Tg=-7℃)、トークリルW463(Tg=11℃)、トークリルBCX-1160R-2(Tg=12℃)、トークリルBCX-8104(Tg=29℃)、トークリルX-4402(Tg=35℃)(以上、トーヨーケム株式会社製)等が挙げられる。
【0057】
(C)含フッ素化合物
本発明に用いられる(C)含フッ素化合物としては、含フッ素炭化水素基(例えば、フルオロアルキル基(好ましくは炭素数1~6)、フルオロアルケニル基(好ましくは炭素数2~6)、好ましくは、パーフルオロアルキル基(より好ましくは炭素数1~6)、パーフルオロアルケニル基(より好ましくは炭素数2~6))を有する化合物であれば特に制限はないが、前記含フッ素炭化水素基を有するフッ素系モノマーから誘導される繰返し単位を含むフッ素系重合体が好ましい。前記フッ素系重合体は、前記フッ素系モノマーの単独重合体であっても共重合体であってもよく、前記フッ素系モノマーの共重合体は、2種以上の前記フッ素系モノマーの共重合体であっても1種以上の前記フッ素系モノマーと1種以上の非フッ素系モノマーとの共重合体であってもよい。
【0058】
また、本発明に用いられる(C)含フッ素化合物は、以下の撥水試験において、撥水性能が3級以上の性能を有するものである。
【0059】
<撥水試験>
染色したポリエステル100%布(目付100g/m)に対して、(C)含フッ素化合物の付着量が10質量%となるように調整した水溶液を用いて浸漬処理(ピックアップ率60%)を施した後、130℃で1分間乾燥処理を施し、さらに180℃で30秒間加熱処理を施す。次に、得られた処理布に対して、JIS L1092(2009) 7.2 はっ水度試験(スプレー試験)に記載の方法に従って、撥水試験を行い、下記基準で処理布の撥水性能を評価する。
【0060】
(撥水性評価基準)
5級:処理布の表面に湿潤及び水滴の付着がないもの。
4級:処理布の表面にわずかに湿潤及び水滴の付着を示すもの。
3級:処理布の表面に部分的に湿潤を示すもの。
2級:処理布の表面に湿潤を示すもの。
1級:処理布の表裏面に完全に湿潤を示すもの。
【0061】
前記フッ素系モノマーとしては、前記含フッ素炭化水素基と重合性官能基とを有するモノマーが好ましく、前記重合性官能基としては、アクリル酸基、メタクリル酸基、α-置換アクリル酸基が好ましい。なお、α-置換アクリル酸基とは、アクリル酸基のα位の炭素原子に結合している水素原子が、ハロゲン原子、シアノ基、トリフルオロメチル基等で置換された基を意味する。
【0062】
このようなフッ素系モノマーとしては、下記式(1):
CH=C(-X)-C(=O)-Y-Z-R (1)
で表される化合物が好ましい。
【0063】
前記式(1)において、Xは、水素原子、ハロゲン原子(好ましくは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、又は1価の有機基を表し;前記1価の有機基としては、炭素数1~21(より好ましくは炭素数1~10、更に好ましくは炭素数1~5)の直鎖状又は分岐状のアルキル基、-CFX基(X及びXは水素原子又はハロゲン原子(より好ましくは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)を表す)、シアノ基、炭素数1~21(より好ましくは炭素数1~10、更に好ましくは炭素数1~5)の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、置換又は非置換のベンジル基、置換又は非置換のフェニル基が好ましい。これらのうち、Xとしては、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メチル基、シアノ基、トリフルオロメチル基が好ましく;塩素原子がより好ましい。
【0064】
Yは、-O-又は-NH-を表し;-O-であることが好ましい。
【0065】
Zは、直接結合又は2価の有機基を表し;前記2価の有機基としては、炭素数1~20(より好ましくは炭素数1~10、更に好ましくは炭素数1~4、特に好ましくは炭素数1~2)の直鎖状又は分岐状の2価の脂肪族基(より好ましくは飽和脂肪族基)、炭素数6~18(より好ましくは炭素数6~12)の2価の置換又は非置換の芳香族基、炭素数3~18(より好ましくは炭素数6~18、更に好ましくは炭素数6~12)の2価の置換又は非置換の環状脂肪族基、-RN(R)-Z-基(Rは炭素数1~10(より好ましくは炭素数1~4、更に好ましくは炭素数1~2)の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表し、Rは炭素数1~10(より好ましくは炭素数1~4)の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、Zは-SO-又は-C(=O)-を表す)、-CHCH(OZ)CH-(Ar-O)-基(Zは水素原子又は炭素数1~10(より好ましくは炭素数1~4)のアシル基(ホルミル基、アセチル基等)を表し、Arは炭素数6~18(より好ましくは炭素数6~12)の置換又は非置換のアリーレン基を表し、pは0又は1である)、-(CH-Ar-(O)-基(Arは炭素数6~18(より好ましくは炭素数6~12)の置換又は非置換のアリーレン基を表し、nは0~10(より好ましくは0~5)の整数であり、qは0又は1である)、-(CH-Z-(CH-基(Zは-SO-又は-S-を表し、mは1~10(より好ましくは1~5)の整数であり、nは0~10(より好ましくは0~5)の整数である)が好ましい。これらのうち、Zとしては、炭素数1~10(更に好ましくは炭素数1~4、特に好ましくは炭素数1~2)の直鎖状又は分岐状の2価の脂肪族基(更に好ましくは飽和脂肪族基)、炭素数6~18(更に好ましくは炭素数6~12)の2価の置換又は非置換の芳香族基、炭素数6~18(更に好ましくは炭素数6~12)の2価の置換又は非置換の環状脂肪族基、-CHCHN(R)-SO-基(Rは炭素数1~4の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表す)、-CHCH(OZ)CH-(Ph-O)-基(Zは水素原子又はアセチル基を表し、Phはフェニレン基を表し、pは0又は1である)、-(CH-Ph-O-基(Phはフェニレン基を表し、nは0~10(更に好ましくは0~5)の整数である)、-(CH-Z-(CH-基(Zは-SO-又は-S-を表し、mは1~10(更に好ましくは1~5)の整数であり、nは0~10(更に好ましくは0~5)の整数である)がより好ましい。
