(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094381
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】インキ吸入器
(51)【国際特許分類】
B43K 5/06 20060101AFI20230628BHJP
【FI】
B43K5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209827
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 光樹
【テーマコード(参考)】
2C350
【Fターム(参考)】
2C350GA01
2C350HA01
2C350KC20
(57)【要約】
【課題】インキ吸入の完了後、インキ吸入器を胴に挿入させる際、操作部材が胴の一部に触れて誤作動することのない、プッシュ式のインキ吸入器を得る。
【解決手段】操作部材60が、ピストン部材50に連結された押圧部材64と、主筒30に対して回動する回動部材65と、を有し、回動部材65が、主筒30に当接する当接部65bを有し、主筒30が、当接部65bを挿通させる挿通部43を有し、回動部材65を回動させ当接部65bと挿通部43との位置が一致することにより、操作部材60が前方に向けて押圧可能となる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面に縮径部を有し、前記縮径部の後方にインキ収容部を画定する主筒と、
前記主筒に対して前後動可能に配置されたピストン部材と、
前記ピストン部材に対して連結された操作部材と、
前記縮径部内を通って前記主筒内を延びるとともに前記ピストン部材に対して前後動可能に保持されたパイプと、を備え、
前記操作部材が、前記ピストン部材に連結された押圧部材と、前記主筒に対して回動する回動部材と、を有し、
前記回動部材が、前記主筒に当接する当接部を有し、
前記主筒が、前記当接部を挿通させる挿通部を有し、
前記回動部材を回動させ前記当接部と前記挿通部との位置が一致することにより、前記操作部材が前方に向けて押圧可能となるインキ吸入器。
【請求項2】
前記回動部材の当接部が外方に突出する突起であり、前記主筒の挿通部が溝である請求項1に記載のインキ吸入器。
【請求項3】
前記押圧部材の外面に凸部を有し、前記回動部材の内面に前記押圧部材の凸部が回動する凹部を有し、
該凹部の内面に、前記当接部と前記挿通部との位置が一致する際、前記凸部が乗り越える第一段部と、前記当接部と前記挿通部との位置がずれた際、前記凸部が乗り越える第二段部と、を有する請求項1または2に記載のインキ吸入器。
【請求項4】
前記回動部材の後端部に、外方に膨出する鍔部を有する請求項1ないし3のいずれか1項に記載のインキ吸入器。
【請求項5】
前記鍔部が摩擦部材からなる請求項4に記載のインキ吸入器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、万年筆等の筆記具に用いられるインキ吸入器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、万年筆等の筆記具では、内部にインキを吸入して当該インキを収容し、筆記の際には当該インキをペン先へ供給するインキ吸入器が使用されている。インキ吸入器は、インキ収容部と当該インキ収容部へインキを吸入するためのインキ吸入機構とを有している。
【0003】
インキ吸入機構は、通常、インキ吸入器内に負圧を生じさせて、インキ吸入器内と外部との気圧差を利用してインキを吸入する機構を有している。インキ吸入器内に負圧を生じさせる方式としては、例えば、操作部材を後方に直線的に操作して操作部材の前方に連結されたピストン部材を後方に移動させることでインキ吸入器内に負圧を生じさせるスライド式、操作部材を軸線周りに回転させて操作部材と螺合したピストン部材を後方に移動させることでインキ吸入器内に負圧を生じさせる回転式、インキ吸入器の後部に設けられたピストン部材を前方へ押圧した後に開放することでインキ吸入器内に負圧を生じさせるプッシュ式等を挙げることができる。とりわけ特許文献1(実開昭63-182181号公報)などに記載されているプッシュ式のインキ吸入器では、スライド式や回転式のインキ吸入器と比較して、操作部材の長さを小さくすることができる。これにより、同容量のインキ吸入器を小型化したり、同寸法のインキ吸入器を大容量化したりすることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記インキ吸入機構を有する万年筆では、通常、首に胴を螺合させることで軸筒が構成され、インキ吸入の際には首から胴を螺脱して、ペン芯に連設したインキ吸入器を露出させ、インキ瓶のインキに挿入したペン芯からインキを吸入する構造になっている。インキ吸入後には、露出したインキ吸入器を胴に挿入させた上で、首と胴とを螺合させる。
