(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094393
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】煙火用電気点火具
(51)【国際特許分類】
F23Q 7/22 20060101AFI20230628BHJP
C06C 7/00 20060101ALI20230628BHJP
C06B 33/00 20060101ALI20230628BHJP
F42B 4/00 20060101ALI20230628BHJP
F42B 3/12 20060101ALI20230628BHJP
F23Q 13/00 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
F23Q7/22 B
C06C7/00
C06B33/00
F42B4/00
F42B3/12
F23Q13/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209844
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】513244753
【氏名又は名称】カーリットホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宇川 智水
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 章範
(72)【発明者】
【氏名】松下 聖
(57)【要約】
【課題】電気点火具の着火時に点火具の後方へ火炎が及ぶことが抑制され、伝火用火工品や打揚火薬への伝火性が向上した煙火用電気点火具を提供する。
【解決手段】樹脂製材料又はゴム製材料からなる点火薬保持筒体と、粉又は顆粒の状態の点火薬と、前記点火薬保持筒体を閉塞し点火エネルギーを伝達する導線が貫通した電橋付塞栓とを有し、煙火への伝火用火工品又は直接打揚火薬へ固定され着火することを目的とした電気点火具において、電橋と点火薬とが密着するように前記点火薬保持筒体が前記電橋付塞栓に固着され、前記点火薬保持筒体が有底でかつ底板部及び/又は周縁側壁部付近が点火威力で破裂する構造を有し、前記点火薬が金属酸化物と、単体金属還元剤と、マグナリウム合金を含有する組成物であることを特徴とする煙火用電気点火具の提供。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製材料又はゴム製材料からなる点火薬保持筒体と、粉又は顆粒の状態の点火薬と、前記点火薬保持筒体を閉塞し点火エネルギーを伝達する導線が貫通した電橋付塞栓とを有し、煙火への伝火用火工品又は直接打揚火薬へ固定され着火することを目的とした電気点火具において、電橋と点火薬とが密着するように前記点火薬保持筒体が前記電橋付塞栓に固着され、前記点火薬保持筒体が有底でかつ底板部及び/又は周縁側壁部付近が点火威力で破裂する構造を有し、前記点火薬が金属酸化物と、単体金属還元剤と、マグナリウム合金を含有する組成物であることを特徴とする煙火用電気点火具。
【請求項2】
前記金属酸化物が三二酸化鉄であり、前記単体金属還元剤がアルミニウムである請求項1に記載の煙火用電気点火具。
【請求項3】
前記点火薬が、金属酸化物50~75質量%、単体金属還元剤13~39質量%、マグナリウム合金8~12質量%を含有する請求項1~2のいずれかに記載の煙火用電気点火具。
【請求項4】
前記マグナリウム合金の、アルミニウム:マグネシウムの質量比が35:65~65:35である請求項1~3のいずれかに記載の煙火用電気点火具。
【請求項5】
前記点火薬の反応開始温度が500℃~600℃である請求項1~4のいずれかに記載の煙火用電気点火具。
【請求項6】
前記点火薬の摩擦感度が感度等級7級であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の煙火用電気点火具。
【請求項7】
着火時に前方放射状に火炎が拡散することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の煙火用電気点火具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、煙火用電気点火具に関する。
