(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094292
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】シャープペンシル
(51)【国際特許分類】
B43K 21/16 20060101AFI20230628BHJP
【FI】
B43K21/16 A
B43K21/16 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209685
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100196047
【弁理士】
【氏名又は名称】柳本 陽征
(72)【発明者】
【氏名】梶原 巧
【テーマコード(参考)】
2C353
【Fターム(参考)】
2C353FA04
(57)【要約】
【課題】重量体を有するシャープペンシルにおいて、チャックによる筆記芯の把持力を十分に確保すること。
【解決手段】シャープペンシル10は、前端開口部20aを有する軸筒20と、筆記芯15の先端を前端開口部20aから繰り出す操出機構30と、を備え、操出機構30は、使用者により前方へ押圧可能なノック部材31と、軸筒20に対して前後移動可能に配置され、前方に移動した際にノック部材31を前方へ押圧可能な重量体39と、筆記芯15を把持するチャック33と、チャック33に連結された芯パイプ32と、チャック33を後方へ付勢する弾発部材38と、を有し、ノック部材31を前方へ押圧するために必要な力は、弾発部材38の弾発力よりも小さい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前端開口部を有する軸筒と、筆記芯の先端を前記前端開口部から繰り出す操出機構と、を備えたシャープペンシルであって、
前記操出機構は、
使用者により前方へ押圧可能なノック部材と、
前記軸筒に対して前後移動可能に配置され、前方に移動した際に前記ノック部材を前方へ押圧可能な重量体と、
前記筆記芯を把持するチャックと、
前記チャックに連結された芯パイプと、
前記チャックを後方へ付勢する弾発部材と、を有し、
前記ノック部材を前方へ押圧するために必要な力は、前記弾発部材の弾発力よりも小さい、シャープペンシル。
【請求項2】
前記重量体は、前記芯パイプの後端よりも後方に位置する、請求項1に記載のシャープペンシル。
【請求項3】
前記重量体は、前記ノック部材の少なくとも一部に対して径方向の外側に配置されている、請求項1又は2に記載のシャープペンシル。
【請求項4】
前記ノック部材は、段部を有し、
前記重量体は、前方に移動した際に前記段部に衝突して前記ノック部材を前方へ押圧する、請求項1~3のいずれか一項に記載のシャープペンシル。
【請求項5】
前記操出機構は、
前記ノック部材が前方に押圧されたときに、前記ノック部材に加えられた押圧力を増大して前記芯パイプへ伝達する押圧力増大機構を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のシャープペンシル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャープペンシルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸筒と、軸筒内に配置された重量体と、筆記芯を把持するチャックと、チャックを後方へ付勢する弾発部材と、を備え、軸筒を前後に振ることによって筆記芯を繰り出すことができるシャープペンシルが知られている(特許文献1)。
【0003】
このシャープペンシルでは、重量体が芯パイプを囲むようにして配置されており、使用者が軸筒を前後に振ると、重量体が軸筒内で前後に移動する。重量体が前方に移動すると、重量体がチャック又はチャックに連結された部材に衝突して、チャックに前方へ向かう衝撃荷重を与える。これにより、チャックが弾発部材の弾発力に抗して前方へ移動し、筆記芯の繰出し動作が行われる。また、通常このようなシャープペンシルはノック部材も有しており、使用者がノック部材を前方へ向けて押圧することによっても、チャックが弾発部材の弾発力に抗して前方へ移動し、筆記芯の繰出し動作が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
重量体を有する従来のシャープペンシルにおいて、重量体の衝撃荷重によってチャックに与えられる押圧力は、使用者がノック部材を押圧することによりチャックに与えられる押圧力よりも小さい。したがって、従来のシャープペンシルでは、小さな押圧力でもチャックを前方に移動させることができるように、チャックを後方へ付勢する弾発部材の弾発力を小さくしていた。これにより、チャックによる筆記芯の把持力も小さくなっていた。この場合、筆記の際に作用する、筆記芯を後方へ押圧する力(筆圧)により、筆記芯がチャックに対して滑り、筆記芯がシャープペンシル内に没入してしまうおそれがあった。
【0006】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、重量体を有するシャープペンシルにおいて、チャックによる筆記芯の把持力を十分に確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるシャープペンシルは、
前端開口部を有する軸筒と、筆記芯の先端を前記前端開口部から繰り出す操出機構と、を備えたシャープペンシルであって、
前記操出機構は、
使用者により前方へ押圧可能なノック部材と、
前記軸筒に対して前後移動可能に配置され、前方に移動した際に前記ノック部材を前方へ押圧可能な重量体と、
前記筆記芯を把持するチャックと、
前記チャックに連結された芯パイプと、
前記チャックを後方へ付勢する弾発部材と、を有し、
前記ノック部材を前方へ押圧するために必要な力は、前記弾発部材の弾発力よりも小さい。
【0008】
本発明によるシャープペンシルにおいて、
前記重量体は、前記芯パイプの後端よりも後方に位置してもよい。
【0009】
本発明によるシャープペンシルにおいて、
前記重量体は、前記ノック部材の少なくとも一部に対して径方向の外側に配置されていてもよい。
【0010】
本発明によるシャープペンシルにおいて、
前記ノック部材は、段部を有し、
前記重量体は、前方に移動した際に前記段部に衝突して前記ノック部材を前方へ押圧してもよい。
【0011】