なお、従来のプッシュ式のインキ吸入器では、ピストン部材を前方へ押圧するために後方へ突出した操作部材が設けられており、インキ吸入器を胴に挿入させる際、胴の一部に操作部材が触れないようにする必要がある。操作部材が胴の一部に触れてインキ吸入器を誤作動させてしまった場合、ペン芯からインキが漏れてしまう。
首に胴を螺合させる際には、首を指で摘まんでいることから、漏れたインキで手を汚してしまうことになり、また、漏れたインキで机上を汚してしまうことになる。
【0006】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、インキ吸入の完了後、インキ吸入器を胴に挿入させる際、操作部材が胴の一部に触れて誤作動することのない、プッシュ式のインキ吸入器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるインキ吸入器は、
「1.内面に縮径部を有し、前記縮径部の後方にインキ収容部を画定する主筒と、
前記主筒に対して前後動可能に配置されたピストン部材と、
前記ピストン部材に対して連結された操作部材と、
前記縮径部内を通って前記主筒内を延びるとともに前記ピストン部材に対して前後動可能に保持されたパイプと、を備え、
前記操作部材が、前記ピストン部材に連結された押圧部材と、前記主筒に対して回動する回動部材と、を有し、
前記回動部材が、前記主筒に当接する当接部を有し、
前記主筒が、前記当接部を挿通させる挿通部を有し、
前記回動部材を回動させ前記当接部と前記挿通部との位置が一致することにより、前記操作部材が前方に向けて押圧可能となるインキ吸入器。
2.前記回動部材の当接部が外方に突出する突起であり、前記主筒の挿通部が溝である前記1項に記載のインキ吸入器。
3.前記押圧部材の外面に凸部を有し、前記回動部材の内面に前記押圧部材の凸部が回動する凹部を有し、
該凹部の内面に、前記当接部と前記挿通部との位置が一致する際、前記凸部が乗り越える第一段部と、前記当接部と前記挿通部との位置がずれた際、前記凸部が乗り越える第二段部と、を有する前記1項または2項に記載のインキ吸入器。
4.前記回動部材の後端部に、外方に膨出する鍔部を有する前記1項ないし3項のいずれか1項に記載のインキ吸入器。
5.前記鍔部が摩擦部材からなる前記4項に記載のインキ吸入器。」である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インキ吸入器を胴に挿入させる際、操作部材が胴の一部に触れても誤作動することのない、プッシュ式のインキ吸入器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明による一実施の形態を説明するための図であって、インキ吸入器が組み込まれた筆記具の断面を示す図である。
【
図4】
図4は、インキ吸入器をその操作部材が前方へ向けて押された状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺及び縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0011】
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0012】
図1~
図4は、本発明による一実施の形態を説明するための図である。このうち
図1は、インキ吸入器20が組み込まれた筆記具10の断面を示す図であり、
図2は、インキ吸入器20を拡大して示す断面図であり、
図3は、インキ吸入器20の回動部材61が回動された状態を拡大して示す断面図であり、
図4は、インキ吸入器20をその操作部材60が前方へ向けて押された状態を示す断面図である。本実施の形態では、筆記具10が万年筆である例について説明するが、筆記具10は万年筆に限られない。本明細書では、インキ吸入器20の主筒30の中心軸線Aが延びる方向(長手方向)を軸線方向、中心軸線Aと直交する方向を径方向、中心軸線A周りの円周方向を周方向とする。また、筆記具10及びインキ吸入器20において、軸線方向に沿って、筆記する際に紙面等の被筆記面に近接する側(例えば
図1では下側)を前方とし、被筆記面から離間する側(例えば
図1では上側)を後方とする。
【0013】
