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  • 特開-ポリエステルマルチフィラメント 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094152
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】ポリエステルマルチフィラメント
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/92 20060101AFI20230628BHJP
   D01F 6/84 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
D01F6/92 307A
D01F6/84 301E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209453
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大西 弘晃
(72)【発明者】
【氏名】高堂 聖英
(72)【発明者】
【氏名】高木 健太郎
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035BB32
4L035EE02
(57)【要約】
【課題】 発色性に優れた、捲縮性に優れた加工糸が得られるカチオン可染性のポリエステルマルチフィラメントを提供する。
【解決手段】 金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分をポリエステルの全ジカルボン酸に対して0.8~2.5モル%含有し、定応力伸長領域伸度が30~55%であるポリエステルマルチフィラメント。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分をポリエステルの全ジカルボン酸に対して0.8~2.5モル%含有し、単糸1万m単位体積当たりにおける定応力伸長領域伸度が30~55%であるポリエステルマルチフィラメント。
【請求項2】
70℃、15分処理の単糸1万m単位体積当たりにおける温水熱収縮率が35~60%である請求項1記載のポリエステルマルチフィラメント。
【請求項3】
単糸繊度が0.6~2.0dtexである請求項1または2記載のポリエステルマルチフィラメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン可染性のポリエステルマルチフィラメントに関するものである。さらに詳しくは、付加価値のある加工糸が得られるポリエステル高配向未延伸マルチフィラメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高配向未延伸糸(以下、POYと称する)は、延伸に用いることはもちろんのこと、そのまま延伸仮撚り加工にも供し得る利点を有しているため、工業的に重要な位置を占めている。仮撚り加工糸に関しては、このPOYを用いて延伸と仮撚りを同時に行う延伸仮撚り加工を採用することにより、旧来の延伸糸を仮撚りする加工方法に比べて大幅な生産性の向上が達成された。
【0003】
さらに、荷重-伸び曲線(以下、S-S曲線と称す)上で一定の応力で伸長される定応力伸長領域(以下、NDRと称する)を適度に持ったPOYは、自然延伸比以下の倍率で不均一延伸加工することで、繊維長手方向に太細を発現して染色した際に濃淡染色差による杢感を発現することから、婦人・紳士用アウターやカジュアルウエアなどの薄地織物用途にて高評価を得ている。このように、POYは、糸加工を施すことで付加価値を付け、バリエーションに富んだ加工糸が得られる。
【0004】
一方、近年ファッションの多様化、用途の拡大が進み、婦人・紳士用アウターやカジュアルウエアなどでは、カラーに対する要望は依然として高い。ポリエステル繊維の染色性を向上させる技術として、各種の提案がなされている。例えば、特許文献1には、5-ナトリウムスルホイソフタル酸成分および/またはイソフタル酸成分を共重合することで発色性に優れるカチオン染料可染性ポリエステル繊維が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分とポリオキシアルキレングリコール成分を共重合することと、繊維表面改質の相乗効果で発色性に優れるポリエステル未延伸糸が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-69490号公報
【特許文献2】特開2007-63713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に記載のポリエステル繊維は、カチオン可染性成分を共重合している為、一般的なPOYが示すS-S曲線挙動が得られず低伸度となり、単糸1万m単位体積当たりのNDRも発現しないか、著しく低くなる。
【0008】
