(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009429
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】軽油組成物
(51)【国際特許分類】
C10L 1/08 20060101AFI20230113BHJP
【FI】
C10L1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112696
(22)【出願日】2021-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植町 ゆかり
(57)【要約】
【課題】低温性能に優れるとともに、特に優れた発熱性や潤滑性を発揮し得る軽油組成物を提供する。
【解決手段】常圧蒸留による90容量%留出温度が320.0℃~360.0℃で、芳香族炭化水素を35.0質量%~70.0質量%含む原料油を水素分圧10MPa~18MPaで水素化処理した後、分留処理して得られる、各々特定の性状を有する高圧脱硫分解軽油および高圧脱硫分解灯油を、上記高圧脱硫分解軽油が50容量%~60容量%、上記高圧脱硫分解灯油が40容量%~50容量%となるように含むことを特徴とする軽油組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
常圧蒸留による90容量%留出温度が320.0℃~360.0℃で、芳香族炭化水素を35.0質量%~70.0質量%含む原料油を水素分圧10MPa~18MPaで水素化処理した後、分留処理して得られる、
(a)15℃における密度が0.8300g/cm3~0.8800g/cm3、
(b)引火点が80.0℃~150.0℃、
(c)流動点が2.5℃以下、
(d)常圧蒸留による90容量%留出温度が320.0℃~360.0℃、
(e)硫黄分が10質量ppm未満、
(f)セタン指数が45.0~65.0
である高圧脱硫分解軽油を50容量%~60容量%含むととともに、
常圧蒸留による90容量%留出温度が320.0℃~360.0℃で、芳香族炭化水素を35.0質量%~70.0質量%含む原料油を水素分圧10~18MPaで水素化処理した後、分留処理して得られる、
(g)15℃における密度が0.8000g/cm3~0.8500g/cm3、
(h)引火点が40.0℃~80.0℃、
(i)流動点が-50.0℃以下、
(j)常圧蒸留による90容量%留出温度が190.0℃~280.0℃、
(k) 硫黄分が5質量ppm未満、
(l)セタン指数が25.0~50.0
である高圧脱硫分解灯油を40容量%~50容量%含む
ことを特徴とする軽油組成物。
【請求項2】
前記高圧脱硫分解軽油の原料油または高圧脱硫分解灯油の原料油が、熱分解軽質軽油(LCGO)、接触分解軽油(LCO)および熱分解重質軽油を水素化処理して得られた軽質軽油(DS-LHCGO)から選ばれる一種以上を含む請求項1に記載の軽油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に軽油組成物は、原油を常圧蒸留して得られる軽油留分(直留軽油)を水素化脱硫処理した水素化脱硫軽油と、原油を常圧蒸留して得られる灯油留分(直留灯油)を水素化脱硫処理した水素化脱硫灯油とを混合して製造されており、水素化脱硫灯油の配合割合を増加することにより、寒冷地や冬期においても安定して使用可能な低温性能を付与している(例えば、特許文献1(特開平7-331261号公報)参照)。
【0003】
一方、水素化脱硫灯油の配合割合を増加すると、得られる軽油組成物の潤滑性や発熱量が低下し易くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況下、本発明は、低温性能に優れるとともに、特に優れた発熱性や潤滑性を発揮し得る軽油組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討したところ、上記水素化脱硫軽油に代えて、常圧蒸留による90容量%留出温度が320.0℃~360.0℃であり、芳香族炭化水素を35.0質量%~70.0質量%含む原料油を、水素分圧10MPa~18MPaで水素化処理した後、分留処理して得られる、高圧脱硫分解軽油を使用することを着想した。
係る高圧脱硫分解軽油を配合することにより、発熱量が高い軽油組成物を得られることが期待された。
【0007】
しかしながら、上記高圧脱硫分解軽油も低温性能に課題を有するものであることから、軽油組成物の基材として使用する場合、上記と同様に水素化脱硫灯油の配合割合を増加することにより所望の低温性能を付与する必要があり、この場合においても十分な潤滑性や発熱性を有する軽油組成物を得難いことが判明した。
【0008】
そこで本発明者等は、水素化脱硫灯油に代えて、常圧蒸留による90容量%留出温度が320.0℃~360.0℃であり、芳香族炭化水素を35.0質量%~70.0質量%含む原料油を、水素分圧10MPa~18MPaで水素化処理した後、分留処理して得られる、高圧脱硫分解灯油を使用することを着想した。
【0009】
一般的に、高圧脱硫分解系基材は、セタン指数が低く、内燃機関用軽油基材としては不適格であるとされていたため、軽油基材として上記高圧脱硫分解灯油を採用しようとすることは、これ迄になされていなかった。
【0010】
これに対して本発明者等が検討したところ、驚くべきことに、上記高圧脱硫分解軽油と高圧脱硫分解灯油とを、各々所定割合で配合して調製した軽油組成物により、上記技術課題を解決し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)常圧蒸留による90容量%留出温度が320.0℃~360.0℃で、芳香族炭化水素を35.0質量%~70.0質量%含む原料油を水素分圧10MPa~18MPaで水素化処理した後、分留処理して得られる、
