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特開2023-94429モールドの製造方法及び物品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094429
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】モールドの製造方法及び物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/16 20060101AFI20230628BHJP
   C25D 11/04 20060101ALI20230628BHJP
   C25D 11/26 20060101ALI20230628BHJP
   C25D 11/30 20060101ALI20230628BHJP
   G02B 1/118 20150101ALI20230628BHJP
【FI】
C25D11/16 302
C25D11/04 310D
C25D11/26 302
C25D11/30
G02B1/118
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209903
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】柴田 亮
(72)【発明者】
【氏名】三井 拓也
(72)【発明者】
【氏名】新坂 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】岸梅 工
(72)【発明者】
【氏名】林 正泰
(72)【発明者】
【氏名】千葉 裕介
(72)【発明者】
【氏名】柳下 崇
【テーマコード(参考)】
2K009
【Fターム(参考)】
2K009AA01
2K009DD12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】モールドの製造方法の提供。
【解決手段】複数の細孔からなる微細凹凸構造を表面に備えるモールドの製造方法であって、基材40の被処理面に金属膜41を成膜する工程(A)と、少なくとも前記被処理面以外の前記基材の表面の一部にマスク層50を形成する工程(B)と、前記金属膜に処理液を接触させて第1陽極酸化し、基材に対して垂直方向に複数の細孔を有する第1金属酸化膜41aを形成する工程(C)と、を備える、モールドの製造方法であって、前記マスク層50は前記工程(C)において、前記処理液と前記基材との間における絶縁層として作用する層である、モールドの製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の細孔からなる微細凹凸構造を表面に備えるモールドの製造方法であって、
基材の被処理面に金属膜を成膜する工程(A)と、
少なくとも前記被処理面以外の前記基材の表面の一部にマスク層を形成する工程(B)と、
前記金属膜に処理液を接触させて第1陽極酸化し、基材に対して垂直方向に複数の細孔を有する第1金属酸化膜を形成する工程(C)と、を備える、モールドの製造方法であって、
前記マスク層は前記工程(C)において、前記処理液と前記基材との間における絶縁層として作用する層である、モールドの製造方法。
【請求項2】
前記マスク層は、前記第1金属酸化膜よりも抵抗値が高い層である、請求項1に記載のモールドの製造方法。
【請求項3】
前記金属膜は、アルミニウム膜、チタンがドープされたアルミニウム膜、チタン膜、マグネシウム膜、からなる群より選択される1種である、請求項1または2に記載のモールドの製造方法。
【請求項4】
前記チタンがドープされたアルミニウム膜は、チタンのドープ量がアルミニウムの質量に対して0原子%を超え6.0原子%以下である、請求項3に記載のモールドの製造方法。
【請求項5】
前記第1金属酸化膜を第2陽極酸化し、基材に対して垂直方向に複数の細孔を有する第2金属酸化膜を形成する工程(E)、及び、
前記第2金属酸化膜の一部を除去して、細孔の孔径を拡大する工程(F)、をこの順で備える、請求項1~4のいずれか1項に記載のモールドの製造方法。
【請求項6】
前記第1金属酸化膜の一部を除去する工程(D)を備え、
前記工程(D)の後に、前記工程(E)及び前記工程(F)を交互に実施する、請求項5に記載のモールドの製造方法。
【請求項7】
前記基材の被処理面は曲面である、請求項1~6のいずれか1項に記載のモールドの製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のモールドの製造方法によりモールドを製造する工程と、