【0066】
は、炭素数1~20(好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~6、更に好ましくは炭素数4~6、特に好ましくは炭素数6)の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基(好ましくはパーフルオロアルキル基)を表す。
【0067】
前記非フッ素系モノマーとしては、フッ素原子を含有しない、重合性官能基を有するモノマーであり、前記重合性官能基としては、アクリル酸基、メタクリル酸基、α-置換アクリル酸基等のエチレン性不飽和二重結合を有する官能基が好ましい。なお、α-置換アクリル酸基とは、アクリル酸基のα位の炭素原子に結合している水素原子が、フッ素原子以外のハロゲン原子、シアノ基等で置換された基を意味する。
【0068】
本発明の表面処理剤においては、前記(C)含フッ素化合物として、市販の含フッ素化合物を用いることができる。市販の含フッ素化合物としては、NKガードS-0671、NKガードS-0521、NKガードS-05、NKガードS-0543、NKガードS-740、NKガードS-0546、NKガードS-0545、NKガードS-1115、NKガードS-0672(以上、日華化学株式会社製)、ユニダインTG-5574、ユニダインTG-4575、ユニダインTG-5543、ユニダインTG-5546、ユニダインTG-5545、ユニダインTG-5601、ユニダインTG-5541、ユニダインTG-4571、ユニダインTG-6071、ユニダインTG-6501、ユニダインTG-5671、ユニダインTG-5672、ユニダインTG-5673、ユニダインTG-9011(以上、ダイキン工業株式会社製)、アサヒガードAG-E060、アサヒガードAG-E061、アサヒガードAG-7000、アサヒガードAG-950、アサヒガードAG-E081、アサヒガードAG-E082、アサヒガードAG-E092、アサヒガードAG-E500D(以上、AGC株式会社製)、マックスガードFX-850、マックスガードFX-860、マックスガードFX-880(以上、株式会社京絹化成製)、パラガードAF660(大原パラヂウム化学株式会社製)、NUVA2114(クラリアントジャパン株式会社製)、スコッチガードPM3622、スコッチガードPM490、スコッチガードPM930(以上、スリーエム株式会社製)等が挙げられる。
【0069】
(D)親水性化合物
本発明に用いられる(D)親水性化合物としては、ポリエステル系親水性化合物、前記(A)水性ポリウレタン樹脂以外のウレタン系親水性化合物、シリコーン系親水性化合物、水溶性高分子化合物等が挙げられる。
【0070】
また、本発明に用いられる(D)親水性化合物は、濃度が10質量%となるように前記(D)親水性化合物を溶解した水溶液を、ポリエステル紗(目開き79μm)を用いて濾過した場合に残渣が認められないものである。
【0071】
このような親水性化合物の中でも、ポリエステル系親水性化合物が好ましく、多価カルボン酸成分単位又はそのエステル形成性誘導体成分単位と多価アルコール成分単位とを含む親水性ポリエステル共重合体がより好ましく、前記親水性ポリエステル共重合体の連鎖単位に芳香族環を有するものが更に好ましい。芳香族環を有する親水性ポリエステル共重合体としては、芳香族多価カルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と多価アルコールとの共重合体が挙げられる。
【0072】
前記芳香族多価カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。前記芳香族多価カルボン酸のエステル形成性誘導体としては、前記芳香族多価カルボン酸の低級アルキルエステル(例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ジブチルエステル等)、前記芳香族多価カルボン酸の塩(例えば、塩化物等)、無水フタル酸等が挙げられる。
【0073】
また、前記芳香族多価カルボン酸として、スルホン酸塩基を有する芳香族多価カルボン酸を使用していてもよい。スルホン酸塩基を有する芳香族多価カルボン酸としては、スルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸(例えば、スルホテレフタル酸、5-スルホイソフタル酸、4-スルホフタル酸、5-スルホイソフタル酸、4-スルホナフタレン-2,7-ジカルボン酸、5-(4-スルホフェノキシ)イソフタル酸等)のスルホン酸金属塩(好ましくは、ナトリウム塩、カリウム塩)、前記スルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステルのスルホン酸金属塩(好ましくは、ナトリウム塩、カリウム塩)等が挙げられる。
【0074】
このような芳香族多価カルボン酸(スルホン酸塩基を有する芳香族多価カルボン酸を含む)及びそのエステル形成性誘導体は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、親水性ポリエステル共重合体の水溶性又は乳化分散性、皮革の防汚性能が向上するという観点から、スルホン酸塩基を有しない芳香族多価カルボン酸とスルホン酸塩基を有する芳香族多価カルボン酸とを併用することがより好ましい。
【0075】