本発明によるシャープペンシルにおいて、
前記操出機構は、
前記ノック部材が前方に押圧されたときに、前記ノック部材に加えられた押圧力を増大して前記芯パイプへ伝達する押圧力増大機構を有してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、重量体を有するシャープペンシルにおいて、チャックによる筆記芯の把持力を十分に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態について説明するための図であって、シャープペンシルの一例を非ノック状態で示す縦断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のシャープペンシルの押圧力増大機構を拡大して示す縦断面図である。
【
図3】
図3は、
図1のシャープペンシルの前方部分を拡大して示す縦断面図である。
【
図4】
図4は、
図1のシャープペンシルをノック状態で示す縦断面図である。
【
図5】
図5は、
図4のシャープペンシルの押圧力増大機構を拡大して示す縦断面図である。
【
図6】
図6は、
図4のシャープペンシルの前方部分を拡大して示す縦断面図である。
【
図7】
図7は、シャープペンシルの軸筒の中軸を中心軸線に沿って切断した状態で示す斜視図である。
【
図8】
図8は、非ノック状態における押圧力増大機構を拡大して示す斜視図である。
【
図9】
図9は、シャープペンシルの分解斜視図である。
【
図10】
図10は、押圧力増大機構の一部の分解斜視図である。
【
図11】
図11は、押圧力増大機構の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の各実施形態について説明する。なお、本明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0015】
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件ならびにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0016】
本明細書では、シャープペンシル10の中心軸線Aが延びる方向(縦断面図における上下方向)を軸方向da、軸方向daと直交する方向を径方向、中心軸線A周りの円周に沿った方向を周方向とする。軸方向daに沿って、筆記する際に紙面等の筆記面に近接する側(ペン先側)を前方とし、筆記面から離間する側(ペン先と反対側)を後方とする。また、径方向に沿って、中心軸線Aに近づく側を内側又は内方、中心軸線Aから遠ざかる側を外側又は外方とする。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態について説明するための図であって、シャープペンシル10の一例を非ノック状態で示す縦断面図であり、
図2は、非ノック状態のシャープペンシル10の押圧力増大機構40を拡大して示す縦断面図であり、
図3は、非ノック状態のシャープペンシル10の前方部分を拡大して示す縦断面図である。また、
図4は、シャープペンシル10をノック状態で示す縦断面図であり、
図5は、ノック状態のシャープペンシル10の押圧力増大機構40を拡大して示す縦断面図であり、
図6は、ノック状態のシャープペンシル10の前方部分を拡大して示す縦断面図である。
【0018】
シャープペンシル10は、筆記芯15と、軸筒20と、操出機構30と、を備えている。シャープペンシル10は、中心軸線Aに沿って延びている。筆記芯15は、紙面等の筆記面に筆跡を形成する部材である。筆記芯15は、例えば黒鉛を含んでなる円柱形の部材である。
【0019】
軸筒20は、前軸21と、前軸21の後方に配置された中軸22と、中軸22の後方に配置された後軸23と、前軸21の前方に配置された先端部材25と、前軸21と先端部材25とを連結する連結部材26と、先端部材25の前端に取り付けられたスリーブ27と、を含んでいる。軸筒20の中心軸線は、シャープペンシル10の中心軸線Aと一致している。軸筒20の前端には、筆記芯15が通過可能な前端開口部20aが設けられている。本実施形態では、前端開口部20aは、スリーブ27の前端に形成された開口部である。操出機構30は、使用者の操作により、筆記芯15を前端開口部20aから前方へ繰り出す機構を有している。
【0020】
前軸21は、略筒状の形状を有する部材であり、使用者がシャープペンシル10で筆記を行う際に、指でつかむことが意図されている。中軸22は、前軸21の後方に配置された、略筒状の形状を有する部材である。中軸22の前端部が前軸21の後端部に取付けられることにより、中軸22が前軸21に対して連結される。一例として、前軸21の後端部の外周に形成された雄ネジ部に対して、中軸22の前端部の内周に形成された雌ネジ部が螺合することにより、中軸22が前軸21に対して連結される。本実施形態では、中軸22を前軸21から取り外すことにより、後述の芯パイプ32内へ筆記芯15を補充することができる。
【0021】
図7は、中軸22を中心軸線Aに沿って切断した状態で示す斜視図である。本実施形態では、中軸22の内面に、傾斜面20c、第1ガイド面20d及び第2ガイド面20eが形成されている。傾斜面20cは、後述のスライド部材50の後面52をガイドする機能を有する。傾斜面20cは、中軸22の内面に形成された段部における前方を向く面であり、中心軸線Aに直交する第1方向d1の一方側から他方側へ向かうにつれて後方から前方へ向かうように延びている。
図7に示された例では、傾斜面20cは平面である。第1ガイド面20dは、軸方向da及び第1方向に平行に延びる平面であり、スライド部材50の側面53をガイドする面である。第2ガイド面20eは、軸方向da及び第1方向に平行に延びる平面であり、後述のノック部材31の側面31dをガイドする面である。
【0022】
後軸23は、中軸22の後方に配置された、略筒状の形状を有する部材である。後軸23の前端部が中軸22の後端部に取付けられることにより、後軸23が中軸22に対して連結される。一例として、中軸22の後端部が後軸23の前端部に圧入されることにより、後軸23が中軸22に対して連結される。なお、これに限られず、中軸22の後端部に形成されたネジ部に対して、後軸23の前端部に形成されたネジ部が螺合することにより、後軸23が中軸22に対して連結されてもよい。
【0023】