このような繊維では、糸加工を施す際に加工条件に制約ができ付加価値が得られないか、得られてもその特徴が十分に発揮できていなかった。例えば、NDRが小さいPOYを加工する場合、延伸倍率を小さくした条件でしか加工ができないため、強度が低く、捲縮特性が低い糸しか得られない。また、NDRが小さいPOYを用いて不均一延伸加工を施した場合、杢感が得られない。
【0009】
そこで本発明は、上述した問題点を解決し、発色性に優れた付加価値(捲縮性)のある加工糸が得られるカチオン可染性のポリエステルマルチフィラメントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は次の構成からなる。
(1)金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分をポリエステルの全ジカルボン酸に対して0.8~2.5モル%含有し、単糸1万m単位体積当たりにおける定応力伸長領域伸度が30~55%であるポリエステルマルチフィラメント。
(2)70℃、15分処理の単糸1万m単位体積当たりにおける温水熱収縮率が35~60%である(1)記載のポリエステルマルチフィラメント。
(3)単糸繊度が0.6~2.0dtexである(1)または(2)記載のポリエステルマルチフィラメント。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、発色性に優れた、捲縮性に優れた加工糸が得られるカチオン可染性のポリエステルマルチフィラメントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】定応力伸長領域(NDR)を説明するためのS-S曲線
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のポリエステルマルチフィラメントについて詳述する。
【0014】
本発明におけるポリエステルの主成分は、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体及びエチレングリコールまたはそのエステル形成性誘導体を、エステル化またはエステル交換反応させた後に得られるポリエチレンテレフタレートである。
【0015】
本発明のポリエステルマルチフィラメントは、ポリエステルの全ジカルボン酸成分に対して金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分を0.8モル%~2.5モル%含有するものであり、良好なカチオン可染性を有するものである。好ましくは1.0モル%~2.0モル%である。0.8モル%より少ないと、カチオン染料染色性が不足し、発色性に劣る。2.5モル%より多いと、カチオン染料染色性は良くなるものの、得られる糸の強度が低くなり加工操業性が悪くなる。
【0016】
この金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分は、公知の金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分を使用することができるが、好ましくは5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルである。
【0017】
本発明のポリエステルマルチフィラメントは、そのS-S曲線において単糸1万m単位体積当たりにおいて30%~55%の定応力伸長領域伸度(NDR伸度A)を示す。本発明でいうNDR伸度Aとは、図1に示すS-S曲線において一定の応力で伸長される定応力伸長領域終点の伸度を単糸繊度で割った値である。かかる範囲とすることで、糸加工工程で適正な延伸倍率が設定でき、加工糸の付加価値を発現することができる。例えば、延伸仮撚りした場合には優れた捲縮特性が得られる。好ましくは35%~48%である。30%未満の場合、加工する際の延伸倍率が低くなり、強度が低く捲縮特性が低い加工糸が得られる。55%を超えると、定伸長応力領域が広く仮撚り加工時の加工張力が低くなり常用の加工延伸倍率で安定して加工できず、操業性が悪くなる。また、捲縮が不均一となり品質異常となる。
【0018】
本発明のポリエステルマルチフィラメントの伸度は150%~260%であることが好ましい。伸度をかかる範囲とすることにより、糸加工工程で適正な加工延伸倍率が設定でき、加工糸の付加価値を発現することができ、安定した加工張力で生産可能となる。延伸仮撚りした場合には、優れた捲縮特性が得られる。
【0019】
本発明のポリエステルマルチフィラメントの強度は1.2cN/dtex~2.2cN/dtexであることが好ましい。強度をかかる範囲とすることにより、糸加工工程で適正な加工延伸倍率で加工しても、優れた操業性が得られる。また、得られる加工糸の強度や布帛の引き裂き強力に優れる。
【0020】
本発明のポリエステルマルチフィラメントは、70℃、15分処理の温水熱収縮率が単糸1万m単位体積当たりにおいて35%~60%であることが好ましい。単糸1万m単位体積当たりの温水熱収縮率が35%以上であると、繊維構造が安定化しており、強・伸度の経時変化が小さいため好ましい。さらに、加工時の延伸倍率を高く設定できることから捲縮特性に優れた加工糸が得られる。
【0021】