得られたモールドの表面に形成された複数の細孔からなる微細凹凸構造を、物品の表面に転写する工程を備える、微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モールドの製造方法及び物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細加工技術は近年進歩しており、基材の表面にナノスケールの微細凹凸構造を形成することが可能となっている。特に、モスアイ(Moth-Eye)構造と呼ばれる微細凹凸構造は、空気の屈折率から材料の屈折率に連続的に増大していくことで、有効な反射防止機能を発現することが知られている。
モスアイ構造を表面に有する物品は、反射防止機能を発現することから有用性が期待されている。
【0003】
基材の表面に微細凹凸構造を付与する技術として、例えばモールドの表面に形成された微細凹凸構造を、基材の表面に転写する方法がある。
この方法に用いる微細凹凸構造を表面に有するモールドを形成する方法としては、アルミニウム基材を陽極酸化することにより形成した、複数の細孔を有する酸化膜を利用する方法が挙げられる。
【0004】
例えば特許文献1には、アルミニウムを特定の電解液中で陽極酸化することにより、表面に微細構造を形成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-221562号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明の一態様は、複数の細孔からなる微細凹凸構造を表面に備えるモールドの製造方法であって、基材の被処理面に金属膜を成膜する工程(A)と、少なくとも前記被処理面以外の前記基材の表面の一部にマスク層を形成する工程(B)と、前記金属膜に処理液を接触させて第1陽極酸化し、基材に対して垂直方向に複数の細孔を有する第1金属酸化膜を形成する工程(C)と、を備える、モールドの製造方法であって、前記マスク層は前記工程(C)において、前記処理液と前記基材との間における絶縁層として作用する層である、モールドの製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施形態のモールドの製造方法の工程を説明する模式図である。
図2】本実施形態における、基材のマスク方法を説明する模式図である。
図3】本実施形態における、基材のマスク方法を説明する模式図である。
図4】FCVA法及びその方法を実施する成膜装置の概要構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<モールドの製造方法>
本実施形態は、複数の細孔からなる微細凹凸構造を表面に備えるモールドの製造方法である。
基材の被処理に形成された金属膜を処理液中で陽極酸化すると、金属膜は多孔性酸化被膜となる。多孔性酸化被膜は、基材に対して垂直方向に細孔を有する。
【0009】
陽極酸化を実施する際に、導電性の基材、例えば金属製の基材と処理液とが直接接した場合、基材と処理液の間の抵抗値が被処理部と処理液の間の抵抗値よりも小さいと、基材側に電流が集中して暴走するという課題がある。ここで被処理部とは、陽極酸化の開始期においては、基材上に形成された陽極酸化の対象となる金属膜であり、陽極酸化の進行中においては、前記金属膜が陽極酸化されて生じた金属酸化膜を指す。
【0010】
特に定電圧電源装置を基材と対極の間に接続して陽極酸化を行う場合は、定電圧電源装置の出力電圧制御範囲を超えて大電流が流れてしまうことがある。この場合、定電圧電源装置の出力電圧制御に支障を生じ、被処理部に必要な電圧がかからなくなり、陽極酸化を進めることができない。
【0011】
本発明の態様の一例は、金属膜を備える導電性の基材のうち、陽極酸化をしない部分にマスク層を形成し、基材と処理液とが直接接触しないか、または基材と処理液との間の抵抗値が小さくなる態様とし、基材と処理液の間に電流が集中することを回避する。これにより、目的とする箇所のみに電圧をかけると同時に電圧制御を安定化し、所望の条件による陽極酸化を容易にするという技術思想に係る。
【0012】
本実施形態のモールドの製造方法は、下記工程(A)、工程(B)及び工程(C)を備える。
工程(A):基材の被処理に金属膜を成膜する工程。
工程(B):少なくとも前記被処理面以外の基材の表面の一部にマスク層を形成する工程。
工程(C):金属膜に処理液を接触させて第1陽極酸化し、基材に対して垂直方向に複数の細孔を有する第1金属酸化膜を形成する工程。
【0013】