先端部材25は、シャープペンシル10の先端部分を形成する部材である。先端部材25は、略円錐形状を有しており、前方に向かうにつれてその外径が小さくなっている。先端部材25の後端部が連結部材26を介して前軸21の前端部に取付けられることにより、先端部材25が前軸21に対して連結される。一例として、連結部材26の前端部の外周に形成された雄ネジ部に対して、先端部材25の後端部の内周に形成された雌ネジ部が螺合することにより、先端部材25が連結部材26に対して連結される。また、連結部材26の後端部の外周に形成された雄ネジ部に対して、前軸21の前端部の内周に形成された雌ネジ部が螺合することにより、前軸21が連結部材26に対して連結される。なお、これに限られず、先端部材25は、連結部材26を介することなく、前軸21に直接連結されてもよい。
【0024】
スリーブ27は、筆記芯15の前端部を保持する部材である。操出機構30により前方へ繰り出された筆記芯15は、スリーブ27を通ってスリーブ27の前端(前端開口部20a)から突出する。スリーブ27は、後述する芯ホルダー37に対して固定されており、芯ホルダー37とともに先端部材25に対して前後動する。筆記芯15の前端が摩耗すると、スリーブ27が紙面等の筆記面に当接して先端部材25に対して後退する。なお、これに限られず、スリーブ27は、先端部材25に対して固定されていてもよい。
【0025】
後軸23の後端には、頭冠29が取り付けられている。一例として、後軸23の後端部の外周に形成された雄ネジ部に対して、頭冠29の前端部の内周に形成された雌ネジ部が螺合することにより、頭冠29が後軸23に対して連結される。本実施形態では、頭冠29を後軸23から取り外すことにより、後述の重量体39を取り外したり交換したりすることができる。頭冠29の後端部には、内方に突出する内方突出部29aが設けられている。頭冠29は、後述のノック部材31の操作部31aが挿通される貫通孔を有している。この貫通孔は、内方突出部29aに囲まれている。頭冠29は、ノック部材31が軸筒20から後方へ抜け出ることを妨げる機能を有している。
【0026】
操出機構30は、筆記芯15の先端を軸筒20(スリーブ27)の前端開口部20aから繰り出すための機構である。本実施形態の操出機構30は、ノック部材31と、芯パイプ32と、チャック33と、コネクタ34と、受け部材35と、締具36と、芯ホルダー37と、弾発部材38と、重量体39と、押圧力増大機構40と、を含んでいる。
【0027】
ノック部材31は、使用者により操作されることが意図された部材である。ノック部材31は、前後動可能に構成されており、操作部31aと、操作部31aの前方に位置する前方部31bと、を有している。操作部31aは、使用者の指等で押圧される部分である。操作部31aは、頭冠29に設けられた貫通孔を通って後方に突出している。ノック部材31が前方へ押圧されたノック状態及びノック部材31が押圧されていない非ノック状態において、操作部31aの後端は軸筒20の後端から後方に突出する。本実施形態では、ノック状態及び非ノック状態において、操作部31aの後端は頭冠29から後方に突出する。前方部31bは、第1方向d1において、操作部31aの径方向寸法よりも大きな寸法を有する。頭冠29の貫通孔の内径は、操作部31aは通過可能であるが、前方部31bは通過不能である大きさを有している。したがって、ノック部材31は、頭冠29の貫通孔を通って後方へ抜け出ることがない。
【0028】
前方部31bは、前端に設けられた押圧面31cと、軸方向da及び第1方向d1の両方に直交する第2方向d2(
図10参照)に対向する一対の側面31dと、を有している。押圧面31cは、押圧部材60を押圧する面である。本実施形態では、押圧面31cは、第1方向d1の一方側から他方側へ向かうにつれて前方から後方へ向かうように延びている。押圧面31cは、平面であってもよい。また、押圧面31cは、曲面等の平面以外の形状を有してもよい。なお、押圧面31cは、中心軸線Aに対して傾斜していなくてもよい。すなわち、押圧面31cは、中心軸線Aに直交して延びてもよい。各側面31dは、軸方向da及び第1方向d1に対して平行に延びており、一対の側面31dは互いに平行である。図示された例では、側面31dはいずれも平面である。一対の側面31dは、それぞれ軸筒20(中軸22)の第2ガイド面20eにガイドされる。これにより、ノック部材31の周方向の回転が規制されている。
【0029】
操作部31aと前方部31bとの間には、段部31eが形成されている。段部31eは、前方部31bの後端部における後方を向く面である。本実施形態では、段部31eは、中心軸線Aに直交して延びる平面を含む。使用者が軸筒20を前後に振ることにより重量体39が前方に移動した際に、段部31eは、重量体39からの衝撃荷重を受ける。
【0030】
芯パイプ32は、内部に筆記芯15を貯留する部材である。本実施形態では、芯パイプ32は、使用者がノック部材31を前方に押圧した際に、押圧力増大機構40を介してこの押圧力を受ける。また、芯パイプ32は、押圧力をノック部材31からコネクタ34へ伝達する機能も有する。このような芯パイプ32は、例えば樹脂で形成される。チャック33は、筆記芯15を把持する部材である。チャック33は、芯パイプ32及びコネクタ34と一体的に前後に移動することが可能である。コネクタ34は、芯パイプ32とチャック33とを接続する部材である。図示された例では、コネクタ34の後端部は、芯パイプ32の前端部内に挿入されており、これにより、コネクタ34が芯パイプ32に対して固定されている。また、チャック33の後端部は、コネクタ34の前端部内に挿入されており、これにより、チャック33がコネクタ34に対して固定されている。
【0031】
コネクタ34の前方には、弾発部材38が配置されている。弾発部材38は、例えばコイルスプリングである。先端部材25と弾発部材38との間には、受け部材35が配置されている。弾発部材38は、コネクタ34の前端部と、受け部材35との間に、圧縮状態で配置されている。弾発部材38は、芯パイプ32、チャック33及びコネクタ34を、軸筒20に対して後方へ向けて常に付勢している。チャック33が筆記芯15を把持している場合には、筆記芯15も、チャック33及びコネクタ34を介して、後方へ向けて付勢される。受け部材35は、弾発部材38の弾発力を受ける部材であり、弾発部材38の弾発力により前方へ押圧され、先端部材25の内面に形成された段部に当接している。
【0032】
