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特開2023-94238塗膜剥離方法、薬剤、コーティング剤及び塗膜剥離用キット
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  • 特開-塗膜剥離方法、薬剤、コーティング剤及び塗膜剥離用キット 図1
  • 特開-塗膜剥離方法、薬剤、コーティング剤及び塗膜剥離用キット 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094238
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】塗膜剥離方法、薬剤、コーティング剤及び塗膜剥離用キット
(51)【国際特許分類】
   C09D 9/00 20060101AFI20230628BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
C09D9/00
C09D167/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209607
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 淳史
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 輝実
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DD001
4J038DG001
4J038MA14
4J038PB06
4J038PB07
4J038RA02
4J038RA16
(57)【要約】
【課題】低温環境下において塗膜を剥離することができる塗膜剥離方法等を提供する。
【解決手段】塗膜剥離方法は、被塗装材にコーティング層を介して付着する塗膜の剥離方法であって、前記コーティング層を溶解する薬剤を用いて前記コーティング層を溶解することにより前記塗膜を剥離する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装材にコーティング層を介して付着する塗膜の剥離方法であって、
前記コーティング層を溶解する薬剤を用いて前記コーティング層を溶解することにより前記塗膜を剥離する
塗膜剥離方法。
【請求項2】
80℃以下の温度下で前記薬剤を用いる
請求項1に記載の塗膜剥離方法。
【請求項3】
前記コーティング層を形成するコーティング剤が数平均分子量20000以下のポリエステル樹脂を含み、
前記薬剤が芳香族アルコール又は芳香族炭化水素を含む
請求項1又は請求項2に記載の塗膜剥離方法。
【請求項4】
前記薬剤による溶解前後において、下記式で示される前記コーティング層の1分間あたりの重量変化率が9.0%以上である
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の塗膜剥離方法。
1分間あたりの重量変化率(%)=[{(W-W)/W}×100]/10
(式中、Wは前記薬剤に溶解する前のコーティング層の重量、Wは40℃の前記薬剤に10分間溶解させた後のコーティング層の重量である。)
【請求項5】
被塗装材にコーティング層を介して付着する塗膜を剥離させるための薬剤であって、
芳香族アルコール又は芳香族炭化水素を含み、
前記コーティング層の溶解能を有する
薬剤。
【請求項6】
コーティング層を形成するためのコーティング剤であって、
数平均分子量20000以下のポリエステル樹脂を含み、
前記コーティング層が芳香族アルコール又は芳香族炭化水素を含む薬剤に溶解する
コーティング剤。
【請求項7】
芳香族アルコール又は芳香族炭化水素を含む薬剤と、数平均分子量20000以下のポリエステル樹脂を含有するコーティング剤とを備える
塗膜剥離用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜剥離方法、薬剤、コーティング剤及び塗膜剥離用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の塗装工程をはじめとする様々な被塗装物の塗装工程において各種の塗装器具類が使用されている。塗装器具類に塗料が付着または堆積すると、作業性や機能が低下することから、一定期間ごとに塗装器具類から塗料を剥離除去する必要がある。
【0003】
塗料を剥離除去する方法として、塗装器具類の塗料による塗装を必要としない部分を、塗装工程前に予めコーティング剤によりコーティングしておき、塗装工程を経て塗装器具類に付着または堆積した塗料を、剥離剤や溶剤などを用いて剥離する技術が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-275394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
剥離剤を用いた塗料の剥離除去においては、通常、剥離剤の加温が行われる。剥離剤を加温することにより塗膜残りを低減することができるが、剥離剤の加温は製造コストの増大や二酸化炭素排出量の増加につながるといった問題がある。剥離剤の温度を下げると、塗料残りが発生することが懸念される。従って、低温環境下において塗膜を剥離することができる塗膜剥離方法の実現が望まれている。
