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  • 特開-積層バリスタ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094418
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】積層バリスタ
(51)【国際特許分類】
   H01C 7/102 20060101AFI20230628BHJP
【FI】
H01C7/102
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209885
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 優斗
(72)【発明者】
【氏名】矢内 剣
(72)【発明者】
【氏名】臼井 良輔
(72)【発明者】
【氏名】山岸 裕司
【テーマコード(参考)】
5E034
【Fターム(参考)】
5E034CA08
5E034DA07
5E034DB04
5E034DB14
5E034DB15
5E034DC01
5E034DC06
(57)【要約】
【課題】高抵抗層表面におけるマイグレーションの発生を抑制することができる積層バリスタを提供する。
【解決手段】積層バリスタ(1)は、焼結体(11)と、焼結体(11)の内部に設けられた内部電極(12)と、焼結体(11)の少なくとも一部を覆うように設けられ、Si元素を含有する高抵抗層(13)と、高抵抗層(13)の一部を覆うように設けられ、内部電極(12)に電気的に接続された銀を主成分とする外部電極(14)とを備える。高抵抗層(13)の表層中におけるSi元素の質量に対するアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の総質量の比が、0.6以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結体と、
前記焼結体の内部に設けられた内部電極と、
前記焼結体の少なくとも一部を覆うように設けられ、Si元素を含有する高抵抗層と、
前記高抵抗層の一部を覆うように設けられ、前記内部電極に電気的に接続された銀を主成分とする外部電極と
を備え、
前記高抵抗層の表層中におけるSi元素の質量に対するアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の総質量の比が、0.6以下である、
積層バリスタ。
【請求項2】
前記高抵抗層の表層中における前記Si元素の質量に対する前記アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の総質量の比が、0.001以上である、
請求項1に記載の積層バリスタ。
【請求項3】
前記アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の総質量が、Na元素、K元素、Mg元素およびCa元素の総質量である、
請求項1または2に記載の積層バリスタ。
【請求項4】
前記高抵抗層の主成分がSiOである、
請求項1から3のいずれか1項に記載の積層バリスタ。
【請求項5】
前記高抵抗層の主成分がZnSiOである、
請求項1から3のいずれか1項に記載の積層バリスタ。
【請求項6】
前記高抵抗層中におけるアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の質量濃度が、前記焼結体中におけるアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の質量濃度よりも小さい、
請求項1から5のいずれか1項に記載の積層バリスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層バリスタに関し、詳しくは、焼結体と内部電極と高抵抗層と外部電極とを備える積層バリスタに関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器、電子デバイス等を、雷サージ、静電気等による異常電圧から保護し、また、回路に発生するノイズによる電子機器、電子デバイス等の誤作動を防ぐなどの目的で、バリスタが用いられている。
【0003】
特許文献1には、バリスタ素体と、内部電極と、外部電極と、を備えており、外部電極は、バリスタ素体の表面にアルカリ金属を含む導電性ペーストを付与して焼き付けることにより形成された焼付電極層を有し、バリスタ素体は、導電性ペーストに含まれるアルカリ金属がバリスタ素体の表面と焼付電極層との界面からバリスタ素体内に拡散することにより形成された高抵抗領域を有しているバリスタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-26447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のバリスタでは、アルカリ金属を多く含ませることで、バリスタ素体表面の高抵抗化を図っており、これにより、めっき時において、高抵抗層表面上へのめっき析出を抑制することができると考えられる。しかし、このようなバリスタでは、特にAgを主成分とする外部電極を使用していること等に関連して、電圧印加および湿中下の条件において、高抵抗層表面でマイグレーションが発生する可能性があった。
【0006】