本発明のポリエステルマルチフィラメントの総繊度は、特に限定しないが、衣料用途の場合、通常使用される総繊度であればよく、300dtex以下であることが好ましい。また、総繊度の下限は布帛製造に支障をきたさない範囲であれば特に限定はしないが、5dtex以上であることが好ましい。
【0022】
本発明のポリエステルマルチフィラメントの単糸繊度は0.6dtex~2.0dtexであることが好ましい。定応力伸長領域は単糸繊度が細い程短くなり、0.6dtex以上とすることにより高次加工に適した定応力伸長領域が得られる。2.0dtex以下とすることにより、得られる加工糸を用いた布帛のソフト性に優れた風合いが得られる。
【0023】
本発明のポリエステルマルチフィラメントの製造方法を説明する。
【0024】
本発明におけるポリエステルマルチフィラメントは、DSCにより測定される融点の異なる2種のポリエステルを溶融混合紡糸してなるものである。
【0025】
融点の異なる2種類のポリエステルとして、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体及びジオールまたはそのエステル形成性誘導体を、エステル化またはエステル交換反応させた後に得られるポリエチレンテレフタレート(以下、ポリエステルAと称す)と
ポリエステルAに第3成分として金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分を共重合したポリエチレンテレフタレート(以下、共重合ポリエステルBと称す)を用いる。
【0026】
また、ポリエステルAと共重合ポリエステルBのそれぞれに対して、酸化チタンやシリカ微粒子を添加してもよい。酸化チタンは白色顔料であるため、添加量に応じてクリア~マット調のカラーを演出することができる。また、シリカ微粒子添加による繊維表面状態の改質を行うと、さらなる発色性向上が期待できる。
【0027】
本発明におけるカチオン可染性ポリエステルマルチフィラメントは、DSCにより測定される融点の異なる2種のポリエステルを溶融混合して得られるため、そのS-S曲線挙動は、共重合ポリエステルB単独のPOYのS-S曲線挙動よりも定応力伸長領域が広く、NDR伸度、伸度も高伸度側にシフトし、ポリエステルA単独のPOYのS-S曲線寄りになる。このNDR伸長を30%以上にするには、溶融混合する2種のポリエステルの重量混合比率を変更することで調整できる。
【0028】
ポリエステルAと共重合ポリエステルBを溶融混合する方法として、2種のポリエステルポリマーを別々に溶融し、ミキサーで溶融混練する溶融混練法、2種のポリエステルポリマーをチップの状態で混合し溶融する方法などを用いることができる。
【0029】
また、これらを組み合わせた方法を用いると共重合ポリエステルBを偏りなくマルチフィラメント中に分散させ、S-S曲線において30~55%のNDR伸度Aを有するPOYが得られる。また、破断強度も高く保つことができる。より具体的には、ポリエステルAと共重合ポリエステルBをそれぞれチップ化、計量し、混合した後、エクストルーダーを用いて溶融混練し、更に配管ミキサーにより攪拌混合する。
【0030】
溶融混練では、単軸あるいは複軸のエクストルーダーにより強固に混練することが好ましい。溶融混練後の攪拌混合に用いる配管ミキサーは、配管内に180度の右捻りエレメントと左捻りエレメントとを移送方向(流れ方向)に交互に直交位置に隣接させて配することで、被移送体へ位置変換と分割作用とを繰返し与えるものが好ましい。分割、位置変換の回数は5回以上とすると、2種のポリエステルポリマーを強固に攪拌混合できるため好ましい。より好ましくは6回以上である。
【0031】
共重合ポリエステルBにおいて、共重合される金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分は、共重合ポリエステルBにおける全カルボン酸成分に対して3.9~6.0モル%であることが相溶性の観点から好ましい。金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分の割合をかかる範囲とすることにより、2種のポリエステルポリマーの相溶性が増し、本発明のポリエステルマルチフィラメントの破断強度を保ちつつNDR伸度を調整することができ好ましい。
【0032】
ポリエステルAと共重合ポリエステルBの混合重量比は、ポリエステルAと共重合ポリエステルBの合計量100重量%に対して、ポリエステルAの割合を55重量%以上とする。好ましくは80重量%以下である。ポリエステルAの割合をかかる範囲とすることにより、ポリエステルA単独マルチフィラメントのS-S曲線側にシフトし、単糸1万m単位体積当たりにおけるNDR伸度が30%以上になる。
【0033】
すなわち、糸加工工程で適正な延伸倍率が設定でき、加工糸の付加価値を発現することができ、安定した加工張力で生産可能となる。例えば、延伸仮撚りした場合には優れた捲縮特性が得られる。
【0034】