【背景技術】
【0002】
煙火の消費場所における打揚煙火や仕掛煙火等の点火方法は、従来人が直接火種を持って打揚筒に落とし火を入れたり、早打ちの場合は筒内の焼金に打揚火薬の付いた煙火を落とし込んで打ち揚げる方法などが一般的であった。近年、点火時の安全性確保や音楽と同調させた打揚による観賞効果の向上などを目的として、マッチヘッド状の点火玉と点火器又はコンピュータと連動した点火システムなどを用い、速火線や導火線等の伝火用火工品や黒色小粒火薬等の打揚火薬に直接着火するなどの電気点火により遠隔点火を行う場合が増えている。
【0003】
このような電気点火の方法では、煙火の消費場所において煙火玉に接続された伝火用火工品に点火玉を固定したり、予め小袋に計量された打揚火薬に点火玉を固定して打揚筒に挿入した後煙火玉を入れるなどの手順で接続作業や打揚準備が実施される。また速火線紙筒への点火玉の固定方法は、点火玉の抜けによる着火ミスを防止するために、該紙筒の端部又は途中部分に切り欠きを入れて速火線中に0.05m~0.1mほど奥へ差し込んだのち、粘着テープで固定するといった方法が一般的に取られている。
【0004】
この点火玉を固定する作業において、伝火用火工品の特に速火線は1重又は2重の紙筒の中に綿糸などに黒色火薬を含浸させた芯薬が数本貫入しており、点火玉を挿入する際に、該紙筒内の黒色火薬と感度の高い点火玉の点火薬が直に接して摩擦を生じ発火する危険性が考えられ、同様に打揚火薬が計量された小袋に点火玉を挿入固定する際も黒色小粒火薬等の打揚火薬と点火薬とが直に接すること、さらに固定後の点火玉が付いた打揚薬を打揚筒に挿入した後、煙火玉を上部に挿入した際の玉の荷重負荷もしくは誤って落とし込んだ場合の衝撃によって、黒色火薬と点火薬の摩擦力が増大または荷重や衝撃によって発火に至る危険性が高まる。
【0005】
これまで、点火玉を速火線へ取り付ける際の摩擦発火の危険性が指摘され、筒状体の固定具を用い先端側を密閉した点火具は知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の煙火用電気点火具は、着火時の点火薬の火勢が強すぎるため、点火薬の保持筒体の先端(前方)のみならず点火薬の保持筒体全体が破裂し後方にも火炎がおよび、伝火用火工品や打揚火薬の伝火性にばらつきがあることが本発明者らの検討により判明した。
従って、本発明は、電気点火具の着火時に点火具の後方へ火炎が及ぶことが抑制され、伝火用火工品や打揚火薬への伝火性が向上した煙火用電気点火具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、以下の内容の本発明を完成した。
【0009】
[1]樹脂製材料又はゴム製材料からなる点火薬保持筒体と、粉又は顆粒の状態の点火薬と、前記点火薬保持筒体を閉塞し点火エネルギーを伝達する導線が貫通した電橋付塞栓とを有し、煙火への伝火用火工品又は直接打揚火薬へ固定され着火することを目的とした電気点火具において、電橋と点火薬とが密着するように前記点火薬保持筒体が前記電橋付塞栓に固着され、前記点火薬保持筒体が有底でかつ底板部及び/又は周縁側壁部付近が点火威力で破裂する構造を有し、前記点火薬が金属酸化物と、単体金属還元剤と、マグナリウム合金を含有する組成物であることを特徴とする煙火用電気点火具。
[2]前記金属酸化物が三二酸化鉄であり、前記単体金属還元剤がアルミニウムである[1]に記載の煙火用電気点火具。
[3]前記点火薬が、金属酸化物50~75質量%、単体金属還元剤13~39質量%、マグナリウム合金8~12質量%を含有す[1]~[2]のいずれかに記載の煙火用電気点火具。
[4]前記マグナリウム合金の、アルミニウム:マグネシウムの質量比が35:65~65:35である[1]~[3]のいずれかに記載の煙火用電気点火具。
[5]前記点火薬の反応開始温度が500℃~600℃である[1]~[4]のいずれかに記載の煙火用電気点火具。
[6]前記点火薬の摩擦感度が感度等級7級であることを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載の煙火用電気点火具。