本開示の課題は、高抵抗層表面におけるマイグレーションの発生を抑制することができる積層バリスタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る積層バリスタは、焼結体と、前記焼結体の内部に設けられた内部電極と、前記焼結体の少なくとも一部を覆うように設けられ、Si元素を含有する高抵抗層と、前記高抵抗層の一部を覆うように設けられ、前記内部電極に電気的に接続された銀を主成分とする外部電極とを備える。前記高抵抗層の表層中におけるSi元素の質量に対するアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の総質量の比が、0.6以下である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、高抵抗層表面におけるマイグレーションの発生を抑制することができる積層バリスタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の一実施形態における積層バリスタの概略の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1)概要
以下、本開示の一実施形態における積層バリスタについて、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態において説明する図1は、模式的な図であり、図1中の各構成要素の大きさおよび厚みそれぞれの比が、必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。
【0011】
本実施形態の積層バリスタ1は、図1に示すように、焼結体11と、内部電極12と、高抵抗層13と、外部電極14とを備える。また、積層バリスタ1は、図1に示すように、めっき電極15を備えていてもよい。
【0012】
積層バリスタ1は、高抵抗層13の表層中におけるSi元素の質量に対するアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の総質量の比((アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の総質量)/Si元素の質量、以下、元素質量比(X)ともいう)が0.6以下であるという特徴を有している。本明細書において、「高抵抗層の表層」とは、積層バリスタ1の高抵抗層13のうち、他の層等で覆われていない露出している範囲において、高抵抗層13の表面からの深さが、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer、電子プローブマイクロアナライザー)の検出深さ以内の領域をいう。EPMAは、電子線を測定対象に照射することで発生する特性X線の波長と強度とから構成元素を分析する測定装置であり、その検出深さは、通常0.1μm以上10μm以下の範囲であり、好ましくは0.5μm以上2μm以下の範囲であり、より好ましくは1μmである。
【0013】
発明者らは、焼結体11の表面に形成した高抵抗層13の表層中における元素質量比(X)を特定値以下に制御することで、積層バリスタ1の表面におけるマイグレーションの発生を抑制することができることを見出した。積層バリスタ1が前記構成を備えることで、前記効果を奏する理由については、必ずしも明確ではないが、例えば以下のように推察することができる。積層バリスタ1におけるマイグレーションは、外部電極14からのAgイオン等の溶出、移動および析出を経て発生するが、高抵抗層13中のアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素は金属酸化物として存在し、吸湿しやすいため、銀等のイオン化が起こりやすくなり、マイグレーションが発生しやすくなると考えられる。これに対し、積層バリスタ1では、高抵抗層13の表層中のアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の存在量に対応し、吸湿性が低い部分と考えられるSi元素に対する質量比である元素質量比(X)を特定値以下に制御することで、高抵抗層表面におけるマイグレーションの発生を抑制することができると考えられる。
【0014】
(2)詳細
<積層バリスタ>
図1は、本開示の一実施形態における積層バリスタ1の断面図である。積層バリスタ1は、焼結体11と、内部電極12と、高抵抗層13と、外部電極14と、めっき電極15とを備える。
【0015】
焼結体11は、非直線性抵抗特性を有する半導体セラミックス成分で構成されている。
【0016】
外部電極14は、高抵抗層13の一部を覆うように設けられ、内部電極12に電気的に接続されている。積層バリスタ1には、外部電極14が少なくとも一対設けられていればよい。ここで、一対の外部電極14は、焼結体11の一方の端面に設けられた第1外部電極14Aと、焼結体11の他方の端面に設けられた第2外部電極14Bとを含む。第1外部電極14Aおよび第2外部電極14Bの間に電圧が印加された場合、第1外部電極14Aおよび第2外部電極14Bの一方が高電位側の電極となり、第1外部電極14Aおよび第2外部電極14Bの他方が低電位側の電極となる。
【0017】
内部電極12は、焼結体11の内部に設けられている。内部電極12は、外部電極14の各々に対し、1つまたは複数が電気的に接続されるように設けられていればよい。図1の積層バリスタ1では、内部電極12の数は2である。つまり、内部電極12は、第1内部電極12Aと、第2内部電極12Bとを含み、第1内部電極12Aは第1外部電極14Aに、第2内部電極12Bは第2外部電極14Bにそれぞれ電気的に接続している。