【0006】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、低温環境下において塗膜を剥離することができる塗膜剥離方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、塗膜剥離方法は、コーティング層を溶解する薬剤を用いて前記コーティング層を溶解することにより塗膜を剥離することで、低温環境下において塗膜を剥離し得ることを見出した。本発明は、このような知見に基づき完成された発明である。
【0008】
すなわち、本発明の一態様に係る塗膜剥離方法は、被塗装材にコーティング層を介して付着する塗膜の剥離方法であって、前記コーティング層を溶解する薬剤を用いて前記コーティング層を溶解することにより前記塗膜を剥離する。
【0009】
上述の塗膜剥離方法において、80℃以下の温度下で前記薬剤を用いてもよい。
【0010】
上述の塗膜剥離方法において、前記コーティング層を形成するコーティング剤が数平均分子量20000以下のポリエステル樹脂を含み、前記薬剤が芳香族アルコール又は芳香族炭化水素を含むものであってもよい。
【0011】
上述の塗膜剥離方法において、前記薬剤による溶解前後において、下記式で示される前記コーティング層の1分間あたりの重量変化率が9.0%以上であってもよい。
1分間あたりの重量変化率(%)=[{(W-W)/W}×100]/10
(式中、Wは薬剤に溶解(浸漬)する前のコーティング層の重量、Wは40℃の薬剤に10分間溶解(浸漬)させた後のコーティング層の重量である。)
【0012】
本開示の一態様に係る薬剤は、被塗装材にコーティング層を介して付着する塗膜を剥離させるための薬剤であって、芳香族アルコール又は芳香族炭化水素を含み、前記コーティング層の溶解能を有する。
【0013】
本開示の一態様に係るコーティング剤は、コーティング層を形成するためのコーティング剤であって、数平均分子量20000以下のポリエステル樹脂を含み、前記コーティング層が芳香族アルコール又は芳香族炭化水素を含む薬剤に溶解する。
【0014】
本開示の一態様に係る塗膜剥離用キットは、芳香族アルコール又は芳香族炭化水素を含む薬剤と、数平均分子量20000以下のポリエステル樹脂を含有するコーティング剤とを備える。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、低温環境下において塗膜を剥離することができる塗膜剥離方法等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態の塗膜剥離方法を説明する説明図である。
図2】コーティング剤と薬剤の組み合わせごとの剥離時間を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。初めに、実施形態の塗膜剥離方法について説明する。
【0018】
(塗膜剥離方法)
図1は、実施形態の塗膜剥離方法を説明する説明図である。図1に示すように、実施形態の塗膜剥離方法においては、例えば塗装器具類等の被塗装材(基材)1上に、コーティング剤を用いてなるコーティング層2が形成され、当該コーティング層2を介して塗膜3が付着している。図1では1層の塗膜3を例示するが、塗膜3は複数層であってもよい。コーティング層2は、被塗装材1の塗装工程において、予め被塗装材1の表面にコーティング剤を供給することにより形成することができる。なお、図1の浸漬前の状態における、被塗装材(基材)にコーティング層と塗膜とが順次積層した積層体を本明細書では「処理対象物」と称する。
【0019】
実施形態の塗膜剥離方法は、被塗装材にコーティング層を介して付着する塗膜の剥離方法であって、前記コーティング層を溶解する薬剤を用いて前記コーティング層を溶解することにより前記塗膜を剥離する。
【0020】
上記コーティング層の溶解による塗膜剥離は、コーティング層を備える処理対象物と薬剤とを接触させることにより行うことができる。処理対象物と薬剤とを接触させることにより、薬剤が塗膜内に浸透し、コーティング層に到達した薬剤がコーティング層を溶解する。薬剤によりコーティング層が溶解されることで、コーティング層が除去される。処理対象物に薬剤を接触させる方法は限定的ではないが、例えば処理対象物を、薬剤を貯留した薬剤槽に浸漬させるものであってもよい。又は、処理対象物の塗膜面に薬剤を塗布するものであってもよい。
【0021】
塗膜剥離方法では、処理対象物からコーティング層を除去することにより、被塗装材から塗膜を剥離除去する。塗膜剥離方法においては、コーティング層に対して溶解能を有する薬剤を用いることにより、当該薬剤がコーティング層を溶解除去する。被塗装材と塗膜との間のコーティング層を溶解除去することにより、被塗装材から塗膜を剥離する。
【0022】
従来のコーティング剤及び剥離剤を用いた塗膜剥離方法においては、剥離剤によりコーティング層が膨潤することにより、塗膜や被塗装材と剥離剤との付着力を低減させ、塗膜が剥離されていると推定される。
【0023】
実施形態の塗膜剥離方法は、上述の通りコーティング層を溶解させて塗膜を剥離する。これにより、従来のコーティング層を膨潤させて塗膜を剥離する場合と比較して、剥離工程の低温化を実現することができる。例えば80℃以下のような低温環境下で塗膜剥離を行った場合でも、比較的短時間で良好に塗膜を剥離することができる。
【0024】
