(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094280
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】厚さ測定装置及び厚さ測定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 33/02 20060101AFI20230628BHJP
【FI】
G01R33/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209668
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(74)【代理人】
【識別番号】100131200
【弁理士】
【氏名又は名称】河部 大輔
(72)【発明者】
【氏名】時岡 良宜
【テーマコード(参考)】
2G017
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017AD02
2G017BA05
2G017BA15
2G017CA19
2G017CB02
2G017CB11
2G017CB21
2G017CB23
(57)【要約】
【課題】対象物の厚さ測定において測定環境の温度の影響を低減する。
【解決手段】厚さ測定装置10は、励磁コイル11に励磁電流を印加して対象物9に渦電流を誘起させる励磁部71と、対象物9の渦電流を検出コイル12を介して検出する検出部72と、検出部72によって検出された渦電流の継続時間τに基づいて対象物9の厚さdを求める厚さ導出部84と、励磁部71及び検出部72が実装された基板68と、厚さdを補正する補正部85とを備えている。補正部85は、基板68の温度及び励磁コイル11の温度に関する継続時間τの温度特性に基づいて厚さdを補正する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
励磁コイルに励磁電流を印加して対象物に渦電流を誘起させる励磁部と、
前記対象物の前記渦電流を検出センサを介して検出する検出部と、
前記検出部によって検出された前記渦電流の継続時間に基づいて前記対象物の厚さを求める厚さ導出部と、
前記励磁部及び前記検出部が実装された基板と、
前記厚さを補正する補正部とを備え、
前記補正部は、記基板の温度及び前記励磁コイルの温度に関する前記継続時間の温度特性に基づいて前記厚さを補正する厚さ測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の厚さ測定装置において、
前記励磁コイルに前記励磁電流が印加されているときの前記励磁コイルの電圧を取得する電圧取得部をさらに備え、
前記補正部は、前記励磁コイルの電圧に関する前記継続時間の特性を、前記基板の温度及び前記励磁コイルの温度に関する前記継続時間の温度特性として用いて、前記電圧取得部に取得された前記励磁コイルの電圧によって前記厚さを補正する厚さ測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の厚さ測定装置において、
前記基板に配置された温度センサによって測定された前記基板の温度を取得する第1温度取得部をさらに備え、
前記補正部は、前記励磁コイルの電圧に関する前記継続時間の特性及び前記基板の実測温度に関する前記継続時間の温度特性を、前記基板の温度及び前記励磁コイルの温度に関する前記継続時間の温度特性として用いて、前記電圧取得部に検出された前記励磁コイルの電圧及び前記第1温度取得部に取得された前記基板の温度によって前記厚さを補正する厚さ測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の厚さ測定装置において、
前記第1温度取得部は、前記励磁部による前記励磁コイルへの励磁電流の印加が停止された後の前記基板の温度を取得する厚さ測定装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1つに記載の厚さ測定装置において、
前記対象物の温度を取得する第2温度取得部をさらに備え、
前記補正部は、前記対象物の温度に関する前記継続時間の温度特性に基づいて、前記第2温度取得部に取得された前記対象物の温度によって前記厚さをさらに補正する厚さ測定装置。
【請求項6】
励磁コイルに励磁電流を印加して対象物に渦電流を誘起させることと、
前記対象物の前記渦電流を検出センサを介して検出することと、
検出された前記渦電流の継続時間に基づいて前記対象物の厚さを求めることと、
前記厚さを補正する補正処理を実行することとを含み、
前記補正処理では、前記励磁コイルに励磁電流を印加する励磁部及び前記検出センサを介して前記渦電流を検出する検出部が実装された基板の温度並びに前記励磁コイルの温度に関する前記継続時間の温度特性に基づいて前記厚さを補正する厚さ測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、厚さ測定装置及び厚さ測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、渦電流を用いた測定装置が知られている。例えば、特許文献1には、渦電流を用いて対象物の探傷を行う測定装置が開示されている。特許文献1の測定装置は、透磁率等の温度依存性を考慮して、対象物の温度に基づいて検出信号等を補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、渦電流を用いた測定装置には、対象物の厚さを測定する厚さ測定装置がある。このような厚さ測定装置においても、測定精度が測定環境の温度の影響を受け得る。測定精度に影響を与え得る、測定環境の温度は対象物の温度に限定されない。つまり、測定環境の温度に関する測定精度の向上にはまだまだ改善の余地がある。
【0005】
ここに開示された技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、対象物の厚さ測定において測定環境の温度の影響を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示された厚さ測定装置は、励磁コイルに励磁電流を印加して対象物に渦電流を誘起させる励磁部と、前記対象物の前記渦電流を検出センサを介して検出する検出部と、前記検出部によって検出された前記渦電流の継続時間に基づいて前記対象物の厚さを求める厚さ導出部と、前記励磁部及び前記検出部が実装された基板と、前記厚さを補正する補正部とを備え、前記補正部は、前記基板の温度及び前記励磁コイルの温度に関する前記継続時間の温度特性に基づいて前記厚さを補正する。
【0007】