(a)15℃における密度が0.8300g/cm3~0.8800g/cm3、
(b)引火点が80.0℃~150.0℃、
(c)流動点が2.5℃以下、
(d)常圧蒸留による90容量%留出温度が320.0℃~360.0℃、
(e)硫黄分が10質量ppm未満、
(f)セタン指数が45.0~65.0
である高圧脱硫分解軽油を50容量%~60容量%含むととともに、
常圧蒸留による90容量%留出温度が320.0℃~360.0℃で、芳香族炭化水素を35.0質量%~70.0質量%含む原料油を水素分圧10~18MPaで水素化処理した後、分留処理して得られる、
(g)15℃における密度が0.8000g/cm3~0.8500g/cm3、
(h)引火点が40.0℃~80.0℃、
(i)流動点が-50.0℃以下、
(j)常圧蒸留による90容量%留出温度が190.0℃~280.0℃、
(k) 硫黄分が5質量ppm未満、
(l)セタン指数が25.0~50.0
である高圧脱硫分解灯油を40容量%~50容量%含む
ことを特徴とする軽油組成物、
(2)前記高圧脱硫分解軽油の原料油または高圧脱硫分解灯油の原料油が、熱分解軽質軽油(LCGO)、接触分解軽油(LCO)および熱分解重質軽油を水素化処理して得られた軽質軽油(DS-LHCGO)から選ばれる一種以上を含む上記(1)に記載の軽油組成物
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低温性能に優れるとともに、特に優れた発熱性や潤滑性を発揮し得る軽油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
なお、本明細書中、数値範囲を現す「~」は、その上限および下限としてそれぞれ記載されている数値を含む範囲を表す。また、「~」で表される数値範囲において上限値のみ単位が記載されている場合は、下限値も同じ単位であることを意味する。
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率又は含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本明細書において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0014】
本明細書において、下記項目の値は、特に断らない限り、以下の試験法方及び計算を用いて求めた値を意味する。
・「15℃における密度」;
JIS K 2249「原油および石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」。
・「30℃における動粘度」
JIS K2283 「原油および石油製品-動粘度試験方法および粘度指数算出方法」。
・「引火点」
高圧脱硫分解灯油や水素化脱硫灯油等の灯油相当留分:JIS K 2265-1「引火点の求め方-第1部:タグ密閉法」
高圧脱硫分解軽油や水素化脱硫軽油等の軽油相当留分および軽油組成物:JIS K 2265-3「引火点の求め方-第3部:ペンスキーマルテンス密閉法」
・「流動点」
JIS K 2269「原油および石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」。
・「曇り点」
JIS K 2269「原油および石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」。
・「目詰り点」
JIS K 2288「石油製品-軽油-目詰まり点試験方法」。
・「常圧蒸留性状」
(常圧蒸留による初留点(IBP)、常圧蒸留による10容量%留出温度、常圧蒸留による50容量%留出温度、常圧蒸留による90容量%留出温度および常圧蒸留による終点(EP))
JIS K2254「石油製品-蒸留性状の求め方-常圧法」
・「硫黄分の含有量」
JIS K 2541-6「原油および石油製品-硫黄分試験方法-第6部:紫外蛍光法」。
・「窒素分の含有量」
JIS K 2609「原油および石油製品-窒素分試験方法」。
・「芳香族炭化水素の含有量」
IP548「 Determination of aromatic hydrocarbon types in middle distillates - High performance liquid chromatography method with refractive index detection」。
・「発熱量(真発熱量)」
JIS K 2279「原油および石油製品-発熱量試験方法および計算による推定方法-総発熱量からの真発熱量の推定方法」。
・「セタン指数」
JIS K 2280-5「石油製品-オクタン価、セタン価およびセタン指数の求め方」。
・潤滑性(HFRR試験摩耗痕径)」
JPI-5S-50-98「軽油-潤滑性試験方法」。
なお、本出願書類においては、標準水蒸気圧1.4kPaに換算した湿度補正後の摩耗痕径(HFRR WS1.4)によって摩擦の度合いを示している。
【0015】
本発明に係る軽油組成物は、
常圧蒸留による90容量%留出温度が320.0℃~360.0℃で、芳香族炭化水素を35.0質量%~70.0質量%含む原料油を水素分圧10MPa~18MPaで水素化処理した後、分留処理して得られる、
(a)15℃における密度が0.8300g/cm3~0.8800g/cm3、
(b)引火点が80.0℃~150.0℃、
(c)流動点が2.5℃以下、
(d)常圧蒸留による90容量%留出温度が320.0℃~360.0℃、
(e)硫黄分が10質量ppm未満、
(f)セタン指数が45.0~65.0
である高圧脱硫分解軽油を50容量%~60容量%含むととともに、