[7] 着火時に前方放射状に火炎が拡散することを特徴とする[1]~[6]のいずれかに記載の煙火用電気点火具。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、点火薬の保持筒体の先端を前方とした場合に、後方へ火炎が及ぶことが抑制され、伝火用火工品や打揚火薬への伝火性が向上した煙火用電気点火具が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明について説明する。
【0012】
本発明について、特にその好ましい形態を中心に、以下具体的に説明する。
図1は本発明の煙火用電気点火具又は電気導火線等の電気点火具を示す一部を切り欠いた模式図である。電気点火具は、点火薬保持筒体3、点火薬4、一対の並行被覆導線1が貫通し先端に電橋2が溶着された電橋付塞栓5からなり、点火器又はコンピュータと連動した点火システムから電気エネルギーの供給を受け、導線1を通して電橋を発熱させ電橋2の周囲点火薬4を発火させる。前記点火薬4が熱粒子を伴う高温の火炎及び熱を放射し、速火線や導火線等の伝火用火工品や黒色小粒火薬等の打揚火薬を着火させ煙火玉等の打揚や仕掛煙火等の点火を行う。
【0013】
電橋付塞栓5はポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン等の熱可塑性樹脂からなり、該電橋付塞栓5を通して点火エネルギーを伝達する並行導線1は、テフロン(登録商標)、ポリエチレン、塩化ビニル等の樹脂で被覆された銅、銅メッキ等を施された鉄などの線材であり、本用途には芯線径が0.0004~0.0007mの範囲にあることが好ましい。並行導線1の先端には、抵抗溶接や超音波等の摩擦接合、若しくはフックピンチなどで埋設された白金やニクロム等の線材からなる電橋2が架橋され、前記点火器や点火システムの供給エネルギーに適した抵抗値が保たれる。
【0014】
前記電橋の発熱によって発火に至る点火薬4は、金属酸化物と単体金属還元剤との混合物にマグナリウム合金を配合した反応組成物が用いられる。当該混合物を用いることによって、点火薬の着火性及び反応持続性が良好となり、点火薬の発火時のガスの発生がほとんど無いため、
図2のように点火具の着火時に点火薬保持筒体が四方八方に破裂しにくく前方に火炎が集中しやすく、点火具への着火時に点火薬の火勢が強すぎないため、点火薬の保持筒体の先端を前方とした場合に後方や横方向・側面へ火炎が及ぶことが抑制され、火炎が前方に集中しつつも広角の火炎が生じるため打揚火薬や伝火用火工品への伝火の速度及び安定性が向上する。また、前方に火炎が集中することで、打揚火薬や伝火用火工品への伝火の速度及び安定性が向上し、煙玉の低空開発(打ち揚げ直後に火薬に着火して本来の高さまで打ち揚がらないうちに現象が生じる)の発生など開発高度のばらつきを抑制することができる。また、当該混合物は、火薬類取締法上の火薬に該当しないため、消費や貯蔵等の取扱いが容易となる。
【0015】
上記点火薬の成分である金属酸化物としては、三酸化クロム(Cr2O3)、二酸化マンガン(MnO2)、三二酸化鉄(Fe2O3)、四三酸化鉄(Fe3O4)、酸化銅(II)(CuO)、鉛丹(Pb3O4)からなる群から選ばれた1種又は2種以上の化合物であることが好ましく、さらに好ましくは反応の安全性、価格、ハンドリングの面から、三二酸化鉄(Fe2O3)、四三酸化鉄(Fe3O4)、酸化銅(II)(CuO)を用いることが好ましい。
【0016】
上記点火薬の成分である金属酸化物の含有量は、電気点火具の着火時の火勢が適度であり、電気点火具の着火時に打揚火薬に伝火できる確度が高まるという観点から、点火薬全体に対して50~75質量%が好ましく、60~70質量%がより好ましい。
【0017】
単体金属還元剤としては、還元剤として作用する単体金属が挙げられ特に限定されないが、入手の容易さ、適用例の豊富さの観点から好ましくはアルミニウム粉末が好ましい。そのような単体金属還元剤の粒径としては、平均粒径が1~20μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは、5~10μmの範囲である。1μmより粒径が大きくなると、点火薬の燃焼が穏やかになる。また、20μmより小さいと点火薬の燃焼性が向上する。