【0018】
めっき電極15は、外部電極14の少なくとも一部を覆うように設けられている。積層バリスタ1は、一対の外部電極14のうち、第1外部電極14Aの少なくとも一部を覆うように設けられた第1めっき電極15Aと、第2外部電極14Bの少なくとも一部を覆うように設けられた第2めっき電極15Bとを有している。
【0019】
少なくとも一対の外部電極14は、電気回路が形成されるプリント配線板に実装される。積層バリスタ1は、例えば電気回路の入力側に接続される。第1外部電極14Aと第2外部電極14Bとの間に所定のしきい値電圧を超える電圧が印加されると、第1外部電極14Aと第2外部電極14Bとの間の電気抵抗が急減し、バリスタ層を介して電流が流れるので、積層バリスタ1の後段の電気回路を保護することができる。
【0020】
[焼結体]
焼結体11を構成する非直線性抵抗特性を有する半導体セラミックス成分は、例えばZnOを主成分とし、副成分としてBi、Co、MnO、Sb、Pr11、CaCO、Cr等を含む。焼結体11を構成するバリスタ層は、例えばこれらの成分を含むセラミックシートを焼成することにより、ZnO等の主成分が、副成分の一部と固溶焼結し、その粒界に残りの副成分が析出することにより形成される。
【0021】
焼結体11は、より具体的には、例えば前記成分を含むセラミックシートを積層した積層物を、積層面に対し垂直に切断し、その個片を焼成することにより作製される。
【0022】
[内部電極]
内部電極12は、焼結体11の内部に設けられている。内部電極12は、例えばAg、Pd、PdAg、PtAg等を含み、通常、内部電極ペーストを塗布したセラミックシートを積層し、焼成することで形成される。
【0023】
[高抵抗層]
高抵抗層13は、焼結体11の少なくとも一部を覆うように設けられる。また、高抵抗層13は、Si元素を含有している。高抵抗層13の表層中の元素質量比(X)の値は、後述する高抵抗層13の形成方法などを適宜選択することにより、制御可能である。
【0024】
高抵抗層13が含みうるアルカリ金属元素としては、例えばリチウム(Li)元素、ナトリウム(Na)元素、カリウム(K)元素、ルビジウム(Rb)元素、セシウム(Cs)元素等が挙げられる。高抵抗層13が含みうるアルカリ土類金属元素としては、例えばベリリウム(Be)元素、マグネシウム(Mg)元素、カルシウム(Ca)元素、ストロンチウム(Sr)元素、バリウム(Ba)元素等が挙げられる。
【0025】
これらの元素のうち、Na元素、K元素、Mg元素およびCa元素は、通常の製造方法により得られる積層バリスタ1において、含まれうる元素である。すなわち、「アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の総質量」の値の近似値として、「Na元素、K元素、Mg元素およびCa元素の総質量」の値を用いることができる。
【0026】
高抵抗層13の表層中の元素質量比(X)は、0.6以下である。これにより、高抵抗層13の表面におけるマイグレーションの発生を抑制することができる。元素質量比(X)が前記値より大きいと、高抵抗層13の吸湿性が高くなりすぎ、銀等のイオン化が起こりやすくなり、高抵抗層13におけるマイグレーションの発生を抑制することができない。元素質量比(X)は、0.4以下であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましく、0.1以下であることがさらに好ましく、0.01以下であることが特に好ましい。元素質量比(X)は、0.001以上であることが好ましい。この場合、高抵抗層13の抵抗率を高めることができ、それにより、高抵抗層13上へのめっき析出をより抑制することができる。元素質量比(X)は、0.002以上であることがより好ましく、0.004以上であることがさらに好ましい。高抵抗層13の表層中の元素質量比(X)は、EPMAにより、高抵抗層13の表層中のSi元素、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の各存在量を測定し、各元素の原子量を用いて、質量比を算出することにより求めることができる。
【0027】
高抵抗層13は、Si元素を含んでいる。高抵抗層13におけるSi元素の割合は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。
【0028】
高抵抗層13の主成分は、SiO又はZnSiOであることが好ましい。高抵抗層13の主成分を、吸湿性が低いSiO又はZnSiOとすることで、高抵抗層13表面におけるマイグレーションの発生をより抑制することができる。本明細書において、「主成分」とは、質量割合が最も大きい成分をいい、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上である成分をいう。
【0029】
高抵抗層13の主成分がSiO又はZnSiOである場合、高抵抗層13中のSiO又はZnSiOの割合は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。高抵抗層13中のSiO又はZnSiOの割合は、100質量%であってもよく、99.9質量%以下であることが好ましい。
【0030】