締具36は、チャック33の前方部分に対して径方向の外側に位置する環状の部品である。締具36の後端部が受け部材35に当接することにより、締具36の後方への移動が規制されている。芯ホルダー37は、チャック33の前方に配置されており、筆記芯15の外面に当接して筆記芯15を保持する部材である。芯ホルダー37は、樹脂またはゴム等の弾性部材で形成されており、チャック33が筆記芯15を把持していないときに、筆記芯15が軸方向daに移動することを抑制する。本実施形態では、芯ホルダー37は、先端部材25に対して所定の範囲で前後動可能に構成されている。
【0033】
重量体39は、チャック33を前方へ移動させる押圧力を生じる部材である。本実施形態のシャープペンシル10では、使用者がノック部材31を前方へ向けて直接押圧することによっても、使用者がシャープペンシル10を前後に振って重量体39が前後に移動することによっても、チャック33を前方へ移動させて筆記芯15を繰り出すことが可能である。重量体39は、軸筒20に対して前後移動可能に配置されており、前方に移動した際にノック部材31を前方へ押圧可能に構成されている。重量体39は、前方に移動した際にノック部材31を直接押圧してもよいし、他の部材を介して間接的に押圧してもよい。重量体39は、ノック部材31の少なくとも一部に対して径方向の外側に配置されている。とりわけ、重量体39は、ノック部材31の操作部31aを取り囲むようにして、操作部31aに対して径方向の外側に配置されている。重量体39は、中心軸線Aと一致する中心軸線を有する円筒状の部材である。重量体39は、比較的密度の大きい材料、例えば金属材料、で形成されている。
【0034】
重量体39と操作部31aとの間には隙間が形成されており、重量体39は、操作部31aに対して軸方向daに移動可能である。とりわけ、使用者がシャープペンシル10を軸方向daに沿って振ることにより、重量体39は、操作部31aに対して軸方向daに移動する。重量体39が前方に移動してノック部材31の段部31eに衝突すると、重量体39からノック部材31に対して作用する衝撃荷重により、ノック部材31が前方へ移動する。重量体39は、軸方向daにおいて、ノック部材31の段部31eと、頭冠29の内方突出部29aとの間に配置されており、段部31eと内方突出部29aとの間を軸方向daに移動可能である。すなわち、重量体39の軸方向daの移動範囲は、段部31eと内方突出部29aとにより画定される。
【0035】
本実施形態では、重量体39は、芯パイプ32の後端32aよりも後方に位置している。とりわけ、重量体39が軸方向daの移動範囲における最も前方に位置したときにも、重量体39の全体が芯パイプ32の後端32aより後方に位置している。重量体を有する従来のシャープペンシルでは、重量体が芯パイプに対して径方向の外側に配置されていた。ここで、重量体は、金属等の透視性を有しない材料で形成される。したがって、仮に軸筒及び芯パイプが透視性を有する材料、例えば透明な樹脂、で形成されていたとしても、重量体の存在により、使用者が軸筒の外部から芯パイプの内部を視認することはできなかった。本実施形態では、重量体39が、芯パイプ32の後端32aよりも後方に位置しているので、軸筒20及び芯パイプ32が透視性を有する材料で形成されている場合、使用者が軸筒20の外部から芯パイプ32の内部を視認することができる。したがって、使用中の筆記芯15の残り長さや、芯パイプ32内の予備芯の有無等を、軸筒20の外部から確認することができる。
【0036】
操出機構30により筆記芯15を繰り出す際には、使用者により、ノック部材31が前方へ向けて押圧される。これにより、押圧力増大機構40を介して、芯パイプ32、コネクタ34及びチャック33が前方へ押圧される。すなわち、芯パイプ32、コネクタ34及びチャック33が、弾発部材38の弾発力に抗して、前方へ移動する。また、本実施形態では、使用者がシャープペンシル10を軸方向daに沿って振り、重量体39が前方に移動してコネクタ34の後端部に衝突することによっても、芯パイプ32、コネクタ34及びチャック33が、弾発部材38の弾発力に抗して、前方へ移動する。
【0037】
チャック33の前方部分の外面は、ノック部材31が前方へ押圧されていないときには、締具36に内側から当接している。したがって、チャック33の前方部分が径方向の外側に開くことが抑制されている。これにより、チャック33の前方部分が筆記芯15を把持する。チャック33が前方へ移動すると、チャック33に把持された筆記芯15が前方へ移動し、筆記芯15が先端部材25の前端開口部20aから前方へ繰り出される。チャック33がさらに前方へ移動すると、チャック33の前方部分が締具36に対して前方へ移動する。これにより、チャック33の前方部分が径方向の外側に開き、チャック33の前方部分に把持されていた筆記芯15が解放される。このとき、筆記芯15は、芯ホルダー37により保持される。
【0038】
使用者によるノック部材31の押圧が解除される、又は、重量体39によるコネクタ34の押圧が解除されると、弾発部材38の弾発力により、芯パイプ32、コネクタ34及びチャック33が、後方へ移動する。これにより、チャック33の前方部分が締具36の内側へ移動し、締具36に当接して筆記芯15を把持する。このとき、筆記芯15は、芯ホルダー37により保持されているので、筆記芯15の後方への移動が抑制される。本実施形態の筆記具では、このようにして、筆記芯15が先端部材25の前端開口部20aから前方へ繰り出される。
【0039】
ところで、重量体の衝撃荷重によって生じる押圧力は、使用者がノック部材を押圧することにより生じる押圧力よりも小さい。したがって、重量体を有する従来のシャープペンシルでは、小さな押圧力でもチャックを前方に移動させることができるように、チャックを後方へ付勢する弾発部材の弾発力を小さくしていた。これにより、チャックによる筆記芯の把持力も小さくなっていた。この場合、筆記の際に作用する、筆記芯を後方へ押圧する力(筆圧)により、筆記芯がチャックに対して滑り、筆記芯がシャープペンシル内に没入してしまうおそれがあった。このような問題を解決するために、本実施形態では、シャープペンシル10は、ノック部材31を前方へ押圧するために必要な力が、弾発部材38の弾発力よりも小さくなるように構成されている。このような機能を実現する押圧力増大機構40の一例について、主に
図2、
図5及び
図7~
図11を参照して説明する。
図8は、非ノック状態における押圧力増大機構40を拡大して示す斜視図であり、
