(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094305
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】知識モデル作成支援装置
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20230628BHJP
【FI】
G05B23/02 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209702
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 大
(72)【発明者】
【氏名】東 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雄二
(72)【発明者】
【氏名】酒井 隼樹
(72)【発明者】
【氏名】宮嵜 伊弦
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA05
3C223AA11
3C223BA03
3C223EB02
3C223FF04
3C223FF05
3C223FF13
3C223FF22
3C223FF24
3C223GG01
3C223HH02
3C223HH05
3C223HH08
(57)【要約】
【課題】知識モデルを効率よく作成することができる知識モデル作成支援装置を提供する。
【解決手段】知識モデル作成支援装置30は、関係性情報24を定義するための対象因子31aとして親因子A,Bおよび子因子Cを取得する対象因子取得部31と、親因子A,Bの因子値および子因子Cの因子値についての観測データ32aを取得する観測データ取得部32と、観測データ32aに基づいて、親因子A,Bの因子値を条件とした場合に子因子Cの因子値に該当する確率が定義された条件付確率表36bを生成する生成部36と、生成された条件付確率表36bを親因子A,Bと子因子Cとの関係性情報24として、関係性情報24を含む知識モデル4aを格納する知識モデル格納部38とを備える。生成部36は、新たな観測データ32aを取得した場合に、新たな条件付確率表36bを生成し、知識モデル格納部38に格納される知識モデル4aを更新する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業技術用語により定義された複数の因子と前記因子同士の関係性情報とにより構成された知識モデルの作成支援装置であって、
前記関係性情報を定義するための対象因子として、親因子および子因子を取得する対象因子取得部と、
前記親因子の因子値および前記子因子の因子値についての観測データを取得する観測データ取得部と、
前記観測データに基づいて、前記親因子の因子値を条件とした場合に前記子因子の因子値に該当する確率が定義された条件付確率表を生成する生成部と、
生成された前記条件付確率表を前記親因子と前記子因子との前記関係性情報として、前記関係性情報を含む前記知識モデルを格納する知識モデル格納部と、
を備え、
前記生成部は、前記観測データ取得部が新たな前記観測データを取得した場合に、新たな前記条件付確率表を生成し、前記知識モデル格納部に格納される前記知識モデルを更新する、知識モデル作成支援装置。
【請求項2】
さらに、予め設定された事前分布のパラメータを格納する事前分布格納部を備え、
前記生成部は、
前記事前分布のパラメータおよび前記観測データに基づいて、ベイズ推定を用いて事後分布を算出し、
前記事後分布の期待値を各要素値とする前記条件付確率表を生成する、請求項1に記載の知識モデル作成支援装置。
【請求項3】
前記事前分布格納部は、前記生成部による前記事後分布の生成過程にて得られた要素を、次の前記事前分布のパラメータとして格納し、
前記生成部は、
前記事前分布格納部に新たに格納された前記事前分布のパラメータ、および、前記観測データ取得部により新たに取得された前記観測データに基づいて、ベイズ推定を用いて新たな前記事後分布を算出し、
新たな前記事後分布の期待値を各要素値とする前記条件付確率表を生成する、請求項2に記載の知識モデル作成支援装置。
【請求項4】
さらに、前記ベイズ推定において前記観測データに対する前記事前分布のパラメータの影響割合を表す重みを格納する重み格納部を備え、
前記生成部は、前記観測データおよび前記重みを加味した前記事前分布のパラメータに基づいて、前記ベイズ推定を用いて前記事後分布を算出し、前記事後分布の期待値を各要素値とする前記条件付確率表を生成する、請求項2または3に記載の知識モデル作成支援装置。
【請求項5】
前記重みは、前記親因子の因子値毎に異なる値に設定可能である、請求項4に記載の知識モデル作成支援装置。
【請求項6】
前記生成部は、前記ベイズ推定を用いて前記条件付確率表を生成すること、および、前記観測データに基づいて最尤推定を用いて前記条件付確率表を生成することが選択可能に構成されている、請求項2~5のいずれか1項に記載の知識モデル作成支援装置。
【請求項7】
さらに、操作者の入力を受け付け、かつ、前記操作者の入力に応じて、前記知識モデル格納部に格納されている前記知識モデルを構成する前記条件付確率表を編集可能に構成されたモデル編集処理部を備える、請求項1~6のいずれか1項に記載の知識モデル作成支援装置。
【請求項8】
さらに、前記条件付確率表において、前記対象因子の因子値を不均等に離散化した区間を決定する区間決定部を備え、
前記生成部は、前記区間決定部により決定された前記区間に基づいて、前記条件付確率表を生成する、請求項1~7のいずれか1項に記載の知識モデル作成支援装置。
【請求項9】
前記区間決定部は、前記対象因子を構成する1つの因子と前記対象因子を構成する残りの因子のそれぞれとについての確率変数の相互依存の尺度を表す相互情報量に基づいて、前記対象因子の当該1つの因子の前記区間を決定する、請求項8に記載の知識モデル作成支援装置。
【請求項10】
前記観測データ取得部は、産業機械における前記観測データを取得し、
前記生成部は、前記因子に応じて設定されたタイミングにて、新たな前記条件付確率表を生成し、前記知識モデル格納部に格納される前記知識モデルを更新する、請求項1~9のいずれか1項に記載の知識モデル作成支援装置。
【請求項11】
前記観測データ取得部は、複数台の産業機械と通信可能に構成され、複数台の前記産業機械における前記観測データを取得し、
前記生成部は、複数台の前記産業機械における前記観測データに基づいて、1つの前記条件付確率表を生成し、