ここに開示された厚さ測定方法は、励磁コイルに励磁電流を印加して対象物に渦電流を誘起させることと、前記対象物の前記渦電流を検出センサを介して検出することと、検出された前記渦電流の継続時間に基づいて前記対象物の厚さを求めることと、前記厚さを補正する補正処理を実行することとを含み、前記補正処理では、前記励磁コイルに励磁電流を印加する励磁部及び前記検出センサを介して前記渦電流を検出する検出部が実装された基板の温度並びに前記励磁コイルの温度に関する前記継続時間の温度特性に基づいて前記厚さを補正する。
【発明の効果】
【0008】
前記厚さ測定装置によれば、対象物の厚さ測定において測定環境の温度の影響を低減することができる。
【0009】
前記厚さ測定方法によれば、対象物の厚さ測定において測定環境の温度の影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】
図2は、処理装置の制御部の制御系統の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、演算装置の制御部の制御系統の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、渦電流に対応する電圧信号V(t)の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、厚さ測定システム100のブロック図である。厚さ測定システム100は、プローブ1と、厚さ測定装置10とを備えている。厚さ測定装置10は、パルス渦電流探傷(PEC:Pulsed Eddy Current)によって対象物9の厚さを測定する。厚さ測定装置10は、プローブ1を制御する処理装置6と対象物9の厚さを求める演算装置8とを備えている。例えば、対象物9は、原油、石油精製物などが流通する金属製の配管である。配管は、円管状に形成されている。
【0012】
プローブ1は、対象物9に渦電流を発生させ且つ発生した渦電流を検出するために用いられる。プローブ1は、非接触型のプローブであり、対象物9に近接して配置される。尚、「非接触型」とは、非接触でも使用可能であることを意味し、接触状態での使用を除外するものではない。プローブ1は、対象物9の表面に対向するように設置される。例えば、プローブ1は、断熱性を有するスペーサ(図示省略)を介して対象物9に設置される。
【0013】
プローブ1は、変動磁場を形成することによって対象物9に渦電流を発生させる。また、プローブ1は、対象物9に発生した渦電流の変化を誘導電圧として検出する。具体的には、プローブ1は、励磁電流による磁束で対象物9に渦電流を誘起させる励磁コイル11と、対象物9の渦電流を検出する検出コイル12とを備える。プローブ1は、励磁コイル11によって対象物9に渦電流を誘起させ、誘起した渦電流を検出コイル12で検出する。検出コイル12は、検出センサの一例である。
【0014】
さらに、プローブ1は、対象物9の温度を検出する第2温度センサ15をさらに備える。第2温度センサ15は、例えば、熱電対である。さらに、プローブ1は、励磁コイル11、検出コイル12及び第2温度センサ15を収容するケーシングをさらに備えていてもよい。
【0015】
図1の例では、励磁コイル11の軸心と検出コイル12の軸心とが一直線状になるように、励磁コイル11と検出コイル12とが配列されている。このとき、検出コイル12の方が対象物9の近くに配置されている。プローブ1は、励磁コイル11及び検出コイル12を複数組有していてもよい。
図1では、プローブ1は、2組の励磁コイル11及び検出コイル12を有している。
【0016】
さらに、プローブ1は、励磁コイル11及び検出コイル12に挿入されたコア13を備えていてもよい。コア13は、全体として概ねU字状に形成されている。より詳しくは、コア13は、パーマロイで形成された、概ねU字状の複数の薄板が積層されて形成されている。コア13の一方の端部における直線状の部分は、一方の組の励磁コイル11及び検出コイル12に挿入されている。コア13の他方の端部における直線状の部分は、他方の組の励磁コイル11及び検出コイル12に挿入されている。コア13は、2組の励磁コイル11及び検出コイル12を磁気的に接続している。
【0017】
励磁コイル11は、電流が印加されることによって、その軸心の方向に磁場を形成する。一方の励磁コイル11と他方の励磁コイル11とは、軸心の方向において互いに反対向きの磁場を形成するように電流が印加される。その結果、コア13には、コア13の長手方向に沿った磁場が形成される。すなわち、コア13の一方の端部がN極となるときには、コア13の他方の端部はS極となる。逆に、コア13の一方の端部がS極となるときには、コア13の他方の端部はN極となる。例えば、一方の励磁コイル11から対象物9へ向かって磁束が発生し、対象物9から他方の励磁コイル11へ向かって磁束が発生する。詳しくは、一方の励磁コイル11から発せられる大部分の磁束は、一方の励磁コイル11の軸心の方向に出て対象物9内へ入り、対象物9内を略円弧状に通過し、他方の励磁コイル11の軸心の方向へ向かい他方の励磁コイル11に入っていく。励磁コイル11に印加する電流を変動させることによって、対象物9に発生する磁場が変動し、対象物9に渦電流が発生する。
【0018】
一方、対象物9のうち検出コイル12の近傍の部分に発生した渦電流によって、検出コイル12を貫通する磁束が形成される。検出コイル12を貫通する磁束が変化すると、検出コイル12に誘導起電力が発生する。検出コイル12は、この誘導起電力を検出することによって、対象物9の渦電流を検出する。つまり、検出コイル12によって誘導起電力を検出することを、渦電流を検出するともいう。
【0019】
処理装置6は、プローブ1を用いて、対象物9に渦電流を発生させ且つ発生した渦電流を検出する。演算装置8は、処理装置6によって検出された渦電流の継続時間(詳しくは後述するが、渦電流が急激に減衰するまでの時間)に基づいて対象物9の厚さを求める。それに加えて、演算装置8は、求められた対象物9の厚さを補正する。
【0020】
処理装置6は、例えば、対象物9に近接して配置される。例えば、処理装置6は、スペーサを介して対象物9上に設置される。処理装置6は、送信部61と第1受信部62と第2受信部63と検温部64と通信部65と制御部66と記憶部67と基板68と第1温度センサ69とを有している。
【0021】
送信部61は、励磁コイル11にパルス状の励磁電流を印加する。送信部61は、パルス発生器61aと送信アンプ61bとを有している。パルス発生器61aは、制御部66からの指令に基づいてパルス信号を発生する。送信アンプ61bは、パルス発生器61aからのパルス信号を増幅して、励磁電流として励磁コイル11へ出力する。
【0022】
第1受信部62は、対象物9の渦電流に応じて検出コイル12に発生する誘導起電力を受信する。第1受信部62は、検出コイル12に発生する電圧が入力され、該電圧を増幅する受信アンプ62aを少なくとも有している。第1受信部62は、電圧信号にフィルタ処理を施すフィルタをさらに有していてもよい。
【0023】