そのメカニズムは定かではないが、コーティング層を溶解させる場合、薬剤が、塗膜表面から塗膜とコーティング層との界面へ浸透することで塗膜を剥離することができる。一方、コーティング層を膨潤させる場合、薬剤(剥離剤)が、塗膜表面から塗膜とコーティング層との界面を通り、さらにコーティング層全体へ浸透する必要がある。従って、コーティング層を溶解させる方が、コーティング層を膨潤させるよりも薬剤の浸透に要する時間を短くすることができるため、剥離に要する時間も短くなると推定される。特に、薬剤の浸透時間が増加する低温環境下において効果的に塗膜剥離を行うことができる。
【0025】
実施形態の塗膜剥離方法は、低温環境下において特にその効果が顕著に発現されるため、80℃以下の温度下で薬剤を用いて塗膜を剥離することが好ましい。前記温度とは、塗膜の剥離温度を意味する。剥離温度は、塗膜に供給される薬剤の温度であってもよい。剥離温度は、環境性の観点から、より好ましくは70℃以下、さらに好ましくは65℃以下、最も好ましくは55℃以下である。また、剥離温度は、実用性の観点から、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上である。
【0026】
実施形態の塗膜剥離方法において、薬剤にコーティング層を浸漬し薬剤によりコーティング層を溶解した場合の溶解前後において、下記式で示されるコーティング層における1分間あたりの重量変化率が9.0%以上であることが好ましい。
1分間あたりの重量変化率(%)=[{(W-W)/W}×100]/10
【0027】
上記式中、Wは薬剤に溶解(浸漬)する前のコーティング層の重量、Wは40℃の薬剤に10分間溶解(浸漬)させた後のコーティング層の重量である。
【0028】
コーティング層の上記重量変化率が9.0%以上において、コーティング層の溶解をより効率的に進めることができるため、塗膜剥離の効率性を向上することができる。重量変化率の上限値に特に制限はないが、20%であってもよいし、50%であってもよい。上記の重量変化率がより大きい程、塗膜剥離の効率性がより向上される。
【0029】
コーティング層の重量変化率は、コーティング層及び薬剤の構成成分やコーティング層の形成方法を適宜調節することにより制御することができる。例えば、コーティング層を形成するコーティング剤中の樹脂成分の選択や含有割合(コーティング剤の固形分中の樹脂割合)、コーティング剤と組み合わせる薬剤成分の選択や含有割合、コーティング層の表面積等を最適化することで、コーティング層の上記重量変化率を調整することができる。
【0030】
塗膜剥離方法は、各種塗料による塗膜の剥離に適用することができる。塗膜剥離方法は、予めコーティング剤を塗布することで、コーティング剤の塗布部分に付着した不要塗膜を薬剤により容易且つ良好に剥離することができるため、特に自動車の塗装工程において使用される塗装器具類に好適である。塗装用器具類としては、例えば、ハンガー、治具、スノコ等の塗装用具、塗装装置、塗装ロボットアーム、塗装ブースの内壁や床部材等が挙げられる。塗膜剥離方法は、塗装器具類等の塗料による塗装を必要としない被塗装材の塗膜剥離に限定されず、上記以外の用途においては、例えば壁材等の塗膜(塗装材)剥離においても好適に適用可能である。この場合においては、壁材等に予めコーティング剤を塗布しコーティング層を形成させ、コーティング層に付着した塗装材について、コーティング層を薬剤で溶解除去することで壁材等から塗装材を剥離することができる。
【0031】
以下、実施形態の塗膜剥離方法に用いるコーティング剤及び薬剤について詳述する。
【0032】
(コーティング剤)
実施形態のコーティング剤は、数平均分子量20000以下のポリエステル樹脂を含み、当該コーティング剤を用いてなるコーティング層が後述する薬剤に溶解する。上記ポリエステル樹脂は単独でも2種以上を併用してもよい。
【0033】
ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分を主成分として重縮合してなるポリエステル樹脂を含むことが好ましい。ポリエステル樹脂は、下記一般式(1)で表わされる繰り返し構造単位を有することが好ましい。
【0034】
【化1】
【0035】
式(1)中、R1は芳香族基又は脂肪族基を表し、Rは脂肪族基、脂環族基又は芳香族基を表す。
【0036】
ジカルボン酸成分には、ジカルボン酸のほか該ジカルボン酸の無水物、エステル、酸ハライド、もしくはそれらの組み合わせ等の誘導体であって、グリコールと反応してエステル結合を形成するものも含まれる。
【0037】
ジカルボン酸としては、例えば芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。芳香族ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ジフェン酸、ナフタル酸、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸としては、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、イコタン酸、グルタール酸、アジピン酸、ピメリン酸、2,2-ジメチルグルタール酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ジグリコール酸、チオジプロピオン酸等が挙げられる。ジカルボン酸は単独でも2種以上を併用してもよい。