図9は、シャープペンシル10の全体の分解斜視図であり、
図10は、押圧力増大機構40の一部の分解斜視図であり、
図11は、押圧力増大機構40の動作を説明するための図である。
【0040】
本実施形態の押圧力増大機構40は、後軸23の内面に形成された傾斜面20c、第1ガイド面20d及び第2ガイド面20e、ノック部材31、スライド部材50並びに押圧部材60を含んでいる。上述したように、傾斜面20cは、後軸23の内面に形成された段部における後方を向く面であり、中心軸線Aに直交する第1方向d1の一方側から他方側へ向かうにつれて後方から前方へ向かうように延びている(
図7参照)。
【0041】
押圧部材60は、ノック部材31から受けた押圧力をスライド部材50へ伝達する部材である。押圧部材60は、前端部62と、後端部64と、側面66と、を有している。押圧部材60は、全体として略角柱形状を有している。この場合、押圧部材60は、前端部62と後端部64とを接続する4つの側面66を有している。前端部62及び後端部64には、丸みを帯びた形状が付与されている。とりわけ、前端部62及び後端部64は、いずれも、第2方向d2に直交する断面において円弧状の輪郭を有している。より詳細には、前端部62及び後端部64は、いずれも、第2方向d2に直交する断面において半円状の輪郭を有している。前端部62及び後端部64が丸みを帯びた形状を有していることによって、押圧部材60がスムーズにその角度を変更できるとともに、ノック部材31及び被押圧部材70に傷や食いつき現象が生じることを抑制することができる。食いつき現象とは、部品同士が食いついて作動に支障が出る状態が生じることを指す。なお、後端部64は、ノック部材31の押圧面31cに当接する。
【0042】
4つの側面66のうちの1つの側面66は、スライド部材50の当接部58に当接する当接面68となっている。とりわけ、4つの側面66のうち、前方及び第1方向d1の他方側を向く側面66が、当接面68となっている。4つの側面66は、いずれも平面であってもよい。また、側面66と前端部62との間、側面66と後端部64との間、及び、隣り合う2つの側面66の間には、面取り部が形成されてもよい。
【0043】
押圧部材60は、ノック部材31の移動にともなって中心軸線Aに対する角度が変更されるように構成されている。そして、押圧部材60は、その角度が変更されることにより、当接面68でスライド部材50の当接部58を押圧する。本実施形態では、押圧部材60は、中心軸線A及び第1方向d1と平行な断面において長手方向軸線A
Lを有する。長手方向軸線A
Lは、中心軸線A及び第1方向d1と平行な断面において押圧部材60の寸法を任意の方向に沿って測定したときに、その寸法が最大となるような方向に沿って延びる軸線である。長手方向軸線A
Lは、前端部62と後端部64とを結ぶ直線が延びる方向と一致する。
図2に示されているように、非ノック状態において、長手方向軸線A
Lは、軸方向da及び第1方向d1に対して傾斜した方向に延びている。
【0044】
本実施形態では、
図2及び
図5に示されているように、ノック部材31の前後方向の移動にともなって、中心軸線Aと長手方向軸線A
Lとの間の角度が変化する。とりわけ、ノック部材31が前方に移動すると、ノック部材31に押されて、押圧部材60の全体が前方に移動するとともに、中心軸線Aと長手方向軸線A
Lと間の角度が変化する。
図2及び
図5から理解できるように、ノック状態における中心軸線Aと長手方向軸線A
Lと間の角度θ
2は、非ノック状態における中心軸線Aと長手方向軸線A
Lと間の角度θ
1よりも大きい。すなわち、ノック部材31が前方へ移動すると、中心軸線Aと長手方向軸線A
Lとの間の角度が大きくなる。なお、中心軸線Aと長手方向軸線A
Lと間の角度とは、中心軸線A及び第1方向d1と平行な断面において中心軸線Aと長手方向軸線A
Lとによって形成される2つの角度のうち、小さい方の角度を指す。
【0045】
スライド部材50は、押圧部材60から受けた押圧力を被押圧部材70へ伝達する部材である。スライド部材50は、ノック部材31と被押圧部材70との間に位置している。とりわけ、スライド部材50は、軸筒20(後軸23)の傾斜面20cと被押圧部材70との間に位置している。スライド部材50は、押圧部材60から押圧力を受けて、前方へ移動し且つ中心軸線Aに直交する第1方向d1の一方側から他方側へ移動することができるように構成されている。
【0046】
スライド部材50は、前方を向く前面51と、後方を向く後面52と、第2方向d2に対向する一対の側面53と、を有している。前面51は、被押圧部材70の後述する受圧面72に当接する面であり、中心軸線Aと直交する方向に延びている。後面52は、第1方向d1の一方側から他方側へ向かうにつれて後方から前方へ向かうように延びている(
図10参照)。図示された例では、後面52は平面である。押圧部材60から押圧力を受けると、後面52が軸筒20(後軸23)の傾斜面20cに沿ってスライドしながら、押圧部材60が第1方向d1の一方側から他方側へ移動する。これにより、スライド部材50は、前方へ移動し且つ第1方向d1の一方側から他方側へ移動する。各側面53は、軸方向da及び第1方向d1に対して平行に延びており、一対の側面53は互いに平行である。図示された例では、側面53はいずれも平面である。一対の側面53は、それぞれ軸筒20(後軸23)の第1ガイド面20dにガイドされる。これにより、スライド部材50の周方向の回転が規制されている。
【0047】
スライド部材50には、凹部54が形成されている。凹部54は、軸方向da及び第1方向d1に延びており、前面51、後面52及び第1方向d1の一方側に開口している。凹部54は、第2方向d2において互いに対面する一対の側面56を含む。各側面56は、軸方向da及び第1方向d1に対して平行に延びており、一対の側面56は互いに平行である。図示された例では、側面56はいずれも平面である。一対の側面56は、押圧部材60をガイドするガイド部を構成する。したがって、本明細書では、一対の側面56をガイド部56と呼ぶこともある。押圧部材60は、スライド部材50の凹部54の一対の側面56の間に位置しており、一対の側面56により構成されるガイド部56により、第2方向d2の移動が規制されている。
【0048】
スライド部材50は、押圧部材60が当接する当接部58を有している。とりわけ、押圧部材60の当接面68がスライド部材50の当接部58に当接する。