前記多価アルコールとしては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、2-メチル-1,3-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-3-ヒドロキシプロピル-2,2’-ジメチル-3-ヒドロキシプロパネート、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、3-エチル-1,5-ペンタンジオール、3-プロピル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、3-オクチル-1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、分子量300~10000のポリエチレングリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのランダム状又はブロック状共重合体等の脂肪族ジオール類;1,3-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(ヒドロキシエチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(ヒドロキシプロピル)シクロヘキサン、1,4-ビス(ヒドロキシメトキシ)シクロヘキサン、1,4-ビス(ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシメトキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシシクロヘキシル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、3(4),8(9)-トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール等の脂環族ジオール;ビスヒドロキシエトキシベンゼン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ハイドロキノン等の芳香族ジオール;これらのアルキレンオキシド付加物等が挙げられる。これらの多価アルコールは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、このような多価アルコールのうち、親水性ポリエステル共重合体の乳化分散物が経時的に安定であるという観点から、ポリエチレングリコール等のオキシエチレン基を有するジオールが好ましい。
【0076】
前記ポリエステル系親水性化合物の重量平均分子量としては、1000~200000が好ましく、10000~50000がより好ましい。ポリエステル系親水性化合物の重量平均分子量が前記下限未満になると、皮革のSR性が十分に発揮されないおそれがあり、他方、前記上限を超えると、ポリエステル系親水性化合物の粘度が高くなり過ぎて、容易に取り扱うことが困難となるおそれがある。
【0077】
本発明の表面処理剤においては、前記(D)親水性化合物として、市販の親水性化合物を用いることができる。市販の親水性化合物としては、ナイスポールPR-99、ナイスポールPR-9000、ナイスポールPRK-60(以上、日華化学株式会社製)、Hydroperm NIOPOs(Archroma社製)等が挙げられる。
【0078】
<表面処理剤>
本発明の表面処理剤は、前記(A)水性ポリウレタン樹脂と前記(B)アクリル系樹脂と前記(C)含フッ素化合物と前記(D)親水性化合物とを含有するものである。このような表面処理剤を用いて皮革用基材の表面を処理することによって、前記皮革用基材の表面に前記表面処理剤により表面処理層が形成されるため、色や光沢、風合い、触感等が調整されるとともに、耐屈曲性が損なわれることなく、耐摩耗性が向上し、さらに、SG性とSR性とを併せ持つ防汚性能が向上する。
【0079】
本発明の表面処理剤において、前記(A)水性ポリウレタン樹脂と前記(B)アクリル系樹脂との質量比としては、(A):(B)=20:80~80:20が好ましく、(A):(B)=35:65~65:35がより好ましい。前記(B)アクリル系樹脂の含有量が前記下限未満になると、皮革の防汚性能が低下するおそれがあり、他方、前記上限を超えると、皮革の防汚性能は向上する傾向にあるものの、皮革用基材と表面処理剤により形成された表面処理層との密着性が低下し、皮革の耐屈曲性が低下するおそれがある。
【0080】
また、本発明の表面処理剤において、前記(C)含フッ素化合物の含有量としては、前記(A)水性ポリウレタン樹脂と前記(B)アクリル系樹脂との合計量100質量部に対して、10~100質量部が好ましく、30~70質量部がより好ましい。前記(C)含フッ素化合物の含有量が前記下限未満になると、皮革のSG性が低下するおそれがあり、他方、前記上限を超えると、皮革の耐屈曲性、SR性及び触感のうちの少なくとも1つの性能が低下するおそれがある。
【0081】
さらに、本発明の表面処理剤において、前記(D)親水性化合物の含有量としては、前記(A)水性ポリウレタン樹脂と前記(B)アクリル系樹脂との合計量100質量部に対して、5~50質量部が好ましく、15~40質量部がより好ましい。前記(D)親水性化合物の含有量が前記下限未満になると、皮革のSR性が低下するおそれがあり、他方、前記上限を超えると、皮革のSG性が低下したり、皮革表面にヌメリやタックが出現したり、塗工面に水を滴下した場合に輪ジミ(きわつき)が発生したりするおそれがある。
【0082】
また、本発明の表面処理剤においては、前記成分(A)~(D)のほかに、本発明の効果を損なわない範囲において、艶消し剤、平滑剤、増粘剤、架橋剤、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、粘弾性調整剤、湿潤剤、分散剤、防腐剤、膜形成剤、可塑剤、浸透剤、香料、殺菌剤、殺ダニ剤、防カビ剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料等の各種添加剤を配合することができる。