【0038】
ジカルボン酸としては、後述する薬剤との併用による本願発明の効果を高めるとともに、反応の容易性や得られる樹脂の耐久性の観点から、中でもテレフタル酸、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸及びそれらの組み合わせが好ましく、テレフタル酸、イソフタル酸及びそれらの組み合わせがより好ましい。
【0039】
ポリエステル樹脂は、上述の通り数平均分子量(Mn)が20000以下である。ポリエステル樹脂の数平均分子量が20000以下において、適度な極性や溶解性が得られ、後述する薬剤との相溶性を高めることができる。ポリエステル樹脂の数平均分子量は、薬剤に対する溶解性の観点から、好ましくは18000以下、より好ましくは17500以下である。ポリエステル樹脂の数平均分子量は、入手容易性の観点から、好ましくは5000以上である。数平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定されたポリスチレン換算の値である。ポリエステル樹脂の数平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで測定する場合において、カラムは例えば「Mixed-D」(ポリマーラボラトリーズ社製)を使用できる。
【0040】
ポリエステル樹脂は、公知の方法で合成することが可能である。例えばカルボン酸及びグルコールを高温雰囲気下、エステル交換反応させることで合成できる。エステル交換反応では、必要に応じてエステル化触媒(例えば、チタン、アンチモン、マグネシウム、カルシウム等)を使用することができる。
【0041】
上記ポリエステル樹脂の市販品としては、「エリーテル(登録商標)KT-9204」、「エリーテルKA-6137」(以上、ユニチカ株式会社製)等が挙げられる。
【0042】
ポリエステル樹脂は、上述したジカルボン酸以外の他の成分を含んで重縮合したものであってもよい。他の成分としては、例えばペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ジメチロールプロパン等の多官能性化合物に由来する構造単位を含んでいてもよい。他の成分の構造単位は、樹脂全体に対して30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が特に好ましく、1質量%以下が最も好ましい。
【0043】
実施形態のコーティング剤中の上記ポリエステル樹脂の含有量は、経済性やコスト面の観点から、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。ポリエステル樹脂の含有量は、薬剤に対する溶解性の向上及びコーティング層の形成のしやすさの観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは4質量%以上である。2種以上を併用する場合の含有量は、合計量を意味する。
【0044】
実施形態のコーティング剤は、水を含むことが好ましい。使用する水は、水道水、工業用水、イオン交換水、蒸留水等いずれでもよく、その水は硬水であるか軟水であるかを問わない。コーティング剤における水の含有量については、他の配合成分の種類や含有量等に応じて適宜設定できる。例えば、実施形態のコーティング剤中の水の含有量は、好ましくは1質量%以上96質量%以下、より好ましくは3質量%以上70質量%以下、さらに好ましくは10質量%以上30質量%以下、最も好ましくは20質量%以上30質量%以下である。
【0045】
実施形態のコーティング剤は、上記各成分以外に、本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて、各種添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば界面活性剤、防腐剤等が挙げられる。
【0046】
界面活性剤としては、例えばポリアルキレングリコール誘導体が挙げられる。界面活性剤を含む場合、その含有量はコーティング剤中、例えば1質量%以上5質量%以下とすることができる。上記範囲内において、基材に対する濡れ広がり性を向上することができる。
【0047】
防腐剤としては、例えばチアゾリン系化合物が挙げられる。防腐剤を含む場合、その含有量はコーティング剤中、例えば0質量%超過1質量%未満とすることができる。上記範囲内において、コーティング剤の腐敗を良好に抑制することができる。
【0048】
実施形態のコーティング剤は、上記各成分を混合することによって得られる。混合方法としては、特に限定的ではないが、例えば攪拌等の公知の方法を用いることができる。また、各成分の添加順序は特に限定されない。混合する際、ポリエステル樹脂は、予め水に溶解させた水溶液として添加することが好ましい。ポリエステル樹脂を水溶液として添加する場合には、コーティング剤中のポリエステル樹脂の含有量が上記した範囲になるようにポリエステル樹脂水溶液の濃度及び添加量を適宜選択することで、ポリエステル樹脂の含有量が所望の範囲にあるコーティング剤を調製することができる。実施形態のコーティング剤は水溶性状であり、そのまま被塗装材の表面コーティングに使用することができる。
【0049】