前記知識モデル格納部は、複数台の前記産業機械に共通する前記知識モデルを格納する、請求項1~10のいずれか1項に記載の知識モデル作成支援装置。
【請求項12】
前記観測データ取得部は、産業機械ごとの前記観測データを取得し、
前記生成部は、前記産業機械に個別に対応する前記条件付確率表を生成する、請求項1~10のいずれか1項に記載の知識モデル作成支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、知識モデル作成支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、産業機械における加工条件を決定するために、熟練者の知識をデータベース化し、当該データベースを活用することが知られている。例えば、特許文献1には、データベース化された知識モデルについて記載されている。知識モデルは、種々の技術用語により定義された複数の因子と、因子同士の関係とにより構成されたモデルである。そして、知識モデルを用いて、加工条件の最適化を図ることができるとされている。
【0003】
また、特許文献2には、知識モデルにおける因子同士の関係を定義する際に、機械学習を適用することが記載されている。特に、因子同士の関係を定義する手段として、基準因子のランク値と接続対象の因子のランク値との対応関係(ランク-ランク関係)を定義する手段や、基準因子のランク値と接続対象の因子のレンジ値との対応関係(ランク-レンジ関係)を定義する手段が記載されている。さらに、基準因子が複数の因子と関係性を有する場合には、寄与度を設定することにより、複数の因子が基準因子に及ぼす影響度を決定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-177547号公報
【特許文献2】特開2021-071856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載の因子同士の関係は、ランク値やレンジ値などの各因子の因子値同士を直接対応付けている。人が因子値同士の対応関係を決定することは容易ではない。機械学習を適用することにより、因子値同士の対応関係を決定することはできるが、特に訓練データセットのデータ量が少ない場合には、因子同士の関係を適切に定義することができない可能性がある。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、従来とは異なる手法により、知識モデルを効率よく作成することができる知識モデル作成支援装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、産業技術用語により定義された複数の因子と前記因子同士の関係性情報とにより構成された知識モデルの作成支援装置であって、
前記関係性情報を定義するための対象因子として、親因子および子因子を取得する対象因子取得部と、
前記親因子の因子値および前記子因子の因子値についての観測データを取得する観測データ取得部と、
前記観測データに基づいて、前記親因子の因子値を条件とした場合に前記子因子の因子値に該当する確率が定義された条件付確率表を生成する生成部と、
生成された前記条件付確率表を前記親因子と前記子因子との前記関係性情報として、前記関係性情報を含む前記知識モデルを格納する知識モデル格納部と、
を備え、
前記生成部は、前記観測データ取得部が新たな前記観測データを取得した場合に、新たな前記条件付確率表を生成し、前記知識モデル格納部に格納される前記知識モデルを更新する、知識モデル作成支援装置にある。
【発明の効果】
【0008】
知識モデル作成支援装置によれば、条件付確率表を、知識モデルを構成する因子同士の関係性情報としている。条件付確率表は、親因子の因子値を条件とした場合に、子因子の因子値に該当する確率により定義される。つまり、条件付確率表は、親因子の因子値と子因子の因子値とを直接関係付けるのではなく、確率を用いて表している。従って、因子同士の関係性を柔軟に定義することができる。
【0009】
さらに、生成部は、観測データに基づいて、因子同士の関係性情報としての条件付確率表を生成する。生成部は、条件付確率表を生成した後において、新たに観測データを取得した場合には、新たな観測データに基づいて新たな条件付確率表を生成する。そして、生成部は、知識モデル格納部に格納されている知識モデルを、新たに生成した条件付確率表を関係性情報とする知識モデルに更新する。従って、知識モデルが更新されるため、初期において知識モデルの精度が低いとしても、次第に高くなっていく。
【0010】
以上のごとく、上記態様によれば、従来とは異なる手法により、知識モデルを効率よく作成することができる知識モデル作成支援装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】知識モデル活用システムの構成を示す図である。
【
図2】知識モデルを表現した知識ネットワーク図を示す図である。
【
図4】
図3の知識モデルを構成する各因子の因子値を示す図である。
【
図5】
図3の知識モデルを構成する関係性情報を示す図である。
【
図6】知識モデル作成支援装置の構成を示す図である。
【
図7】対象因子取得部により取得した対象因子である。
【
図8】観測データ取得部により取得した観測データである。
【
図9】区間決定部により決定される離散区間を示し、(a)は、等間隔に設定された離散区間、(b)は、相互情報量に基づき決定された離散区間、(c)は、等頻度に設定された離散区間を示す。
【
図11】事前分布格納部に格納された事前分布のパラメータに基づいて生成された条件付確率表である。
【
図12】生成部により生成される事後分布に基づいて生成された条件付確率表である。
【
図13】条件付確率表の更新の手順であって、事前分布のパラメータのみにより生成された条件付確率表の初期状態を示す。
【
図14】条件付確率表の更新の手順であって、事後分布に基づいて更新された条件付確率表が生成される過程を示す。
【
図15】条件付確率表の更新の手順であって、新たな事後分布に基づいてさらに更新された条件付確率表が生成される過程を示す。
【
図16】知識モデルの作成する際の描画GUIウィンドウを示す。
【
図17】知識モデルの作成する際の描画GUIウィンドウを示す。
【
図18】知識モデルの作成する際の描画GUIウィンドウを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態)
1.知識モデル活用システム1の構成
知識モデル活用システム1の構成について