第2受信部63は、励磁コイル11の両端電圧を受信する。第2受信部63は、励磁コイル11に発生する電圧が入力され、該電圧を増幅する受信アンプ63aを少なくとも有している。第2受信部63は、電圧信号にフィルタ処理を施すフィルタをさらに有していてもよい。
【0024】
検温部64は、第1温度センサ69の出力が入力される。検温部64は、第1温度センサ69の検出信号が入力され、該検出信号を増幅する受信アンプを有していてもよい。さらに、検温部64は、第2温度センサ15の出力が入力される。検温部64は、第2温度センサ15の検出信号が入力され、該検出信号を増幅する受信アンプを有していてもよい。尚、検温部64は、第1温度センサ69と第2温度センサ15とで共通ではなく、別々に設けられていてもよい。
【0025】
通信部65は、外部機器と無線通信を行う。例えば、通信部65は、第1受信部62によって検出された電圧信号(即ち、検出信号)、第2受信部63によって検出された電圧信号(即ち、検出信号)及び検温部64によって検出された検出信号を演算装置8に送信する。
【0026】
制御部66は、処理装置6の全体を制御する。制御部66は、各種の演算処理を行う。例えば、制御部66は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサで形成されている。制御部66は、MCU(Micro Controller Unit)、MPU(Micro Processor Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、PLC(Programmable Logic Controller)、システムLSI等で形成されていてもよい。
【0027】
例えば、制御部66は、送信部61に所定期間だけ励磁電流を出力させる。制御部66は、励磁電流の出力中に第2受信部63を介して検出信号を取得する。制御部66は、励磁電流の出力停止後に第1受信部62を介して検出信号を取得する。制御部66は、第1受信部62による検出信号を取得するタイミングで、検温部64による検出信号も取得する。制御部66は、第1受信部62、第2受信部63及び検温部64からの検出信号を記憶部67に記憶させ、記憶部67に記憶された検出信号を通信部65を介して演算装置8に適宜、送信する。
【0028】
記憶部67は、制御部66で実行されるプログラム及び各種データを格納している。例えば、記憶部67は、制御プログラムが格納されている。記憶部67は、不揮発性メモリ、HDD(Hard Disc Drive)又はSSD(Solid State Drive)等で形成される。
【0029】
基板68には、送信部61、第1受信部62、第2受信部63、検温部64、通信部65、制御部66及び記憶部67が実装されている。
【0030】
第1温度センサ69は、基板68の温度を検出する。第1温度センサ69は、基板68に配置されている。第1温度センサ69は、例えば、温度センサICである。
【0031】
図2は、処理装置6の制御部66の制御系統の構成を示すブロック図である。制御部66は、記憶部67から制御プログラムをメモリに読み出して展開することによって、各種機能を実現する。具体的には、制御部66は、励磁コイル11に励磁電流を印加して対象物9に渦電流を誘起させる励磁部71と、対象物9の渦電流を検出コイル12を介して検出する検出部72と、励磁コイル11に励磁電流が印加されているときの励磁コイル11の電圧を取得する電圧取得部73と、基板68の温度を取得する第1温度取得部74と、対象物9の温度を取得する第2温度取得部75として機能する。
【0032】
励磁部71は、送信部61に励磁コイル11へ励磁電流を印加させる。具体的には、励磁部71は、パルス発生器61aに指令を出力し、パルス発生器61aにパルス信号を発生させる。その結果、励磁電流が送信アンプ61bから励磁コイル11へ印加される。
【0033】
検出部72は、対象物9の渦電流として、渦電流に対応する電圧信号を検出する。具体的には、検出部72は、検出コイル12の誘導起電力に対応する電圧信号を検出する。さらに詳しくは、検出部72は、励磁コイル11への励磁電流の印加が停止されてから所定の期間、電圧信号の検出を継続する。つまり、検出部72は、励磁コイル11への励磁電流の印加が停止されてからの対象物9の渦電流の計時変化(即ち、過渡変化)を検出している。検出部72は、検出された渦電流、即ち、電圧信号を記憶部67に保存する。以下、説明の便宜上、検出部72によって検出された電圧信号を単に「渦電流」と称する場合がある。例えば、記憶部67に保存された、渦電流に対応する電圧信号も単に「渦電流」と称する。
【0034】
電圧取得部73は、励磁コイル11の両端電圧に対応する電圧信号を取得する。電圧取得部73は、励磁コイル11への励磁電流が印加されているときの電圧信号を取得する。電圧取得部73は、検出された両端電圧、即ち、電圧信号を記憶部67に保存する。以下、説明の便宜上、電圧取得部73によって取得された電圧信号を単に「励磁コイル11の電圧」と称する場合がある。例えば、記憶部67に保存された、励磁コイル11の両端電圧に対応する電圧信号も単に「励磁コイル11の電圧」と称する。
【0035】
第1温度取得部74は、励磁部71による励磁コイル11への励磁電流の印加が停止された後の基板68の温度を取得する。例えば、第1温度取得部74は、検出部72による渦電流の検出時の基板68の温度を取得する。第1温度取得部74は、基板68に配置された第1温度センサ69によって測定された基板68の温度、即ち、実測温度を取得する。第1温度取得部74は、取得された基板68の温度を記憶部67に保存する。
【0036】
第2温度取得部75は、第2温度センサ15によって測定された対象物9の温度、即ち、実測温度を取得する。第2温度取得部75は、取得された対象物9の温度を記憶部67に保存する。
【0037】
記憶部67においては、検出部72によって検出された渦電流と、電圧取得部73によって取得された励磁コイル11の電圧と、第1温度取得部74によって取得された基板68の温度と、第2温度取得部75によって取得された対象物9の温度とが互いに関連づけられて記憶されている。つまり、記憶部67には、対象物9の渦電流、励磁コイル11の電圧、対象物9の温度及び基板68の温度が1セットとして記憶されている。
【0038】
制御部66は、記憶部67に保存された対象物9の渦電流、励磁コイル11の電圧、対象物9の温度及び基板68の温度を演算装置8へ通信部65を介して送信する。
【0039】
演算装置8は、コンピュータ又はコンピュータネットワーク(所謂、クラウド)で形成されている。演算装置8は、通信部81と制御部82と記憶部83とを有している。
【0040】
通信部81は、外部機器と無線通信を行う。例えば、通信部81は、処理装置6からの信号等を受信する。
【0041】