実施形態のコーティング剤は、塗料により塗装される被塗装材であって、薬剤による剥離を実施予定の被塗装材に好適に利用することができる。被塗装材としては、例えば上述した塗装用器具類、壁材等が挙げられる。コーティング剤は、当該コーティング剤を用いてなるコーティング層の溶解能を有する薬剤と組み合わせて使用されることで、コーティング層の溶解による塗膜の剥離効果を顕著に発揮させることができる。
【0050】
実施形態のコーティング剤は、被塗装材(例えば塗装器具類)を塗装する前に、予め被塗装材の表面(塗料による塗装を必要としない部分)に供給する。コーティング剤を被塗装材の表面に供給する方法としては、特に限定的ではないが、例えば被塗装材の表面にコーティング剤を噴射、塗布する方法を用いてよい。被塗装材の表面にコーティング剤を塗布する方法としては、例えば浸漬塗布、シャワー塗布、スプレー塗布、噴流塗布等の方法が挙げられる。実施形態のコーティング剤は、例えば壁材の表面であって、塗料を用いたペイント後にペイントの剥離を希望する部分に予め供給してもよい。
【0051】
被塗装材の表面にコーティング剤を付着させた後、自然乾燥または加熱乾燥(例えば60~100℃)を行い、コーティング剤中の水分を蒸発させることにより、被塗装材の表面にコーティング剤を用いてなるコーティング層(コーティング剤膜)が形成される。
【0052】
コーティング層の厚みは、特に限定的ではないが、好ましくは0.01μm以上1.0μm以下、より好ましくは0.05μm以上0.15μm以下、さらに好ましくは0.05μm以上0.1μm以下とすることができる。コーティング層の厚みが0.01μm以上において、剥離性を向上することができる。コーティング層の厚みが1.0μm以下において、コーティング層の溶解性に優れる。
【0053】
従来のコーティング層を膨潤させて塗膜を剥離する場合、コーティング層の厚みは、通常10μm以上である。コーティング層には、該コーティング層を介して被塗装材の表面に付着した塗膜を浮かび上がらせるのに十分な厚みが求められるからである。一方、本実施形態のコーティング剤は、コーティング層の溶解により塗膜を剥離するため、コーティング層の厚みを薄くすることができ、コーティング層の形成におけるコストを低減できる。
【0054】
(薬剤)
実施形態の薬剤は、被塗装材にコーティング層を介して付着する塗膜を剥離させるための薬剤である。薬剤は、上述のコーティング剤により形成されるコーティング層の溶解能を有する。薬剤は、コーティング層を溶解除去することにより塗膜を剥離させる、剥離剤として機能する。
【0055】
実施形態の薬剤は、芳香族アルコール又は芳香族炭化水素の少なくとも一方を含む。芳香族アルコールとは、芳香環を含むアルコールである。芳香環としては、芳香族炭化水素環、芳香族複素環等が挙げられ、中でも芳香族炭化水素環が好ましい。
【0056】
芳香族アルコールの具体例としては、例えばベンジルアルコール、フェネチルアルコール、ヒドロキシベンジルアルコール、メチルベンジルアルコール、シンナミルアルコール、サリチルアルコール等が挙げられる。芳香族アルコールとしては、薬剤とコーティング剤との相溶性を向上し、本願発明の効果を一層向上する観点から、中でもベンジルアルコールが好ましい。芳香族アルコールは単独でも2種以上を併用してもよい。
【0057】
実施形態の薬剤中の芳香族アルコールの含有量は、コーティング層の溶解性を向上する観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上である。芳香族アルコールの含有量は、液安定性の観点から、好ましくは75質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。2種以上を併用する場合の含有量は、合計量を意味する。
【0058】
芳香族炭化水素としては、置換基としてメトキシ基を有する芳香族炭化水素が好ましい。メトキシ基置換芳香族炭化水素としては、例えばアニソール、メチルアニソール、エチルアニソール、ジメトキシベンゼン、クロロアニソール、ブロモアニソール等が挙げられる。芳香族炭化水素としては、薬剤とコーティング剤との相溶性を向上し、本願発明の効果を一層向上する観点から、中でもメチルアニソールが好ましく、4-メチルアニソールがより好ましい。芳香族炭化水素は単独でも2種以上を併用してもよい。
【0059】
実施形態の薬剤中の芳香族炭化水素の含有量は、コーティング層の溶解性を向上する観点から、好ましくは1質量%以上である。芳香族炭化水素の含有量は、液安定性の観点から、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。2種以上を併用する場合の含有量は、合計量を意味する。
【0060】
実施形態の薬剤は、コーティング層の溶解性をより向上する観点から、芳香族アルコール及び芳香族炭化水素を組み合わせて用いることが好ましい。芳香族アルコール及び芳香族炭化水素を組み合わせる場合、ベンジルアルコールとメトキシ基置換芳香族炭化水素との組み合わせが好ましく、ベンジルアルコールとメチルアニソールとの組み合わせがより好ましく、ベンジルアルコールと4-メチルアニソールとの組み合わせがさらに好ましい。
【0061】
実施形態の薬剤が芳香族アルコール及び芳香族炭化水素を含む場合、コーティング層の溶解性を向上する観点から、芳香族炭化水素に対する芳香族アルコールの含有量は、質量比(芳香族アルコール/芳香族炭化水素)で、好ましくは4.0~30、より好ましくは5.0~25、さらに好ましくは6.0~20、最も好ましくは8.0~10である。