図1を参照して説明する。知識モデル活用システム1は、工学、医学、薬学、農学、生物学などの産業技術分野を対象とすることができる。特に、知識モデル活用システム1は、工学分野に含まれる機械加工分野や材料成形分野を挙げることができる。機械加工分野には、例えば、切削加工、研削加工、放電加工、プレス加工などが含まれる。材料成形分野には、射出成形、鋳造などが含まれる。そして、知識モデル活用システム1は、上記産業技術分野において、熟練者による技術情報に関する知識を記述した知識モデル4aを活用するシステムである。
【0013】
知識モデル活用システム1は、
図1に示すように、前述の産業技術分野における複数の産業機械2,3と、知識モデル実行装置4とを備える。複数の産業機械2,3および知識モデル実行装置4は、ネットワークを構成する。つまり、複数の産業機械2,3と知識モデル実行装置4とは、相互に通信可能に構成されている。
【0014】
複数の産業機械2,3は、例えば、工作機械、各種成形機、搬送装置、建設機械、農業機械、化学工業機械などである。知識モデル実行装置4は、知識モデル4aを格納している。知識モデル実行装置4は、知識モデル4aを用いて、例えば、前述の産業技術分野における産業機械2,3において、当該産業機械2,3の操作の支援、動作条件の決定、機械状態の判定、ワークの状態の判定などを行う。
【0015】
一般に、機械加工分野においては、作業者は、ワークの材質、工具の材質、ワーク品質、加工サイクルタイムなどの種々の情報を考慮して、加工条件としての切削速度や単位時間当たりの切込量などを決定する。この場合、作業者が種々の入力情報を取得して加工条件を決定するに際して、作業者の思考過程をモデル化したものが、知識モデル4aである。
【0016】
つまり、知識モデル4aは、ワークの材質、工具の材質、ワークの品質、加工サイクルタイム、切削速度、切込量などに加えて、作業者の思考過程において登場する産業技術要素のそれぞれを因子として定義され、因子同士の関係性が定義されている。
【0017】
例えば、知識モデル実行装置4は、産業機械2,3の1つである工作機械の加工条件の決定に際して、ワークの材質やワークの品質などを入力因子として取得した場合に、知識モデル4aを用いることにより、出力因子としての切削速度や切込量などの加工条件を出力することができる。また、知識モデル実行装置4は、産業機械2,3の観測データ32aを入力因子として取得して、知識モデル4aを用いることにより、産業機械2,3の異常状態や劣化状態などの機械状態、または、産業機械2,3によるワーク品質の異常の有無などを出力因子として出力することができる。
【0018】
2.知識ネットワーク
図10
知識モデル4aは、概念としては、ネットワーク形態で表現される。知識モデル4aをネットワーク形態で表現した知識ネットワーク
図10の例について、
図2を参照して説明する。つまり、知識ネットワーク
図10は、知識モデル4aをグラフィカルに表現したものである。本形態では、機械加工分野における知識モデル4aに関する知識ネットワーク
図10を例に挙げる。
【0019】
図2に示すように、知識ネットワーク
図10は、複数のノード図形11と、ノード図形11同士を繋ぐリンク図形12とを備える。ノード図形11は、例えば、高品位化、高能率化、切削速度、回転送りなどで表現されている。ノード図形11は、知識モデル4aにおいて、産業技術用語により定義される因子を表す。複数の因子は、技術的な包含関係(上下関係、主従関係とも称する)を有する場合と、技術的な異種依存関係を有する場合とが存在する。つまり、因子同士の関係性は、上記の2種類に分類される。
【0020】
例えば、被削材緒言は、被削材熱特性、被削材硬度、被削材伸びなどを包含する関係となる。つまり、技術的な包含関係を有する因子として、被削材緒言を上位概念因子とし、被削材熱特性、被削材硬度、被削材伸びなどを下位概念因子とする。また、技術的に異種依存関係を有する因子として、被削材熱特性と要求工具耐熱性などがある。以下において、技術的な包含関係を有する2つの因子の関係性を、単に包含関係と称し、技術的な異種依存関係を有する2つの因子の関係性を、単に異種依存関係と称する。
【0021】
リンク図形12は、ノード図形11同士の関係性を表す。リンク図形12は、知識モデル4aにおいて、因子同士の関係性を表す。リンク図形12は、包含関係を表す第一リンク図形12aと、異種依存関係を表す第二リンク図形12bとを、区別して表示される。
【0022】
図2では、包含関係を表す第一リンク図形12aは、上位概念因子の領域を示す枠線で表しており、下位概念因子が、第一リンク図形12aを表す枠線の中に配置される。第二リンク図形12bは、因子同士の定義の方向性を表す矢印線にて示す。第二リンク図形12bの矢印元を親因子とし、第二リンク図形12bの矢印先を子因子とする。ただし、第一リンク図形12aおよび第二リンク図形12bの表現方法は、上記に限られず、他の形態を用いることもできる。
【0023】
3.知識モデル4aの構成
図2に示すような知識ネットワーク
図10を定義した知識モデル4aについて
図3~
図5を参照して説明する。知識モデル4aは、データおよび処理プログラムにより構成されており、
図2に示すような知識ネットワーク
図10をデータとして定義する。
【0024】
ここで、知識モデル4aは、
図2に示したような知識ネットワーク
図10を表現したものであるため、多数の因子を有し、それらの因子同士の関係性を定義したモデルである。ただし、説明を容易にするために、以下において、知識モデル4aの一部を構成する最小ユニット、すなわち、親因子および子因子で定義される1つのユニットを例に挙げる。
【0025】
図3に示すように、知識モデル4aを構成する最小ユニットは、産業技術用語により定義された複数の因子21,22,23と、因子同士の関係性情報24と、出力値決定部25とを備える。
【0026】
図3においては、複数の因子21,22,23は、親因子A,Bと、子因子Cとを備える。親因子A,Bは、子因子Cに対して影響を与える因子である。反対に、子因子Cは、親因子A,Bの影響を受ける因子である。つまり、子因子Cの因子値は、親因子A,Bの因子値を条件として決定されることになる。なお、
図3においては、2つの親因子A,Bを図示するが、1つの親因子の場合や、3以上の親因子の場合も存在する。
【0027】
図4に示すように、親因子Aは、例えば、因子値をレンジ値により定義されている。例えば、親因子Aは、因子値であるレンジ値として、離散化した複数の区間「10~20」、「20~30」により定義されている。