【0018】
上記点火薬の成分である単体金属還元剤の含有量は、電気点火具の着火時の火勢が適度であり、電気点火具の着火時に打揚火薬に伝火できる確度が高まるという観点から、点火薬全体に対して13~39質量%が好ましく、18~29質量%がより好ましい。
【0019】
マグナリウム合金としては、アルミニウム:マグネシウム質量比が35:65~65:35の範囲のアルミニウム-マグネシウム合金粉末であることが好ましい。マグナリウム合金の粒径としては平均粒径が0.1~250μmの範囲、好ましくは0.1~100μm、さらに好ましくは1~50μmの範囲のものが望ましい。粒径が250μm以下だと、点火薬の成分の一部が燃焼しながら飛散しにくくなり、また、点火薬の着火性が向上する。また、粒径が0.1μm以上のものは、点火薬の反応性が低下し、点火薬の燃焼が穏やかになる。
【0020】
点火薬の反応開始温度は、点火薬が熱変化を受けにくく安全性が高いという観点から、500~600℃が好ましく、510~590℃がより好ましく、520~580℃がより好ましく、530~570℃が特に好ましい。
【0021】
反応開始温度は、示差熱・熱重量同時測定(TG-DTA)により、測定試料(2.0mg)について昇温速度10℃/min、測定温度範囲25℃~1000℃にて、空気雰囲気下で測定し、発熱ピークの立ち上がりの温度を反応開始温度とした。TG-DTAに用いた装置は株式会社日立ハイテクサイエンス製のSTA7200である。
【0022】
点火薬の摩擦感度は、煙火用電気点火具製造時や煙火用電気点火具を使用した作業時の安全性の観点から、摩擦感度等級7級であることが好ましい。
【0023】
点火薬の摩擦感度は、火薬学会規格「摩擦感度試験(ES-22)」に基づいて測定した。
【0024】
図1は、点火薬保持筒体3の実施例を示す断面図である。
該点火薬保持筒体3を有底とする事で、点火薬4が速火線や導火線等の伝火用火工品の芯薬や黒色小粒火薬等の打揚火薬へ直接接しないことで摩擦発火等の安全性を高めることが可能となり、さらに完全に密閉すれば湿分浸入防止の効果も得られ長期性能維持が可能となる。有底部6はより好ましくは前記点火薬保持筒体3と一体に成型した同一材料が良いが、異なる樹脂製材料或いはゴム製材料、若しくは紙状のものを予め別の組立工程で接着貼り付けしておくことも可能である。
【0025】
該点火薬保持筒体3は有底とすることで点火薬保護の好ましい効果が得られるが、単に有底としただけでは火炎の拡散が抑制されるため、本来の目的である着火性が損なわれてしまう。従って以下に示すように、軟質な材料を用いるか、局部へ応力集中し易い形状とするか、さらに肉厚に差異を設けるなどして同じ箇所で積極的かつ安定に破裂しやすい部位を設けるなどの構造付与が必要である。
【0026】
点火薬保持筒体3は射出成型によって成型されることが好ましく、その材質は軟質な熱可塑性の樹脂製材料或いはゴム製材料のうちエチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン系アイオノマー、スチレン系、ポリエステル系又はポリオレフィン系エラストマーのいずれかが好ましく、より好ましくはエチレン酢酸ビニル共重合体かスチレン系エラストマーが特に軟質な材質であるため好ましい。該樹脂製材料或いはゴム製材料によって若干物性の評価尺度が異なる場合や温度によって特性が変化することがあるが、例えば常温の温度域では引張強さは1~30MPaの範囲が好ましく、デュロメータのタイプA硬さにおいては1~100の範囲が好ましい。特にエチレン酢酸ビニル共重合体においては酢酸ビニルの含有量が増えるに従い軟質で良好に破裂する材料となり、1~50重量%が好ましく、より好ましくは10~40重量%の範囲が良い。
【0027】