図1に示された筆記具10は、軸筒11と、ペン先12と、軸筒11の前方に位置しペン先12を支持するペン先支持部13と、を備えている。軸筒11は、中心軸線Aに沿って長手方向を有する部材であり、互いに螺合される首11aと胴11bとで構成され、内部に前方に向かって開口する空洞を有している。本実施の形態では、軸筒11の空洞内にインキ吸入器20の少なくとも一部が収容される。ペン先12は、インキ吸入器20から供給されたインキにより被筆記面に筆跡を形成する部材である。ペン先支持部13は、内部にインキ流通孔14及び空気流通孔15を有している。インキ流通孔14は、ペン先12に連通しており、インキ吸入器20から供給されたインキをペン先12へ向けて案内する通路として機能する。空気流通孔15は、概ね軸線方向に沿って延び、ペン先12の近傍に開口している。空気流通孔15は、開口から流入した外部の空気をインキ吸入器20へ向けて案内する通路として機能する。ペン先支持部13には、インキ吸入器20が取り付けられる取付部16が形成されている。本実施の形態では、取付部16は後方を向く突出部として構成されており、インキ吸入器20の前端部が取付部16に外嵌することにより、インキ吸入器20がペン先支持部13に着脱可能に取り付けられる。なお、これに限られず、取付部16は、後方に開口する溝部として構成され、インキ吸入器20の前端部が取付部16に圧入されることにより、インキ吸入器20がペン先支持部13に取り付けられてもよい。ペン先支持部13が嵌着された首11aには雄ねじ部が形成されており、胴11bの前方内面には対応する雌ねじ部が形成されている。そして、胴11bの雌ねじ部が首11aの雄ねじ部に螺合することにより、軸筒11が構成される。
【0014】
本実施の形態のインキ吸入器20は、プッシュ式のインキ吸入器であり、ペン先12へ供給するためのインキを収容するインキ収容部21を内部に有している。インキ吸入器20は、インキ収容部21を画定する主筒30と、主筒30に対して前後動可能に配置されたピストン部材50と、ピストン部材50に対して前後動可能に保持されたパイプ70と、パイプ70に固定された固定駒部材80と、を備えている。図示された例では、インキ吸入器20は、主筒30と、ピストン部材50の後部に取り付けられた操作部材60と、固定駒部材80の後方においてパイプ70に遊嵌された可動駒部材90と、をさらに有している。以下、本実施の形態のインキ吸入器20を構成する各部材について、順に説明していく。
【0015】
主筒30は、略円筒状の形状を有する部材であり、軸線方向に延びる内面30a及び外面30bを有している。内面30aは、内径が縮小された縮径部31を有している。縮径部31は、内面30aに周方向に沿って環状に形成された突出部である。とりわけ、縮径部31は、内面30aが中心軸線Aに向かって突出した突出部である。インキ収容部21は、縮径部31の後方に形成される。縮径部31の最も中心軸線Aに近接する頂部よりも後方には、インキ収容部21に面するとともに軸線方向及び径方向に対して傾斜した後方傾斜面31aが形成され、当該頂部よりも前方には、軸線方向及び径方向に対して傾斜した前方傾斜面31bが形成されている。後方傾斜面31aは、後方に向かうにつれて径方向の外側に向かうように延びる面であり、前方傾斜面31bは、前方に向かうにつれて径方向の外側に向かうように延びる面である。
【0016】
主筒30は、後部に取り付けられた尾筒部材40を含む。尾筒部材40は、操作部材60の少なくとも一部を収容する。尾筒部材40の後端開口部42には、内方に突出した鍔部44が形成されており、鍔部44は、操作部材60の開放状態において、操作部材60の後述の凸部63と当接する。鍔部44は、周方向に沿って全周にわたって設けられた1つの突出部であってもよいし、周方向に離散して配列された複数の突出部であってもよい。
【0017】
ピストン部材50は、フランジ部51とフランジ部51の後方に設けられた連結凸部55とを有している。フランジ部51は、主筒30の内部に位置しており、フランジ部51の径方向の最外端部は、主筒30の内面30aに対して液密に当接している。これにより、インキ収容部21は、主筒30の内面30a及び縮径部31並びにピストン部材50のフランジ部51で囲まれた空間として画定される。フランジ部51は、前端面51aから後方へ向けて窪んだ凹部53を有している。連結凸部55は、ピストン部材50を操作部材60に対して連結する連結部として機能する。連結凸部55には、後方に開口する穴57が設けられている。ピストン部材50は、穴57の前方を閉鎖する隔壁58と、中心軸線A上に凹部53と穴57とを連通する貫通孔59とを有している。貫通孔59には、パイプ70が遊挿される。すなわち、貫通孔59の内径はパイプ70本体の外径よりも大きくなっており、これによりパイプ70は、ピストン部材50に対して前後動可能に保持される。穴57は、パイプ70を貫通孔59に挿入する際の導入部となるとともに、パイプ70がピストン部材50に対して前後動する際の可動範囲を画定する。