図4においては、親因子Aのレンジ値は、均等に離散化した区間により定義したが、不均等に離散化した区間により定義することもできる。また、親因子Aは、レンジ称呼値として、例えば、レンジ値の中央値の情報を含む。例えば、親因子Aのレンジ称呼値は、「15」、「25」である。なお、レンジ称呼値は、レンジ値の最小値や最大値とすることもできる。
【0028】
親因子Bは、親因子Aと同様に、因子値をレンジ値により定義されている。例えば、親因子Bは、因子値であるレンジ値として、離散化した複数の区間「20~40」、「40~60」により定義されている。
図4においては、親因子Bのレンジ値は、均等に離散化した区間により定義したが、不均等に離散化した区間により定義することもできる。また、親因子Bは、レンジ称呼値として、例えば、レンジ値の中央値の情報を含む。例えば、親因子Bのレンジ称呼値は、「30」、「50」である。
【0029】
子因子Cは、親因子A,Bと同様に、因子値をレンジ値により定義されている。例えば、子因子Cは、因子値であるレンジ値として、離散化した複数の区間「100~200」、「200~300」、「300~400」により定義されている。
図4においては、子因子Cのレンジ値は、均等に離散化した区間により定義したが、不均等に離散化した区間により定義することもできる。また、子因子Cは、レンジ称呼値として、例えば、レンジ値の中央値の情報を含む。例えば、子因子Cのレンジ称呼値は、「150」、「250」、「350」である。
【0030】
図3に戻り説明する。関係性情報24は、親因子A,Bと子因子Cとの関係を定義するデータベースである。本形態においては、関係性情報24は、条件付確率表を用いる。詳細には、関係性情報24は、親因子A,Bの因子値を条件とした場合に子因子Cの因子値に該当する確率が定義された条件付確率表である。
【0031】
例えば、
図5に示すように、関係性情報24は、親因子A,Bと子因子Cとの関係を定義する条件付確率表である。親因子Aの因子値が「10~20」であって、親因子Bの因子値が「20~40」の場合において、子因子Cが「100~200」となる確率は「0.5」であり、子因子Cの因子値が「200~300」となる確率は「0」であり、子因子Cの因子値が「300~400」となる確率は「0.5」である。
【0032】
親因子Aの因子値が「20~30」であって、親因子Bの因子値が「20~40」の場合において、子因子Cの因子値が「100~200」となる確率は「0.3333」であり、子因子Cの因子値が「200~300」となる確率は「0.6667」であり、子因子Cの因子値が「300~400」となる確率は「0」である。親因子Aの因子値が「10~20」であって、親因子Bの因子値が「40~60」の場合、および、親因子Aの因子値が「20~30」であって、親因子Bの因子値が「40~60」の場合は、
図5に示すとおりである。なお、各因子A~Cのレンジ値を離散化した区間が、さらに多くに設定されている場合や、親因子の数が多くなる場合には、
図5に示す条件付確率表のマス数が多くなる。
【0033】
出力値決定部25は、親因子A,Bの因子値が入力された場合に、関係性情報24の条件付確率表より、子因子Cの各レンジ値の確率を取得する。そして、出力値決定部25は、取得した子因子Cの各レンジ値の確率に基づいて、子因子Cの因子値としての出力値を決定する。
【0034】
例えば、
図5において、親因子Aの因子値が「20~30」であって、親因子Bの因子値が「20~40」が入力されたとする。この場合、子因子Cの因子値が「100~200」となる確率は「0.3333」であり、子因子Cの因子値が「200~300」となる確率は「0.6667」であり、子因子Cの因子値が「300~400」となる確率は「0」である。
【0035】
このとき、出力値決定部25は、例えば、確率が最大である因子値を出力することができる。上記の例では、子因子Cの因子値が「200~300」となる確率が最大であるため、出力値決定部25は、子因子Cの因子値「200~300」を出力値とする。なお、子因子Cの出力値は、レンジ称呼値「250」を出力することもできる。
【0036】
また、出力値決定部25は、例えば、それぞれの因子値およびそれぞれの確率を用いて、子因子Cの出力値を決定することもできる。例えば、出力値決定部25は、期待値を出力値とすることができる。上記の例では、出力値決定部25は、レンジ称呼値「150」の確率が「0.3333」であり、レンジ称呼値「250」の確率が「0.6667」であり、レンジ称呼値「350」の確率が「0」である。そこで、出力値決定部25は、式(1)に示すように、レンジ称呼値と確率とを乗算して、総和を出力値としても良い。
【0037】
【0038】
上記においては、出力値決定部25は、親因子A,Bの因子値が入力された場合に、子因子Cの因子値を出力する。つまり、出力値決定部25は、順方向の確率推論の結果としての子因子Cの因子値を出力する。この他に、出力値決定部25は、子因子Cの因子値が入力された場合に、親因子A,Bの因子値を出力することができる。つまり、出力値決定部25は、逆方向の確率推論の結果としての親因子A,Bの因子値を出力することができる。
【0039】
出力値決定部25は、子因子Cの因子値が入力された場合、
図5に示す条件付確率表、および、図示しない因子A,Bのそれぞれに関する確率表に基づいて、親因子A、因子Bのレンジ値の確率値を取得することができる。そして、出力値決定部25は、取得した親因子A、親因子Bの各レンジ値の確率に基づいて、親因子Aの因子値および親因子Bの因子値を出力値として決定することができる。
【0040】
4.知識モデル作成支援装置30の構成
上述した知識モデル4aを作成するための知識モデル作成支援装置30の構成について
図6~
図15を参照して説明する。知識モデル作成支援装置30は、条件付確率表を用いた知識モデル4aを作成するための装置である。知識モデル作成支援装置30は、知識モデル実行装置4に搭載されている。従って、知識モデル作成支援装置30は、産業機械2,3とネットワークを構成しており、産業機械2,3と通信可能に構成されている。
【0041】
図6に示すように、知識モデル作成支援装置30は、対象因子取得部31、観測データ取得部32、区間決定部33、区間編集処理部34、事前分布格納部35、生成部36、重み格納部37、知識モデル格納部38、モデル編集処理部39を備える。知識モデル作成支援装置30は、少なくとも、プロセッサと記憶装置とを含んで構成されている。対象因子取得部31、観測データ取得部32、区間決定部33、区間編集処理部34、生成部36、モデル編集処理部39は、プロセッサにより構成されており、事前分布格納部35、重み格納部37、知識モデル格納部38は、記憶装置により構成されている。