制御部82は、演算装置8の全体を制御する。制御部82は、各種の演算処理を行う。例えば、制御部82は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサで形成されている。制御部82は、MCU(Micro Controller Unit)、MPU(Micro Processor Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、PLC(Programmable Logic Controller)、システムLSI等で形成されていてもよい。
【0042】
記憶部83は、制御部82で実行されるプログラム及び各種データを格納している。例えば、記憶部83は、制御プログラムが格納されている。記憶部83は、不揮発性メモリ、HDD(Hard Disc Drive)又はSSD(Solid State Drive)等で形成される。また、記憶部83は、処理装置6から送信される信号等を保存する。具体的には、記憶部83は、処理装置6によって取得された対象物9の渦電流、励磁コイル11の電圧、対象物9の温度及び基板68の温度を保存する。
【0043】
図3は、演算装置8の制御部82の制御系統の構成を示すブロック図である。制御部82は、記憶部83から制御プログラムをメモリに読み出して展開することによって、各種機能を実現する。具体的には、制御部82は、厚さ導出部84と、補正部85として機能する。
【0044】
厚さ導出部84は、対象物9の渦電流の継続時間に基づいて対象物9の厚さを求める。詳しくは詳述するが、励磁コイル11によって対象物9に誘起された渦電流は、対象物9の表面(プローブ1が対向している面)から裏面に浸透し、裏面に到達すると急激に減衰する。対象物9の渦電流の継続時間とは、渦電流が対象物9に誘起されてから急激に減衰するまでの時間である。対象物9の渦電流の継続時間は、対象物9の厚さと相関がある。
【0045】
厚さ導出部84は、処理装置6によって検出された渦電流(具体的には、電圧信号)の継続時間を求める。厚さ導出部84は、継続時間と厚さとの相関関係に基づいて、継続時間から対象物9の厚さを求める。
【0046】
補正部85は、厚さ導出部84によって求められた厚さを補正する。詳しくは、補正部85は、基板68の温度及び励磁コイル11の温度に関する継続時間の温度特性に基づいて厚さを補正する。さらに、補正部85は、基板68の温度及び励磁コイル11の温度に関する継続時間の温度特性に加えて、対象物9の温度に関する継続時間の温度特性に基づいて厚さを補正する。尚、「・・・の温度に関する継続時間の温度特性」とは、・・・の温度変化に対する継続時間の変化の関係を意味する。
【0047】
ここで、渦電流と対象物9の厚さとの関係について詳しく説明する。
図4は、渦電流に対応する電圧信号V(t)の時間変化を示すグラフである。
図4のグラフは、両対数グラフである。
図4において、電圧信号V0(t)は、厚さd0を有する対象物9の電圧信号であり、電圧信号V1(t)は、厚さd0よりも薄い厚さd1を有する対象物9の電圧信号である。
【0048】
渦電流は、対象物9に浸透していくのに従って減衰していく。渦電流は、対象物9の表面(プローブ1が対向している面)から裏面に到達するまでの間は徐々に減衰し、裏面に到達すると急激に減衰する。電圧信号V(t)も渦電流と同様の変化を示す。つまり、電圧信号V(t)の過渡変化は、渦電流の過渡変化に相当する。渦電流が対象物9の裏面に達するまでの間の電圧信号V(t)の変化は、両対数グラフ上では直線的(線形的)に表される。その後、電圧信号V(t)は、急激に減衰していく。このように変化する電圧信号V(t)は、以下の式(1)のように表される。
【0049】
【数1】
ここで、Aは、受信アンプ62aの増幅率である。nは、電圧信号V(t)の減衰の程度に関連する定数であり、-nは、両対数グラフにおける電圧信号V(t)の傾きを表す。
【0050】
式(1)からもわかるように、電圧信号V(t)は、徐々に減衰するものの時間τまでは継続し、時間τにおいて急激に減衰する。説明の便宜上、τを「継続時間」と称する。継続時間τは、以下の式(2)で表わされる。
【0051】
τ=σμd2 ・・・(2)
ここで、σは、対象物9の導電率であり、μは、対象物9の透磁率であり、dは、対象物9の厚さである。
【0052】
つまり、継続時間τは、対象物9の厚さdに依存して変化する。対象物9の導電率σ及び透磁率μが一定であると仮定すると、継続時間τは、対象物9の厚さdに依存して変化する。また、継続時間τ及び厚さdが変化しても、τ/d2は、一定である。そのため、既知の厚さd0に対する継続時間τ0と、未知の厚さdに対する継続時間τとがわかれば、以下の式(3)に基づいて、未知の厚さdを求めることができる。式(3)、既知の厚さd0及び継続時間τ0は、記憶部83に保存されている。
【0053】
【0054】
例えば、
図4において電圧信号V0(t),V1(t)を比較すると、厚さd0の対象物9の電圧信号V0(t)は、継続時間τ0まで継続する。対象物9の厚さdがd0からd1に減少すると、継続時間τは、τ0からτ1に減少する。尚、電圧信号V(t)のうち両対数グラフで直線状の部分の変化態様は、式(1)からわかるように厚さdに依存しないので、電圧信号V0(t),V1(t)で実質的に同じである。厚さd0及び継続時間τ0,τ1を式(3)に代入することによって、厚さd1を求めることができる。
【0055】
ただし、このようにして求められる継続時間τ、ひいては厚さdは、測定環境の温度の影響を受ける。影響を与え得る測定環境の温度としては、例えば、対象物9の温度、励磁コイル11の温度及び基板68の温度が挙げられる。
【0056】
詳しくは、実際の対象物9の導電率σ及び透磁率μは、温度依存性を有する。例えば、炭素鋼であれば、一般的に、導電率σは、負の温度特性を有し、透磁率μは、正の温度特性を有する。導電率σ及び透磁率μが温度依存性を有すると、継続時間τも温度依存性を有する。
【0057】
また、励磁コイル11は対象物9上又は対象物9の近傍に配置されるため、励磁コイル11の温度は、対象物9の温度に応じて変化し得る。励磁コイル11の抵抗は、温度依存性を有する。励磁コイル11の温度変化によって励磁コイル11の抵抗が変化すると、励磁コイル11によって形成される磁場も変化する。その結果、継続時間τも変化する。
【0058】
さらに、処理装置6は対象物9上又は対象物9の近傍に配置されるため、基板68の温度は、対象物9の温度に応じて変化し得る。基板68の温度が変化すると、送信部61等の送信に関する回路及び第1受信部62等の受信に関する回路の温度が変化する。このような回路等も温度依存性を有する。送信に関する回路の温度が変化すると、励磁電流が変化し得る。受信に関する回路の温度が変化すると、第1受信部62から出力される、誘導起電力に対応する電圧信号が変化し得る。その結果、継続時間τも変化する。
【0059】
このようにして継続時間τが変化すると、継続時間τから求められる厚さdも変化する。そこで、補正部85は、対象物9の温度、基板68の温度及び励磁コイル11の温度に起因する継続時間τの変動、即ち、厚さdの変動を低減するように厚さdを補正する。