図10に示された例では、当接部58は、後面52と凹部54との間の接続部に形成されており、第2方向d2に延びている。押圧部材60の当接面68が当接部58を押圧することにより、押圧部材60からスライド部材50へ押圧力が伝達される。図示された例では、当接部58は、面取り部を有してもよい。面取り部は、丸みを帯びた形状を有してもよい。一例として、面取り部は、第2方向d2に直交する断面において円弧状の形状を有してもよい。当接部58が面取り部を有していると、押圧部材60の当接面68に傷や食いつき現象が生じることを抑制することができる。
【0049】
被押圧部材70は、スライド部材50から押圧力を受ける部材である。被押圧部材70は、スライド部材50から受けた押圧力を芯パイプ32へ伝達する。被押圧部材70は、前後動可能に構成されており、後端に設けられた受圧面72及び支持面74を有している。受圧面72は、スライド部材50からの押圧力を受ける面である。本実施形態では、受圧面72は、中心軸線Aに直交して延びている。受圧面72は、平面であってもよい。支持面74は、押圧部材60を支持する面である。とりわけ、支持面74は、押圧部材60の前端部62を支持する。本実施形態では、支持面74は、第1方向d1の一方側から他方側へ向かうにつれて後方から前方へ向かうように延びている。支持面74は、平面であってもよい。被押圧部材70は、主に、受圧面72を介してスライド部材50から押圧力を受けるが、これに加えて、支持面74を介して押圧部材60から押圧力を受けてもよい。被押圧部材70の前方部分には、芯パイプ32の後端32aが挿入されている。被押圧部材70と芯パイプ32とは、互いに固定されてもよいし、固定されていなくてもよい。
【0050】
本実施形態のシャープペンシル10は、ノック部材31からの押圧力を被押圧部材70へ伝達する部材として、スライド部材50及び押圧部材60の2つの部材を有している。この場合、ノック部材からの押圧力を1つの部材で被押圧部材へ伝達する場合と比較して、各部材に作用する力を分散させることができる。これにより、ノック部材31からの押圧力を被押圧部材70へ伝達する部材が変形したり破損したりすることを、効果的に抑制することができる。したがって、安定して筆記芯15の操出動作を行うことが可能になる。
【0051】
次に、
図11を参照して、本実施形態の押圧力増大機構40において、ノック部材31に加えられた押圧力を増大して芯パイプ32へ伝達する仕組みについて説明する。
図11では、ノック部材31、スライド部材50及び押圧部材60が模式的に示されている。なお、スライド部材50は、軸方向da及び第1方向d1に平行な断面で示されている。
【0052】
本実施形態の押圧部材60は、いわゆる「てこ」として機能する。押圧部材60の前端部62が支点81であり、後端部64が力点83であり、当接面68におけるスライド部材50の当接部58と当接する部分が作用点85である。ここで、押圧部材60の長手方向軸線A
Lに沿って測定される、支点81と力点83との間の距離をX1とし、支点81と作用点85との間の距離をX2とする。また、使用者がノック部材31を前方へ向けて押圧する力及び重量体39がノック部材31を前方へ向けて押圧する力をF1とし、押圧部材60からスライド部材50に作用する力をF2とする。このとき、てこの原理より、距離X1、距離X2、押圧力F1及び押圧力F2の間には、以下の式が成り立つ。
F1 × X1 = F2 × X2 ・・・(式1)
したがって、押圧力F2は、以下のように表せる。
F2 = F1 × (X1/X2) ・・・(式2)
ここで、
図11に示されているように、距離X2は距離X1よりも小さい。すなわち、X1/X2>1である。したがって、押圧力F1と押圧力F2とは、以下の関係を有する。
F2 > F1 ・・・(式3)
【0053】
この押圧力F2は、スライド部材50から、被押圧部材70、芯パイプ32及びコネクタ34を介してチャック33に伝達される。本実施形態では、支点81と作用点85との間の距離X2が、支点81と力点83との間の距離X1よりも小さいことにより、押圧力増大機構40において、ノック部材31に加えられた押圧力F1よりも、芯パイプ32、チャック33、コネクタ34及び筆記芯15を前方へ押圧する押圧力F2の方が大きくなる。例えば、距離X1が距離X2の2倍である場合には、X1/X2=2であるから、上記式2より、押圧力F2は、押圧力F1の2倍となる。
【0054】
ノック部材31が前方に移動すると、スライド部材50は前方へ移動するとともに第1方向d1の一方側から他方側へ移動する。この際、距離X1はほとんど変化しないが、距離X2は大きくなる。すなわち、X1/X2の値は小さくなる。しかし、
図2及び
図5から理解できるように、本実施形態では、非ノック状態からノック状態に至るまでの全ての工程で距離X1は距離X2よりも大きくなっている。すなわち、X1/X2の値は常に1より大きい。したがって、ノック部材31が前方に移動するにつれて、押圧力増大機構40における押圧力の増大倍率(F2/F1)は小さくなるように変化するものの、常に1より大きい。すなわち、芯パイプ32、チャック33、コネクタ34及び筆記芯15を前方へ押圧する押圧力F2は、ノック部材31に加えられる押圧力F1よりも常に大きい。
【0055】
次に、主に
図1~
図6を参照して、シャープペンシル10における筆記芯15の操出動作について説明する。
図1~
図3は、シャープペンシル10を非ノック状態で示しており、
図4~
図6は、シャープペンシル10をノック状態で示している。
【0056】
非ノック状態では、弾発部材38の弾発力により、芯パイプ32、チャック33、コネクタ34及び筆記芯15が後方に向けて付勢されている。非ノック状態において、スライド部材50は、第1方向d1の一方側に位置する。このときの押圧部材60の長手方向軸線ALと中心軸線Aとの間の角度はθ1である。軸方向daに沿った押圧部材60の長さはL1である。また、ノック部材31の押圧面31cと押圧部材60の後端部64との当接部分と、ノック部材31の後端との間の軸方向daに沿った長さはL2である。
【0057】
使用者がノック部材31を前方へ向けて押圧すると、又は、使用者が軸筒20を前後方向に振ることにより重量体39がノック部材31の段部31eに衝突すると、弾発部材38の弾発力に抗してノック部材31が前方へ移動する。押圧部材60は、ノック部材31から前方へ向かう押圧力を受けて前方へ移動する。また、ノック部材31からの押圧力を受けて、押圧部材60の後端部64が第1方向d1の他方側へ向けて移動する。このとき、第1方向d1における押圧部材60の前端部62の位置はほとんど変化しない。したがって、中心軸線Aに対する押圧部材60の角度が変更される。とりわけ、中心軸線Aと長手方向軸線ALと間の角度は、非ノック状態における中心軸線Aと長手方向軸線ALと間の角度θ1よりも大きくなる。