【0083】
(艶消し剤)
本発明の表面処理剤においては、皮革表面の艶感・光沢を調整するために、艶消し剤を配合してもよい。このような艶消し剤としては、例えば、有機ビーズ、シリカ粒子、タルク、水酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、アルミナシリケート、カオリン、雲母、及びマイカ等が挙げられる。これらの艶消し剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0084】
前記有機ビーズとしては、例えば、ウレタンビーズ、アクリルビーズ、シリコーンビーズ、オレフィンビーズ、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等が挙げられる。また、前記シリカ粒子としては、乾式シリカ、湿式シリカ等が挙げられ、中でも、散乱効果が高く、グロス値の調整を少量で行うことができるという観点から、乾式シリカが好ましい。乾式シリカの平均粒子径(平均二次粒子径)としては、4~15μmが好ましく、5~12μmがより好ましい。
【0085】
このような艶消し剤の配合量としては、皮革表面のマット感(艶感・光沢)に応じて適量を用いればよいが、通常、前記(A)水性ポリウレタン樹脂と前記(B)アクリル系樹脂との合計量100質量部に対して、1~150質量部が好ましく、5~120質量部がより好ましく、7~100質量部が更に好ましい。
【0086】
(平滑剤)
本発明の表面処理剤においては、皮革表面の平滑性及び耐摩耗性を向上させるために、平滑剤を配合してもよい。このような平滑剤としては、例えば、ポリジメチルシリコーン、ハイドロジェン変性シリコーン、ビニル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン、ハロゲン化変性シリコーン、メタクリロキシ変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、フッ素変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、フェニル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン等が挙げられる。これらの平滑剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの平滑剤の中でも、耐摩耗性の向上効果が大きいという観点から、ポリジメチルシリコーン及びエポキシ変性シリコーンが好ましい。
【0087】
本発明の表面処理剤においては、このような平滑剤として市販のものを用いることができる。前記ポリジメチルシリコーンの乳化物の市販品としては、例えば、DOWSIL SM490EX、DOWSIL SM-8706EX、DOWSIL IE-7046T、DOWSIL FBL-3289、DOWSIL Q2-3238(以上、ダウ・東レ株式会社製)、KM-752T、KM-862T、KM-9737A、POLON MF-33(以上、信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。また、前記エポキシ変性シリコーンの乳化物の市販品としては、例えば、DOWSIL SM-8701(ダウ・東レ株式会社製)、POLON MF-18T、X-51-1264(以上、信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0088】
このような平滑剤の配合量(不揮発分の配合量)としては、皮革表面の平滑性及び耐摩耗性に応じて適量を用いればよいが、通常、前記(A)水性ポリウレタン樹脂と前記(B)アクリル系樹脂との合計量100質量部に対して、1~150質量部が好ましく、5~120質量部がより好ましく、7~100質量部が更に好ましい。
【0089】
(増粘剤)
本発明の表面処理剤においては、適切な粘度に調整するために、増粘剤を配合してもよい。このような増粘剤としては、例えば、アルカリ増粘型アクリル樹脂、会合型増粘剤、水溶性有機高分子等が挙げられる。これらの増粘剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0090】
本発明の表面処理剤においては、前記アルカリ増粘型アクリル樹脂として市販のものを用いることができる。前記アルカリ増粘型アクリル樹脂の市販品としては、例えば、ニカゾールVT-253A(日本カーバイド工業株式会社製)、アロンA-20P、アロンA-7150、アロンA-7070、アロンB-300、アロンB-300K、アロンB-500(以上、東亞合成株式会社製)、ジュリマーAC-10LHP、ジュリマーAC-10SHP、レオジック835H、ジュンロンPW-110、ジュンロンPW-150(以上、日本純薬株式会社製)、プライマルASE-60、プライマルTT-615、プライマルRM-5(以上、ローム・アンド・ハース・ジャパン株式会社製)、SNシックナーA-818、SNシックナーA-850(以上、サンノプコ株式会社製)、パラガム500(パラケム・サザン株式会社製)、レオレート430(エレメンティス・ジャパン株式会社製)、ネオステッカーV-420(日華化学株式会社製)等が挙げられる。このようなアルカリ増粘型アクリル樹脂は、通常、樹脂の乳化分散物として市販されており、乳化分散させた状態で使用することが好ましい。
【0091】
また、本発明の表面処理剤においては、前記会合型増粘剤として市販のものを用いることができる。前記会合型増粘剤の市販品としては、例えば、アデカノールUH-450、アデカノールUH-540、アデカノールUH-752(以上、旭電化工業株式会社製)、SNシックナー601、SNシックナー612、SNシックナー621N、SNシックナー623N、SNシックナー660T(以上、サンノプコ株式会社製)、レオレート244、レオレート278、レオレート300(以上、エレメンティス・ジャパン株式会社製)、DKシックナーSCT-275(第一工業製薬株式会社製)等が挙げられる。