【0060】
より詳しくは、基板68の温度及び励磁コイル11の温度に関しては、補正部85は、基板68の温度に関連するパラメータ及び励磁コイル11の温度に関連するパラメータによって厚さdを補正する。この例では、基板68の温度に関連するパラメータ及び励磁コイル11の温度に関連するパラメータは、励磁コイル11に励磁電流が印加されているときの励磁コイル11の電圧である。励磁コイル11の電圧の変化は、励磁コイル11に印加された励磁電流の変化及び励磁コイル11の抵抗の変化を反映している。基板68の温度、特に、送信に関する回路の温度が変化すると、励磁コイル11の励磁電流が変化し得る。励磁コイル11の温度が変化すると、励磁コイル11の抵抗が変化し得る。つまり、励磁コイル11の電圧は、基板68の温度及び励磁コイル11の温度に応じて変化する。
【0061】
補正部85は、励磁コイル11の電圧に関する継続時間τの特性(すなわち、励磁コイル11の電圧変化に対する継続時間τの変化の関係であり、以下、「送信電圧特性」という)を基板68の温度及び励磁コイル11の温度に関する継続時間τの温度特性(以下、「基板・コイル温度特性」という)として用いて厚さdを補正する。継続時間τの送信電圧特性は、継続時間τの基板・コイル温度特性を反映している。継続時間τの送信電圧特性は、基板68の温度に関する継続時間τの温度特性のうち、主に送信に関する回路の温度に関する継続時間τの温度特性を反映している。
【0062】
つまり、補正部85は、継続時間τの送信電圧特性に従って、励磁コイル11の電圧によって厚さdを補正する。補正部85は、励磁コイル11の電圧の変化に起因する継続時間τの変化(即ち、厚さdの変化)を低減するように、励磁コイル11の電圧によって厚さdを補正する。
【0063】
それに加えて、補正部85は、基板68の温度そのものによっても厚さdを補正する。つまり、補正部85は、継続時間τの送信電圧特性、及び、基板68の実測温度に関する継続時間τの温度特性(以下、「実測温度特性」という)を継続時間τの基板・コイル温度特性として用いる。継続時間τの実測温度特性は、基板68の温度に関する継続時間τの温度特性のうち、送信に関する回路の温度に関する継続時間τの温度特性に加えて受信に関する回路の温度に関する継続時間τの温度特性を反映している。
【0064】
つまり、補正部85は、継続時間τの実測温度特性に従って、基板68の実測温度によって厚さdを補正する。補正部85は、基板68の温度変化に起因する継続時間τの変化(即ち、厚さdの変化)を低減するように、基板68の実測温度によって厚さdを補正する。
【0065】
さらに、対象物9の温度に関しては、補正部85は、対象物9の温度によって厚さdを補正する。補正部85は、継続時間τの基板・コイル温度特性に加えて、対象物9の温度に関する継続時間τの温度特性(以下、「対象物温度特性」という)に基づいて厚さdを補正する。
【0066】
つまり、補正部85は、継続時間τの対象物温度特性に従って、対象物9の温度によって厚さdを補正する。
【0067】
具体的には、補正部85は、下記の近似式(4)に基づいて厚さdを補正する。
【0068】
【数3】
ここで、d’は、補正された厚さであり、補正厚さと称する。ΔTmは、対象物9の温度(以下、「対象物温度」という)Tmと基準となる対象物9の温度(以下、「基準対象物温度」という)Tmrとの偏差であり、対象物温度偏差と称する。ΔTbは、基板68の温度(以下、「基板温度」という)Tbと基準となる基板68の温度(以下、「基準基板温度」という)Tbrとの偏差であり、基板温度偏差と称する。ΔVcは、励磁コイル11の電圧(以下、「コイル電圧」という)Vcと基準となる励磁コイル11の電圧(以下、「基準コイル電圧」という)Vcrとの偏差であり、コイル電圧偏差と称する。A
1,A
2,B
1,B
2,C
1,C
2は、係数である。Dは、定数である。
【0069】
近似式(4)は、継続時間τの対象物温度特性、継続時間τの実測温度特性及び継続時間τの送信電圧特性を反映している。尚、継続時間τの実測温度特性及び継続時間τの送信電圧特性は、継続時間τの基板・コイル温度特性に相当する。詳しくは、対象物温度偏差ΔTmに関する項は、継続時間τの対象物温度特性に対応している。基板温度偏差ΔTbに関する項は、継続時間τの実測温度特性に対応している。コイル電圧偏差ΔVcに関する項は、継続時間τの送信電圧特性に対応している。
【0070】
対象物温度偏差ΔTm、基板温度偏差ΔTbに関する項及びコイル電圧偏差ΔVcに関する項は、様々な対象物温度Tm、基板温度Tb及びコイル電圧Vcにおける厚さdのデータが予め取得され、該データを二次関数で近似することによって求められている。厚さdは、継続時間τから求められている。そのため、対象物温度Tmに対する厚さdの関係は、対象物温度Tmに対する継続時間τの関係に対応している。基板温度Tbに対する厚さdの関係は、基板温度Tbに対する継続時間τの関係に対応している。コイル電圧Vcに対する厚さdの関係は、コイル電圧Vcに対する継続時間τの関係に対応している。
【0071】
具体的には、励磁部71が励磁コイル11へ励磁電流を印加して励磁した後に、励磁電流の出力を停止させ、検出部72が対象物9に発生した渦電流を検出する。検出部72は、電圧信号の検出を所定期間継続する。こうして、検出コイル12の誘導起電力の過渡変化(経時変化)、即ち、対象物9に発生する渦電流の過渡変化が検出される。このとき、対象物温度Tm、基板温度Tb及びコイル電圧Vcも取得される。検出された渦電流の過渡変化から継続時間τが求められ、継続時間τから厚さdが求められる。異なる対象物温度Tm、基板温度Tb及びコイル電圧Vcにおいて、渦電流の過渡変化の取得及び厚さdの導出が繰り返され、複数組の対象物温度Tm、基板温度Tb、コイル電圧Vc及び厚さdのデータが取得される。
【0072】
取得されたデータから、対象物温度Tmの平均値、基板温度Tbの平均値、コイル電圧Vcの平均値及び厚さdの平均値が求められる。対象物温度Tmの平均値が基準対象物温度Tmrとされる。基板温度Tbの平均値が基準基板温度Tbrとされる。コイル電圧Vcの平均値が基準コイル電圧Vcrとされる。厚さdの平均値が基準厚さdrとされる。個々の対象物温度Tmから基準対象物温度Tmrが減算され、対象物温度偏差ΔTm(=Tm-Tmr)が求められる。個々の基板温度Tbから基準基板温度Tbrが減算され、基板温度偏差ΔTb(=Tb-Tbr)が求められる。個々のコイル電圧Vcから基準コイル電圧Vcrが減算され、コイル電圧偏差ΔVc(=Vc-Vcr)が求められる。個々の厚さdを基準厚さdrで除することによって、厚さ比d/drが求められる。複数組の対象物温度偏差ΔTm、基板温度偏差ΔTb、コイル電圧偏差ΔVc及び厚さ比d/drから、例えば、最小二乗法を用いて、対象物温度偏差ΔTm、基板温度偏差ΔTb及びコイル電圧偏差ΔVcに対する厚さ比d/drの関係を示す二次関数、即ち、対象物温度偏差ΔTm、基板温度偏差ΔTb及びコイル電圧偏差ΔVcを変数とする二次関数の近似式が求められる。求められた二次関数における係数が、近似式(4)の係数A1,A2,B1,B2,C1,C2である。