【0058】
中心軸線Aに対する押圧部材60の角度が変更されることにより、押圧部材60の当接面68がスライド部材50の当接部58に当接して当接部58を押圧する。スライド部材50は、押圧部材60からの押圧力を受けて、前方へ移動し且つ第1方向d1の一方側から他方側へ移動する。とりわけ、スライド部材50は、後面52が軸筒20(後軸23)の内面に形成された傾斜面20cに沿ってスライドしながら移動する。スライド部材50が前方へ移動することにより、被押圧部材70は、スライド部材50からの押圧力を受けて前方へ移動する。これにより、被押圧部材70、芯パイプ32、チャック33、コネクタ34及び筆記芯15は、弾発部材38の弾発力に抗して、前方へ移動する。そして、ノック部材31がさらに前方へ移動すると、シャープペンシル10は、
図4~
図6に示すノック状態となる。
【0059】
図11を参照して説明したように、本実施形態では、芯パイプ32、チャック33、コネクタ34及び筆記芯15を前方へ押圧する押圧力は、ノック部材31に加えられる押圧力よりも大きくなる。すなわち、本実施形態のシャープペンシル10では、使用者がノック部材31に加えた押圧力及び重量体39がノック部材31に与える衝撃荷重による押圧力よりも大きな力で、弾発部材38の弾発力に抗して、芯パイプ32、チャック33、コネクタ34及び筆記芯15を前方へ押圧することができる。換言すると、ノック部材31を前方へ押圧するために必要な力は、弾発部材38の弾発力よりも小さい。
【0060】
重量体の衝撃荷重によって生じる押圧力は、使用者がノック部材を押圧することにより生じる押圧力よりも小さい。したがって、重量体を有する従来のシャープペンシルでは、小さな押圧力でもチャックを前方に移動させることができるように、チャックを後方へ付勢する弾発部材の弾発力を小さくしていた。これにより、チャックによる筆記芯の把持力も小さくなっていた。この場合、筆記の際に作用する、筆記芯を後方へ押圧する力(筆圧)により、筆記芯がチャックに対して滑り、筆記芯がシャープペンシル内に没入してしまうおそれがあった。これに対して、本実施形態では、ノック部材31を前方へ押圧するために必要な力が、弾発部材38の弾発力よりも小さいので、弾発部材38の弾発力を大きくしても、重量体39の衝撃荷重によって生じる押圧力により、適切に筆記芯15の操出操作を行うことができる。したがって、チャック33による筆記芯15の把持力を大きくすることが可能になり、筆圧により筆記芯がチャックに対して滑ることを効果的に抑制することができる。
【0061】
なお、中心軸線Aと押圧部材60の長手方向軸線ALと間の角度が、非ノック状態における中心軸線Aと長手方向軸線ALと間の角度θ1よりも大きくなることにより、軸方向daに沿った押圧部材60の長さは小さくなる。したがって、ノック部材31の押圧面31cが中心軸線Aに対して傾斜していない場合であっても、スライド部材50からの押圧力を受けて前方に移動する被押圧部材70の前方への移動ストロークは、ノック部材31の前方への移動ストロークよりも小さくなる。芯パイプ32、チャック33、コネクタ34及び筆記芯15は、一体的に前方へ移動する。したがって、ノック部材31の軸方向daに沿った前方への移動距離よりも、芯パイプ32、チャック33、コネクタ34及び筆記芯15の軸方向daに沿った前方への移動距離の方が小さくなる。
【0062】
本実施形態では、ノック部材31の押圧面31cは、中心軸線Aに対して傾斜している。とりわけ、押圧面31cは、第1方向d1の一方側から他方側へ向かうにつれて前方から後方へ向かうように延びている。中心軸線Aに対する押圧部材60の角度が変更されることにともなって、ノック部材31の押圧面31cと押圧部材60の後端部64との当接部分は、第1方向d1の一方側から他方側へ移動する。これにより、当該当接部分とノック部材31の後端との間の軸方向daに沿った長さは、非ノック状態における当該当接部分とノック部材31の後端との間の軸方向daに沿った長さL2よりも小さくなる。したがって、押圧部材60の前端部62からノック部材31の後端までの軸方向daに沿った長さは、さらに小さくなる。この場合、ノック部材31の軸方向daに沿った前方への移動距離よりも、芯パイプ32、チャック33、コネクタ34及び筆記芯15の軸方向daに沿った前方への移動距離の方がさらに小さくなる。
【0063】
ノック状態では、スライド部材50は、第1方向d1の他方側に位置する。このときの押圧部材60の長手方向軸線ALと中心軸線Aとの間の角度はθ2である。軸方向daに沿った押圧部材60の長さはL3である。また、ノック部材31の押圧面31cと押圧部材60の後端部64との当接部分と、ノック部材31の後端との間の軸方向daに沿った長さはL4である。このとき、角度θ2は角度θ1よりも大きい。長さL3は長さL1よりも小さい。また、長さL4は長さL2よりも小さい。
【0064】
本実施形態のシャープペンシル10は、前端開口部20aを有する軸筒20と、筆記芯15の先端を前端開口部20aから繰り出す操出機構30と、を備え、操出機構30は、使用者により前方へ押圧可能なノック部材31と、軸筒20に対して前後移動可能に配置され、前方に移動した際にノック部材31を前方へ押圧可能な重量体39と、筆記芯15を把持するチャック33と、チャック33に連結された芯パイプ32と、チャック33を後方へ付勢する弾発部材38と、を有し、ノック部材31を前方へ押圧するために必要な力は、弾発部材38の弾発力よりも小さい。
【0065】
重量体の衝撃荷重によって生じる押圧力は、使用者がノック部材を押圧することにより生じる押圧力よりも小さい。したがって、重量体を有する従来のシャープペンシルでは、小さな押圧力でもチャックを前方に移動させることができるように、チャックを後方へ付勢する弾発部材の弾発力を小さくしていた。これにより、チャックによる筆記芯の把持力も小さくなっていた。この場合、筆記の際に作用する、筆記芯を後方へ押圧する力(筆圧)により、筆記芯がチャックに対して滑り、筆記芯がシャープペンシル内に没入してしまうおそれがあった。これに対して、本実施形態のシャープペンシル10では、ノック部材31を前方へ押圧するために必要な力が、弾発部材38の弾発力よりも小さいので、弾発部材38の弾発力を大きくしても、重量体39の衝撃荷重によって生じる押圧力により、適切に筆記芯15の操出操作を行うことができる。したがって、チャック33による筆記芯15の把持力を大きくすることが可能になり、筆圧により筆記芯がチャックに対して滑ることを効果的に抑制することができる。