一方、共重合ポリエステルBの割合が45重量%を超える場合、共重合ポリエステルB単独のマルチフィラメントのS-S曲線側にシフトし、定応力伸長領域が狭く、単糸1万m単位体積当たりにおけるNDR伸度も30%未満となる。例えば、延伸仮撚する場合には、延伸倍率を低く設定するしかなく、捲縮特性も低くなる。
【0035】
本発明のポリエステルマルチフィラメントの紡糸温度におけるポリエステルAの溶融粘度(Pa)と共重合ポリエステルBの溶融粘度(Pb)の比(Pb/Pa)は0.7~2.0とするのが相溶性の観点から好ましい。より好ましくは0.9~1.6である。溶融粘度比をかかる範囲とすることにより、2種類のポリエステルの相溶性が増し、本発明のポリエステルマルチフィラメントの破断強度を保ちつつ単糸1万m単位体積当たりにおけるNDR伸度を調整することができ好ましい。
【0036】
本発明において、2種のポリエステルポリマーのエステル交換反応の抑制は、各々のポリエステルが溶融混合される時間を短くすることで可能となる。溶融混合している時間が長いと各々のポリエステルがエステル交換反応を起こし、各々のポリエステル固有の融点ピークが消失し1つの融点ピークになるので好ましくなく、溶融混合している時間は30分以下が好ましく、20分以下であれば更に好ましい。
【0037】
本発明のポリエステルマルチフィラメントは、2000m/分~4000m/分で引き取る。2000m/分以上で引き取ることで、繊維構造が安定化し、強度1.2cN/dtex以上のPOYが得られる。2000m/分未満で引き取る場合、繊維構造が不安定で未延伸糸に近い状態となり強度が低くなる。4000m/分以下で引き取ることで、150%以上の伸度を保持し30%以上の単糸1万m単位体積当たりにおけるNDR伸度が得られる。4000m/分を超える速度で引き取る場合、伸度が低くなる。原糸の操業性が悪化し、原糸毛羽が発生しやすくなる。好ましい引き取り速度は2200m/分~2800m/分である。
【0038】
本発明のポリエステルマルチフィラメントは、公知の糸加工が施される。糸加工の方法は限定されるものではないが、例示すると、仮撚加工法、不均一延伸加工法、タスラン混繊等の複合加工等が挙げられる。例えば、仮撚り加工では捲縮、不均一延伸加工では杢感というように、加工法独特の特徴が付与できる。
【実施例0039】
以下、実施例を挙げて具体的に説明する。なお、実施例の主な測定値は以下の方法で測定した。
【0040】
(1)溶融粘度
チップ試料を、真空乾燥機によって水分率200ppm以下とし、東洋精機製キャピログラフ1Bによって、歪速度を段階的に変更して溶融粘度を測定した。なお、測定温度は紡糸温度と同様にし、実施例あるいは比較例には1216s-1の溶融粘度を記載している。ちなみに、加熱炉にサンプルを投入してから測定開始までを5分とし、窒素雰囲気下で測定を行った。
【0041】
(2)金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分のモル率(S分量)
チップ、繊維(POY)試料を、蛍光X線分析装置((株)リガク製 ZSX-100e)を用い、元素を分析した。S元素量にS成分の分子量を乗ずることで算出した。
【0042】
(3)DSC曲線
チップ、繊維(POY)試料を、示差走査熱量計(TA instruments製 DSC2920)を用い、20℃から270℃まで2℃/分の昇温条件で、DSC曲線を測定した。200~270℃の間に観測される吸熱ピークの温度を融点(Tm)とした。
【0043】
(4)繊度・単糸繊度
JIS L1013(2010、化学繊維フィラメント糸試験方法)に従い測定した。
【0044】
繊維(POY、仮撚り糸)試料を、解舒張力を調整し、枠周1.0mの検尺機で100回巻き、天秤を用いて重量を測定し、100倍することにより得られた重量を繊度とした。また、繊度をフィラメント数で除した値を単糸繊度とした。なお、解舒張力は、仮撚糸の場合は1/11.1(g/dtex)、POYの場合は1/33.3(g/dtex)とした。
【0045】
(5)S-S曲線(強度、伸度、NDR伸度)
繊維(POY)試料を、引張り試験機(オリエンテック製 TENSILON RTC-1210A)を用い、JIS L1013(2010、化学繊維フィラメント糸試験方法)に従い、掴み間隔は5cm、引張り速度は40cm/分で、荷重-伸び曲線(S-S曲線)を測定した。伸度はS-S曲線における破断強力を示した点の伸びから求めた。強度は破断強力を繊度で除して算出した。NDR伸度は、引張り試験機で得た図1に示すチャート上のAの伸度を読み取った。なお、N=5の測定値の算術平均値で表した。単糸1万m単位体積当たりにおけるNDR伸度は、以下計算式より算出した。
単糸1万m単位体積当たりにおけるNDR伸度=算出したNDR/(総繊度/フィラメント数) 。
【0046】
(6)温水熱収縮率
繊維(POY)試料を、枠周1.0mの検尺機を用い、10回分のカセを作製し、以下の式に従い計算した。なお、原長、処理後長ともに測定時は荷重{(表示繊度(dtex)×2)g}をかけて測定した。収縮処理について70℃、15分間浸漬処理した。さらに、単糸1万m単位体積当たりの温水熱収縮率を以下計算式より算出した。
温水熱収縮率(%)={(原長(L1)-処理後長(L2))/原長(L1)}×100