【0018】
なお、隔壁58は、インキ収容部21と穴57との間のインキや空気の円滑な流通を確保するために、貫通孔59と連通する複数の溝59aを有しており、その溝59aの一つが
図1に示されたペン先12の表面方向に設けられている。複数の溝59aは貫通孔59に対して放射状に4個配列されており、貫通孔59と同様に凹部53と穴57とを連通するよう軸線方向に延びる。これにより、ペン先12の表面が上方を向く筆記時において、インキ収容部21内の空気は溝59aを経由してピストン部材50の穴57内に入り込みやすくなり、ピストン部材50の穴57内のインキがインキ収容部21内に流出しやすくなる。なお、パイプ70の後端部74には、パイプ70本体が径方向に拡げられた拡径部76が形成されている。拡径部76の外径は、ピストン部材50の貫通孔59の内径よりも大きいが、溝59aの最大巾よりも小さい。したがって、パイプ70が前進して拡径部76が隔壁58に当接する場合においても、溝59aによるインキや空気の円滑な流通を確保することができる。
【0019】
操作部材60は、ピストン部材50に対して前後動が規制されており、ピストン部材50を主筒30に対して前後動させる際に、使用者によって操作される部材である。操作部材60は、前端面に開口しピストン部材50の連結凸部55と嵌合する連結凹部62を有している。図示された例では、連結凹部62の側面には係合凹部が設けられており、連結凸部55の側面には、連結凹部62の係合凹部に対応する係合凸部が設けられている。そして、連結凸部55が連結凹部62内に挿入され、連結凸部55の係合凸部と連結凹部62の係合凹部とが係合することにより、ピストン部材50が操作部材60に対して連結される。ピストン部材50の連結凸部55は、穴57内に流入したインキが外部へ漏れることがないように、連結凹部62に対して液密に取り付けられる。操作部材60の外周面には、径方向の外側に突出する凸部63が設けられている。主筒30と凸部63との間には、付勢部材25が配置されている。図示された例では、付勢部材25はコイルスプリングであり、軸線方向に圧縮された状態で主筒30の後端部と凸部63の前端部との間に介挿されている。これにより、操作部材60は、主筒30に対して後方に向けて付勢されている。凸部63は、操作部材60の開放状態(使用者により前方に押圧されない状態)において、尾筒部材40の鍔部44に対して前方から当接する。したがって、操作部材60の可動範囲の後端は鍔部44により画定される。
【0020】
パイプ70は、縮径部31を通って主筒30内を延びるように配置されている。操作部材60の開放状態(
図2参照)及び押圧状態(使用者により前方に押圧された状態、
図4参照)のいずれにおいても、パイプ70の前端部72は縮径部31の前方に位置する。なお、図に示されたパイプ70の拡径部76以外の部分の外径は、貫通孔59の内径よりも小さいことから、パイプ70は、貫通孔59に挿通された状態において前後方向に移動可能であり、拡径部76が隔壁58に後方から係止された状態において、ピストン部材50に対して最も前方に位置する。パイプ70は内部が空洞になっており、パイプ70を介して、主筒30の縮径部31よりも前方の部分とピストン部材50の穴57とが連通している。
【0021】
パイプ70を形成する材料は特に限られないが、一例としてステンレス材等の金属材料を用いることができる。ピストン部材50を形成する材料は特に限られないが、一例としてポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアセタール樹脂等の樹脂材料を用いることができる。ステンレス材によるパイプ70は、耐インキ性があるとともに、ピストン部材50を形成するポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアセタール樹脂等の樹脂材料よりインキに対する濡れ性がよいことから、インキ収容部21内の空気がピストン部材50の穴57内に入り込んだ際に、ピストン部材50の穴57内のインキがパイプ70内を通ってインキ流通孔14の近傍まで流出され、ペン先12で筆記を行うことが可能となる。この場合、
図2に示すように、パイプ70が前進して拡径部76が隔壁58に当接した状態における、ピストン部材50の隔壁58の後端面からパイプ70の後端面までの軸線方向の距離を0.5mm以下とすることで、ピストン部材50の穴57内のインキがパイプ70内へ流動しやすくなり、ピストン部材50の穴57内のインキをインキ収容部21内へ円滑に流出させることが可能となる。なお、筆記時にインキ吸入器20の中心軸線Aが垂直方向に対して傾斜した際には、パイプ部材70がピストン部材50の隔壁58を支点に中心軸線Aに対して傾斜し、ピストン部材50の隔壁58の後端面からパイプ70の後端面までの軸線方向の距離が変化するが、最も大きな距離でも0.5mm以下とする。なお、パイプ70がピストン部材50よりもインキに対する濡れ性がよい場合には、ピストン部材50の穴57内のインキがパイプ70内を通ってインキ収容部21へ流出される以外にも、インキがピストン部材50の貫通孔59及び溝59aを経由して、濡れ性のよいパイプ70の外面を伝い、インキ収容部21内へ流出する。