常圧蒸留による90容量%留出温度が320.0℃~360.0℃で、芳香族炭化水素を35.0質量%~70.0質量%含む原料油を水素分圧10~18MPaで水素化処理した後、分留処理して得られる、
(g)15℃における密度が0.8000g/cm3~0.8500g/cm3、
(h)引火点が40.0℃~80.0℃、
(i)流動点が-50.0℃以下、
(j)常圧蒸留による90容量%留出温度が190.0℃~280.0℃、
(k) 硫黄分が5質量ppm未満、
(l)セタン指数が25.0~50.0
である高圧脱硫分解灯油を40容量%~50容量%含むことを特徴とするものである。
【0016】
本発明に係る軽油組成物において、高圧脱硫分解軽油の原料油および高圧脱硫分解灯油の原料油は、常圧蒸留による90容量%留出温度が320.0℃~360.0℃で、芳香族炭化水素を35.0質量%~70.0質量%含むという共通する特性を有する。この原料を用いて得られる高圧脱硫分解軽油及び高圧脱硫分解灯油は、当該原料油を水素分圧10MPa~18MPaで水素化処理した後、分留処理して得られるものである。
このため、以下、高圧脱硫分解軽油および高圧脱硫分解灯油の原料油について説明した後、水素化処理内容について説明し、次いで水素化処理後に各々分留処理して得られる高圧脱硫分解軽油および高圧脱硫分解灯油について説明するものとする。
【0017】
<原料油>
本発明に係る軽油組成物において、高圧脱硫分解軽油の原料油または高圧脱硫分解灯油の原料油は、いずれも、常圧蒸留による90容量%留出温度が320.0℃~360.0℃で、芳香族炭化水素を35.0質量%~70.0質量%含む基材からなるものである(以下、上記性状を有する基材を、適宜、「原料油」と称するものとする)。
【0018】
原料油の常圧蒸留による90容量%留出温度(以下、単にT90ともいう)は、320.0℃~360.0℃であり、330.0℃~360.0℃が好ましく、340.0℃~360.0℃がより好ましい。
原料油のT90が上記範囲の下限値以上であると、原料油中の芳香族炭化水素の含有量が高くなり、水素化処理によりナフテン環を有する化合物が多く生成し、得られる基材の発熱量が向上し易くなる。
原料油のT90が上記範囲の上限値以下であると、原料油中の芳香族炭化水素の含有量が高くなりすぎず、水素化処理反応時にコークの発生が抑制され、水素化処理触媒の寿命が長くなる。
【0019】
原料油中の芳香族炭化水素の含有量は、35.0質量%~70.0質量%であり、37.0質量%~65.0質量%であることが好ましく、40.0質量%~60.0質量%であることがより好ましく、45.0質量%~60.0質量%であることがさらに好ましく、50.0質量%~60.0質量%であることが一層好ましい。
芳香族炭化水素の含有量が上記範囲の下限値以上であると、水素化処理によりナフテン環を有する化合物が多く生成し、得られる灯軽油基材の発熱量が向上する。芳香族炭化水素の含有量が上記範囲の上限値以下であると、水素化処理反応におけるコークの発生が抑制され、水素化処理触媒の寿命が長くなる。
【0020】
原料油中の硫黄分の含有量は、3.0質量%以下が好ましく、2.0質量%以下がより好ましい。硫黄分の含有量が上記上限値以下であると、水素化処理の運転条件を厳しくする必要がないため、触媒の寿命が長くなり、かつ経済的にも有利である。
原料油中の硫黄分の含有量は低ければ低いほど好ましいため、硫黄分の含有量の下限値は特に限定されないが、通常0.5質量%以上である。
【0021】
原料油中の窒素分の含有量は、1,000質量ppm以下が好ましく、800質量ppm以下がより好ましい。
窒素分の含有量が上記上限値以下であると、水素化処理時の運転条件を厳しくする必要がないため、触媒の寿命が長くなり、かつ経済的にも有利である。また、製造した灯油基材の色相にも悪影響を及ぼさない。
原料油中の窒素分の含有量は低ければ低いほど好ましいため、窒素分の含有量の下限値は特に限定されないが、通常100質量ppm以上である。
【0022】
上記原料油としては、熱分解軽質軽油(LCGO)、接触分解軽油(LCO)、および熱分解重質軽油を水素化処理して得られた軽質軽油(DS-LHCGO)から選ばれる一種以上を含むものであることが好ましい。
以下、上記熱分解軽質軽油(LCGO)、接触分解軽油(LCO)、および熱分解重質軽油を水素化処理して得られた軽質軽油(DS-LHCGO)について説明する。
【0023】
(熱分解軽質軽油(LCGO))
熱分解軽質軽油(LCGO)は、減圧蒸留残渣を熱分解して得られる分解油のうちの軽質留分であり、常圧蒸留による10容量%留出温度が180.0℃~260.0℃、常圧蒸留による90容量%留出温度が310.0℃~380.0℃である留分である。
LCGOは、芳香族含有量が多い留分であるため、得られる基材の総発熱量を容易に向上させることができる。
原料油の総容量に対するLCGOの容量割合は、10容量%~90容量%が好ましく、20容量%~80容量%がより好ましく、30容量%~70容量%がさらに好ましい。
LCGOの容量割合が上記範囲の下限値以上であると、原料油中の芳香族炭化水素の含有量が高くなり、水素化処理によりナフテン環を有する化合物が多く生成し、得られる基材の発熱量が向上し易くなる。LCGOの容量割合が上記範囲の上限値以下であると、原料油中の芳香族炭化水素の含有量が高くなりすぎず、水素化処理反応におけるコークの発生が抑制され、水素化処理触媒の寿命が長くなる。
【0024】
(接触分解軽油(LCO))
接触分解軽油(LCO)は、流動接触分解装置から留出される留分であり、例えば、常圧蒸留による10容量%留出温度が185.0℃~250.0℃、常圧蒸留による90容量%留出温度が270.0℃~370.0℃である留分である。
【0025】