【0062】
実施形態の薬剤は、上記芳香族アルコール又は芳香族炭化水素の少なくとも一方のみを含むものであってもよいが、さらに水及び可溶化剤を含有することが好ましい。薬剤は、可溶化剤により上記芳香族アルコール又は芳香族炭化水素が水へ可溶化した水性薬剤とすることが好ましい。薬剤が水性である場合、作業性や環境性に優れる。
【0063】
使用する水は、水道水、工業用水、イオン交換水、蒸留水等いずれでもよく、その水は硬水であるか軟水であるかを問わない。薬剤における水の含有量については、他の配合成分の種類や含有量等に応じて適宜設定できる。例えば、実施形態の薬剤中の水の含有量は、好ましくは25質量%以上85質量%以下、より好ましくは30質量%以上65質量%以下、さらに好ましく45質量%以上60質量%以下である。
【0064】
可溶化剤としては、例えば芳香族スルホン酸塩が挙げられる。薬剤中の可溶化剤の含有量は、好ましくは5質量%以上25質量%以下、より好ましくは10質量%以上20質量%以下である。上記範囲内において、薬剤中における水と芳香族アルコール又は芳香族炭化水素との均一性を向上することができる。
【0065】
実施形態の薬剤は、上記各成分以外に、本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて、各種添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば無機アルカリ、キレート剤等が挙げられる。
【0066】
無機アルカリとしては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。無機アルカリを含む場合、その含有量はコーティング剤中、例えば1質量%以上5質量%以下とすることができる。上記範囲内において、塗膜の加水分解を促進し、剥離性をさらに向上することができる。
【0067】
キレート剤としては、例えばグルコン酸塩が挙げられる。キレート剤を含む場合、その含有量はコーティング剤中、例えば1質量%以上5質量%以下とすることができる。上記範囲内において、塗料に含まれる金属イオンの溶解性を向上することができる。
【0068】
上記の添加剤以外にも、実施形態の薬剤は、本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて、防錆剤、防食剤、抗菌剤、増粘剤、pH調整剤等の添加剤も含有することができる。それらの添加剤は公知なものを使用できる。各添加剤の含有量は従来技術に従い適宜選択されればよい。
【0069】
実施形態の薬剤は、上記各成分を混合することによって得られる。混合方法としては、特に限定的ではないが、例えば攪拌等の公知の方法を用いることができる。また、各成分の添加順序は特に限定されない。
【0070】
実施形態の薬剤のpHは、好ましくは7~14、より好ましくは9~14、さらに好ましくは12~14である。薬剤のpHをアルカリ性(例えば9以上)に調整した場合、コーティング層の溶解と塗膜の加水分解の効果により、塗膜剥離性をさらに向上することができる。また、薬剤のpHを中性(例えば7~9程度)に調整した場合、コーティング層の溶解による塗膜剥離を作業上安全に行うことができる。薬剤のpHは、例えばpH調整剤により調整することができる。
【0071】
実施形態の薬剤は、被塗装材の塗膜剥離に広く使用できる。実施形態の薬剤は、上記コーティング剤を用いてなるコーティング層の溶解能を有するため、特に、被塗装材にコーティング層を介して付着する塗膜の剥離に好適に使用することができ、塗膜の剥離効果が顕著に発揮される。被塗装材としては、例えば上述した塗装用器具類、壁材等が挙げられる。塗膜を形成する塗料は特に限定されず、公知の任意の1つまたは複数の塗料を用いることができる。
【0072】
実施形態の薬剤を、被塗装材に付着する塗膜に供給することで、塗膜剥離を行う。薬剤を塗膜に供給する方法としては、特に限定的ではないが、例えば浸漬、塗布等を用いてよい。
【0073】
(塗膜剥離用キット)
実施形態の薬剤及びコーティング剤は、それらを含むキットとして提供することができる。実施形態の塗膜剥離用キットは、芳香族アルコール又は芳香族炭化水素を含む薬剤と、数平均分子量20000以下のポリエステル樹脂を含有するコーティング剤とを備える。
【実施例0074】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はそれら実施例に限定されることは意図しない。
【0075】
下記の表1~2に示す実施例中の各種コーティング剤に用いた樹脂及び各種薬剤に用いた成分の詳細は、以下の通りである。
成分(A):樹脂
(A1)ポリエステル樹脂:ユニチカ株式会社製「エリーテルKT-9204」(数平均分子量Mn=17000、但し数平均分子量Mnはカタログ値、30質量%水溶液)
(A2)ポリエステル樹脂:互応化学工業株式会社製「プラスコートZ-561」(数平均分子量Mn=27000、但し数平均分子量Mnはカタログ値、25質量%水溶液)
(A3)ポリアクリルウレタン樹脂:大成ファインケミカル株式会社製「WEM-200U」(38質量%水溶液)
(A4)ポリウレタン樹脂:第一工業製薬株式会社製「スーパーフレックス620」(30質量%水溶液)
成分(B):芳香族アルコール
(B)ベンジルアルコール:ランクセス株式会社製及び三洋ライフマテリアル株式会社製「ベンジルアルコール」