【0042】
対象因子取得部31は、関係性情報24を定義するための対象因子31aを取得する。対象因子取得部31は、
図7に示すような因子ネットワークにおいては、対象因子31aとして、親因子A,Bおよび子因子Cを取得する。
図7において、順方向の確率推論において、親因子A,Bが、条件付確率表における条件であり、子因子Cが出力因子となる。また、
図7に示す矢印とは逆方向の確率推論においては、子因子Cを入力因子として、親因子A,Bが出力因子となる。
【0043】
観測データ取得部32は、対象因子取得部31にて取得された親因子A,Bの因子値および子因子Cの因子値についての観測データ32aを取得する。観測データ取得部32は、産業機械2,3と通信可能に構成されているため、産業機械2,3における観測データ32aをリアルタイムに取得することができる。さらに、観測データ取得部32は、複数台の産業機械2,3における観測データ32aを、一元的に取得することができる。ただし、観測データ取得部32は、リアルタイムではなく、所定期間分のまとまりの観測データ32aを取得することもできる。
【0044】
観測データ取得部32は、
図8に示すように、多数の観測データ32aを取得する。
図8において同一行の数値は、同時刻における因子A,B,Cの因子値を示す。つまり、最上段の数値では、親因子Aの因子値が「10」、親因子Bの因子値が「20」のときに、子因子Cの因子値が「115」であったことを意味する。
【0045】
区間決定部33は、
図5に示す条件付確率表において、対象因子31aの因子値のそれぞれ、すなわち親因子A,Bの因子値および子因子Cの因子値のそれぞれを離散化することにより、離散区間を決定する。区間決定部33は、例えば、
図9(a)(b)(c)に示すように、複数の離散区間決定方法の中から1つ選択することができる。ただし、
図9(a)(b)(c)には、図示の都合上、親因子A,Bに関する離散区間について図示する。子因子Cについては、親因子A,Bと同様に、離散区間を決定することができる。
【0046】
区間決定部33は、
図9(a)に示すように、対象因子31aの因子値を均等に離散化した区間を決定することができる。区間決定部33は、親因子A,Bのそれぞれの因子値を均等に離散化した区間を決定する。
図9(a)において、縦破線が、親因子Aの離散区間の境界を表す。
図9(a)において、横破線が、親因子Bの離散区間の境界を表す。
【0047】
区間決定部33は、
図9(b)に示すように、不均等に離散化した区間を決定することができる。区間決定部33は、親因子A,Bのそれぞれの因子値を不均等に離散化した区間を決定することができる。さらに、区間決定部33は、子因子Cの因子値を不均等に離散化した区間を決定することができる。
【0048】
図9(b)に示す区間決定方法は、対象因子31aである因子A,B,Cの中の各確率変数間の相互情報量I(X;Y)に基づいて、離散区間を決定する。相互情報量I(X;Y)とは、2つの確率変数の相互依存の尺度を表す量である。相互情報量I(X;Y)は、一方の変数を把握することで、他方をどれだけ推測できるようになるかを表す。
【0049】
相互情報量I(X;Y)は、式(2)にて表される。また、相互情報量I(X;Y)は、
図10に示すように表される。式(2)において、H(X),H(Y)は、エントロピー(情報エントロピーとも称する)であって、確率変数の不確かさを表す。H(X)は、式(3)にて表される。H(X)は、ある事象が確率変数Xで表されるとき、個々の事象の結果を知った時に得られる平均の情報量である。式(3)より、H(X)は、それぞれの事象が発生する確率を重み付け平均した値となる。H(Y)も同様に、式(4)にて表される。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
式(2)において、H(X|Y)は、条件付エントロピーであって、式(5)にて表される。また、式(2)において、H(X,Y)は、結合エントロピーであって、式(6)にて表される。
【0054】
【0055】
【0056】
例えば、区間決定部33が、因子A,Bの相互情報量I(X;Y)および因子A,Cの相互情報量I(X;Y)に基づいて、因子Aについての離散区間を決定する場合について説明する。まず、区間決定部33は、因子Aについての最終的な離散化数、および、連続型変数を含むデータを入力情報として取得する。続いて、初期化として、因子Aの各区間に1つのデータしか含まないように離散化する。ただし、指定した初期離散化数で離散化しても良く、この場合、任意のアルゴリズムを用いても良い。
【0057】
続いて、現在の離散化数を最終的な離散化数まで1つずつ小さくしていく。例えば、ループ処理の1回目において、総離散化数が10個ある場合、いずれか1つの隣り合う離散区間を統合して1つの離散区間にし、合計離散化数を9個とする。ループ処理の2回目では、総離散化数を9個から8個となるように、いずれか1つの隣り合う離散区間を統合して1つの離散区間とする。このような処理を繰り返して行う。
【0058】
そして、隣り合う離散区間を統合する際に、因子Aについて、他の因子B,Cとの相互情報量の総和の減少量が最も小さくなるように、隣り合う離散区間を統合する。例えば、総離散化数を10個から9個にするとき、どの隣り合う離散区間を統合すると、相互情報量I(X;Y)の減少量が小さいかを、全ての隣り合う離散区間について算出する。そして、相互情報量I(X;Y)の減少量が最も少なくなる隣り合う離散区間を統合する。
【0059】
より詳細には、まず、因子Aと因子Bとについて、因子Aのそれぞれの隣り合う離散区間を統合した場合における因子A,Bの相互情報量I(A;B)を算出する。続いて、因子Aと因子Cとについて、因子Aのそれぞれの隣り合う離散区間を統合した場合における因子A,Cの相互情報量I(A;C)を算出する。そして、因子A,Bの相互情報量I(A;B)と因子A,Cの相互情報量I(A;C)との和を算出し、因子Aのどの隣り合う離散区間を統合すると、両者の相互情報量Iの和の減少量が少ないかを判断して、該当する隣り合う離散区間を統合する。
【0060】
また、区間決定部33は、
図9(c)に示すように、等頻度に離散化した区間を決定することができる。この場合も、区間決定部33は、因子値を不均等に離散化した区間を決定することになる。
【0061】
区間編集処理部34は、操作者の入力を受け付け、かつ、操作者の入力に応じて、離散区間を編集可能に構成されている。区間編集処理部34は、