LCOは、芳香族含有量が多い留分であるため、得られる基材の総発熱量を容易に向上することができる。
【0026】
原料油の総容量に対するLCOの容量割合は、10容量%~65容量%が好ましく、20容量%~65容量%がより好ましく、25容量%~65容量%がさらに好ましい。
LCOの容量割合が上記範囲の下限値以上であると、原料油中の芳香族炭化水素の含有量が高くなり、水素化処理によりナフテン環を有する化合物が多く生成し、得られる基材の発熱量を容易に向上させることができる。LCOの容量割合が上記範囲の上限値以下であると、原料油中の芳香族炭化水素の含有量が高くなりすぎず、水素化処理反応におけるコークの発生が抑制され、水素化処理触媒の寿命が長くなる。
【0027】
(熱分解重質軽油を水素化処理して得られた軽質軽油(DS-LHCGO))
熱分解重質軽油(HCGO)を水素化処理して得られた軽質軽油(DS-LHCGO)とは、減圧蒸留残渣を熱分解し得られる軽油のうち熱分解軽質軽油(LCGO)よりも重質留分である熱分解重質軽油(HCGO)を水素化処理して得られた軽質軽油である。
【0028】
DS-LHCGOは、芳香族含有量が多い留分であるため、得られる基材の総発熱量を容易に向上させることができる。
DS-LHCGOは、常圧蒸留による10容量%留出温度が200.0℃~260.0℃であり、常圧蒸留による90容量%留出温度が300.0℃~350.0℃であるものである。
原料油の総容量に対するDS-LHCGOの容量割合は、3容量%~10容量%が好ましく、4容量%~10容量%がより好ましく、5容量%~10容量%がさらに好ましい。
DS-LHCGOの容量割合が上記範囲の下限値以上であると、原料油中の芳香族炭化水素の含有量が高くなり、水素化処理によりナフテン環を有する化合物が多く生成し、得られる基材の発熱量を容易に向上することができる。
DS-LHCGOの容量割合が上記範囲の上限値以下であると、原料油中の芳香族炭化水素の含有量が高くなりすぎず、水素化処理反応におけるコークの発生が抑制され、水素化処理触媒の寿命が長くなる。
【0029】
上記原料油としては、芳香族含有量が多い留分であるLCGOおよびLCOを含有するものが好ましい。
原料油の総容量に対するLCGOとLCOの合計の容量割合は、30容量%~100容量%が好ましく、40容量%~98容量%がより好ましく、50容量%~95容量%がさらに好ましく、60容量%~95容量%が特に好ましい。
【0030】
LCGOとLCOの合計の容量割合が上記範囲の下限値以上であると、原料油中の芳香族炭化水素の含有量が高くなり、水素化処理によりナフテン環を有する化合物が多く生成し、得られる基材の発熱量を容易に向上させることができる。
LCGOとLCOの合計の容量割合が上記範囲の上限値以下であると、原料油中の芳香族炭化水素の含有量が高くなりすぎず、水素化処理反応におけるコークの発生が抑制され、水素化処理触媒の寿命が長くなる。
【0031】
上記原料油として、具体的には、原料油の総容量に対して、LCGOの容量割合が30容量%~60容量%で、かつLCOの容量割合が35容量%~65容量%であるものを挙げることができる。
LCGOおよびLCOの容量割合がそれぞれ上記範囲の下限値以上であると、原料油中の芳香族炭化水素の含有量が高くなり、水素化処理によりナフテン環を有する化合物が多く生成し、得られる基材の発熱量を容易に向上させることができる。LCGOおよびLCOの容量割合がそれぞれ上記範囲の上限値以下であると、原料油中の芳香族炭化水素の含有量が高くなりすぎず、水素化処理反応におけるコークの発生が抑制され、水素化処理触媒の寿命が長くなる。
【0032】
<その他の原料油基材>
上記原料油は、上記LCGO、LCO、およびDS-LHCGO以外のその他の基材を含有してもよい。
原料油を構成するその他の基材としては、常圧蒸留によって得られる直留軽油、間接脱硫装置から得られる軽油留分、直接脱硫装置から得られる軽油留分等が例として挙げられる。
原料油の総容量に対するその他の基材の容量割合は、0容量%~70容量%が好ましく、2容量%~60容量%がより好ましく、5容量%~50容量%がさらに好ましい。
【0033】
<水素化処理>
上記原料油は、水素分圧10MPa~18MPaで水素化処理される。
以下、上記水素化処理の条件の詳細を説明する。
【0034】
(水素化処理触媒)
水素化処理触媒を構成する担体を構成する混合物としては、アルミナを含有する多孔質無機酸化物が使用できる。
水素化処理触媒を構成する活性成分としては、周期表第6族から選ばれる少なくとも1種の金属元素、周期表第8~10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素が例として挙げられる。
【0035】
周期表第6族から選ばれる少なくとも1種の金属元素としては、モリブデン、タングステンが好ましい。モリブデン化合物としては、三酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム等が好ましく、タングステン化合物としては、三酸化タングステン、タングステン酸アンモニウム等が好ましい。第6族金属の担持量は、酸化物換算で水素化処理触媒の総質量に対して8質量%~20質量%が好ましい。
【0036】
周期表第8~10族から選ばれる少なくとも1種の金属元素としては、コバルト、ニッケルが好ましい。コバルト化合物としては、炭酸コバルト、塩基性炭酸コバルト、硝酸コバルト等が好ましく、ニッケル化合物としては、炭酸ニッケル、塩基性炭酸ニッケル、硝酸ニッケル等が好ましい。第9族と第10族の金属元素の担持量は、酸化物換算で水素化処理触媒の総質量に対して2質量%~6質量%が好ましい。
【0037】
上述した活性成分のなかでは、モリブデンとニッケルとを組み合わせたモリブデンニッケル系触媒が好ましい。