【0073】
近似式(4)は、予め求められ、記憶部83に保存されている。基準対象物温度Tmr、基準基板温度Tbr及び基準コイル電圧Vcrも、予め求められ、記憶部83に保存されている。
【0074】
補正部85が近似式(4)を用いて厚さdを補正することによって、補正厚さd’、即ち、最終的な厚さdが求められる。
【0075】
このような厚さ測定についてフローチャートを用いてさらに詳細に説明する。
図5は、厚さ測定のフローチャートである。
【0076】
厚さ導出部84は、厚さ測定のフローチャートのステップS101において所定の測定周期が到来したか否かを判定する。測定周期は、対象物9の厚さ測定を求める周期である。測定周期が到来していない場合には、厚さ導出部84は、ステップS101の判定を繰り返して、測定周期の到来を待機する。
【0077】
測定周期が到来すると、厚さ導出部84は、処理装置6に指令を出力して、処理装置6に測定データを取得させる。測定データは、対象物9の厚さ測定を行うためのデータであり、具体的には、対象物9の渦電流、対象物9の温度、基板68の温度及び励磁コイル11の電圧である。具体的には、処理装置6が演算装置8からの指令を受けると、励磁部71は、ステップS102において、励磁コイル11へ励磁電流を印加して励磁する。励磁コイル11は、励磁電流の印加によって軸心の方向へ磁場を形成する。一方の励磁コイル11と他方の励磁コイル11とは、軸心の方向において互いに反対向きの磁場を形成する。例えば、一方の励磁コイル11から対象物9へ向かって磁束が発生し、対象物9から他方の励磁コイル11へ向かって磁束が発生する。ステップS102は、励磁コイルに励磁電流を印加して対象物に渦電流を誘起させることに相当する。
【0078】
このとき、ステップS103において、電圧取得部73は、励磁電流が印加されているときの励磁コイル11の電圧Vcを取得する。
【0079】
続いて、ステップS104において、励磁部71は、励磁電流の出力を停止させ、検出部72は、対象物9に発生した渦電流を検出する。検出部72は、電圧信号の検出を所定期間継続する。こうして、検出部72は、検出コイル12の誘導起電力の過渡変化(経時変化)、即ち、対象物9に発生する渦電流の過渡変化を検出する。ステップS104は、対象物の渦電流を検出センサを介して検出することに相当する。
【0080】
さらに、ステップS105において、第1温度取得部74は、基板68の実測温度Tbを取得し、第2温度取得部75は、対象物9の温度Tmを取得する。すなわち、第1温度取得部74によって取得される基板68の実測温度Tbは、励磁電流の出力が停止された後の渦電流の検出時の基板68の温度である。
【0081】
処理装置6は、測定データとしての1セットの渦電流及び対象物温度Tm、基板温度Tb及びコイル電圧Vcを演算装置8へ送信する。演算装置8は、受信した1セットの渦電流及び対象物温度Tm、基板温度Tb及びコイル電圧Vcを記憶部83に保存する。
【0082】
続いて、厚さ導出部84は、ステップS106において、記憶部83に保存された測定データのうち渦電流の継続時間τを求める。さらに、厚さ導出部84は、ステップS107において、継続時間τを式(3)に代入して、対象物9の厚さdを求める。ステップS107は、検出された渦電流の継続時間に基づいて対象物の厚さを求めることに相当する。
【0083】
そして、補正部85は、ステップS108において、補正処理を実行する。補正部85は、厚さdを近似式(4)及び測定データの対象物温度Tm、基板温度Tb及びコイル電圧Vcを用いて補正する。具体的には、補正部85は、対象物温度Tmから対象物温度偏差ΔTm(=Tm-Tmr)を求め、基板温度Tbから基板温度偏差ΔTb(=Tb-Tb)を求め、コイル電圧Vcからコイル電圧偏差ΔVc(=Vc-Vcr)を求める。補正部85は、厚さd、対象物温度偏差ΔTm、基板温度偏差ΔTb及びコイル電圧偏差ΔVcを近似式(4)に代入して、補正厚さd’を求める。ステップS108は、厚さを補正する補正処理を実行することに相当する。
【0084】
その後、厚さ導出部84は、ステップS109において、厚さ測定を終了するか否かを判定する。例えば、厚さ導出部84は、厚さ測定の終了指令が入力されているか否かを判定する。例えば、ユーザが演算装置8を操作して、厚さ測定の終了を入力する。終了指令が入力されていない場合には、厚さ導出部84は、ステップS101へ戻って、次の測定周期が到来したか否かを判定する。次の測定周期が到来すると、測定データが再び取得され、測定データに基づいて対象物9の厚さdが求められる。つまり、演算装置8は、測定周期ごとに測定データの取得及び対象物9の厚さの導出・補正を繰り返す。
【0085】
ステップS109において、終了指令が入力されている場合には、厚さ測定が終了される。
【0086】
このように、厚さ測定装置10は、対象物9に渦電流を発生させると共に発生した渦電流を検出し、渦電流の継続時間τに基づいて対象物9の厚さdを求める。ここで、渦電流の継続時間τは温度依存性を有するので、厚さ測定装置10は、継続時間τの温度特性を示す近似式を用いて、厚さdを補正する。具体的には、厚さ測定装置10は、継続時間τの基板・コイル温度特性、即ち、基板68の温度及び励磁コイル11の温度に関する継続時間τの温度特性に基づいて厚さdを補正する。基板68の温度が変化すると、励磁コイル11に印加される励磁電流の大きさ及び検出コイル12の誘導起電力に対応する電圧信号の大きさ等が変化する。励磁コイル11の温度が変化すると、励磁コイル11の抵抗が変化し、励磁コイル11によって形成される磁場が変化する。これらの結果、継続時間τも変化する。そのため、厚さ測定装置10は、継続時間τから求められた厚さdを基板68の温度及び励磁コイル11の温度に応じて補正する。これによって、対象物9の厚さdの温度補正の精度を向上させることができ、厚さdを高い精度で求めることができる。
【0087】
また、厚さ測定装置10は、基板68の温度に関連するパラメータ及び励磁コイル11の温度に関連するパラメータとして、励磁コイル11の電圧によって厚さdを補正する。具体的には、厚さ測定装置10は、継続時間τのコイル電圧特性、即ち、励磁コイル11の電圧に関する継続時間τの特性を、継続時間τの基板・コイル温度特性として用いて厚さdを補正する。コイル電圧には、基板68の温度変化及び励磁コイル11の温度変化の両方が反映される。そのため、コイル電圧に応じて厚さdを補正することによって、厚さdを基板68の温度及び励磁コイル11の温度の両方に応じて補正することができる。
【0088】