図9(a)(b)(c)のいずれかにより決定された離散区間を、操作者の入力により調整可能とする。なお、区間編集処理部34は、操作者の入力により、離散区間をゼロから作成することも可能である。
【0062】
事前分布格納部35は、予め設定された事前分布35aのパラメータαjkを格納する。事前分布35aは、式(7)にて表されるように、ディリクレ分布を用いる。jは、親因子Aの離散区間であり、kは、子因子Cの離散区間である。
【0063】
【0064】
さらに、事前分布格納部35は、
図11に示すように、事前分布35aのパラメータα
jkに基づいて生成された事前分布35aの期待値θa
jkを各要素値とする条件付確率表35bを格納する。ただし、
図11は、説明を容易にするために、親因子Aと子因子Cとの条件付確率表35bを示す。ここで、事前分布格納部35に格納される条件付確率表35bは、区間決定部33により決定された離散区間に基づいて生成されている。
【0065】
事前分布35aの期待値θajkは、式(8)にて表される。式(8)において、Najは、離散区間jにおける事前分布35aのパラメータαjkの総和であり、Najkは、離散区間j,kにおける事前分布35aのパラメータαjkである。
【0066】
【0067】
そして、
図11に示す条件付確率表35bは、各離散区間において、対応する期待値θa
jkが入力された条件付確率表となる。ここで、事前分布35aのパラメータα
jkは、例えば、作業者の経験や類似分野の情報などに基づいて設定される。この場合、事前分布35aに基づく条件付確率表35bは、作業者の経験や類似分野の情報などに基づいて生成された条件付確率表となる。
【0068】
生成部36は、観測データ取得部32により取得された観測データ32aを取得する。観測データ32aのデータ頻度βjkは、式(9)にて表される。観測データ32aのデータ頻度βjkは、多項分布により表される。観測データ32aのデータ頻度βjkについての最尤推定量φjkは、式(10)にて表される。Njは、離散区間jにおける観測データ32aのデータ総数であり、Njkは、離散区間j,kにおける観測データ32aのデータ頻度βjkである。
【0069】
【0070】
【0071】
生成部36は、観測データ取得部32により取得された観測データ32a、および、事前分布格納部35に格納されている事前分布35aのパラメータαjkに基づいて、ベイズ推定を用いて、事後分布36aを算出する。事後分布36aは、事前分布35aと同様の離散区間により構成されたディリクレ分布である。
【0072】
さらに、生成部36は、算出した事後分布36aに基づいて、事後分布36aの期待値θb
jkを各要素値とする条件付確率表36bを生成する。生成された条件付確率表36bが、関係性情報24である。ここで、区間決定部33により決定された離散区間に基づいて、条件付確率表36bが生成される。つまり、生成部36が生成する条件付確率表36bは、事前分布35aに基づき生成された条件付確率表35bと同様の離散区間により構成されている。生成される条件付確率表36bは、
図12の上段に示す。関係性情報24としての条件付確率表36bは、各離散区間の要素値に、値θb
jkが格納されている。
【0073】
図12の下段には、
図12の上段における親因子Aの離散区間jを詳細に説明するための図が示されている。
図12の上段における条件付確率表36bの各要素値θb
jkは、
図12の下段における事後分布36aの期待値θb
jkに一致する。
【0074】
事後分布36aの期待値θbjkは、式(11)により表される。式(11)において、Wjは、重みである。Najkは、事前分布35aのパラメータαjkにおいて、離散区間jの値である。Najは、離散区間jにおける事前分布35aのパラメータαjkの総和である。Njkは、観測データ32aのデータ頻度βjkにおいて、離散区間jの値である。Njは、離散区間jにおける観測データ32aのデータ総数である。
【0075】
【0076】
つまり、生成部36は、観測データ32aおよび事前分布35aのパラメータαjkに基づいて、ベイズ推定を用いて事後分布36aを算出し、事後分布36aの期待値θbjkを各要素値とする条件付確率表36bを生成する。
【0077】
ここで、生成部36は、式(11)に示すように、単なるベイズ推定ではなく、重みWjを加味している。つまり、事後分布36aは、観測データ32a、および、重みWjを加味した事前分布35aのパラメータαjkに基づいて、ベイズ推定を用いて算出される。さらに、生成部36による事後分布36aの生成過程にて得られた各要素値Nbjkは、式(12)にて表される。当該要素値Nbjkは、式(11)の分子に一致する。
【0078】
【0079】
ここで、比較として、重みWjを適用しない場合の事後分布36aの期待値θbjkは、式(13)により表される。
【0080】
【0081】
本形態では、式(11)に示すように、重みWjを用いて、事後分布36aの期待値θbjkを算出している。本形態における事後分布36aの期待値θbjkは、事前分布35aを表すNajk、Najに対して重みWjを乗算している。つまり、重みWjは、観測データ32aに対する事前分布35aのパラメータαjkの影響割合を表す。式(11)より、重みWjが大きいほど、観測データ32aに対する事前分布35aのパラメータαjkの影響割合が高くなり、重みWjが小さいほど、観測データ32aに対する事前分布35aのパラメータαjkの影響割合が低くなる。
【0082】
重みWjは、式(14)により表される。式(14)において、Kjは、重みWjを表すための係数である。Najは、離散区間jにおける事前分布35aのパラメータαjkの総和である。Njは、離散区間jにおける観測データ32aのデータ総数である。つまり、重みWjは、Naj、Njにより表される。
【0083】
【0084】
なお、生成部36は、観測データ32aが少量の場合には、観測データ32aおよび事前分布35aのパラメータαjkに基づいて、ベイズ推定を用いて、事後分布36aの期待値θbjkを各要素値とする条件付確率表36bを関係性情報24として生成するのが好適である。仮に、観測データ32aが多量に取得できている場合には、生成部36は、観測データ32aのみに基づいて条件付確率表36bを生成するようにしても良い。そこで、生成部36は、ベイズ推定を用いて条件付確率表36bを生成することと、観測データ32aに基づいて最尤推定を用いて条件付確率表36bを生成することが選択可能に構成されている。