また、高抵抗層13中におけるアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の質量濃度が、焼結体11中におけるアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の質量濃度よりも小さいことが好ましい。すなわち、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の質量濃度は、焼結体11中よりも高抵抗層13中が小さいことが好ましい。この場合、焼結体11中のアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素により、バリスタ電圧等の電気特性を制御できると共に、高抵抗層13表面におけるマイグレーションの発生を抑制することができる。
【0031】
高抵抗層13の平均厚みは、0.01μm以上5μm以下であることが好ましく、0.05μm以上3μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上1μm以下であることがさらに好ましい。「平均厚み」とは、高抵抗層13の複数点(例えば任意の10点)について測定した高抵抗層13の厚みの算術平均値をいう。
【0032】
[外部電極]
外部電極14は、高抵抗層13の一部を覆うように設けられている。また、外部電極14は、内部電極12に電気的に接続されている。
【0033】
外部電極14は、一次外部電極のみの単層構造であってもよく、一次外部電極と、一次外部電極を覆うように設けられた二次外部電極とを含む多層構造であってもよい。
【0034】
外部電極14は、銀を主成分としている。外部電極14における銀の割合は、30質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。外部電極14における銀の割合は、100質量%であってもよい。
【0035】
外部電極14は、例えばAg、AgPd、AgPt等の銀を含む成分と、Bi、SiO、B等のガラス成分とを含む。
【0036】
[めっき電極]
めっき電極15は、外部電極14の少なくとも一部を覆うように設けられている。めっき電極15は、例えば外部電極14の少なくとも一部を覆うように設けられているNi電極と、Ni電極の少なくとも一部を覆うように設けられているSn電極とを含む。
【0037】
<積層バリスタの製造方法>
積層バリスタ1は、例えば以下の第1工程~第3工程を備える製造方法等により製造することができる。
第1工程:半導体セラミックス成分を主成分として含み、内部に内部電極が配置された焼結体を準備する。
第2工程:第1工程後の焼結体の少なくとも一部を覆うように、Si元素を含有する高抵抗層を形成する。
第3工程:高抵抗層の一部を覆い、内部電極の一部と接触するように、銀を主成分とする外部電極ペーストを塗布する。
【0038】
また、前記製造方法は、下記第4工程をさらに備えていてもよい。
第4工程:外部電極ペーストから形成された外部電極の少なくとも一部を覆うように、めっき電極を形成する。
以下、各工程について説明する。
【0039】
[第1工程]
第1工程では、半導体セラミックス成分を主成分として含み、内部に内部電極12が配置された焼結体11を準備する。
【0040】
半導体セラミックス成分は、ZnOを含むことが好ましい。
【0041】
焼結体11は、半導体セラミックス成分を含むスラリーを用いて作製したセラミックシートに、内部電極ペーストを塗布し、前記セラミックシートを積層、プレス、切断した後、脱バインダーおよび焼成を行い、作製することができる。スラリーは、例えば主原料であるZnO等の半導体セラミックス成分と、副原料としてBi、Co、MnO、Sb、Pr11、Co3、CaCO、Cr等と、バインダーとを混合して調製することができる。
【0042】
内部電極ペーストとしては、例えばAgペースト、Pdペースト、Ptペースト、PdAgペースト、PtAgペースト等を用いることができる。
【0043】
脱バインダーを行う温度は、例えば300℃以上500℃以下である。焼成を行う温度は、得られる焼結体11の構成、組成等により適宜調整することができ、例えば800℃以上1300℃以下である。
【0044】
[第2工程]
第2工程では、第1工程後の焼結体11の少なくとも一部を覆うように、Si元素を含有する高抵抗層13を形成する。
【0045】
Si元素を含有する高抵抗層13の形成方法としては、例えば(i)焼結体11に高抵抗層13の前駆体を含む溶液を塗布する方法、(ii)ZnOを主成分とする焼結体11にSiOを反応させる方法などが挙げられる。
【0046】
(i)の方法では、例えば焼結体11に、高抵抗層13の前駆体を含む溶液を塗布した後、脱水、硬化を行うことで、焼結体11の表面上に、Si元素を含有する高抵抗層13を形成することができる。高抵抗層13の前駆体としては、例えばポリシラザン等の主鎖にSi元素を有するガラス成分などが挙げられる。高抵抗層13の前駆体として、ポリシラザン等の主鎖にSi元素を有するガラス成分を用いることにより、SiOを主成分とする連続的な高抵抗層13を形成することができる。このように、高抵抗層13の主成分を吸湿性が低いSiOとすることにより、高抵抗層13表面におけるマイグレーションの発生をより抑制することができる。この前駆体として、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含む塩などを含有するものを用いる場合、形成される高抵抗層13の表層中の元素質量比(X)が所定の範囲になるように、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の量を調整する。