本実施形態の一態様において、工程(A)、工程(B)及び工程(C)をこの順で実施する。
本実施形態の一態様において、工程(B)、工程(A)及び工程(C)をこの順で実施する。
【0014】
金属膜が成膜されている箇所にもマスク層を形成する場合には、工程(A)、工程(B)及び工程(C)をこの順で実施することが好ましい。
基材の表面のうち、金属膜が成膜されていない領域のみにマスク層を形成する場合には、工程(B)、工程(A)及び工程(C)をこの順で実施してもよい。
【0015】
[工程(A)]
工程(A)について図面を参照しつつ説明する。
図1(a)に示すように、基材40の被処理面40aに、金属膜41を成膜する。ここで、基材40の被処理面とは、基材40の表面の少なくとも一部であって、微細凹凸構造を形成する領域である。図1(a)の例では、被処理面40aに微細凹凸構造を形成する。
【0016】
基材40は金属製の基材が好ましく、プリハードン鋼が好適に使用できる。
【0017】
金属膜41は、例えばフィルタードカソーディックバキュームアーク法(以下、「FCVA法」と記載する)を用いた成膜方法、DCマグネトロンスパッタ装置を用いた成膜方法又はイオンビームスパッタ法により成膜できる。各成膜方法の詳細については後述する。
【0018】
金属膜41は、アルミニウム膜、チタンがドープされたアルミニウム膜、チタン膜、マグネシウム膜、からなる群より選択される1種の金属膜であることが好ましく、アルミニウム膜又はチタンがドープされたアルミニウム膜であることが好ましい。
【0019】
上記以外にも、金属膜41は、ニオブ膜、タンタル膜、スズ膜又は亜鉛膜であることも好ましい。
【0020】
金属膜41がアルミニウム膜である場合、アルミニウム膜のアルミニウム純度は、アルミニウム膜100質量%中、96.0%以上が好ましく、99.0%以上がより好ましく、99.9%以上が特に好ましい。アルミニウム純度が上記下限値以上であると、後の陽極酸化工程により形成する細孔の規則性を向上させることができる。
【0021】
金属膜41は、チタンがドープされたアルミニウム膜であることが好ましい。この場合、チタンのドープ量は、アルミニウムの質量に対して0原子%を超え、6.0原子%以下を満たすことが好ましい。
【0022】
FCVA法により成膜した金属膜41は、表面を平滑にするために研磨しても良い。研磨方法としては、例えば、機械研磨、化学研磨、化学繊維研磨、電解研磨等が挙げられる。
【0023】
[工程(B)]
工程(B)は、基材40の表面のうち少なくとも前記被処理面以外の表面の一部にマスク層を形成する。つまり工程(B)は、微細凹凸構造を形成しない面の少なくとも一部にマスク層を形成する工程である。
工程(A)を経た基材の表面には、金属膜41が形成された領域と、基材40が露出した領域とが存在する。
この場合、基材40が露出した領域の少なくとも一部にマスク層を形成する。図1(b)に示す例では、処理液と接触する可能性が高い基材40の側面領域にマスク層50を形成している。
【0024】
また、金属膜41にオーバーラップ領域を設けるため、金属膜41の一部にマスク層を形成してもよい。
【0025】
また、図2に示すように、陽極酸化を行う処理槽60に浸漬する基材40の側面51をすべて覆うようにマスク層を形成してもよい。処理槽60は処理液61を備える。
【0026】
マスク層は、後述する工程(C)において、基材と処理液との間における絶縁層として作用する層である。ここで絶縁層とは、基材と処理液との間に金属膜の陽極酸化に影響を与えるほどの電流が流れることを妨げる程度に、相対的に大きな抵抗値を有する層であることを意味する。
【0027】
マスク層を構成する物質は、形成する金属酸化膜を構成する物質よりも比抵抗が高い物質であってよい。金属膜の陽極酸化によって生じる金属酸化膜の比抵抗は、一般に、対応する金属膜の比抵抗よりも大きいので、金属酸化膜よりも比抵抗が大きいマスク層は、対応する金属膜よりも比抵抗が大きいマスク層である。
【0028】
また、マスク層を構成する物質は、比抵抗が10Ω・cmよりも大きいか、10Ω・cmよりも大きいか、または10Ω・cmよりも大きい物質であってよい。また、比抵抗が1010Ω・cmよりも大きい物質であってもよく、1012Ω・cmよりも大きい物質であってもよい。
【0029】
マスク層を構成する物質の比抵抗が大きいほど、同じ膜厚で抵抗値を大きくすることができ、金属膜の陽極酸化に与える影響を低減することができる。
【0030】
マスク層、金属膜、又は金属酸化膜の抵抗値は下記の式により算出されうる。
R=ρL/S