【0085】
重み格納部37は、上述した重みWjを格納する。重みWjは、親因子Aの因子値の離散区間毎に異なる値に設定することもできるし、同値に設定することもできる。上述したように、式(11)より、重みWjが大きいほど、観測データ32aに対する事前分布35aのパラメータαjkの影響割合が高くなり、重みWjが小さいほど、観測データ32aに対する事前分布35aのパラメータαjkの影響割合が低くなる。例えば、重み格納部37は、式(15)に示すように、複数種類の重みWj_L,Wj_M,Wj_Sを格納する。
【0086】
【0087】
重みWjの意味について、具体的な数値を挙げて詳細に説明する。上述の式(13)に示すように、重みWjを用いない事後分布36aの期待値θbjkを用いて説明する。ここで、Nj4が「80」で、Najが「100」の場合において、事前分布35aのパラメータαjkが、{1,2,2,5}の場合と、{100,200,200,500}の場合とを比較する。事前分布35aのパラメータαjkの比率は、いずれも、{1:2:2:5)である。
【0088】
事前分布35aのパラメータαjkが{1,2,2,5}の場合における事後分布36aの期待値θbj4は、式(16)に示すように、「0.7727」となる。算出式は、「(5+80)/(10+100)」である。事前分布35aのパラメータαjkが{100,200,200,500}の場合における事後分布36aの期待値θbj4は、式(17)に示すように、「0.5272」となる。算出式は、「(500+80)/(1000+100)」である。
【0089】
【0090】
【0091】
このように、事前分布35aのパラメータαjkの比率が同一の{1:2:2:5}であったとしても、事前分布35aのパラメータαjkの絶対値の大きさによって、事後分布36aの期待値θbj4が異なる値となる。式(16)に示すように、事前分布35aのパラメータαjkの絶対値が小さいほど、事後分布36aの期待値θbj4は、観測データ32aのデータ頻度βjkについての最尤推定量φj4である「0.8(=80/100)」に近い値となる。一方、式(17)に示すように、事前分布35aのパラメータαjkの絶対値が大きいほど、事後分布36aの期待値θbj4は、事前分布35aの期待値θaj4である「0.5(=5/10)」に近い値となる。
【0092】
そして、重みWjを事前分布35aの確信度として捉えることができる。つまり、事前分布35aの確信度が高い場合には、重みWjを大きな値とすると良い。この場合、事後分布36aの期待値θbj4は、事前分布35aの期待値θaj4に近い値となる。一方、事前分布35aの確信度が低い場合には、重みWjを小さな値とすると良い。この場合、事後分布36aの期待値θbj4は、観測データ32aのデータ頻度βjkについての最尤推定量φj4に近い値となる。このように、事前分布35aの確信度に応じて重みWjを調整することにより、事後分布36aの期待値θbj4を所望の値とすることができる。
【0093】
図6に戻り説明する。
図6に示すように、知識モデル格納部38は、生成部36により生成された条件付確率表36bを、親因子Aと子因子Cとの関係性情報24として、当該関係性情報24を含む知識モデル4aを格納する。
【0094】
モデル編集処理部39は、操作者の入力を受け付け、かつ、操作者の入力に応じて、知識モデル格納部38に格納されている知識モデル4aを構成する条件付確率表36bを編集可能に構成されている。モデル編集処理部39は、
図12の上段に示す条件付確率表36bの各要素値を、操作者の入力により調整可能とする。なお、モデル編集処理部39は、操作者の入力により、条件付確率表36bをゼロから作成することも可能である。
【0095】
ここで、生成部36は、上記の処理に加えて、観測データ取得部32が新たな観測データ32aを取得した場合に、新たな条件付確率表36bを生成し、知識モデル格納部38に格納されている知識モデル4aを更新することができる。
【0096】
この場合、事前分布格納部35は、生成部36による事後分布36aの生成過程にて得られた各要素値Nbjk(式(12)にて表される)を、次の事前分布35aのパラメータαjkとして格納することができる。そして、生成部36は、事前分布格納部35に新たに格納された事前分布35aのパラメータαjkおよび観測データ取得部32により新たに取得された観測データ32aに基づいて、新たな事後分布36aを算出することができる。生成部36は、新たに算出した事後分布36aに基づいて、事後分布36aの期待値θbjkを各要素値とする条件付確率表36bを生成することができる。
【0097】
図13~
図15を参照して、知識モデル4aを構成する条件付確率表の更新の手順について詳細に説明する。
図13に示すように、観測データ32aが全く存在しない場合には、事前分布35aのパラメータα
jkのみにより、条件付確率表35bが生成される。つまり、ここでの条件付確率表35bの各要素値は、事前分布35aの期待値θa
jkそのものである。この時点では、知識モデル格納部38に格納されている知識モデル4aは、事前分布35aのパラメータα
jkのみにより表された条件付確率表35bにより定義されている。
【0098】
続いて、観測データ32aが取得されたとする。
図14に示すように、生成部36は、事前分布35aのパラメータα
jkと観測データ32aとに基づいて、ベイズ推定を用いて事後分布36aのパラメータγ
jkを算出し、事後分布36aの期待値θb
jkを生成する。そして、生成部36は、事後分布36aの期待値θb
jkを各要素値とする条件付確率表36bを生成する。そうすると、生成部36は、知識モデル格納部38に格納されている知識モデル4aを更新する。
【0099】
さらに続いて、生成部36が事後分布36aの生成過程にて得られた各要素値Nb
jkを、事前分布格納部35に新たな事前分布35aのパラメータα
jkとして格納される。つまり、
図15に示すように、新たな事前分布35aのパラメータα
jkが、先回の事後分布36aの生成過程にて得られた各要素値Nb
jkとなる。そして、新たな観測データ32aが取得されたとする。生成部36は、更新された新たな事前分布35aのパラメータα
jkと新たな観測データ32aとに基づいて、新たな事後分布36aを算出し、新たな事後分布36aの期待値θb’
jkを生成する。そして、生成部36は、新たな事後分布36aの期待値θb’
jkを各要素値とする条件付確率表36bを生成する。そうすると、生成部36は、知識モデル格納部38に格納されている知識モデル4aを再び更新する。