成分(C):芳香族炭化水素
(C)4-メチルアニソール:株式会社井上香料製造所製「P-クレジルメチルエーテル」(別名;4-メチルアニソール)
【0076】
<実験例1>
[実施例1]
(コーティング剤の調製)
下記表1のコーティング剤(V)に示す組成(質量%で示す)に従い、(A1)ポリエステル樹脂を水道水で希釈し、コーティング剤中の固形分濃度が4.5質量%となるよう調整し、実施例1のコーティング剤(コーティング剤(V))を得た。
【0077】
(薬剤の調製)
下記表2に示す各成分を、同表の薬剤(I)に示す組成(質量%で示す)となるようにそれぞれ秤取し、撹拌機中で均一になるまで混合して、実施例1の薬剤(薬剤(I))を得た。薬剤(I)のpHは12~14であった。pHの測定は、pHメータ(「F-52」(株式会社堀場製作所製))を用いて行った。得られたコーティング剤及び薬剤を用いて、後述の方法で作製したテストピースを用いて、評価した。
【0078】
[比較例1]
コーティング剤を調製しなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の薬剤(薬剤(I))を調製した。
【0079】
[比較例2~4]
コーティング剤の調製において、下記表1に示すように、樹脂としてそれぞれ、(A2)ポリエステル樹脂、(A3)ポリアクリルウレタン樹脂、(A4)ポリウレタン樹脂を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2~4のコーティング剤(コーティング剤(VI)~(VIII))及び薬剤(薬剤(I))を調製した。コーティング剤(VI)~(VIII)中の各樹脂の固形分濃度はいずれも4.5質量%となるよう調整した。
【0080】
[実施例2]
薬剤における各成分の配合比率を表1の薬剤(II)に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2のコーティング剤(コーティング剤(V)及び薬剤(薬剤(II))を調製した。なお、薬剤(II)において、(B)ベンジルアルコール及び(C)4-メチルアニソール以外の成分の配合比率は全て薬剤(I)と同じ値とした。薬剤(II)において、(C)4-メチルアニソールに対する(B)ベンジルアルコールの質量比(B/C)は9.0に調整した。
【0081】
[比較例5]
コーティング剤を調製しなかったこと以外は実施例2と同様にして、比較例5の薬剤(薬剤(II))を調製した。薬剤(II)のpHは12~14であった。
【0082】
[比較例6~8]
コーティング剤の調製において、下記表1に示すように、樹脂としてそれぞれ、(A2)ポリエステル樹脂、(A3)ポリアクリルウレタン樹脂、(A4)ポリウレタン樹脂を用いたこと以外は実施例2と同様にして、比較例6~8のコーティング剤(コーティング剤(VI)~(VIII))及び薬剤(薬剤(II))を調製した。
【0083】
[実施例3、比較例9~12]
実施例3及び比較例9~12はそれぞれ、実施例1及び比較例1~4と同様にして、コーティング剤(コーティング剤(V)~(VIII))及び薬剤(薬剤(I))を調製した。
【0084】
(テストピースの作製)
縦横2方向に#100の紙やすりで研磨した冷間圧延鋼板(SPCC-SD)の平板テストピース(0.8mm×30mm×110mm)を、平板テストピースの下から5cmの位置までコーティング剤が付着するように、上記実施例及び比較例の各コーティング剤に3秒間に浸漬した。その後、コーティング剤からテストピースを引き上げ、室温下で30分間静置した後、100℃で30分間乾燥させた。これにより、テストピースの表面上にコーティング剤からなるコーティング層を形成させた。コーティング層の厚みはいずれも、約1.0μm以下であった。なお、コーティング剤を調製しない比較例1、5、9については、この工程を行わなかった。
【0085】
得られたテストピースに、中塗り塗料(関西ペイント株式会社製「WP-507T No.7018」)をスプレーにより塗布した後、80℃で3分間乾燥させた。さらに、上塗り塗料(関西ペイント株式会社製「WBC-717T-1-Z No.7A21 070MB」)をスプレーにより塗布した後、80℃で3分間乾燥させた。さらに、クリアー塗料(関西ペイント株式会社製「KINO-1209TW-2A」)をスプレーにより塗布した後、80℃で3分間乾燥させた。その後140℃で18分間乾燥させることにより、表面上に塗膜が形成されたテストピースを作製した。
【0086】
(剥離性評価)
上記実施例及び比較例の各テストピースを、下記表2に示す温度に加温した薬剤に浸漬した。なお、テストピースは下から2.5cmの位置まで薬剤に浸漬した。テストピースを薬剤に浸漬してから、薬剤に浸漬した塗膜部分がSPCC-SD素地から完全に剥離除去されるまでの時間を測定した。この時間を剥離時間とした。剥離時間が短い程、剥離性に優れる。測定結果を表3に示す。
【0087】
表3に基づいて図2を作成する。図2は、コーティング剤と薬剤の組み合わせごとの剥離時間を示すグラフである。図2の縦軸は剥離時間(単位は秒)を示す。図2において、実施例1及び比較例1~4(剥離温度50℃、薬剤(I))、実施例2及び比較例5~8(剥離温度50℃、薬剤(II))、実施例3及び比較例9~12(剥離温度60℃、薬剤(I))の結果をそれぞれ、同じ横軸位置にプロットしている。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