(Rはマスク層、金属膜、又は金属酸化膜の抵抗値[Ω]であり、ρは陽極酸化時の電流に関する比抵抗[Ω・m]であり、Lは陽極酸化時の電流方向の長さ[m]であり、Sは陽極酸化時の電流が通過する面の、電流方向と直交する方向の断面積[m]である。)
【0031】
また、マスク層、金属層、又は金属酸化膜のそれぞれの抵抗値R[Ω]は、それぞれを作用極として対極とともに溶液中に浸漬し、両極間に電圧E[V]を印可したときの、溶液を介して流れる電流I[A]から、系の見かけの抵抗値R´=E/Iを抵抗値R[Ω]とみなして求めてもよい。このとき、抵抗値R´は接液面積や印可電圧、膜厚、陽極酸化の進行状況等に依存することから、実際に金属膜を陽極酸化する時の条件に諸条件を一致させて計測することが好ましい。
【0032】
マスク層を形成する方法としては、ゴム系マスキング剤を塗布する方法、金属膜41よりも抵抗値が高い金属酸化膜を成膜する方法、樹脂製治具を用いて基材40を覆う方法が挙げられる。また、マスキングテープやカプトン(登録商標)テープを貼付し、マスキングテープ層やカプトンテープ層をマスク層としてもよい。また、接着剤を用いて樹脂からなるマスク層を形成してもよい。
【0033】
第1金属酸化膜41aよりも抵抗値が高い金属酸化膜を成膜する場合には、例えば第1金属酸化膜41aに対して抵抗値が1倍を超える金属酸化膜を成膜する。また、第1金属酸化膜41aの2倍以上の抵抗値を持つ金属酸化膜を成膜してもよい。
【0034】
本実施形態においては、第1金属酸化膜41aの2倍以上の抵抗値を持つ金属酸化膜を成膜することが好ましい。第1金属酸化膜41aの2倍以上の抵抗値を持つ金属酸化膜は、第1金属酸化膜41aの陽極酸化を妨げるほどの電流が基材と処理液61の間に流れることを抑制し、実質的に絶縁層として作用する。金属酸化膜の抵抗値は膜厚や成膜条件によって制御することが可能であり、かかる技術は当業者に周知である。このような金属酸化膜としては、例えば、酸化アルミニウム膜、酸化チタン膜、又は酸化シリコン膜が挙げられる。
【0035】
さらに、図3に示すように、金属膜41のみが処理槽60において処理液61と接する態様で、壁材52で基材40を囲み、壁材52と基材40との間の空気層70をマスク層としてもよい。空気層70の厚さは、陽極酸化時の印可電圧によってアーク放電等を生じない程度の厚さとすればよい。
【0036】
工程(B)によりマスク層を形成することで、後述する工程(C)の陽極酸化に用いる処理液と基材とが直接接しない態様にできる。これにより、陽極酸化を実施する際に、基材へ電流が集中するという現象を回避できる。その結果金属膜に電圧をかけることができるため、金属膜のみを陽極酸化することができる。
【0037】
[工程(C)]
工程(C)において、金属膜41に処理液を接触させて第1陽極酸化し第1金属酸化膜41aを形成する。第1金属酸化膜41aは、基材40に対して垂直方向に複数の細孔42を有する(図1(c))。
【0038】
金属膜41を処理液に接触させて陽極酸化を行うことにより、処理液に接触した部分が多孔性の金属酸化膜となる。金属膜41を処理液に接触させる方法としては、金属膜41を処理液に浸漬する方法が挙げられる。
【0039】
工程(C)により形成する第1金属酸化膜41aの厚みは、陽極酸化により消費される合計の電気量に比例する。
金属膜41に印加する電圧は、200V以下が好ましく、30V以上80V以下がより好ましい。
【0040】
金属膜41に電圧を印加して陽極酸化を行う時間は、細孔42の散乱を低下させる観点から、1秒間以上が好ましく、60分間以上がより好ましい。
【0041】
使用する処理液としては、硫酸、シュウ酸、リン酸、の少なくとも一種を含むものが好ましく、シュウ酸がより好ましい。
処理液としてシュウ酸を用いる場合には、シュウ酸の濃度は0.01mol/L以上が好ましく、0.05mol/L以上がより好ましい。
【0042】
また、陽極酸化時の浴温は-10℃以上が好ましく、10℃以上が特に好ましい。
【0043】
工程(C)において、細孔42が配列した構造が形成される。
【0044】
本実施形態のモールドの製造方法は、下記工程(D)、工程(E)及び工程(F)を備えていてもよい。
工程(D):第1金属酸化膜の一部を除去する工程。
工程(E):第1金属酸化膜を第2陽極酸化し、基材に対して垂直方向に複数の細孔を有する第2金属酸化膜を形成する工程。
工程(F):第2金属酸化膜の一部を除去して、細孔の孔径を拡大する工程。
【0045】
[工程(D)]
工程(C)により形成した第1金属酸化膜41aは、その一部を除去することが好ましい。除去液に第1金属酸化膜41aを浸漬させることで、第1金属酸化膜41aの一部を除去できる。