また、公知点火具では筒状体の固定具などの先端を若干先細りにして速火線紙筒へ該点火具を挿入し易い形状としている場合があるが、本発明においては特に局部へ応力集中し易い形状として、同じ箇所で積極的かつ安定に破裂しやすい部位を設けることが好ましい。点火薬保持筒体3の底板部6が斜め傾斜を有するか又は先細りした形状であることが好ましく、若しくは先細りさせた頂部に底板部6を設け、斜め傾斜や平面、丸めた部分を施すことも可能である。このように頂部付近の局部へ応力集中し易い形状とすること、すなわち該底板部6の形状を斜め傾斜とした場合は鋭角側の底板頂部に、先細りさせた場合は中央の頂部周囲に曲げ応力が集中するため、積極的に点火威力で破裂しやすくする効果が得られる。該底板部6を斜め傾斜させる場合、鋭角側の底板頂部は40度から80度の範囲で角度を付けることが好ましく、より好ましくは60度から70度の範囲が良い。又先細りさせる場合は、中央の頂部は20度から80度の範囲で角度を付けることが好ましいが、より好ましくは30度から60度の範囲が先細り部分の長さが長くなりすぎずに好ましい。
【0028】
また、一実施例として点火薬保持筒体3の底板部6をより薄く、周縁側壁部7を厚くして肉厚に差を持たせることで、前記と同様に底板部6の周囲の特に鋭角側の底板頂部に応力を集中させることができ、より破裂しやすくする効果が得られる。該周縁側壁部7を例えば0.0005~0.0015mの肉厚としたとき、該底板部6の肉厚は破裂しやすくかつ射出成型が可能な肉厚として、少なくとも0.0005m以下が望ましく、より好ましくは0.0003m以下が良い。該底板部6を薄肉に成型する場合、選定材料の特性と成型条件金型構造等によって、未熟成型や金型への溶着剥がれ、若しくはガス抜け不良によるウエルド等によってピンホール等が出来てしまうため慎重な条件選定と肉厚選定が重要である。
【0029】
また、一実施例として前記に加え更に点火薬保持筒体3の底板部6の他、
図1のように底板に接する周縁側壁部8の肉厚まで薄肉とする事により、前記の形状で応力集中させた鋭角側底板角部又は底板に接する周縁側壁部8まで破裂しやすくすることが可能となる。薄肉部と厚肉部の肉厚差は前記の範囲が望ましいが、底板部6と底板に接する周縁側壁部8の肉厚を同一にしても、若しくは同一としなくても構わない。
【0030】
前記射出成型法で成型された点火薬保持筒体3を更に薄肉に成型することで、積極的に点火威力で破裂しやすくする他の方法として、熱可塑成樹脂の成型法の一種で、シート状の材料を加熱軟化させシートと金型との間の空気を抜き取ることで真空状態にして成型する真空成型方法があり、本成型法による熱可塑成樹脂は、非晶性又は結晶性のポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリルのいずれかが好ましく、より好ましくはポリスチレンが薄肉で成型出来ることより好ましい。シートの元厚は0.001m以下が好ましく、より好ましくは0.0007m以下、更に好ましくは0.0004m以下とすることで真空成型により引き延ばされた後の肉厚が、射出成型したものよりさらに薄肉とする事ができ破裂しやすくなる効果が得られる。
【0031】
前記射出成型若しくは真空成型された点火薬保持筒体3の底板部6付近や、またはその周辺部分がさらに破裂しやすく、かつ着火性を良好にするためには、点火の際の威力によって該筒体3が飛散しにくくすることが望ましく、点火薬保持筒体3が電橋付塞栓5へ固着される構造を有することが好ましい。
【0032】
点火薬保持筒体3を前記電橋付塞栓5へ固着する方法としては、嵌合部を接着剤を用いて接着するか、若しくは超音波等による摩擦溶着させるか、電気雷管の管体口締めのような塑性変形し易いもので固定する方法や、公知点火具のように速火線への固定具などを用いて点火薬保持筒体3を飛散しないようにすることや、該点火薬保持筒体3の周縁側壁部7の嵌合部内径と該電橋付塞栓5の嵌合部外周縁のはめあい強度を上げる方法などがあるが、追加の構成部材や接合設備が必要なくかつ該追加構成部材で最大外径を増大させないより好ましい確実な方法として、点火薬保持筒体3の周縁側壁部7の内側に凹又は凸部、かつ電橋付塞栓5の嵌合部の外周縁に凸又は凹部を全周に渡ってそれぞれの位置が対応するように少なくとも1個設けるアンダーカット成型と呼ばれる凹凸成型加工部を設けるか、前記両壁面の一方側若しくは両方に全周に渡って粗目やエンボス等の凸凹模様の加工を施し固着する構造を設けることで、接着剤の乾燥設備や溶着設備、若しくはその他部品を追加することなく、組立が容易となり該点火薬保持筒体3の飛散をより確実に防止できる。
【0033】