単糸1万m単位体積当たりの温水熱収縮率(%)=温水熱収縮率/(総繊度/フィラメント数) 。
【0047】
(7)発色性(L値)
<筒編み地作成、染色>
繊維(仮撚糸)試料を用いて、目付150g/mの筒編み地を作製し、染料アイゼンカチロンブルーGLH0.7%owf、助剤に酢酸0.5cc/L、酢酸ソーダ0.15g/Lの染液の中に作製した丸編物を投入し、50℃の温度で15分間染色後に、98℃/30分の条件で昇温し、更に20分間撹拌染色を行った。
<L値>
染色筒編み地を、色差計(スガ試験機製、SMカラーコンピュータ型式SM-T45)を用い、L値を測定した。L値は20~40の範囲を合格とした。
【0048】
(8)伸縮復元率CR
繊維(仮撚糸)試料を、周長1.0mの検尺機にて10回巻きしてカセ取りした後、このカセに繊度×0.002×巻取回数×2/1.111gの初加重をかけて、90℃×20分間熱水処理し、脱水後12時間以上放置する。放置後のカセに初荷重と繊度×0.1×巻取回数×2/1.111gの測定加重をかけて水中に垂下し2分間放置する。放置したカセの長さを測りLとする。さらに、測定荷重を除き初荷重だけにした状態で3分間放置し、カセの長さを測りL1とする。次式により、伸縮復元率CRを求めた。
伸縮復元率CR(%)={(L-L1)/L}×100 。
【0049】
[実施例1]
融点255℃であるポリエチレンテレフタレートに酸化チタン0.30重量%含有するポリエステルAと、ポリエチレンテレフタレートに5-ナトリウムスルホイソフタル酸をS分量が4.92mol%共重合した、酸化チタンを含有してない、融点240℃である共重合ポリエステルBを用いた。ポリエステルAと共重合ポリエステルBの溶融粘度比(Pb/Pa)は1.3とした。
【0050】
ポリエステルAと共重合ポリエステルBとを、それぞれ別のホッパーからポリエステルAと共重合ポリエステルBを67:33の割合で仕込み、一軸押出混練機の混練温度285℃、混練時の軸回転数を120rpmとして混練し、分割、位置変換の回数12回の配管ミキサーを通し、溶融滞留時間15分にて、紡糸パックに供した。
【0051】
溶融紡糸装置に内蔵された紡糸パック(紡糸温度290℃)に上述した溶融ポリマを導き、濾過した後、円形の吐出口金から紡出し、糸条の外側から内側へ冷却風を当てて糸条を冷却固化し、給油装置により油剤を付与したのち(純油分0.9質量%)、引取速度2400m/分で巻き取り、125dtex、96フィラメントのポリエステルマルチフィラメント(POY)を得た。
【0052】
得られたポリエステルPOYを、第1ヒーター温度176℃で熱処理を施し、加工速度584m/分、加工倍率2.0倍で、仮撚具にフリクションディスクを使用した延伸仮撚を行い、66dtex、96フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を得た。評価結果は表1の通りである。
【0053】
[実施例2~5]
共重合ポリエステルB中S分量とポリエステルAと共重合ポリエステルBの混合重量比を表1の通り変更した以外は実施例1に準じて製糸し、ポリエステルPOYを得た。評価結果は表1の通りである。
【0054】
[実施例6~9]
共重合ポリエステルB中S分量とポリエステルAと共重合ポリエステルBの混合重量比を表1の通り変更した以外は実施例1に準じて製糸し、ポリエステルPOYを得た。評価結果は表1の通りである。
【0055】
[実施例10]
分割、位置変換の回数5回の配管ミキサーを用いる以外は実施例1に準じて製糸し、ポリエステルPOYを得た。評価結果は表1の通りである。
【0056】
[実施例11、12]
ポリエステルAと共重合ポリエステルBの溶融粘度比を表1の通り変更した以外は実施例1に準じて製糸し、ポリエステルPOYを得た。評価結果は表1の通りである。
【0057】
[比較例1]
ジメチル(5-ナトリウムスルホ)イソフタル酸を全ジカルボン酸に対して1.6モル%含有する共重合ポリエステルを用いたこと以外は、実施例1に準じて製糸し、ポリエステルPOYを得た。評価結果は表2の通りである。
【0058】
[比較例2]
ポリエステルAを100%で用いたこと以外は、実施例1に準じて製糸し、ポリエステルPOYを得た。評価結果は表2の通りである。
【0059】
[比較例3、4]
共重合ポリエステルB中S分量とポリエステルAと共重合ポリエステルBの混合重量比を表2の通り変更した以外は実施例1に準じて製糸し、ポリエステルPOYを得た。評価結果は表2の通りである。
【0060】
[比較例5,6]
共重合ポリエステルB中S分量とポリエステルAと共重合ポリエステルBの混合重量比を表2の通り変更した以外は実施例1に準じて製糸し、ポリエステルPOYを得た。評価結果は表2の通りである。
【0061】
[比較例7]
共重合ポリエステルB中S分量を表2の通り変更した以外は実施例1に準じて製糸し、ポリエステルPOYを得た。評価結果は表2の通りである。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【符号の説明】
【0064】
A:定応力伸長領域伸度
B:破断点伸度
図1