【0046】
工程(C)により形成した細孔42から除去液が侵入し、第1金属酸化膜41aの一部が溶解する。細孔42から侵入した除去液は細孔42の周囲の第1金属酸化膜41aを溶解していき、第1金属酸化膜41aの一部が除去された第1金属酸化膜41bが形成される。第1金属酸化膜41bは、第1金属酸化膜41aの細孔42の底部の形状を反映した凹部44を備える。
【0047】
除去液は、例えば、酸性水溶液又は6価クロムを含む酸性水溶液が使用できる。
酸性水溶液としては、例えばリン酸、硫酸、シュウ酸、マロン酸、クエン酸の少なくとも1種を含む酸性水溶液が挙げられる。
6価クロムを含む酸性水溶液としては、クロム酸-リン酸が挙下られる。
【0048】
これらの酸性水溶液又は6価クロムを含む酸性水溶液に一定時間浸漬することで、第1金属酸化膜41aの一部を除去できる。
【0049】
[工程(E)]
工程(E)は、工程(D)により形成した凹部44の頂点44a起点として、少なくとも第1金属酸化膜41bを第2陽極酸化する工程である。工程(E)により、図1(e)に示すように細孔45を有する第2金属酸化膜43aが形成される。
第2陽極酸化において第1金属酸化膜41aに印加する電圧は、第1陽極酸化の電圧と同じ電圧とすることが好ましく、200V以下が好ましく、30V以上80V以下がより好ましい。
【0050】
工程(E)において、第1金属酸化膜41aに電圧を印加して陽極酸化を行う時間は、処理液の種類や濃度等によって適宜調整可能であるが、一例を挙げると0.1秒間以上100分間以下である。
【0051】
第2陽極酸化に使用する処理液の種類、濃度、浴温は、第1陽極酸化に使用した処理液と同様の処理液を用いればよい。
【0052】
工程(E)において、細孔45が配列した構造が形成される。細孔45は、凹部44の頂点44aを起点とし、基材40に対して垂直な方向に形成される(図1(e))。
【0053】
[工程(F)]
工程(F)は、第2金属酸化膜43aの一部を除去して、細孔45の孔径を拡大する工程である。
除去液に第2金属酸化膜43aを浸漬させることで、第2金属酸化膜43aの一部を除去できる。
【0054】
工程(F)において除去する第2金属酸化膜43aの一部とは、細孔45の周囲の金属酸化膜である。細孔45の周囲の金属酸化膜を除去することにより、細孔45の孔径が拡大し、図1(f)に示す細孔46を有する第2金属酸化膜43bが形成される。
【0055】
除去液は、例えば、酸性水溶液が使用できる。
酸性水溶液としては、例えばリン酸、硫酸、シュウ酸、マロン酸、クエン酸の少なくとも1種を含む酸性水溶液が挙げられる。
【0056】
これらの酸性水溶液に一定時間浸漬することで、細孔45の周囲の金属酸化膜を除去できる。
【0057】
モールドの製造方法の一例は、工程(A)、工程(B)、工程(C)、工程(D)、工程(E)及び工程(F)をこの順で備える。
モールドの製造方法の一例は、工程(B)、工程(A)、工程(C)、工程(D)、工程(E)及び工程(F)をこの順で備える。
【0058】
モールドの製造方法の一例は、工程(A)、工程(B)、工程(C)、及び工程(F1)をこの順で備える。ここで工程(F1)は、第1金属酸化膜の一部を除去して、細孔42の孔径を拡大する工程である。第1金属酸化膜の一部を除去する以外は、工程(F)と同様の工程である。
【0059】
モールドの製造方法の一例において、上記の例のうち、工程(E)及び工程(F)、又は工程(C)及び工程(F1)を交互に繰り返してもよい。繰り返し回数は、細孔46を滑らかなテーパー状とし、得られる微細凹凸構造を表面に有する物品の反射防止性能を高める観点からから、3回以上が好ましく、5回以上が好ましい。また、モールドの生産性を向上させる観点から、10回以下が好ましい。
【0060】
細孔46の細孔深さの一例は、50nm以上であり、転写工程において効率的に転写する観点から2μm以下が好ましい。
細孔46の細孔周期の一例は、500nm以下である。細孔周期(nm)は、金属酸化膜に印加する電圧から、下記式により算出する。
細孔周期(nm)=電圧(V)×2.5
【0061】
≪FCVA法≫
FCVA法は、狭義のFCVA法のみならず、特定のイオン化された炭素等の元素を分別する機能(フィルター機能)を有するカソーディックバキュームアーク法またはバキュームアーク法並びにそれに類似する方法、例えば、アークイオンプレーティング(Arc Ion Plating:AIP)法も包含するものとする。
【0062】
FCVA法及びその方法を実施する成膜装置の概要構造について図4を参照しながら説明する。