また、従来の点火玉は、塞栓を貫通した並行導線の先端に架橋された電橋周囲に有機溶媒等により湿状又は泥状にした点火薬を玉状に塗布して乾燥生産されるため塗布量の調整が難しく、乾燥設備や排気装置等の設備が必要であるのに対し、本発明の電気点火具では予め粉又は顆粒状に生産された点火薬4を点火薬保持筒体3内へ計量機で定量充填し、電橋付塞栓5と結合することで出来上がるため、工程が少なく生産が容易である。
【0034】
前記の通り、伝火用火工品である速火線は1重又は2重の薄いパラフィン紙などでつくられた、紙筒の中に綿糸などに黒色火薬を含浸させた芯薬が数本貫入しており、該紙筒の内幅はおよそ0.01m、周長で0.02m程度のため円筒に換算するとその直径は0.0065mとなる。前記の通り芯薬が数本貫入しているため、該電気点火具が円筒状の場合、点火薬保持筒体3及び電橋付塞栓5を含めた最大外径部は0.005m以下であることが好ましく、より好ましくは0.0045m以下、更に好ましくは0.004mにすることで速火線への挿入性がスムーズに行え、芯薬との摩擦を低減し安全化することが可能となる。また該電気点火具の外形は、量産上方向性の制約が比較的軽減される円筒状が好ましいが、楕円筒状または角柱状でも良い。この場合電橋付塞栓5と点火薬保持筒体3の嵌合時に、両方を3軸全ての方向で規制する必要がある。
【0035】
図1に示す点火薬保持筒体3の長さLと最大外径部Dの比(L/D)は、前記外径範囲内において、0.7から6.0の範囲内で縦長筒状であることが好ましい。前記長さLは筒体を先細りさせた場合は、その頂部から末端部までの長さをいい、
図1のように斜め傾斜を持たせた場合も同様にその頂部から末端部までの長さとする。例えば、最低0.7の場合の一例は、最大径で最小薬量のケースが考えられ、最大外径Dが0.005mの時の長さLは0.0035mとなる。ここで前記の通り、点火薬保持筒体3の底板部6付近や、またはその周辺部分が破裂しやすく、かつ着火性を良好にするためには、点火の際の威力によって該筒体3が飛散しにくくすることが望ましく、該筒体3の周縁側壁部7の嵌合部内径と該電橋付塞栓5の嵌合部外周縁のはめあい強度を上げたり、アンダーカット成型部を施し固定するためには嵌合しろの長さが必要であり、0.003m以上あることが好ましい。
【0036】
前記L/D比0.7の場合の一例である0.0035mは、該嵌合しろの長さを考慮したものであり、残りの長さ0.0005m部分に点火薬4が内封されることとなるため前記縦長筒状であることが好ましい。一方最高6.0の場合の一例は、最小径でかつ最大薬量のケースが考えられ、外径Dが0.004mの時長さLは0.024mとなる。この場合も前記と同様該嵌合しろの長さを考慮したものであり、該嵌合しろの長さは好ましくは点火薬4が内封される薬室長さの0.5倍から1.5倍がよく、従って点火薬保持筒体3の長さLは該薬室長さと該嵌合しろの長さを合わせた、該薬室長さの1.5倍から2.5倍が良い。本一例で該薬室長さの1.5倍とした時、該薬室長さは0.016mとなり、該勘合しろの長さは0.008mとなる。すなわち、アンダーカット成型部等を施し点火薬保持筒体3を飛散しにくくする嵌合しろの長さは、好ましくは最低0.003m以上で、かつ該薬室長さの0.5倍から1.5倍を予め考慮した点火薬保持筒体3の長さLと最大外径部Dの比(L/D)は、0.7から6.0の範囲内で縦長筒状であることが好ましい。
【実施例0037】
本発明を実施例に基づいて説明する。
【0038】
[実施例1]
外径0.004mφの円筒状で底板部6の頂部角度を70度で斜め傾斜を持たせ、周縁側壁部7の肉厚を0.0005mに、底板に接する周縁側壁部8の肉厚を0.0003mに、該底板部6の肉厚を0.0002mとして肉厚差を持たせた
図1に示す形状の、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂で射出成型された点火薬保持筒体3に、金属酸化物として三二酸化鉄(戸田ピグメント(株)製、トダカラー100ED、平均粒径0.1μm)65質量%、単体金属としてアルミニウム(山石金属(株)製、VA-2000、平均粒径5~10μm)25質量%、マグナリウム合金(丸中金属(有)製、Al:Mg=50:50(質量%)、平均粒径45μm)12質量%で配合した点火薬4を20mg計り入れ、塩化ビニル樹脂で被覆された並行導線1が貫通したポリエチレン樹脂からなる外径0.004mφの円筒状塞栓の先端に、白金線電橋2を超音波接合により架橋した電橋付塞栓5と、予め相互にアンダーカット成型を施した部分で嵌合させ結合して電気点火具を組み立てた。