【0038】
また、上述の水素化処理触媒を、水素雰囲気下で、300℃~400℃で、1時間~36時間、水素還元処理して使用することが好ましい。
【0039】
(水素化処理条件)
原料油の水素化処理時における水素分圧は、10MPa~18MPaであり、11MPa~16MPaが好ましく、13MPa~15MPaがより好ましい。
水素分圧が上記範囲の下限値以上であると、オレフィンや芳香族炭化水素の含有量の多い原料油を水素化処理してもコークの発生が抑制され、水素化処理触媒の寿命が長くなる。
水素分圧が上記範囲の上限値以下であると、水素化処理設備にコストがかかりすぎないため経済的に有利である。
【0040】
水素化処理を流通式反応装置で実施する場合、反応器入り口の水素/油比(以下、適宜、「水素/油比」と称する)は、例えば100Nm3/KL~800Nm3/KLであり、200Nm3/KL~700Nm3/KLが好ましく、300Nm3/KL~650Nm3/KLがより好ましい。
水素/油比が上記範囲の下限値以上であると、充分に水素化処理反応が進行する。水素/油比が上記範囲の上限値以下であると、過剰に水素を消費することもなく、処理コストを削減できる。また、反応器内の発熱に応じてクエンチ水素を加えても良い。
【0041】
水素化処理を流通式反応装置で実施する場合、液空間速度(LHSV)は、例えば、0.1hr-1~3hr-1であり、0.2hr-1~2hr-1が好ましく、0.25hr-1~1hr-1がより好ましい。
液空間速度が上記範囲の下限値以上であると、水素化処理の効率が向上し易くなり、液空間速度が上記範囲の上限値以下であると、水素化処理触媒と原料油との接触時間が充分となり、水素化処理触媒の活性が充分に発揮される。
【0042】
触媒層の温度は、例えば、300℃~420℃であり、310℃~400℃が好ましく、310℃~390℃がより好ましい。
触媒層の温度が上記範囲の下限値以上であると、水素化触媒の触媒活性が向上する。触媒層の温度が上記範囲の上限値以下であると、水素化処理油の着色や、水素化処理触媒の寿命の低下が起こりにくくなる。
【0043】
水素化処理時の反応形式としては、固定床、移動床又は流動床が例として挙げられ、この反応器に上記原料油を導入し、上記条件下で水素化処理を行えばよい。
最も一般的には、上述した触媒を上記態様で固定床として維持し、原料油が上記固定床を下方に通過するように処理する。
【0044】
上記水素化処理後、得られた水素化処理物を蒸留分離(分留処理)することにより、各々特定の物性を有する高圧脱硫分解軽油および高圧脱硫分解灯油を得ることができる。
【0045】
上記蒸留分離には、蒸留装置を用いることが好ましい。ここで、蒸留装置とは、液体混合物を沸点の差を利用して分離する装置で、常温、常圧で液体又は固体の混合物でも温度と圧力調節により液体混合物として蒸留により分離できる装置を意味する。
【0046】
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解軽油および高圧脱硫分解灯油は、同一の原料油から得られたものであってもよいし、異なる原料油から得られたものであってもよい。
また、本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解軽油および高圧脱硫分解灯油が同一の原料油から得られたものである場合、同一の水素化処理条件により得られたものであってもよいし、異なる水素化処理条件で得られたものであってもよい。
【0047】
本発明に係る軽油組成物は、
常圧蒸留による90容量%留出温度が320.0℃~360.0℃で、芳香族炭化水素を35.0質量%~70.0質量%含む原料油を水素分圧10MPa~18MPaで水素化処理した後、分留処理して得られる、
(a)15℃における密度が0.8300g/cm3~0.8800g/cm3、
(b)引火点が80.0℃~150.0℃、
(c)流動点が2.5℃以下、
(d)常圧蒸留による90容量%留出温度が320.0℃~360.0℃、
(e)硫黄分が10質量ppm未満、
(f)セタン指数が45.0~65.0
である高圧脱硫分解軽油を含むものである。
【0048】
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解軽油は、(a)15℃における密度が、0.8300g/cm3~0.8800g/cm3であるものであり、0.8400g/cm3~0.8800g/cm3であることが好ましく、0.8450g/cm3~0.8800g/cm3であることがより好ましい。
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解軽油基材の密度が上記範囲内にあることにより、軽油組成物中に配合したときに、容量あたりの炭化水素含有量が多くなり、発熱量が向上して軽油組成物の燃焼時に良好な燃焼状態を容易に発揮することができる。
【0049】
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解軽油は、(b)引火点が、80.0℃~150.0℃であり、100.0℃~150.0℃であることが好ましく、120℃~150℃であることがより好ましい。
上記高圧脱硫分解軽油の引火点の下限値が80.0℃以上であることにより、上記高圧脱硫分解軽油を配合した本発明に係る軽油組成物に配合したときに、例えば、JIS K2204「軽油の要求品質」の2号軽油の引火点45℃以上に仕上がりやすくなり、引火による発火を生じ難くなる。上記高圧脱硫分解軽油の引火点の上限値は、通常、150.0℃以下となる。
【0050】
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解軽油は、(c)流動点が、2.5℃以下であり、0.0℃以下であることが好ましい。