【0047】
前駆体を含む溶液の塗布方法としては、例えば噴霧(スプレー)、浸漬、印刷等が挙げられる。
【0048】
(ii)の方法では、ZnOを主成分とする焼結体11と、SiOとを反応させることにより、焼結体11の表面付近の領域を、ZnSiOを主成分とする高抵抗層13に変換することによって、高抵抗層13を形成することができる。このように、高抵抗層13の主成分を吸湿性が低いZnSiOとすることにより、高抵抗層13表面におけるマイグレーションの発生をより抑制することができる。この方法は、具体的には、例えばSiOを含む粉末や液体を、ZnOを主成分とする焼結体11に付着させた後、熱処理を行う等により実施することができる。焼結体11として、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含むものを用いる場合、形成される高抵抗層13の表層中の元素質量比(X)が所定の範囲になるように、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の含有量を調整する。
【0049】
[第3工程]
第3工程では、高抵抗層13の一部を覆い、内部電極12の一部と接触するように、銀を主成分とする外部電極ペーストを塗布する。
【0050】
銀を主成分とする外部電極ペーストは、例えばAg粉、AgPd粉、AgPt粉等の銀成分と、Bi、SiO、B等を含むガラス成分と、溶剤とを混合して調製することができる。また、外部電極ペーストとして、銀を主成分とし、樹脂成分を含むもの等も用いることができる。外部電極ペーストの塗布後、700℃以上800℃以下で焼付を行うことにより、内部電極12との合金化を促進させることができ、密着性が向上した外部電極14を形成させることができる。
【0051】
[第4工程]
第4工程では、外部電極ペーストから形成された外部電極14の少なくとも一部を覆うように、めっき電極15を形成する。めっき電極15の形成方法としては、例えば電解めっき法により、Niめっき、Snめっきを順に行うことなどが挙げられる。
【実施例0052】
以下、本開示を実施例によって具体的に説明するが、本開示は実施例のみに限定されるものではない。
【0053】
<積層バリスタの製造>
以下の手順により、実施例1~2および比較例1~2の積層バリスタを製造した。
【0054】
[焼結体の作製]
(スラリーの作製)
主原料であるZnOと、副原料であるPr11、Co3、CaCO、Cr等と、バインダーとを混合して、スラリーを調製した。
【0055】
(セラミックシートの作製)
前記調製したスラリーを用い、20μm以上50μm以下の所定の厚みに成形し、セラミックシートを作製した。
【0056】
(積層物の作製)
内部電極ペーストとして、Pdペーストを用い、前記作製したセラミックシートに、所定の形状に内部電極ペーストを印刷し、内部電極ペーストを印刷したセラミックシートと、内部電極ペーストを印刷していないセラミックシートとを用いて、所定の電極構造になるように積層した。得られた積層物を所定の厚みになるようにプレスした後、長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmになるように切断し、積層物の個片を得た。
【0057】
(焼結体の作製)
前記積層物の各個片について、300℃以上500℃以下の温度で脱バインダーを行い、次いで、800℃以上1300℃以下の温度で焼成を行い、焼結体を作製した。
【0058】
[高抵抗層の形成]
(実施例1)
前記作製した焼結体に、ポリシラザンを含有するコーティング液を、スプレーを用いて噴霧し、次いで、400℃以上600℃以下の温度で、焼結体に付着した前駆体を硬化することで、高抵抗層を形成した。
【0059】
(実施例2)
コーティング液として、Si元素とNa元素との質量比が2:1である珪酸ナトリウム水溶液を、スプレーを用いて噴霧し、700℃以上900℃以下で熱処理することにより、ZnSiOの高抵抗層を形成した。
【0060】
(比較例1)
前記作製した焼結体に、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウムおよび炭酸カルシウムを、密閉回転ポットを用いて付着させた。得られた付着物を、電気炉を用い、650℃以上900℃以下、大気下で熱処理し、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素を拡散させることにより、高抵抗層を形成した。
【0061】
(比較例2)
焼結体に付着させる物質として、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウムおよび炭酸カルシウムの組成比を変えた以外は、比較例1と同様にして、高抵抗層を形成した。
【0062】
[外部電極の形成]
外部電極ペーストをAg粉と、ガラスフリットと、溶剤とを混合して調製した。この外部電極ペーストを、高抵抗層を形成した焼結体の端面に塗布した後、800℃で焼付を行い、外部電極を形成した。
【0063】
[めっき電極の形成]
前記形成した外部電極上に、電解めっき法により、所定の厚みのNiめっき電極を形成し、その上に、Snめっき電極を形成した。
【0064】
<評価>
[元素質量比の測定]