【0022】
固定駒部材80は、縮径部31の後方においてパイプ70に対して固定されている。より詳細には、固定駒部材80は、縮径部31の後方においてパイプ70の外面に固定されている。固定駒部材80は弾性材料で形成されている。この弾性材料としては、一例としてフッ素ゴムを用いることができる。固定駒部材80は、前方に閉塞面82を有している。図示された例では、閉塞面82は、後方に向かうにつれて径方向にパイプ70から離間するように軸線方向及び径方向に対して傾斜した面を含んでいる。閉塞面82は、パイプ70及び固定駒部材80が前方に移動した際に、縮径部31の後方傾斜面31aに当接して縮径部31を閉塞する。
【0023】
可動駒部材90は、固定駒部材80の後方においてパイプ70に遊嵌されている。すなわち、可動駒部材90は、固定駒部材80の後方においてパイプ70に沿って前後方向に移動可能である。可動駒部材90は全体として円筒状に形成されており、内部にパイプ70が挿通されている。可動駒部材90を形成する材料は特に限られないが、一例としてステンレス材等の金属材料を用いることができる。
【0024】
上述したインキ吸入器20は、
図2に示した開放状態では、付勢部材25により、操作部材60が後方に向けて付勢される。操作部材60の外周面に設けられた凸部63が、尾筒部材40の後端開口部42に設けられた鍔部44に前方から当接することにより、操作部材60の後方へのさらなる移動が規制されている。このとき、操作部材60と連結されたピストン部材50、ピストン部材50に保持されたパイプ70、パイプ70に固定された固定駒部材80及びパイプ70に遊嵌された可動駒部材90も、後方に位置している。
【0025】
インキ吸入器20のインキ収容部21内にインキを吸入する際には、インキが貯留されたインキ瓶等を準備し、インキ吸入器20がペン先支持部13に取り付けられた状態で、ペン先12が下方を向くようにして、インキ流通孔14及び空気流通孔15がインキの液面下に位置するまでペン先支持部13をインキに浸漬する。
【0026】
操作部材60が上方を向いた状態で、例えば使用者の指により操作部材60が前方(下方)に向けて押圧されると、
図4に示す押圧状態となる。開放状態から押圧状態に移行する際には、操作部材60の前方への移動にともなって、ピストン部材50、パイプ70、固定駒部材80及び可動駒部材90も前方へ向けて移動する。この移動中に、まず、固定駒部材80の閉塞面82が、縮径部31の後方傾斜面31aに当接して縮径部31を閉塞する。これにより、パイプ70、固定駒部材80及び可動駒部材90は停止する。さらに操作部材60が前方へ向けて移動すると、ピストン部材50がさらに前方へ移動する。このとき、インキ収容部21内で圧縮された空気は、ピストン部材50の貫通孔59とパイプ70との間の隙間を通り、穴57及びパイプ70内の空洞を通って、パイプ70の前端部72から流出する。パイプ70から流出した空気は、ペン先支持部13を介して外部に排出される。なお、ピストン部材50の貫通孔59が、貫通孔59と連通する複数の溝59aを有していることから、インキ収容部21と穴57との間の空気の流通が十分に確保され、インキ収容部21内から穴57内への空気の移動を迅速に且つ安定して行うことができ、ピストン部材50の穴57内からインキ収容部21内へのインキの円滑な流通を確保することができる。
【0027】
この状態で、例えば操作部材60を前方へ押圧していた使用者の指を離すことにより、操作部材60へ付加されていた押圧力が解除されると、付勢部材25の付勢力により操作部材60が急激に後退する。これにともなって、ピストン部材50も急激に後退し、インキ収容部21内の圧力が負圧となる。操作部材60及びピストン部材50がさらに後退すると、パイプ70の後端部74に設けられた拡径部76がピストン部材50の貫通孔59に係止され、パイプ70、固定駒部材80及び可動駒部材90がピストン部材50とともに後退する。固定駒部材80の閉塞面82が、縮径部31の後方傾斜面31aから離間すると、インキ収容部21内と外部との間の圧力差により、ペン先支持部13及び縮径部31を介してインキ瓶内のインキがインキ収容部21内へ流入する。
【0028】