FCVA成膜装置1は、主に、アークプラズマ生成部10と、フィルタ部20と、成膜チャンバ部30とを備える。
【0063】
アークプラズマ生成部10と成膜チャンバ部30とがダクト状のフィルタ部20により接続され、図示省略する真空装置により成膜チャンバ部30の圧力が3×10-4Pa以下程度の真空度に設定される。
【0064】
アークプラズマ生成部10には、ターゲット11を挟んでアノード(ストライカー)とカソードが設けられており、ストライカーをターゲット11に接触させて直後に離すことによってアーク放電を生じさせる。
【0065】
基材の被処理面に金属膜としてアルミニウム膜を成膜する場合には、ターゲット11として金属種(アルミニウム)が用いられ、アーク放電によりアークプラズマが発生される。チタンがドープされたアルミニウム膜を成膜する場合には、ターゲット11としてチタンがドープされたアルミニウムを用いる。
【0066】
アークプラズマにより生成された中性粒子及び+イオン化されたアルミニウムは、成膜チャンバ部30に向けてフィルタ部20を飛翔する。
【0067】
フィルタ部20には、ダブルベンド電磁石コイル21が巻かれたダクト23及びイオンスキャン用コイル25が設けられている。ダクト23は、アークプラズマ生成部10と成膜チャンバ部30との間で、直交する二方向に2度曲折されており、その外周にダブルベンド電磁石コイル21が巻き付けられている。ダクト23がこのような屈曲構造(ダブルベント構造)を有することにより、ダクト23内を流動する粒子は内壁面に衝突するか壁面に沿って流動する。ダブルベンド電磁石コイル21に電流を流すことによりダクト23内部を飛翔する荷電粒子にローレンツ力を作用させ、飛翔経路を変調整できる。
【0068】
そのため、ダブルベンド電磁石コイル21に印加する電力を、イオン化されたアルミニウムの質量に対して最適化することにより、これより軽い荷電粒子や重い荷電粒子、及びローレンツ力により曲がらない中性粒子をダクト23の内壁に堆積させることで除去し、イオン化されたアルミニウムだけを高効率で成膜チャンバ部30に導くことができる。すなわち、このダブルベンド電磁石コイル21とダクト23が、目的とする粒子のみを高効率で通過させる狭帯域の電磁気空間的フィルタを構成する。
【0069】
イオンスキャン用コイル25は、上記のようにしてダブルベンド電磁石コイル21を通り成膜チャンバ部30に入るイオン化されたアルミニウムのビームをスキャンし、ホルダ31に保持された基材32又は33の表面に一様な金族膜を形成する
【0070】
成膜は1回実施してもよく複数回実施してもよい。放電を不安定化させる温度上昇を回避する観点から、成膜は2回以上に分けて実施することが好ましい。
【0071】
基材は金属基材が好ましく、金属基材としては、プリハードン鋼が好ましい。本実施形態において、基材の被処理面は曲面であることが好ましい。
【0072】
成膜チャンバ部30には、フィルタ部20の出口と対向するプレート状のホルダ31が設けられ、このホルダ31の表面に基材32、33がセットされる。
【0073】
ホルダ31はモータ35によりその回転軸を中心として回転可能である。ホルダ31には電源37によって任意のバイアスを設定可能になっており、例えば、目的とする金属膜の組成比に応じた適切な負のバイアス電圧をかけることにより、高効率で任意の組成比の金属膜を形成することができる。
【0074】
≪DCマグネトロンスパッタ≫
マグネトロンスパッタの原理は、真空中でArガスと印加電圧によって高密度のプラズマを生成し、Ar陽イオンによってターゲット金属をスパッタさせ、ターゲット金属の粒子を試料に飛ばす(成膜する)、という現象に基づく。
【0075】
<微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法>
本実施形態の微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法は、前記本実施形態のモールドの製造方法により得られたモールドの製造方法によりモールドを製造する工程と、得られたモールドの表面に形成された複数の細孔からなる微細凹凸構造を、物品の表面に転写する工程を備える。
【0076】
モールドの微細凹凸構造を転写する方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
まず、モールドと成形体本体(透明基材)の間に未硬化の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を充填する。
【0077】