前記作製した積層バリスタについて、以下に示す測定方法によるEPMAによって、高抵抗層の表層中のSi元素、K元素、Na元素、Mg元素およびCa元素の存在量を測定し、表1に示すように、K/Si、Na/Si、Mg/Si、Ca/Siの元素質量比を算出し、(K+Na+Mg+Ca)/Siの元素質量比を求めた。
(測定方法)
・測定装置:JEOL社製の電子プローブマイクロアナライザー(JXA-8100-EPMA)
・測定条件:加速電圧:15kV、照射電流:50nA、計測時間:10sec、ビームサイズ:200μm、分析X線・分光結晶:Na Kα(1.191nm)・TAPH(酸性フタル酸ルビジウム)
【0065】
[マイグレーション発生評価]
前記作製した積層バリスタについて、以下に示す条件での湿中負荷試験により、マイグレーションの発生について評価した。
(条件)
・温度:85℃、相対湿度:85%RH、負荷電圧:18V、試験時間:1000h
(マイグレーション評価)
・湿中負荷試験後、外観観察により、高抵抗層表面上への銀の析出、すなわちマイグレーションが発生しているかについて観察した。
【0066】
【表1】
【0067】
表1の結果から、実施例1および実施例2の積層バリスタは、(K+Na+Mg+Ca)/Siの元素質量比は、それぞれ0.004、0.552で、本開示の範囲内であり、マイグレーションの発生を抑制できていることが示された。また、比較例1および比較例2の積層バリスタは、(K+Na+Mg+Ca)/Siの元素質量比が、0.996、0.701で、本開示の範囲外であり、マイグレーションが発生した。
【0068】
(まとめ)
上述の実施形態および実施例から明らかなように、第1の態様の積層バリスタ(1)は、焼結体(11)と、焼結体(11)の内部に設けられた内部電極(12)と、焼結体(11)の少なくとも一部を覆うように設けられ、Si元素を含有する高抵抗層(13)と、高抵抗層(13)の一部を覆うように設けられ、内部電極(12)に電気的に接続された銀を主成分とする外部電極(14)とを備える。高抵抗層(13)の表層中におけるSi元素の質量に対するアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の総質量の比が、0.6以下である。
【0069】
第1の態様によれば、高抵抗層(13)中で、吸湿しやすい金属酸化物として存在し、銀等のイオン化を起こりやすくするアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の割合を特定値以下とすることにより、高抵抗層表面におけるマイグレーションの発生を抑制することができる。
【0070】
第2の態様の積層バリスタ(1)では、第1の態様において、高抵抗層(13)の表層中におけるSi元素の質量に対するアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の総質量の比が、0.001以上である。
【0071】
第2の態様によれば、高抵抗層(13)の抵抗率を高めることができ、それにより、高抵抗層(13)上のめっき析出をより抑制することができる。
【0072】
第3の態様の積層バリスタ(1)では、第1または第2の態様において、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の総質量が、Na元素、K元素、Mg元素およびCa元素の総質量である。
【0073】
第3の態様によれば、通常の製造方法により得られる積層バリスタ(1)において、含まれうる元素は、Na、K、MgおよびCaであるため、「アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の総質量」の値の近似値として、「Na元素、K元素、Mg元素およびCa元素の総質量」の値を用いることができる。
【0074】
第4の態様の積層バリスタ(1)では、第1から第3のいずれか一の態様において、高抵抗層(13)の主成分がSiOである。
【0075】
第4の態様によれば、吸湿性が低いSiOを主成分とすることで、高抵抗層(13)表面におけるマイグレーションの発生をより抑制することができる。
【0076】
第5の態様の積層バリスタ(1)では、第1から第3のいずれか一の態様において、高抵抗層(13)の主成分がZnSiOである。
【0077】
第5の態様によれば、吸湿性が低いZnSiOを主成分とすることで、高抵抗層(13)表面におけるマイグレーションの発生をより抑制することができる。
【0078】
第6の態様の積層バリスタ(1)では、第1から第5のいずれか一の態様において、高抵抗層(13)中におけるアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の質量濃度が、焼結体(11)中におけるアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素の質量濃度よりも小さい。
【0079】
第6の態様によれば、焼結体(11)中のアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素により、バリスタ電圧等の電気特性を制御することができると共に、高抵抗層(13)表面におけるマイグレーションの発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 積層バリスタ
11 焼結体
12 内部電極
13 高抵抗層
14 外部電極
15 めっき電極
図1