<実験例2>
実験例2では、コーティング剤として(1)樹脂と、水と、その他成分とを混合したコーティング剤、及び(2)樹脂と水とを混合したコーティング剤の両方からなる膜について溶解性評価を行った。両者とも本開示のコーティング剤により形成されるコーティング層となる膜であるが、以下では説明の便宜上、(1)からなる膜を「コーティング剤膜」、(2)からなる膜を「樹脂膜」とも称する。
【0092】
[実施例4]
上記表1に示す各成分を同表に示す組成となるようにそれぞれ秤取し、撹拌機中で均一になるまで混合して、実施例4のコーティング剤(コーティング剤(I)、コーティング剤(IX))を得た。また、上記表2に示すように、(B)芳香族アルコール(ベンジルアルコール)のみを薬剤成分として配合して、実施例4の薬剤(薬剤(III))を得た。
【0093】
[実施例5]
上記表2に示すように、(C)芳香族炭化水素(4-メチルアニソール)のみを薬剤成分として用いたこと以外は実施例4と同様にして、実施例5のコーティング剤(コーティング剤(I)、コーティング剤(IX))及び薬剤(薬剤(IV))を調製した。
【0094】
[比較例13、15、17]
コーティング剤の調製において、上記表1に示すように、樹脂としてそれぞれ、(A2)ポリエステル樹脂、(A3)ポリアクリルウレタン樹脂、(A4)ポリウレタン樹脂を用いたこと以外は実施例4と同様にして、比較例13、15、17のコーティング剤(それぞれコーティング剤(II)(X)、コーティング剤(III)(XI)、コーティング剤(IV)(XII)に対応)及び薬剤(薬剤(III))を調製した。
【0095】
[比較例14、16、18]
コーティング剤の調製において、上記表1に示すように、樹脂としてそれぞれ、(A2)ポリエステル樹脂、(A3)ポリアクリルウレタン樹脂、(A4)ポリウレタン樹脂を用いたこと以外は実施例5と同様にして、比較例14、16、18のコーティング剤(それぞれコーティング剤(II)(X)、コーティング剤(III)(XI)、コーティング剤(IV)(XII)に対応)及び薬剤(薬剤(IV))を調製した。
【0096】
(溶解性評価)
上記実施例及び比較例の各コーティング剤を100℃で4時間乾燥させて、コーティング剤膜(コーティング層)及び樹脂膜(コーティング層)を作製した。コーティング剤膜及び樹脂膜は、表面積約16mm、厚み約1mmであった。得られたコーティング剤膜及び樹脂膜の初期の重量Wを測定した。重量Wは、薬剤に溶解する前のコーティング層の重量に対応する。
【0097】
次いで、実施例及び比較例の各コーティング剤膜及び樹脂膜を、実施例及び比較例の各薬剤に40℃で10分間浸漬した。浸漬開始から10分経過後、薬剤からコーティング剤膜及び樹脂膜を引き上げ、コーティング剤膜及び樹脂膜の重量Wを測定した。重量Wは、40℃の薬剤に10分間溶解させた後のコーティング層の重量に対応する。試験前後の下記式で示される1分間あたりの重量変化率(%)を算出した。
1分間あたりの重量変化率(%)=[{(W-W)/W}×100]/10
浸漬後の重量Wが浸漬前の重量Wよりも減少した場合はコーティング層が溶解しており、重量変化率は正の値を示す。浸漬後の重量Wが浸漬前の重量Wよりも増加した場合はコーティング層が膨潤しており、重量変化率は負の値を示す。結果を表4に示す。
【0098】
【表4】
【0099】
表3及び図2から明らかなように、数平均分子量Mn20000以下のポリエステル樹脂を含有するコーティング剤と、芳香族アルコール又は芳香族炭化水素を含む薬剤とを用い、コーティング層を溶解させる実施例では、コーティング層を膨潤させる比較例よりも剥離時間が低減された。薬剤としては、芳香族アルコール及び芳香族炭化水素を含む場合、剥離性がより向上された。また、実施例2では、比較例10と比べて、剥離温度を10℃低温化した場合であっても優れた剥離性が発現された。実施例の塗膜剥離方法の場合、剥離温度が50℃又は60℃といった低温下であっても剥離性に優れ、短時間で塗膜残りなく良好に塗膜を剥離できることから、塗膜剥離工程の低温化が可能であることが確認できた。
【0100】
表4から、実施例の塗膜剥離方法の場合、コーティング剤膜及び樹脂膜を薬剤に浸漬したときの浸漬後の重量Wが浸漬前の重量Wよりも減少していることから、薬剤によりコーティング剤膜及び樹脂膜(コーティング層)が溶解されたことが確認できた。一方、比較例では、浸漬後の重量Wが浸漬前の重量Wよりも増加していることから、薬剤によりコーティング剤膜及び樹脂膜(コーティング層)が膨潤されたこと確認できた。数平均分子量Mn20000以下のポリエステル樹脂を含有するコーティング剤と、芳香族アルコール又は芳香族炭化水素を含む薬剤とを組み合わせることで、コーティング層を良好に溶解させることができる。実施例4、5及び比較例13、14より、ポリエステル樹脂の数平均分子量Mnが20000以下の場合、薬剤コーティング層が良好に溶解し、数平均分子量Mnが上記範囲を超えるとコーティング層が膨潤することが分かった。
【0101】
表3及び表4から、上述の式で示されるコーティング層の1分間あたりの重量変化率(%)が9.0%以上である成分をコーティング剤に配合することで、剥離性をより向上することができる。
【0102】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれる。
図1
図2