【0092】
前記水溶性有機高分子としては、例えば、天然水溶性有機高分子、半合成水溶性有機高分子、合成水溶性有機高分子が挙げられる。前記天然水溶性有機高分子としては、ばれいしょデンプン、かんしょデンプン、小麦デンプン、米デンプン、タピオカデンプン、コーンスターチ等のデンプン類;アラビアガム、トラガカントガム、カラヤガム、トロロアオイ等の樹脂多糖類;アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、寒天(ガラクタン)、ふのり等の海藻多糖類;キサンタンガム、プルラン、カードラン、デキストリン、レバン等の微生物発酵多糖類;カゼイン、ゼラチン、アラブミン、にかわ、コラーゲン等のタンパク質;ペクチン、キチン、キトサン等が挙げられる。
【0093】
前記半合成水溶性有機高分子としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、セルロース硫酸エステルナトリウム等のセルロース誘導体;デキストリン、可溶性デンプン、酸化デンプン、カルボキシメチルデンプン、ヒドロキシエチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ジアルデヒドデンプン、リン酸デンプン、アセチルデンプン等のデンプン誘導体;アルギン酸プロピレングリコールエステル等が挙げられる。
【0094】
前記合成水溶性有機高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルキルエーテル、無水マレイン酸共重合体、マレイン酸共重合体、マレイン酸塩共重合体等が挙げられる。
【0095】
このような増粘剤の配合量(不揮発分の配合量)としては、表面処理剤の粘度に応じて適量を用いればよいが、通常、前記(A)水性ポリウレタン樹脂と前記(B)アクリル系樹脂との合計量100質量部に対して、0.5~40質量部が好ましく、1~30質量部がより好ましく、2~20質量部が更に好ましい。
【0096】
(架橋剤)
本発明の表面処理剤においては、皮革の耐水性及び耐久性を向上させるために、架橋剤を配合してもよい。このような架橋剤としては、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、ブロックイソシアネート系架橋剤、水分散イソシアネート系架橋剤、メラミン系架橋剤等が挙げられる。これらの架橋剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの架橋剤の中でも、風合い、加工液の安定性の観点から、カルボジイミド系架橋剤を配合することが特に好ましい。
【0097】
本発明の表面処理剤においては、このような架橋剤として市販のものを用いることができる。前記カルボジイミド系架橋剤の市販品としては、例えば、カルボジライトE-02、カルボジライトSV-02、カルボジライトV02-L2、カルボジライトV-10(以上、日清紡ケミカル株式会社製)、NKアシストCI-02(日華化学株式会社製)等が挙げられる。
【0098】
このような架橋剤の配合量(不揮発分の配合量)としては、皮革の耐摩耗性及び耐屈曲性の観点から、前記(A)水性ポリウレタン樹脂と前記(B)アクリル系樹脂との合計量100質量部に対して、1~15質量部が好ましく、2~10質量部がより好ましい。
【0099】
〔皮革〕
本発明の皮革は、皮革用基材と、前記基材の表面に前記本発明の表面処理剤により形成された表面処理層とを備えるものである。前記皮革用基材としては、ポリウレタン樹脂(PU)からなる表皮層を有する皮革、ポリ塩化ビニル(PVC)レザー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)等の擬似レザー、合成皮革、人工皮革、天然皮革等が挙げられる。また、このような皮革用基材を用いた皮革製品としては、車両用内装材、オートバイのシート・グリップ、靴、カバン、衣料、サニタリー用品、屋外用テント、家具等が挙げられる。
【0100】
前記皮革用基材の表面に前記表面処理層を形成する方法としては特に制限はなく、例えば、前記皮革用基材の表面に前記表面処理剤を塗工した後、乾燥することによって前記表面処理層を形成することができる。
【0101】
前記表面処理剤の塗工方法としては、例えば、前記表面処理剤を、グラビアコーター、バーコーター、コンマコーター、ブレードコーター、エアーナイフコーター等の各種コーターを用いて前記皮革用基材の表面に塗布する方法;前記表面処理剤を前記皮革用基材の表面に噴霧する方法;前記表面処理剤に前記皮革用基材を浸漬する方法等が挙げられるが、グラビアコーターによるダイレクトコート法、リバースコート法がより好ましい。前記表面処理剤の塗工量としては、乾燥後の塗布量が4~40g/mとなる量が好ましく、6~30g/mとなる量がより好ましい。
【0102】
塗工した前記表面処理剤の乾燥方法としては特に制限はなく、例えば、40~160℃の範囲内の温度で30秒~10分間乾燥することが好ましく、80~130℃の範囲内の温度で30秒~2分間乾燥することがより好ましい。また、乾燥後に20~100℃の範囲内の温度で5~72時間のエージング処理を行うことが好ましい。
【実施例0103】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、合成例における遊離イソシアネート基含有量は以下の方法により測定した。
【0104】
(遊離イソシアネート基含有量)
ウレタンプレポリマー0.3gを三角フラスコに採取し、0.1Nジブチルアミントルエン溶液10mlを加えてウレタンプレポリマーを溶解させた。次いで、ブロモフェノールブルー液を数滴加え、0.1N塩酸メタノール溶液で滴定し、下記式:
NCO%=(a-b)×0.42×f/x