【0066】
本実施形態のシャープペンシル10では、重量体39は、芯パイプ32の後端32aよりも後方に位置する。
【0067】
このようなシャープペンシル10によれば、重量体39が、芯パイプ32の後端32aよりも後方に位置しているので、軸筒20及び芯パイプ32が透視性を有する材料で形成されている場合、使用者が軸筒20の外部から芯パイプ32の内部を視認することができる。したがって、使用中の筆記芯15の残り長さや、芯パイプ32内の予備芯の有無等を、軸筒20の外部から確認することができる。
【0068】
本実施形態のシャープペンシル10では、重量体39は、ノック部材31の少なくとも一部に対して径方向の外側に配置されている。
【0069】
このようなシャープペンシル10によれば、ノック部材31と重量体39とを軸方向daにおいて重ねて配置することができるので、重量体39を配置するために必要な空間を小さくすることができる。したがって、重量体39を配置することによりシャープペンシル10が大型化することを抑制することができる。
【0070】
本実施形態のシャープペンシル10では、ノック部材31は、段部31eを有し、重量体39は、前方に移動した際に段部31eに衝突してノック部材31を前方へ押圧する。
【0071】
このようなシャープペンシル10によれば、使用者の指と重量体39が同じノック部材31を押圧するので、重量体39に押圧されるべき他の部材を追加で設ける必要がない。したがって、シャープペンシル10が大型化することを抑制することができる。
【0072】
本実施形態のシャープペンシル10では、操出機構30は、ノック部材31が前方に押圧されたときに、ノック部材31に加えられた押圧力を増大して芯パイプ32へ伝達する押圧力増大機構40を有する。
【0073】
このようなシャープペンシル10によれば、押圧力増大機構40により、重量体39の衝撃荷重によって生じる押圧力よりも大きな力で、芯パイプ32、チャック33、コネクタ34及び筆記芯15を前方へ押圧することができる。
【0074】
また、本実施形態のシャープペンシル10では、押圧力増大機構40は、ノック部材31の前方への移動にともなって、軸筒20の中心軸線Aに対する角度が変更される押圧部材60と、押圧部材60からの押圧力により前方へ移動し且つ軸筒20の中心軸線Aに直交する第1方向d1の一方側から他方側へ移動するスライド部材50と、スライド部材50からの押圧力により前方へ移動可能な被押圧部材70と、を有する。
【0075】
このようなシャープペンシル10によれば、ノック部材31からの押圧力を被押圧部材70へ伝達する部材として、スライド部材50及び押圧部材60の2つの部材を有しているので、ノック部材からの押圧力を1つの部材で被押圧部材へ伝達する場合と比較して、各部材に作用する力を分散させることができる。これにより、ノック部材31からの押圧力を被押圧部材70へ伝達する部材が変形したり破損したりすることを、効果的に抑制することができる。したがって、安定して筆記芯15の操出動作を行うことが可能になる。
【0076】
本実施形態のシャープペンシル10では、押圧部材60は、中心軸線A及び第1方向d1と平行な断面において長手方向軸線ALを有し、ノック部材31が前方へ移動すると、中心軸線Aと長手方向軸線ALとの間の角度が大きくなる。
【0077】
このようなシャープペンシル10によれば、いわゆる「てこの原理」を利用して、芯パイプ32、チャック33、コネクタ34及び筆記芯15を前方へ押圧する押圧力を、ノック部材31に加えられる押圧力よりも大きくすることが可能になる。
【0078】
本実施形態のシャープペンシル10では、ノック部材31は、押圧部材60を押圧する押圧面31cを有し、押圧面31cは、第1方向d1の一方側から他方側へ向かうにつれて前方から後方へ向かうように延びる。
【0079】
このようなシャープペンシル10によれば、ノック部材31が前方へ移動した際に、ノック部材31からの押圧力により、押圧部材60の後端部64が第1方向d1の他方側へ向けてスムーズに移動する。したがって、中心軸線Aに対する押圧部材60の角度が容易に変更される。
【0080】
本実施形態のシャープペンシル10では、軸筒20の内面に、第1方向d1の一方側から他方側へ向かうにつれて後方から前方へ向かうように延びる傾斜面20cが形成され、ノック部材31が前方へ移動すると、スライド部材50は、傾斜面20cに沿って移動する。
【0081】
このようなシャープペンシル10によれば、簡単な構成により、ノック部材31の前方への移動にともなって、スライド部材50を、第1方向d1の一方側から他方側へ移動させることができる。
【0082】
本実施形態のシャープペンシル10では、スライド部材50は、押圧部材60をガイドするガイド部56を有する。
【0083】
このようなシャープペンシル10によれば、ガイド部56により押圧部材60がガイドされるので、押圧部材60の第2方向d2の移動が規制される。したがって、押圧部材60からスライド部材50へ押圧力を安定して伝達することができる。
【符号の説明】
【0084】
10 シャープペンシル
15 筆記芯
20 軸筒
20a 前端開口部
20c 傾斜面
20d 第1ガイド面
20e 第2ガイド面
21 前軸
22 中軸
23 後軸
25 先端部材
26 連結部材
27 スリーブ
29 頭冠
29a 内方突出部
30 操出機構
31 ノック部材
31a 操作部
31b 前方部
31c 押圧面
31d 側面
31e 段部
32 芯パイプ
32a 後端
33 チャック
34 コネクタ
35 受け部材
36 締具
37 芯ホルダー
38 弾発部材
39 重量体
40 押圧力増大機構
50 スライド部材
51 前面
52 後面
53 側面
54 凹部
56 側面(ガイド部)
58 当接部
60 押圧部材
62 前端部
64 後端部
66 側面
68 当接面
70 被押圧部材
72 受圧面
74 支持面
81 支点
83 力点
85 作用点
A 中心軸線
AL 長手方向軸線
da 軸方向
d1 第1方向
d2 第2方向