【0039】
[実施例2]
金属酸化物として三二酸化鉄61質量%、単体金属としてアルミニウム27質量%、マグナリウム合金12質量%を用いた以外は実施例1と同様にして電気点火具を組み立てた。
【0040】
[実施例3]
金属酸化物として三二酸化鉄69質量%、単体金属としてアルミニウム19質量%、マグナリウム合金12質量%を用いた以外は実施例1と同様にして電気点火具を組み立てた。
【0041】
[実施例4]
金属酸化物として三二酸化鉄63質量%、単体金属としてアルミニウム27質量%、マグナリウム合金10質量%を用いた以外は実施例1と同様にして電気点火具を組み立てた。
【0042】
[実施例5]
金属酸化物として三二酸化鉄69質量%、単体金属としてアルミニウム21質量%、マグナリウム合金10質量%を用いた以外は実施例1と同様にして電気点火具を組み立てた。
【0043】
[実施例6]
マグナリウム合金(Al:Mg=35:65(質量%))を用いた以外は実施例1と同様にして電気点火具を組み立てた。
【0044】
[実施例7]
マグナリウム合金(Al:Mg=65:35(質量%))を用いた以外は実施例1と同様にして電気点火具を組み立てた。
【0045】
[実施例8]
マグナリウム合金(Al:Mg=70:30(質量%))を用いた以外は実施例1と同様にして電気点火具を組み立てた。
【0046】
[実施例9]
マグナリウム合金(Al:Mg=30:70(質量%))を用いた以外は実施例1と同様にして電気点火具を組み立てた。
【0047】
[実施例10]
金属酸化物として三二酸化鉄51質量%、単体金属としてアルミニウム37質量%、マグナリウム合金12質量%を用いた以外は実施例1と同様にして電気点火具を組み立てた。
【0048】
[実施例11]
金属酸化物として三二酸化鉄74質量%、単体金属としてアルミニウム14質量%、マグナリウム合金12質量%を用いた以外は実施例1と同様にして電気点火具を組み立てた。
【0049】
[実施例12]
金属酸化物として三二酸化鉄48質量%、単体金属としてアルミニウム40質量%、マグナリウム合金12質量%を用いた以外は実施例1と同様にして電気点火具を組み立てた。
【0050】
[実施例13]
金属酸化物として三二酸化鉄77質量%、単体金属としてアルミニウム11質量%、マグナリウム合金12質量%を用いた以外は実施例1と同様にして電気点火具を組み立てた。
【0051】
[比較例1]
点火薬としてチオキサン酸鉛55質量%、塩素酸カリウム43質量%、ジルコニウム2質量%を用いた以外は実施例1と同様にして電気点火具を組み立てた。
【0052】
[着火試験]
電気点火具の着火試験を実施し、電気点火具の火炎の拡散状況、火勢をビデオカメラで撮影し観察した。
【0053】
[黒色小粒火薬着火試験]
また、黒色小粒火薬を紙袋に1g計り取った中に、該電気点火具の電橋付塞栓5が隠れる程度まで押し込み袋の末端を紙製粘着テープで固定し200本の着火テストを実施した。
【0054】
[速火線着火試験]
0.3m長さの速火線紙筒の端部より0.05m奥へ電気点火具を差し込み紙製粘着テープで固定し200本の着火テストを実施した。
【0055】
以上の試験結果を表1に示す。
【0056】
【0057】
前記のとおり、実施例においては、点火薬の摩擦感度が低く反応開始温度が高いため作業時の安全性が高く、着火時のガスの発生がほとんど無く、
図2に示したように点火薬の保持筒体の先端を前方とした場合に前方放射状かつ広角に火炎が拡散し、後方や側面・横方向へ火炎が及ぶことが抑制され、打揚火薬や速火線への伝火が安定した煙火用電気点火具が提供される。
一方、比較例1においては、点火薬の摩擦感度が高く反応開始温度が低いため作業時の安全性が低く、着火時のガスの発生が多く、
図3に示したように点火薬の保持筒体の先端を前方とした場合に後方や側面・横方向へ火炎が及び、打揚火薬や速火線への伝火が安定しないことが確認された。