さらに、厚さ測定装置10は、継続時間τの実測温度特性、即ち、基板68の実測温度に関する継続時間τの温度特性に基づいて厚さdを補正する。前述のコイル電圧は、基板68の温度変化のうち、主に送信に関する回路の温度変化を反映している。基板68の実測温度、即ち、基板68の温度そのものに応じて厚さdを補正することによって、受信に関する回路の温度変化にも応じて厚さdを補正することができる。
【0089】
また、基板68の温度に関する継続時間τの温度特性として、継続時間τのコイル電圧特性と継続時間τの実測温度特性との2つ特性を用いることによって、送信に関する回路の温度変化の影響と受信に関する回路の温度変化の影響とのそれぞれを効果的に低減することができる。その結果、厚さdをより高い精度で求めることができる。
【0090】
さらに、厚さ測定装置10は、基板68の温度及び励磁コイル11の温度に加えて、対象物9の温度によっても厚さdを補正する。これにより、厚さ測定装置10は、厚さdをさらに高い精度で求めることができる。
【0091】
以上のように、厚さ測定装置10は、励磁コイル11に励磁電流を印加して対象物9に渦電流を誘起させる励磁部71と、対象物9の渦電流を検出コイル12(検出センサ)を介して検出する検出部72と、検出部72によって検出された渦電流の継続時間τに基づいて対象物9の厚さdを求める厚さ導出部84と、励磁部71及び検出部72が実装された基板68と、厚さdを補正する補正部85とを備え、補正部85は、基板68の温度及び励磁コイル11の温度に関する継続時間τの温度特性に基づいて厚さdを補正する。
【0092】
換言すると、厚さ測定方法は、励磁コイル11に励磁電流を印加して対象物9に渦電流を誘起させることと、対象物9の渦電流を検出コイル12(検出センサ)を介して検出することと、検出された渦電流の継続時間τに基づいて対象物9の厚さdを求めることと、厚さdを補正する補正処理を実行することとを含み、補正処理では、励磁コイル11に励磁電流を印加する励磁部71及び検出コイル12を介して渦電流を検出する検出部72が実装された基板68の温度並びに励磁コイル11の温度に関する継続時間τの温度特性に基づいて厚さdを補正する。
【0093】
これらの構成によれば、基本的には、対象物9に渦電流が誘起され、誘起された渦電流が検出され、検出された渦電流の継続時間τに基づいて対象物9の厚さdが求められる。継続時間τは、基板68の温度変化及び励磁コイル11の温度変化の影響を受ける。そのため、継続時間τから求められる厚さdも、基板68の温度変化及び励磁コイル11の温度変化の影響を受ける。そこで、厚さdは、基板68の温度及び励磁コイル11の温度に関する継続時間τの温度特性に基づいて補正される。これにより、厚さdを測定環境の温度に応じてより適切に補正することができ、その結果、厚さdの測定精度を向上させることができる。
【0094】
また、厚さ測定装置10は、励磁コイル11に励磁電流が印加されているときの励磁コイル11の電圧を取得する電圧取得部73をさらに備え、補正部85は、励磁コイル11の電圧に関する継続時間τの特性を、基板68の温度及び励磁コイル11の温度に関する継続時間τの温度特性として用いて、電圧取得部73に取得された励磁コイル11の電圧によって厚さdを補正する。
【0095】
この構成によれば、補正部85は、励磁コイル11の電圧に応じて厚さdを補正することによって、基板68の温度及び励磁コイル11の温度の両方に関する継続時間τの温度特性を考慮して厚さdを補正することができる。つまり、基板68の温度及び励磁コイル11の温度に関する継続時間τの温度特性に基づく厚さdの補正を簡易に実現することができる。
【0096】
さらに、厚さ測定装置10は、基板68に配置された第1温度センサ69によって測定された基板68の温度を取得する第1温度取得部74をさらに備え、補正部85は、励磁コイル11の電圧に関する継続時間τの特性及び基板68の実測温度に関する継続時間τの温度特性を、基板68の温度及び励磁コイル11の温度に関する継続時間τの温度特性として用いて、電圧取得部73に検出された励磁コイル11の電圧及び第1温度取得部74に取得された基板68の温度によって厚さdを補正する。
【0097】
この構成によれば、基板68の温度に関する継続時間τの温度特性として、励磁コイル11の電圧に関する継続時間τの特性と基板68の実測温度に関する継続時間τの温度特性との2つの特性が考慮される。励磁コイル11の電圧に関する継続時間τの特性は、基板68のうち送信に関する回路の温度変化を主に反映している。基板68の実測温度に関する継続時間τの温度特性は、基板68のうち送信に関する回路だけでなく受信に関する回路の温度変化も反映している。つまり、これら2つの特性に基づいて厚さdを補正することによって、送信に関する回路の温度変化と受信に関する回路の温度変化とのそれぞれに適切に対応した補正を行うことができる。
【0098】
さらにまた、第1温度取得部74は、励磁部71による励磁コイル11への励磁電流の印加が停止された後の基板68の温度を取得する。
【0099】
この構成によれば、第1温度取得部74は、励磁電流の出力時の基板68の温度上昇の影響が低減された基板68の温度を取得する。励磁電流の出力時には、基板68の温度が上昇し得る。検出部72による渦電流の検出に与える影響が大きいのは、励磁電流の出力時の基板68の温度よりも励磁電流の出力停止後の基板68の温度である。第1温度取得部74に取得された基板68の温度で厚さdを補正することによって、基板68の温度変化が検出部72による渦電流の検出に与える影響をより考慮した補正を実現することができる。
【0100】
また、厚さ測定装置10は、対象物9の温度を取得する第2温度取得部75をさらに備え、補正部85は、対象物9の温度に関する継続時間τの温度特性に基づいて、第2温度取得部75に取得された対象物9の温度によって厚さdをさらに補正する。
【0101】
この構成によれば、補正部85は、基板68の温度及び励磁コイル11の温度に関する継続時間τの温度特性に加えて、対象物9の温度に関する継続時間τの温度特性に基づいて、厚さdを補正する。継続時間τは、対象物9の温度変化に応じて変化し得る。厚さdを対象物9の温度に関する継続時間τの温度特性も考慮して補正することによって、厚さdを測定環境の温度に応じてより適切に補正することができ、その結果、厚さdの測定精度をさらに向上させることができる。
【0102】
《その他の実施形態》
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、前記実施形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、前記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、前記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0103】