これを繰り返すことにより、インキ収容部21内にインキが吸入される。なお、インキ収容部21内にインキがある状態で操作部材60が前方に向けて押圧されると、インキ収容部21から少量のインキが縮径部31を通って流出し得るが、固定駒部材80により縮径部31が閉塞された後は、インキ収容部21内からインキは流出せず、インキ収容部21内の上部に存在する空気がパイプ70を通って流出する。インキ吸入器20へのインキの吸入の終了後、首11aに胴11bが取り付けられることにより、筆記具10が筆記可能な状態となる。
【0029】
本実施の形態のインキ吸入器20では、操作部材60が、ピストン部材50に連結された押圧部材64と、主筒30に対して回動する回動部材65と、回動部材62に固定された摩擦部材66と、を備える。押圧部材64は、前記連結凹部62及び凸部63が形成されている軸状の部材であり、後方に小径部64aを有する。回動部材65は、前方に開口部65aを有し、開口部65aに押動部材64の小径部64aを回動可能に挿着している。また、回動部材65の側面には、軸線方向に延び外方に突出した突起である当接部65bが形成され、尾筒部材40の後端面41の一部を欠いて溝とした挿通部43に挿通できるようにしてある。摩擦部材66は、シリコーン樹脂からなる円環状の部材であり、内面に形成された凹部66aに、回動部材65の外面に形成された凸部65cが嵌着され、双方が一体で作動する。摩擦部材66の材質としては、天然ゴム、ブタジエンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、ネオプレンゴム等が挙げられ、接触する指を滑り難くする。
【0030】
なお、
図2に示す状態では、回動部材65の当接部65bが尾筒部材40の後端面41に当接して、操作部材60の前進が規制され、
図3に示す状態では、回動部材65の当接部65bと尾筒部材40の挿通部43との位置が一致して、
図4に示すように、操作部材60を前方に向けて押圧可能となる。
したがって、本実施形態のインキ吸入器20は、インキ吸入の完了後に、回動部材65を
図2の状態にしておけば、インキ吸入器20を胴11bに挿入させる際に、操作部材60が胴11bの一部に触れても、誤作動することがない。
また、回動部材65の後端部の摩擦部材66は、外方に膨出する鍔部であることから、操作部材60を押圧する際に、指が当接する面が広くなり、押しやすく、また回動部材65を回動させる際にも、回転トルクが働き回動しやすい。なお、摩擦部材66が外方に膨出することから、インキ吸入器20を胴11bに挿入させる際、当然、操作部材60は胴11bの内面に接触しやすくなるが、前述の通り、回動部材65を
図2の状態にしておけば、誤作動することがない。
またさらに、押圧部材64の外面には凸部64bを有し、回動部材65の内面には押圧部材64の凸部64bが回動する凹部65dを有し、凹部65dの内面に、回動部材65の当接部65bと尾筒部材40の挿通部43との位置が一致する際、凸部64bが乗り越える第一段部65eと、当接部65bと挿通部43との位置がずれる際、凸部64bが乗り越える第二段部65fとが形成されたことにより、回動部材65の回動状態が認識しやすくなり、さらに誤作動を生じ難くすることができる。第一段部65e及び第二段部65fを乗り越える際には、回動部材65の回動に抵抗感が発生し、乗り越えた後には、回動部材65の回動に開放感が生じて、回動部材の回動状体を使用者が認識することが可能となる。回動部材65の後端面、または摩擦部材66の後端面あるいは側面に、回動部材65の回動位置がわかるように印を設けるとよい。なお、
図2及び
図4の状態において、押圧部材64の外面に形成したキー突起64cが、尾筒部材40の挿通部43に係止されることから、押圧部材64に対して回動部材65を相対的に確実に回動させることができる。
【符号の説明】
【0031】
10 筆記具
11 軸筒
11a 首
11b 胴
12 ペン先
13 ペン先支持部
20 インキ吸入器
21 インキ収容部
25 付勢部材
30 主筒
30a 内面
31 縮径部
31a 後方傾斜面
31b 前方傾斜面
32 溝部
35 角部
40 尾筒
41 後端面
42 後端開口部
43 挿通部
44 鍔部
50 ピストン部材
51 フランジ部
51a 前端面
53 凹部
55 連結凸部
57 穴
58 隔壁
59 貫通孔
59a 溝
60 操作部材
62 連結凹部
63 凸部
64 押圧部材
64a 小径部
64b 凸部
64c キー突起
65 回動部材
65a 開口部
65b 当接部
65c 凸部
65d 凹部
65e 第一段部
65f 第二段部
66 摩擦部材
66a 凹部
70 パイプ
72 前端部
74 後端部
76 拡径部
80 固定駒部材
82 閉塞面
84 後端部
86 上端縁
90 可動駒部材
92 前端部
94 上端縁