上記高圧脱硫分解軽油の流動点の下限値は特に制限されないが、上記高圧脱硫分解軽油の流動点は、通常、-10.0℃以上である。
高圧脱硫分解軽油の流動点が2.5℃以下であることにより、上記高圧脱硫分解軽油を配合した本発明に係る軽油組成物において、低温流動性能を効果的に制御することができる。
【0051】
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解軽油は、曇り点が、5℃以下であることが好ましく、4℃以下であることがより好ましい。
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解軽油の曇り点が上記範囲内にあることにより、本発明に係る軽油組成物に配合したときにディーゼルエンジンの低温運転性を容易に向上させることができる。
【0052】
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解軽油は、 初留点(IBP)が、215.0℃~290.0℃であるものが好ましく、230.0℃~290.0℃であるものがより好ましく、245.0℃~290.0℃であるものがさらに好ましい。
【0053】
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解軽油は、常圧蒸留による10容量%留出温度(T10)が、235.0℃~300.0℃であるものが好ましく、245.0℃~300.0℃であるものがより好ましく、260.0℃~300.0℃であることがさらに好ましい。
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解軽油は、常圧蒸留による50容量%留出温度(T50)が、270.0℃~320.0℃であるものが好ましく、280.0℃~320.0℃であるものがより好ましく、285.0℃~320.0℃であるものがさらに好ましい。
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解軽油軽油は、(d)常圧蒸留による90容量%留出温度(T90)が、320.0~360.0℃であり、330.0℃~360.0℃であるものが好ましく、345.0℃~360.0℃であるものがより好ましい。
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解軽油は、常圧蒸留による終点(EP)が、340.0℃~400.0℃であるものが好ましく、350.0℃~390.0℃であるものがより好ましく、360.0℃~390.0℃であるものがさらに好ましい。
【0054】
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解軽油は、IBP、T10、T50、T90およびEPが上記範囲内にあることにより、軽油組成物中に配合したときに、適切な引火点を保ちつつ、曇り点を効果的に下げることができ、容量あたりの炭化水素含有量が多くなり発熱量が増加し易くなるとともに、良好な燃焼特性を容易に維持することができる。
【0055】
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解軽油は、(e)硫黄分含有量が、10質量ppm未満(0質量ppm以上10質量ppm未満)であるものが好ましく、より少ない方がより好ましい。
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解軽油の硫黄分含有量が上記範囲内にあることにより、燃焼時における硫黄酸化物の生成を容易に低減することができる。
【0056】
本発明に係る軽油組成物において、高圧脱硫分解軽油の(f)セタン指数は、45.0~65.0であることが好ましく、50.0~65.0であることがより好ましく、55.0~65.0であることがさらに好ましい。
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解軽油は、セタン指数が上記範囲内にあることにより、軽油組成物中に配合したときに、ディーゼルエンジン用燃料油として、低温始動性を容易に向上させ得ると共に、エンジンからの有害排気ガス排出量を容易に抑制することができる。
【0057】
本発明に係る軽油組成物は、構成基材として、上記高圧脱硫分解軽油を、50容量%~60容量%含み、55容量%~60容量%含むことがより好ましい。
【0058】
本発明に係る軽油組成物は、上記特性を有する高圧脱硫分解軽油を上記割合で含むことにより、本発明に係る軽油組成物中に配合したときに、優れた発熱量および潤滑性を容易に発揮するとともに、一定以上のセタン指数、低温性能を容易に確保することができる。
【0059】
本発明に係る軽油組成物は、常圧蒸留による90容量%留出温度が320.0℃~360.0℃で、芳香族炭化水素を35.0質量%~70.0質量%含む原料油を水素分圧10~18MPaで水素化処理した後、分留処理して得られる、
(g)15℃における密度が0.8000g/cm3~0.8500g/cm3、
(h)引火点が40.0℃~80.0℃、
(i)流動点が-50.0℃以下、
(j)常圧蒸留による90容量%留出温度が190.0℃~280.0℃、
(k) 硫黄分が5質量ppm未満、
(l)セタン指数が25.0~50.0
である高圧脱硫分解灯油を含むものである。
【0060】
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解灯油は、(g)15℃における密度が、0.8000g/cm3~0.8500g/cm3であるものであり、0.8100g/cm3~0.8500g/cm3であることが好ましく、0.8200g/cm3~0.8500g/cm3であることがより好ましい。