次に、モールドの微細凹凸構造に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が接触した状態で、活性エネルギー線を照射して活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させる。
その後にモールドを離型する。
【0078】
これによって、成形体本体の表面に、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物からなる微細凹凸構造が形成された成形体を製造できる。得られた成形体の微細凹凸構造は、モールドの微細凹凸構造の反転構造となる。
【0079】
微細凹凸構造を構成する細孔の一例は、テーパー形状である。
【実施例0080】
以下、実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
<実施例1>
[工程(A)]
直径25mm、厚さ10mmのプリハードン鋼を基材とした。基材の被処理面に金属膜として膜厚1.5μmのTiドープAl膜を成膜した。
金属膜の成膜方法は、具体的には、図4に示すFCVA成膜装置を用い、チタンをドープしたアルミニウムをターゲット11として、以下の条件で基材の表面に、膜厚1.5μmのTiドープAl膜を成膜した。TiドープAl膜は、Tiのドープ量がAlの質量に対して1.3原子%であった。
【0082】
(成膜条件)
到達真空度:3×10-4Pa以下
アーク電流:120A
成膜時間:休止間隔を10分間はさみ、400秒間を2回実施した。
基材の回転:無し
【0083】
[工程(B)]
プリハードン鋼の被処理面以外の領域に電気絶縁性のテープを巻き、さらにゴム系マスキング剤を塗布した。該テープおよび塗布後のマスキング剤は主として電気絶縁性かつ非水溶性の高分子材料からなり、その比抵抗は1013[Ω・m]程度である。これにより、TiドープAl膜よりも抵抗値が高く、工程(C)において実質的に絶縁層として作用するマスク層をプリハードン鋼の被処理面以外の領域に形成した。マスク層の厚さは1mm程度であった。
【0084】
[工程(C)]
電圧60V、0.3mol/Lのシュウ酸水溶液を処理液として用い、浴温17℃でTiドープAl膜を陽極酸化した。このとき、基材表面のマスク層が設けられていない部分が、処理液に触れないようにした。これにより、TiドープAl膜は、複数の細孔からなる微細凹凸構造を備える膜となった。
【0085】
<実施例2>
工程(A)及び工程(C)は実施例1と同様の方法により実施した。
工程(B)は、図3に示すように、金属膜41としてTiドープAl膜のみが処理槽60において処理液61と接する態様で、ポリテトラフルオロエチレン製のホルダで基材40であるプリハードン鋼を囲んだ。プリハードン鋼とホルダの間にOリングをはさんで押し付け、機密性を確保し、マスク層として空気層を形成した。このときの空気層の厚さは1mm程度であった。
【0086】
<実施例3>
[工程(A)]
直径25mm、厚さ10mmのプリハードン鋼を基材とした。基材の被処理面に金属膜として膜厚1.5μmのTiドープAl膜を成膜した。
金属膜の成膜は、DCマグネトロンスパッタ装置を用いて行った。下記に記載の成膜条件により、基材の表面に膜厚1.5μmのTiドープAl膜を成膜した。TiドープAl膜は、Tiのドープ量がAlの質量に対して1.5原子%であった。
【0087】
(成膜条件)
到達真空度:1×10-3Pa以下
導入ガス、及び流量:Ar、20sccm
投入電力:600W
プレスパッタ時間:2分(シャッターを閉じて予備成膜を行う)
本番スパッタ時間:1時間20分
基材の回転:30rpm
工程(B)及び工程(C)は実施例1と同様の方法により実施した。
【0088】
実施例1、2及び3のいずれの場合も、基材であるプリハードン鋼がシュウ酸水溶液に露出することを防止できていた。このため、基材と処理液との間に大電流が流れて処理系が暴走してしまうことを抑えることができ、目的とする箇所のみに電圧をかけ、陽極酸化することができた。
【符号の説明】
【0089】
1:成膜装置、10:アークプラズマ生成部、11:ターゲット、20:フィルタ部、21:ダブルベンド電磁石コイル、23:ダクト、25:イオンスキャン用コイル、30:成膜チャンバ部、31:ホルダ、32、33:基材、40:基材、41:金属膜、41a:第1金属酸化膜、41b:第1金属酸化膜、42:第1金属酸化膜の細孔、43a:第2金属酸化膜、43b:第2金属酸化膜、44:第1金属酸化膜の凹部、45:第2金属酸化膜の細孔、46:第2金属酸化膜の細孔を拡大化した細孔、50、51、52:マスク層、60:処理槽
図1
図2
図3
図4