(前記式中、a:0.1Nジブチルアミントルエン溶液10mlのみを滴定した場合の0.1N塩酸メタノール液の滴定量、b:ウレタンプレポリマーを溶解させた溶液を滴定した場合の0.1N塩酸メタノール液の滴定量、f:0.1N塩酸メタノール液のファクター、x:ウレタンプレポリマー量)
により遊離イソシアネート基含有量NCO%を求めた。
【0105】
また、合成例で使用した各原料を以下に示す。
【0106】
<有機ポリイソシアネート>
H12MDI:ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアナート(コベストロ社製「デスモジュールW」)。
IPDI:イソホロンジイソシアナート(エボニックジャパン株式会社製「VESTANAT(R)IPDI」)。
1,5-PDI:1,5-ペンタメチレンジイソシアネート。
HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート。
MDI:ジフェニルメタンジイソシアネート。
【0107】
<ポリオール>
T5652:旭化成ケミカルズ株式会社製ポリカーボネートジオール(1,5-ペンタンジオール/1,6-ヘキサンジオール)、商品名「デュラノールT5652」、重量平均分子量2000。
T5651:旭化成ケミカルズ株式会社製ポリカーボネートジオール(1,5-ペンタンジオール/1,6-ヘキサンジオール)、商品名「デュラノールT5651」、重量平均分子量1000。
C2090:株式会社クラレ製ポリカーボネートジオール(3メチル-1,5-ペンタンジオール/1,6-ヘキサンジオール)、商品名「クラレポリオールC-2090」、重量平均分子量2000。
UP200:宇部興産株式会社製ポリカーボネートジオール(2-メチル-1,3-プロパンジオール)、商品名「ETERNACOLL UP-200」、重量平均分子量2000。
HS PD2003:豊国製油株式会社製ポリカーボネートジオール(1,3-プロパンジオール)、商品名「HS PD-2003」、重量平均分子量2000。
NL2010DB:三菱化学株式会社製ポリカーボネートジオール(1,4-ブタンジオール/1,10-デカンジオール)、商品名「ベネビオールNL-2010DB」、重量平均分子量2000。
T6002:旭化成ケミカルズ株式会社製ポリカーボネートジオール(1,6-ヘキサンジオール)、商品名「デュラノールT6002」、重量平均分子量2000。
T6001:旭化成ケミカルズ株式会社製ポリカーボネートジオール(1,6-ヘキサンジオール)、商品名「デュラノールT6001」、重量平均分子量1000。
T4692:旭化成ケミカルズ株式会社製ポリカーボネートジオール(1,4-ブタンジオール/1,6-ヘキサンジオール)、商品名「デュラノールT4692」、重量平均分子量2000。
PTMG2000:三菱化学株式会社製ポリテトラメチレンエーテルグリコール、商品名「PTMG2000」、重量平均分子量2000。
1,3-BD:1,3-ブタンジオール。
【0108】
<3価以上の多価アルコール>
TMP:トリメチロールプロパン。
【0109】
<アニオン性親水基/活性水素含有化合物>
DMPA:ジメチロールプロピオン酸。
【0110】
<中和アミン>
TEA:トリエチルアミン。
【0111】
<鎖伸長剤>
EDA:エチレンジアミン。
DETA:ジエチレントリアミン。
【0112】
また、実施例及び比較例で使用した水性ポリウレタン樹脂は以下の方法により合成した。
【0113】
(合成例1)
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹込み管を備えた4ツ口フラスコに、(b1)ポリカーボネートジオールとしてポリカーボネートジオール(1,5-ペンタンジオール/1,6-ヘキサンジオール)(旭化成ケミカルズ株式会社製「デュラノールT5652」、数平均分子量2000)71.7質量部、(d)多価アルコールとしてトリメチロールプロパン0.4質量部、(c)アニオン性親水基/活性水素含有化合物としてジメチロールプロピオン酸3.1質量部、及びメチルエチルケトン42.2質量部を仕込み、均一に混合した後、(a)有機ポリイソシアネートとしてジシクロヘキシルメタンジイソシアネート23.5質量部、ビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)0.03質量部を加え、80℃で240分間反応させ、イソシアネート基末端プレポリマーに対する遊離イソシアネート基含有量が2.29質量%のイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0114】
この溶液にトリエチルアミン2.2質量部を添加し、均一に混合した後、水185質量部を徐々に加えて乳化分散させた。得られた乳化分散液に(e)鎖伸長剤としてヒドラジン一水和物1.1質量部、ジエチレントリアミン0.4質量部を添加した後、90分間攪拌して、ポリウレタン分散物を得た。次いで、このポリウレタン分散物を減圧下、40℃で脱溶剤して、樹脂分35.0質量%、粘度50mPa・s、平均粒子径0.1μmの安定な水性ポリウレタン樹脂の水分散液を得た。
【0115】
得られた水性ポリウレタン樹脂の水分散液における、(b)ポリオール全量に占めるポリカーボネートジオール(b1)及び(b2)の合計量の割合、(b)ポリオール、(c)アニオン性親水基/活性水素含有化合物及び(d)多価アルコールの合計量に対する(d)多価アルコールの割合、前記イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーにおける遊離イソシアネート基含有量、前記水性ポリウレタン樹脂におけるアニオン性親水基含有量、水性ポリウレタン樹脂の粒子径、水性ポリウレタン樹脂の水分散液の粘度を表1に示す。
【0116】
(合成例2~11及び比較合成例1~7)