【0100】
5.知識モデル作成支援装置30の効果
知識モデル作成支援装置30によれば、条件付確率表35b,36bを、知識モデル4aを構成する因子同士の関係性情報24としている。条件付確率表35b,36bとは、親因子A,Bの因子値を条件とした場合に、子因子Cの因子値に該当する確率により定義される。つまり、条件付確率表35b,36bは、親因子A,Bの因子値と子因子Cの因子値とを直接関係付けるのではなく、確率を用いて表している。従って、因子同士の関係性を柔軟に定義することができる。
【0101】
さらに、生成部36は、観測データ32aに基づいて、因子同士の関係性情報24としての条件付確率表36bを生成する。生成部36は、条件付確率表36bを生成した後において、新たに観測データ32aを取得した場合には、新たな観測データ32aに基づいて新たな条件付確率表36bを生成する。そして、生成部36は、知識モデル格納部38に格納されている知識モデル4aを、新たに生成した条件付確率表36bを関係性情報24とする知識モデル4aに更新する。従って、知識モデル4aが更新されるため、初期において知識モデル4aの精度が低いとしても、次第に高くなっていく。このように、知識モデル4aを効率よく作成することができる。
【0102】
特に、生成部36は、ベイズ推定を用いて条件付確率表36bを生成することとした。つまり、ベイズ推定における事前分布35aを有効利用することにより、観測データ32aが少ない段階であっても、知識モデル4aを高精度にすることができる。ただし、事前分布35aの精度によっては、知識モデル4aを高精度にすることができない可能性がある。そこで、生成部36は、重みWjを用いて事後分布36aの期待値θbjkを求めることにより、事前分布35aの確信度に応じた知識モデル4aを生成することができる。
【0103】
そして、生成部36がベイズ推定を用いて条件付確率表36bを更新することにより、観測データ32aが多く確保できるようになると、事後分布36aの期待値θbjkにおいて観測データ32aの影響割合が高くなっていく。従って、観測データ32aが多数確保できた場合には、確実性の高い観測データ32aの影響割合を高くすることにより、高精度な知識モデル4aを生成することができる。
【0104】
そして、上述した重みWjは、親因子A,Bの因子値毎、すなわち、親因子A,Bの離散区間j毎に、異なる値に設定することができる。重みWjは、事前分布35aの確信度を表す。親因子A,Bの離散区間jに応じて、確信度が異なることがある。例えば、作業者がこれまで多く経験したことのある離散区間jにおいては、高い確信度を持って事前分布35aを決定することができる。しかし、そうでない場合には、高い確信度を持って事前分布35aを決定することができない場合がある。このような場合に、重みWjを離散区間j毎に設定することで、適切な条件付確率表36b、ひいては知識モデル4aを生成することができる。
【0105】
6.知識モデル4aの作成方法
知識モデル4aの作成方法について
図16~
図18を参照して説明する。
図16~
図18は、知識モデル作成支援装置30の表示画面の描画GUIウィンドウ40である。まず、
図16に示すように、操作者は、描画GUIウィンドウ40において、「因子」のGUI要素を指定して、描画領域の任意の位置に配置する。そうすると、描画領域に、因子を表すノード図形11(
図1に示す)が表示される。
【0106】
続いて、
図17に示すように、操作者は、描画GUIウィンドウ40の描画領域において、「接続」のGUI要素を指定して、因子同士を接続する。そうすると、描画領域に、因子同士を接続するリンク図形12が表示される。
【0107】
続いて、
図18に示すように、操作者は、描画GUIウィンドウ40の描画領域において、リンク図形12を指定する。そうすると、描画GUIウィンドウ40とは別の入力GUIウィンドウ41が新たに表示される。表示された新たな入力GUIウィンドウ41には、接続種が選択可能に表示されている。接続種としては、上述した「条件付確率表」の他に、公知の「ランク値-ランク値」、「ランク値-レンジ値」、「レンジ値-レンジ値」が存在する。操作者は、所望の接続種を選択することで、選択した接続種に応じた情報を入力することができる。操作者が、入力GUIウィンドウ41において「条件付確率表」を選択した場合には、上述したように、自動的に条件付確率表が生成される。
【0108】
7.知識モデル4aの自動更新方法
初期において、知識モデル4aを作成する方法は、
図16~
図18に示すような描画GUIウィンドウ40を用いて行われる。一旦作成された知識モデル4aは、新たな観測データ32aを取得することにより更新することができる。
【0109】
図1に示すように、知識モデル実行装置4が知識モデル作成支援装置30を備えており、知識モデル実行装置4が、複数台の産業機械2,3と通信可能に構成されているとする。この場合、知識モデル作成支援装置30を構成する生成部36は、設定されたタイミングで、産業機械2,3から観測データ32aを取得することができる。そして、生成部36は、因子に応じて設定されたタイミングにて、新たな条件付確率表36bを生成し、知識モデル格納部38に格納される知識モデル4aを更新することができる。
【0110】
この場合、知識モデル実行装置4は、複数台の産業機械2,3の観測データ32aを取得することができるため、知識モデル作成支援装置30を構成する生成部36は、複数台の産業機械2,3に共通する知識モデル4aを生成かつ更新し、知識モデル格納部38に当該知識モデル4aを格納することができる。
【0111】
また、上記とは異なり、知識モデル実行装置4が知識モデル作成支援装置30を備えており、産業機械2,3のそれぞれに設けられるようにしても良い。この場合、知識モデル作成支援装置30を構成する観測データ取得部32は、産業機械2,3ごとの観測データ32aを取得する。生成部36は、産業機械2,3に個別に対応する条件付確率表36bを生成かつ更新し、知識モデル格納部38に当該知識モデル4aを格納することができる。このように、知識モデル4aが、産業機械2,3のそれぞれに個別に対応したものとなる。従って、産業機械2,3のそれぞれに適切に対応した知識モデル4aを生成することができる。
【符号の説明】
【0112】
4a 知識モデル
21,22,23 因子
24 関係性情報
30 知識モデル作成支援装置
31 対象因子取得部
31a 対象因子
32 観測データ取得部
32a 観測データ
36 生成部
36b 条件付確率表
38 知識モデル格納部
A,B 親因子
C 子因子