前記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0104】
例えば、厚さ測定装置10の構成も一例に過ぎない。処理装置6と演算装置8は、一体的に構成されていてもよい。すなわち、1つの装置が処理装置6及び演算装置8の機能を有していてもよい。また、処理装置6と演算装置8とが有線で接続されていてもよい。また、1つの演算装置8に対して複数の処理装置6が接続されていてもよい。また、演算装置8は、無線又は有線により接続された他の装置に対して、演算した厚さに関するデータを送信するようにしてもよい。
【0105】
プローブ1は、前述の構成に限られない。例えば、プローブ1は、2組の励磁コイル11及び検出コイル12を備えているが、励磁コイル11及び検出コイル12は、1組でもよく、3組以上であってもよい。励磁コイル11と検出コイル12とはそれぞれの軸心が一直線状になるように配置されていなくてもよい。励磁コイル11と検出コイル12とはそれぞれの軸心が一直線状になるように配置される場合、検出コイル12よりも励磁コイル11の方が対象物9の近くに配置されてもよい。さらに、プローブ1の検出部は、検出コイル12に限定されない。検出部は、対象物9の渦電流を直接的又は間接的に検出できるものであればよく、例えば、ホール素子であってもよい。また、プローブ1は、コア13を備えていなくてもよい。
【0106】
第1温度センサ69は、温度センサICに限定されない。第2温度センサ15は、熱電対に限定されない。第1温度センサ69及び第2温度センサ15は、対象物の温度を検出できればよく、例えば、サーミスタであってもよい。第1温度センサ69の個数は、1個に限定されず、複数個であってもよい。第2温度センサ15の個数は、1個に限定されず、複数個であってもよい。
【0107】
対象物は、円管状の配管に限定されない。対象物としての配管は、円管ではなく、角管であってもよい。対象物は、管のように閉断面を有する物ではなく、板であってもよい。
【0108】
さらに、厚さ測定装置10による厚さ測定は、一例に過ぎない。PECによる厚さ測定方法は、様々であるので、任意の測定手法を採用することができる。
【0109】
厚さdの補正方法も一例に過ぎない。近似式(4)では、継続時間τの対象物温度特性、継続時間τの実測温度特性及び継続時間τの送信電圧特性のそれぞれが二次関数で表されている。しかし、これらのうち1又は複数の特性が一次関数、又は三次以上の関数で表されてもよい。
【0110】
また、近似式(4)は、継続時間τの対象物温度特性に対応する、対象物温度偏差ΔTmに関する項と、継続時間τの実測温度特性に対応する、基板温度偏差ΔTbに関する項と、継続時間τの送信電圧特性に対応する、コイル電圧偏差ΔVcに関する項とが含まれている。例えば、継続時間τの対象物温度特性に対応する項及び継続時間τの実測温度特性に対応する項の少なくとも一方を省略してもよい。
【0111】
さらに、補正部85は、継続時間τの送信電圧特性を、継続時間τの基板・コイル温度特性として用いているが、これに限定されない。補正部85は、基板68の実測温度に関する継続時間τの温度特性に基づいて、基板68の実測温度によって厚さdを補正しつつ、励磁コイル11の実測温度に関する継続時間τの温度特性に基づいて、励磁コイル11の実測温度によって厚さdを補正してもよい。その場合、プローブ1は、励磁コイル11の近傍に配置され、励磁コイル11の温度を実質的に測定する温度センサを有していてもよい。
【0112】
また、前述の説明では、厚さ測定装置10は、渦電流の継続時間τから厚さdを求め、求められた厚さdを補正している。しかし、厚さ測定装置10は、継続時間τを補正し、補正された継続時間τから厚さdを求めてもよい。この方法であっても、実施的に厚さdが補正される。例えば、厚さ導出部84は、測定データのうち渦電流の継続時間τを求める。補正部85は、下記の近似式(5)に基づいて継続時間τを補正する。その後、厚さ導出部84は、補正された継続時間τ’から、式(3)を用いて厚さdを求める。
【0113】
【数4】
ここで、係数A
1,A
2,B
1,B
2,C
1,C
2及び定数Dの値は、近似式(4)の場合と異なり得る。ただし、近似式(4)と同様に、近似式(5)において、対象物温度偏差ΔTmに関する項は、継続時間τの対象物温度特性に対応している。基板温度偏差ΔTbに関する項は、継続時間τの実測温度特性に対応している。コイル電圧偏差ΔVcに関する項は、継続時間τの送信電圧特性に対応している。
【0114】
フローチャートは、一例に過ぎない。フローチャートにおけるステップを適宜、変更、置き換え、付加、省略等を行ってもよい。また、フローチャートにおけるステップの順番を変更したり、直列的な処理を並列的に処理したりしてもよい。例えば、厚さ測定のフローチャート(
図5)において、ステップS102の励磁とステップS103のコイル電圧取得とは、並行して行われてもよい。また、ステップS105の温度取得は、渦電流の検出後に限定されず、ステップS102の励磁前であってもよく、ステップS104の渦電流の検出と並行して行われてもよい。
【0115】
本明細書中に記載されている構成要素により実現される機能は、当該記載された機能を実現するようにプログラムされた、汎用プロセッサ、特定用途プロセッサ、集積回路、ASICs(Application Specific Integrated Circuits)、CPU(a Central Processing Unit)、従来型の回路、及び/又はそれらの組合せを含む、回路(circuitry)又は演算回路(processing circuitry)において実装されてもよい。プロセッサは、トランジスタ及びその他の回路を含み、回路又は演算回路とみなされる。プロセッサは、メモリに格納されたプログラムを実行する、プログラマブルプロセッサ(programmed processor)であってもよい。
【0116】
本明細書において、回路(circuitry)、ユニット、手段は、記載された機能を実現するようにプログラムされたハードウェア、又は実行するハードウェアである。当該ハードウェアは、本明細書に開示されているあらゆるハードウェア、又は、当該記載された機能を実現するようにプログラムされた、又は、実行するものとして知られているあらゆるハードウェアであってもよい。
【0117】
当該ハードウェアが回路(circuitry)のタイプであるとみなされるプロセッサである場合、当該回路、手段、又はユニットは、ハードウェアと、当該ハードウェア及び又はプロセッサを構成する為に用いられるソフトウェアの組合せである。
【符号の説明】
【0118】
10 厚さ測定装置
11 励磁コイル
12 検出コイル(検出センサ)
6 処理装置
68 基板
69 第1温度センサ
71 励磁部
72 検出部
73 電圧取得部
74 第1温度取得部
75 第2温度取得部
8 演算装置
84 厚さ導出部
85 補正部
9 対象物