表1~表2に示す種類及び量の有機ポリイソシアネート、ポリオール、多価アルコール、アニオン性親水基含有ポリオール、中和アミン及び鎖伸長剤を用いた以外は合成例1と同様にして水性ポリウレタン樹脂の水分散液(樹脂分35.0質量%)を得た。得られた水性ポリウレタン樹脂の水分散液における、(b)ポリオール全量に占めるポリカーボネートジオール(b1)及び(b2)の合計量の割合、(b)ポリオール、(c)アニオン性親水基/活性水素含有化合物及び(d)多価アルコールの合計量に対する(d)多価アルコールの割合、前記イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーにおける遊離イソシアネート基含有量、前記水性ポリウレタン樹脂におけるアニオン性親水基含有量、水性ポリウレタン樹脂の粒子径、水性ポリウレタン樹脂の水分散液の粘度を表1~表2に示す。
【0117】
【表1】
【0118】
【表2】
【0119】
(実施例1)
(A)水性ポリウレタン樹脂として合成例1で得られた水性ポリウレタン樹脂の水分散液(樹脂分35.0質量%)を固形分で50質量部と、(B)アクリル系樹脂としてアクリル樹脂エマルション(サイデン化学株式会社製「サイビノールEC-065」、Tg=5℃)を固形分で50質量部と、(C)含フッ素化合物としてフッ素系撥水撥油剤(日華化学株式会社製「NKガードS-740」)を固形分で50質量部と、(D)親水性化合物としてポリエステル系樹脂エマルション(日華化学株式会社製「ナイスポールPR-99」)を固形分で25質量部と、艶消し剤として乾式法で製造されたシリカ粒子(エボニックデグサ社製「ACEMATT TS 100」、平均粒子径:10μm)を3質量部と、平滑剤としてポリジメチルシリコーンの乳化物(信越化学工業株式会社製「KM-862T」、不揮発分60質量%)を固形分で30質量部と、会合型増粘剤(サンノプコ株式会社製「SNシックナー612」、不揮発分40質量%)を固形分で12質量部と、水分散性カルボジイミド系架橋剤(日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライトSV-02」、不揮発分40質量%)を固形分で3質量部と、イオン交換水を、ディスパーを用いて均一に混合し、総量1000質量部の水性の表面処理剤を調製した。
【0120】
(実施例2~11)
表3に示したように、(A)水性ポリウレタン樹脂として合成例1で得られた水性ポリウレタン樹脂の水分散液の代わりに合成例2~11で得られた水性ポリウレタン樹脂の水分散液を固形分で50質量部をそれぞれ用いた以外は実施例1と同様にして水性の表面処理剤を調製した。
【0121】
(実施例12~23)
(A)水性ポリウレタン樹脂、(B)アクリル系樹脂、(C)含フッ素化合物及び(D)親水性化合物の量を表4に示した量に変更した以外は実施例1と同様にして水性の表面処理剤を調製した。
【0122】
(比較例1~7)
(A)水性ポリウレタン樹脂、(B)アクリル系樹脂、(C)含フッ素化合物及び(D)親水性化合物の量を表5に示した量に変更した以外は実施例1と同様にして水性の表面処理剤を調製した。
【0123】
(比較例8~14)
表5に示したように、合成例1で得られた水性ポリウレタン樹脂の水分散液の代わりに比較合成例1~7で得られた水性ポリウレタン樹脂の水分散液を固形分で50質量部をそれぞれ用いた以外は実施例1と同様にして水性の表面処理剤を調製した。
【0124】
<皮革用基材の作製>
水性ポリウレタン樹脂(日華化学株式会社製「エバファノールHA-68」、不揮発分35質量%)100質量部、水性顔料(御国色素株式会社製「PSMブラックC」、不揮発分31.5質量%)10質量部、水分散性カルボジイミド系架橋剤(日華化学株式会社製「NKアシストCI-02」、不揮発分40質量%)1質量部、及び会合型増粘剤(日華化学株式会社製「ネオステッカーS」)3質量部を配合した表皮層用塗材を、離型紙(朝日ロール株式会社製「アサヒリリースAR-148」)上に、塗布厚100μm(WET塗布量)で塗布した。乾燥機を用いて80℃で2分間予備乾燥し、その後、120℃で3分間乾燥を行い、水分を完全に蒸発させ、ポリウレタン樹脂フィルム(以下、「表皮層」という。)を得た。
【0125】
この表皮層の上に、二液型水性ポリウレタン樹脂(日華化学株式会社製「エバファノールHO-38」、接着剤主剤、不揮発分35質量%)100質量部、水性ポリイソシアネート系硬化剤(日華化学株式会社製「NKアシストNY-27」不揮発分100質量%)7質量部、会合型増粘剤(日華化学株式会社製「ネオステッカーN」、不揮発分30質量%)5質量部を配合したポリウレタン接着剤配合液を塗布厚200μm(WET塗布量)で塗布した。
【0126】
次いで、乾燥機を用いて90℃で1分間乾燥を行い、乾燥直後に、その上に、繊維基材としてポリエステルニットを貼り合わせた。その後、120℃で3分間キュアリングを行い、さらに40℃で72時間エージングを行い、離型紙を剥離して、繊維積層体(評価用基材)を得た。
【0127】
<皮革の作製>
得られた繊維積層体の表皮層上に、100メッシュのグラビアコーターを用いて、実施例又は比較例で得られた水性の表面処理剤を、乾燥後の塗布量が10~20g/mになるように塗工し、125℃で3分間熱風乾燥させ、表面処理層を有する評価用皮革を作製した。この評価用皮革の耐摩耗性、耐屈曲性、及び防汚性能(SG性及びSR性)を以下のようにして評価した。
【0128】
(耐摩耗性)
得られた評価用皮革を長さ約10mm×幅10mmにカットし、裏面の繊維基材へ厚み4mmのウレタンフォーム(イノアックコーポレーション製「ER-4」)を両面テープで貼り付け、学振摩耗試験機の摩耗子へセットし、6号綿帆布を台座側へセットし、9.8Nの荷重をかけて摩耗試験を行い、表面処理層の外観変化を確認し、表面処理層が破れ、裏面の繊維基材が露出するまでの摩耗回数を測定した。その結果を表3~表5に示す。なお、摩耗回数は1往復を1回とし、摩耗回数が多いほど耐摩耗性が優れていることを意味する。
【0129】
(耐屈曲性)