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解灯油の密度が上記範囲内にあることにより、容量あたりの炭化水素含有量が多くなり、発熱量が向上して軽油組成物の燃焼時に良好な燃焼状態を容易に発揮することができる。
【0061】
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解灯油は、(h)引火点が、40.0℃~80.0℃であり、45.0℃~80.0℃であることが好ましく、50.0℃~80.0℃であることがより好ましい。
上記高圧脱硫分解灯油の引火点が上記範囲内にあることにより、本発明に係る軽油組成物に配合したときに、例えば、JIS K2204「軽油の要求品質」の2号軽油の引火点45℃以上に仕上がりやすくなり、引火による発火の恐れが低下しやすくなる。また、上記高圧脱硫分解灯油の引火点の上限値は、通常、80.0℃以下となる。
【0062】
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解灯油は、(i)流動点が、-50.0℃以下であり、-55.0℃以下であることがより好ましい。
高圧脱硫分解灯油の流動点が-50.0℃以下であることにより、上記高圧脱硫分解灯油を配合した本発明に係る軽油組成物において、低温流動性能を容易に維持することができる。
【0063】
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解灯油は、常圧蒸留による初留点(IBP)が、120.0℃~220.0℃であるものが好ましく、140.0℃~200.0℃であるものがより好ましく、150.0℃~200.0℃であるものがさらに好ましい。
【0064】
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解灯油は、常圧蒸留による10容量%留出温度(T10)が、170.0℃~220.0℃であるものが好ましく、175.0℃~210.0℃であるものがより好ましく、180.0℃~205.0℃であることがさらに好ましい。
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解灯油は、常圧蒸留による50容量%留出温度(T50)が、170.0℃~245.0℃であるものが好ましく、190.0℃~235.0℃であるものがより好ましく、200.0℃~225.0℃であるものがさらに好ましい。
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解灯油は、(j)常圧蒸留による90容量%留出温度(T90)が、190.0~280.0℃であり、200.0℃~270.0℃であるものが好ましく、210.0℃~260.0℃であるものがより好ましい。
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解灯油は、常圧蒸留による終点(EP)が、220.0℃~320.0℃であるものが好ましく、240.0℃~300.0℃であるものがより好ましく、250.0℃~290.0℃であるものがさらに好ましい。
【0065】
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解灯油は、IBP、T10、T50、T90およびEPが上記範囲内にあることにより、本発明に係る軽油組成物の調製時において、軽油のJIS規格を容易に満たすことができ、また、容量あたりの炭化水素の含有量が多くなり発熱量を容易に向上させることができる。
【0066】
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解灯油は、(k)硫黄分含有量が、5質量ppm未満(0質量ppm以上5質量ppm未満)であるものが好ましく、2質量ppm以下(0質量ppm以上2質量ppm以下)であるものが好ましく、1質量ppm以下(0質量ppm以上1質量ppm以下)であるものがより好ましい。
本発明に係る軽油組成物を構成する高圧脱硫分解灯油の硫黄分含有量が上記範囲内にあることにより、燃焼時における硫黄酸化物の生成を容易に低減することができる。
【0067】
本発明に係る軽油組成物において、高圧脱硫分解灯油の(l)セタン指数は、25.0~50.0であることが好ましく、30.0~50.0であることがより好ましく、35.0~50.0であることがさらに好ましい。
高圧脱硫分解灯油のセタン指数が上記範囲内にあることにより、軽油組成物中に配合したときに、ディーゼルエンジン用燃料油として、低温始動性を容易に向上させることができる。
【0068】
本発明に係る軽油組成物は、構成基材として、上記高圧脱硫分解灯油を、40容量%~50容量%含み、40容量%~45容量%含むことが好ましい。
【0069】
本発明に係る軽油組成物は、上記特性を有する高圧脱硫分解灯油を上記割合で含むことにより、本発明に係る軽油組成物中に配合したときに、優れた発熱量および潤滑性を容易に発揮するとともに、一定以上のセタン指数、低温性能を容易に確保することができる。
【0070】
本発明に係る軽油組成物は、上記高圧脱硫分解軽油および高圧脱硫分解灯油の他に、本発明の効果を阻害しない程度において、他の構成基材を含有するものであってもよい。
高圧脱硫分解軽油および高圧脱硫分解灯油以外の構成基材は、公知の基材から適宜選定することができ、例えば、水素化脱硫灯油や、フィッシャー・トロプシュ合成等により製造される合成軽油、水素化分解軽油等が挙げられる。
本発明に係る軽油組成物において、他の軽油基材の配合割合は、0容量%~10容量%に制限される。
【0071】