得られた評価用皮革を長さ約10mm×幅10mmにカットし、表面処理層を内側にして4つ折りにし、折れ曲がった皮革の中央部に10kgのおもりをのせ、24時間放置した(折り曲げ白化試験)。この試験(10kg×24時間)後、表面処理層の剥がれ(割れ)や白化を目視で確認し、下記基準で耐屈曲性を評価した。その結果を表3~表5に示す。
【0130】
<評価基準>
5級:折り曲げ部の表面処理層に割れや白化が見られない。
4級:折り曲げ部の表面処理層に一部白化が見られる(全体の20%未満)。
3級:折り曲げ部の表面処理層全体に白化が見られる(全体の20%以上)が、割れや剥がれは見られない。
2級:折り曲げ部の表面処理層全体に白化が見られ、割れ・剥がれが一部見られる(全体の70%未満)。
1級:折り曲げ部の表面処理層に割れ・剥がれが見られる(全体の70%以上)。
【0131】
(SG性)
得られた評価用皮革を直径150mmにカットした試験片をマーチンデイル試験機にセットし、直径30mmにカットした汚染布(Denim2550Y)を取り付けた摩擦子に荷重12kPaをかけて、60mmストロークのリサジュー図形運動で、300回転摩擦して、試験片に汚れを付着させた。なお、前記汚染布は、予め蒸留水を適量入れたビーカーの底まで沈めて30秒間浸漬した後、ビーカーから取り出し、ペーパーで水分を軽く拭き取った後、ウレタンフォームと共に摩耗子に取り付けた。汚れ付着前後の試験片の状態をJIS L0805(2005)に準拠した汚染用グレースケールに基づいて等級評価した。その結果を表3~表5に示す。
【0132】
(SR性)
先ず、得られた評価用皮革を直径150mmにカットした試験片をマーチンデイル試験機にセットし、直径30mmにカットした汚染布(Denim2550Y)を取り付けた摩擦子に荷重12kPaをかけて、60mmストロークのリサジュー図形運動で、300回転摩擦して、試験片に汚れを付着させた。なお、前記汚染布は、予め蒸留水を適量入れたビーカーの底まで沈めて30秒間浸漬した後、ビーカーから取り出し、ペーパーで水分を軽く拭き取った後、ウレタンフォームと共に摩耗子に取り付けた。
【0133】
次に、汚れが付着した前記試験片をJIS L0849(2013)に準拠したクロックメーター試験機にセットし、純水1mlを浸み込ませた50mm×50mmの大きさの白色綿布(JIS L0803(2011)準拠かなきん3号)を取り付けた摩擦子に荷重9Nを印加しながら摩擦往復距離100mmの間を50回摩擦して試験片の汚れを拭き取った。汚れ付着前の試験片と汚れ除去後の試験片の状態をJIS L0805(2005)に準拠した汚染用グレースケールに基づいて等級評価した。その結果を表3~表5に示す。
【0134】
【表3】
【0135】
【表4】
【0136】
【表5】
【0137】
表3~表4に示したように、(b)ポリオールとして、(b1)炭素数が3~10の整数である分岐構造を有するジオール由来の構造単位を有するポリカーボネートジオール(実施例3~4)又は(b2)炭素数が3~9の奇数である直鎖構造を有するジオール由来の構造単位を有するポリカーボネートジオール(実施例1~2、実施例5~23)を用い、かつ、(d)3価以上の多価アルコールを用いて合成した(A)水性ポリウレタン樹脂と、(B)アクリル系樹脂と、(C)含フッ素化合物と、(D)親水性化合物とを含有する表面処理剤を用いて皮革用基材の表面を処理した場合には、耐屈曲性が損なわれることなく、優れた耐摩耗性を有し、さらに、優れたSG性とSR性とを併せ持つ防汚性能を有する皮革が得られることがわかった。
【0138】
一方、表5に示したように、(A)水性ポリウレタン樹脂を用いなかった場合(比較例2、5)には、耐屈曲性が損なわれ、耐摩耗性も低下することがわかった。また、(A)水性ポリウレタン樹脂を用いた場合でも、(B)アクリル系樹脂を用い、かつ、(C)含フッ素化合物を用いなかった場合(比較例3、6)には、耐摩耗性が低下することがわかった。さらに(B)アクリル系樹脂及び(D)親水性化合物のうちの少なくとも一方を用いなかった場合(比較例1~4、7)には、SR性が低下し、(D)親水性化合物を用いなかった場合(比較例1~3、7)には、SR性がより低下し、(B)アクリル系樹脂及び(D)親水性化合物の両者を用いなかった場合(比較例1)には、SR性が著しく低下することがわかった。また、(C)含フッ素化合物を用いなかった場合(比較例1~3、6)には、SG性が低下することがわかった。
【0139】
また、前記(b1)ポリカーボネートジオール及び前記(b2)ポリカーボネートジオールの代わりに他のポリカーボネートジオールを用いて合成した水性ポリウレタン樹脂を用いた場合(比較例9~12)には、優れた耐摩耗性が得られるものの、耐屈曲性が損なわれることがわかった。
【0140】
さらに、前記(b1)ポリカーボネートジオール及び前記(b2)ポリカーボネートジオールの代わりに他のポリカーボネートジオールを用い、前記(d)3価以上の多価アルコールの代わりに短鎖のジオールを用いて合成した水性ポリウレタン樹脂を用いた場合(比較例8)には、耐屈曲性が損なわれ、耐摩耗性も低下することがわかった。
【0141】
また、前記(b1)ポリカーボネートジオール及び前記(b2)ポリカーボネートジオールの代わりにポリエーテルポリオールを用いて合成した水性ポリウレタン樹脂を用いた場合(比較例13)、並びに前記(b2)ポリカーボネートジオールを用い、前記(d)3価以上の多価アルコールを用いずに合成した水性ポリウレタン樹脂を用いた場合(比較例14)には、優れた耐屈曲性が得られるものの、耐摩耗性が損なわれることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0142】
以上説明したように、本発明によれば、耐屈曲性が損なわれることなく、優れた耐摩耗性が付与され、さらに、優れたSG性とSR性とを併せ持つ防汚性能が付与された皮革を得ることが可能となる。したがって、本発明の皮革は、車両、家具、衣料、鞄、靴、袋物、雑貨等の各種産業分野において好適に利用することができ、さらには、表面処理層を設けて安定且つ高品位の皮革製品としても好適に利用することができる。