本発明に係る軽油組成物は、上記構成基材の他に、各種添加剤を配合してなるものであってもよい。
上記添加剤としては、流動性向上剤、潤滑性向上剤、酸化防止剤、金属不活性剤、静電気防止剤、腐食防止剤等の公知の燃料添加剤から選択される一種以上が挙げられる。
【0072】
本発明に係る軽油組成物は、流動点が、-7.5℃以下であることが好ましい。
本発明に係る軽油組成物は、流動点が上記範囲内にあることにより、燃料フィルターや配管系内部での詰まりの発生を抑制し易くなる。
【0073】
本発明に係る軽油組成物は、曇り点が、-3℃以下であるものが好ましい。
本発明に係る軽油組成物は、曇り点が上記範囲内にあることにより、ディーゼルエンジンの低温始動性および低温運転性を容易に向上させることができる。
【0074】
本発明に係る軽油組成物は、目詰り点が、-6℃以下であるものが好ましい。
本発明に係る軽油組成物の目詰り点が上記範囲内にあることにより、燃料フィルターや配管系内部での詰まりの発生を抑制し易くなる。
【0075】
本発明に係る軽油組成物は、発熱量が、35500J/mL以上であることが好ましい。
本発明に係る軽油組成物の発熱量が上記範囲内にあることにより、ディーゼルエンジンでの燃焼時に燃焼効率を容易に向上させることができる。
【0076】
本発明に係る軽油組成物は、セタン指数が、45.0~65.0であることが好ましく、47.0~65.0であることがより好ましい。
本発明に係る軽油組成物のセタン指数が上記範囲内にあることにより、ディーゼルエンジン用燃料油として低温始動性を容易に向上させ得ると共に、エンジンからの有害排気ガス排出量を容易に抑制することができる。
【0077】
本発明に係る軽油組成物は、潤滑性(HFRR試験摩耗痕径)が、550μm以下であることが好ましい。
本発明に係る軽油組成物の潤滑性(HFRR試験摩耗痕径)が550μm以下であることにより、安定した潤滑性を容易に発揮することができる。
【0078】
本発明に係る軽油組成は、引火点が、50.0℃~70.0℃であることが好ましく、65.0℃~70.0℃であることがより好ましい。
本発明に係る軽油組成物の引火点が上記範囲内にあることにより、容易かつ安全に取り扱うことができる。
【0079】
本発明に係る軽油組成物は、上述した特定性状を有する高圧脱硫分解軽油および高圧脱硫分解灯油を必須基材として所定量混合するとともに、さらに本発明の効果を阻害しない範囲において公知の基材または添加剤を混合することにより調製することができる。
【0080】
上記各基材を混合して本発明に係る軽油組成物を調製する場合、その混合順序は特に制限されない。
【0081】
本発明によれば、低温性能に優れるとともに、特に優れた発熱性や潤滑性を発揮し得る軽油組成物を提供することができる。
【実施例0082】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれ等の例により何ら限定されるものではない。
【0083】
(基材)
以下の実施例および比較例においては、以下の基材を使用した。各基材の特性を表1に示す。
・高圧脱硫分解軽油
常圧蒸留による90容量%留出温度(T90)が351.5℃で、芳香族炭化水素を44.2質量%含む原料油を水素分圧13MPaで高圧水素化処理して得られる高圧水素化処理油を蒸留処理したもの。
なお、上記原料油は、熱分解軽質軽油(LCGO)を52容量%、接触分解軽油(LCO)を16容量%、熱分解重質軽油を水素化処理して得られた軽質軽油(DS-LHCGO)を6容量%、原油を常圧蒸留して得られる軽油留分(直留軽油)を26容量%配合した配合物からなるものである。
・高圧脱硫分解灯油
常圧蒸留による90容量%留出温度(T90)が339.0℃で、芳香族炭化水素を48.6質量%含む原料油を水素分圧13MPaで高圧水素化処理して得られる高圧水素化処理油を蒸留処理したもの。
なお、上記原料油は、熱分解軽質軽油(LCGO)を42容量%、接触分解軽油(LCO)を45容量%、熱分解重質軽油を水素化処理して得られた軽質軽油(DS-LHCGO)を6容量%、原油を常圧蒸留して得られる軽油留分(直留軽油)を7容量%配合した配合物からなるものである。
・水素化脱硫軽油
中東系原油を常圧蒸留して得られる軽油留分(直留軽油)を水素化脱硫処理したもの。
・水素化脱硫灯油
中東系原油を常圧蒸留して得られる灯油留分(直留灯油)を水素化脱硫処理したもの。
【0084】
【0085】
(実施例1~実施例2、比較例1~比較例6)
上記高圧脱硫分解軽油、高圧脱硫分解灯油、水素化脱硫軽油および水素化脱硫灯油を、以下の表2に示す割合となるように配合して、実施例1~実施例2および比較例1~比較例6に係る各軽油組成物を調製した。
得られた各軽油組成物の特性を表2に示す。
【0086】
【0087】
表2より、実施例1~実施例2で得られた軽油組成物は、各々特定の性状を有する、高圧脱硫分解軽油および高圧脱硫分解灯油を特定の割合で配合してなるものであることにより、流動点が-7.5℃以下、曇り点が-3℃以下、目詰り点が-6℃以下と低温性能に優れるとともに、真発熱量が35880J/ml以上と高いことから発熱性に優れ、潤滑性(HFRR試験摩耗痕径)が550μm以下であることから優れた潤滑性を示すものであることが分かる。
【0088】
一方、表2より、比較例1~比較例6で得られた軽油組成物は、各々特定の性状を有する、高圧脱硫分解軽油および高圧脱硫分解灯油を特定の割合で含まないものであることにより、流動点が-5.0℃と低温流動性に劣っていたり(比較例4)、真発熱量が34870J/ml~35550J/mlと発熱性に劣っていたり(比較例1~比較例3、比較例5~比較例6)、潤滑性(HFRR試験摩耗痕径)が560μm~575μmと潤滑性に劣る(比較例1~比較例3、比較例5)ものであることが分かる。